以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は原則として繰り返さない。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る空調システム100の室内機10の外観の一例を示す斜視図、および遠隔操作端末の一例であるPDA(Personal Digital Assistant)7をユーザが操作している様子を示す図である。PDA7は、たとえばスマートフォンである。
図1に示されるように、室内機10は、室内の壁面に設置される壁掛けタイプの室内機である。室内機10には、外郭を形成する筐体に、吸込口1および吹出口2が設けられている。吸込口1は、空調対象空間である室内(特定空間)の空気を吸い込むために設けられている。吹出口2は、室内機10を有する空気調和機1000による調和空気を室内に送出するために設けられている。送風ファン131は、吸込口1から吹出口2に至る気流を生成する。室内機10は、吹出口2から室内に送風する。
吹出口2には、上下風向板3および左右風向板4が設けられている。上下風向板3は、調和空気を送出する際の鉛直方向の送出方向を調整するため、回動自在に設けられている。左右風向板4は、調和空気を送出する際の水平方向の送出方向を調整するため、回動自在に設けられている。
室内機10には、赤外線センサ5が設けられている。図1に示す例において、赤外線センサ5は、室内機10側から見た際に左側の下部に設けられている。赤外線センサ5は、室内の温度を走査し、物体の表面から放射される赤外線を検出して室内の温度情報を熱画像として取得する。
なお、赤外線センサ5の設置位置は、図1に示す位置に限られない。たとえば、赤外線センサ5が室内の温度情報を取得できる位置に設置されていればよい。また、赤外線センサ5の形状についても、図1に示すような形状に限られず、室内の温度情報が取得できれば、どのような形状でもよい。
室内機10にはWiFi(登録商標)通信可能な室内通信部6が取り付けられている。室内機10は、PDA7とWiFi通信可能である。
図2は、実施の形態1に係る空気調和機1000の回路構成の一例を示す概略図である。図2に示されるように、空気調和機1000は、室内機10と、室外機20とを備える。空気調和機1000は、室内機10および室外機20が冷媒配管によって接続されている。冷媒配管内を冷媒が流れることによって冷凍サイクルが形成されている。空気調和機1000は、運転モードとして、冷房モードおよび暖房モードを有する。図2に示す例において、冷房モードでの冷媒の循環方向が実線で示され、暖房モードでの冷媒の循環方向が点線で示されている。
なお、図2の例では、1台の室内機10と1台の室外機20とが接続される場合を示すが、室内機10および室外機20の台数は、この例に限られない。たとえば、1台の室外機20に対して複数台の室内機10が接続されてもよいし、複数の室外機20に対して1または複数の室内機10が接続されてもよい。
室内機10は、膨張弁11、室内熱交換器12、室内送風機13、および室内制御装置30を含む。室内機10の筐体に、膨張弁11、室内熱交換器12、室内送風機13、および室内制御装置30が収容されている。室外機20は、圧縮機21、冷媒流路切替装置22、室外熱交換器23、室外送風機24、および室外制御装置40を含む。
膨張弁11は、冷媒を減圧して膨張させる。膨張弁11は、たとえば、電子式膨張弁などの開度の制御が可能な弁を含む。
室内熱交換器12は、吸込口1から吹出口2に至る気流を生成する送風ファン131を含む室内送風機13によって供給される、空調対象空間内の空気(以下、「室内空気」と適宜称する)と冷媒との間で熱交換が行われる。その結果、室内空間に供給される調和空気である暖房用空気または冷房用空気が生成される。
室内熱交換器12は、冷房モードにおいては、冷媒を蒸発させて冷媒の気化熱により室内空気を冷却する蒸発器として機能する。室内熱交換器12は、暖房モードにおいては、冷媒の熱を室内空気に放熱して冷媒を凝縮させる凝縮器として機能する。
室内制御装置30は、たとえばマイクロコンピュータ、あるいはCPU(Central Processing Unit)などの演算装置上で実行されるソフトウェア、および各種機能を実現する回路デバイスなどのハードウェア等を含む。室内制御装置30は、たとえば、図1のPDA7あるいは不図示のリモートコントローラに対するユーザの操作による設定、あるいは赤外線センサ5からの温度情報などに基づき、室内機10全体の動作を制御する。室内制御装置30は、赤外線センサ5によって温度情報が取得される際の、赤外線センサ5の駆動を制御する。
