図1は、本明細書に記載した研究から同定されたmiRNAの個数をまとめた概略図を示している。
図2は、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)のヒストグラムおよび歪み図と、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンのレベルの自然対数(ln_NT-proBNP)を示している。対照患者(A、D)、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)の患者(B、E)、左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)の患者(C、F)でのNT-proBNPレベルの分布(A~C)とln_NT-proBNPレベルの分布(NT-proBNPの自然対数、D~F)。各グラフの歪度を計算して表示してある。図2は、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)がすべての群で正に歪んでいたことを示している。それとは対照的に、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンのレベルの自然対数(ln_NT-proBNP)は、歪度がより小さい。したがって、NT-proBNPが関与するすべての分析で、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンのレベルの自然対数を用いた。
図3は、心不全のバイオマーカーとしての脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンの自然対数(ln_NT-proBNP)の性能を分析した結果を示している。個別に見ると、(A)は、ln_NT-proBNP(脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンの自然対数)レベルのボックスプロット表示を示している。各ボックスプロットは、分布の中の第25百分位、第50百分位、第75百分位を表わしている。(B~D)は、ln_NT-proBNPの受信者動作特性曲線を、対照と心不全(HFREFとHFPEF)の比較(B)、HFREFと心臓HFPEFの比較(C)、対照とHFREFの比較(D)、対照とHFPEFの比較(E)で示している。AUC:受信者動作特性曲線よりも下の面積、C:対照(健康)、HF:心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した被験者、HFPEF:左心室駆出率が維持されている被験者。図3Aは、NT-proBNP試験の性能の低下がHFPEFでより強調されていることを示している。図3B~図3Dは、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモンの自然対数(ln_NT-proBNP)がHFPEFよりもHFREFを検出する上で優れていたことを示している。
図4は、高スループットmiRNA RT-PCR測定の作業フローの一例を示している。図4に示した工程には、単離、多重化群、マルチプレックスRT、増幅、シングルプレックスPCR、合成miRNA標準曲線が含まれる。各工程の詳細は以下の通りである:単離は、血漿サンプルからmiRNAを単離して精製する工程である;スパイク-インmiRNAは、各工程(単離、逆転写、増幅、qPCRが含まれる)における効率をモニタするためサンプルに添加した非天然の合成miRNA模倣体(長さの範囲が22~24塩基の小さな1本鎖RNA)を意味する;多重設計は、RTプロセスと増幅プロセスの間の非特異的増幅とプライマー-プライマー相互作用を最少にするため、インシリコで意図的に多数の多重群(群ごとに45~65個のmiRNA)に分割したmiRNAアッセイを意味する;多重逆転写は、cDNAを作り出すために組み合わせて異なる多重群に添加した逆転写プライマーのさまざまなプールを意味する。増幅は、PCRプライマーのプールを組み合わせて所定の多重群から作り出された各cDNAプールに添加し、最適化されたタッチダウンPCRを実施して群内のcDNAの全量を同時に増やすことを意味する。シングルプレックスqPCRは、増大したcDNAプールを384ウエルプレートの中のさまざまなウエルの中に分布させた後、シングルプレックスqPCR反応を実施することを意味する。合成miRNA標準曲線は、全測定中の絶対コピー数を内挿するため、サンプルとともに測定した合成miRNA標準曲線を意味する。
図5は、主成分分析の結果を棒グラフで示している。主成分分析は、137個の信頼性よく検出された成熟miRNA(表4)に対し、log2スケール発現レベル(コピー/ml)に基づいて実施した。(A):上位15個の主成分の固有値。(B)対照(C)と心不全(HF)の分離に関する上位15個の主成分の分類効率(AUC)。(C)HFREF(左心室駆出率が低下した心不全)とHFPEF(左心室駆出率が維持されている心不全)の分離に関する上位15個の主成分の分類効率(AUC)。AUC:受信者動作特性曲線よりも下の面積。図5は、HFREFとHFPEFの分類には多変量アッセイで多次元の情報を捕獲することが必要となる可能性のあることを示している。
図6は、心不全被験者の上位(AUC)主成分を対照と比較した散乱プロットを示している。個別に見ると、対照(C、黒丸)と心不全(HF、白三角)被験者の識別に用いる上位(AUC)主成分をAに示してある。HFREF(左心室駆出率が低下した心不全)をHFPEF(左心室駆出率が維持されている心不全)から識別するための上位(AUC)2個の主成分をBに示す。AUC:受信者動作特性曲線よりも下の面積。PC:図10に基づく主成分の個数。変動:固有値によって計算した主成分により表わされる変動の割合。図6は、対照、HFREF被験者、HFPEF被験者をそれらのmiRNAプロファイルに基づいて分離できることを示している。
図7は、心不全の検出に使用できる可能性のあるバイオマーカーの重複を示すベン図である。対照(健康)と心不全患者のさまざまな群(HF、HFREF、HFPEF)の間の比較を、単変量分析(t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)、高血圧、糖尿病を組み込んだ多変量分析(ロジスティック回帰)によって実施した。C対HF(HFREFとHFPEF)、C対HFREF、C対HFPEFという3通りの比較に関し、単変量分析(A)と多変量分析(B)においてp値が0.01未満であるmiRNAの数と重複を示している。HF:心不全、HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、C:対照(健康)。図7は、対照と2つの心不全サブタイプの間でmiRNAの多くが異なることが見いだされたことを示している。したがってmiRNAの発現に関してこれら2つのサブタイプの間には真の違いがあることが証明される。
図8は、健康な対照と心不全患者の間で上方調節されたmiRNAと下方調節されたmiRNAのうちで上位に来たもののボックスプロットと受信者動作特性曲線を示している。このボックスプロットと受信者動作特性曲線(ROC)は、対照(健康な)患者と比べて全心不全患者で(AUCに基づき)上位に来た上方調節されたmiRNA(A:ROC曲線、C:ボックスプロット)と下方調節されたmiRNA(B:ROC曲線、D:ボックスプロット)についてのものである。miRNAの発現レベル(コピー/ml)はlog2スケールで表示した。このボックスプロットには、発現レベルの分布における第25百分位、第50百分位、第75百分位を示した。C:対照(健康)、HF:心不全。AUC:受信者動作特性曲線よりも下の面積。図8は、多数のmiRNAを組み合わせると心不全診断の性能が向上する可能性があることを示している。
図9は、心不全の検出と心不全サブタイプの分類のためのバイオマーカーの重なりを示すベン図である。HFREFとHFPEFの比較を、単変量分析(t検定)と、年齢と性別とBMI(ボディマス指数)とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧を組み込んだ多変量分析(ロジスティック回帰)によって実施した(p値、ln_BNP)。単変量分析(A)と多変量分析(B)で(偽発見率補正後の)p値が0.01未満であるmiRNAを、心不全を検出するためのmiRNAと比較した(C対HF、またはC対HFREF、またはC対HFPEF、図5)。HF:心不全、HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、C対照(健康な)被験者。
図10は、HFREF患者と比べてHFPEF患者で上方調節されたmiRNAと下方調節されたmiRNAのうちで上位に来たもののボックスプロットと受信者動作特性曲線(ROC)を示している。このボックスプロットと受信者動作特性曲線(ROC)は、HFREF患者と比べてHFPEF患者で(AUCに基づき)上位に来た上方調節されたmiRNA(A:ROC曲線、C:ボックスプロット)と下方調節されたmiRNA(B:ROC曲線、D:ボックスプロット)についてのものである。miRNAの発現レベル(コピー/ml)はlog2スケールで表示した。このボックスプロットには、発現レベルの分布における第25百分位、第50百分位、第75百分位を示した。HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、AUC:受信者動作特性曲線よりも下の面積。図10は、多変量指数アッセイで多数のmiRNAを組み合わせるとサブタイプの分類に関してより大きな診断力が得られる可能性があることを示している。
図11は、心不全の検出と心不全サブタイプの分類に関して重複したmiRNAの線グラフを示している。対照、心不全(HFREFまたはHFPEF)、HFREF、HFPEFの間で重複した38個のmiRNA(図7、A)は、変化に基づいて7つの群に分離された。偽発見検定後のmiRNA のp値(t検定)が0.01超である場合、2つの群は等しいと規定した。発現レベルはlog2スケールに基づいており、各miRNAについて平均がゼロになるように標準化した。HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、C:対照(健康)。図11は、HFPEFは、健康な対照と比べたとき、LVEFやNT-proBNPとは異なり、HFREFサブタイプよりも明確に異なるmiRNAプロファイルを持っていたことを示している。図11は、HFPEFをよりよく識別するのにmiRNAがNT-proBNPを補足できる可能性のあることを示している。
図12は、信頼性よく検出された全miRNAの間の相関に関する散乱プロットを示している。log2スケールの発現レベル(コピー/ml)に基づき、信頼性よく検出された137個すべてのmiRNA(表4)の間のピアソン線形相関係数を計算した。各点は、相関係数が0.5よりも大きい(A、正の相関)か、-0.5よりも小さい(B、負の相関)miRNAのペアを表わしている。C対HFとHFREF対HFPEFで発現が異なっているmiRNAを水平次元に黒で示してある。HF:心不全、HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、C対照(健康)。図12は、miRNAの多くのペアが全被験者の間で同様に調節されたことを示している。
図13は、HFREFとHFPEFの薬物療法を表わす棒グラフである。さまざまな抗HF薬を用いた治療のケース数を予後分析に含まれる327人の被験者についてまとめたものであり、HFREFサブタイプとHFPEFサブタイプに分けて示してある。χ自乗検定を適用し、各治療法について2つのサブタイプを比較した。*:p値<0.05、**:p値<0.01、***: p値<0.001。図13は、臨床で現在実施されている治療法のまとめであり、予後マーカーを分析するための臨床変数に含まれていた。
図14は、被験者の生存分析を示している。個別に見ると、(A)は、単変量分析(p値<0.05)に基づく実測生存率の予測が有意になる臨床変数(表14)のカプラン-マイヤープロットを示している。分類変数に関しては、正の群(黒色)と負の群(灰色)を比較した。正規分布変数に関しては、中央値よりも上の値の被験者(黒色)と中央値よりも下の値の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して各変数について2つの群を検定し、p値を各プロットの上方に示した。(B)は、治療後750日の時点での実測生存率(OS)を示す棒グラフである。
図14は、被験者の生存分析を示している。個別に見ると、(A)は、単変量分析(p値<0.05)に基づく実測生存率の予測が有意になる臨床変数(表14)のカプラン-マイヤープロットを示している。分類変数に関しては、正の群(黒色)と負の群(灰色)を比較した。正規分布変数に関しては、中央値よりも上の値の被験者(黒色)と中央値よりも下の値の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して各変数について2つの群を検定し、p値を各プロットの上方に示した。(B)は、治療後750日の時点での実測生存率(OS)を示す棒グラフである。
図15は、無イベント生存に関する生存分析を示す。個別に見ると、(A)は、単変量分析(p値<0.05)に基づく無イベント生存率の予測が有意になる臨床変数(表14)のカプラン-マイヤープロットを示している。分類変数に関しては、正の群(黒色)と負の群(灰色)を比較した。正規分布変数に関しては、中央値よりも上の値の被験者(黒色)と中央値よりも下の値の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して各変数について2つの群を検定し、p値を各プロットの上方に示した。(B)は、治療後750日の時点での無イベント生存率(EFS)を示す棒グラフである。
図15は、無イベント生存に関する生存分析を示す。個別に見ると、(A)は、単変量分析(p値<0.05)に基づく無イベント生存率の予測が有意になる臨床変数(表14)のカプラン-マイヤープロットを示している。分類変数に関しては、正の群(黒色)と負の群(灰色)を比較した。正規分布変数に関しては、中央値よりも上の値の被験者(黒色)と中央値よりも下の値の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して各変数について2つの群を検定し、p値を各プロットの上方に示した。(B)は、治療後750日の時点での無イベント生存率(EFS)を示す棒グラフである。
図16は、実測生存率(OS)と無イベント生存率(EFS)に関するバイオマーカーを比較したベン図を示している。個別に見ると、(A)は、CoxPHモデルを用いて単変量分析と多変量分析によって同定されてOSの予後が有意になるmiRNAの間の比較を示している。(B)は、OSの予後に関して有意なmiRNA とEFSの予後に関して有意なmiRNAの間の比較を示している。miRNAは、CoxPHモデルを用いて単変量分析または多変量分析によって同定した。図16は、死と再発性代償不全心不全でメカニズムが異なることを示している。
図17は、実測生存率(OS)と無イベント生存率(EFS)に関するバイオマーカーを比較したベン図を示している。個別に見ると、(A)は、(OSまたはEFSに関して)CoxPHモデルにより予後が有意になるmiRNA と、HF(どちらかのサブタイプ)の検出に関して有意なmiRNAの間の比較を示している。すべてのmiRNAが、単変量分析または多変量分析によって同定された。(B)は、(OSまたはEFSに関して)CoxPHモデルによって予後が有意であることが同定されたmiRNAと、2つのHPサブタイプの分類に関して有意なmiRNAの間の比較を示している。すべてのmiRNAが、単変量分析または多変量分析によって同定された。図17は、予後マーカーの多くが、他の2つのリストでは見つからなかったことを示している。これは、miRNAの別の集合を用いるか、miRNAの別の集合と組み合わせることで、予後のためのアッセイを形成できることを示している。
図18は、実測生存率(OS)に関して最大ハザード比と最小ハザード比を持つmiRNAの分析を示している。(A)では、実測生存率(OS)に関して最大ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-503)と最小ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-150-5p)を用いて単変量CoxPHモデルまたは多変量CoxPHモデルを構成した。その中には、実測生存率(OS)に関する6個の追加臨床変数、すなわち性別、高血圧、BMI、ln_NT-proBNP、βブロッカー、ワルファリンが含まれている。BMI、ln_NT-proBNP、miRNA発現レベル(log2スケール)を含む正規変数のレベルのすべてが1標準偏差を持つようにスケールを変えた。CoxPHモデルによる説明スコアの値に基づき、上位50%の被験者(黒色)と下位50%の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して2つの群を検定し、p値を示した。(B)は、治療後750日の時点での実測生存率(OS)である。
図18は、実測生存率(OS)に関して最大ハザード比と最小ハザード比を持つmiRNAの分析を示している。(A)では、実測生存率(OS)に関して最大ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-503)と最小ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-150-5p)を用いて単変量CoxPHモデルまたは多変量CoxPHモデルを構成した。その中には、実測生存率(OS)に関する6個の追加臨床変数、すなわち性別、高血圧、BMI、ln_NT-proBNP、βブロッカー、ワルファリンが含まれている。BMI、ln_NT-proBNP、miRNA発現レベル(log2スケール)を含む正規変数のレベルのすべてが1標準偏差を持つようにスケールを変えた。CoxPHモデルによる説明スコアの値に基づき、上位50%の被験者(黒色)と下位50%の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して2つの群を検定し、p値を示した。(B)は、治療後750日の時点での実測生存率(OS)である。
図19は、EFSに関して最大ハザード比と最小ハザード比を持つmiRNAの分析を示している。(A)では、EFSに関して最大ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-331-5p)と最小ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-191-5p)を用いて単変量CoxPHモデルまたは多変量CoxPHモデルを構成した。その中には、2つの追加臨床変数、すなわち糖尿病の状態と、EFSに関するln_NT-proBNPが含まれる。糖尿病の状態とln_NT-proBNPとmiRNA発現レベル(log2スケール)を含む正規変数のレベルのすべてが1標準偏差を持つようにスケールを変えた。CoxPHモデルによる説明スコアの値に基づき、上位50%の被験者(黒色)と下位50%の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して2つの群を検定し、p値を示した。(B)は、治療後750日の時点でのEFSである。
図19は、EFSに関して最大ハザード比と最小ハザード比を持つmiRNAの分析を示している。(A)では、EFSに関して最大ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-331-5p)と最小ハザード比を持つmiRNA(hsa-miR-191-5p)を用いて単変量CoxPHモデルまたは多変量CoxPHモデルを構成した。その中には、2つの追加臨床変数、すなわち糖尿病の状態と、EFSに関するln_NT-proBNPが含まれる。糖尿病の状態とln_NT-proBNPとmiRNA発現レベル(log2スケール)を含む正規変数のレベルのすべてが1標準偏差を持つようにスケールを変えた。CoxPHモデルによる説明スコアの値に基づき、上位50%の被験者(黒色)と下位50%の被験者(灰色)を比較した。ログ-ランク検定を実施して2つの群を検定し、p値を示した。(B)は、治療後750日の時点でのEFSである。
