JP7347983B2 - 樹脂エマルジョンの化学的安定性向上剤および樹脂エマルジョン - Google Patents

樹脂エマルジョンの化学的安定性向上剤および樹脂エマルジョン Download PDF

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Description

本発明は、樹脂エマルジョンの化学的安定性向上剤および樹脂エマルジョンに関する。
従来、塗料の分野では、トルエンやキシレン等の有機溶媒を蒸発させて皮膜化して用いる、いわゆる有機溶剤型のものが主流であった。しかし、作業安全、環境汚染の低減等の観点から、水性型の塗料への移行が強く望まれている。水性型の塗料の代表としては、樹脂粒子が水系媒体に分散した樹脂エマルジョンを用いた塗料(樹脂エマルジョン系塗料)が挙げられる。
樹脂エマルジョンは、通常、乳化重合により製造される。この際に使用される乳化剤は、重合の開始反応や生長反応に影響を及ぼすのみではなく、重合中の樹脂エマルジョンの安定性(重合安定性)や、生成した樹脂エマルジョンの機械的安定性、化学的安定性、凍結融解安定性、顔料混和性、貯蔵安定性などに影響を及ぼす。このうち、化学的安定性は、電解質の添加に対する耐性を指し、顔料の配合、セメントモルタルへの混入、凍結防止剤や成膜助剤など水溶性または高溶解性有機溶剤の添加の際に問題となる。
特許文献1~2には、乳化剤としてポリオキシアルキレンクミルフェニルエーテルの硫酸エステル塩またはリン酸エステル塩を用いて乳化重合を行うことで、重合安定性が向上することが記載されているが、生成した樹脂エマルジョンの化学的安定性については言及されていない。
特許文献3~4には、天然アルコール由来の乳化剤や特定の基で置換されたフェノール系乳化剤を用いて乳化重合を行うことで、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンが得られることが記載されている。
特開昭59-210903号公報 特開2005-320504号公報 特開2009-138168号公報 特開2017-133066号公報
しかし、特許文献3~4に記載の方法によって得られた樹脂エマルジョンは、依然として化学的安定性が不十分であった。
したがって、本発明の目的は、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンを得る手段を提供することにある。
本発明者らは鋭意研究を行った結果、下記の手段により、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の第一の態様は、下記式1で表される化合物からなる、樹脂エマルジョンの化学的安定性向上剤である:
上記式1中、
Aは、炭素数2~4の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、
nは、AOの平均付加モル数を表し、1~80の数であり、
は、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)または含窒素化合物カチオンである。
本発明の第二の態様は、下記式1で表される化合物と、重合性単量体(前記化合物を除く)と、を含む組成物の乳化重合物を含み、前記乳化重合物のガラス転移温度が-65~50℃である、樹脂エマルジョンである:
上記式1中、
Aは、炭素数2~4の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、
nは、AOの平均付加モル数を表し、1~80の数であり、
は、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)または含窒素化合物カチオンである。
本発明によれば、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンを得ることができる。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態のみには限定されない。
本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリルおよびメタクリルの総称を指す。同様に、「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよびメタクリロイルの総称を指す。
本発明の第一の態様に係る樹脂エマルジョンの化学的安定性向上剤(本明細書中、単に「化学的安定性向上剤」とも称する)は、下記式1で表される化合物からなる。この際、式1で表される化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。以下、下記式1で表される化合物を「化合物1」とも称する。
上記式1中、Aは、炭素数2~4の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、例えば、エチレン基(-(CH-);n-プロピレン基(-(CH-)、イソプロピレン基(-CH-CH(CH)-、-CH(CH)-CH-)等のプロピレン基;n-ブチレン基(-(CH-)、1-メチルプロピレン基(-CH-CH-CH(CH)-、-CH(CH)-CH-CH-)、2-メチルプロピレン基(-CH-CH(CH)-CH-)、ジメチルエチレン基(-CH-C(CH-、-C(CH-CH-)、エチルエチレン基(-CH-CH(CHCH)-、-CH(CHCH)-CH-)等のブチレン基;等が挙げられる。中でも、本発明の効果のさらなる向上の観点から、Aは、エチレン基(-(CH-)であることが好ましい。
