以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施の形態1及び実施の形態2)
図1は、本発明の実施の形態1及び実施の形態2に係る免震装置を適用した免震建築物Aを模式的に示す図である。
図1に示す免震建築物Aは、上部構造物としての建築物2、下部構造物としての基礎3との間に、免震装置10を含む免震層として免震システム1を有している。また、免震建築物Aの周囲には、地震動による最大変位を許容できる間隙を空けて擁壁3aが設けられている。なお、免震システム1は、地震力が直接建築物2に伝わらないように、建築物2と基礎3とを直接固定せず、建築物が受ける地震力を抑制することにより建築物を保護するものである。また、免震システム1は、安定して建築物2を支える支持(支承)機能、地震エネルギーを吸収して建築物2の揺れを低減する減衰機能、及び建築物2の水平位置を元に戻す復元機能を有する。
免震システム1は、複数の免震装置10及び他の免震装置5を備える。免震装置10は、本発明に係るすべり支承型免震装置である。他の免震装置5は、すべり支承型以外の免震装置であり、例えば、積層ゴム支承体などの支持機能、減衰機能及び復元機能を有するものである。また、他の免震装置5は、オイルダンパー、鋼材ダンパー、鉛ダンパーなどの支持機能を有さないものであってもよい。
図2は、本発明の実施の形態1及び実施の形態2に係る免震装置10の全体図であり、図3は、本発明の実施の形態1における同免震装置の断面図であり、図4は、本発明の実施の形態2における同免震装置の断面図である。
免震装置10は、上部構造物と下部構造物との間に配置され、上部構造物を免震支承する。図2~図4に示すように、本実施の形態の免震装置10は、すべり支承本体20と、すべり板30とを備える。免震装置10は、支持機能及び減衰機能を有する。本実施の形態1,2では、すべり支承本体20が建築物2(上部構造物)に固定され、すべり板30が基礎3(下部構造体)側に固定される。なお、免震装置10では、すべり材22は上部構造物(他方)である建築物2に設けられ、すべり板30は下部構造物(一方)である基礎3に設けられているが、この構成に限らない。免震装置10は、上部構造物にすべり板30を設け、すべり支承本体20を下部構造物に設けて、すべり板30に対してすべり材22が摺動するようにしてもよい。
<すべり支承本体20>
すべり支承本体20は、所謂、剛すべり支承であり、すべり材22、及びフランジ27を備える。
図5は、本発明の実施の形態1に係る免震装置における要部構成を示す図であり、図5Aは、本発明の実施の形態1に係る免震装置におけるすべり板を示す平面図であり、図5Bは、同免震装置の要部構成を示す側面図である。
図6は、本発明の実施の形態2に係る免震装置における要部構成を示す図であり、図6Aは、本発明の実施の形態2に係る免震装置におけるすべり板を示す平面図であり、図6Bは、同免震装置の要部構成を示す側面図である。
図2から図6に示すすべり材22は、板状の部材である。すべり材22は、すべり面31に対して円滑に摺動すればどのように構成されてもよく、PTFE(polytetrafluoroethylene)などのフッ素樹脂等の樹脂により形成される。すべり材22は、フランジ27の下面に、例えば、接着により固定される。すべり材22は、免震装置10を設置したときに、すべり板30(すべり対象である相手材)に当接する。
すべり材22は、すべり板30に当接して摺動する際に、摩擦係数が小さく、好適に摺動可能であれば、どのように形成されてもよい。例えば、すべり材22は、一枚の板材であってもよいし、複数の小さい板材で構成されてもよい。本実施の形態1,2では、すべり材22は、円板形状の一枚板で構成されている。
図2~図4に示すフランジ27は、すべり材22の上面に、接着により固定される。フランジ27の平面形状は、矩形状、円板状、楕円状或いは多角形状等のどのような形状であってもよい。本実施の形態1,2では、フランジ27は、円板形状を有している。フランジ27の上面は建築物2(本実施の形態1,2では建築物2の底面)に固定され、建築物2とともに移動する。
<すべり板30>
すべり板30は、すべり支承本体20のすべり材22が摺動し、すべり材22の外形よりも大きい領域のすべり面31を有する。すべり板30は、図5及び図6に示すように、すべり支承本体20(具体的にはすべり材22)の外形よりも大きい形状を有する。なお、本実施の形態1,2では、すべり板30は、正方形状を有しており、すべり面31は、すべり板30の表面を構成している。すべり面31には、すべり材22が載置され、発生する地震動の大きさに応じてすべり材22が摺動する。
すべり面31は、低摩擦領域32と高摩擦領域34とを有する。すべり面31において低摩擦領域32と高摩擦領域34との境界は段差無く面一となるように構成される。
低摩擦領域32は、すべり面31において、すべり材22が初期位置として載置される中心部311を含む領域である。初期位置とは、すべり材22の常態時に、すべり材22がすべり面31上で位置する位置である。すべり面31における水平方向(縦横方向)の何れの方向にも同様な距離で変位可能な位置であることが好ましい。