図20は、心不全を検出するための多変量バイオマーカーパネルを生成させる代表的な結果を示している。(A)では、ボックスプロットは、インシリコで2分割交差確認をしているときの心不全の発見相と確認相における多変量バイオマーカーパネル(miRNAの数=3~10)の診断力(AUC)を示している。ボックスプロットは、健康人と心不全患者の分類に関するAUCにおける第25百分位、第50百分位、第75百分位を表わしている。発見集合(黒色)と確認集合(灰色)についての結果の定量表示を(B)に示す。誤差棒は、AUCの標準偏差を表わしている。より多くのmiRNAがパネルに含まれたときの確認集合におけるAUC改善の有意さを検定するため、右側t検定を実施して隣接した灰色の棒をすべて比較した。*:p値<0.05、**:p値<0.01、*** p値<0.001。
図20は、心不全を検出するための多変量バイオマーカーパネルを生成させる代表的な結果を示している。(A)では、ボックスプロットは、インシリコで2分割交差確認をしているときの心不全の発見相と確認相における多変量バイオマーカーパネル(miRNAの数=3~10)の診断力(AUC)を示している。ボックスプロットは、健康人と心不全患者の分類に関するAUCにおける第25百分位、第50百分位、第75百分位を表わしている。発見集合(黒色)と確認集合(灰色)についての結果の定量表示を(B)に示す。誤差棒は、AUCの標準偏差を表わしている。より多くのmiRNAがパネルに含まれたときの確認集合におけるAUC改善の有意さを検定するため、右側t検定を実施して隣接した灰色の棒をすべて比較した。*:p値<0.05、**:p値<0.01、*** p値<0.001。
図21は、2次元プロットを用いて心不全を検出する際の多変量miRNAスコアとNT-proBNPの比較を示している。(A)は、全被験者についてのNT-proBNPレベル(y軸)とmiRNAが6個のパネルのスコアの1つ(x軸)の2次元プロットを示している。NT-proBNPの閾値(125)を点線で示してある。NT-proBNPによる偽陽性と偽陰性の被験者が混在していた。(B)は、閾値125 pg/mlを用いてNT-proBNPによって分類される偽陽性と偽陰性の被験者を探すためのNT-proBNPレベル(y軸)とmiRNAが6個のパネルのスコア(x軸)の2次元プロットを示している。閾値となるmiRNAスコア(0)を点線で示してある。対照被験者は+で示してある。HFREF被験者は黒丸で、HFPEF被験者は白三角で示してある。図21から、miRNAバイオマーカーが脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)とは異なる情報を持つという仮説が確認された。
図22は、miRNAとNT-proBNPを組み合わせて心不全を検出するための多変量バイオマーカーパネルの分析を示している。(A)は、インシリコで2分割交差確認をしているときの心不全の発見相と確認相における多変量バイオマーカーパネル(ln_NT-proBNPと2~8個のmiRNA)の診断力(AUC)の一連のボックスプロットを示している。ボックスプロットは、健康人とHF患者の分類に関するAUCにおける第25百分位、第50百分位、第75百分位を表わしている。(B)は、発見集合(黒色)と確認集合(灰色)についての結果の定量表示と、ln_NT-proBNPそのもの(第1列)を示している。誤差棒は、AUCの標準偏差を表わしている。より多くのmiRNAがパネルに含まれたときの確認集合におけるAUC改善の有意さを検定するため、右側t検定を実施して隣接した灰色の棒をすべて比較した。*:p値<0.05、**:p値<0.01、***:p値<0.001。したがって図22は、miRNAを脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)を組み合わせると分類効率が有意に改善されることを示している。
図23は、脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)が加えられた、または加えられていない多変量心不全検出パネルで選択されたmiRNAの重複に関するベン図を示している。多変量バイオマーカー探索プロセスにおいて、心不全を検出するためmiRNAだけ(表16)を用いて、またはmiRNAとNT-proBNP(表17)を用いて選択されたバイオマーカーの比較。有意なmiRNA(A)と有意でないmiRNA(B)を別々に比較した。図23は、NT-proBNPを用いるとき、異なるmiRNAリストを使用できることを示している。
図24は、NT-proBNPが加えられた場合と加えられていない場合に心不全サブタイプを層化するためのmiRNAパネルを生成させる代表的な結果を示している。(A)は、心不全サブタイプを分類するための多変量miRNAバイオマーカーパネル探索(3~10個のmiRNA)を示している。発見集合(黒色棒)と確認集合(灰色棒)に関するAUCの結果が示されている。(B)は、心不全サブタイプ分類のための多変量miRNA+NT-proBNPバイオマーカーパネル探索(ln_NT-proBNPと2~8個のmiRNA)を示している。誤差棒は、AUCの標準偏差を表わしている。右側t検定を実施して隣接した灰色の棒をすべて比較した。*:p値<0.05、**:p値<0.01、***:p値<0.001。図24は、miRNAとNT-proBNPの両方を用いると、より明確な分類を実現できる可能性があることを示している。
表の簡単な説明
本発明は、非限定的な例ならびに添付の表と組み合わせて詳細な説明を参照するときによりよく理解されよう。
表1は、心不全に関して報告されている血清/血漿miRNAバイオマーカーのまとめである。無細胞血清/血漿miRNAまたは全血を測定した研究がこの表に含まれていた。qPCRで確認されたmiRNAだけを示してある。上方調節されている:心不全患者で対照(健康な)被験者よりも高いレベルであったmiRNA。下方調節されている:心不全患者で対照(健康な)被験者よりも低いレベルであったmiRNA。「研究設計」の中の数字は、研究で使用されたサンプルの数を示している。PBMC:末梢血単球細胞、AMI:急性心筋梗塞、HF:心不全、HF:心不全、HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、BNP:脳ナトリウム利尿ペプチド、C対照(健康な被験者)。
表2は、研究に含まれる被験者の臨床情報を掲載した表である。546人の被験者の臨床情報が研究に含まれていた。全血漿サンプルを使用まで-80℃で保管した。N.A.:入手できず、C対照(健康な被験者)、PEF:左心室駆出率が維持されている心不全、REF:左心室駆出率が低下した心不全。
表3は、健康な被験者と心不全患者の特性を掲載した表である。駆出率(左心室駆出率)、ln_NT-proBNP、年齢、ボディマス指数を算術平均±標準偏差として示し、NT-proBNPを幾何平均として示してある。変数名の後に記載した%値は、その変数の値がわかっている被験者の割合を示す。HF:心不全、HFPEF:左心室駆出率が維持されている心不全、HFREF:左心室駆出率が低下した心不全、C対照(健康な被験者)。対照と心不全(C対HF)の間と、HFPEFとHFREF(HFPEF対HFREF)の間で変数を比較するため、正規変数ではt検定を利用し、分類変数ではχ自乗検定を利用した。
表4は、信頼性よく検出された137個の成熟miRNAの配列を掲載した表である。これら137個の成熟miRNAは、血漿サンプルで信頼性よく検出された。「信頼性よく検出された」の定義は、少なくとも90%の血漿サンプルが500コピー/mlよりも大きい濃度を持つことであった。miRNAは、miRBアーゼV18の放出に従って名前をつけた。
表5は、対照と全心不全被験者の間で発現が異なっていたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)と全心不全被験者(HFREFとHFPEFの両方)の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。心不全に関するln_NT-proBNPの診断性能がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln-BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:心不全被験者のmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。
表6は、対照とHFREFの間で発現が異なっていたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)とHFREF(左心室駆出率が低下した心不全)の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。ln_NT-proBNPによるHFREFの識別力がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln-BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HFREFのmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。
表7は、対照とHFPEFの間で発現が異なっていたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)とHFPEF(左心室駆出率が維持されている心不全)の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。ln_NT-proBNPによるHFPEF診断の識別力がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln_BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HFPEFのmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。
表8は、本研究と以前に公開されている報告書を比較した結果を掲載した表である。表4に掲載されていないmiRNA(発現レベルが500コピー/ml以下)は、本研究に含まれていない可能性があるか検出限界未満であり、N.A.(入手できない)として示す。上方:miRNAは、対照(健康な)被験者と比べて心不全患者で発現レベルが高い。下方:miRNAは、対照(健康な)被験者と比べて心不全患者で発現レベルが低い。偽発見率補正後にp値が0.01未満であるmiRNAを変化なしとして示した。hsa-miR-210については、さまざまな文献で変化の方向が矛盾していた(「上方と下方」と記載)。
表9は、HFREFとHFPEFの間で発現が異なっているmiRNAを掲載した表である。HFREF(左心室駆出率が低下した心不全)とHFPEF(左心室駆出率が維持されている心不全)の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢と性別とBMI(ボディマス指数)とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。HFREFとHFPEFの分類を識別するln_NT-proBNPの能力がmiRNAによって増強されることを、年齢と性別とBMI(ボディマス指数)とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧を調節したロジスティック回帰(p値、ln_BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HFPEFのmiRNA発現レベルをHFREFのmiRNA発現レベルで割った値。
表10は、予後研究に含まれる被験者の臨床情報を掲載した表である。327人の被験者の臨床情報がこの予後研究に含まれていた。SHOPコホート研究に招集した後、全被験者を2年間追跡した。追跡中に49人の患者が死亡した。
表11は、予後研究に含まれる被験者の治療法を掲載した表である。327人の被験者の薬物治療がこの予後研究には含まれていた。薬の名前Me1:ACE阻害剤、Me2:アンギオテンシン2受容体ブロッカー、Me3:ループ/チアジド利尿剤、Me4:βブロッカー、Me5:アスピリンまたはプラビックス、Me6:スタチン、Me7:ジゴキシン、Me8:ワルファリン、Me9:硝酸塩、Me10:カルシウムチャネルブロッカー、Me11:スピロノラクトン、Me12:フィブラート、Me13:抗糖尿病剤、Me14:ヒドララジン、Me15:鉄サプリメント。
表12は、実測生存率の臨床変数の分析を掲載した表である。Cox比例ハザードモデルを用いた実測生存率の分析に含まれる臨床パラメータには、薬物治療と他の変数が含まれていた。年齢、BMI、LVEF、ln_NT-proBNPのレベルは、1標準偏差を持つようにスケールを変えた。多変量分析にはすべての変数を含めた。これら変数のp値が0.05未満であるセルを灰色で示してある。ln(HR):ハザード比の自然対数(正値は、変数の値がより大きくて死の可能性がより大きいことを示していた)、SE:標準誤差。
表13は、無イベント生存率の臨床変数の分析を掲載した表である。無イベント生存率の分析のための臨床パラメータではCox比例ハザードモデルを利用し、用いる年齢、BMI、LVEF、ln_NT-proBNPのレベルは、1標準偏差を持つようにスケールを変えた。薬物治療も含めた。多変量分析にはすべての変数を含めた。これら変数のp値が0.05未満であるセルを灰色で示してある。ln(HR):ハザード比の自然対数(正値は、変数の値がより大きくて死の可能性がより大きいことを示していた)、SE:標準誤差。
表14は、実測生存率の予測が有意であるmiRNAを掲載した表である。Cox比例ハザードモデルを用い、単変量分析と、追加の臨床変数(性別、高血圧、BMI、ln_NT-proBNP、βブロッカー、ワルファリン)を含む多変量分析でそれぞれのmiRNAを分析した。ln_NT-proBNP、BMI、miRNA発現レベル(log2スケール)を含むすべての正規分布変数を、1標準偏差を持つようにスケールを変えた。p値が0.05未満を灰色のセルとして示してある。ln(HR):ハザード比の自然対数(正値は、変数の値がより大きくて死の可能性がより大きいことを示していた)、SE:標準誤差。
表15は、無イベント生存率の予測が有意であるmiRNAを掲載した表である。Cox比例ハザードモデルを用い、単変量分析と、追加の臨床変数(糖尿病とln_NT-proBNP)を含む多変量分析でそれぞれのmiRNAを分析した。ln_NT-proBNPとmiRNA発現レベル(log2スケール)を含むすべての正規分布変数を、1標準偏差を持つようにスケールを変えた。p値が0.05未満を灰色のセルとして示してある。ln(HR):ハザード比の自然対数(正値は、変数の値がより大きくて死の可能性がより大きいことを示していた)、SE:標準誤差。
表16は、心不全を検出するための多変量パネル探索プロセスにおいて同定されたmiRNAを掲載した表である。心不全の検出を目的として6個、7個、8個、9個、10個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されているmiRNAだけを掲載した。心不全のさまざまなサブタイプにおけるmiRNAの変化を表5~表7に基づいて求めた。
表17は、心不全(HF)を検出するための多変量パネル探索プロセスにおいてNT-proBNPと組み合わせたときに同定されたmiRNAを掲載した表である。心不全の検出を目的としてNT-proBNPと3個、4個、5個、6個、7個、8個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されているmiRNAだけを掲載した。心不全のさまざまなサブタイプを識別する際にmiRNAがln_NT-proBNP に加わったことの有意さは、選択されたmiRNAとln_NT-proBNPを予測変数として利用してロジスティック回帰に基づいて求めた。そのとき、FDR補正後の有意なmiRNAのp値は<0.01であった。
表18は、HFサブタイプを分類するための多変量パネル探索プロセスにおいて同定されたmiRNAを掲載した表である。心不全(HF)サブタイプの分類を目的として6個、7個、8個、9個、10個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されているmiRNAだけを掲載した。HFREFサブタイプとHFPEFサブタイプの間のmiRNAの変化は表9に基づいて求めた。
表19は、HFサブタイプを分類するための多変量パネル探索プロセスにおいてNT-proBNPと組み合わせたときに同定されたmiRNAを掲載した表である。HFサブタイプの分類を目的としてNT-proBNPと5個、6個、7個、8個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されているmiRNAだけを掲載した。miRNAがln_NT-proBNPに加えわったことの有意さは、選択されたmiRNAとln_NT-proBNPを予測変数として利用してロジスティック回帰に基づいて求めた。そのとき、FDR補正後の有意なmiRNAのp値は<0.01であった。
表20は、心不全(HF)検出のために同定されたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)と全心不全被験者(HFREFとHFPEFの両方)の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。心不全に関するln_NT-proBNPの診断性能がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln_BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HF被験者のmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。表20は表5に対応するが、表20に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)点が異なっている。
表21は、HFREF検出のために同定されたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)とHFREF(左心室駆出率が低下した心不全)被験者の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。ln_NT-proBNPによるHFREFの識別力がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln-BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HFREF被験者のmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。表21は表6に対応するが、表21に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)点が異なっている。
