JP7340332B2 - 発泡断熱紙容器用基材、発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器 - Google Patents

発泡断熱紙容器用基材、発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器 Download PDF

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Description

本発明は、発泡断熱紙容器およびその製造に用いる発泡断熱紙容器用基材と発泡断熱紙容器用シートに関する。
ファーストフード店、列車内、自動販売機などにおいて、コーヒーなどの温飲料やスープなどの温食品を購入者に提供するために、外側に発泡層を有するカップ状の発泡断熱紙容器が広く使用されている。
発泡断熱紙容器においては、その上端開口部の周縁を外側に巻き込む加工により、トップカール部が成形されている。トップカール部には、発泡断熱紙容器の強度を大きくする役割に加えて、発泡断熱紙容器が自動供給装置等において機械的に支持される際にフックとしての機能を担う等の役割がある。
カップ状の紙容器の一般的な自動供給装置は、容器のトップカール部を利用して自動供給を行う。例えば、自動販売機における紙コップ自動供給装置は、上下方向に積み重なった多数の紙コップを収納している。紙コップ自動供給装置は、待機時においては最下位の紙コップのトップカール部と係合することで多数の紙コップを支持しており、販売時においては当該係合を解除してすぐ上の紙コップのトップカール部と係合する。このように、紙コップ自動供給装置は、トップカール部を利用して、紙コップを一つずつ確実に落下させ、利用者に提供する。このような自動供給機構は、発泡断熱紙容器の自動供給にも利用されている。
カップ状の紙容器のトップカール部の成形加工(以降、トップカール加工と記載することがある。)は、例えば、以下のようにして行われる。まず、トップカール部の上側成形用の金型と下側成形用の金型を用意する。各金型には特定のカール形状が施されている。紙コップ上端開口部側から上側成形用の金型をあて、紙コップ上端開口部周縁を外側にカールさせる。次に、紙コップを下方へ押し込むことにより、下方にセットされた下側成形用の金型の曲面に沿って紙コップ上端開口部周縁を内側へ巻き込み、トップカール部を成形する。
このような発泡断熱紙容器に使用されるシートについては、従来から種々の構成のシートが検討されている。例えば、特許文献1には、紙容器の側壁部分をなす胴部材として、容器の外側より、断熱層/原紙/高融点ポリエチレン層/バリア層/シーラント層の順に積層された複合シートが開示されている。当該複合シートは、前記断熱層が高融点ポリエチレン層よりも低融点のポリエチレン樹脂からなっており、紙容器成型後に熱により発泡させて断熱層を形成することにより、バリア性断熱紙容器とすることができる。
また、特許文献2には、3層以上の多層抄き合わせにより抄造され、最表層に濾水度320~420mlCSFのLBKPを用い、最表層と最裏層の縦方向の引張強度の比(表/裏)が1.00以下であることを特徴とする紙カップ用原紙が開示されている。当該紙カップ用原紙では、最裏層よりも最表層の引張強度を小さくすることによって、トップカール部の口径を適切な大きさに加工することができる。
特開2011-37478号公報 特開2012-219381号公報
特許文献1の複合シートは、断熱性能とバリア性能に加えて、容器成型適性としてトップカール部の巻き込み不良等を課題としている。そして、高融点ポリエチレン層を設けて、原紙と内面側の樹脂層との間の剥れを防止している。しかし、原紙の内部での剥離まで検討している訳ではない。特許文献2の紙カップ用原紙では、トップカール部の口径が所定の寸法となるように加工できることを課題としており、層間や層内の剥離は課題となっていない。
上述のトップカール加工の方法では、トップカール部を成形する際に、トップカール部の外側には引張力が、内側には圧縮力が作用する。そのため、トップカール部の外側に引張力が作用したときに、発泡断熱紙容器用基材(以下、単に「基材」と記載することもある。)の引張強度が十分に大きくないと、トップカール部に破断や膨れ等が発生するおそれがある。一方、トップカール部の内側に圧縮力が作用したときに、基材の圧縮強度が大き過ぎると、成形の際にカール内側で座屈が生じず、トップカール径が大きくなったり、多角形状になったりするなど、形状不良につながる。
特に、発泡断熱紙容器側面の接合部分(シーム部)におけるトップカール加工は、他の部位よりも一段と困難となる。シーム部は二枚の基材が重なった部分となるために、トップカール加工時に他の部分よりもより大きな力が加わることになる。
また、シーム部においては、弾性力によりカップ形状から元の状態に戻ろうとする力が生じる。加えて、トップカール加工を行う際、トップカールの外側においては容器の内径と比べその直径が大きくなることから、円周方向に伸長しようとする力が生じる。これらの二つの力によって、シーム部に剥離しようとする力が働くことになり、基材同士の接着面における剥離あるいは基材自体の層内における剥離が生じやすい状態にある。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の課題は、発泡断熱紙容器の製造時において、シーム部における剥離の発生を低減させて、トップカール加工性を改善し、紙容器の生産性を向上させた発泡断熱紙容器用基材とそれを用いた発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器を提供することである。
基材を巻いてカップ状とした紙容器の胴部材をなす基材の円周方向を、以降、基材の横方向と呼称する。また、同様に、当該紙容器の胴部材をなす基材の高さ方向を、以降、基材の縦方向と呼称する。
上記したように、トップカール部の外側には引張力が働き、内側には圧縮力が働く。また、基材をカールさせる加工においては表裏が明確に決まっているわけではなく、いずれの側にもカールさせる可能性がある。そこで、本発明者らは、紙基材として、3層以上のパルプ層から構成される多層構造の紙基材を用い、各層に適正な特性を付与することを検討した。その結果、最外層と内層の配向度に違いを持たせ、最外層の配向度を小さくして縦方向の剛度を低下させ、内層の縦方向の配向度を高めて横方向の弾性率を下げることにより、トップカール加工性が改善されることを見出した。また、基材の内部での剥離を抑制するためには、インターナルボンドテスターによる層間強度を所定の数値以上に増大させることが有効であることを見出した。本発明は、このような知見を基に完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
