(第1の実施の形態)
まず、本発明の第1の実施の形態について、図1~図20を参照しがら説明する。以下では、同一の構成要素には同一の符号を付す。それらの名称および機能は同様であるものとする。同一の符号を付された構成要素については、詳細な説明は繰り返さない。
図1および図2は、電動車両の一例として電動の歩行車(以下、電動アシスト歩行車という。)を示す図である。図1は、第1の実施の形態にかかる電動アシスト歩行車10の外観の一例を示す模式的斜視図であり、図2は図1の電動アシスト歩行車10の側面図である。
(電動アシスト歩行車の構成)
図1および図2に示すように、電動アシスト歩行車10は、フレーム11と、フレーム11に設けられた一対の前輪(車輪)12および一対の後輪(車輪)13と、フレーム11に接続された一対のハンドル(操作部)14とを備えている。一対の 後輪13は、車体の幅方向に離れて2つ配置されている。同様に、一対の前輪12は、車体の幅方向に離れて2つ配置されている。
以降では、主に電動車両が前輪と後輪がそれぞれ2つずつ配置されている四輪車である場合を例に説明するが、この構成は一例にしかすぎない。例えば、電動車両は、車体にひとつの前輪と、車体の幅方向に離れて2つ配置された一対の(2つの)後輪とが備えられている、三輪車であってもよい。また 、3つ以上の前輪が幅方向に離れて配置されていてもよい。車体前方方向について最も右側に配置された前輪を右前輪、車体前方方向について最も左側に配置された前輪を左前輪とそれぞれよぶものとする。すなわち、前輪は、車体の幅方向に離れて配置されている左前輪と右前輪とを含む。さらに、3つ以上の後輪が幅方向に離れて配置されていてもよい。
車体前方方向について最も右側に配置された後輪を右後輪、車体前方方向について最も左側に配置された後輪を左後輪とそれぞれよぶものとする。すなわち、後輪は、車体の幅方向に離れて配置されている左後輪と右後輪とを含む。このように、電動車両が備える車輪の数については特に問わない。したがって、電動車両は上述とは異なる数の車輪を備えていてもよい。前輪12と、後輪13は異なる反発力を有していてもよい。また、各ハンドル14には、それぞれ電動アシスト歩行車10を手動で停止させるためのブレーキユニット15が設けられている。フレーム11およびフレーム11によって支持された構造物の全体を電動アシスト歩行車10の車体とよぶものとする。
一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13の動きをアシストするモータ(駆動部)20が連結されている。なお、前輪12にそれぞれの前輪12の動きをアシストするモータを備えていてもよい。各前輪12と各後輪13がモータに連結されていてもよいし、前輪12のみがモータに連結されていてもよい。フレーム11には、バッテリ21と、制御部16と、判定部43と、通知部18とがそれぞれ取り付けられている。また、フレーム11には、計測部として加速度センサ22aおよび速度センサ22bが設けられている。ただし、加速度センサ22aおよび速度センサ22bは、他の箇所に設けられていてもよい。
さらにハンドル14には、傾き検知センサ23と、把持センサ(操作力センサ)24とがそれぞれ設けられている。フレーム11上であって、一対のハンドル14よりも下方の位置には、使用者の脚部の有無を検知する脚部検知センサ25が配置されている。
次に、電動アシスト歩行車10の各構成要素について更に説明する。
フレーム11は、左右一対のパイプフレーム31と、一対のパイプフレーム31同士を横方向に連結する連結フレーム32とを有している。
左右一対のパイプフレーム31の各々の前端側には、一対の前輪12がそれぞれ設けられている。すなわち、前輪12は電動アシスト歩行車10の車体の幅方向に離れて2つ配置されている。一対の前輪12のうち、とくに図1の方向R側にあるものを右前輪、とくに図1の方向L側にあるものを右前輪と呼んで区別する。一対の前輪12は、それぞれ前後方向に回転可能であるとともに、鉛直軸周りにも回動可能となっている。
また、左右一対のパイプフレーム31の各々の後端側には、一対の後輪13がそれぞれ設けられている。一対の後輪13のうち、とくに図1の方向R側にあるものを右後輪、とくに図1の方向L側にあるものを右後輪と呼んで区別するものとする。各後輪13は、前後方向に回転可能に設けられている。このため、電動アシスト歩行車10の前進および後退を容易に行うことができる。また、左右方向に移動または方向転換(旋回)も容易に行うことができる。
また、各後輪13の外周には、機械的に接触可能なブレーキシュー33が設けられる。ブレーキシュー33は、ワイヤー35を介してブレーキユニット15のブレーキレバー34に接続されている。したがって、使用者がブレーキレバー34を手動で操作することに応じて、ブレーキシュー33が作動し、後輪13を制動する。なお、機械的なブレーキの構成については、これに限られず、その他の構成のものを用いることができる。
さらに、左右一対のパイプフレーム31の各々の後端側から転倒防止部材36が設けられていてもよい。転倒防止部材36は、電動アシスト歩行車10の一対の前輪12が路面から浮き上がって、後方に転倒することを防止するものである。
左右一対のパイプフレーム31の上端部には、それぞれ一対のハンドル14が設けられている。一対のハンドル14は、それぞれ使用者の手によって把持される。一対のハンドル14は、棒状部材41を有する。棒状部材41には、それぞれグリップ部42が設けられている。また、棒状部材41には、それぞれブレーキレバー34が取り付けられている。なお、ハンドル14の構成については、これに限られない。例えば、左右一対のパイプフレーム31をつなぐように水平方向に伸びるバーハンドルを設け、このバーハンドルに左右一対のハンドル14としてグリップ部42を設けてもよい。
本実施の形態において、モータ20として、サーボモータ、ステッピングモータ、ACモータ、DCモータなど、任意のモータを用いることができる。また、減速機と一体的に形成されたモータ20を用いてもよい。このモータ20は、後輪13の動作をアシストし、走行用に後輪13を前進方向に駆動させる。また本実施の形態において、モータ20は、前輪12を後輪13に対して持ち上げる駆動部としての役割も果たす。すなわち、モータ20(駆動部)の駆動力は、前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させる。
さらに、モータ20は、発電ブレーキとしての機能も有していてもよい。この場合、モータ20は、後輪13を制動する制動部としての役割を更に果たす。モータ20が後輪13を制動する場合、モータ20を発電機として動作させ、その抵抗力によってブレーキをかける。なお、モータ20が制動部としての役割を果たす場合、モータ20を逆向きに駆動させる逆転ブレーキとして用いてもよい。後輪13を制動する制動部はモータ20と異なる構成要素であってもよい。このような制動部の例としては、電磁ブレーキや機械的ブレーキなどが挙げられる。
なお、左右のモータ20は、制御部16によって左右のモータ20がそれぞれ独立して制御されるようになっていてもよい。車体右側の車輪と車体左側の車輪の速度や加速度に差をつける必要がない場合、制御部16は左右一体でモータ20の制御を行ってもよい。
本実施の形態において、モータ20は各後輪13(左後輪、右後輪)にそれぞれ連結されているものとする。ただし、同一のモータが一対の前輪12および一対の後輪13の全てに連結された構成を排除するものではない。また、モータ20が後輪13に連結されず、前輪12に連結された構成を用いてもよい。この場合、モータ20は前輪12を駆動する。このように、電動アシスト歩行車10は、前輪駆動型であってもよいし、後輪駆動型であってもよい。また、前輪12と後輪13の双方が駆動されてもよい。すなわち、モータ20(駆動部)は、前輪または後輪の少なくともいずれか一方を含む車輪を駆動させる。
制御部16は、モータ20など、電動アシスト歩行車10の全体を制御するものである。例えば、制御部16は、駆動部を制御し、段差乗り越え制御を行う。ここで、段差の乗り越え制御とは、車体の車輪を段差の下から段差の上に乗り上げさせるため駆動部に駆動力を発生させる制御を意味するものとする。なお、段差の乗り越え制御は、車体の前輪または後輪のいずれか一方のみを段差の下から段差の上に乗り上げさせるための制御を含んでいてもよい。判定部43は、各種センサ(計測部)の計測値に基づき、前輪12と後輪13とを含む車輪が段差乗り越えに成功したか否かを判定する。
制御部16は、判定部43が前輪12の段差乗り越えを成功と判定した場合、後輪13の段差乗り越え制御を実行させる。判定部43が前輪12の段差乗り越えを失敗と判定した場合、制御部16は前輪12が段差乗り越えをしやすいように段差乗り越え制御を実行する基準を変更する。また、判定部43は、時系列で計測部の計測値を取得し、時系列のデータを記憶部16aに保存してもよい。例えば判定部43は、前輪12の段差乗り越えに成功したときに計測部が計測した第1時系列データと、前輪12の段差乗り越え制御に失敗したときに計測部が計測した第2時系列データとに基づいて、前輪12の段差乗り越えに成功したか否かを判定してもよい。制御部16および判定部43の動作の詳細については後述する。
制御部16および判定部43は、例えば、ハードウェア回路、プロセッサ上で実行されるプログラム、または、これらの組み合わせによって実装される。ハードウェア回路の例としては、ASIC、FPGA、PLDなどが挙げられる。ここで、プログラムの例としては、電動アシスト歩行車10(電動車両)の制御プログラムが挙げられる。
ここで、制御プログラムは、後輪13の段差乗り越え制御を実行しているときに車体の姿勢情報を計測するステップと、計測した姿勢情報から段差乗り越えに成功したか否かを判定するステップとを含んでいてよい。また、制御プログラムは、後述する制御部16および判定部43の各処理ステップを含んでいてよい。
なお、制御部16および判定部43は、記憶部16aにデータの読み書きを行うことができるように構成されていてもよい。制御部16および判定部43が実行する命令、プログラムまたは命令、プログラムの実行に使われるデータ、各種センサ(計測部)の計測値は記憶部16aに保存される。
電動車両に着脱可能なモジュールとして、電動車両の段差乗り越えの評価装置を構成してもよい。評価装置は、前輪12または後輪13の少なくともいずれか一方を含む車輪の段差乗り越え制御を実行しているときに姿勢、動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測し、計測値に基づき、車輪の段差乗り越えに成功したか否かを判定する。また、電動車両の段差乗り越えの評価方法は、前輪12または後輪13の少なくともいずれか一方を含む車輪の段差乗り越え制御を実行しているときに姿勢、動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測するステップと、計測値に基づき、車輪の段差乗り越えに成功したか否かを判定するステップとを含んでいてもよい。評価装置は、電動車両(電動アシスト歩行車)のオプションパーツであってもよい。また、評価装置は、電動車両と無線通信をする外部の装置であってもよい。
記憶部16aは、各種のデータを保存可能な記憶領域を提供する。例えば、記憶部16aは、計測部が過去に計測した計測値および判定部43の過去の判定結果を記憶してもよい。この場合、判定部43は、記憶部16aに記憶された、判定部43が前輪12の段差乗り越えに成功したと判定したときの計測部の時系列データと、判定部43が前輪12の段差乗り越え制御に失敗したと判定したときの時系列データとに基づいて前輪12の段差乗り越えに成功したか否かを判定することができる。
記憶部16aは制御部16および判定部43の近傍に設けられていてもよいし、制御部16の一部であってもよい。記憶部16aは、例えばSRAM、DRAMなどの揮発性メモリであってもよいし、NAND、MRAM、FRAMなどの不揮発性メモリでもよい。またハードディスク、SSDなどのストレージ装置や、外部の記憶装置であってもよく、デバイスの種類については特に限定しない。また、記憶部16aは複数の種類のメモリデバイスやストレージデバイスの組み合わせであってもよい。
通知部18は、車輪の段差乗り越えが成功したか否かを判定部43が判定した結果を外部に通知する。通知部18は、前輪12または後輪13のいずれか一方の段差乗り越え制御の成否を通知してもよい。また、電動アシスト歩行車10のすべての車輪が段差を乗り越えたか否かの結果を通知してもよい。外部への判定結果の通知方法の例としては、音声、光、画像による通知が挙げられる。また、無線通信によって外部の情報処理装置に判定結果の通知を行ってもよい。例えば、ネットワークを介して登録された情報端末(携帯電話、パソコン、タブレット、スマートフォンなど)にメールを送信してもよい。また、管理サーバを使って、ユーザの情報端末にメールを送信してもよい。さらに、情報端末上で動作するブラウザから閲覧可能なウェブサイトに情報をアップロードしてもよい。このように、通知方法については特に問わない。なお、電動アシスト歩行車10は必ず通知部18を備えていなくてもよい。
