JP6904237B2 - 発泡断熱紙容器用紙基材、発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器 - Google Patents

発泡断熱紙容器用紙基材、発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器 Download PDF

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Description

本発明は、発泡断熱紙容器およびその製造に用いる発泡断熱紙容器用紙基材と発泡断熱紙容器用シートに関する。
ファーストフード店、列車内、自動販売機などにおいて、コーヒーなどの温飲料やスープなどの温食品を購入者に提供するためのカップ状の容器等として、断熱性容器が広く使用されている。
このような用途の断熱性容器を形成するシートとして、例えば、特許文献1に開示された発明がある。これは、発泡断熱紙容器用紙基材の少なくとも片面にポリエチレン等の熱可塑性樹脂層を積層した発泡断熱紙容器用シートにおいて、該紙基材の表面がカレンダーサイズプレスによって処理されている発泡断熱紙容器用シートに係る発明である。
発泡断熱紙容器は、発泡ポリスチレン(EPS)製の断熱性容器に比べて、石油資源の節約が可能であり、容器の外表面が平滑であるため美麗性(印刷性)に優れる等の利点がある。
発泡断熱紙容器には、断熱性だけではなく、十分な強度や取り扱いやすさも求められる。そこで、発泡断熱紙容器においては、その上端開口部の周縁を外側に巻き込むトップカール加工により、口元となる部分(以降、トップカール部と記載する。)が成形されている。トップカール部には、発泡断熱紙容器の強度を大きくする役割に加えて、発泡断熱紙容器が自動供給装置等において機械的に支持される際にフックとしての機能を担う等の役割がある。
カップ状の容器の一般的な自動供給装置は、容器のトップカール部を利用して自動供給を行う。例えば、自動販売機における紙コップ自動供給装置は、上下方向に積み重なった多数の紙コップを収納している。紙コップ自動供給装置は、待機時においては最下位の紙コップのトップカール部と係合することで多数の紙コップを支持しており、販売時においては当該係合を解除してすぐ上の紙コップのトップカール部と係合する。このように、紙コップ自動供給装置は、トップカール部を利用して、紙コップを一つずつ確実に落下させ、利用者に提供する。このような自動供給機構は、発泡断熱紙容器の自動供給にも利用されている。
以上のように、発泡断熱紙容器においてはトップカール部を設けることが多いことから、発泡断熱紙容器用紙基材に要求される品質の一つとして、このトップカール部の作りやすさが挙げられる。
カップ状の容器のトップカール加工の方法の例として、例えば、紙コップにおけるトップカール加工は以下のように行われる。まず、トップカール部の上側成形用の金型と下側成形用の金型を用意する。各金型には特定のカール形状が施されている。紙コップ上端開口部側から上側成形用の金型をあて、紙コップ上端開口部周縁を外側にカールさせる。次に、紙コップを下方へ押し込むことにより、下方にセットされた下側成形用の金型の曲面に沿って紙コップ上端開口部周縁を内側へ巻き込み、トップカール部を成形する。
特開2012−214038号公報
上述のトップカール加工の方法では、トップカール部を成形する際に、トップカール部の外側には引張力が、内側には圧縮力が作用する。
この引張力と圧縮力が適切であれば、トップカール部は正常に成形できる。しかし、トップカール部の外側に過剰な引張力が作用すると、トップカール部に破断や膨れ等が発生することがある。一方、トップカール部の内側に過剰な圧縮力が作用すると、トップカール部に折れ等が発生することがある。このように、トップカール加工時にトップカール部に過剰な力が作用すると、トップカール部の成形の不具合を引き起こすおそれがある。
また、発泡断熱紙容器用紙基材は、発泡樹脂層を発泡させる水分を確保するために、一定以上の坪量や紙厚を必要とする。坪量や紙厚を大きくすると、発泡断熱紙容器用紙基材の剛度は紙コップ用基材と比べて大きくなる。剛度が大きな紙とは、丸めるために大きな力を要する紙である。よって、剛度の大きな発泡断熱紙容器用紙基材にトップカール加工を施した場合、トップカール部に過剰な力が作用しやすくなるので、トップカール部の成形に不具合を生じやすい。
さらに、トップカール部の外側に過剰な引張力が作用すると共に、内側に過剰な圧縮力が作用すれば、発泡断熱紙容器用紙基材の紙層には大きな剪断力が働く。この剪断力によって、トップカール部の発泡断熱紙容器側面の接合部分(シーム部)が引き剥がされ、シーム部がめくれる不具合が生じる事がある。
トップカール部は前述のような役割を担うため、トップカール部の成形に不具合が生じた発泡断熱紙容器は実用に耐えない。
トップカール部の成形の不具合を抑制する方法の一つとして、発泡断熱紙容器用紙基材の引張強度を増大させることが考えられる。引張強度が大きければ、成形の際に大きな引張力が作用しても、発泡断熱紙容器用紙基材が破断し難くなるのでトップカール部の成形の不具合は生じにくい。
だが、紙の引張強度を大きくしても、剛度の大きな紙の丸まりづらさに起因する問題は解消されない。
さらに、引張強度の大きな紙は、圧縮強度の大きな紙であることが多い。
圧縮強度の大きな紙は、トップカール加工の際、トップカール部の内側を圧縮して丸めるために大きな力を要することから、トップカール部に折れ等が発生しやすい。特に、発泡断熱紙容器側面の接合部分(シーム部)は、発泡断熱紙容器用紙基材が二重になっており、二枚の紙を重ねて巻き込むことになるため、トップカール加工が他の部位よりも困難になる。そのため、圧縮強度の大きな発泡断熱紙容器用紙基材を用いれば、シーム部においてトップカール部の内側が正常に圧縮されないおそれがある。トップカール部の内側が正常に圧縮されない場合には、トップカール部の一部がめくれ上がってしまうという不具合(シーム部のめくれ)が生じやすくなってしまう。
このように、丸まりづらい発泡断熱紙容器用紙基材は、発泡断熱紙容器の歩留まりを悪化させるという問題の原因となっていた。
以上のことから、トップカール部の成形が容易で、かつ、断熱性や表面の美麗性も優れた発泡断熱紙容器用紙基材が求められている。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものである。すなわち本発明の課題は、トップカール加工時の引張力に耐えられるだけの引張力と、丸まりやすさとを両立させることにより、トップカール部の成形が容易な発泡断熱紙容器用紙基材とそれを用いた発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器を提供することである。
発泡断熱紙容器用紙基材中の紙基材の抄造において紙層が形成される過程でパルプスラリーが流出する方向(縦方向)を、以降、MD方向とも呼称する。
本発明者らは、トップカール加工時の引張力に耐えられるだけの引張強度と丸まりやすさとを兼ね備えた紙コップ用原紙について検討を進めた。その結果、丸まりやすさを実現するための手段として、圧縮強度の減少だけではなく、Z軸強度(層間強度)の減少も有効であることを見出した。
本発見によると、Z軸強度と引張強度が一定の範囲にあり、かつ、テーバー剛度が十分に小さければ、トップカール部に破断を生じさせず、かつ、十分な丸まりやすさを備えた発泡断熱紙容器用紙基材を実現することができる。
特にシーム部では、トップカール部の内側となる紙層が外側となる紙層に追随して座屈変形するようになるので、シーム部先端で内側となる紙層と外側となる紙層との間に割れ、剥がれ等を生じ難くなり、ひいては、シーム部のめくれを抑制できる。
本発明は、このような知見を基に完成するに至ったものである。すなわち、本発明は、以下のような構成を有している。
(1)セルロースパルプを主成分とする紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の表面に設けられた水溶性樹脂層とからなる発泡断熱紙容器用紙基材であって、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.18−1:2000 紙及び板紙−内部結合強さ試験方法−第1部:Z軸方向引張試験法に準拠して測定したZ軸強度が380〜560kN/mであり、MD方向の引張強度が15.0〜35.0kN/mであり、JIS P8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準拠して測定したMD方向のテーバー剛度が17.0mN・m以下であることを特徴とする発泡断熱紙容器用紙基材。
(2)前記セルロースパルプに対する針葉樹クラフトパルプの含有量が20質量%以下であることを特徴とする前記(1)に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
