JP7367428B2 - R-t-b系焼結磁石 - Google Patents

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Description

本開示は、R-T-B系焼結磁石に関する。
R-T-B系焼結磁石(Rは希土類元素、Tは遷移金属元素)は、R14B型結晶構造を有する化合物からなる主相(主相結晶粒)と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されており、永久磁石の中で最も高性能な磁石として知られている。
R-T-B系焼結磁石はハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に用いられている。このように用途が広がるにつれ、例えば電気自動車用モータで用いられた場合は高温環境下でも減磁の少ない高耐熱材料が必要とされている。耐熱性を向上させる一つの方法としては保磁力(以下、単に「HcJ」という場合がある)向上があり、一般にはDyやTbといった重希土類元素RH(以下、単に「RH」という場合がある)を添加することでHcJを増大させ、高温での不可逆熱減磁を抑制することが行われている。しかしながらRHを多く添加すると、残留磁束密度B(以下、単に「B」という場合がある)の低下につながる。またRHは資源リスクの高い原料であることからその使用量を削減することが求められている。
そこで近年、R-T-B系焼結磁石の表面から内部にRHを拡散させて主相結晶粒の外殻部にRHを濃化させることでRHの使用量を抑制し、Bの低下を抑制しつつ、高いHcJを得る方法が提案されている。
特許文献1には、DyおよびTb等のRHを含有する粉末を、焼結体表面に存在させた状態で、焼結温度よりも低い温度で加熱することで、前記粉末からDyおよびTb等を焼結体に拡散してHcJを向上させる方法が開示されている。
特許文献2には、RHを含むR-M合金粉末をR-T-B系焼結磁石表面に存在させた状態で熱処理し焼結磁石へ拡散させてHcJを向上させる方法が開示されている。
特許文献3では、R-T-B系焼結磁石の表面に粘着剤を塗布し、RL-RH-M合金または化合物の粉末を付着させて熱処理し焼結磁石へ拡散させてHcJを向上させる方法が開示されている。
また、上述の通りR-T-B系焼結磁石が最も利用される用途はモータであり、特に電気自動車用モータなどの用途で高温安定性を確保するためにHcJの向上は大変有効であるが、それらの特性とともに角形比H/HcJ(以下、単にH/HcJという場合がある)も高くなければならない。H/HcJが低いと減磁しやすくなるという問題を引き起こす。そのため、高いHcJを有するとともに、高いH/HcJを有するR-T-B系焼結磁石が求められている。なお、R-T-B系焼結磁石の分野においては、一般に、H/HcJを求めるために測定するパラメータであるHは、J(磁化の強さ)-H(磁界の強さ)曲線の第2象限において、Jが0.9×J(Jは残留磁化、J=B)の値になる位置のH軸の読み値が用いられている。このHを減磁曲線のHcJで除した値(H/HcJ=H(kA/m)/HcJ(kA/m)×100(%))が角形比として定義される。
特開2008-147634号公報 特開2008-263179号公報 国際公開第2018/030187号
本発明者らは、例えば特許文献1~3に記載されているようなRHを磁石表面から内部に拡散させる方法について検討したところ、高いHcJが得られる一方、H/HcJが大きく低下する場合があることがわかった。
具体的には、一般的なR-T-B系焼結磁石では、H /HcJは90%以上となる。これに対し、特許文献1~3に記載されているR-T-B系希土類磁石では、高いHcJが得られるものの、H /HcJが90%未満となる場合があるという問題があった。
そこで、本開示はRHを磁石表面から内部に拡散させる場合において、高いHcJと高いH/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を提供する。
本開示のR-T-B系焼結磁石は、例示的な実施形態において、主相結晶粒および粒界相を含むR-T-B系焼結磁石であって、R:28mass%以上35mass%以下(Rは、RLおよびRHからなり、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、RHは重希土類元素の少なくとも一種であり、Tb及びDyの少なくとも一方を必ず含む)、B:0.80mass%以上1.20mass%以下、Cu:0.05mass%以上1.0mass%以下、Ga:0.05mass%以上0.5mass%以下、T:61.5mass%以上70.0mass%以下(Tは、Fe、Co、Al、Mn及びSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である)、を含有し、かつ、[Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.5が成立し、かつ、磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上である。
