JP7363976B2 - 電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 - Google Patents

電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 Download PDF

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Description

本発明は、固体高分子形燃料電池に関する技術である。
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目を浴びている。燃料電池は、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。高分子形燃料電池(PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造となっており、燃料極側に水素を含む燃料ガスを、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H → 2H + 2e ・・・(1)
カソード:1/2O + 2H + 2e → HO ・・・(2)
アノード及びカソードは、それぞれ電極触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側電極触媒層に供給された燃料ガスは、電極触媒によりプロトンと電子となる(反応1)。プロトンは、アノード側電極触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側電極触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスが反応して水を生成する(反応2)。このように、電子が外部回路を通ることにより発電する。
ここで、燃料電池の低コスト化に向けて、高出力特性を示す燃料電池が望まれている。しかし、高出力運転においては多くの生成水が発生するため、電極触媒層やガス拡散層に水が溢れ、ガスの供給が妨げられるフッティングが生じる。このフッティングの発生により、燃料電池の出力が著しく低下するという課題がある。
上記課題に対し、特許文献1、2では、異なる粒子径のカーボンまたはカーボン繊維を含む電極触媒層が提案されている。異なるカーボン材料を含むことにより電極触媒層内に空孔が生じるため、排水性やガス拡散性の向上が期待できる。
特開平10-241703号公報 特許第5537178号公報
しかし、特許文献1、2には、カーボン材料自体の大きさ、形状、含有量についての記載はあるが、電極触媒層自体の構造についての記載がなく、その効果については具体的には検証されてはいない。
ここで、固体高分子形燃料電池では上述の電気化学反応を円滑に行うために、高分子電解質、電極触媒、ガスの反応点である三相界面が重要となる。ガス拡散層から電極触媒層に供給されたガスは、電極触媒層の浅い位置(膜厚方向におけるガス拡散層側)から順に三相界面を形成し、電気化学反応が始まる。しかし、電極触媒層の深い位置(膜厚方向における高分子電解質膜側)までガスが十分に浸透しないため、電極触媒層の深い位置には三相界面が形成されないことがある。この場合、三相界面が形成されていない反応点では電気化学反応が進行せず、十分な出力が得られない。
このような事情に鑑みてなされたものであって、本発明は、電極触媒層の膜厚方向に対して十分な三相界面を得られる高分子形燃料電池用の電極触媒層を提供することを目的とする。
課題を解決するために、本発明の一態様は、高分子電解質膜の表面に設けられる電極触媒層であって、触媒、前記触媒を担持する炭素粒子、高分子電解質及び繊維状物質を含み、前記繊維状物質の繊維径が、10nm以上300nm以下であり、前記繊維状物質の繊維長が、1μm以上50μm以下であり、前記高分子電解質膜と対向する面とは反対側の面である触媒層表面を三行三列の九つの領域に区分したうちの特定の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm以上9.5μm以下であり、前記特定の領域は、前記触媒層表面の残余の領域よりも十点平均粗さRzの値が大きく、前記残余の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm未満であることを特徴とする。
本発明の一態様によれば、電極触媒層の膜厚方向に対して十分な三相界面を得られる高分子形燃料電池用電極触媒層を提供することができる。
