以下、本発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、下記の発明を実施するための形態(以下、実施形態という)により本発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、下記実施形態で開示した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るマニピュレーションシステムの構成を模式的に示す図である。マニピュレーションシステム10は、顕微鏡観察下で微小対象物(例えば細胞や卵など)である試料を操作するためのシステムである。図1に示すように、マニピュレーションシステム10は、顕微鏡ユニット12と、第1マニピュレータ14と、第2マニピュレータ16と、マニピュレーションシステム10を制御するコントローラ43とを備えている。顕微鏡ユニット12の両側に第1マニピュレータ14と第2マニピュレータ16とが分かれて配置されている。
顕微鏡ユニット12は、撮像素子を含むカメラ18と、顕微鏡20と、試料ステージ22とを備えている。試料ステージ22は、シャーレなどの試料保持部材11を支持可能であり、試料保持部材11の直上に顕微鏡20が配置される。顕微鏡ユニット12は、顕微鏡20とカメラ18とが一体構造となっており、試料保持部材11に向けて光を照射する光源(図示は省略している)を備えている。なお、カメラ18は、顕微鏡20と別体に設けてもよい。
試料保持部材11には、試料を含む溶液が収容される。試料保持部材11の試料に光が照射され、試料保持部材11の試料で反射した光が顕微鏡20に入射する。試料に関する光学像は、顕微鏡20で拡大された後、カメラ18で撮像される。顕微鏡ユニット12は、カメラ18で撮像された画像を基に試料の観察が可能となっている。
図1に示すように、第1マニピュレータ14は、第1ピペット保持部材24と、X-Y軸テーブル26と、Z軸テーブル28と、X-Y軸テーブル26を駆動する駆動装置30と、Z軸テーブル28を駆動する駆動装置32とを備える。第1マニピュレータ14は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
なお、本実施形態において、水平面内の一方向をX軸方向、水平面内においてX軸方向と交差する方向をY軸方向、X軸方向及びY軸方向のそれぞれと交差する方向(すなわち鉛直方向)をZ軸方向とする。試料ステージ22の表面は、XY平面と平行であり、Z軸方向と直交する。
X-Y軸テーブル26は、駆動装置30の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル28は、X-Y軸テーブル26上に上下移動可能に配置され、駆動装置32の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置30、32は、コントローラ43に接続されている。
第1ピペット保持部材24は、Z軸テーブル28に連結され、先端に毛細管チップである第1ピペット25が取り付けられている。第1ピペット保持部材24は、X-Y軸テーブル26とZ軸テーブル28の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。第1ピペット保持部材24は、試料保持部材11に収容された試料を、第1ピペット25を介して保持することができる。すなわち、第1マニピュレータ14は、微小対象物の保持に用いられる保持用マニピュレータであり、第1ピペット25は、微小対象物の保持手段として用いられるホールディングピペットである。
第2マニピュレータ16は、第2ピペット保持部材34と、X-Y軸テーブル36と、Z軸テーブル38と、X-Y軸テーブル36を駆動する駆動装置40と、Z軸テーブル38を駆動する駆動装置42とを備える。第2マニピュレータ16は、X軸-Y軸-Z軸の3軸構成のマニピュレータである。
X-Y軸テーブル36は、駆動装置40の駆動により、X軸方向又はY軸方向に移動可能となっている。Z軸テーブル38は、X-Y軸テーブル36上に上下移動可能に配置され、駆動装置42の駆動によりZ軸方向に移動可能になっている。駆動装置40、42は、コントローラ43に接続されている。