上記式1中、nは、AOの平均付加モル数を表し、1~80の数である。中でも、化学安定性および重合安定性のバランスの観点からは、4~60の数が好ましく、4~30の数がより好ましく、8~20の数がさらにより好ましい。
上記式1中、Xは、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)または含窒素化合物カチオンである。ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)の中では、ナトリウムイオン(Na)が好ましい。また、含窒素化合物カチオンとしては、アンモニウムイオン(NH )、有機アミンカチオン、エチレン性不飽和結合を有するアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、アンモニウムイオン(NH )またはエチレン性不飽和結合を有するアンモニウムイオンが好ましい。有機アミンカチオンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン;モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン;エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等のポリアミン等の、有機アミン由来のカチオンが挙げられる。エチレン性不飽和結合を有するアンモニウムイオンとしては、特に制限されないが、例えば、N,N-ジメチルモノ(メタ)アクリル酸エチルアンモニウムイオン、N,N-ジエチルモノ(メタ)アクリル酸エチルアンモニウムイオン、N,N-ジメチルモノ(メタ)アクリル酸プロピルアンモニウムイオン、N,N-ジエチルモノ(メタ)アクリル酸プロピルアンモニウムイオン等が挙げられる。これらの中でも、本発明の効果のさらなる向上の観点から、N,N-ジメチルモノ(メタ)アクリル酸エチルアンモニウムイオンが好ましく、N,N-ジメチルモノメタクリル酸エチルアンモニウムイオンがより好ましい。すなわち、本発明の好ましい実施形態において、上記式1におけるXは、ナトリウムイオン(Na)、アンモニウムイオン(NH )またはN,N-ジメチルモノメタクリル酸エチルアンモニウムイオンである。
上記式1で表される化合物の好ましい例としては、後述の実施例に記載の化合物1a~1fが挙げられるが、これらに限定されない。
上記式1で表される化合物の製造方法は、特に制限されない。例えば、後述の実施例に記載したように、塩基触媒存在下でクミルフェノールにアルキレンオキシドを付加した後、硫酸化剤と反応させて硫酸エステル化し、アンモニアで中和し、さらに必要に応じて陽イオン交換を行うことで、製造することができる。
本発明の化学的安定性向上剤によれば、化学的安定性(電解質の添加に対する耐性)に優れた樹脂エマルジョンを得ることができる。本発明の化学的安定性向上剤の使用方法は、特に制限されないが、例えば、当該化学的安定性向上剤を乳化剤として用いて重合性単量体を乳化重合することで、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンを得ることができる。すなわち、本発明の好ましい一実施形態は、上記化学的安定性向上剤と、重合性単量体(上記化学的安定性向上剤を除く)と、を含む組成物の乳化重合物を含む、樹脂エマルジョンである。あるいは、任意の乳化剤を用いて重合性単量体を乳化重合して得られた樹脂エマルジョンに対し、本発明の化学的安定性向上剤を添加することによっても、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンを得ることができる。
本発明の第二の態様に係る樹脂エマルジョンは、上記式1で表される化合物と、重合性単量体(上記化合物を除く)と、を含む組成物の乳化重合物を含み、前記乳化重合物のガラス転移温度が-65~50℃である。当該樹脂エマルジョンは、化学的安定性に優れており、塗料として好適に使用されうる。この際、上記式1で表される化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。樹脂エマルジョンの塗料としての利用を考慮すると、乳化重合物のガラス転移温度は、好ましくは-30~40℃であり、より好ましくは-10~30℃である。
なお、乳化重合物のガラス転移温度(単位:℃)は、下記式から計算により求められるTg(単位:K)をセルシウス温度に換算した値である。
上記式中、Tg1、Tg2、・・・、Tg(k-1)、Tgkは、各重合性単量体の単独重合体のガラス転移温度(K)を表す。また、w1、w2、・・・、w(k-1)、wkは、各重合性単量体の質量分率を表し、w1+w2+・・・+w(k-1)+wk=1である。