本発明の実施形態に係る電極触媒層の構成例を示す模式図である。 本発明の実施形態に係る膜電極接合体の構成例を示す断面図である。 本発明に基づく実施形態に係る触媒層表面を9分割する一例を示す図である。 本発明の実施形態に係る固体高分子形燃料電池の構成例を示す概略図である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、本発明は、以下に記載する各実施の形態に限定されうるものではなく、当業者の知識に基づいて設計の変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれるものである。
まず、本発明の一実施形態が適用されうる電極層及び膜電極接合体を使用した固体高分子形燃料電池について説明する。
図4に示されるように、本実施形態の固体高分子形燃料電池11は、膜電極接合体12を備える。膜電極接合体12は、高分子電解質膜1の一方の面にアノード側電極触媒層2が設けられると共に、高分子電解質膜1の一方の面にカソード側電極触媒層3が設けられて構成され、アノード側電極触媒層2及びカソード側電極触媒層3の外周にそれぞれ枠状のガスケット4を具備する。
ここで、高分子電解質膜の平均厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは3μm以上200μm以下、更に好ましくは5μm以上100μm以下である。
固体高分子形燃料電池11は、膜電極接合体12における、アノード側電極触媒層2及びカソード側電極触媒層3とそれぞれ対向するガス拡散層5を有し、更にその積層方向両側にそれぞれセパレータ10が配置されて構成される。そして、アノード側電極触媒層2及びアノード側電極触媒層2に積層したガス拡散層5でアノード6が構成されると共に、カソード側電極触媒層3及びカソード側電極触媒層3に積層したガス拡散層5でカソード7が構成される。
セパレータ10は、導電性を有し、かつ不透過性の材料よりなる。セパレータ10には、ガス流通用のガス流路8と、該ガス流路8の形成された面と相対する主面に冷却水流通用の冷却水流路9が形成されてなる。図4に示されるように、セパレータ10は、ガス拡散層5に隣接し、膜電極接合体12を挟持するよう配置される。
アノード6側のセパレータ10のガス流路8からは燃料ガスが供給される。燃料ガスとしては、例えば水素ガスが挙げられる。カソード7側のセパレータ10のガス流路8からは、酸化剤ガスが供給される。酸化剤ガスとしては、例えば空気などの酸素を含むガスが供給される。
図4に示した固体高分子形燃料電池11は、1組のセパレータ10に、高分子電解質膜1と、アノード側電極触媒層2と、カソード側電極触媒層3と、ガスケット4と、ガス拡散層5とが挟持された、いわゆる単セル構造の固体高分子形燃料電池である。しかしながら、固体高分子形燃料電池の構成として、セパレータ10を介して、複数のセルを直列に積層したスタック構造の固体高分子形燃料電池であっても良い。
図1に示すように、本実施形態の電極触媒層は、触媒21、炭素粒子22、高分子電解質23及び繊維状物質24からなる。
電極触媒層について、高分子電解質膜1と対向する面とは反対側の面(ガス拡散層5と対向する側の面)を触媒層表面2a、3aと定義した場合、触媒層表面2a、3aにおける十点平均粗さRzが、3.5μm以上9.5μm以下となっている。
触媒層表面2a、3aの十点平均粗さRzが上記の範囲にあると、高分子形燃料電池の出力を向上させることが出来る。
ここで、触媒層表面2a、3aの面積の3/9以上の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm以上9.5μm以下であることが好ましく、より好ましくは触媒層表面2a、3aの面積の1/2以上の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm以上9.5μm以下である。
また、上記の十点平均粗さRzは、6.5μm以上9.5μm以下であることがより好ましい。
ここでいう十点平均粗さRzとは、最も高い山頂から5番目までの山頂の標高と、最も低い谷底から5番目までの谷底の標高の絶対値の平均値との和を求め、マイクロメートルで表したものを指す。
