図1は、コンクリート打設システムの構成例を示した図である。コンクリート打設システムは、例えばトンネル工事において、トンネルの掘削、掘削により発生した岩石や土砂等のずりの処理、支保工の設置、一次覆工としてのトンネル内面へのコンクリート打設からなる掘進サイクルの中のコンクリート打設に使用される。ここでは、コンクリート打設システムをトンネル工事に使用するものとして説明するが、支保工を使用してコンクリートを打設する工事であれば、トンネル工事に限定されるものではない。
トンネル工事で使用する支保工は、地山の掘削に伴って生じる地山の変形や外力による圧縮力やせん断力に抵抗する機能を有しており、掘削したトンネルが崩れないように、トンネル軸方向に向けて一定間隔で設置されるアーチ状の鋼製部材として説明する。
支保工には、一般に断面がH形状のH形鋼が使用される。H形鋼は、H形の縦2本に略平行に並ぶ部分(フランジ)と、横1本の上記縦2本の中央を繋ぐ部分(ウェブ)とから構成される。フランジの外側に向いた面は、フランジ面と呼ばれる。
コンクリート打設システムは、図1(a)に示すように、型枠装置10と、型枠装置10を把持し、移動させるエレクタ11を備える建設機械の1つである吹付機12とを含んで構成される。ここでは、建設機械を吹付機12として説明するが、建設機械は吹付機12に限定されるものではない。
支保工13は、一方のフランジ面がトンネル内面15に隣接し、他方のフランジ面がトンネル14の径方向の中心に向くように設置される。型枠装置10は、エレクタ11の先端付近に取り付けられ、エレクタ11により隣り合う2つの支保工13の他方のフランジ面と隣接し、当該2つの支保工13に跨るように配置される。これにより、トンネル内面15と、2つの支保工13と、型枠装置10とにより囲まれた、コンクリート打設領域16が形成され、型枠装置10に設けられた穴(コンクリートの打設口)からコンクリート打設領域16へコンクリート17を流し込むことによりコンクリート17が打設される。
コンクリート打設システムは、図1(b)に示すように、支保工13の長手方向である矢線Aに示すトンネルの周方向に、連続的に又は1回の打設が完了する度に型枠装置10を移動し、移動した位置でコンクリート17を流し込むことを繰り返すことにより、2つの支保工13間のトンネルの周方向全体にコンクリート17を打設する。この打設が完了した後は、次の2つの支保工13間へ型枠装置10を移動し、同様にしてコンクリート17を打設していく。
トンネル周方向へのコンクリート17の打設は、例えば2つの型枠装置10と2つのエレクタ11を用い、掘削したトンネル断面の下部から一方の側壁を上部に向けて移動させ、同じようにして他方の側壁を上部に向けて移動させることにより行うことができる。トンネル中央の天端部分に近づくにつれ、傾斜が緩やかになるため、上部の開口を閉鎖する板等を使用し、流し込んだコンクリートがその開口から外部へ流出するのを防ぐことができる。そして、トンネル中央の天端部分において2つの型枠装置10が当接し、またはトンネル中央の天端部分に予め設置した型枠材に型枠装置10が当接し、その内部へコンクリートを打設することにより、トンネルの周方向全体にコンクリートを打設することができる。
図2は、コンクリート打設システムに用いられるエレクタ11の構成例を示した図である。図2(a)は、平面図で、図2(b)は、把持部を正面から見た図で、図2(c)は、側面図である。
エレクタ11は、腕部(ブーム)20を備え、ブーム20は、第1のブーム21と、第2のブーム22とから構成される。第1のブーム21は、第1のブーム20を伸縮する伸縮部23を備える。伸縮部23は、断面の形状が同じで、断面積が異なる複数の中空部材からなり、内部に収容された断面積が小さい中空部材を順に引き出すことにより長さが伸び、その反対に内部へ順に収容することで長さが縮むように構成されている。
第1のブーム21は、先端部に第2のブーム22が上下方向へ回動可能に連結され、末端部が吹付機12に上下方向および左右方向へ回動可能に連結されている。第1のブーム21の末端部には、調整機構24、25が設けられている。調整機構24、25としては、例えば油圧シリンダ等が使用される。調整機構24は、第1のブーム21と吹付機12との連結部分を中心として回動させ、上下方向への第1のブーム21の傾きを調整する。地面に平行な水平方向と、第1のブーム21の延びる方向とのなす角の範囲は、水平方向を0°とした場合、例えば-30°~45°とすることができる。
