以下、本発明の実施形態の例を、図面を参照して具体的に説明する。参照される各図において、同一の部分には同一の符号を付し、同一の部分に関する重複する説明を原則として省略する。尚、本明細書では、記述の簡略化上、情報、信号、物理量、素子又は部位等を参照する記号又は符号を記すことによって、該記号又は符号に対応する情報、信号、物理量、素子又は部位等の名称を省略又は略記することがある。例えば、後述の“BZX1”によって参照される実測BEMFゼロクロス信号は(図7参照)、実測BEMFゼロクロス信号BZX1と表記されることもあるし、信号BZX1と略記されることもあり得るが、それらは全て同じものを指す。
まず、本発明の実施形態の記述にて用いられる幾つかの用語について説明を設ける。
ICとは集積回路(Integrated Circuit)の略称である。グランドとは、基準となる0V(ゼロボルト)の電位を有する導電部を指す又は0Vの電位そのものを指す。0Vの電位をグラント電位と称することもある。本発明の実施形態において、特に基準を設けずに示される電圧は、グランドから見た電位を表す。
レベルとは電位のレベルを指し、任意の信号又は電圧についてハイレベルはローレベルよりも高い電位を有する。任意の信号又は電圧について、信号又は電圧がハイレベルにあるとは信号又は電圧のレベルがハイレベルにあることを意味し、信号又は電圧がローレベルにあるとは信号又は電圧のレベルがローレベルにあることを意味する。
任意の信号又は電圧において、ローレベルからハイレベルへの切り替わりをアップエッジと称し、ローレベルからハイレベルへの切り替わりのタイミングをアップエッジタイミングと称する。同様に、任意の信号又は電圧において、ハイレベルからローレベルへの切り替わりをダウンエッジと称し、ハイレベルからローレベルへの切り替わりのタイミングをダウンエッジタイミングと称する。
MOSFETを含むFET(電界効果トランジスタ)として構成された任意のトランジスタについて、オン状態とは、当該トランジスタのドレイン及びソース間が導通状態となっていることを指し、オフ状態とは、当該トランジスタのドレイン及びソース間が非導通状態(遮断状態)となっていることを指す。FETに分類されないトランジスタについても同様である。MOSFETは、特に記述無き限り、エンハンスメント型のMOSFETであると解して良い。MOSFETは“metal-oxide-semiconductor field-effect transistor”の略称である。任意のトランジスタについて、オン状態、オフ状態を、単に、オン、オフと表現することもある。
ハイレベル又はローレベルの信号レベルをとる任意の信号について、当該信号のレベルがハイレベルとなる区間をハイレベル区間と称し、当該信号のレベルがローレベルとなる区間をローレベル区間と称する。ハイレベル又はローレベルの電圧レベルをとる任意の電圧についても同様である。
<<第1実施形態>>
本発明の第1実施形態を説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る磁気ディスク装置としてのハードディスク装置(以下HDD装置と称する)1の機構に関わる概略構成図である。
HDD装置1は、記録媒体である磁気ディスク10と、磁気ディスク10に対して情報の書き込み及び読み込みを行う磁気ヘッド11(以下ヘッド11とも称されうる)と、磁気ヘッド11を磁気ディスク10の半径方向に対して移動自在に支持するアーム12と、磁気ディスク10を支持及び回転させるスピンドルモータ13(以下SPM13とも称されうる)と、アーム12を回転駆動及び位置決めすることで磁気ヘッド11を磁気ディスク10の半径方向に対して移動させ且つ位置決めするボイスコイルモータ14(以下VCM14とも称されうる)と、を備える。
HDD装置1は、更に、一対の圧電素子15と、ロードビーム16と、磁気ヘッド11を磁気ディスク10から離間した所定の退避位置に保持するランプ部17と、を備える。アーム12の先端にロードビーム16が取り付けられ、ロードビーム16の先端に磁気ヘッド11が取り付けられる。アーム12の先端部におけるロードビーム16の取り付け部付近に一対の圧電素子15が配置される。一対の圧電素子15に対して互いに逆位相の電圧を加えることで、一対の圧電素子15が互いに逆位相で伸縮し、ロードビーム16の先端の磁気ヘッド11を磁気ディスク10の半径方向において変位させることができる。
このように、HDD装置1では、いわゆる2段アクチュエータ方式が採用されている。VCM14は、アーム12を駆動することで磁気ディスク10上において磁気ヘッド11を荒く位置決めする(相対的に荒い分解能で位置決めする)粗動アクチュエータとして機能し、一対の圧電素子15は、アーム12の位置を基準にして磁気ヘッド11の位置を調整することで磁気ディスク10上において磁気ヘッド11を精密に位置決めする(VCM14よりも細かい分解能で位置決めする)微動アクチュエータとして機能する。以下では、一対の圧電素子15から成るアクチュエータを、マイクロアクチュエータの略称“MA”を用い、MA15と称する。
磁気ディスク10と、磁気ヘッド11と、MA15及びロードビーム16が取り付けられたアーム12と、SPM13と、VCM14と、ランプ部17は、HDD装置1の筐体内に収められる。尚、VCM14又はMA15による磁気ヘッド11の移動、変位に関し、磁気ディスク10の半径方向における移動、変位とは、円盤形状を有する磁気ディスク10の外周と中心とを結ぶ方向における移動、変位を意味するが、VCM14又はMA15による磁気ヘッド11の移動、変位が、磁気ディスク10の半径方向における移動、変位に加えて、他の方向(例えば磁気ディスク10の外周の接線方向)における移動、変位の成分を含むこともある。
図2は、HDD装置1の電気的な概略ブロック図である。HDD装置1には、電気的な構成部品として、ドライバIC30、信号処理回路21、MPU(micro-processing unit)22及び電源回路23が設けられている。電源回路23は、ドライバIC30及び信号処理回路21、MPU22を駆動するための電源電圧を、それらに供給する。MPU22は、信号処理回路21及びドライバIC30の夫々に対し、双方向通信が可能な形態で接続されている。
信号処理回路21は、磁気ディスク10への情報の書き込み時には、当該情報を書き込むための記録信号を磁気ヘッド11に出力し、磁気ディスク10から情報を読み出す時には、磁気ディスク10から読み出された信号に対して必要な信号処理を施し、これによって得られた信号をMPU22に送る。MPU22は、信号処理回路21の制御を通じて磁気ヘッド11による情報の書き込み動作及び読み込み動作を制御する。
ドライバIC30は、図3に示すような、半導体集積回路を、樹脂にて構成された筐体(パッケージ)内に封入することで形成された電子部品(ドライバ装置)である。尚、図3に示されるドライバIC30のピン数(外部端子の数)は例示に過ぎない。ドライバIC30には、SPM13を駆動制御するためのSPMドライバ33、VCM14を駆動制御するためのVCMドライバ34及びMA15を駆動制御するためのMAドライバ35が設けられる他、MPU22及びドライバIC30間の双方向通信を可能とするためのIF回路(インターフェース回路)32や、IF回路32を通じてMPU22から受けた制御データに基づきドライバ33~35の動作を制御する制御回路31などが設けられる。
MPU22は、ドライバIC30のSPMドライバ33を制御することによりSPM13の駆動制御を通じて磁気ディスク10の回転制御を行い、ドライバIC30のVCMドライバ34及びMAドライバ35を制御することによりVCM14及びMA15の駆動制御を通じて磁気ヘッド11の移動制御及び位置決めを行う。磁気ディスク10の各箇所には磁気ディスク10上の各々の位置を示す位置情報が記録されており、磁気ディスク10上に磁気ヘッド11が位置しているとき、この位置情報は磁気ヘッド11により読み取られて、信号処理回路21を通じてMPU22に伝達される。MPU22は当該位置情報に基づいてVCMドライバ34及びMAドライバ35を制御でき、この制御を通じて、VCMドライバ34がVCM14に必要な駆動電流を供給することで磁気ヘッド11の第1段階の位置決めが実現され且つMAドライバ35がMA15に必要な電圧を供給することで磁気ヘッド11の第2段階の位置決めが実現される。尚、磁気ヘッド11が磁気ディスク10上に位置しているとは、磁気ヘッド11が微小な空間を隔てて磁気ディスク10の上方に位置していることを意味する。
磁気ヘッド11が磁気ディスク10の外周の外側に位置している場合など、磁気ヘッド11にて位置情報が読み出されていない状態においては、MPU22は、位置情報に頼らずにVCMドライバ34及びMAドライバ35を制御できる。例えば、磁気ヘッド11をランプ部17における退避位置から磁気ディスク10上に移動させる場合、MPU22は、その移動に適した所定の駆動電流をVCM14に供給することを指示する信号をドライバIC30に出力すれば良く、これによりVCMドライバ34は当該信号に基づく所定の駆動電流をVCM14に供給する。磁気ヘッド11にて位置情報が読み出されていない状態において、磁気ヘッド11の精密な位置制御は不要となるため、一対の圧電素子15に対する供給電圧はゼロとされて良い又は固定電圧とされて良い。
図4に、SPM13及びSPMドライバ33の内部構成とそれらの接続関係を示す。ドライバIC30に設けられた外部端子には、端子OUTu、OUTv、OUTw及びTMCTが含まれる。SPM13は、スター結線されたU相のコイル13u、V相のコイル13v及びW相のコイル13wから成る三相ブラシレス直流モータである。SPM13は、ステータと永久磁石を備えたロータとを有し、ステータにコイル13u、13v及び13wが設けられる。コイル13uの一端、コイル13vの一端、コイル13wの一端は、夫々、外部端子OUTu、OUTv、OUTwに接続され、コイル13u、13v及び13wの他端同士は中性点13nにて共通接続されている。中性点13nは外部端子TMCTに接続される。外部端子OUTu、OUTv、OUTwは出力端子とも称され得る。尚、以下の説明において、単にロータと記した場合、それはSPM13のロータを指すものとする。また、SPM13の回転とはSPM13を構成するロータの回転を意味する。
SPMドライバ33は、U相のハーフブリッジ回路50uと、V相のハーフブリッジ回路50vと、W相のハーフブリッジ回路50wと、プリドライバ回路51と、BEMFコンパレータ部52と、駆動制御部100とを備え、ウィンドウ駆動方式又はウィンドウレス駆動方式にてSPM13をセンサレス駆動する。この際、SPMドライバ33はSPM13を180度通電方式(正弦波駆動)にて駆動して良い。尚、BEMFは“back electromotive force”の略称である。
ハーフブリッジ回路50u、50v及び50wの夫々は、電源電圧VPWRが加わるラインとグランドとの間に直列に接続されたハイサイドトランジスタTrH及びローサイドトランジスタTrLから成る。トランジスタTrH及びTrLはNチャネル型のMOSFETとして構成されている。電源電圧VPWRは所定の正の直流電圧であり、ここでは例として12V(ボルト)であるとする。
