[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1~図19を用いて説明する。なお、図1~図10、および図15(A)には、ステアリングホイール1(図26参照)の位置が保持されるロック位置に、調節レバー23aを揺動操作した状態が示されており、図15(B)、図16、図18および図19には、ステアリングホイール1の位置調節が可能になるアンロック位置に、調節レバー23aを揺動操作した状態が示されている。
本例のステアリング装置は、ステアリングホイール1をその後端部に支持するステアリングシャフト5aと、車体11(図26参照)に支持され、ステアリングシャフト5aを、その内側に軸方向に挿通した状態で複数の転がり軸受を介して回転自在に支持する筒状のステアリングコラム6aとを備える。
ステアリングコラム6aの前端部には、電動アシスト装置を構成するギヤハウジング10aが固定される。ギヤハウジング10aは、車体11に固定可能なロアブラケット32に対して、幅方向に配置されたチルト軸12aを中心とする揺動変位を可能に支持される。ギヤハウジング10aには、図示しない電動モータが支持され、この電動モータの出力トルクは、ギヤハウジング10aの内部に配置した減速機構を介して、ステアリングシャフト5aに付与される。これにより、ステアリングホイール1の操作に要する力の軽減が図られる。
本例のステアリング装置は、運転者の体格や運転姿勢に応じて、ステアリングホイール1の前後位置を調節するためのテレスコピック機構、および、ステアリングホイール1の上下位置を調節するためのチルト機構を備える。
ステアリングコラム6aは、前側(ロアー側)に配置されたインナコラム19aの後部に、後側(アッパー側)に配置されたアウタコラム18aの前部が、軸方向に関する相対変位を可能に嵌合して、全長を伸縮可能に構成される。アウタコラム18aは、支持ブラケット14aに対して前後方向に移動可能に支持される。ステアリングシャフト5aは、インナシャフト33とアウタシャフト34とがスプライン係合などによりトルク伝達可能かつ伸縮可能に組み合わされた構造を有する。このような構造により、テレスコピック機構が構成される。ただし、テレスコピック機構が省略され、チルト機構のみを備える構造では、ステアリングコラムは、単一の筒状部材により構成されることができる。
ステアリングコラム6aおよびギヤハウジング10aが、車体11に対してチルト軸12aを中心とする揺動変位を可能に支持され、アウタコラム18aが、支持ブラケット14aに対して上下方向に移動可能に支持されることにより、チルト機構が構成される。
アウタコラム18aは、アルミニウム系合金、マグネシウム系合金などの軽合金製で、前半部に配置された被挟持部35と、炭素鋼などの鉄系合金製で、後半部に配置され、被挟持部35に軸方向に結合された筒状部36とにより構成される。被挟持部35は、支持ブラケット14aに対して前後方向および上下方向に移動可能に支持される。具体的には、アウタコラム18aの被挟持部35は、その上半部にコラム嵌合部37を、その下半部に変位ブラケット13aを備える。図10に示すように、コラム嵌合部37は、インナコラム19aの後部に外嵌され、その下端部に軸方向に伸長するスリット20aを備える。本例では、変位ブラケット13aは、コラム嵌合部37の下側で、スリット20aの幅方向両側に配置された1対の被挟持板部21c、21dを備える。1対の被挟持板部21c、21dの下端部同士は、幅方向に連結している。本例では、アウタコラム18aの前半部が、ステアリングコラム6aの一部に相当する。
1対の被挟持板部21c、21dは、その幅方向に貫通するコラム側通孔に相当し、かつ、前後方向に伸長する前後方向長孔(テレスコ調節用長孔)16c、16dを備える。図示の例では、前後方向長孔16c、16dは、被挟持板部21c、21dに形成された下孔38a、38bと、下孔38a、38bの幅方向外半部の内側に装着された、合成樹脂製で長円筒状のスリーブ39a、39bの内面により構成される。スリーブ39a、39bは、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリ四フッ化エチレン樹脂などの摺動性に優れた合成樹脂製である。ただし、テレスコピック機構が省略され、チルト機構のみを備える構造では、コラム側通孔は、単なる円孔により構成されることができる。
支持ブラケット14aは、鋼やアルミニウム系合金などの十分な剛性を有する金属板製で、取付板部40と、取付板部40に連結され、変位ブラケット13aの幅方向両側に配置された1対の支持板部22c、22dと、1対の支持板部22c、22dに備えられた、上下方向に伸長する1対の上下方向長孔(チルト調節用長孔)15c、15dとを有する。
取付板部40は、車体に支持固定された係止カプセル41に対して前方への離脱を可能に係止される。取付板部40は、通常時には係止カプセル41を介して車体11に対して支持されるが、衝突事故の際には、二次衝突の衝撃に基づいて係止カプセル41から前方に離脱し、アウタコラム18aの前方への変位が許容される。
取付板部40は、幅方向中央部に配置されたブリッジ部42と、幅方向両側部に配置された1対のサイド板部43a、43bとを備える。ブリッジ部42は、断面逆U字状で、アウタコラム18aの被挟持部35の上方に配置される。ブリッジ部42は、前後方向に離隔した状態で配置された、複数(図示の例では3つ)のリブ44を備え、その剛性確保が図られている。1対のサイド板部43a、43bのそれぞれは、平板状で、その後端縁に開口し、係止カプセル41を係止するための係止切り欠きを備える。1対のサイド板部43a、43bのそれぞれは、その前端部の幅方向内端部に、略L字状の係止腕部45a、45bを備える。係止腕部45a、45bは、1対のサイド板部43a、43bのそれぞれの前端部の幅方向内端部から下方に向けて略直角に折れ曲がり、その下端部から前方に向けて突出する形状を有する。係止腕部45a、45bの形状およびその形成位置は、幅方向に関して対称であることが好ましい。
1対の支持板部22c、22dの上端部は、ブリッジ部42の下面の幅方向両端部に溶接により固定されている。1対の支持板部22c、22dは、アウタコラム18aの被挟持部35の幅方向両側に互いに略平行に配置されている。本例では、1対の支持板部22c、22dは、チルト軸12aを中心とする部分円弧状で上下方向に伸長する1対の上下方向長孔15c、15dを備える。また、1対の支持板部22c、22dは、その前端部に、上下方向に伸長する補強突条46a、46bを備える。補強突条46a、46bの上端部は、ブリッジ部42に連続していない。本例では、1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に、引張ばね73a、73bが配置されるため、断面係数を確保しつつ幅方向外側への突出量を抑えるために、補強突条46a、46bは、その前端部が幅方向内側に折り返された断面円弧状の形状を有する。1対の支持板部22c、22dは、その後端部に、上下方向に伸長し、幅方向外側に向けて略直角に折れ曲がった曲げ板部47a、47bを備える。補強突条46a、46bおよび曲げ板部47a、47bは、支持板部22c、22dの曲げ剛性(捩り強度)を高めるために備えられる。上下方向長孔の形状は、チルト軸を中心とした部分円弧状に限られず、代替的に、上方に向かうほど後方に向かう方向に伸長した直線状の形状を採用することもできる。