冷房モードにおいては、冷媒流路切替装置22が図2の実線で示す状態に切り替えられる。低温低圧の冷媒が圧縮機21によって圧縮され、高温高圧のガス冷媒となって吐出される。圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は、冷媒流路切替装置22を介して室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した高温高圧のガス冷媒は、室外空気と熱交換して放熱しながら凝縮し、過冷却状態の高圧の液冷媒となって室外熱交換器23から流出する。
室外熱交換器23から流出した高圧の液冷媒は、膨張弁11によって減圧されて低温低圧の気液二相冷媒となり、室内熱交換器12に流入する。室内熱交換器12に流入した低温低圧の気液二相冷媒は、室内空気と熱交換して吸熱および蒸発することにより室内空気を冷却し、低温低圧のガス冷媒となって室内熱交換器12から流出する。室内熱交換器12から流出した低温低圧のガス冷媒は、冷媒流路切替装置22を通過して、圧縮機21へ吸入される。
暖房モードにおいては、冷媒流路切替装置22が図3の点線で示す状態に切り替えられる。低温低圧の冷媒が圧縮機21によって圧縮され、高温高圧のガス冷媒となって吐出される。圧縮機21から吐出された高温高圧のガス冷媒は、冷媒流路切替装置22を介して室内熱交換器12に流入する。室内熱交換器12に流入した高温高圧のガス冷媒は、室内空気と熱交換して放熱しながら凝縮し、過冷却状態の高圧の液冷媒となって室内熱交換器12から流出する。
室内熱交換器12から流出した高圧の液冷媒は、膨張弁11によって減圧されて低温低圧の気液二相冷媒となり、室外熱交換器23に流入する。室外熱交換器23に流入した低温低圧の気液二相冷媒は、室外空気と熱交換して吸熱および蒸発し、低温低圧のガス冷媒となって室外熱交換器23から流出する。室外熱交換器23から流出した低温低圧のガス冷媒は、冷媒流路切替装置22を通過して、圧縮機21へ吸入される。
図3は、図2の空気調和機1000の構成の一例を示す機能ブロック図、および図1のPDA7の構成の一例を示す機能ブロック図を併せて示す図である。図3に示されるように、室内制御装置30とを含む。室内制御装置30は、入力回路31、演算処理装置32、記憶装置33、および出力回路34を含む。
入力回路31には、不図示のリモートコントローラからの設定情報、PDA7からの設定情報、赤外線センサ5からの温度情報、および室外制御装置40からの制御情報などが入力される。PDA7からの設定情報は、室内通信部6を介して入力される。入力回路31は、入力された各種情報を演算処理装置32に対して出力する。
演算処理装置32においては、記憶装置33に記憶されたデータを用いて、入力回路31から受け取った情報に基づき各種処理を行う。たとえば、演算処理装置32は、赤外線センサ5からの温度情報に基づき、室内の温度状態を示す熱画像を作成する処理、当該熱画像に基づいて室内に存在する人体の位置および人体の温度を検出する処理などを行う。
演算処理装置32は、人体の位置および人体の温度などに応じて調和空気を送出するように、室内機10に設けられた各動作装置に対する制御情報、および室外機20に対する制御情報などを生成して出力回路34に出力する。制御情報には、たとえば、風向を制御するための情報、室内送風機13の風量を制御するための情報、および膨張弁11の開度を制御するための情報が含まれる。
記憶装置33には、演算処理装置32によって行われる処理に必要なプログラムおよび各種データが記憶される。記憶装置33は、演算処理装置32による各種処理によって得られたデータを記憶することもできる。たとえば、記憶装置33は、室内に人体が存在しない場合の熱画像を記憶する。当該熱画像は、演算処理装置32によって室内の人体の位置の検出に用いられる基準となる熱画像(以下、「基準熱画像」と適宜称する。)である。基準熱画像は、たとえば、室内に人体が存在しないと判断できる場合の温度情報に基づき、演算処理装置32によって予め作成される。
出力回路34は、演算処理装置32から各種の制御情報を受け取り、対応する室内機10に設けられた動作装置、または室外機20に対して出力する。たとえば、風向を制御するための制御情報を受け取った場合、出力回路34は、上下風向板3および左右風向板4を駆動するための不図示の駆動装置に対してこの制御情報を出力する。また、風量を制御するための制御情報を受け取った場合、出力回路34は、室内送風機13を駆動するための不図示の駆動装置に対してこの制御情報を出力する。さらに、室外機20に対する制御情報を受け取った場合、出力回路34は、室外機20の室外制御装置40に対して制御情報を出力する。