より具体的には、ハーフブリッジ回路50u、50v及び50wの夫々において、トランジスタTrHのドレインは、電源電圧VPWRが印加される第1電源端子に接続されて電源電圧VPWRの供給を受け、トランジスタTrHのソースとトランジスタTrLのドレインはノードNDにて共通接続され、トランジスタTrLのソースは第2電源端子として機能するグランドに接続されている。ハーフブリッジ回路50u、50v、50wにおけるノードNDは、夫々、出力端子OUTu、OUTv、OUTwに接続される。故に、ハーフブリッジ回路50u、50v、50wにおけるノードNDは、夫々、出力端子OUTu、OUTv、OUTwを介して、コイル13u、13v、13wの一端に接続されることになる。コイル13u、13v、13wの一端における電圧に相当する、出力端子OUTu、OUTv、OUTwに加わる電圧を、夫々、Vu、Vv、Vwにて表す。プリドライバ回路51並びにハーフブリッジ回路50u、50v及び50wにより、電圧Vu、Vv、Vwが、夫々、出力端子OUTu、OUTv、OUTwに印加されることになる。また、中性点13nに加わる電圧をVCTにて表す。
出力端子OUTu、OUTv、OUTwを通じてコイル13u、13v、13wに流れる電流を、駆動電流又はコイル電流と称し、夫々、Iu、Iv、Iwにて参照する。駆動電流Iuについて、ハーフブリッジ回路50uのノードNDから出力端子OUTuを介しコイル13uに向けて流れる駆動電流Iuの極性を正と定義し、その逆の極性を負と定義する。駆動電流Iv及びIwについても同様に極性を定義する。
BEMFコンパレータ部52は、電圧Vu、Vv及びVwの内の少なくとも1つを、電圧VCTと比較することにより、比較結果信号CMPOUTを生成して駆動制御部100に出力する。比較結果信号CMPOUTは、電圧Vu及びVCTの大小関係を示す信号CMPOUTuと、電圧Vv及びVCTの大小関係を示す信号CMPOUTvと、電圧Vw及びVCTの大小関係を示す信号CMPOUTwの内、1以上の信号を含む。ここでは、比較結果信号CMPOUTに少なくとも信号CMPOUTuが含まれているものとする。尚、端子TMCTは必須ではなく、端子TMCTが存在しない場合にあっては、電圧Vu、Vv及びVwを合成することで得た電圧(電圧VCTを模した電圧)を電圧VCTとして用いて、比較結果信号CMPOUTを生成するようにしても良い。
駆動制御部100には、比較結果信号CMPOUTに加えて、電圧Vu、Vv及びVwを表す信号又は電圧Vu、Vv及びVwに応じた信号が供給され、更に、各ハーフブリッジ回路における各トランジスタのゲート-ソース間電圧に応じた信号(図4ではVgsにて表現)が供給されている。駆動制御部100は、それらの信号に基づき、ハーフブリッジ回路50uに対する駆動制御信号DRVu、ハーフブリッジ回路50vに対する駆動制御信号DRVv及びハーフブリッジ回路50wに対する駆動制御信号DRVwを生成及び出力する。また、SPM13にて発生されるべきトルクを指定するトルク指令信号Trq*がMPU22からIF回路32(図2参照)を介して駆動制御部100に与えられており、駆動制御部100は、トルク指令信号Trq*にて指定されたトルクがSPM13にて発生するよう、駆動制御信号DRVu、DRVv及びDRVwを生成する。この際、所定の波形データを参照して、コイル13u、13v及び13wに正弦波状の電流が流れるよう、駆動制御信号DRVu、DRVv及びDRVwを生成して良い。駆動制御信号DRVu、DRVv、DRVwの夫々はパルス幅が可変の二値信号であり、ハイレベル又はローレベルをとる。
プリドライバ回路51は、駆動制御信号DRVu、DRVv及びDRVwに従ってハーフブリッジ回路50u、50v及び50w内の各トランジスタのゲート電位を制御することで各ハーフブリッジ回路の状態を制御する。これにより、電源電圧VPWRを駆動制御信号DRVu、DRVv及びDRVwに従ってスイッチングした電圧が電圧Vu、Vv及びVwとして出力端子OUTu、OUTv及びOUTwに加わって、SPM13がスイッチング駆動されることになる。尚、ハーフブリッジ回路50uのトランジスタTrH、TrLのゲート信号(ゲートに加わる電圧信号)を夫々記号“GHu”、“GLu”にて参照し、ハーフブリッジ回路50vのトランジスタTrH、TrLのゲート信号を夫々記号“GHv”、“GLv”にて参照し、ハーフブリッジ回路50wのトランジスタTrH、TrLのゲート信号を夫々記号“GHw”、“GLw”にて参照する。
ハーフブリッジ回路50u、50v及び50wの内の任意の1つである対象ハーフブリッジ回路において、トランジスタTrHがオンであって且つトランジスタTrLがオフとなっている状態を出力ハイ状態と称し、トランジスタTrHがオフであって且つトランジスタTrLがオンとなっている状態を出力ロー状態と称する。トランジスタTrH及びTrLのオン抵抗がゼロであると仮定すると、例えばハーフブリッジ回路50uにおいて、出力ハイ状態であればハイサイドトランジスタTrHを介して電源電圧VPWRが出力端子OUTuに加わり、出力ロー状態であればローサイドトランジスタTrLを介してグランドの電位が出力端子OUTuに加わる(但し過渡状態を無視)。ハーフブリッジ回路50v及び50wについても同様である。
上記対象ハーフブリッジ回路はハイインピーダンス状態とされることもある。対象ハーフブリッジ回路におけるハイインピーダンス状態は、対象ハーフブリッジ回路のトランジスタTrH及びTrLが共にオフとされている状態であり、これにより、対象ハーフブリッジ回路による、対応するコイルへの通電が停止される。例えば、ハーフブリッジ回路50uがハイインピーダンス状態とされるとき、ハーフブリッジ回路50uのトランジスタTrH及びTrLが共にオフ状態とされるので、ハーフブリッジ回路50uによるコイル13uへの通電が停止される。ハーフブリッジ回路50v及び50wについても同様である。
また、駆動制御部100は、SPM13の何れかの相のコイルに発生する逆起電力に関する信号SBEMF(例えば、コイル13uに発生する逆起電力のゼロクロスタイミングを特定する信号)をIF回路32(図2参照)を介してMPU22に出力する。MPU22は、信号SBEMFに基づいてトルク指令信号Trq*を調整することができる(即ちSPM13にて発生されるべきトルクを調整することができる)。信号SBEMFはSPM13の回転速度の情報を含んでいるため(詳細は後述)、駆動制御部100とMPU22により、SPM13の回転速度制御ループが形成されることになる。
SPMドライバ33は、SPM13のU相、V相及びW相の内の所定相に注目し、所定相のコイルに発生する逆起電力に基づきウィンドウ駆動方式にてSPM13の駆動制御を行うことができ、所定相のコイルに流れる駆動電流及び所定相のコイルに印加される駆動電圧に基づきウィンドウレス駆動方式にてSPM13の駆動制御を行うことができる。以下では、ウィンドウ駆動方式にてSPM13の駆動制御を行うことをウィンドウ駆動と表現することがあり、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13の駆動制御を行うことをウィンドウレス駆動と表現することがある。所定相は、U相、V相及びW相の内の、任意の1相であっても良いし、任意の2相であっても良い。U相、V相及びW相の全てが所定相であっても良い。但し、以下では、説明の具体化のため、所定相がU相であることを想定する。
図5に、ロータが回転することでU相のコイル13uに生じる逆起電力BEMFuの波形(平滑波形)を示す(図5に示される信号BZX1、BZX2については後述)。逆起電力は誘起電圧と称されることもある。ハーフブリッジ回路50uをハイインピーダンス状態とすることで、差電圧(Vu-VCT)が逆起電力BEMFuとして観測される。逆起電力BEMFuは電圧値が周期的に変化する正弦波状の電圧であり、逆起電力BEMFuの周期はロータの電気角における回転周期と一致する。ここでは、ロータの位置の電気角における位相が0°及び180°であるときに逆起電力BEMFuがゼロとなり、且つ、当該位相が90°であるときに逆起電力BEMFuが負の極値をとり、且つ、当該位相が270°であるときに逆起電力BEMFuが正の極値をとるものとする。
また、説明の具体化のため、用語“フレーム”を導入する。1つのフレームは、ロータの位相が0°であるときに開始され、ロータの位相が360°に達する直前で終了する区間である(位相が360°に達する時点で終了すると解するようにしても良い)。そうすると、時系列上で複数のフレームが連続して並ぶことになり、各フレームはロータの電気角における回転周期と同じ長さを持つ。図6に示す如く、ロータが回転している任意且つ所定のタイミングを起点として第n番目のフレームを“FL[n]”で表すこともある。nは任意の自然数である。
特に図示しないが、ロータが回転することでコイル13vに生じる逆起電力BEMFv及びコイル13wに生じる逆起電力BEMFwも、逆起電力BEMFuと同じ周期を持ち、逆起電力BEMFuと同様の正弦波状の電圧となる。但し、逆起電力BEMFv、BEMFwの位相は、逆起電力BEMFuに対して、夫々、120°、240°だけ遅れている。
図7に駆動制御部100の内部構成を示す。駆動制御部100は、ウィンドウ駆動部110、ウィンドウレス駆動部120、信号処理部130及びセレクタ140を備える。
ウィンドウ駆動部110は、主としてウィンドウ駆動を実現するための機能ブロックであり、逆起電力ゼロクロス検出部111を備える。ウィンドウ駆動方式は、コイル13uに対する通電を停止させるウィンドウ区間においてコイル13uに生じる逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを検出し、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミングに基づいてSPM13の駆動制御を行う第1駆動方式に相当する。
逆起電力ゼロクロス検出部111には、BEMFコンパレータ部52からの比較結果信号CMPOUTuと、後述のセレクタ133からのウィンドウ信号WDWとが入力される。ウィンドウ信号WDWはハイレベル又はローレベルをとる二値信号である。ウィンドウ信号WDWのハイレベル区間がウィンドウ区間に相当し、ウィンドウ信号WDWのローレベル区間はウィンドウ区間に属さない(即ちウィンドウ区間外である)。ウィンドウ区間ではハーフブリッジ回路50uがハイインピーダンス状態とされる。上述したように比較結果信号CMPOUTuは電圧Vu及びVCTの大小関係を表す二値信号である。ここでは、“Vu>VCT”のときに信号CMPOUTuがハイレベルとなり、“Vu<VCT”のときに信号CMPOUTuはローレベルとなるものとする。
