レーザー照射による塗膜剥離処理では、レーザーアブレーションにより、化学薬品を使用することなく、処理対象物の表面の塗装膜を除去することができる。
しかしながら、特許文献1の開示技術におけるレーザー照射装置では、レーザー集光レンズを所定の焦点距離に固定し、その高さを保つため、処理対象物の表面にレーザー照射ヘッドを接触させた状態で、マニピュレータアームにより、処理対象物の表面の所望の位置にレーザー照射ヘッドを移動させるようにしている。
したがって、この特許文献1の開示技術では、複雑な形状や狭い空間での作業が極めて困難であり特に、突起物などを有する処理対象物の場合には角部における剥離処理作業が不可能であるという問題点があった。
また、特許文献2の開示技術では、レーザー発振器から出力されるレーザー光を集束させて構造物の表面に照射するための可搬性のあるレーザーヘッドを有するレーザー照射装置からのレーザー照射によって構造物の表面の塗膜を除去するものであって、作業者がレーザー照射装置を持って剥離処理作業を行うので、処理対象物との焦点距離を一定に保つことが困難であることから、レーザー照射装置の先端にアタッチメントを設置して、これを処理対象物に接触させた状態でレーザー照射により剥離処理作業を行う必要があった。
処理対象物に形成されている塗膜を除去する塗膜除去処理作業では、塗膜を溶解・昇華させるだけのエネルギーを塗膜に投入すればよく、レーザーヘッドの搬送速度が変動しても除去性能には特段の影響がない。
しかし、処理対象物に形成されているミルスケール(黒皮)除去するスケール除去処理作業では、極表面にのみにエネルギーを集中させなければならず、レーザー照射範囲内のレーザー強度を決定する焦点距離と照射時間を高精度で制御する必要がある。
このような要求に対し、線状レーザーをロボットで移動させる場合には、ロボット自体および負荷を合わせた慣性のため、搬送速度が変化することでレーザー照射時間が変化してしまう。また、例えば、対象物の表面が球面などの曲面である場合には、レーザー照射直下の位置では焦点距離が許容範囲内であっても、それ以外の部分では、精度が保証されない。
したがって、複雑な3次元曲面を有する複雑形状の処理対象物では、高精度のレーザー照射ができないという問題がある。
そこで、本発明の目的は、上述の如き従来の実情に鑑み、複雑な3次元曲面を有する複雑形状の処理対象物に対して、レーザー照射により確実に且つ効率よく表面処理を行うことができる下地処理方法及び下地処理装置を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、レーザー照射による下地処理作業を自動化して、作業環境を改善するとともに、作業者の安全と健康を確保することにある。
本発明の他の目的、本発明によって得られる具体的な利点は、以下に説明される実施の形態の説明から一層明らかにされる。
本発明では、複雑な3次元曲面を有する対象物の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、レーザー照射装置を搭載したマニピュレータの動作を制御して、対象物の付着物を除去する下地処理作業を行う。
また、本発明では、レーザー照射装置とともにマニピュレータに保持される形状測定装置により、対象物の三次元形状を計測して得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、対象物の処理対象領域を含むマニピュレータの作業領域内での一連の下地処理作業動作を予め記憶されている初期設定状態から自動修正して下地処理作業動作を自動的に行う。
また、本発明では、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、マニピュレータの動作を制御することにより、レーザー照射装置と対象物の処理対象領域との間の距離を一定に保つ。
また、本発明では、照射するレーザー光の光軸が処理対象の対象物の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御を行い、法線方向からのレーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理作業を行う。
また、本発明では、処理対象領域の表面形状や下地処理品質などに応じてレーザー光の照射条件を適切に設定したレーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理作業を行う。
さらに、本発明において、形状倣い制御は、対象物の三次元形状を計測する形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、ロボットの下地処理作業軌道を修正することにより、任意形状の対象物の表面形状に倣ってロボットによりレーザー照射装置を移動させることで、所定の焦点距離とレーザー照射角度を適切に制御する。
すなわち、本発明は、レーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理方法であって、対象物にレーザー光を照射するレーザー照射装置をマニピュレータにより保持して、対象物の処理対象領域を含む作業領域内で移動させ、対象物の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、マニピュレータによりレーザー照射装置の焦点距離だけそれぞれの分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置を保持した状態で、レーザー照射装置により対象物に照射するレーザー光を偏向させて、分割領域内をレーザー光で照射した後、分割領域に隣接する次の分割領域の重心位置にレーザー照射装置のレーザー照射位置をマニピュレータにより移動させて、レーザー照射装置の焦点距離だけ次の分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置を保持し、レーザー照射装置により次の分割領域内をレーザー光で照射することを繰り返し実施することにより、対象物の処理対象領域内の全分割領域をレーザー光で照射して付着物を除去することを特徴とする。