計測部は、電動アシスト歩行車10の車体の姿勢、車体の動き、周囲の物体の少なくともいずれか一つを検出する。計測部は、これらの物理的な情報を計測するために、各種のセンサを用いることができる。以下では、計測部のセンサについて説明する。
加速度センサ22aは、車体の加速度を計測する。加速度センサ22aが計測する加速度の方向については特に限定しない。計測される加速度の方向の例としては、車体の前後方向の加速度、車体の幅方向の加速度、車体の鉛直方向の加速度が挙げられる。車体の前後方向の加速度とは、図1の方向FBにおける加速度のことをいう。また、車体の幅方向の加速度とは、図1の方向Lおよび方向Rにおける加速度のことをいう。車体の鉛直方向の加速度とは、車体の前後方向および幅方向に垂直な方向の加速度のことをいう。
また、加速度センサ22aは、車体の前後方向の加速度に加えて、車体を減速させる方向への加速度の計測を行ってもよい。また、加速度センサ22aは、車体の前後方向の加速度に代わり、車体を減速させる方向への加速度の計測を行ってもよい。制御部16は、加速度センサ22aによって計測された加速度を取得することができる。車体に加わる加速度を計測するセンサの例としては、慣性センサなどが挙げられるが、どのような種類のデバイスを使ってもよい。
また、圧電センサ、ひずみゲージ、操作力センサ(例えば、グリップセンサ)などを使って電動アシスト歩行車10または電動アシスト歩行車10のいずれかの構成要素にかかる力を計測し、加速度の推定値を求めてもよい。
なお、加速度センサは電動アシスト歩行車10の各車輪の回転方向の加速度が計測してもよい。例えば、図1の加速度センサ81r~82lは各車輪の回転方向の加速度を計測する。具体的に、加速度センサ81rは右前輪(方向R側の前輪12)の加速度を計測する。加速度センサ81lは右前輪(方向L側の前輪12)の加速度を計測する。加速度センサ82rは右後輪(方向R側の後輪13)の加速度を計測する。加速度センサ82lは右後輪(方向L側の後輪13)の加速度を計測する。
加速度センサ81r~82lは直接、各車輪の加速度を計測してもよいし、モータ20の加速度を計測し、車輪の加速度の推定値を提供してもよい。また、車輪またはモータ20の速度を計測し、加速度の推定値を計算してもよい。また、車輪またはモータ20の時間当たりの回転数を計測し、回転数の時間微分を計算し、加速度の推定値を求めてもよい。制御部16は、加速度センサ81r~82lによって計測された加速度を取得することができる。
上述の加速度センサ22a、81r~82lは、車体の加速度を計測する計測部の例である。判定部43は、計測部が計測した加速度の時系列変化に基づいて、前輪12または後輪13のいずれが段差に衝突したのかを判定することができる。例えば、前輪12と後輪13とで異なる反発力を有する場合、計測部は、車輪の反発力を検出することができる。判定部43は計測部が計測した反発力の値に基づいて、前輪12と後輪13のいずれが段差に衝突したのかを判定することができる。計測部は、加速度を計測することによって反発力を検出することができるが、反発力の検出方法については特に問わない。例えば、前輪12の反発力の方が後輪13の反発力より大きい場合、前輪12の段差との衝突の検出時に後輪13の段差との衝突の検出時と比べて大きい加速度のしきい値を用いることができる。
速度センサ22bは、後輪13の回転数または速度を検知し、この回転数または速度の信号を制御部16に対して送信する。速度センサ22bは、例えば、制御部16の近傍に設けることができる。なお、速度センサ22bは、電動アシスト歩行車10の一対の後輪13の内部に内蔵させてもよい。あるいは、速度センサ22bは、一対の前輪12の内部にのみ内蔵させてもよく、一対の前輪12および一対の後輪13の全てに内蔵されていてもよい。
モータ20がブラシレスモータである場合は、速度センサ22bは、モータ20に内蔵されたホール素子を用いて車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するものであってもよい。
なお、モータ20の逆起電力から速度検出を行なうことができる場合には、この逆起電力から車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するように構成することができる。また、各後輪13または各前輪12の角速度検出を行なうことができる場合は、この角速度から車輪の回転数または速度、電動アシスト歩行車10の速度を算出するように構成することができる。
また、速度センサ22bは、一対の前輪12および一対の後輪13に内蔵されたものに限定されない。例えば、速度センサ22bはフレーム11、一対のハンドル14など、その他任意の部材に取り付けられていてもよい。また、加速度センサで計測された加速度を積分し、速度を計算してもよい。なお、GPS(グローバルポジショニングシステム)が用いられる場合、座標の時間当たりの変位に基づいて、速度を計算してもよい。
傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の傾き、例えば電動アシスト歩行車10が平坦面にあるか傾斜面にあるかなどを検知し、この電動アシスト歩行車10の傾きに関する信号を判定部43に対して送信する。判定部43は、傾きセンサ23の計測値に基づいて、電動アシスト歩行車10が段差乗り越えに成功したか否かを推定してもよい。傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の上部、例えば一対のハンドル14内部に設けられている。傾き検知センサ23は電動アシスト歩行車10の車体の下部に設けることもできる。ただし、傾き検知センサ23を車体の上部に配置することで、車体の下部に配置する場合に比べ、電動アシスト歩行車10の姿勢を高精度に測定することが可能となる。なお、傾き検知センサ23として、ジャイロセンサを使ってもよい。なお、加速度センサを用いて電動アシスト歩行車10の傾きを検知してもよい。この場合、電動アシスト歩行車は必ず傾き検出専用のセンサを備えていなくてもよい。
計測部の加速度センサ22a、81r~82l、速度センサ22b、傾き検知センサ23を後輪13に接近または接触した段差を検出する計測部として使うことができる。また、後述するように、計測部の測距センサを使って後輪13に接近または接触した段差を検出してもよい。測距センサも計測部の一例である。例えば、制御部16は計測部がいずれかの車輪の段差への接近または接触を検出したら、前輪12の段差乗り越え制御を行わせることができる。なお、測距センサの具体例については後述する。
(電動アシスト歩行車の概要)
例えば、電動アシスト歩行車10(電動車両)は、車体に設けられた前輪または後輪の少なくともいずれか一方を含む車輪を駆動させる駆動部と、車輪に段差を乗り越えさせる段差乗り越え制御を駆動部に対して行う制御部16と、車体の姿勢、車体の動き、車体の周囲の物体の少なくともいずれか一つを計測する計測部と、計測部の計測結果に基づき車輪が段差乗り越えに成功したか否かを判定する判定部43とを備えている。
また、電動アシスト歩行車(電動車両)は、車体に設けられた前輪または後輪の少なくともいずれか一方を含む車輪を駆動させる駆動部と、車体の姿勢、車体の動き、車体の周囲の物体の少なくともいずれか一つを計測する計測部と、計測部が車体の前方側が車体の後方側より高くなる傾斜を検出したときに後輪に段差を乗り越えさせる段差乗り越え制御を駆動部に対して行う制御部とを備えていてもよい。すなわち、制御部は、判定部43の機能を兼ね備えていてもよい。
電動アシスト歩行車10は、段差乗り越えの成否を判定することにより、段差乗り越え動作の結果に応じて、適切な制御を行うことができる。車体の周囲の物体の一例としては、電動アシスト歩行車の通行経路上に存在する段差が挙げられる。このような段差には、例えば、車道と歩道間の路肩、建築物の出入口に存在する高低差、乗り物(バス、船舶、鉄道車両など)の出入り口に存在する高低差、これらの箇所に設けられたスロープ、路面上において傾斜のある箇所(斜路)、路面上の凹凸がある。段差および物体は、路面の一部であってもよいし、路面上に配置された構造物であってもよい。段差は、上述とは異なる箇所に存在するものであってもよい。また、計測部が検出対象とする物体はどのような形状および材質のものであってもよく、物体の種類については特に問わない。ここで、計測部のセンサの例としては、上述の加速度センサ22a、81r~82l、速度センサ22b、傾斜角センサ23aが挙げられる。計測部はこれらのセンサの少なくとも一部を備えていてよいし、その他の種類のセンサを備えていてよい。
なお、以下では、制御部16が段差乗り越え制御のアルゴリズムに基づく指令を駆動部に送信し、駆動部が動作する場合を例に説明をする。ただし、各構成要素における処理の割り当ては、これとは異なっていてもよい。例えば、制御部16が段差乗り越え制御の開始指令を駆動部に送信し、駆動部は、自身に設定されている段差乗り越え制御アルゴリズムに基づく動作を開始してもよい。
図3は、脚部検知センサ25の一例を示す模式図である。図3に示すように、脚部検知センサ25は、連結フレーム32に設けられる。脚部検知センサ25の例としては、画像センサ、赤外線センサなどが挙げられる。脚部検知センサ25は、電動アシスト歩行車10の使用者の脚元からの距離を測定することで、脚の動作を検知することができる。
具体的には、図3の脚部検知センサ25は、範囲ARにおいて使用者の脚が動いているのか、それとも、停止しているのか、離れているのか、近づいているのか、後ろ向きになって座面37に座ろうとしているのかを判定することができる。なお、電動アシスト歩行車10は必ず脚部検知センサ25を備えていなくてもよい。
図4および図5は、把持センサ24を説明するための概略図である。
一対のハンドル14のグリップ部42には、それぞれ使用者が手で電動アシスト歩行車10を押したり引いたりする操作力(グリップ力)を検出する把持センサ24が設けられている。把持センサ24は棒状部材41に対する、押し方向および引き方向のいずれか一方または両方への移動は図示しない弾性部材(例えばバネ)によって制限されている。また。このような移動を検出するためにポテンショメータが設けられていてもよい。
上述のように、グリップ部42は、棒状部材41に対して前後方向に移動が可能である。図4および図5の矢印方向(前方向)に移動した場合には、使用者によって電動アシスト歩行車10が押されていると判定できる。図4および図5の矢印の反対方向(後方向)に移動した場合には、使用者によって電動アシスト歩行車10が引っ張られていると判定できる。いずれの方向にも移動していない場合は、上述のいずれの方向に力が加えられていないと判定できる。
上述の判定により、制御部16は使用者が電動アシスト歩行車10を前方に移動させようとしているのか、使用者が電動アシスト歩行車10を後方に移動させようとしているのか、使用者に電動アシスト歩行車10の状態を変化させる意図がないのかを認識することができる。
左右一対のハンドル14には、それぞれ別の把持センサ24が設けられている。各把持センサ24は、それぞれ独立してハンドル14に対する操作力(グリップ力)を検出する。また、各把持センサ24は、検出した操作力を制御部16に対して送信する。このため、制御部16は、使用者によって一対のハンドル14の一方のみが把持されている(片手持ち状態)か、一対のハンドル14の両方とも把持されていない(両手放し状態)か、あるいは、一対のハンドル14の両方が把持されている(両手持ち状態)かの認識することができる。
なお、図5に示すように、グリップ部42に、グリップ部42または一対のパイプフレーム31にかかるモーメントが検知できるように、ひずみセンサ38(例えばひずみゲージ)を設け、これを把持センサ24としてもよい。この場合、グリップ部42は、棒状部材41に対して固定されることになるため、構成を簡易化することができる。また、グリップ部42へ、ジョイスティック、押しボタンまたは使用者の手を検出する近接センサを設け、これを把持センサ24としてもよい。すなわち、「操作部を介して使用者が電動車両を前進させようとしている(使用者が電動車両の前進操作を行っている)と判断する」ことには、使用者が手や身体の一部で操作部を押したり引いたりすることにより、操作部に付与された使用者の操作力を検出する場合のほか、使用者の操作をジョイスティックや押しボタンなどのスイッチ手段によって検出する場合が含まれる。操作検出部は、使用者の操作部に対する操作を検出する。操作検出部の例としては、把持センサ24、ひずみセンサ38、筋電センサ、圧力センサ、音声認識装置、画像認識装置などが挙げられる。操作検出部については、例えば、ハンドル14、または、フレーム11に設けることができる。ただし、操作検出部の位置については、特に限定しない。使用者の操作が検出できるのであれば、操作検出部としてどのような種類のセンサまたは装置を使ってもよい。また、操作検出部が検出対象とする使用者の操作内容については特に問わない。判定部43は、操作検出部が所定の操作を検出したときに計測部の値によらず前輪12の段差乗り越え制御を実行してもよい。
