JP7365037B2 - 動作装置用ゴム部材の製造方法、動作装置用ゴム部材およびこれを用いた動作装置 - Google Patents

動作装置用ゴム部材の製造方法、動作装置用ゴム部材およびこれを用いた動作装置 Download PDF

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Description

本発明は、動作装置用ゴム部材の製造方法、動作装置用ゴム部材およびこれを用いた動作装置に関し、詳しくは、繰返し動作を行う用途に有用な動作装置用ゴム部材の製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)、これにより得られる動作装置用ゴム部材、および、これを用いた動作装置に関する。
現在、研究開発が進められている人工筋肉などの、ゴム等の弾性体の変形を利用したアクチュエータ等の動作装置においては、繰返し変形を受ける弾性体の耐久性を高めることが重要となる。例えば人工筋肉では、弾性体が軸方向に対し直交する方向に繰り返し拡張されることから、最も拡張量の大きい弾性体の表面近傍において大きな負荷がかかるため、この部分から亀裂が生ずるおそれがある。
特に、本願出願人が提案している空気圧アクチュエータである軸方向繊維強化型人工筋肉においては、従来のMcKibben型と比較してゴム部材に大きなひずみが発生することから、使用する弾性体にも、より高い耐久性が求められる(特許文献1参照)。
また、ゴム構造に関して、例えば、非特許文献1には、二段階架橋技術を用いて調製されたダブルネットワーク天然ゴムにおいて、残留ひずみ方向を横切る亀裂の伝播に対する抵抗が向上することが記載されている。
特許第5246717号公報
Shinyoung Kaang and Changwoon Nah,Fatigue crack growth of double-networked natural rubber,Polymer 1998 Vol.39 No.11,pp.2209-2214
上記のような背景に鑑みて、本発明の目的は、繰返し動作を行う用途に用いても亀裂の伝播を抑制することができ、耐久性に優れた動作装置用ゴム部材の製造方法、これにより得られる動作装置用ゴム部材およびこれを用いた動作装置を提供することにある。
本発明者らは鋭意検討した結果、下記構成とすることにより、上記課題を解決できることを見出して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の動作装置用ゴム部材の製造方法は、ゴム部材を備える動作装置に使用される動作装置用ゴム部材の製造方法であって、
未加硫ゴム成分を含む円筒状の未加硫ゴム部材に対し1回目の加硫を行う一次加硫工程と、1回目の加硫が施された一次加硫ゴム部材の一部または全体に対し径方向に引張力を作用させて、該一次加硫ゴム部材に歪を生じさせる伸張工程と、該歪を維持した状態で該一次加硫ゴム部材に対し2回目の加硫を行う二次加硫工程と、2回目の加硫が施された二次加硫ゴム部材から引張力を除去する引張力除去工程と、
を包含することを特徴とするものである。
本発明の製造方法においては、前記伸張工程において前記一次加硫ゴム部材に、伸長方向に配向した結晶層を生じさせることが好ましい。
また、本発明の動作装置用ゴム部材は、上記本発明の動作装置用ゴム部材の製造方法により得られ、ゴム構造が、伸張された高分子鎖と圧縮された高分子鎖とを含むことを特徴とするものである。
さらに、本発明の動作装置は、ゴム部材を備える動作装置であって、該ゴム部材として、上記本発明の動作装置用ゴム部材を使用したことを特徴とするものである。
本発明の動作装置においては、前記ゴム部材が補強繊維を含むことが好ましく、特には、前記補強繊維が、前記一次加硫ゴム部材に対する引張力の作用方向に対し直交する方向に配向していることが好ましい。本発明の動作装置は、流体の圧力により前記ゴム部材に変形を生じさせる機構を備えるものとすることができる。本発明の動作装置は、アクチュエータ、中でも特に、人工筋肉として有用である。
