JP7354873B2 - ボールペンチップ - Google Patents

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Description

本発明は、筆記ボールと、この筆記ボールを先端開口部より一部突出させて回転可能に抱持するボールホルダーと、筆記ボールと接触し回転可能な中間ボールとを備えるボールペンチップに関する。
従来、被筆記面と接触して移動することにより回動する筆記ボールを被筆記面に対するインキの転写部材としたボールペンチップの構造として、合金を含む金属製、セラミックス製、合成樹脂製などの筆記ボールを、インキ通路孔を有するボールホルダーの先端に筆記ボールの直径よりも小径となる開口部を形成し、この開口部よりも後方に内包突出部を形成してボールの後方への移動を規制するボール受け座部を形成することにより、筆記ボールが配置される領域を区画したボール抱持室を形成したものが知られている。
近年は運筆に力を要しないような軽い書き味のボールペンが好まれる傾向にあることから、インキの粘度を低く設定したり、界面活性剤を添加するなどして結果的に浸透性が高いインキとなることにより、ボールホルダー先端開口部の縁と筆記ボールとの微細な隙間からインキが滲み出したり洩れたりすることを抑制するために、筆記ボールの後方に配置したコイルスプリングなどの弾撥部材によって、筆記ボールを前方付勢して、開口部の内縁に筆記ボールを押し付けた構造のものも知られている。
そして、筆記ボールを押圧する位置や力の安定性を考慮して、筆記ボールの後方に、この筆記ボールに当接して、コイルスプリング等の弾撥部材で前方に付勢した中間ボールを配置し、常にインキ通路孔の軸心方向の中心近傍で筆記ボールを押圧できるようにしたものが知られており、更に、中間ボールと筆記ボールとの接触による摩擦抵抗を低減する為に中間ボールの表面状態を鏡面にしたものが開示されている。(特許文献1)。
特開2010-69617号公報
特許文献1に開示されているような、中間ボールをコイルスプリングによりチップ先端部側に押圧し、この中間ボールによって筆記ボールをチップ先端開口部の内縁に密接させたものでは、コイルスプリングにて常に中間ボールと筆記ボールとが所定の荷重で押されているため、これが筆記ボールの回転に対する抵抗になっている。また、中間ボールの表面状態が鏡面であるものでは、硬いもの同士の摩擦は滑り易く、特に、書き初めのように筆記ボールの回転速度が低い状態では、筆記ボールと中間ボールとの押し付けによる摩擦抵抗と、表面状態の滑りやすさとが交互に現れ、筆記ボールの回転に合わせて中間ボールが回転したり、筆記ボールが回転しても中間ボールは静止したりを繰り返すスティックスリップ現象が起こり微振動として不快な筆記感や、ボールの回転方向が不安定になり、筆記方向とは異なる方向に筆跡が流れ、波打つようなブレた筆跡を誘因するものであった。
本発明は、筆記ボールと、この筆記ボールを先端開口部より一部突出させて回転可能に抱持するボールホルダーと、筆記ボールと接触し回転可能な中間ボールとを備えるボールペンチップにおいて、前記中間ボールの表面の算術平均高さ(Sa)を6(nm)以上20(nm)以下としたボールペンチップを要旨とする。
本発明のように、筆記ボールと接触して回転可能な中間ボールの表面の算術平均高さ(Sa)を6(nm)以上20(nm)以下とする事で、筆記の際に回転する筆記ボールの回転が十分に中間ボールに伝達され易くなり、書き初めのように筆記ボールの回転速度が十分得られていない状態でも、筆記ボールの回転に合わせて中間ボールが回転することが可能となり、スティックスリップ現象を抑制し、筆記ボールの回転が安定し、書き初めから不快な振動を感じることなく円滑に、筆記方向とは異なる方向に筆跡が流れる事なく、波打つようなブレの少ない、直線度が高い筆跡が得られる。また、コイルスプリング等の弾性部材にて中間ボールを介して筆記ボールを前方付勢する態様のものでは、この中間ボールの前方付勢力も回転運動に変換され易くなるものと推察され、筆記ボール、中間ボールの回転不良が更に起こりにくくなるものと推察され、良好な筆記感が得られ、筆跡が乱れにくいものとなる。