ある実施形態において、配向方向と平行な断面における磁石表面部のRH濃度は磁石中央部のRH濃度よりも高い。
ある実施形態において、[Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.7が成立する。
本開示の実施形態により、高いHcJと高いH/HcJを有するR-T-B系焼結磁石を提供することができる。
本発明者らは検討の結果、上述した拡散方法(例えば特許文献1~3に記載の拡散方法)によって得られたR-T-B系焼結磁石がCu及びGaを含有する場合、またさらに、[Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.5が成立する場合において、特にH/HcJが低下する場合があることがわかった(典型的には、([Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.7、もっとも典型的には、([Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.75が成立する場合において、特にH/HcJが低下する場合があることがわかった)。そして、更に検討を重ねた結果、このような組成を有するR-T-B系焼結磁石において、磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相を面積比率で50%以上とすることで、H/HcJの低下を抑制することができることがわかった。
<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相を面積比率で50%以上とするには製造方法を調整することで可能となる。特に後述する実施例に示すように、拡散工程後に行われる熱処理工程における熱処理温度を調整することで<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相を面積比率で50%以上とすることができる。
(R-T-B系焼結磁石)
本開示のR-T-B系焼結磁石は、
主相結晶粒および粒界相を含むR-T-B系焼結磁石であって、
R:28mass%以上35mass%以下(Rは、RLおよびRHからなり、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、RHは重希土類元素の少なくとも一種であり、Tb及びDyの少なくとも一方を必ず含む)、
B:0.80mass%以上1.20mass%以下、
Cu:0.05mass%以上1.0mass%以下、
Ga:0.05mass%以上0.5mass%以下、
T:61.5mass%以上70.0mass%以下(Tは、Fe、Co、Al、Mn及びSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である)、を含有し、かつ、
[Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.5が成立し、かつ、
磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上である。さらに、本開示のR-T-B系焼結磁石は、配向方向と平行な断面における磁石表面部のRH濃度は磁石中央部のRH濃度よりも高い。このことは、RHが磁石表面から磁石内部に拡散された状態にあることを意味している。
以下、詳細に説明する。
Rの含有量は、28mass%以上35mass%以下である。Rは、RLおよびRHからなり、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、RHは重希土類元素の少なくとも一種であり、Tb及びDyの少なくとも一方を必ず含む。なお、軽希土類元素は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Euなどが挙げられ、重希土類元素は、Gd、Tb、Dy、Ho、Er,Tm、Yb、Luなどが挙げられる。Rの含有量が28mass%未満では、焼結過程で液相が十分に生成せず、R-T-B焼結磁石を十分に緻密化することが困難になるおそれがあり、Rの含有量が35mass%を超えると主相比率が低下して高い残留磁束密度Bを得ることができないおそれがある。Rは、32mass%以下が好ましい。好ましくは、RHの含有量は0.01mass%以上2mass%以下である。RHの含有量が0.01mass%未満では十分な保磁力向上効果が得られない。RHの含有量が2mass%を超えると、原料コストの増大を招く。