低摩擦領域32は、中心部311を含み所定の面積を有する領域であればどのような形状であってもよいが、本実施の形態1,2では、中心部311を中心とし、所定の直径を有する円形状の領域である。この所定の直径は、想定される大地震、中地震、小地震、微小地震、及び極微小地震等に応じて適宜設定可能である。例えば、本実施の形態のように所定の直径がすべり材22の直径よりも小さくなるようにしてもよい。
また、高摩擦領域34は、低摩擦領域32の外周側に配置されたリング状領域(本実施の形態1,2では、所定径の円環状の高摩擦領域を含む八角形状領域)を有する。高摩擦領域34は、すべり面31において、中心部311を囲む外周部312の領域で構成される。高摩擦領域34は、すべり面31において、本実施の形態1,2では、低摩擦領域32を囲む外周部312の領域で構成されている。なお、高摩擦領域34の外形は、特に限定されず、円状でなくてもよく、正方形、六角形等の多角形形状の外形であってもよい。
低摩擦領域32と高摩擦領域34は、すべり材22がそれぞれの領域を摺動する際の摩擦係数が異なる。低摩擦領域32の摩擦係数よりも、低摩擦領域32を囲むように配置される高摩擦領域34の摩擦係数が高く設定される。低摩擦領域32と高摩擦領域34とは、摩擦係数が異なる領域であれば、どのように、あるいは、どのような材料で構成されてもよく、異なる材料で形成されてもよいし、同一の材料であっても、摩擦係数が異なるように形成されていればよい。低摩擦領域32は、円形状に形成され、その中心位置は低摩擦領域の中心であり、すべり材22、つまり、すべり支承本体20の初期位置となる。
すべり板30は、補強板301上に設けられ、補強板301とともに基礎3のベースプレートに固定される。すべり板30は、補強板301によって、すべり板30の機械的強度が確保され、すべり板30の輸送、施工時の変形を防止できる。
補強板301は、すべり板30(本実施の形態1,2では、高摩擦領域34を構成するすべり板本体30a)と溶接接合或いはボルト締結するために、すべり板本体30aと同等又は若干大きい外形を有する。補強板301は、例えば、SS400等の鋼板により構成される。補強板301は、すべり板30のすべり面31の水平性を確保する。
本実施の形態の低摩擦領域32は、耐熱性耐薬品性の高さや摩擦係数の小さいことが特徴である四フッ化樹脂のコーティングにより形成されたコーティング層30bである。なお、低摩擦領域32は、高摩擦領域34よりも摩擦係数が小さく、高摩擦領域34に囲まれる領域であれば、どのように構成されてもよい。なお、低摩擦領域32は、高摩擦領域34上に形成されたコーティング層30bであるが、図3、図4、図9及び図11では、便宜上、高摩擦領域34と面一となるように図示している。
本実施の形態1,2では、低摩擦領域32は、すべり板本体30aの中心部に設けられた四フッ化樹脂のコーティング層30bである。本実施の形態1,2では、すべり板本体30aとして、SUS等の金属板を用い、この金属板の中心部に四フッ化樹脂を塗布することで、所定の直径の領域を有するコーティング層30bを設けた構成が挙げられる。
高摩擦領域34は、本実施の形態1,2では、補強板301上に配置されるすべり板本体30aの表面により形成されている。
すべり板本体30aは、例えば、研磨及び/又はコーティング等の表面処理が施された金属板(例えば、ステンレス鋼板)で形成される。高摩擦領域34は、SUS板等の金属板の表面に、表面を粗面化するブラスト加工等の、摩擦係数が高くなるような処理を施すことで形成されてもよい。高摩擦領域34は、本実施の形態1,2では、すべり板本体30aである金属板の表面により構成されている。すべり板本体30aは、すべり支承本体20の外径よりも大きい形状を有しており、これにより、高摩擦領域34もすべり支承本体20の外径よりも大きい領域を有している。
本実施の形態1,2では、すべり板本体30aは、低摩擦領域を囲む高摩擦領域を含む正方形状に形成されているが、その外形は特に限定されない。
<低摩擦領域32の摩擦係数μLと高摩擦領域34の摩擦係数μH>
低摩擦領域32の摩擦係数μLと高摩擦領域34の摩擦係数μHとの比率は、本実施の形態では、1:2~3が好ましく、より好ましくは、低摩擦領域32の摩擦係数μLと高摩擦領域34の摩擦係数μHとの比率は、1:2.3~1:2.7である。
低摩擦領域32の摩擦係数μLと高摩擦領域34の摩擦係数μHとの比率が、摩擦係数μLが1である場合に対して摩擦係数μHが2よりも小さい場合では、M7以上の大地震が発生した場合でもM3以上M7未満の小中地震が発生した場合と減衰力が同じとなる。これにより、免震層としてのストローク(可動域)が過大になり、効果的に対応することが出来ない。また、摩擦係数μLが1である場合に対して摩擦係数μHが3より大きい比率である場合では、大地震には対応した減衰力を発揮できるものの、低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行する際に摩擦係数が急激に変動するため、上部構造において過大な加速度が発生する恐れがある。
よって、これら摩擦係数μL、μHの比率は、大中小地震の全てに対応すべく、μL:μH=1:2~1:3の範囲内が好ましく、より効果を発揮させるにはμL:μH=1:2.3~1:2.7の範囲内がより好ましい。摩擦係数μL、μHの比率は、すべり材22及びすべり板30の材質(具体的には、すべり面31において低摩擦領域32と高摩擦領域34をそれぞれ構成する材質)、或いは表面処理により可変可能である。