表22は、HFPEF検出のために同定されたmiRNAを掲載した表である。対照(健康)とHFPEF(左心室駆出率が維持されている心不全)被験者の比較を、単変量分析(p値、t検定)と、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節した多変量分析(p値、ロジスティック回帰)によって実施した。ln_NT-proBNPによるHFPEFの識別力がmiRNAにより増強されることを、年齢とAF(心房細動または心房粗動)と高血圧と糖尿病を調節したロジスティック回帰(p値、ln-BNP)によって検定した。偽発見率補正のため、ボンフェローニ法を利用してすべてのp値を調節した。「p値、t検定」検定と「p値、ロジスティック回帰」検定の両方でp値が0.01未満であったmiRNAだけを示した。倍数変化:HFPEF被験者のmiRNA発現レベルを対照被験者のmiRNA発現レベルで割った値。表21は表6に対応するが、表21に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)点が異なっている。
表23は、多変量パネル探索プロセスにおいて心不全を検出するために頻繁に選択されるmiRNAを掲載した表である。心不全の検出を目的としてNT-proBNPと6個、7個、8個、9個、10個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されるmiRNAだけを掲載した。心不全HFのさまざまなサブタイプにおけるmiRNAの変化は表20~表22に基づいて求めた。表23は表16に対応するが、表23に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)点が異なっている。
表24は、多変量パネル探索プロセスにおいて心不全を検出するためにNT-proBNPと組み合わせて頻繁に選択されるmiRNAを掲載した表である。HFの検出を目的としてNT-proBNPと3個、4個、5個、6個、7個、8個のmiRNAを含むバイオマーカーパネルを作るために選択されたmiRNAが掲載されている。存在率は、全パネル中のそのmiRNAのカウント数をパネルの合計数で割った値として定義した。交差確認分析においてランダム化プロセスによって生じる部分集団からの不正確なデータのフィッティングが原因で間違って発見されるバイオマーカーがカウントされることを回避するため、上位10%と下位10%のAUCを含むパネルを除外した。パネルの2%超で使用されるmiRNAだけを掲載した。HFのさまざまなサブタイプを識別する際にmiRNAがln_NT-proBNP に加わったことの有意さは、選択されたmiRNAとln_NT-proBNPを予測変数として利用してロジスティック回帰に基づいて求めた。そのとき、FDR補正後の有意なmiRNAのp値は<0.01であった。表24は表17に対応するが、表24に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)点が異なっている。
表25は、特に心不全の検出に使用できる可能性のあるマイクロRNAを掲載した表である。発明者が知る限り、これらのmiRNAは心不全にだけ関係している。表25に掲載されているmiRNAは、従来から知られているmiRNAの一部ではない(すなわち表1と表8に掲載されているものではない)。
表26は、心不全を検出するためのバイオマーカーパネルの例を掲載した表である。この表には、与えられたバイオマーカーに基づくパネルの式、カットオフ値、性能の例が与えられている。
表27は、心不全サブタイプを検出するためのバイオマーカーパネルの例を掲載した表である。この表には、与えられたバイオマーカーに基づくパネルの式、カットオフ値、性能の例が与えられている。
時宜を得た診断、心不全サブタイプの正確な分類(例えば左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)、左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)などだが、これらに限定されない)、改善されたリスク層化は、心不全の管理と治療にとって重要である。魅力的な1つの方法は、循環するバイオマーカーを利用することである[14]。心不全で確立されている循環するバイオマーカーは、心臓ナトリウム利尿ペプチドであるB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)とその自己分泌型の同類、N末端プロホルモン脳ナトリウム利尿ペプチド(NT-proBNP)である。その両方が、急性心不全において診断に役立つことが証明されており、独立に、心不全の全段階において予後と関係しているため、心不全の診断と管理のための国際的な主要なガイドラインのどれにも含まれている[14、15]。しかし年齢、腎機能、肥満、心房細動などの障害が、診断性能を損なう[16、17]。無症候性左心室不全、初期症候性心不全、治療した心不全では、B型ペプチドの識別力が顕著に低下し、安定なすべてのHFREFのケースの半分でBNPが100 pg/ml未満であり、20%が、急性症候性状態の心不全を除外するのに用いられる値よりも低いNT-proBNPとなる[18]。検査性能のこの低下は、HFPEFのケースでより顕著になる[19]。B型ペプチドは、心室経壁拡張期圧と筋細胞伸長を反映する(筋細胞伸長は、心室腔体積が正常であるか減少していて心室壁が厚くなったHFPEFでは、(室の直径のほか、心室内圧力と壁の厚さに依存していて)典型的には膨張した心室と偏奇性リモデリングを有するHFREFと比べて増加がはるかに少ない)[20]。したがって、初期段階または部分的に治療された段階の心不全をスクリーニングするとき、また心不全の慢性相での状態をモニタするとき、B型ペプチドを補足するかB型ペプチドと置き換わるバイオマーカーが必要とされているのにそれが満たされていない。これは特に、BペプチドのレベルがHFREFよりも低くてしばしば正常であるHFPEFに当てはまる[21]。現在のところ、心不全サブタイプの分類は、イメージングと、心臓病専門医によるイメージングの解釈に依存する。バイオマーカーに基づく検査でこの目的のために入手できるものは存在していない。したがって、心不全の診断とHFサブタイプへの分類を改善するための、できるだけ侵襲が少ない方法が望ましい。
マイクロRNA(miRNA)は、さまざまな疾患の病因に関係する遺伝子発現の異常を調節する際に中心的な役割を果たす小さな非コードRNAである[22~26]。miRNA は、1993年に発見されて以来[27]、全ヒト遺伝子の60%超を調節すると推定されており[28]、多くのmiRNAが、増幅[29]やアポトーシス[30]といった重要な細胞機能において鍵となるプレイヤーとして同定されている。ヒトの血清と血漿におけるmiRNAの発見により、循環するmiRNAを、多くの疾患の診断、予後予測、治療法決定のためのバイオマーカーとして用いる可能性が生まれた[31~35]。miRNA を用いるかmiRNA とBNP/NT-proBNPの組み合わせを用いてHFを診断する統合された多元的方法が、診断を改善できる可能性がある。ゲノムマーカー(例えばmiRNA)とタンパク質マーカー(例えばBNP/NT-proBNP)の組み合わせは、BNP/NT-proBNPだけを用いる場合と比べてHFにおける診断力を強化できる可能性がある。最近、HF患者を健康な被験者と識別するため、血清または血漿の中の循環する無細胞miRNAバイオマーカーを同定するためのさまざまな試みがなされている[36~47](表1)。
これらの研究では、心不全被験者で調節状態が異なる一群のmiRNAが報告された。しかし公開された仕事の間には整合性が欠けている。報告された67個のmiRNAのうち、3個だけが、2つ以上の報告で上方調節されることが見いだされた。特にhsa-miR-210は、1つの報告ではHFで上方調節され、別の報告では下方調節されたと報告されている(表1)。研究間の一致の欠如は、多数の理由が原因となっている可能性があり、理由には、サイズの小さなサンプルの使用、サンプル選択の多様性(例えば疾患の段階)、使用した対照などが含まれるが、重要なのは使用した対照である[32、48]。実験設計や作業フローを含む分析前プロセスが、バイオマーカーの同定と確認には極めて重要である。これまでになされたたいていの研究では、限られた数のサンプルをスクリーニングするのに高スループットアレイプラットフォームが使用されてきた。このアプローチだと感度と再現性が不足する。少数の標的集団(10個未満のmiRNA)が生み出されて同定され、さらに確認される。たいていの研究は、より大きな患者群での確証を待っている状態である。広く採用されてきた別のアプローチは、報告された候補miRNAを、定量リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(qPCR)を用いてスクリーニングすることに基づいている。アレイに基づく技術とqPCRプラットフォームに基づく技術という異なる技術の評価から、miRNA測定のためのこれらプラットフォームの性能には実質的な差が存在することがわかった。それが、研究間で観察された不一致に繋がっている可能性がある[49]。これまで、心不全バイオマーカーとして使用できる可能性のある特異的な循環する血清/血漿miRNAについてのコンセンサスはない。以前に報告されているどのmiRNAのプロファイルも、心不全サブタイプへの分類には役立たなかった。そのため、心不全バイオマーカーを発見して確認するための技術プラットフォームをあらかじめ指定してロバストなものを構築することと、結果の再現性を保証することが必要とされている。
本開示では、循環するmiRNAのパネルが潜在的な心不全バイオマーカーとして同定された。これらの多変量指標アッセイは、食品医薬品局(FDA)のガイドラインによって規定されており、それを以下に引用する:「解釈関数を用いて多数の変数の値を組み合わせ、単一の患者特異的な結果(例えば「分類」、「スコア」、「指数」など)を生み出す。その結果は、疾患やそれ以外の症状の診断、または疾患の治癒、緩和、治療、予防に使用されることが想定されているが、導出が不透明な結果を提供するため、最終ユーザーが独立に導出したり確認したりすることはできない」。したがって、MIQE(定量リアルタイムPCR実験を公開するための最低限の情報)に従う非常に信頼性のあるqPCRに基づく定量的なデータが前提条件であり、これらの多数の変数の相互関係を同時に判断するには現在存在する数学的ツールと生物統計学的ツールの利用が極めて重要である。
多彩なmiRNA測定法が存在していて、その中には、ハイブリダイゼーションに基づく方法(マイクロアレイ、ノーザンブロット、生物発光)、シークエンシングに基づく方法、qPCRに基づく方法が含まれる[50]。miRNAはサイズが小さい(約22ヌクレオチド)ため、精密で再現性があって正確な定量的結果を最大のダイナミックレンジで提供する最もロバストな技術は、qPCRに基づくプラットフォームである[51]。現在のところ、それが、他の技術からの結果(例えばシークエンシングやマイクロアレイのデータ)を確認するのに一般に使用されている黄金基準である。この方法の1つのバリエーションは、ディジタルPCRである[52]。これは、同様の原理に基づく新たに出現した技術だが、広く認められて使用されるには至っていない。
本研究では、338人の慢性心不全患者(180人がHFREF、158人がHFPEF)と208人の非心不全被験者(対照群)の血漿中の203個のmiRNAのプロファイルをqPCRによって明らかにした。これは、心不全でスクリーニングするmiRNAのコホートとしては、これまで文献に報告されているどれよりも大きなものである。本研究で用いることを提案しているさまざまなアプローチのために同定されたmiRNAの個数のまとめを図1に示す。
本開示の発明者は、多層化された技術制御とサンプル制御を伴うよく設計された作業フローを確立した。こうすることで、アッセイの信頼性が確保され、汚染物と技術的ノイズのクロスオーバーの可能性が最少になる。心不全診断用バイオマーカーを発見するため、発明者は203個のmiRNAをスクリーニングし、すべての血漿サンプルで発現している137個のmiRNAを検出した。それらのうちで75個のmiRNAが、心不全(HFREFおよび/またはHFPEF)と対照の間で有意に変化していることが同定された。52個のmiRNAが、HFREFを対照から識別することができ、68個が、HFPEFと対照の間で有意差をもって発現していることが見いだされた。したがって発明者は、HFREFをHFPEFから識別することのできる一群のmiRNAを見いだした。発明者は、対照と比べて心不全で調節異常である一群のmiRNAも見いだした。
そこで1つの側面では、被験者が心不全を患っているか、心不全進行のリスクを有するかを判断する方法が提供される。いくつかの例では、この方法は、a)その被験者から取得したサンプル中で、表25または表20または表21または表22に掲載されている「上昇した」(対照よりも上の)miRNAのリストからの少なくとも1個のmiRNAのレベル、または「低下した」(対照よりも下の)miRNAのリストからの少なくとも1個のmiRNAのレベルを測定する工程を含んでいる。いくつかの例では、この方法はさらに、b)そのレベルが対照と比較して異なっているかどうかを判断する工程を含んでいて、そのmiRNAのレベル変化が、その被験者が心不全である、または心不全が進行するリスクを有することを示している。
本開示全体を通じ、「miRNA」という用語は、マイクロRNA、すなわち小さな非コードRNA分子を意味し、miRNAは、植物、動物、いくつかのウイルスで見いだされる。miRNAは、RNAサイレンシングと遺伝子発現の転写後調節の機能を持つことが知られている。これらの高度に保存されたRNAは、特定のmRNAの3'-非翻訳領域(3'-UTR)に結合することによって遺伝子の発現を調節する。例えば各miRNAは、多数の遺伝子を調節すると考えられている。それは、数百個のmiRNA遺伝子が高等な真核生物に存在することが予測されているからである。miRNAは、互いに共有結合した少なくとも10個のヌクレオチドかつ35個以下のヌクレオチドである。いくつかの例では、miRNAとして、長さが10~33個または15~30個のヌクレオチド、または長さが17~27個または18~26個のヌクレオチドが可能である。いくつかの例では、miRNAとして、長さが10個、または11個、または12個、または13個、または14個、または15個、または16個、または17個、または18個、または19個、または20個、または21個、または22個、または23個、または24個、または25個、または26個、または27個、または28個、または29個、または30個、または31個、または32個、または33個、または34個、または35個のヌクレオチドが可能であり、そこにはオプションの標識および/または伸長した配列(例えばビオチンストレッチ)は含まれない。miRNAは遺伝子発現を調節しており、遺伝子によってコードされていて、その遺伝子のDNAからmiRNAが転写されるが、miRNAが翻訳されてタンパク質になることはない(すなわちmiRNAは非コードRNAである)。本開示全体を通じ、測定されたmiRNAは、本開示に提示したいずれかの表に掲載したmiRNAと、少なくとも90%、または95%、または97.5%、または98%、または99%配列が一致している可能性がある。したがっていくつかの例では、測定されたmiRNAは、表9、表14、表15、表16、表17、表18、表19、表20、表21、表22、表23、表24、表25のいずれかに掲載したmiRNAと、少なくとも90%、または95%、または97.5%、または98%、または99%配列が一致している。本明細書では、「配列一致」という用語は、2つ以上のポリペプチド配列または2つ以上のポリヌクレオチド配列、すなわち参照配列と、その参照配列と比較するために与えた配列の間の関係を意味する。配列一致は、配列を最適にアラインメントすることでそのような配列の鎖間の一致によって決まる配列類似性を最大の程度にした後、所与の配列を参照配列と比較することによって求まる。そのようなアラインメントをするとき、配列いっ地は、位置ごとに確認される。例えば配列が特定の位置で「一致している」のは、その位置でヌクレオチドまたはアミノ酸残基が一致している場合である。次に、そのような位置一致の合計数を参照配列中のヌクレオチドまたは残基の合計数で割ると、%配列一致が得られる。配列一致は、当業者に知られている方法で容易に計算することができる。
本開示全体を通じ、「心不全」または「HF」という用語は、心臓のポンプ機能が不十分(心室機能不全)になって身体の生命系と組織の需要に応えられない複雑な臨床症候群を意味する。心不全の重篤度は、被験者に物理的活動の制約がない非重篤(穏やか)から、深刻度が増大して不快感なく物理的活動を行なうことができなくなるまでの範囲にわたる可能性がある。心不全は、進行性かつ慢性の疾患であり、時間の経過とともに悪化する。極端なケースでは、心不全で心臓移植が必要になる可能性がある。いくつかの例では、被験者は、将来心不全になる可能性がある場合には心不全進行のリスクを有すると判断され、例えば悪化して再発性急性代償不全心不全になったり、すでに慢性心不全がある被験者では死に至ったりする可能性がある。
本開示全体を通じ、「被験者」または「患者」という用語は置き換えて用いられ、心不全に冒されていることが疑われる個人または哺乳動物を意味する。患者は、心不全に冒されている、すなわち疾患にかかっていると予測(または判断、または診断)されたり、心不全に冒されていない、すなわち健康であると予測されたりする可能性がある。被験者は、特殊な形態の心不全に冒されていると判断される可能性もある。いくつかの例では、心不全患者として、心不全の一次診断がある被験者、および/または3~5日間治療を受けたとき、症状が改善して臨床での心不全の物理的兆候が解消して退院が適当であると見なされた被験者が可能である。例えば被験者はさらに、心不全または特殊な形態の心不全が進行すると判断される可能性がある。健康であると判断された被験者、すなわち心不全または特殊な形態の心不全を患っていない被験者は、調べられていない/既知の別の疾患を患っている可能性があることに注意すべきである。本明細書では、本開示の被験者として、任意の哺乳動物(ヒトとそれ以外の哺乳動物が含まれる)、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、サルが可能である。いくつかの例では、被験者としてヒトが可能である。したがって被験者からのmiRNAとして、ヒトmiRNAまたはそれ以外の哺乳動物からのmiRNA、例えばマウス、サル、ラットなどの動物のmiRNA、または1つの集合に含まれるmiRNAとして、ヒトmiRNAまたはそれ以外の哺乳動物からのmiRNA、例えばマウス、サル、ラットなどの動物のmiRNAが可能である。実験の部の表2に示してあるように、本開示の被験者として、アジア血統またはアジア民族が可能である。いくつかの例では、被験者にアジア民族、例えば中国人、インド人、マレー人などが含まれるが、それに限定されない。
それに対して「対照」または「対照被験者」という用語は、本発明の文脈で用いるときには、心不全に冒されている、すなわち疾患にかかっていることがわかっている被験者(陽性対照、例えば予後がよい、予後が悪い)(から得られるサンプル)、および/または心不全サブタイプHFPEFの被験者、および/または心不全サブタイプHFREFの被験者、および/または心不全に冒されていない、すなわち健康であることがわかっている被験者(陰性対照)を意味することができる。この用語は、別の疾患/症状に冒されていることがわかっている被験者(から得られるサンプル)も意味することができる。健康である、すなわち心不全を患っていないことがわかっている対照被験者は、調べられていない/既知の別の疾患を患っている可能性があることに注意すべきである。したがっていくつかの例では、対照として心不全ではない被験者(正常な被験者と呼ばれることがある)が可能である。対照被験者として、任意の哺乳動物(ヒトとそれ以外の哺乳動物が含まれる)、例えばイヌ、ネコ、ウサギ、マウス、ラット、サルが可能である。いくつかの例では、対照はヒトである。いくつかの例では、対照として、個人の被験者または被験者のコホート(から得られたサンプル)が可能である。