図10に示すように、調節ロッド17aは、1対の前後方向長孔16c、16dおよび1対の上下方向長孔15c、15dを幅方向に挿通するように配置される。調節ロッド17aは、その一端部に頭部48を備え、その他端部に雄ねじ部49を備える。調節ロッド17aの一端側で、1対の支持板部22c、22dのうちの一方の支持板部22cの外側面から突出した部分の周囲に、すなわち、頭部48と一方の支持板部22cの外側面と間に、幅方向外側から順に、皿ばね50、調節レバー23a、カム装置24aが配置される。調節ロッド17aの他端側で、1対の支持板部22c、22dのうちの他方の支持板部22dの外側面から突出した部分の周囲に、幅方向外側から順に、ナット28a、スラスト軸受29a、押圧プレート30aが配置される。ナット28aは、調節ロッド17aの他端部の雄ねじ部49に螺合している。調節ロッド17aの両端部に配置された頭部48およびナット28aは、調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位が不能であるため、頭部48およびナット28aの幅方向内側に配置された部材が幅方向外側に変位することを阻止する変位規制部として機能する。
本例の構造では、調節レバー23aとカム装置24aにより拡縮機構が構成されている。調節レバー23aを揺動させて、カム装置24aの幅方向寸法を拡縮させることにより、1対の押圧部を構成する被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔および1対の支持板部22c、22dの内側面同士の間隔が拡縮可能である。この拡縮機構により、支持ブラケット14aが変位ブラケット13aを幅方向両側から挟持するクランプ力の大きさが調節可能となる。
調節レバー23aは、運転者がステアリングホイール1の位置を調節する際に揺動操作するための部材である。調節レバー23aは、鋼板やステンレス鋼板などの金属板製で、略クランク形に折れ曲がった長尺状の形状を有する。本例では、調節レバー23aは、先端側に向かうほど、後方側(運転席側)に、かつ、下方に伸長するように配置される。調節レバー23aは、その前端側部分(上端側部分)に、平板状の基部51を備える。基部51は、板厚方向に貫通する略矩形状の取付孔52を備える。基部51は、取付孔52よりも前方に位置する略台形状の部分に、ばね係止孔53を備える。調節レバー23aは、取付孔52を利用して、駆動側カム25aに相対回転不能に固定される。このため、調節レバー23aの揺動操作により、駆動側カム25aは、被駆動側カム26aに対して相対回転可能である。本例では、調節レバー23aを上方に揺動させた図15(A)(a)に示す状態では、カム装置24aがロック状態となり、調節レバー23aを下方に揺動させた図15(B)(a)に示す状態では、カム装置24aがアンロック状態となる。
本例では、ばね係止孔53は、図16に示すように、単なる円孔ではなく、前側(図16の左側)に配置された略三角形の開口形状を有する(三角孔である)ガイド孔部79と、後側(図16の右側)に配置された略半円形の開口形状を有する大径孔部80とを組み合わせた、略涙形の開口形状を有する。ガイド孔部79は、前側に向かうほど互いに近づく方向に傾斜した1対の直線状のガイド辺81a、81bと、1対のガイド辺81a、81bの前端部同士を連結した部分円弧状の連結部82を有する。1対のガイド辺81a、81bは、調節ロッド17aの中心軸O17に直交し、かつ、連結部82の円周方向中央部を通る仮想直線Nに関して線対称である。このため、仮想直線Nは、1対のガイド辺81a、81bの対象軸であり、1対のガイド辺81a、81b同士の間の挟角θ3の二等分線と一致する。また、大径孔部80の中心O80は、仮想直線N上に位置する。大径孔部80の内径d80は、引張ばね73aのフック部74bの線径D74よりも十分に大きい(d80>D74)。連結部82の曲率半径は、フック部74bの線径D74の2分の1よりも小さい。1対のガイド辺81a、81b同士の間の挟角θ3の大きさは、フック部74bの線径D74や基部51の形状などを考慮して決定され、たとえば30度~90度の範囲、好ましくは45度~75度の範囲で設定される。なお、図示の例では、挟角θ3の大きさは60度である。
本例では、上述したように、ばね係止孔53は、ガイド孔部79の略三角形の開口形状と大径孔部80の略半円形の開口形状とを組み合わせた、全体として略涙形の開口形状を有する。ただし、ばね係止孔の形状は、この形状に限られず、以下のような形状も採りうる。すなわち、ガイド孔部は、略三角形の開口形状に代替して、略台形の開口形状を有することができる。大径孔部は、引張ばね73aのフック部74bの線径D74よりも十分に大きな略台形の開口形状を有することができる。代替的に、ばね係止孔は、ガイド孔部の略三角形の開口形状と大径孔部の前記略台形の開口形状とを組み合わせた、全体として略三角形の開口形状を有することができる。代替的に、ばね係止孔は、ガイド孔部の略台形の開口形状と大径孔部の略台形の開口形状とを組み合わせた、全体として略台形の開口形状を有することもできる。
本例では、カム装置24aは、駆動側カム25aと被駆動側カム26aの組み合わせにより構成されている。駆動側カム25aが幅方向外側に配置され、被駆動側カム26aが幅方向内側に配置される。ただし、テレスコピック機構が省略され、チルト機構のみを備える構造では、駆動側カム25aが幅方向内側に配置され、被駆動側カム26aが幅方向外側に配置されることもできる。この配置では、駆動側カム25aが拡縮機構を構成する。この場合、以下の説明における幅方向の向きが逆となる。
駆動側カム25aは、焼結金属製で、全体として円輪板状の形状を有し、調節ロッド17aを挿通するための中心孔54を備える。図12(A)に示すように、駆動側カム25aは、幅方向片側面である内側面と、幅方向他側面である外側面とを有する。駆動側カム25aは、前記内側面に、周方向に関する凹凸面である駆動側カム面55を備える。図12(B)に示すように、駆動側カム25aは、前記外側面に、調節レバー23aの基部51を嵌合固定するための正面視で略矩形状の嵌合凸部56を備える。
駆動側カム面55は、平坦面状の駆動側基底面57と、駆動側基底面57の円周方向等間隔複数個所(図示の例では4個所)からそれぞれ幅方向片側に相当する幅方向内方に向けて突出した、断面略台形状の駆動側凸部58を有する。駆動側凸部58の円周方向両側面のうち、アンロック状態に切り替える際の駆動側カム25aの回転方向であるアンロック方向に関する前方側には、駆動側ストッパ面59が備えられ、その後方側には、駆動側案内斜面60が備えられる。駆動側案内斜面60と駆動側ストッパ面59とは、円周方向に関する傾斜方向が反対であり、駆動側基底面57に対する傾斜角度の大きさは、駆動側ストッパ面59の方が駆動側案内斜面60よりも大きい。本例では、実質的に駆動側ストッパ面59が利用されることはない。