演算処理装置32には、赤外線センサ5により取得された温度情報が入力回路31から入力される。演算処理装置32は、入力された温度情報に基づき、室内の温度分布を示す熱画像情報を作成する。熱画像情報は室内通信部6からPDA7に送信される。
PDA7は、制御部71、端末通信部72、表示部73、可視カメラ74、および記憶部75を含む。端末通信部72は、室内機10の室内通信部6と無線通信する。可視カメラ74は、室内機10が配置される室内の3次元間取り情報(室内3次元間取り情報)として、室内映像を取得する。表示部73は、表示部73への接触を検知するタッチパネル731を含む。
記憶部75には、室内の気流を体感しながら空気調和機1000を遠隔操作することができる遠隔操作アプリケーション(ソフトウェア)がインストールされている。制御部71は、記憶部75にインストールされている遠隔操作アプリケーションを用いて、可視カメラ74によって撮影された室内映像、PDA7に入力される間取り配置平面図、および室内機10に搭載される赤外線センサ5によって撮影された熱画像情報を解析し、3次元画像に変換された3次元室内間取り情報を表示部73に表示することができる。3次元室内間取り情報は、数値流体力学(CFD:Computational Fluid Dynamics)に基づくシミュレーション(CFD計算)において用いられる3次元解析メッシュモデルの原型としても用いられる。制御部71は、CFD計算を行って室内の気流分布を求め、当該気流分布を表示部73に表示することができる。制御部71は、サンプリングタイム毎にCFD計算を行なう。
図4~図6は、室内の鳥瞰図がPDA7の表示部73に表示されている様子を示す図である。図4においては、空気調和機1000の運転前の室内画像41aが表示されている。図5においては、ユーザ(人体)50が空気調和機1000の運転を開始しようとしている場合の室内画像41bが表示されている。図6においては、空気調和機1000の運転が開始された後の室内画像41cが表示されている。室内画像41a~41cは、たとえばCG(Computer Graphics)である。
図4に示されるように、可視カメラ74のレンズ部は、表示部73の画面が配置されているPDA7の正面に配置されている。可視カメラ74のレンズ部は、PDA7の背面に配置されていてもよい。室内機10が設置されている室内には、ドア42が設けられているとともに、ソファ43、および棚44が配置されている。図4においては、ドア42は閉じられており、室内には誰も表示されていない。
図5においては、室内の配置は、人体50がソファ43に腰掛けているとともに、ドア42が開放されている配置に変化している。さらに、空気調和機1000の運転前に取得された室内3次元間取り情報に基づいて作成された3次元間取り画像に、予め定められた運転状態(たとえば空気調和機1000の前回の運転終了時の運転状態、あるいは空気調和機1000の運転が安定した場合に想定される運転状態)に基づいて、空気調和機1000の運転が開始された場合に想定される室内の3次元気流分布(流線)60bが重ねて表示されている。
図6においては、室内の配置は、人体50がソファ43の前方右において起立している配置に変化している。空気調和機1000の運転中にPDA7によって予測された室内の3次元気流分布60cが、3次元間取り画像に重ねて表示されている。室内機10の吹出口2からの気流はソファ43に向かって流れるが、前方の人体50を避けて広がるように気流が変化している。
図7は、図5に示される室内の様子に対応するメッシュモデルを示す図である。図7(a)は、真上(Z軸方向)から室内を平面視した図である。図7(b)は、真横(Y軸方向)から室内を平面視した図である。図7(a)の中央付近および図7(b)の下部中央付近のハッチングが施された領域は、人体50がソファ43に腰かけた状態で一体となったハッチングであるが、熱画像と事前の間取り配置図の情報により、人体50のハッチング境界H1aとソファ43のハッチング境界H1bとに識別される。人体50を囲む領域R1aをハッチング境界H1aから最小2個分のメッシュ領域を確保した直方体で囲むように形成する。同様にソファ43を囲む領域R1bをハッチング境界H1bから最小2個分のメッシュを確保した直方体で囲むように形成すると、領域R1aとR1bとは重なって示される。なお、メッシュモデルは、空間座標系XYZに固定された直交格子によって形成されており、図7に示される室内全領域のメッシュ数は9万個程度である。図8においても同様である。また、全メッシュ領域の外周境界は基本壁面境界であるが、ドア42あるいは窓が開いた箇所は流体の流出境界として扱う。