固体高分子形燃料電池では上述の電気化学反応を円滑に行うために、高分子電解質23、電極触媒21、ガスの反応点である三相界面が重要となる。ここで、ガス拡散層から電極触媒層2,3に供給されたガスは電極触媒層2,3の浅い位置(膜厚方向におけるガス拡散層側)から順に三相界面を形成し、電気化学反応が始まる。ここで、電極触媒層2,3の深い位置(膜厚方向における高分子電解質膜側)までガスを十分に浸透することができれば、電極触媒層2,3の深い位置であっても三相界面が形成される。電極触媒層2,3の表面粗さを十点平均粗さRzにおいて3.5μm以上とすることで、電極触媒層2,3の浅い位置から電極触媒層2,3の深い位置までの厚さの一部分を他の部分より短くできる結果、電極触媒層2,3内部にまで短距離でガスを供給するルートを構成することができる。よって、ガスを電極触媒層2,3の表面から深奥部までの全域に充分に浸透させることができる。その結果、反応点が増加し、出力が向上する。
しかしながら、電極触媒層2,3の表面粗さが十点平均粗さRzにおいて9.5μmを超えて大きくなりすぎると、反応点である三相界面が減ることで出力が低下したり、激しいクラックが誘発されて電極触媒層2,3の形成が困難になったりするなど、好ましくない。
同様に、膜電極接合体内に発生した水が充分に排出されず、発電効率が低下するフラッディング(水詰まり)に関しても、電極触媒層2,3の表面粗さが寄与する。電極触媒層2,3の表面粗さが十点平均粗さRzにおいて3.5μm以上とすることで排水性を確保し、高分子形燃料電池の効率低下を抑制できる。
触媒21、炭素粒子22、高分子電解質23のみからなる電極触媒層2,3の場合、電極触媒層2,3の表面粗さを大きくすると、激しいクラックが誘発されて電極触媒層2,3の形成が困難になるなど、好ましくない。
しかしながら、繊維状物質24を用いた場合には電極触媒層2,3の構造的な強度が増し、表面粗さを十点平均粗さRzが3.5μm以上となるように設定してもクラック発生を抑制することが可能となる。
本実施形態に係る膜電極接合体12の断面図を図2に示す。電極触媒層2,3最表面の十点平均粗さRzが上記の範囲になっていれば、電極触媒層2,3は単層でも良いし、複層構造でも良い。
なお、十点平均粗さRzは触媒層表面の全面が上記範囲内(3.5μm以上9.5μm以下)に収まっている必要はなく、少なくとも一部の領域において本範囲内に含まれる十点平均粗さRzであることで上述の効果を得られる。好ましくは触媒層表面の面積の1/9以上の領域における十点平均粗さRzが本範囲内に含まれればよい。例えば図3に示すように、触媒層表面2a、3aを三行三列の九つの領域に区分し、その九つの領域のうちの少なくとも一つの領域における十点平均粗さRzが3.5μm以上9.5μm以下であればよい。
部分的に粗さを大きくする場合には、粗さが大きい領域が、触媒層表面2a、3aの周辺部側よりも中央側の方が好ましい。また、粗さが大きい領域が点在するように複数箇所に分かれて設けても良い。
また、触媒層表面2a、3aの全領域の十点平均粗さRzを3.5μm以上9.5μm以下とする方が、発電性能をあげる観点から好ましい。ただし、電極触媒層の厚さや電極触媒層に含有する繊維状物質の添加量その他に起因する耐久性低下とのバランスを考慮して、粗さの大きさや、粗さを大きくする領域の面積率を設定する。
電極触媒層2,3を複層構造にする場合、界面抵抗による極端な発電性能の低下を抑制するため、多くとも四層以下にすることが好ましい。また、各層の厚みは全て同じであっても良いし、各層の厚みが異なっていても良い。
電極触媒層2,3を複層構造にする場合、各層における触媒21、炭素粒子22、高分子電解質23、繊維状物質24、溶媒等の組成は同じであっても良いし、異なっていても良い。
電極触媒層2,3を複層構造にする場合、各層の境界面は平坦であっても良いし、曲面を含んでいても良い。
触媒21としては、白金族元素、金属又はこれらの合金、または酸化物、複酸化物等が使用できる。白金族元素としては、白金やパラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム、オスミウムがある。金属としては、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム、アルミニウムなどが使用できる。その中でも、白金や白金合金が触媒21として好ましい。また、これらの触媒21の粒径は、大きすぎると触媒21の活性が低下し、小さすぎると触媒21の安定性が低下するため、0.5nm以上20nm以下が好ましい。更に好ましくは、1nm以上5nm以下が良い。
炭素粒子22としては、微粒子状で導電性を有し、触媒21におかされないものであれば特に限定はない。例えば炭素粒子22として、カーボンブラック(アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック等)、グラファイト、黒鉛、活性炭、フラーレン等が挙げられる。
