JP7329205B2 - 多孔性吸着媒体、多孔性吸着媒体を備えた固相抽出用カートリッジ及び多孔性吸着媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
本発明の多孔性吸着媒体によれば、吸着剤(疎水性多孔質粒子)の含有量が極めて高い、通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体を得ることができる。また、疎水性多孔質粒子を接着して固定・結合させている接着剤の主成分は吸着能を有する高分子であるため、吸着容量の低下を極力抑えることができる。これにより、化学物質の抽出・分離において使用される固相抽出用の疎水性多孔質粒子の優れた機能を損なうことなく、形態の自由度が高く、取り扱いが容易な多孔性吸着媒体を提供することができる。また、適切な形態を有する小容量のカートリッジやホルダー、あるいはカラム管に装備して、化学物質の化学分析に用いられる固相抽出カートリッジとして使用することができる。
(1) 疎水性多孔質粒子の合成
疎水性多孔質粒子の合成は、懸濁重合法により行った。ジビニルベンゼン(純度:80%)60g、トリメチロールプロパントリメタクリレート40g、トルエン200g及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液1,000mL中に加え、油滴径の中心が90μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノールの順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、90~150μmの疎水性多孔質粒子(芳香族モノマー含有量:79.6mol%、架橋度:84.1mol%)42gを得た。得られた疎水性多孔質粒子を風乾後、100Pa、50℃で真空乾燥してデシケータ中に保存した。
前記(1)で得られた疎水性多孔質粒子1gと45%スチレン-ブタジエン共重合体のシクロヘキサン溶液(粘度:約1.4Pa・s)1gとを混練した。図2に示す直径8.8mm、高さ11mmの円柱状キャビティ22を持つポリプロピレン製の成形用金型21のキャビティ22の下部に孔径20μm、厚さ3mmのポリエチレン製の焼結多孔体23を挿入し、その上に疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物25を空気が入らないように金型上部まで充填し、充填層の上部に同一のポリエチレン製焼結多孔体24を置き、圧力をかけてポリエチレン製焼結体を金型に固定した。その後、金型ごと50℃に保った恒温槽中に入れ、14時間硬化させた。硬化後、硬化物を型から取り出し、上下についているポリエチレン製焼結多孔体を外し、円柱状の吸着媒体Aを得た。吸着媒体Aの直径は8.7mm、高さ4.9mmであり、直径方向で約1.2%収縮していた。吸着媒体Aの外観写真を図3に示すが、吸着媒体表面には若干の凹部が見られた。凹部の原因としては、金型のキャビティに充填する際の空気の混入が考えられる。また、混練中に希釈溶媒が揮発して粘性が増加したため、混練物中に巻き込まれた空気を除去しきれなかったことも原因と考えられる。得られた吸着媒体Aを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、カートリッジ上部にメタノール及び純水を満たして透過性を調べた。メタノール、純水ともに加圧することなく吸着媒体Aを通過して流出し、吸着媒体Aには通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
吸着媒体Aと同様の疎水性多孔質粒子と金型を用いて、同様の条件で市販の瞬間接着型のシアノアクリレート系接着剤(粘度:1Pa・s以下)を用いて吸着媒体の作製を試みた。シアノアクリレート系接着性高分子は粘度が低く、混練中に疎水性多孔質粒子に吸い込まれてしまい均一なペースト状の混練物を作製することができなかった。不均一であったが混練物を金型に入れて同一条件で硬化を行ったが、一体成形することはできず、粉体状態で金型から取り出された。取り出された粉体を顕微鏡で見たところ、一部の粒子は接着されてはいるものの、まったく接着されていない粒子も多数観察された。
実施例1と同一の条件で、市販シリル化ウレタン系接着剤(粘度:約50Pa・s)に変更して吸着媒体Cの作製を試みた。比較例1とは異なり、円筒状の成形体を得ることができた。吸着媒体Cの外観写真を図4に示す。実施例1と同様に公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、カートリッジ上部にメタノール及び純水を満たして透過性を調べたが、メタノール、純水ともに吸着媒体Cから流出してこなかった。上部に注射筒を装着して加圧したが、メタノール、純水ともに吸着媒体Cを通過することなく、吸着媒体Cには通液可能な連通孔が存在していなかった。