調整機構25は、第1のブーム21と吹付機12との連結部分を中心として左右に回動させる。第1のブーム21を中心として調整機構25が配置されている側を右方向とし、その反対側を左方向とし、吹付機12の前面12aに対して垂直方向を0°とした場合、例えば左方向へ45°、右方向へ15°の範囲を回動範囲とすることができる。
第1のブーム21の先端部には、第2のブーム22の上下方向への傾きを調整する調整機構26が設けられる。調整機構26の傾きの範囲は、水平方向を0°とした場合、例えば-53°~40°とすることができる。なお、伸縮部23にも、その長さを調整する調整機構が設けられる。
エレクタ11は、第2のブーム22の先端部に、型枠装置10を把持する把持部27を備える。第2のブーム22には、把持部27の左右への回動を調整する調整機構28が設けられる。回動範囲は、吹付機12の前面12aに対して垂直方向(矢線Bに示す方向)を0°とした場合、例えば左方向へ105°、右方向へ45°とすることができる。
把持部27は、2組の係止爪を備え、型枠装置10の一部を挟み込むようにして把持する。把持部27には、把持部27の上下方向への傾きを調整する調整機構29が設けられる。調整機構29の傾きの範囲は、水平方向を0°とした場合、例えば0°~105°とすることができる。なお、これらの傾きの範囲や回動範囲は一例であり、これらの範囲に限定されるものではない。
図3は、型枠装置10の構成例を示した図である。図3(a)は、型枠装置10を側方から見た図で、図3(b)は、切断線C-Cで切断した断面図で、図3(c)は、切断線D-Dで切断した断面図である。
型枠装置10は、少なくとも支持体30と、面板31と、押当部材32と、ヒンジ機構33と、ガイドバー35を滑動させる中通し式のスライド機構34とを含んで構成される。支持体30と面板31は、型枠を構成し、押当部材32とヒンジ機構33とスライド機構34は押当手段を構成する。
支持体30は、例えば角材やシリンダ等の複数の棒状物を使用して箱形に組み立てた構造体で、ガイドバー35、36、伸縮機構としてのシリンダ37、38、フレーム部39、ヒンジ部40、エレクタキャッチ部41とから構成される。なお、支持体30に使用される部材は、角材に限られるものではなく、角管、円管、形鋼等を使用してもよい。また、支持体30の形状は、箱形に限定されるものではなく、ガイドバー35とエレクタキャッチ部41とを含むものであればいかなる形状であってもよい。
図3に示す例では、支持体30は、2本のガイドバー35と、2本のガイドバー36と、2本のシリンダ37、2本のシリンダ38と、2つのフレーム部39と、4つのヒンジ部40と、1つのエレクタキャッチ部41とから構成されている。
ガイドバー35は、ヒンジ機構33が連結され、ヒンジ機構33が連結されたスライド機構34が滑動可能に接続される。また、ガイドバー35は、ヒンジ部40を介してガイドバー36やシリンダ37と連結されている。シリンダ37は、フレーム部39と連結され、フレーム部39は、複数の角材等により形成され、ガイドバー36が挿通される挿通穴を有し、シリンダ38が連結されている。ガイドバー36は、ガイドバー36が延びる方向に対して垂直に突出する突出部42を備え、突出部42にシリンダ38の一端が連結されている。
シリンダ37、38は、例えばエアーシリンダが採用される。シリンダ37、38は、装置の重量やコンクリート圧等に対応するため、エアー圧を状況に合わせて変化させるべく、レギュレータを介してエアーが供給される。シリンダ37、38は、リリーフバルブを備え、ブーム20による押し付け等により異常な圧となる場合、リリーフバルブによりエアー圧を下げ、適正な圧に維持する。
エレクタキャッチ部41は、1本の角材等から構成され、エレクタ11により把持され、フレーム部39に連結されている。フレーム部39に連結されたシリンダ37、38内のピストンに固定される棒を押し出すことによりガイドバー35は、フレーム部39から離間し、棒を引き込むことによりガイドバー35はフレーム部39に近づくように移動する。シリンダ37、38の棒の移動量を同じ量にすることで、エレクタキャッチ部41に対して略平行にガイドバー35を移動させることができる。また、ヒンジ部40を有することにより、シリンダ37、38の棒の移動量を異なる量にすることで、エレクタキャッチ部41に対してガイドバー35を傾けることができる。