逆起電力ゼロクロス検出部111は、比較結果信号CMPOUTu及びウィンドウ信号WDWに基づいて逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを検出し、検出したゼロクロスタイミングを表す実測BEMFゼロクロス信号BZX1を出力する。逆起電力ゼロクロス検出部111は、信号BZX1のレベルを原則としてローレベルに維持し、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを検出するたびに微小時間だけ信号BZX1をハイレベルとする(即ち信号BZX1にパルスを発生させる)。検出されるべき逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングは、逆起電力BEMFuが正から負に切り替わるタイミングであっても良いし、逆起電力BEMFuが負から正に切り替わるタイミングであっても良いが、ここでは前者のタイミングが信号BZX1にて表されるものとし、以下、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングとは、特に記述なき限り、逆起電力BEMFuが正から負に切り替わるタイミングを指すものとする。故に、逆起電力ゼロクロス検出部111は、ウィンドウ区間内において信号CMPOUTuがハイレベルからローレベルに切り替わるタイミング(即ち“Vu>VCT”から“Vu<VCT”に切り替わるタイミング)にて微小時間だけ信号BZX1をハイレベルとし、ウィンドウ区間外を含め、それ以外では信号BZX1のレベルをローレベルに維持する(図5参照)。
ウィンドウレス駆動部120は、主としてウィンドウレス駆動を実現するための機能ブロックであり、駆動電流ゼロクロス検出部121、位相制御部122及び信号生成部123を備える。ウィンドウレス駆動方式は、コイル13uに流れる駆動電流Iuのゼロクロスタイミング及びコイル13uに印加される駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングに基づいてSPM13の駆動制御を行う第2駆動方式に相当する。駆動電圧VuDRVは、ウィンドウ区間外においてSPMドライバ30によりコイル13uの両端子間に印加される電圧であり、ウィンドウ区間外の差電圧(Vu-VCT)に相当する。駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングは後述の駆動電圧ゼロクロス信号DZXによって表される。
駆動電流ゼロクロス検出部121は、出力端子OUTuにおける電圧Vuと、ハーフブリッジ回路50uのトランジスタTrH及びTrLのゲート-ソース間電圧(図7においてVgsuにて表現)に基づいて駆動電流Iuのゼロクロスタイミングを検出し、検出結果を表す駆動電流ゼロクロス信号CZXを生成及び出力する。
図8に、駆動電流ゼロクロス信号CZXを生成するための構成例を示す。尚、ハーフブリッジ回路50uにおいて、トランジスタTrH及びTrLの夫々にはソースからドレインに向かう方向を順方向とする寄生ダイオードが付加されている(ハーフブリッジ回路50v及び50wについても同様)。SPMドライバ33には、ハーフブリッジ回路50uに対するセンサとしてセンサ61~63が設けられる。ハイサイドオフセンサ61は、トランジスタTrHのゲート信号GHuのレベルに基づきトランジスタTrHがオフ状態であるか否かを検出して検出結果を示す信号Sig61を出力し、ローサイドオフセンサ62は、トランジスタTrLのゲート信号GLuのレベルに基づきトランジスタTrLがオフ状態であるか否かを検出して検出結果を示す信号Sig62を出力し、出力センサ63は、出力端子OUTuにおける電圧Vuを所定電圧と比較して比較結果を示す信号Sig63を出力する。図8の駆動電流ゼロクロス検出部121は、信号Sig61~Sig63に基づき駆動電流Iuの極性を判定して極性の反転タイミングから駆動電流Iuのゼロクロスタイミングを検出し、検出したゼロクロスタイミングを表す駆動電流ゼロクロス信号CZXを出力する。
駆動電流ゼロクロス検出部121は、信号CZXのレベルを原則としてローレベルに維持し、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを検出するたびに微小時間だけ信号CZXをハイレベルとする(即ち信号CZXにパルスを発生させる)。検出されるべき駆動電流Iuのゼロクロスタイミングは、駆動電流Iuが正から負に切り替わるタイミングであっても良いし、駆動電流Iuが負から正に切り替わるタイミングであっても良いが、ここでは前者のタイミングが信号CZXにて表されるものとし、以下、駆動電流Iuのゼロクロスタイミングとは、特に記述なき限り、駆動電流Iuが正から負に切り替わるタイミングを指すものとする。故に、駆動電流ゼロクロス検出部121は、駆動電流Iuが正から負に切り替わるタイミングにて微小時間だけ信号CZXをハイレベルとし、それ以外では信号CZXのレベルをローレベルに維持する。
尚、駆動電流Iuの極性を判定する方法として多くの方法が提案されており、何れの方法を用いて駆動電流Iuの極性を判定しても良い。例えば、特開平10-341588号公報に示す如く、ハーフブリッジ回路50uのトランジスタTrH及びTrLの双方がオフ状態であるときの電圧Vuに基づいて駆動電流Iuの極性の検出及び極性反転タイミングの検出を行うようにしても良い。或いは例えば、特許第6231357号公報に示す方法を用いても良い。
位相制御部122は、駆動電流ゼロクロス信号CZX及び駆動電圧ゼロクロス信号DZXに基づいて駆動ステート時間DSTを決定(導出)することにより、ウィンドウレス駆動が行われているときの駆動周波数fを調整する。駆動周波数fは、電圧Vu、Vv又はVwの周波数であり、コイル13uに注目したならば電圧Vuの周波数(従って駆動電圧VuDRVの周波数)を表す。駆動周波数fは1フレームの長さの逆数に相当する。ウィンドウレス駆動では、駆動ステート時間DSTにより次フレームの長さが規定される。即ち、ウィンドウレス駆動が行われているとき、位相制御部122により、フレームFL[i-1]にて得られている信号CZX及びDZXに基づいて駆動ステート時間DSTが導出され、導出された駆動ステート時間DSTが次のフレームFL[i]の長さに設定される(iは整数)。また、位相制御部122にはウィンドウレスイネーブル信号WLEも入力されている。位相制御部122の詳細は後述される。
信号生成部123は、位相制御部122にて導出された駆動ステート時間DSTに基づいて、推定BEMFゼロクロス信号BZX2を生成及び出力する。推定BEMFゼロクロス信号BZX2は、駆動電流ゼロクロス信号CZX及び駆動電圧ゼロクロス信号DZXに基づいて(即ち駆動電流Iu及び駆動電圧VuDRVの各ゼロクロスタイミングに基づいて)逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを推定したものに相当する。ウィンドウレス駆動では、原則としてウィンドウ区間が設定されないので逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングは実測されないが(但し例外あり)、逆起電力BEMFuは駆動電流Iu及び駆動電圧VuDRVと同期しているため、駆動電流Iu及び駆動電圧VuDRVの各ゼロクロスタイミングに基づいて逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを推定することができる。
信号生成部123は、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが発生すると推定されるタイミングにおいて微小時間だけ信号BZX2をハイレベルとし、それ以外において信号BZX2のレベルをローレベルに維持する(図5は推定誤差がないと仮定されている)。信号BZX1と整合するよう、信号BZX2で表されるゼロクロスタイミングは、逆起電力BEMFuが正から負に切り替わるタイミングを推定したものであるとする。但し、逆起電力BEMFuが負から正に切り替わるタイミングが推定されるようにする変形も可能である。
セレクタ140は、ウィンドウレスイネーブル信号WLE及び調整完了信号ADJCMPに基づいて、実測BEMFゼロクロス信号BZX1及び推定BEMFゼロクロス信号BZX2の何れか一方を選択し、選択した信号を信号BZXSELとして信号処理部130に送る。図9(a)に示す如く、信号WLEがハイレベルであれば信号ADJCMPのレベルに関係なく信号BZX2が信号BZXSELとして選択される。信号WLE及びADJCMPが共にローレベルであれば信号BZX2が信号BZXSELとして選択される。信号WLEがローレベル且つ信号ADJCMPがハイレベルであれば信号BZX1が信号BZXSELとして選択される。信号ADJCMPの初期レベルはハイレベルである。信号ADJCMPの役割については後述される。セレクタ140にて信号BZX1が選択されているときにはウィンドウ駆動方式にてSPM13が駆動制御され、セレクタ140にて信号BZX2が選択されているときにはウィンドウレス駆動方式にてSPM13が駆動制御される。
信号処理部130は、セレクタ140から供給される信号BZXSELに基づいて、駆動クロック信号DRVCLK及びウィンドウ信号WDW等を生成する機能ブロックである。セレクタ140の機能により、ウィンドウ駆動方式にてSPM13が駆動制御されるときには信号BZX1に基づいて駆動クロック信号DRVCLK等が生成され、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13が駆動制御されるときには信号BZX2に基づいて駆動クロック信号DRVCLK等が生成されることになる。信号処理部130は、駆動クロック信号生成部131、ウィンドウ信号生成部132、セレクタ133、駆動制御信号生成部134及び駆動電圧ゼロクロス検出部135を備える。
駆動クロック信号生成部131は、信号BZXSELをm逓倍することにより駆動クロック信号DRVCLKを生成する。ここではm=6であるとする。但し、mの値は6に限定されない。
ウィンドウ信号生成部132は、駆動クロック信号DRVCLKに同期してウィンドウ区間を設定するためのウィンドウ信号WDW’を生成する。各フレームにおいて、ウィンドウ信号WDW’は、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが到来する前にローレベルからハイレベルに切り替えられ、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが検出又は推定されると(即ち、信号BZXSELにアップエッジが生じると)ローレベルに戻される。故にウィンドウ信号生成部132にて信号BZXSELが参照されて良い。例えば、ウィンドウ信号生成部132は、図10に示す如く、過去の信号BZXSELのアップエッジタイミングの間隔tINTに基づいて、次回の逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを推定し、推定タイミングTESTから所定時間(k×tINT)だけ前のタイミングにてウィンドウ信号WDW’をローレベルからハイレベルに切り替える。その後、信号BZXSELにアップエッジが生じるとウィンドウ信号WDW’をローレベルに戻す。kは1よりも小さな正の所定値(例えば0.02)である。
セレクタ133は、ウィンドウレスイネーブル信号WLEを受け、信号WLEがローレベルであればウィンドウ区間が実際に設定されるようウィンドウ信号生成部132からのウィンドウ信号WDW’をウィンドウ信号WDWとしてそのまま出力し、信号WLEがハイレベルであればウィンドウ信号WDWをローレベルに固定する(図9(b)参照)。ハイレベルのウィンドウレスイネーブル信号WLEは、ウィンドウレス駆動の実行を許可又は指示する信号として機能する。ローレベルのウィンドウレスイネーブル信号WLEは、ウィンドウレス駆動の実行を禁止する信号として機能する。故に、信号WLEのハイレベルからローレベルの切り替わりは、SPM13の駆動方式をウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式に切り替えるべきことを示す第1遷移指示信号として機能すると言える。逆に、信号WLEのローレベルからハイレベルの切り替わりは、SPM13の駆動方式をウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式に切り替えるべきことを示す第2遷移指示信号として機能すると言える。