炭素粒子22の粒径は、小さすぎると電子伝導パスが形成されにくくなり、また大きすぎると電極触媒層2,3が厚くなり抵抗が増加することで、出力特性が低下したりする。このため、炭素粒子22の粒径は、10nm以上1000nm以下が好ましい。更に好ましくは、10nm以上100nm以下である。
高表面積の炭素粒子22に触媒21を担持することで、高密度で触媒21が担持でき、触媒21活性を向上させることができる。
高分子電解質23としては、プロトン伝導性を有する樹脂成分であれば特に限定はなく、なかでもフッ素系高分子電解質若しくは炭化水素系高分子電解質が好適に用いられる。
フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)等を用いることができる。
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。
また、高分子電解質23としては、電極触媒層2,3と電解質膜の密着性の観点から、高分子電解質膜1と同質の材料を選択することが好ましい。
繊維状物質24としては、導電性繊維や電解質繊維を用いることができる。導電性繊維としては、カーボンナノファイバーやカーボンナノチューブ、気相成長炭素繊維が例示できる。気相成長炭素繊維としては、昭和電工社製VGCF(登録商標)等を用いることができる。また、電解質繊維は高分子電解質23を繊維状に加工したものである。繊維状物質24として電解質繊維を用いることで、プロトン伝導性を向上することができる。これらの繊維状物質24は、1種のみを単独で使用してもよいが、2種以上を併用してもよく、導電性繊維と電解質繊維を併せて用いても良い。
繊維状物質24の繊維径としては、0.5nm以上500nm以下が好ましく、10nm以上300nm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、高出力化が可能になる。
繊維状物質24の繊維長は1nm以上200μm以下が好ましく、1μm以上50μm以下がより好ましい。上記範囲にすることにより、電極触媒層2,3の強度を高めることができ、電極触媒層2,3を形成する時にクラックが生じることを抑制できる。また、電極触媒層2,3内の空孔を増加させることができ、更に高出力化に寄与する。
(電極触媒層2,3の製造方法)
電極触媒層2,3は、スラリー状の触媒インクを作製し、基材またはガス拡散層に塗工・乾燥した後、例えば高分子電解質膜へ電極触媒層2,3を熱圧着することで製造できる。高分子電解質膜を基材としてもよい。
触媒インクは上記の触媒21、炭素粒子22、高分子電解質23、繊維状物質24を、溶媒に混合し、分散処理を加えることで作製できる。分散方法としては、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、剪断ミル、湿式ミル、超音波分散、ホモジナイザー等が挙げられる。
触媒インクの溶媒としては、高分子電解質23と触媒21を溶解または分散できるものであれば特に限定はない。
溶媒としては、例えば、水、アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、3-ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、ジアセトンアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールなど)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、アミド類(ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等)等が挙げられ、単独若しくは複数種を組み合わせて使用できる。
また触媒インクに用いられる溶媒は加熱によって除去しやすいものが好ましく、特に沸点が150℃以下のものが好適に用いられる。
触媒インク中の溶質(触媒21,炭素粒子22、高分子電解質23、繊維状物質24)の濃度は、例えば、1質量%以上80質量%以下、好ましくは5質量%以上60質量%以下、更に好ましくは10質量%以上40質量%以下で用いられる。
触媒インクに用いられる高分子電解質23としては、プロトン伝導性を有する樹脂成分であれば特に限定はなく、なかでもフッ素系高分子電解質若しくは炭化水素系高分子電解質が好適に用いられる。
フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)等を用いることができる。
炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレン等の電解質を用いることができる。