当業者であれば、本明細書に記載した方法は、被験者の症状を診断する医師の役割の代わりとして使用されるべきでないことが理解できよう。ある被験者が心不全であると臨床で診断するには、入手できる可能性のある他の症状および/または他の情報を医師が分析する必要があることがわかるであろう。本明細書に記載した方法は、医師が患者/被験者の最終診断をなすための支持情報または追加情報を提供することを想定している。
本開示全体を通じ、「サンプル」という用語は、体液または細胞外流体を意味する。いくつかの例では、体液に、羊膜液、乳汁、気管支洗浄液、脳脊髄液、初乳、細胞間液、腹膜液、肋膜液、唾液、精液、尿、涙、全血(血漿、赤血球、白血球、血清などが含まれる)の細胞成分と非細胞成分が含まれるが、これらに限定されない。いくつかの例では、体液として、血液、血清血漿、血漿が可能である。
いくつかの例では、対照と比較したとき、表20または表25に「上昇した」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者が心不全である、または心不全進行のリスクを有することを示す。
いくつかの例では、対照と比較したとき、表20または表25に「低下した」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、被験者が心不全である、または心不全進行のリスクを有することを示す。
本明細書で用いる「miRNAレベル」または「miRNAのレベル」という用語は、本開示の文脈で用いるときには、miRNA発現レベル(またはmiRNA発現プロファイル)の測定、またはサンプル中のmiRNA発現レベルと相関する指標を表わす。miRNA発現レベルは、miRNA発現レベルの分析と、(例えば潜在的に疾患にかかっている)被験者のサンプルと対照被験者(例えば参照サンプル)の比較を可能にする本分野で知られている適切な手段によって発生させることができる。その手段は、例えば核酸ハイブリダイゼーション(例えばマイクロアレイ)、核酸増幅(PCR、RT-PCR、qRT-PCR、高スループットRT-PCR)、定量のためのELISA、次世代シークエンシング(例えばABI SOLID、Illuminaゲノム分析装置、Roche/454 GS FLX)、フローサイトメトリー(例えばLUMINEX)などだが、これらに限定されない。上記の手段によって測定されるサンプル材料として、生のサンプルまたは全RNA、処理したサンプルまたは全RNA、標識した全RNA、増幅した全RNA、cDNA、標識したcDNA、増幅したcDNA、miRNA、標識したmiRNA、増幅したmiRNAや、上記のRNA/DNA種から生じる可能性のあるあらゆる誘導体が可能である。miRNA発現レベルを求めることにより、各miRNAは数値で表わされる。個別のmiRNAの値が大きいほど、そのmiRNAの(発現)レベルは高く、個別のmiRNAの値が小さいほど、そのmiRNAの(発現)レベルは低い。個別のmiRNAで対照よりも大きな値が検出されたとき、そのmiRNA発現は「上昇した」または「上方調節された」と呼ばれる。逆に、個別のmiRNAで対照よりも小さな値が検出されたとき、そのmiRNA発現は「低下した」または「下方調節された」と呼ばれる。
「miRNA(発現)レベル」は、本明細書では、単一のmiRNAの発現レベル/発現プロファイル/発現データ、または少なくとも2個、または少なくとも3個、または少なくとも4個、または少なくとも5個、または少なくとも6個、または少なくとも7個、または少なくとも8個、または少なくとも9個、または少なくとも10個、または少なくとも11個、または少なくとも12個、または少なくとも13個、または少なくとも14個、または少なくとも15個、または少なくとも16個、または少なくとも17個、または少なくとも18個、または少なくとも19個、または少なくとも20個、または少なくとも21個、または少なくとも22個、または少なくとも23個、または少なくとも24個、または少なくとも25個、または少なくとも26個、または少なくとも27個、または少なくとも28個、または少なくとも29個、または少なくとも30個、または少なくとも31個、または少なくとも32個、または少なくとも33個、または少なくとも34個、または少なくとも35個、またはそれ以上のmiRNA、またはわかっているすべてのmiRNAの発現レベルの集合を表わす。
いくつかの例では、被験者が心不全を患っているかどうか、または心不全になるリスクを有するかどうかを判断する方法は、表20に掲載されている少なくとも2個の、または少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも20個の、または少なくとも10個~50個の、または少なくとも40個~66個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定することを含むことができる。いくつかの例では、被験者が心不全を患っているどうか、または心不全になるリスクを有するかどうかを判断する方法は、表25に掲載されている少なくとも2個の、または少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定することを含むことができる。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表21に対照と比較して「上昇した」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者が左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)であること、または左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)進行のリスクを有することを示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表21に対照と比較して「低下した」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、被験者が左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)であること、または左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)進行のリスクを有することを示している可能性がある。いくつかの例では、被験者がHFREFを患っていること、またはHFREFになるリスクを有することを判断する方法は、表21に掲載されている少なくとも2個の、または少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~20個の、または少なくとも10個~43個の、または少なくとも15個~43個の、または少なくとも30個~43個の、または少なくとも40個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定することを含むことができる。
本明細書では、「左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)」または「左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)」という用語は、本分野で一般に用いられているのと同じ用語を意味する。例えば用語HFREFは、収縮性心不全も意味することができる。HFREFでは心筋が効果的に収縮せず、酸素が豊富な血液が身体へと拍出される量がより少ない。逆に、「左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)」という用語は、拡張性心不全を意味する。HFPEFでは心筋は正常に収縮するが、心室充填の間に弛緩すべきとき、すなわち心室が弛緩するときに弛緩しない。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表22に対照と比較して「上昇した」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者が左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)であること、または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)進行のリスクを有することを示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表22に対照と比較して「低下した」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、被験者が左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)であること、または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)進行のリスクを有することを示している可能性がある。いくつかの例では、被験者がHFPEFを患っていること、またはHFPEFになるリスクを有することを判断する方法は、表22に掲載されている少なくとも2個の、または少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~20個の、または少なくとも10個~50個の、または少なくとも20個~55個の、または少なくとも30個~60個の、または少なくとも35個~60個の、または少なくとも40個~60個の、または少なくとも40個~62個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定することを含むことができる。
別の1つの側面では、被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)と左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)からなるグループから選択した心不全を患っているかどうかを判断する方法が提供され、この方法は、a)その被験者から取得したサンプル中で、表9に掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルを検出(または測定)する工程と、b)そのレベルが対照と比較して異なっているかどうかを判断する工程を含んでいて、そのmiRNAのレベル変化が、その被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)であるか、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)が進行するリスクを有する可能性があることを示している。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表9に対照と比較して「上昇した」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者が左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)であることを示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、表9に対照と比較して「低下した」として掲載されているmiRNAのレベル低下は、被験者に、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)が進行するリスクがあることを示している可能性がある。
被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)と左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)からなるグループから選択した心不全を患っているかどうかを判断する方法のいくつかの例では、この方法は、表22に掲載されている少なくとも2個の、または少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~20個の、または少なくとも10個~39個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定することを含むことができる。
被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)と左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)からなるグループから選択した心不全を患っているかどうかを判断する方法のいくつかの例では、対照として、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)である被験者が可能である。いくつかの例では、対照として、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)の患者が可能であり、表9に掲載されているmiRNAの発現が異なることは、その被験者が左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)であることを示している。いくつかの例では、対照が左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)の患者であるとき、表9に掲載されているmiRNAの発現が異なることは、その被験者が左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)であることを示している。
それに加え、本開示の発明者は、予後マーカーとしてのこれらmiRNAの利用も調べた。すなわち、本開示の方法を利用して、死または入院というイベントが将来起こりうるリスクや、疾患の診断によって明らかにされた進行の見通しを予測することができる。心不全を持つ患者の予後は、実測生存(死のない生存)または無イベント生存(入院または死のない生存)の可能性を予測することを意味する。本明細書では、「実測生存率」または「全原因生存率」または「全原因死亡率」または「死の全原因」という用語は、死のあらゆる原因を考慮したときの被験者での実測生存率を意味する。この用語は、心不全の再発による入院(すなわち、心不全治療後、代償不全心不全による再発入院が回避される時間の長さ)も、死のあらゆる原因もないことを意味する「無イベント生存率(EFS)」と対照的である。
本開示の発明者は、慢性心不全患者において、実測(全原因)生存率(OS)(すなわち死の全原因による実測生存率)、または心不全による再発入院(すなわち、心不全治療後、代償不全心不全による再発入院が回避される時間の長さ)と死の全原因のどちらもない無イベント生存率(EFS)の優れた予測因子であることがわかった多数のmiRNAが存在することを見いだした。したがって本開示は、被験者の予後を予測する方法でも利用することができる。したがって本開示の別の1つの側面では、死のリスクが変化した(または実測(全原因)生存率が低下した)心不全患者のリスクを判断する方法が提供される。いくつかの例では、この方法は、a)その被験者から取得したサンプル中で、表14に掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルを測定する工程と;b)表14に掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルが、対照集団のmiRNAのレベルと比べて異なっているかどうかを判断する工程を含んでいて、miRNAのレベル変化は、その被験者が対照集団と比べて死という変化したリスクを有する可能性が大きいことを示している。
本明細書では、「ハザード比」という用語は、被験者が「死」または「入院」の瞬間まで「生存した」として、特定の瞬間における1分当たりの「死」または「入院」の可能性の率または推定値に関して本分野で一般に知られている用語を意味する。この用語は、2本の生存曲線の間の差の大きさを測定するのに用いられる。ハザード比(HR)>1は、生存時間が短いリスクがより大きいことを示し、ハザード比(HR)<1は、生存時間がより長いリスクがより大きいことを示す。本分野で知られているように、ハザード比はCox比例ハザード(CoxPH)モデルによって計算することができる。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表14で「ハザード比(HR)>1」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者で死のリスクが上昇していること(低下した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表14で「ハザード比(HR)>1」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、被験者で死のリスクが低下していること(上昇した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表14で「ハザード比(HR)<1」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、被験者で死のリスクが低下していること(上昇した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表14で「ハザード比(HR)<1」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、被験者で死のリスクが上昇していること(低下した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。
別の1つの側面では、疾患が進行して入院または死に至る変化したリスクを有する(低下した無イベント生存率の)心不全患者のリスクを判断する方法が提供される。いくつかの例では、この方法は、a)その被験者から取得したサンプル中で、表15に掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルを測定する工程と;b)表15に掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルが、対照集団のmiRNAのレベルと比べて異なっているかどうかを判断する工程を含んでいて、miRNAのレベル変化が、その被験者が、対照集団と比べ、疾患が進行して入院または死に至る変化したリスクを有する可能性が大きいことを示している。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表15で「ハザード比(HR)>1」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、疾患が進行して入院または死に至るリスクが上昇していること(低下した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表15で「ハザード比(HR)>1」として掲載されているmiRNAのレベルの低下は、疾患が進行して入院または死に至るリスクが低下していること(上昇した実測(全原因)生存率)を示している可能性がある。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表15で「ハザード比(HR)<1」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、疾患が進行して入院または死に至るリスクが低下していること(上昇した無イベント生存率)を示している可能性がある。いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照と比較して表15で「ハザード比(HR)<1」として掲載されているmiRNAのレベルの上昇は、疾患が進行して入院または死に至るリスクが上昇していること(低下した無イベント生存率)を示している可能性がある。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、対照として、心不全被験者の対照集団またはコホートが可能である。いくつかの例では、対照集団として、集団のマイクロRNA発現レベルと死または疾患進行のリスクを明らかにすることのできる心不全被験者の集団またはコホートが可能である。いくつかの例では、対照集団でのマイクロRNAの発現レベルとして、集団内の(問題の患者を含む)全被験者の発現レベルの平均値または中央値が可能である。いくつかの例では、対照集団内の患者の10%が5年以内に死亡した場合には、その対照集団で5年以内に死亡するリスクは10%である。いくつかの例では、対照集団は、死または疾患進行のリスクがマイクロRNAの発現レベルを用いて判断される心不全患者を含んでいる。