制御部16は、使用者が操作部に対して所定の操作を行った場合に、前輪12の段差乗り越え制御を実行してもよい。また、操作検出部は、グリップセンサにかかる操作力を検出し、判定部43は、検出結果に基づいて使用者による段差乗り越え操作の有無を判定してもよい。操作の種類や、操作力の方向、操作の検出方法については特に限定しない。すなわち、操作部に対する所定の操作の有無や、所定の操作力の検出を車輪の段差乗り越え制御の前提条件としてもよい。制御部16は、これらの前提条件と、その他の段差乗り越えの条件が満たされたときに、段差乗り越え制御を行ってもよい。その他の段差乗り越えの条件の詳細については後述する。
なお、電動アシスト歩行車(電動車両)の制御方法は、車体に加わる速度または加速度の少なくともいずれかを計測するステップと、速度または加速度の少なくともいずれかに基づき、段差の有無を判定するステップと、段差があると判定された場合には、段差の乗り越え動作を実行するステップとを含んでいてもよい。
また、電動アシスト歩行車(電動車両)の制御方法は、前輪12の段差乗り越え制御を行うステップと、車体の姿勢、動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測し計測値を求めるステップと、計測値に基づき、前輪の段差乗り越えに成功したか否かを判定するステップと、前輪12の段差乗り越えが成功したと判定された場合には後輪13の段差乗り越え制御を実行し、前輪12の段差乗り越えが失敗したと判定された場合には段差乗り越え制御を実行する基準を変更するステップとを含んでいてもよい。車体の姿勢、動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測し計測値を求めるステップは、前輪12の段差乗り越え制御を行うステップと並行して実行されていてもよい。また、車体の姿勢、動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測し計測値を求めるステップは、前輪12の段差乗り越え制御を行うステップが実行されるタイミングの前後において実行されていてもよい。これにより、電動アシスト歩行車10は、段差乗り越え動作の結果に応じて、適切な動作を行うことができる。
電動アシスト歩行車(電動車両)の制御は、電動アシスト歩行車に搭載されたプログラム、プロセッサや電子回路などのハードウェアまたはこれらの組み合わせによって実現されていてもよい。例えば、電動アシスト歩行車(電動車両)の制御プログラムは、前輪12または後輪13の少なくともいずれか一方を含む車輪の段差乗り越え制御を行うステップと、車体の姿勢、車体の動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測し計測値を求めるステップと、計測値に基づき、車輪の段差乗り越えに成功したか否かを判定するステップとを含んでいてもよい。電動アシスト歩行車の制御プログラムは、前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定した場合、車輪が段差に接近または接触していると判定される計測値の範囲が拡大された第1モードに遷移するステップを含んでいてもよい。これにより、電動アシスト歩行車10は、第1モードに遷移後に車輪が段差と接触(接近)したときに計測される計測値が、第1モード遷移前におけるしきい値以下であっても、段差乗り越え制御を開始することができるため、段差乗り越えに成功する確率を高めることができる。
また、電動アシスト歩行車の制御プログラムは、前輪12の段差乗り越えに成功したと判定した場合、前輪12の段差乗り越えを行うときに比べて小さい駆動力で後輪13の段差乗り越え制御または、速度制御を伴う後輪13の段差乗り越え制御の少なくともいずれかが実行される第2モードに遷移するステップを含んでいてもよい。これにより、後輪13の段差乗り越え時に過剰な駆動力または速度が発生することを防ぐことができる。電動アシスト歩行車の制御プログラムは、後輪13が段差乗り越えに成功したと判定された場合には、第1モードを離脱し、車輪が段差に接近または接触していると判定される計測値の範囲を変更前の範囲に戻すステップとを含んでいてもよい。これにより、前輪12と段差との接触または接近を検出するのに適したモードに復帰することができる。また、電動アシスト歩行車は外部からの無線信号を受信し、外部の制御装置(情報処理装置)から送信された制御信号に基づいて制御されてもよい。
(本実施の形態の作用)
次に、上述の構成を備えた本実施の形態の作用について説明する。図6は、制御部16の動作の一例を説明するためのフローチャートである。
はじめに、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進操作中に、前輪12が段差に接触したか否かを判断する。この場合、まず制御部16は、左右一対のハンドル14にそれぞれ設けられた把持センサ24からで検知される信号に基づいて、左右一対のハンドル14が、一定時間以上(例えば1秒以上)一定以上の力で押されているか否かを判断する(ステップS101)。
なお、制御部16は、操作力の値(絶対値)に加え、操作力の変化の値(絶対値)を合わせて用いることにより、ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されているか否かを判定してもよい。この場合、ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されているか否かをより高い精度で判定することができる。例えば、操作力の絶対値が所定値以下であり、かつ操作力の変化(操作力の微分値)の絶対値が所定値以下である場合に、当該ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されていないと判定し、それ以外の場合に、当該ハンドル14が使用者の手によって一定以上の力で押されていると判定してもよい。また、操作力および操作力の変化が、各所定値で区切られた長方形の数値範囲に内接する楕円領域内にある場合、当該ハンドル14が使用者の手によって把持されていないと判定してもよい。この場合、さらに高い精度での判定を行うことができる。
ここで、一対のハンドル14が一定以上の力で押されていない場合(ステップS101のNo)、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていないと判断し、以下の制御を行わない。
一方、一対のハンドル14が一定時間以上一定以上の力で押されている場合(ステップS101のYES)、制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。続いて制御部16は、前輪12が段差に衝突したか否かを判定する(ステップS102)。
以下では、前輪12を持ち上げる動作の例について述べる。
前輪を持ち上げる動作を行う場合、制御部16は、モータ20(駆動部)を制御して、例えばハンドル14を押す力(ハンドル14に加わる操作力)に応じてモータ20の駆動力を増減させる。前輪12が段差に衝突しており、電動アシスト歩行車10が前進できないため、後輪13の前進方向の駆動力は電動アシスト歩行車10に前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させる。このため、前輪12を後輪13に対して持ち上げることが可能となる。
制御部16は、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしている(前進操作を意図している)と判断する際、上記のように、ハンドル14が押されている時間と力とを用いることにより、使用者が前進しようとしていることを的確に判断し、使用者の意図と異なる判断を避けることができる。これにより、使用者は電動アシスト歩行車10をより安心して使用できる。この判断の際、ハンドル14が押されている力のみを用いることもできる。例えば、ハンドル14が一定以上の力で押された場合、使用者が電動アシスト歩行車10を前進させようとしていると判断する。この場合、制御部16は、使用者が前進しようとしていることを早く判断し、使用者は歩行速度を大きく下げることなく前輪12を持ち上げることができる。
段差が比較的に低い場合、上述の後輪13の駆動力によって前輪12が持ち上がり、前輪12は段差に乗り上げることができる。ここで前輪12が持ち上がらない場合、続いて使用者は、ハンドル14を押す力を弱める。この際、電動アシスト歩行車10に前輪12を押し下げる方向のモーメント(前輪12の持ち上がりに対抗するモーメント)が減少する。制御部16は、後輪13の前進方向の駆動力を一定以上維持して後輪13を前方に駆動させる(図7参照)。これにより、前輪12を持ち上げる方向のモーメントが増大し、前輪12を持ち上げるように作用する。
これでも前輪12が持ち上がらない場合、続いて、使用者は、ハンドル14を後方に引く操作を行う。このとき、ハンドル14を後方に引く力が、後輪13を軸として前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させ、後輪13の駆動力と合わせて、前輪12を持ち上げるように作用する。このように、モータ20からの操作力に加え、使用者が操作ハンドル14を操作することにより、電動アシスト歩行車10に前輪12を持ち上げる方向のモーメントを発生させ(図2の矢印M参照)、前輪12をより確実に持ち上げる(電動アシスト歩行車10をウィリーさせる)ことができる。なお、使用者がハンドル14を後方に引く操作に代えて、使用者が、後輪13の回転軸の後方に固定された図示されていないペダルを踏むことにより、前輪12を持ち上げるようにしてもよい。
このとき、前輪12が後輪13に対して持ち上がることに伴い、前輪12と段差との間に隙間が発生する。後輪13が前進方向に駆動しているため、この隙間を埋めるように電動アシスト歩行車10が前進し、前輪12を段差の上面に接触させることができる。これにより、前輪12はスムーズに段差の上に乗り上げることができる。
制御部16は、前輪12を持ち上がらせた後、後輪13の前進方向の駆動力を第1の減少量で徐々に低減させる。この場合、前輪12が段差を乗り越えた後に後輪13が加速しすぎないため、前輪12が段差をスムーズに乗り越えることができる。駆動力の低減を開始するタイミングは、制御部16が前輪12を持ち上がらせるために駆動部を制御するときの所定の条件(使用者が電動アシスト歩行車10の前進操作を意図しているときに前輪12が段差に衝突したと判定される条件)を満たさなくなったときに設定することができる。例えば、ハンドル14が一定以上の力で押されなくなったとき(使用者がハンドル14を押す力を弱めたとき、またはハンドル14を後方に引いたとき)、または後輪13が前進方向に一定速度以上で回転したときとしてもよい。
その後、使用者は、前輪12を後輪13に対して持ち上がらせた状態で、一対のハンドル14を押す。これにより、電動アシスト歩行車10を前進させ、前輪12は段差を乗り越えることができる。
このように、使用者がハンドル14を後方に引っ張る操作を行うことにより、後輪13周りのモーメントを生じさせることができるので、モータ20の駆動力とあわせて、前輪12を容易に持ち上げることができる。このため、使用者は電動アシスト歩行車10を持ち上げることなく、前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。なお、上述したように、段差が低い場合など、使用者によるハンドル14を後方に引く操作を伴わずに、モータ20(駆動部)の駆動力の増加のみによって前輪12を持ち上げてもよい。
前輪12が段差を乗り越えた後もモータ20の出力が増加したままであると、電動アシスト歩行車10が加速しすぎるおそれがある。このため、前輪12を後輪13に対して持ち上げた後、以下の条件(1)~(3)のいずれかを満たした場合、制御部16は、前輪12が段差を乗り越えたと判断し、これ以上電動アシスト歩行車10が加速しないようにしてもよい。この場合、制御部16は、モータ20を制御して、モータ20による後輪13の駆動力の減少量をより大きくする。具体的には、後輪13の前進方向への駆動力の減少量を、上述した第1の減少量よりも大きい第2の減少量とする(図7の二点鎖線参照)。あるいは、制御部16は、後輪13の前進方向の駆動力をゼロにしてもよい。
(1)傾き検知センサ23によって検知された電動アシスト歩行車10の傾斜角度が、一定の値以上となった場合(前輪12が段差を上ると電動アシスト歩行車10が傾くため)。
(2)速度センサ22bによって検知された後輪13の回転速度が、所定の条件を満たした場合。例えば、後輪13の回転速度が一定値以上となった場合(前輪12が段差を越えた瞬間に後輪13の速度が上昇するため。また、後輪13が空回りした場合には後輪13の回転速度が上昇するため)。
(3)脚部検知センサ25によって検知された使用者と電動アシスト歩行車10との距離が、一定の値以上となった場合(前輪12が段差を越えた瞬間に後輪13の速度が上昇し、電動アシスト歩行車10が使用者から離れるため)。
