図1~図13は、本発明に係る自動車用シート(以下、単に「シート」と略称する。)のブレーキ装置およびその製造方法を実施するためのより具体的な形態を示していて、特に図1は、位置調整構造を備えたシートの一例を示している。
図1に示すように、シート1は、いわゆる位置調整機構として、シート1の前後位置を調整するシートスライド機構2と、座面となるシートクッション3の高さ位置を調整するシートリフタ機構と、背もたれ部となるシートバック4の角度調整を調整するリクライニング機構と、を備える。そして、これら各機構の操作用として、シートクッション3の側部には、シートリフタ機構の操作レバー5と、リクライニング機構の操作レバー6とが並べて設けられている。
そして、図1に示すシート1では、シートリフタ機構に着目した場合、シートリフタ機構の操作レバー5を、例えば中立位置(以下の説明では、操作レバー5が中立位置にある状態を「中立状態」とも言う。)から上方へ引き上げ操作する毎に少しずつシートクッション3の位置が高くなる一方で、逆に操作レバー5を中立位置から下方へ押し下げ操作する毎に少しずつシートクッション3の位置が低くなる公知の構造のものである。これにより、シート1の座面の高さ位置調整機能が発揮される。
(ブレーキ装置の構成)
図2は、図1に示したシート1のシートリフタ機構に適用されるブレーキ装置7の車載状態と同等の正面図を示し、図3は、図2の左側面図をそれぞれ示している。また、図4は、図3におけるレバーブラケット24およびコイルばね23を取り外した状態での左側面図を示し、図5は、図3のA-A線に沿った断面図をそれぞれ示している。さらに、図6は、図2に示すブレーキ装置7の分解斜視図を示している。なお、各図の説明では、ピニオン軸12の回転軸線の方向を「軸方向」とし、図6の右側(ハウジング11側)であってシート(図示外)に近接する側を「軸方向内側」、図6の左側(レバーブラケット24側)であってシート(図示外)から離間する側を「軸方向外側」として説明する。
図2のほか、図6の分解斜視図に示すように、ブレーキ装置7では、半割り状のハウジング部材であるハウジング11とカバー部材であるカバー22とを突き合わせることにより、略円筒状のケース8が形成されている。このケース8内に、後述するブレーキ部9と操作部10の一部の構成要素とが同軸上に収容される。また、ケース8を形成しているハウジング11とカバー22とに跨るかたちで、それらの中心部に、実質的にブレーキ部9と操作部10とが共有するピニオン軸12が軸心方向に貫通して配置される。ピニオン軸12の一端には、図1に示す操作レバー5と共に操作部材として機能するレバーブラケット24が回転可能に支持されると共に、ピニオン軸12の他端には、外部に露出するピニオンギヤ12gが一体に形成される。
なお、レバーブラケット24は、中立位置から正転方向および逆転方向のいずれの方向にも回転操作可能である。また、このレバーブラケット24には、図1に示す操作レバー5が、レバーブラケット24側のねじ孔24e(図3参照)を用いてねじ締め固定される。
そして、ブレーキ装置7は、カバー22側のフランジ部29に形成された取付孔29aを用いて、図1に示すシート1のうち図示を省略したサイドブラケットに固定され、ピニオン軸12のピニオンギヤ12gが図示を省略したシート1の駆動機構であるシートリフタ機構側の従動側ギヤに噛み合うことになる。
このブレーキ装置7では、レバーブラケット24が中立位置にあるときには、ピニオン軸12側からの逆入力によっては当該ピニオン軸12が回転しないように、制動状態を保持する。一方、レバーブラケット24を中立位置から正転方向および逆転方向のうちいずれか一方に回転操作したときには、ピニオン軸12の制動状態を解除して、レバーブラケット24の回転操作に伴うピニオン軸12の回転を許容することになる。このピニオン軸12の回転は、ピニオンギヤ12gを介して図示を省略したシートリフタ機構の従動側ギヤの回転変位に変換され、さらには、リンク機構を介してシート1のシートクッション3の上下方向変位に変換される。
なお、このタイプのブレーキ装置7では、レバーブラケット24のストロークが比較的小さいために、多くの場合には特定の方向へのレバーブラケット24の回転操作を複数回繰り返すことにより、所期の目的を達成することができる。
図2、図6に示すように、ブレーキ部9側のハウジング11と操作部10側のカバー22とで形成されるケース8の内部に、ブレーキ部9と操作部10の一部の構成要素とが互いに同軸上に位置するように隣接して配置されることは、先に述べた通りである。以降の説明では、各構成要素の三次元形状や配置等が比較的理解しやすい図6を中心としてその構造を説明するものとし、必要に応じて図6以外の図を適宜参照するものとする。
図6に示すように、ブレーキ部9は、ケース8の一部として機能するハウジング11と、ハウジング11に回転可能に支持されるピニオン軸12と、ハウジング11の内部に互いに対向配置される二つで一組の略半円形状のロックプレート14と、これらの一組のロックプレート14同士が共有するロックばね15と、同じくハウジング11の内部において、一組のロックプレート14の軸方向外側に重ねて配置される同形状のもう一組のロックプレート16と、これらの一組のロックプレート16同士が共有するロックばね17と、一組のロックプレート16の軸方向外側に重ねて配置される浅皿状の駆動ホイール18と、を備える。