面板31は、2つの支保工13に跨るように配置され、コンクリートの打設口43を有する。面板31は、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、鋼等の材料を使用し、所定の力を加えても割れたり、折れたりせず、適度に撓み、加えた力を取り除くと、元の平板に戻るような適度な厚さを有する板とされる。アクリル樹脂を使用したアクリル板の場合、その厚さは、例えば10~20mmとすることができ、板は単体または複数枚を重ねて所定の厚さを確保して使用することもできる。面板31は、打設されるコンクリートに隣接する面が平滑な面とされている。打設口43は、耐圧ホース等の管44やコンクリートの供給を調節できる締切り機構等が接続される。
押当部材32は、トンネル周方向に離間して配置され、面板31を2つの支保工13へ押し当てる。押当部材32は、面板31を2つの支保工13へ押し当てるための一定の面積をもつ押当面を有する。これにより、面板31と2つの支保工13との間に生じる隙間を小さくし、打設したコンクリートが外部へ流出するのを抑制する。
面板31は、ボルト等の固定手段を用いて押当部材32に固定することができる。面板31は、ボルト等の頭部が面板31の平滑な面から突出しないように、ねじ穴に連続し、拡張された頭部を収容する拡張溝を有している。
ヒンジ機構33は、押当部材32を支持体30のガイドバー35およびスライド機構34に回動可能に連結する。ヒンジ機構33は、2つの板状部材のそれぞれに穴を設け、2つの穴に断面が円形の棒状部材を挿通させた構成となっている。ヒンジ機構33を有することにより、支保工13のフランジ面が湾曲していても、ヒンジ機構33により押当部材32の押当面の向きを変えることができるので、面板31をフランジ面に密着させることができる。
一方のヒンジ機構33は、ガイドバー35と連結され、他方のヒンジ機構33は、スライド機構34と連結される。2つの支保工13に沿って面板31が湾曲する場合、ボルトにより固定される押当部材32間の直線距離が短くなるため、スライド機構34によりヒンジ機構33間の間隔を短くする。スライド機構34は、例えばガイドバー35の周囲を取り囲み、ガイドバー35の長手方向へ滑動可能とされた枠部材とすることができる。
型枠装置10は、支持体30のガイドバー35に取り付けられる伸縮機構としてのシリンダ45と、2つの押当部材32間に配置され、シリンダ45の棒の移動により面板31の中央部を2つの支保工13のフランジ面に押し当てる押当部材46とをさらに備えることができる。
押当部材32のみでも、面板31を湾曲させることは可能であるが、コンクリートを流し込んでいくと、面板31を押し当てる方向とは反対方向へ圧力がかかり、この圧力により、面板31を押し付けていない中央部に隙間が発生しやすくなる。そこで、押当部材46を設け、コンクリートの打設による面板31の中央部の隙間の発生を抑制する。
押当部材32、46は、トンネル周方向に対して垂直方向であるトンネル軸方向に延び、面板31のトンネル周方向に離間して3箇所を押し当てる機構であり、この内、押当部材46は面板31に対して2本のローラ軸を利用し、2点で押し当てる。したがって、図3に示す例では、面板31を計4点で押し当てている。面板31のサイズが大きい場合は、シリンダ45および押当部材46を追加することができる。
押当部材32、46のトンネル軸方向への長さは、面板31のトンネル軸方向の幅より長く、面板31から突出している。押当部材32、46の面板31から突出した部分には、車輪(ローラ)47~49が設けられる。ローラ47~49は、各支保工13のフランジ面と接触し、フランジ面上を回転する。これにより、面板31が支保工13上をスライドしやすくしている。また、支保工13のフランジ面と接触する面板31の接触面に対し、ローラ47~49が当該接触面から当該フランジ面側へ突出する突出量は出来るだけ小さくすることで、面板31と支保工13のフランジ面との隙間を最小にし、当該隙間からのコンクリートの漏れを最小限にしている。
押当部材46も、押当部材32と同様、一定の面積をもつ押当面を有するものであってもよいが、ローラ49を取り付ける軸を、押当部材46として用いてもよい。