上記化合物1およびこれを含む化学的安定性向上剤によって、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンが得られる理由は定かではないが、以下のように推測される。通常、樹脂エマルジョン系塗料には、樹脂エマルジョン以外に顔料や添加剤が配合されており、顔料や添加剤には電解質が含まれていることが多い。また、塗料が塗装される基材としてセメントや石膏などの電解質を含む基材があり、塗装時に基材中の電解質が塗装側に溶出することがある。このため、塗料の製造・貯蔵時や基材への塗装時に、樹脂エマルジョンが電解質の影響を受けて塩析し、塗料の粘度上昇や凝固といった問題が生じうる。これに対し、上記化合物1を樹脂エマルジョンに適用した場合には、上記化合物1の疎水基中のフェニル基が化合物1の樹脂粒子表面への吸着を促進し、樹脂粒子の安定化に寄与していると考えられる。さらに、上記化合物1は、疎水基が特有の分布のない均一構造であるため、樹脂粒子の表面に緻密に配向し、樹脂粒子の安定性をさらに高めていると考えられる。これにより、上記化合物1(またはこれを含む化学的安定性向上剤)を用いて得られた樹脂エマルジョンは、電解質の影響による塩析を生じにくく、電解質の添加に対する耐性(化学的安定性)に優れると考えられる。
乳化重合の方法としては、(1)重合性単量体を乳化剤および水系媒体中に滴下しながら重合を行う方法(単量体滴下法);(2)原料(重合性単量体、乳化剤および水系媒体)の全量を混合したものから一括で重合を行う方法(単量体一括仕込み法);(3)原料のうちの一部(重合性単量体のうちの1種または2種以上等、乳化剤、水系媒体、および重合開始剤)を用いて初期重合しシードエマルジョンを製造した後、シードエマルジョンへ残りの原料を添加して乳化重合を行う方法(シードエマルジョン法);(4)パワーフィード法等が挙げられる。また、(1)~(4)の乳化重合は、単層重合でも多段重合であっても良い。中でも、粒径をコントロールしやすいことから、上記(3)の方法が好ましい。なお、上記(1)~(4)の方法において使用される水系媒体は、少なくとも水を50質量%以上含有するものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられる。好ましくは、水系媒体として水のみを使用する。
上記(3)の方法においては、原料全量の5~10質量%を初期重合してシードエマルジョンを製造した後、残りの原料をシードエマルジョンへ添加して乳化重合を行うことが好ましい。
乳化剤として上記化合物1(またはこれを含む化学的安定性向上剤)を使用して乳化重合を行う場合、上記化合物1の使用量は、重合性単量体(上記化合物1を除く)の合計質量100質量部に対して、好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは1.0~5.0質量部であり、さらにより好ましくは1.0~2.5質量部である。
重合性単量体としては、特に制限はなく、従来公知の重合性単量体が用いられうるが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピルなどのアクリル酸またはメタクリル酸のエステル類;臭化ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸、プロピオン酸、第三級合成飽和カルボン酸等の脂肪酸類のビニルエステル類:スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族ビニル類:エチレン、ブタジエンなどのモノオレフィンまたは共役ジオレフィン類:アクリロニトリルなどのシアン化ビニル類:アクリルアミドなどのα,β-不飽和アミド類:(メタ)アクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸などのα,β-不飽和カルボン酸類が挙げられる。
中でも、重合性単量体は、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸の組み合わせが好ましく、重合性単量体の合計量100質量部に対して、アクリル酸n-ブチル10~70質量部、メタクリル酸メチル10~70質量部、アクリル酸0.1~5質量部、およびその他の重合性単量体0~90質量部(好ましくは0~79.9質量部)からなることが好ましい。上記化合物1と当該組成を有する重合性単量体とを組み合わせることで、化学的安定性に優れた樹脂エマルジョンが得られやすく好ましい。その他の重合性単量体としては、アクリル酸n-ブチル、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸と共重合可能なものであれば特に制限されない。
上記化合物1は、単独でも十分に乳化剤として機能するが、必要に応じて従来公知の界面活性剤、反応性乳化剤、高分子量乳化剤、保護コロイドなどを併用することもできる。
乳化重合において使用できる重合開始剤としては、特に制限されず、カリウム、ナトリウム、アンモニウムの過硫酸塩または過ホウ酸塩、過酸化水素などの無機過酸化物;過酸化ベンゾイル、ジ-t-ブチルパーオキシド、過酢酸などの有機過酸化物;2,2-アゾビスイソブチロニトリル、4-アゾビス-(4-シアノペンタノイック)酸またはそのアルカリ金属塩などのラジカル生成重合開始剤を使用することができる。
重合開始剤の使用量としては、重合性単量体(上記化合物1を除く)の合計質量100質量部に対して、0.01~3.0質量部が好ましく、0.1~2.0質量部がより好ましく、0.1~1.0重量部がさらにより好ましい。
また、重合開始剤として過酸化物を使用する場合、必要があれば、当該過酸化物とアスコルビン酸、可溶性亜硫酸塩、ハイドロサルファイト、チオ硫酸塩などの還元剤とを併用することができ、また水中で重金属イオンを発生する金属単量体または硫酸第一鉄などの水中で金属イオンを発生する金属化合物とを組み合わせてレドックス系重合開始剤として使用することもできる。