(3)JIS P 8121:2012に準拠して測定した前記セルロースパルプの離解フリーネスが410〜530mlであることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
(4)前記水溶性樹脂層を構成する水溶性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
(5)前記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用紙基材の両面に熱可塑性樹脂層を設けたことを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
(6)前記(5)に記載の発泡断熱紙容器用シートからなる発泡断熱紙容器。
本発明の発泡断熱紙容器用紙基材は、引張強度とZ軸強度が一定の範囲にあり、剛度が十分に小さいため、トップカール部の成形に適性を有し、シーム部のめくれの発生を抑えることができる。本発明の発泡断熱紙容器用シートおよび発泡断熱紙容器は、当該発泡断熱紙容器用紙基材を用いているため、トップカール部を容易に成形できる。
本実施形態に係る発泡断熱紙容器の模式的断面図である。 図1のAで示された部分の拡大断面図である。 本実施形態に係る発泡断熱紙容器用紙基材の模式的断面図である。 本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シートの模式的断面図である。
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は「〜」前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
図1は、本実施形態に係る発泡断熱紙容器8の模式的断面図である。また、図2は、図1のAで示された部分の拡大断面図である。図1に示すように、本実施形態において、発泡断熱紙容器8は、胴部材6および底板部材7に発泡断熱紙20が用いられている。なお、発泡断熱紙20は、胴部材6および底板部材7のいずれか一方に用いてもよい。
図2に示すように、発泡断熱紙20は、紙基材1の少なくとも片面に熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂層9を有している。発泡断熱紙20は、当該紙基材1と当該発泡樹脂層9との間に、水溶性樹脂層2を有している。図2において、水溶性樹脂層2は、紙基材1の両方の面に形成されている。さらに、発泡断熱紙20は、その外壁面側に前記した発泡樹脂層9を有し、その内壁面側に後記する高融点熱可塑性樹脂層10を有している。
図3は、本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5の模式的断面図である。本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5は、上記の発泡断熱紙20を製造するために用いられるものである。本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5は、紙基材1の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層4を有し、当該紙基材1と当該熱可塑性樹脂層4との間に、水溶性樹脂層2を有している。当該熱可塑性樹脂層4は、加熱処理によって発泡して、発泡樹脂層9となる(図2参照)。
図4は、本実施形態に係る発泡断熱紙容器用紙基材3の模式的断面図である。本実施形態に係る発泡断熱紙容器用紙基材3は、上記の発泡断熱紙容器用シート5を製造するために用いられるものである。本実施形態に係る発泡断熱紙容器用紙基材3は、紙基材1の少なくとも片面に水溶性樹脂層2を有している。水溶性樹脂層2上に熱可塑性樹脂層4を設けることによって、上記の発泡断熱紙容器用シート5が形成される。
発泡断熱紙容器用シート5を胴部材6や底板部材7に用いて、紙容器を成形する。その後、当該紙容器を加熱することによって、紙基材1や水溶性樹脂層2中に含まれる水分が気化して水蒸気となる。発生した水蒸気は、水溶性樹脂層2を透過して、加熱された熱可塑性樹脂層4中に浸透し、熱可塑性樹脂を発泡させて、熱可塑性樹脂層4は発泡樹脂層9へと変わる。その結果、前記紙容器は断熱性を有した発泡断熱紙容器8となる。
[発泡断熱紙容器用紙基材]
発泡断熱紙容器用紙基材3は、紙基材1と、その少なくとも片面に水溶性樹脂層2を有している。紙基材1の表面に水溶性樹脂層2が形成されていないと、加熱したときに、水蒸気が紙基材1から直接放出される。この放出により、水蒸気の透過量が紙基材1の場所によって不均一となり、熱可塑性樹脂層4の発泡において部分的に過発泡が発生し易い傾向にある。過発泡部分が存在すると、発泡形態が不均一となり、表面に凹凸が生じるため、発泡断熱紙容器8の断熱性と表面の美麗性が共に低下する。
以下、本実施形態を構成する各部材について説明する。
(パルプ)
セルロースパルプ(パルプ)は、発泡断熱紙容器用紙基材3を構成する紙基材1の主成分である。セルロースパルプには特に制限はないが、強度の観点から化学パルプを含有することが好ましい。化学パルプとしては特に限定されないが、広葉樹クラフトパルプ(LKP)または針葉樹クラフトパルプ(NKP)を含有することが好ましい。パルプは晒パルプでもよく、未晒パルプでもよい。さらに、LKPとNKPをいずれも含有することが好ましい。以下、特に断りのない限り、LKPとNKPにはそれぞれ晒パルプまたは未晒パルプを含むが、広葉樹晒クラフトパルプをLBKP、針葉樹晒クラフトパルプをNBKPということがある。
ここで、紙基材1においては、引張強度を増大させるためにNKPを所定の割合で配合することが好ましい。NKPは繊維が長いために、抄紙された製品の引張強度を大きくすることができる。
しかし、NKPの配合量を増やすと、引張強度だけでなく圧縮強度も大きくなる傾向にある。したがって、引張強度と圧縮強度のバランスに優れた発泡断熱紙容器用紙基材3を実現するためには、NKPの含有量は、パルプ成分の合計質量に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、9質量%以下であることがさらに好ましい。
LKPはNKPと比較して繊維が短く強度に劣るが、抄紙された紙の地合いや平滑性に優れる。熱可塑性樹脂層4の均一な発泡には、紙基材1の良好な地合いや平滑性が必要であるため、LKPの含有量は、パルプ成分の合計質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、60質量%であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましい。
パルプ成分には、上記NKPおよびLKP以外のパルプ(以下、他のパルプと称す)を含んでいてもよい。他のパルプとしては、ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ(DIP)、あるいはケナフ、麻、葦等の非木材繊維から化学的にまたは機械的に製造されたパルプ等が挙げられる。パルプ成分の合計質量に対して、他のパルプの含有量は、3質量%未満であることが好ましく、2質量%未満であることがより好ましく、1質量%未満であることがさらに好ましい。
一般に、パルプ成分の叩解度(フリーネス)が小さくなれば、抄紙された製品の引張強度を大きくすることができる。
しかし、フリーネスを小さくすると、引張強度だけでなく圧縮強度も大きくなる傾向にある。引張強度と圧縮強度のバランスに優れた発泡断熱紙容器用紙基材3を実現するためには、発泡断熱紙容器用紙基材3の離解フリーネス(csf)が410〜530mlであることが好ましい。離解フリーネス(csf)は420〜520mlであることがより好ましく、430〜510mlであることがさらに好ましい。
なお、離解フリーネス(csf)とは、紙基材1を離解して得られたパルプスラリーを用いて測定したカナディアンスタンダードフリーネスの値を指す。
離解フリーネス(csf)は、抄紙される前のセルロースパルプのフリーネスを増減することで調整することができる。抄紙される前のセルロースパルプのフリーネス(csf)は360〜480mlであることが好ましく、370〜470mlであることがより好ましく、380〜460mlであることがさらに好ましい。
(抄紙)
紙基材1の抄紙方法および抄紙機の型式は、特に限定されるものではなく、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、ギャップフォーマー、ハイブリッドフォーマー(オントップフォーマー)等の公知の抄紙方法および抄紙機が選択可能である。
紙基材1は一層から構成されてもよいし、複数のインレットから抄き合わされる、多層抄き合わせにより構成されていてもよい。
抄紙時のpHは酸性領域(酸性抄紙)、疑似中性領域(疑似中性抄紙)、中性領域(中性抄紙)、アルカリ性領域(アルカリ性抄紙)のいずれでもよく、酸性領域で抄紙した後、紙基材1の表面にアルカリ性薬剤を塗布してもよい。
(填料)