本発明に係る下地処理方法において、対象物を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて前記辺に並行に折り返してレーザー光を照射することを継続して基本形状要素内の付着物をレーザー照射により除去するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法において、折り返してレーザー光を照射する場合に、2列目以降は、前列の照射位置の中間位置にレーザー光を照射し、これを最終辺まで繰り返し行うものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法において、対象物を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて外周から中心に向かって渦巻き状にレーザー光を照射することにより、基本形状要素内の付着物を除去するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法において、基本形状要素は三角形要素であるものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法において、基本形状要素は四角形要素であるものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法において、マニピュレータはロボットアームであり、レーザー照射装置とともに対象物の三次元形状を計測する形状測定装置をマニピュレータにより保持し、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、マニピュレータの対象物の処理対象領域を含む作業領域内での一連の下地処理作業動作を予め記憶されている初期設定状態から自動修正して、下地処理作業動作を自動的に行うものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法では、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、対象物の処理対象領域におけるレーザー照射装置によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離を求め、レーザー照射装置と対象物の処理対象領域との間の距離を一定に保つように、マニピュレータの動作を制御するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法では、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、レーザー照射装置により照射されるレーザー光の光軸が対象物の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理方法では、レーザー照射装置によりパルスレーザー光を照射することによる下地処理にあって、対象物の処理前の表面性状および処理後の表面性状への要求性能に応じてレーザー照射条件を適切に設定し実施するものとすることができる。
より具体的な条件としては、本発明に係る下地処理方法では、レーザー照射装置によりパルスレーザー光を照射し、1パルス毎にX軸方向又はY軸方向にレーザー照射位置を移動させ、パルスレーザー光の照射点でのスポット径をDとし、1パルス当たりのX軸方向の送り量をΔXとしたX方向送り率αx=(ΔX/D)×100及びY軸方向の送り量をΔYとした送り率αy=(ΔY/D)×100を35%以下にしたものとすることができる。
ここで、レーザースポット径は、例えば、レーザー光をガウシアン分布としたとき、ピーク強度に対し、1/e2(eは自然対数の底:ネイピア数)に低下した時の強度での幅とする。
本発明は、レーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理装置であって、対象物にレーザー光を照射するレーザー照射装置を保持して、対象物の処理対象領域を含む作業領域内で移動させるマニピュレータと、対象物の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、マニピュレータによりレーザー照射装置の焦点距離だけそれぞれの分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置を保持した状態で、レーザー照射装置により対象物に照射するレーザー光を偏向させて、分割領域内をレーザー光で照射した後、分割領域に隣接する次の分割領域の重心位置にレーザー照射装置のレーザー照射位置をマニピュレータにより移動させて、レーザー照射装置の焦点距離だけ次の分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置を保持し、レーザー照射装置により次の分割領域内をレーザー光で照射することを繰り返し実施する制御を行う制御装置とを備え、マニピュレータにより保持されたレーザー照射装置により、対象物の処理対象領域内の全分割領域をレーザー光で照射して付着物を除去することを特徴とする。