また、連鎖移動剤も併用することができ、そのようなものとして例えばt-ドデシルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、四塩化炭素、クロロホルム、トリフェニルメタンなどを使用することができる。
さらに、乳化重合技術において通常使用される添加剤(キレート化剤、緩衝剤、有機酸の塩、溶媒など)を使用することができる。
乳化重合の温度は、特に制限されないが、好ましくは60~90℃である。また、乳化重合の時間も、特に制限されないが、好ましくは1~10時間である。
乳化重合を行った後、中和、精製等の工程を行ってもよい。
樹脂エマルジョンのpHは、樹脂粒子が安定に分散できる限り特に制限されないが、例えばpH6~10である。
本発明に係る樹脂エマルジョンにおいて、樹脂粒子の平均粒径は、50~400nmであることが好ましい。なお、樹脂粒子の平均粒径は、株式会社堀場製作所製 LA-950V2により算出される値を採用するものとする。
上記化合物1を樹脂エマルジョンの添加剤として使用する場合、上記化合物1の添加量は特に制限されないが、樹脂エマルジョンの固形分100質量部に対して、0.1~20質量部が好ましい。
本発明に係る樹脂エマルジョンの用途は特に制限されないが、塗料に好適に用いられる。例えば、本発明の樹脂エマルジョンに、塗料に通常使用される公知の顔料、添加剤、溶媒等を添加して混合することで、塗料を得ることができる。
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
<化合物1の合成>
[合成例1]
オートクレーブに、原料としてのクミルフェノール1モルおよび塩基触媒としての水酸化カリウム0.34gを仕込み、約145℃で窒素雰囲気下、エチレンオキシド4モルを付加した。次に、硫酸化剤としてスルファミン酸1モルを添加して、約115℃で3時間かけて、生成物を硫酸エステル化し、得られた硫酸エステル化物をアンモニアでpH約8に中和し、化合物1aを得た。
[合成例2]
製造例1で得られた化合物1aを水酸化ナトリウムで対イオン交換を行い、化合物1bを得た。
[合成例3]
エチレンオキシドの付加モル数を11モルに変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物1cを得た。
[合成例4]
化合物1cを水酸化ナトリウムで対イオン交換を行い、化合物1dを得た。
[合成例5]
化合物1cをメタクリル酸2-ジメチルアミノエチルを用いて対イオン交換を行い、化合物1eを得た。
[合成例6]
エチレンオキシドの付加モル数を60モルに変更したこと以外は合成例1と同様にして、化合物1fを得た。
上記合成例で得られた化合物1a~1fを上記式1に照らすと以下のとおりである。
<樹脂エマルジョンの調製>
[実施例1-1]
300mLの三角フラスコに、アクリル酸n-ブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)99質量部、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)99質量部、アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)2質量部を仕込み混合し、単量体混合液を調製した。別の500mLの三角フラスコに脱イオン水96質量部、化合物1a 4.0質量部を仕込み攪拌子にて混合した。そのフラスコに先程の単量体混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液10質量部を添加し、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水100質量部、調製したプレエマルジョンの5%にあたる15.5質量部を仕込み80℃に昇温した。80℃で30分間保ち、初期重合を行なった。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行なった。その後、80℃で1時間熟成を行なった後に室温まで冷却した。25質量%アンモニア水溶液でpHを8.0に調整して固形分50.0質量%の樹脂エマルジョン(アクリル酸n-ブチル/メタクリル酸メチル/アクリル酸=49.5/49.5/1(質量比)、組成A)を得た。当該樹脂エマルジョンについて、樹脂粒子の平均粒径は187nmであり、樹脂(乳化重合物)のガラス転移温度は4.5℃であった。
[実施例1-2]
化合物1aを化合物1bに変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例1-3]
化合物1aを化合物1cに変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例1-4]
化合物1aを化合物1dに変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例1-5]
化合物1aを化合物1eに変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例1-6]
化合物1aを化合物1fに変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例1-1]