本発明のボールペンチップの縦断面図。 コイルスプリングの抜け止め構造の他の一例。 図1のI部拡大図。
筆記ボールは、ボールペンチップの先端に回転可能に配置されており、紙面等の被筆記面に押し付けられることにより後方に移動して、後述するボールホルダーとの間に形成される隙間よりインキを流出又はボールの回動に伴い外に搬送して転写するものである。筆記ボールの大きさは、一般的なボールペンで使用されている直径0.18(mm)以上2.0(mm)以下が使用可能であり、書き味やボールホルダーとの耐磨耗性を考慮すると表面の算術平均高さ(Sa)は、2(nm)以上25(nm)以下が好ましい。
筆記ボールの材質としては、タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂といった樹脂材料や、セラミックス、ガラスなどを研磨して製造することができるが、中間ボールとの摺動性や耐磨耗性、またインキによる耐食性を考慮するとステンレス、超硬合金やセラミックスが好ましい。
筆記ボールを抱持するボールホルダーは、インキ通路としての貫通孔を有し、貫通孔の中腹に、ボールの後方移動を規制する内包突出部とその間に放射状のインキ通溝を形成している。また、先端には筆記ボールの一部を突出する開口部を有し、その開口部はカシメ加工などにより筆記ボールの直径よりも小径に形成されて、筆記ボールが抜けてしまうことを防止している。
材質としては、ステンレス鋼や、黄銅、洋白などの銅合金が使用でき、筆記時の耐磨耗性やインキの耐食性を考慮するとステンレス鋼が好ましく、一般的にはオーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304、フェライト系ステンレス鋼であるSUS430が用いられる。また、良好な加工性を有しつつボールホルダー先端部の打痕や摩耗などの変形等を抑制する為にビッカース硬さ(HV)を150以上300以下とすることが好ましい。また、自然環境への悪影響を低減させる目的で、鉛を含まないものとすることが好ましい。鉛は良好な加工性を付与する成分のため、鉛を含まないと加工性が低下する問題があるため、良好な加工性を維持する目的で、鉛の変わりにビスマス(元素記号:Bi)を用いることが好ましい。その他、ポリオキシメチレン樹脂などの耐摩耗性の高い樹脂製のものとすることもでき、その他の合成樹脂などの従来公知の材質も使用できる。
中間ボールは、筆記ボールの後方のインキ通路孔内に筆記ボールと当接して回転可能に配置されている。中間ボールの大きさは、特に限定されるものではないが、筆記ボールの直径に対して30%未満の小ささであると筆記ボールとの当接位置がボールホルダーの軸心中央から離れた位置にずれやすく、筆記中に筆記ボールをボールホルダーの径方向の一方向に寄せようとする押圧力が働き、インキの吐出口である筆記ボールと先端開口部の隙間が狭い部分ができてしまい、その部分で紙面に転写されなかったインキが濾し取られ、ボールホルダー内部に戻れずに紙面に落下してしまう、所謂、ボテが発生しやすくなってしまったり、筆記ボールの回転数に対して中間ボールがより多く回転するので、中間ボールとボールホルダーの接触部分の磨耗が進み、中間ボールの動作範囲が広がり、より筆記ボールとの当接位置が軸心中央から離れてしまうことが懸念される。また、筆記ボールの直径に対して160%を超えて大き過ぎるとボールホルダー内のインキ通路孔に対する中間ボールの占有率が大きくなり、インキの流れを塞き止めてしまうことになる。よって、中間ボールの直径は筆記ボールの直径に対して30%以上160%以下が好ましい。