図7は、免震装置においてすべり面の領域に応じたすべり面における水平荷重Qの変化を模式的に示す図である。図7Aでは、本実施の形態の免震装置10においてすべり材22が摺動するすべり面31の領域に応じた水平荷重Qの単位変位と水平変位δの関係をG1で示す。図7Bでは、本実施の形態の免震装置10においてすべり材22が摺動するすべり面31の領域に応じた水平荷重Qと水平変位δの関係をG2で示す。なお、水平荷重Q(kN)=摩擦係数μ×免震装置の支持軸力N(kN)である。本実施の形態の免震装置は、上部構造物を免震支承する免震装置におけるものであり、支持軸力N(kN)は一定である。すべり面の領域の変化に伴い、摩擦係数μが変化するため、水平荷重Qも変化する。
図8は、図7Aにおける各領域とすべり材22との位置関係を模式的に示す平面図である。
図8Aは、低摩擦領域内にすべり材22の全体が完全に位置する状態を示し、図7Aの「完全低摩擦領域内」に対応する図である。図8Bは、すべり材22が低摩擦領域L(本実施の形態の低摩擦領域32と対応)から高摩擦領域H(本実施の形態の高摩擦領域34と対応)へ移行中の状態、つまり、すべり材22が低摩擦領域Lと高摩擦領域Hとに跨がった状態を示す。図8Bは、図7Aにおける「移行領域」に対応する図である。また、図8Cは、高摩擦領域内にすべり材22の全体が完全に高摩擦領域内に位置する状態を示し、図7Aの「完全高摩擦領域内」に対応する図である。さらに、図8Aに示す必要直径は、免震建築物A(図1参照)と擁壁3aの間の間隙に応じて設定される。
本実施の形態の免震装置10では、地震動の発生により、すべり材22とすべり面31とが摺動する。これにより、すべり材22は、図7A及び図8A~図8Cに示すように、すべり面31における摩擦係数μLを有する低摩擦領域32から摩擦係数μHを有する高摩擦領域34に変位して、地震動によりすべり材22側の建築物に掛かる応答加速度を減衰させる。
本実施の形態の免震装置10では、発生する地震動の大きさに応じて、低摩擦領域32から高摩擦領域34までの移行領域Xにおける摩擦係数が設定される。これにより、すべり材22が低摩擦領域32外に出始める位置(図7Aでは第1象限を対象に示す移行開始位置P1)と高摩擦領域34に完全に入る位置(完全に移行する位置であり、図7Aでは第1象限を対象に示す完全移行位置P2)とが設定される。
低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行領域Xにおいて、すべり材22に対するすべり面31における摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、すべり材22の直径Sdあるいは低摩擦領域32の直径Ldの大きさを変更することにより設定される。
図9は、すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld未満の場合の摺動状態の説明に供する図である。図9Aは、すべり面31において、すべり材22が摺動中の摩擦係数と、低摩擦領域の摩擦係数と、すべり材22の変位との関係を示し、図9B、図9Cは、すべり面31を滑るすべり材22の摺動状態を示す。
また、図11は、すべり材の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld以上の場合の摺動状態の説明に供する図である。図11Aは、すべり面31において、すべり材22が摺動中の摩擦係数と、低摩擦領域の摩擦係数と、すべり材22の変位との関係を示し、図11B、図11Cは、すべり面31を滑るすべり材22の摺動状態を示す。なお、図9及び図11を用いた低摩擦領域32から高摩擦領域34までの移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量の説明において、すべり面31における低摩擦領域32の直径をLdとし、すべり材22の直径をSdとする。また、低摩擦領域及び高摩擦領域を有するすべり面31に対してすべり材22が摺動する距離を変位δとする。加えて、すべり材22の摺動中のすべり面31における摩擦係数をμ(δ)とする。
また、摩擦係数の単位変位あたりの変化量を設定する際には、低摩擦係数μLと高摩擦係数μHの比率、すべり材22の直径Sdの上下限と、低摩擦領域32の直径Ldの上下限とを設定することが望ましい。本実施形態では、μH/μL=2~3、すべり材22の直径φ10≦Sd≦φ1600[mm]、低摩擦領域32の直径φ10≦Ld≦φ2000[mm]とする。
図9Aに示すように、免震装置10では、低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld未満(Sd<Ld)の場合、すべり材22の直径Sd、低摩擦領域32の直径Ld及びすべり材22の変位δに依存する。
すなわち、すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld未満の場合(Sd<Ld)、図9Bに示すように、低摩擦領域32を摺動中のすべり材22には低摩擦係数μLが作用する。また、図9Cに示すように、すべり材22が摺動して低摩擦領域を完全に出たときにすべり材22には摩擦係数μHが作用する。
すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld未満(Sd<Ld)の場合の摺動中の摩擦係数μ(δ)を特にμ1(δ)とする。μ1(δ)はすべり材22の直径Sd、低摩擦領域32の直径Ld及びすべり材22の変位δに依存し、(式1)の通り表すことができる。なお、円周率はπとする。
さらに、Sd<Ldである場合、低摩擦領域32の摩擦係数μLから高摩擦領域34の摩擦係数μHに移行する際移行時の摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ1’(δ)は、(式2)の通り表すことができる。
本実施形態では、μH/μL=2~3、すべり材22の直径φ10≦Sd≦φ1600[mm]、低摩擦領域32の直径φ10≦Ld≦φ2000[mm]としている。よって、Sd<Ldである場合、低摩擦領域32の摩擦係数μLから高摩擦領域34の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ1’(δ)は、μH=3μL、Sd=10[mm]、Ld=2000[mm]の時に最大値を取り、0<μ1’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。図9Dでは、μH=3μL、Sd=10[mm]、Ld=2000[mm]における、摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ1’(δ)とすべり材変位δの関係、ならびにμ1’(δ)の最大値が0.8μL/π[1/mm]以下であること示している。
図10は、図7Bにおける各領域とすべり材22との位置関係を模式的に示す平面図である。
図10Aは、すべり材22が初期位置に位置し、低摩擦領域及び高摩擦領域に跨った状態を示し、図7Bの水平変位0に対応する図である。図10Bは、すべり材22が低摩擦領域L(本実施の形態の低摩擦領域32と対応)から高摩擦領域H(本実施の形態の高摩擦領域34と対応)へ移行中の状態、つまり、すべり材22が初期位置から継続して低摩擦領域Lと高摩擦領域Hとに跨がった状態を示す。図10Bは、図7Bにおける「移行領域」に対応する図である。また、図10Cは、高摩擦領域内にすべり材22の全体が完全に高摩擦領域内に位置する状態を示し、図7Bの「完全高摩擦領域内」に対応する図である。さらに、図10Aに示す必要直径は、免震建築物A(図1参照)と擁壁3aの間の間隙に応じて設定される。
本実施の形態の免震装置10では、地震動の発生により、すべり材22とすべり面31とが摺動する。これにより、すべり材22は、図7B及び図10A~図10Cに示すように、すべり面31における摩擦係数μLを有する低摩擦領域32から摩擦係数μHを有する高摩擦領域34に変位して、地震動によりすべり材22側の建築物に掛かる応答加速度を減衰させる。
本実施の形態の免震装置10では、発生する地震動の大きさに応じて、低摩擦領域32から高摩擦領域34までの移行領域における摩擦係数が設定される。これにより、高摩擦領域34に完全に入る位置(完全に移行する位置であり、図7Bでは第1象限を対象に示す完全移行位置P2)が設定される。
低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行領域において、すべり材22に対するすべり面31における摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、すべり材22の直径Sdあるいは低摩擦領域32の直径Ldの大きさを変更することにより設定される。
図11Aに示すように、免震装置10では、低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld以上の場合(Sd≧Ld)においても、すべり材22の直径Sd、低摩擦領域32の直径Ld及びすべり材22の変位δに依存する。
すなわち、すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld以上の場合(Sd≧Ld)、図11Bに示すように、低摩擦領域32及び高摩擦領域34を摺動中のすべり材22には低摩擦係数μLと高摩擦係数μHの中間的な値の摩擦係数が作用する。また、図11Cに示すように、すべり材22が摺動して低摩擦領域32を完全に出たときに摩擦係数μHのみが作用する。
すべり材22の直径Sdが低摩擦領域32の直径Ld以上の場合(Sd≧Ld)における摩擦係数μ(δ)を特にμ2(δ)とする。μ2(δ)はすべり材22の直径Sd、低摩擦領域32の直径Ld及びすべり材22の変位δに依存し、(式3)の通り表すことができる。
さらに、Sd≧Ldである場合、低摩擦領域32の摩擦係数μLから高摩擦領域34の摩擦係数μHに移行する際移行時の摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ2’(δ)は、(式4)の通り表すことができる。