紙基材1を抄紙する際に配合する填料は、製紙分野で一般に使用されている填料が使用可能であり、特に限定されない。填料の例としては、クレー、焼成カオリン、デラミネートカオリン、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム−シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛などの無機填料、尿素−ホルマリン樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、微小中空粒子などの有機填料が例示できる。これらの填料は単独または2種類以上を適宜組み合わせて使用することができる。前記の酸性抄紙であれば一般に、これらの填料から酸溶解性のものを除いたものが使用される。
紙基材1を抄紙する際に、填料は無配合とすることも可能である。紙基材1の填料を無配合とすると、紙基材1中に含まれる水分によって熱可塑性樹脂層4を発泡させる際に、発泡性が向上する。一方、紙基材1に填料を配合すると、得られる発泡断熱紙容器用シート5およびそれを用いた発泡断熱紙容器8の不透明度が向上する。
(内添助剤)
紙基材1を抄紙する際に、各種内添助剤を必要に応じて適宜選択して使用することが可能である。内添助剤の例としては、ロジン、アルキルケテンダイマー(AKD)、アルケニルこはく酸無水物(ASA)等の各種の内添サイズ剤、ノニオン性、カチオン性、両性の各種歩留まり向上剤、ろ水度向上剤、紙力向上剤、カチオン化澱粉などの各種澱粉類、ポリアクリルアミド、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド、ポリアミン樹脂、ポリアミン、ポリエチレンイミン、植物ガム、ポリビニルアルコール、ラテックス、ポリエチレンオキサイド、親水性架橋ポリマー粒子分散物およびこれらの誘導体あるいは変性物等、硫酸バンド、塩化アルミニウム、アルミン酸ソーダ、塩基性塩化アルミニウム、塩基性ポリ水酸化アルミニウム等の塩基性アルミニウム化合物、水に易分解性のアルミナゾル等の水溶性アルミニウム化合物、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄等の多価金属化合物、シリカゾル、消泡剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、pH調整剤、ピッチコントロール剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。
(水溶性樹脂)
水溶性樹脂は、本発明の紙基材1の表面に塗工され、被膜(水溶性樹脂層2)を形成するものである。水溶性樹脂層2には、熱可塑性樹脂層4の発泡を均一にし、発泡断熱紙容器8の断熱性と表面の美麗性を向上させるという役割がある。
水溶性樹脂は、水に溶解する樹脂である。水溶性樹脂は、造膜性を有する水溶性高分子であれば特に限定されない。水溶性樹脂としては、例えば、完全ケン化型ポリビニルアルコール、部分ケン化型ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール、澱粉類、ポリアクリルアミド類、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、アセチルセルロースなどのセルロースエーテルおよびその誘導体、などが挙げられる。これらを単独、あるいは2種類以上を組み合わせて使用することができる。
(ポリビニルアルコール)
本発明の水溶性樹脂層2を形成する水溶性樹脂としては、加工適性の観点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
ポリビニルアルコールは、化学式[−CHCH(OH)−][−CHCH(OCOCH)−]で表され、PVOHやPVA、ポバールなどと呼称されている。ポリビニルアルコールは、一般的には、酢酸ビニルモノマーを重合して得られたポリ酢酸ビニル樹脂をけん化することで製造される。なお、前記化学式において、nはけん化部分を示し、mは未けん化部分を示す。
ポリビニルアルコールとして、部分けん化型ポリビニルアルコールまたは完全けん化型ポリビニルアルコール(本実施形態では、けん化度90モル%以上のものをいう)を用いることができる。なお、n+mで平均重合度が表され、{n/(n+m)}×100でけん化度(モル%)が表される。平均重合度は、酢酸ビニルモノマーを重合させる工程で酢酸ビニルモノマーをどれだけ結合するかによって任意に調整できる。けん化度は、ポリ酢酸ビニル樹脂をけん化する工程で酢酸ビニル単位をどれだけ水酸基へ変換するかによって任意に調整できる。平均重合度およびけん化度は、JIS K6726−1994に準じて測定できる。
また、ポリビニルアルコールとして、水酸基(OH基)や酢酸基(OCOCH基)以外の官能基を導入していない未変性ポリビニルアルコールを用いることができる。さらに、ポリビニルアルコールとして、水酸基や酢酸基以外の官能基を導入した変性ポリビニルアルコールを用いることもできる。変性ポリビニルアルコールに導入される官能基としては、例えば、カルボキシル基、カルボニル基、スルホン酸基、シラノール基、カチオン基、アルキル基などが挙げられる。すなわち、変性ポリビニルアルコールとしては、カルボキシル変性ポリビニルアルコール、シラノール変性ポリビニルアルコール、カチオン変性ポリビニルアルコール、末端アルキル変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類などが挙げられる。
ポリビニルアルコールが紙基材1上に形成させる皮膜の材料として優れている理由について、以下のように推測される。ポリビニルアルコールは、ポリマー分子中に親水性の官能基(水酸基)と疎水性の官能基(酢酸基)が適度に共存していることから、紙基材1上に強固に密着した皮膜を形成する。紙基材1上に強固に密着したポリビニルアルコール層は、水蒸気の透過量を適度に制御し、水蒸気の透過量のばらつきを抑制することができる。その結果、熱可塑性樹脂層4の発泡状態を均一にさせることができ、発泡断熱紙容器8の断熱性を向上させることができる。
ポリビニルアルコールの平均重合度は、JIS K 6726−1994に準拠して測定した場合には、300〜4000が好ましく、500〜3000がより好ましく、1000〜2000がさらに好ましい。平均重合度を300以上とすることによって、成膜性が向上する。また、平均重合度を4000以下とすることによって、水への溶解性が向上し、溶液粘度が低下し、塗工が容易となる。
ポリビニルアルコールのけん化度は、80モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、95モル%以上であることがさらに好ましい。けん化度を80モル%以上とすると、水溶性が高まり、成膜性が向上する。ポリビニルアルコールは、市販されているものの中から適宜選択して用いることができる。
(澱粉類)
水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール以外に、澱粉類を使用することも可能である。
澱粉類としては、未変性の澱粉、酵素変性澱粉、熱化学変性澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉、エーテル化澱粉(例えば、ヒドロキシエチル化澱粉など)、カチオン化澱粉などが挙げられる。
(ポリアクリルアミド類)
水溶性樹脂として、ポリビニルアルコール以外に、ポリアクリルアミド類を使用することも可能である。
ポリアクリルアミド類としては、ポリアクリルアミド、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性ポリアクリルアミド、ノニオン性ポリアクリルアミドなどが挙げられる。カチオン性ポリアクリルアミドとしては、アミノ基、4級アンモニウム塩、アゼチジニウム環等の官能基を有するポリアクリルアミドが挙げられる。アニオン性ポリアクリルアミドとしては、カルボキシル基、スルホン基等を有するポリアクリルアミドが挙げられる。ノニオン性ポリアクリルアミドとしては、水酸基、アミド基等を有するポリアクリルアミドが挙げられる。また、両性ポリアクリルアミドとは、カチオン性とアニオン性の両方の官能基を有するポリアクリルアミドのことである。
(水溶性樹脂層)
発泡断熱紙容器用紙基材3の水溶性樹脂層2は、紙基材1の少なくとも片面に設けるものとする。なお、紙基材1の両面に設けることも可能である。
紙基材1の表面に水溶性樹脂層2が存在することによって、後工程で水溶性樹脂層2の上に積層される熱可塑性樹脂が紙基材1に強固に密着する。その結果、発泡時に紙基材1から熱可塑性樹脂層4に供給される水蒸気の量がより一層均一となり、熱可塑性樹脂の過発泡が抑えられ、発泡形態が均一となる。
水溶性樹脂層2は、水溶性樹脂を主成分とする層であるが、必要に応じて、発明の効果を妨げない範囲で適宜他の樹脂成分を含有させてもよい。
(水溶性樹脂層の形成量)