(1)セルロースパルプを主成分とする紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の表面に設けられた水溶性樹脂層とからなる発泡断熱紙容器用基材であって、前記紙基材が3層以上のパルプ層から構成され、インターナルボンドテスターを用いて測定した層間強度が530J/m以上であり、前記紙基材の表裏の最外層における繊維配向強度の平均値をA1とし、前記表裏の最外層の内側の内層における繊維配向強度の平均値をA2としたとき、0.25≦(A2-A1)および1.45≦A2を満足することを特徴とする発泡断熱紙容器用基材。
(2)縦方向のテーバー曲げ剛度が10~17mN・mであり、横方向の比引張弾性率が5.0kN・m/g以下であることを特徴とする前記(1)に記載の発泡断熱紙容器用基材。
(3)前記紙基材が5層以上のパルプ層から構成されることを特徴とする前記(1)または前記(2)に記載の発泡断熱紙容器用基材。
(4)坪量あたりの透気抵抗度が1.0~2.7sec/g/mであることを特徴とする前記(1)~(3)のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材。
(5)前記水溶性樹脂層を構成する水溶性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする前記(1)~(4)のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材。
(6)前記(1)~(5)のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂層を設けたことを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
(7)前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂がポリエチレンであることを特徴とする前記(6)に記載の発泡断熱紙容器用シート。
(8)前記(6)または前記(7)に記載の発泡断熱紙容器用シートからなる発泡断熱紙容器。
本発明の発泡断熱紙容器用基材は、発泡断熱紙容器の製造時において、シーム部における剥離の発生を低減させて、トップカール加工性を改善し、紙容器の生産性を向上させることができる。本発明の発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器は、当該発泡断熱紙容器用基材を用いているため、トップカール加工性を改善し、生産性を向上させることができる。
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
発泡断熱紙容器用基材は、紙基材と、その少なくとも一方の表面に水溶性樹脂層を有している。以下、本実施形態を構成する各部材について説明する。
[紙基材]
紙基材は、セルロースパルプを主成分とする。ここで、主成分とは、紙基材を構成する成分のうち50質量%以上を占める成分をいう。
(パルプ)
セルロースパルプには特に制限はないが、強度の観点から化学パルプを含有することが好ましい。化学パルプとしては特に限定されないが、広葉樹クラフトパルプ(LKP)または針葉樹クラフトパルプ(NKP)を含有することが好ましい。パルプは晒パルプでもよく、未晒パルプでもよい。特に、紙の地合の観点から、LKPからなる紙基材が特に好ましい。以下、特に断りのない限り、LKPとNKPにはそれぞれ晒パルプまたは未晒パルプを含むが、広葉樹晒クラフトパルプをLBKP、針葉樹晒クラフトパルプをNBKPということがある。LKPとしては、アカシア材やユーカリ材等を、NKPとしてはラジアータパイン材等を使用することができる。
LKPはNKPと比較して繊維が短く強度に劣るが、抄紙された紙の地合いや平滑性に優れる。熱可塑性樹脂層の均一な発泡には、紙基材の良好な地合いや平滑性が必要であるため、LKPの含有量は、パルプ成分の合計質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、80質量%であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
NKPはLKPと比較して繊維が長いために、結合部が多くなり、引張強度を大きくすることができる。しかし、圧縮強度も同時に高くなり、また紙の地合が低下するため、配合する場合は20質量%以下とすることが好ましく、10質量%以下とすることがさらに好ましい。
パルプ成分には、上記NKPおよびLKP以外のパルプ(以下、他のパルプと称す)を含んでいてもよい。他のパルプとしては、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ(DIP)、あるいはケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等が挙げられる。パルプ成分の合計質量に対して、他のパルプの含有量は、3質量%未満であることが好ましく、2質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
一般に、パルプ成分のフリーネス(濾水度)が小さくなれば、抄紙された製品の引張強度を大きくすることができる。しかし、フリーネスを小さくすると、引張強度だけでなく圧縮強度も大きくなる傾向にある。引張強度と圧縮強度のバランスに優れた紙基材を実現するためには、パルプの離解フリーネス(csf)が410~530mlであることが好ましい。離解フリーネス(csf)は420~520mlであることがより好ましく、430~510mlであることがさらに好ましい。
なお、離解フリーネス(csf)とは、紙基材を離解して得られたパルプスラリーを用いて測定したカナディアンスタンダードフリーネスの値を指す。離解フリーネス(csf)は、抄紙される前のセルロースパルプのフリーネスを増減することで調整することができる。抄紙される前のセルロースパルプのフリーネス(csf)は360~480mlであることが好ましく、370~470mlであることがより好ましく、380~460mlであることがさらに好ましい。
(填料)
紙基材を抄紙する際に配合する填料は、製紙分野で一般に使用されている填料が使用可能であり、特に限定されない。填料の例としては、クレー、焼成カオリン、デラミネートカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料、尿素-ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの有機填料が挙げられる。これらの填料は、その目的に応じて、単独または2種類以上を適宜組み合わせて使用することができる。
(内添助剤)