図11を参照し、SPMドライバ33には信号WLEを生成及び出力するWLE生成部55が設けられる。WLE生成部55は駆動制御部100の構成要素に含まれると解しても良い。信号WLEの初期レベルはローレベルである。例えば、WLE生成部55はMPU22からの信号に基づいて信号WLEのレベルを決定できて良い。或いは例えば、WLE生成部55は、駆動制御部100内で生成される信号に基づいて信号WLEのレベルを決定しても良い。より具体的には例えば、MPU22の指示の下、SPM13が回転開始し、SPM13の回転速度が所定の回転速度に向けて上昇する過程においては信号WLEをローレベル(初期レベル)とし、SPM13の回転速度が一定速度にて安定化される安定状態に至ると信号WLEをローレベルからハイレベルに切り替えることで、SPM13の駆動方式をウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式に切り替える。その後例えば、MPU22からのSPM13の回転停止を指示する所定の回転停止指示信号がSPMドライバ33にて受信されると、信号WLEをハイレベルからローレベルに切り替えることでウィンドウ駆動方式に戻し、ウィンドウ駆動方式にてSPM13の回転速度をゼロに向けて低下させてゆく。
図7を再度参照し、駆動制御信号生成部134は、駆動クロック信号DRVCLKと所定の波形データに基づき、コイル13u、13v及び13wに正弦波状の駆動電流Iu、Iv、Iwを供給するために出力端子OUTu、OUTv及びOUTwに印加すべきU相、V相及びW相目標電圧を求め、U相、V相及びW相目標電圧を示す信号をパルス幅変調することで駆動制御信号DRVu、DRVv、DRVwを生成する。この際、駆動制御信号生成部134は、トルク指令信号Trq*に基づいてU相、V相及びW相目標電圧の振幅を決定する。これにより、プリドライバ回路51を通じて、U相、V相及びW相目標電圧をパルス幅変調した電圧であるU相、V相及びW相スイッチング電圧が出力端子OUTu、OUTv及びOUTwに加わって、SPM13の所望の駆動が実現される。
但し、セレクタ133からのウィンドウ信号WDWはプリドライバ回路51に入力され、ウィンドウ信号WDWのハイレベル区間(即ちウィンドウ区間)においては、駆動制御信号DRVuに関わらずハーフブリッジ回路50uがハイインピーダンス状態とされる。或いは、これと同等の動作が実現されるように、ウィンドウ信号WDWをプリドライバ回路51ではなく駆動制御信号生成部134に入力するようにしても良い。
駆動電圧ゼロクロス検出部135は、駆動クロック信号DRVCLKに基づいて駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングを検出し、駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングを表す駆動電圧ゼロクロス信号DZXを生成する。検出されるべき駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングは、駆動電圧VuDRVが正から負に切り替わるタイミングであっても良いし、駆動電圧VuDRVが負から正に切り替わるタイミングであっても良いが、ここでは前者のタイミングが信号DZXにて表されるものとし、以下、駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとは、特に記述なき限り、駆動電圧VuDRVが正から負に切り替わるタイミングを指すものとする。駆動電圧ゼロクロス検出部135は、駆動電圧VuDRVが正から負に切り替わるタイミングにて微小時間だけ信号DZXをハイレベルとし、それ以外では信号DZXのレベルをローレベルに維持する。
信号処理部130では、駆動クロック信号DRVCLKに基づいて出力端子OUTu、OUTv及びOUTwに印加すべきU相、V相及びW相目標電圧が決定されるのであるから、当然に、駆動クロック信号DRVCLKから駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングが求まる。例えば、駆動制御信号DRVuのデューティ(信号DRVuの1周期を占める、信号DRVuのハイレベル区間の割合)が、当該デューティの可変範囲の中央値をとるタイミングを導出することで、駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングを特定しても良い。この場合、検出部135は駆動制御信号DRVuに基づいて駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングを検出すると解しても良い。
本実施形態に係る駆動制御部100において、ウィンドウ駆動部110及びウィンドウレス駆動部120は常時動作する。即ち、ウィンドウ駆動部110による信号BZX1の生成動作は、ウィンドウ駆動が行われているときだけではなくウィンドウレス駆動が行われているときにも実行される(但し、ウィンドウ信号WDWがローレベルに固定されているときの信号BZX1は有意な情報を持たない)。ウィンドウレス駆動部120による信号BZX2の生成動作は、ウィンドウレス駆動が行われているときだけではなくウィンドウ駆動が行われているときにも実行される。
[ウィンドウ駆動方式]
図12は、ウィンドウ駆動方式の基本動作を示す図である。図12において、上から順に、駆動電流Iu、Iv及びIw、信号BZXSEL、DRVCLK、WDW、GHu、GHv、GHw、GLu、GLv及びGLwの波形が示されている(図4及び図7も適宜参照)。ウィンドウ駆動では“BZXSEL=BZX1”となる。尚、本図の理解を容易とするために、縦軸及び横軸は適宜拡大又は縮小されており、各波形も適宜簡略化されている。
図12の例では、正弦波状の波形データSINを利用して、駆動電流Iu、Iv及びIwが互いに120度ずつシフトした正弦波電流となるように、SPM13が駆動される。図12において、Tp1は、信号BZXSELにおける隣接したアップエッジの間隔であり、逆起電力BEMFuにおける隣接したゼロクロスタイミングの間隔に相当する。
駆動クロック信号DRVCLKは信号BZXSELをm逓倍することにより生成され(ここでは“m=6”)、図12の例では“Tp2=Tp1/m”を周期にして駆動クロック信号DRVCLKにパルス(アップエッジ)が生じている。また、上述の波形データSINは、駆動クロック信号DRVCLKに同期して生成される。従って、駆動電流Iu、Iv及びIwは信号BZXSELに同期して制御されることになる。尚、駆動クロック信号DRVCLKには、図示のように、信号BZXSELに対して所定の遅延Tdが与えられても良い。この遅延Tdを調節することによりSPM13の駆動を最適化することが可能となる。
ゲート信号GHu、GHv、GHw、GLu、GLv及びGLwは、駆動クロック信号DRVCLKに同期して生成される。尚、ハーフブリッジ回路50uにおいて、ゲート信号GHuがハイレベル、ローレベルであればトランジスタTrHは夫々オン状態、オフ状態となり、ゲート信号GLuがハイレベル、ローレベルであればトランジスタTrLは夫々オン状態、オフ状態となる。ハーフブリッジ回路50v及び50wについても同様である。図12では明示されていないが、ハーフブリッジ回路50u、50v、50wにおいて、トランジスタTrH及びTrLの実際のゲート信号は、駆動電流Iu、Iv及びIwが正弦波状となるようにパルス幅変調される。
ウィンドウ信号WDWは、逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが到来する前にハイレベルとされる。ウィンドウ信号WDWのハイレベル期間(図12のハッチング領域に対応)において、駆動制御信号生成部134又はプリドライバ回路51によりゲート信号GHu及びGLuの双方がローレベルとされ、U相のハーフブリッジ回路50uが出力ハイインピーダンス状態とされる。その結果、逆起電力BEMFuを観測することが可能となる。逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが到来し、信号BZXSELにアップエッジが生じると、ウィンドウ信号WDWがローレベルに戻される。
尚、ロータが完全に停止しているときにはウィンドウ駆動方式を利用することができない。そのため、SPM13の始動時には、まず公知の強制転流方式でロータにある程度の回転力を与えた後、ウィンドウ駆動方式に遷移すれば良い。
[ウィンドウレス駆動方式]
図13は、ウィンドウレス駆動部120に含まれる位相制御部122の一構成例を示す図である。図13の位相制御部122は、加算器122a、減算器122b、PI制御部122c及び目標位相設定部122dを備える。
加算器122aには、駆動電圧ゼロクロス信号DZXと目標位相TP_CDが入力される。駆動電圧ゼロクロス信号DZXは駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングを表しているので、駆動電圧VuDRVの位相情報を含んでいる。加算器122aは、信号DZXにて表される駆動電圧VuDRVの位相に対して目標位相TP_CDを加算し、その加算結果の位相を減算器122bに出力する。
減算器122bには、加算器122aの出力に加えて、駆動電流ゼロクロス信号CZXが入力されている。駆動電流ゼロクロス信号CZXは駆動電流Iuのゼロクロスタイミングを表しているので、駆動電流Iuの位相情報を含んでいる。減算器122bは、駆動電流Iuの位相から、加算器122aより出力される上記加算結果の位相を減算することで、差分位相ERR_CDを導出する。
PI制御部122cは、差分位相ERR_CDの入力を受け、差分位相ERR_CDをゼロに向かわせる比例積分制御を行うことで上述の駆動ステート時間DSTを導出する。但し、この比例積分制御は、ウィンドウレス駆動が行われているときにのみ有効に機能する。尚、比例積分制御における比例係数及び積分係数は、MPU22からの信号に基づき任意に設定可能であって良い。
目標位相設定部122dは、加算器122aに入力される目標位相TP_CDを設定する機能ブロックであり、ラッチ部122d_1、固定位相格納部122d_2及びセレクタ122d_3を備える。
ラッチ部122d_1は、差分位相ERR_CD及びウィンドウレスイネーブル信号WLEの入力を受け、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移時、即ち信号WLEがローレベルからハイレベルに切り替わるタイミングにおいて、その遷移の直前における差分位相ERR_CDを取り込み且つ保持する。尚、ラッチ部122d_1の初期の保持位相はゼロであって良い。ラッチ部122d_1の導入意義については後述される。