水溶性樹脂層2の片面あたりの形成量は、固形分で0.05〜6.0g/mであることが好ましく、0.08〜2.0g/mであることがより好ましい。水溶性樹脂層2の形成量がこの範囲にあると、熱可塑性樹脂層4を均一に発泡させることができ、発泡樹脂層9を厚くすることができ、断熱性が向上する。また、水溶性樹脂層2の形成量がこの範囲にあると、形成量が適量であるので熱可塑性樹脂層4を発泡させた場合に表面に大きな凹凸などが生じ難く、美麗性を高めることができる。さらに、水溶性樹脂層2の形成量がこの範囲にあると、塗工液を塗布するときに抄紙工程または乾燥工程における設備汚れを軽減でき、汚れが脱落して発泡断熱紙容器8に異物となって混入することを防ぐことができる。
水溶性樹脂層2の片面あたりの形成量が0.05g/m未満であると、均質な発泡が得られずに表面に凹凸が生じて、美麗性が損なわれるおそれがある。一方、水溶性樹脂層2の片面あたりの形成量が6.0g/mを超えると、熱可塑性樹脂を十分に発泡させることができず、断熱性が不十分になるおそれがある。
水溶性樹脂層2の形成量は、形成前後の重量変化量から測定することができる。
(水溶性樹脂の紙基材への浸透厚さ)
水溶性樹脂を含有する塗工液を紙基材1に塗工すると、塗工液は紙基材1の表面から内部に向けて浸透する。その後、塗工液を乾燥させることによって固化し、水溶性樹脂層2が形成される。本実施形態では、紙基材1に浸透して固化した水溶性樹脂も水溶性樹脂層2の一部とみなす。
水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さは5〜35μmであることが好ましく、10〜30μmであることがより好ましく、15〜25μmであることがさらに好ましい。水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さがこの範囲にあると、熱可塑性樹脂層4を均一に発泡させることができ、発泡後の厚さを厚くすることができ、断熱性が向上する。また、水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さがこの範囲にあると、紙基材1から発生する水蒸気の透過を適度にバリアできるため、水蒸気の透過量の場所によるばらつきを小さくできる。その結果、発泡セルを小さく均質に形成でき、表面の平坦性や美麗性を高めることができる。
水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さが5μm未満であると、水溶性樹脂層2が水蒸気の透過を過度にバリアしてしまうため、熱可塑性樹脂層4を十分に発泡させることができず、断熱性を低下させるおそれがある。一方、水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さが35μmを超えると、水蒸気透過量が均一にならず、発泡が不均一となり、美麗性が低下するおそれがある。
水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さは、ブレードまたはロッドの圧力、ブレードまたはロッド−紙間の隙間寸法、ブレードの角度、塗工液の粘度などによって、適宜調整することができる。水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さは、光学顕微鏡や走査型電子顕微鏡などを用いて、断面の拡大写真から測定することができる。
(透気抵抗度)
発泡断熱紙容器用紙基材3の坪量あたりの透気抵抗度(透気抵抗度/坪量)は、1.0〜6.0s/g/mであることが好ましい。坪量あたりの透気抵抗度がこの範囲にあると、後述する発泡断熱紙容器8の発泡の際、発泡断熱紙容器用紙基材3が、紙基材1から熱可塑性樹脂層4に供給される水蒸気の量を適度に抑制する。この抑制により、熱可塑性樹脂層4の発泡状態が均一となるため、発泡断熱紙容器8の断熱性と美麗性のバランスが良好となる。
坪量あたりの透気抵抗度は、より好ましくは2.0〜5.5s/g/m、さらに好ましくは2.3〜5.0s/g/m、特に好ましくは2.7〜4.5s/g/mである。透気抵抗度は、JIS P8117;2009に記載の王研式試験機法に準じて測定される。
(王研式平滑度)
発泡断熱紙容器用紙基材3の王研式平滑度は、30〜500秒であることが好ましい。王研式平滑度は、紙の表面の平滑性を規定するための指標となる単位である。王研式平滑度が30秒以上であると、発泡断熱紙容器用紙基材3の表面性が高まり、面質が良好な発泡断熱紙容器用シート5が得られる。また、王研式平滑度が500秒以下であると、高平滑度を得るためにキャレンダー等で紙基材1を潰す必要がなくなり、紙厚が極端に薄くなることを抑えられるため、発泡断熱紙容器8の成形加工適性が向上する。
王研式平滑度は、JIS P8155:2010に準じて測定される。
(地合い指数)
発泡断熱紙容器用紙基材3の地合い指数は、60以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましく、85以上であることがさらに好ましい。地合い指数は、紙の均一性(ミクロの坪量の均一性、平滑性)を示す指数であり、数値が大きいほど、地合いが良好であることを意味する。地合い指数を所定値以上とすることにより、紙基材1中の水分量分布が均一になる。そのため、発泡時の紙基材1からの水蒸気の透過量がより一層均一となり、過発泡が抑えられ、発泡形態が均一となる。地合い指数は、市販されている3Dシートアナライザーで紙基材1の透過強度を測定し、厚さのバラつきを数値化することで得られる。3Dシートアナライザーとしては、例えば、M/Kシステム社製のものを用いることができる。
(水分量)
発泡断熱紙容器用紙基材3の水分量は、紙基材1が含有する水分量と部分ケン化ポリビニルアルコール層が含有する水分量の合計となる。
紙基材1が含有する水分量は、紙基材1の坪量および含水率によって決定される。発泡断熱紙容器用紙基材3の水分量は、好ましくは15〜32g/mであり、より好ましくは20〜23g/mである。水分量は、調湿後、JIS P8127;2010に準じて測定される。
(坪量)
発泡断熱紙容器用紙基材3の坪量は、好ましくは100〜400g/mであり、より好ましくは200〜400g/mであり、さらに好ましくは220〜400g/mである。坪量が100g/m未満であると、水分量の関係から発泡が不十分になりやすく、得られた発泡断熱紙容器8を手で把持したときに熱さを感じやすい。一方、坪量が400g/mを超えると、剛度の増大により発泡断熱紙容器8の成形加工適性が低下し、トップカール部の成形に不具合が発生する傾向にある。
(紙厚)
発泡断熱紙容器用紙基材3の紙厚は、好ましくは130〜430μmであり、より好ましくは230〜430μmであり、さらに好ましくは250〜440μmである。紙厚が130μm未満であると、水分量の関係から発泡が不十分になりやすく、得られた発泡断熱紙容器8を手で把持したときに熱さを感じやすい。一方、坪量が430μmを超えると、剛度の増大により発泡断熱紙容器8の成形加工適性が低下し、トップカール部の成形に不具合が発生する傾向にある。
(密度)
発泡断熱紙容器用紙基材3の密度は、所望に応じて適宜設定すればよく、特に限定されることはないが、0.60〜0.99g/cmとすることが好ましい。
発泡断熱紙容器用紙基材3の密度が低いと、熱可塑性樹脂層4を発泡させる際に水蒸気が紙基材1を通りやすくなり、発泡性が向上する傾向が見られる。しかし、発泡断熱紙容器用紙基材3の密度が0.60g/cm未満であると、発泡断熱紙容器8に必要な紙力が得られないことがある。一方、発泡断熱紙容器用紙基材3の密度が0.99g/cmを超えると、熱可塑性樹脂層4を発泡させる際に水蒸気が紙基材1を通りにくくなり、発泡性が低下する傾向がある。
(Z軸強度)
トップカール部の成形を容易にするためには丸まりやすい発泡断熱紙容器用紙基材3が必要となる。
Z軸強度とは紙面に対して垂直方向の強度、つまり紙層間の強度、換言すると紙層間の内部結合強さを指す。Z軸強度の小さい発泡断熱紙容器用紙基材3にトップカール部の成形を行うと、トップカール部の内側となる紙層が外側となる紙層に追随して座屈変形する。この座屈変形によって、シーム部先端で内側となる紙層と外側となる紙層との間に割れ、剥がれ等を生じることがなくなり、シーム部のめくれを抑制できる。
本発明者らは、トップカール部の成形の容易な発泡断熱紙容器用紙基材3を実現することができるZ軸強度の数値範囲について検討を重ねた。
その結果、Z軸強度が380〜560kN/mの範囲にあれば、十分な丸まりやすさを確保しつつ、十分な引張強度も保持できることが判明した。
Z軸強度が560kN/mより大きいと、十分な丸まりやすさを確保できず、シーム部のめくれが発生するおそれがある。シーム部のめくれを効果的に抑制する観点から、Z軸強度は540kN/m以下であることが好ましく、520kN/m以下であることがより好ましい。
一方、Z軸強度が380kN/mよりも小さいと、十分な引張強度を保持することができず、トップカール部に破れ等が発生するおそれがある。トップカール部の破れ等を効果的に抑制する観点から、Z軸強度は400kN/m以上であることが好ましく、420kN/m以上であることがより好ましい。
