以下に本発明の円形加速器および粒子線治療システム、円形加速器の運転方法の実施例を、図面を用いて説明する。
<実施例1>
本発明の円形加速器および円形加速器の運転方法の実施例1について図1乃至図12を用いて説明する。
図1に、円形加速器30の外観図を示す。
図1に示すように、本実施例の円形加速器30は、一定強度の主磁場中を時間的に周波数変調した高周波電場によってイオンを加速するものであり、その取出しビームのエネルギーは、例えば70[MeV]-235[MeV]と可変となっている。
円形加速器30は、上下方向に分割可能な主電磁石40によってその外殻が形成されており、主電磁石40内部のビーム加速領域は真空に保たれている。
主電磁石40の上部にはイオン源53が設置されており、低エネルギービーム輸送系54を通してビームが円形加速器30内部に入射される。イオン源53としては、マイクロ波イオン源やECRイオン源などを適用できる。図1に示すように外部からイオンを入射する場合は、例えば静電インフレクタ55を通じてビーム加速領域へ入射される。
なお、イオン源は、主電磁石40内部の真空引きされたビーム加速領域内部に配置しても良く、その場合はPIG(Penning 又は Phillips Ionization Gauge)型イオン源などが好適である。
イオン源53で生成されたビームは、低エネルギービーム輸送系54を経由し、主磁極38(図3参照)の中心付近に設けられた入射点52(図2参照)より主電磁石40内部のビームを加速するビーム加速領域に入射される。
また、円形加速器30の外周部側には、入力カプラ20と、回転コンデンサ31と、加速高周波電源21と、が設けられている。円形加速器30は、この回転コンデンサ31を用いて、高周波加速電圧を周波数変調する。
図2に円形加速器30の中心平面による断面図を、図3に円形加速器30の鉛直方向の断面図(図2のA-A’矢視図)を示す。
図2および図3に示すように、主電磁石40は、主磁極38、ヨーク41、メインコイル42から構成される。
ヨーク41は、主電磁石40の外観を形成しており、内部におよそ円筒状の領域を構成する。
メインコイル42は、円環状のコイルであり、ヨーク41の内壁に沿って設置されている。メインコイル42は超伝導コイルであり、メインコイル42の周囲に設置されたクライオスタット60により冷却される。
メインコイル42の内周側には主磁極38が上下対向して設置されている。通電したメインコイル42および主磁極38により形成される磁場を主磁場(静磁場)と呼称する。
ヨーク41には貫通孔が複数設けられている。そのうち、加速されたビームを出射するためのビーム用貫通孔46、ヨーク41内部の種々のコイル導体を外部に引き出すためのコイル用貫通孔48、真空引き用貫通孔49、および高周波加速空胴10のための高周波系用貫通孔50がヨーク41の接続面に設けられている。
高周波加速空胴10はλ/2共振型空胴であり、ディー電極12、ダミーディー電極13、内導体14、外導体15、入力カプラ20、加速高周波電源21、回転コンデンサ31などより成る。
ディー電極12は、D字型の中空電極であり、内導体14とつながっている。ダミーディー電極13は、内導体14を外包する外導体15とつながる電極であり、接地電位となる。ダミーディー電極13は、ディー電極12との間に加速間隙11を形成する。
このような高周波加速空胴10では、加速高周波電源21より入力カプラ20に電力が供給され、入力カプラ20を通して外部より内導体14に対して高周波電力が供給される。これにより、ディー電極12とダミーディー電極13との間の加速間隙11にビームを加速するための高周波加速電圧が印加され、高周波電場が発生する。
固定電極33は、内導体14上に形成されている。固定電極33と対向する回転電極34は外導体15に隣り合い、外導体15とは物理的に接続されていないが、外導体15と静電容量を介して電気的に接続されている。なお、固定電極33を外導体15上に形成し、回転電極34を内導体14に静電結合させる構成とすることができる。
回転コンデンサ31では、回転電極34をモータ32で回転させることで固定電極33と回転電極34との対向部の面積を変化させ、固定電極33との間に形成される静電容量を時間的に変動させる。静電容量を時間的に変動させることで、高周波加速空胴10の共振周波数を変え、周波数変調パターンを形成している。回転コンデンサ31によって周波数変調された加速電圧が、ディー電極12とダミーディー電極13との間の加速間隙11に発生する。
図2に示した加速間隙11は、ハーモニクス数が1の場合、即ち周回周波数と加速周波数とが同じ場合を示している。加速間隙11の形状は、ビームの軌道形状に応じて形成される。
ここで、円形加速器30において入射されてから出射するまでのビーム挙動について説明する。
イオン源53から入射されたビームは、加速間隙11に発生した高周波電場で加速され、エネルギーを増しながら主磁場中を周回する。ビームは加速に伴って軌道の曲率半径を増し、螺旋状の軌道を形成する。ここで、ビーム加速領域内において、ビームが加速開始されて最大エネルギーになるまでに通る軌道を周回軌道と呼称する。
周回軌道のうち、最大エネルギーのビームが通過する軌道を最大エネルギー軌道80と呼称し、円形加速器30から出射できる最低エネルギー(例えば、70[MeV])のビームが通過する軌道を最低出射エネルギー軌道81と呼称し、周回軌道が螺旋を描く面を軌道面と呼称する。
加速領域の中心を原点とする軌道面の2次元極座標系としたときの中心からの半径外側方向の軸をr軸とする。主磁場は、下記の式(1)で表されるn値が0より大きく、かつ1未満となるビーム安定化条件を満たす。
式(1)中、ρは設計軌道の偏向半径、Bは磁場強度、∂B/∂rはr方向の磁場勾配である。
このとき設計軌道から径方向に微小にずれたビームは設計軌道に戻るような復元力を受ける。これと同時に、軌道面に対して鉛直な方向にずれたビームも軌道面に戻す方向に主磁場から復元力を受ける。この振動をベータトロン振動、この振動の振動数をベータトロン振動数という。