固定位相格納部122d_2は固定位相(例えば0)を格納している。その固定位相は、MPU22からの信号に基づき任意に設定可能であって良い。
セレクタ122d_3は、ラッチ部122d_1に保持される位相及び固定位相格納部122d_2に格納された固定位相の何れかを、目標位相選択信号TSELに応じて選択し、選択した位相を目標位相TP_CDとして出力する。ここでは、セレクタ122d_3は、信号TSELがハイレベルであればラッチ部122d_1に保持される位相(ERR_CD)を選択及び出力し、信号TSELがローレベルであれば固定位相格納部122d_2に格納された固定位相を選択及び出力するものとする。目標位相選択信号TSELのレベルはMPU22からの信号に基づき決定されて良い。
このように、目標位相設定部122dは、ラッチ部122d_1のほかに、固定値格納部122d_2とセレクタ122d_3を備えているので、目標位相TP_CDとして固定位相を選択することも可能となっている。
図14はウィンドウレス駆動方式の基本動作を示す図である。図14の左側には、トルク指令信号Trq*が固定されているという前提の下、SPM13の回転速度RPMと差分位相ERR_CDとの関係が示されている。図14の右側には、目標位相TP_CDがゼロであるという前提の下、“ERR_CD>0”のケース、“ERR_CD=0”のケース及び“ERR_CD<0”のケースの夫々における、逆起電力BEMFu(実線波形に対応)、駆動電流Iu(破線波形に対応)及び駆動電圧VuDRV(一点鎖線波形に対応)の波形(平滑波形)が示されている。
目標位相TP_CDがゼロであるとした場合において、
駆動電流Iuのゼロクロスタイミングが駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングよりも早いとき(即ち、駆動電圧VuDRVの位相から見て駆動電流Iuの位相が進んでいるとき)、“ERR_CD>0”となり、
駆動電流Iuのゼロクロスタイミングが駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングよりも遅いとき(即ち、駆動電圧VuDRVの位相から見て駆動電流Iuの位相が遅れているとき)、“ERR_CD<0”となり、
駆動電流Iuのゼロクロスタイミングが駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングと一致しているとき(即ち、駆動電圧VuDRVの位相が駆動電流Iuの位相と一致しているとき)、“ERR_CD=0”となる。
ウィンドウレス駆動方式では、“ERR_CD>0”であるとき、駆動周波数fを低下させることで(即ち駆動ステート時間DSTを増加させることで)SPM13の回転速度RPMを低下させ、逆に“ERR_CD<0”であるときには、駆動周波数fを上昇させることで(即ち駆動ステート時間DSTを減少させることで)SPM13の回転速度RPMを増大させる。
このように、ウィンドウレス駆動方式では、差分位相ERR_CDがゼロとなるように、即ち、駆動電流Iuのゼロクロスタイミングと駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとの差分位相が目標位相TP_CDと一致するように駆動周波数fを調整し、これによってSPM13の回転速度RPMを適正化する。尚、回転速度RPMが高すぎるとSPM13の脱調が生じやすくなり、回転速度RPMが低すぎるとSPM13の駆動の効率が低下する。駆動電流Iuのゼロクロスタイミングと駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとの差分位相は、それら2つのゼロクロスタイミング間の時間差を位相の単位にて表現した量であって、換言すれば駆動電流Iuの位相と駆動電圧VuDRVの位相との差分位相であり、ここでは駆動電圧VuDRVの位相から見た駆動電流Iuの位相である。
ウィンドウレス駆動方式では、上述のような駆動周波数fの調整を経て推定BEMFゼロクロス信号BZX2が生成されるので、位相制御部122及び信号生成部123は、駆動電流Iuのゼロクロスタイミングと駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとの差分位相が目標位相TP_CDと一致するという前提の下で、駆動電流Iuのゼロクロスタイミング及び駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングに基づき逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを推定し、その推定結果を信号BZX2として生成及び出力している、といえる。
[ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移]
図15は、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移シーケンスを示す図である。タイミングTA1以前では、信号WLEがローレベルとされていて且つ信号ADJCMPは初期レベルであるハイレベルとされている。このため、タイミングTA1以前では、セレクタ140により信号BZX1が選択され(図7及び図9(a)参照)、ウィンドウ駆動方式によるSPM13の駆動制御が行われることで回転速度RPMが所望の目標値に維持される。また、タイミングTA1よりも前の所定のタイミングにおいて、目標位相選択信号TSELがローレベルからハイレベルに切り替えられる。尚、以下の説明では、特に記述なき限り、信号TSELはハイレベルに固定されているものとする。
ウィンドウ駆動方式でSPM13を駆動制御している間でも、ウィンドウレス駆動部120では差分位相ERR_CD(図15の例では10μ秒に相当する位相)が逐次導出されている。但し、ウィンドウ駆動方式でSPM13が駆動制御されているときには、差分位相ERR_CDに基づきSPM13が実際に駆動制御されるわけはないので、差分位相ERR_CDをゼロに向かわせる比例積分制御は有効に機能しない。
タイミングTA1において、ウィンドウレスイネーブル信号WLEにアップエッジが生じる。この結果、タイミングTA1を境に、セレクタ140の選択及び出力信号BZXSELが信号BZX1から信号BZX2に切り替えられることになり、SPM13の駆動方式がウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式に切り替わる。尚、後述の位相誤差制御部150(図16参照)により、信号WLEのアップエッジに同期して信号ADJCMPがハイレベルからローレベルに切り替えられるものとする。信号WLEは、ウィンドウ駆動方式でSPM13の回転速度RPMが安定してからハイレベルに切り替えられることが望ましい。
このように、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移を行うことにより、SPM13の始動直後における安定動作の確保(ウィンドウ駆動方式の利点)と、定常時における静音化及び振動抑制(ウィンドウレス駆動方式の利点)の双方を両立することが可能となる。
ところで、一般に、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移直前における差分位相ERR_CDは、様々な要因(SPM13の駆動状態や製造ばらつきなど)で変動する。そのため、目標位相TP_CDが固定値(固定位相)である場合には、差分位相ERR_CDと目標位相TP_CDが大きく乖離している状態から、ウィンドウレス駆動方式によるSPM13の駆動制御が始まることとなり、SPM13の回転速度RPMに意図しない変動を生じるおそれがある。
一方、本実施形態では、目標位相選択信号TSELがハイレベルである場合、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式へ遷移される際に、遷移直前に導出された差分位相ERR_CD(図15の例では10μ秒に相当する位相)がラッチ部122d_1により取り込まれて目標位相TP_CDとして設定される。
従って、差分位相ERR_CDと目標位相TP_CDが完全に一致している状態から、ウィンドウレス駆動方式によるSPM13の駆動制御を始めることができるので、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移をスムーズに行うことが可能となる。
尚、SPM13の回転速度RPMに着目すると、目標位相TP_CDが固定値(固定位相)である場合には、図15の破線611又は612で示したように、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移に伴い、回転速度RPMが目標速度から乖離する。これに対して、遷移直前に導出された差分位相ERR_CDを目標位相TP_CDとして設定した場合には、実線610のように、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移時にも、回転速度RPMを目標速度に維持することが可能となる。尚、破線611はトルク指令信号Trq*が可変制御される状況に対応し、破線612はトルク指令信号Trq*が固定される状況に対応している。
[ウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への遷移]
図16に、ウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への遷移の際に有効に機能する位相誤差制御部150を示す。位相誤差制御部150は駆動制御部100に備えられる。位相誤差制御部150は信号処理部130に設けられると解して良い。位相誤差制御部150には、逆起電力ゼロクロス検出部111からの実測BEMFゼロクロス信号BZX1及び信号生成部123からの推定BEMFゼロクロス信号BZX2(図7参照)と、WLE生成部55からのウィンドウレスイネーブル信号WLE(図11)と、が入力される。位相誤差制御部150から調整完了信号ADJCMPが出力される。上述したように、ウィンドウレスイネーブル信号WLEの初期レベルはローレベルであって且つ調整完了信号ADJCMPの初期レベルはハイレベルである。
図17は、ウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への遷移シーケンスを示す図である。図17に示されるタイミングTA2は図15のタイミングTA1よりも後のタイミングであって、タイミングTA3はタイミングTA2よりも更に後のタイミングである。図15のタイミングTA1にて信号WLEにアップエッジが生じた後、図17のタイミングTA2に至る直前まで信号WLEがハイレベルに維持され、タイミングTA2にて信号WLEにダウンエッジが生じたとする。信号WLEにダウンエッジが生じると、位相誤差制御部150は、信号BZX1及びBZX2に基づく所定の調整動作BBを行う。位相誤差制御部150は、調整動作BBが完了するまでは信号ADJCMPをローレベルに維持し、調整動作BBが完了すると信号ADJCMPをハイレベルに切り替える。図17の例では、タイミングTA3にて調整動作BBが完了している。