実施例1と同一の条件で、接着性高分子を接着剤用として調製された変性シリコーン樹脂(変性シリコーン樹脂含量:65%、粘度:約40Pa・s)に変更して吸着媒体Dの作製を試みた。但し、疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練前に、接着性高分子に対して0.5重量%となるようにカーボンブラック(平均粒子径:66nm)を接着性高分子に混合して均一に混練し、その後疎水性多孔質粒子との混練を行い、実施例1と同一の金型で成形を行った。得られた吸着媒体の成形状態は良好であった。また、高さ方向に切断して内部の状態を見たが、一部に大きめの空隙が見られた。この空隙は充填時に巻き込まれた空気によるものと思われる。しかし、疎水性多孔質粒子は脱離することなく、均一に接着されていることが判った。吸着媒体Dの外観写真を図5に示す。直径方向の収縮率は約1.5%であった。実施例1と同様に固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、メタノール及び純水を用いて透過性を調べたが、メタノールと純水ともに加圧することなく液が通過し通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。このように、一般に水を吸って固化する変性シリコーン樹脂を用いても同様の連通孔を持つ吸着媒体を作製することができるとともに、吸着機能を持つカーボンブラックの混合も可能であることが確認された。
実施例2において、変性シリコーン樹脂で多孔性吸着媒体の成形が可能であったため、変性シリコーン系シーリング剤(高粘度、ペースト状)を用いて吸着媒体Eの作製を試みた。作製条件は実施例1と同一である。吸着媒体Eの外観写真を図6に示すが、実施例2と同様に良好な成形状態であった。ここで使用した変性シリコーン系シーリング剤は弾性が高く、型から抜き出した時に高さ方向に膨張して、実施例1及び実施例2の吸着媒体よりも高さが高い成形体となった。直径方向に関しては、8.8mmで膨張も収縮もなかった。実施例1と同様に固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製し、メタノール及び純水を用いて透過性を調べたが、上部から加圧してもメタノール、純水ともに吸着媒体Eを通過することなく、吸着媒体Eには通液可能な連通孔が存在していないことが確認できた。
実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体A及び吸着媒体Eを切断して電子顕微鏡で観察した。吸着媒体Aは切断面から疎水性多孔質粒子の脱離はなかったが、比較例3の吸着媒体Eは切断すると小さい塊状で崩れてしまった。切断面の電子顕微鏡写真を図7に示す。溶液の通液が可能であった実施例1の吸着媒体Aでは、球状の疎水性多孔質粒子の粒子間に間隙が存在していることが観察された(図7a)。一方、比較例3の吸着媒体Eの切断時に脱離した塊の電子顕微鏡写真(図7b)では、疎水性多孔質粒子の存在は判るものの粒子間の間隙を明確に確認することができず、粒子間の間隙が閉塞していることが判った。
実施例1及び比較例3で作製した吸着媒体A及び吸着媒体Eの表面状態を実体顕微鏡で観察した。顕微鏡写真を図8に示す。溶液の通液が可能であった実施例1の吸着媒体Aは球状の疎水性多孔質粒子が明確に観察され、粒子間の間隙が観察された。一方、成形はできたが通液できなかった比較例3の吸着媒体Eでは、疎水性多孔質粒子の存在は判るものの粒子間の間隙を明確に観察することができなかった。また、写真中央部に疎水性多孔質粒子が存在していない変性シリコーン樹脂の大きな塊が観察された。このことから、比較例3の吸着媒体Eでは粒子間の間隙が閉塞しており、使用した変性シリコーン系シーリング剤の粘性が高いために疎水性多孔質粒子が均一に混練されていなかったことが判明した。
実施例1及び実施例2で得られた吸着媒体A及びDを約2mm角に切断し、比表面積測定を行った。吸着媒体の比表面積は、マイクロメリティックス社製トライスターII 3020を用いて、BET法にて測定を行った。測定結果を表1に示す。実施例1及び実施例2の吸着媒体A及びDの比表面積は、混練した疎水性多孔質粒子の比表面積に対して、それぞれ38.5%及び22.8%であった。しかし、多孔性吸着媒体中の疎水性多孔質粒子の含量(混練量)は50%であるため、疎水性多孔質粒子含量換算で見ると、それぞれ77.1%及び45.6%が残存していることとなる。