ビームは設計軌道の近傍をベータトロン振動し、ビームを安定に周回・加速できるように、主磁場の∂B/∂rが設計される。
また、周回一周あたりの振動数をチューンといい、周回一周あたりの軌道面外側へのビームのr軸上変位をターンセパレーションという。
また、周回するビームにおいては、軌道面内かつビームの軌道と直交する方向のベータトロン振動を水平方向のベータトロン振動、チューンを水平方向チューンという。
ベータトロン振動は、適切な高周波電圧を印加すると、共鳴によって振幅が増大する。また、全エネルギーのビームで、軌道面内に平行、かつ軌道と直交する方向のベータトロン振動数(水平方向チューン)νrは1に近い値に設定される。
上述の主磁場分布は、主磁極38、および主磁極38の表面に設置するトリムコイルや磁極片によって形成する。これら主磁場分布を形成する構成要素は、軌道平面に対し対称に配置するため、主磁場は軌道平面上においては、軌道平面と垂直な方向の磁場成分のみを持つ。
更に、本実施例の円形加速器30では、ビームエネルギーを70[MeV]から235[MeV]の間で任意に変えて加速器より出射できるようにするため、ビーム軌道をビーム出射経路入口82の側に偏芯させる、すなわち、加速するビームの入射点52と最大エネルギー軌道の中心80Aとの位置が異なるように主磁場が形成される。
図2に示すように、入射点52は回転コンデンサ31の回転軸と加速領域の円の中心を通る線である中心線の上で、加速領域の中心よりもビーム出射経路入口82側に配置されている。
図4に各エネルギーの軌道を示し、偏芯軌道の実現方法を説明する。
図4に示すように、回軌道は最大エネルギー235[MeV]から磁気剛性率0.04[Tm]おきに50種類のエネルギーの軌道を実線で示している。点線は各軌道の同一の周回位相を結んだ線であり、等周回位相線と呼ぶ。等周回位相線は集約領域から周回位相π/20ごとにプロットしている。
図2に示した、ディー電極12と対向するダミーディー電極13との間に形成される加速間隙11は、等周回位相線に沿って設置される。より具体的には、ディー電極12は同心軌道の中心付近を先端とし、半径が等周回位相線に沿う、扇形のような中空の形状をしている。また、ダミーディー電極13は、ディー電極12に対向する形状をしている。
本実施例の円形加速器30では、ビームのエネルギーが低い領域では、サイクロトロン同様にイオンの入射点52付近を中心とする同心軌道に近くなる。その後、より大きなエネルギーの軌道はビーム出射経路入口82の付近で密に集約しており、逆に内導体14の付近では各エネルギーの軌道が互いに離れた位置関係にある。この軌道が密に集まっている点を集約領域、離散した領域を離散領域と呼ぶ。
このような軌道配置とし、集約領域付近からビームを取出すことで、必要となるビームキック量を小さくでき、エネルギー可変のビーム出射を従来のシンクロサイクロトロンに比べて容易に行うことができる。
上記のような軌道構成と軌道周辺での安定な振動を生じさせるために、本実施例の加速器では、径方向外周側に行くにつれ主磁場が小さくなる分布を、主磁極38の形状と、その表面に設置するトリムコイルや磁極片により形成する。また、設計軌道に沿った線上では主磁場は一定値である。よって、設計軌道は円形となる。
次にビームの出射方法について説明する。本実施例の円形加速器30では、出射エネルギーに適したビームに対して出射用高周波電場を印加してビームを出射するための機器として、すべての出射エネルギーのビーム軌道が集約している集約領域付近に設置する高周波キッカ70と、その両脇に配置するピーラー磁場領域44、リジェネレータ磁場領域45、そしてセプタムコイル43と高エネルギービーム輸送系47を用いる。
加速されたビームは、ビーム出射経路入口82から、加速領域の外に出射され、高エネルギービーム輸送系47を介して、ビームの使用先へと輸送される。
セプタムコイル43は、このビーム出射経路入口82に配置される。セプタムコイル43は、ビーム進行方向に2つ以上配置してもよい。
主電磁石40の内部から外部へ出射ビームを輸送するための高エネルギービーム輸送系47が、セプタムコイル43に続き、ビーム用貫通孔46を通って、主電磁石40の外部にかけて配置されている。
高周波キッカ70は、通過する周回ビームに高周波電圧を印加する機器である。
図5に、高周波キッカ70の断面構成を示す。図6に、図5中Cの方向より高周波キッカ70を見た鳥瞰図を示す。
高周波キッカ70は、接地電極71、突起部73、および高圧電極72で構成される。
接地電極71および高圧電極72の両電極は、最大エネルギー軌道80と最低出射エネルギー軌道81とを挟むように配置される。
かつ、それぞれの軌道と軌道面内で直交する方向と近い向きに高周波電場が作用するように、接地電極71と高圧電極72との形状が定められる。すなわち、接地電極71は最低出射エネルギー軌道81のカーブにおおよそ平行な形状に定め、高圧電極72は最大エネルギー軌道80のカーブにおおよそ平行な形状に定める。
高圧電極72は、高周波電圧が印加されることから、絶縁支持されている。
円筒状の加速領域の中で、ビームは当該円筒の高さ方向真ん中付近に軌道平面を描く。接地電極71、および高圧電極72は共にビームが通過する軌道平面付近に通過孔を有する。この通過孔は、ビームのベータトロン振動による拡がりを考慮して、ビーム衝突が起きない程度の広さがよい。本実施例の高周波キッカ70は、図5に示すように端面が開いた形状であるが、ビーム通過孔を除いて端面を接地電極で閉塞し、共振器構造とすることもできる。
高周波キッカ70は、最大エネルギー軌道80から最低出射エネルギー軌道81までのすべての出射エネルギーの軌道上に配置するのであればどこでもよいが、例えば図2に示すようにビーム出射経路入口82の近辺に配置する。
突起部73は金属製の板であり、接地電極71に取り付けられている。この突起部73により、接地電極71と高圧電極72との間に生じる高周波電場の集中を高めることができる。なお、突起部73は省略することができる。