操作部10は、駆動ホイール18の軸方向外側に重ねて配置される板ばね状の保持プレート19と、保持プレート19と組み合わされるツースプレート20と、保持プレート19およびツースプレート20と重ね合わされる入力レバー21と、ブレーキ部9側のハウジング11と突き合わされることによってケース8を形成するカバー22と、カバー22の軸方向外側に配置される、ねじりコイルばねであるコイルばね23と、同じくカバー22の軸方向外側に配置される操作部材としてのレバーブラケット24と、を備える。
図6に示すブレーキ部9のハウジング11は、例えば所定の厚みを有する板金素材を用いて略深皿状に絞りプレス成形したものであり、そのハウジング11の内周面が円筒状の制動面13となっている。
また、ハウジング11の底部には、ピニオン軸12のうちピニオンギヤ12g側の大径軸部12fが挿入される軸孔11aが、軸方向に沿って貫通形成される。また、ハウジング11の開口縁部には、径方向外側に延びる3つのフランジ部11bが形成されると共に、各フランジ部11bの先端部には、中央部を凹ませてなる係止凹部11cが形成される。これらの係止凹部11cは、後述するカバー22との結合固定部となる。
図6、図8に示すブレーキ部9のピニオン軸12は、小径軸部12aと、中径軸部12bと、一対の二面幅部121d,122dを有する略矩形軸状の異形軸部12cと、図5に示すようにハウジング11の内底面に当接してピニオン軸12の軸方向の移動を規制する一対の規制部121e,122eと、ハウジング11の軸孔11aに回動可能に支持される軸受部としての大径軸部12fと、駆動側ギヤとしてのピニオンギヤ12gと、ピニオンギヤ12gの先端部に設けられた先端軸部12hとが同軸一体に形成された、いわゆる多段の段付き軸状のものである。なお、このピニオン軸12は、後述するように、ブレーキ部9と操作部10とで共用されている。
ピニオン軸12の異形軸部12cは、図6、図8に示すように、ピニオン軸12の回転中心Zを挟んで略平行に対向配置された一対の二面幅部121d,122dと、この一対の二面幅部121d,122dの端部同士を接続する一対の二面幅接続部とを有する断面略小判形状を呈し、この一対の二面幅接続部に径方向外方へ突出する一対の規制部121e,122eを有するとともに、軸方向において一対の規制部121e,122eを有していない部分に、ピニオン軸12の回転中心Zを曲率中心とする一対の円弧状部121c,122cを有する。なお、異形軸部12c(一対の円弧状部121c,122c)と大径軸部12fとは、概ね同じ外径を有し、ピニオン軸12の全体における最大径を構成する。また、異形軸部12cの二面幅部121d,122dは、二組のロックプレート14,16に対して外力を及ぼす作用部として機能する。
ピニオン軸12の一対の規制部121e,122eは、異形軸部12cの一対の円弧状部121c,122cの周方向の中間部に、ピニオン軸12の回転中心Zを挟んで対称となる位置に配置され、径方向に沿って延びる偏平状(板状)に形成されている。また、一対の規制部121e,122eは、軸方向において、大径軸部12f側に偏倚して設けられていて、かかる偏倚配置により、中径軸部12b側に残存する円弧状部121c,122cに、後述する駆動ホイール18が係合可能となっている。
そして、前記偏平状をなす一対の規制部121e,122eは、ピニオン軸12の軸方向に直交する方向であって、異形軸部12cの一対の二面幅接続部の一部の軸方向領域において二面幅部121d,122dの幅方向両端部分を二面幅部121d,122dの厚さ方向に挟むように押圧して塑性変形させることによって一体に形成される。すなわち、この一対の規制部121e,122eは、一対の二面幅接続部の一部の軸方向領域において周方向の両端部がそれぞれ押し潰されて中間部が径方向外側へと突出するように塑性流動することにより、一対の円弧状部121c、122cよりも径方向外側に突出するように形成される。
また、ピニオン軸12の一対の規制部121e,122eは、それぞれ互いに略平行となる概ね平坦状の一対の軸方向側面を有し、その延出方向(径方向)において概ね一定の厚さに設定されている。また、この一対の規制部121e,122eの軸方向の両端面も、概ね平行な平坦状を呈し、大径軸部12f側の端面がハウジング11の内底面に当接することにより、ピニオン軸12の軸方向外側(シート側)への移動が規制されている。
図6に示すブレーキ部9の一組のロックプレート14は、ハウジング11の内底面に着座しつつ両端部の外周面が制動面13に接するように、左右対称または上下対称に対向配置される。さらに、一組のロックプレート14の上にもう一組のロックプレート16が左右対称または上下対称となるようにピニオン軸12の軸方向に重ねて対向配置される。これら二組のロックプレート14,16の外周面のうち凹部25をはさんで離間した両端部には、それぞれハウジング11の制動面13と接触可能な円弧状の制動ロック面26が形成されている。
そして、一組のロックプレート14のうち、双方の一端部(第1端部)同士の間には、付勢手段としてのロックばね15が介装される。すなわち、このロックばね15により、一組のロックプレート14の一端部(第1端部)同士が互いに離間する方向に付勢されている。同様に、もう一組のロックプレート16のうち、双方の一端部(第2端部)同士の間には、付勢手段としてのロックばね17が介装される。すなわち、このロックばね17により、一組のロックプレート16の一端部(第2端部)同士が互いに離間する方向に付勢されている。
