以下、本発明を適用した実施の形態について添付図面を参照して説明する。図1と図2は、本実施の形態の内燃機関であるエンジン1の外観と概略構成を示したものである。図3は、エンジン1の始動を行わせるためのスタータ駆動機構2を示している。図4から図6は、エンジン1に設けた動弁装置3と、その一部であるデコンプ機構4を示している。図7は、スロットルの開度の違いに応じたエンジン回転数の変化を示す図である。図8及び図9は、エンジン1の始動制御を説明するための図である。以下の説明中における上下、左右、前後などの各方向は、エンジン1を搭載する車両(自動二輪車)の車体を基準とした方向を意味する。
まず、図1と図2を参照してエンジン1の全体的な構成と制御システムを説明する。この制御システムは、エンジン1及びその周辺構成の動作を、ECM(Engine Control Module)5で制御するように構成されている。
エンジン1は、自動二輪車用の単気筒4サイクルエンジンであり、図1に示すように、クランクケース10の上部に、シリンダブロック11とシリンダヘッド12を取り付けて構成される。クランクケース10内に形成されたクランク室にクランク軸14(図2参照)が配置されている。クランク軸14は左右方向に延びている。
図2に示すように、シリンダブロック11の内部にはシリンダ15が形成され、シリンダ15内にピストン16が往復移動可能に配置されている。クランク軸14とピストン16はコンロッドによって連結されており、ピストン16が往復運動すると、クランク軸14がコンロッドを介して回転される。
シリンダヘッド12内にはシリンダ15の上部に通じる燃焼室17が形成され、燃焼室17の上部には点火プラグ18が設けられている。点火プラグ18は、ECM5から出力される点火信号に基づいて所定のタイミングで点火し、燃焼室17内で燃料と空気の混合気を燃焼させる。混合気の燃焼によってピストン16が往復運動され、クランク軸14の回転動作として出力する。エンジン1の運転時におけるクランク軸14の通常の回転方向を正転方向R1、これと反対のクランク軸14の回転方向を逆転方向R2とする(図1及び図3参照)。クランク軸14の回転角を検出するクランク角センサ19を備え、クランク角センサ19は検出値をECM5に出力する。ECM5は、クランク角センサ19から入力される検出値に基づいて、エンジン回転数(クランク軸14の回転速度)を算出する。
シリンダヘッド12には、燃焼室17に連通する吸気ポート20と排気ポート21が形成されている。吸気ポート20を通じて混合気生成用の空気が流入し、燃焼室17で燃焼した後の排気ガスが排気ポート21を経て外部へ排出される。吸排気に関与する可動弁として、吸気ポート20と燃焼室17の間を開閉する吸気バルブ22と、排気ポート21と燃焼室17の間を開閉する排気バルブ23が設置されている。外気を取り入れるタイミング(吸気行程)で吸気バルブ22が開かれ、排気ガスを排出するタイミング(排気行程)で排気バルブ23が開かれる。
吸気ポート20の上流端には吸気管24が接続される。吸気ポート20及び吸気管24は、吸入空気を流入させる吸気通路を構成する。吸気管24の途中には、上流側から順にエアクリーナ25とスロットルバルブ26が設けられている。エアクリーナ25とスロットルバルブ26の間の吸気通路中には、空気量センサ27が設けられている。空気量センサ27は、エアクリーナ25を通過して吸気管24内を流れる空気流量(吸入空気量)を検出し、その検出値をECM5に出力する。
スロットルバルブ26は、スロットル駆動装置28によって開閉動作を行う。ECM5の指令に応じてスロットル駆動装置28がスロットルバルブ26を駆動して開度を変更させることで、吸気管24から吸気ポート20へ進む吸入空気の流量(吸入空気量)を調整する。具体的には、空気量センサ27で検出される吸入空気量を参照しながら、スロットルバルブ26の開度が制御される。
スロットル駆動装置28には、スロットルバルブ26の開度を検出するスロットル開度センサ29が設けられている。スロットル開度センサ29は、スロットル駆動装置28の動作状態に基づいてスロットルバルブ26の開度を検出し、その検出値をECM5に出力する。
スロットルバルブ26の下流側には、吸気ポート20内に燃料を噴射する燃料噴射装置としてのインジェクタ30が設けられている。インジェクタ30は、ECM5の指令に応じて吸気ポート20内に所定量の燃料を所定のタイミングで噴射する。
排気ポート21の下流端には排気管31が接続される。排気ポート21及び排気管31は、排気ガスを排出する排気通路を構成する。排気管31には、不図示の触媒やマフラが接続される。