本発明に係る下地処理装置において、レーザー照射装置は、対象物を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて前記辺に並行に折り返してレーザー光を照射することを継続して前記基本形状要素内の付着物をレーザー照射により除去するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、レーザー照射装置は、折り返してレーザー光を照射する場合に、2列目以降は、前列の照射位置の中間位置にレーザー光を照射し、これを最終辺まで繰り返し行うものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、レーザー照射装置は、対象物を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて外周から中心に向かって渦巻き状にレーザー光を照射することにより、基本形状要素内の付着物を除去するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、基本形状要素は三角形要素であるものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、基本形状要素は四角形要素であるものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、マニピュレータはロボットアームであり、レーザー照射装置とともに対象物の三次元形状を計測する形状測定装置をマニピュレータにより保持し、制御装置は、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、マニピュレータの対象物の処理対象領域を含む作業領域内での一連の下地処理作業動作を予め記憶されている初期設定状態から自動修正して、下地処理作業動作を自動的に行うものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置では、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、対象物の処理対象領域におけるレーザー照射装置によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離を求める演算処理を行う形状処理装置を備え、制御装置は、形状処理装置による演算結果に基づいて、レーザー照射装置と対象物の処理対象領域との間の距離を一定に保つように、マニピュレータの動作を制御するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、制御装置は、形状処理装置による演算結果に基づいて、レーザー照射装置により照射されるレーザー光の光軸が対象物の表面位置における法線方向と一致するようにマニピュレータの動作を形状倣い制御するものとすることができる。
また、本発明に係る下地処理装置において、レーザー照射装置は、対象物の処理前の表面性状および処理後の表面性状への要求性能に応じてレーザー照射条件が設定され、パルスレーザー光を照射するものとすることができる。
さらに、本発明に係る下地処理装置では、パルスレーザー光の照射点でのスポット径をDとし、1パルス当たりのX軸方向の送り量をΔXとしたX方向送り率αx=(ΔX/D)×100及びY軸方向の送り量をΔYとした送り率αy=(ΔY/D)×100を35%以下となるように、制御装置で制御するものとすることができる。
本発明では、複雑な3次元曲面を有する対象物の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、レーザー照射装置を搭載したマニピュレータの動作を制御して、対象物の付着物を除去する下地処理作業を行うことにより、極めて高精度に下地処理作業を行うことができ、下地処理品質の改善を図ることができる。
また、本発明では、レーザー照射装置とともにマニピュレータに保持される形状測定装置により、対象物の三次元形状を計測して得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、対象物の処理対象領域を含むマニピュレータの作業領域内での一連の下地処理作業動作を予め記憶されている初期設定状態から自動修正して下地処理作業動作を自動的に行ことにより、下地処理作業を高精度に且つ効率よく行うことができる。また、例えば、初期のロボットティーチングを自動修正することにより、再度時間をかけてティーチング作業を行う必要がなくなる。
また、本発明では、レーザー照射装置をロボットに持たせてレーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理作業を行うことにより、レーザー照射による下地処理作業を自動化して、作業環境を改善するとともに、作業者の安全と健康を確保することができる。また、任意形状の対象物の表面形状に倣ってロボットによりレーザー照射装置を移動させることで、所定の焦点距離とレーザー照射角度を適切に制御することができる。
また、本発明では、形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、マニピュレータの動作を制御することにより、レーザー照射装置と対象物の処理対象領域との間の距離を一定に保つので、高精度に下地処理作業を行うことができる。
また、本発明では、照射するレーザー光の光軸が処理対象の対象物の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御を行い、法線方向からのレーザー照射によって、複雑な形状の対象物や大面積形状の対象物に対して、対象物の付着物を除去する下地処理作業を効率よく確実に行うことができる。
また、本発明では、処理対象領域の表面形状や下地処理品質などに応じてレーザー光の照射条件を適切に設定したレーザー照射によって対象物の付着物を除去する下地処理作業を行うことができる。
さらに、本発明において、形状倣い制御は、対象物の三次元形状を計測する形状測定装置による測定結果から得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、ロボットの下地処理作業軌道を修正することにより、任意形状の対象物の表面形状に倣ってロボットによりレーザー照射装置を移動させることで、所定の焦点距離とレーザー照射角度を適切に制御することができる。