後述するように、制御部43は、車輪の段差乗り越え制御の成否判定の結果に基づいて、制御内容の調整を行ってもよい。なお、制御部16は、計測部がいずれか一方の前輪12の段差への接近または接触を検出したとき前輪12の段差乗り越え制御を実行してもよい。必ず左右の前輪12が段差に接近または接触を検出したことを段差乗り越え制御の実行条件としなくてもよい。
ここまでは、前輪12の段差検出と、段差乗り越え制御について説明した。前輪12の段差乗り越え制御により、前輪12が段差の上に移動するのであれば、前輪12の段差乗り越えは成功したといえる。図8は、段差乗り越えの成功時の例を示した図である。前輪12の段差乗り越え制御が行われたにも関わらず、前輪12が段差の下にあるであれば、前輪12の段差乗り越えは失敗したといえる。図9は、段差乗り越えの失敗時の例を示した図である。
(前輪の段差乗り越え成否の判定方法)
判定部43は、計測部の計測値に基づき、前輪の段差乗り越えの成否を判定する。判定の結果は、制御部16に通知される。以下では、前輪の段差乗り越えの成否を判定する方法の詳細について説明する。
図8のように、前輪12の段差乗り越えに成功した場合、前輪12が段差の上の位置、後輪13が段差の下の位置となる。このため、電動アシスト歩行車10の車体は、車体後方から車体前方に向かって上り傾斜の姿勢になる。したがって、制御部16は、計測部によって車体の前方側が車体の後方側より高くなる傾斜が検出されたら、前輪12の段差乗り越えに成功したと判定してもよい。図9のように、前輪12の段差乗り越えに失敗した場合、前輪12も後輪13も段差の下に位置している。このため、前輪の段差乗り越えの成功時に比べ、電動アシスト歩行車10の車体は傾きの小さい姿勢となる。そこで、判定部43は、計測部で計測された車体の傾斜角に基づき、前輪の段差乗り越えの成否を判定することができる。車体の傾斜角を、加速度センサ22aによって計測してもよい。また、傾き検知センサ23によって車体の傾斜角を計測してもよいし、ただし、車体の傾斜角の計測に使われるセンサの種類については特に問わない。
ただし、段差乗り越え制御において、前輪12が一度段差の上に乗り上げた後、段差の下に落下する場合もある。例えば、前輪12が段差の縁近傍に乗り上げた場合には、前輪12が段差の縁から滑り落ちる可能性ある。また、段差の高さ、路面の傾斜などの条件によっては、前輪12の段差乗り越えに必要な力が大きくなる場合もある。前輪12の段差乗り越え制御の所要時間が長くなる場合もありうる。また、段差乗り越え制御中は、計測部で正確な傾斜角の値が得られない可能性がある。例えば、段差乗り越え制御中は、各方向の加速度が大きく変動するため、加速度センサ22aによる計測値が安定しない。そこで、電動アシスト歩行車10が前輪12の段差乗り越え制御を行ってから、一定期間が経過した後に傾斜角の計測を行ってもよい。段差乗り越え制御から一定期間を待つことにより、電動アシスト歩行車10の姿勢が安定した後における傾斜角の測定が可能となる。すなわち、判定部43は、前輪12の段差乗り越えの動作から所定の期間を経過した後に計測部が計測した計測値を参照してもよい。
また、計測部は、前輪12または後輪13の段差乗り越えの動作後、計測結果を複数回計測してもよい。この場合、判定部43は、複数回計測した結果得られた計測結果の変化が所定の範囲内にあるときに計測部の計測値を取得する。判定部43は、この計測結果の変化が所定の範囲内にある場合、前輪12の段差乗り越えが成功したか否かを判定することができる。これにより、電動アシスト歩行車10は、段差乗り越えに成功したかどうか判定を行うのに適した姿勢が安定した状態で計測値を得ることができる。
例えば、制御部16または判定部43は、タイマによって前輪の段差乗り越え制御の終了後からの経過した時間tを計測することができる。時間tがしきい値より大きくなった場合、計測部は電動アシスト歩行車10の車体の傾斜角を測定する。時間tのしきい値の例としては、0.5秒、1.0秒が挙げられるが、値については特に限定しない。傾斜角は車体の姿勢の一例である。その他の物理的情報を計測して車体の姿勢を測定してもよい。また、車体の姿勢に限られず、車体の動き、周囲の物体を計測して段差乗り越えの成否を判定してもよい。
なお、前輪12の段差乗り越えの成功時に、電動アシスト歩行車10の車体の傾斜角が、必ず車体後方から車体前方に向かう上り傾斜になるとは限らない。例えば、上り坂の路面上に段差がある場合、前輪12の段差乗り越えに失敗したとしても、車体の姿勢は車体後方から車体前方に向かう上り傾斜となる。また、下り坂の路面上に段差がある場合、前輪12の段差乗り越えに成功したとしても、路面の傾斜次第では、前輪12が後輪13より高い位置にならない可能性がある。
そこで、判定部43は、前輪12の段差乗り越え制御の前後における、車体の傾斜角の変位に基づいて前輪12の段差乗り越えの成否を判定することができる。例えば、計測部は電動アシスト歩行車10と段差との接触を検出したときに、傾斜角の測定を行う。加速度センサ22aによって傾斜角の測定を行う場合、衝突時における加速度の計測値の乱れを抑制する必要がある。そこで、ローパスフィルタを経由した加速度センサ22aの出力信号を測定してもよい。測定された段差乗り越え制御前の傾斜角θbは記憶部16aに保存される。なお、段差との接触の検出時の代わりに、段差乗り越え制御の開始時における傾斜角を測定してもよい。計測タイミングは、段差乗り越え制御の開始時以前であれば、特に問わない。すなわち、判定部43は、段差乗り越えの開始から所定の期間を経過したときに計測部の計測値を取得してもよい。ここで、取得される計測値の種類については特に限定しない。
そして、段差乗り越え制御の終了時以降における傾斜角の測定を行う。上述のように、段差乗り越え制御の終了時から一定期間待機してから計測をしてもよく、段差乗り越え制御後の傾斜角θ
aの計測タイミングについては特に限定しない。また傾斜角θ
aθ
aの代わりに時定数の小さいローパスフィルタを経由した加速度センサ値を、段差乗り越え制御前の傾斜角θ
bの代わりに時定数の大きなローパスフィルタを経由した加速度センサ値を用いてもよい。そして、判定部43は、下記の式(1)の要件が満たされているか否かを判定する。
ここで、θ
Tは、傾斜角のしきい値である。
hを段差の高さ、前輪12と後輪13との間の間隔をLとした場合、傾斜角のしきい値θ
Tとして、下記の式(2)で定義されるしきい値を使うことができる。
式(2)は、近似的に前輪12が高さhだけ持ち上げられたときに変化する車体の傾斜角を計算したものである。式(2)のしきい値は一例にしかすぎず、これとは異なる方法で定義されるしきい値を使ってもよい。
式(2)の例では、前輪12と後輪13との間の間隔Lが18cmであり、段差の高さhが2.5cmである場合、θT=3.18度となる。しきい値θTを段差の検出精度に応じて調整してもよい。例えば、検出の漏れを抑制するために、しきい値θTを式(2)で得られる値よりも小さく設定してもよい。
前輪12の段差の乗り越えの成否を、段差乗り越え制御の前後における傾斜角の差に基づいて、判定することにより、判定の精度を改善することができる。判定の精度を一層高めるために、前輪12の段差の乗り越えの成否の判定にその他の条件を付加してもよい。すなわち、計測部の計測値は、車体の傾斜を含んでいてもよい。この場合、判定部43は、前輪12の段差乗り越えの動作の前後における傾斜に基づき、前輪12の段差乗り越えが成功したか否かを判定することができる。
図10、図11の段差40は、電動アシスト歩行車10の進行方向への奥行が前輪12と後輪13との間の間隔より短くなっている。図10は、前輪12が段差40を乗り越える前の状態を示している。前輪12が段差40を乗り越えたとしても、図11に示されているように、前輪12は短時間で段差40の進行方向側の路面に落下してしまう。図10の状態と、図11の状態でそれぞれ車体の傾斜角を測定し、傾斜角の差を求めた場合、差がしきい値θTより小さくなるため、判定部43は前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定する可能性がある。
図11の状態から電動アシスト歩行車10を前進させると、後輪13が段差40と接触する。計測部が電動アシスト歩行車10と段差40との接触を検出した場合、上述の前輪12の段差乗り越えに失敗したという判定に基づき、制御部16は前輪12の段差乗り越えのための駆動力を発生させる。後述するように、後輪13の段差乗り越えには、前輪12の段差乗り越えほど大きな駆動力は必要でないため、過大な駆動力の発生は防止すべきである。そこで、判定部43は、前輪12の段差への接触または接近を検出した後、電動アシスト歩行車10が一定の距離前進した場合に、前輪12の段差乗り越えが成功したと判定してもよい。判定部43は、速度センサ22bの計測値に基づき、電動アシスト歩行車10が前進した距離を推定してもよい。また、判定部43は、その他の種類のセンサの計測値に基づいて、電動アシスト歩行車10が前進した距離を推定してもよい。
ここまでは、前輪12の段差乗り越え成否の判定方法について説明した。次に、前輪12の段差乗り越えの成否を判定した後の動作について述べる。
前輪12の段差乗り越え制御の後に、行われる動作は前輪の段差乗り越え制御の結果によって異なる。例えば、前輪12の段差乗り越えに成功した場合、次に後輪13が段差に接触することが予測される。そこで、制御部16は後輪アシストモード(第2モード)に遷移し、後輪の段差乗り越えのための制御を実行する。また、前輪12の段差乗り越えに失敗した場合、電動アシスト歩行車10の使用者は段差乗り越え制御を再度試みる可能性がある。このため、制御部16は再トライモード(第1モード)に遷移し、計測部が段差との接触を検出したら、再び前輪12の段差乗り越え制御を行う。
図12は、動作モード間の状態遷移の例を示した図である。図12には、通常モード(前輪アシストモード)と、後輪アシストモードと、再トライモードとが示されている。通常モードでは、段差との接触が検出された場合、前輪12の段差乗り越えをアシストするための駆動力が生成される。再トライモードでは、前輪12の段差乗り越えの成功率を高めるために、段差乗り越え制御を行うための条件が緩和される。後輪アシストモードでは、通常モードの場合と比べて小さい駆動力で後輪13の段差乗り越えが行われる。なお、上述の段差モードの有効化/無効化は、図12の状態遷移とは別の条件によって判定される。図12の各状態における動作および、状態間の遷移条件の詳細については後述する。
後輪13の段差乗り越え制御について説明する前に、前輪12と後輪13とを含む車輪にかかる力について説明する。図13、図14では車輪が段差に接触したときにかかる力が示されている。図13の段差は高さがh1であり、図14の段差の高さはh2となっている。h1<h2の関係が成立しているため、図13の段差と比べ、図14の段差が高くなっている。
図13、図14の押す力Fpは、車輪を段差の方向に前進させる力である。例えば、電動アシスト歩行車10の使用者がハンドル14を押すと、押す力Fpが発生する。また、モータ20がいずれかの車輪に駆動力を発生させている場合、押す力Fpは当該駆動力を含む。押す力Fpの反作用として、車輪は段差より抗力Fnを受ける。そして、抗力Fnのうち、段差の高さ方向の成分が浮上力Ffとなる。浮上力Ffは車輪を持ち上げる力となる。抗力Fnと、浮上力Ffとの間の角度をθとした場合、Ff=Fn×cosθとなる。抗力Fnは押す力Fpに比例するため、浮上力Ffも押す力Fpに比例しているといえる。
図13における、抗力Fnと、浮上力Ffとの間の角度はθ1である。一方、図14における、抗力Fnと、浮上力Ffとの間の角度はθ2である。図13、図14を参照すると、θ1<θ2となっている。cos(θ1)>cos(θ2)の関係が成立するため、図14の例のように段差が高くなると、同じ大きさの押す力Fpが加えられたとしても、発生する浮上力は小さくなる。このように、車輪の浮上力と、押す力の比は段差の高さに依存する。
次に、前輪12の段差乗り越え時と、後輪13の段差乗り越え時の違いについて説明する。図15は、前輪の段差乗り越え時にかかる力の例を示した図である。一方、図16は、後輪の段差乗り越え時にかかる力の例を示した図である。
図15に示したように、前輪12の段差乗り越え時には、後輪13を回転中心として前輪12が持ち上げられる。上述のように前輪12を持ち上げる浮上力Ffは押す力Fpに比例している。このため、浮上力Ffを大きくするためには、押す力Fpを大きくしなくてはならない。ただし、押す力Fpは、後輪13が回転中心である場合、前輪12を路面に押し付ける方向のモーメントとして作用してしまう。したがって、段差が一定以上の高さである場合、押す力Fpを増やしても、前輪12を持ち上げることができなくなる。
図16に示したように、後輪13の段差乗り越え時には、前輪12を回転中心として後輪13が持ち上げられる。この場合、浮上力Ffと押す力Fpの両方が、後輪13を持ち上げる方向のモーメントとして作用する。したがって、後輪13の段差乗り越えの場合は、押す力Fpを増やすことによって、比較的高い段差の乗り越えも可能となる。