コンクリートは、型枠装置10を所定の位置に設置し、面板31に設けられた打設口43から流し込み、トンネル内面15と2つの支保工13と面板31とにより囲まれたコンクリート打設領域16に打設される。図4は、型枠装置10を使用してコンクリートを打設する様子を例示した図である。
打設するコンクリート17は、例えばセメントと、骨材と、水と、減水剤と、コンクリートの硬化を促進させる急硬剤と、コンクリートの流動性を制御する可塑剤とを含むことが望ましい。セメントには、ポルトランドセメント、混合セメント、特殊セメントがあり、いずれのセメントでも使用することができる。骨材は、砂や砂利等であり、その大きさにより細骨材と粗骨材に分けられる。
ベースとなるコンクリート(ベースコンクリート)は、バッチャープラント50においてセメントと骨材をミキサー51に投入し、水を加えて混練することにより製造される。ベースコンクリートには、減水剤等の混和剤を含んでいてもよい。混和剤は、使用量が少なく、練り上がり容積に算入されない添加剤であり、コンクリートの品質、性能、経済性等を向上させるために添加されるものである。ベースコンクリートは、生コンとして、ミキサー車52により施工現場まで搬送される。そして、施工現場では、圧送ポンプ53により耐圧ホース54を介して型枠装置10へ圧送する。
急硬剤は、早期に急硬性を発揮させる混和剤である。急硬剤としては、硬化促進材や凝結調整剤等が挙げられる。硬化促進材は、コンクリートの硬化を促進させる混和材料で、塩化物、亜硝酸塩、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、珪酸ソーダ、アミン類、無水マレイン酸等が挙げられる。凝結調整剤は、凝結時間を調整する混和剤で、接着剤やバインダー用途に適するように変性(疎水基変性)を加えたポリマー等が用いられる。
急硬剤は、水等に分散させ、容器55から液体ポンプ56によりスラリーとして供給し、ベースコンクリートに添加される。急硬剤は、コンクリートの硬化を早めるため、混合装置57を設け、打設直前に添加されるようにする。
可塑剤は、混和剤の1つであり、コンクリートにスラリーを注入した後に添加され、静止するまでは流動性を保持し、静止すると流動性を失い、形状を保持するように作用する。
可塑剤としては、アルカリ雰囲気下で増粘してコンクリートの流動性を失わせるポリマーエマルジョン(アルカリ増粘型ポリマーエマルジョン)が挙げられる。なお、流動性を制御することが可能な材料であれば、アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンに限定されるものではない。
アルカリ増粘型ポリマーエマルジョンは、アクリル酸もしくはメタクリル酸等の不飽和カルボン酸またはその不飽和カルボン酸塩と、アクリル酸エステルモノマーもしくはメタクリル酸エステルモノマー等のエチレン性不飽和化合物との共重合により得ることができる。
不飽和カルボン酸としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。エチレン性不飽和化合物としては、例えばエチレン、アクリロニトリル、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、酢酸ビニル、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。
可塑剤も、容器58から液体ポンプ59により混合装置57へ供給される。混合装置57は、ベースコンクリートへ急硬剤を注入し、その後、可塑剤を添加し、それらを撹拌混合して得られたコンクリート17を型枠装置10へ供給する。コンクリート17は、型枠装置10の面板31に設けられた打設口43から流し込まれ、コンクリート打設領域16に充填される。この例では、混合装置57が直接型枠装置10と接続されているが、このように直接接続されていてもよいし、耐圧ホース等の管44を介して接続する場合や、コンクリートの供給を調節できる締切り機構等が接続されていてもよい。なお、混合後、即座にコンクリート打設領域16に流し込む必要があるため、管44を介して接続する場合、管44の長さは出来るだけ短い長さとされる。
