[第1の実施形態]
以下、車両制御装置を具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1~図3に示すように、本実施形態の車両1は、図示しない懸架装置(サスペンション)を介して車輪2に支持されたアンダーボディ(シャーシ)3と、このアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4と、を備えている。そして、本実施形態の車両1は、これらのアンダーボディ3とアッパーボディ4との間に介在されることにより、そのアンダーボディ3に対するアッパーボディ4の揺動を許容する振子機構10を備えている。
詳述すると、図2~図5に示すように、本実施形態の振子機構10は、アンダーボディ3の前端部3fにおいて、車両1の後方側から前方側(図2中、右側から左側)に向かって上方に湾曲して延びる弧状体11を有した左右一対の前方支持部13,13を備えている。また、この振子機構10は、アンダーボディ3の後端部3rにおいて、それぞれ、車両1の前方側から後方側(図2中、左側から右側)に向かって上方に湾曲して延びる弧状体15を有した左右一対の後方支持部17,17を備えている。尚、本実施形態の車両1において、これらの各前方支持部13,13及び各後方支持部17,17は、それぞれ、その弧状体11,15を斜辺とする略三角枠状の外形を有している。そして、本実施形態の車両1においては、これらの各前方支持部13,13及び後方支持部17,17をアンダーボディ3の車幅方向(図5中、左右方向)両側に固定することにより、その車両前後方向に延在する左右一対の縦置揺動支持部材21,21が形成されている。
また、本実施形態の振子機構10は、アンダーボディ3の前端部3f及び後端部3rに対応する位置において、それぞれ、アッパーボディ4の下面4sに固定された前後一対の弧状体22,22を備えている。具体的には、これらの各弧状体22,22は、長手方向の中央部分が下側に凸となる略円弧状の外形を有して車幅方向に延びている。更に、本実施形態の車両1は、アンダーボディ3とアッパーボディ4との間に介在されるミドルボディ25を備えている。そして、本実施形態の振子機構10は、このミドルボディ25に固定された状態で、その前後一対の横置揺動支持部材26,26を形成する各弧状体22,22の湾曲面、及び上記各縦置揺動支持部材21,21を形成する各弧状体11,15の湾曲面に対して、回転可能な状態で摺接する回転体としての複数のローラー(ころ)を備えている。
具体的には、本実施形態の車両1において、ミドルボディ25の各側端面25a,25bには、それぞれ、略軸状の外形を有して車幅方向外側に突出する前後一対のメインローラー31(31f,31r)が設けられている。そして、本実施形態のミドルボディ25は、これらの各メインローラー31f,31rが、それぞれ、その対応する位置においてアンダーボディ3に設けられた上記各弧状体11,15に対して上側から当接する状態で、そのアンダーボディ3の上方に組み付けられる構成となっている。
即ち、ミドルボディ25の各側端面25a,25bにおける前方側(図5中、上側)の位置に設けられた各メインローラー31fは、それぞれ、上記各前方支持部13を構成する各弧状体11の上側湾曲面11uに摺接する。また、ミドルボディ25の各側端面25a,25bにおける後方側(図5中、下側)の位置に設けられた各メインローラー31rは、それぞれ、上記各後方支持部17を構成する各弧状体15の上側湾曲面15uに摺接する。そして、本実施形態の車両1は、これらの各メインローラー31f,31rが、それぞれ、その摺接する各弧状体11,15の上側湾曲面11u,15u上を転動することにより、ミドルボディ25と一体に、そのアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4が車両前後方向に揺動する構成になっている。
また、ミドルボディ25の前端面25f及び後端面25rには、それぞれ、略軸状の外形を有して車両前後方向に延びる左右一対のメインローラー32(32a,32b)が設けられている。更に、本実施形態のアッパーボディ4は、これらの各メインローラー32に対し、それぞれ、その下面4sに固定された各弧状体22,22の下側湾曲面22lが上側から摺接する状態で、そのミドルボディ25の上方に組み付けられる構成になっている。そして、本実施形態の車両1は、このミドルボディ25の前端面25f及び後端面25rに設けられた各メインローラー32が、それぞれ、見かけ上、その摺接する各弧状体22の下側湾曲面22l上を転動するかたちで、そのミドルボディ25を介してアッパーボディ4の上方に支持されたアンダーボディ3が車幅方向に揺動する構成になっている。
尚、本実施形態の車両1において、ミドルボディ25の各側端面25a,25bには、それぞれ、上記各メインローラー31(31f,31r)よりも小径の略軸状を有して上記各弧状体11,15の各下側湾曲面11l,15lに摺接する前後一対の補助ローラー33(33f,33r)が設けられている。また、ミドルボディ25の前端面25f及び後端面25rには、それぞれ、上記各メインローラー32(32a,32b)よりも小径の略軸状を有して上記各弧状体22の各上側湾曲面22uに摺接する前後一対の補助ローラー34(34a,34b)が設けられている。更に、各メインローラー31(31f,31r)及び各メインローラー32(32a,32b)の先端には、それぞれ、径方向外側に拡開するフランジが設けられている。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、その各弧状体11,15,22から各メインローラー31(31f,31r),32が脱離することなく、安定的に、そのアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4が揺動する構成になっている。
さらに詳述すると、図6に示すように、本実施形態の車両1において、車両前後方向におけるアッパーボディ4の揺動支点P1は、上記各縦置揺動支持部材21を構成する各弧状体11,15の上側湾曲面11u,15uにより規定される。つまり、これらの各上側湾曲面11u,15uに摺接する各メインローラー31(31f,31r)の転動軌跡Q1が円弧形状を描くことで、これらの各縦置揺動支持部材21及び各メインローラー31を介してアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4の揺動支点P1は、この円弧形状の中心(焦点)位置となる。そして、本実施形態の車両1は、これにより、そのアッパーボディ4の上端部4a側に揺動支点P1を形成することで、車両1の前後方向加速度(加減速G)に基づいて、その重心が形成される下端部4b側を車両前後方向、慣性力の働く方向に振り出すかたちで、自律的に、そのアッパーボディ4が揺動する構成になっている。
また、図7に示すように、車幅方向におけるアッパーボディ4の揺動支点P2についても同様に、上記各横置揺動支持部材26を構成する各弧状体22の下側湾曲面22lにより規定される。つまり、この場合もまた、その下側湾曲面22lに摺接する各メインローラー32(32a,32b)の転動軌跡Q2が円弧形状を描くことで、これらの各横置揺動支持部材26及び各メインローラー32を介してアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4の揺動支点P2は、この円弧形状の中心(焦点)位置となる。そして、本実施形態の車両1は、これにより、そのアッパーボディ4の上端部4a側に揺動支点P2を形成することで、車両1の幅方向加速度(横G)に基づいて、その重心が形成される下端部4b側を車幅方向、慣性力(遠心力)の働く方向に振り出すかたちで、自律的に、そのアッパーボディ4が揺動する構成になっている。