化合物1aをニューコール(登録商標)707-SF(日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、以下「N-707-SF」と称する)に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例1-2]
化合物1aをニューコール(登録商標)707-SN(日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル硫酸エステルナトリウム塩、以下「N-707-SN」と称する)に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例1-3]
化合物1aをニューコール(登録商標)2308-SF(日本乳化剤株式会社製、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩、以下「N-2308-SF」と称する)に変更したこと以外は実施例1-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例2-1]
300mLの三角フラスコに、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)10質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)60質量部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)130質量部、メタクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)4質量部を仕込み混合し、単量体混合液を調製した。別の500mLの三角フラスコに脱イオン水96質量部、化合物1a 4.1質量部を仕込み攪拌子にて混合した。そのフラスコに先程の単量体混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液10質量部を添加し、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水100質量部、調製したプレエマルジョンの5%にあたる15.5質量部を仕込み80℃に昇温した。80℃で30分間保ち、初期重合を行なった。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行なった。その後、80℃で1時間熟成を行なった後に室温まで冷却した。25質量%アンモニア水溶液でpHを8.0に調整して固形分50.0質量%の樹脂エマルジョン(メタクリル酸メチル/アクリル酸2-エチルヘキシル/スチレン/メタクリル酸=4.9/29.4/63.7/1.96(質量比)、組成B)を得た。当該樹脂エマルジョンについて、樹脂粒子の平均粒径は235nmであり、樹脂(乳化重合物)のガラス転移温度は39.8℃であった。
[実施例2-2]
化合物1aを化合物1bに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例2-3]
化合物1aを化合物1cに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例2-4]
化合物1aを化合物1dに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例2-5]
化合物1aを化合物1fに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例2-1]
化合物1aをN-707-SFに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例2-2]
化合物1aをN-707-SNに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例2-3]
化合物1aをN-2308-SFに変更したこと以外は実施例2-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例3-1]
300mLの三角フラスコに、アクリル酸n-ブチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)100質量部、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)70質量部、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)30質量部、アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)4質量部を仕込み混合し、単量体混合液を調製した。別の500mLの三角フラスコに脱イオン水96質量部、化合物1a 4.1質量部を仕込み攪拌子にて混合した。そのフラスコに先程の単量体混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液10質量部を添加し、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水100質量部、調製したプレエマルジョンの5%にあたる15.5質量部を仕込み80℃に昇温した。80℃で30分間保ち、初期重合を行なった。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行なった。その後、80℃で1時間熟成を行なった後に室温まで冷却した。25質量%アンモニア水溶液でpHを8.0に調整して固形分50.0質量%の樹脂エマルジョン(アクリル酸n-ブチル/メタクリル酸メチル/スチレン/アクリル酸=49.0/34.3/14.7/1.96(質量比)、組成C)を得た。当該樹脂エマルジョンについて、樹脂粒子の平均粒径は177nmであり、樹脂(乳化重合物)のガラス転移温度は5.0℃であった。