図6に示すロックばね15,17は、それぞれ略M字状に折り曲げ形成された板ばね15a,17aと、これら板ばね15a,17aの双方の脚部の端部同士の間にそれぞれコイルばね15b,17bを挟み込んでなる、いわゆる複合ばねタイプのものである。略M字状に形成された板ばね15a,17aの凹部15c,17cは、図7に示すように、それぞれピニオン軸12の一対の規制部121e,122eに嵌合することで、当該一対の規制部121e,122eを介してピニオン軸12に支持される。コイルばね15b,17bは、それぞれ板ばね15a,17aの両脚部が広がる方向へ付勢している。
図6に示すブレーキ部9の駆動ホイール18は、外周側のリング部18aの内周面にその全周にわたって内歯18bが形成された、いわゆる内歯車状のものである。駆動ホイール18の中心部には、ピニオン軸12の異形軸部12cと一体的に回転可能なように、その異形軸部12cが嵌め合わされる角孔18cが形成される。さらに、駆動ホイール18の背面側には、二組のロックプレート14,16側に向かって突出する一対の円弧状の解除爪部18dが一体に形成される(図7参照)。
なお、駆動ホイール18の角孔18cとピニオン軸12の異形軸部12cとの間には、回転方向において所定の遊びを有している。また、駆動ホイール18は、例えば金属製の円板をプレス成形により半抜きして内歯18bを有するリング部18aを形成し(図5参照)、リング部18aの内側の底部および解除爪部18dをいわゆるインサート成形法等の手法により樹脂材料にて一体に形成している。
このように構成されたブレーキ部9において、図6に示すピニオン軸12は、図5にも示すように、ピニオンギヤ12gの根元部に形成された大径軸部12fが、ハウジング11の軸孔11aに回転可能に挿入支持される。その一方、異形軸部12cの二面幅部12dが、一組のロックプレート14同士および他の一組のロックプレート16同士の対向間隙内にそれぞれ位置するように挿通される。さらに、その異形軸部12cが、駆動ホイール18の角孔18cに、遊嵌的に且つ微少角度だけ回転可能に嵌め合わされる。
その際、図7にも示すように、駆動ホイール18側の一対の解除爪部18dが、二組のロックプレート14,16の外周側において、それぞれ各ロックプレート14,16の凹部25に、ピニオン軸12の回転方向に隙間を有して嵌め合わされる。そして、それら一対の解除爪部18dの円弧状の外周面は、ハウジング11の制動面13に対して、各解除爪部18d自体の弾性力により圧接している。
図7は、図6に示すブレーキ部9の中立状態における説明図である。この図7に示すように、ピニオン軸12の異形軸部12cの両側に位置する一組のロックプレート16同士の対向端面Pのうち、異形軸部12cの二面幅部12dと対峙する部分には、異形軸部12cの回転中心の左右二箇所に相当する位置に円弧状の凸部16a,16bが形成される。そして、この一組のロックプレート16の一端部(第2端部)同士の間にロックばね17が介装されていて、それら一端部(第2端部)同士が互いに離間する方向に付勢されている。
そのため、一組のロックプレート16はハウジング11の制動面13に沿って所定量だけ回転移動し、それによってロックプレート16の第2端部同士のなす距離よりも第1端部同士のなす距離の方が小さいものとなっている。その結果として、この一組のロックプレート16同士の対向端面Pに形成された一対の凸部16a,16bのうち、一方の凸部16bが異形軸部12cの二面幅部12dの一方側に接触し、他方の凸部16aが異形軸部12cの二面幅部12dから離間している。
これらの関係は、図6に示したもう一組のロックプレート14についても同様であり、一組のロックプレート14の一端部(第1端部)同士の間にロックばね15が介装されていて、それら一端部(第1端部)同士が互いに離間する方向に付勢されている。それ故に、後述するように、異形軸部12cの作用部として機能する二面幅部12dは、二組のロックプレート14,16に対して回転方向に隙間なく当接することになる。
なお、図7以降の各図では、ブレーキ部9および操作部10の各構成要素の向きを、図6の向きに対して90度異ならせて描いている。また、図7に示すピニオン軸12の二面幅部121d,122dは、同図の上下方向の中央部を頂部として上下両端に向かって傾斜したテーパ面として描いてあるが、二面幅部121d,122dは傾斜のない単純な平坦面であっても良い。
図6に示す操作部10の保持プレート19は、ピニオン軸12の軸心方向にてばね特性を発揮する板ばね状のものである。保持プレート19は、ピニオン軸12の中径軸部12bに挿入される軸孔19bが形成されたボス部19aと、ボス部19aから半径方向に延び、駆動ホイール18側に向かって一体に折り曲げ形成されて駆動ホイール18の底部に着座する一対の脚部19cと、同じくボス部19aから半径方向に延び、段付き状に一体に折り曲げ形成されたアーム部19dと、を備える。アーム部19dには、先端を切り起こすかたちで略円筒状に丸めた、第1支持部として機能する第1軸部19eが形成される。
また、保持プレート19には、アーム部19d側において当該アーム部19dと干渉しないように半径方向に延びる一対の作用片19fが、カバー22側に向かって折り曲げ形成される。そして、これら各作用片19fの先端には、係止部19gが湾曲形成される。さらに、それら一対の作用片19fの内側でアーム部19dを挟むように、一対の保持部としての保持片19hが半径方向に真っ直ぐに突出形成される。
図6に示すツースプレート20は、保持プレート19のアーム部19dの上に軸方向外側から重ねて駆動ホイール18内に配置される略半円弧状のものである。このツースプレート20の中央部には、異形の軸部20aがカバー22側に突出形成されると共に、ピニオン軸12を中心とする径方向において軸部20aよりも外側にオフセットした位置に、円形の軸孔20bが貫通形成される。さらに、ツースプレート20の両端部には、駆動ホイール18側の内歯18bと対向するようにリム部20cが形成される。リム部20cの外周面には、駆動ホイール18側の内歯18bと噛み合う外歯20dが形成される。