Z軸強度を調製する方法としては、抄紙工程中のプレス工程において線圧を適宜増減させる方法がある。ほかの調整方法としては、パルプ配合量に対するNKP配合量を増減させる方法、離解フリーネスを増減させる方法等が挙げられる。
なお、Z軸強度はJAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.18−1:2000 紙及び板紙−内部結合強さ試験方法−第1部:Z軸方向引張試験法に準拠して測定した。
(引張強度)
トップカール部の成形を容易にするためにはトップカール加工時の引張力で紙基材1が破断しない発泡断熱紙容器用紙基材3が必要となる。
本発明者らは、トップカール部の成形の容易な発泡断熱紙容器用紙基材3を実現することができる引張強度の数値範囲について検討を重ねた。
その結果、引張強度が15.0〜35.0kN/mの範囲にあれば、トップカール加工時の紙基材1の破断を防止できることが判明した。
引張強度が35.0kN/mより大きいと、剛度や圧縮力等が大きくなってしまい、十分な丸まりやすさを確保できず、シーム部のめくれが発生するおそれがある。シーム部のめくれを効果的に抑制する観点から、引張強度は30.0kN/m以下であることが好ましく、25.0kN/m以下であることがより好ましい。
一方、引張強度が15.0kN/mよりも小さいと、トップカール部に破れ等が発生するおそれがある。トップカール部の破れ等を効果的に抑制する観点から、引張強度は15.5kN/m以上であることが好ましく、16.0kN/m以上であることがより好ましい。
引張強度を調製する方法としては、パルプ配合量に対するNKP配合量を増減させる方法、離解フリーネスを増減させる方法等が挙げられる。
なお、引張強度は、JIS P8113:2006に規定される方法に準拠して測定した。
(テーバー剛度)
トップカール加工を容易にするためには、丸まりやすい、すなわち剛度の小さな発泡断熱紙容器用紙基材3が必要になる。
本発明者らは、トップカール部の成形の容易な発泡断熱紙容器用紙基材3を実現することができるテーバー剛度の値について検討を重ねた。
その結果、発泡断熱紙容器用紙基材3のテーバー剛度が17.0kN・m以下であれば、当該発泡断熱紙容器用紙基材3は十分に丸まりやすいことを見出した。
テーバー剛度が17.0kN・mより大きいと、十分な丸まりやすさを確保できず、トップカール部の成形に不具合が発生するおそれがある。トップカール部の成形の不具合を効果的に抑制する観点から、テーバー剛度は15.5kN・m以下であることが好ましく、14.0kN・m以下であることがより好ましい。
一方、テーバー剛度が12.0kN・mより小さいと、発泡断熱紙容器用紙基材3を用いて成形した発泡断熱紙容器8が握力で変形しやすい傾向にある。そのため、テーバー剛度は12.0kN・m以上であることが好ましい。
テーバー剛度は、坪量、紙厚等を増減させることにより調整できる。
なお、テーバー剛度は、JIS P8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準拠して測定した。
ここで、上記の引張強度、テーバー剛度はいずれの場合も、原則としてMD方向(抄紙機の流れ方向)で測定する。ただし、どの方向がMD方向かどうかが不明なときは、角度22.5度毎に引張強度を測定し、最も強い引張強度を示した方向をMD方向とする。
[発泡断熱紙容器用紙基材の製造方法]
発泡断熱紙容器用紙基材3は、紙基材1の少なくとも片面に、水溶性樹脂層2を形成することにより製造される。水溶性樹脂層2を形成する方法については特に制限されないが、ブレードコーターまたはロッドコーターを用いて水溶性樹脂を塗工する方法が好ましい。ブレードコーターまたはロッドコーターを用いて塗工することにより、水溶性樹脂の塗工量や紙基材1への浸透厚さを均一に制御することが可能となる。そして、水溶性樹脂の塗工量および紙基材1への浸透厚さを所定の範囲とした水溶性樹脂層2を形成することにより、発泡断熱紙容器8の断熱性と表面の美麗性とを共に向上することができる。
ブレードコーターとは、ロールコーター等によって一旦塗工された塗工液を、ブレードを用いてかき取ることによって塗工する装置である。すなわち、ブレードコーターは、紙基材1を横断する長さのブレード(板刃)を紙基材1に対して斜めに傾けて近接して配置する。当該ブレードは、紙基材1と当該ブレードとの隙間を通過できない余分な塗工液を削り落とす。ブレードコーターは、このように塗工液をブレードで削り落とすことで、塗工量を調整する方式のコーターである。
ロッドコーターとは、ロールコーター等によって一旦塗工された塗工液を、平滑なロッド、ワイヤーを巻いたロッド、あるいは表面に多数の溝を有するロッドを用いてかき取ることによって塗工する装置であり、バーコーターともいう。すなわち、ロッドコーターは、紙基材1を横断する長さのロッドを紙基材1に対して近接して配置する。当該ロッドは、紙基材1と当該ロッドとの隙間を通過できない余分な塗工液を削り落とす。ロードコーターは、このように塗工液をロッドで削り落とすことで、塗工量を調整する方式のコーターである。
ブレードコーターおよびロッドコーターは、いずれも高速かつ平滑に塗工液を塗工することが可能であり、また、高濃度の塗工液を薄く均一に塗工することが可能である。そのため、紙基材1上に水溶性樹脂を含有する比較的高濃度の塗工液を薄くかつ均一な厚さに塗工することができる。水溶性樹脂を含有する高濃度の塗工液であれば、溶液粘度が高いため、紙基材1に塗工した後に、塗工液が紙基材1に浸透することが抑制される。そのため、水溶性樹脂の紙基材1への浸透厚さを小さくすることができる。また、高濃度の塗工液を用いると、水溶性樹脂層2中の水溶性樹脂濃度を高めることができる。以上のことから、水溶性樹脂の塗工量を少なくしても、均一かつ効果的に、紙基材1から発生する水蒸気をバリアすることができる。
ブレードコーターとロッドコーターでは、ブレードコーターの方がロッドコーターよりかき落とし時の線圧が高く、精密に塗工量の調整をすることができ、膜厚の均一性にも優れているため、好ましい。
従来から用いられているコーターとして、カレンダーサイズプレスやツーロールサイズプレスがある。これらのコーターでは、薄い塗工膜を形成しようとすると、水溶性樹脂の濃度を低くして、溶液粘度を下げる必要があった。その結果、塗工液が紙基材1により深く浸透し、水溶性樹脂層2中の水溶性樹脂濃度も低く、紙基材1から発生する水蒸気をバリアする性能において劣る水溶性樹脂層2が形成されていた。
塗工液の溶剤としては、通常、水が用いられる。必要に応じて、水に可溶のアルコール等の有機溶剤を混合して用いてもよい。塗工液には、必要に応じて、界面活性剤、消泡剤、染料、顔料、サイズ剤、耐水化剤、紙力増強剤、分散剤、可塑剤、pH調整剤、消泡剤、保水剤、防腐剤、着色染料、着色顔料、紫外線防止剤等の各種公知の助剤を併用してもよい。
塗工液を塗布した後に、塗工層を乾燥させる方法は、特に限定されず、公知の抄紙工程または乾燥工程において用いられる方法の中から適宜選択すればよい。また、水溶性樹脂層2を形成した後に、必要に応じて平滑化処理を行うことができる。平滑化処理は、通常のスーパーカレンダー、グロスカレンダー、ソフトカレンダー等の平滑化処理装置を用いて、オンマシンまたはオフマシンで行われる。
[発泡断熱紙容器用シート]
本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5は、前記したように、紙基材1の少なくとも片面に熱可塑性樹脂層4を有し、紙基材1と熱可塑性樹脂層4との間に、水溶性樹脂層2を有している。この発泡断熱紙容器用シート5は、発泡断熱紙容器用紙基材3の水溶性樹脂層2の上に熱可塑性樹脂層4を設けることによって形成される。また、発泡断熱紙容器用シート5を加熱処理することによって、紙基材1と水溶性樹脂層2に含まれる水分が加熱蒸発し、発生した水蒸気によって熱可塑性樹脂層4は発泡樹脂層9となる。以下、発泡断熱紙容器用シート5について説明するが、既に説明した構成要素については説明を省略する。
(熱可塑性樹脂層)
熱可塑性樹脂層4に使用する熱可塑性樹脂は、水溶性樹脂層2上に形成可能であり、かつ発泡させることが可能であれば特に制限されない。熱可塑性樹脂層4の熱可塑性樹脂には、結晶性樹脂および非結晶性樹脂のいずれの熱可塑性樹脂も使用することが可能である。
結晶性樹脂の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂等が挙げられる。
非結晶性樹脂の例としては、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)樹脂、アクリル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET)等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、単一の樹脂を単層で使用してもよいし、複数の樹脂を混合して使用してもよいし、複層で使用してもよい。