筆記ボールの直径と中間ボールの直径がおよそ近いもの(80%以上120%以下)であれば、筆記ボールと中間ボールの回転角度をおよそ同じにできるので、筆記ボールが回転した時にボールホルダーと接触により生じる抵抗と、中間ボールが回転した時にボールホルダーと接触により生じる抵抗を同程度とすることができる。これによりボールホルダー内における筆記ボールと中間ボールの回転し易さを同等とできるので、筆記ボールの回転をより確実に中間ボールに伝達することができる。
材質としては、炭化タングステンを主成分とした超硬合金や、ステンレス、アルミ、スチール等の金属や、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂といった樹脂材料や、セラミックス、ガラスなどを研磨して製造することができるが、筆記ボールとの摺動性や耐磨耗性、またインキによる耐食性を考慮すると超硬合金やセラミックスといった金属製が好ましい。
そして、本発明のボールペンチップは、前述したボールホルダーに形成した貫通孔であるインキ通路孔内に、前述した筆記ボールを一部突出した状態で回転可能に配置し、その筆記ボールの後方のインキ通路孔内に筆記ボールと当接するように前述した中間ボールを回転可能に配置しているものである。尚、中間ボールの直径がボールホルダーの内方突出部の中央に形成されている中心孔の直径よりも小さい場合は、中間ボールはこの中心孔内に配置されるが、中心孔の軸方向長さが短いと筆記ボールの回転した勢いで中間ボールが内方突出部の後方面に乗り上げてしまい、筆記ボールと中間ボールが離れてしまう場合があるので、中心孔の軸方向の長さは中間ボールの半径を超えた長さ、より好ましくは、中間ボールの直径以上が好ましい。また、中間ボールの直径が中心孔の直径より大きい場合は内方突出部の後方、もしくは筆記ボールと共に内方突出部より前方にあるボール抱持部内に配置させることも可能である。内方突出部の後方に配置する場合は、中間ボールが内方突出部と干渉して、中間ボールの回転が阻害されないように、中心孔の軸方向長さを短めに設定したり、中心孔の直径を大きく設定することが好ましい。
本発明のボールペンチップにおける中間ボールの表面の算術平均高さ(Sa)は、6(nm)以上20(nm)以下とする。表面の算術平均高さ(Sa)は、予め鏡面仕上げした中間ボールの表面に、化学的処理もしくは物理的処理による微細な凹凸加工をすることで調整しているが、研磨加工時に用いるダイヤモンドパウダーの粒度や研磨処理をする時間で調整することもできる。また、主成分である硬質成分として炭化タングステンや炭化クロム、炭化チタン等を用い、結合成分としてコバルトやニッケル等の紛体を混合させ球体として焼結させた超硬合金の場合は、それら紛体の粒子径や配合量によっても調整が可能である。
尚、本発明で表面粗さのパラメーターとして使用している算術平均高さ(Sa)は、国際規格ISO 25178に準拠したものであり、粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を面に拡張したパラメーターに相当し、任意の範囲の表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表すパラメーターである。
中間ボールも筆記ボールも任意の方向に回転するため、ある特定の直線方向の表面の粗さを測定する算術平均粗さ(Ra)より、面で表面の粗さを測定する算術平均高さ(Sa)を特定することで本発明の効果を確実に奏することができる。