Bの含有量は、0.80mass%以上1.20mass%以下である。Bの含有量が0.80mass%未満では、R17相が析出して高いHcJが得られず、Bの含有量が1.20mass%を超えるとR相が析出しBの低下を招く。
Cuの含有量は、0.05mass%以上1.0mass%以下である。Cuの含有量が0.05mass%未満では、保磁力向上に寄与するCuを含む粒界相が少なすぎ、高いHcJを得ることができない。Cuの含有量が1.0mass%を超えると、Bが低下するおそれがある。
Gaの含有量は、0.05mass%以上0.5mass%以下である。Gaの含有量が0.05mass%未満では、保磁力向上に寄与するGaを含む粒界相が少なすぎ、高いHcJを得ることができない。また、角形比低下を引き起こすおそれがある。Gaの含有量が0.5mass%を超えると、原料コストの増大を招く。
Tは、Fe、Co、Al、Mn及びSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、Tの含有量は61.5mass%以上70.0mass%以下である。Tは、必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である。Tが61.5mass%未満では、Bが大幅に低下するおそれがある。また、好ましくは、このR-T-B系焼結磁石は、[T]をmol%で示すTの含有量とし、[B]をmol%で示すBの含有量とするとき、[T]≦14×[B]を満足する。[T]>14×[B]である場合、Bの含有量が主相であるR14B化合物の化学量論組成よりも少なく、R17相が析出して高いHcJが得られないおそれがある。
本発明の実施形態に係るR-T-B系焼結磁石は、上述した成分組成範囲を満足した上で、さらに次の関係を満足する。
[Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.5(典型的には、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.7、もっとも典型的には、([Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.75)が成立し、かつ、磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上である。<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%未満の場合、角形比の低下を引き起こす。なお、Gaを含む合金を用いて拡散を行う場合、Gaは磁石表面から内部へ濃度勾配をもつことから磁石表面付近と磁石中心付近とでは、<Cu>/<Ga>の値が異なる可能性がある。よって、Gaを含む合金を用いて拡散を行う(Gaが磁石表面から内部へ濃度勾配を持つ)場合は、磁石中心付近において<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上であればよい。磁石中心付近で50%以上であれば、Ga濃度が高い磁石表面付近も50%以上となっている。また、Cuを含む合金を用いて拡散をおこなった場合は、Cuは比較的磁石内部へ拡散しやすいため、磁石表面から内部への濃度勾配は小さい。そのため、任意の断面において、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上であればよい。好ましくは、<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率60%以上である。より確実にH/HcJの低下を抑制することができることがわかった。
本開示における「磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相の面積比率」は、例えば、電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)および画像解析ソフトを用いて確認することができる。まず、任意の磁石断面の任意の領域において、EPMA等を用いて元素マッピングを行う。元素マッピングは微小領域の組成分析の集まりであり、例えば、観察領域の1μmごとの組成情報が含まれる。この中から、主相や酸化物相を除く、CuおよびGaを含む粒界相について、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>をそれぞれ求める。これらの粒界相を、<Cu>/<Ga>が30以下の粒界相と<Cu>/<Ga>が30より大きい粒界相の二種類に分離し、元素マッピング上に図示する。これらの粒界相の総面積に対し、<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相の面積比率を求めることができる。
