JP7341919B2 - 電縫鋼管の溶接ビード切削部の補修方法、及び電縫鋼管の製造方法 - Google Patents
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Description
しかしながら、アーク溶射は、一般に、切削部に形成される補修層(アーク溶射層)の厚みが長手方向でばらつき易い。そのため、特許文献1の方法は、補修層の厚みが小さい部分が腐食の起点となり易く、耐食性を十分に確保することができない。
しかしながら、ガスフレーム溶射は、一般に、補修層(ガスフレーム溶射層)の厚みを大きくすることが難しい。そのため、特許文献2の方法は、耐食性を確保するために、溶射時のラインスピードを低下させて補修層の厚みを確保する必要があり、電縫鋼管の生産性が低下し易い。
しかしながら、ガスフレーム溶射を行った後にアーク溶射を行う特許文献3の方法は、ガスフレーム溶射によって形成される補修層(ガスフレーム溶射層)とアーク溶射によって形成される補修層(アーク溶射層)との密着性が悪く、その後の加工処理などで補修層が剥離し易い。
また、アーク溶射は、ガスフレーム溶射に比べて、溶射ワイヤを溶融させるためのエネルギー密度が高く、皮膜形成速度が速い。そのため、アーク溶射を行うことにより、厚みが大きいアーク溶射層(補修層)を形成し、補修層の耐食性を高めることができる。
また、アーク溶射層は、ガスフレーム溶射層に比べて表面が粗い。そのため、アーク溶射層上にガスフレーム溶射層を形成することにより、アンカー効果によってアーク溶射層とガスフレーム溶射層との密着性を高めることもできる。
アーク溶射層は、2本の溶射材料(ワイヤ)の種類を適宜選択することにより、各種材質のアーク溶射層を形成することができる。例えば、材質がAlのアーク溶射層を形成する場合、2本の溶射材料としてAlワイヤを選択すればよい。また、材質がZn-Al合金のアーク溶射層を形成する場合、2本の溶射材料としてZn-Al合金ワイヤを用いるか、又はZnワイヤとAlワイヤとを組み合わせて用いればよい。ただし、ZnワイヤとAlワイヤとを組み合わせて用いた場合、アーク溶射層でZn及びAlが均一に分布し難く、所望の耐食性が得られ難いため、2本の溶射材料(ワイヤ)は同一成分であることが好ましい。
ここで、本明細書において「アーク溶射層の平均厚み」とは、溶接ビード切削部に形成されたアーク溶射層及びガスフレーム溶射層の補修層断面の顕微鏡写真において、電縫鋼管の円周方向(C方向)で測定されたアーク溶射層の厚みの平均値を意味する。
なお、アーク溶射を行う際に溶接ビード切削部を加熱してもよい。溶射材料の種類にもよるが、例えば、200~350℃に溶接ビード切削部を加熱してアーク溶射を行うことにより、溶接ビード切削部とアーク溶射層との密着性を高めることができる。
ガスフレーム溶射層は、1本の溶射材料(ワイヤ)の種類を適宜選択することにより、各種材質のガスフレーム溶射層を形成することができる。例えば、材質がZn-Al合金のガスフレーム溶射層を形成する場合、1本の溶射材料としてZn-Al合金ワイヤを用いればよい。
ここで、本明細書において「ガスフレーム溶射層の平均厚み」とは、溶接ビード切削部に形成されたアーク溶射層及びガスフレーム溶射層の補修層断面の顕微鏡写真において、電縫鋼管の円周方向(C方向)で測定されたガスフレーム溶射層の厚みの平均値を意味する。
補修方法以外の工程は、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法に準じて行うことができる。具体的には、次のようにして電縫鋼管を製造することができる。まず、Alめっき層、Znめっき層、又はA1及びZnの少なくとも1種を含む合金めっき層を表面に有するめっき鋼帯の幅方向両端部を突き合わせて管状にロール成形した後、突き合せ部を電縫溶接する。次に、溶接ビードを切削し、溶接ビード切削部に上記の補修方法によって補修層を形成することにより、電縫鋼管を得ることができる。なお、電縫鋼管は、補修層の形成後に、サイジングロールを用いて所望のサイズに調整することができる。