乗員によるアクセル32の操作は、アクセルポジションセンサで検出されて、アクセル開度情報を含むアクセル操作信号としてECM5に入力される。ECM5は、アクセル操作信号に応じて、点火プラグ18、スロットルバルブ26、インジェクタ30などの動作を制御する。具体的には、アクセル操作信号による出力要求が大きくなると、ECM5は、スロットルバルブ26の開度を大きくすると共に、インジェクタ30からの燃料噴射を増加させる。
なお、電動式のスロットル駆動装置28ではなく、乗員が操作するアクセルグリップとスロットルボディをワイヤで接続して、ワイヤの牽引量に応じてスロットルバルブ26の開度を機械的に変化させるタイプのスロットル装置であってもよい。また、スロットルバルブ26の開度の検出は、アクセル開度を検知するアクセルポジションセンサの出力に基づいて行ってもよい。
図1に示すように、クランクケース10の右側面にはクラッチカバー33が取り付けられる。クランクケース10とクラッチカバー33の間には、クラッチ機構(不図示)を収納するクラッチ室(不図示)が形成される。クランク軸14の回転は、クラッチ機構を経て変速機構(不図示)に伝達され、自動二輪車の駆動輪(後輪)を駆動させる駆動力として取り出される。
クランクケース10の左側面には、左方に向けて外囲壁10aが突出している。外囲壁10aは、クランク軸14を囲むように形成されている。外囲壁10aで囲まれた開口を塞ぐように、クランクケース10の左側に発電機カバー(不図示)が取り付けられる。発電機カバーは、外囲壁10aの端面である合わせ面に当接してクランクケース10に固定される。この状態で、クランクケース10と発電機カバーによって囲まれる発電機室が形成される。図1は発電機カバーを外した状態である。
発電機室内にはクランク軸14の一端が突出しており、クランク軸14の回転によって発電を行う発電機34が発電機室内に設けられている。発電機34は、クランク軸14に固定される有底の円筒形状のロータ34aと、ロータ34aの内径側に位置するコア(コイル)34bを有している。ロータ34aは磁性体からなり、エンジン1の運転状態ではクランク軸14の回転に伴ってロータ34aが回転し、コア34bを通る磁束密度が変化し、電磁誘導によってコア34bに電流が発生する。発電機34で発生するのは交流電流であり、整流器(不図示)で直流に変換して電圧調整回路(不図示)で電圧を一定以下に制御する。こうして発電機34を用いて得られた電力は、バッテリー35(図2参照)に充電され、エンジン1を搭載した自動二輪車の電装系に供給される。
続いて、図1と図3を参照して、スタータ駆動機構2の構成を説明する。クランクケース10の上部には、スタータモータ40が取り付けられている。スタータモータ40は、バッテリー35からの電力供給を受けて駆動される。スタータモータ40の本体部から左方に向けて出力軸40aが突出している。出力軸40aは発電機室内に挿入されている。発電機室内には、発電機34の後部上方に、3つのスタータアイドルギヤ41,42,43が配されている。出力軸40aはスタータアイドルギヤ41に噛合しており、スタータアイドルギヤ41からスタータアイドルギヤ42,43の順で出力軸40aの回転を減速して伝達するギヤ列を構成している。
スタータモータ40は、乗員によるスタータスイッチ46(図2)の操作(スタータスイッチ46の押し込みなど)によって、バッテリー35から通電されて駆動する。スタータスイッチ46が操作されると、操作信号がECM5に入力され、スタータモータ40を駆動するモータドライバにECM5が駆動信号を送る。乗員によるスタータスイッチ46の操作が解除されると、ECM5はモータドライバに停止信号を送り、スタータモータ40が停止する。
図3に示すように、スタータ駆動機構2はワンウェイクラッチ44を備えている。ワンウェイクラッチ44は、スタータギヤ44aと外輪44bと内輪44cを有している。スタータギヤ44aの周縁には、スタータアイドルギヤ43が噛合する歯が形成されている。スタータギヤ44aの中心部には円筒部44dが設けられ、円筒部44dと外輪44bの間に内輪44cが配置されている。
外輪44bは、内輪44cを囲む形状であり、発電機34のロータ34a(図1)に対して固定されている。ロータ34aはクランク軸14に固定されているので、外輪44bはクランク軸14と一体に回転する。内輪44cには、回転方向に位置を異ならせて複数のローラ(不図示)が保持されている。各ローラは、外輪44bの内周側に形成したカム面(不図示)と、スタータギヤ44aの円筒部44dの外周面に対して接触する。各ローラが配置されている外輪44bと円筒部44dの間の空間を、収容空間とする。
ワンウェイクラッチ44における各ローラの収容空間は、正転方向R1に進むほど半径方向に狭く(外輪44bのカム面と円筒部44dの外周面との間の半径方向間隔が小さく)なっている。ワンウェイクラッチ44には、正転方向R1(収容空間が半径方向に狭くなる方向)に向けて各ローラを付勢する付勢部材(不図示)が設けられている。付勢部材はバネなどからなる。