第2ピペット保持部材34は、Z軸テーブル38に連結され、先端にガラス製の第2ピペット35が取り付けられている。第2ピペット保持部材34は、X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38の移動に従って3次元空間を移動領域として移動できる。第2ピペット保持部材34は、試料保持部材11に収容された試料を人工操作することが可能である。すなわち、第2マニピュレータ16は、微小対象物の操作(DNA溶液の注入操作や穿孔操作など)に用いられる操作用マニピュレータであり、第2ピペット35は、微小対象物のインジェクション操作手段として用いられるインジェクションピペットである。第1ピペット25及び第2ピペット35は、操作対象を操作するための操作部材である。
X-Y軸テーブル36とZ軸テーブル38は、第2ピペット保持部材34を、試料保持部材11に収容された試料などの操作位置まで粗動駆動する粗動機構(3次元移動テーブル)として構成されている。また、Z軸テーブル38と第2ピペット保持部材34との連結部には、ナノポジショナとして微動機構44が備えられている。微動機構44は、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に移動可能に支持するとともに、第2ピペット保持部材34をその長手方向(軸方向)に沿って微動駆動するように構成される。
なお、微動機構44は、微小対象物の操作用の第2マニピュレータ16に設けられるとしているが、微小対象物の固定用の第1マニピュレータ14に設けてもよく、省略することも可能である。
次に、コントローラ43によるマニピュレーションシステム10の制御について図2を参照して説明する。図2は、マニピュレーションシステムの制御ブロック図である。
コントローラ43は、演算手段としてのCPU(Central Processing Unit)及び記憶手段としてのハードディスク、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等のハードウェア資源を備える。コントローラ43は、記憶部46Bに格納された所定のプログラムに基づいて各種の演算を行い、演算結果に従って制御部46Aが各種の制御を行うように駆動信号を出力する。
制御部46Aは、顕微鏡ユニット12の焦点合わせ機構81、第1マニピュレータ14の駆動装置30、駆動装置32、シリンジポンプ29、第2マニピュレータ16の駆動装置40、駆動装置42、圧電素子92、注入ポンプ39を制御する制御回路である。制御部46Aは、必要に応じて設けられたドライバやアンプ等を介して、顕微鏡ユニット12、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16のそれぞれに駆動信号を出力する。制御部46Aは、駆動装置30、32、40、42にそれぞれ駆動信号Vxy、Vz(図1参照)を供給する。駆動装置30、32、40、42は、駆動信号Vxy、Vzに基づいてX-Y-Z軸方向に駆動する。制御部46Aは、微動機構44にナノポジショナ制御信号VN(図1参照)を供給して、微動機構44の制御を行ってもよい。
コントローラ43は、情報入力手段としてジョイスティック47、48と、入力部49とが接続されている。入力部49は、例えばキーボードやタッチパネル、マウス等である。また、コントローラ43は、液晶パネル等の表示部45が接続される。表示部45にはカメラ18で取得した顕微鏡画像や各種制御用画面が表示されるようになっている。なお、入力部49としてタッチパネルが用いられる場合には、表示部45の表示画面にタッチパネルを重ねて用い、操作者が表示部45の表示画像を確認しつつ入力操作を行うようにしてもよい。
制御部46Aは、ジョイスティック47、48からの制御信号に基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16の駆動を制御する。ジョイスティック47、48の構成及び制御方法については後述する。