いくつかの例では、本明細書に記載した方法において、心不全患者として、心不全の一次診断がある被験者、および/または症状が改善したときに3~5日間治療を受け、臨床での心不全の物理的兆候が解消して退院が適当であると見なされた被験者が可能である。いくつかの例では、患者として、さらに悪化して再発急性代償不全心不全となり再入院を必要とするか死に至る状態にはまだなっていない安定な代償心不全患者が可能である。
さらに別の1つの側面では、被験者で心不全が進行するリスク、または被験者が心不全を患っているかどうかを判断する方法として、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表16または表23に掲載されている少なくとも3個のmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づくスコアを利用して、その被験者が心不全になる、または心不全である可能性を予測する工程を含む方法が提供される。いくつかの例では、この方法はさらに、表16または表23に「非有意群」として掲載されている少なくとも1個のmiRNAのレベルを測定することをさらに含んでいて、その少なくとも1個のmiRNAはhsa-miR-10b-5pである。
本開示全体を通じて、そして本明細書に記載したすべての方法に関して用いられる「スコア」という用語は、例えば本分野で知られている計算モデル(一例としてSMVが含まれるが、これに限定されない)を利用して数学的に求めることができて、統計的分類用として本分野で知られている多数の数式および/またはアルゴリズムのどれかを用いて計算される整数または数を意味する。そのようなスコアは、可能なさまざまな結果の中から1つの結果を取り出すために使用する。そのようなスコアの適切さと統計的有意性は、結果スペクトルの確立に用いる基礎となるデータセットのサイズと品質に依存する。例えばブラインドサンプルをあるアルゴリズムに入力すると、そのアルゴリズムは、ブラインドサンプルの分析から提供される情報に基づいてスコアを計算することができる。その結果、そのブラインドサンプルに関するスコアが生まれる。このスコアに基づき、例えば、ブラインドサンプルの取得元になった患者が心不全であるかないかの可能性がどれくらいであるかを判断することができる。スペクトルの両端は、提供されたデータに基づいて論理的に決めること、または実験者の要求に従って任意に決めることができる。どちらの場合にも、スペクトルは、ブラインドサンプルを検査する前に決める必要がある。結果として、そのようなブラインドサンプルによって生まれるスコア、例えば「45」という数は、範囲を1~50のスケールとして定め、「1」を心不全なし、「50」を心不全ありと定義する場合には、対応する患者が心不全であることを示している可能性がある。したがって「スコア」という用語は、統計的分類用として本分野で知られている多数の数式および/またはアルゴリズムのどれかを用いて計算される数学的スコアを意味する。そのような数式および/またはアルゴリズムの例として(統計的)分類アルゴリズムが可能であり、そのアルゴリズムの選択は、サポートベクターマシンアルゴリズム、ロジスティック回帰アルゴリズム、多項ロジスティック回帰アルゴリズム、フィッシャーの線形判別アルゴリズム、二次クラシファイアーアルゴリズム、パーセプトロンアルゴリズム、k-近傍アルゴリズム、人工ニューラルネットワークアルゴリズム、ランダムフォレストアルゴリズム、決定木アルゴリズム、単純ベイズアルゴリズム、適応ベイズネットワークアルゴリズム、アンサンブル学習法を組み合わせた多重学習アルゴリズムからなすことが可能だが、アルゴリズムがこれらに限定されることはない。別の一例では、分類アルゴリズムは、対照の発現レベルを用いてあらかじめ訓練される。いくつかの例では、分類アルゴリズムは、被験者の発現レベルを対照の発現レベルと比較し、その被験者が対照群のどれに属する可能性が大きいかを同定する数学的スコアを戻す。いくつかの例では、分類アルゴリズムは、被験者の発現レベルを対照の発現レベルと比較し、その被験者が対照群のどれに属する可能性が大きいかを同定する数学的スコアを戻すことができる。本開示で使用できるアルゴリズムの例を下に示す。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、表16に掲載されている少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~45個の、または少なくとも40個~50個の、またはすべてのmiRNAのレベルの変化を測定する。いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、表23に掲載されている少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~41個の、またはすべてのmiRNAを測定する。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、(被験者の血漿サンプル中の)少なくとも1個(または複数個)のmiRNAのレベルを測定する。少なくとも1個のmiRNAの測定を組み合わせ、心不全の予測またはHFREFサブタイプとHFPEFサブタイプの分類のためのスコアを発生させることができる。いくつかの例では、そのスコアを発生させる式として式1が可能である。その式は以下の通りである。
ただしlog
2コピー_miRNA
iは、個々のmiRNAのコピー数(血漿のコピー/ml)の対数であり;K
iは、複数のmiRNA標的を重みづけするための係数であり;Bは、予測スコアのスケールを調節するための定数値である。
この式1は、心不全の予測、またはHFREFサブタイプとHFPEFサブタイプの分類の予測に線形モデルを使用していることを示していた。(各被験者に1つだけの)予測スコアは、予測または診断を判断するための数である。
本開示の実験の部では、同定されたmiRNAが診断に有用であることをさらに統計的に評価した。次に、配列前向きフローティング検索(SFFS)[53]とサポートベクトルマシン(SVM)[54]により、インシリコで交差確認を繰り返し、多変量miRNAバイオマーカーパネル(HFパネル、HFREFパネル、HFPEFパネル)を構成した。本開示の発明者は、受信者動作特性(ROC)プロットにおいて、バイオマーカーパネルに含まれるいくつかのmiRNAが、HF検出に関しては0.92以上のAUC(曲線下面積)値(図20、B)、サブタイプ分類に関しては0.75以上のAUC(図24、A)を常に生じさせることを見いだした。miRNAパネルは、NT-proBNPと組み合わせて用いるとき、識別と分類の目的の両方に関し、顕著に改善された識別力とよりよい分類精度を示した(図22、Bと図24、B)。
したがって別の1つの側面では、被験者で心不全が進行するリスク、または被験者が心不全を患っているかどうかを判断する方法として、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表17に掲載されている少なくとも2個のmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づくスコアを利用して、その被験者が心不全になる、または心不全である可能性を予測する工程を含む方法が提供される。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法はさらに、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)および/または脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)のレベルを測定する工程を含むことができる。いくつかの例では、NT-proBNPとBNPの両方とも、心不全(例えば慢性心不全)の予後予測と診断のための優れたマーカーである。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、表17に掲載されている少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~45個の、または少なくとも40個~48個の、またはすべてのmiRNAの変化したレベルを測定することができる。
いくつかの例では、BNPおよび/またはNT-proBNPがmiRNAとともに用いられている本明細書に開示されている方法において、式2を代わりに用いることができる。式2では、血漿サンプル中のNT-proBNPのレベルが線形モデルに含まれる。一例では、式2は以下の通りである。
ただしlog
2コピー_miRNA
iは、個々のmiRNAのコピー数(血漿のコピー/ml)の対数であり;K
iは、複数のmiRNA標的を重みづけするための係数であり;Bは、予測スコアのスケールを調節するための定数値であり;BNPは、サンプル中のBNPおよび/またはNT-proBNPのレベルが正または負に相関している指標である。
それに加え、心不全を予測するため、(各被験者に1つだけであると考えられる)予測スコアは、被験者が心不全である可能性を示す数である。いくつかの例では、本明細書に開示されている方法の結果(すなわち可能性または診断の予測)は、式3に見いだすことができる。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも大きい場合、その被験者は心不全をであると診断または予測される。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも小さい場合、その被験者は心不全でないと診断または予測される。式3は以下の通りである。
いくつかの例では、HFREFサブタイプとHFPEFサブタイプを分類するため、(各被験者に1つだけであると考えられる)予測スコアは、被験者が、心不全患者がHFPEFサブタイプの心不全である可能性を示す数である。いくつかの例では、診断の結果は、式4に見いだすことができる。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも大きい場合、その心不全被験者はHFPEFサブタイプの心不全であると診断(または予測)される。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも小さい場合、その被験者はHFREFサブタイプの心不全であると診断(または予測)される。
別の1つの側面では、被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を判断する方法が提供される。いくつかの例では、この方法は、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表18に掲載されている少なくとも3個のmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づくスコアを利用して、その被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を予測する工程を含んでいる。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、表18に掲載されている少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~30個の、または少なくとも40個~45個の、またはすべてのmiRNAの変化したレベルを測定することができる。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法におけるスコアは、本明細書に提供されている式によって計算することができる。いくつかの例では、その式として、それらの式のうちの少なくとも1つが可能であり、式1および/または式2が挙げられるが、それに限定されない。本明細書に開示されている方法の結果は、それらの式(例えば式3、式4などだが、これらに限定されない)によって求めることができる。
さらに別の1つの側面では、被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を判断する方法として、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表19または表24に掲載されている少なくとも2個のmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づくスコアを利用して、その被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を予測する工程を含む方法が提供される。
実験の部と図面(例えば図22と図24)に示したように、本開示の方法を、NT-proBNPを求める追加工程とともに利用するとき、この方法は、驚くほど正確な予測を提供する。したがっていくつかの例では、この方法はさらに、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)および/または脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)のレベルを測定する工程を含んでいる。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法は、表19に掲載されている少なくとも3個の、または少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~少なくとも30個の、またはすべてのmiRNAの変化したレベル、または表24に掲載されている少なくとも4個の、または少なくとも5個の、または少なくとも6個の、または少なくとも7個の、または少なくとも8個の、または少なくとも9個の、または少なくとも10個の、または少なくとも11個の、または少なくとも2個~少なくとも20個の、または少なくとも10個~少なくとも41個の、またはすべてのmiRNAの変化したレベルを測定することができる。
いくつかの例では、工程(b)で測定された少なくとも1個のmiRNAのレベルは、対照と比較するとき、被験者で変化していない。そのような例では、被験者で対照と比較してレベルが変化していないmiRNAは、それぞれの表に「有意でない」として掲載されているmiRNAである。
いくつかの例では、本明細書に開示されている方法におけるスコアは、式2によって計算することができる。
当業者であればわかるように、本明細書に開示されているいずれかの方法で用いられる分類アルゴリズムは、対照の発現レベルを用いてあらかじめ訓練することができる。分類アルゴリズムが既存の臨床データを用いてあらかじめ訓練される場合、対照として、心不全のない対照(正常)と心不全患者からなるグループから選択された少なくとも1人が可能である。対照は、心不全である被験者および/または心不全でない(すなわち心不全がない)被験者のコホートを含むことができる。したがって本明細書に開示されている方法のいくつかの例では、対照は、心不全のない対照、心不全患者、HFPEFサブタイプの心不全患者、HFREFサブタイプの心不全患者などを含むことができるが、含まれるのはそれらに限定されない。
本開示では、miRNAパネルを確立する際のmiRNA発現レベルの違いの比較を議論する。それに基づき、ある被験者が心不全進行のリスクを有するか、心不全を患っているかを判断することができる。本明細書に開示されているように、本明細書に開示されている方法では、通常は異なる群からのmiRNA発現レベルの違いを比較する必要がある。一例では、比較は2つの群の間でなされる。これらの比較群は、心不全、心不全なし(正常)と定義することができるが、それらに限定されることはない。心不全群の中でさらにサブグループ(例えばHFREFとHFPEF)を見いだすことができるが、サブグループがそれらに限定されることはない。違いの比較は、本明細書に記載されているこれらの群の間で実施することもできる。したがっていくつかの例では、miRNAの発現レベルは、濃度、対数(濃度)、閾値サイクル/定量サイクル(Ct/Cq)数、2の閾値サイクル/定量サイクル(Ct/Cq)数の冪などとして表現することができるが、これらに限定されることはない。
本明細書に記載されているどの方法でも、その方法はさらに、異なる時点で被験者からサンプルを取得する工程、心不全の経過をモニタする工程、心不全の段階を判断する抗体、被験者(から取得したサンプル)でmiRNAレベルおよび/またはNT-proBNPレベルを測定する工程などを含むことができるが、含まれる工程がこれらに限定されることはない。
いくつかの例では、下記の実験の部に記載されている現在のコホートに基づき、複数のmiRNAを含むバイオマーカーパネル、または複数のmiRNAとBNP/NT-proBNPを含むバイオマーカーパネルを開発することができる。予測スコアの計算は、本分野で知られている方法、例えば線形SVMモデルによって最適化することができる。いくつかの例では、さまざまな数のmiRNA標的からなるバイオマーカーパネルをSFFSとSVMによって最適化することができる。そのときAUCは、心不全の予測(表26)、または心不全サブタイプの分類(表27)に向けて最適化された。式、カットオフ値、パネルの性能の例を表に示す。
表26で用いられている記号「*」は「×」、すなわち掛け算の記号を表わし;「-」は負値を表わし;「+」は正値を表わし;「log2(BNP)」は、2を底とするBNP発現の対数値を表わす。表26の第2列には、本明細書で用いられている方法で使用するスコアを計算するための式の例も示されている。それらの式では、マイクロRNAの測定単位はコピー/ml血漿であり、NT-proBNPについてはpg/ml血漿である。当業者には明らかなように、式の中の係数とカットオフ値は、測定に使用する検出システムの違い、および/またはマイクロRNA発現レベルとBNPレベル/タイプを表わすのに用いる単位の違いに合わせて調節する必要があろう。式の調節は、平均的な当業者の能力を超えないと考えられる。
そこで別の1つの側面では、被験者で心不全が進行するリスク、または被験者が心不全を患っているかどうかを判断する方法として、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表26に掲載されている選択されたパネルのmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づいてスコアを割り当てて、前記被験者で心不全が進行する可能性、または前記被験者が心不全である可能性を予測する工程を含む方法が提供される。一例では、スコアは、表26に掲載されている式に基づいて計算される。一例では、miRNAが2個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが2個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが3個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが3個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが4個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが4個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが5個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが5個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが6個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが6個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが7個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが7個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが8個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表26に「miRNAが8個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、この方法は、サンプル中のNT-proBNPを検出してそのレベルを測定する追加工程とともに実施することができる。