[実施例3-2]
化合物1aを化合物1bに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例3-3]
化合物1aを化合物1cに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例3-4]
化合物1aを化合物1dに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例3-5]
化合物1aを化合物1fに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例3-1]
化合物1aをN-707-SFに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例3-2]
化合物1aをN-707-SNに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例3-3]
化合物1aをN-2308-SFに変更したこと以外は実施例3-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例4-1]
300mLの三角フラスコに、メタクリル酸メチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)18質量部、アクリル酸2-エチルヘキシル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)180質量部、アクリル酸(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)2質量部を仕込み混合し、単量体混合液を調製した。別の500mLの三角フラスコに脱イオン水96質量部、化合物1b 4.0質量部を仕込み攪拌子にて混合した。そのフラスコに先程の単量体混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液10質量部を添加し、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水100質量部、調製したプレエマルジョンの5%にあたる15.5質量部を仕込み80℃に昇温した。80℃で30分間保ち、初期重合を行なった。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行なった。その後、80℃で1時間熟成を行なった後に室温まで冷却した。25質量%アンモニア水溶液でpHを8.0に調整して固形分50.0質量%の樹脂エマルジョン(メタクリル酸メチル/アクリル酸2-エチルヘキシル/メタクリル酸=9/90/1(質量比)、組成D)を得た。当該樹脂エマルジョンについて、樹脂粒子の平均粒径は416nmであり、樹脂(乳化重合物)のガラス転移温度は-40.5℃であった。
[実施例4-2]
化合物1bを化合物1cに変更したこと以外は実施例4-2と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例4-3]
化合物1bを化合物1dに変更したこと以外は実施例4-3と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例4-4]
化合物1bを化合物1fに変更したこと以外は実施例4-4と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例4-1]
化合物1bをN-707-SFに変更したこと以外は実施例4-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例4-2]
化合物1bをN-707-SNに変更したこと以外は実施例4-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例4-3]
化合物1bをN-2308-SFに変更したこと以外は実施例4-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例5-1]