駆動側カム25aの嵌合凸部56に、調節レバー23aの基部51の取付孔52が非円形嵌合することにより、駆動側カム25aは、調節レバー23aの基部51に対して固定され、調節レバー23aの往復揺動に伴って往復回転可能となる。調節レバー23aと調節ロッド17aとは、図示しない凹凸嵌合などにより相対回転不能に係合することにより、駆動側カム25aは、調節ロッド17aと同期した回転が可能である。ただし、駆動側カムが調節ロッドに対して相対回転を可能に外嵌された構成を採用することもできる。この場合、駆動側カムが調節レバーの揺動操作により回転するが、調節ロッドは回転しない。
被駆動側カム26aは、駆動側カム25aと同様に、焼結金属製で、全体として円輪板状の形状を有し、調節ロッド17aを挿通するための中心孔61を備える。図12(C)に示すように、被駆動側カム26aは、幅方向片側面である内側面と、幅方向他側面である外側面とを有する。被駆動側カム26aは、前記外側面に、周方向に関する凹凸面である被駆動側カム面62を備える。図12(D)に示すように、被駆動側カム26aは、前記内側面に、幅方向内側に突出した略矩形板状の係合凸部27aを備える。
被駆動側カム面62は、平坦面状の被駆動側基底面63と、被駆動側基底面63の円周方向等間隔複数個所からそれぞれ幅方向他側に相当する幅方向外方に向けて突出した断面略台形状で、駆動側凸部58と同数の被駆動側凸部64を有する。被駆動側凸部64の円周方向両側面のうち、アンロック方向に関する前方側には、被駆動側案内斜面65が備えられ、その後方側には、被駆動側ストッパ面66が備えられている。被駆動側案内斜面65と被駆動側ストッパ面66とは、円周方向に関する傾斜方向が反対であり、被駆動側基底面63に対する傾斜角度の大きさは、被駆動側ストッパ面66の方が被駆動側案内斜面65よりも大きい。本例では、実質的に被駆動側ストッパ面66が利用されることはない。
被駆動側カム26aは、調節ロッド17aに対する相対回転および調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位を可能に、調節ロッド17aに外嵌される。係合凸部27aは、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cに対し、上下方向長孔15cに沿った変位のみを可能に係合する。このため、被駆動側カム26aは、上下方向長孔15cに沿って昇降可能であるが、上下方向長孔15cの前後方向側縁と係合凸部27aの前後方向側面との間に存在する隙間に起因したわずかな回動を除いて、大きく回動することはない。
ステアリングホイール1の位置調節を行う際には、調節レバー23aを、図15(A)(a)に示すロック位置から図15(B)(a)に示すアンロック位置まで下方に揺動させる。これにより、図15(A)(b)に示すように、駆動側カム25aがアンロック方向に回転して、図15(B)(b)に示すように、駆動側凸部58と被駆動側凸部64とが円周方向に関して交互に配置されたアンロック状態となる。拡縮装置を構成するカム装置24aの幅方向寸法が縮小し、1対の押圧部を構成する被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔が拡大する。この結果、支持板部22c、22dの内側面と被挟持板部21c、21dの外側面との当接部の面圧が低下ないしは喪失すると同時に、アウタコラム18aのコラム嵌合部37の内径が弾性的に拡大し、コラム嵌合部37の内周面とインナコラム19aの後部外周面との当接部の面圧が低下する。このアンクランプ状態において、調節ロッド17aが1対の上下方向長孔15c、15dおよび1対の前後方向長孔16c、16dの内側で動ける範囲で、ステアリングホイール1の上下位置および前後位置の調節が可能になる。
ステアリングホイール1を所望位置に保持するには、ステアリングホイール1を所望位置に移動させた後に、調節レバー23aを、図15(B)(a)の状態から上方に揺動させて、駆動側カム25aをロック方向に回転させる。図15(A)(b)に示すように、駆動側凸部58の先端面と被駆動側凸部64の先端面とが互いに突き当てる状態(ロック状態)となり、拡縮装置を構成するカム装置24aの幅方向寸法が拡大し、1対の押圧部を構成する被駆動側カム26aと押圧プレート30aとの間隔(1対の支持板部22c、22dの内側面同士の間隔)が縮小する。この結果、支持板部22c、22dの内側面と被挟持板部21c、21dの外側面との当接部の面圧が上昇すると同時に、コラム嵌合部37の内径が弾性的に縮小し、コラム嵌合部37の内周面とインナコラム19aの後部外周面との当接部の面圧が上昇する。このクランプ状態において、ステアリングホイール1は、調節後の位置に保持される。
皿ばね50は、炭素鋼、炭素工具鋼、ばね鋼などの金属製で、円輪状の形状を有し、調節ロッド17aの一端寄り部分に外嵌され、調節ロッド17aの頭部48の内側面と調節レバー23aの基部51の外側面との間に挟持される。皿ばね50は、頭部48の内側面と基部51の外側面とに、互いに離れる方向の弾力を付与する。このため、ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、前記クランプ力を解除した際にも、頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、ナット28aの内側面と他方の支持板部22dの外側面との間で、スラスト軸受29aおよび押圧プレート30aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。本例では、押圧プレート30aに作用するモーメントを利用して、カム装置24aおよびスラスト軸受29aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できるため、皿ばね50を省略することもできる。
図13に示すように、押圧プレート30aは、冷間圧延鋼板(SPCC)、熱間圧延鋼板(SPHC)などの金属板製で、全体としてクランク形状を有する。押圧プレート30aは、調節ロッド17aに対する相対回転および調節ロッド17aの軸方向に関する相対変位を可能に、調節ロッド17aの他端寄り部分に外嵌される。押圧プレート30aは、調節ロッド17aを挿通するための挿通孔67を有し、調節ロッド17aに外嵌される、円輪状のプレート本体68と、プレート本体68の外周縁の円周方向1箇所に配置され、略L字形の係止板部69を備える。係止板部69の基半部70は、平板状で、プレート本体68の外周縁から幅方向外側(プレート本体68の軸方向)に向けて伸長する。係止板部69の先半部71は、平板状で、基半部70の幅方向外端部(先端部)からプレート本体68とは反対側に向けて略直角に折れ曲がるように伸長する。プレート本体68は、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面との間に配置される。係止板部69の先半部71は、円形の開口形状を有する、ばね係止孔72を備える。本例では、調節ロッド17aの回転中心(中心軸)からばね係止孔72までの距離は、調節ロッド17aの回転中心から調節レバー23aの基部51に備えられたばね係止孔53までの距離と同じである。プレート本体68と係止板部69の先半部71とは互いに平行に配置され、係止板部69の基半部70は、プレート本体68および係止板部69の先半部71に対して直角に配置される。本例では、押圧プレート30aが、被係止部材に相当する。