いくつかの例では、心不全を予測するため、(各被験者に1つだけであると考えられる)予測スコアは、被験者が心不全である可能性を示す数である。いくつかの例では、本明細書に記載されている結果(すなわち可能性または診断の予測)は、式3に見いだすことができる。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも大きい場合、その被験者は心不全であると診断または予測される。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも小さい場合、その被験者は心不全でないと診断または予測される。式3は以下の通りである。
表27で用いられている記号「*」は「×」、すなわち掛け算の記号を表わし;「-」は負値を表わし;「+」は正値を表わし;「log2(BNP)」は、2を底とするBNP発現の対数値を表わす。表27の第2列には、本明細書で用いられている方法で使用するスコアを計算するための式の例も示されている。これらの式では、マイクロRNAの測定単位はコピー/ml血漿であり、NT-proBNPについてはpg/ml血漿である。当業者には明らかなように、式の中の係数とカットオフは、測定に使用する検出システムの違い、および/またはマイクロRNA発現レベルとBNPレベル/タイプを表わすのに用いる単位の違いに合わせて調節する必要があろう。式の調節は、平均的な当業者の能力を超えないと考えられる。
さらに別の1つの側面では、被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を判断する方法として、(a)その被験者から取得したサンプル中で、表27に掲載されている少なくとも2個のmiRNAのレベルを測定する工程と;(b)工程(a)で測定したmiRNAのレベルに基づいてスコアを割り当て、被験者が、左心室駆出率が低下した心不全(HFREF)または左心室駆出率が維持されている心不全(HFPEF)を患っている可能性を予測する工程を含む方法が提供される。一例では、スコアは、表27に掲載されている式に基づいて計算される。一例では、miRNAが2個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表27に「miRNAが2個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが3個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表27に「miRNAが3個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが4個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表27に「miRNAが4個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが5個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表27に「miRNAが5個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、miRNAが6個のバイオマーカーパネルが必要とされるとき、この方法は、表27に「miRNAが6個のパネル」として掲載されているmiRNAを検出してそのレベルを測定することができる。いくつかの例では、この方法は、サンプル中のNT-proBNPを検出してそのレベルを測定する追加工程とともに実施することができる。
いくつかの例では、HFREFサブタイプとHFPEFサブタイプを分類するため、(各被験者に1つだけであると考えられる)予測スコアは、被験者が、心不全患者がHFPEFサブタイプの心不全である可能性を示す数が可能である。いくつかの例では、診断の結果は、式4に見いだすことができる。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも大きい場合、その心不全被験者はHFPEFサブタイプの心不全であると診断(または予測)される。値があらかじめ設定したカットオフ値よりも小さい場合、その被験者はHFREFサブタイプであると診断(または予測)される。
一例では、本明細書に記載されている方法は、本開示に記載されている工程のすべて(または一部)を実行することのできる(または、実行するようにされた)装置として実現することができる。そこで一例では、本開示により、本明細書に記載されている方法を実施するのに適した(または実施することができる)装置が提供される。
別の1つの側面では、本明細書に記載されているいずれかの方法で使用される(または使用されるようにした、または使用するときの)キットが提供される。一例では、キットは、表9に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表14に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表15に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表16に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表17に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表18に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表19に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表20に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表21に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表22に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表23に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表24に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表25に掲載されている少なくとも1個の遺伝子の発現を調べる試薬を含むことができる。
いくつかの例では、試薬は、表9に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表14に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表15に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表16に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表17に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表18に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表19に掲載されている少なくとも2個の遺伝子、または表20に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表21に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表22に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表23に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表24に掲載されている少なくとも1個の遺伝子、または表25に掲載されている少なくとも1個の遺伝子の発現を確認するのに適した、または確認することのできるプローブ、またはプライマー、またはプライマーセットを含むことができる。
いくつかの例では、キットはさらに、脳ナトリウム利尿ペプチド(BNP)および/または脳ナトリウム利尿ペプチドのN末端プロホルモン(NT-proBNP)のレベルを求めるための試薬を含むことができる。
いくつかの例では、本明細書に記載されている方法はさらに、心不全または心不全サブタイプであることが予測(または診断)された被験者を、心不全(または心不全サブタイプ)を治療するための少なくとも1種類の治療薬で治療する工程を含むことができる。いくつかの例では、この方法はさらに、心不全の症状をを緩和および/または低減することが知られている治療法を含むことができる。いくつかの例では、本明細書に記載されている方法はさらに、心不全の予後を改善することが証明されているさまざまなクラスの薬を含む薬剤(それに限定されない)の投与を含むことができる。薬剤の非限定的な例は、ACI/ARB、アンギオテンシン受容体ブロッカー、ループ/チアジド利尿剤、βブロッカー、無機コルチコイド拮抗剤、アスピリンまたはプラビックス、スタチン、ジゴキシン、ワルファリン、硝酸塩、カルシウムチャネルブロッカー、スピロノラクトン、フィブラート、抗糖尿病剤、ヒドララジン、鉄サプリメント、抗凝固剤、抗血小板などである。
本明細書に実例を示して記載している本発明は、本明細書に具体的には開示されてはいない何らかの要素や制限がなくてもうまく実施することができる。したがって例えば「備える」、「含む」、「含有する」などの用語は、拡張して制限なしで読まれるものとする。それに加え、本明細書で使用されている用語と表現は、説明のために使用されているのであり、制限するために使用されているのではないため、そのような用語と表現を使用するとき、提示して説明した特徴またはその一部と同等なあらゆることを排除する意図はない。しかし請求項に記載されている本発明の範囲内でさまざまな変更が可能であることがわかる。したがって、本発明を好ましい実施態様とオプションの特徴によって具体的に開示してきたが、当業者は、本明細書に開示されている好ましい実施態様の中で具体化されている発明の変更やバリエーションを利用することができ、そのような変更やバリエーションは、本発明の範囲に入ると見なされる。
本発明を本明細書の中で広くかつ一般的に記述してきた。一般的な開示に含まれるより狭い種と亜属グループ化のそれぞれも本発明の一部を構成する。そこには、本発明の一般的な記述が含まれるが、属から何らかの材料が除外されるという負の制限がある場合は、本明細書で除外されたその材料に具体的に言及されているかどうかに関係なく、例外となる。
他の実施態様は、下記の請求項と非限定的な例の範囲に含まれる。それに加え、本発明の特徴または側面をマーカッシュ群で記載する場合、マーカッシュ群の個々のメンバーまたはメンバーの一部によっても本発明が記述されることが当業者には理解されよう。
方法
予備分析(サンプル回収とmiRNA抽出);血漿サンプルを使用するまで-80℃で凍結させて保管した。200μlの各血漿サンプルから、よく確立されたTRI試薬(Sigma-Aldrich社の登録商標)を製造者のプロトコルに従って用い、全RNAを単離した。血漿は、微量のRNAを含んでいる。RNAの損失を減らすとともに抽出効率をモニタするため、合理的に設計された単離増強剤(MS2)とスパイク-イン対照RNA(MiRXES(登録商標))を試料に添加した後に単離した。
RT-qPCR:単離された全RNAと合成RNA標準を、スパイク-イン対照RNAの第2のセットとの最適化された多重逆転写反応においてcDNAに変換し、阻害剤の存在を検出するとともにRT-qPCRの効率をモニタした。Improm II(Promega社の登録商標)逆転写酵素を製造者の指示に従って用いて逆転写を実施した。次に、合成されたcDNAに対して多重増幅工程を実施し、Sybr GreenをベースとしたシングルプレックスqPCRアッセイ(MIQE準拠)(MiRXES(登録商標))を利用して定量した。Applied Biosystems社(登録商標)Vii 7 384リアルタイムPCRシステムまたはBio-rad社(登録商標)CFX384 TouchリアルタイムPCR検出システムを用いてqPCR反応を実施した。miRNA RT-qPCR測定の作業フローの全体と詳細を図4にまとめた。
データ処理:閾値(Ct)に対する生サイクルの値を処理し、合成miRNA標準曲線の内挿により、各サンプル中の標的miRNAの絶対コピー数を求めた。RNA単離とRT-qPCRプロセスを実施している間に持ち込まれる技術的変動は、スパイク-イン対照RNAによって規格化した。単一のmiRNAを分析するため、生物学的変動を、全対照サンプルと疾患サンプルで安定に発現した一群の確認された内在性参照miRNAによってさらに規格化した。
結果
I.研究参加者の特性
よく設計された臨床研究(ケース-対照研究)を実施し、慢性心不全(HF)を探すためのバイオマーカーの正確な同定を確実に行なった。本研究ではシンガポールの人口からの合計338人の慢性心不全患者(180人がHFREF、158人がHFPEF)を用い、人種、性別、年齢が一致した対照群としての208人の非心不全被験者と比較した。心不全を持つ患者は、「シンガポールの心不全の転帰と表現型」(SHOP)研究からリクルートした[55]。急性代償不全心不全(ADHF)の一次診断がある患者、または6ヶ月以内にADHFが出現したことが知られているため心不全の管理に医院を訪れた患者が含まれていた。明らかな冠動脈疾患または心不全の経験がない対照は、現在進行中の「シンガポール縦断疫学的加齢研究」(SLAS)を通じてリクルートした[56]。患者と対照はすべて、臨床で心不全の存在(または不在)を確認するため、包括的ドップラー超音波心臓診断を含む詳細な臨床検査を受けた。LVEFは、アメリカ超音波心臓診断学会が推奨しているように、ディスクのバイプレーン法を用いて評価した。心不全が確認されていて、LVEFが50%以上である患者はHFPEFに分類したのに対し、LVEFが40%以下の患者はHFREFに分類した。EFが40%~50%の患者は除外した。患者が以前に治療を(典型的には3~5日間)受けていて、症状が改善して臨床での心不全の物理的兆候が解消して退院が適当であると見なされたとき、血液血漿サンプルを含む評価を意図的に行なった。そうすることで、心不全の治療相または「慢性」相におけるマーカーの性能の評価が確実になった。臨床特性と人口学的情報を表2に示す。全血漿サンプルを使用するまで-80℃で保管した。
全サンプルで、血漿NT-proBNPを、エレクトロ-化学発光イムノアッセイ(Elecsys proBNP IIアッセイ)により、自動化されたCobas e411分析装置(Roche Diagnostics社、マンハイム、ドイツ国)を製造者の指示に従って用いて測定した。対照群、HFREF群、HFPEF群での分布の予備調査(図2、A~C)から、すべての群でNT-proBNPのレベルが正に歪んでいることがわかった(歪度/歪み>2)。適用すべき統計的方法は歪みのない分布(スチューデントのt分布またはロジスティック分布)を必要とするため、NT-proBNPに関して自然対数を計算して新しい変数ln_NT-proBNPを生み出した。この変数の歪度はゼロに近かった(図2、D~F)。NT-proBNP が関与するすべての分析でln_NT-proBNPを用いた。
被験者群の特性を表3にまとめてある。
年齢、人種、性別を含む人口学的変数以外に、HFにとって極めて重要な臨床変数であるLVEF、ln_NT-proBNP、ボディマス指数(BMI)、心房細動または心房粗動(AF)、高血圧、糖尿病を記録した。HFPEF患者は、左心室駆出率(LVEF)の平均値(60.7±5.9)が健康な対照被験者(64.0±3.7)と似ていたが、予想されるように、患者を選択して割り当てることで、HFREF患者は、明らかにより低いLVEFを持っていた(25.9±7.7)。対照とHFの間(C対HF、表3)、HFPEFとHFREFの間(HFPEF対HFREF、表3)で、スチューデントのt検定を利用して数字変数の比較を行ない、χ自乗検定を利用して分類変数の比較を行なった。一般に、HF患者のほうが対照と比べてより高齢であり、高血圧、AF、糖尿病の頻度がより多かった。HFREF患者とHFPEF患者は、性別、年齢、BMI、高血圧、AFの分布が異なっていた。HF検出とHFサブタイプ分類のためのmiRNAバイオマーカーを多変量ロジスティック回帰によって発見するにあたり、分布が異なるこれらの変数をすべて考慮した。
ln_NT-proBNPはHFREFよりもHFPEFで低く、いくつかの結果は、非急性設定におけるHF診断のためのESC促進NT-proBNPカットオフ(<125 pg/ml)よりも低かった[57]。NT-proBNP試験性能の低下はHFPEFで顕著である(図3、A)。HF診断用バイオマーカーとしてのln_NT-proBNPの性能をROC分析によって調べた。この研究では、ln_NT-proBNPは、HF全体の診断に関して0.962 AUC(ROC曲線よりも下の面積)であった。HFPEF を検出する性能(AUC=0.935)よりもHFREFを検出する性能(AUC=0.985)のほうが優れていた(図3、B~D)。ln_NT-proBNPは、HFREFサブタイプとHFPEFサブタイプの分類に関してAUCがわずか0.706であった(図3、C)。
II.miRNAの測定
血液中を循環する無細胞miRNAは、さまざまな臓器と血液細胞に由来する[58]。したがって心不全によって起こるmiRNAレベルの変化は、他の刺激が原因でおそらく他の供給源から分泌される同じmiRNAの存在によって一部があいまいになる可能性がある。したがって心不全と対照群に見られるmiRNAの発現レベルの差を求めることは、困難である可能性がある。それに加え、たいていの無細胞miRNAは、血液中には例外的に少ない[59]。したがって、限られた体積の血清/血漿から多数のmiRNA標的を正確に測定することは、極めて重要であり、しかも非常に挑戦のしがいがある。心不全を診断するため、miRNAの有意に変化した発現の発見と、多変量miRNAバイオマーカーパネルの同定をできるだけ容易にすることを目的として、本研究の発明者は、低感度の、または半定量的なスクリーニング法(マイクロアレイ、シークエンシング)を利用する代わりに、極めてよく設計された作業フローのqPCRに基づくアッセイを実施することを選択する(図4)。
(MiRXES(登録商標)(シンガポール国)によって設計した)すべてのqPCRアッセイを、miRNA標的に関してはシングルプレックスで少なくとも2回、合成RNA「スパイク-イン」対照に関しては少なくとも4回繰り返して実施した。高スループットqPCR研究における結果の正確さを保証するため、本研究では、多数回繰り返した後、循環するバイオマーカーを発見するためのロバストな作業フローを設計して確立した(「方法」と図4を参照のこと)。この新規な作業フローでは、さまざまな設計の「スパイク-イン」対照を用いてモニタし、単離、逆転写、増幅、qPCRのプロセスにおける技術的変動を補正した。どのスパイク-イン対照も、既知のヒトmiRNAと配列の類似性が例外的に低くなるようにインシリコで設計したため、アッセイで使用するプライマーへの交差ハイブリダイゼーションが最少になる非天然の合成miRNA模倣体(長さが22~24塩基の範囲の小さな一本鎖RNA)であった。それに加え、miRNAアッセイを意図的にインシリコで多数の多重群に分割することで、非特異的増幅とプライマー-プライマー相互作用を最少にした。合成miRNAを用いてあらゆる測定における絶対コピー数の内挿のための標準曲線を構成することで、技術的変動をさらに補正した。この非常にロバストな作業フローと多重レベルの対照を用いることで、本研究では、循環するmiRNAの低レベルの発現を同定することができた。本研究のアプローチには高い信頼性があり、データの再現性が保証される。