コントローラ43は、さらに画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dを備えている。顕微鏡20を通してカメラ18で撮像した画像信号VPIX(図1参照)が画像入力部43Aに入力される。画像処理部43Bは、画像入力部43Aから画像信号を受け取って、画像処理を行う。画像出力部43Cは、画像処理部43Bで画像処理された画像情報を表示部45へ出力する。位置検出部43Dは、微小対象物である細胞等の位置や、細胞の核等の位置を、画像処理後の画像情報に基づいて検出することができる。また、位置検出部43Dは、第1ピペット25及び第2ピペット35の位置を検出してもよい。画像入力部43A、画像処理部43B、画像出力部43C及び位置検出部43Dは、制御部46Aにより制御される。
制御部46Aは、位置検出部43Dからの位置情報、及び細胞等の有無の情報に基づいて、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を制御する。本実施形態において、制御部46Aは、第1マニピュレータ14及び第2マニピュレータ16を所定のシーケンスで自動的に駆動する。かかるシーケンス駆動は、記憶部46Bにあらかじめ保存された所定のプログラムによるCPUの演算結果に基づいて、制御部46Aが順次それぞれに駆動信号を出力することで行われる。
次にジョイスティック47、48の構成例について説明する。図3は、ジョイスティックの構成例を示す正面図である。図4は、ジョイスティックの構成例を示す上面図である。なお、図3及び図4では、ジョイスティック47を示しているが、ジョイスティック47についての説明はジョイスティック48にも適用できる。
また、マニピュレーションシステム10は、2つのジョイスティック47、48を有する構成に限定されず、1つのジョイスティック47を有する構成であってもよい。なお、図3、図4では図示を省略するが、ジョイスティック47、48は、シリンジポンプ29、圧電素子92、注入ポンプ39の各駆動を操作するためのボタン47A、48A(図1参照)を備えていてもよい。以下の説明では、ジョイスティック47が第1マニピュレータ14(第1ピペット25)を操作する例を示すが、ジョイスティック47が第2マニピュレータ16(第2ピペット35)の操作に用いられてもよい。
図3に示すように、ジョイスティック47は、筐体50と、ハンドル51と、ノブ52と、回転入力部53と、先端スイッチ54と、制御モード切替スイッチ55と、ゲイン調整ダイヤル56と、を有する。ハンドル51は、筐体50から直立して設けられ。中立位置P0を中心に揺動可能に設けられる。筐体50の内部には、ハンドル51のX軸方向及びY軸方向の傾斜角度θを検出するセンサとして、例えば、ポテンショメータが設けられている。
ノブ52及び回転入力部53は、ハンドル51の先端に設けられている。操作者は、ノブ52を把持してジョイスティック47のハンドル51を傾斜させるように操作することで、駆動装置30、40のX-Y駆動を行うことができる。なお、操作者がハンドル51を傾斜させた状態で、操作を中断しても(すなわち、ハンドル51から手を放しても)、ハンドル51は、中立位置P0に戻らずに、例えば摩擦力により傾斜した姿勢を維持する。
回転入力部53は、ノブ52の上部に設けられている。図4に示すように、回転入力部53は、中心軸53cを中心として回転可能にノブ52に設けられている。中心軸53cはハンドル51の軸方向と重なる。また、ノブ52の内部には、回転入力部53の回転角度を検出するセンサとして、例えばポテンショメータが設けられている。回転入力部53は、基準位置R0を基準として、第1方向R1側の最大回転位置Rmaxから、第2方向R2側の最小回転位置Rminまで回転可能に設けられている。第1方向R1は、基準位置R0から時計回りの回転方向である。第2方向R2は、第1方向R1と反対方向であり、基準位置R0から反時計回りの回転方向である。操作者は、マーク53mを目印として、回転入力部53の操作位置(回転角度)を視認することができる。
操作者は、回転入力部53をねじることで駆動装置32、42のZ駆動を行うことができる。例えば、操作者が、基準位置R0から第1方向R1に回転入力部53を回転させると、第1ピペット25をZ方向の上側に移動させることができる。また、基準位置R0から第2方向R2に回転入力部53を回転させると、第1ピペット25をZ方向の下側に移動させることができる。なお、回転入力部53も、操作者が回転入力部53を回転させた状態で、操作を中断しても(すなわち、回転入力部53から手を放しても)、基準位置R0に戻らずに、例えば摩擦力により基準位置R0から回転した姿勢を維持する。