セプタムコイル43は、ビームを水平方向外周側に偏向するためのコイルであり、図2のB-B’矢視図である図7に示すように、コイル導体43Aとコイル導体43Bとを有する。セプタムコイル43は、加速領域とコイル導体43Aを隔てて接している。
コイル導体43A,43Bに電流を流すことにより、セプタムコイル43内部には、ビームの周回軌道に対して鉛直方向の磁場が発生する。この磁場により、セプタムコイル43内部に進行したビームは偏向され、高エネルギービーム輸送系47へと輸送される。
なお、セプタムコイル43は、鉄心などの磁性体コアを備えるものであってもよい。また、セプタムコイル43は、コイルを用いずに磁性体や永久磁石のみを用いた構成で代替することもできる。
また、主電磁石40の内部には、二極磁場や多極磁場からなる擾乱磁場であるピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とが形成される。
上述のように、ビーム出射には、高周波キッカ70、ピーラー磁場領域44、リジェネレータ磁場領域45、セプタムコイル43、および高エネルギービーム輸送系47を用いる。
ビームが特定の出射エネルギーまで加速されると、加速間隙11にビームを加速するための高周波加速電圧が停止され、ビームは、最大エネルギー軌道80などの特定のエネルギーの周回軌道上を周回する。
そして、周回軌道上に設置され、高周波を印加する高周波キッカ70にビームが入ると、高周波電圧が印加され、ビームのベータトロン振動振幅が増大する。
ベータトロン振動振幅が増大したビームは、やがて、最大エネルギー軌道80の外周側に、最大エネルギー軌道80からある距離を置いて設置されたピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とに到達する。
ピーラー磁場領域44に到達したビームは軌道面の外周側にキックされ、リジェネレータ磁場領域45に到達したビームは軌道面内周側にキックされる。
ピーラー磁場領域44の四極磁場成分によるキックで、ビームは、さらにベータトロン振動振幅を増大させ、ターンセパレーションは増大していく。
同時に、リジェネレータ磁場領域45の磁場により、ビームの水平方向チューンが急激に変動しないようにしておき、ビームが出射されるまでの間に、水平方向と90度直交する垂直方向にベータトロン振動が発散してビームが失われるのを防ぐ。
十分なターンセパレーションが得られると、セプタムコイル43にビームが入り、軌道面外側にキックされ、高エネルギービーム輸送系47を通り、円形加速器30の外側に出射される。
ターンセパレーションの増大幅は、高周波キッカ70によるものより、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とによるもののほうがはるかに大きい。そのため、高周波キッカ70により印加する高周波電圧を調整することで、出射エネルギーに達したビームのうち、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とに到達するビームの量を調整することができる。
この結果、高周波キッカ70への高周波印加をビーム出射途中で停止することで、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とにビームが到達しなくなり、円形加速器30からのビーム出射を中断できるようになる。すなわち、高周波キッカ70に印加を再開することでビームの出射の再開も可能となる。
また、高周波キッカ70に印加する電圧の強さや高周波の振幅、位相、周波数のいずれかを制御することで、円形加速器30から出射するビームの強さを制御することができる。
ここで、ピーラー磁場領域44と、リジェネレータ磁場領域45は、ビームに作用する多極磁場が存在する領域である。この多極磁場には少なくとも4極磁場成分が含まれ、4極以上の多極磁場、あるいは2極磁場が含まれていてもよい。
ピーラー磁場領域44では、径方向外周側に向かって主磁場を弱める方向の磁場勾配となっており、リジェネレータ磁場領域45では逆に径方向外周側に向かって主磁場を強める方向の磁場勾配とする。
なお、ピーラー磁場領域44としては、磁極端部の主磁場が減少する領域を利用することもできる。
ピーラー磁場領域44と、リジェネレータ磁場領域45は、最大エネルギー軌道80の外周側に、ビーム出射経路入口82を挟んである方位角領域にそれぞれ配置される。
また、高周波キッカ70によりベータトロン振動振幅が増大される前にピーラー磁場領域44またはリジェネレータ磁場領域45にビームが進行しないよう、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とは、最大エネルギー軌道80からベータトロン振動の共鳴前の振幅分よりも大きい幅を空けて外周側に配置されることが望ましい。
また、ビーム進行方向に対して上流側にピーラー磁場領域44、下流側にリジェネレータ磁場領域45が配置されることが望ましいが、その逆とすることもできる。
なお、図2では、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とを1つずつ設けているが、それぞれ、主磁場中に複数箇所に設けてもよい。
ピーラー磁場領域44およびリジェネレータ磁場領域45の近辺には、磁性体製の複数の磁極片かコイル、あるいはその両者が非磁性材にて固定配置され、所望の多極磁場を形成する。
たとえば、ピーラー磁場領域44およびリジェネレータ磁場領域45のそれぞれについて、複数の磁極片で多極磁場を、コイルで2極磁場を形成する。複数の磁極片とコイルは、近接配置させることも、空間的に離れた場所に配置することもできる。
図7に、図2のB-B’矢視図であるリジェネレータ磁場領域45の磁極片配置例を示す。磁極片としては、リジェネレータ磁場領域45に磁場勾配を発生させる磁場勾配用金属片36と、磁場勾配用金属片36が最大エネルギー軌道80の内周側に発生させる不要磁場を打ち消すための磁場補正用金属片37と、を用いる。