また、本発明のボールペンチップは、中間ボールの後方に中間ボールを押圧する弾撥部材を配置することもできる。中間ボールを介して弾撥部材によって筆記ボールを前方付勢し、筆記していない時などの筆記ボールが被筆記面等に押し付けられていない状態では、筆記ボールがボールホルダーの先端開口部の内縁に密接してインキの滲み出しや洩れを防止することもできる。
弾撥部材としては、主にコイルスプリングが用いられ、その形状は端から端まで同じ外周径のストレート形状であることが製造コストの面から望ましいが、中間ボールの大きさに合わせて端部の巻き径を縮径させ小径とした形状にしても良く、小径の巻き系部分が連なった部分と大径の巻き系部分が連なった部分とを有する段付きの形状としたり、あるいは端部に向かって次第に巻き系を小さくしたものを連ねて外径形状をテーパ形状としても良い。
中間ボールと当接するコイルスプリングの端部は、コイルスプリングの線材を先端からコイル部の軸心方向に直線状に延出させた直状部としたものでもよいが、圧縮方向の荷重をコイル部の全体で受け、中間ボールに掛かる押圧力を安定させることを考慮すると隣り合った巻き部が密接した密着コイル部を形成していることが好ましく、その密接した巻き数は2巻き以上が好ましい。そして、端部の密着コイル部の内周径は中間ボールの直径よりも小さく形成することで中間ボールと当接しているが、内周径が大きいほど中間ボールをより大きな周径で押圧することができるので筆記ボールを安定して軸心方向に押圧できる。
また、密着コイル部は、コイルスプリングの押圧力や全長の調整、密着コイル部の内側と外側でインキの流れを遮断する事で実質的にインキ通路孔の流路を狭め、筆記ボールへ供給するインキの量を制御するといった目的でコイルスプリングの端部だけでなくコイル部の途中に形成することもできる。
そして、コイルスプリングの前後端の形状を同形状とすることで、製造工程上コイルスプリングをボールホルダー内に挿入する際に挿入方向を決める必要がない為、工程の簡略化が可能であり、製造コスト等の面から有効である。
弾撥部材の押圧荷重は、小さ過ぎると筆記ボールの押圧が不安定になりインキの滲み出しや洩れに繋がったり、強過ぎると筆記ボールと中間ボールの当接荷重が強くなり過ぎ、筆記する際に必要な筆記圧が重くなってしまうことから、3(gf)以上30(gf)以下とすることが好ましい。そして弾撥部材をコイルスプリングとする場合には、その材質としてはSUS304などのステンレス鋼線の他、硬鋼線やピアノ線材も使用でき、ステンレス鋼線、硬鋼線などの表面にニッケル(元素記号:Ni)メッキを施したものも使用できる。また、ポリカーボネートやポリエーテルエーテルケトン等の樹脂も使用することができ、樹脂のように素材自体が弾性を有するものは、棒状に形成したものを直接中間ボールに当接させるように配置し、その弾性を利用して中間ボールを押圧することも可能である。
本発明のボールペンチップは、インキを収容したインキタンクに直接、または中継部材を介して接続することで筆記具としての形態が整えられ、これをボールペンリフィルとして外装体内に設置されるものとすることもできる。外装体に設置されるものとしたとき、外装体の先端より突出したボールペンチップ部分を被覆するキャップを備えるものとしたり、ノック操作により、外装体の前端からボールペンリフィルを出没させる、所謂ノック式ボールペンとしても良い。
筆跡を形成するものとして使用するインキは、水を主媒体とした水性インキ、アルコールなどの有機溶剤を主媒体とした油性インキのいずれも使用可能であり、これに着色成分である顔料及び/または染料、凍結防止などのための高沸点有機溶剤、被筆記面への定着性を付与する樹脂成分、表面張力や粘弾性、潤滑性などを調整する界面活性剤や多糖類、防錆・防黴剤などが配合されている。また、酸化チタンなどの白色隠蔽成分を配合した修正液組成物でもよい。
以下、図面に基づいて一例を説明する。