スラスト軸受29aは、円輪板状の1対の軌道輪と、これら1対の軌道輪同士の間に放射状に配置された複数本のニードルを有する。スラスト軸受29aは、ナット28aから押圧プレート30aに作用するスラスト荷重を支承し、ナット28aの往復揺動を可能にする。
本例では、ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、カム装置24aの幅方向寸法を縮小し、前記クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1が落下するようにステアリングコラム6aが傾動することを防止するため、支持ブラケット14aの1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に、1対の引張ばね73a、73bが配置される。本例では、1対の引張ばね73a、73bは、ステンレス、ピアノ線などのばね鋼製で、互いに同じばね定数を有し、かつ、自由状態での長さ寸法が互いに同じ、同一のコイルばねにより構成される。1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸Oa、Obは、図9に示すように、ステアリングコラム6aの中心軸O6に対して、前方に向かうほど幅方向外側に向かう(互いに離れる)方向に数度(たとえば1度~5度)程度わずかに傾斜して配置されるか、もしくは、平行に配置される。1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸Oa、Obは、図6および図7に示すように、前方に向かうほど上方に向かう方向に数十度(たとえば30度~50度)程度傾斜している。本例では、ステアリングコラム6aの中心軸O6に対して幅方向に傾いた傾斜角度は、一方の引張ばね73aと他方の引張ばね73bとでほぼ同じである。
1対の引張ばね73a、73bのうちの一方の引張ばね73aは、一端部に配置されたU字状のフック部74aと、他端部に配置されたU字状のフック部74bと、中間部に配置されたコイル部77aとを備える。フック部74aは、一方のサイド板部43aの係止腕部45aに幅方向外側から係止される。フック部74bは、調節レバー23aの基部51のばね係止孔53に幅方向内側から係止される。これにより、一方の引張ばね73aは、一方のサイド板部43aと調節レバー23aの基部51との間に架け渡されるように配置される。一方の引張ばね73aにより、調節レバー23aの基部51に対して斜め前上方を向いた力F1が付与され、図14に示すように、被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面は、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に押し付けられる。
図16に示すように、フック部74bがばね係止孔53に係止された状態で、フック部74bは、コイル部77aが発揮する弾性復元力により、連結部82に近づく方向である、1対のガイド辺81a、81bの間隔が小さくなる方向に引っ張られる。これにより、フック部74bは、1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれ(くさびのように食い込み)、1対のガイド辺81a、81bに対して弾性的に押し付けられる。フック部74bと連結部82との間、および、フック部74bと大径孔部80との間には、それぞれ隙間が存在する。換言すれば、フック部74bは、1対のガイド辺81a、81bに対してのみ接触する。特に本例では、図17および図18に示すように、調節レバー23aの揺動位置および調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、フック部74bは、1対のガイド辺81a、81bに対してのみ接触する。また、大径孔部80の内径d80は、フック部74bの線径D74よりも十分に大きいため、フック部74bは、大径孔部80に対して緩く挿入可能である。
1対の引張ばね73a、73bのうちの他方の引張ばね73bは、一端部に配置されたU字状のフック部75aと、他端部に配置されたU字状のフック部75bと、中間部に配置されたコイル部77bとを備える。フック部75aは、他方のサイド板部43bの係止腕部45bに幅方向外側から係止される。フック部75bは、押圧プレート30aの係止板部69の先半部71のばね係止孔72に幅方向内側から係止される。これにより、他方の引張ばね73bは、他方のサイド板部43bと押圧プレート30aとの間に架け渡されるように配置される。他方の引張ばね73bにより、押圧プレート30aに対して斜め前上方を向いた力F2が付与される。
本例のステアリング装置では、支持ブラケット14aの幅方向両外側に配置された1対の引張ばね73a、73bにより、調節ロッド17aの両端部に対し、それぞれ斜め前上方を向いた力を付与される。このため、アウタコラム18aに対して上方に向いた力が付与され、ステアリングホイール1の位置調節時(アンクランプ時)に、ステアリングコラム6aが傾動することを防止でき、ステアリングホイール1の上下位置の調節を軽い力で行うことが可能になる。
次に、一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に付与される力と、他方の引張ばね73bから押圧プレート30aに付与される力について、具体的に説明する。
調節レバー23aの基部51のばね係止孔53の位置は、調節レバー23aの揺動操作に起因して、調節ロッド17aの中心軸O17を中心として円弧状に移動するため、ばね係止孔53から係止腕部45aまでの距離は変化する。このため、係止腕部45aとばね係止孔53との間に架け渡された一方の引張ばね73aについても、調節レバー23aの揺動操作に起因して、ステアリングコラム6aの中心軸O6に対する傾斜角度およびその全長が変化する。本例では、調節レバー23aを、カム装置24aの幅方向寸法を縮小する方向に揺動操作し、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた状態、すなわち、調節レバー23aを下方に回動した状態で、図15(B)(a)に示す、一方の引張ばね73aのステアリングコラム6aの中心軸O6に対する傾斜角度θ1および一方の引張ばね73aの全長L1と、図7に示す、他方の引張ばね73bのステアリングコラム6aの中心軸O6に対する傾斜角度θ2および他方の引張ばね73bの全長L2とが、互いに同じになる(θ1=θ2、L1=L2)、あるいは、実質的に同じになる(θ1≒θ2、L1≒L2)ように、関連する部材の寸法および調節レバー23aと駆動側カム25aとの組み付け位相などを規制している。