図3に示すように、先端スイッチ54(操作切替スイッチ)は、ハンドル51の先端、より具体的には、回転入力部53の先端に設けられる。先端スイッチ54は、ハンドル51の軸方向に押し込まれることで、オン、オフが切り替えられる。先端スイッチ54は、ハンドル51による移動制御の有効及び無効を切り替えるためのスイッチである。
制御モード切替スイッチ55は、筐体50の側面に設けられる。制御モード切替スイッチ55は、第1ピペット25(操作部材)の移動制御を、位置制御モードM1又は速度制御モードM2に切り替えるためのスイッチである。位置制御モードM1は、ハンドル51の傾斜角度θに応じた位置に第1ピペット25を移動させる操作モードである。言い換えると、駆動装置30、40は、傾斜角度θに応じた駆動量でX-Y駆動を行う。速度制御モードM2は、ハンドル51の傾斜角度θに応じた速度で第1ピペット25を移動させる操作モードである。言い換えると駆動装置30、40は、傾斜角度θに応じた速度でX-Y駆動を行う。位置制御モードM1は、操作部材を小さく動かす際に便利である。速度制御モードM2は、操作部材を大きく動かす際に便利である。
また、Z軸方向での移動制御においても、制御モード切替スイッチ55により、位置制御モードM1と速度制御モードM2とに切り替えられる。すなわち、位置制御モードM1では、回転入力部53の回転角度(操作量)に応じた位置に、第1ピペット25をZ軸方向に移動させる。速度制御モードM2では、回転入力部53の回転角度(操作量)に応じた速度で、第1ピペット25をZ軸方向に移動させる。
制御モード切替スイッチ55は、水平方向に移動可能に設けられている。ジョイスティック47は、例えば、制御モード切替スイッチ55が図3の左側に位置した状態で位置制御モードM1に切り替えられ、図3の右側に位置した状態で速度制御モードM2に切り替えられる。
ゲイン調整ダイヤル56は、筐体50の側面に設けられる。操作者は、ゲイン調整ダイヤル56を回転させて操作することで、ハンドル51の傾斜角度θに応じた第1ピペット25の移動量又は速度を調整することができる。具体的には、ゲイン調整ダイヤル56の操作により、例えば図7に示すハンドル51の傾斜角度θxと、第1ピペット25の位置との関係を示す直線の傾きを変えることができる。
なお、図3及び図4に示したジョイスティック47の構成はあくまで一例であり、適宜変更することができる。例えば、制御モード切替スイッチ55は、スライド式のスイッチに限定されず、押しボタン式のスイッチや回転式のスイッチ等、他の種類を採用してもよい。また、制御モード切替スイッチ55の位置は、筐体50の側面に限定されず、別の位置であってもよい。
次に、位置制御モードM1と速度制御モードM2との切り替え方法について説明する。図5は、第1実施形態に係るマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。図6は、XY軸方向の位置制御モードを説明するための説明図である。
図5及び図6に示すように、制御部46A(図2参照)は、制御モード切替スイッチ55の動作に基づく信号をジョイスティック47から受け取って、移動制御モードが速度制御モードM2であるかどうかを判断する(ステップST11)。制御モード切替スイッチ55が例えば図6の左側に位置する場合、つまり、移動制御モードが位置制御モードM1である場合(ステップST11、No)、制御部46Aは、先端スイッチ54がオンかどうかを判断する(ステップST12)。なお、本実施形態では、先端スイッチ54のオン、オフとは、先端スイッチ54がハンドル51側に押し込まれた状態をオンとし、押し込まれていない状態をオフとする。