ここで、本実施形態では、μH/μL=2~3、すべり材22の直径φ10≦Sd≦φ1600[mm]、低摩擦領域32の直径φ10≦Ld≦φ2000[mm]としている。よって、Sd≧Ldである場合、低摩擦領域32の摩擦係数μLから高摩擦領域34の摩擦係数μHに移行する際移行時の摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ2’(δ)は、μH=3μL、Sd=10[mm]、Ld=10[mm]の時に最大値を取り、0<μ’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。図11Dでは、μH=3μL、Sd=10[mm]、Ld=10[mm]における、摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ2’(δ)とすべり材変位δの関係、ならびにμ2’(δ)の最大値が0.8μL/π[1/mm]以下であること示している。
本実施形態では、この摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ1’(δ)(式2)、或いは、μ2’(δ)(式4)を上記の範囲内で調整する。これにより、低摩擦領域32から高摩擦領域34へ移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量すなわち摩擦係数の傾きを変更自在である。
低摩擦領域32から高摩擦領域34への移行領域における摩擦係数の変化の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、互いに摺動するすべり材22と低摩擦領域32との面積比により可変させることができる。
図12は、すべり材22の半径r(図8参照)よりも低摩擦領域32の半径Rの方が大きい場合のすべり材22の変位とすべり材22とすべり面31との間の摩擦力との関係を示す図である。また、図13は、すべり材22の半径rよりも低摩擦領域32の半径Rの方が大きい場合のすべり材と低摩擦係数範囲の重複面積を示す図である。図14は、すべり材22の半径rよりも低摩擦領域32の半径Rの方が大きい場合のすべり材の変位と摩擦係数との関係を示す図である。なお、図12は、免震システム1の免震装置10を模擬した免震モデルをもとに免震装置10の水平履歴特性をシミュレーションした結果を示す図である。
免震モデルは、まず、必要直径が所定の長さ(例えば180[cm])となるすべり面を、表面が高摩擦領域となるSUS板で構成した。そして、すべり面31となるSUS板の表面の中心部に、すべり材22の半径r(Sd/2)<低摩擦領域の半径R(Ld/2)[cm]の関係を満たしつつ、すべり材22の半径r(Sd/2)及び低摩擦領域の半径R(Ld/2)[cm]の長さをそれぞれ変更して、低摩擦領域を設けた。すべり材22の半径rと低摩擦領域の半径Rをそれぞれ、R=25[cm]、r=15[cm]とし(変化G21で示す)、R=30[cm]、r=20[cm]とし(変化G22で示す)、R=35[cm]、r=25[cm]とし、(変化G23で示す)とした。
図12の摩擦係数の変化G21~G23で示すように、本実施の形態では、低摩擦領域32から高摩擦領域34に移行する移行領域の摩擦係数の単位変位あたりの変化量を変更することにより、高摩擦領域34に完全に入る位置P2(図7参照)を変更している。
図12~図14では、すべり材22の半径rと、低摩擦領域32の半径Rとを所定の長さの差を付けて設定して、それぞれの半径r、R(面積)を同じ割合で大きくしている。これにより、図12から図14に示すように、移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量(図7に示す「移行領域」部分の傾き)を変更して可変し、高摩擦領域34に完全に入る位置P2(図7参照)を設定できる。
このように、すべり材22の半径rと、低摩擦領域32の半径Rとを設定することにより、建築物2に応じて履歴吸収エネルギーを設定できる。
低摩擦領域の半径R(Ld/2)≦すべり材22の半径r(Sd/2)を、低摩擦領域の半径R(Ld/2)と、すべり材22の半径r(Sd/2)を可変して設定する。これにより、すべり材22が低摩擦領域32外に出始める位置P1を可変して設定できる。すなわち、低摩擦領域の面積をすべり材22の面積より小さくすることにより、図7Aにおける移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量の開始位置、低摩擦領域から高摩擦領域に移行を開始する位置を変更できる。
また、低摩擦領域の半径R[cm]よりすべり材の半径r[cm]を大きくすることにより、履歴吸収エネルギー(kNm)が変更する。よって、建築物2に応じた履歴吸収エネルギーとなるように、低摩擦領域の半径R[cm]及びすべり材の半径r[cm]を設定して、移行領域における摩擦係数の変化の摩擦係数の単位変位あたりの変化量を調整することができる。
低摩擦領域の摩擦係数をμL、低摩擦領域の直径をLd[mm]、高摩擦領域の摩擦係数をμH、すべり材の直径をSd[mm]とする。この場合の低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、Sd<Ldのとき、μ1’(δ)(式2)であり、0<μ1’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。また、Sd≧Ldのとき、低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、μ2’(δ)(式4)であり、0<μ2’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たしている。低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量μ1’(δ)、μ2’(δ)を、0.8μL/π[1/mm]以下とすることで、摩擦係数の急激な変動による上部構造における過大な加速度の発生を抑制することができる。