図8および図9は、図6に示される室内の様子に対応するメッシュモデルを示す図である。図8(a)および図9(a)は、真上から室内を平面視した図である。図8(b)および図9(b)は、真横から室内を平面視した図である。図8(a)の中央付近および図8(b)の下部中央付近のハッチングが施された領域にはソファ43が示されているとともに、ソファ43から室内機10へ近づいた位置に直立した人体50が示されている。空気調和機1000の瞬時気流予測が行われる或るサンプリングタイミングにおける室内の様子に対応する。人体50のハッチング境界H2aを囲む領域R2aと、ソファ43のハッチング境界H2bを囲む領域R2bとが示されている。
以下では、図7に示されるメッシュモデルを空気調和機1000の運転中の或るサンプリングタイミングにおける室内の様子に対応するメッシュモデル(第1メッシュモデル)とし、図8に示されるメッシュモデルを、図7のサンプリングタイムの次のサンプリングタイムにおける室内の様子に対応するメッシュモデル(第2メッシュモデル)とする。
空気調和機1000の運転中の瞬時予測気流において、画像認識システムを用いて、今回のサンプリングタイムにおける赤外線センサ5の室内映像と前回のサンプリングタイムにおける赤外線センサ5の室内映像とが比較される。当該比較においては、人体50の位置、ソファ43および棚44等の家具の位置、ならびにドア42の開閉等、無視することができない影響を気流に与える閉塞物体の変化がチェックされる。今回のメッシュモデルのうち、前回のサンプリングタイムにおけるメッシュモデルと異なる部分領域(気流補正領域)が抽出される。
たとえば、図7と図8とのメッシュモデルを比較すると、図8のソファ43のハッチング境界H2bが、図7のソファ43を囲む領域R1b内にあるため、ソファ43は大きく移動していないと判断し、図8の領域R2bを再計算必要な気流補正領域と扱わない。一方、図8の人体50のハッチング境界H2aは、図7の人体50を囲む領域R1aからはみ出しているので大きく移動したと判断される。図7の領域R1aおよび図8の領域R2aを再計算必要な気流補正領域としては扱う。すなわち、再計算領域は、前回のサンプリングタイムにおける人体50の位置(第1位置)に対応するメッシュ、および今回のサンプリングタイムにおける人体50の位置(第2位置)に対応するメッシュを含む。
あるいは、図7の領域R1aおよび図8の領域R2aが重なる領域が小さく、領域R1aおよび領域R2aの間に重ならない狭い空間あるいは歪な空間が生じると判断される場合には、図9(a)および図9(b)に示されるように、図7の人体50のハッチング境界H1aと図8の人体50のハッチング境界H2aから最小2個分のメッシュを確保した直方体で囲む図9の領域R3を新たに形成して、再計算必要な気流補正領域として扱うことが必要である。
また、実施の形態1では、再計算必要な気流補正領域を室内メッシュ空間の外周壁面と平行する直方体で形成した。抽出した物体が傾いている場合は、外周壁面に対して傾いた直方体で形成してもよい。
前回のサンプリングタイムから今回のサンプリングタイムにかけて、着目した物体Xのハッチング境界H1xが、これを囲む流体領域R1xを超えて変化する場合、物体Xが移動したと判定し、気流補正領域に対してCFD計算(部分領域CFD計算)が行われる。当該閾値は、実機実験あるいはシミュレーションによって適宜設定することができる。実施の形態1では、流体領域R1xをハッチング境界H1xよりメッシュサイズ2個分以上大きな直方体で設定した。
また、図8(a)および図8(b)においては、CFD計算を行なう領域がR2(メッシュ数は1万個程度)に限定されることにより、メッシュモデルの全領域に対してCFD計算が行われる場合に比べて、再計算の対象となるメッシュ数を1/9(X軸方向長さ1/2、Y軸方向長さ1/3、およびZ軸方向長さ2/3)に削減することができる。領域R2以外の領域については、前回のサンプリングタイムにおけるCFD計算の結果が使用される。
PDA7の制御部71は、部分領域CFD計算の結果を用いて予測された3次元気流分布が赤外線センサ5から取得された熱画像に重ねられた合成画像を、表示部73に表示する。当該合成画像は、たとえば拡張現実(AR:Augmented Reality)画像である。