上述のように、前輪12の段差乗り越えと、後輪13の段差乗り越えとを比較すると、後者の方が少ない駆動力でも、段差の乗り越えが可能である。したがって、制御部16は、前輪12の段差乗り越えの場合には、駆動部(モータ20)で駆動力を発生させることにより、押す力Fpを大きくすることができる。また、制御部16は、後輪13の段差乗り越えの場合には、駆動部で駆動力を発生させない制御を行うことができる。なお、制御部16は、後輪13の段差乗り越えの場合に、駆動部で駆動力を発生させてもよい。この場合、制御部16は、前輪12の段差乗り越えの場合と比べ、駆動部で小さい駆動力を発生させる。すなわち、後輪13の段差乗り越え制御では、後輪13の駆動部の駆動力が前輪12の乗り越え動作を行うときの駆動力よりも小さく設定されていてもよい。これにより、後輪13の段差乗り越え時に過大な駆動力を発生させることを防ぎ、バッテリ21の消費を抑えることができる。
図16に示されているように、後輪13が段差を乗り越える直前、使用者の足元は段差の近傍に位置している。図16の状態で、大きな駆動力によるアシストが行われた場合、電動アシスト歩行車10の車体が急発進する可能性がある。この場合、使用者の体から電動アシスト歩行車10が離れてしまったり、使用者が段差で転倒したりするおそれがある。安全面を考慮すると、後輪13の段差乗り越え時の駆動力は、前輪12の段差乗り越え時と比べて小さく設定されることが好ましい。
なお、制御部16は、後輪13の段差乗り越え制御を行うとき、電動アシスト歩行車10の車体の速度が上限値以内となるよう、駆動部(モータ20)制御してもよい。例えば、制御部16は速度センサ22bを使って車体の速度を計測し、計測値に基づいて駆動部の制御を行うことができる。なお、車体の速度の計測方法については特に問わない。例えば、モータ20の回転速度、車軸の回転速度に基づき、車体の速度を計算してもよい。後輪13の段差乗り越え制御における車体の速度に上限値を設けることにより、車体の段差乗り越え後の急発進等を防ぎ、後輪13の段差乗り越え制御時における安全性を一層高めることができる。
図15、図16の例では、使用者が電動アシスト歩行車10を前方に押して(前進させて)いる場合の段差乗り越えについて説明した。ただし、使用者が電動アシスト歩行車10を後方に引きながら段差の乗り越えを行う場合もありうる。この場合、車輪の段差の乗り越えやすさの関係は、図15、図16の例とは逆になる。すなわち、電動アシスト歩行車10を後方に移動させている場合には、後輪13の段差乗り越えと比べて小さい駆動力で前輪12の段差乗り越えを行うことができる。
電動アシスト歩行車10が前輪駆動型であるのか、後輪駆動型であるのかに関わらず、上述の車輪の段差の乗り越えやすさの関係は成立する。また、ハンドル14が電動アシスト歩行車10の車体前方にあるのか、ハンドル14が電動アシスト歩行車10の車体後方にあるのかに関わらず、上述の車輪の段差の乗り越えやすさの関係は成立する。
なお、使用者はハンドル14や、前腕を支持するパッドなどに対して下向きに体重をかけながら、電動アシスト歩行車10を移動させる場合がある。図15の例(前輪12の段差乗り越え)の場合、ハンドル14またはパッドが、前輪12の前方側に突出しているか、後輪13の後輪側に突出していない限り、使用者の体重はモーメントとして作用しない。図16の例(後輪13の段差乗り越え)の場合、ハンドル14またはパッドが、後輪13の後輪側に突出していない限り、使用者の体重は後輪13の浮上を妨げる方向のモーメントとして作用する。すなわち、使用者の体重が車体にかかっていない場合に比べ、後輪13の段差乗り越えが難しくなる。したがって、後輪13の段差乗り越えを容易にするために、制御部16は、駆動力を発生させてもよい。
(段差に接触/接近した車輪の判定)
前輪12の段差乗り越えまたは、後輪13の段差乗り越えに合わせた制御を行うためには、前輪12または後輪13のいずれが段差に接触または接近したのかを判定する必要がある。以下では、段差に接触または接近した車輪の判定方法について説明する。
図15、図16の例のように電動アシスト歩行車10が前進している場合、最初に前輪12が段差に接触する。したがって、制御部16が図12の通常モード(前輪アシストモード)にあるときは、前輪12の段差との接触を検出したら、前輪12の段差乗り越えのための制御を行う。そして、判定部43が前輪12の段差乗り越えに成功したと判定した場合、制御部16は図12の後輪アシストモードに遷移する。
後輪13と段差との接触は複数の方法によって判定することができる。前輪12のみが段差の上にのっている場合、車体が上り傾斜になっていると考えられる。そこで、計測部が電動アシスト歩行車10の車体の傾斜角を測定し、車体が車体後方から車体前方に向かって上り傾斜になっており、傾斜角がしきい値以上であるときに、所定の加速度が検出されたら、後輪13が段差と接触したと判定してもよい。所定の加速度の例としては、車体の前後方向または車体の進行方向反対側の加速度が挙げられる。すなわち、車体の傾斜を追加の条件に使うことによって、判定部43は前輪12と段差との接触と、後輪13と段差との接触を区別することができる。なお、車輪と段差との接近を検出する場合も、車体の傾斜を追加の条件に使うことによって、前輪12と段差との接近と、後輪13と段差との接近を区別することが可能である。
時系列で車体の傾斜角を測定し、傾斜角に所定の変化があった場合に後輪13が段差に接触したと判定してもよい。前輪12が段差に接触した場合も、後輪13が段差に接触した場合も、慣性力は電動アシスト歩行車10の車体後方を持ち上げる方向のモーメントとして作用する。一方、浮上力は前輪12が段差に接触した場合、車体前方を持ち上げる方向のモーメントとして作用する。したがって、後輪13が段差に接触した場合、浮上力は車体後方を持ち上げる方向のモーメントとして作用する。そこで、車体を前傾させる方向に傾斜角が変化した場合、前輪12ではなく、後輪13が段差に接触したと判定することができる。
また、各種のセンサを使って後輪13と段差との接触または接近を検出してもよい。例えば、車体と路面との間の距離を計測する距離センサを使うことができる。図17の電動アシスト歩行車10は、フレーム11の下側に距離センサ44が設けられている。距離センサ44は、路面との間の距離を時系列で計測する。電動アシスト歩行車10が上り坂を移動しているときや、電動アシスト歩行車10が傾斜のない路面を移動しているときを比較すると、距離センサ44の計測値に大きな変化を生じない。しかし、段差の乗り越え動作時においては、時系列で計測される路面との間の距離に変化がみられる。
前輪12のみが段差の上に乗り上げたとき、距離センサ44で計測される路面との距離は大きくなる。すなわち、判定部43は、距離センサ44で計測された距離の変化に基づいて、前輪12の段差乗り越えに成功したか否かを判定することができる。その後、電動アシスト歩行車10が前進し、距離センサ44の下が段差上の路面となった時点で、計測される路面との距離が小さくなる。例えば、距離センサ44によって、時系列で(1)路面との距離の拡大、(2)路面との距離の減少が計測された後に、車体の前後方向または車体の進行方向反対側の加速度が検出されたら、後輪13が段差に接触したと判定することができる。また、後輪13が段差に接触または接近したと判定された後、時系列で路面までの距離の減少が検出されたら、後輪13の段差乗り越えに成功したと判定してもよい。
図17の距離センサ44は、車体の底部から路面までの距離を計測する計測部の一例である。なお、図17の例では、ひとつの距離センサが設けられているが、距離センサの数については特に問わない。例えば、車体の前方と、車体の後方にそれぞれひとつずつ距離センサを設けてもよい。
距離センサが設置される位置については特に限定しない。例えば、図18のように、フレーム11の前輪12の近傍に距離センサ45を設けてもよい。距離センサ45は、電動アシスト歩行車10の前方にある物体との間の距離を計測することができる。前輪12が段差に接触した場合、距離センサ45の近傍に物体が検出される。一方、後輪13が段差に接触した場合、障害物がない限りは、距離センサ45の近傍に物体が検出されない。例えば、距離センサ45の近傍に物体が検出されていないときに、車体の前後方向または車体の進行方向反対側の加速度が検出されたら、後輪13が段差に接触したと判定することができる。すなわち、計測部は、車体の前方にある物体までの距離を検出してもよい。判定部43は、計測部が検出した当該距離に基づいて前輪12と後輪13のいずれが段差に衝突したのかを判定することができる。また、計測部は、例えば、加速度、車体の傾斜などの計測値を組み合わせて、前輪12と後輪13のいずれが段差に衝突したのかを判定してもよい。車体の前方にある物体までの距離を検出することにより、前輪12と後輪13のいずれが段差に衝突したのかをより正確に判定することができる。
また、距離センサ45を使うことによって、前輪12と段差との接近を検出し、現実の衝突が発生する前に段差の検出を行ってもよい。また、グリップセンサや加速センサを使わずに、段差の検出を行ってもよい。
図19の例のように、距離センサ48を後輪13の近傍に設置してもよい。距離センサ48は、当該センサより前方にある障害物を検出する。前輪12が段差と接触した場合、距離センサ48と段差との間の距離は長くなる。一方、後輪13が段差と接触した場合、距離センサ48と段差との距離は短くなる。したがって、距離センサ48が計測する物体との間の距離に基づいて、前輪12または後輪13のいずれが段差に接近または接触したのかを判定することができる。図19の例では、距離センサ48がフレーム11に設けられているが、これとは異なる位置に距離センサが設けられていてもよい。距離センサを使って、段差乗り越えの成否を判定することができる。例えば、判定部43は、計測部(例えば、図19の距離センサ48)が後輪13の所定の範囲内で段差を検出したときに前輪12の段差乗り越えが成功したと判定してもよい。所定の範囲の例としては、後輪13の近傍に設けられたセンサから一定距離の領域が挙げられる。一定距離内にある物体を検出できるのであれば、センサについては特に問わない。これにより、前輪12の段差乗り越えの成否を正確に判定することが可能となる。
図18の距離センサ45と、図19の距離センサ48は、車体の前方にある物体までの距離を計測する計測部の例である。判定部43は、計測部が計測した距離に基づいて、前輪12と後輪13のいずれが段差に衝突したのかを判定してもよい。図18、図19に示したように、計測部は、車体の前方側または後方側の少なくともいずれかに配置されていてもよい。この配置により、車体の前方または後方にある物体との距離が計測しやすくなる。
図17~図19の例では、距離センサによる段差の検出を行っていた。ただし、段差の検出に使用できるセンサの種類は距離センサに限られない。例えば、カメラなどの画像センサを使って段差の検出を行ってもよい。
なお、制御部16は、いずれかの車輪と段差との接触が検出されたことを条件として、段差乗り越え制御を行ってもよい。また、制御部16は、いずれかの車輪と段差との接近が検出されたことを条件として段差乗り越え制御を行ってもよい。いずれかの車輪と段差との接近は、例えば、図18の距離センサ45や、図19の距離センサ48を使うことによって検出することができる。すなわち、制御部16は車輪と段差との接触を待たずに、段差乗り越え制御を開始してもよい。また、車輪と段差との接触または接近の検出に使われるセンサの数と、センサの種類の組み合わせについては特に限定しない。例えば、電動アシスト歩行車10の複数の位置に距離センサを設け、段差と障害物との違いを判定してから、車輪と段差との接触または接近を検出してもよい。距離センサのみを使って車輪と段差との接触または接近を検出してもよい。また、距離センサと、加速度センサを組み合わせて段差との接触を検出してもよい。
判定部43は、上述の複数の条件のいずれかが満たされたときに(OR条件)、車輪と段差との接触または接近があったと判定してもよい。また、複数の条件が同時に満たされたら(AND条件)、車輪と段差との接触または接近があったと判定してもよい。条件の例としては、特定のセンサの計測値がしきい値より大きいこと、特定のセンサの計測値がしきい値より小さいこと、特定のセンサの計測値が所定の値をとっていることが挙げられる。ただし、条件の内容については特に限定しない。
(後輪アシストモードからの離脱条件)
後輪13の段差乗り越えに成功した場合や、後輪13の段差乗り越えが不要となった場合、制御部16は図12の後輪アシストモードから離脱し、通常モード(前輪アシストモード)に戻る。制御部16が駆動部(モータ20)を制御し、後輪13の段差乗り越えのための駆動力を生成している場合、後輪アシストモードから離脱したら、駆動力の生成を停止してもよい。以下では、制御部16が後輪アシストモードから離脱する条件の例について説明する。