このワンウェイクラッチ44の構成により、スタータモータ40の駆動力が伝達されたスタータギヤ44aが正転方向R1に回転すると、各ローラが外輪44bのカム面と円筒部44dの外周面に対する接触面圧によって楔のように作用して、スタータギヤ44aと外輪44bが正転方向R1に一体的に回転するようになる。これにより、エンジン1が停止している状態でスタータモータ40を駆動させると、正転方向R1への駆動トルクがクランク軸14に伝達されて、エンジン1を始動させることができる。エンジン1の始動が終了してスタータモータ40の駆動を止める(スタータスイッチ46の操作を解除する)と、スタータギヤ44aが回転を停止する。
エンジン1の運転中には、クランク軸14と共に外輪44bが正転方向R1に回転する。このとき、正転方向R1への外輪44bの回転速度が、正転方向R1へのスタータギヤ44aの回転速度を上回っていると(スタータギヤ44aが停止している場合も含む)、各ローラは収容空間のうち半径方向に広くなる側に進もうとするため、外輪44bと円筒部44dに対する各ローラの接触面圧(楔の効果)が解除される。従って、所定以上のエンジン回転数であるエンジン1の運転中には、ワンウェイクラッチ44は、クランク軸14の駆動トルクをスタータギヤ44aやスタータモータ40に伝えないフリー状態になる。
このように、ワンウェイクラッチ44は、エンジン1の始動時にスタータモータ40の駆動トルクをクランク軸14に伝達し、エンジン1の運転中のクランク軸14の駆動トルクをスタータモータ40側に伝達しないという機能を有する。
なお、エンジン1が停止に近い状態(回転数が低い場合など)にあるとき、ピストン16に対する圧縮反力などを受けてクランク軸14が逆転方向R2に回転しようとする場合がある。クランク軸14が逆転方向R2に回転すると、ワンウェイクラッチ44の各ローラの接触面圧を高める(楔の効果が生じる)方向に外輪44bが回転する。このとき、停止状態のスタータモータ40によってスタータギヤ44aの回転が規制されていると、各ローラを介して外輪44bの回転が制限され、逆転方向R2へのクランク軸14の回転を止めるように作用する。
続いて、主に図4から図6を参照して、吸気バルブ22と排気バルブ23の開閉動作を行わせる動弁装置3の構成を説明する。吸気バルブ22と排気バルブ23は周知のものであるため、詳細な構成の説明は省略する。吸気バルブ22と排気バルブ23はそれぞれ、バルブスプリング(不図示)によって閉じ方向に付勢されており、ロッカーアーム(不図示)の揺動によって開閉動作を行う。動弁装置3は、クランク軸14の回転に同期して、吸気バルブ22用のロッカーアームと、排気バルブ23用のロッカーアームを所定のタイミングで揺動させる。なお、ロッカーアームを介さずに、吸気カムや排気カムがタペットを押圧して吸気バルブや排気バルブの動作を行わせるタイプの動弁装置であってもよい。
動弁装置3は、シリンダヘッド12の上部に形成される動弁室内に配置されるカムシャフト49とカムシャフト50を備えている(図1参照)。カムシャフト49,50は、クランク軸14と平行に左右方向へ延びている。カムシャフト49には吸気カム53が設けられており、カムシャフト50には排気カム54が設けられている。
動弁装置3のうち、排気バルブ23の駆動に関与する部分を図4から図6に示した。カムシャフト50は、軸受51,52を介してシリンダヘッド12に対して回転可能に支持されている。カムシャフト50には、軸方向に位置を異ならせて、2つの排気カム54とカムスプロケット55が設けられている(固定されている)。クランク軸14と一体に回転するカムドライブギヤ(不図示)とカムスプロケット55の間にカムチェーン(不図示)が架け渡されており、クランク軸14の回転がカムチェーンを介してカムスプロケット55に伝達される。従って、エンジン1の運転中には、クランク軸14に同期してカムシャフト50が回転する。クランク軸14の正転方向R1への回転に対応するカムシャフト50の回転方向を正転方向R11、クランク軸14の逆転方向R2への回転に対応するカムシャフト50の回転方向を逆転方向R12とする(図4から図6参照)。
詳細な説明を省略するが、吸気カム53を備えたカムシャフト49は、カムシャフト50と同様の機構(カムチェーンやカムスプロケット)を介して、クランク軸14に同期して回転される。
吸気カム53と排気カム54の周面にはカム面が形成されている。吸気カム53のカム面に対して、吸気バルブ22側のロッカーアーム(不図示)に設けたカムフォロアが当接し、排気カム54のカム面に対して、排気バルブ23側のロッカーアーム(不図示)に設けたカムフォロアが当接している。カムシャフト49,50が回転すると、吸気カム53と排気カム54のそれぞれのカム面に対するカムフォロアの当接位置が変化して各ロッカーアームが揺動を行い、吸気バルブ22と排気バルブ23がそれぞれ所定のタイミングで開閉動作を行う。