高発現した血漿miRNAに関する以前の知識に基づき、二百三(203)個のmiRNA標的を本研究のために選択し、(MiRXES(登録商標)(シンガポール国)によって設計した)高感度qPCRアッセイを利用して、合計546個の血漿サンプル(HFと対照)の中のそれらmiRNAの発現レベルを定量測定した。
この実験設計では、miRNAを含む全RNAを200μlの血漿から抽出した。抽出したRNAは逆転写し、タッチ-ダウン増幅によって増加させて、miRNAの発現レベルを変化させることなくcDNAの量を増やした(図4)。次に、増加したcDNAをqPCR測定のために希釈した。希釈の効果に基づく簡単な計算から、血清中で500コピー/ml以下のレベルで発現するmiRNAは、シングルプレックスqPCRアッセイの検出限界(10コピー/ウエル以下)に近いレベルで定量されることが明らかになった。そのような濃度では、測定は、技術的制約(ピペットで採取する際のエラーとqPCR反応)が原因で非常に困難になるであろう。したがって500コピー/ml以下の濃度で発現するmiRNAは分析から除外し、検出不能であると見なした。
調べた全miRNAの約70%(n=137)が、全サンプルを通じて高発現していることが見いだされた。これら137個のmiRNAは、サンプルの90%超で検出された(発現レベル≧500コピー/ml;表4)。本研究の発明者は、公開されているデータ(表1)と比較することで、心不全に関して以前に報告されていないより多くのmiRNAを検出した。注意深くてよく制御された実験設計を用いることの重要性がわかる。
III.miRNAバイオマーカー
最初に、測定したすべてのmiRNAで、心不全サンプルでだけ検出可能であり、対照サンプルでは検出できない標的を探した。心不全患者の心筋が特異的に分泌するmiRNAがあれば、この疾患を検出するための理想的なバイオマーカーであろう。血液循環系の中のmiRNAにはさまざまな臓器および/または細胞(心筋を含む)が寄与していることが知られているため、正常人と心不全患者の血漿中でこれらのmiRNAがすでに現われている可能性があるのは驚くことではなかった。しかし血漿中でのこれらmiRNAの発現の違いは、心不全が進行する間の有用なバイオマーカーとして相変わらず役立つ可能性がある。
合計546個のサンプルで検出されたすべての血漿miRNA(137個、表4)の発現レベルに対して目的変数なしの全体分析(主成分分析、PCA)を最初に実施した。固有値が0.7超である最初の15個の主成分(PC)を選択してさらに分析したところ、これらを合わせると分散の85%が説明された(図5、A)。対照と心不全の差を調べるため、これら2つの群を分類することを目的として、選択されたPCのそれぞれでAUCを計算した(図5、B)。多数のPCが、0.5よりもはるかに大きいAUCを持つことがわかり、第2のPCでさえ、AUCは0.79であった。これは、これら2つの群の差がmiRNA発現プロファイルの全分散に大きく寄与したことを示している。対照被験者と心不全被験者の間の変動が多次元(PC)で見いだされたため、単一のmiRNAに基づいてすべての情報を表示することはできなかった。したがって最適な分類には、多数のmiRNAを含む多変量アッセイが必要であった。同様に、多数のPCが、2つの心不全サブタイプ(HFREFまたはHFPEF)のいずれかに分類する上で0.5よりもかなり大きいAUCを持っていた(その中には第1のPC(AUC=0.6)が含まれる)が、それらのAUCは心不全検出のためのAUCよりも小さかった(図5、C)。したがって、HFREFとHFPEFの分類も行なうには、多次元で情報を捕獲する多変量アッセイが必要であった。
HF検出に関して識別力のある2つの主要なPCによって規定される空間上に2つの群の被験者(Cと心不全(HF))をプロットすると、その2つの群は分かれて位置することがわかった(図6、A)。HFREF群とHFPEF群の分離(図6、B)は、明確さがそれよりも音っていた。全体的な分析から、対照被験者とHFREF被験者とHFPEF被験者をそれらのmiRNAプロファイルに基づいて分離できることが明らかになった。しかし1次元または2次元だけを用いることは、分類のためには統計的にロバストではなかった。
バイオマーカーの同定に向けた重要な工程は、各miRNAの発現レベルを、正常状態と疾患状態の間と、疾患サブタイプ相互の間で直接比較することである。単変量比較のためスチューデントのt検定を利用して個々のmiRNAに関する群間の差の有意性を評価し、多変量ロジスティック回帰を利用して交絡因子(年齢、性別、BMI、AF、高血圧、糖尿病が含まれる)を調節した。偽発見率(FDR)推定に関し、ボンフェローニ型多重比較手続きを利用してすべてのp値を補正した[60]。p値が0.01未満のmiRNAを本研究では有意であると見なした。
次に、137個の血漿miRNAの発現を、A]対照(健康)と心不全(個々のサブタイプ、または両方のサブタイプの合体)の間と、B]心不全の2つのサブタイプ(すなわちHFREFとHFPEF)の間で比較した。
A]非HF対照被験者とHF患者で発現が異なるmiRNAの同定
臨床的に心不全のサブタイプ(HFREFまたはHFPEF)のいずれかであることが確認された患者からの血漿をまとめ、健康な非心不全ドナーからの血漿と比較した。
比較を最初に単変量分析(スチューデントのt検定)を利用して行なったところ、94個のmiRNAが、心不全患者では対照と比べて有意に変化していることが見いだされた(FDR後のp値<0.01)(図7、A)。さらに2つのサブタイプを別々に調べると、82個と94個のmiRNAが、HFREF被験者とHFPEF被験者では対照と比べてそれぞれ有意に変化していることが見いだされた(図7、A)。合計で101個の独自のmiRNAが単変量分析によって同定され、それらの75%(n=76)が両方のサブタイプについて有意であった(図7A)。
対照被験者は地域社会からリクルートしたため、臨床パラメータは、心不全の3つのリスク因子(AF、高血圧、糖尿病)を含め、心不全患者とよく一致していない可能性がある。対照被験者がそのような症状を抱えていることは少なかったからである。また、分析した人口間で年齢がわずかに異なっていた。交絡因子となる可能性のあるこれらの因子を調節するため、多変量分析(ロジスティック回帰)を実施して、単変量分析によって選択されたmiRNAの有意性を調べた。合計すると、101個のmiRNAのうちの86個が、調査人口間で多変量分析の後も相変わらず有意に異なっていた(図7、B)。対照と比較してすべての心不全を検出するため、94個のmiRNAのうちの75個(表5)が、多変量分析において有意であることが見いだされた(FDR後のp値<0.01)。それに対して82個のうちの52個(表6)が、対照と比較してHFREFの検出に関して有意であり、94個のうちの68個(表7)が、対照と比較してHFPEFの検出に関して有意であった(図7B)。多変量分析の後、36個のmiRNAが、対照と両方の心不全サブタイプの間で有意に異なっているままであったのに対し、16個が、対照とHFREFサブタイプの間でだけ異なっており、32個が、対照とHFPEFの間でだけ異なっていることが見いだされた(図7、B)。多変量分析では、多くのmiRNAが対照と2つの心不全サブタイプの一方だけの間で異なっていることが見いだされた。これは、miRNA発現に関して2つのサブタイプの間に真の違いがあることを示唆している。
多数のmiRNAがHFで上方調節されたり下方調節されたりしていることが以前に報告されている(表1)。興味深いことに、本研究で発現が異なることが見いだされたmiRNAは、これらの報告とは実質的に異なっていた。単変量分析と多変量分析の両方で有意であるmiRNAを、表5(C対心不全(HF))、表6(C対HFREF)、表7(C対HFPEF)に掲載した。3つの比較において、それぞれ37個、25個、33個のmiRNAが上方調節されていることが見いだされ、それぞれ38個、27個、35個のmiRNAが下方調節されていることが見いだされた。発現が異なることがqPCRによって確認されたmiRNAの数(単変量分析では101個、単変量分析と多変量分析の両方で86個)は、以前に報告されている数(表8、合計47個)よりもかなり多かった。これら86個のmiRNAからの各miRNA、または組み合わせは、心不全を診断するためのバイオマーカーとして、またはバイオマーカーパネルの1要素(多変量指数アッセイ)として機能することができる。
合計で47個の異なるmiRNAが文献に報告されている(表1)。hsa-miR-210は、心不全患者における変化の方向に関して矛盾した観察がある(表8)。本研究では、報告されている他の46個のmiRNAのうちの22個が、測定できないか、検出限界未満であった(表8の中のN.A.)ため、比較に使用できる24個のmiRNAが残った。本研究の結果(単変量分析でFDR後のp値<0.01)を、報告されている24個のmiRNAと比較すると、以前に報告されているそれらmiRNAのうちの4個だけ(hsa-miR-423-5p、hsa-miR-30a-5p、hsa-miR-22-3p、hsa-miR-21-5p)が常に上方調節されており、4個(hsa-miR-103a-39、hsa-miR-30b-5p、hsa-miR-191-5、hsa-miR-150-5p)が常に下方調節されていることが本研究で見いだされた(表8)。興味深いことに、調節状態が変化した8個のmiRNAでは、変化の方向が以前に報告されているのとは逆であったのに対し、7個は変化しないままであった(表8)。したがって心不全において調節が異なることが以前に報告されている過半数のmiRNAを本研究では確認することができなかった。逆に、本研究では、以前に報告されていないがHF検出のための潜在的なバイオマーカーになりうる70個を超える新規なmiRNAを同定した。
NT-proBNP/BNPは、最もよく研究されている心不全バイオマーカーであり、これまで最高の臨床性能を示してきている。したがって本研究は、有意に調節されているこれらのmiRNAがNT-proBNPに追加情報を提供できるかどうかを調べることを目的としていた。NT-proBNPによる心不全の検出がmiRNAによって増強されることを、年齢、AF、高血圧、糖尿病に関して調節したロジスティック回帰によって調べた(p値、ln_BNP、表5~表7)。FDR補正後のp値が0.01未満であることを基準として用いると、55個のmiRNA(p値、ln_BNP、表7)が、HFPEFの検出に関してln_NT-proBNPに対する相補的な情報を持つことが見いだされたが、HFREFの検出に関してはそうでなかった(p値、ln_BNP、表6)。単独で使用したNT-proBNPは、明らかに、HFPEF(AUC=0.935、図3E)よりもHFREF(AUC=0.985、図3D)の検出に関する診断性能が優れていた。多変量アッセイにおいてこれら55個のmiRNAのいずれか1個または複数個をln_NT-proBNPと組み合わせると、HFPEFの検出を改善できる可能性がある。
心不全(両方のサブタイプ)で最も上方調節されたmiRNA(hsa-let-7d-3p、図8、A)と最も下方調節されたmiRNA(hsa-miR-454-3p、図8、B)のAUC値は、それぞれ0.78と0.85であった。どちらのmiRNAも、心不全の検出に有用であるという以前の報告はない。単一のmiRNAの診断力は臨床的に有用でない可能性があるとはいえ、多数のmiRNAを多変量方式で組み合わせると、心不全診断の性能を向上させうる可能性がある。
B]HFREFとHFPEFで発現が異なるmiRNAの同定
単変量分析(スチューデントのt検定)から、40個のmiRNAがHFREF被験者とHFPEF被験者の間で有意に異なっており(FDR後のp値<0.01)、10個のmiRNAがHFPEFにおいてHFREFよりも発現レベルが高く、30個のmiRNAがHFREFにおいてHFPEFよりも発現レベルが高いことが示された(表9)。
背景となる臨床的特性が2つの心不全サブタイプで異なることが予測される(表3)。HFPEF患者は、HFREF患者と比べると、女性であることのほうが多く、より大きなBMIを持ち、より高齢で、AFまたは高血圧を持っていることがより多かった。これらの性質に関して調整した多変量分析(ロジスティック回帰)では、40個のmiRNAのうちの18個だけが有意なままであった(FDR後のp値<0.01)(p値、ロジスティック回帰、表9)。しかし2つのサブタイプの差は、本研究で選択したサンプルの偏りが原因というよりはこの疾患の自然な発症とキャラクテリゼーションに起因していたため、表9の40個のmiRNAすべて(単変量分析)が、心不全サブタイプを分類するのに有用である可能性がある。
すべての心不全のうちで最も上方調節されたmiRNA(hsa-miR-223-59、図10、A)と最も下方調節されたmiRNA(hsa-miR-185-5p、図10、B)では、心不全を対照から識別するためのAUC値は中程度であり、それぞれ0.68と0.69にすぎなかった。これは、血液(血漿/血清)からの循環する無細胞miRNAを用いて心不全患者を2つの臨床的に重要なサブタイプに分類する最初の報告である。多変量指数アッセイにおいて多数のmiRNAを組み合わせることで、サブタイプ分類の診断力がより大きくなる。
2つの心不全サブタイプの間で調節異常の程度がさまざまであるという事実を反映して、HFREFとHFPEFで発現が異なるmiRNAの大半(単変量分析では40個のうちの38個、多変量分析では18個のうちの17個)が対照と異なることも見いだされた(図11)。単変量分析において、いずれかのHFサブタイプにおいてと2つのサブタイプ間で変化したことが見いだされた38個の重複したmiRNA(図9、A)をさらに調べるため、3つの被験者群、すなわち対照群、HFREF群、HFPEF群での発現レベルの関係に基づいてそれらのmiRNA を6つの群に分類した。2つの群の間で比較のためのp値(FDR)が0.01よりも大きい場合には、関係は等しい(「=」で示す)と定義され、p値(FDR)が0.01よりも小さい場合には、関係は変化の方向によって定義される(より大きい「>」またはより小さい「<」で示す)。
対照からHFREFへ、HFPEFへと段階的に変化することが、たいていのmiRNAで見いだされた。21個のmiRNAが徐々に低下し(C>HFREF>HFPEF、図11)、5個のmiRNAが徐々に上昇した(C<HFREF<HFPEF、図11)。また、5個のmiRNAが、HFPEFサブタイプでだけより低いことが見いだされ(C=HFREF>HFPEF、図11)、2個が、HFPEFサブタイプでだけより高いことが見いだされた(C=HFREF<HFPEF、図11)のに対し、それらはHFREFと対照の間で違いはなかった。対照と比較すると、3個のmiRNAだけが、HFREFサブタイプでHFPEFとは明確に異なるレベルであった(C<HFPEF<HFREFまたはC=HFPEF>HFREFまたはC=HFPEF<HFREF、図11)。LVEFおよびNT-proBNPとは異なり、HFPEFは、健康な対照と比べてHFREFサブタイプとは明確に異なるmiRNAプロファイルを持っていた。これは、miRNAがNT-proBNPを補足してHFPEFをよりよく識別できる可能性があることを示唆している。
検出可能な全miRNAの分析から、多数が互いに正の相関をしていること(ピアソン相関係数>0.5、図12)、特に、HF患者で変化していて、かつ2つの心不全サブタイプ間で異なるmiRNAの間に正の相関があることが明らかになった(miRNAは、x軸で右側に向かって黒色で示されている、図12)。血漿中のmiRNAレベルの変化は、心不全(HFREFおよび/またはHFPEF)が原因である。これらの観察結果は、多くのmiRNA対が全被験者の間で同様に調節されたことを示している。その結果として、1個以上の特定のmiRNAを別のmiRNAで置き換えて系統的に診断性能を最適化することにより、miRNAのパネルを構成することができた。有意に変化したすべてのmiRNAが、心不全検出または心不全サブタイプ分類のための多変量指数診断アッセイの開発にとって極めて重要であった。
IV.予後マーカーとしての血漿miRNA
SHOPコホート研究にリクルートしたときの指標入院時に、3~5日間治療を受けたときに症状が改善して臨床での心不全の物理的兆候が解消して退院が適当であると見なされた心不全患者からサンプルを採取した。こうすることで、本研究においてマーカーの性能が準急性または「慢性」相のHFと関係していることを保証した。本研究では、死亡率と心不全による再入院について、循環するmiRNAの予後予測性能を評価した。327人の心不全患者(176人がHFREF、151人がHFPEF)を2年の期間にわたって追跡した(表10)ところ、その間に49人が死亡した(15%)。
調べた全ケースのうち、115人が、追跡中に心不全になったという理由の再入院(表10)であり、49人が死亡した。全原因死および/または代償不全心不全による再発入院の組み合わせについて、実測(全原因生存率)OSと無イベント生存率(EFS)の両方に関する潜在的なマーカーとしてのmiRNAを評価した。
参加者を研究するために処方した抗心不全薬を表11にまとめてある。HFREFとHFPEFの治療を比較すると、関係する薬の半数で処方頻度が異なることが見いだされた(図13)。HFREFの予後を改善することが証明されているクラスの薬(ACEI/ARB、βブロッカー、無機コルチコイド拮抗剤)が、HFPEF患者よりもHFREF患者により一般的に処方された。治療は現在の臨床での通例に従って実施し、その治療は予後マーカーを分析するための臨床変数の中に含まれていた。
Cox比例ハザード(CoxPH)モデル化を生存分析で利用し、説明変数を同じモデルで個別に分析する(単変量分析)か同時に分析した(多変量分析)。さまざまなハザード比(HR)の間の比較がよりよくなされるようにするため、すべての正規分布変数(miRNA発現レベル(log2スケール)が含まれる)と臨床変数(例えばBMI、ln_NT-proBNP、LVEF、年齢のほか、多数の変数を組み合わせることによって生まれる多変量スコア)は、1標準偏差となるようにスケールを変えた。次にハザード比(HR)を、これら変数の予後予測力の指標として用いた。p値<0.05を統計的に有意であると見なした。患者は、分類変数の存在または不在と、正規分布した連続変数の中央値よりも上のレベルか下のレベルかに応じ、高リスクと低リスクに分類した。カプラン-マイヤープロット(KMプロット)を利用してさまざまなリスク群の生存の時間経過を図示し、曲線間比較をログ-ランク検定によって検定した。750日目の群間生存(OS750)および/または750日目のEFS (EFS750)も比較した。
最初に全生存率(OS)の予測に関してすべての臨床変数を評価した。単変量分析では、5個の変数(年齢、高血圧、ln_NT-proBNP、硝酸塩、ヒドララジン)が死のリスクと正に関係していることが見いだされ、2個の変数(BMIとβブロッカー)が、死のリスクと負に関係していることが見いだされた(表12)。興味深いことに、全生存率は、HFREF患者とHFPEF患者で差がなかった。これらの有意なパラメータによって規定される被験者群のKMプロットを図14Aに、OS750を図14Bに示した。すべてのパラメータが、高リスク群と低リスク群を規定することができ、ln_NT-proBNPが最も有意であった(p値=7.2×10-7、HR=2.36(95%CI:1.69~3.30))。ln_NT-proBNPのレベルに基づくと、低リスク群はOS750が92.4%であったのに対し、高リスク群の値はわずか66.0%であった。すべての臨床変数を含めた多変量分析では、6個の変数(性別、高血圧、BMI、ln_NT-proBNP、βブロッカー、ワルファリン)が有意であることが見いだされた。これら6個の変数をあとでCoxPHモデルにおいて137個のmiRNAのそれぞれと組み合わせ、全生存率のための予後miRNAマーカーを同定した。