本発明によれば、上記構成としたことにより、繰返し変形を受ける用途に用いても亀裂の伝播を抑制することができ、耐久性に優れた動作装置用ゴム部材の製造方法、動作装置用ゴム部材およびこれを用いた動作装置を提供することができる。
(a)~(e)は、本発明の動作装置用ゴム部材の製造方法に係る説明図である。 (a),(b)は、本発明の動作装置用ゴム部材の一例の概略説明図である。 (a)~(c)は、本発明の動作装置の一例の人工筋肉の要部を示す概略説明図である。 実施例および比較例における疲労寿命の評価結果を示すグラフである。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
[動作装置用ゴム部材の製造方法]
本発明の動作装置用ゴム部材の製造方法は、一次加硫工程、伸張工程、二次加硫工程、および、引張力除去工程を包含する。図1(a)~(e)に、本発明の動作装置用ゴム部材の製造方法に係る説明図を示す。図1(a)は、未加硫ゴム部材10Aにおける未加硫ゴム成分、例えば天然ゴムの高分子鎖の状態を、模式的に示している。
(一次加硫工程)
具体的に、まず、一次加硫工程においては、未加硫ゴム成分を含む未加硫ゴム部材10Aに対し、1回目の加硫を行う。図1(b)は、1回目の加硫が施された一次加硫ゴム部材10Bにおける天然ゴムの高分子鎖がネットワークを形成している状態を、模式的に示している。図中の黒点は、1回目の加硫による架橋点を示す。この一次ネットワーク形成時の一次加硫ゴム部材10Bの長さを、初期長さlとする。
1回目の加硫により、一次加硫ゴム部材10Bの内部では、ゴムの高分子鎖同士が部分的に架橋されて、一次ネットワークを形成する。この未加硫ゴム成分を含む未加硫ゴム部材10Aに対する1回目の加硫は、未加硫ゴム成分のうちの少なくとも一部の高分子鎖が架橋する程度まで行うことが必要であり、その加硫条件や架橋度については任意に設定することができる。
本発明において、一次加硫工程に供する未加硫ゴム部材としては、形状や構造、用途等に特に制限はない。未加硫ゴム部材は、例えば、円筒状等の筒状、シート状の他、用途に応じた任意の形状とすることができ、未加硫ゴム成分を含むゴム部以外に、補強繊維等からなる補強部を含んでいてもよい。
未加硫ゴム部材のうち未加硫ゴム成分を含むゴム部は、未加硫ゴム成分、加硫剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、老化防止剤、軟化剤、補強剤、充填剤、可塑剤、加工助剤、その他、当業界で汎用の添加剤を含むゴム組成物により形成することができる。ゴム部を構成するこれら各成分の配合量については、所望のゴム物性に応じて、常法に従い選定することができ、特に制限されない。
このうち未加硫ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム(IIR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM,EPDM)、クロロプレンゴム(CR)、アクリルゴム(ACM)、クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM)、ウレタンゴム(PUR)、シリコーンゴム、フッ素ゴムエピクロルヒドリンゴム(CO,ECO)などを、1種で、または2種以上のブレンドで用いることができ、好ましくは天然ゴムである。
また、加硫剤としては、硫黄や過酸化物などが適しており、過酸化物としては、ジアルキルPO(パーオキサイド)類、ペルオキシケタール類、ジアシルPO類、ペルオキシエステル類等が挙げられる。加硫促進剤としては、グアニジン系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、スルフェンアミド系、ジチオカルバミン酸塩系などが用いられる。加硫促進助剤としては、酸化亜鉛やステアリン酸などが用いられる。老化防止剤としては、アミン系、フェノール系などが用いられる。軟化剤としては、プロセスオイルなどが用いられる。補強剤としては、カーボンブラックなどが用いられる。充填剤としては、シリカ、クレー、タルクなどが用いられる。