なお、上記の軸部20aは一部が切り欠かれて略D字状に形成されているが、これは近接する軸孔20bとの干渉を回避するためであって、かかる干渉を回避できるならば、軸部20aは円筒軸状のものであっても良い。
図6に示す入力レバー21は、操作部10での入力部材として機能するものである。入力レバー21は、図6、図9に示すように、中央部に設けられた概ね板状のレバー本体21dと、このレバー本体21dの外周縁部からカバー22側に向かって突出するように折り曲げ形成された三つの折り曲げ係止片21cと、を有する。レバー本体21dには、その中央部に、ピニオン軸12の中径軸部12bに回転可能に支持される軸孔21aが形成される。また、レバー本体21dには、軸孔21aから径方向外側にオフセットした位置に、ツースプレート20の軸部20aが挿通する第2支持部としての小径軸孔21bが形成される。三つの折り曲げ係止片21cは、図9に示すように、それぞれ周方向に沿って湾曲する円弧状に形成されていて、レバー本体21dに接続する接続基部21eと、この接続基部21eの先端部に二股状に設けられ、後述するレバーブラケット24の角孔24fに係止する一対の先端分割片21fと、を一体に有する。また、三つの折り曲げ係止片21cのうち、少なくとも2つの折り曲げ係止片は、コイルばね23の巻線部の内側に位置するように、その外周側がそれぞれ周方向に沿って所定半径で所定幅を有するように円弧状に形成されている。これらコイルばね23の巻線部の内側に位置する2つの折り曲げ係止片は、入力レバー21が中立位置にあるとき、後述するカバー22の切り起こし片22eに対して入力レバー21の正転方向および逆転方向にそれぞれ90°位相をずらした周方向位置に配置される。更に、これらの折り曲げ係止片21cの接続基部21eには、それぞれ周方向両端部の外周側縁に、当該接続基部21eの延出方向に沿って面取り状の逃がし部21gが形成されている。なお、この逃がし部21gは、いわゆるC面取り状に形成された傾斜状の平坦面でも良く、また、いわゆるR面取り状に形成された円弧状の曲面であっても良い。
そして、入力レバー21の小径軸孔21bに対してツースプレート20の軸部20aが回転可能に挿入支持される。これにより、入力レバー21とツースプレート20とが相対回転可能に連結される。また、ツースプレート20の軸孔20bが保持プレート19の第1軸部19eに係合して、ツースプレート20と保持プレート19とが相対回転可能に連結される。この場合において、保持プレート19のアーム部19dと保持片19hとの間に、ツースプレート20が挟み込まれる。なお、ツースプレート20の軸孔20bと保持プレート19の第1軸部19eとの軸と孔の関係は、逆であっても良い。
図6に示すカバー22は、例えばプレスによる深絞り成形によって略カップ状となる有底円筒状に一体成形したものである。このカバー22は、図2、図5に示すように、ブレーキ部9側のハウジング11と突き合わされることによって、ハウジング11と共にブレーキ装置7のケース8を形成する。そして、先にも述べたように、このケース8の内部にブレーキ部9と操作部10の一部の構成要素が収容配置される。
この場合に、図5に示すように、保持プレート19が駆動ホイール18と入力レバー21との間に挟まれて撓み変形することにより、保持プレート19が両者に圧接することになる。また、保持プレート19における脚部19cの端部が駆動ホイール18の底壁部の樹脂モールドされた部分に圧接することにより、保持プレート19は少なくとも駆動ホイール18との間で相対回転方向での摺動抵抗を付与する。
カバー22の底壁部には、図4に示すように、中央部の軸孔22aと共に、該軸孔22aを挟んで互いに対向する位置に、二つで一組の円弧状の長孔22bが開口形成される。また、一組の長孔22b同士の対向方向と直交する方向においては、一方に、円弧状の長孔からなる開口部22cが形成されると共に、他方に、矩形の開口部22dと共に、この開口部22dの形成に伴い切り起こしたカバー側突出部としての切り起こし片22eが軸方向外側へ直立するように周方向に所定の幅を有して形成される。開口部22cの長さ(円弧の周長)は、一組の長孔22bの長さ(円弧の周長)よりも大きく設定される。そして、カバー22がブレーキ部9側のハウジング11と突き合わされる際、軸孔22aがピニオン軸12の小径軸部12aに嵌め合わされることにより、ピニオン軸12がハウジング11とカバー22とによって回転可能に両持ち支持される。
二つで一組の長孔22bと開口部22cには、図4に示すように、入力レバー21側の三つの折り曲げ係止片21cが、レバーブラケット24側に向かって突出するようにそれぞれ挿入される。ここで、一組の長孔22bと開口部22cの長さ(周長)は、三つの折り曲げ係止片21cの幅寸法に対して十分に大きく設定されている。これにより、正転方向および逆転方向に回転可能な入力レバー21の回転範囲、ひいてはその入力レバー21と結合されるレバーブラケット24の回転範囲が、一組の長孔22bの長さの範囲内に規制される。つまり、一組の長孔22bにおける長手方向両端部(周方向両端部)の内側面は、レバーブラケット24の回転範囲を規制するストッパ面として機能する。
また、図4に示すように、入力レバー21が同図のような中立位置にある状態で、カバー22の開口部22cには、その長手方向両端部(周方向両端部)に、図6に示す保持プレート19の作用片19fの係止部19gが、それぞれに係合離脱可能に係止される。これにより、保持プレート19は、ツースプレート20を介して入力レバー21と共に回転変位すると共に、入力レバー21が中立位置に復帰すれば、それに伴って保持プレート19も中立位置に復帰することになる。