押圧プレート30aは、他方の引張ばね73aの引っ張り力に基づいて、他方の支持板部22cの外側面およびスラスト軸受29aの内側面に押し付けられるため、調節ロッド17aを上下方向に移動させた際にも、その回転位相はほとんど変化しない。このため、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた際に、一方の引張ばね73aと他方の引張ばね73bとで、ステアリングコラム6aに対する傾斜角度およびその全長が互いに同じになる。本例では、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aがアンロック位置に移動した状態において、1対の引張ばね73a、73bの力の作用方向が、チルト軸12aと調節ロッド17aとに直交する仮想直線M(図7参照)の方向よりも所定角度(たとえば10度~30度程度)だけ上方を向く。換言すれば、ステアリングコラム6aの中心軸O6と引張ばね73a、73bの力の作用方向とのなす角度は、ステアリングコラム6aの中心軸O6と仮想直線Mとのなす角度よりも大きい。本発明を実施する場合、調節レバーをアンロック位置に揺動操作した状態で、1対の引張ばねが、該調節レバーの基部および前記被係止部材に対して、ステアリングコラムの中心軸に対し互いに同じ角度だけ斜め前上方を向いた作用方向に互いに同じ大きさの力を付与することができる限り、上述の好適例に制限されることなく、その構造、形状、長さ(両端部の取付位置)が、一方の引張ばねと他方の引張ばねの間で異なる構成を採用することも可能である。
一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に対して付与される力は、駆動側カム25aの回転を抑制する抗力(ブレーキ)として作用する。
ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、調節レバー23aを、図15(A)(a)に示したクランプ位置から下方にある程度揺動させると、駆動側カム面55の駆動側凸部58の駆動側案内斜面60が、被駆動側カム面62の被駆動側凸部64の被駆動側案内斜面65に案内される。この際、駆動側カム25aには、慣性力が作用するだけでなく、1対の被挟持板部21c、21dの弾性復元力、および、調節レバー23aの自重が作用するため、回転方向に付勢された状態になり、駆動側カム25aは勢いよく回転する傾向になる。調節レバー23aが下方に揺動して、ばね係止孔53が上方に移動すると、図18に示すように、調節ロッド17aが上下方向長孔15c、15dの内側のいずれの位置(上端、下端、あるいは中間のいずれの位置)に存在する場合にも、調節レバー23aが揺動下端にまで移動する前の所定の位置にて、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O17が同一直線上に並び、引張ばね73aが最も縮んだ状態になる。調節レバー23aを、前記所定の位置からさらに下方に揺動させる(駆動側カム25aをさらに回転させる)には、一方の引張ばね73aを伸長させる必要があるため、一方の引張ばね73aのばね力は抗力として作用する。つまり、一方の引張ばね73aから調節レバー23aの基部51に対して、調節レバー23aの下方への揺動動作に抗する力が付与される。
特に本例では、調節レバー23aが、揺動下端にまで移動する前の所定の位置に位置する状態において、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O17とは、1対のガイド辺81a、81b同士の間の挟角θ3の二等分線(=仮想直線N)上に並ぶ。このため、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aをクランプ力を解除するように揺動操作した際に、調節レバー23aが揺動下端まで移動する前の所定の位置にて、ばね係止孔53の頂部である連結部82が、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aを向いた状態になる。したがって、図19に示すように、一方の引張ばね73aの他端側のフック部74bから、1対のガイド辺81a、81bに作用する力(分力)F1a、F1bの大きさは、互いに等しくなる。
本例では、調節レバー23aが下方への揺動限界(揺動下端)まで移動する前に、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O17が同一直線上に並ぶように、一方の引張ばね73aの取付位置や調節レバー23aと駆動側カム25aとの組み付け位相などは規制される。これにより、本例では、一方の引張ばね73aの力を利用して、調節レバー23aをクランプ位置から下方に揺動させた際に、上述したような回転方向の付勢力にかかわらず、図15(B)(b)に示すように、駆動側案内斜面60が被駆動側案内斜面65に案内されている途中の段階、換言すれば、調節レバー23aが揺動下端まで移動する前に、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、調節レバー23aの下方への揺動動作が自動的に停止する。つまり、一方の引張ばね73aの一端側のフック部74aと他端側のフック部74bと調節ロッド17aの中心軸O17とが同一直線(仮想直線N)上に並んだ状態にて、調節レバー23aは停止する。このため、駆動側カム面55と被駆動側カム面62とが全面当たりすることで、カム装置24aの幅方向寸法が最も小さくなる前に、調節レバー23aの下方への揺動動作が停止する。したがって、調節レバー23aをアンクランプ位置に移動させた状態で、駆動側カム面55と被駆動側カム面62とが片当たりした状態になる。具体的には、駆動側案内斜面60と被駆動側案内斜面65のみが当接して、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63との間に隙間76aが形成され、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57との間に隙間76bが形成され、および、駆動側ストッパ面59と被駆動側ストッパ面66との間に隙間76cが形成される。