上記の触媒インクを基材上に塗布する手法として、慣用的なコーティング法を用いることが出来る。
具体的なコーティング法として、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター、スプレー、スピナーなどが挙げられる。
なお、最終的に同様の触媒インクを塗布できるならば、その塗工手段については特に制限はない。
上記の触媒インクを基材上に塗布し、加熱によって触媒インク中の溶媒を揮発させることによって、電極触媒層2,3を得ることができる。
触媒インクの乾燥方法としては、温風乾燥、IR乾燥などが挙げられる。乾燥温度は、40℃以上200℃以下、好ましくは40℃以上120℃以下である。乾燥時間は、0.5分以上1時間以下、好ましくは1分以上30分以下である。
また乾燥工程は、単一の乾燥機構であっても良いし、複数の乾燥機構を組み合わせて使用しても良い。
触媒インクを乾燥することで得られる電極触媒層2,3の平均厚みは、例えば0.1μm以上100μm以下、好ましくは0.5μm以上50μm以下、更に好ましくは1μm以上20μm以下である。
電極触媒層の厚さは、5μm以上20μm以下が好ましい。厚さが20μmよりも厚い場合には、クラックが生じやすいうえに、燃料電池に用いた際にガスや生成する水の拡散性及び導電性が低下して、出力が低下してしまう。また、厚さが1μmよりも薄い場合には、層厚にばらつきが生じ易くなり、内部の触媒物質や高分子電解質が不均一となりやすい。電極触媒層の表面のひび割れや、厚さの不均一性は、燃料電池として使用し、長期に渡り運転した際の耐久性に悪影響を及ぼす可能性が高いため、好ましくない。
そして、電極触媒層2,3の平均厚みが薄いほど、発電抵抗を抑えることが出来ると共に、粗さの効果をより有効に発揮可能となる。この観点から、20μm以下が好ましい。
転写工程に用いられる基材としては、少なくとも片面に触媒インクを塗布することができ、加熱によって電極触媒層2,3を形成でき、形成した電極触媒層2,3を高分子電解質膜1に転写できるものであれば特に限定はない。
上記の電極触媒層2,3の厚さは、前述した十点平均粗さRzよりも大きく設定する。
例えば、電極触媒層2,3の厚さが5μmのとき、十点平均粗さRzは3.5μm以上5.0μm未満である。
基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等の高分子フィルム、若しくはポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等の耐熱性フッ素樹脂フィルムを用いることができる。
またこれらの基材に離型処理したもの、若しくは共押出等により離型層が一体となった複層構造のものを用いても良い。
上記の基材は、同様に使用できるものであれば、シート、フィルム、板、膜、若しくは箔、又はこれらのうち少なくとも1つを粘着、接着、癒着、若しくは貼合したものであっても良い。
基材が複層構造である場合、最表面に位置するフィルムが開口部を有していてもよい。ここでいう開口部とは、断裁や打ち抜き等の手段によりフィルムの一部を取り除いた箇所を指す。
また開口部の形状によって乾燥後の触媒インク(即ち、電極)の形状を成形してもよい。
電極触媒層2,3の表面粗さの調整は、例えば、繊維状物質の径や繊維長や添加量、触媒インクの粘度やそれに応じた塗工時の掃引条件、乾燥時の乾燥の加熱方法、乾燥前若しくは転写時の押圧の付与、転写基材の面の粗さなどの条件設定を調整することで可能である。
(膜電極接合体の製造方法)
膜電極接合体の製造方法としては、転写基材またはガス拡散層に電極触媒層2,3を形成し、高分子電解質膜に熱圧着で電極触媒層2,3を形成する方法や、高分子電解質膜に直接電極触媒層2,3を形成する方法が挙げられる。高分子電解質膜に直接電極触媒層2,3を形成する方法は、高分子電解質膜と電極触媒層2,3との密着性が高く、電極触媒層2,3が潰れる恐れがないため、好ましい。
ガスケット4に用いられる部材としては、少なくとも片面に粘着剤を塗布若しくは貼合することができ、高分子電解質膜1に貼合できるものであれば特に限定はない。
ガスケット4としては、例えば、高分子フィルムや耐熱性フッ素樹脂フィルムを用いることができる。高分子フィルムは、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、ポリパルバン酸アラミド等からなる。耐熱性フッ素樹脂フィルムは、例えばポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体等からなる。