図15のタイミングTA1から図17のタイミングTA2までは、信号WLEがハイレベルであることからウィンドウレス駆動方式にてSPM13が駆動制御される。調整動作BBの実行区間に相当するタイミングTA2及びTA3間では、信号WLEがローレベルであるものの、信号ADJCMPがローレベルであることからウィンドウ駆動方式への遷移は待機され、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13が駆動制御される(図9(a)も適宜参照)。但し、タイミングTA2及びTA3間では、信号WLEがローレベルであることから“WDW=WDW’”となり、ウィンドウレス駆動方式でSPM13が駆動制御されているにも関わらず、各フレームにおいてウィンドウ区間が設定されて逆起電力ゼロクロス検出部111により逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが検出される。タイミングTA3以降は、信号WLEがローレベル且つ信号ADJCMPがハイレベルとなるので、ウィンドウ駆動方式にてSPM13が駆動制御される(図9(a)も適宜参照)。
図16の位相誤差制御部150は、上述の調整動作BBにおいて、信号BZX1及びBZX2に基づき位相誤差ERR_BBを導出し、位相誤差ERR_BBを低減するよう動作する。位相誤差ERR_BBは後述されるように極性を持つ量である。故に、位相誤差ERR_BBの低減とは、位相誤差ERR_BBの大きさの低減を意味する。実際には、調整動作BBの開始後、位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となるまで調整動作BBを継続実行し、位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となると調整動作BBを完了させて信号ADJCMPにアップエッジを生じさせる。閾値THBBは、MPU22からの信号に基づき可変設定されても良い(但し、THBB>0)。
信号BZX1は、ウィンドウ駆動部110により検出された逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミング(以下、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミングと称することもある)を表している 一方、信号BZX2は、ウィンドウレス駆動部120により推定された逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミング(以下、逆起電力BEMFuの推定ゼロクロスタイミングと称することもある)を表している。故に、信号BZX1も信号BZX2も逆起電力BEMFuの位相情報を含んでいる。但し、信号BZX1により表現される逆起電力BEMFuの位相は実測に基づくものであるのに対し、信号BZX2により表現される逆起電力BEMFuの位相は推定に基づくものであるので、それらの間には誤差が生じうる。
位相誤差ERR_BBは、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミングと逆起電力BEMFuの推定ゼロクロスタイミングとの位相誤差であり、信号BZX1によりゼロクロスタイミングが規定される逆起電力BEMFuの位相と信号BZX2によりゼロクロスタイミングが規定される逆起電力BEMFuの位相との差に相当する。ここで、図18(a)及び(b)に示す如く、信号BZX1によりゼロクロスタイミングが規定される逆起電力BEMFu、信号BZX2によりゼロクロスタイミングが規定される逆起電力BEMFuを、夫々、BEMFu1、BEMFu2にて参照する。また、逆起電力BEMFu1の位相、逆起電力BEMFu2の位相を、夫々、P1、P2にて参照する。図18(a)及び(b)には、“P1≠P2”であるときの逆起電力BEMFu1及びBEMFu2の波形(平滑波形)が示されている。
位相誤差ERR_BBは“(P1-P2)”又は“(P2-P1)”にて表現されるが、ここでは、“ERR_BB=P2-P1”であるとする。従って、
図18(a)に示す如く、信号BZX2にて示される逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミングが信号BZX1にて示される逆起電力BEMFu1のゼロクロスタイミングよりも早いとき(即ち、逆起電力BEMFu1の位相から見て逆起電力BEMFu2の位相が進んでいるとき)、“ERR_BB>0”となり、
図18(b)に示す如く、信号BZX2にて示される逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミングが信号BZX1にて示される逆起電力BEMFu1のゼロクロスタイミングよりも遅いとき(即ち、逆起電力BEMFu1の位相から見て逆起電力BEMFu2の位相が遅れているとき)、“ERR_BB<0”となるものとする。
尚、位相誤差ERR_BBは、SPM13の回転速度RPMと、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミング及び推定ゼロクロスタイミング間の時間差とで定まる。故に、特に例えば、調整動作BBが行われるときの回転速度RPMを略一定とみなすことができるケースでは、位相誤差ERR_BBは時間を単位として表現されていても良い。この場合、位相誤差ERR_BBは、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミングと逆起電力BEMFuの推定ゼロクロスタイミングとの時間差に相当することになり、上述の閾値THBBも時間を単位とする値(例えば1マイクロ秒)となる。
調整動作BBにおける位相誤差ERR_BBの低減は進角ADVの調整により実現される。図19を参照し、進角ADVとは、信号BZX2にて示される逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミング(推定ゼロクロスタイミング)と信号DZXにて示される駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとの位相差を表す。信号BZX2にて示される逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミング(推定ゼロクロスタイミング)と信号DZXにて示される駆動電圧VuDRVのゼロクロスタイミングとの位相差は、それら2つのゼロクロスタイミング間の時間差を位相の単位にて表現した量であって、換言すれば逆起電力BEMFu2の位相と駆動電圧VuDRVの位相との差分位相である。ここでは、進角ADVは、逆起電力BEMFu2の位相から見た駆動電圧VuDRVの位相であるとする(但し、駆動電圧VuDRVの位相から見た逆起電力BEMFu2の位相とする変形も可能である)。
図20に調整動作BBのフローチャートを示す。調整動作BBにおいて、位相誤差制御部150は、まずステップS21にて信号BZX1及びBZX2を参照し、最新の逆起電力BEMFu1のゼロクロスタイミングと最新の逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミングとに基づく最新の位相誤差ERR_BBを導出する。続くステップS22において、位相誤差制御部150は、ステップS21にて導出した位相誤差ERR_BBの大きさを所定の閾値THBBと比較し、位相誤差ERR_BBの大きさが閾値THBB以下であれば処理をステップS16に進める一方で、そうでなければ処理をステップS13に進める。ステップS13において位相誤差ERR_BBの極性が判定され、“ERR_BB>0”であればステップS14に進み、“ERR_BB<0”であればステップS15に進む。
ステップS14において、位相誤差制御部150は、進角ADVを所定の調整量ΔADVだけ減少させる(ΔADV>0)。即ち、フレームFL[i-1]における進角ADVが“ADV[i-1]”であったならば、フレームFL[i]における進角ADVが“ADV[i-1]-ΔADV”となるように、信号BZXSEL(調整動作BBの実行中は信号BZX2)と駆動クロック信号DRVCLKとのタイミング関係(換言すれば位相関係)を調整する。
ステップS15において、位相誤差制御部150は、進角ADVを所定の調整量ΔADVだけ増大させる(ここで“ΔADV>0”)。即ち、フレームFL[i-1]における進角ADVが“ADV[i-1]”であったならば、フレームFL[i]における進角ADVが“ADV[i-1]+ΔADV”となるように、信号BZXSEL(調整動作BBの実行中は信号BZX2)と駆動クロック信号DRVCLKとのタイミング関係(換言すれば位相関係)を調整する。
ステップS14及びS15における調整は、図12に示すような遅延Tdに注目すれば、遅延Tdの大きさを調整することに相当する。ステップS14の後、及び、ステップS15の後には、ステップS11に戻り、ステップS11以降の処理がステップS16に至るまで繰り返される。
ステップS16において、位相誤差制御部150は、調整完了信号ADJCMPのレベルをローレベルからハイレベルに切り替えて調整動作BBを完了させる。
尚、1つの調整動作BBの中でステップS14及びS15間の行き来が発生することが無いよう、調整量ΔADVには適切な値が設定される(例えば、“THBB>ΔADV>0”又は“THBB>>ΔADV>0”)。
図21を参照して調整動作BBの意義を説明する。図21は、参考方法に係るウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への遷移シーケンスを表している。参考方法では、ウィンドウレスイネーブル信号WLEにダウンエッジが生じると、調整動作BBを行うことなく、直ちにウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への遷移を行う。尚、図21では、常に“WDW=WDW’”とされて逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが実測されていると仮定している。
今、ウィンドウレス駆動方式において所望の一定の回転速度RPM(=1/tp)でSPM13が回転しており、ゼロではない位相誤差ERR_BBが存在していたものとする。そうすると、参考方法において信号WLEにダウンエッジが生じてウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式へ遷移した際、遷移前後において信号BZXSELのアップエッジの周期が急峻に変化する(tpからtp’への変化に対応)グリッチが発生する。このようなグリッチにより、回転速度RPMが実際に一時的に所望速度から変動するような制御が働いたり、必要なトルクがSPM13にて得られなかったりすることがある。また、ウィンドウ駆動を行っているときには信号BZX1そのもの又は信号BZX1に基づく信号を信号SBEMFとして駆動制御部100からMPU22に送り、ウィンドウレス駆動を行っているときには信号BZX2そのもの又は信号BZX2に基づく信号を信号SBEMFとして駆動制御部100からMPU22に送ることができるが(図4参照)、参考方法では、上記グリッチを含む信号SBEMFがMPU22に伝達されることになるため、MPU22及び駆動動制御部100にて形成される回転速度制御ループが不安定となりうる。