Al、Zn及びMgを含む合金めっき層を表面に有する電縫鋼管(外径42.7mm×厚み2.3mm)の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第1溶射工程)を行った後に、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第2溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。溶射工程では、電縫鋼管の搬送速度を80m/分、アーク溶射ガンとガスフレーム溶射ガンとの間の距離を400mmとした。アーク溶射では、高速インバータドライブ溶射装置(ディーテック株式会社製ARC-BOY A400;以下の実施例及び比較例でも同じ装置を使用した)を用い、2本のワイヤの送給速度をいずれも13m/分、圧縮空気の圧力を0.52MPa、電圧を21.4V、電流を170A、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。ガスフレーム溶射では、ガス式メタライジング溶射機(コーケン・テクノ株式会社製CD-3型ガス・フレーム式金属ワイヤー溶射機;以下の実施例及び比較例でも同じ装置を使用)を用い、ワイヤの送給速度を4.2m/分、圧縮空気の圧力を0.4MPa、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第1溶射工程)を行った後に、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第2溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。溶射工程では、アーク溶接における2本のワイヤの送給速度をいずれも8m/分としたこと以外は、実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第1溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。アーク溶射の条件は、実施例1と同様にした。また、溶射工程におけるその他の条件は実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第1溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。アーク溶射の条件は、実施例2と同様にした。また、溶射工程におけるその他の条件は実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第1溶射工程)を行った後に、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第2溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。ガスフレーム溶射では、ワイヤの送給速度を4.2m/分、圧縮空気の圧力を0.4MPa、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。また、アーク溶射では、2本のワイヤの送給速度をいずれも13m/分、圧縮空気の圧力を0.52MPa、電圧を21.4V、電流を170A、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。溶射工程におけるその他の条件は実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第1溶射工程)を行った後に、Alワイヤ(径1.4mm)2本を用いてアーク溶射(第2溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。溶射工程では、アーク溶接における2本のワイヤの送給速度をいずれも8m/分としたこと以外は、比較例3と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第1溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。ガスフレーム溶射の条件は、比較例3及び4と同様にした。溶射工程におけるその他の条件は実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第1溶射工程)を行うことにより、溶接ビード切削部の補修を行った。ガスフレーム溶射では、ワイヤの送給速度を2.8m/分、圧縮空気の圧力を0.4MPa、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。溶射工程におけるその他の条件は実施例1と同様にした。