先端スイッチ54がオンの場合(ステップST12、Yes)、制御部46Aは、ハンドル51及び回転入力部53の操作を無効にする(ステップST14)。すなわち、ハンドル51が中立位置P0から傾斜角度θで傾斜した場合も、回転入力部53が、基準位置R0から回転した場合も、制御部46Aは、第1ピペット25の移動を実行しない。制御部46Aは、XYZ軸方向の操作無効状態を維持しつつ、マニピュレーションシステム10の制御を終了する。制御部46Aは、ステップST11に戻ってジョイスティック47からの信号を受け取る。なお、以下では繰り返しの説明は省略するが、制御部46Aは、ステップST11からステップST21を、図5のフローに従って繰り返し実行する。
先端スイッチ54がオフの場合(ステップST12、No)、制御部46Aは、XYZ軸方向での位置制御モードM1を実行する(ステップST13)。すなわち、制御部46Aは、ハンドル51の傾斜角度θに応じたXY軸方向の位置に第1ピペット25を移動し、回転入力部53の基準位置R0からの回転角度に応じたZ軸方向の位置に第1ピペット25を移動する。
図7は、位置制御モードにおけるハンドルの傾斜角度とピペット位置との関係を模式的に示すグラフである。図7では、位置制御モードM1の一例として、X軸方向に第1ピペット25を移動させる場合の動作例を示す。図7に示すグラフの横軸は、ハンドル51のX軸方向の傾斜角度θxを示す。縦軸は、第1ピペット25のX軸方向の位置を示す。図7に示すように、傾斜角度θxが0、すなわち、ハンドル51が中立位置P0である状態の第1ピペット25の位置を原点として、第1ピペット25は、傾斜角度θxに比例してX軸方向に移動する。例えば、ハンドル51の傾斜角度θaに、第1ピペット25の位置xaが対応付けられている。
次に、図5及び図8を参照して、速度制御モードM2について説明する。図8は、XY軸方向の速度制御モードを説明するための説明図である。図5に示すステップST11に戻って、制御モード切替スイッチ55が例えば図8の右側に位置する場合、つまり、移動制御モードが速度制御モードM2である場合(ステップST11、Yes)、制御部46Aは、先端スイッチ54がオンかどうかを判断する(ステップST15)。
先端スイッチ54がオフの場合(ステップST15、No)、制御部46Aは、ハンドル51及び回転入力部53の操作を無効にする(ステップST16)。すなわち、ハンドル51が中立位置P0から傾斜角度θで傾斜した場合も、回転入力部53が、基準位置R0から回転した場合も、制御部46Aは、第1ピペット25の移動を実行しない。
先端スイッチ54がオンの場合(ステップST15、Yes)、制御部46Aは、XY軸方向での速度制御モードM2を実行する(ステップST17)。すなわち、操作者が、先端スイッチ54を押し込んでオンの状態にしたままハンドル51を傾斜させる操作を行った場合に、制御部46Aは、ハンドル51の傾斜角度θに応じた速度で第1ピペット25を移動させる。なお、図8では、ハンドル51が中立位置P0の状態で、先端スイッチ54がオンとなっているが、これに限定されず、ハンドル51が中立位置P0から傾いた状態で、先端スイッチ54をオンとする操作を行ってもよい。Z軸方向の速度制御モードは後述する。
本実施形態では、先端スイッチ54のオン、オフと、操作の有効、無効との関係が、位置制御モードM1と速度制御モードM2とで逆転している。つまり、位置制御モードM1において、先端スイッチ54(操作切替スイッチ)がオンの場合にハンドル51による操作が無効となり、先端スイッチ54がオフの場合にハンドル51による操作が有効となる。一方、速度制御モードM2において、先端スイッチ54がオンの場合にハンドル51による操作が有効となり、先端スイッチ54がオフの場合にハンドル51による操作が無効となる。
このため、マニピュレーションシステム10は、ハンドル51の操作によるXY軸方向の移動において、位置制御モードM1と速度制御モードM2とを切り替えた場合の意図しない動作を抑制することができる。具体的には、ハンドル51が中立位置P0から傾いた状態で、位置制御モードM1から速度制御モードM2に切り替えられた場合であっても、位置制御モードM1の操作を行っている場合には先端スイッチ54がオフであるため、速度制御モードM2に切り替えられた場合であっても、意図しない動作を抑制することができる。また、ジョイスティック47は、制御モード切替スイッチ55により移動制御を切り替えることができるので、ハンドル51を中立位置P0に戻す等の操作が不要である。