上記の熱可塑性樹脂の中では、押し出しラミネート性および発泡性が優れることからポリエチレンが好ましい。ポリエチレンは、大きくは直鎖状低密度ポリエチレン(密度:910〜930kg/m、融点:102℃〜122℃)、低密度ポリエチレン(密度:910〜930kg/m、融点:102℃〜122℃)、中密度ポリエチレン(密度:930〜942kg/m、融点:110〜133℃)、高密度ポリエチレン(密度:942〜970kg/m、融点:127〜135℃)のように区分される。これらの中では、押し出しラミネート性および発泡性に特に優れることから、低密度ポリエチレンが好ましい。
熱可塑性樹脂層4の厚さは、所望する断熱性を有する発泡断熱紙容器8が得られる範囲であれば特に限定されないが、断熱性や加工性の観点から、発泡前の厚さが30〜80μmであることが好ましい。
(高融点熱可塑性樹脂層、金属層)
本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5は、紙基材1の熱可塑性樹脂層4を形成した面とは反対側の面に、熱可塑性樹脂層4よりも融点の高い高融点熱可塑性樹脂層10やアルミニウム箔等の金属層を積層してもよい。
このような高融点熱可塑性樹脂層10や金属層は、発泡断熱紙容器用シート5を加熱して熱可塑性樹脂層4を発泡させる際に、紙基材1の熱可塑性樹脂層4を形成した面と反対側の面から水蒸気が蒸散することを抑制する。この蒸散の抑制により、熱可塑性樹脂層4に十分な水蒸気が供給され、熱可塑性樹脂層4の発泡性が向上する。
このとき、高融点熱可塑性樹脂層10に使用する熱可塑性樹脂の融点は、紙基材1中に含まれる水分を加熱蒸発させる際の加熱温度において溶融せず、水蒸気の拡散を防止できればよい。したがって、熱可塑性樹脂の融点は特に制限されないが、125℃以上であることが好ましい。また、紙基材1の表面に金属層を形成するためには、金属箔を積層してもよいし、金属層を蒸着法等の気相法で形成してもよい。
さらに、高融点熱可塑性樹脂層10や金属層が発泡断熱紙容器8の胴部材6および底板部材7の少なくとも一方の内壁面側に存在すると、容器に充填した液体等が紙基材1中へ浸透することを抑制できるため好ましい。
また、発泡断熱紙容器用シート5の熱可塑性樹脂層4の上に高融点熱可塑性樹脂層10を積層してもよい。熱可塑性樹脂層4の上に高融点熱可塑性樹脂層10を積層すると、発泡断熱紙容器用シート5を加熱して熱可塑性樹脂層4を発泡させる際に、熱可塑性樹脂層4を貫通して水蒸気が蒸散することが抑制される。この蒸散の抑制により、熱可塑性樹脂層4の発泡性が向上する。
熱可塑性樹脂層4が発泡断熱紙容器8の胴部材6の外壁面側に存在する場合、一般にその表面は、発泡による凹凸が発生するため平滑ではない。熱可塑性樹脂層4の上に高融点熱可塑性樹脂層10を積層すると、発泡断熱紙容器8の胴部表面を平滑にすることができるため、特に美麗性に優れた発泡断熱紙容器8を得ることができる。
高融点熱可塑性樹脂層10に使用する熱可塑性樹脂は、熱可塑性樹脂層4に使用する熱可塑性樹脂と同じ種類であってもよいし、異なる種類であってもよい。例えば、熱可塑性樹脂層4に使用する熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂層10に使用する熱可塑性樹脂の両方にポリエチレンを選択する場合を考える。この場合、熱可塑性樹脂層4には低密度ポリエチレンを、高融点熱可塑性樹脂層10には中密度ポリエチレンまたは高密度ポリエチレンを選択することで、高融点熱可塑性樹脂層10の融点を熱可塑性樹脂層4より高くすることができる。
熱可塑性樹脂層4と高融点熱可塑性樹脂層10の融点の差、すなわち、熱可塑性樹脂層4に使用する熱可塑性樹脂と高融点熱可塑性樹脂層10に使用する熱可塑性樹脂の融点の差は5℃以上あることが好ましい。
熱可塑性樹脂層4または高融点熱可塑性樹脂層10において複数の種類の樹脂を積層して使用した場合は、熱可塑性樹脂層4中の最も融点の高い樹脂と、高融点熱可塑性樹脂層10中の最も融点の低い樹脂について、融点の差が5℃以上あることが好ましい。
高融点熱可塑性樹脂層10の厚さは、紙基材1の熱可塑性樹脂層4を積層した面と反対側の面から水蒸気が蒸散することを抑制したり、熱可塑性樹脂層4を貫通して水蒸気が蒸散することを抑制したりできればよい。したがって、高融点熱可塑性樹脂層10の厚さは特に限定されないが、20〜50μm程度であることが好ましい。
特に、高融点熱可塑性樹脂層10が発泡断熱紙容器8の胴部材6および底板部材7の少なくとも一方の内壁面側に存在する場合は、高融点熱可塑性樹脂層10の厚さが20μm以上であることが好ましい。高融点熱可塑性樹脂層10の厚さが20μm以上であれば、容器に充填した液体等が紙基材1中へ浸透することを効果的に抑制することが可能である。
[発泡断熱紙容器用シートの製造方法]
発泡断熱紙容器用シート5は、上述の方法で製造された発泡断熱紙容器用紙基材3の上に熱可塑性樹脂層4を形成することで製造できる。
以下、発泡断熱紙容器用シート形成工程について説明する。
熱可塑性樹脂層4の形成方法は、特に制限されず、押し出しラミネート法、ウェットラミネート法、ドライラミネート法等の各種方法を適宜使用して積層すればよい。
押し出しラミネート法とは、発泡断熱紙容器用紙基材3の表面に、熱可塑性樹脂をTダイから溶融樹脂膜の状態で押し出し、クーリングロールとこれに対向するニップロールとの間で冷却しつつ押圧・圧着する方法である。
熱可塑性樹脂層4の形成方法としては、水溶性樹脂層2と熱可塑性樹脂層4との密着性、および熱可塑性樹脂層4の発泡性が良好となるため、押し出しラミネート法が好ましい。高融点熱可塑性樹脂層10の形成方法についても同様である。
押し出しラミネート法の操業条件、すなわち、熱可塑性樹脂の溶融温度、積層速度等は、使用する熱可塑性樹脂の種類や装置により適宜設定すればよく特に制限されない。一般的に、溶融温度は200〜370℃程度、積層速度は30〜200m/分程度である。
[発泡断熱紙容器の製造方法]
発泡断熱紙容器8は、発泡断熱紙容器用シート5をカップ状に成形して紙容器を製造し(紙容器成形工程)、得られた容器を発泡させる(発泡断熱紙容器成形工程)ことで製造できる。
以下、紙容器成形工程と発泡断熱紙容器成形工程について説明する。
(紙容器成形工程)
紙容器成形工程では、発泡断熱紙容器用シート5を用いて紙容器を成形する。発泡断熱紙容器用シート5を用いて紙容器を成形する方法は特に限定されるものではなく、公知の方法を用いて製造することができる。具体例としては、以下に説明する一般的なカップ成形機によって成形する方法がある。
まず、発泡断熱紙容器用シート5の所定箇所に、各種絵柄やバーコード等の胴部材ブランクに必要な印刷を施した後、胴部材ブランクを所定の形状に打ち抜く。印刷部分の位置決めなどは常用の方法によって行うことができる。
次に、胴部材ブランクとは別に、底板部材ブランクを用意する。底板部材ブランクは、胴部材ブランクと同様に、発泡断熱紙容器用シート5を打ち抜いて製造することができる。また、容器に充填した液体等が紙基材1中へ浸透することを防止するため、底板部材ブランクを本実施形態の発泡断熱紙容器用シート5とは異なる構成にすることもできる。底板部材ブランクに用いるシートとして、例えば、紙基材1上に熱可塑性樹脂を積層したシートやアルミ箔等で被覆したシートなどを用いることができる。
底板部材ブランクに用いる熱可塑性樹脂は、胴部材ブランクに用いる熱可塑性樹脂と同じ種類の樹脂であってもよいし、異なる樹脂であってもよい。両者の熱可塑性樹脂として同種の樹脂を用いたり、両者を同一の発泡断熱紙容器用シート5から作製して用いたりすると、胴部材6と底板部材7とが同時に発泡するため、発泡断熱紙容器8の断熱性が一層良好となる。特に、屋外や冬場、寒冷地で発泡断熱紙容器8を使用する場合、あるいはカップ麺など湯を注入後しばらく放置するものに発泡断熱紙容器8を使用する場合に、前記の構成の発泡断熱紙容器8は有効である。
次に、カップ成形機で胴部材ブランクと底板部材ブランクとを組み立てて容器の形とする。胴部材ブランクと底板部材ブランクを組み立てて容器の形とする際に、熱可塑性樹脂層4は、胴部材6の外側および内側のどちらか一方あるいは両方に存在すればよい。熱可塑性樹脂層4を胴部材6の外側と内側のどちらに形成するか、あるいは両方に形成するかについては、所望する断熱性、美麗性、手触り等に応じて適宜決定すればよい。
(発泡断熱紙容器成形工程)
発泡断熱紙容器成形工程では、紙容器に加熱処理を施して発泡断熱紙容器8を成形する。本工程では、紙容器成形工程で成形した紙容器に対して加熱処理を行う。加熱処理を行うと、紙容器の胴部材ブランクや底板部材ブランクの紙基材1等に含まれる水分が気化し、発生した水蒸気によって熱可塑性樹脂層4が発泡し、発泡断熱紙容器8となる。発泡断熱紙容器8は、胴部材6および底板部材7の少なくとも一方に発泡断熱紙20を用いており、当該発泡断熱紙20は、紙基材1の少なくとも片面に熱可塑性樹脂からなる発泡樹脂層9を有している。