未加硫ゴム部材のうち補強部を構成する補強繊維としては、例えば、ナイロン(脂肪族ポリアミド)やアラミド繊維(芳香族ポリアミド)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの有機繊維や、ガラス繊維(グラスファイバー)、炭素繊維(カーボンファイバー)等の汎用のものを用いることができ、特に制限されない。具体的には例えば、グラスロービング繊維やカーボンロービング繊維等のような、機械的な撚りをかけずに収束された径が5~15μm程度の極細でかつ強度の高い単一無撚繊維を好適に用いることができ、これらの繊維を複数本撚り合わせて作製した繊維を用いてもよい。また、直径0.1~1.0mm程度、例えば、直径0.55mmのナイロンコードなどの有機繊維コードを複数本で一方向(軸方向)に引き揃えて用いたり、アラミド繊維などを複数本で一方向に配向させて、例えば、コード間隙をコード直径の0.5倍程度としてシート状に加工した繊維シートを用いることも好ましい。これらの補強繊維は、上記ゴム部を構成するゴム組成物により被覆されて、ゴム部内に埋設することにより、ゴム部材を補強する機能を奏する。
ここで、上記補強部を有する筒状の未加硫ゴム部材は、例えば、以下のように作製することができる。すなわち、まず、目的とする動作装置用ゴム部材の内径に応じた外径を有する芯材の外周に、ゴムラテックス(液状ゴム)をディッピングにより塗工、乾燥してゴムチューブを得る。得られたゴムチューブの外周に、補強繊維を適宜配置し、または巻き付けた後に、その上から再度ゴムラテックスをディッピング塗工し、乾燥することにより、未加硫ゴム部材を作製することができる。また、複数本で引き揃えられた補強繊維の両面から未加硫ゴムシートを圧着して、補強繊維を含む未加硫ゴムシートを作製し、この未加硫ゴムシートを円筒状に成形することにより、筒状の未加硫ゴム部材を作製する方法も用いることができる。
(伸張工程)
次に、伸張工程においては、上記一次加硫工程で1回目の加硫が施された一次加硫ゴム部材10Bに対し、少なくとも一方向に引張力を作用させて、一次加硫ゴム部材10Bに歪を生じさせる。図1(c)は、一軸伸張された一次加硫ゴム部材10Bにおける天然ゴムの高分子鎖の状態を、模式的に示している。図示するようにこの場合、一次加硫ゴム部材10Bは、引張方向である左右方向においては伸長し、引張方向に対し直交する方向である上下方向においては収縮している。この引張力により歪が生じた状態の一次加硫ゴム部材10Bの長さを、引張時長さlとする。
これにより、一次加硫ゴム部材10Bの内部では、部分的に架橋されたゴムの一次ネットワークを構成する高分子鎖のうちの一部が、引張力の作用方向に応じて伸長されて、歪の大きい部分では高分子鎖の一部が結晶化し、伸長方向に配向した結晶層Xが生ずる。
ここで、伸張工程における引張力の作用方向としては、例えば、筒状の一次加硫ゴム部材に対し軸方向に引張力を加えるような一軸伸張であってもよく、また、一次加硫ゴム部材の平面状または曲面状の部位に対し垂直な方向に応力を加えて、一次加硫ゴム部材に対し二方向以上に引張力を作用させてもよい。また、引張力の大きさとしては、最終的に得られる動作装置用ゴム部材において、使用に伴い亀裂が発生した際に、応力集中により結晶層Xが形成される程度の歪が形成されるものであればよく、未使用時に結晶層Xが存在する程度の歪を形成するものでなくてもよい。引張力の大きさの上限としては、高分子鎖の破断を生じない程度のものであれば、特に制限はなく、所望に応じ適宜決定することができる。