図9は、速度制御モードにおけるハンドルの傾斜角度とピペット速度との関係を模式的に示すグラフである。図9では、速度制御モードM2の一例として、X軸方向に第1ピペット25を移動させる場合の動作例を示す。図9に示すグラフの横軸は、ハンドル51のX軸方向の傾斜角度θxを示す。縦軸は、第1ピペット25のX軸方向の速度Vxを示す。図9に示すように、傾斜角度θxが0、すなわち、ハンドル51が中立位置P0である状態では、第1ピペット25の速度Vxは0、すなわち第1ピペット25は静止している。第1ピペット25は、傾斜角度θxに比例した速度Vxで移動する。ハンドル51が、例えば傾斜角度θbに維持された場合に、第1ピペット25は、一定の速度Vbで移動を続ける。
次に図5及び図10から図12を参照して、Z軸方向の速度制御モードM2について詳細に説明する。図10は、Z軸方向における位置制御モードから速度制御モードへの切替を説明するための説明図である。図11は、時間と、回転入力部の操作位置との関係を模式的に示すグラフである。図12は、時間と、ピペット速度との関係を模式的に示すグラフである。
図5のステップST17に示すように、ハンドル51による移動制御、すなわち、XY軸方向での速度制御モードM2が実行されている場合に、記憶部46B(図2参照)は、回転入力部53の位置をZ軸記憶位置として記憶する(ステップST18)。
図10に示すように、Z軸記憶位置Saは、位置制御モードM1から速度制御モードM2に切り替えられた時点、つまり、制御モード切替スイッチ55が切り替えられた場合での、基準位置R0に対するマーク53mの回転角度である。
次に、制御部46Aは、回転入力部53の操作量(Z軸操作量)と、あらかじめ設定された閾値Srとを比較する(ステップST19)。ここで、回転入力部53の操作量Scは、回転入力部53の現在の位置に関する情報であるZ軸現在位置Sbと、Z軸記憶位置Saとの差分である。また、閾値Srは、記憶部46Bにあらかじめ保存されている。
回転入力部53の操作量Scが閾値Sr以下の場合(ステップST19、No)、Z軸操作が無効となる(ステップST21)。すなわち、回転入力部53の操作による、第1ピペット25のZ軸方向の移動が無効になる。操作者が、更に回転入力部53を操作することで、回転入力部53の操作量Scが閾値Srよりも大きくなった場合(ステップST19、Yes)、回転入力部53によるZ軸の速度制御モードM2が開始される(ステップST20)。
図11に示すように、時間t1において速度制御モードM2が実行されている場合、時間t1におけるZ軸記憶位置Saから、操作者が回転入力部53を操作しても、第1ピペット25は移動しない。時間t2において、Z軸現在位置Sbが閾値Srよりも大きくなると、Z軸現在位置Sbに応じた速度で第1ピペット25が移動する。
より具体的には、無効領域IAは、Z軸記憶位置Saの第1方向R1側で、Z軸記憶位置Sa以上閾値Sr(Sa+Sr)以下の範囲に設定される。さらに、無効領域IAは、Z軸記憶位置Saの第2方向R2側で、閾値Sr(-Sr)以上Z軸記憶位置Sa以下の範囲に設定される。つまり、Z軸現在位置Sb’が、Z軸記憶位置Saの第2方向R2側に位置する場合には、基準位置R0を超えて、かつ、Z軸現在位置Sb’と基準位置R0との差の絶対値が閾値Sr(-Sr)を超えた場合に、回転入力部53の操作が有効になる。Z軸現在位置Sb’と基準位置R0との差の絶対値が閾値Sr以下の場合には、回転入力部53の操作が無効になる。
図12に示すように、Z軸現在位置Sbに応じた速度を、速度Vbとすると、時間t2から所定の加速度cで、第1ピペット25の速度が速くなる。操作者が回転入力部53の位置をZ軸現在位置Sbで一定にした場合、時間t3以降では、第1ピペット25の速度は、速度Vbで一定になる。
このように、Z軸方向の移動において、速度制御モードM2が実行されている場合に、回転入力部53の操作による第1ピペット25の移動が無効となる操作範囲が設けられている。すなわち、回転入力部53には、いわゆる不感領域が設けられる。このため、速度制御モードM2において、操作者の意図しない方向や速度で第1ピペット25の移動が開始することを抑制できる。したがって、マニピュレーションシステム10は、第1ピペット25のZ軸方向の移動における誤動作を抑制することができる。