加熱処理の条件(加熱温度、加熱時間)は、紙基材1および熱可塑性樹脂の種類に応じて適宜設定すればよく、特に制限されない。加熱温度は熱可塑性樹脂の融点よりもやや高い温度(融点+5℃〜融点+10℃程度)が好ましく、高融点熱可塑性樹脂層10に使用する熱可塑性樹脂の融点よりも低い温度がより好ましい。一般的に、加熱温度は100〜200℃程度、加熱時間は1〜6分間程度である。
加熱処理には、熱風、電熱、電子線など任意の手段を使用することが可能である。コンベヤによる搬送手段を備えたトンネル内で、連続的に加熱処理すると、発泡断熱紙容器8を安価かつ高い生産性で製造することができる。
このようにして発泡された発泡樹脂層9の厚さとしては、特に限定されるものではないが、例えば、800〜1500μmとすることができる。発泡樹脂層9の厚さが800μm以上であると、十分な断熱性が得られる。また、発泡樹脂層9の厚さが1500μm以下であると、過発泡により表面に凹凸が生じ難く、美麗性が損なわれるおそれがない。
本実施形態に係る発泡断熱紙容器8では、必要に応じて、所望の効果を損なわない範囲で紙製容器の分野で公知の技術を適用することができる。例えば、胴部材6の外側の一部に合成樹脂成分を5〜40質量%含有する塗料を塗布し、部分的に発泡を抑制する技術(特許第3014629号公報)、胴部材6の外側、すなわち、発泡断熱紙容器8の外壁面に発泡と同調して滑らかな印刷面を形成する同調インキを塗布する技術(特許第3408156号公報)、胴部材6の開口上縁に断面角型に強制加工した上部フランジ部を設け、その内側巻き込み端をフランジ部の上部に重合させて二重構造にする技術(特開2001−354226号公報)等が挙げられるが、これらに制限されるものではない。また、美麗性を高めるために、発泡断熱紙容器8の外壁面となる胴部材6の最表層に、顔料とバインダーを主成分とするインキ受理層を設けてもよい。
また、発泡断熱紙容器8に使用する蓋材については、前記底板部材ブランクと同様に、発泡断熱紙容器用シート5を打ち抜いたものを用いることができる。また、容器に充填した液体等が紙基材1中へ浸透することを防止するため、蓋材を本実施形態に係る発泡断熱紙容器用シート5とは異なる構成にすることもできる。蓋材に用いるシートとして、例えば、紙基材1上に熱可塑性樹脂を積層したシートやアルミ箔等で被覆したシートなどを用いることができる。
本実施形態に係る発泡断熱紙容器8は、自動販売機等に利用されるホットコーヒーなどの充填用の発泡断熱紙容器、熱湯を注入するインスタント食品用の発泡断熱紙容器、電子レンジによる調理用の容器等として使用することができる。
以下に実施例と比較例を示す。実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、実施例および比較例中の「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を示す。
以下に、発泡断熱紙容器用紙基材について実施した測定方法を示す。
パルプの離解フリーネス(csf)は発泡断熱紙容器用紙基材をJIS P8220:2012に準じて離解することで得られたパルプスラリーについて、JIS P8121:2012に準じて測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材の坪量は、JIS P8124:2011に準じて測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材の紙厚は、JIS P8118:2014に準じて測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材の密度は、JIS P8118:1998に準じて測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材の引張強度は、JIS P8113:2006に規定される方法に準じて、発泡断熱紙容器用紙基材のMD方向について測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材のZ軸強度は、JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.18−1:2000 紙及び板紙−内部結合強さ試験方法−第1部:Z軸方向引張試験法に準拠して、発泡断熱紙容器用紙基材のMD方向について測定した。
発泡断熱紙容器用紙基材のテーバー剛度は、JIS P8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準じて、発泡断熱紙容器用紙基材のMD方向について測定した。
[実施例1]
(発泡断熱紙容器用紙基材)
NBKP10部、LBKP90部を混合叩解し、パルプスラリーを得た。得られたパルプスラリー100質量%(固形分換算)に対し、カチオン化澱粉0.5質量%、ポリアクリルアミド系紙力増強剤(PAM系紙力増強剤)0.1質量%、アルキルケテンダイマー系サイズ剤0.30質量%、ポリアミドポリアミンエピクロルヒドリン系樹脂(PAE系湿潤紙力増強剤)0.1質量%を添加した紙料スラリーを、一層抄きの長網抄紙機で抄紙した。
次いで、得られた紙基材の両面(両側の最外層)にブレードコーターにより中間けん化型ポリビニルアルコール(PVA)(日本酢ビ・ポバール株式会社製、製品名:JM17、けん化度96.5モル%)を片面あたり固形分で0.08g/m(両面で0.16g/m)となるように塗工、乾燥して、実施例1の発泡断熱紙容器用紙基材を得た。
実施例1の発泡断熱紙容器用紙基材は、坪量303g/m、紙厚341μm、密度0.89g/cm、Z軸強度553kN/m、引張強度17.5kN/m、テーバー剛度13.8mN・m であった。
実施例1の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は430mlであった。
(発泡断熱紙容器用シート)
上記発泡断熱紙容器用紙基材の一方の面に、厚さ40μmとなるように高融点の熱可塑性樹脂(中密度ポリエチレン、密度940kg/m、融点133℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押し出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS−A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、高融点熱可塑性樹脂層を形成した。
次いで、発泡断熱紙容器用紙基材の他方の面に、厚さ50μmとなるように熱可塑性樹脂(低密度ポリエチレン、密度918kg/m、融点103℃)を溶融温度360℃、積層速度50m/分で押し出した。その後、クーリングロールとニップロール(JIS−A硬度:70)を用いて、線圧2kgf/cmで押圧・圧着し、熱可塑性樹脂層を形成して、実施例1の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[実施例2]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量298g/m、紙厚331μm、密度0.90g/cm、Z軸強度499kN/m、引張強度18.3kN/m、テーバー剛度13.1mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。実施例2の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は426mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、実験例2の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[実施例3]
NBKP20部とLBKP80部を混合叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量300g/m、紙厚335μm、密度0.90g/cm、Z軸強度514kN/m、引張強度20.8kN/m、テーバー剛度14.0mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。実施例3の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は520mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、実験例3の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[実施例4]
水溶性樹脂として澱粉を用いたこと以外は実施例1と同様にして抄紙し、坪量302g/m、紙厚341μm、密度0.89g/cm、Z軸強度539kN/m、引張強度17.4kN/m、テーバー剛度13.5mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。実施例4の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は430mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、実験例4の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例1]