図10は、室内の人体50から見た室内熱画像51aを示す図である。赤外線センサ5から取得された熱画像を元に、室内の人体50から室内機10側を見た熱画像を予測して、温度分布を示すグラデーションが施されている。この熱画像に、人体50の画像、および3次元気流分布61aが重ねられている。たとえば、ユーザは、図10のタッチパネル731に対して、気流を示す流線を所望の方向になぞることによって、室内機10によって形成される気流の方向を変えることができる。
図11は、室内機10の赤外線センサ5から見たAR熱画像51bを示す図である。図11に示されるように、AR熱画像51bにおいては、赤外線センサ5から取得された熱画像において、エッジ検出処理によって検出された物体のエッジ部が白線で強調されている。AR熱画像51bにおいては、赤外線センサ5の画像、温度分布を示すグラデーションが施された人体50の画像、ならびに3次元気流分布61bが熱画像に重ねられている。
図12は、空気調和機1000の運転に先立ってPDA7において行われる事前設定処理の流れを示すフローチャートである。以下ではステップを単にSと記載する。図12に示されるように、S101においてPDAの初期設定が行われる。具体的には、遠隔操作アプリケーションを空気調和機1000のメーカサイトからPDA7にダウンロードし、インストールする。次に、空気調和機1000の機種情報を、遠隔操作アプリケーションに入力し、機種単体の気流特性データをメーカから取得する。機種単体の気流特性データとは、たとえば、室内機10の送風ファン131の回転速度、上下風向板3の角度、および左右風向板4の角度による気流速度分布の関係についての空気調和機1000の実験データ、ならびにCFD計算結果が含まれる計算データである。機種単体の気流特性データは、クラウドサービス等から取得される。
S101に続いてS102において、空気調和機1000の運転前の室内間取り情報の収集が行われる。具体的には、PDA7の可視カメラ74による室内の撮影、3次元間取り配置図の読込み、基本情報の入力、空気調和機1000の赤外線センサ5による室内撮影、および遠隔操作アプリケーションへの間取り基本情報の入力が行われる。赤外線センサ5による室内撮影によっては判別し難い室内3次元間取り情報を、PDA7の可視カメラ74等を用いて明確に識別することができる。その結果、3次元あるいは2次元の室内配置図の作成およびCFDメッシュモデルを、赤外線センサ5からの熱画像のみを用いる場合よりも正確に作成することができる。S102の処理により、たとえば、図4に示されるような3次元室内配置図をPDA7の表示部73に表示することが可能になる。
再び図12を参照しながら、S102に引き続いてS103において、空気調和機1000の運転前の室内のCFD計算、あるいは空気調和機1000の試運転による気流予測の検証が行われ、室内の3次元流速分布の予測が或る程度の精度で行えるようにデータベースへのデータの蓄積が行われる。S103においては、一般的な画像認識システムにより、室内の気流に無視することができない影響を与える閉塞物体として、ドア42、ソファ43、棚44、および人体50各々の位置、ならびにドア42の開閉等が抽出される。S103の処理により、たとえば、図5に示される室内気流分布をPDA7の表示部73に表示することが可能になる。
再び図12を参照して、S103の完了によって、空気調和機1000の運転前に行われる事前設定が終了する。なお、S102、およびS103の各処理は、インターネット上のクラウド計算機によって行われてもよい。
ユーザは、PDA7のタッチパネル731あるいは不図示のリモートコントローラを用いて、運転モード(冷房モード、暖房モード、あるいは除湿モード等)および温度を設定し、空気調和機1000を起動する。空気調和機1000の起動により、圧縮機21が運転を開始して、空気調和機1000の冷媒回路を冷媒が循環し始める。また、室内機10も室内制御装置30に制御されて運転を開始する。
図13は、図3のPDA7の制御部71によって行われる気流制御処理の流れを示すフローチャートである。図13に示される処理は、遠隔操作アプリケーションのメインルーチンによって、サンプリングタイム毎に呼び出される。
図13に示されるように、制御部71は、S201において、前回の気流予測データを1サンプリングタイム前に計算された気流予測データに更新し、処理をS202に進める。空気調和機1000の運転開始後に最初に図13に示される処理が行われる場合、図12のS103において事前に計算された気流予測データが前回の気流予測データとされる。