ここで、ロボットマニピュレータによるレーザー照射装置の移動制御による位置決め精度は、レーザー照射を制御するガルバノミラーによる照射位置精度に比べ、一般的に精度が低い。そこで、ロボットマニピュレータによるレーザー照射の移動において、分割要素毎の境界領域で、未レーザー照射部分が発生しないように、各分割要素境界部分が、一部オーバラップするように移動制御する必要がある場合がある。これは、対象物の下地処理に対する品質要求に応じて対応する必要性を判断すればよい。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、共通の構成要素については、共通の指示符号を図中に付して説明する。また、本発明は以下の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変更可能であることは言うまでもない。
本発明は、例えば図1のブロック図に示すような構成のレーザー照射装置10をロボットマニピュレータ20に持たせてレーザー照射によって対象物1の付着物を除去する下地処理作業を行うレーザー下地処理装置100に適用される。
このレーザー下地処理装置100は、レーザー照射装置10、ロボットマニピュレータ20、形状測定装置30、形状処理装置40、制御装置50などからなる。
レーザー照射装置10は、レーザー発振部11と、このレーザー発振部11に光ファイバー12を介して接続されたレーザーヘッド部13からなる。このレーザー照射装置10は、制御装置50に備えられた統括制御部51により動作が制御され、レーザー発振部11によりレーザー光を発生し、レーザーヘッド部13から出射して、対象物1に照射する。
また、ロボットマニピュレータ20は、多関節のロボットアーム21を備え、ロボットアーム21の先端部21Aにレーザー照射装置10のレーザーヘッド部13とともに形状測定装置30が取り付けられている。
このロボットマニピュレータ20は、制御装置50に備えられたロボット制御部53による制御によって、ロボットアーム21の先端部21Aを、所定の作業範囲内を自由に移動させ、前方の実質的な立体角で任意の方向に向けることができるようになっている。
すなわち、ロボットアーム21の先端部21Aに取り付けられたレーザー照射装置10のレーザーヘッド部13は、ロボットマニピュレータ20の作業範囲内の任意の位置において、前方の実質的な立体角で任意の方向に向けてレーザー光を照射することができるようになっている。
また、ロボットアーム21の先端部21Aにレーザー照射装置10のレーザーヘッド部13とともに取り付けられた形状測定装置30は、レーザー照射装置10のレーザーヘッド部13からレーザー光を照射する対象物1の表面の三次元形状を計測する。
この形状測定装置30は、ステレオ撮像装置や三次元距離測定装置などからなり、対象物1の表面の三次元形状を計測して、その計測結果を形状処理装置40に供給するようになっている。
形状処理装置40では、形状測定装置30による測定結果から得られる対象物1の表面の三次元形状情報に基づいて、対象物1の処理対象領域におけるレーザー照射装置10によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離を求める演算処理を行う。この形状処理装置40により得られた対象物1の処理対象領域におけるレーザー照射装置10によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離の情報は、制御装置50に備えられた形状倣い制御部52に供給される。
制御装置50は、統括制御部51、形状倣い制御部52、ロボット制御部53からなり、統括制御部51により形状倣い制御部52、ロボット制御部53の動作を制御するとともに、レーザー照射装置10の動作を制御して、このレーザー下地処理装置100による一連の下地処理作業動作を自動制御する。
すなわち、この制御装置50における統括制御部51は、ロボットアーム21の先端部21Aに取り付けられたレーザー照射装置10のレーザーヘッド部13が予め設定したロボットマニピュレータ20による下地処理作業軌道を通過するように、ロボット制御部53を制御するとともに、レーザー照射装置10の動作を制御して、このレーザー下地処理装置100による一連の下地処理作業動作を自動制御する。
このレーザー下地処理装置100では、図示しないオフラインのコンピュータにより、3次元曲面を有する対象物1の表面の三次元形状について、該対象物1の3次元CADデータなどを用いて、対象物1の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルを算出しておき、メッシュ分割された各分割領域のレーザー照射により下地処理を行う。なお、対象物1の3次元CADデータがない場合には、ロボットアーム21の先端部21Aに取り付けられた形状測定装置30によりロボットマニピュレータ20の作業範囲の対象物1の表面の処理対象領域の三次元形状を測定し、その測定結果として得られる三次元形状情報を使用する。
ここで、メッシュ分割における基本形状要素としては、例えば図2の(A)に示す三角形要素TRや図5の(A)に示す四角形要素SQなどが採用される。
図2の(A)に示す三角形要素TRを採用した場合、図2の(B)に示す模式図のように複数の三角形要素TRを配列することにより対象物1の表面が近似される。
図2の(A)に示す三角形要素TRは正三角形要素△ABCであり、点Gは重心である。
三角形要素△ABCに対するレーザー照射装置10のレーザー光源位置は、図3の斜視図に示すように、点Gで△ABCに垂直な法線ベクトル上の点でレーザーの焦点距離Lfだけ離れた点Oとなるように設定する(OG=Lf)。
図4の模式図に示すように、三角形要素△ABCの一辺ABの長さをAB=d、レーザー焦点距離OGをOG=L、焦点距離の最大許容誤差範囲を△Lmax、曲面AGBのレーザー照射位置をA’、B’、曲面AGBの曲率をrとした場合に、三角形要素△ABCの一辺ABの長さdは、次のように決定される。