またガスケット4として、これらの部材に離型処理したもの、若しくは共押出等により離型層が一体となった複層構造のものを用いても良い。
上記の部材からなるガスケット4は、同様に使用できるものであれば、シート、フィルム、板、膜、若しくは箔、又はこれらのうち少なくとも1つを粘着、接着、癒着、若しくは貼合したものであっても良い。
ガスケット4の平均厚みは、例えば1μm以上500μm以下、好ましくは3μm以上200μm以下、更に好ましくは5μm以上100μm以下である。
以上のように作製した膜電極接合体は、触媒層表面2a、3aの少なくとも1/9以上の領域の表面粗さが大きいことに起因して空孔率が増大し、ガス透過性や排水性を確保したままクラックを抑制し、これを用いて製造された単セル若しくは固体高分子形燃料電池はより高い発電性能を発揮できる。
すなわち、本実施形態によれば、固体高分子形燃料電池の運転において問題となるフラッディング現象を回避するのに必要十分な排水性及びガス拡散性を有し、長期的に高い発電性能を発揮することが可能な電極触媒層2,3、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することができる。したがって、本発明は、固体高分子形燃料電池を利用した、定置型コジェネレーションシステムや燃料電池自動車等に好適に用いることができ、産業上の利用価値が大きい。
以下、本発明に基づく実施例に係る膜電極接合体について説明する。
[実施例1]
実施例1では、白金担持カーボン触媒(TEC10E50E,田中貴金属工業社製)と、水と、1-プロパノールと、高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液,和光純薬工業社製)と、カーボンナノファイバー(VGCF-H(登録商標),昭和電工社製)とを混合し、遊星型ボールミルで30分間分散処理を行い、触媒インクを調製した。
調整した触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両表面にスリットダイコーターを用いて塗布し、80度の温風オーブンに入れて触媒インクの粘つきがなくなるまで乾燥させて、実施例1の膜電極接合体を得た。
[実施例2]
繊維状物質としてカーボンナノファイバーの代わりにカーボンナノチューブ(NC7000(商標),Nanocyl社製)を用いた以外は、実施例1と同様の手順で、実施例2の膜電極接合体を得た。
[実施例3]
実施例3では、カソード側電極触媒層の塗布量を2倍とした以外は、上記実施例1と同様にして、実施例3の膜電極接合体を得た。
[実施例4]
実施例4では、上記実施例1と同様にして、触媒インクを調製した。
調整した触媒インクを、PTFEフィルムの表面にスリットダイコーターを用いて塗布し、80度の温風オーブンに入れて触媒インクの粘つきがなくなるまで乾燥させ、電極触媒層付き基材を得た。カソード側電極触媒層とアノード側電極触媒層とを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標),Dupont社製)の両面それぞれに対向するように配置し、この積層体を120℃、5MPaの条件でホットプレスして接合した後にPTFEフィルムを剥離することで、実施例4の膜電極接合体を得た。
[実施例5]
実施例5では、図3に示すように触媒層表面を三行三列の九つの領域に区分し、その九つの領域のうちの中央の領域に対して実施例1と同様の処理を行うことで実施例5の膜電極接合体を得た。
[比較例1]
比較例1では、カーボンナノファイバーを加えないこと以外は、上記実施例1と同様の手順で、比較例1の膜電極接合体を得た。
[比較例2]
比較例2では、カソード側電極触媒層の塗布量を4倍とした以外は、上記実施例1と同様にして、比較例2の膜電極接合体を得た。
[比較例3]
比較例3では、カソード側電極触媒層の塗布量を4分の1倍とした以外は、上記実施例1と同様にして、比較例3の膜電極接合体を得た。
[比較例4]
比較例4では、触媒インクを調製する際に、カーボンナノファイバーの量を3倍とした以外は、上記実施例1と同様にして、比較例4の膜電極接合体を得た。
[比較例5]
比較例5では、比較例1の膜電極接合体に対して、図3に示すように触媒層表面を三行三列の九つの領域に区分し、その九つの領域のうちの中央の領域(中央側)と、その他の領域(周辺部側)の十点平均粗さRzを測定した。