制御部71は、S202において、室内間取り情報を更新し、処理をS203に進める。具体的には、室内機10の赤外線センサ5によって撮影された室内映像を室内機10から取得して、室内間取り情報を作成するとともに、人体の位置と人体の温度情報を検出する。たとえば、図11のようにソファ43から室内機10へ近づいた位置で直立した人体50が、赤外線センサ5の映像から識別することができる。
再び図13を参照して、制御部71は、S203において、メッシュモデルの更新が必要か否かを判定する。具体的には、画像認識システムを用いて、前回のサンプリングタイムにおいて取得された赤外線センサ5の室内映像および今回のサンプリングタイムにおいて取得された赤外カメラ室内映像の比較、あるいは、図7のメッシュモデルおよび図8のメッシュモデルの比較を行う。制御部71は、当該比較において、人体50の位置、ソファ43、棚44等の家具の位置、およびドア42の開閉など、無視することができない影響を気流に与える閉塞物体の位置の変化がチェックされる。今回のサンプリングタイムにおけるメッシュモデルにおいて、前回のサンプリングタイムより、人体50がメッシュサイズ2個分以上移動して、前回計算時に設定した人体を囲む再計算領域を超えて移動した場合、制御部71は、メッシュモデルの更新が必要であると判定する。
メッシュモデルの更新が必要である場合(S203においてYES)、制御部71は、S204において、メッシュモデルを更新し、処理をS205に進める。メッシュモデルの更新が不要である場合(S203においてNO)、制御部71は、S205に処理を進める。
制御部71は、S205において、気流分布の再計算が必要か否かを判定する。具体的には、制御部71は、空気調和機1000の運転開始後に最初に図13に示される処理が行われる場合、およびS203においてメッシュモデルの更新が必要であると判定した場合は、気流分布の再計算が必要であると判定する。
気流分布の再計算が必要である場合(S205においてYES)、制御部71は、S206において、気流分布の瞬時計算予測を行い、算出した気流予測データを記憶部75に保存し、処理をS207に進める。気流分布の再計算が不要である場合(S205においてNO)、制御部71は、S207に処理を進める。制御部71は、S207において、室内3次元流速分布をPDA7の表示部73に表示して、処理をS208に進める。
制御部71は、S208において、気流変更操作があったか否かを判定する。ユーザは、PDA7の表示部73の気流映像を見ながら、タッチパネル731に対して気流を指でなぞる操作を行なうことにより、室内機10によって形成される気流を変更することができる。気流変更操作があった場合(S208においてYES)、制御部71は、S209において気流変更操作に応じた気流変更指令を空気調和機1000に送信し、処理をメインルーチンに返す。気流変更操作がない場合(S208においてNO)、制御部71は、処理をメインルーチンに返す。
図12および図13の処理において参照される気流予測が行われるタイミングは、空気調和機1000の運転前(実施の形態1においては図12のS103)、前回のサンプリングタイム、および今回のサンプリングタイム(実施の形態1においては図13のS206)の3段階に分けられる。以下では、空気調和機1000の運転前、前回のサンプリングタイム、および今回のサンプリングタイムにおいて行われる気流予測を、それぞれ運転前の気流予測、前回の気流予測、および今回の気流予測(瞬時気流予測)とする。図14および図15を用いて、空気調和機1000の運転中の気流操作時にPDA7の表示部73に気流映像を表示するのに要する時間(瞬時気流表示時間)を、実施の形態1、実施の形態1の変形例、および比較例1,2の間で比較する。
図14は、実施の形態1、実施の形態1の変形例、および比較例1,2を比較する図である。図14に示されるように、比較例1は、運転前の気流予測、前回の気流予測、および今回の気流予測のいずれも行なわれない構成である。比較例2は、運転前の気流予測は行なわれず、前回の気流予測および今回の気流予測をメッシュモデルの全領域に対するCFD計算(全領域CFD計算)によってクラウドサービスが行なう構成である。実施の形態1の変形例は、運転前の気流予測は行なわれず、前回の気流予測および今回の気流予測を全領域CFD計算によってPDA7が行なう構成である。実施の形態1、実施の形態1の変形例、および比較例1,2のいずれにおいても、室内機10は赤外線センサ5によって取得された熱画像をPDA7に提供する役割を担い、気流予測データを算出するためのCFD計算を行わない。