上記のポリマーエマルジョンを含むコンクリート17は、可塑剤により増粘するが、圧送ポンプ53により与えられるエネルギーによってコンクリート打設領域16内に広がる程度の流動性をもつため、当該領域内の隅々まで充填することができる。多少の隙間が存在する場合でも、幅の狭い隙間はコンクリート17の流れの抵抗となるため、その部分で静止した状態になる。静止すると、可塑剤により形状を維持するように作用し、隙間からの流出が抑制され、急硬剤によりその形状のまま凝結し、硬化していく。コンクリート17は、流し込んで30秒から90秒程度で凝結するので、凝結に達し、自立したことを確認した後、型枠装置10をトンネル周方向へ移動させることができる。そして、移動させた後、同じようにしてコンクリート17を流し込み、打設することができる。
図5は、エレクタ11により型枠装置10を移動させ、トンネルの周方向へ連続してコンクリートを打設する様子を例示した図である。図5では、型枠装置10を水平方向(真横)から斜め45°へと移動し、斜め45°から鉛直方向(真上)へと移動し、コンクリートを打設している様子を示している。いずれも、コンクリートの打設中、面板31が、押当部材32、46により2つの支保工13へ押し当てられ、2つの支保工13に沿って湾曲した状態で保持されている。
図6は、平面施工時と曲面施工時における面板の様子を例示した図である。型枠装置10は、支保工形状に対して柔軟に対応できる型枠装置である。型枠装置10は、アーチ状の支保工13のフランジ面に押当部材32を隣接させるため、押当部材32の押当面の向きを変えるべく、ヒンジ機構33を有している。また、型枠装置10は、面板31が湾曲すると、押当部材32間の距離が変化するため、片方のヒンジ機構33を、スライド機構34を介して支持体30に連結している。さらに、型枠装置10は、流し込まれたコンクリートによる圧力で面板31を押し、支保工13と面板31との間に隙間を生じさせるため、シリンダ45と押当部材46とを設け、支保工13と面板31との間に隙間が生じないようにしている。
平面施工の場合、図6(a)に示すように、面板31は、平らな状態で、ヒンジ機構33も押当部材32を回動せず、ヒンジ機構33もスライド機構34を滑動させず、シリンダ45も押当部材46を押し出していない。
曲面施工の場合、図6(b)に示すように、面板31が湾曲する。面板31が湾曲すると、面板31にボルトで固定された押当部材32の押当面は、水平方向から上下方向へ傾いた状態になる。その状態にするため、ヒンジ機構33が押当部材32を回動させ、押当部材32間の直線距離が変わることから、スライド機構34が下側のヒンジ機構33を滑動させる。
また、面板31が湾曲すると、面板31の中央部が支保工13に沿って突出した状態になる。その状態で固定するため、シリンダ45の棒を延ばし、押当部材46を押し出す。
これまで、型枠装置10および型枠装置10を備えたコンクリート打設システムの構成やその機能について説明してきた。コンクリート打設システムを使用することで、トンネル周方向へ連続してコンクリートを打設することができる。このコンクリートの打設は、種々のセンサを型枠装置10やエレクタ11に取り付け、センサから得られた情報に基づき、種々の調整機構やシリンダを制御することで、自動で行うことができる。センサから得られる情報は、型枠装置10やエレクタ11の姿勢(傾き)や位置に関する情報である。
図7は、型枠装置10に取り付けるセンサの種類と位置を説明する図である。型枠装置10には、支持体30のフレーム部39に距離センサ60が取り付けられる。
ガイドバー35は、シリンダ37、38によりフレーム部39へ近づき、または離れるように移動する。距離センサ60は、エレクタキャッチ部41の位置を基準とし、フレーム部39から面板31までの距離を検出する。なお、エレクタキャッチ部41からフレーム部39までの距離は変化しないので、エレクタキャッチ部41の位置が分かれば、距離センサ60により上記距離を検出することで、型枠装置10の位置情報として面板31の位置情報を得ることができる。エレクタキャッチ部41の位置は、エレクタキャッチ部41がエレクタ11の先端にある把持部27で把持されるのみであり、その長さが伸縮したり傾いても、エレクタ11に取り付けた各種センサ類で型枠装置10の位置を求めることができる。
型枠装置10には、距離センサ60のほか、傾斜センサを取り付け、型枠装置10の傾きを検出してもよい。傾斜センサは、例えばガイドバー35等に取り付けて使用することができる。