これらの式に基づいて、低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量、すなわち摩擦係数の傾きを設定できる。
このように本実施の形態によれば、すべり面31の中心部311を低摩擦領域32、外周部312を高摩擦領域34としているので、中・大規模以下の地震動における免震効果と想定外の巨大な地震動における制動効果を発揮できる。加えて、低摩擦領域32の摩擦係数μLと高摩擦領域34の摩擦係数μHとの比率を1:2~1:3、更に好ましくは、1:2.3~1:2.7として低摩擦領域32と高摩擦領域34との摩擦係数の比率を調整している。また、低摩擦領域32の半径R(直径Ld)、すべり材22の半径r(直径Sd)を設定して低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量を調整して、摩擦係数の急激な変動を抑制する。
すなわち、低摩擦領域32の摩擦係数μLから高摩擦領域34の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量を、想定する地震動(大規模地震、大地震、中地震、小地震、微小地震、極微小地震等の地震の規模)に応じて所望の変化量に適宜設定された免震装置にすることができる。このため、摩擦係数の急激な変動による上部構造での過大な加速度の発生を抑制しつつ、免震層のストローク(可動域、たわみシロ)が過大にならず、想定される中・大規模以下の地震動に対しては高い免震効果を発揮する。加えて、想定外の巨大な地震動に対しても大変形に追従することができ、免震層の安全性を確保できる。
よって、本実施の形態によれば、想定される中・大規模以下の地震動に対しては高い免震効果を発揮させ、且つ、想定外の巨大な地震動に対しても大変形に追従ができ、免震層の安全性を確保できる。
(実施の形態3)
図15は、本発明の実施の形態3に係る免震装置における要部構成を示す図である。詳細には、図15Aは、本発明の実施の形態3に係る免震装置におけるすべり材とすべり板との関係を示す平面図であり、図15Bは、同免震装置におけるすべり材とすべり板との関係を示す側面断図である。図16は、本発明の実施の形態3に係る免震装置における要部構成を示す図である。詳細には、図16A及び図16Bは、同免震装置におけるすべり材が初期位置から移行した際におけるすべり面との位置関係を示す平面図及び断面図である。図17は、同免震装置においてすべり面の領域に応じたすべり面における摩擦係数の変化を模式的に示す図である。
図15に示す本実施の形態3の免震装置10Aは、すべり支承本体20と、すべり板30Aとを備える弾性すべり支承であり、実施の形態1、2の免震装置10と比較して、すべり板30Aの構成のみ異なる。よって、異なる構成要素のみ説明し、その他の構成の説明は省略する。
すなわち、免震装置10Aは、上部構造物と下部構造物との間に配置され、上部構造物を免震支承する。免震装置10Aは、すべり板30Aを下部構造物に設け、すべり板30Aに対し摺動自在に設けられるすべり材22を上部構造物に備える。なお、すべり材22を下部構造物に設け、すべり板30Aを上部構造物に設けてもよい。
すべり板30Aは、補強板301上に固定される板状のすべり板本体312Aと、すべり板本体312Aの中心部に設けられる孔部32Aと、を有する。本実施の形態では、孔部32Aは、補強板301Aの中心部(中央部)に設けられた凹部に連続する。
本実施の形態では、すべり板30Aのすべり面31Aにおいて、高摩擦領域34Aをすべり板本体312Aの表面で構成し、低摩擦領域をすべり板本体312Aに設けられる孔部32Aにより構成している。なお、孔部32Aは、すべり板本体312Aにおける低摩擦領域となる部分に複数の孔部を設けることにより形成してもよい。
すべり板本体312Aは、実施の形態1、2のすべり板本体30aと同様に、水平に配置され、表面が高摩擦領域34AとなるSUS板等の鋼板により構成され、中心部に円形の開口部を有する。
なお、補強板301Aは、実施の形態1、2の補強板301の機能と同様に、上部のすべり板を補強する機能とすべり板のすべり面の水平性を確保する機能とを有する。
孔部32Aの周縁部がすべり面31Aにおける低摩擦領域と高摩擦領域34Aとの境界を構成する。
孔部32Aは、すべり材22側に開口していればどのようにすべり板30Aに設けられてもよく、すべり板30Aを貫通してもよいし、凹部の窪みであってもよい。
孔部32Aは、すべり板本体312Aと補強板301Aに設けられる空洞であるため、すべり材22がすべり面31Aを摺動する場合でも、摺動するすべり材22と接触しない。このため、すべり面31Aにおいて、孔部32Aの周囲の外周部の摩擦係数との差は大きく設定できる。