また、本実施形態では、速度制御モードM2が実行されている場合に、回転入力部53の位置がZ軸記憶位置Saとして記憶される。つまり、速度制御モードM2の開始条件がZ軸記憶位置Saを基準として設定されるので、回転入力部53の位置が基準位置R0からずれている場合であっても、操作者の意図しない方向や速度で第1ピペット25の移動が開始することを抑制できる。
なお、図10では、操作者が回転入力部53を第1方向R1に操作した場合を説明した。つまり、Z軸記憶位置Saが基準位置R0に対して第1方向R1側の領域に位置し、Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第1方向R1の領域に位置する場合を説明した。ただし、これに限定されず、回転入力部53の位置や操作方向が異なる場合であっても、それぞれの状態に応じた不感領域が設けられる。
図13は、Z軸方向における位置制御モードから速度制御モードへの切替方法を説明するためのフローチャートである。図13は、図5のステップST19に示した回転入力部53の操作量と、閾値Srとの比較を詳細に示したフローチャートである。
図13に示すように、制御部46Aは、Z軸記憶位置Saが+領域に位置するかどうかを判断する(ステップST19-1)。ここで、+領域は、基準位置R0に対して第1方向R1側の領域である。また、-領域は、基準位置R0に対して第2方向R2側の領域である。
Z軸記憶位置Saが+領域に位置する場合(ステップST19-1、Yes)、制御部46Aは、Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第1方向R1側かどうかを判断する(ステップST19-2)。つまり、回転入力部53の操作方向を判断する。
Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第1方向R1側に位置する場合(ステップST19-2、Yes)、制御部46Aは、上述したように回転入力部53の操作量Sc(Z軸現在位置SbとZ軸記憶位置Saとの差分の絶対値)と、閾値Srとを比較する(ステップST19-3)。そして、回転入力部53の操作量Scと、閾値Srとの値に応じて、速度制御モードM2(ステップST20)又は無効化(ステップST21)を行う。
Z軸記憶位置Saが、基準位置R0に対して第1方向R1の領域に位置する場合であって、Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第2方向R2側に位置する場合(ステップST19-2、No)、制御部46Aは、Z軸操作を無効にする(ステップST19-4)。つまり、操作者が回転入力部53を第2方向R2側に操作しているのに対し、Z軸記憶位置Saは第1方向R1側の領域に位置する。具体的には、操作者が第1ピペット25を例えばZ軸方向の下側に移動させようと意図しているのに対し、Z軸操作を無効にしていないと、第1ピペット25はZ軸方向の上側に移動を開始する可能性がある。本実施形態では、Z軸操作を無効にすることで、操作者の意図する操作方向と反対方向に第1ピペット25が移動することを抑制できる。
次に、制御部46Aは、Z軸現在位置Sbが基準位置R0を超えて(Sb<R0)、かつ、Z軸現在位置Sbと基準位置R0との差の絶対値が閾値Srよりも大きいかどうかを判断する場合(ステップST19-5)。Z軸現在位置Sbが基準位置R0に達しない場合(ステップST19-5、No)、つまり、Z軸現在位置Sbが基準位置R0とZ軸記憶位置Saとの間に位置する場合、ステップST19-2に戻る。または、Z軸現在位置Sbと基準位置R0との差の絶対値が閾値Sr以下の場合(ステップST19-5、No)、つまり、Z軸現在位置Sbが基準位置R0を超えた場合であっても、基準位置R0と閾値Sr(-Sr、図11参照)との間に位置する場合、Z軸現在位置Sbは、無効領域IAに位置し、ステップST19-2に戻る。