尚、アッパーボディ4の各揺動支点P1,P2の形成位置は、例えば、アッパーボディ4が形成する車室空間において、その車両1の乗員35が中央位置で起立していると仮定した場合に、この乗員35の頭部35hが配置される位置、或いは、その頭部35hよりも上方の位置に設定される。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、車両1に生じた加速度変化を乗員35が感じ難くすることで、その良好な乗り心地を実現する構成になっている。
即ち、本実施形態の車両1においては、アンダーボディ3に固定された各弧状体11,15が形成する各縦置揺動支持部材21と、ミドルボディ25に固定された状態で各弧状体11,15の上側湾曲面11u,15uに摺接する回転体としての各メインローラー31によって、その振子機構10の前後方向揺動部41が形成されている。また、アッパーボディ4の下面4sに固定された各弧状体22が形成する各横置揺動支持部材26と、ミドルボディ25に固定された状態で各弧状体22の下側湾曲面22lに摺接する回転体としての各メインローラー32によって、その振子機構10の幅方向揺動部42が形成されている。そして、本実施形態の振子機構10は、これらの前後方向揺動部41及び幅方向揺動部42が連動することにより、そのミドルボディ25を介してアンダーボディ3に支持されたアッパーボディ4について、車両1の水平方向における全方位の揺動を許容する構成となっている。
また、図8に示すように、本実施形態の車両1には、その振子機構10が形成する支点(P1,P2)回りに揺動(図6及び図7参照)するアッパーボディ4の傾斜角(α,β)を変更可能な駆動力を発生する前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52が設けられている。更に、これらの前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52は、揺動制御部としての姿勢制御ECU55によって、その作動が制御されている。そして、本実施形態の車両1においては、これにより、その振子機構10の作動により発生するアッパーボディ4の傾斜角(α,β)、つまりは、このアッパーボディ4の揺動姿勢を最適化することが可能な車両制御装置60が形成されている。
詳述すると、図9(a)に示すように、本実施形態の前後方向揺動アクチュエータ51は、上記各弧状体11,15が形成する各縦置揺動支持部材21と略等しい湾曲率を有して車両前後方向(図9(a)中、左右方向)に延びるセクターギヤ61を備えている。本実施形態の車両1において、このセクターギヤ61は、上記各縦置揺動支持部材21に略平行な状態でアンダーボディ3に固定されている(図5参照)。また、本実施形態の前後方向揺動アクチュエータ51は、このセクターギヤ61の上側湾曲面61uに形成されたギヤ歯62に歯合するピニオンギヤ63を備えている。更に、前後方向揺動アクチュエータ51は、駆動源となるモータ64の回転を減速して出力する駆動ユニット65を備えている。本実施形態の車両1において、この駆動ユニット65は、ミドルボディ25に固定されている。そして、本実施形態の前後方向揺動アクチュエータ51は、この駆動ユニット65に駆動されたピニオンギヤ63が回転することで、その駆動ユニット65が固定されたミドルボディ25と一体に、アッパーボディ4を車両1の前後方向に揺動させることが可能となっている。
一方、図9(b)に示すように、本実施形態の幅方向揺動アクチュエータ52は、各横置揺動支持部材26を形成する上記各弧状体22と略等しい湾曲形状を有して車幅方向(図9(b)中、左右方向)に延びるセクターギヤ66を備えている。本実施形態の車両1において、このセクターギヤ66は、各弧状体22と略平行な状態でアッパーボディ4の下面4sに固定されている(図5参照)。また、本実施形態の幅方向揺動アクチュエータ52は、このセクターギヤ66の下側湾曲面66lに形成されたギヤ歯67に歯合するピニオンギヤ68を備えている。更に、幅方向揺動アクチュエータ52は、駆動源となるモータ69の回転を減速して出力する駆動ユニット70を備えている。本実施形態の車両1において、この駆動ユニット70は、ミドルボディ25に固定されている。そして、本実施形態の幅方向揺動アクチュエータ52は、この駆動ユニット70に駆動されたピニオンギヤ68が回転することで、そのミドルボディ25を介してアンダーボディ3の上方に支持されたアッパーボディ4を車両1の幅方向に揺動させることが可能となっている。
さらに詳述すると、図8に示すように、本実施形態の姿勢制御ECU55は、車両1に設けられた傾斜角センサ71,72の出力信号に基づいて、そのアッパーボディ4の揺動により当該アッパーボディ4に生じた前後方向傾斜角α(図6参照)及び幅方向傾斜角β(図7参照)を検出する。尚、本実施形態の車両1において、これらの各傾斜角センサ71,72は、それぞれ、その前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52の駆動源である各モータ64,69に同期したパルス信号をカウントすることにより、その前後方向傾斜角α及び幅方向傾斜角βを検出する。また、本実施形態の姿勢制御ECU55には、車両1の前後方向加速度(前後G)を検出する加速度センサ73の出力信号G1、及び車両1の幅方向加速度(横G)を検出する加速度センサ74の出力信号G2が入力される。更に、この姿勢制御ECU55には、ステアリングセンサ75により検出される操舵角θhや車速V、或いはアクセル信号Sac及びブレーキ信号Sbk等、各種の車両状態量や制御信号が入力される。そして、本実施形態の姿勢制御ECU55は、これらの車両情報に基づいて、アッパーボディ4の揺動姿勢を最適化すべく、その前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52の作動を制御する構成になっている。
図10に示すように、本実施形態の姿勢制御ECU55は、前後方向揺動アクチュエータ51の制御信号Sm1を生成する前後方向傾斜制御部81と、幅方向揺動アクチュエータ52の制御信号Sm2を生成する幅方向傾斜制御部82と、を備えている。
具体的には、本実施形態の前後方向傾斜制御部81には、アクセル信号Sacに示されるアクセル開度及びブレーキ信号Sbkに示される車両の制動力に基づいて、車両1の前後方向加速度Gfrを演算(推定)する前後方向加速度演算部83が設けられている。また、前後方向傾斜制御部81には、上記加速度センサ73の出力信号G1に基づいて、その前後方向加速度演算部83において演算された前後方向加速度Gfrの補正値γ1を演算する補正値演算部84が設けられている。そして、本実施形態の前後方向傾斜制御部81は、この補正値γ1を加算した後の前後方向加速度Gfr(Gfr´)に基づいて、そのアッパーボディ4の揺動により当該アッパーボディ4に生ずる前後方向傾斜角の推定値αeを演算する前後方向傾斜角推定値演算部85を備えている。
更に、本実施形態の前後方向傾斜制御部81は、この前後方向傾斜角の推定値αeと上記傾斜角センサ71により検出された前後方向傾斜角(の実際値)αとの偏差Δαに基づいたフィードバック制御演算を実行するフィードバック制御部86を備えている。即ち、このフィードバック制御部86は、その前後方向傾斜角の推定値αeに実際値(α)を追従させるべく、前後方向揺動アクチュエータ51の制御量ε1を演算する。そして、前後方向傾斜制御部81は、このフィードバック制御部86が演算する制御量ε1に基づいて、その図示しない駆動回路に対する制御信号Sm1の出力を実行する制御信号出力部87を備えている。