排気カム54のカム面は、ベース円部54aとリフト制御部54bを含んでいる。ベース円部54aは、カムシャフト50の回転中心からの半径が小さい円形(円筒)状部分である。リフト制御部54bは、ベース円部54aに対して外径側への突出量を大きくした非円形の形状である。
排気バルブ23用のロッカーアームのカムフォロアが、排気カム54のベース円部54aに対向する状態では、バルブリフト量がゼロであり、排気バルブ23が閉じている。
正転方向R11へのカムシャフト50の回転に伴い、リフト制御部54bがロッカーアームのカムフォロアに当接すると、バルブスプリングの付勢力に抗して排気バルブ23のリフト動作が開始される。リフト制御部54bのうち外径方向に最も突出した部分がカムフォロアに当接する時点で、排気バルブ23のバルブリフト量(開度)が最大になる。
さらに正転方向R11へカムシャフト50が回転すると、リフト制御部54bによるロッカーアームへの押圧が徐々に解除され、バルブスプリングの付勢力によって排気バルブ23のリフト量が徐々に小さくなる。そして、ベース円部54aがカムフォロアに対向する状態で、排気バルブ23が閉じる。
詳細な説明を省略するが、吸気カム53のカム面は、排気カム54と同様にベース円部53aとリフト制御部53bを含んでおり、カムシャフト49の回転に応じて吸気バルブ22の開度を変化させる。
カムシャフト50の周面の一部には、軸方向に延びる収容溝50aが形成されている。収容溝50aは、軸方向で排気カム54からカムスプロケット55にかけての範囲に形成されている。2つの排気カム54のうち一方には、ベース円部54aの周面の一部を切り欠いて、収容溝50aに連通する収容凹部54cが形成されている。カムスプロケット55には、収容溝50aの延長上に位置する円形の貫通孔55aが形成されている。
動弁装置3は、エンジン1の始動時に排気バルブ23を僅かに開かせて(開度を与えて)圧縮反力を低減させるデコンプ動作を行うデコンプ機構4を備えている。デコンプ機構4は、デコンプカムシャフト56とデコンプウエイト57を有している。
デコンプカムシャフト56は、カムシャフト50の軸方向に延びる円柱状の部材であり、収容溝50aに収容されている。デコンプカムシャフト56は、軸受52の内側を通過しており、収容溝50aの内面と軸受52とを介して、デコンプカムシャフト56自身の軸線を中心とする回転が可能に支持されている。
デコンプカムシャフト56の一方の端部にはデコンプカム58が形成されている。デコンプカム58は、円柱状のデコンプカムシャフト56の一部を切り欠いた形状(Dカット形状)をなし、切り欠かれていない部分に相当する円筒面部58aと、切り欠かれた部分に相当する平面部58bとを有している。
図5に示すように、円筒面部58aは、収容凹部54cの外側に向いたときに、ベース円部54aよりも外径方向に突出する形状(寸法)である。図6に示すように、平面部58bは、収容凹部54cの外側に向いたときに、ベース円部54aに対して外径方向に突出せずに収容凹部54c内に収容される形状(寸法)である。つまり、カムシャフト50に対するデコンプカムシャフト56の回転に応じて、デコンプカム58は、排気カム54のベース円部54aに対して外径方向に突出する突出位置(図5)と、突出しない格納位置(図6)に変化する。
デコンプカムシャフト56の他方の端部は、貫通孔55aを貫通してデコンプウエイト57に接続している。デコンプウエイト57は、カムスプロケット55の一方の側面に沿って配置されており、デコンプカムシャフト56と一体的に回転(揺動)する。デコンプウエイト57は、デコンプカムシャフト56に接続する基端部57aから、L字状のアーム57bを延出させている。図5及び図6に示すように、アーム57bは、カムスプロケット55の外周付近に沿って逆転方向R12へ延びる鈎状の形状を有している。
図4に示すように、カムスプロケット55に支持プレート59が取り付けられている。支持プレート59は、カムスプロケット55との間にデコンプウエイト57を支持して、軸方向でのデコンプカムシャフト56及びデコンプウエイト57の位置を定める。また、支持プレート59の所定部位にデコンプウエイト57が当接することによって、デコンプウエイト57の揺動範囲が定められる。具体的には、デコンプカム58の突出位置(図5)と、デコンプカム58の格納位置(図6)が、デコンプウエイト57の揺動範囲の一端と他端になるように構成されている。
デコンプウエイト57は、図5及び図6に模式的に表すバネ60によって、デコンプカム58を突出位置にさせる方向(図5及び図6の時計方向)に向けて付勢されている。バネ60は、例えばコイルバネやトーションバネなどで構成されるものであり、具体的な形態は限定されない。