LBKP100部を叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量300g/m、紙厚335μm、密度0.90g/cm、Z軸強度376kN/m、引張強度15.1kN/m、テーバー剛度12.9mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。比較例1の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は600mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例1の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例2]
実施例1と同様にして抄紙し、坪量302g/m、紙厚341μm、密度0.89g/cm、Z軸強度570kN/m、引張強度32.6kN/m、テーバー剛度14.1mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。比較例2の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は420mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例2の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例3]
LBKP100部を混合叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量303g/m、紙厚342μm、密度0.89g/cm、Z軸強度500kN/m、引張強度14.5kN/m、テーバー剛度13.3mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。比較例2の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は540mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例3の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例4]
NBKP20部とLBKP80部を混合叩解し、実施例1と同様にして抄紙し、坪量302g/m、紙厚334μm、密度0.88g/cm、Z軸強度517kN/m、引張強度21.5kN/m、テーバー剛度17.7mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。比較例2の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は470mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例4の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[比較例5]
水溶性樹脂を使用しなかったこと以外は、実施例1と同様にして抄紙し、坪量302g/m、紙厚341μm、密度0.89g/cm、Z軸強度539kN/m、引張強度17.4kN/m、テーバー剛度13.5mN・mの発泡断熱紙容器用紙基材を得た。比較例2の発泡断熱紙容器用紙基材を再離解したパルプの離解フリーネス(csf)は430mlであった。
その後、実施例1と同様に高融点熱可塑性樹脂層および熱可塑性樹脂層を形成して、比較例5の発泡断熱紙容器用シートを得た。
[評価方法]
以上のようにして得られた発泡断熱紙容器用シートについて以下の評価を行った。評価結果は表1に記載のとおりであった。なお、○、△が合格であり、×が不合格である。
(トップカール部の成形性)
得られた紙コップ原紙を製罐した際における、トップカール部を目視で観察して、下記基準で評価を行った。
○:トップカール部に破断、膨れ、破れ、折れ等が見られない。
△:トップカール部に若干の破断、膨れ、破れ、折れ等が見られるが実用レベルである。
×:トップカール部に破断、膨れ、破れ、折れ等が非常に多く目立つ。
(シーム部のめくれ)
得られた紙コップ原紙を製罐した際における、トップカール部のシーム部を目視で観察して、下記の基準で評価を行った。
○:シーム部にめくれ上がりが見られない。
△:シーム部に若干のめくれ上がりが見られるが実用レベルである。
×:シーム部にめくれ上がりが非常に多く目立つ。
(断熱性)
得られた発泡断熱紙容器用シートから、A4サイズのサンプルを切り出した。熱可塑性樹脂層が外側となるようにして、円筒を作製した。その後、熱風を使用して、加熱温度120℃、加熱時間6分間で、円筒の外側の熱可塑性樹脂層を発泡させた。
得られた発泡断熱紙の発泡前後の厚さから、発泡倍率を算出し、以下の基準で評価した。
○:発泡倍率19倍以上で、断熱性が十分である。
△:発泡倍率15倍以上、19倍未満で、断熱性はある。
×:発泡倍率15倍未満で、断熱性が不十分である。
(美麗性)
得られた発泡断熱紙容器用シートから、1辺100mmの正方形の試験片を切り出した。その後、熱風を使用して、加熱温度120℃、加熱時間6分間で、熱可塑性樹脂層を発泡させた。発泡後の熱可塑性樹脂層の表面を目視で観察し、以下の基準で美麗性を評価した。
○:過発泡が見られず、形成された発泡セルは小さく概ね均質であり、表面も概ね平坦である。
△:形成された発泡セルがやや大きく、大きさにばらつきも見られるが、表面の凹凸は小さく過発泡は見られない。
×:過発泡が発生しているなど、表面に大きな凹凸がある。
Figure 0006904237
表1から分かるように、実施例1〜実施例4の発泡断熱紙容器用シートは、トップカール部の成形性、シーム部のめくれの抑制、断熱性、美麗性のいずれの性能においても優れていた。また、水溶性樹脂としてPVAを用い、かつ、NKPの含有量が10%未満であれば、断熱性と美麗性がさらに優れていることも分かった。
比較例1の発泡断熱紙容器用シートは、Z軸強度が本発明の適切な範囲より小さいため、紙層が剥離し、トップカール部の膨れ等や、シーム部のめくれが非常に目立った。
比較例2の発泡断熱紙容器用シートは、Z軸強度が本発明の適切な範囲より大きいため、トップカール部の破断、膨れ、破れ、折れ等は実用レベルだが、シーム部のめくれが非常に目立った。
比較例3の発泡断熱紙容器用シートは、引張強度が本発明の適切な範囲より小さいため、トップカール部の破断等が非常に目立った。
比較例4の発泡断熱紙容器用シートは、テーバー剛度が本発明の適切な範囲より大きいため、トップカール部の折れ等や、シーム部のめくれが非常に目立った。
比較例5の発泡断熱紙容器用シートは、紙基材に水溶性樹脂が塗工されていないため、発泡が均一にならず、表面の美麗性において劣り、印刷に適さない。
1 紙基材
2 水溶性樹脂層
3 発泡断熱紙容器用紙基材
4 熱可塑性樹脂層
5 発泡断熱紙容器用シート
6 胴部材
7 底板部材
8 発泡断熱紙容器
9 発泡樹脂層
10 高融点熱可塑性樹脂層
20 発泡断熱紙

Claims (6)

  1. セルロースパルプを主成分とする紙基材と、当該紙基材の少なくとも一方の表面に設けられた水溶性樹脂層とからなる発泡断熱紙容器用紙基材であって、
    JAPAN TAPPI 紙パルプ試験方法 No.18−1:2000 紙及び板紙−内部結合強さ試験方法−第1部:Z軸方向引張試験法に準拠して測定したZ軸強度が380〜560kN/mであり、
    MD方向の引張強度が15.0〜35.0kN/mであり、
    JIS P8125:2000に規定されるテーバーこわさ試験機法に準拠して測定したMD方向のテーバー剛度が17.0mN・m以下である
    ことを特徴とする発泡断熱紙容器用紙基材。
  2. 前記セルロースパルプに対する針葉樹クラフトパルプの含有量が20質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
  3. JIS P 8121:2012に準拠して測定した前記セルロースパルプの離解フリーネスが410〜530mlであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
  4. 前記水溶性樹脂層を構成する水溶性樹脂がポリビニルアルコールであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用紙基材。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の発泡断熱紙容器用紙基材の両面に熱可塑性樹脂層を設けたことを特徴とする発泡断熱紙容器用シート。
  6. 請求項5に記載の発泡断熱紙容器用シートからなる発泡断熱紙容器。
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