一方、幅方向傾斜制御部82には、操舵角θh及び車速Vに基づいて、車両1の幅方向加速度Gsdを演算(推定)する幅方向加速度演算部93が設けられている。また、幅方向傾斜制御部82には、上記加速度センサ74の出力信号G2に基づいて、その幅方向加速度演算部93において演算された幅方向加速度Gsdの補正値γ2を演算する補正値演算部94が設けられている。そして、本実施形態の幅方向傾斜制御部82は、この補正値γ2を加算した後の幅方向加速度Gsd(Gsd´)に基づいて、そのアッパーボディ4の揺動により当該アッパーボディ4に生ずる幅方向傾斜角の推定値βeを演算する幅方向傾斜角推定値演算部95を備えている。
更に、本実施形態の幅方向傾斜制御部82は、この幅方向傾斜角の推定値βeと上記傾斜角センサ72により検出された幅方向傾斜角(実際値)βとの偏差Δβに基づいたフィードバック制御演算を実行するフィードバック制御部96を備えている。即ち、このフィードバック制御部96は、その幅方向傾斜角の推定値βeに実際値(β)を追従させるべく、幅方向揺動アクチュエータ52の制御量ε2を演算する。そして、幅方向傾斜制御部82は、このフィードバック制御部96が演算する制御量ε2に基づいて、その図示しない駆動回路に対する制御信号Sm2の出力を実行する制御信号出力部97を備えている。
尚、本実施形態の姿勢制御ECU55は、図示しないローパスフィルタを通した上で、その各加速度センサ73,74の出力信号G1,G2を各補正値演算部84,94に入力する。また、その加速度(Gfr,Gsd)に応じた傾斜角(α,β)の推定、つまり、前後方向加速度演算部83及び幅方向加速度演算部93における推定値αe,βeの演算は、それぞれ、シミュレーションや実験等により得られた一次の近似式(y=Ax+B)を用いて行われる。更に、上記各フィードバック制御部86,96においては、そのフィードバック制御としてPID(比例・積分・微分)制御が実行される。そして、上記各制御信号出力部87,97は、制御信号Sm1,Sm2として、前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52の駆動源となる各モータ64,69の作動を制御するモータ制御信号の生成及び出力を実行する構成になっている。
即ち、本実施形態の姿勢制御ECU55において、前後方向傾斜制御部81は、車両の前後方向加速度Gfrから演算される前後方向傾斜角の推定値αeよりも実際値(α)が小さい場合には、そのアッパーボディ4の前後方向傾斜角αが増大する方向の駆動力を前後方向揺動アクチュエータ51に発生させるような制御信号Sm1を生成する。そして、前後方向傾斜角の推定値αeよりも実際値(α)が大きい場合には、そのアッパーボディ4の前後方向傾斜角αが減少する方向の駆動力を前後方向揺動アクチュエータ51に発生させるような制御信号Sm1を生成する。
同様に、幅方向傾斜制御部82は、車両の幅方向加速度Gsdから演算される前後方向傾斜角の推定値βeよりも実際値(β)が小さい場合には、そのアッパーボディ4の幅方向傾斜角βが増大する方向の駆動力を幅方向揺動アクチュエータ52に発生させるような制御信号Sm2を生成する。更に、幅方向傾斜制御部82は、幅方向傾斜角の推定値βeよりも実際値(β)が大きい場合には、そのアッパーボディ4の幅方向傾斜角βが減少する方向の駆動力を幅方向揺動アクチュエータ52に発生させるような制御信号Sm2を生成する。そして、本実施形態の車両制御装置60は、これにより、その振子機構10の作動によるアッパーボディ4の揺動姿勢を最適化する構成になっている。
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)車両制御装置60は、車両1のアンダーボディ3とアッパーボディ4との間に介在されることにより、そのアンダーボディ3に対するアッパーボディ4の揺動を許容する振子機構10を備える。また、車両制御装置60は、この振子機構10が形成する支点(P1,P2)回りに揺動するアッパーボディ4の傾斜角(α,β)を変更可能な駆動力を発生するアクチュエータ(51,52)と、このアクチュエータ(51,52)の作動を制御する揺動制御部としての姿勢制御ECU55と、を備える。そして、姿勢制御ECU55は、車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づいた傾斜角の推定値(αe,βe)よりも、その傾斜角の実際値(α,β)が小さい場合には、その傾斜角(α,β)を増大させ、その推定値(αe,βe)よりも実際値(α,β)が大きい場合には、その傾斜角を減少させるべく、アクチュエータ(51,52)を制御する。
上記構成によれば、乗員の乗車位置による重心移動、或いは横風のような外部要因等、外乱の影響に依らず、その振子機構10の作動により生ずるアッパーボディ4の傾斜角(α,β)、つまりは揺動姿勢を最適化することができる。特に、車両1の加速度に基づいた自律的な揺動により生ずる傾斜角(α,β)が不足する場合であっても、その不足分をアクチュエータ(51,52)の駆動力により補うことができる。そして、これにより、良好な乗り心地を確保することができる。
更に、自律的に揺動する振子機構10にアクチュエータ(51,52)を組み合わせることにより、小さな出力でアッパーボディ4の揺動姿勢を制御することができる。そして、これにより、装置の小型化及び省エネルギー化を図ることができる。
(2)姿勢制御ECU55は、車両1の加速度に基づいた揺動によりアッパーボディ4に生ずる傾斜角の推定値(αe,βe)と実際値(α,β)との偏差(Δα,Δβ)に基づくフィードバック制御の実行によって、その傾斜角の推定値(αe,βe)に実際値(α,β)を追従させるべく、アクチュエータ(51,52)の作動を制御する。これにより、より好適に、外乱の影響に依らず、その振子機構10の作動によるアッパーボディ4の揺動姿勢を最適化することができる。
(3)振子機構10は、車両1の幅方向におけるアッパーボディ4の揺動を許容する幅方向揺動部42を備える。
即ち、走行する車両1には、その旋回に伴う幅方向の加速度(幅方向加速度Gsd)が発生する。この点、上記構成によれば、この幅方向加速度Gsdに基づいて、その重心が形成される下端部4b側を車幅方向、慣性力(遠心力)の働く方向に振り出すかたちで、自律的に、そのアッパーボディ4が揺動する。そして、これにより、車両走行時における良好な乗り心地を確保することができる。
(4)振子機構10は、車両1の前後方向におけるアッパーボディ4の揺動を許容する前後方向揺動部41を備える。
即ち、走行する車両1には、その加減速に伴う前後方向の加速度(前後方向加速度Gfr)が発生する。この点、上記構成によれば、この前後方向加速度Gfrに基づいて、その重心が形成される下端部4b側を車両前後方向、慣性力の働く方向に振り出すかたちで、自律的に、そのアッパーボディ4が揺動する。そして、これにより、車両走行時における良好な乗り心地を確保することができる。
(5)特に、これらの前後方向揺動部41及び幅方向揺動部42が連動することにより、そのアッパーボディ4について、車両1の水平方向における全方位の揺動を許容することができる。そして、これにより、より良好な乗り心地を確保することができる。