三角形要素△ABCの一辺の長さは2(√2+1)△Lmaxであり、
d=2△Lmax/(√2-1)
となる(凹面であっても同じ)。
すなわち、ピタゴラスの定理により、直角三角形△A’OB’の3辺OA’、OC'、A’C'2の長さは
OA’2=OC'2+A’C'2
(Lf+△L)2={Lf+(1-1/√2)r}2+(r/√2)2
本式を展開すると、
Lf2+2LfΔL+ΔL2=Lf2+2(1-1/√2)r
+(1-1/√2)2r2+(r/√2)2
であり、ここで、△L2=0、L+r=Lと近似すると、
△L=(2-√2)r/2≦△Lmax
となる。
次に、三角形要素の1辺の長さdは、√2rであることを上式に代入すると、
d=2(√2+1)△Lmax
である。
すなわち、1辺の長さがdである正三角形要素△ABCが図2の(A)に示す三角形要素TRとなる。
また、図5の(A)に示す四角形要素SQを採用した場合、図5の(B)に示す模式図のように複数の四角形要素SQを配列することにより対象物1の表面が近似される。
図5の(A)に示す四角形要素SQは、正方形要素□ABCDであり、点Gは重心である。
四角形要素□ABCDに対して、図6の斜視図に示すように、点Gで□ABCDに垂直な法線ベクトル上の点でレーザーの焦点距離Lfだけ離れた点Oとなるようにレーザー照射装置10のレーザー光源位置を設定する(OG=Lf)。
この時、点Oから□ABCDまでの距離が最大となるのが四角錐の辺OA(=OB=OC=OD)であり、これがレーザー焦点距離の変動許容範囲△Lmax以内(最大OA=Lf十△Lmax)になるように要素の1辺の長さあるいは/およびOGの長さを設定する。
そして、上記レーザー下地処理装置100における制御装置50は、図7に示すフローチャートに示す手順に従って、レーザー照射装置10、ロボットマニピュレータ20を制御して下地処理制御を行う。
すなわち、このレーザー下地処理装置100は動作を開始すると、先ず、制御装置50の統括制御部51により初期設定処理(ST1)を行う。
初期設定処理(ST1)では、上述の如く、3次元曲面を有する対象物1の3次元CADデータなどを用いて三角形要素あるいは四角形要素による要素分割を行い、各要素の重心と各頂点の座標、更に重心における法線ベクトルを図示しないオフラインのコンピュータにより予め演算して得られた要素分割情報(各要素の頂点、重心の座標、重心における法線ベクトル)を統括制御部51に送信する。統括制御部51は、オフラインコンピュータで計算した各要素の頂点と重心の座標とレーザー照射焦点距離から、各要素をつないだロボットの移動軌跡を計算し、初期ティーチングデータとしてロボット制御部53に送信する。同時に、レーザー照射の条件であるレーザー加工時間および処理品質から決まるレーザー光のX方向およびY方向の送り速度(送りピッチ)を決定し、レーザー照射装置10に送信する。
次に、ロボット制御部53により初期ティーチング処理(ST2)を行う。
初期ティーチング処理(ST2)では、ロボット制御部53は、統括制御部51による演算結果として与えられる初期ティーチングデータに基づきロボットマニピュレータ20を制御する。
次に、ロボット制御部53により三次元形状情報の取得処理(ST3)を行う。
三次元形状情報の取得処理(ST3)では、ロボット制御部53は、初期ティーチングデータに基づき、対象物1の形状測定のために予め決められた軌道でロボットマニピュレータ20を動作させ、形状測定装置30により作業範囲の対象物1の表面の処理対象領域の三次元形状を測定し、その測定結果として得られる三次元形状情報を形状処理装置40に送信する。
次に、形状処理装置40により形状倣い制御の設定処理(ST4)を行う。
形状倣い制御の設定処理(ST4)では、形状処理装置40は、下地処理作業の軌道上の個々の点について、形状測定装置30による測定結果として得られる対象物1の三次元形状情報に基づいて、対象物1の処理対象領域におけるレーザー照射装置10によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離を演算し、その演算結果を形状倣い制御部52に出力するとともに、前記三次元形状情報と対象物1の3次元CADデータなどとから初期ティーチング軌道と対象物1のズレを演算し、その演算結果として得られる補正量情報を形状倣い制御部52に出力する。
次に、ロボット制御部53による形状倣い制御(ST5)を行う。
形状倣い制御(ST5)では、形状倣い制御部52は、形状処理装置40により与えられる上記補正量情報に基づき当初設定されたロボットマニピュレータ20の初期ティーチング軌道を補正し、その補正された最終動作軌道に基づきロボットマニピュレータ20をロボット制御部53により制御する。
次に、統括制御部51により下地処理制御(ST6)を行う。
下地処理制御(ST6)では、レーザー照射装置10により照射されるレーザー光の光軸が対象物1の表面位置における法線方向と一致するようにロボット制御部53による形状倣い制御を行いながら、下地処理部位にレーザー照射装置10のレーザーヘッド部13を移動して、レーザーヘッド部13から下地処理部位にレーザー光を照射してレーザーアブレーションによる下地処理を行う。
そして、統括制御部51により作業完了判定処理(ST7)を行う。
作業完了判定処理(ST7)では、対象物1の処理対象領域について全て下地処理を完了したか否かを統括制御部51により確認して、その判定結果が「NO」であれば前記形状倣い制御(ST5)に戻って、形状倣い制御(ST5)から作業完了判定処理(ST7)の判定結果が「YES」となるまで繰り返し行い、対象物1の処理対象領域の下地処理を全て完了したら、一連の下地処理制御を終了する。