本開示における「配向方向と平行な断面における磁石表面部のRH濃度は磁石中央部のRH濃度よりも高い」は以下のようにして確認する。まず、磁石表面部のRH濃度および磁石中央部のRH濃度を求めるためのサンプルをR-T-B系焼結磁石から切り出す。磁石表面部のサンプルは、配向方向に平行な磁石断面において、磁石表面から磁石の配向方向厚みの10~40%の範囲で任意の寸法を切り出すことができる。例えば、配向方向の厚みが4.0mmであった場合、磁石表面部のサンプルは配向方向に平行な磁石表面から0.4mm~1.6mmの範囲で切り出すことができる。磁石中央部のサンプルは、磁石表面部のサンプルと同一寸法とし、磁石表面部のサンプルを切り出した位置から配向方向に平行で、磁石の配向方向厚みの中心位置から切り出す。磁石表面部および磁石中央部のサンプルのRH濃度は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を用いてそれぞれ測定される。そして、磁石表面部のRH濃度の測定結果と、磁石中央部のRH濃度の測定結果を比較する。磁石の配向方向厚みが薄く、サンプル加工時の削り代を考慮すると磁石表面部と磁石中央部がお互いに配向方向に平行な位置から切り出せない場合、本来切り出すべき位置と等しい拡散条件となる位置からサンプルを採取してもよい。
本開示のR-T-B系焼結磁石は、例えば、R1-T-B系焼結磁石素材を準備する工程と、R-M(Mは0mol%を含む)合金を準備する工程と、R1-T-B系焼結磁石素材表面の少なくとも一部にR-M合金の少なくとも一部を接触させて、真空または不活性ガス雰囲気中、R1-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下の温度で加熱することにより、R及びMを焼結磁石素材内に拡散させる拡散工程と、拡散後のR-T-B系焼結磁石に対し、真空または不活性ガス雰囲気中、拡散工程の加熱温度よりも低い温度で熱処理を実施する熱処理工程によって製造される。
なお、本開示において、拡散前のR-T-B系焼結磁石を「R1-T-B系焼結磁石素材」とよび、拡散後のR-T-B系焼結磁石を単に「R-T-B系焼結磁石」とよぶ。
(R-T-B系焼結磁石の製造方法)
<R1-T-B系焼結磁石素材を準備する工程>
まず、拡散の対象となるR1-T-B系焼結磁石素材を用意する。R1-T-B系焼結磁石素材の組成は、最終的に得られるR-T-B系焼結磁石の組成が上述した範囲になるように、公知の組成を有する磁石組成を使用することができる。希土類元素R1は希土類元素であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。また、例えば、La及びCeの少なくとも一方を含んでもよく、例えば、Tb及びDyの少なくとも一方を含んでもよい。TはFeを主とする遷移金属元素であって、Coを含んでもよい。後述するR-M合金粉末にCuとGaの両方又はCuとGaのいずれか一方の元素が含まれない場合、R1-T-B系焼結磁石素材は、当該含まれない元素(CuとGaの両方又はCuとGaのいずれか一方)を添加元素として必ず含む。そのほかの添加元素として例えば、Al、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Ga、Zn、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、及びBiからなる群から選択された少なくとも1種を含んでもよい。
R1-T-B系焼結磁石素材は、公知の任意の製造方法によって製造される。R1-T-B系焼結磁石素材は、焼結上がりの状態でもよいし、切削加工や研磨加工が施されていてもよい。R1-T-B系焼結磁石素材の形状及び大きさは任意である。
<R-M合金粉末を準備する工程>
次に、拡散源となるR-M(Mは0mol%を含む)合金粉末を用意する。Rは、RLおよびRHからなり、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、RHは重希土類元素の少なくとも一種であり、Tb及びDyの少なくとも一方を必ず含む。RLはNd及びPrの少なくとも一方を必ず含むが、例えば、La及びCeの少なくとも一方を含んでもよい。MはCuを含むことが好ましい。その他のM元素として例えば、Ga、Al、Zn、Fe、Co、Niから選ばれる1種類以上を含んでもよい。RはR-M合金粉末全体の25mol%以上100mol%以下であり、好ましくはR-M合金粉末全体の50mol%以上100mol%以下である。
R-M合金粉末の作製方法は特に限定されない。鋳造法で作製したインゴットを粉砕してもよく、公知のアトマイズ法で作製してもよい。
<拡散工程>