以下、実施例1~5の膜電極接合体及び比較例1~5の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池の、カソード側の触媒層表面における十点平均粗さRzと、カソード側の電極触媒層の厚みDと、発電性能と、耐久性を表1及び表2に示す。
Figure 0007363976000001
Figure 0007363976000002
[十点平均粗さRzの計測]
上記の手法で作製した膜電極接合体の、カソード側の触媒層表面における十点平均粗さRzは、レーザー顕微鏡を用いて触媒層表面を観察して計測した。具体的には、キーエンス社製「形状測定レーザーマイクロスコープVK-X200」を使用し、50倍の倍率で触媒層表面を観察し、観察データから十点平均粗さRzを算出した。
[電極触媒層の厚み計測]
電極触媒層の厚みは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて電極触媒層の断面を観察して計測した。具体的には、日立ハイテクノロジー社製FE-SEM S-4800を使用して1000倍で観察し、5カ所の観察点における電極触媒層の厚みを計測して、その平均値を電極触媒層の厚みとした。
[発電性能の測定]
発電性能の測定には、膜電極接合体の両面にガス拡散層及びガスケット、セパレータを配置し、所定の面圧となるように締め付けたセルを評価用単セルとして用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載のI-V測定を実施した。
[耐久性の測定]
耐久性の測定には、発電性能の測定に用いた評価用単セルと同一の単セルを評価用単セルとして用いた。そして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の刊行している小冊子である「セル評価解析プロトコル」に記載の湿度サイクル試験を実施した。
[比較結果]
発電性能については、電圧が0.6Vのときの電流が20A以上である場合を「○」、20A未満である場合を「×」とした。また、耐久性については、8000サイクル後の水素クロスリーク電流が初期値の10倍未満である場合を「○」、10倍以上である場合を「×」とした。
表1から分かるように、本発明によれば、触媒層表面の十点平均粗さRzが3.5μm以上9.5μm以下である膜電極接合体を用いることで、高い発電性能及び耐久性を発揮することが出来る。
また表2から分かるように、触媒層表面の一部の領域の十点平均粗さRzが3.5μm以上9.5μm以下である膜電極接合体であっても、高い発電性能及び耐久性を発揮することが出来る。
1・・・高分子電解質膜
2・・・アノード側電極触媒層
3・・・カソード側電極触媒層
4・・・ガスケット
5・・・ガス拡散層
6・・・アノード(酸化極若しくは燃料極)
7・・・カソード(還元極若しくは空気極)
8・・・ガス流路
9・・・冷却水流路
10・・・セパレータ
11・・・固体高分子形燃料電池
12・・・膜電極接合体
21・・・触媒
22・・・炭素粒子
23・・・高分子電解質
24・・・繊維状物質

Claims (5)

  1. 高分子電解質膜の表面に設けられる電極触媒層であって、
    触媒、前記触媒を担持する炭素粒子、高分子電解質及び繊維状物質を含み、
    前記繊維状物質の繊維径が、10nm以上300nm以下であり、
    前記繊維状物質の繊維長が、1μm以上50μm以下であり、
    前記高分子電解質膜と対向する面とは反対側の面である触媒層表面を三行三列の九つの領域に区分したうちの特定の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm以上9.5μm以下であり、
    前記特定の領域は、前記触媒層表面の残余の領域よりも十点平均粗さRzの値が大きく、
    前記残余の領域における十点平均粗さRzが、3.5μm未満である
    ことを特徴とする電極触媒層。
  2. 前記電極触媒層の厚みが20μm以下である
    ことを特徴とする請求項1に記載の電極触媒層。
  3. 前記特定の領域に前記繊維状物質が含まれ、前記残余の領域に前記繊維状物質が含まれない
    ことを特徴とする請求項1又は請求項に記載の電極触媒層。
  4. 高分子電解質膜の各面にそれぞれアノード側電極触媒層及びカソード側電極触媒層を具備し、
    前記アノード側電極触媒層及び上記カソード側電極触媒層の少なくとも一方が、請求項1から請求項のいずれか一項に記載の電極触媒層であることを特徴とする膜電極接合体。
  5. 請求項に記載の膜電極接合体を備えた固体高分子形燃料電池。
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