このように、このレーザー下地処理装置100において、この制御装置50における統括制御部51は、このレーザー下地処理装置100による一連の下地処理作業動作を自動制御するにあたり、形状処理装置40により得られた対象物1の処理対象領域におけるレーザー照射装置10によるレーザー照射位置での法線方向とレーザー照射位置までの距離の情報に基づいて、当初設定したロボットマニピュレータ20による下地処理作業軌道を修正する修正制御情報を生成するように形状倣い制御部52を制御する。
形状倣い制御部52は、統括制御部51による制御にしたがい、当初設定したロボットマニピュレータ20による下地処理作業軌道を修正する修正制御情報を生成してロボット制御部53に供給することにより、レーザー照射装置10により照射されるレーザー光の光軸が対象物1の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御を行う。
このレーザー照射装置10のレーザー発振部11が発生するレーザー光は、対象物1の付着物(例えば表面に塗布された塗料膜など)をレーザーアブレーションにより除去するのに必要なパワーを有するものであれば、連続光あるいはパルス光の何れであってもよく、制御装置50の統括制御部51により、対象物1の処理対象領域の表面形状や下地処理品質などに応じてレーザー光の照射条件を適切に設定したレーザー照射によって対象物1の付着物を除去する下地処理作業を行うことができる。
すなわち、このレーザー下地処理装置100では、レーザー照射によって対象物1の付着物を除去する下地処理方法であって、対象物1にレーザー光を照射するレーザー照射装置10をロボットマニピュレータ20により保持して、対象物1の処理対象領域を含む作業領域内で移動させ、対象物1の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、ロボットマニピュレータ20によりレーザー照射装置10の焦点距離だけ1の分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置10を保持した状態で、レーザー照射装置10により対象物1に照射するレーザー光を偏向させて、分割領域内をレーザー光で照射した後、分割領域に隣接する次の分割領域の重心位置にレーザー照射装置10のレーザー照射位置をロボットマニピュレータ20により移動させて、レーザー照射装置10の焦点距離だけ次の分割領域の重心位置から法線方向に離した位置にレーザー照射装置10を保持し、レーザー照射装置10により次の分割領域内をレーザー光で照射することを繰り返し実施することにより、対象物1の処理対象領域内の全分割領域をレーザー光で照射して付着物を除去する特徴とする下地処理方法を実施することができる。
レーザー下地処理装置100において、レーザー照射装置10のレーザーヘッド部13には、レーザー光を偏向させる手段として、例えば図8に示すように、2つのモータ131X、131Yと2つのミラー132X、132Yからなる2軸のガルバノミラー機構130が設けられている。
この2軸のガルバノミラー機構130は、レーザー発振部11から光ファイバー12を介して供給されるレーザー光LBをX軸方向とY軸方向に独立してレーザーの反射角度を変更させて照射することができるようになっている。
すなわち、ミラー132Xは、モータ131XによりZ軸周りに回転することにより、対象物1に照射するレーザー光LBをX軸方向に移動する。
また、ミラー132Yは、モータ131YによりX軸周りに回転することにより、対象物1に照射するレーザー光LBをY軸方向に移動する。
なお、2軸のガルバノミラー機構130における二つのミラー132X、132Yは、それぞれポリゴンミラーに置き換えることができる。
すなわち、レーザー照射装置10のレーザーヘッド部13の位置を固定した状態で、所定の範囲内を照射することができるようになっている。
なお、ガルバノミラーやポリゴンミラーによるレーザー照射では光軸が法線方向と一致するのは一点のみで、レーザー光LBの焦点位置は円弧状に位置することになるので、この2軸のガルバノミラー機構130は、テレセントリックf-θレンズ(あるいはテレセントリックf-θレンズと同等の光学特性を有するテレセントリック光学系)133を介してレーザー光LBを対象物1に照射するようになっている。すなわち、カルバノミラーによるレーザー照射では、対象物1まで焦点距離が変化するので、レーザー処理能力の低下幅が小さい範囲内でレーザー光LBの照射位置を移動させるように、対象物それぞれの処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域の大きさ、すなわち、レーザー照射範囲を制約する必要がある。
また、ロボットマニピュレータ20によるレーザー照射装置10の移動制御による位置決め精度は、レーザー照射を制御するガルバノミラーによる照射位置精度に比べ、一般的に精度が低い。そこで、ロボットマニピュレータ20によるレーザー照射の移動において、分割要素毎の境界領域で、未レーザー照射部分が発生しないように、各分割要素境界部分が、一部オーバラップするように移動制御する必要がある場合がある。これは、対象物1の下地処理に対する品質要求に応じて対応する必要性を判断すればよい。
このような構成の2軸のガルバノミラー機構130を備えるレーザー下地処理装置100におけるレーザー照射方法について、図9の(A)、(B)、図10の(A)、(B)、(C)を用いて説明する。
このレーザー下地処理装置100は、対象物1を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて前記辺に並行に折り返してレーザー光を照射することを継続して前記基本形状要素内の付着物をレーザー照射により除去するものとすることができる。
また、対象物1を複数領域に分割する基本形状要素内を基本形状の1つの辺に沿ってレーザー光を照射し、続いて外周から中心に向かって渦巻き状にレーザー光を照射することにより、基本形状要素内の付着物を除去するものとすることができる。
そして、基本形状要素は三角形要素や四角形要素であるものとすることができる。