図8は、エレクタ11に取り付けるセンサの種類と位置を説明する図である。ブーム20を構成する第1のブーム21の末端に、傾斜センサ70と回転センサ71とが取り付けられる。傾斜センサ70は、調整機構24による第1のブーム21の上下方向の動きを傾きとして検出する。回転センサ71は、調整機構25による第1のブーム21の左右への回動を角度として検出する。
第1のブーム21に設けられる伸縮部23に、距離センサ72が取り付けられる。距離センサ72は、伸縮部23が最も収縮した状態を0とし、伸びた長さを検出する。
第2のブーム22に、傾斜センサ73と回転センサ74とが取り付けられる。傾斜センサ73は、調整機構26による第2のブーム22の上下方向の動きを傾きとして検出する。回転センサ74は、調整機構28による第2のブーム22の左右への回動を角度として検出する。
把持部27に、傾斜センサ75が取り付けられる。傾斜センサ75は、調整機構29による把持部27の上下方向の動きを傾きとして検出する。
エレクタ11の先端位置は、エレクタ11の末端位置が分かれば、伸縮部23以外のブーム20の長さ、傾斜センサ70、回転センサ71、距離センサ72、傾斜センサ73、回転センサ74により検出された情報から求めることができる。
このようにして型枠装置10やエレクタ11の位置や姿勢を把握することで、型枠装置10を所定の位置で滑らかに動かす操作性を確保でき、面板31と支保工13のフランジ面とが密着するように配置することができる。また、曲面となる支保工13のフランジ面に対し、面板31が自動で正対できる。さらに、制御方式をPLC制御とすることで、型枠装置10の走行速度や姿勢調整の高度な制御も可能となる。
図9(a)に示すように、エレクタ11の末端位置は、吹付機12の位置を測定し、得られた吹付機12の位置情報から求めることができる。吹付機12の位置は、吹付機12上の任意の位置とされ、施工を行う切羽付近に吹付機12を配置し、トータルステーション等の測量機80を使用し、位置座標が定まっている既知点を2~3点用いて距離と水平方向および鉛直方向の角度を計測することにより求めることができる。測量機80を使用して距離および角度を計測する方法はよく知られた方法であるため、ここでは詳述しない。
図9(b)を参照して、コンクリート打設システムの制御の概要を説明する。吹付機12上の測量機80と、吹付機12上の既知点81、および少なくとも2点の位置座標が定まっている既知点82、83とを用いることにより、吹付機12の位置を求めることができるが、測量する位置は、吹付機12の位置に限られるものではなく、型枠装置10の位置、エレクタ11の先端位置や末端位置であってもよい。これらの位置が既知であれば、型枠装置10やエレクタ11に取り付けられたセンサにより検出された情報から吹付機12の位置を計算することができるからである。ここでは、測量機80により吹付機12の位置を計測するものとして説明する。
吹付機12をトンネル坑内の任意の位置に配置する。配置後、測量機80と既知点82、83、吹付機12上の既知点81とを使用し、吹付機12の位置を計測する。吹付機12とエレクタ11との相互の位置関係、エレクタ11と型枠装置10との相互の位置関係は既知であることを前提とする。
吹付機12の位置が分かれば、型枠装置10およびエレクタ11に取り付けられたセンサにより得られる情報から、型枠装置10の位置や向きが計算される。図9(a)に示す例では、トンネル軸方向に向いた吹付機12に対し、エレクタ11がトンネル軸方向に対して45°の方向に延び、その長さLが既知であり、型枠装置10がエレクタ11の延びる方向に対して45°傾斜している。このため、型枠装置10は、吹付機12の位置からトンネル軸方向へL/√2、トンネル側壁方向へL/√2ほど移動した位置にあり、トンネル軸方向に対して90°のトンネル側壁方向に向いていると計算される。
支保工13のトンネル軸方向の位置、長さ、曲率等は既知である。型枠装置10を支保工13の所定位置にセットすれば、型枠装置10の位置や向きが分かり、その位置や向きから、2つの支保工13に跨るように隣接して配置されているかが分かる。すなわち、その位置や向きが、2つの支保工13に跨る位置で、トンネル軸方向に平行で、かつトンネル周方向の接線に平行であれば、2つの支保工13に跨るように隣接して配置されている。
このため、型枠装置10の位置や向きを計算し、計算結果が所定の条件に適合しているか判断しながら、調整機構24~26等により型枠装置10の位置や向きを制御することで、型枠装置10を2つの支保工13に沿って移動させることができる。その際、多少の誤差が生じることがあるが、型枠装置10は、シリンダ37、38を備えているため、これらのシリンダ37、38によりその誤差を吸収することができる。