PDA7の仕様に関して、OS(Operating System)はAndroid(登録商標)であり、CPUは2.35GHzのオクタコアを有し、RAM(Random Access Memory)は6GBであり、表示部73の解像度は1980×1080ピクセルである。室内のメッシュモデルのメッシュ数は、9万個程度である。
比較例2に関して、クラウドサービスとして、空気調和機1000のメーカの計算機がクラウド環境を介して使用される。PDA7に、メーカの計算機によるCFD計算の結果がLAN(Local Area Network)およびWiFi通信を経由してPDA7に転送されて表示部73に表示される。メーカの計算機の仕様に関して、OSがWindows7(登録商標)であり、CPUがCore i7(登録商標)、RAMが8GBであり、解像度が1980×1080ピクセルである。
図15は、実施の形態1、実施の形態1の変形例、および比較例1,2毎の瞬時気流表示時間を示す図である。なお、比較例1は、室内の気流映像を表示することができないので、瞬時気流表示時間が示されていない。
図15に示されるように、実施の形態1においては、気流映像表示に要する時間は52秒程度である。実施の形態1の変形例1においては、気流映像表示に要する時間は330秒程度である。比較例2においては、気流映像表示に要する時間は430秒程度である。
比較例2においてメーカの計算機としてスーパーコンピュータを用いた場合でも、気流予測データの転送時間が必要であるため、気流映像表示に要する時間は100秒以上を要する。一方、実施の形態1においては、前回の気流予測データおよび今回の気流予想データは、PDA7によって算出される。そのため、外部の計算機から気流予測データをPDA7に転送する必要はない。また、人体の移動等、メッシュモデルにおいて比較的大きな変更部分のみを再計算することにより、再計算の対象となるメッシュ数を全領域CFD計算よりも削減することができる。そのため、PDA7でのCFD計算の負荷を全領域CFD計算よりも削減することができる。その結果、空気調和機1000の瞬時気流予測の時間を全領域CFD計算を行なう場合よりも短縮することができる。たとえば、比較例2においてメーカの計算機としてスーパーコンピュータが使用された場合でも、実施の形態1によれば比較例2よりも気流映像表示に要する時間を48秒程度短縮することができる。
以上、実施の形態1に係る空調システムによれば、遠隔操作端末の表示部に表示されている室内の気流分布がリアルタイムに更新されることにより、ユーザは、実際に体感している気流を視覚的に確認することができる。気流操作性が改善されてユーザ個々の好みに合わせた微妙な送風設定が可能となる。ユーザは、空気調和機の送風の強さ、あるいは風当たり等を所望の設定に調整し易くなるため、空気調和機に対するユーザの満足度が向上する。実施の形態1に係る空調システムによれば、空気調和機の快適性を向上させることができる。
実施の形態2.
実施の形態2では、遠隔操作端末における瞬時気流予測が、部分領域CFD計算に替えて、気流補正領域に対する簡易計算によって行なわれる場合について説明する。運転前の気流予測は、実施の形態1と同様である。
簡易計算においては、人体および家具等の室内に存在する物体の基本形状が、流体解析データベースに登録されている複数の円柱および球体の複合体として近似される。近似された物体を構成する立体同士の相互作用を無視して、流体力学に関する公知の物理情報を用いて、当該物体の流体抵抗および物体周辺の流速分布が予測される。流体力学に関する公知の物理情報としては、たとえば、流体抵抗係数、あるいは前方流れ、剥離点、後流流れ、および傾斜角度影響等の物体周辺の流速分布状態を挙げることができる(「機械工学便覧α.基礎編」日本機械学会発行,2012年,α4-pp.40-48,5・4項 後流,5・5項 剥離)。
図16は、人体を円柱および球体の複合体として近似した様子を示す図である。図16においては、人体周りの気流分布が予測されている。図16に示されるように、頭は球体として近似され、胴体、2本の腕、および2本の足はそれぞれ円柱に置き換えられている。各構成要素の相互作用は無視されて、球体周辺の気流および円柱周りの気流がそれぞれ独立に流体解析データベースから予測される。独立に予測された気流が重ね合わされて、人体周辺の全体の気流として予測される。
実施の形態2においては、瞬時気流予測を簡易計算によって行なうことにより、実施の形態1よりも気流予測時間を短縮することができる。実施の形態2に係る空調システムによっても、空気調和機の快適性を向上させることができる。
実施の形態3.