本例のステアリング装置によれば、調節レバー23aをクランプ位置から下方に揺動させた際に、調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57、および、駆動側ストッパ面59と被駆動側ストッパ面66がそれぞれ勢いよく衝突して、異音(メタルコンタクト音)が発生することを防止できる。さらに、図15(B)(b)に示すように、駆動側凸部58の先端面と被駆動側基底面63との間の隙間76a、および、被駆動側凸部64の先端面と駆動側基底面57との間の隙間76bの分だけ、アンロック状態でのカム装置24aの幅方向寸法を大きくできる。このため、頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、ナット28aの内側面と他方の支持板部22dの外側面との間で、スラスト軸受29aおよび押圧プレート30aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。さらに、一方の引張ばね73aにより駆動側カム25aの回転にブレーキをかけられるため、調節レバー23aが勢いよく揺動して、調節レバー23aの一部が乗員の手指などに衝突することも防止される。
他方の引張ばね73bから押圧プレート30aに対して付与される力は、押圧プレート30aにモーメントを作用させる。
本例では、他方の引張ばね73bのフック部75bは、調節ロッド17aに外嵌したプレート本体68に対して幅方向に外れた(オフセットした)位置に配置された係止板部69の先半部71に係止される。このため、押圧プレート30aには、図13に示すように、他方の引張ばね73bから作用する力F2に基づいて、プレート本体68と係止板部69の基半部70との折れ曲がり部を支点とし、該折れ曲がり部の伸長方向に伸びる仮想直線Z回りに、矢印α方向のモーメントが作用する。このため、プレート本体68により、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面とに、互いに離れる方向の力が付与される。したがって、皿ばね50と同様に、前記クランプ力を解除した際にも、変位規制部である頭部48の内側面と一方の支持板部22cの外側面との間で、カム装置24aに幅方向のがたつきが生じることを抑制でき、変位規制部であるナット28aの内側面とプレート本体68の外側面との間で、スラスト軸受29aに幅方向のがたつきが生じることを抑制できる。
このため、クランプ力を解除した際に、調節レバー23aの自重により、調節ロッド17aの一端側が下方に変位するように傾くことを防止できる。したがって、ステアリングホイール1の上下位置を調節する際に、調節ロッド17aが上下方向長孔15c内をスムーズに変位できなくなることで、調節レバー23aが上下に振動する(暴れる)ことを防止できる。この結果、異音(カタカタ音)の発生を防止できるとともに、ステアリングホイール1に微振動が伝達されることも防止できる。
本例では、引張ばね73aのフック部74bが調節レバー23aのばね係止孔53に係止された状態で、コイル部77aが発揮する弾性復元力により、フック部74bが、1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれ、1対のガイド辺81a、81bに対して弾性的に押し付けられている。そして、フック部74bは、調節レバー23aの揺動位置および調節ロッド17aの上下位置にかかわらず、1対のガイド辺81a、81bに対してのみ接触する。このため、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時においても、1対のガイド辺81a、81bによってフック部74bの移動が制限され、フック部74bがばね係止孔53の内周縁に沿って移動する(滑る)ことを防止できる。このような構成により、ステアリングホイール1の上下位置の調節や調節レバー23aの揺動操作を行った場合にも、フック部74bと1対のガイド辺81a、81bとの接触位置が変わらないようにすることができるため、引張ばね73aと調節レバー23aとの間でスティックスリップが発生することを抑制できる。また、フック部74bを、1対のガイド辺81a、81bのうちの一方ではなく、両方のガイド辺81a、81bに接触させることができるため、ばね係止孔53に座屈変形が生じることを有効に防止できる。
また、大径孔部80の内径d80を、フック部74bの線径D74よりも十分に大きくし、フック部74bを、大径孔部80に対して緩く挿入可能としている。したがって、フック部74bを、ばね係止孔53に対して容易に挿入することができるため、ステアリング装置の組立作業の作業性を確保することができる。
本例のステアリング装置によれば、ステアリングホイール1の上下位置の調節に要する力を軽減できるだけでなく、ステアリングホイール1の前後位置を調節する作業の円滑性を確保することもできる。すなわち、支持ブラケット14aの1対の支持板部22c、22dの幅方向両外側に1対の引張ばね73a、73bが配置され、調節ロッド17aの両端側部分に配置された調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、それぞれ斜め前上方を向いた力が付与される。このため、アウタコラム18aに対して上方に向いた力(分力)が付与されるので、ステアリングホイール1の位置調節時に前記クランプ力を解除した際にも、ステアリングホイール1が落下するようにステアリングコラム6aが傾動することを防止でき、ステアリングホイール1の上下位置の調節に要する力を軽減できる。
1対の引張ばね73a、73bによる力の作用方向は、1対の上下方向長孔15c、15dの伸長方向に沿った上方ではなく、斜め前上方を向いた方向であるため、上方向への分力が小さく(過度に大きくなることを)抑えられる。
被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面は、一方の支持板部22cの上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に当接するため、調節ロッド17aが上方に移動する際に、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁との間に摩擦力を発生させることができる。このため、前後方向長孔16c、16dの内周面のうちの上面に調節ロッド17aを押し付ける力を低減でき、調節ロッド17aの外周面と前後方向長孔16c、16dの上面との間の摺動抵抗が低減される。このため、ステアリングホイール1の前後位置を調節するのに要する力が大きくなることを防止でき、ステアリングホイール1の前後位置を調節する作業の円滑性を確保することができる。
本例のステアリング装置では、従来構造に比べて、調節ロッド17aが前後方向長孔16c、16dの上面を押し上げる力が弱くなりやすいため、1対の引張ばね73a、73bの力の作用方向を、チルト軸12aの中心軸および調節ロッド17aの中心軸に直交する前記仮想直線Mの方向よりも所定角度だけ上方を向くようにして、押し上げ力が低くなり過ぎることを防止している。
本例では、調節レバー23aをアンロック位置に移動させた状態で、1対の引張ばね73a、73bにより、調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、同じ方向を向いた互いに同じ大きさの力が付与される。このため、ステアリングホイール1の位置調節時に、調節ロッド17aの姿勢を安定させることができ、調節ロッド17aが上下に傾くことを防止できる。