図9(a)、(b)に示した例では、吹付機12の位置を、測量機80を使用して計測したが、吹付機12の位置が不明であっても、システムの制御は可能である。その方法について、以下に説明する。
吹付機12をトンネル坑内の任意の位置に配置し、続いてエレクタ11を用いて型枠装置10を支保工13の任意の位置にセットする。
次に、型枠装置10が支保工13のどの位置(高さ)にいるかの位置情報を与える。トンネル断面は、スプリングライン(S.L.)によりアーチ状の上半と下半とに分けられる。支保工13の位置情報は、S.L.を基準とし、S.L.下10mm等として与えることができる。支保工13は、トンネル軸方向へ一定間隔で設置されるため、型枠装置10を押し当てる支保工13を特定することで、トンネル軸方向の位置情報を得ることができる。
与えられた位置情報と、センサから得られる情報とから、エレクタ11や吹付機12がトンネル坑内のどの位置にあるかを計算することができる。型枠装置10の位置や向き、吹付機12の位置が分かれば、上記のようにして2つの支保工13に沿って型枠装置10を移動させることができる。
図10を参照して、システムの制御をより詳細に説明する。制御を開始する前の準備として、吹付機12の座標を、本体座標(0,0,0)とし、本体座標から第1のブーム21と吹付機12との連結部分の座標を、ブーム基点座標(x1,y1,z1)とし、ブーム基点座標を決定する。本体座標からブーム基点座標までの距離および方向は、予め決められているため、それらの情報からブーム基点座標を決定する。また、エレクタ11の先端位置として把持部27の座標をブーム先端座標(x2,y2,z2)とし、センサから得られたブーム20が延びる方向や傾き等により、ブーム先端座標を決定する。ここで決定したブーム先端座標は、初期値であり、各センサの値により変化する。
次に、吹付機12の本体座標と向きを測定する。本体座標や向きは、測量機80を用いて測定することができる。測量機による測量は、図9(a)、(b)に示した既知点を用い、レーザを使用して行うもののほか、3Dスキャナを使用して行うことも可能である。また、本体座標や向きは、型枠装置10を支保工13に隣接するように配置し、支保工13の位置情報や向きから求めることもできる。
第1のブーム21は、作業員がもつリモートコントローラにより手動で制御される。作業員は、リモートコントローラを使用し、第1のブーム21に取り付けられた調整機構24、25を制御し、型枠装置10を支保工13の所定位置にセットする。ここでは、第1のブーム21を手動で制御するものとして説明するが、自動制御することも可能である。
システムは、本体座標と、各センサから得られる情報とに基づき、型枠装置10の位置や向きを計算し、計算結果を基に、型枠装置10の面板31がトンネル軸方向と平行になるように、第2のブーム22の上下方向の傾きや左右の角度を制御する。このとき、必要に応じて第1のブーム21の伸縮部23を伸縮させ、型枠装置10が2つの支保工13に跨り、隣接した状態を保持するように制御する。
また、システムは、各センサにより得られる情報に基づき、図11に示すように、トンネル断面の中心と型枠装置10とを繋ぐ線と、トンネル断面の中心と天端とを繋ぐ線とのなす角(円周角:θ)を計算し、得られた円周角に基づき、型枠装置10の面板31の面がトンネル円周の接線と平行になるように、把持部27の傾きを制御する。計算に誤差が生じる場合、型枠装置10のシリンダ37、38によりその誤差を吸収するように制御する。
図12は、コンクリート打設による施工の流れを示したフローチャートである。型枠装置10は、図4に示した混合装置57が取り付けられ、ベースコンクリート、スラリー、可塑剤が準備され、供給可能な状態になっている。ステップ100から開始し、ステップ101では、吹付機12をトンネル坑内の任意の位置に配置する。ステップ102では、吹付機12の位置を測定する。
ステップ103では、型枠装置10を支保工13の所定位置にセットする。ステップ104では、型枠装置10が2つの支保工13に跨り、隣接して配置されるようにエレクタ11を制御する。ステップ105では、各材料を供給し、混合し、得られたコンクリートを打設する。ステップ106でコンクリートの打設を終了するかを判断する。終了するか否かは、例えばトンネルの天端に到達したかどうかにより判断することができる。なお、この条件は一例であるので、これに限られるものではない。