紙基材を抄紙する際に、各種内添助剤を必要に応じて適宜選択して使用することが可能である。内添助剤の例としては、サイズ剤、歩留まり向上剤、ろ水度向上剤、紙力増強剤、湿潤紙力増強剤、澱粉、カチオン化澱粉等の澱粉類、硫酸バンド、多価金属化合物、シリカゾル、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。
(抄紙)
紙基材は、3層以上のパルプ層から構成される。紙基材は、5層以上であることが好ましい。複数のパルプ層から構成される紙基材は、一般に、複数のインレットから抄き合わされる多層抄き合わせによって製造される。層数が多い方が、各層の坪量を小さくできるため地合がとりやすくなり、紙基材の表面性が向上し、面質がより良好な発泡断熱紙容器用基材とすることができる。
多層構造の紙基材において、外層および中層の各坪量については、均一であってもよいし、差があってもよい。最外層の坪量が、最外層の内側にある1以上の内層を構成する各パルプ層の坪量に対して、1.0倍~2.5倍であることが好ましく、1.2~2.0倍であることがより好ましい。
紙基材の抄紙方法および抄紙機の型式は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー、オントップフォーマー等の公知の抄紙方法および抄紙機が選択可能である。
(繊維配向強度)
紙基材として、3層以上のパルプ層から構成される多層構造の紙基材を用いたとき、一般に、外側の層は内側の層に比べて、紙基材の剛度への寄与が大きい。また、外側の層と内側の層とでは、引張弾性率に対する寄与についてはあまり変わらない。そこで、本発明者らは、紙基材を、表裏の最外層と、表裏の最外層の内側にある内層とに分けて、繊維配向強度に違いを持たせることを検討した。ここで、例えば、5層からなる多層構造の紙基材であれば、各層を表側から裏側へ第1層から第5層と命名したとき、表裏の最外層とは第1層と第5層のことである。また、表裏の最外層の内側にある内層とは第2層、第3層および第4層のことである。
その結果、最外層の繊維配向強度を小さくすることにより、紙基材全体としての剛度が低下し、トップカール部における曲げ加工がし易くなることを見出した。また、内層の縦方向への繊維配向強度を大きくすることにより、相対的に横方向の引張弾性率を低下させ、円周方向への変形に対して戻ろうとする力を低減させて、剥離の発生を抑制させることが可能となることを見出した。
そこで、これらの結果を、実際のトップカール加工性と剥離との関係から定量化することを検討した。紙基材の表裏の2つの最外層における繊維配向強度の平均値をA1とし、表裏の最外層の内側にある内層における繊維配向強度の平均値をA2とする。このとき、A2がA1より大きく、両者の差違が0.25≦(A2-A1)を満足し、さらに1.45≦A2を満足するとき、トップカール加工性および紙基材内の剥離が改善される。より好ましくは、0.30≦(A2-A1)であり、1.50≦A2である。
なお、繊維配向強度は、超音波伝播速度計により縦方向及び横方向の超音波伝播速度を測定し、それらの比(縦/横比)として表される。繊維配向強度を所定の数値範囲に制御するための方法としては、抄紙工程における、原料吐出速度とワイヤー速度との比率を変化させる方法、ワイヤーシェーキング装置等の製造条件を調整する方法等がある。
[水溶性樹脂層]
水溶性樹脂層は、紙基材の少なくとも一方の表面に設けられる。紙基材表面に水溶性樹脂層が存在することによって、後工程で水溶性樹脂層の上に積層される熱可塑性樹脂が紙基材に強固に密着する。そのため、発泡時に紙基材から熱可塑性樹脂層に供給される水蒸気の量がより一層均一となり、熱可塑性樹脂の過発泡が抑えられ、発泡形態が均一となる。その結果、発泡断熱紙容器の断熱性と表面の美麗性を向上させることができる。
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂は、水に溶解する樹脂であり、紙基材の表面に塗工されて、水溶性樹脂層を形成するものである。水溶性樹脂は、造膜性を有する水溶性高分子であれば特に限定されない。水溶性樹脂としては、例えば、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール、澱粉類、ポリアクリルアミド類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースなどのセルロースエーテルおよびその誘導体などが挙げられる。これらを単独、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
(ポリビニルアルコール)
水溶性樹脂層を形成する水溶性樹脂としては、加工適性の観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。ポリビニルアルコールは、化学式[-CHCH(OH)-][-CHCH(OCOCH)-]で表され、PVA、PVOH、ポバールなどと呼称されている。ポリビニルアルコールは、一般的には、酢酸ビニルモノマーを重合して得られたポリ酢酸ビニル樹脂をけん化することで製造される。なお、前記化学式において、nはけん化部分を示し、mは未けん化部分を示す。
ポリビニルアルコールとして、部分けん化型ポリビニルアルコールまたは完全けん化型ポリビニルアルコールを用いることができる。なお、(n+m)で平均重合度が表され、{n/(n+m)}×100でけん化度(モル%)が表される。平均重合度は、酢酸ビニルモノマーを重合させる工程で酢酸ビニルモノマーをどれだけ結合するかによって任意に調整できる。けん化度は、ポリ酢酸ビニル樹脂をけん化する工程で酢酸ビニル単位をどれだけ水酸基へ変換するかによって任意に調整できる。平均重合度およびけん化度は、JIS K6726-1994に準じて測定できる。
ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726-1994に準拠して測定した場合には、300~4000が好ましく、500~3000がより好ましく、1000~2000がさらに好ましい。平均重合度を300以上とすることによって、成膜性が向上する。また、平均重合度を4000以下とすることによって、水への溶解性が向上し、溶液粘度が低下し、塗工が容易となる。
ポリビニルアルコールのけん化度は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度を80モル%以上とすると、水溶性が高まり、成膜性が向上する。ポリビニルアルコールは、市販されているものの中から適宜選択して用いることができる。