300mLの三角フラスコに、スチレン(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)80質量部、アクリル酸エチル(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)120質量部を仕込み混合し、単量体混合液を調製した。別の500mLの三角フラスコに脱イオン水96質量部、化合物1c 4.0質量部を仕込み攪拌子にて混合した。そのフラスコに先程の単量体混合液を5回に分けて投入した。十分に混合した後、10質量%過硫酸アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製 特級試薬)水溶液10質量部を添加し、プレエマルジョンを調製した。攪拌機、温度計、窒素吹き込み管、還流冷却器、滴下ロートを取り付けた4ツ口フラスコに、脱イオン水100質量部、調製したプレエマルジョンの5%にあたる15.5質量部を仕込み80℃に昇温した。80℃で30分間保ち、初期重合を行なった。初期重合後、残りのプレエマルジョンを3時間かけて滴下して重合を行なった。その後、80℃で1時間熟成を行なった後に室温まで冷却した。25質量%アンモニア水溶液でpHを8.0に調整して固形分50.0質量%の樹脂エマルジョン(スチレン/アクリル酸エチル=40/60(質量比)、組成E)を得た。当該樹脂エマルジョンについて、樹脂粒子の平均粒径は126nmであり、樹脂(乳化重合物)のガラス転移温度は14.2℃であった。
[比較例5-1]
化合物1aをN-707-SFに変更したこと以外は実施例5-1と同様にして、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例6-1]
比較例3-1で得られた樹脂エマルジョン20質量部をディスパーで撹拌しながら、化合物1c 0.05質量部を添加し、室温で3分撹拌し、樹脂エマルジョンを調製した。
[実施例6-2]
比較例3-1で得られた樹脂エマルジョン20質量部を室温(25℃)で撹拌しながら、化合物1c 0.10質量部を添加し、室温で3分撹拌し、樹脂エマルジョンを調製した。
[比較例6-1]
比較例3-1で得られた樹脂エマルジョン20質量部を室温(25℃)で撹拌しながら、N-707-SF 0.10質量部を添加し、室温で3分撹拌し、樹脂エマルジョンを調製した。
<樹脂エマルジョンの評価>
(1)重合転化率
得られた各樹脂エマルジョン1gを秤量して純水4gを加えた後、110℃にて90分乾燥させた後の蒸発残分を質量%で表し、固形分量とした。次に、以下の式から重合転化率を算出した。
(2)化学的安定性
得られた各樹脂エマルジョン20gに40質量%塩化カルシウム水溶液を撹拌しながら滴下し、目視により凝固した点を終点とした。塩化カルシウム水溶液の滴下量(mL)が大きいほど、化学的安定性良好であることを意味する。
(3)重合安定性
得られた各樹脂エマルジョンを200μmのメッシュナイロンでろ過し、残渣の質量から、下記の式より、重合安定性を算出した。値が小さいほど重合安定性に優れていることを意味する。
下記表2~6中、各略称は以下のとおりである:
BA:アクリル酸n-ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
2-EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル
ST:スチレン
EA:アクリル酸エチル
AA:アクリル酸
MAA:メタクリル酸。
上記表2~6は、上記式1で表される化合物を乳化剤として用いて乳化重合して得られた樹脂エマルジョンの化学的安定性を示す。表2によれば、乳化重合により樹脂エマルジョンを製造する際の乳化剤として、上記式1で表される化合物を用いた場合(実施例1-1~1-6)は、上記式1を満たさない化合物を用いた場合(比較例1-1~1-3)に比べて、得られる樹脂エマルジョンの化学的安定性が高いことがわかった。表3~6においても同様の傾向が見られた。乳化剤として化合物1cを用いた実施例を対比すると、組成Eの樹脂エマルジョン(実施例5-1)に比べて、組成A~Dの樹脂エマルジョン(実施例1-3、2-3、3-3、4-2)は、高い化学的安定性を示した。
上記表7は、従来公知の乳化剤を用いて乳化重合して得られた樹脂エマルジョン(比較例3-1)に対し、上記式1で表される化合物を後添加した場合の化学的安定性を示す。樹脂エマルジョンに添加剤として上記式1で表される化合物を添加した場合(実施例6-2)は、上記式1を満たさない化合物を添加した場合(比較例6-1)に比べて、樹脂エマルジョンの化学的安定性が顕著に向上した。さらに、上記式1で表される化合物の添加量を実施例6-2の半分に減らした場合も、良好な化学的安定性向上効果が得られた(実施例6-1)。
上記結果より、式1で表される化合物は、樹脂エマルジョンの化学的安定性向上効果に優れることが確認された。

Claims (4)

  1. 下記式1で表される化合物からなる、セメントや石膏などの電解質を含む基材に塗装される塗料に用いられる、電解質による樹脂エマルジョンの凝固防止剤

    上記式1中、
    Aは、炭素数2~4の直鎖状または分岐状のアルキレン基であり、
    nは、AOの平均付加モル数を表し、1~80の数であり、
    は、ナトリウムイオン(Na)、カリウムイオン(K)または含窒素化合物カチオンである。
  2. 請求項1に記載の凝固防止剤と、重合性単量体(前記凝固防止剤を除く)と、を含む組成物の乳化重合物を含む、塗料用樹脂エマルジョン。
  3. 記乳化重合物のガラス転移温度が-65~50℃である、請求項2に記載の塗料用樹脂エマルジョン
  4. 前記重合性単量体が、前記重合性単量体の合計量100質量部に対して、アクリル酸n-ブチル10~70質量部、メタクリル酸メチル10~70質量部、アクリル酸0.1~5質量部、およびその他の重合性単量体0~90質量部からなる、請求項2または3に記載の塗料用樹脂エマルジョン。
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