前記R-M合金粉末を前記R1-T-B系焼結磁石素材に接触させる形態はどのようなものでもよい。例えば、流動浸漬法のように粘着剤が塗布されたR1-T-B系焼結磁石素材に粉末状のR-M合金粉末を付着させる方法、R-M合金粉末を収容した処理容器内にR1-T-B系焼結磁石素材をディッピングする方法、R1-T-B系焼結磁石素材にR-M合金粉末を振りかける方法、などがあげられる。また、R-M合金粉末を収容した処理容器に振動、揺動、回転を与えたり、処理容器内でR-M合金粉末を流動させてもよい。なお、流動浸漬法などのように粘着剤を用いる場合、使用可能な粘着剤としては、PVA(ポリビニルアルコール)、PVB(ポリビニルビニリデン)、PVP(ポリビニルピロリドン)などがあげられる。粘着剤が水系の粘着剤の場合、塗布の前にR-T-B系焼結磁石素材を予備的に加熱してもよい。予備加熱の目的は余分な溶媒を除去し粘着力をコントロールすること、及び、均一に粘着剤を付着させることである。加熱温度は60~100℃が好ましい。揮発性の高い有機溶媒系の粘着剤の場合はこの工程は省略してもよい。R1-T-B系焼結磁石素材表面に粘着剤を塗布する方法は、どのようなものでもよい。塗布の具体例としては、スプレー法、浸漬法、ディスペンサーによる塗布などがあげられる。
前記R-M合金粉末を塗布した前記R1-T-B系焼結磁石素材を加熱することによって、R-M合金粉末中のR成分およびM成分を前記R1-T-B系焼結磁石素材の内部に拡散させる。拡散のための加熱温度は、R1-T-B系焼結磁石素材の焼結温度以下(例えば1000℃以下)である。また、R-M合金粉末の融点よりも高い温度(例えば500℃以上)である。
<熱処理工程>
得られたR-T-B系焼結磁石に対し、磁気特性を向上させることを目的とした熱処理を行う。熱処理温度は、拡散工程における加熱温度以下で、かつ、400℃~800℃の範囲内とする。熱処理温度を変化させることで<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相を面積比率で50%以上とすることが好ましい。例えば、10℃程度の熱処理温度違いで複数のサンプルを作製し、得られたサンプルにおいて、<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相の面積比率を確認することで、熱処理温度を決定すればよい。
最終的な製品形状にするなどの目的で、R-T-B系焼結磁石に研削などの機械加工を施してもよい。さらにR-T-B系焼結磁石に、表面処理を施してもよい。表面処理は、既知の表面処理であってもよく、例えばAl蒸着や電気Niめっきや樹脂塗料などの表面処理を行うことができる。
実験例1~5
まず公知の方法で、組成比Nd=29.8、B=0.98、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、Ga=0.1、残部=Fe(mass%)のR1-T-B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、縦20mm、横30mm、配向方向厚み4.2mmのR1-T-B系焼結磁石素材を得た。
次に、組成比Nd=45、Tb=40、Cu=15(mass%)およびNd=50、Tb=40、Cu=10(mass%)のR-M合金粉末をそれぞれガスアトマイズ法により作製して用意した。得られたR-M合金粉末の粒度は106μm以下であった。
次に、R1-T-B系焼結磁石素材に粘着剤としてPVAをR1-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材にR-M合金粉末を付着させた。処理容器にR-M合金粉末を広げ、粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材の全面に付着させた。
拡散処理は、450℃で2時間の予備加熱後、900℃で10時間加熱した。その後、熱処理を450℃~470℃の範囲で6時間行った。
得られたR-T-B系焼結磁石の成分および磁気特性を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して測定した。各磁気特性は、熱処理後のR-T-B系焼結磁石にそれぞれ機械加工を施し、縦7mm、横7mm、配向方向厚み4mmの試料を作製し、パルスB-Hトレーサによって測定した。
磁石断面における各元素濃度は電子プローブマイクロアナライザ(EPMA メーカー名:日本電子株式会社、型番:JXA-8530F)を用いて測定した。まず任意の磁石断面の250μm×250μmの領域において、1点当り直径約1μmの範囲のNd、Tb、Fe、Co、Cu、Ga、Al、B、Oの各元素の濃度を測定し、これを観察領域全体で縦256点×横256点を測定することで元素濃度のマップを作製した。この中でCuおよびGaを含む粒界相に位置する測定点に着目し、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>を各粒界相について計算により求めた。