ポリビニルアルコールとして、水酸基(OH基)や酢酸基(OCOCH基)以外の官能基を導入していない未変性ポリビニルアルコールを用いることができる。さらに、ポリビニルアルコールとして、水酸基や酢酸基以外の官能基を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることもできる。変性ポリビニルアルコールに導入される官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、シラノール基、カチオン基、アルキル基などが挙げられる。すなわち、変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類などが挙げられる。
ポリビニルアルコールは成膜性に優れるため、紙基材表面に強固なポリビニルアルコール層を形成する。ポリビニルアルコール層は、水蒸気の透過量を適度に制御し、水蒸気の透過量のばらつきを抑制することができる。その結果、熱可塑性樹脂層の発泡状態を均一にさせることができ、発泡断熱紙容器の断熱性を向上させることができる。
水溶性樹脂層の片面あたりの形成量は、固形分で0.05~6.0g/mであることが好ましく、0.08~2.0g/mであることがより好ましい。水溶性樹脂層の形成量がこの範囲にあると、熱可塑性樹脂層を均一に発泡させることができ、発泡樹脂層を厚くすることができ、断熱性が向上する。また、水溶性樹脂層の形成量がこの範囲にあると、形成量が適量であるので熱可塑性樹脂層を発泡させた場合に表面に大きな凹凸などが生じ難く、美麗性を高めることができる。
[発泡断熱紙容器用基材]
本発明者らは、まず、基材のシーム部における剥離の発生状況について分析を行った。シーム部における剥離には、基材間の接着面における剥離と基材自体の層内における剥離の2種類があることが分かった。そこで、本発明者らは、これらの剥離に対してそれぞれ、その防止方法についての検討を行った。
(比引張弾性率)
基材を巻いてカップ状とした紙容器では、シーム部において2枚の基材が貼り合わされている。シーム部には弾性力により元に戻ろうとする力が働くため、基材間の接着面において剥離するおそれがある。さらに、トップカール成形を行う際には、トップカール部の外側において、円周方向に伸長しようとする力が働くため、基材間の接着面において剥離するおそれがある。このとき、基材の横方向の比引張弾性率が大きいと、トップカール成形に際し一定のひずみを与えられた場合、その変形を生じさせるために加わる力が大きくなるため、剥離しようとする力が増大する。そこで、基材間の接着面における剥離を抑制するために、基材の横方向の比引張弾性率として、保持するべき数値範囲を検討したところ、5.0kN・m/g以下であることを見出した。さらに、基材の横方向の比引張弾性率は、4.7kN・m/g以下であることがより好ましい。ここで、比引張弾性率とは、密度あたりの引張弾性率のことであり、基材の引張弾性率の数値を基材の密度で除することで求められる。
基材の横方向の比引張弾性率を上記の所定の数値範囲に制御するための方法としては、抄紙工程中のパルプ繊維の配向を調整する方法や、紙基材の離解フリーネス、紙力向上剤等の内添助剤の添加量等を調整する方法がある。
(層間強度)
シーム部のトップカール加工における不具合としては、基材自体の層内における剥離がある。二枚の基材を重ねて巻き込む際に、当該積層体の内側の層には圧縮しようとする応力が働き、積層体の外側の層には伸張しようとする応力が働く。そのため、積層体の厚さ方向でせん断力が働き、基材の層内で引き裂かれるという現象が生じることとなる。ここで、基材の層間強度の定量化方法を検討したところ、インターナルボンドテスターによる測定方法が有効であることを見出した。そこで、基材自体の層内における剥離を抑制するために、インターナルボンドテスターを用いて測定した層間強度として、保持するべき数値範囲を検討したところ、530J/m以上であることを見出した。さらに、層間強度は、600J/m以上であることがより好ましく、620J/m以上であることがさらに好ましい。ここで、層間強度は、縦方向で測定した層間強度の数値と横方向で測定した層間強度の数値との相乗平均としての数値である。なお、インターナルボンドテスターによる層間強度の測定方法は、J.TAPPI 18-2に準拠して測定される。
層間強度の測定方法としては、従来から、Z軸強度が知られている。Z軸強度は引張試験機を用いて、比較的低速度で測定する静的な測定方法である。それに対して、インターナルボンドテスターによる測定方法は、基材の片方の面に固定した治具にハンマーで衝撃を与えたときの損失エネルギーを測定する方法であり、動的な測定方法である。シーム部のトップカール加工では、比較的高速度で動作する製造装置を用いて加工されるため、インターナルボンドテスターによって測定される層間強度の方が、より実態に即した測定となっている。
基材のインターナルボンドテスターを用いて測定した層間強度を上記の所定の数値範囲に制御するための方法としては、抄紙工程中のプレス工程における線圧、紙基材の離解フリーネス、パルプに対するNKPの配合量、紙力向上剤等の内添助剤の添加量等を調整する方法がある。また、多層抄き合せの場合は抄き合せ面に澱粉などの接着剤をスプレー塗布する方法がある。
(テーバー曲げ剛度)
トップカール加工、特にシーム部のトップカール加工を容易に行うためには、基材が丸まりやすいこと、すなわち基材の縦方向の曲げ剛度が小さいことが好ましい。そこで、本発明者らは、当該目的に用いる基材の曲げ剛度の定量化方法を検討したところ、テーバー曲げ剛度が有効であることを見出した。次に、トップカール加工を容易とすることが可能な縦方向のテーバー曲げ剛度の好ましい数値範囲を検討したところ、10~17mN・mであることを見出した。縦方向のテーバー曲げ剛度が10mN・mより小さいと、そのような基材を用いて成形した発泡断熱紙容器が握力で変形し易くなる。基材の縦方向のテーバー曲げ剛度は、11~16mN・mであることがより好ましい。テーバー曲げ剛度の数値は、紙厚の調節や、紙基材の離解フリーネス、紙力向上剤等の内添助剤の添加量等を調節することにより、調整することができる。なお、テーバー剛度は、JIS P8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準拠して測定される。
(透気抵抗度)
基材の坪量あたりの透気抵抗度(透気抵抗度/坪量)は、1.0~2.7s/g/mであることが好ましい。坪量あたりの透気抵抗度がこの範囲にあると、後述する発泡断熱紙容器の発泡の際、基材から熱可塑性樹脂層に供給される水蒸気の量を適度に制御することができ、発泡断熱紙容器の断熱性と美麗性のバランスが良好となる。坪量あたりの透気抵抗度は、より好ましくは1.2~2.4s/g/mである。透気抵抗度は、JIS P8117;2009に記載の王研式試験機法に準じて測定される。
(引張強度)