本例では、1対の引張ばね73a、73bによる力の作用方向は、1対の上下方向長孔15c、15dの伸長方向に沿った上方ではなく、斜め前上方を向いた方向であるため、上方向への分力を小さく抑えられるとともに、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁との間に摩擦力を発生させることができる。このため、前記クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1の位置を、該クランプ力を解除した状態での位置にとどめることができる。このため、ステアリング装置に対して従来から求められている、クランプ力を解除した際に、ステアリングホイール1に急な跳ね上がりや急落下が生じない構造を実現できる。
本例では、好ましくは、1対の引張ばね73a、73bのそれぞれの中心軸Oa、Obは、ステアリングコラム6aの中心軸O6に対して、前方に向かうほど幅方向外側に向かう(互いに離れる)方向に傾いている。この場合、調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aに対して、それぞれ幅方向外側に向いた分力を作用させることができる。この面からも、クランプ力を解除した際に、カム装置24aおよびスラスト軸受29aが幅方向にがたつくことを抑制することができる。
一方の引張ばね73aにより、調節レバー23aの基部51を斜め前上方に向けて引っ張っているため、クランプ力を解除した際に、調節レバー23aの自重により、調節ロッド17aの一端側が下方に変位するように傾くことを防止できる。このため、ステアリングホイール1の上下位置を調節する際に、調節ロッド17aが上下方向長孔15c内をスムーズに変位できなくなることで、調節レバー23aが上下に振動する(暴れる)ことを防止できる。したがって、異音(カタカタ音)の発生を防止できるとともに、ステアリングホイール1に微振動が伝達されることも防止できる。
ステアリングホイール1の位置調節を行うべく、調節レバー23aを下方にある程度揺動させると、駆動側カム25aは勢いよく回転する傾向になる。この際、駆動側カム面55と被駆動側カム面62との凹凸係合に基づき、被駆動側カム26aも、調節ロッド17aを中心として回転する傾向になる。ただし、本例では、引張ばね73aの弾力により、被駆動側カム26aの係合凸部27aの前側面が、上下方向長孔15cの前側縁に弾性的に押し付けられているため、被駆動側カム26aが回転することを有効に防止できる。このため、係合凸部27aの前後方向側面と上下方向長孔15cの前後方向側縁とが勢いよく衝突することによる異音(メタルコンタクト音)が発生することを防止できる。
ステアリングホイール1の前後位置の調節時に、ステアリングホイール1を前方側に最大限移動させて、調節ロッド17aを1対の前後方向長孔16c、16dの後端縁と1対の上下方向長孔15c、15dの前側縁との間で挟持する際にも、係合凸部27aの前側面が上下方向長孔15cの前側縁に予め当接しているため、係合凸部27aの前側面と上下方向長孔15cの前側縁とが勢いよく衝突することに起因して、衝突音が発生することも防止できる。
調節レバーの基部の一部に前記基部から伸長した延出腕部を設け、該延出腕部のうちで前記基部から幅方向に外れた位置に、一方の引張ばね73aの端部を取り付ける構成を採用することもできる。このような構成を採用すれば、一方の引張ばね73aから作用する力に基づき、調節レバーに、押圧プレート30aに作用させるのと同様のモーメントを作用させることもできる。
本例では、本発明は、チルト機構とテレスコピック機構の両方を備えたステアリング装置に適用されているが、本発明を、チルト機構のみを備えたステアリング装置に適用することも可能である。
本例では、拡縮装置として、カム装置と調節レバーとの組み合わせを採用し、1対の押圧部として、カム装置を構成する被駆動側カムと押圧プレートとの組み合わせを採用している。ただし、本発明の技術的範囲からは外れるが、拡縮装置として、その他の公知の構成も採用可能である。たとえば、調節ロッドとして、基部に頭部を有し、先端部に雄ねじを有するボルトにより構成し、前記雄ねじに螺合可能な雌ねじを有するナットを前記ボルトの先端部に取り付けて、前記ボルトの基部または前記ナットを調節レバーにより回動させる構造も採用可能である。この場合、調節レバーと前記ボルトの頭部あるいは前記ナットが、拡縮装置を構成し、前記ボルトの頭部の内側面と前記ナットの内側面が、1対の押圧部を構成する。
本例では、調節レバー23aの基部51および押圧プレート30aが被係止部材として機能する。ただし、被係止部材は、これらの部材とは独立して配置することもできる。また、その他の1対の押圧部のうちのいずれかの押圧部もしくはその一部、あるいは、拡縮機構もしくはその一部により構成されることもできる。たとえば、調節ロッド17aのうちで1対の支持板部22c、22dのうちの一方の支持板部22cの外側面から突出した部分に配置される、カム装置、ワッシャなどの部材、あるいは、調節ロッド17aのうちで1対の支持板部22c、22dのうちの他方の支持板部22dの外側面から突出した部分に配置される、スラスト軸受の軌道輪などの部材により構成されることもできる。
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図20を用いて説明する。本例では、調節レバー23bの基部51aの形状が、実施の形態の第1例の構造から変更されている。具体的には、基部51aの前側部は、略三角形の先細形状を有し、調節ロッド17aの中心軸O17に直交し、かつ、連結部82の円周方向中央部を通る仮想直線N(=1対のガイド辺81a、81b同士の間の挟角の二等分線)が、基部51aの頂部を通過する。
本例の場合にも、引張ばね73aのフック部74bは、略三角形の開口形状を有するガイド孔部79を構成する1対のガイド辺81a、81b同士の間に弾性的に押し込まれる。このため、調節レバー23aの揺動操作時やステアリングホイール1の上下位置の調節時に、フック部74bがばね係止孔53の内周縁に沿って移動することを防止でき、スティックスリップが発生することを抑制できる。実施の形態の第2例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
[実施の形態の第3例]
実施の形態の第3例について、図21(A)および図21(B)を用いて説明する。本例で用いる押圧プレート30bは、調節ロッド17aを挿通するための挿通孔67aを有し、調節ロッド17aに外嵌される、円輪状のプレート本体68aと、プレート本体68aの外周縁の円周方向1箇所に配置された平板状の係止板部69aを備える。係止板部69aは、プレート本体68aの外周縁部から幅方向外側(プレート本体68の軸方向)に向かうほど前方側(プレート本体68の径方向外側)に向かう方向に斜めに伸長する。係止板部69aは、プレート本体68aから幅方向に外れた(オフセットした)位置に、他方の引張ばね73bの端部を係止するためのばね係止孔72aを備える。