図1は、本発明のボールペンチップの一例を示す縦断面図である。
ボールペンチップ1は、筆記部材としての筆記ボール2を、貫通孔であるインキ通路孔の先端開口部より一部突出した状態でボールホルダー3内にて回転自在に抱持しており、また、筆記ボール2の後方には、この筆記ボール2と接触して中間ボール4が回転可能に配置され、更に、中間ボール4の後方には、弾撥部材であるコイルスプリング5が中間ボール4に接して配置されている。コイルスプリング5は、ボールホルダー3の後方から挿入され、全長を圧縮するように押し込まれて抜け止めされており、その圧縮されたことによる復元力によって中間ボール4を前方に付勢し、この中間ボール4を介して筆記ボール2を前方に付勢している。コイルスプリング5の後端部は、ボールホルダー3の後部内壁面に等間隔に周状に4箇所設けられた凸部6によって受け止められボールホルダー3の内部から抜け止めされている。この凸部6は、ブローチ加工によってボールホルダー3の後端の内壁面を抉り切削片として形成したものである。ブローチ加工の他に、ボールホルダー3の側壁部をポンチ加工等によって凹ませて内壁面に凸部6を生じさせる方法で形成しても良いし、別部材を使用するなど、コイルスプリング5の抜け止め方法や形状は適宜選択できる。
コイルスプリング5の抜け止め構造の具体的な他の一例としては、図2に示すように、ボールペンチップ1の後端部にインキタンクと接続する中継部材である、チップホルダー7をボールペンチップ1の後部外周面に圧入接続し、チップホルダー7の内側に設けられた段部とコイルスプリング5の後端が当接するようにして後方への抜け止めすることもできる。このように、別部材を用いてコイルスプリング5を抜け止めさせる構造にすると部品点数は増加するが、前述の図1にて説明した、ブローチ加工のように凸部6を形成する微細な加工を行わない為、管理が簡単であり生産効率の向上が図れる。
本実施例においては、ボールホルダー3の材質は、ステンレス(下村特殊精工(株)製、商品名:SF20T)で、ビッカース硬度(HV)は240のものを使用した。
また、筆記ボール2の材質は、タングステンカーバイドを主成分として結合相にコバルトやニッケル、クロム等を使用した超硬合金((株)ツバキナカシマ製、商品名:PB11)を使用した。
更に、中間ボール4の材質は、タングステンカーバイドを主成分として結合相にコバルトやニッケル、クロム等を使用した超硬合金((株)Heraeus製、商品名:H3)を使用した。
コイルスプリング5の材質は、SUS304のステンレス鋼線にニッケルメッキを施したものを使用し、大径の大径コイル部5aと前後端に小径の小径コイル部5bを形成しており、小径コイル部5bの端部を密着コイル部5cとしてある。また、コイルスプリング5の前後端は、共に小径コイル部5bと密着コイル部5cを形成し同形状として、組み立ての際に方向性による不良が発生することを防止している。
次にボールペンチップ1の詳細について、図1のI部拡大図である図3にて説明する。ボールホルダー3は、貫通孔であるインキ通路孔を有しており、このインキ通路孔は、先端側より先端を小径にカシメ加工された先端開口部8と、内包突出部9で区画され筆記ボール2が先端開口部8より一部突出した状態で配置される筆記ボール抱持部10、内包突出部9の中心部分に形成される中心孔11、後孔12を有している。