(6)振子機構10は、そのアッパーボディ4の揺動を許容する方向に延びる弧状体(11,15,22)と、この弧状体の湾曲面(11u,11l,15u,15l,22u,22l)に摺接する回転体としてのローラー(31~34)と、を備える。
上記構成によれば、アッパーボディ4を安定的にアンダーボディ3の上方に支持するとともに、そのアッパーボディ4を円滑に揺動させることができる。そして、その弧状体の湾曲形状に基づいて、アッパーボディ4の揺動支点(P1,P2)を任意に設定することができる。
(7)姿勢制御ECU55は、車両1の状態量に基づいて、その車両1の加速度(Gfr,Gsd)を推定する加速度推定部としての前後方向加速度演算部83及び幅方向加速度演算部93を備える。そして、これにより推定された車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づいて、アッパーボディ4に生ずる傾斜角の推定値(αe,βe)を演算する傾斜角推定値演算部としての前後方向傾斜角推定値演算部85及び幅方向傾斜角推定値演算部95を備えること、を特徴とする車両制御装置。
即ち、加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)には、ノイズが混入する可能性がある。そして、これにより、その演算される傾斜角の推定値(αe,βe)が大きく変動する可能性がある。しかしながら、上記構成によれば、このような制御目標値の変動を抑制することができる。そして、これにより、安定的に、そのアッパーボディ4の揺動姿勢を制御することができる。
(8)姿勢制御ECU55は、車両1に設けられた加速度センサ(73,74)の出力信号(G1,G2)に基づいて、その推定された加速度(Gfr,Gsd)の補正値(γ1,γ2)を演算する補正値演算部(84,94)を備える。これにより、より精度よく、アッパーボディ4に生ずる傾斜角の推定値(αe,βe)を演算することができる。
(9)前後方向加速度演算部83は、車両1の状態量として、そのアクセル信号Sacに示されるアクセル開度及びブレーキ信号Sbkに示される車両の制動力に基づいて、車両1の前後方向加速度Gfrを演算(推定)する。そして、幅方向加速度演算部93は、操舵角θh及び車速Vに基づいて、車両1の幅方向加速度Gsdを演算(推定)する。これにより、精度よく、車両1の前後方向加速度Gfr及び幅方向加速度Gsdを推定することができる。
(10)姿勢制御ECU55は、車両1の状態量(θh,V)及び制御信号(Sac,Sbk)に基づいて、車両1の加速度(Gfr,Gsd)を推定する。更に、加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に基づいて、その補正値(γ1,γ2)を演算する。そして、これにより、補正された加速度の値(Gfr´,Gsd´)に基づいて、その振子機構10の作動によりアッパーボディ4に生じる傾斜角の推定値(αe,βe)を演算する。
[第2の実施形態]
以下、車両制御装置を具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。尚、説明の便宜上、上記第1の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して、その説明を省略することとする。
図11及び図12(a)(b)に示すように、本実施形態の車両制御装置100において、前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102には、それぞれ、駆動源となるモータ64,69とともに、その駆動力の伝達経路L1,L2を切断可能なクラッチ装置111,112が設けられている。
詳述すると、本実施形態の前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102は、上記第1の実施形態における前後方向揺動アクチュエータ51及び幅方向揺動アクチュエータ52と同様、それぞれ、そのモータ64,69の回転を減速してピニオンギヤ63,68に出力する駆動ユニット121,122を備えている。また、本実施形態のクラッチ装置111,112は、電磁クラッチとしての構成を有している。更に、これらのクラッチ装置111,112は、それぞれ、そのモータ64,69からピニオンギヤ63,68及びセクターギヤ61,66に至る駆動力の伝達経路L1,L2におけるモータ64,69と減速機131,132との間の位置に設けられている。そして、本実施形態の車両制御装置100においてもまた、これらの前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102は、姿勢制御ECU155によって、その作動が制御されている。
尚、本実施形態の車両制御装置100において、前後方向揺動アクチュエータ101の駆動ユニット121及び幅方向揺動アクチュエータ102の駆動ユニット122には、そのクラッチ装置111,112よりもピニオンギヤ63,68側、つまり出力側の位置に、パルスセンサとしての構成を有する回転センサ141,142が設けられている。更に、本実施形態の姿勢制御ECU155は、これらの回転センサ141,142が出力するパルス信号をカウントする。そして、これにより、これらの回転センサ141,142を傾斜角センサ71,72に用いることで、クラッチ装置111,112の作動により駆動力の伝達経路L1,L2が切断された状態においても、正しく、そのアッパーボディ4に生じた前後方向傾斜角α及び幅方向傾斜角βを検出可能な構成となっている。
図13に示すように、本実施形態の姿勢制御ECU155は、前後方向傾斜制御部81及び幅方向傾斜制御部82に加え、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102に設けられたクラッチ装置111,112の制御信号Sc1,Sc2を生成するクラッチ制御部160を備えている。具体的には、本実施形態の姿勢制御ECU155において、このクラッチ制御部160には、アッパーボディ4に生じた前後方向傾斜角α及び幅方向傾斜角β、並びに前後方向傾斜制御部81及び幅方向傾斜制御部82で用いられる車両1の前後方向加速度Gfr及び幅方向加速度Gsd(Gfr´,Gsd´)が入力される。更に、本実施形態のクラッチ制御部160は、これらの車両状態量に基づいて、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102が発生する駆動力の伝達経路L1,L2を切断すべきか否かを判定する。そして、この判定結果に基づいて、そのクラッチ装置111,112の制御信号Sc1,Sc2を生成する構成になっている。
詳述すると、図14に示すように、本実施形態のクラッチ制御部160は、アッパーボディ4の揺動により当該アッパーボディ4に生ずる前後方向傾斜角α及び幅方向傾斜角βの変化に対し、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102の作動に応答遅れが発生するか否かを判定する応答遅れ判定部161を備えている。更に、この応答遅れ判定部161は、その応答遅れの発生判定に基づいて、クラッチ装置111,112をオフ作動させるか否か、即ち駆動力の伝達経路L1,L2を切断するか否かを決定する。そして、本実施形態のクラッチ制御部160は、この応答遅れ判定部161の決定に基づいて、そのクラッチ装置111,112の制御信号Sc1,Sc2を切り替える切替制御部162を備えている。