Z軸現在位置Sbが基準位置R0を超えて(Sb<R0)、かつ、Z軸現在位置Sbと基準位置R0との差の絶対値が閾値Srよりも大きい場合(ステップST19-5、Yes)、つまり、Z軸現在位置Sbが基準位置R0及び閾値Sr(-Sr)よりも第2方向R2側に位置する場合、速度制御モードM2を開始する(ステップST20)。
ステップST19-1に戻って、Z軸記憶位置Saが+領域に位置しない場合(ステップST19-1、No)、すなわち、Z軸記憶位置Saが-領域に位置する場合、上述したステップST19-2からステップST19-5の第1方向R1と第2方向R2とを反転させたステップST19-6からステップST19-8を実行する。
つまり、Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第2方向R2側に位置する場合(ステップST19-6、Yes)、制御部46Aは、ステップST19-3を実行する。Z軸現在位置SbがZ軸記憶位置Saに対して第1方向R1側に位置する場合(ステップST19-6、No)、制御部46Aは、Z軸操作を無効にする(ステップST19-7)。これにより、操作者の意図しない方向に第1ピペット25が移動することを抑制できる。
そして、Z軸現在位置Sbが基準位置R0を超えて(R0<Sb)、かつ、Z軸現在位置Sbと基準位置R0との差の絶対値が閾値Srよりも大きい場合(ステップST19-8、Yes)、つまり、Z軸現在位置Sbが基準位置R0よりも第1方向R1側に位置する場合、速度制御モードM2を開始する(ステップST21)。
本実施形態のマニピュレーションシステム10において、Z軸方向の速度制御モードM2は、例えば、試料交換時に、針(第1ピペット25及び第2ピペット35)を一旦試料ステージ22上から移動させて、試料ステージ22に試料保持部材11を載置し、再び針の先端を視野に入れる、といった「粗動」を行う場合に必要である。
従来、位置制御モードM1にある場合、針を所望の位置へ移動させようとすると、作業者は、ジョイスティック47のハンドル51を中立位置にしては倒す作業を何回も繰り返す必要があり、作業が煩雑だった。
本実施形態によれば、大きな移動が素早く楽にでき、作業効率を上げることができる。また、ジョイスティック47の誤動作も減らすことができる。
なお、本実施形態のマニピュレーションシステム10及びマニピュレーションシステム10の駆動方法は適宜変更してもよい。例えば、第1ピペット25、第2ピペット35等の形状等は、微小対象物の種類や、微小対象物に対する操作に応じて適宜変更することが好ましい。図5及び図13に示すフローチャートはあくまで一例であって、適宜手順の一部を省略してもよく、また、手順を置換して実行してもよい。
(第2実施形態)
図14は、第2実施形態に係るマニピュレーションシステムの制御方法を説明するためのフローチャートである。図15は、第2実施形態に係るXY軸方向の位置制御モードと速度制御モードの切替方法を説明するための説明図である。
第2実施形態では、第1実施形態と異なり、先端スイッチ54で位置制御モードM1と速度制御モードM2とを切り替える構成について説明する。つまり、第2実施形態では、先端スイッチ54は、制御モード切替スイッチとして機能する。言い換えると、制御モード切替スイッチ(先端スイッチ54)は、ハンドル51の先端に設けられる。
図14及び図15に示すように、制御部46Aは、先端スイッチ54がオンかどうかを判断する(ステップST22)。先端スイッチ54がオフの場合(ステップST22、No)、制御部46Aは、XYZ軸方向において位置制御モードM1を実行する(ステップST23)。位置制御モードM1の操作は、上述した第1実施形態と同様である。
先端スイッチ54がオンの場合(ステップST22、Yes)、制御部46Aは、XYZ軸方向において速度制御モードM2を実行する(ステップST24からステップST28)。ステップST24からステップST28は、図5に示すステップST17からステップST21と同様である。
第2実施形態では、先端スイッチ54のオン、オフのみで位置制御モードM1と速度制御モードM2とが切り替えられる。このため、ジョイスティック47は、ハンドル51を中立位置P0に戻す等の操作が不要である。また、先端スイッチ54は、ハンドル51の先端に設けられているので、モードの切り替えの操作性を向上させることができる。