これによりすべり面31Aにおいて中心部の孔部32Aと、孔部32Aを囲む外周部(すべり板本体312A)の表面との間の摩擦係数の差を大きくして、外周部(すべり板本体312A)を、高摩擦領域34A、中心部311Aを含む孔部32Aを低摩擦領域にすることができる。なお、低摩擦領域の摩擦係数と高摩擦領域34Aの摩擦係数との比率は、1:2~1:3であり、更に好ましくは、1:2.3~2.7である。そして、低摩擦領域(孔部32A)の摩擦係数をμL、低摩擦領域(孔部32A)の直径をLd[mm]、高摩擦領域34Aの摩擦係数をμH、すべり材22の直径をSd[mm]とする。この場合において、低摩擦領域(孔部32A)の摩擦係数μLから高摩擦領域34Aの摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、Sd<Ldのとき、μ1’(δ)(式2)であり、0<μ1’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。また、Sd≧Ldのとき、低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、μ2’(δ)(式4)であり、0<μ2’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たしている。これにより、実施の形態1、2と同様の作用効果を有する。
また、孔部32Aの外径は、すべり材22の外径よりも小さい。このため、すべり面31Aをすべり材22が摺動しても孔部32A内にすべり材22が落ち込むことがない。
この免震装置10Aによれば、すべり面31A(図15B参照)において中心部を空洞にしているので、外周部に対して、中心部の低摩擦領域(孔部32Aに相当)として摩擦係数を下げることができる。これにより、外周部の高摩擦領域34Aと低摩擦領域(孔部32Aに相当)とのコントラストを大きく設定できる。
(実施の形態4)
図18は、本発明の実施の形態4に係る免震装置における要部構成を示す図であり、免震装置10Bにおけるすべり材とすべり板との関係を示す側面断図であり、図18は、同免震装置10Bにおけるすべり板を示す図である。
図18及び図19に示す免震装置10Bは、すべり支承本体20と、すべり板30Bとを備える弾性すべり支承であり、実施の形態1、2の免震装置10と比較して、すべり板30Bの構成のみ異なる。よって、異なる構成要素のみ説明し、その他の構成は省略する。
免震装置10Bは、上部構造物と下部構造物との間に配置され、上部構造物を免震支承する。免震装置10Bは、すべり板30Bを下部構造物に設け、すべり板30Bに対し摺動自在に設けられるすべり材22を上部構造物に備える。なお、すべり材22を下部構造物に設け、すべり板30Bを上部構造物に設けてもよい。
すべり板30Bは、補強板301B上に固定され、中心部に孔部320が設けられた板状のすべり板本体312Bと、孔部320内に嵌合する中央板部313と有する。
本実施の形態では、孔部320は、補強板301Bの中心部に設けられた凹部に連続する。
本実施の形態では、すべり板30Bのすべり面31Bにおいて、高摩擦領域34Bはすべり板本体312Bの表面で構成され、低摩擦領域32Bは、開口部324を有する中央板部313により構成される。
すべり板本体312Bは、実施の形態3のすべり板本体312Aと同様に、水平に配置され、表面が高摩擦領域34BとなるSUS板等の鋼板により構成される。
なお、補強板301Bは、補強板301Aと同様に形成され、上部のすべり板を補強する機能とすべり板のすべり面の水平性を確保する機能とを有する。
孔部320の周縁部322、つまり、孔部320に嵌合する中央板部313の外縁が、すべり面31Bにおける低摩擦領域32Bと高摩擦領域34Bとの境界を構成する。
中央板部313の表面は、すべり板本体312Bの表面と面一であり、すべり板30Bのすべり面31Bとしてフラットな平滑面を構成する。
中央板部313は、すべり板本体312Bと同様の材料であってもよく、すべり板本体312Bより摩擦係数が低い材料で形成されてもよい。
中央板部313には複数の開口部324が形成され、すべり材22が当接する際に、すべり板本体312Bの表面より面圧が高くなるように設定されている。これにより中央板部313が、中央板部313を囲むすべり板本体312Bと同様の材料で形成されていても、中央板部313における摩擦係数を小さくできる。
したがって、すべり面31Bにおいて中央板部313と、中央板部313を囲むすべり板本体312Bの表面との間の摩擦係数の差を大きくして、外周部であるすべり板本体312Bを高摩擦領域34Bとし、中央板部313を低摩擦領域32Bにすることができる。
この免震装置10Bによれば、すべり面31Bにおいて、外周部の高摩擦領域34Bを構成するすべり板本体312Bの摩擦係数に対して、中心部の低摩擦領域を構成する中央板部313の開口部324の数、径を適宜変更して、摩擦係数を下げることができる。これにより、低摩擦領域32Bの摩擦係数と高摩擦領域34Bの摩擦係数との比率を、1:2~1:3、好ましくは、1:2.3~1:2.7とする。