また、図4に示すように、一組の長孔22bの外周縁部からは、軸方向内側に向けてそれぞれにガイド突起部27が折り曲げ形成されている。これらのガイド突起部27は、図5、図11に示すように、それぞれブレーキ部9の内部空間に臨んでいて、後述するようにツースプレート20の動きをガイドする役目をする。
また、図4、図6に示すカバー22のうちハウジング11と対面する側の開口縁部には、例えば円周方向の三箇所に、取付孔29aを有するフランジ部29が径方向外側に向けて折り曲げ形成されている。さらに、各フランジ部29と干渉しない円周方向の三箇所に、フランジ部29よりも突出長の小さな係止フランジ部30が突出形成される。これらの係止フランジ部30は、図2にも示すように、ハウジング11とカバー22とでケース8を形成するべく、両者を突き合わせた際に、ハウジング11側の係止凹部11cに嵌め合わされる。その上で、図2に示すように、係止フランジ部30の両側面部分を軸方向にかしめることにより、ハウジング11とカバー22とが不離一体に結合固定される。なお、カバー22のフランジ部29は、図1に示したシート1に対するブレーキ装置7の取付部となる。
図6に示すレバーブラケット24は、図5にも示すように、略浅皿状となる有底円筒状に絞りプレス成形されたものであり、カバー22の底壁部の軸方向外側に配置される。そして、カバー22とレバーブラケット24との間には、レバーブラケット24の凹状空間に収容されるかたちでコイルばね23が配置される。このレバーブラケット24の底壁部の中央位置には、軸方向に沿って貫通する軸孔24aが形成される。この軸孔24aは、ピニオン軸12の小径軸部12aに回転可能に支持される。また、図3に示すように、レバーブラケット24の底壁部の周縁部には、一対の位置決め片24bと共に、これら位置決め片24b同士の間に、カバー22側に向かって軸方向内側へ突出するブラケット側突出部としての切り起こし片24cが形成される。
さらに、図6に示すレバーブラケット24には、図3にも示すように、外周側に、ねじ孔24e付きの一対のフランジ部24dが形成されると共に、底壁部における軸孔24aの外周域に、入力レバー21側の三つの折り曲げ係止片21cの二股状をなす一対の先端分割片21fに対応する角孔24fが形成される。かかる構成から、三つの折り曲げ係止片21cは、カバー22の一組の長孔22bと開口部22cを挿通した上で、レバーブラケット24の角孔24fに係合しつつ一対の先端分割片21fが突出するかたちとなる。
そして、図3に示すように、角孔24fから突出する各折り曲げ係止片21cにおける一対の先端分割片21fを互いに離間する方向に折り曲げることにより、カバー22を挟むかたちで、レバーブラケット24と入力レバー21とが互いに固定される。これにより、レバーブラケット24と入力レバー21との相対回転が阻止され、レバーブラケット24は入力レバー21と共に正転方向および逆転方向に一体的に回転可能となる。
また、レバーブラケット24に形成された切り起こし片24cは、カバー22の切り起こし片22eに対して径方向の内側に配置されると共に、周方向の同じ位置で同じ幅を有するように設定されている。かかる構成により、図3,図4に示すように、カバー22を挟んでレバーブラケット24と入力レバー21とを固定した際に、双方の切り起こし片22e,24c同士が軸方向において互いに重なり合うことになる。
また、図3、図6に示すレバーブラケット24には、図1に示す操作レバー5が装着される。この操作レバー5は、レバーブラケット24の一対の位置決め片24bを用いて相対的な位置決めがなされた上で、二つのねじ孔24eと図示外の止めねじとによってレバーブラケット24に固定される。これにより、レバーブラケット24は、操作レバー5と共に操作部10における操作部材として機能する。
図6に示すコイルばね23は、図10にも示すように、カバー22とレバーブラケット24との間に収容されて、入力レバー21をレバーブラケット24と共に中立位置に向けて付勢保持する機能を有する。このコイルばね23は、コイル状に二重に巻回されてなる巻線部23aと、この巻線部23aの周方向両端部をそれぞれ径方向外側に折り曲げてなる一対の第1フック部23bと、この第1フック部23bの先端部をそれぞれ周方向外側(巻線部側に折り返すよう)に折り曲げてなる一対の第2フック部23cと、を有する。
巻線部23aは、図10に示すように、軸方向において一部が重なるように二重(二周)に巻回された、それぞれリング状を有する1周目の第1巻線部231aと2周目の第2巻線部232aとで構成される。より具体的には、各巻線部231a,232aは、それぞれ第1フック部23bを有する自由端部側半円部と他方の巻線部と連結される連結側半円部で見たとき、自由状態では、図10に示すように、第1巻線部231aの自由端部と第2巻線部232aの自由端部は重なっておらず、また、一方の巻線部の自由端部側半円部の周方向中間部分における入力レバー21の回転中心Zからの距離L1が、他方の巻線部の連結側半円部の周方向中間部分における入力レバー21の回転中心Zからの距離L2よりも大きくなるように形成されている。換言すれば、第1巻線部231aと第2巻線部232aとは、当該自由状態では、第1巻線部231aの中心Q1と第2巻線部232aの中心Q2とが一致せず、径方向において相互にオフセットした状態となるように構成されている。