実施例1と同様の電縫鋼管の溶接ビード切削部に対して、Alワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第1溶射工程)を行った後に、ZnAlワイヤ(径1.4mm)1本を用いてガスフレーム溶射(第2溶射工程)を更に行うことより、溶接ビード切削部の補修を行った。溶射工程では、電縫鋼管の搬送速度を80m/分、2つのガスフレーム溶射ガンとの間の距離を400mmとした。最初のガスフレーム溶射では、ワイヤの送給速度を2.8m/分、圧縮空気の圧力を0.4MPa、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。また、後のガスフレーム溶射では、ワイヤの送給速度を4.2m/分、圧縮空気の圧力を0.4MPa、溶射ガンと溶接ビード切削部との間の距離を30mmとした。
なお、上記の実施例及び比較例における主要な溶射条件を表1に示す。
電縫鋼管の補修層が形成された位置を切断した。切断方向は、電縫鋼管の円周方向(C方向)とした。切断面について顕微鏡観察(400倍)を行い、顕微鏡写真において、任意の10点で補修層の厚みを測定し、その平均を平均厚みとした。
なお、この評価において、第1溶射工程で得られた層を第1溶射層、第2溶射工程で得られた層を第2溶射層と表す。
補修層の密着性は、直管の(曲げ加工していない)電縫鋼管及び曲げ加工した後の電縫鋼管の両方において評価した。
直管の電縫鋼管における補修層の密着性は、電縫鋼管の補修層の表面に市販のセロテープ(登録商標)を貼り、セロテープ(登録商標)を剥がした時の補修層の剥離の有無を評価した。
曲げ加工した電縫鋼管における補修層の密着性は、電縫鋼管を二次元曲げ加工した後、曲げ部の補修層の表面に市販のセロテープ(登録商標)を貼り、セロテープ(登録商標)を剥がした時の補修層の剥離の有無を評価した。
これらの評価において、補修層の剥離がなかったものを〇、補修層の一部の剥離があったものを×と表す。
1.CCT試験(塩乾湿複合サイクル試験)
CCT試験は、補修した電縫鋼管を所定の長さに切断した試験片で行った。
CCT試験は以下の(1)~(3)を1サイクルとして、660サイクル繰り返した。
(1)塩水噴霧(35℃、5%NaCl、15分)
(2)乾燥(60℃、30%RH、60分)
(3)湿潤(50℃、95%RH、3時間)
CCT試験の評価において、溶射部に赤錆がないものを〇、赤錆が発生したものを×と表す。
BBT試験は、補修した電縫鋼管を所定の長さに切断した試験片で行った。
BBT試験は、温度50℃、湿度98%RHの環境下で3500時間放置することによって行った。
BBT試験の評価において、表面に赤錆が発生していないものを〇、赤錆が発生したものを×と表す。
これに対して比較例1及び5~7の電縫鋼管は、密着性は良好であったものの、耐食性が十分でなかった。例えば、アーク溶射のみで補修層を形成した比較例1の電縫鋼管は、補修層(溶射層)の厚みは大きかったものの、その厚みのバラツキが大きく、耐食性が十分でなかった。特に、厚みが小さい箇所で赤錆の発生が確認された。また、ガスフレーム溶射のみで補修層を形成した比較例5及び6の電縫鋼管は、補修層の厚みが小さく、耐食性が十分でなかった。さらに、異なる溶射材でガスフレーム溶射を2回行うことで補修層を形成した比較例7の電縫鋼管は、補修層の厚みが依然として十分でなく、耐食性が十分でなかった。
ガスフレーム溶射を行った後にアーク溶射を行うことで補修層を形成した比較例3及び4の電縫鋼管は、曲げ加工後の補修層の密着性が不十分であり、補修層の部分的な剥離が観察された。剥離した部分について分析した結果、第1溶射層(ガスフレーム溶射層)と第2溶射層(アーク溶射層)との間で剥離していることが確認された。
Claims (6)
- Alめっき層、Znめっき層、又はAl及びZnの少なくとも1種を含む合金めっき層を表面に有する電縫鋼管の溶接ビード切削部上に、アーク溶射層及びガスフレーム溶射層から構成される2層構造の補修層を形成する電縫鋼管の溶接ビード切削部の補修方法であって、
前記溶接ビード切削部に対して、アーク溶射を行って前記アーク溶射層を形成した後、前記アーク溶射層上にガスフレーム溶射を行って前記ガスフレーム溶射層を形成し、
前記ガスフレーム溶射層の平均厚みが3~30μmである、電縫鋼管の溶接ビード切削部の補修方法。 - 前記アーク溶射層がAlを含む、請求項1に記載の補修方法。
- 前記ガスフレーム溶射層がAl及びZnを含む、請求項1又は2に記載の補修方法。
- 前記アーク溶射層の平均厚みが10~80μmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の補修方法。
- 前記電縫鋼管が、Al、Zn及びMgを含む合金めっき層を表面に有する電縫鋼管である、請求項1~4のいずれか一項に記載の補修方法。
- 請求項1~5のいずれか一項に記載の補修方法を含む、電縫鋼管の製造方法。
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