ビスフェノールA型エポキシ樹脂(平均分子量:約370、粘度:約14Pa・s、エポキシ当量:約190g/eq.)0.5gとジエチレントリアミン0.5gとを事前に混錬後、実施例1で得られた疎水性多孔質粒子1gとを混錬して実施例1と同一の条件で硬化させた。得られた吸着媒体の成形状態は良好であった。吸着媒体Fの外観写真を図9に示す。直径方向の収縮率は約1.5%であった。また、メタノールと純水の通液性も確認され、通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
実施例3で得られた吸着媒体Fを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに挿入して固相抽出カートリッジ(図1と同様の構造)を作製した。使用した吸着媒体F中の疎水性多孔質粒子量は、疎水性多孔質粒子と接着性高分子の配合比を1:1として吸着媒体Fの重量から求めると98mgであった。作製した固相抽出カートリッジを用いて、固相抽出法により有機化合物の吸着率を評価した。まず、カートリッジ上部からメタノール2mL、次いで純水10mLを送液して吸着媒体をコンディショニングした。その後、カフェイン、メチルパラベン、フタル酸ジメチルの各100mg/Lの水溶液1.5mLを負荷して、通過液を捕集した。さらに、純水1mLを通液して通過液も捕集した。2つの通過液を合わせた混合液中の各成分濃度をHPLCで測定して吸着媒体Fに捕捉されなかった成分量を求め、吸着媒体Fに負荷した量からこれらを差し引くことにより吸着媒体Fに吸着した量を求め吸着率を計算した。吸着率評価試験の結果を表2に示す。表2において、疎水性多孔質粒子の吸着率は、混練する前の疎水性多孔質粒子(粒子径:53~90μm)100mgを公称3mLの固相抽出用エンプティカートリッジに充填して求めたものである。吸着媒体Fは、混練前の疎水性多孔質粒子を充填した固相抽出カートリッジと同等の吸着率を示した。
分離カラム:InertSustain(登録商標)AQ-C18(充填剤粒子系:3μm,カラムサイズ:150×2.0mm I.D.)、
移動相:メタノール/水=40/60、
移動相流量:0.2mL/min、
カラム温度:40℃、
試料注入量:10μL
上記結果を受け、2種の接着性高分子を混合して疎水性多孔質粒子を混練した多孔性吸着媒体の作製を試みた。接着性高分子には、実施例1で用いたスチレン-ブタジエン共重合体、実施例2で用いた変性シリコーン樹脂、及び実施例3で用いたビスフェノールA型エポキシ樹脂を用い、それぞれを等重量で混合して使用した。スチレン-ブタジエン共重合体と変性シリコーン樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体G、スチレン-ブタジエン共重合体とビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体H、及び変性シリコーン樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体Iとした。さらに、塩化ビニル系高分子を酢酸エチルで溶解し、ビスフェノールA型エポキシ樹脂との混合接着性高分子で調製したものを吸着媒体Jとした。疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混合比は1:1として、調製条件は実施例1と同一とした。得られた吸着媒体G~Jの外観写真を図10に示す。得られた吸着媒体G~Jの通過特性は良好であり、これらには通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。表3に、評価試験4と同様の方法で評価した、2種の接着性高分子を混合して成形した吸着媒体の吸着率を示す。表3に示す通り、吸着媒体Gの吸着率が若干低かったものの、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を混合した吸着媒体H、吸着媒体I及び吸着媒体Jにおいて高い回収率が得られ、吸着率は混練した疎水性多孔質粒子と同等であった。
実施例2及び実施例3では、粒子径90~150μmの疎水性多孔質粒子を用いて多孔性吸着媒体を調製したが、疎水性多孔質粒子の粒子径のみを53~90μmに変更して、実施例2及び実施例3と同一の条件で多孔性吸着媒体を調製した。得られた多孔性吸着媒体を、それぞれ多孔性吸着媒体D-2及び多孔性吸着媒体F-2とする。これらの多孔性吸着媒体を用いて、評価試験4と同一の方法で吸着率評価を行った。結果を表4に示す。粒子径を小さくすることにより吸着媒体の吸着率は上昇し、混練した疎水性多孔質粒子と同等の吸着率となった。このように、最終的に得られる吸着媒体の吸着機能は疎水性多孔質粒子の特性に依存するため、疎水性多孔質粒子の粒子径を適切に設定することにより、吸着能を向上させることができることが確認された。
(1) 疎水性多孔質粒子の合成