また、この際、第1巻線部231aと第2巻線部232aは、第1フック部23bを有する自由端部側半円部の略中間部分においてレバー21の回転中心Zからの距離L1,L2が最大となる。なお、この第1巻線部231aと第2巻線部232aのレバー21の回転中心Zからの距離L1,L2のずれ量Xは、最大で第1、第2巻線部231a,232aの線径(直径)分程度となる。一方で、巻線部23aは、組付状態では、第1巻線部231aの自由端部と第2巻線部232aの自由端部が重なる状態にあり、この重なり状態を維持するように周方向に所定幅を有するカバー側突出部としての切り起こし片22eが第1フック部23b間に係合する。この組付状態では、一方の巻線部の自由端部側半円部と他方の巻線部の連結側半円部は、その周方向中間部分における入力レバー21の回転中心Zからの距離L1,L2が同一となって重なり合うように設定されている。換言すれば、当該組付状態では、入力レバー21が中立位置にあるとき、径方向において第1巻線部231aの中心Q1と第2巻線部232aの中心Q2とが概ね一致する状態となり、第1巻線部231aと第2巻線部232aとが概ね完全に重なり合う状態となるように構成されている。
一対の第1フック部23b,23bは、図10に示すように、それぞれ巻線部23aの径方向に沿って延びるように当該巻線部23aに対して径方向外側に略直角に折り曲げ形成されていて、組付状態において略平行となるように形成されており、後述するように、当該一対の第1フック部23b,23bの間に、周方向において同じ幅を有するカバー22の切り起こし片22eとレバーブラケット24の切り起こし片24cが周方向に係止可能となっている。
第2フック部23cは、図10に示すように、それぞれ各巻線部231a,232aの周方向外側へ互いに反対向きに第1フック部23bの先端部を各巻線部231a,232a側へ折り返すように折り曲げ形成されていて、組付状態において、後述するように、カバー22の切り起こし片22eに対して径方向に係止可能となっている。すなわち、第2フック部23cが固定側となるカバー22の切り起こし片22eの外側面(径方向外側面)に係止することで、切り起こし片22eを通るコイルばね23の径方向の移動を規制するようになっている。
このように構成されたコイルばね23は、図3に示すように、巻線部23aを巻き締まり状態とした上で、一対のフック部23bが径方向に互いに重なり合うように対向配置された一対の切り起こし片22e,24cを周方向両側から挟み込むように当該各切り起こし片22e,24cに係止する。これにより、図1に示す操作レバー5を正転方向および逆転方向のいずれの方向に回転操作した場合でも、その操作力を解除することで、コイルばね23の付勢力により入力レバー21がレバーブラケット24および操作レバー5と共に中立位置に復帰することになる。
(ブレーキ装置の機能)
以上のように構成されたブレーキ装置7の機能は、次の通りである。
図1に示す操作レバー5を図3、図6に示すレバーブラケット24と共に回転操作しないかぎりは、レバーブラケット24は入力レバー21と共にコイルばね23の付勢力により中立状態に保持されている。
図3、図11に示す中立状態では、操作部10におけるツースプレート20も中立状態にあって、ツースプレート20の両側の外歯20dは、共に駆動ホイール18の内歯18bに対し隙間を持って対向する非噛み合い状態となっている。同時に、図7に示すように、ブレーキ部9では、それぞれにロックばね15,17で付勢された二組の各ロックプレート14,16の一方の凸部16a,16bがピニオン軸12の二面幅部121d,122dにそれぞれ圧接していると共に、両端部の制動ロック面26がハウジング11の制動面13に圧接している。これにより、ピニオン軸12は、正転方向および逆転方向の両回転方向において回転を阻止され、両者(各ロックプレート14,16の制動ロック面26とハウジング11の制動面13)の摩擦力をもってその制動状態を自己保持している。
この場合において、乗員の着座によるシートリフタ機構側からのブレーキ装置7への逆入力が作用したとしても、ハウジング11の制動面13と二組のロックプレート14,16の制動ロック面26との間の摩擦力をもってその制動状態を自己保持することができる。このように、ブレーキ部9では、ハウジング11の制動面13と、ロックばね15,17を含む二組のロックプレート14,16と、が直接的なブレーキ要素として機能する。
その一方、先に述べたシートリフタ機構での高さ位置調整に際して、ブレーキ装置7におけるブレーキ部9の制動状態を解除するには、図6に示す操作部10のレバーブラケット24を、図1に示す操作レバー5と共に正転方向または逆転方向に回転操作するものとする。
図11は、先に述べたように、ブレーキ装置7における操作部10の中立状態を示している。図11の状態では、ツースプレート20の両端部の外歯20dがそれぞれ駆動ホイール18の内歯18bに対し隙間を有して非噛み合い状態で対向している。そして、ツースプレート20のうち外歯20dが形成されたリム部20cは、カバー22から突出形成されたガイド突起部27から離間している。
図11に示す操作部10の中立状態から操作レバー5と共にレバーブラケット24を正転方向および逆転方向のいずれか一方の方向、例えば図11の状態から時計回りの方向に回転操作した場合を想定してみる。レバーブラケット24の時計回りの方向の回転に伴い、操作部10の入力レバー21も同方向へ一体的に回転する。さらに、ツースプレート20は、入力レバー21側の小径軸孔21bに対する軸部20aの嵌合により、同じく時計回りの方向に押されることになる。