電動アシスト歩行車10が一定の距離走行した場合、制御部16は後輪アシストモードから離脱してもよい。一定の距離の例としては、前輪12と後輪13との間の間隔Lが挙げられる。前輪12が段差を乗り越えた後、電動アシスト歩行車10が距離Lだけ前進すると、後輪13が段差に接触することが予想される。電動アシスト歩行車10が距離Lだけ走行したのにも関わらず、後輪13と段差との接触または接近が検出されない場合、制御部16は後輪アシストモードから離脱することができる。例えば、電動アシスト歩行車10が人または機械などによって段差の上に引き上げられた場合、一度段差の上にのった前輪12が段差の下に落下してしまった場合、前輪12と段差との接触または接近が誤検出された場合、電動アシスト歩行車10が距離Lだけ走行しても、後輪13と段差との接触または接近が検出されない可能性がある。判定部43は、計測部が前輪12または後輪13の少なくともいずれか一方による、所定の距離の移動を検出したときに後輪13の段差乗り越えに成功したと判定してもよい。これは、いずれかの車輪が所定の距離の移動を行うことができた場合、段差が車輪による電動アシスト歩行車10の移動の障害となっていないと推定できるからである。
制御部16は、電動アシスト歩行車10が一定の距離だけ後退したら、後輪アシストモードから離脱してもよい。これは、電動アシスト歩行車10が後方に走行した場合、使用者の意思で段差乗り越えを中止し、電動アシスト歩行車10を後方に引いたと考えられるからである。後輪アシストモードから離脱する際の条件となる、後方への走行距離のしきい値については特に限定しない。すなわち、制御部16は、前輪12または後輪13の少なくともいずれかが所定の距離を移動したら、後輪アシストモードを離脱してもよい。さらに、使用者が操作部で所定の動作(例えば、段差乗り越えの中止を示す操作)を行ったことを付加的な条件として、後輪アシストモードから離脱してもよい。
電動アシスト歩行車10の走行距離は、速度センサ22bの計測値に基づいて計算することができる。ただし、その他のセンサの計測値に基づいて電動アシスト歩行車10の走行距離を求めてもよい。また、走行距離の計算方法については特に問わない。
制御部16は、タイマを使って後輪アシストモードに遷移してから経過した時間を計測してもよい。この場合、制御部16は、後輪アシストモードに遷移してから経過した時間がしきい値を超えた場合、後輪アシストモードから離脱することができる。後輪アシストモードに遷移してから長時間が経過したのにも関わらず、後輪13と段差との接触または接近が検出されない場合、後輪13の段差乗り越え制御が不要となった可能性があるからである。
制御部16は、車輪や駆動部の動作に基づいて、後輪アシストモードから離脱するか否かの判定を行ってもよい。例えば、後輪13が段差を乗り越えると、電動アシスト歩行車10を前進させるのに必要なトルクが小さくなる。したがって、モータ20へのトルクに基づいて、後輪13が段差を乗り越えたか否かを判定することができる。モータ20のトルクの計測方法については特に限定しない。例えば、車軸に挿入されたトルク計の計測値に基づいてモータ20のトルクを測定してもよい。また、車軸に設けられたひずみゲージの計測値に基づいてモータ20のトルクを測定してもよい。モータ20に流れる電流を計測し、トルクを計算してもよい。
また、モータ20の印加電圧が一定値である場合、トルクが小さくなれば回転数が大きくなる。加速度センサ22a、81r~82lで計測された加速度に基づいてモータ20のトルクを推定してもよい。また、速度センサ22bで計測された速度に基づいてモータ20のトルクを推定してもよい。なお、回転数が大きくなるのは、後輪13の段差乗り越え成功時に限らず、前輪12の段差乗り越え時も同様である。制御部16は、後輪13の駆動部の負荷トルクが小さくなったら、後輪アシストモードを離脱してもよい。また、判定部43は、計測部が後輪13の駆動部の負荷トルクの減少を検出したときに後輪13の段差乗り越えに成功したと判定してもよい。一般に、段差乗り越え動作が開始されると、駆動部の負荷トルクが増える。そして、段差乗り越え動作が終わると、駆動部の負荷トルクが減少する。負荷トルクを監視することによって、段差乗り越えの成否を正確に判定することが可能となる。
図16に示したように、前輪12を回転中心として、後輪13を持ち上げることによって、後輪13の段差乗り越えが行われる。このとき、後輪13が路面から浮き、後輪13が空回りする場合がある。後輪13が空回りすると、モータ20のトルクが減少する。したがって、上述と同様の方法で後輪13の空回りを検出することができる。左右の後輪13のいずれかのみが空回りする場合もある。この場合、左右のモータ20の状態値(例えば、トルク、電流、速度、加速度)に差が生ずる。したがって、判定部43は、左右のモータ20の状態値の差がしきい値より大きくなった場合に、後輪13が空回りしたと判定してもよい。なお、使用者が電動アシスト歩行車10を段差に押し付けるように前進させている場合、後輪13は段差の縁に接しながら持ち上げられる。このように、後輪13が空回りしない場合でも、後輪13の段差乗り越えを検出できるために、その他の条件を併用してもよい(OR条件)。
上述では、車体の傾斜角の変化を検出し、前輪12の段差乗り越えの成功可否を判定する方法について説明した。車体の傾斜角の変化に基づいて後輪13の段差乗り越えを検出し、後輪アシストモードから離脱してもよい。制御部16が後輪アシストモードに遷移したとき、前輪12は段差の上に乗り上げているため、車体後方から車体前方に向かって上り傾斜となっている。しかし、後輪13が段差を乗り上げたら、前輪12と後輪13はほぼ同じ高さとなる。したがって、後輪13が段差を乗り越えたら、車体の傾斜は減少する。判定部43は、計測部が車体の傾斜の減少を検出したときに後輪13の段差乗り越えに成功したと判定してもよい。具体的には、車体の傾斜角の減少量がしきい値より大きくなったら、後輪13が段差を乗り越えたと判定してもよい。すなわち、制御部16は、計測部によって計測された車体の傾斜が減少したら、後輪アシストモードを離脱してもよい。
また、図17の説明で述べたように、判定部43は、計測部が計測した車体の底部から路面までの距離の時系列変化に基づいて、後輪13の段差乗り越えの成功可否を判定してもよい。段差乗り越え動作が行われる過程で車体の底部から路面までの距離が変化するため、当該距離に基づき、後輪13の段差乗り越えの成否を判定することが可能である。後輪13と段差との接触または後輪13と段差との接近の検出後、計測部が計測した距離が減少したら、後輪アシストモードを離脱してもよい。
判定部43は、上述の複数の条件のいずれかが満たされたときに(OR条件)、後輪13が段差を乗り越えたと判定してもよい。また、複数の条件が同時に満たされたら(AND条件)、後輪13が段差を乗り越えたと判定してもよい。条件の例としては、特定のセンサの計測値がしきい値より大きいこと、特定のセンサの計測値がしきい値より小さいこと、特定のセンサの計測値が所定の値をとっていることが挙げられる。ただし、条件の内容については特に限定しない。すなわち、判定部43は、後輪アシストモードに遷移後、計測部によって計測された計測値の変化に基づき、後輪アシストモードを離脱するか否かを判定してもよい。制御部16は、判定部43が後輪13の段差乗り越えに成功したと判定したときに後輪13の段差乗り越え制御を終了してもよい。後輪13の段差乗り越え制御を終了後、制御部16は、駆動部に対して異なる内容の制御を行う。
(再トライモード)
ここまでは、後輪アシストモードについて説明した。次に、前輪12の段差乗り越えに失敗した後の動作モードである、再トライモード(第1モード)について述べる。前輪12の段差乗り越えに失敗した場合、使用者は必ず電動アシスト歩行車10を後方に引き、二回目以降の段差乗り越えのために助走距離を確保できるとは限らない。例えば、使用者の後方には他の歩行者が待っている可能性もあるし、通路が狭い場合もある。電動アシスト歩行車10の助走距離が短いと、前輪12と段差との衝突時に発生する衝撃が小さくなる可能性がある。計測部で計測された加速度に基づき、前輪12と段差との接触を検出する場合、検出される加速度がしきい値を超えず、段差が検出できなくなるおそれがある。そこで、制御部16は、判定部43が前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定した場合には、センサが前輪12の段差への接近または接触を検出するときに用いるしきい値を変更することができる。例えば、判定部43は、前輪12に段差が接近または接触したと判定される計測部の計測値の範囲を拡大してもよい。これにより、段差との接近または接触の検出漏れが起こる確率を下げることができる。
すなわち、制御部16は車輪が段差に接近または接触していると判定される計測値の範囲が拡大されたモード(第1モード)に遷移してもよい。ここで、センサの例としては、いずれかの車輪の段差への接近または接触を検出するセンサ(計測部)が挙げられる。以下で説明する再トライモードでは、前輪12と段差との接触または接近が発生していると判定される、センサの計測値の範囲が拡大される。本実施形態では、後輪13の段差乗り越え失敗後に別のモードに遷移しない場合を例に説明する。ただし、制御部16は、後輪13の段差乗り越えの失敗後に、別のモードに遷移してもよい。別のモードでは、後輪13の段差検出に用いられる計測値のしきい値を変更してもよい。また、別のモードでは後輪13の段差乗り越え制御における駆動力を変更してもよい。
例えば、制御部16は、車体の進行方向反対側への加速度または車体の後方方向への加速度がしきい値より大きいことを段差検出の条件としている場合、再トライモードでは当該しきい値をより小さい値に変更してもよい。また、制御部16は、車体の速度がしきい値より大きいことを段差検出の条件としている場合、速度のしきい値をより小さい値に変更してもよい。速度の計測タイミングや、段差との接触の条件によって、車体前方方向の速度が計測される場合もあるし、車体後方方向の速度が計測される場合もある。そこで、制御部16は、再トライモードに遷移したら、段差検出時において、速度を条件判定から除外してもよい。
前輪12が段差に接触している状態で、電動アシスト歩行車10を前方に押すと、後輪13が浮き上がることがある。例えば、計測部で車体の傾斜角を測定し、車体の後方側が車体の前方側より高くなっている場合、制御部16は後輪13が浮き上がっていると判定することができる。また、制御部16が再トライモードにあるときに、後輪13が空回りしている場合、後輪13が浮き上がっていると推定してもよい。上述のように、モータ20のトルクを計測することによって後輪13が空回りしているか否かを判定することができる。また、その他のセンサを使って後輪13の浮き上がりを検出してもよく、検出方法については特に問わない。制御部16は、後輪13が浮き上がっていると判定した場合、所定の加速度(例えば、しきい値より大きい車体の進行方向反対側への加速度または車体の後方方向への加速度)が計測されなくても、前輪12の段差乗り越え制御を開始してもよい。
制御部16が通常モードから再トライモードに遷移した後も、段差モードの有効/無効設定の変更が行われてもよい。例えば、制御部16の段差モードが有効となっている場合、前輪12が段差に接触したか否かの判定が行われ、所定の条件が満たされているのであれば段差の乗り越え動作が行われる。一方、制御部16の段差モードが無効である場合、前輪12が段差に接触したか否かの判定が行われない。したがって、段差モードが無効であるのであれば段差の乗り越え動作が行われない。再トライモードにおける、段差モードの有効/無効の設定変更に係る条件は、「段差モードの可否」で説明した内容と同様でよい。
前輪12の段差乗り越えに失敗したタイミングでは、制御部16の段差モードは有効となっている。前輪12の段差乗り越えに失敗後、段差モードが無効になったとしても、短時間で再び段差乗り越え制御を行う必要が生ずる場合がある。そこで、一定の時間が経過しないと、一度段差モードが無効になってから再び段差モードが有効にならないという制約がある場合、時間的な制約を緩和してもよい。
再トライモードでは、操作部に対して行われる操作に基づき、前輪12の段差乗り越え制御を開始するか否かを判定してもよい。例えば、グリップセンサの出力信号がON状態であるか、しきい値より大きいが、電動アシスト歩行車10が前進しない場合、制御部16は前輪12の段差乗り越え制御を開始してもよい。電動アシスト歩行車10が前進しているか否かは、例えば、速度センサ22bの計測値に基づいて判定することができる。ただし、その他の方法で判定を行ってもよい。上述のグリップセンサの出力信号を使う条件は一例にしかすぎない。例えば、左右の操作部へ加えられている力の差がしきい値以上であることを条件にしてもよい。また、左右いずれかの操作部に加えられている力の変化がしきい値以上であることを条件にしてもよい。操作部で使用者が前輪12の段差乗り越えのために加えている力のパターンが検出できるのであれば、力のパターンの検出を条件にしてもよい。また、脚部検知センサ25で検出された使用者の脚の動きなど、その他の条件を使ってもよい。
再トライモードの前輪12の段差乗り越え制御において生成されるモータ20の駆動力の大きさは、通常モードと同様であってもよい。また、通常モードに比べて再トライモードの前輪12の段差乗り越え制御において生成されるモータ20の駆動力を大きく設定してもよい。再トライモードにおけるモータ20の駆動力の制御は上述の図7と同様であってよい。