加えて、低摩擦領域32Bの摩擦係数をμL、低摩擦領域32Bの直径をLd[mm]、高摩擦領域34Bの摩擦係数をμH、すべり材22の直径をSd[mm]とする。この場合の低摩擦領域32Bの摩擦係数μLから高摩擦領域34Bの摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、Sd<Ldのとき、μ1’(δ)(式2)であり、0<μ1’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。また、Sd≧Ldのとき、低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、μ2’(δ)(式4)であり、0<μ2’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たしている。
これら(式2)、(式4)に基づいて、移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量(図7参照)は、低摩擦領域32の半径R(直径Ld)とすべり材22の半径r(直径Sd)とを設定して可変させて、想定する地震動に応じた変化量を設定できる。すなわち、低摩擦領域32Bの摩擦係数μLから高摩擦領域34Bの摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量を想定する地震動に応じて所望の変化量に設定できる。
これにより、規模の異なる地震動のそれぞれに対応する免震を好適に行うことができる。
(実施の形態5)
図20は、本発明の実施の形態5に係る免震装置10Cにおける要部構成を示す図であり、免震装置10Cのすべり材とすべり板との関係を示す側面断図である。
図20に示す免震装置10Cは、すべり支承本体20と、すべり板30Cとを備える弾性すべり支承であり、実施の形態1、2の免震装置10と比較して、すべり板30Cの構成のみ異なる。
すべり板30Cは、補強板301C上に固定され、中心部に孔部320が設けられた板状のすべり板本体312Cと、孔部320内に配置される複数の突起部326とを有する。
本実施の形態では、突起部326は、補強板301Cの中心部に設けられた凹部内に所定間隔を空けて一様に立設され、それぞれ孔部320内に突出する。
突起部326の突端面は、それぞれすべり板本体312Cの表面と面一である。
このように、すべり板30Cのすべり面31Cでは、高摩擦領域34Cはすべり板本体312Cの表面で構成され、低摩擦領域32Cは、孔部320と突起部326とにより構成される。
なお、すべり板本体312Cは、実施の形態3のすべり板本体312Aと同様に、水平に配置され、表面が高摩擦領域34CとなるSUS板等の鋼板により構成される。また、補強板301Cは、補強板301Aと同様に形成され、上部のすべり板を補強する機能とすべり板のすべり面の水平性を確保する機能とを有する。
孔部320の周縁部322がすべり面31Cにおける低摩擦領域32Cと高摩擦領域34Cとの境界を構成する。そして、低摩擦領域32Cの摩擦係数をμL、低摩擦領域32Cの直径をLd[mm]、高摩擦領域34Cの摩擦係数をμH、すべり材22の直径をSd[mm]とする。この場合の低摩擦領域32Cの摩擦係数μLから高摩擦領域34Cの摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、Sd<Ldのとき、μ1’(δ)(式2)であり、0<μ1’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たす。また、Sd≧Ldのとき、低摩擦領域の摩擦係数μLから高摩擦領域の摩擦係数μHに移行する際の摩擦係数の単位変位あたりの変化量は、μ2’(δ)(式4)であり、0<μ2’(δ)≦0.8μL/π[1/mm]を満たしている。
これにより、実施の形態1、2と同様に、(式2)、(式4)に基づいて、すべり面31C及びすべり材22の直径を設定して、低摩擦領域から高摩擦領域への移行領域における摩擦係数の単位変位あたりの変化量を調整できる。よって、規模の異なる地震動のそれぞれに対応する免震を好適に行うことができる。
突起部326は、すべり板本体312Cよりと同様の材料であってもよく、すべり板本体312Cより摩擦係数が低い材料で形成されてもよい。
孔部320内では複数の突起部326が配置されているので、孔部320内では、すべり材22は、複数の突起部326に当接することとなり、すべり板本体312Cの表面より面圧が高くなるように設定されている。これにより、突起部326が、すべり板本体312Cと同様の材料で形成されていても、孔部320内におけるすべり材22との摩擦係数は小さくなる。
したがって、すべり面31Cにおいて孔部320で規定される中心部と、中心部を囲むすべり板本体312Cの表面との間の摩擦係数の差を大きくして、外周部であるすべり板本体312Cを高摩擦領域34Cとし、中心部を低摩擦領域32Cにすることができる。この免震装置10Cによれば、免震装置10~10Bと同様の作用効果を得ることができる。
以上、本発明者によってなされた発明を実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で変更可能である。
例えば、免震装置10において、すべり支承本体20が基礎3(下部構造物)に固定され、すべり板30が建築物2(上部構造物)に固定されてもよい。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記装置の構成や各部分の形状についての説明は一例であり、本発明の範囲においてこれらの例に対する様々な変更や追加が可能であることは明らかである。