カムシャフト50が回転すると、カムシャフト50の回転中心から偏心して設けられたデコンプウエイト57が、遠心力によってデコンプカムシャフト56を中心として揺動する。より詳しくは、カムシャフト50が正転方向R11に回転すると、デコンプウエイト57を図5及び図6で反時計方向に揺動させる遠心力が働く。この遠心力がバネ60の付勢力を超えると、デコンプウエイト57が揺動して、デコンプカム58が突出位置(図5)から格納位置(図6)に回転する。
以上の構成のデコンプ機構4は、次のように動作する。エンジン1の停止状態では、カムシャフト50が回転しておらず、デコンプウエイト57に対して遠心力が作用していない。そのため、図5に示すように、バネ60の付勢力によってデコンプカム58が突出位置に保持されて、デコンプ機構4は作動状態にある。
停止状態のエンジン1を始動させるとき、スタータモータ40の駆動によってクランク軸14が正転方向R1に回転し、これに応じてカムシャフト50が正転方向R11に回転する。すると、圧縮行程において、ベース円部54aよりも外径方向に突出するデコンプカム58の円筒面部58aによって、排気バルブ23用のロッカーアームが押圧されて、排気バルブ23が僅かにリフトされる。これにより、排気通路への圧抜きが行われて圧縮反力が低減されて、スタータモータ40の駆動力によってピストン16が圧縮上死点を超えることができる。従って、小型のスタータモータ40を用いて、高圧縮比の単気筒エンジンであるエンジン1における確実な始動を実現できる。
エンジン1が始動してクランク軸14が所定の回転速度(アイドル状態の回転速度)まで達すると、クランク軸14に同期して回転するカムシャフト50に支持されているデコンプウエイト57が、遠心力によってバネ60の付勢力に抗して揺動する。すると、デコンプウエイト57に接続しているデコンプカムシャフト56のデコンプカム58が、図5の突出位置から図6の格納位置へと回転する。これにより、平面部58bが外径側を向き、デコンプカム58(円筒面部58a)が収容凹部54c内に格納されてベース円部54aよりも突出しない状態、すなわちデコンプ機構4の非作動状態になる。デコンプ機構4の非作動状態では、圧縮行程でデコンプカム58(円筒面部58a)による排気バルブ23のバルブリフトが行われず、エンジン1はデコンプ動作を伴わない通常の運転を行う。
エンジン1の運転が停止してクランク軸14の回転速度が所定以下になると、デコンプウエイト57に働く遠心力が減少し、バネ60の付勢力によってデコンプウエイト57が揺動し、デコンプカム58が格納位置(図6)から突出位置(図5)に回転する。これにより、デコンプ機構4が作動する状態で次のエンジン始動を行うことができる。
ところで、高圧縮比のエンジンでは所定の条件下において、始動途中でエンジン回転数が急速に低下して停止してしまうおそれがある。具体的には、スロットル開度を所定以上に(アイドル開度よりも)大きく開けながら始動させた場合が該当する。
図7(A)のグラフは、スロットルバルブ26をアイドル開度にした状態、すなわち適切な吸気状態で、スタータモータ40を駆動してクランキングした場合を示している。図7(A)におけるM1は、吸気通路(吸気管24及び吸気ポート20)のうちスロットルバルブ26よりも下流側の圧力変化を示し、N1はエンジン回転数(クランク軸14の回転速度)の変化を示している。
エンジン1が停止する際に、惰性で正転方向R1に回転するクランク軸14は、圧縮行程での圧縮反力による抵抗を受けることにより、停止してから逆転方向R2へ回転しようとする。上述のように、クランク軸14が逆転方向R2に回転すると、ワンウェイクラッチ44がクランク軸14の回転を止めるように作用する。従って、エンジン停止時のクランク軸14の停止位置は、圧縮行程での特定範囲に集中する傾向がある。
乗員によるスタータスイッチ46の操作で、スタータモータ40の駆動が開始される。図7(A)に、クランキングの1回目の着火サイクルを示した。エンジン停止状態からスタータモータ40を駆動すると、圧縮行程での圧縮反力に抗してクランク軸14が正転方向R1に回転する。ここで、デコンプ機構4が作動状態になっており、排気バルブ23を僅かに開いて圧縮反力を低減させながらクランク軸14を回転させるので、スタータモータ40の駆動力によって最初の圧縮上死点を超えさせることができる。そして、クランク軸14が圧縮上死点を超えるとエンジン回転数が急激に増加する。
エンジン回転数が上昇すると、デコンプ機構4のデコンプウエイト57が遠心力によって揺動して、デコンプカム58が突出位置(図4)から格納位置(図5)に回転する。つまり、デコンプ機構4が非作動状態になる。
クランク軸14の膨張下死点から排気上死点まではエンジン回転数が漸減する。また、クランク軸14の排気上死点付近で吸気バルブ22が開かれて吸気行程に入ると、吸気通路(吸気ポート20、吸気管24)が負圧になる。