また、図5ではリジェネレータ磁場領域45を例に説明したが、ピーラー磁場領域44についても、ピーラー磁場領域44も磁場勾配を発生させる磁場勾配用金属片36と、磁場勾配用金属片36が最大エネルギー軌道80の内周側に発生させる不要磁場を打ち消すための磁場補正用金属片37と、を用いる。
図8に、図5中r軸上の主磁場の分布を示す。
図8に示すように、最大エネルギー軌道80までは、磁場勾配∂B/∂rがわずかに下がっており、式(1)のn値が安定化条件を満たし、ビームが安定に周回する。その後、リジェネレータ磁場領域45では、磁場勾配が急激に上昇しており、ビームが安定せず、軌道面内周側にキックされる。また、ピーラー磁場領域44では、リジェネレータ磁場領域45とは逆に、磁場勾配が急激に下降しており、ビームは安定せずに軌道面外周側にキックされる。
なお、高周波キッカ70によるベータトロン振動振幅の増大幅は、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とによるベータトロン振動振幅の増大幅よりも小さいが、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とを設けなくても、高周波キッカ70によるベータトロン振動振幅の増大効果により、ビームの出射は可能である。すなわち、ピーラー磁場領域44やリジェネレータ磁場領域45は少なくともいずれか一方は省略することができる。
図9は、ビームの出射手順について説明する図である。図9(a)は、高周波加速空胴10の共振周波数fcavと高周波キッカ70によりビームに印加される高周波電場の周波数である高周波キッカ周波数fevtと、時刻Tとの関係を表すグラフである。図9(b)は、加速間隙11に発生する加速電圧Vaccと高周波キッカ70に印加される高周波キッカ電圧Vextと、時刻Tとの関係を表すグラフである。図9(c)および図9(d)は、入射するビームの電流と出射するビームの電流と、時刻Tとの関係を表すグラフである。
1加速周期は、加速電圧Vaccの立ち上がり(時刻T1)から始まる。その後、加速電圧Vaccが十分に上がると、イオン源53よりビームが入射される(時刻T2)。ビームが入射してから時間t1経過後にビームの高周波捕獲が終了する。捕獲されたビーム、すなわち入射されたビームのうち加速の準備が整ったビームが加速電圧Vaccにより加速され始める(時刻T3)。
加速したビームが所望のエネルギーに達したタイミングで加速高周波電圧Vaccの遮断を開始する(時刻T4)と、ビームの加速が中断され、それから時間t2が経過すると加速高周波電圧VaccがOFF状態となる。
それと同時に、高周波キッカ70へ高周波電圧Vextの印加が開始される(時刻T5)ことで、その所望のエネルギーのビームのベータトロン振動の振幅が高周波キッカ70により増大される。やがて、そのビームがピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とに到達し、出射される。
なお、高周波キッカ70へ高周波電圧Vextの印加開始(時刻T5)は、加速高周波電圧VaccがOFF状態となるのと厳密に同時でなくてもよい。例えば、高周波電圧Vextの印加開始は、加速高周波の遮断開始(時刻T4)の直前や同時、直後でもよいし、加速高周波電圧VaccがOFF状態の直前や直後とすることもできる。
高周波キッカ70の高周波電圧は、高周波キッカ70が共振器構造でなく、静電容量が適切な値となるように設計されていれば、数μsecの応答で素早く立ち上がる。
ここで、ベータトロン振動は、チューン又はチューンの小数部のいずれか一方とビームの周回周波数との積が、印加される高周波電圧の周波数と略同一であるとき、振幅が共鳴的に増大する性質をもつ。そこで、高周波キッカ70に印加する高周波電圧の周波数fextは、出射エネルギービームの水平方向チューンνrの小数部Δνrと、出射エネルギービームの周回周波数frevとの積Δνr×frevと略同一となるようにしておく。その結果、水平方向ベータトロン振動の振幅は共鳴的に増大し続け、やがてピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45にビームが到達する(時刻T6)。
なお、周波電圧の周波数fextは、最大エネルギービームの水平方向チューンと、最大エネルギービームの周回周波数との積と等しくなるようにしてもよい。
ビームは、ピーラー磁場領域44を通過すると外周側にキックされ、リジェネレータ磁場領域45を通過すると逆に内周側にキックされる。ピーラー磁場領域44、リジェネレータ磁場領域45共に径方向に磁場勾配を有するので、複数回ビームが周回するうちに、キック量が次第に増えていき、ターンセパレーションが増大する。つまり、2νr=2のベータトロン振動の共鳴条件を利用することで、ターンセパレーションを増大させることができる。
やがてビーム出射経路入口82に設置されているセプタムコイル43のうち、内周側に設置されるコイル導体43Aの厚みを大きく超えるターンセパレーションが得られるようになると、ビームはセプタムコイル43内部へと導かれ、十分な偏向を受けて高エネルギービーム輸送系47へ導かれ、出射される。
ここで、セプタムコイル43、および高エネルギービーム輸送系47に配置する光学パラメータ調整用のコイルは、出射するビームエネルギーに応じて励磁電流を変える必要がある。よってこれらのコイルについては、空芯構造か積層鋼板コアを用い、1ターンから数ターン程度のコイルにパルス通電する構成とすることが望ましい。また、セプタムコイル43は、ビーム進行方向に2つ以上に分割して配置してもよい。
なお、高周波キッカ70へ高周波電圧印加を開始した直後(時刻T5)は、可能な限り大きな高周波電圧を印加し、ビームの振幅を素早く増大させることで、ビーム出射までの時間を短縮できる。