先端開口部8の内縁は、中間ボール4を介してコイルスプリング5によって筆記ボール2が押圧され周接した際の密閉性を向上させる為に、かしめ加工を行う際に筆記ボール2に押し当てる事で筆記ボール2の曲面を転写しつつ鏡面化している。また、内方突出部9に切削により複数本、放射状に等間隔のインキ通溝13が形成されている。このインキ通溝13は、筆記ボール抱持部10へのインキ供給を確実なものとする為に後孔12へ貫通させているが、後孔12に貫通させずに中心孔11の途中で留めてもよい。そして、内方突出部9に筆記ボール2を押し付けることによって凹状のボール受け座部14が形成されており、ボール受け座部14は、筆記時に紙面などに当接して筆記ボール2が後退した時に筆記ボール2の位置を安定させ、不要な振動等の少ない円滑な回転を保障せんとするものであり、筆記ボール2とボール受け座部14とが略面状に接触するような形状としている。また、前記インキ通溝13は、内方突出部9に形成されているボール受け座部14より外側に開口部を有し、筆記ボール抱持部10へのインキ供給を確保しているものである。尚、本実施例では、インキ通溝13は周状に等間隔に5箇所形成しているが、その大きさや数は特に限定されるものではない。
図1、図3に示した一例に基づき、中間ボール4の直径を0.8(mm)と1.0(mm)の2種類として、それぞれの表面の算術平均高さ(Sa)を様々になるボールペンチップ1を作製し、それらを実施例1~実施例13、及び比較例1~比較例8とした。
また、筆記ボール2の直径は、0.8(mm)及び1.0(mm)とし、いずれの直径においても表面の算術平均高さ(Sa)は、4(nm)とした。
中間ボール4及び筆記ボール2の算術平均高さ(Sa)は、あらかじめ素球をダイヤモンドパウダーを使用して研磨加工し、表面が鏡面である所定のボール径に加工した後、表面に化学処理を行い所定の算術平均高さ(Sa)になるように微細な凹凸を形成するものである。化学処理の方法は村上試薬と呼ばれる赤血塩のアルカリ溶液に浸漬してエッチング処理をするもので、溶液濃度や浸漬時間によって算術平均高さ(Sa)を調整したものである。
尚、筆記ボール2と中間ボール4の表面の算術平均高さ(Sa)は、走査型プローブ顕微鏡(AFM5100N;(株)日立ハイテクサイエンス製)を用いて、任意の20μm×20μmの範囲を3か所測定し、平均値から算出した。
コイルスプリング5は、中間ボール4の直径Aが0.8(mm)、1.0(mm)のいずれにおいても、線径は0.15(mm)、コイル部5aの外周径は1.1(mm)、小径コイル部5bの外周径は1.0(mm)、密着コイル部5cの巻き数は3としたものを使用し、押圧荷重は20(gf)になるように凸部6の位置を変更しコイルスプリング5の撓み量によって調整した。
前述の押圧荷重は、ボールペンチップ1を作製した後に、デジタルフォースゲージ(ZTA-5N;(株)イマダ製)を用いて、ボールペンチップ1の筆記ボール2が前方に押圧されボールホルダー3の先端開口部8に周接した状態から、筆記ボール2を軸心方向に0.025(mm)後方に移動させた状態の時の荷重を測定した。
そして、作製したボールペンチップ1を、市販されているゲルインキボールペン替芯(ぺんてる(株)製、製品符号XLR7-A)のボールペンチップとして取り付け、インキタンク内には下記に示す試験用インキを充填し、ペン先の方向に遠心力が働くようにペン先を外側に向けて配置して、遠心分離機(国産遠心器(株)製、卓上遠心機H-103N)で遠心処理を施し、リフィル内の不要な空気を除去し、試験用ボールペンリフィルサンプルを作製し、下記の試験を行った。結果を表1に示す。
(試験用インキ)
ウォーターブラック#256L(黒色染料の14%水溶液、オリエント化学工業(株)
製) 35.0重量部
ウォーターイエロー#1(C.I.アシッドイエロー23、オリエント化学工業(株)
製) 1.2重量部
エチレングリコール 6.0重量部
グリセリン 8.0重量部
チオジグリコール 8.0重量部
サルコシネートOH(N-オレオイルサルコシン、日光ケミカルズ(株)製)
3.0重量部
ベンゾトリアゾール 0.5重量部
CWK(エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩、オリエント化学工業(株)製)