本例の場合にも、他方の引張ばね73bから押圧プレート30bに作用する力に基づき、押圧プレート30bにモーメントを作用させることができる。すなわち、他方の引張ばね73bの端部は、係止板部69aのうちで、調節ロッド17aに外嵌されるプレート本体68aに対して幅方向に外れた位置に配置されたばね係止孔72aに係止される。このため、押圧プレート30bには、他方の引張ばね73bから作用する力F2に基づいて、プレート本体68aと係止板部69aの基端部との折れ曲がり部を支点とし、該折れ曲がり部の伸長方向に伸びる仮想直線Z回りに、矢印α方向のモーメントが作用する。このため、プレート本体68aにより、他方の支持板部22dの外側面とスラスト軸受29aの内側面とに、互いに離れる方向の力を付与することができる。実施の形態の第3例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例または第2例と同じである。
[実施の形態の第4例]
実施の形態の第4例について、図22~図24を用いて説明する。本例では、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時に、1対の引張ばね73a、73bから異音が発生することを防止するために、1対の引張ばね73a、73bは、コイル部77a、77bの内側に配置されたダンパ部材78を備える。
ダンパ部材78は、ゴムや合成樹脂などの弾性材製であり、自由状態で、全体として円環状の形状、および、略矩形の断面形状を有する。ダンパ部材78は、コイル部77a、77bの内側に、ダンパ部材78を変形させた状態で配置される。具体的には、ダンパ部材78のうちの直径方向に関して反対側に位置する部分同士を互いに近づけるように押し潰し(折り畳み)、ダンパ部材78全体を直線状(板状)に変形させた状態で、ダンパ部材78は、コイル部77a、77bの内側に押し込むように挿入される。ダンパ部材78がコイル部77a、77bの内側に配置された状態で、ダンパ部材78の外周面はコイル部77a、77bの内周面に弾性的に当接する。
ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時のコイル部77a、77bの伸縮に伴い、ダンパ部材78がコイル部77a、77bの軸方向に移動して、コイル部77a、77bの内側から脱落しないように、ダンパ部材78のコイル部77a、77b内での長さ(折径)が規制される。具体的には、ダンパ部材78がコイル部77a、77bの上側から脱落することを防止するために、ダンパ部材78の上端部が係止腕部45a、45bの下面に当接した状態での、コイル部77a、77bの内側に存在するダンパ部材78の長さ(係り代)は、十分に、たとえば、コイル部77a、77bの上端面から係止腕部45a、45bの下面までの距離よりも長くなるように、確保される。ダンパ部材78がコイル部77a、77bの下側から脱落することを防止するために、ダンパ部材78の下端部が調節レバー23bの基部51aおよび押圧プレート30aの係止板部69(図7および図13参照)の上面に当接した状態での、コイル部77a、77bの内側に存在するダンパ部材78の長さ(係り代)は、十分に、たとえば、コイル部77a、77bの下端面から調節レバー23bの基部51aおよび押圧プレート30の係止板部69の上面までの距離よりも長くなるように、確保される。本例では、引張ばね73a、73bの取り付け作業時に、コイル部77a、77bの内側に配置したダンパ部材78が、引張ばね73a、73bの取付治具によって損傷することがないように、ダンパ部材78の長さ、特にコイル部77a、77bからの突出量が規制される。
本例では、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時に、コイル部77a、77bから、弾け音や残響音といった異音が発生することを防止できる。すなわち、ステアリングホイール1の上下位置の調節時や調節レバー23aの揺動操作時には、係止腕部45a、45bに対する調節レバー23aのばね係止孔53および押圧プレート30aのばね係止孔72の位置が変化する。このため、引張ばね73aのフック部74bが、ばね係止孔53を構成する1対のガイド辺81a、81bに対して擦れることで、スティックスリップ(微振動)を生じさせる可能性がわずかにあり、また、引張ばね73bのフック部75bが、円孔であるばね係止孔72の内周縁に沿って移動することで、スティックスリップ(微振動)を生じさせる可能性がある。スティックスリップが生じると、引張ばね73a、73bに振動が伝播し、コイル部77a、77bをスピーカとして異音を発生させる可能性がある。本例では、コイル部77a、77bの内側に、吸音材として機能するダンパ部材78が配置されているため、コイル部77a、77bの振動を減衰させることができ、コイル部77a、77bから異音が発生することを有効に防止できる。
ステアリングホイール1の上下位置を調節した際に生じる、押圧プレート30aの回転位相の変化はわずかであるため、引張ばね73bのフック部75b(図7参照)が、押圧プレート30aのばね係止孔72の内周縁に沿って移動する量はわずかである。このため、ダンパ部材78は、一方の引張ばね73aを構成するコイル部77aの内側にのみ配置し、他方の引張ばね73bを構成するコイル部77bの内側には配置しない構成を採用することもできる。実施の形態の第4例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例~第3例と同じである。
[実施の形態の第5例]
実施の形態の第5例について、図25(A)および図25(B)を用いて説明する。本例では、引張ばね73a、73bを構成するコイル部77a、77bの外側に、ダンパ部材78aが配置される。ダンパ部材78aは、ゴムや合成樹脂などの弾性材製であり、自由状態で、コイル部77a、77bの外径よりもわずかに小さな内径を有する円筒状の形状を有する。ダンパ部材78aは、コイル部77a、77bの外側に、内径を弾性的にわずかに拡げた状態で外嵌される。ダンパ部材78aがコイル部77a、77bの外側に配置された状態で、ダンパ部材78aの内周面はコイル部77a、77bの外周面に弾性的に当接する。
本例では、ダンパ部材78aを外部から視認することができるため、ダンパ部材78aの組み付け忘れを防止することができる。ダンパ部材78aは、コイル部77a、77bに外嵌され、コイル部77a、77bの両側に存在するフック部74a、74b、75a、75bが、係止腕部45a、45b、調節レバー23a、および、押圧プレート30aにそれぞれ係止されているため、ダンパ部材78aが脱落することを有効に防止できる。実施の形態の第5例のその他の構成および作用効果については、実施の形態の第1例~第3例と同じである。
本発明を実施する場合、実施の形態の各例の構造は、相互に矛盾がない限り、適宜組み合わせて実施することができる。