即ち、アッパーボディ4に生じた傾斜角(α,β)の変化に対し、そのアクチュエータ(101,102)の作動に応答遅れが発生することによって、このアクチュエータ(101,102)が、その車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づき揺動するアッパーボディ4の負荷となる。このアクチュエータ(101,102)の応答遅れは、例えば、車両衝突時や、路面の段差を乗り越える際、或いは急停車や急カーブの走行等により発生する。そして、これによりアッパーボディ4の揺動が阻害されることで、そのアッパーボディ4が形成する車室空間内の乗員に違和感を与える可能性がある。
また、このようなアクチュエータ(101,102)の応答遅れは、例えば、所謂スラローム走行時等、アッパーボディ4に生ずる傾斜角(α,β)の変化方向が反転する場合にも発生しやすい傾向がある。そして、このような場合もまた、そのアクチュエータ(101,102)が揺動するアッパーボディ4の負荷となることで、例えば、その減速機(131,132)や、ピニオンギヤ63,68及びセクターギヤ61,66の噛合部等において、そのギヤ歯が衝突することにより異音や衝撃荷重が発生する等、車両1の乗員に違和感を与える可能性がある。
この点を踏まえ、本実施形態のクラッチ制御部160は、前後方向揺動アクチュエータ101又は幅方向揺動アクチュエータ102の何れかの作動に応答遅れが発生すると判定した場合には、これらのクラッチ装置111,112をオフ作動、即ち駆動力の伝達経路L1,L2を切断すべき旨の制御信号Sc1,Sc2を生成する。そして、本実施形態の車両制御装置100は、これにより、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102がアッパーボディ4の揺動を妨げない構成になっている。
さらに詳述すると、本実施形態の応答遅れ判定部161は、車両1の前後方向加速度Gfr及び幅方向加速度Gsdの変化に基づいて、その応答遅れの発生判定を実行する加速度変化判定部163を備えている。
具体的には、図15のフローチャートに示すように、本実施形態の応答遅れ判定部161において、加速度変化判定部163は、入力される車両1の前後方向加速度Gfrを監視することにより、その単位時間あたりの加速度変化ΔGfrを演算する(ステップ1101)。更に、加速度変化判定部163は、この車両前後方向の加速度変化ΔGfrと所定の閾値TH1とを比較し(ステップ1102)、その加速度変化ΔGfrが閾値TH1を超える場合(ΔGfr>TH1、ステップ1102:YES)に、その前後方向揺動アクチュエータ101に応答遅れが発生すると判定する(ステップ1103)。そして、これにより、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102が発生する駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動を決定する(ステップ1104)。
また、加速度変化判定部163は、入力される車両1の幅方向加速度Gsdを監視することにより、その単位時間あたりの加速度変化ΔGsdを演算する(ステップ1105)。更に、加速度変化判定部163は、この車幅方向の加速度変化ΔGsdと所定の閾値TH2とを比較し(ステップ1106)、その加速度変化ΔGsdが閾値TH2を超える場合(ΔGsd>TH2、ステップ1106:YES)に、上記ステップ1103において、その幅方向揺動アクチュエータ102に応答遅れが発生すると判定する。そして、この場合についてもまた、上記ステップ1104において、その駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動を決定する。
尚、加速度変化判定部163は、車両前後方向の加速度変化ΔGfrが閾値TH1であり(ΔGfr≦TH1、ステップ1102:NO)、且つ車幅方向の加速度変化ΔGsdが閾値TH2以下である場合(ΔGsd≦TH2、ステップ1106:NO)に、アクチュエータ(101,102)に応答遅れがないと判定する(ステップ1107)。そして、本実施形態のクラッチ制御部160は、これにより、そのクラッチ装置111,112のオン作動を決定することで、その駆動力の伝達経路L1,L2を接続状態に維持する構成になっている(ステップ1108)。
また、図14に示すように、本実施形態の応答遅れ判定部161は、前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102の駆動源であるモータ64,69がアッパーボディ4の揺動に追従して回転可能であるか否かに基づいて、その応答遅れの発生判定を実行するモータ回転判定部164を備えている。具体的には、本実施形態のクラッチ制御部160は、入力されるアッパーボディ4の前後方向傾斜角α及び幅方向傾斜角βに基づいて、その角加速度Gα,Gβを演算する傾斜角加速度演算部165を備えている。そして、本実施形態のモータ回転判定部164は、これらの前後方向傾斜角αの角加速度Gα及び幅方向傾斜角βの角加速度Gβを用いることにより、そのモータ64,69の追従性に基づいた応答遅れの発生判定を実行する構成になっている。
即ち、図16に示すように、アッパーボディ4の傾斜角(α,β)が変化する場合に、その角加速度Gα,Gβが大きいほど、この傾斜角(α,β)の変化に追従、つまりは前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102の応答遅れを発生させないために必要なモータ64,69の回転速度N1,N2もまた高くなる。本実施形態のモータ回転判定部164においては、このようなアクチュエータ(101,102)の応答遅れを発生させないために必要なモータ64,69の回転速度N1,N2と傾斜角の角加速度Gα,Gβとの関係が、シミュレーションや実験等により予め求められ、図16に示すマップM1のような形式で保持されている。そして、本実施形態のモータ回転判定部164は、これにより、アッパーボディの揺動により生ずる傾斜角(α,β)の変化に対し、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102の各モータ64,69が、必要な回転速度N1,N2で回転可能であるかに基づいて、その応答遅れの発生判定を実行する構成になっている。
詳述すると、図17のフローチャートに示すように、本実施形態のモータ回転判定部164は、先ず、アッパーボディ4について、その傾斜角の角加速度Gα,Gβを取得する(ステップ1201)。次に、モータ回転判定部164は、前後方向傾斜角αの角加速度Gαに基づき、前後方向揺動アクチュエータ101について、その応答遅れが発生しないモータ64の回転速度N1を演算する(ステップ1202)。更に、この回転速度N1でモータ64が回転可能であるか否かを判定し(ステップ1203)、回転できないと判定した場合(ステップ1203:NO)には、その前後方向揺動アクチュエータ101に応答遅れが発生すると判定する(ステップ1204)。そして、これにより、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102が発生する駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動、つまりは、その伝達経路L1,L2の切断を決定する(ステップ1205)。