打設を終了しない場合、ステップ107で、型枠装置10を移動させ、ステップ104へ戻り、コンクリートの打設を行う。この間、コンクリートの供給を停止してもよいし、継続していてもよい。
ステップ106で打設を終了する場合は、ステップ108へ進み、各材料の供給を停止してコンクリートの供給を停止する。そして、ステップ109で、2つの支保工13間のトンネル周方向へのコンクリートの打設を終了する。次の2つの支保工13間に打設する場合は、ステップ100から施工を開始することができる。コンクリートの供給を停止した際、混合装置57内を水洗し、内部に残留するコンクリートが固まり、流路を閉塞するのを防止することができる。
図13は、図12のステップ104のエレクタ11の制御の流れを示したフローチャートである。ステップ200から制御を開始し、ステップ201では、各センサから得られた情報に基づき、型枠装置10の位置および向きを検出する。ステップ202では、検出結果に基づき、面板31の面とトンネル軸方向(トンネル線形)とが平行かどうかを判断する。一定の傾斜誤差を設け、傾斜誤差以内であれば、平行と判断することができる。
平行でない場合、ステップ203へ進み、傾斜誤差内になるように、第2のブーム22の傾きや左右の角度を制御する。
ステップ202で平行である場合、またはステップ203で調整が完了した後、ステップ204で、検出結果に基づき、型枠装置10がトンネル軸方向へずれているかを判断する。2つの支保工13に跨るように配置できれば、ずれていないと判断することができ、それ以外はずれていると判断することができる。なお、これに限られるものではなく、支保工13に一定以上の幅で隣接する場合にずれていないと判断し、そうでない場合ずれていると判断することもできる。
ずれている場合、ステップ205へ進み、ずれをなくすように、第1のブーム21の長さを制御し、型枠装置10のトンネル軸方向への位置を調整する。
ステップ204でずれていない場合、またはステップ205で調整が完了した後、ステップ206へ進み、円周角を計算する。円周角は、第1のブーム21、第2のブーム22の傾きや、把持部27に取り付けた傾斜センサ75の値から計算することができる。ステップ207では、円周角から得られるトンネル円周の接線と、型枠装置10の面板31の面が平行かどうかを判断する。この場合も、一定の傾斜誤差を設け、傾斜誤差以内であれば、平行と判断することができる。この傾斜誤差は、ステップ202で使用した傾斜誤差と同じものを採用することができる。
平行でない場合、ステップ208へ進み、傾斜誤差内になるように、把持部27の傾きを制御する。この場合も、把持部27の傾きを制御することができる。ステップ207で平行である場合、またはステップ208で調整が完了した後、ステップ201へ戻る。この例では、トンネル軸方向と平行でない場合に第2のブーム22を制御し、接線と平行でない場合に把持部27を制御しているが、これに限られるものではない。また、制御の順序も、これに限られるものではなく、先にトンネル軸方向にずれているかを判断し、続いてトンネル軸方向に平行であるかを判断する等してもよい。
以上のようにして、システムを自動制御することができる。この自動制御により、エレクタ11をゆっくり、細かく、スムーズに動作させることができ、コンクリートの仕上がり面が平滑となり、作業者の技量や経験に左右されにくくなる。
また、上記の可塑剤と急硬剤とを併用したコンクリートを用いることで、型枠装置10内へのコンクリート充填性を改善し、コンクリート自体の品質や耐久性を向上させることができる。また、コンクリートの硬化が促進され、初期強度の発現性が良好で、型枠の早期脱型が可能となる。
型枠装置10を使用し、流し込むことによりコンクリートを打設するため、粉塵の発生やリバウンドによるロスの発生を抑制することができる。
これまで本発明の型枠装置およびコンクリート打設システムを上述した実施形態をもって詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、コンクリート打設システムの制御方法やこのシステムを使用したコンクリートの打設方法等も提供することができるものである。