ここで、スロットルバルブ26がアイドル開度である場合は、吸気通路からの吸気量(外気の取り込み量)が制約されており、燃焼室17側への吸気によってスロットルバルブ26から吸気ポート20までの負圧が大きくなる。そして、燃焼室17への吸気量が少ないため、クランク軸14が吸気下死点を越えて圧縮行程に入ったときの圧縮反力が抑えられる。その結果、図7(A)に示すように、圧縮行程でのエンジン回転数の落ち込みが抑制され、デコンプ機構4が非作動状態になっていても、クランク軸14の慣性力によって2回目の圧縮上死点を超えさせることができ、エンジン停止に至らずに次の着火サイクルに進むことができる。
図7(B)のグラフは、スロットルバルブ26をアイドル開度よりも所定以上開けた状態、すなわち過度な吸気状態で、スタータモータ40を駆動してクランキングした場合を示している。図7(B)におけるM2は、吸気通路(吸気管24及び吸気ポート20)のうちスロットルバルブ26よりも下流側の圧力変化を示し、N2はエンジン回転数(クランク軸14の回転速度)の変化を示している。
図7(B)の場合、1回目の着火サイクルの排気上死点付近までは、上述した図7(A)の場合と同様に推移する。しかし、スロットルバルブ26の開度が大きく吸気量が多くなるため、排気上死点付近からの吸気行程では吸気通路の負圧の程度が小さくなり、吸気下死点付近からの圧縮行程では吸気通路が大気圧相当になる。これにより、図7(A)の場合に比して圧縮反力が大きくなる。また、デコンプカム58が格納位置になってデコンプ機構4が非作動状態になっていると、燃焼室17の減圧を行えない。これらの要因によって、図7(B)に示すように、クランク軸14の慣性エネルギーが圧縮行程での圧縮反力を超えることができずに、2回目の圧縮上死点付近でエンジン回転数が急激に低下してしまい、エンジン停止に至る。
特に、エンジン1を搭載した車両でレースに参加している最中にエンジンストールなどを起こした場合、乗員は一刻も早く走行に復帰したいという心理状況から、アクセル32を過剰に操作しながらエンジン始動を行わせるおそれがある。すると、このような吸気過多による始動エラーでのエンジン停止が生じやすくなる。
クランク軸14とスタータモータ40との間に設けたワンウェイクラッチ44は、クランク軸14側の回転数(エンジン回転数)がスタータモータ40側の回転数よりも相対的に高い場合には、回転伝達を行わずにスタータモータ40を無負荷で回転させるフリー状態になる。そのため、図7(A)のようにエンジン1が適切に始動した場合には、エンジン回転数が所定以上になった段階で、ワンウェイクラッチ44を介した動力伝達が解除され、スタータモータ40を継続して駆動させていても問題が生じない。
これに対し、図7(B)のようにエンジン回転数が急激に低下した場合、スタータモータ40の駆動(通電)を継続させていると、エンジン回転数がスタータモータ40の回転数を下回った段階でワンウェイクラッチ44の回転伝達(再接続)が急激に生じる。すると、無負荷で仕様上の最高速の回転を行っているスタータモータ40側と、急停止したクランク軸14側との動作量の差によって、大きな衝撃が発生してしまうおそれがある。この衝撃は、スタータ駆動機構2を構成する部品にダメージを与えたり、大きな異音を発生させたりする。
このような不具合を防ぐべく、本実施の形態のエンジン1では、次のような制御及び動作を行わせる。ECM5は、エンジン1の始動時に、クランク角センサ19の出力信号に基づいて、エンジン回転数の減速度X(単位時間あたりの回転数低下の程度)を継続的に監視する。図8のグラフに示すように、減速度Xが所定の閾値を超えたことが検知された場合に、ECM5は、スタータモータ40の駆動を制御するモータドライバに、スタータモータ40への通電を遮断するように信号を送り、スタータモータ40の駆動を停止させる。このスタータモータ40の駆動停止は、乗員の操作によってスタータスイッチ46が継続的にオンされている場合でも、ECM5の制御によって強制的に実行される。
スタータモータ40が最高速で回転している場合に、ワンウェイクラッチ44がフリー状態と接続状態に切り替わるエンジン回転数の境界値Zを図8に示した。エンジン回転数が境界値Zよりも高い間は、ワンウェイクラッチ44がフリー状態になり、エンジン回転数が境界値Zよりも低くなると、ワンウェイクラッチ44が接続状態になる。
図8に示すように、エンジン回転数の減速度Xに基づくスタータモータ40の駆動停止は、圧縮反力を超えられずにエンジン1の回転が急減速して境界値Zまで下降するよりも前の段階で行われている。換言すれば、エンジン1の回転数が境界値Zに達する段階ではスタータモータ40が既に停止しているように、スタータモータ40の停止制御の実行条件であるエンジン回転数の減速度Xの閾値が設定されている。