伸張工程においては、一次加硫ゴム部材の全体に対し上記引張力を作用させてもよく、また、一次加硫ゴム部材の一部に対し上記引張力を作用させてもよい。例えば、最終的に得られる動作装置用ゴム部材において、動作装置の使用時において特定の部位に部分的に大きな負荷が繰り返しかかるような場合には、この部位について本発明の技術を適用することで、効率的に耐久性の向上効果が得られるものと考えられる。よってこの場合、大きな繰り返し負荷がかかると想定される部位について、部分的に、伸張工程において上記引張力を作用させることができる。
(二次加硫工程)
次に、二次加硫工程においては、上記伸張工程で生じさせた歪を維持した状態で、一次加硫ゴム部材10Bに対し2回目の加硫を行う。図1(d)は、2回目の加硫が施された二次加硫ゴム部材10Cにおける天然ゴムの高分子鎖が、一軸伸張された状態でネットワークを形成している状態を、模式的に示している。図中の白点は、2回目の加硫による架橋点を示す。
これにより、二次加硫ゴム部材10Cの内部では、伸張工程により生じた歪を含んだ状態、歪の大きい部分では上記伸長方向に配向する結晶層を含んだ状態で、ゴムの高分子鎖同士が再度、部分的に架橋されて、二次ネットワークを構成する。この一次加硫ゴム部材10Bに対する2回目の加硫は、一次加硫ゴム部材10Bのゴム部に含まれる高分子鎖のうちの少なくとも一部が架橋する程度まで行うことが必要であり、その加硫条件や架橋度については任意に設定することができる。
(引張力除去工程)
次に、引張力除去工程においては、2回目の加硫が施された二次加硫ゴム部材10Cから、引張力を除去する。図1(e)は、引張力を除去された二次加硫ゴム部材10Cにおける天然ゴムの高分子鎖により形成されたネットワーク中に、歪が残留している状態を、模式的に示している。図示するようにこの場合、二次加硫ゴム部材10Cにおいて、引張方向および引張方向に対し直交する方向の双方について歪は緩和しているが、引張力を作用させる前の初期状態までは戻らず、残留歪が存在する状態となっている。よって、この引張力除去後の一次加硫ゴム部材10Cの長さを引張後長さlとすると、引張後長さlは、引張時長さlよりも小さいが、初期長さlより大きい長さとなる。
これにより、二次加硫ゴム部材10Cの内部では、伸長されていた高分子鎖のうち、2回目の加硫により形成された二次ネットワークを構成する高分子鎖は収縮するが、1回目の加硫により形成された一次ネットワークを構成する高分子鎖は、完全には収縮せずに、ある程度の歪が残留した伸長状態のまま維持される。このとき、二次加硫ゴム部材10Cの内部のゴム構造は、伸張された高分子鎖と、圧縮された高分子鎖とを含むことになる。すなわち、ゴムの高分子鎖が伸長されることにより生じた歪は、通常、引張力を除去することにより消滅し、結晶層についても、引張力を除去して歪が4倍程度までに戻ることで消滅するが、本発明においては、一次ネットワークが伸長された状態で2回目の加硫を行って二次ネットワークを形成しているので、引張力を除去しても、一次ネットワークに生じた歪は完全には消滅せずに残留する。一次ネットワークを構成する高分子鎖に、伸長方向に配向した結晶層が含まれる場合、この結晶層も、消滅せずに、最終的に得られる動作装置用ゴム部材のゴム部の内部において維持されることになる。
ここで、高分子鎖からなるゴム部が繰返し変形により破壊する際には、まず、ゴム部の内部で応力の不均一状態が生じ、この不均一な応力により高分子鎖の局所的な切断が生じて、このような高分子鎖の切断が伝播して微視的な亀裂が生じ、この微視的な亀裂が成長することで最終的な破壊に至るものと考えられる。この亀裂の成長の際に、ゴム部の内部に上述のような配向した結晶層が含まれていると、この結晶層により亀裂の伝播を遅延させることができるので、結果としてゴム部の破壊を抑制して、耐久性を向上することができる。前述したように、本発明の製造方法により得られる動作装置用ゴム部材においては、通常時に結晶層が存在していなくても、亀裂の発生に伴い、内部に存在する歪に応力が集中することにより結晶層が形成されるので、いずれにしても耐久性の向上効果を得ることができる。よって、本発明の製造方法により得られる動作装置用ゴム部材を用いることで、これを用いた動作装置についても、耐久性を向上する効果を得ることができるものとなる。