トップカール部の成形を容易にするためには、トップカール加工時の引張応力で基材が破断しないことが必要となる。本発明者らは、トップカール加工を容易とすることが可能な基材の縦方向の引張強度の数値範囲を検討したところ、15.0~40.0kN/mの範囲にあれば、トップカール加工時の基材の破断が発生しにくいことを見出した。基材の縦方向の引張強度は、20.0~38.0kN/mの範囲がより好ましい。引張強度が40.0kN/mより大きいと、剛度や圧縮力等が大きくなってしまい、十分な丸まりやすさを確保できず、シーム部のめくれが発生するおそれがある。一方、引張強度が15.0kN/mよりも小さいと、トップカール部に破れ等が発生するおそれがある。引張強度を調製する方法としては、パルプに対するNKPの配合量を増減させる方法、紙力向上剤等の内添薬品の添加量の調節、離解フリーネスを増減させる方法等が挙げられる。なお、引張強度は、JIS P8113:2006に準拠して測定される。
(平滑度)
基材の平滑度は、王研式平滑度として規定され、30~500秒であることが好ましい。平滑度は、基材表面の平滑性を規定するための指標となる。平滑度が30秒以上であると、基材の表面性が高まり、面質が良好な発泡断熱紙容器用シートが得られる。また、平滑度が500秒以下であると、高平滑度を得るためにキャレンダー等で基材を潰す必要がなくなり、紙厚が極端に薄くなることを抑えられるため、発泡断熱紙容器の成形加工適性が向上する。王研式平滑度は、JIS P8155:2010に準じて測定される。
(地合い指数)
基材の地合い指数は、60以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましい。地合い指数は、紙の均一性(紙面内における坪量,密度の均一性)を示す指数であり、数値が大きいほど、地合いが良好であることを意味する。地合い指数を所定値以上とすることにより、発泡時の基材からの水蒸気の透過量がより一層均一となり、過発泡が抑えられ、発泡形態が均一となる。地合い指数は、M/Kシステム社製の3Dシートアナライザーを用いて測定する。紙基材の局所的な光の透過強度を一定間隔で測定し、それらのバラつきを数値化することで得られる。
(坪量)
基材の坪量は、好ましくは100~400g/mであり、より好ましくは200~400g/mであり、さらに好ましくは220~400g/mである。坪量が100g/m未満であると、水分量の関係から発泡が不十分になりやすく、得られた発泡断熱紙容器を手で把持したときに熱さを感じやすい。一方、坪量が400g/mを超えると、剛度の増大により発泡断熱紙容器の成形加工適性が低下し、トップカール部の成形に不具合が発生する傾向にある。
(厚さ)
基材の厚さは、好ましくは130~430μmであり、より好ましくは230~400μmであり、さらに好ましくは250~350μmである。厚さが130μm未満であると、水分量の関係から発泡が不十分になりやすく、得られた発泡断熱紙容器を手で把持したときに熱さを感じやすい。また、剛度が不足することにより、手で持った際に変形が生じやすい紙容器となってしまう。一方、厚さが430μmを超えると、剛度の増大により発泡断熱紙容器の成形加工適性が低下し、トップカール部の成形に不具合が発生する傾向にある。
(密度)
基材の密度は、所望に応じて適宜設定すればよく、特に限定されることはないが、0.60~0.99g/cmとすることが好ましい。基材の密度が低いと、熱可塑性樹脂層を発泡させる際に水蒸気が基材を通りやすくなり、発泡性が向上する傾向が見られる。しかし、基材の密度が0.60g/cm未満であると、発泡断熱紙容器に必要な紙力が得られないことがある。一方、基材の密度が0.99g/cmを超えると、熱可塑性樹脂層を発泡させる際に水蒸気が基材を通りにくくなり、発泡性が低下する傾向がある。
(水分量)
基材の水分量は、紙基材が含有する水分量と水溶性樹脂層が含有する水分量の合計となる。基材が含有する水分量は、基材の坪量および含水率によって決定される。基材の水分量は、好ましくは15~32g/mであり、より好ましくは20~23g/mである。水分量は、調湿後、JIS P8127;2010に準じて測定される。
[発泡断熱紙容器用基材の製造方法]
発泡断熱紙容器用基材は、紙基材の少なくとも一方の表面に、水溶性樹脂層を形成することにより製造される。水溶性樹脂層を形成する方法については特に制限されず、例えば、カレンダーサイズプレス、ツーロールサイズプレス、ブレードコーター、ロッドコーター等が挙げられる。これらの中では、ブレードコーターとロッドコーターが好ましい。ブレードコーターまたはロッドコーターを用いて塗工することにより、水溶性樹脂層を紙の表面付近に留めやすくなる。そして、水溶性樹脂の塗工量および紙基材への浸透厚さを所定の範囲とした水溶性樹脂層を形成することにより、発泡断熱紙容器の断熱性と表面の美麗性とを共に向上することができる。
塗工液の溶剤としては、通常、水が用いられる。必要に応じて、水に可溶のアルコール
等の有機溶剤を混合して用いてもよい。塗工液には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、染料、顔料、サイズ剤、耐水化剤、紙力増強剤、分散剤、可塑剤、pH調整剤、消泡剤、保水剤、防腐剤、着色染料、着色顔料、紫外線防止剤等の各種公知の助剤を併用してもよい。また、後述する熱可塑性樹脂層の接着性を向上させるために、ポリエチレンイミン系アンカーコート剤やポリブタジエン系アンカーコート剤などのアンカーコート剤を使用してもよい。
塗工液を塗布した後に、塗工層を乾燥させる方法は、特に限定されず、公知の抄紙工程または乾燥工程において用いられる方法の中から適宜選択すればよい。また、水溶性樹脂層を形成した後に、必要に応じて平滑化処理を行うことができる。平滑化処理は、通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理装置を用いて、オンマシンまたはオフマシンで行われる。
[発泡断熱紙容器用シート]
発泡断熱紙容器用シートは、基材の水溶性樹脂層の上に熱可塑性樹脂層を設けることによって形成される。発泡断熱紙容器用シートを加熱処理することによって、紙基材と水溶性樹脂層に含まれる水分が加熱蒸発し、発生した水蒸気によって熱可塑性樹脂層は発泡して、断熱性の発泡樹脂層となる。
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層に使用する熱可塑性樹脂は、水溶性樹脂層上に形成可能であり、かつ発泡させることが可能であれば特に制限されない。熱可塑性樹脂層の熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂および非結晶性樹脂のいずれの熱可塑性樹脂も使用することが可能である。