そして、ビームがピーラー磁場領域44またはリジェネレータ磁場領域45に到達する直前(時刻T6)に高周波電圧を低下させ、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とに進行するビームの量を調整することで、ビーム出射電流を細かく制御することができる。
高周波電圧Vextを低下させるかわりに、高周波キッカ70に印加する高周波の周波数をスイープする、あるいは当該高周波の位相を変えることでも、ビームの出射電流を変えることができる。これは、ビームに含まれる荷電粒子のベータトロン振動数が、ある分布をもってばらついているという性質(チューンスプレッド)を利用している。このように、高周波の周波数を変えることにより、共鳴を起こす荷電粒子の振動数の分布のどの帯域に合わせるかで、ビームの出射電流を変えることができる。また、高周波電圧Vaccを低下させるかわりに、遮断してもよい。
その後、ビームの出射開始(時刻T6)から時間t4の経過後に高周波キッカ70へ高周波電圧Vextの印加を停止することで、ビームの出射を停止させる(時刻T7)。この時間t4を調整することでビームの出射時間を制御することができる。
このように、高周波キッカ70に引加する高周波電圧を制御することで、ビーム出射電流を調整することができ、当該高周波電圧を印加停止すればビーム出射を停めることができるので、スキャニング照射で要求されるスポット線量を、1回の出射パルスビームで過不足なく照射することができ、線量率が向上する。
例えば、図9に示すようにビームの出射開始(時刻T6)から時間t4’経過後まで高周波キッカ70への高周波電圧Vextの印加を続ければ、図9(c)に示すように、時刻T7’までビームを出射することができる。
また、出射後に加速器内に周回するビームが残存していれば、当該高周波電圧Vextを再び印加することで、図9(c)に示すようにビーム出射を再開でき(時刻T8)、再びビームを入射・捕獲・加速することなしに次のスポット照射に用いることができる。すなわち、1加速周期内に複数回ビームを出射することができるので、イオン源53より入射された電荷を無駄なく使用できるため、線量率がさらに向上する。
そして、再び、加速電圧Vaccが立ち上がり始めれば、新たな加速周期が始まる(時刻T10)。
図9(d)は、時刻T8においてビームを再出射する必要がない場合の、入射ビームの電流および出射ビームの電流と、時刻Tとの関係を表すグラフである。
本実施例の円形加速器30では、要求されている出射ビーム量が1加速周期で加速できるか否かを判定する。そして1加速周期中に加速されたビームを用いて要求される出射ビーム量が照射可能と予測される場合は、図9(d)に示すように、予め入射するビームの電荷量を抑制する、あるいは加速するビームの電荷量を抑制することで、出射後に加速器内を周回する残存ビームを限りなく減らすことができる。この結果、加速されたビームを破棄もしくは減速するための時間が必要なくなり、線量率が向上する。
これに対し、要求されている出射ビーム量が1加速周期で加速できない量であると判定されたときは、最後の加速周期以外は図9(c)に示すように最大限のビームを加速するように制御する。そのうえで、最後の加速周期は、要求されている出射ビーム量となるよう、図9(d)に示すように、予め入射するビームの電荷量を抑制する、あるいは加速するビームの電荷量を抑制する。
また、要求されている出射ビームの量は、要求されている出射ビームのエネルギー毎に出射ビーム量の和を取ることで計算することが望ましい。また、加速中に失われるビームの量を考慮してエネルギー毎に必要な入射ビーム量(入射量ともいう)、あるいは加速ビーム量を計算することが望ましい。
要求されている出射ビーム量の求め方の一例について、後述する粒子線治療システムにおいてスポットスキャニング照射を実施する場合を例に説明する。図10および図11は必要な入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を求めるためのファイルの概要の一例を示す図、図12は必要な入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を求める処理の流れの一例を示すフローチャートである。
必要な入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を求めるためのファイルは、後述する治療制御装置91,191内の記憶装置にデータとして格納され、治療制御装置91,191により制御処理が実行される場合を例に説明するが、加速器制御装置93、191Aや他の制御装置にデータが格納され、制御処理が実行されてもよい。
例えば、図10は、各照射スポットごとの、照射エネルギーとx,y座標とにより表現されたスポット3次元位置、そのスポット3次元位置に対する照射量が記憶されたパターンファイル(照射パターンデータともいう)200である。パターンファイル200は、治療計画プログラムによりあらかじめ作成される。図10は、スポット3次元位置と照射量との対応関係を示しているが、これは一例であり、照射量を出射ビーム量と読み替えてもよい。
図11は、照射エネルギーごとに、照射量とその照射量を得るのに必要な入射量との対応関係を示す変換テーブル302である。図11は、照射量と入射量との対応関係を示しているが、これは一例であり、照射量を出射ビーム量と読み替えてもよく、入射量を加速ビーム量と読み替えてもよい。
図12に示すように、治療制御装置91,191は、パターンファイル200を参照し、エネルギー毎に照射量の和を取る(ステップS102)。たとえば図10の場合、治療制御装置91,191は、エネルギーが70の照射スポットNo.1と2と3の照射量の和0.04を取り、他のエネルギーについても同様に繰り返す。
次いで、治療制御装置91,191は、変換テーブル302を参照し、照射量からエネルギー毎に必要な入射量を計算する(ステップS104)。たとえば、図10の場合、エネルギーが70[MeV]の変換テーブル302を参照し、照射量0.04に対応する入射量を求める。