本発明の製造方法においては、上記一次加硫工程、伸張工程、二次加硫工程および引張力除去工程を包含するものであればよく、これにより、得られる動作装置用ゴム部材の内部において、ゴムの高分子鎖が二重架橋状態を形成し、亀裂発生時には結晶層が微視的な亀裂の伝播を抑制するので、耐久性の向上効果を得ることができる。本発明においては、各工程における具体的な処理条件や、各工程および工程間にかける時間の条件などについては、所望に応じ選定することができ、特に制限されない。また、上記では一次加硫工程、伸張工程、二次加硫工程および引張力除去工程により二重架橋を含む動作装置用ゴム部材が得られることを説明したが、二次加硫工程後かまたは引張力除去工程後にさらに第二の伸張工程および三次加硫工程を行うなどにより、伸張または圧縮状態の異なる三段階以上のネットワークを含む構造とすることもできる。
[動作装置用ゴム部材]
本発明の動作装置用ゴム部材は、上記本発明の製造方法により得られ、ゴム構造が、伸張された高分子鎖と圧縮された高分子鎖とを含むものである。上述したように、本発明の動作装置用ゴム部材は、ゴム部の内部に、伸張された高分子鎖により維持された歪、特には結晶層を含むので、繰返し変形によりゴム部の内部に微視的な亀裂が発生しても、その伝播を抑制することができ、耐久性に優れる。
本発明の動作装置用ゴム部材としては、未加硫ゴム部材について説明したとおり、形状や構造、用途等に特に制限はない。例えば、円筒状等の筒状、シート状の他、用途に応じた任意の形状とすることができ、ゴム部以外に、補強繊維等からなる補強部を含んでいてもよい。本発明の動作装置用ゴム部材は、例えば、ゴム部が、局所的または全体的に、伸び率100%以上の大変形を受けるような用途に有用である。
本発明の動作装置用ゴム部材は、上記伸張工程における引張力の作用箇所を適宜選定することで、ゴム部のうちの一部が残留歪、特には結晶層を含むものとすることもできる。図2(a),(b)に、本発明の動作装置用ゴム部材の一例の概略説明図を示す。例えば、図2(a)に示すような、外周部に配置されたリング状部材30により両端の径方向への膨張が制限された円筒状の動作装置用ゴム部材20において、内部に流体を流入させることにより動作装置用ゴム部材20を変形させる場合、図2(b)に示すように、動作装置用ゴム部材20の長手方向中央部20cの近傍(図中の斜線部)が、最も大きな変形に晒される部位となる。そのため、上記伸張工程において、この長手方向中央部20cの近傍について引張力を作用させて動作装置用ゴム部材20を製造することで、この長手方向中央部20cの近傍のゴム部21の内部に歪を残留させるか、または結晶層を形成することができ、効率良く耐久性を向上した動作装置用ゴム部材20とすることができる。この場合において、引張力を作用させる長手方向中央部20cの近傍の具体的な範囲については、製造工程の効率化および耐久性の向上効果の観点から、所望に応じ適宜決定することができ、特に制限されない。
ここで、亀裂の伝播を結晶層によって効果的に遅延させる観点からは、動作装置用ゴム部材のゴム部の内部における歪の形成方向、特には結晶層の配向方向は、上記亀裂の伝播方向に対し直交する方向であることが好ましい。例えば、図2に示すように、円筒状の動作装置用ゴム部材20を繰返し膨張変形させる場合、亀裂は動作装置用ゴム部材20の長手方向に沿って伝播すると考えられるので、長手方向に対し直交する方向、すなわち、円筒状の径方向に、歪が生じているか、または、結晶層が配向していることが好ましい。ここで、本発明において、歪の形成方向または結晶層の配向方向が亀裂の伝播方向に対し直交する方向であるとは、亀裂の伝播を抑制する効果が得られるものであれば、実質的に直交する範囲を含むものである。
[動作装置]