図9の(A)は、2軸のガルバノミラー機構130のガルバノミラー132X,132Yによる三角形要素TRに対するレーザー照射の状況を示す模式図であり、また、図9の(B)は、レーザー下地処理装置100におけるロボットマニピュレータ20によるレーザー照射装置10を移動させて三角形要素TR1~TR10をレーザー照射により下地処理する状況を示す模式図である。
すなわち、三角形要素TRに対して、図9の(A)に示す照射軌跡RTT1のように、ガルバノミラー132XによりX軸方向に往復送りしながらガルバノミラー132YによりY軸方向に送ることにより折り返してジグザグ状に照射したり、図9の(A)に示す照射軌跡RTT2のように、X軸方向の送りとY軸方向の送りを組み合わせて渦巻き状に照射するものとすることができる
そして、図9の(B)に示すように、レーザー下地処理装置100におけるロボットマニピュレータ20により、レーザー照射装置10を三角形要素TR1~TR10の重心位置G1~G10に順次移動させて、レーザー照射により三角形要素TR1~TR10の下地処理を行う。
また、図10の(A)は、2軸のガルバノミラー機構130のガルバノミラー132X,132Yによる四角形要素SQに対するレーザー照射の状況を示す模式図であり、(B)は2軸のガルバノミラー機構130により折り返してレーザー照射する場合に、2列目以降を、前列の照射位置の中間位置に照射するレーザー照射の状況を示す模式図であり、さらに、図10の(C)は、レーザー下地処理装置100におけるロボットマニピュレータ20によるレーザー照射装置10を移動させて四角形要素SQ1~SQ12をレーザー照射により下地処理する状況を示す模式図である。
すなわち、四角形要素SQに対して、図10の(A)に示す照射軌跡RTS1のように、ガルバノミラー132XによりX軸方向に往復送りしながらガルバノミラー132YによりY軸方向に送ることにより折り返してジグザグ状に照射したり、図10の(A)に示す照射軌跡RTS2のように、X軸方向の送りとY軸方向の送りを組み合わせて渦巻き状に照射するものとすることができる。
更には、図10の(B)に示す照射軌跡RTS3のように、図10の(A)の照射軌跡RTS1のように折り返して照射する場合において、2列目以降は、前列の照射位置の中間位置に照射し、これを最終底辺まで実施することもできる。
そして、図10の(C)に示すように、レーザー下地処理装置100におけるロボットマニピュレータ20により、レーザー照射装置10を四角形要素SQ1~SQ12の重心位置G1~G12に順次移動させて、レーザー照射により四角形要素SQ1~SQ12の下地処理を行う。
ここで、レーザー下地処理装置100において、レーザー照射装置10により対象物1にパルスレーザー光LBを照射して、下地処理作業を行う場合、1パルス当たりのX軸方向及びY軸方向の送りピッチ(送り率αx及びαy)を適正に設定することにより、下地処理品質を制御することができ、レーザー照射条件は次のようにして最適化することができる。
すなわち、1パルス当たりのX軸方向及びY軸方向の送りピッチ(送り率αx及びαy)を適正に設定することにより、下地処理品質を制御することができる。
レーザー照射装置10のレーザーヘッド部13から対象物1に照射するパルスレーザー光LBの送り率αと下地処理品質の一つである錆の除去性能を試験した結果を図11に示すように、送り率αx及びαyを35%以下にすることにより、やや品質は低下するものの良好な条件を得ることができた。送り率αが25%以下であれば、さらに良好な条件を得ることができる。
ここで、送り率αx及びαyの定義を図12に示すように、レーザー照射装置10のレーザーヘッド部13から対象物1に照射するパルスレーザー光LBの照射点Oでのスポット径をDとし、1パルス当たりのX軸方向の送り量をΔXとしたX方向送り率αxは、
αx=(ΔX/D)×100=(ΔY/D)×100
であり、同様に、1パルス当たりのY軸方向の送り量をΔYとしたY方向送り率αyは、
αy=(ΔX/D)×100=(ΔY/D)×100
である。
すなわち、このレーザー下地処理装置100において、統括制御部51は、対象物1の状況や下地処理品質に応じて、レーザー照射のX軸方向の送り率αx及びY軸方向の送り率αyの最適値を上記条件
αx=(ΔX/D)×100=(ΔY/D)×100≦35%
αy=(ΔX/D)×100=(ΔY/D)×100≦35%
に基づいて設定し、設定された送り率αx及びαyの最適値にて下地処理作業を実行するように、ロボット制御部53によりロボットマニピュレータ20による下地処理作業の軌道制御を行うとともに、レーザー照射装置10のレーザー発振装置11により、設定された送り率αx及びαyの最適値に対応する所定のタイミング毎にパルスレーザー光LBを出射して、レーザーヘッド部13から対象物1に照射させる制御を行う。
ここで、レーザースポット径Dは、例えば、レーザー光をガウシアン分布としたとき、ピーク強度に対し、1/e2(eは自然対数の底:ネイピア数)に低下した時の強度での幅とする。
ここで、パルスレーザー光LBの仕様としては、レーザー出力は100~500W、波長は1060~1100nmの範囲のパルスレーザー光が望ましい。レーザーパルスの繰り返し周波数は、50~150kHz、レーザースポット径Dは、50~200μm、レーザーエネルギ密度は、10~100J/cm2の範囲が望ましい。
レーザー光LBの照射条件を見出した試験結果について図11を参照して説明する。
図11は、レーザー照射による鋼材の黒皮(ミルスケール)の除去性能について調べた結果を模式的に示している。
対象物1は、SS400(JIS G 3101:2010 一般構造用圧延鋼材)、寸法は、長さ50mm×幅50mm×厚6mmである。
レーザー照射装置10には、前記記載の仕様範囲内のパルスレーザー光LBを出射するものを使用した。