なお、ステップS104で参照するものは図11に示すような変換テーブルに限られず、照射量と必要入射・加速電荷量との関係を示した関数や入射・加速電荷量と出射電荷量の相関を示したルックアップテーブルを用いることができる。更に、出射されたビームの電流値を計測し、フィードバック制御によって入射ビーム量や加速ビーム量を抑制することもできる。
次いで、本実施例の円形加速器30において、入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を制御するための方法の詳細について説明する。
まず、入射ビーム量を抑制する方法としては、以下のような方法が挙げられる。しかし、これらは一例である。
入射ビーム量を制御する一つ目の方法は、時刻T3以前に、イオン源53での荷電粒子の発生量を抑えるように制御する方法である。この方法は、より具体的には、イオン源53中でのイオン化用の電流値を絞る、イオン源53に供給する原料ガスの流量を調整する、などの方法である。
入射ビーム量を制御する二つ目の方法は、静電インフレクタ55を制御する方法である。例えば、静電インフレクタ55に印加する電圧値を制御する方法がある。この方法は、図1に示すような外部イオン源を用いる場合に好適に採用し得る。
入射ビーム量を制御する三つ目の方法は、図2に示したようなチョッパー電極56を制御する方法である。この方法は、連続的に出力されるビームを間引くことで入射ビーム量を制御する方法であるため、上述したイオン源53や静電インフレクタ55を制御する方法に比べてアクティブに制御することができる。
また、加速ビーム量を抑制する方法には、上述した3つの例で示したような入射するビーム量を調整する以外に、以下のような方法が挙げられる。
例えば、高周波加速電場を制御する方法がある。具体的には、時刻T1から時刻T3の間に印加する加速高周波電圧Vaccの立ち上がりを、図9(b)の「A」に示す通常の立ち上がりに比べ、「B」に示すように急にする方法がある。
この方法によれば、ビームのエネルギーと加速高周波電圧との位相差に関する振動(シンクロトロン振動)の安定領域である高周波バケットの面積を制御することで加速ビーム量が調整される。すなわち、ある意味でビームの加速領域に入射されるビームの量が調整される。
次に、本実施例の効果について説明する。
上述した本発明の実施例1の円形加速器30やその運転方法は、静磁場、および周波数変調した高周波加速電場を用いてビームを加速するものであって、円形加速器30から出射されるビームのエネルギー毎の出射ビーム量に応じて、円形加速器30への入射ビーム量、あるいは円形加速器30における加速ビーム量を制御し、好適には加速したビームに出射用高周波電場を印加してビームを出射する。
従来の円形加速器では、ビームは最大エネルギーに達したのち、出射電荷量の制御がなされることなく全て出射されていた。また、イオン源におけるイオン生成量の時間変動や、加速高周波電場の時間的な安定性などにより、出射するビーム電荷量がパルスごとにばらついていた。
これに対し、本実施例のように入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を制御することによって、要求される出射ビーム量に対して過不足することなくビームを加速し、出射させることができる。このため、時間当たりの出射ビーム量を減らすことなく、出射ビームを従来のシンクロサイクロトロンに対して高精度に制御することができる。
そして、本実施例の円形加速器30では、高周波キッカ70での高周波印加を途中で停止することで、ピーラー磁場領域44とリジェネレータ磁場領域45とにビームが到達しなくなり、ビームの円形加速器30から出射の中断ができ、高周波キッカ70に印加を再開することで、再びビームを入射・捕獲・加速することなしにビームの出射の再開もできる。
また、高周波キッカ70に印加する電圧の強さや高周波の振幅、位相、周波数のいずれかを制御することで、円形加速器30から出射するビームの強さを制御することができる。さらに、高周波キッカ70に印加する電圧を調整することで、ビームの安定性に影響する要因を吸収し、安定したビームを出射することができる。
このように、これらのビームの安定性に影響する要因を吸収し、出射ビームの電荷量を高精度に制御することができる。
また、加速するビームの入射点52と最大エネルギー軌道の中心80Aとの位置が異なるため、ディグレーダ不要で可変エネルギーのビーム出射ができる。したがって、取出し時に失われるビーム電流値を最小限に留めることができ、ビーム利用効率を従来の加速器に比べて高めることができる。また、電気的に出射エネルギーを変更できるため、ディグレーダを機械的に移動する方式よりもエネルギー切替えに要する時間が短いという利点も有する。
更に、イオン源53での発生粒子数を制御することで入射ビーム量を制御すること、あるいは静電インフレクタ55によって入射ビーム量を制御することで、必要以上のビームが加速領域に入射されることを抑制して装置にかかる負荷を軽減しつつ、出射ビームの電荷量を高精度に制御することができる。
また、チョッパー電極56によって入射ビーム量を制御することにより、同様に必要以上のビームを加速領域に入射することを抑制しつつ、入射ビーム量をよりアクティブに制御できるため、さらに高精度に出射ビームの電荷量を制御することができる。
更に、高周波加速電場を制御することで加速ビーム量を制御することで、必要以上のビームが加速領域で加速されることを抑制することができるため、装置にかかる負荷を軽減しつつ、出射ビームの電荷量を高精度に制御することができる。
また、出射されるビームのエネルギー毎に出射ビーム量の和を取ることで必要な入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を計算することにより、より正確、かつ簡易に必要な出射ビーム量を計算することができ、より高精度に出射ビーム量を制御することが可能となる。