例えば、制御部16は、判定部43が車輪の段差乗り越えに失敗したと判定した場合、判定部43が車輪の段差乗り越えに失敗したと判定したときの制御と比べて大きい駆動力または速度上限によって駆動部(例えば、モータ20)の段差乗り越え制御を行ってもよい。例えば、駆動部(例えば、モータ20)でトルク制御が行われている場合、制御部16は、車輪の段差乗り越えに失敗したと判定されたときと比べて大きいトルクを駆動部で発生させ、より大きい駆動力で段差乗り越え制御を行うことができる。失敗時に駆動力が不足していた場合、次回の制御時において、車輪の段差乗り越えに成功する確率を高めることができる。
ここで、速度上限とは、速度制御が行われている駆動部(例えば、モータ20)の制御速度の上限ことを意味する。例えば、駆動部で速度制御が行われている場合、制御部16は、車輪の段差乗り越えに失敗したと判定されたときと比べて駆動部の回転速度を大きくし、車輪の段差乗り越え動作が行われるときにおける車輪の回転速度を大きくすることができる。失敗時に車輪の回転速度が遅すぎた場合、次回の制御時において、車輪の段差乗り越えに成功する確率を高めることができる。前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定された場合(すなわち、前輪12の再トライモードに遷移したとき)に限らず、後輪13の段差乗り越えに失敗したと判定された場合に、当該段差乗り越え制御を行ってもよい。すなわち、車輪の段差乗り越え失敗後の段差乗り越え制御の変更(より大きい駆動力または、より大きい速度上限)は、前輪12の段差乗り越え失敗に限られない。
制御部16は、前輪12の段差乗り越えに成功したと判定した場合、モータ20の駆動力を減少させてもよい。制御部16は、判定部43が車輪の段差乗り越えに成功したと判定した後に計測部がしきい値以上の車体の速度を検出した場合、判定部43が車輪の段差乗り越えに成功したと判定したときの制御と比べて小さい駆動力または速度上限によって駆動部(例えば、モータ20)の段差乗り越え制御を行ってもよい。車輪の段差乗り越えに成功した後に所定のしきい値以上の車体速度が検出されることは、段差乗り越えに必要以上の力がかけられていることを示している。このため、所定のしきい値以上の車体速度が検出された場合には、制御パラメータの値を小さくし、段差乗り越え後に急発進などが起こることを防ぐことができる。
ただし、前輪12が段差を上りきれなかったために乗り越えに失敗する場合や、前輪12が一度段差の上に乗り上げたものの、段差の縁から落下してしまう場合がありうる。そこで、再トライモードにおける段差乗り越え制御における、モータ20で駆動力が生成される期間を通常モードに比べて長く設定してもよい。これにより、再トライモードにおける前輪12の段差乗り越えの成功率を高めることができる。
次に、再トライモードからの離脱条件について説明する。制御部16は前輪12の段差乗り越えに成功したと判定した場合、再トライモードから離脱し、通常モードに遷移してもよい。前輪12の段差乗り越えに成功したか否かの判定方法は、上述の「前輪の段差乗り越え成否の判定方法」で述べた通りである。また、制御部16は、判定部43がすべての車輪が段差乗り越えに成功したと判定したら、再トライモードを離脱してもよい。さらに、判定部43は、前輪12の段差乗り越えが不要と判定したときに、段差乗り越え制御を実行する基準の変更を終了してもよい。再トライモードを離脱したら、計測部(センサ)が前輪12の段差への接近または接触を検出するときに用いるしきい値を変更前の値に戻す。すなわち、判定部43は、前輪12の段差乗り越えに成功したと判定したときに段差乗り越え制御を実行する基準の変更を終了してもよい。
また、電動アシスト歩行車10が、所定の距離を走行したら、制御部16は再トライモードから離脱して、通常モードに遷移してもよい。前輪12の段差乗り越えの失敗後、電動アシスト歩行車10が所定の距離だけ走行したら、使用者は段差の乗り越えを断念したと推定されるからである。前輪12の段差乗り越えの失敗後、電動アシスト歩行車10が所定の距離だけ走行したことは、判定部43が前輪12の段差乗り越えが不要だと判定する条件の一例である。前輪12の移動距離を計測し、電動アシスト歩行車10の走行距離を求めてもよい。また、後輪13の移動距離を計測し、電動アシスト歩行車10の走行距離を求めてもよい。すなわち、電動アシスト歩行車10の走行距離の計測方法については特に問わない。
また、電動アシスト歩行車10が車体後方方向に一定の距離を走行した場合、制御部16は再トライモードから離脱して、通常モードに遷移してもよい。電動アシスト歩行車10が後退し、車体前方側と段差との間に一定の距離がある場合、電動アシスト歩行車10は、次回の段差検出および段差乗り越えのために充分な助走距離を確保できている。したがって、段差検出のための基準を緩和させる必要がなくなる。なお、電動アシスト歩行車10の走行距離の測定方法については、上述の「後輪アシストモードからの離脱条件」で述べた通りである。さらに、制御部16が、再トライモードに遷移してから所定の期間を経過したら、再トライモードから離脱し、通常モードに遷移してもよい。この場合、計測部のセンサが前輪12の段差への接近または接触を検出するときに用いるしきい値を変更前の値に戻す。ここで述べた、電動アシスト歩行車10が車体後方方向に一定の距離を走行することと、制御部16が、再トライモードに遷移してから所定の期間を経過することは、いずれも、判定部43が前輪12の段差乗り越えが不要だと判定する条件の例である。
(電動アシスト歩行車の全体的な動作)
次に、電動アシスト歩行車10の全体的な動作について説明する。図20は、電動アシスト歩行車10の動作の一例を説明するためのフローチャートである。以下では、図20を参照しながら動作を説明する。
まず、電動アシスト歩行車10は、通常モードの条件下で段差検出を行う(ステップS201)。ステップS201で段差検出とは、前輪12の段差との接触または、前輪12の段差への接近を検出することをいう。上述のように、ステップS201で電動アシスト歩行車10を、段差モードが有効となっているときに段差検出を行い、段差モードが無効であるときには段差検出を行わない設定にしてもよい。段差が検出された場合(ステップS201のYES)、通常モードの設定に基づく、前輪12の段差乗り越え制御を行う(ステップS202)。段差が検出されない場合(ステップS201のNO)、前輪12と段差との接触または接近の有無の監視を継続する。
前輪12の段差乗り越え制御が行われたら、前輪12の段差乗り越えに成功しているか否かの判定を行う(ステップS203)。前輪12の段差乗り越えの成否の判定方法は上述で述べた通りである。前輪12の段差乗り越えに成功したと判定された場合(ステップS203のYES)、電動アシスト歩行車10は後輪アシストモードに遷移する(ステップS204)。前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定された場合(ステップS203のNO)、電動アシスト歩行車10は再トライモードに遷移する(ステップS210)。
以降では、後輪アシストモードにおける動作、再トライモードにおける動作の順に説明をする。
電動アシスト歩行車10は後輪アシストモードへ遷移したら、再び段差検出を行う(ステップS205)。ステップS205で段差検出とは、後輪13の段差との接触または、後輪13の段差への接近を検出することをいう。段差が検出された場合(ステップS205のYES)、後輪アシストモードの設定に基づく、後輪13の段差乗り越え制御を行う(ステップS207)。段差が検出されない場合(ステップS205のNO)、後輪アシストモードの離脱条件に該当しているか否かを判定する(ステップS206)。後輪アシストモードの離脱条件の詳細は、上述の通りである。後輪アシストモードの離脱条件に該当する場合(ステップS206のYES)、電動アシスト歩行車10は、通常モードに遷移する(ステップS209)。通常モードに遷移したら、ステップS201以降の処理を再び行う。後輪アシストモードの離脱条件に該当しない場合(ステップS206のNO)、ステップS205以降の処理を再び行う。
後輪13の段差乗り越え制御が行われたら、後輪13の段差乗り越えに成功しているか否かの判定を行う(ステップS208)。後輪13の段差乗り越えの成否の判定方法は上述の通りである。後輪13の段差乗り越えに成功したと判定された場合(ステップS208のYES)、電動アシスト歩行車10は、通常モードに遷移する(ステップS209)。電動アシスト歩行車10は、通常モードに遷移したら、ステップS201以降の処理を再び行う。後輪13の段差乗り越えに失敗したと判定された場合(ステップS208のNO)、後輪アシストモードの条件下で後輪13と段差との接触または接近の有無の監視を継続する(ステップS205)。
電動アシスト歩行車10は再トライモードへ遷移したら、再び段差検出を行う(ステップS211)。ステップS211で段差検出とは、前輪12の段差との接触または、前輪12の段差への接近を検出することをいう。上述のように、再トライモードでは、通常モードに比べ、前輪12の段差との接触または、前輪12の段差への接近があったと判定される条件を緩和してもよい。上述のように、ステップS211で電動アシスト歩行車10を、段差モードが有効となっているときに段差検出を行い、段差モードが無効であるときには段差検出を行わない設定にしてもよい。段差が検出された場合(ステップS211のYES)、再トライモードの設定に基づく、前輪12の段差乗り越え制御を行う(ステップS213)。段差が検出されない場合(ステップS211のNO)、再トライモードの離脱条件に該当しているか否かを判定する(ステップS212)。再トライモードの離脱条件の詳細については、上述の通りである。再トライモードの離脱条件に該当する場合(ステップS212のYES)、電動アシスト歩行車10は、通常モードに遷移する(ステップS209)。通常モードに遷移したら、ステップS201以降の処理を再び実行する。再トライモードの離脱条件に該当しない場合(ステップS212のNO)、再トライモードの条件下で前輪12と段差との接触または接近の有無の監視を継続する(ステップS211)。
再トライモードで前輪12の段差乗り越えが行われたら、前輪12の段差乗り越えに成功しているか否かの判定を行う(ステップS214)。前輪12の段差乗り越えの成否の判定方法は上述の通りである。前輪12の段差乗り越えに成功したと判定された場合(ステップS214のYES)、電動アシスト歩行車10は後輪アシストモードに遷移する(ステップS204)。後輪アシストモードにおける処理の詳細は上述の通りである。前輪12の段差乗り越えに失敗したと判定された場合(ステップS214のNO)、再トライモードの条件下で前輪12の段差検出を継続する(ステップS211)。
次に、電動アシスト歩行車10(電動車両)の制御プログラムの例について説明する。電動アシスト歩行車10の制御プログラムは、前輪12または後輪13の少なくともいずれか一方を含む車輪の段差乗り越え制御を実行しているときに車体の姿勢、車体の動き、周囲の物体の少なくともいずれかを計測するステップと、計測値に基づき、段差乗り越えに成功したか否かを判定するステップと、前輪12の段差乗り越えに失敗したと判断した場合には、前輪12の段差への接近または接触を検出するときに用いられるしきい値を変更し、車輪が段差に接近または接触していると判定される計測値の範囲が拡大された第1モードに遷移するステップとを含んでいてもよい。これにより、車輪が段差に接近または接触したことを正しく検出し、前輪12が段差の乗り越えに成功する確率を高めることができる。
また、電動アシスト歩行車10の制御プログラムは、前輪12の段差乗り越えに成功したと判定した場合には、後輪13の段差乗り越えの制御を実行するステップと、すべての前輪12および後輪13が段差乗り越えに成功したと判定された場合には、第1モードを離脱し、しきい値を変更前の値に戻すステップとを含んでいてもよい。さらに、前輪12が段差を乗り越えたことを検出するステップと、前輪12の段差乗り越えを行うときに比べて小さい駆動力で後輪13の段差乗り越え制御または、速度制御を伴う後輪13の段差乗り越え制御の少なくともいずれかが実行される第2モードへの遷移を行うステップとを含んでいてもよい。
(第2の実施の形態)
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図21~図27に示す第2の実施の形態は、後輪13およびモータ20周辺の構成が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と同様である。図21~図27において、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図21~図25に示す構成において、電動アシスト歩行車10のモータ20は、遊星歯車機構50を介して各後輪13に連結されている。
図23~図25に示すように、モータ20は、パイプフレーム31に固定されたハウジング61と、ハウジング61内に収容され、ハウジング61に対して回動自在な出力軸支持部62と、出力軸支持部62に固定され、出力軸支持部62と一体となって回動する出力軸63とを有している。このうちハウジング61にはフランジ64が固定され、ハウジング61の中央部からは出力軸63が突出している。ハウジング61と出力軸支持部62との間には、ベアリング65が介在されている。また、出力軸支持部62の外周には磁石66が設けられている。さらに、磁石66の周囲にはコイル67が配置されており、コイル67は、ハウジング61に固定されている。コイル67には、バッテリ21からの電力が供給され、磁石66が設けられた出力軸支持部62が回転するようになっている。なお、ハウジング61の中央部にはキャップ68が設けられている。