これに対し、本実施形態の構成では、位相誤差ERR_BBを必要なだけ低減させてからウィンドウ駆動方式への遷移を行うようにしているため、上記のようなグリッチが発生せず、ウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式へとスムーズに遷移することが可能となる。
本実施形態の構成では、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移の際に遷移直前の差分位相ERR_CDを目標位相TP_CDに設定するようにしている。このため、その後、SPM13の周辺環境を含め一切の条件が変化しないと仮定したならば、その後の位相誤差ERR_BBはゼロに維持されることが期待され、調整動作BBは不要となる。しかしながら、実際には、SPM13の周辺温度の変化やSPM13の負荷の変化によって、ウィンドウレス駆動の実行中に位相誤差ERR_BBが発生することも多く、故に、上述の調整動作BBが有益に機能する。勿論、ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移の際に遷移直前の差分位相ERR_CDを目標位相TP_CDに設定するといった動作がなされない構成においても、上述の調整動作BBは実施可能であり且つ有益に機能する。
上述の調整動作BBは、信号BZX1にて示される逆起電力BEMFu1のゼロクロスタイミングと信号BZX2にて示される逆起電力BEMFu2のゼロクロスタイミングとの差が小さくなりさえすれば完了することになるが、そのとき、実際のSPM13において、実際の逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングと実際の駆動電流Iuのゼロクロスタイミングとが一致している又は近接しているかは不確かである。そこで、調整動作BBが完了してウィンドウ駆動方式に遷移した後、調整動作BBに引き続き以下の調整動作BCを行うようにしても良い。調整動作BCは、ウィンドウ駆動方式の遷移直後において、信号処理部130内に設けられる位相調整部(不図示)により実行されると解して良い。
調整動作BCでは、信号BZX1及びCZXに基づき位相誤差ERR_BCを導出し、位相誤差ERR_BCがゼロに向けて低減するよう動作する。相誤差ERR_BBと同様、位相誤差ERR_BCは極性を持つ。故に、位相誤差ERR_BCの低減とは、位相誤差ERR_BCの大きさ(絶対値)の低減を意味する。実際には、調整動作BCの開始後、位相誤差ERR_BCの大きさが所定の閾値THBC以下となるまで調整動作BCを継続実行し、位相誤差ERR_BCの大きさが所定の閾値THBC以下となると調整動作BCを完了させる。閾値THBCは、MPU22からの信号に基づき可変設定されても良い(但し、THBC>0)。
位相誤差ERR_BCは、信号BZX1にて示される逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングと信号CZXにて示される駆動電流Iuのゼロクロスタイミングとの位相誤差であり、信号BZX1によりゼロクロスタイミングが規定される逆起電力BEMFuの位相と信号CZXによりゼロクロスタイミングが規定される駆動電流Iuの位相との差に相当する。
調整動作BCによる位相誤差ERR_BCの低減は、調整動作BBによる位相誤差ERR_BBの低減方法と同様に、進角ADVの調整により実現される。即ち、調整動作BCにおいて、位相誤差ERR_BCの大きさが所定の閾値THBCよりも大きいのであれば、位相誤差ERR_BCの大きさが所定の閾値THBC以下となるまで、位相誤差ERR_BCが低減される向きに進角ADVを所定の調整量ずつ増大又は減少させれば良い。
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態を説明する。第2実施形態及び後述の第3実施形態は第1実施形態を基礎とする実施形態であり、第2及び第3実施形態において特に述べない事項に関しては、矛盾の無い限り、第1実施形態の記載が第2及び第3実施形態にも適用される。第2実施形態の記載を解釈するにあたり、第1及び第2実施形態間で矛盾する事項については第2実施形態の記載が優先されて良い(後述の第3実施形態についても同様)。矛盾の無い限り、第1~第3実施形態の内、任意の複数の実施形態を組み合わせても良い。
第2実施形態では、図7に示されるセレクタ133が、図22(a)に示す如くウィンドウレスイネーブル信号WLEとウィンドウオープン信号OPENとに基づいて選択動作を行うものとする。ウィンドウレスイネーブル信号WLEは、図11にも示されたWLE生成部55にて生成される。ウィンドウオープン信号OPENはOPEN生成部56にて生成される。OPEN生成部56は駆動制御部100内に設けられている。信号WLE及びOPENの夫々は、ローレベル又はハイレベルをとる二値信号である。
図22(b)及び(c)に示す如く、第2実施形態に係るセレクタ133は、
信号WLEがローレベルである場合には、信号OPENのレベルに関係なく、ウィンドウ信号生成部132からのウィンドウ信号WDW’をウィンドウ信号WDWとしてそのまま出力し、
信号WLEがハイレベル且つ信号OPENがローレベルである場合には、ウィンドウ信号WDWをローレベルに固定し、
信号WLEがハイレベル且つ信号OPENがハイレベルである場合には、ウィンドウ信号生成部132からのウィンドウ信号WDW’をウィンドウ信号WDWとしてそのまま出力する。
即ち、ハイレベルの信号WLEによりウィンドウレス駆動の実行が許可又は指示されていて実際にウィンドウレス駆動が行われている最中であっても、信号OPENのハイレベル区間においてはウィンドウ区間が設定されて逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングが逆起電力ゼロクロス検出部111により検出されることになる。
OPEN生成部56は、信号WLEのハイレベル区間において、即ちウィンドウレス駆動の実行区間において、所定のオープン条件の成否を逐次判定しており、オープン条件が成立すると信号OPENをローレベルからハイレベルに切り替える(図22(c)参照)。オープン条件の成立前までは信号OPENはローレベルに維持されている。オープン条件の成立後、所定のクローズ条件が成立すると、OPEN生成部56は、信号OPENをハイレベルからローレベルに切り替える。
故に、第2実施形態に係る駆動制御部100では、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13を駆動制御しているときにおいて、所定のオープン条件が成立したときにSPM13の駆動方式がウィンドウレス駆動方式にて維持されたままでウィンドウ区間が設定されることになる。尚、これについては第1実施形態でも同様であるといえ、第1実施形態では信号WLEのダウンエッジの発生がオープン条件の成立に相当する。そして、オープン条件の成立後、クローズ条件が成立するまでの間において、第2実施形態に係る駆動制御部100は、逆起電力ゼロクロス検出部111により検出された逆起電力BEMFuのゼロクロスタイミングを用い、所定動作Jを行うことができる(図22(c)参照)。
第2実施形態は、以下の実施例EX2_1及びEX2_2を含む。第2実施形態における上記記載は、矛盾無き限り、実施例EX2_1及びEX2_2に適用される。
[実施例EX2_1]
実施例EX2_1を説明する。実施例EX2_1に係る所定動作Jは、第1実施形態で述べた調整動作BBである。尚、実施例EX2_1では、所定動作Jとしての調整動作BBが実行されている間、及び、その前後において、信号WLEがハイレベルに維持されているものとする。
故に、実施例EX2_1に係る位相誤差制御部150(図16参照)は、信号WLEのレベルの如何によらず、信号OPENのアップエッジに同期して上述の調整動作BBを開始し、これによって上述の位相誤差ERR_BBを低減する。調整動作BBの内容は第1実施形態で示した通りであり、進角ADVの調整を通じて位相誤差ERR_BBを低減すれば良い。位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となると、位相誤差制御部150は、所定動作Jとしての調整動作BBを完了させる。実施例EX2_1では、位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となることでクローズ条件が成立する。即ち、所定動作Jとしての調整動作BBの完了をもってクローズ条件が成立する。故に、所定動作Jとしての調整動作BBが完了すると、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13を駆動制御し且つウィンドウ区間を非設定とする状態に戻る。
尚、所定動作Jとして調整動作BBが実行された場合にあっては、調整動作BBの完了時に調整完了信号ADJCMPが微小時間だけハイレベルとされるパルスが発生し、当該パルスがOPEN生成部56に伝達されることでクローズ条件の成立がOPEN生成部56にて認識される。
ウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式への遷移の際に遷移直前の差分位相ERR_CDを目標位相TP_CDに設定することなどにより、適正な状態でウィンドウレス駆動方式へ遷移したとしても、その後の周辺温度の変化やSPM13の負荷の変化等により、位相誤差ERR_BBがゼロから乖離してゆくことがある。これは、効率の低下や脱調を引き起こす要因となりうる。実施例EX2_1の方法によれば、ウィンドウレス駆動が継続して実行されているときにも、一時的にウィンドウ区間を設定して位相誤差ERR_BBの検出及び低減を図ることができ、SPM13の適正な駆動が維持されるようになる。
オープン条件は、ウィンドウレス駆動が行われているとき、一定の間隔で周期的に成立するものであって良い。この場合例えば、OPEN生成部56にタイマを設けておいて、一定の間隔でオープン条件の成立を意味するトリガパルスをタイマから発生させれば良い。
オープン条件は、ドライバIC100に内蔵された又は外付け接続されたセンサの出力に基づいて、成否が判断されるものであっても良い。
ここにおけるセンサは、ドライバIC100の温度又はSPM13の温度を計測する温度センサであって良く、この場合、OPEN生成部56は温度センサの温度計測値に基づいてオープン条件の成否を判断できる。より具体的には例えば、SPM13の駆動方式がウィンドウ駆動方式からウィンドウレス駆動方式へ遷移したとき、OPEN生成部56は、遷移直後における温度センサの温度計測値を基準値として保持しておく。その後、ウィンドウレス駆動が行われている最中に、温度センサによる最新の温度計測値を基準値と比較し、最新の温度計測値と基準値との差が所定の判定値(例えば10℃)以上となると、オープン条件が成立したと判断すれば良い。また、オープン条件が成立したと判断した後、基準値を最新の温度計測値にて更新すると良い。これにより、所定の判定値分の温度変化が生じるたびにオープン条件が成立して、そのたびに位相誤差ERR_BBの低減が図られることになる。
[実施例EX2_2]