更に、加速中に失われるビームの量を考慮してエネルギー毎に必要な入射ビーム量、あるいは加速ビーム量を計算することで、より確実に過不足することなく必要な出射電荷量を出射エネルギーまで加速することができる。
また、要求されている出射ビーム量が1加速周期で加速できるか否かを判定し、要求されている出射ビーム量が1加速周期で加速できない量であると判定されたときは、最後の加速周期で要求されている出射ビーム量となるように各加速周期の出射量を制御することで、最後の周期のみ入射ビーム量あるいは加速ビーム量を調整するのみとなるため、制御が容易であり、必要な量の電荷を必要エネルギーまで安定して加速することができる。
なお、加速するビームの入射点52と最大エネルギー軌道の中心80Aとの位置が異なる円形加速器について説明したが、ビーム軌道は必ずしも偏芯している必要はなく、本発明の円形加速器は、加速するビームの入射点と最大エネルギー軌道の中心との位置が同じ設計とすることができる。
<実施例2>
本発明の実施例2の円形加速器および粒子線治療システム、円形加速器の運転方法について図13乃至図15を用いて説明する。実施例1と同じ構成には同一の符号を示し、説明は省略する。以下の実施例においても同様とする。
図13は、本実施例の粒子線治療システム1000の全体構成図である。
図13に示す粒子線治療システム1000は、実施例1に示した円形加速器30、高エネルギービーム輸送系47、回転ガントリ90、走査電磁石を含む照射装置92、照射対象を内包する患者100を載置する治療台101、およびそれらを制御する治療制御装置91を備えている。
円形加速器30から出射された特定エネルギーのビームは、高エネルギービーム輸送系47および回転ガントリ90により照射装置92まで輸送される。輸送された特定エネルギーのイオンビームは照射装置92での調整により患部形状に合致するように形成され、治療台101に横たわる患者100の患部に対して所定量照射される。
照射装置92は、照射線量の分布をスキャニング照射法により形成するための装置で、走査電磁石、位置モニタおよび線量モニタを内包しており、患者100への照射スポット毎に照射された位置および線量を監視している。この線量データを元に、治療制御装置91は各照射スポットへの要求線量を計算して、加速器制御装置93への入力データとする。
これら円形加速器30、高エネルギービーム輸送系47、回転ガントリ90、照射装置92、治療台101の動作は治療制御装置91によって実行される。
治療制御装置91はコンピュータ等で構成されている。これらを構成するコンピュータは、CPUやメモリ、インターフェース等を備えており、各機器の動作の制御や後述する各種演算処理等が様々なプログラムに基づいて実行される。これらのプログラムは各構成内の内部記録媒体や外部記録媒体、データサーバに格納されており、CPUによって読み出され、実行される。
加速器制御装置93は、円形加速器30を構成する各機器の動作を制御するものであり、その詳細は治療制御装置91と基本的に同じである。
なお、治療制御装置91や加速器制御装置93で実行される動作の制御処理は、1つのプログラムにまとめられていても、それぞれが複数のプログラムに分かれていても良く、更にはそれらの組み合わせでも良い。
また、プログラムの一部またはすべては専用ハードウェアで実現しても良く、モジュール化されていても良い。更には、各種プログラムは、プログラム配布サーバや外部記憶メディアによって各装置にインストールされていても良い。
更には、各々が独立した装置で有線あるいは無線のネットワークで接続されたものであっても、2つ以上が一体化していてもよい。
本発明の円形加速器30は、上述の通り、小型化が可能であり、かつビームロスが低減されるため、線量率が向上して照射時間が短くなり、患者スループットを増加させることができる。
なお、粒子線治療システムの具体例は図13に示すような形態に限られない。以下、他の形態について図14を用いて説明する。図14に本実施例の他の形態の粒子線治療システムの構成を示す。
図14に示す粒子線治療システム1001は、治療台201、治療対象の周囲を回転する回転部218、円形加速器30、照射装置192、治療制御装置191とを備えている。
回転部218は、中央に開口を有する環状であり、筒状部材216と、筒状部材216の軸方向の両端に、周方向に沿ってそれぞれ配置された円環状のガイドレール212とを含む。回転部218は、図14の例では、中心回転軸217を水平方向に向けて配置されている。円形加速器30は、筒状部材216の外周面に加速器取付台214を介して搭載されている。
回転部218の下部には、回転部218の外周面の一部に接して、回転部218を支持するとともに、回転部218を回転駆動する支持台210が備えられている。回転部218と支持台210とは、回転ガントリ190を構成している。
支持台210には、回転部218のガイドレール212と接する位置に複数のホイール211が備えられている。ホイール211には、回転駆動機構、およびブレーキ・保持機構(ともに図示の都合省略)が取り付けられている。回転駆動機構は、ホイール211を回転駆動すると、ホイール211はガイドレール212との間の摩擦力によりガイドレール212と密着して回転する。これにより、筒状部材216は、円形加速器30と照射装置192を搭載した状態で回転する。また、ブレーキ・保持機構は、ホイール211の回転を停止させ、その位置で保持する。これにより、ホイール211は、回転部218を任意の角度まで回転させることができるとともに、その角度で保持することもできる。このため、回転部218に搭載された照射装置192を所望の角度まで回動させながら粒子線を患者に対して照射することも可能であるし、照射装置192をその角度で停止させた状態で粒子線を患者に対して照射することもできる。