これにより、スタータスイッチ46が継続して操作されている状況下で、ワンウェイクラッチ44が衝撃を伴って急激に接続することを防ぎ、上述した過大な衝撃を発生させずにスタータ駆動機構2の構成部品などを保護することができる。
モータ停止から所定時間Tの経過後に、ECM5はモータドライバにスタータモータ40の駆動信号を送り、スタータモータ40に通電してスタータモータ40を再駆動させる。エンジン1の構成やスペックによって適切な所定時間Tは異なるが、一例として、所定時間Tを0.1~0.5秒程度に設定するとよい。所定時間Tの経過後は、回転停止又はそれに近い状態にあるクランク軸14に対して、再駆動するスタータモータ40から駆動力が伝達されるので、ワンウェイクラッチ44での急激な接続による衝撃が発生せず、スムーズに動作させることができる。
エンジン回転数の減速度Xに基づくスタータモータ40の停止と再駆動は、ECM5によるエンジン始動制御の一環として自動的に行われ、乗員の特別な操作を要さない。また、所定時間Tの経過後にスタータモータ40を自動的に再駆動させるので、乗員がスタータスイッチ46を繰り返しオンオフ操作する必要がない。すなわち、エンジン始動時に、乗員がスタータスイッチ46をオンする通常の操作だけを行えばよく、操作の手間がかからない。特に、レースの最中などで乗員が焦ってスタータスイッチ46を押し続けても、スタータモータ40やその周辺構造を衝撃や損傷から自動的に保護できる。
図9のフローチャートを参照して、本実施の形態におけるエンジン1の始動制御の流れについて説明する。ステップS1では、スタータスイッチ46の操作の有無をチェックする。スタータスイッチ46の操作が検知された場合(ステップS1のYES)、当該操作によるスタータモータ40の駆動指示が継続しているかを、ステップS2でチェックする。駆動指示が継続的なものである場合(ステップS2のYES)、ステップS3に進み、ECM5が駆動信号を発してスタータモータ40の駆動を開始させる。また、ECM5は、着火サイクルにおける所定のタイミングでの点火プラグ18の点火を実行させる。
スタータモータ40の駆動開始後に、ステップS4でエンジン回転数(クランク軸14の回転速度)の減速度が所定値(閾値)以上になったか否かを判定する。この判定は、クランク角センサ19の出力信号を参照してECM5が行う。減速度が所定値以上にならない場合(ステップS4のNO)、つまり、クランク軸14が所定以上の回転速度を維持している場合は、スタータモータ40を継続的に駆動させていても支障が無い状態であるため、スタータモータ40の駆動を続けながらステップS2とステップS4の判定を継続的に行う。
エンジン回転数の減速度が所定値以上になった場合は(ステップS4のYES)、ステップS5に進み、ECM5がスタータモータ40への通電を停止するように制御し、スタータモータ40の駆動を停止させる。また、ステップS5では、ECM5が点火プラグ18の点火実行を停止させる。これにより、スロットルバルブ26の開度が大きすぎるなどの原因で、スタータモータ40の駆動力が圧縮反力の大きさを超えられずにクランク軸14の回転が急停止するような状態になったとしても、ワンウェイクラッチ44の再接続による過大な衝撃の発生を防ぐことができる。
ECM5は、ステップS5でのスタータモータ40の駆動停止からタイムカウントを行い、ステップS6で所定時間(図8のTに相当)を経過したか否かを判定する。スタータモータ40の駆動停止から所定時間が経過したら(ステップS6のYES)、ステップS2に戻り、スタータ駆動指示が継続しているか否かをチェックする。スタータ駆動指示が継続している場合(ステップS2のYES)、ECM5はスタータモータ40の再駆動を行わせる(ステップS3)。
ステップS1の判定とステップS2の判定のいずれかでNOである場合、すなわちスタータスイッチ46が操作されない場合や、スタータスイッチ46の継続的な操作(スタータモータ40の駆動指示)が解除された場合には、始動制御を終えて図9の制御フローから抜ける。
例えば、エンジン1が適正に始動してアイドリング状態に移行したことを確認した場合には、乗員はスタータスイッチ46の継続的な操作を解除するので、当該操作解除に伴ってステップS2の判定がNOになる。
また、スロットルバルブ26の開度が大きいままで、スタータモータ40の駆動力が圧縮反力を超えることができない状態が継続すると、スタータモータ40が時間をおいて停止と再駆動を繰り返す状態(図9のステップS2からステップS6をループする状態)になる。このようなスタータモータ40の挙動によって、エンジン始動に何らかのエラーが生じていることを認知した乗員が、スタータスイッチ46の継続的な操作を解除すると、ステップS2の判定がNOになる。