結晶性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等が挙げられる。非結晶性樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)等が挙げられる。また、環境負荷低減を目的に、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸(PGA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)等の生分解性樹脂も使用可能である。これらの熱可塑性樹脂は、単一の樹脂を単層で使用してもよいし、複数の樹脂を混合して使用してもよいし、複層で使用してもよい。
上記の熱可塑性樹脂の中では、押し出しラミネート性および発泡性が優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレン(PE)は、大きくは直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)のように区分される。これらの中では、押し出しラミネート性および発泡性に優れることから、低密度ポリエチレン(LDPE)が好ましい。
熱可塑性樹脂層の厚さは、所望する断熱性を有する発泡断熱紙容器が得られる範囲であれば特に限定されないが、断熱性や加工性の観点から、発泡前の厚さが30~80μmであることが好ましい。
(高融点熱可塑性樹脂層、金属層)
発泡断熱紙容器用シートは、熱可塑性樹脂層を形成していない側の表面に、熱可塑性樹脂層よりも融点の高い高融点熱可塑性樹脂層やアルミニウム箔等の金属層を形成することができる。このような高融点熱可塑性樹脂層や金属層は、発泡断熱紙容器用シートを加熱して熱可塑性樹脂層を発泡させる際に、紙基材の熱可塑性樹脂層を形成した面と反対側の面から水蒸気が蒸散することを抑制する。この蒸散の抑制により、熱可塑性樹脂層に十分な水蒸気が供給され、熱可塑性樹脂層の発泡性が向上する。
このとき、高融点熱可塑性樹脂層に使用する熱可塑性樹脂の融点は、紙基材中に含まれる水分を加熱蒸発させる際の加熱温度において溶融せず、水蒸気の拡散を防止できればよい。したがって、高融点熱可塑性樹脂の融点は特に制限されないが、125℃以上であることが好ましい。また、紙基材の表面に金属層を形成するためには、金属箔を積層してもよいし、金属層を蒸着法等の気相法で形成してもよい。
熱可塑性樹脂層に使用する熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂層との融点の差は5℃以上あることが好ましい。なお、複数の種類の樹脂を積層した場合の融点の差とは、熱可塑性樹脂層に使用した樹脂のうち最も高い融点を有する樹脂と、高融点熱可塑性樹脂層に使用した樹脂のうち最も低い融点を有する樹脂との融点の差を指す。
[発泡断熱紙容器用シートの製造方法]
発泡断熱紙容器用シートは、基材の上に熱可塑性樹脂層を形成することで製造される。熱可塑性樹脂層の形成方法は、特に制限されず、押し出しラミネート法、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の公知の各種方法を適宜使用して積層すればよい。
[発泡断熱紙容器の製造方法]
発泡断熱紙容器は、発泡断熱紙容器用シートを用いてカップ状に成形して紙容器を製造し(紙容器成形工程)、得られた容器を発泡させる(発泡断熱紙容器成形工程)ことによって製造される。以下、紙容器成形工程と発泡断熱紙容器成形工程について説明する。
(紙容器成形工程)
紙容器成形工程では、発泡断熱紙容器用シートを用いて紙容器を成形する。発泡断熱紙容器用シートを用いて紙容器を成形する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて製造することができる。
(発泡断熱紙容器成形工程)
発泡断熱紙容器成形工程では、紙容器に公知の方法を用いて加熱処理を施して発泡断熱紙容器を成形する。加熱処理を行うと、紙容器の紙基材等に含まれる水分が気化し、発生した水蒸気によって熱可塑性樹脂層が発泡し、発泡断熱紙容器とすることができる。
発泡断熱紙容器は、自動販売機等に利用されるホットコーヒーなどの充填用の発泡断熱紙容器、熱湯を注入するインスタント食品用の発泡断熱紙容器、電子レンジによる調理用の容器等として使用することができる。
以下、実施例により本発明の効果を詳細に説明する。なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
実施例および比較例で用いた原材料は以下のとおりである。
(1)パルプ:LBKP
(2)紙力増強剤:ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM)
(3)湿潤紙力増強剤:ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系(PAE系)樹脂
(4)カチオン化澱粉
(5)硫酸バンド
(6)サイズ剤:アルキルケテンダイマー系サイズ剤(AKD)
(7)水溶性樹脂:中間けん化型ポリビニルアルコール(PVA)、けん化度96.5モル%
(8)熱可塑性樹脂:低密度ポリエチレン(LDPE)、密度918kg/m、融点103℃
(9)高融点熱可塑性樹脂:中密度ポリエチレン(MDPE)、密度940kg/m、融点133℃
各種性能の測定方法は以下のとおりである。
(1)パルプの離解フリーネス(csf):基材をJIS P8220:2012に準じて離解することで得られたパルプスラリーについて、JIS P8121-2:2012に準じて測定した。
(2)坪量:JIS P8124:2011に準じて測定した。
(3)厚さ:JIS P8118:2014に準じて測定した。
(4)密度:JIS P8118:2014に準じて測定した。
(5)引張試験:JIS P8113:2006に規定される方法に準じて測定した。
(6)層間強度:JAPAN TAPPI 18-2に準拠して、基材の縦方向と横方向について測定し、その相乗平均値を求めた。
(7)繊維配向強度:超音波伝播速度計(SST-3200、野村商事社製)により縦方向及び横方向の超音波伝播速度を測定し、それらの比(縦/横比)として求めた。
(8)テーバー曲げ剛度:JIS 8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準じて、基材の縦方向と横方向について測定した。
(9)透気抵抗度:JIS P8117;2009に記載の王研式試験機法に準じて測定した。
(10)平滑度:JIS P8155:2010に準じて、王研式平滑度を測定した。
(11)地合い指数:M/Kシステム社製3Dシートアナライザーを用いて測定した。感度1(標準感度)、絞りをφ2.0mmの条件で測定し、算出されたFormation Index値を地合指数として評価した。
(12)水分量:調湿後、JIS P8127;2010に準じて測定した。