1.0重量部
プロクセルGXL(1,2-ベンゾイソチアゾリン-3-オンの20%ジプロピレングリコール溶液、アビシア(株)製) 0.2重量部
ハイドロキノンスルホン酸カリウム 0.3重量部
BC-5.5(ポリオキシエチレンセチルエーテル、HLB11.5、日光ケミカルズ(株)
製) 1.0重量部
AKP-20(微粒子アルミナ、平均粒子径0.5μm、住友化学工業(株)製)
0.1重量部
水酸化ナトリウム 0.3重量部
ケルザンAR(キサンタンガム、三晶(株)製) 0.4重量部
イオン交換水 35.0重量部
上記成分のうち、ケルザンARの全量を水5重量部に攪拌しながら加え1時間攪拌してケルザンAR水溶液を得た。次いで残りの成分を混合し1時間攪拌して均一に溶解した後ケルザンAR水溶液を加えて、更に2時間攪拌して粘度はELD型粘度計((株)トキメック製)にてST型ローターを用いて、温度25(℃)、剪断速度100(s-1)の条件にて測定し、200m(Pa・s)とした。
また、pH値は、コンパクトpHメーターB-212((株)堀場製作所製)を用いて測定し8.7の試験用の黒色インキを得た。
(試験1:低筆記速度抵抗値試験)
静・動摩擦測定機(Tribo-masterType TL201Sa;(株)トリニティーラボ製)を用い、試験用ボールペンリフィルの先端をJIS S 6039に規定される被筆記用紙に当て、ボールペンチップを被筆記用紙に押しつける力を100gf、被筆記用紙とボールペンチップとのなす角度を70°とし、被筆記用紙の移動速度を0.5cm/secの条件で、1.25cm移動させることによって筆記し、その際に被筆記用紙の移動によってボールペンリフィル本体が筆記の移動方向に掛かる荷重の大きさをロードセルにて感知し、それを筆記抵抗値として測定した。筆記抵抗値の測定は2.5秒間行い、その間に500個の測定データを得て、その内、書き初めを想定した筆記速度が0である測定開始直後から1.0秒までの間で得られた最初の200個のデータから、被筆記用紙の移動方向の筆記抵抗値の標準偏差を算出した。
尚、試験用ボールペンリフィルサンプルは各水準で5本ずつ準備し、各測定結果は5本の平均値を記載した。
被筆記用紙の移動方向の筆記抵抗値の標準偏差は、筆記した際に筆記する方向に向かって生じる筆記抵抗値のばらつきの大きさを捉えた値であり、この値が大きい程、筆記ボールの回転が重く感じる時と軽く感じる時の差が大きく筆記感に不快な振動を感じることになる。対して、この値が小さい程、不快な振動が小さく滑らかな筆記感であると言える。
また、上述した試験1で得られた5本の筆跡を目視確認し、筆跡の波打ち状態や直線度を評価し、各筆跡に対して下記に記載する基準に基づいて3段階評価を実施した。
○:書き初めから書き終わりまで筆跡の輪郭が真っ直ぐであり、直線度の高い筆跡が得られている。
△:書き初めから書き終わりまで間の輪郭の一部が波打っており、やや筆跡にブレが見られる。
×:書き初めから書き終わりまで間の輪郭の半分以上が波打っており、ブレが目立つ筆跡である。
(試験2:手書き官能試験)
試験1で用いた試験用ボールペンリフィルサンプルの各水準の5本の中からモニター1人につき1本ランダムで抜き取り、筆記用紙に「国会の年日」の文字を3回繰り返して筆記してもらい、各文字の書き初めに感じる筆記感を下記に記載する基準に基づいて3段階評価を実施した。尚、モニターは3人にて実施した。
○:書き初めが円滑であり、思った通りの文字が書ける
△:書き初めにやや抵抗感を感じるが、違和感無く文字が書ける
×:書き初めに抵抗感があり、思った通りの文字が書き難い
Figure 0007354873000001