本発明の動作装置は、ゴムの伸縮性を利用した動作機構を備えるものであって、この動作機構に含まれるゴム部材として、上記本発明の動作装置用ゴム部材を使用したものである。上述したように、本発明の動作装置用ゴム部材は、ゴム部の内部に、伸張された高分子鎖により維持された歪、特には結晶層を含むので、繰返し変形によりゴム部の内部に微視的な亀裂が発生しても、その伝播を抑制することができ、この動作装置用ゴム部材を用いることで、動作装置の耐久性も向上することができる。本発明の動作装置は、例えば、気体や液体等の流体の圧力によりゴム部材に変形を生じさせる機構を備えるものとすることができる。
動作装置用ゴム部材は、前述したように、ゴム部に加えて、補強繊維等からなる補強部を含んでいてもよい。このような補強部を含む動作装置用ゴム部材を用いた本発明の動作装置の具体例としては、アクチュエータや、ゴムセンサ、空気ばねなどが挙げられる。中でも、本発明は、ゴム部が大変形を受けるアクチュエータにおいて有用である。このようなアクチュエータとしては、具体的には例えば、人工筋肉が挙げられる。図3(a)~(c)に、本発明の動作装置の一例の人工筋肉の要部を示す概略説明図を示す。
図示する人工筋肉40は、いわゆる軸方向繊維強化型人工筋肉と呼ばれるものであり、円筒状のゴム部41と、その両端に設けられた蓋部材50とにより形成される空間に供給される流体の圧力によって、ゴム部41を径方向に膨張させるとともに軸方向に収縮させる流体注入型アクチュエータである。図示する例では、ゴム部41の外周部には、両端および長手方向に適宜間隔をあけて複数箇所に、ゴム部41の径方向への膨張を制限するリング状部材60が設けられているが、リング状部材60は両端のみに配置してもよい。図3(a)に示す状態から、同図(b)に示すように内部の空間に圧力を付加することで、リング状部材60により区切られた領域ごとにゴム部41は、径方向には膨張し、長手方向には収縮する。
図3(c)は、同図(a)中のY-Y線に沿う断面図を示す。図示するように、円筒状のゴム部41の内部には、円筒状の中心軸方向(長手方向)に沿って延びる補強繊維よりなる補強部42を設けることができる。本発明は、補強繊維を有しない従来のMcKibben型人工筋肉にも適用可能であるが、ゴム部の伸張率(大変形部)がより大きくゴム部の耐久性が重要となる軸方向繊維強化型人工筋肉において、特に有用である。この場合の補強部42における補強繊維の埋設条件については特に制限はないが、人工筋肉40の耐久性向上の観点からは、ゴム部41が補強繊維により均等に補強されていることが好ましい。例えば、出願人による先行出願(特許5246717号公報)に記載されているように、径方向に複数列の繊維群を、それぞれの繊維群を構成する繊維の周方向位置が、径方向に隣り合う繊維群間で互いに異なるように配置することができ、これにより、ゴム部41が膨張した際にも、ゴム部41を周方向に均等に補強することができる。
前述したように、本発明において、動作装置のゴム部の内部における結晶層の配向方向は、変形に伴い生ずる亀裂の伝播方向に対し直交する方向であることが好ましい。図示するような円筒状のゴム部を膨張させる動作装置においては、製造時において一次加硫ゴム部材に対してゴム部を膨張させる方向の引張力を作用させることで、この方向に歪または配向した結晶層が形成されるので、動作装置が補強繊維を含む場合、補強繊維はこの引張力の作用方向に対して直交する方向に配向しているものとなる。
また、本発明の動作装置の一例としてのアクチュエータは、上記人工筋肉ユニットを応用した装置として、例えば、長手方向に複数接続された円筒状のゴム部を順次膨張、収縮させることにより内部に充填された材料を搬送または混合しつつ搬送する蠕動運動ポンプや、本出願人が管内自走装置として特許を取得しているいわゆるミミズロボット、装着者の歩行などの動作を補助するパワーアシスト装置(可変粘弾性下肢アシスト装具)などとしても有用である。
以下、本発明を、実施例を用いてより詳細に説明する。
(実施例)