この図11は、レーザー照射条件としてX軸方向送り率αx及びY軸方向送り率αyを変更した組み合わせにより、対象物1の表面に設定した30mm×30mmの照射範囲を照射したときの対象材の表面性状を拡大率100倍の顕微鏡撮影並びに目視観察により確認した結果である。
ここで、表面状態として、黒皮がほぼ完全に削除できているものを○にて示した最良好範囲、一部残存するものを△にて示した良好範囲、かなりの部分に黒皮が残っているものを×にて示した不良範囲として整理した。
図11に示す実験結果から、送り率が35%以下であれば黒皮が良好に除去できていることが分かった。
ここで、送り率は、単純に小さくすれば良いものではなく、送り率を小さくするほど、レーザー照射時間が長くなり、作業効率が低下する。したがって、表面品質(性状)が要求性能を満足する範囲において、できるだけ大きく設定することが重要である。
このような構成のレーザー下地処理装置100では、複雑な3次元曲面を有する対象物1の処理対象領域をそれぞれ基本形状の複数の領域に分割近似した各分割領域における重心位置と重心位置における法線ベクトルに基づいて、レーザー照射装置10を搭載したロボットマニピュレータ20の動作を制御して、対象物1の付着物を除去する下地処理作業を行うことにより、極めて高精度に下地処理作業を行うことができ、下地処理品質の改善を図ることができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、レーザー照射装置10とともにロボットマニピュレータ20に保持される形状測定装置30により、対象物の三次元形状を計測して得られる対象物の三次元形状情報に基づいて、対象物の処理対象領域を含むロボットマニピュレータ20の作業領域内での一連の下地処理作業動作を予め記憶されている初期設定状態から自動修正して下地処理作業動作を自動的に行ことにより、下地処理作業を高精度に且つ効率よく行うことができる。また、例えば、初期のロボットティーチングを自動修正することにより、再度時間かけてティーチング作業を行う必要がなくなる。
また、このレーザー下地処理装置100では、レーザー照射装置10をロボットマニピュレータ20に持たせてレーザー照射によって対象物1の付着物を除去する下地処理作業を行ことにより、レーザー照射による下地処理作業を自動化して、作業環境を改善するとともに、作業者の安全と健康を確保することができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、形状測定装置30による測定結果から得られる対象物1の三次元形状情報に基づいて、ロボットマニピュレータ20の動作を制御することにより、分割領域毎にレーザー照射装置10と対象物の処理対象領域との間の距離を一定に保つので、高精度に下地処理作業を行うことができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、分割領域毎に照射するレーザー光LBの光軸が対象物1の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御を行い、法線方向からのレーザー照射によって、複雑な形状の対象物や大面積形状の対象物1に対して、対象物1の付着物を除去する下地処理作業を効率よく確実に行うことができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、処理対象領域の表面形状や下地処理品質などに応じてレーザー光LBの照射条件を適切に設定したレーザー照射によって対象物1の付着物を除去する下地処理作業を行うことができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、形状倣い制御は、対象物1の三次元形状を計測する形状測定装置30による測定結果から得られる対象物1の三次元形状情報に基づいて、ロボットマニピュレータ20の下地処理作業軌道を修正することにより、任意形状の対象物1の表面形状に倣ってロボットマニピュレータ20によりレーザー照射装置10を移動させることで、分割領域毎に所定の焦点距離とレーザー照射角度を適切に制御することができる。
また、このレーザー下地処理装置100では、照射するレーザー光LBの光軸が対象物1の表面位置における法線方向と一致するように形状倣い制御を行い、分割領域毎に法線方向からのレーザー照射によって対象物1の塗膜を除去する等の下地処理作業を行うことにより、小物材や複雑形状材の対象物の対象物1に対して、レーザー照射により確実に且つ効率よく下地処理を行うことができる。
さらに、このレーザー下地処理装置100における形状倣い制御は、対象物1の三次元形状を計測する形状測定装置30による測定結果から得られる対象物1の三次元形状情報に基づいて、ロボットマニピュレータ20の下地処理作業軌道を修正することにより、任意形状の対象物の表面形状に倣ってロボットマニピュレータ20によりレーザー照射装置10を移動させることで、分割領域毎に所定の焦点距離とレーザー照射角度を適切に制御することができる。
しかも、このレーザー下地処理装置100では、ロボットマニピュレータ20に搭載した形状測定装置30により得られる対象物1の三次元形状情報に基づき、初期のロボットティーチングを自動修正することにより、再度時間をかけてティーチング作業する必要がないので、効率よく確実に下地処理を行うことができる。
なお、このレーザー下地処理装置100は、下地処理として例えば塗膜除去処理を行い塗膜除去後に対象物1の表面が外気に晒されることにより、塗膜除去したままの状況で長時間放置すると、表面に再び錆が発生したり、次の処理の性能が大幅に低下する場合があるので、塗膜除去後の対象材の錆発生などの防止のために、レーザー照射に合わせて、空気中の酸素を遮断するためのガスを噴射させるスプレーあるいはノズルなどの図示しない吹き付け装置をロボットマニピュレータ20に搭載することにより、対象物に対してレーザー照射による塗膜除去作業が完了した領域にガスの吹き付け処理を施すようにしてもよい。