ツースプレート20は、軸孔20bで保持プレート19の第1軸部19eに支持され、保持プレート19は、時計回りの方向の回転に対し駆動ホイール18の内底面との圧接による回転抵抗を有している。そのため、ツースプレート20は、第1軸部19eを中心として図中の反時計回りの方向に回転する。その結果、図11に示すように、ツースプレート20のうち上側のリム部20cの外歯20dが、駆動ホイール18の内歯18bと噛み合うことになる。そして、この状態からさらに入力レバー21を図中の時計回りの方向へと回転することで、入力レバー21、ツースプレート20、保持プレート19および駆動ホイール18が一体となって回動することになる。図12は、図11の状態から操作レバー5と共にレバーブラケット24を時計回りの方向に回転操作した状態を示している。
図12に示すように、入力レバー21が中立位置から回動した状態では、上側のリム部20cの内周側に、一方のガイド突起部27が対向するように位置する。そのため、ツースプレート20のうち下側の外歯20dが駆動ホイール18側の内歯18bに噛み合おうとしても、上側のリム部20cと上側のガイド突起部27との干渉により、下側の外歯20dと内歯18bとの噛み合いが阻止される。したがって、図12に示す状態から入力レバー21を中立位置に戻す際は、下側の外歯20dは内歯18bと噛み合わない状態を維持しつつ、入力レバー21とツースプレート20と保持プレート19とが一体となって中立状態まで回動することになる。
ツースプレート20との噛み合いによって押された駆動ホイール18は、最初に二組のロックプレート14,16によるピニオン軸12の回転規制を解除する。ここで、図7に示すように、駆動ホイール18の時計回りの方向の回転に伴い、解除爪部18dがそれぞれのロックプレート14,16を同じ方向に回転させることになる。これにより、二組のロックプレート14,16によるピニオン軸12の二面幅部12dの挟み込みが解除された状態となり、実質的に、それまでのブレーキ部9の制動状態が解除される。この制動状態の解除により、ピニオン軸12は二組のロックプレート14,16と共にハウジング11に対して回転可能になる。
次に、ツースプレート20より押された駆動ホイール18によるピニオン軸12の回転は、図6に示す角孔18cとピニオン軸12側の異形軸部12cの二面幅部12dとの間に設けた所定の遊び分だけ回転した後に行われる。角孔18cと異形軸部12cの二面幅部12dとが当接することでピニオン軸12を図7の時計回りの方向に回転させる。このピニオン軸12の回転は、図6に示すピニオンギヤ12gの回転にほかならず、このピニオンギヤ12gの回転により当該ピニオンギヤ12gと噛み合っている図示外のシートシフタ機構の従動側ギヤが回転して、シート1の高さ位置が例えば低位側に変位することになる。
なお、先の説明から明らかなように、操作レバー5の回転操作量の割にシートリフタ機構の機能に基づく図1のシート1の上下方向の変位量が小さいことから、多くの場合には、操作レバー5の回転操作を複数回繰り返すことになる。
ここで、操作レバー5の操作力を解除すると、コイルばね23の復帰力で、操作レバー5のほか、操作部10の入力レバー21と保持プレート19およびツースプレート20のそれぞれが図12に示す状態から図11に示す中立位置である初期状態に回転復帰することになる。
この初期状態への回転復帰に際して、入力レバー21が図11に示す状態から反時計回りの方向へと回動すると、ツースプレート20が保持プレート19側の第1軸部19eを中心として時計回りの方向へ回動する。
このとき、カバー22側の上側のガイド突起部27により、上側のリム部20cが中立位置以上に回動することが規制される。そのため、上下双方の外歯20dが内歯18bに噛み合うことがなく、駆動ホイール18を先に回転した位置に残したままで、駆動ホイール18およびピニオン軸12の回転を伴うことなく、入力レバー21、ツースプレート20および保持プレート19が、図11に示す初期状態へと回転復帰する。そして、図11に示すように、ツースプレート20が初期状態まで回転復帰することで、上側のリム部20cがカバー22側の一方のガイド突起部27による拘束から解除され、ツースプレート20の上下双方の外歯20dが共に駆動ホイール18の内歯18bとの噛み合いが可能な状態となる。
また、図11と図12を比較すると明らかなように、図12に示すように保持プレート19が時計回りの方向に回動した時には、一方の作用片19fの先端の保持片19hがカバー22の開口部22cから一旦は抜け出すことになる。その一方で、図11に示すように保持プレート19が中立位置に復帰すれば、一方の作用片19fの先端の保持片19hがカバー22の開口部22cに再び係合して、元の状態に復帰する。
そして、図7、図11から明らかなように、ブレーキ部9および操作部10共に、内部構造が左右対称または上下対称な配置構成となっている。そのため、以上のような一連の動作は、操作レバー5を上記とは逆方向(図11、図12において反時計回り方向)に回転操作した場合であっても、操作部10およびブレーキ部9の回転要素の回転方向が逆になるだけで、上記と同様な動作をすることになる。
(ブレーキ装置の製造方法)
以下、図13に基づき、本実施形態に係るブレーキ装置7の製造方法であって、とりわけ本発明において特徴的なピニオン軸12の製造方法について説明する。なお、図13は、ピニオン軸12の製造工程を説明する図であり、(a)はピニオンギヤ形成工程及び異形軸部形成工程を示す斜視図、(b)は規制部形成工程を示すピニオン軸12の異形軸部12cの横断面図、(c)は軸受部切削工程を示す斜視図を示している。