実施例EX2_2を説明する。所定動作Jにおいて、位相誤差ERR_BBが導出及びチェックされるものの、位相誤差ERR_BBの低減が図られないことがあっても良い。これについて説明する。尚、実施例EX2_2では、後述されるように位相誤差ERR_BBに基づきSPM13の駆動方式がウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式に切り替えられるケースを除き、信号WLEがハイレベルに維持されているものとする。
実施例EX2_2において、図16の位相誤差制御部150は、信号WLEのレベルの如何によらず、信号OPENのアップエッジに応答して第1実施形態にて示した方法により位相誤差ERR_BBを導出する。ここで導出された位相誤差ERR_BBを、特に、判定位相誤差ERR_BBと称する。判定位相誤差ERR_BBは、信号OPENのアップエッジに応答して最初に導出された位相誤差ERR_BBであり、位相誤差制御部150の機能による低減がなされていない状態の位相誤差ERR_BBである。判定位相誤差ERR_BBが導出されるとき、信号WLEはハイレベルでありウィンドウレス駆動が行われている。
位相誤差制御部150は、判定位相誤差ERR_BBの大きさを所定値THLIMと比較する(0<THBB<THLIM)。
判定位相誤差ERR_BBの大きさが所定値THLIM未満であった場合の後の動作は、実施例EX2_1と同じである。即ち、判定位相誤差ERR_BBの大きさが所定値THLIM未満であるならば、実施例EX2_1と同様に、進角ADVの調整を通じて位相誤差ERR_BBを低減し、位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となると、所定動作Jとしての調整動作BBを完了させる。この場合には、位相誤差ERR_BBの大きさが所定の閾値THBB以下となることで(即ち所定動作Jとしての調整動作BBの完了をもって)クローズ条件が成立し、ウィンドウレス駆動方式にてSPM13を駆動制御し且つウィンドウ区間を非設定とする状態に戻る。
これに対し、判定位相誤差ERR_BBの大きさが所定値THLIM以上であった場合には、位相誤差制御部150は、調整動作BBによる位相誤差ERR_BBの低減を所定動作Jにて行うことなく、所定の位相誤差過大信号をWLE生成部55及びOPEN生成部56に送る。OPEN生成部56が位相誤差過大信号を受けるとクローズ条件が成立する。他方、WLE生成部55は位相誤差過大信号を受けると信号WLEをハイレベルからローレベルに切り替えることで、SPM13の駆動方式をウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式に切り替える。
即ち、実施例EX2_2に係る駆動制御部100は、所定動作Jにおいて、逆起電力BEMFuの検出ゼロクロスタイミングと逆起電力BEMFuの推定ゼロクロスタイミングとの位相誤差ERR_BBを判定位相誤差ERR_BBとして導出する。そして、判定位相誤差ERR_BBの大きさが所定値THLIM以上であるとき、SPM13の駆動方式をウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式に切り替える。この際、第1実施形態に示したように調整動作BBを行ってからウィンドウ駆動方式に切り替えるようにして良い。実施例EX2_2において、所定動作Jは、判定位相誤差ERR_BBの導出動作と、判定位相誤差ERR_BBに基づいて実行されうるウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式への切り替え動作とを含むと解しても良いし、判定位相誤差ERR_BBの導出動作のみを含むと解しても良い。
判定位相誤差ERR_BBの大きさが所定値THLIM以上となる状況は、環境変化が大きな状況であると推測され、ウィンドウレス駆動方式での駆動は適切でない可能性がある。このため、上述の如くウィンドウ駆動方式に戻して、ウィンドウ駆動方式による安定駆動の利点を優先する。
尚、実施例EX2_2において、オープン条件の成否の判断方法は、実施例EX2_1と同様であって良い。
<<第3実施形態>>
本発明の第3実施形態を説明する。
第1実施形態において、ウィンドウレス駆動方式からウィンドウ駆動方式に遷移させる際、調整動作BBを行うのか否かを、MPU22が事前に駆動制御部100に指定できても良い。調整動作BCについても同様である。第1実施形態では、調整動作BBを行うべき指定が事前になされていることが想定されている。
所定相の逆起電力、駆動電流及び駆動電圧のゼロクロスタイミングを利用してSPM13の駆動制御を行う構成について、上述の説明では所定相としてU相に注目したが、所定相はV相又はW相であっても良いし、U相、V相及びW相の内の2以上の相の夫々が所定相であっても良い。
駆動制御信号生成部134(図7参照)は、トルク指令信号Trq*も参照して駆動制御信号(DRVu、DRVv、DRVw)を生成するようにしているが、SPM13にて発生されるべきトルクが予め定まっているようなケースでは、トルク指令信号Trq*は不要となりうる。
SPM13が3相分のコイルにて構成される例を上述したが、SPM13が3相とは異なる複数相分のコイルにて構成されることがあっても良い。
ドライバIC30の各構成要素は半導体集積回路の形態で形成され、当該半導体集積回路を、樹脂にて構成された筐体(パッケージ)内に封入することで半導体装置が構成される。但し、複数のディスクリート部品を用いてドライバIC30内の回路と同等の回路を構成するようにしても良い。また、SPMドライバ33単体を半導体集積回路の形態で形成し、当該半導体集積回路を、樹脂にて構成された筐体(パッケージ)内に封入することで半導体装置を構成するようにいても良い。
上述の実施形態では、HDD装置1のSPM13に対するモータドライバ装置(ドライバIC30)に本発明を適用する例を挙げているが、モータ(特に例えば直流モータ、ブラシレス直流モータ)をセンサレス駆動する任意のモータドライバ装置に本発明を広く適用可能であり、例えば空冷用のファンモータを駆動するためのモータドライバ装置に本発明を適用しても良い。
論理値を示す任意の信号又は電圧に関して、上述の主旨を損なわない形で、それらのハイレベルとローレベルの関係を逆にしても良い(即ち論理値“1”にハイレベルを割り当てるのかローレベルを割り当てるのかは任意であって良い)。
トランジスタTrHがPチャネル型のMOSFETにて構成されるように各ハーフブリッジ回路を変形しても良い。トランジスタTrLをPチャネル型のMOSFETにすることも可能ではある。
上述の各トランジスタは、任意の種類のトランジスタであって良い。例えば、MOSFETとして上述されたトランジスタを、上述の主旨を損なわない態様で、接合型FET、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)又はバイポーラトランジスタに置き換えることも可能である。任意のトランジスタは第1電極、第2電極及び制御電極を有する。FETにおいては、第1及び第2電極の内の一方がドレインで他方がソースであり且つ制御電極がゲートである。IGBTにおいては、第1及び第2電極の内の一方がコレクタで他方がエミッタであり且つ制御電極がゲートである。IGBTに属さないバイポーラトランジスタにおいては、第1及び第2電極の内の一方がコレクタで他方がエミッタであり且つ制御電極がベースである。
[本発明に関わる考察]
上述の各実施形態にて具体化された本発明について考察する。
本発明の一側面に係るモータドライバ装置は、直流モータ(例えばSPM13)をスイッチング駆動するモータドライバ装置(例えばPMドライバ33又はドライバIC30)であって、前記直流モータの所定相のコイルに対する通電を停止させるウィンドウ区間において前記所定相のコイルに生じる逆起電力のゼロクロスタイミング(BZX1に対応)を検出し、前記逆起電力の検出ゼロクロスタイミングに基づいて前記モータの駆動制御を行う第1駆動方式(ウィンドウ駆動方式に対応)、又は、前記所定相のコイルに流れる駆動電流のゼロクロスタイミング(CZXに対応)と前記所定相のコイルに印加される駆動電圧のゼロクロスタイミング(DZXに対応)に基づいて前記モータの駆動制御を行う第2駆動方式(ウィンドウレス駆動方式に対応)にて、前記モータの駆動制御を行う駆動制御部(例えば100)を備え、前記駆動制御部は、前記第2駆動方式にて前記モータの駆動制御を行っているときにも、前記ウィンドウ区間を設定して前記逆起電力のゼロクロスタイミングを検出可能に構成されていることを特徴とする。
上記モータドライバ装置について、第1実施形態の技術に注目すれば(特に例えば図17参照)、前記駆動制御部は、前記モータの駆動方式を前記第1駆動方式から前記第2駆動方式に切り替えた後、前記モータの駆動方式を前記第2駆動方式から前記第1駆動方式に切り替えるべきことを示す遷移指示信号(信号WLEのハイレベルからローレベルの切り替わりに対応)を受けると、前記モータの駆動方式を前記第2駆動方式に維持したまま前記ウィンドウ区間を設定して前記逆起電力の検出ゼロクロスタイミングを用いた所定の調整動作(調整動作BBに対応)を行い、前記調整動作の完了後に前記モータの駆動方式を前記第2駆動方式から前記第1駆動方式に遷移させると良い。
上記モータドライバ装置について(特に例えば図7参照)、前記駆動制御部は、前記ウィンドウ区間における前記コイルの両端子間電圧に基づき前記逆起電力の検出ゼロクロスタイミング(BZX1に対応)を導出する逆起電力ゼロクロス検出部(例えば111)と、前記駆動電流のゼロクロスタイミング(CZXに対応)と前記駆動電圧のゼロクロスタイミング(DZXに対応)に基づいて前記逆起電力のゼロクロスタイミングを推定することで前記逆起電力の推定ゼロクロスタイミング(BZX2に対応)を導出する逆起電力ゼロクロス推定部と、前記第1駆動方式にて前記モータの駆動制御が行われるときには前記逆起電力の検出ゼロクロスタイミング(BZX1に対応)に基づいて、前記第2駆動方式にて前記モータの駆動制御が行われるときには前記逆起電力の推定ゼロクロスタイミング(BZX2に対応)に基づいて、前記モータの各相のコイルに対する駆動制御信号(DRVu、DRVu、DRVwに対応)を生成するとともに前記駆動電圧のゼロクロスタイミングを示す駆動電圧ゼロクロス信号(DZXに対応)を生成する信号処理部(例えば130)と、を備え、前記信号処理部にて生成される前記駆動電圧ゼロクロス信号が前記逆起電力ゼロクロス推定部にフィードバックされて前記逆起電力のゼロクロスタイミングの推定に用いられる。
そして第1実施形態の技術に注目すれば(特に例えば図16及び図20参照)、前記信号処理部は、前記調整動作(調整動作BBに対応)において、前記逆起電力の検出ゼロクロスタイミング(BZX1に対応)と前記逆起電力の推定ゼロクロスタイミング(BZX2に対応)との位相誤差(ERR_BBに対応)を低減することができる。
尚、図7の構成に関しては、位相制御部122及び信号生成部123によって、上記の逆起電力ゼロクロス推定部が構成されていると考えることができる。
本発明の実施形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。以上の実施形態は、あくまでも、本発明の実施形態の例であって、本発明ないし各構成要件の用語の意義は、以上の実施形態に記載されたものに制限されるものではない。上述の説明文中に示した具体的な数値は、単なる例示であって、当然の如く、それらを様々な数値に変更することができる。