後輪13は、ホイール71と、ホイール71の外周に設けられたタイヤ72と、ホイール71に連結されたホイール押さえ73とを有している。ホイール71は、押さえプレート74を介して、フランジ64の周囲に設けられたベアリング75に固定されている。
遊星歯車機構50は、太陽歯車51と、太陽歯車51の周囲に配置された内歯車52と、太陽歯車51および内歯車52に噛み合い、出力軸63が回転したとき自転しつつ公転する3つの遊星歯車53と、3つの遊星歯車53を回転可能に支持し、遊星歯車53の公転運動が伝達される遊星キャリヤ54とを有している。
このうち太陽歯車51は、モータ20の出力軸63に連結されており、出力軸63の回動に伴って回動可能となっている。また、内歯車52は、後輪13のホイール71に連結されている。遊星キャリヤ54は、モータ20のフランジ64に連結されており、フランジ64およびハウジング61を介してパイプフレーム31に固定されている。
続いて、本実施の形態において、モータ20を制御して前輪12を後輪13に対して持ち上がらせる(ウィリーさせる)際の作用について説明する。
まず、前輪12が段差に衝突せず、電動アシスト歩行車10が通常の状態で移動している場合を想定する。この場合、モータ20の出力軸63からのアシスト力は、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51から、遊星歯車53を介して内歯車52に伝達され、次いで内歯車52に連結された後輪13に伝達される。これにより、モータ20によって後輪13の動きがアシストされる。このとき、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31が回転することはない。
ここで、太陽歯車51、内歯車52の歯数をそれぞれZa、Zc(Za<Zc)とし、太陽歯車51、内歯車52、遊星キャリヤ54の角速度をそれぞれWa、Wc、Wxとすると、以下の式(3)が成り立つ。
Zc(Wc-Wx)=-Za(Wa-Wx)・・・式(3)
電動アシスト歩行車10が通常状態で移動している場合、遊星キャリヤ54が固定されているので、Wxは0となる。したがって、以下の式(4)が成り立つ。
Wc=(-Za/Zc)Wa・・・式(4)
すなわち、モータ20の出力軸63からの回転数は、-Za/Zc倍に減速されて伝達される。
一方、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した場合、前輪12がロックされるため、後輪13も回らなくなる。このとき、後輪13に連結された遊星歯車機構50の内歯車52もロックされる。一方、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51には、出力軸63からの回転力が伝達される。この回転力は、太陽歯車51から遊星歯車53を介して遊星キャリヤ54に伝達され、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31に対して矢印M(図22参照)の方向(電動アシスト歩行車10の進行方向と反対の方向)に回転力が働く。
したがって、前輪12が段差に衝突した際、制御部16がモータ20を制御することにより、電動アシスト歩行車10全体を回転させ、前輪12を後輪13より高い位置に持ち上げることが可能となる。この場合、制御部16が、例えばハンドル14に加わる操作力(グリップ力)に応じて、モータ20の出力を増加するよう制御してもよい。具体的には、通常時と比較して、同じ操作力であってもモータ20の出力が相対的に大きくなるようにモータ20を制御する(すなわち操作力に対するモータ出力の比例係数を大きくする)ことにより、前輪12を後輪13より高い位置に持ち上げることができる。
このように、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した場合、内歯車52が固定されるので、上記式(3)においてWcは0となる。したがって、以下の式(5)が成り立つ。
Wx={Za/(Zc+Za)}Wa・・・式(5)
すなわち、モータ20の出力軸63からの回転数は、Za/(Zc+Za)倍に減速され、遊星キャリヤ54に連結されている電動アシスト歩行車10全体が、進行方向逆向き(前輪12が浮く側)の回転力を受けることになる。
以上のように、本実施の形態によれば、モータ20は、後輪13に対して遊星歯車機構50を介して連結されている。これにより、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差に衝突した際、遊星歯車機構50を用いて前輪12を後輪13より高い位置に持ち上げることができる。すなわち制御部16は、モータ20の駆動力により、遊星歯車機構50の反作用によって前輪12を後輪13に対してウィリーさせることができる。
また、本実施の形態によれば、遊星歯車機構50は、モータ20の出力軸63に連結された太陽歯車51と、太陽歯車51の周囲に配置された内歯車52と、太陽歯車51および内歯車52に噛み合い、出力軸63が回転したとき自転しつつ公転する遊星歯車53と、遊星歯車53を回転可能に支持し、遊星歯車53の公転運動が伝達される遊星キャリヤ54とを有し、内歯車52が後輪13に連結され、遊星キャリヤ54がパイプフレーム31に固定されている。これにより、前輪12が段差に衝突したとき、モータ20の出力軸63からの回転力が、太陽歯車51から遊星歯車53を介して遊星キャリヤ54に伝達され、遊星キャリヤ54に連結されたパイプフレーム31に対して回転力を働かせることができる。これにより、電動アシスト歩行車10全体を回転させ、前輪12を後輪13に対して持ち上げることができる。
本実施の形態において、制御部16は、遊星歯車機構50を用いて前輪12を後輪13に対して持ち上げる場合を例にとって説明したが、遊星歯車機構50に限らず、偏心型減速機等、自転しつつ公転する歯車を有する機構を用いてもよい。
あるいは、遊星歯車機構50に代えて、2枚の歯車を含む機構を用いてもよい。具体的には、図26および図27に示すように、モータ20に第1の歯車57を直結させ、後輪13に第2の歯車58を直結させ、これら第1の歯車57と第2の歯車58とを互いに噛み合わせもよい。図26に示すように、通常走行時には、モータ20によって後輪13の動きがアシストされ、電動アシスト歩行車10が走行する。一方、図27に示すように、例えば前輪12が段差に衝突し、前輪12がロックされた時には、後輪13もロックされる。この状態でモータ20が更に回転すると、電動アシスト歩行車10の全体が持ち上げられるような力が発生する。このとき、電動アシスト歩行車10の進行方向と反対の方向に回転する力が働く。これにより、電動アシスト歩行車10の前輪12が段差を容易に乗り越えることができる。
(第3の実施の形態)
次に、本発明の第3の実施の形態について説明する。図28および図29に示す第3の実施の形態は、前輪12を持ち上げる駆動力を発生する駆動部が、モータ20とは別体に設けられている点が異なるものであり、他の構成は上述した第1の実施の形態と同様である。図28および図29において、第1の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図28(a)(b)において、前輪12を持ち上げる駆動力を発生する駆動部は、モータ20とは異なる追加のモータ46を備えている。この場合、追加のモータ46の回転軸は、後輪13の回転軸と同軸上に設けられていても良く(図28(a))、後輪13の回転軸と異なる軸上に設けられていてもよい(図28(b))。
図29(a)(b)において、前輪12を持ち上げる駆動力を発生する駆動部は、モータ20とは異なるアクチュエータ47を備えている。アクチュエータ47は、フレーム11に対して連結されている。この場合、アクチュエータ47は、伸縮することにより前輪12を後輪13に対して持ち上げる伸縮型のものであっても良く(図29(a))、揺動することにより前輪12を後輪13に対して持ち上げる揺動型のものであってもよい(図29(b))。
なお、図28および図29において、必ずしもモータ20が設けられていなくてもよい。
(第4の実施の形態)
次に、図30を用いて、本発明の第4の実施の形態について説明する。図30において、第1の実施の形態ないし第3の実施の形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
図30は、本実施の形態による電動アシスト歩行車(電動車両)10の外観の一例を示す模式的斜視図である。
(電動アシスト歩行車の構成)
図30に示すように、電動アシスト歩行車10は、フレーム11と、フレーム11に設けられた一対の前輪12および一対の後輪(車輪)13と、フレーム11に接続された一対のハンドル14とを備えている。
一対の後輪13には、それぞれ対応する後輪13の動きをアシストするモータ20が連結されている。フレーム11には、バッテリ21と、制御部16とがそれぞれ取り付けられている。また、制御部16には、傾き検知センサ23が設けられている。
本実施の形態において、左右一対のパイプフレーム31の上端部には、使用者によって操作される一対のハンドル14が設けられている。一対のハンドル14は、水平方向に伸びるバーハンドル17によって互いに連結されている。また一対のハンドル14とバーハンドル17とは、略U字形状をなしている。さらに一対のハンドル14には、使用者の肘を載せることが可能な腕支持部27が取り付けられている。腕支持部27には、各ハンドル14を挿入可能なように穴部が設けられ、この穴部にハンドル14を取付け可能になっている。
左右一対のパイプフレーム31の間には、必要に応じて使用者が着座することが可能なシート部37が設けられている。
バッテリ21は、モータ20や制御部16等、電動アシスト歩行車10の各要素に電力を供給するものである。このバッテリ21は、一対のパイプフレーム31間に位置するシート部37の下方に設けられている。
また、速度センサ(計測部に係る構成要素の一例)22bは、一対の後輪13にそれぞれ設けられている。なお、速度センサ22bは、一対の前輪12および/または一対の後輪13に内蔵することに限定されず、フレーム11、一対のハンドル14など、その他任意の部材に取り付けてもよい。あるいは、速度センサ22bは、制御部16の近傍に配設されていてもよい。なお、本実施の形態において、電動アシスト歩行車10の走行速度は、後輪13の回転速度に基づいて判断されるが、これに限らず、前輪12の回転速度、あるいは、前輪12および後輪13の両方の回転速度に基づいて判断されてもよい。
計測部は加速度センサ22aを備えていてもよい。この場合、加速度センサ22aは、後輪13の回転加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の加速度を直接計測し、この加速度の信号を制御部16に対して送信する。そして、制御部16は、加速度を積分することで速度を算出する。
また、計測部はGPS(グローバルポジショニングシステム)を備えていてもよい。この場合、GPSは、後輪13の回転加速度を用いることなく、電動アシスト歩行車10の位置を検知する。そして、制御部16は、GPSからの位置情報を微分することで電動アシスト歩行車10の速度を算出し、GPSからの位置情報を2回微分することで加速度を算出してもよい。
傾き検知センサ23は、2軸以上の加速度センサを備える。傾き検知センサ23は、制御部16の近傍に設けられている。あるいは、傾き検知センサ23は、電動アシスト歩行車10の上部に設けられていてもよい。なお、傾き検知センサ23として加速度センサを用いる代わりに、ジャイロセンサを用いて電動アシスト歩行車10の姿勢を推定するようにしてもよい。
なお、電動アシスト歩行車10のその他の構成は、第1の実施の形態における電動アシスト歩行車10(図1および図2)と同様である。
また、本実施の形態において、電動アシスト歩行車10には、使用者が一対のハンドル14を把持したか否かを直接検出するグリップセンサ、ひずみセンサ、近接センサまたは圧力センサなどが設けられていない。しかしながら、これに限らず、本実施の形態においても、第1の実施の形態における電動アシスト歩行車10(図1および図2)と同様、ハンドル14に把持センサ24が設けられていてもよい。
以上本発明の各実施の形態及び各変形例を説明したが、各実施の形態及び各変形例は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。各実施の形態及び各変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。各実施の形態及び各変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。