なお、上記の制御フローは、エンジン1を始動させる際に、乗員がスタータスイッチ46を継続的に操作する形態と、乗員がスタータスイッチ46を一時的に操作する形態(スタータスイッチ46を一度押したら離すタイプの操作)のいずれにも対応することが可能である。乗員がスタータスイッチ46を一時的に操作する形態では、ステップS2において、スタータスイッチ46への操作入力から所定時間が経過するまで、スタータモータ40の継続的な駆動指示が行われているという判定にする。
乗員への認知性を高めるために、ステップS5でのスタータモータ40の駆動停止を行う場合に、音や表示などによる報知手段を用いて警告を発するように制御してもよい。これにより、エンジン始動にエラーを生じさせる操作(スロットルバルブ26の開度を過度に大きくさせる無理なアクセル操作など)が行われていることを乗員に知らせて、当該操作を解除させるように促すことができる。
オプションとして、スタータモータ40の停止と再駆動の回数に規定値を設定しておき、スタータモータ40の停止と再駆動のカウント数が上記規定値を超えるか否かを判定するステップを追加してもよい。そして、規定値を超える回数のモータ停止と再駆動が行われた場合には、乗員がスタータスイッチ46の継続的な操作を行っていても、始動制御を中止してスタータモータ40を再駆動させないようにする。これにより、エンジン始動にエラーを生じさせる操作が解消されずに始動要求が継続している場合でも、スタータモータ40を保護することができる。
以上のように、本実施の形態によるエンジン1の始動制御では、エンジン停止に至るようなクランク軸14の急な減速が検出された場合に、スタータモータ40の駆動を停止させるので、ワンウェイクラッチ44が再接続する際の大きな衝撃を防ぐことができる。その結果、エンジン1の構成要素、特にスタータ駆動機構2からクランク軸14までの駆動力伝達系を保護して、部品破損のリスクを低減できる。
また、スタータモータ40を、吸気系からの吸気量が過大な場合でも圧縮反力に抗してエンジン始動を可能にする高出力なものにする必要がなく、小型で軽量なスタータモータ40を採用できる。
スタータモータ40の駆動停止は、クランク軸14の減速度を検出してECM5が自動で制御するため、乗員が複雑な操作を行う必要がない。また、クランク角センサ19などの検出結果に基づいてECM5の制御によって実現されるため、特別な部品を設ける必要が無く、エンジン1を大型化させずに低コストに得ることができる。
本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することが可能である。上記実施の形態において、添付図面に図示されている構成や制御などについては、これに限定されず、本発明の効果を発揮する範囲内で適宜変更することが可能である。その他、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施することが可能である。
例えば、上記実施形態のエンジン1は高圧縮比の単気筒エンジンであり、圧縮反力の大きさに対応するべく動弁装置3にデコンプ機構4を備えている。そして、デコンプ機構4が機能することを前提としてスタータモータ40の駆動力が設定されているため、エンジン回転数が上昇してデコンプ機構4が非作動状態に切り替わった段階で吸気量が過大であると、図7(B)に示すようなエンジン回転数の急激な低下が生じやすいという問題がある。このような観点から、本発明は特に、デコンプ機構を備えた内燃機関への有用性が高い。しかし、エンジン始動時に吸気量が過大であることを起因とする圧縮反力の増大は、デコンプ機構の有無に関わらず生じるものであるため、本発明はデコンプ機構を備えていない内燃機関にも有用である。
上記実施形態では、スタータモータ40の駆動停止と再駆動を行わせる判定要素として、エンジン回転数の減速度のみを参照している。これに加えて、スロットル開度センサ29で検出するスロットルバルブ26の開度などを参照して判定してもよい。エンジン回転数の急激な低下は、スロットルバルブ26の開度(吸気量)以外の要因によっても生じ得る。スロットルバルブ26の開度を判定要素に含めることで、エンジン回転数の急激な低下の原因がスロットルバルブ26の開度(吸気量)にある場合にフォーカスした始動制御とすることができる。
言い換えれば、上記実施形態のようにエンジン回転数の減速度のみを参照したスタータモータ40の駆動停止及び再駆動の制御は、スロットルバルブ26の開度(吸気量)以外の要因でエンジン回転数の急激な低下が生じた場合にも適用が可能であり、有効性がある。つまり、ワンウェイクラッチ44が再接続する際に大きな衝撃が生じるという事象全般への対策として適用可能である。
本発明の内燃機関は車両用のエンジンには限定されない。用途に関わりなく、同様の構成を備える内燃機関全般に適用が可能である。