実施の形態1,2においては、運転前の気流予測が遠隔操作端末において行われる場合について説明した。実施の形態3では、運転前の気流予測がクラウドサービス上のメーカ計算機によって行われる場合について説明する。実施の形態3においても、実施の形態2と同様に今回の気流予測は簡易計算によって行われる。
実施の形態3においても、瞬時気流予測を簡易計算によって行なうことにより、実施の形態1よりも気流予測時間を短縮することができる。実施の形態3に係る空調システムによっても、空気調和機の快適性を向上させることができる。
実施の形態4.
実施の形態4においては、運転前の気流予測、前回の気流予測、および今回の気流予測のいずれにおいても遠隔操作端末においてCFD計算が行われず、メーカから提供されるデータベース(機種毎のCFD計算結果も含む)の計算結果と実測値とを参考にして気流が予測され、気流補正領域に対して遠隔操作端末において簡易計算が行われる場合について説明する。実施の形態4でも実施の形態2,3と同様に、瞬時気流予測において流体解析データベースを用いた簡易計算が行なわれる。
実施の形態4においても、今回の気流予測を簡易計算によって行なうことにより、実施の形態1よりも気流予測時間を短縮することができる。実施の形態4に係る空調システムによっても、空気調和機の快適性を向上させることができる。
図17は、実施の形態1~4を比較する図である。図18は、実施の形態1~4毎の瞬時気流表示時間を示す図である。図18を参照しながら、実施の形態2の瞬時気流表示時間は、実施の形態1の瞬時気流表示時間よりも21秒程度短い。実施の形態3および4の瞬時気流表示時間は、実施の形態1の瞬時気流表示時間よりも30秒程度短い。
実施の形態2~4では、空気調和機の運転中にCFD計算が行われず、公知の物理情報などの流体解析データベースを用いた簡易計算によって瞬時気流予測が行なわれる。実施の形態2~4によれば実施の形態1よりも瞬時気流予測に要する時間を短縮することができる。
なお、瞬時気流予測において簡易計算を繰り返すと、実際の気流分布と予測された気流分布との誤差が前回の気流予測データに蓄積され得る。実施の形態2~4においては、当該誤差の蓄積を抑制するために、空気調和機の運転中に、定期的にクラウドサービスにおいて全領域CFD計算を行ない、前回の気流予測データを更新する。実際の気流分布と予測された気流分布との誤差の蓄積を抑制することにより、瞬時気流予測の精度の低下を抑制することができる。
また、空気調和機のメーカが、空気調和機単体の気流特性データベースを有している場合がある。気流特性データベースは、たとえば、空気調和機の機種毎に送風ファンの回転速度および風向調整機構(上下風向板および左右風向板)によってどこにどれぐらいの風速が発生するかについてのデータベースである。また、実施の形態1~4においては、PDAを用いてユーザが気流操作を行うので、ユーザの反応を通じて室内気流分布予測と実際の気流状態との差異をある程度推認することが可能である。その結果、空気調和機が配置されている室内固有の気流特性とユーザ固有の好みに基づく満足度との対応をデータベースに蓄積することが可能である。当該データベースを教材として深層学習を繰り返すことにより、空気調和機の運転中の瞬時気流予測の精度を向上させることができるとともに、ユーザの好みにより適した気流の提供が可能になる。
実施の形態1~4においては、PDAの表示部に瞬時気流予測による気流分布が表示される場合について説明した。瞬時気流予測による気流分布は、空気調和機のリモートコントローラに表示されてもよい。
今回開示された各実施の形態は、矛盾しない範囲で適宜組み合わせて実施することも予定されている。今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。