また、モータ回転判定部164は、幅方向傾斜角βの角加速度Gβに基づき、幅方向揺動アクチュエータ102について、その応答遅れが発生しないモータ69の回転速度N2を演算する(ステップ1206)。更に、この回転速度N2でモータ69が回転可能であるか否かを判定し(ステップ1207)、回転できないと判定した場合(ステップ1207:NO)には、上記ステップ1204において、その幅方向揺動アクチュエータ102に応答遅れが発生すると判定する。そして、この場合についてもまた、上記ステップ1205において、その駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動を決定する。
尚、本実施形態のモータ回転判定部164は、上記回転速度N1で前後方向揺動アクチュエータ101のモータ64が回転可能(ステップ1203:YES)、且つ上記回転速度N2で幅方向揺動アクチュエータ102のモータ69が回転可能な場合(ステップ1207:YES)に、その応答遅れがないものと判定する(ステップ1208)。そして、本実施形態のクラッチ制御部160は、これにより、そのクラッチ装置111,112のオン作動を決定することで、その駆動力の伝達経路L1,L2を接続状態に維持する構成になっている(ステップ1209)。
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)車両制御装置100は、アクチュエータ(101,102)が発生する駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断可能なクラッチ装置(111,112)を備える。
上記構成によれば、その駆動力の伝達経路(L1,L2)において、アクチュエータ(101,102)をアッパーボディ4から切り離すことができる。そして、これにより、その振子機構10の作動に基づいて、アッパーボディ4を自由に揺動させることができる。
例えば、車両衝突時等、振子機構10の作動に基づきアッパーボディ4の傾斜角(α,β)が急峻に変化するような状況が発生した場合に、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させることで、そのアクチュエータ(101,102)が、揺動するアッパーボディ4の負荷にならないようにすることができる。その結果、その衝突時の衝撃を車両1の乗員が感じ難くすることができる。また、例えば、車両整備時においても、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させることにより、整備用の設備、或いは人力等の外力によって、円滑に、そのアッパーボディ4を揺動させることができる。そして、これにより、作業性の向上を図ることができる。
(2)姿勢制御ECU155は、アッパーボディ4の揺動により当該アッパーボディ4に生ずる傾斜角(α,β)の変化に対し、アクチュエータ(101,102)の作動に応答遅れが発生する場合に、そのクラッチ装置(111,112)の作動を制御して駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断するクラッチ制御部160を備える。
即ち、アッパーボディ4に生じた傾斜角(α,β)の変化に対し、そのアクチュエータ(101,102)の作動に応答遅れが発生することで、このアクチュエータ(101,102)が、その車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づき揺動するアッパーボディ4の負荷となる。しかしながら、上記構成によれば、このような場合に、速やかに、その駆動力の伝達経路(L1,L2)において、アクチュエータ(101,102)をアッパーボディ4から切り離すことができる。そして、これにより、そのアッパーボディ4の揺動をアクチュエータ(101,102)が妨げないようにすることで、良好な乗り心地を確保することができる。
(3)クラッチ制御部160は、車両1の加速度変化(ΔGfr,ΔGsd)が所定の閾値(TH1,TH2)を超える場合に、駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断すべく、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させる。
即ち、車両1の加速度(Gfr,Gs)が大きく変化することで、アッパーボディ4の傾斜角(α,β)が急峻に変化する。そして、これにより、そのアクチュエータ(101,102)の作動に応答遅れが発生しやすくなる。従って、上記構成によれば、適切に駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断して、アクチュエータ(101,102)がアッパーボディ4の揺動を妨げないようにすることができる。
(4)クラッチ制御部160は、アクチュエータ(101,102)の応答遅れを発生させないために必要なモータ(64,69)の回転速度、つまりは応答遅れが発生しない回転速度(N1,N2)でモータ(64,69)が回転できない場合に、駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断すべく、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させる。
即ち、アクチュエータ(101,102)の応答遅れは、その駆動源であるモータ(64,69)の回転性能を超えて、アッパーボディ4の傾斜角(α,β)が急峻に変化することにより発生する。従って、上記構成によれば、適切に駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断して、そのアクチュエータ(101,102)がアッパーボディ4の揺動を妨げないようにすることができる。
(5)クラッチ制御部160は、アッパーボディ4に生ずる傾斜角の角加速度(Gα,Gβ)に基づいて、アクチュエータ(101,102)に応答遅れが生じないモータ(64,69)の回転速度(N1,N2)を演算する。これにより、精度よく、そのアクチュエータ(101,102)の応答遅れを発生させないために必要なモータ(64,69)の回転速度(N1,N2)を演算することができる。
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記各実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記各実施形態では、姿勢制御ECU55は、車両1の加速度に基づいたアッパーボディ4の揺動により生ずる傾斜角の推定値(αe,βe)と実際値(α,β)との偏差(Δα,Δβ)に基づくフィードバック制御の実行により、そのアクチュエータ(51,52)の制御量(ε1,ε2)を演算することとした。しかし、これに限らず、車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づいた傾斜角の推定値(αe,βe)よりも傾斜角の実際値(α,β)が小さい場合には、その傾斜角(α,β)を増大させ、その推定値よりも実際値が大きい場合には、その傾斜角を減少させるものであれば、制御量(ε1,ε2)の演算方法は、任意に変更してもよい。例えば、フィードフォワード制御の実行により、或いは、フィードフォワード制御及びフィードバック制御の組み合わせによって、そのアクチュエータ(51,52)の作動を制御する構成であってもよい。
・上記各実施形態では、車両1の状態量(θh,V)及び制御信号(Sac,Sbk)に基づき車両1の加速度を推定する。そして、その推定された加速度(Gfr,Gsd)を加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に基づく補正値(γ1,γ2)より補正した値(Gfr´,Gsd´)に基づいて、その車両1の加速度に基づいた揺動によりアッパーボディ4に生じる傾斜角の推定値(αe,βe)を演算することとした。