各層における繊維配向強度の測定は、1枚の紙をそれぞれの層に分割して測定を行う。層への分割は、以下のようにして行った。
1)28cm×28cmサイズに切り出したサンプルを80℃の湯に24時間つける。
2)サンプルを湯から取り出し、水でぬらした吸取紙の上に乗せる。吸取紙はJIS P 8222:2015に定めるものを用いる。
3)サンプルの上から吸取紙を乗せて軽く手で押し、余剰の水分を取る。
4)サンプル上の吸取紙を取り除き、紙の端部から1枚1枚ゆっくりと剥がす。
その際、紙が乾燥しないように適宜サンプルを水でぬらしながら行う。
5)剥いだ紙をそれぞれ別々に、JIS P 8222:2015に定める乾燥プレートと乾燥プレートに対する手抄き紙固定器具の間に拘束して、1日以上乾燥させる。
[実施例1]
(発泡断熱紙容器用基材)
LBKP100部を叩解し、パルプスラリーを得た。得られたパルプスラリー100質量%(固形分換算)に対し、カチオン化澱粉0.40質量%、紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.75質量%、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.23質量%、PAE系湿潤紙力増強剤0.07質量%を添加した紙料スラリーを、5層抄きの長網抄紙機で抄紙した。第1層から第5層までのそれぞれのインレットからワイヤーに噴き出す原料速度を調節し、各層の繊維配向比を調整した。内層の繊維配向比の平均値A2は1.57、最外層の繊維配向比の平均値A1は1.27であり、その差(A2-A1)は0.31であった。
次いで、得られた紙基材の両面(両側の最外層)にブレードコーターにより中間けん化型ポリビニルアルコール(PVA)を片面あたり固形分で0.08g/m(両面で0.16g/m)となるように塗工、乾燥して、実施例1の発泡断熱紙容器用基材を得た。
実施例1の発泡断熱紙容器用基材は、坪量298g/m、紙厚331μm、密度0.90g/cmであった。また、実施例1の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。
(発泡断熱紙容器用シート)
上記発泡断熱紙容器用基材の一方の面に、厚さ40μmとなるように高融点熱可塑性樹脂(MDPE)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押し出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、高融点熱可塑性樹脂層を形成した。
次いで、発泡断熱紙容器用基材の他方の面に、厚さ50μmとなるように熱可塑性樹脂(LDPE)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押し出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS-A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、熱可塑性樹脂層を形成して、実施例1の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[実施例2]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量299g/m、紙厚333μm、密度0.90g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。実施例2の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.49、A1は1.17、(A2-A1)は0.33であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、実験例2の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[実施例3]
LBKP100部を叩解し、3層抄きの長網抄紙機を用いた以外は実施例1と同様にして抄紙し、坪量299g/m、紙厚336μm、密度0.89g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。実施例3の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.60、A1は1.19、(A2-A1)は0.41であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、実験例3の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例1]
LBKP100部を叩解し、紙力増強剤を0.05%とした以外は実施例1と同様にして抄紙し、坪量302g/m、紙厚344μm、密度0.88g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。比較例1の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.78、A1は1.57、(A2-A1)は0.22であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例1の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例2]
LBKP100部を混合叩解し、紙力増強剤を0.30質量%とした以外は実施例1と同様にして抄紙し、坪量297g/m、紙厚343μm、密度0.87g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。比較例2の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.68、A1は1.30、(A2-A1)は0.38であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例2の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例3]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量300g/m、紙厚340μm、密度0.88g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。