まず、図13(a)に示すように、断面略円形をなす棒状の素材Mを両端部からそれぞれ据え込み加工して、異形軸部12cを形成するとともに(異形軸部形成工程)、ピニオンギヤ12gを形成する(ピニオンギヤ形成工程)。なお、この際、異形軸部12cについては、一対の円弧状部121c,122cの外径が大径軸部12fの外径と同じか、わずかに大きくなるように形成することが望ましく、本実施形態では、据え込みによって二面幅部121d,122dを形成することで、一対の円弧状部121c,122cの外径が大径軸部12fの外径よりも大きく形成されている。また、異形軸部12cとピニオンギヤ12gとは、同一の工程で形成してもよいし、別々の工程で形成してもよい。なお、素材Mの両端部から据え込みすることで、異形軸部12cとピニオンギヤ12gとの間にある大径軸部12fには、据え込みにより発生する予肉(余分な材料)が集まり、大径軸部12fの外径が必要とする外径よりも大きくなる。ここで、本明細書の中で、大径軸部の外径とは、必要な外径のことであり、後述するように、適切な外径に切削された加工後の必要な外径のことをいう。
続いて、図13(b)に示すように、前記異形軸部形成工程にて形成した異形軸部12cの一対の円弧状部121c,122cの周方向両端部を、プレス装置のパンチPHでもってそれぞれ図示のように二面幅部121d,122dの厚さ方向へ押圧して塑性変形させることにより、当該一対の円弧状部121c,122cの周方向中間部に、偏平状の一対の規制部121e,122eを形成する(規制部形成工程)。
最後に、図13(c)に示すように、軸受部である大径軸部12fの外周面をバイト(切削工具)Tによって旋削して当該大径軸部12fの外径を適切な寸法に仕上げることにより(軸受部切削工程)、ピニオン軸12の加工が完了する。すなわち、当該大径軸部12fは、ピニオンギヤ12gと異形軸部12cとの間に設けられていて、前記異形軸部形成工程およびピニオンギヤ形成工程の加工を経て、大径軸部12fの外周側に余肉が形成されるなど、当該大径軸部12fの外径寸法を安定させることが困難であることから、大径軸部12fの外周面を旋削することにより、当該大径軸部12fの外径を適切な寸法に仕上げる。なお、ピニオン軸12には、この軸受部切削工程の後、浸炭焼入れや高周波焼入れ等の表面硬化処理が施される。
(本実施形態の作用効果)
本実施形態に係るブレーキ装置7では、ピニオン軸12の異形軸部12cの外周部に突出形成した一対の規制部121e,122eをハウジング11の内底面に当接させることで、ピニオン軸12のピニオンギヤ12g側への軸方向移動が規制されている。すなわち、ハウジング11に対するピニオン軸12の抜け止め手段としての一対の規制部121e,122eが異形軸部12cにおける一対の二面幅接続部の外周側に突出形成されていることから、異形軸部12cに対して直列にフランジ部が設けられていた前記従来のブレーキ装置と比べて、当該フランジ部の軸方向寸法の分だけピニオン軸12の軸方向の小型化を図ることが可能となり、ブレーキ装置7の小型化に寄与することができる。
また、本実施形態では、一対の規制部121e,122eが、一対の二面幅接続部の周方向両端部を二面幅部121d,122dの厚さ方向へと押圧して塑性変形させることにより、ピニオン軸12の径方向に沿って延びる偏平状に形成されている。これにより、一対の規制部121e,122eを容易に形成できると共に、ピニオン軸12の素材Mの外径を小さくできるため、良好な生産性を確保し、生産コストを下げることができる。
また、本実施形態では、規制部121e,122eが、大径軸部12fの外径よりも大きい外径に設定された円弧状部121c,122c(図13参照)を押圧することによって形成されている。これにより、ロックプレート14,16と対向する平面部を確保しつつ、一対の規制部121e,122eの成形に十分な肉量を確保することができる。
また、本実施形態では、一対の規制部121e,122eが、異形軸部12cのうち、ロックプレート14,16と対向する側のみに偏倚して形成され、駆動ホイール18と重なる軸方向領域には形成されていない。これにより、当該一対の規制部121e,122eは、駆動ホイール18からの入力を受けることなく、ピニオン軸12の抜け止めのみに機能させることができる。したがって、規制部121e,122eが本実施形態のような偏平形状であっても、必要十分な抜け止め機能を確保することができる。
また、本実施形態では、軸受部である大径軸部12fが、ピニオンギヤ12gの最大外径である歯先円とほぼ同じ外径に設定されている。これにより、ピニオンギヤ12gおよび大径軸部12fを形成する際の素材の切削量を最小限に抑えることができ、材料の歩留まりをさらに向上させることができる。
また、本実施形態では、一対の規制部121e,122eに、それぞれ一対のロックばね15,17が係合可能に構成されていて、これら各ロックばね15,17が、一対の規制部121e,122eに支持される構成となっている。これにより、各ロックばね15,17を安定して保持することが可能となり、当該各ロックばね15,17によるロックプレート14,16の適切な作動を確保することができる。
なお、本発明に係る一対の規制部は、上述した実施形態のような偏平状の形態に限定されるものではなく、ケース8(ハウジング11)の内底面に当接可能な形態であれば、適用するブレーキ装置の仕様等に応じて任意に変更可能である。また、本発明に係る一対の規制部を形成する方法、すなわち規制部形成工程についても、上述の実施形態の態様に限定されず、当該規制部の形態に応じた任意の方法を採用可能である。