しかし、これに限らず、加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に基づいた実測値を主たる入力として、その傾斜角の推定値(αe,βe)を演算する構成としてもよい。尚、この場合、例えば、その傾斜角の推定値(αe,βe)について、一演算当たりの変化量に制限(ガード値)を設けるとよい。そして、これにより、その加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に混入するノイズの影響を抑えて、安定的に、そのアッパーボディ4の揺動姿勢を制御することができる。
・また、推定された加速度(Gfr,Gsd)のみを用いて傾斜角の推定値(αe,βe)を演算する構成であってもよい。更に、加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に基づく実測値のみを用いて傾斜角の推定値(αe,βe)を演算する構成であってもよい。そして、制御信号に示されるものを含め、操舵角θh、車速V、アクセル信号Sac、及びブレーキ信号Sbk以外の状態量を加速度の推定に用いる構成としてもよい。
・上記各実施形態では、車両1の加速度(Gfr,Gsd)に応じた傾斜角(α,β)の推定、つまり、前後方向加速度演算部83及び幅方向加速度演算部93における推定値αe,βeの演算は、それぞれ、シミュレーションや実験等により得られた一次の近似式(y=Ax+B)を用いて行われることとした。
しかし、これに限らず、例えば、図18に示すように、その車両1の加速度(Gfr,Gsd)と傾斜角の推定値(αe,βe)との関係が規定されたマップM0を用いて演算する構成であってもよい。そして、上記第2の実施形態において、アッパーボディ4の揺動により生ずる傾斜角の角加速度(Gα,Gβ)に基づきアクチュエータ(101,102)に応答遅れが生じないモータ64,69の回転速度N1,N2を演算する際についても、例えば、一次の近似式等、所定の演算式を用いる構成であってもよい。
・上記各実施形態では、振子機構10は、車両1の前後方向におけるアッパーボディ4の揺動を許容する前後方向揺動部41と、車両1の幅方向におけるアッパーボディ4の揺動を許容する幅方向揺動部42と、を備えることとした。しかし、これに限らず、その振子機構10が、前後方向揺動部41のみを備える構成であってもよく、幅方向揺動部42のみを備える構成であってもよい。
・更に、車両1の前後方向及び幅方向に限らず、互いに直交する第1方向及び第2方向にアッパーボディ4の揺動を許容する第1方向揺動部及び第2方向揺動部を備える構成であってもよい。このような構成としても、第1方向揺動部及び第2方向揺動部が連動することで、その第1方向及び第2方向を含む平面(例えば、水平面)における全方位の揺動を許容することができる。そして、これにより、より良好な乗り心地を確保することができる。
・上記各実施形態では、車両1の乗員35が車室内で起立していると仮定した場合に、この乗員35の頭部35hが配置される位置、或いは、その頭部35hよりも上方の位置にアッパーボディ4の各揺動支点P1,P2が形成されることとしたが、その形成位置は、任意に変更してもよい。
・また、上記各実施形態では、アンダーボディ3に固定された各弧状体11,15と、ミドルボディ25に固定された状態で各弧状体11,15の上側湾曲面11u,15uに摺接する各メインローラー31によって、その振子機構10の前後方向揺動部41が形成される。そして、アッパーボディ4の下面4sに固定された各弧状体22と、ミドルボディ25に固定された状態で各弧状体22の下側湾曲面22lに摺接する各メインローラー32によって、その振子機構10の幅方向揺動部42が形成されることとした。しかし、これに限らず、車両1の加速度に基づいて、その重心が形成される下端部4b側を慣性力の働く方向に振り出すかたちで、自律的にアッパーボディ4が揺動する構成であれば、例えば、アンダーボディ3に形成された支点からアッパーボディ4が吊り下げられる等、その振子機構10の構成は、任意に変更してもよい。
・上記第2の実施形態では、前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102の何れかに作動の遅れが発生すると判定した場合には、その駆動力の伝達経路L1,L2に設けられた両方のクラッチ装置111,112をオフ作動させることとした。しかし、これに限らず、車両前後方向の伝達経路L1に設けられたクラッチ装置111と車幅方向の伝達経路L2に設けられたクラッチ装置112とを、それぞれ、個別に制御する構成であってもよい。そして、車両前後方向の伝達経路L1又は車幅方向の伝達経路L2の何れか一方にのみ、このようなクラッチ装置を設ける構成であってもよい。
・上記第2の実施形態では、車両1の加速度変化(ΔGfr,ΔGsd)が所定の閾値(TH1,TH2)を超える場合に、アクチュエータ(101,102)の応答遅れが発生すると判定して、その駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断すべく、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させることとした。しかし、これに限らず、アッパーボディ4の揺動により生ずる傾斜角の角加速度変化(ΔGα,ΔGβ)に基づいて、そのアクチュエータ(101,102)の応答遅れ判定を行う構成としてもよい。
例えば、図19のフローチャートに示すように、アッパーボディ4について、その傾斜角の角加速度Gα,Gβを取得する(ステップ1301)。また、前後方向傾斜角αについての角加速度Gαを監視することにより、その単位時間あたりの角加速度変化ΔGαを演算する(ステップ1302)。更に、この車両前後方向の角加速度変化ΔGαと所定の閾値TH3とを比較し(ステップ1303)、その角加速度変化ΔGαが閾値TH3を超える場合(ΔGα>TH3、ステップ1303:YES)に、その前後方向揺動アクチュエータ101に応答遅れが発生すると判定する(ステップ1304)。そして、これにより、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102が発生する駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動を決定する(ステップ1305)。
また、アッパーボディ4の幅方向傾斜角βについての角加速度Gβを監視することにより、その単位時間あたりの角加速度変化ΔGβを演算する(ステップ1306)。更に、この幅方向の角加速度変化ΔGβと所定の閾値TH4とを比較し(ステップ1307)、その角加速度変化ΔGβが閾値TH4を超える場合(ΔGβ>TH4、ステップ1307:YES)に、ステップ1304において、その幅方向揺動アクチュエータ102に応答遅れが発生すると判定する。そして、この場合についてもまた、上記ステップ1305において、その前後方向揺動アクチュエータ101及び幅方向揺動アクチュエータ102が発生する駆動力の伝達経路L1,L2に設けられたクラッチ装置111,112のオフ作動を決定する。
即ち、車両1の加速度変化(ΔGfr,ΔGsd)が大きいほど、そのアッパーボディ4に生ずる傾斜角の角加速度変化(ΔGα,Gβ)もまた大きくなる。従って、このような構成としても、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