比較例4の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.34、A1は1.20、(A2-A1)は0.14であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例4の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例4]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量303g/m、紙厚333μm、密度0.91g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。比較例4の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.43、A1は1.07、(A2-A1)は0.37であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例4の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例5]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量301g/m、紙厚339μm、密度0.89g/cmの発泡断熱紙容器用基材を得た。比較例5の発泡断熱紙容器用基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は480mlであった。また、A2は1.39、A1は1.13、(A2-A1)は0.26であった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例5の発泡断熱紙容器用シートを得た。
得られた発泡断熱紙容器用シートを用いて、上部内径を90mm、トップカール部の直径を3mmとなるように、紙容器の成形を行った。
[評価方法]
以上のようにして得られた紙容器および発泡断熱紙容器用シートについて以下の評価を行った。評価結果を表1に記載した。なお、シーム部のトップカール加工性(接着面における剥離、層内における剥離)においては○を合格、△と×を不合格と判定した。また、発泡性においては、○と△を合格、×を不合格と判定した。
(シーム部のトップカール加工性:接着面における剥離)
紙容器を製罐した際における、シーム部のトップカール部を目視で観察して、下記の基準で評価を行った。
○:シーム部にめくれ上がりが見られない。
△:シーム部に若干のめくれ上がりが見られる。
×:シーム部にめくれ上がりが多く目立つ。
(シーム部のトップカール加工性:層内における剥離)
紙容器を製罐した際における、シーム部のトップカール部を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
○:トップカール部の層内に剥離が見られない。
△:トップカール部に層内に若干の剥離が見られる。
×:トップカール部に層内の剥離が多く目立つ。
(発泡性)
得られた発泡断熱紙容器用シートから、1辺100mmの正方形の試験片を切り出した。その後、熱風を使用して、加熱温度120℃、加熱時間6分間で、熱可塑性樹脂層を発泡させた。発泡後の熱可塑性樹脂層の表面を目視で観察し、以下の基準で発泡性を評価した。
○:過発泡が見られず、形成された発泡セルは小さく概ね均質であり、表面も概ね平坦である。
△:形成された発泡セルがやや大きく、大きさにばらつきも見られるが、表面の凹凸は小さく過発泡は見られない。
×:過発泡が発生しているなど、表面に大きな凹凸がある。
Figure 0007340332000001
表1から分かるように、実施例1~実施例3の発泡断熱紙容器用シートは、インターナルボンドテスターを用いて測定した層間強度、繊維配向強度に係るA1とA2の関係式の規定をいずれも満足するものであり、シーム部のトップカール加工性(接着面における剥離、層内における剥離)および発泡性において優れたものであった。
一方、比較例1の発泡断熱紙容器用シートは、(A2-A1)の数値が小さいために縦方向のテーバー式曲げ剛度が高くなっており、さらにインターナルボンドテスターによる層間強度が小さいため、接着面における剥離や層内における剥離が発生し、シーム部のトップカール加工性に劣っていた。比較例2の発泡断熱紙容器用シートは、インターナルボンドテスターによる層間強度が小さいため、層内における剥離が発生し、シーム部のトップカール加工性に劣っていた。比較例3の発泡断熱紙容器用シートは、(A2-A1)の数値が小さく、A2の数値が小さいため、横方向の比引張弾性率が大きくなり、接着面における剥離が発生し、シーム部のトップカール加工性に劣っていた。比較例4および比較例5の発泡断熱紙容器用シートは、A2の数値が小さいため、横方向の比引張弾性率が大きくなり、接着面における剥離が発生し、シーム部のトップカール加工性に劣っていた。

Claims (8)

  1. セルロースパルプを主成分とする紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の表面に設けられた水溶性樹脂層とからなる発泡断熱紙容器用基材であって、
    前記紙基材が3層以上のパルプ層から構成され、
    インターナルボンドテスターを用いて測定した層間強度が530J/m以上であり、
    前記紙基材の表裏の最外層における繊維配向強度の平均値をA1とし、前記表裏の最外層の内側の内層における繊維配向強度の平均値をA2としたとき、0.25≦(A2-A1)および1.45≦A2を満足する
    ことを特徴とする発泡断熱紙容器用基材。
  2. 縦方向のテーバー曲げ剛度が10~17mN・mであり、横方向の比引張弾性率が5.0kN・m/g以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡断熱紙容器用基材。
  3. 前記紙基材が5層以上のパルプ層から構成されることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発泡断熱紙容器用基材。
  4. 坪量あたりの透気抵抗度が1.0~2.7sec/g/mであることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材。
  5. 前記水溶性樹脂層を構成する水溶性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用基材の少なくとも一方の表面に熱可塑性樹脂層を設けたことを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
  7. 前記熱可塑性樹脂層を構成する熱可塑性樹脂がポリエチレンであることを特徴とする請求項6に記載の発泡断熱紙容器用シート。
  8. 請求項6または請求項7に記載の発泡断熱紙容器用シートからなる発泡断熱紙容器。
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