これらの粒界相を<Cu>/<Ga>が30以下になる粒界相と<Cu>/<Ga>が30より大きくなる粒界相に区別し、画像解析ソフトを用いて両者の面積比率を求めた。例えば、表1に示す実施例1の試料では、元素濃度マップ画像上において<Cu>/<Ga>≦30である粒界相の面積は792ピクセルであったのに対し、<Cu>/<Ga>>30である粒界相の面積は410ピクセルであった。したがって、<Cu>/<Ga>≦30である粒界相の面積比率は65.9%と求められる。また、縦7mm、横7mm、配向方向厚み4mmの試料の配向方向に平行な断面における磁石表面部および磁石中央部のTb濃度を求めるためのサンプルを切り出した。切り出しサンプルの寸法はいずれも1mm×1mm×1mmとした。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-OES)を使用して成分を測定したところ、本開示の範囲内である本発明例の全ての試料において、それぞれ磁石表面部のTb濃度が磁石中央部のTb濃度よりも高いことを確認した。
表1に示すように、本開示の範囲内である実施例はCuとGaの濃度比が<Cu>/<Ga>≦30である粒界相の面積比率が50%以上であり、いずれもH/HcJが94.0%以上の良好な角形比であり、高いHcJも得られている。これに対し、CuとGaの濃度比が<Cu>/<Ga>≦30である粒界相の面積比率が50%未満である比較例は、H/HcJが90%以下と角形比が低下している。
Figure 0007367428000001
実施例6、7
まず公知の方法で、組成比Nd=29.8、B=0.98、Co=0.9、Al=0.1、Cu=0.1、Ga=0.3、残部=Fe(mass%)のR1-T-B系焼結磁石素材を作製した。これを機械加工することにより、縦20mm、横30mm、配向方向厚み4.2mmのR1-T-B系焼結磁石素材を得た。
次に、組成比Nd=45、Tb=40、Cu=15(mass%)のR-M合金粉末をガスアトマイズ法により作製して用意した。得られたR-M合金粉末の粒度は106μm以下であった。
次に、R1-T-B系焼結磁石素材に粘着剤としてPVAをR1-T-B系焼結磁石素材の全面に塗布した。粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材にR-M合金粉末を付着させた。処理容器にR-M合金粉末を広げ、粘着剤を塗布したR1-T-B系焼結磁石素材の全面に付着させた。
拡散処理は、450℃で2時間の予備加熱後、900℃で10時間加熱した。その後、熱処理を460℃で6時間行った。
得られたR-T-B系焼結磁石の各成分、磁気特性、元素濃度および粒界相の面積比率は実施例1~5と同様の方法で測定した。表2に示すように、本開示の範囲内である実施例はCuとGaの濃度比がCu/Ga≦30である粒界相の面積比率が50%以上であり、いずれもH/HcJが94.0%以上の良好な角型比であり、高いHcJも得られている。
Figure 0007367428000002
本開示のR-T-B系焼結磁石は、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)、電気自動車(EV、HV、PHV)用モータ、産業機器用モータなどの各種モータや家電製品など多種多様な用途に利用される。

Claims (2)

  1. 主相結晶粒および粒界相を含むR-T-B系焼結磁石であって、
    R:28mass%以上35mass%以下(Rは、RLおよびRHからなり、RLは軽希土類元素の少なくとも一種であり、Nd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、RHは重希土類元素の少なくとも一種であり、Tb及びDyの少なくとも一方を必ず含む)、
    B:0.80mass%以上1.20mass%以下、
    Cu:0.05mass%以上1.0mass%以下、
    Ga:0.05mass%以上0.5mass%以下、
    T:61.5mass%以上70.0mass%以下(Tは、Fe、Co、Al、Mn及びSiからなる群から選択された少なくとも1つであり、必ずFeを含み、T全体に対するFeの含有量が80mass%以上である)、を含有し、かつ、
    [Cu]をmass%で示すCuの含有量とし、[Ga]をmass%で示すGaの含有量とするとき、[Cu]/([Ga]+[Cu])≧0.75が成立し、かつ、
    磁石断面におけるCuおよびGaを含む粒界相のうち、Gaの濃度<Ga>に対するCuの濃度<Cu>の比率である<Cu>/<Ga>が30以下である粒界相が面積比率で50%以上である、R-T-B系焼結磁石。
  2. 配向方向と平行な断面における磁石表面部のRH濃度は磁石中央部のRH濃度よりも高い、請求項1に記載のR-T-B系焼結磁石。
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