・更に、上記第2の実施形態では、アッパーボディ4に生ずる傾斜角の角加速度(Gα,Gβ)に基づいて、アクチュエータ(101,102)に応答遅れが生じないモータ(64,69)の回転速度(N1,N2)を演算することとした。しかし、これに限らず、車両1の加速度(Gfr,Gsd)に基づいて、アクチュエータ(101,102)に応答遅れが生じないモータ(64,69)の回転速度(N1,N2)を演算する構成としてもよい。尚、この場合もまた、シミュレーションや実験等により、予め、その車両1の加速度(Gfr,Gsd)とアクチュエータ(101,102)の応答遅れが発生しないモータ64,69の回転速度N1,N2と関係を求め、マップや演算式等のかたちで保持する構成とすればよい。そして、これにより、上記第2の実施形態と同様の効果を得ることができる。
・また、クラッチ制御部160の応答遅れ判定部161が、加速度変化判定部163又はモータ回転判定部164の何れか一方のみを備える構成であってもよい。そして、その他の方法、或いはこれらの組み合わせにより、アクチュエータ(101,102)の応答遅れを判定して、クラッチ装置(111,112)の作動を制御する構成としてもよい。
・更に、図20のフローチャートに示すように、アクチュエータ(101,102)の駆動源であるモータ(64,69)の回転方向が反転するか否かを判定する(ステップ1401)。そして、その回転方向が反転すると判定した場合(ステップ1401:YES)に、駆動力の伝達経路(L1,L2)を切断すべく、クラッチ装置(111,112)をオフ作動させる構成としてもよい(ステップ1402)。
即ち、モータ(64,69)の回転方向が反転することで、そのアクチュエータ(101,102)の発生する駆動力の方向もまた反転する。そして、このような場合には、そのアクチュエータ(101,102)の動作と振子機構10の動作との間に乖離が生じやすい傾向がある。
しかしながら、上記構成によれば、このような動作の乖離が生じやすい瞬間を捉え、その駆動力の伝達経路(L1,L2)において、アクチュエータ(101,102)をアッパーボディ4から切り離すことができる。そして、これにより、減速機(131,132)やピニオンギヤ63,68及びセクターギヤ61,66の噛合部等において、そのギヤ歯が衝突しないようにすることができる。その結果、異音や衝撃荷重の発生を抑制して、より良好な乗り心地を確保することができる。
・上記第2の実施形態では、クラッチ装置111,112は、駆動源となるモータ64,69からピニオンギヤ63,68及びセクターギヤ61,66に至る駆動力の伝達経路L1,L2におけるモータ64,69と減速機131,132との間の位置に設けられることとした。しかし、これに限らず、減速機131,132とピニオンギヤ63,68との間の位置に設ける構成であってもよい。そして、伝達経路L1,L2に設けられた回転センサ141,142を傾斜角センサ71,72に用いる場合、その配置は、クラッチ装置111,112よりもピニオンギヤ63,68側、つまりは出力側の位置に設定するとよい。
・また、上記第2の実施形態では、クラッチ装置111,112は、電磁クラッチとしての構成を有することとしたが、例えば、油圧式等、その駆動方式を含め、クラッチ装置の構成は任意に変更してもよい。更に、クラッチ装置の制御装置についても任意に変更してもよい。例えば、手動操作によりクラッチ装置のオン/オフ状態を切替可能なものであってもよい。そして、例えば、車両衝突時等、車両1に特定の事象が発生した場合に、その駆動力の伝達経路を切断する構成であってもよい。
・上記第2の実施形態では、クラッチ制御部160には、前後方向傾斜制御部81及び幅方向傾斜制御部82で用いられる車両1の前後方向加速度Gfr及び幅方向加速度Gsd(Gfr´,Gsd´)が入力されることとした。しかし、これに限らず、加速度センサ(71,72)の出力信号(G1,G2)に基づく実測値を用いて、そのクラッチ装置111,112の作動を制御する構成であってもよい。
・更に、例えば、衝突の発生、段差の乗り越え、急停止や急発進、或いはスラローム走行等、車両1の走行状態を予測して、そのアクチュエータ(101,102)の作動を制御する構成としてもよい。このような構成を採用することで、より円滑に、そのアッパーボディ4の揺動姿勢を制御することができる。そして、より周波数の高い車両1の挙動にも対応することができる。
例えば、図21に示す姿勢制御ECU255は、車速V、並びにカーナビ等の情報端末から得られる車両1の位置情報Igps及び地図情報Imap等に基づいて、上記のような車両1の走行状態を予測する走行予測制御部270を備えている。更に、この走行予測制御部270は、その予測した走行状態において車両1に発生する加速度の予測成分ηとして、前後方向加速度Gfrの予測成分η1及び幅方向加速度Gsdの予測成分η2を演算する。そして、姿勢制御ECU255は、これらの予測成分ηに基づいて、そのアクチュエータ(101,102)の駆動源であるモータ(64,69)、及びクラッチ装置(111,112)の作動を制御する。
具体的には、姿勢制御ECU255において、前後方向傾斜制御部281は、内部において演算(推定)する車両1の前後方向加速度Gfr(Gfr´、図10参照)、及び上記走行予測制御部270が演算する前後方向加速度Gfrの予測成分η1に基づいて、その前後方向揺動アクチュエータ51の制御信号Sm1を生成する。同様に、幅方向傾斜制御部282もまた、その内部において演算(推定)する車両1の幅方向加速度Gsd(Gsd´)、及び上記走行予測制御部270が演算する幅方向加速度Gsdの予測成分η2に基づいて、幅方向揺動アクチュエータ52の制御信号Sm2を生成する。更に、クラッチ制御部260もまた、前後方向加速度Gfr及び幅方向加速度Gsdに加え、これらの予測成分η1,η2に基づいて、そのクラッチ装置111,112の制御信号Sc1,Sc2を制御する。そして、このような構成を採用することにより、より適切に、その振子機構10の作動により生ずるアッパーボディ4の傾斜角(α,β)、つまりは揺動姿勢を制御することができる。
次に、上記各実施形態及び変更例から把握できる技術的思想について記載する。
(イ)前記クラッチ制御部は、前記アッパーボディの揺動により生ずる前記傾斜角の角加速度変化が所定の閾値を超える場合に、前記応答遅れが発生すると判定して、前記伝達経路を切断すること、を特徴とする車両制御装置。
即ち、車両の加速度変化が大きいほど、そのアッパーボディに生ずる傾斜角の角加速度変化もまた大きくなる。従って、上記構成によれば、精度よく、アクチュエータの作動に応答遅れが発生する状況を判定して、速やかに、その駆動力の伝達経路において、アクチュエータをアッパーボディから切り離すことができる。そして、これにより、そのアッパーボディの揺動をアクチュエータが妨げないようにすることで、良好な乗り心地を確保することができる。
(ロ)前記クラッチ制御部は、前記駆動力の発生方向が反転する場合に、前記伝達経路を切断すること、を特徴とする車両制御装置。
即ち、駆動力の回転方向が反転する場合には、そのアクチュエータの動作と振子機構の動作との間に乖離が生じやすい傾向がある。しかしながら、上記構成によれば、このような動作の乖離が生じやすい瞬間を捉え、その駆動力の伝達経路において、アクチュエータをアッパーボディから切り離すことができる。そして、これにより、例えば、ギヤの噛合部において、そのギヤ歯が衝突しないようにすることができる。その結果、異音や衝撃荷重の発生を抑制して、より良好な乗り心地を確保することができる。