実施例1~実施例4のものでは、試験1の被筆記用紙の移動方向の筆記抵抗値の標準偏差が非常に小さく、筆跡も波打ちの少ない直線度の高い筆跡となっている。そして、同時に実施した試験2の手書き官能試験においてもモニターは書き初めに筆記ボール2の不快な振動や、筆記しようとしている方向とは異なる方向に回転するといった抵抗感を感じること無く、思った通りの文字が書き易いと感じ、試験1の評価結果の違いが実使用においても効果を感じる結果になり、書き初めの筆記ボール2の回転に合わせて中間ボール4がしっかり回転し、筆記ボール2の回転が安定していると推察できる。特に、中間ボール4の算術平均高さ(Sa)が6(nm)以上になると試験1の抵抗値の標準偏差の値が大きく減少し、筆跡の状態も大きく向上していることから大きな効果が得られることが確認できた。これは本試験のサンプルにおいて、中間ボール4の算術平均高さ(Sa)が6(nm)を境に中間ボール4が筆記ボール2の回転に合わせて回り易い状態であるか、静止し易い状態にあるかの変曲点があるものと推察できる。しかし、中間ボール4の算出平均高さ(Sa)が20(nm)を超えると、試験1の抵抗値の標準偏差の値が再び増加し、筆跡も波打った状態が増えてしまっている。これは中間ボール4の表面の算術平均高さ(Sa)が大きいことで、弾撥部材であるコイルスプリング5やボールホルダー3の内壁面との接触による抵抗が増加し中間ボール4が回転しにくくなり、筆記ボール2の回転に合わせて中間ボール4が再び回転し難くなってしまったと推察できる。つまり、中間ボール4の表面の算出平均高さ(Sa)を6(nm)以上20(nm)以下とする事で、筆記ボールの回転が安定し、書き初めに筆記ボール2の不快な振動を感じることなく、円滑に、筆記方向とは異なる方向に筆跡が流れる事なく、波打つようなブレの少ない、直線度が高い筆跡が得られることがわかった。
実施例5~実施例8、比較例4、比較例5は筆記ボール2の直径が0.8(mm)に対して中間ボール4の直径を1.0(mm)にしたものである。その中で中間ボール4の直径が0.8(mm)の実施例1~実施例4と、中間ボール4の直径が1.0(mm)の実施例5~実施例8を比較すると、その差は小さいが中間ボール4の直径が1.0(mm)の方が被筆記用紙の移動方向の筆記抵抗値の標準偏差が小さい傾向にある。これは中間ボール4の直径が0.8(mm)よりも大きくなる事で後孔12内での中間ボール4のがたつきが少なくなり、筆記ボール2の回転に合わせて中間ボール4がより安定して回転し易くなっているものと推察できる。また、実施例9~実施例13、比較例6~比較例8は、筆記ボール2の直径を1.0(mm)としたものであるが、これらも筆記ボール2が0.8(mm)の時と同様に、中間ボール4の表面の算出平均高さ(Sa)が6(nm)以上20(nm)以下とする事で、書き初めに筆記ボール2の不快な振動や、波打つようなブレの少ない、直線度が高い筆跡が得られることがわかった。
本実施例のボールペンチップは、文字や図画を書く筆記用途の他に、ペン先を上向きに使用するアイシャドウやアイライナーなどの化粧料用塗布具として用いる事も可能である。
1 ボールペンチップ
2 筆記ボール
3 ボールホルダー
4 中間ボール
5 コイルスプリング
5a 大径コイル部
5b 小径コイル部
5c 密着コイル部
6 凸部
7 チップホルダー
8 先端開口部
9 内方突出部
10 筆記ボール抱持部
11 中心孔
12 後孔
13 インキ通溝
14 ボール受け座部

Claims (1)

  1. 筆記ボールと、この筆記ボールを先端開口部より一部突出させて回転可能に抱持するボールホルダーと、筆記ボールと接触し回転可能な中間ボールとを備えるボールペンチップにおいて、前記中間ボールの表面の算術平均高さ(Sa)を6(nm)以上20(nm)以下としたボールペンチップ。
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