同様の分析を無イベント生存率(EFS)について実施したところ、7個の変数(AF、高血圧、糖尿病、年齢、ln_NT-proBNP、硝酸塩、ヒドララジン)が、単変量分析において、代償不全心不全による再発入院のリスクと正に関係していることが見いだされた。これらの有意なパラメータによって規定される被験者群のKMプロットを図15Aに、EFS750を図15Bに示した。ここでも、無イベント生存率でHFREFとHFPEFに差がなく、ln_NT-proBNPが最も有意であった(p値=1.5×10-9、HR=1.79(95%CI:1.42~2.17))。中央値よりも下のln_NT-proBNPは、EFS750と65.1%の関係があり、中央値よりも上のレベルは、EFS750と34.1%の関係しかなかった。多変量分析により、2個の変数(糖尿病とln_NT-proBNP)だけが有意であることが見いだされた。これらの変数をその後137個のmiRNAのそれぞれと組み合わせ、無イベント生存率のための予後miRNAマーカーを同定した。
全生存率を予測するためのmiRNAバイオマーカーを同定するため、137個のmiRNAのそれぞれを、単変量CoxPHモデルと6個の追加予測臨床変数を含む多変量CoxPHモデルによって検定した。三十七(37)個が単変量分析で有意であり、29個が多変量分析で有意であった(表14)。単変量分析で有意であることが見いだされた11個のmiRNAは、臨床パラメータの予測性能を改善することができず(多変量分析)、3個のmiRNAは、臨床変数と組み合わせたときだけ有意であった(図16、A)。hsa-miR-374b-5p(p値=0.25)以外の残りの2個のmiRNAが、単変量分析で0.1未満のp値を持っていた(表14)。
死亡率に関してハザード比(HR)が単変量分析(HR=1.90(95%CI:1.36~2.65、p値=0.00014))と多変量分析(HR=1.79(95%CI:1.23~2.59、p値=0.0028))の両方で最も大きいmiRNAは、hsa-miR-503であった。hsa-miR-150-5pは、HRが単変量分析(HR=0.52(95%CI:0.40~0.67、p値=1.3×10-7))と多変量分析(HR=0.59(95%CI:0.45~0.78、p値=0.00032))の両方で最も小さかった(表14)。これら2個のmiRNAのKMプロットを図18Aに示す。2つのリスク群がよく分離していることを観察できる。単一のmiRNAに基づくと、高リスク群と低リスク群は、OS750に関して差が約21.3%(hsa-miR-503)または約17.8%(hsa-miR-150-5p)であった(図18、B)。6個の臨床変数を追加すると、組み合わせたスコアは、よりよいリスク予測を提供し、差は、hsa-miR-503+6個の臨床変数で25.3%、hsa-miR-150-5p+6個の臨床変数で22.4%であった(図18、B)。40個のmiRNA(表14)の任意の1個または複数個を、慢性HF患者の死のリスクのための予後マーカー/パネルとして用いることができた。
無イベント生存率を予測するには、13個のmiRNAが単変量分析(p値<0.05)において有意であることが見いだされ、4個が、治療後の代償不全心不全による再入院のリスクと正に相関し、9個が負に相関していた(表15)。CoxPHモデルに2個の追加臨床変数が含まれた多変量分析では、どのmiRNAもEFSの予測に関しては有意であることが見いだされなかった。しかし単変量分析においてEFSと最も正の相関が大きかったmiRNA(hsa-miR-331-5p、HR=1.27(95%CI:1.09~1.49、p値=0.0025))と最も負の相関が大きかったmiRNA(hsa-miR-30e-3p、HR=0.80(95%CI:0.69~0.94、p値=0.0070))は、多変量分析においてもある程度のレベルの有意性を持っており、p値はそれぞれ0.15と0.14であった(表15)。EFSに関して追加の臨床変数ありとなしいずれかのmiRNA によって規定される高リスク群と低リスク群のKMプロットを図19Aに、そのEFS750を図19Bに示した。単一のmiRNA(hsa-miR-331-5pまたはhsa-miR-30e-3p)に基づくと、高リスク群はEFS750が約40%、低リスク群はEFS750が約60%であったのに対し、2個の臨床変数を追加すると、数値は33%と66%であった(図19、B)。13個のmiRNA(表15)の任意の1個または複数個を、慢性HF患者の代償不全HFによる再入院のリスクのための予後マーカー/パネルとして用いることができた。
より少数のmiRNAが、全生存率(n=43)よりも無イベント生存率(n=13)の予測因子として同定され、そのうちの3個だけが重複していた(図16、B)。これらの結果は、死と再発代償不全心不全でメカニズムが異なることを示唆している。注意すべき1つの重要な点は、本研究における無イベント生存率の定義が、あまりよく定義されていない臨床変数を含んでいたことである。それは、ケースごとに患者または医師によるバイアスが生じる可能性のある入院である。それでも、全部で53個のmiRNAが、慢性心不全患者のための貴重な予後マーカーになることができた。
次に、それら53個の予後マーカーを、HFの検出に関する101個のマーカーと比較する(図17、A)か、心不全サブタイプ分類のための40個のマーカーと比較した(図17、B)。いくらかの重複が観察されたが、それでも大半の予後マーカーは他の2つのリストには見いだされなかった。これは、別のmiRNAの集合を用いるか、組み合わせて用い、予後のための多変量指数アッセイを形成すべきであることを示している。
V.HF検出のための多変量バイオマーカーパネル
上述のように、多数のmiRNAの組み合わせからなるパネルのほうが、単一のmiRNAを使用するよりも優れた診断力を提供できる可能性がある。
そのような多変量パネルを構成するための重要な基準は、すべての心不全サブグループが確実にカバーされるようにするため、心不全の各サブタイプに関する特別なリストからの少なくとも1個のmiRNAを含めることであった。しかし心不全の2つのサブタイプを規定するmiRNAは重複していた(図7)。それと同時に、多数の心不全関連miRNAと心不全非関連miRNAが、正に相関していることが見いだされた(図12)。そのため心不全を診断するための最良のmiRNA組み合わせを選択することは難しい。
この仕事が複雑であることに鑑み、本研究の発明者は、配列前向きフローティング検索アルゴリズム[53]を用いてAUCが最大のmiRNAパネルを同定することを決断した。現状の線形サポートベクターマシン(変数のパネルを構成するための、よく用いられていてよく認められているモデル化ツール)も使用してmiRNAの組み合わせを選択する助けにした[54]。このモデルから、各メンバーの発現レベルとその重みを考慮した線形な式に基づくスコアが生まれる。これら線形モデルは、臨床での実践に容易に適用することができた。
こうした方法が成功するための極めて重要な条件は、高品質のデータを入手できることである。多数のよく規定された臨床サンプルの中で検出された全miRNAの定量データは、結果の正確さと精度を向上させるだけでなく、その後のqPCRを用いた臨床応用のために同定されたバイオマーカーパネルの整合性も保証する。
結果の真正さを保証するため、ホールド-アウト確認(2分割交差確認)を多数回(80回超)実施して、発見セット(各回にサンプルの半分)に基づいて同定されたバイオマーカーパネルの性能を独立した確認サンプルのセット(各回にサンプルの残り半分)で調べた。多数の臨床サンプル(546個)を用いることで、モデル化におけるデータの過剰フィッティングの問題が最小限に抑えられた。なぜならその中から選択されたのは137個の候補だけだった一方で、1回ごとに273個のサンプルを発見セットとして使用したため、サンプルと候補の比は2よりも大きかったからである。交差確認プロセスの間、サンプルをサブタイプ、性別、人種に関して一致させた。そしてこのプロセスを実施し、miRNAが3個、または4個、または5個、または6個、または7個、または8個、または9個、または10個含まれたバイオマーカーパネルを別々に最適化した。
結果(発見相と確認相の両方におけるバイオマーカーパネルのAUC)を表わすボックスプロットを図20Aに示した。AUC値はさまざまな発見セットの中で互いに極めて近い値であり(ボックスのサイズ<0.01)、パネルに含まれるmiRNAの数が増えるにつれて1(AUC=1)に近づいた。miRNAが4個以上だと、確認相におけるボックスのサイズ(値の広がりを示す)も極めて小さかった(AUC値が0.01以下)。予想通り、各探索について確認セットでAUC値が減少した(AUCが0.02~0.05)。
結果のより定量的な表示を図20Bに示した。バイオマーカーパネルに含まれるmiRNAの数を増やすとき、発見相ではAUCが常に徐々に増加していたが、miRNAの数が9以上のときには確認相でAUC値のさらなる有意な改善はなかった。miRNAが6個のバイオマーカーパネルとmiRNAが8個のバイオマーカーパネルの間の差は統計的に有意であったが、AUC値の改善は0.01未満であった。そのため、6個以上のmiRNAを含んでいて約0.93というAUC値を与えるバイオマーカーパネルが、心不全の検出には有用であるはずである。
多変量バイオマーカーパネルの組成を調べるため、本研究では、miRNAを6~10個含む全パネル中のmiRNAの出現をカウントしたが、そのときAUCが上位10%と下位10%のパネルは除外した。そうしたのは、交差確認分析においてランダム化プロセスにより小集団から発生する正確でないデータのフィッティングが原因で誤って見つかるバイオマーカーをカウントするのを避けるためである。パネルの2%未満で選択されるこれらmiRNAを除外することで、合計51個のmiRNAが発見プロセスで選択され(表16)、そのうちの42個の発現がHFにおいて有意に変化していることも見いだされた(表5~表7)。他の9個は心不全では変化していなかったが、それらを含めることで、AUC値が顕著に改善することが見いだされた。なぜならパネルの39%がこのリストからのこれらmiRNAのうちの少なくとも1個を含んでいて、最も多く選択されたmiRNA(hsa-miR-10b-5p)は35%のパネルに存在していたからである。全miRNA標的の直接的かつ定量的な測定がなければ、高スループットスクリーニング研究(マイクロアレイ、シークエンシング)でこれらのmiRNAが選択されることは決してなく、さらにqPCRで確認する対象から除外されたであろう。
多変量パネルのために選択されたmiRNAと診断マーカーとしての単一のmiRNAが何であったかを比べてみると、それらは必ずしも同じではなかった。例えば上方調節された最上位のmiRNA(hsa-let-7d-3p)はリストに存在していなかったし、下方調節された最上位のmiRNA(hsa-miR-454-3p)は24.2%のパネルでしか使用されていなかった。したがって同定された最良の単一のmiRNAを組み合わせるだけで最適なバイオマーカーパネルを形成することはできず、むしろ相補的な情報を提供するmiRNAのパネルが最良の結果を与えた。
これらmiRNAのすべてがランダムに選択されたのではなかった。なぜなら、そのうちの7個は30%超のパネルに存在していたからである。しかし優れたバイオマーカーパネルとして極めて重要なmiRNAを見いだすことも難しかった。というのも、最もよく選択された2個のmiRNA、すなわちhsa-miR-551b-3pとhsa-miR-24-3pは、それぞれ59.7%のパネルと57.3%のパネルでしか見られなかったからである。上述のように、これらmiRNAの多くは相関していた(図11)ため、バイオマーカーパネルの中で互いに置き換えたり置換したりすることができた。結論として、頻繁に選択されるリスト(表16)からのmiRNAを少なくとも6個含むバイオマーカーパネルを心不全の検出に使用すべきである。
miRNAバイオマーカーとNT-proBNPを比較するため、miRNAが6個のバイオマーカーパネルの1個のmiRNAを選択して全被験者での合計miRNAスコアを計算し、同じ被験者たちからのNT-proBNPのレベルに対してプロットした(図21、A)。本研究の発明者は一般に正の相関を観察し、miRNAスコアとln_NT-proBNPの間のピアソン相関係数は0.61であった(p値=8.2×10-56)。NT-proBNPに関して示されているカットオフ(125 pg/ml、点線)を適用すると、35人の健康な被験者が心不全患者として間違って分類され(偽陽性、FP、NT-proBNP>125)、23人の心不全患者は、NT-proBNPのレベルがカットオフよりも低かった(偽陰性、FN)。予想されたように、大半の偽陰性(FN)被験者はHFPEF被験者であった(n=20)。NT-proBNPに関するこれらの偽陽性(FP)被験者と偽陰性(FN)被験者を選択し、結果をmiRNAスコアに対してプロットした(図21、B)。分離されたこのプロットに基づくと、カットオフ値としてゼロを用いることで、大半の偽陽性(FP)被験者と偽陰性(FN)被験者をmiRNAスコアによって正しく再分類することができた(点線)。これらの結果から、miRNAバイオマーカーがNT-proBNPとは異なる情報を有するという仮説が確認された。次の作業は、miRNAとNT-proBNPの両方を含む多変量バイオマーカーパネルを探すことであった。
同じバイオマーカー同定プロセス(2分割交差確認を多数回)を実施した。そのとき、NT-proBNPを予測変数の1つとしてあらかじめ固定し、ln_NT-proBNPのレベルとmiRNAの発現レベル(log2スケール)を用いて、サポートベクターマシンを使用する分類機構を構築した。9個以上のmiRNAを用いて心不全を予測するときにはAUCが顕著に増加しなかったため、このプロセスを実施して、3個、または4個、または5個、または6個、または7個、または8個、または9個、または10個のmiRNA(とNT-proBNP)が含まれたバイオマーカーパネルを最適化した。
発見相で構築された分類機構は、miRNAの数が増えるにつれて完全な分離(AUC=1.00)に近づいた。確認相では性能がわずかに低下した(図22、A)。それでも確認相でのNT-proBNPを含むパネルのAUC(平均AUC>0.96)は、miRNAだけを含むバイオマーカーパネル(平均AUC<0.94)よりも常に大きかった。定量的な結果(図22、B)から、miRNAの数が5個以上だと確認相においてAUC値がさらに顕著に改善されることはなく、miRNAが4~5個のバイオマーカーパネルではわずかな増加(0.001 AUC)しかなかったことがわかった。したがってNT-proBNPと組み合わせるとき、4個以上のmiRNAを含んでいて約0.98というAUC値を与えるバイオマーカーパネルを心不全の検出に用いることができる。miRNAとNT-proBNPを組み合わせることにより、NT-proBNP(AUC=0.962、図22、B)と比べて分類効率が顕著に改善された。
AUCが上位10%と下位10%のパネルを除外し、miRNAを3~8個含む多変量バイオマーカーパネルの組成を調べた(表17)。合計で49個のmiRNAが発見プロセスで選択され、そのうちの14個が10%を超える存在率であった(表17)。そのうちの四十二(42)個は、NT-proBNPに対する追加情報も持っていた(ロジスティック回帰においてFDR後のp値が0.01未満)。ここでも、46%のパネルが、NT-proBNPに加え、有意でないことが見いだされた13個のmiRNAのうちの少なくとも1個を含んでいた。
miRNAだけのバイオマーカーパネル(表16、有意なもののリスト)(図23、A)を探すときに有意なmiRNA(表17、有意なもののリスト)の半分超も頻繁に選択されたとはいえ、存在率の順位は異なっていた。NT-proBNPとのっ組み合わせでよく選択されるmiRNAのいくつか(hsa-miR-17-5p(11.6%)とhsa-miR-25-3p(11.0%))は、miRNAに基づくバイオマーカーパネル(NT-proBNPなし)を探すときには選択さえされなかった。また、有意でないもののリスト(表16と表17、有意でないもののリスト)の間で重複したmiRNAは2個だけであった(図23、B)。これらの証拠を合わせると、NT-proBNPとの組み合わせでは、miRNAだけのバイオマーカーパネルを構成するのに用いるリストと比べ、miRNAの別のリストを使用すべきであることが示唆された。
VI.心不全サブタイプ分類のための多変量バイオマーカーパネル
HFREFとHFPEFを識別するための多変量バイオマーカーパネルを同定することを目的として、次の試みを行なった。ここでも338人の心不全患者に関する137個のmiRNAの全定量データを使用した。サンプルサイズの制約があるため、4分割交差確認を多数回(50回超)実施した。そのとき、すべての被験者をランダムに4つの均等な群に分割し、そのうちの3つの群(発見群)を使用して分類機構を構築し、最後の群(確認群)を予測した。このように、発見相では253~254人の被験者を利用して各部分群(HFREFまたはHFPEF)が同じサイズになることを保証する。このサイズは、過剰フィッティングができるだけ少なくなるよう選択された候補(137)と似た数である。再びこのプロセスを実施し、miRNA が3個、または4個、または5個、または6個、または7個、または8個、または9個、または10個のバイオマーカーパネルと、2個、または3個、または4個、または5個、または6個、または7個、または8個のmiRNA+NT-proBNTを含むバイオマーカーパネルを別々に最適化した。
定量的な結果から、miRNAだけのバイオマーカーパネルがmiRNA を6個以上含んでいるとAUC値の改善がないことがわかった(図24、A)。miRNAバイオマーカーパネルを用いて約0.76というAUCを実現することができ、その値は、NT-proBNT(AUC=0.706)よりも優れていた。(AUCの上位10%と下位10%を除いた)miRNAが6~10個のパネルをすべてカウントすると、46個のmiRNAが頻繁に選択され(パネルの2%未満)、そのうちの22個は、HFREFとHFPEFを比較するt検定において有意であることが見いだされたが、24個はそうでなかった(表18)。心不全サブタイプ分類のためのパネルは、心不全検出のためのパネルよりも多様性が小さかった。なぜならmiRNAのうちの2個が80%超のパネルに存在していたからである(hsa-miR-30a-5p(94.6%)とhsa-miR-181a-3p(83.7%)、表18)。
miRNAとNT-proBNTの両方からなるバイオマーカーパネルでは、miRNAだけのパネルよりも必要なmiRNAの数が少なかった。なぜなら4個を超えるmiRNAを含めてもAUC値は改善しなかったからである(図24、B)。miRNAだけのパネルと比較して、より明確な分類を実現することができた(AUC=0.82)。ここでも、miRNAとNT-proBNTは心不全サブタイプ分類のための相補的な情報を持つことができる。5~8個のmiRNAにNT-proBNTを加えたパネルの組成を調べると、31個のmiRNAが頻繁に選択され(パネルの2%超)、そのうちの14個が、ln_NT-proBNTと合わせたロジスティック回帰において有意であることが見いだされたが、17個はそうでなかった(表19)。異なる2個のmiRNAが80%超のパネルで見いだされた(hsa-miR-199b-5p(91.5%)とhsa-miR-191-5p(74.9%))。miRNAだけのパネルと、miRNA+NT-proBNTのパネルの両方で、最も頻繁に選択された有意でないmiRNAは同じであった(hsa-miR-199b-5p)が、どのmiRNAであるかと順位に関して有意なもののリストの残りと有意でないもののリストの残りの間には顕著な差を見いだすことができた。