疎水性多孔質粒子の合成は、懸濁重合法により行った。ジビニルベンゼン(純度:80%)85g、N-ビニルピロリドン15g、酢酸ブチル100g及び2,2’-アゾビスイソブチロニトリル1gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液1,000mL中に加え、油滴径の中心が90μmになるように攪拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノール、水の順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、90~150μmの疎水性多孔質粒子(芳香族モノマー含有量:82.9mol%、架橋度:66.3mol%)45gを得た。得られた疎水性多孔質粒子を風乾後、100Pa、50℃で真空乾燥後、デシケータ中に保存した。
前記(1)で得られた疎水性多孔質粒子5gを実施例1で用いた接着性高分子と同じスチレン-ブタジエン共重合体のシクロヘキサン溶液5gと混練した。直径18.5mm、高さ6.0mmの大型のキャビティを持つステンレス製金型のキャビティに疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物の一部を空気が入らないように金型上部まで充填した。ここでは、実施例1で使用したポリエチレン製焼結多孔体は使用せず、下部にステンレス板を引き、上部は開放系とした。その後、金型ごと50℃に保った恒温槽中に入れ、14時間硬化させた。硬化後、硬化物を型から取り出し、大型の円盤状の吸着媒体Kを得た。吸着媒体Kの外観写真を図11に示す。得られた吸着媒体Kを、図12に示すように、吸着媒体K(33)をポリテトラフルオロエチレン製のホルダーリング34にクリップ35を用いてはめ込み、ファンネル型ろ過器(31、32)を用いてメタノール及び純水を吸引して透過性を調べた。メタノール、純水ともに吸着媒体Kを通過して流出し、通液可能な連通孔が存在していることが確認できた。
12、13…フリット
14…固相抽出剤
21…成形用金型
22…キャビティ
23、24…焼結多孔体
25…疎水性多孔質粒子と接着性高分子との混練物
31、32…ファンネル型ろ過器
33…多孔性吸着媒体
34…ホルダーリング
35…クリップ
Claims (6)
- 化学分析の抽出・分離に用いる多孔性吸着媒体において、下記化学式(1)に示される単官能芳香族ビニルモノマーと下記化学式(2)に示される架橋性であるジビニルベンゼンを主成分とする懸濁共重合体からなる、吸着性を示す疎水性多孔質粒子が、疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子により接着・硬化されてなり、粒子間に通液可能な連通孔を有する多孔性吸着媒体であって、
前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、
前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つである
ことを特徴とする多孔性吸着媒体。
- 前記疎水性多孔質粒子における単官能芳香族ビニルモノマーとジビニルベンゼンとの合計含有量が、60mol%以上であることを特徴とする請求項1に記載の多孔性吸着媒体。
- 前記疎水性多孔質粒子は、極性モノマーが配合された懸濁共重合体からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の多孔性吸着媒体。
- 前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子の含有量が、疎水性多孔質粒子100重量部に対して25重量部以上300重量部以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体。
- 請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載の多孔性吸着媒体を備えたことを特徴とする固相抽出用カートリッジ。
- 吸着性を有する疎水性多孔質粒子と、前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子と、を混練し、接着・硬化させて、粒子間に通液可能な連通孔を有する吸着媒体とする多孔性吸着媒体の製造方法であって、
前記疎水性多孔質粒子の粒子径が、10μm以上200μm以下であり、
前記疎水性多孔質粒子に対して親和性を持つ高分子が、変性シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、スチレン-ブタジエン共重合体及び塩化ビニル系高分子のいずれか1つであることを特徴とする多孔性吸着媒体の製造方法。
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