人工筋肉(内径20mm、外径24mm、長さ80mm)用の筒状ゴム部材を、以下に従い製造した。
まず、人工筋肉の内径に応じた外径を有する芯材の外周に、ゴムラテックス(液状天然ゴム)をディッピングにより塗工し、乾燥して、未加硫ゴムチューブを作製した。次に、この未加硫ゴムチューブの外周に、アラミド繊維を一方向に配向させてシート状に加工したアラミド繊維シート(目付量150g/m)を、繊維の配向方向が軸方向になるように巻き付けた。さらに、アラミド繊維シートの上から、再度上記ゴムラテックスをディッピングにより塗工し、乾燥することにより、未加硫筒状ゴム部材を作製した。
得られた未加硫筒状ゴム部材に対し、150℃10分の条件で1回目の加硫を行った(一次加硫工程)。次に、1回目の加硫が施された一次加硫筒状ゴム部材の全体に対し径方向に引張力を作用させて、一次加硫筒状ゴム部材に引張方向に300~700%の歪を生じさせた(伸張工程)。次に、この歪を維持した状態で、一次加硫筒状ゴム部材に対し、150℃95分の条件で2回目の加硫を行った(二次加硫工程)。次に、2回目の加硫が施された二次加硫筒状ゴム部材から引張力を除去して(引張力除去工程)、実施例の人工筋肉用筒状ゴム部材を得た。
(比較例)
実施例と同様の未加硫筒状ゴム部材に対し、150℃105分の条件で加硫を行って、比較例の人工筋肉用筒状ゴム部材を得た。
得られた実施例および比較例の人工筋肉用筒状ゴム部材を用いて、図3に概略を示すようなアクチュエータとしての人工筋肉を作製し、それぞれ疲労寿命を評価した。人工筋肉は、無負荷の条件で、6秒サイクルで収縮率0~20%で稼動させた。疲労寿命は、人工筋肉が所定時間で所定の動作ができなくなった時点までの繰返し伸縮回数で評価した。その結果を、図4のグラフに示す。図4のグラフから明らかであるように、本発明の製造方法を用いて製造された動作装置用ゴム部材によれば、アクチュエータの疲労寿命を大幅に高めることができることが確かめられた。
10A 未加硫ゴム部材
10B 一次加硫ゴム部材
10C 二次加硫ゴム部材
20 動作装置用ゴム部材
20c 動作装置用ゴム部材の長手方向中央部
30 リング状部材
40 人工筋肉
21,41 ゴム部
42 補強部
50 蓋部材
60 リング状部材
X 結晶層

Claims (9)

  1. ゴム部材を備える動作装置に使用される動作装置用ゴム部材の製造方法であって、
    未加硫ゴム成分を含む円筒状の未加硫ゴム部材に対し1回目の加硫を行う一次加硫工程と、1回目の加硫が施された一次加硫ゴム部材の一部または全体に対し径方向に引張力を作用させて、該一次加硫ゴム部材に歪を生じさせる伸張工程と、該歪を維持した状態で該一次加硫ゴム部材に対し2回目の加硫を行う二次加硫工程と、2回目の加硫が施された二次加硫ゴム部材から引張力を除去する引張力除去工程と、
    を包含することを特徴とする動作装置用ゴム部材の製造方法。
  2. 前記伸張工程において前記一次加硫ゴム部材に、伸長方向に配向した結晶層を生じさせる請求項1記載の動作装置用ゴム部材の製造方法。
  3. 請求項1または2記載の動作装置用ゴム部材の製造方法により得られ、ゴム構造が、伸張された高分子鎖と圧縮された高分子鎖とを含むことを特徴とする動作装置用ゴム部材。
  4. ゴム部材を備える動作装置であって、該ゴム部材として、請求項記載の動作装置用ゴム部材を使用したことを特徴とする動作装置。
  5. 前記ゴム部材が補強繊維を含む請求項記載の動作装置。
  6. 前記補強繊維が、前記一次加硫ゴム部材に対する引張力の作用方向に対し直交する方向に配向している請求項記載の動作装置。
  7. 流体の圧力により前記ゴム部材に変形を生じさせる機構を備える請求項4~6のうちいずれか一項記載の動作装置。
  8. アクチュエータである請求項4~7のうちいずれか一項記載の動作装置。
  9. 人工筋肉である請求項記載の動作装置。
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