筒状部材216の中心回転軸217を挟んで円形加速器30と対称の位置には、カウンターウェイト215が固定されている。支持台210は、回転部218が回転した場合に、円形加速器30およびカウンターウェイト215と干渉しないようにその形状および配置が設計されている。
円形加速器30は、ビーム周回軌道面の法線方向184、すなわち、円柱状の円形加速器30の円柱の中心軸が、回転部218の中心回転軸217と平行になるように、回転部218に搭載されている。
円形加速器30の外形は、ビーム周回軌道面の法線方向184の長さ(厚さ)が、ビーム周回軌道面の径方向の幅よりも小さく、扁平な形状をしているため、ビーム周回軌道面の法線方向184と回転部218の中心回転軸217が平行となるように搭載することにより、回転部218の厚さ(中心回転軸217方向の厚さ)を小さく設計することができる。
また、このような配置とすることにより、円形加速器30の円柱の中心軸方向(厚み方向)のほぼ中央に配置されている粒子線の出射口となる貫通孔46を、筒状部材216の中心回転軸217方向の厚さの中央に位置させることが可能になる。よって、照射装置192およびビーム輸送系147を筒状部材216の径方向に沿って配置すればよく、筒状部材216の厚み方向の外側にはみ出すようにビーム輸送系147を引き回す必要がないため、配置が容易になる。
高エネルギービーム輸送系147は、円形加速器30の貫通孔46に接続されており、出射された粒子線を照射装置192まで輸送する。
高エネルギービーム輸送系147は、加速器取付台214および筒状部材216を貫通するように配置される。本形態では、高エネルギービーム輸送系147は、図14に示すように、回転部218の径方向に沿って配置されている。
また、回転部218の筒状部材216の開口内には、その中心回転軸217と同軸であって、筒状部材216の回転に同期して治療対象の周囲を回転する筒状の移動床203が配置されている。照射装置192は、筒状部材216によって支持され、照射装置192の照射口は、移動床203よりも治療台201側の空間に突出している。移動床203は、回転駆動部(図示の都合省略)により、回転部218と同期して回転及び停止する。これにより、照射装置192は、回転部218の回転に同期して回転し、治療台201上に横たわる患者の患部めがけてビームを照射することができる。
高エネルギービーム輸送系147の外周には、スキャニング電磁石194が取り付けられている。スキャニング電磁石194は、筒状部材216によって支持されている。スキャニング電磁石194は、高エネルギービーム輸送系147の中が輸送されている途中の粒子線に変調磁場を印加することにより、照射装置192から出射される粒子線を走査する。これにより、患者の患部に対して粒子線を走査しながら照射することができる。なお、スキャニング電磁石194は円形加速器30の内部空間に設置することもできる。この内部空間に設置するセプタム電磁石に、スキャニング電磁石の機能を兼ねさせることも可能である。
また、高エネルギービーム輸送系147の途中に、ビーム収束用の四極電磁石を配置してもよい。その場合、高速励磁可能な四極電磁石を用いことにより、円形加速器30の出射する粒子線のエネルギー変更が高速に行われる場合であっても、それに対応して粒子線を収束させることができる。
治療台201は、回転部218の開口内に治療対象を配置するように配置されている。
照射装置192は、円形加速器30から出射されたビームを治療台201上の治療対象に向かって照射する照射口193を備えており、照射口193は、回転部218の開口内に配置されている。
治療制御装置191は粒子線治療システム1001内の各機器の動作を制御するコンピュータ等で構成されており、治療制御装置91と基本的に同じ構成である。加速器制御装置191Aについても加速器制御装置93と基本的に同じ構成である。
このように、本実施例の他の形態の粒子線治療システムは、円形加速器30と照射装置192の両方を一つの環状の回転部218に搭載する構成である。
よって、一つの回転部の設置面積が確保できれば粒子線治療システムを設置することが可能である。また、一つの回転部を360度回転させることにより、ノズルと円形加速器30を360度回動させることができる。これにより、設置面積が小さく、ノズルを所望の角度まで360度回動させて、所望の方向から患者に対して粒子線を照射可能な粒子線治療システムを提供できる。
なお、図14の形態ではガイドレール212は2つとしたが、回転部218の支持強度を増すためにさらに多数用いても良い。また、ガイドレール212の内周側に、例えばトラス構造の補強部材を設置してもよい。
次に、図13に示した粒子線治療システム1000や図14に示した粒子線治療システム1001における照射制御の流れについて図15を用いて説明する。図15は、本実施例の粒子線治療システムの照射制御フローである。
図15に示すように、まず、治療制御装置91,191は、照射パターンデータ200から患部の各スポットにおける照射線量を読み込むスポット線量データ読み込処理を実行する(ステップS201)。
次いで、治療制御装置91,191は、照射ビームエネルギー毎の照射に必要な入射電荷量を求める(ステップS202)。
次いで、治療制御装置91,191は、ステップS202で求めた電荷量が円形加速器30の1加速周期によって十分賄えるか否かを判定する(ステップS203)。賄えると判定されたときは処理をステップS204に進める。これに対し、賄えると判定されなかったとき、すなわち、複数の加速周期によって賄う必要があるときは、処理をステップS207に進める。
1加速周期によって要求線量を照射可能である場合、治療制御装置91,191は、必要十分な電荷量を照射できるように入射・加速電荷量を制御し(ステップS204)、加速・出射(ステップS205)ののち、各スポットに対してビームを照射する(ステップS206)。
これに対し、複数の加速周期にわたって必要な電荷量を照射する場合は、治療制御装置91,191は、最後の1加速周期で必要な入射電荷量になるように制御を行う。
具体的には、複数の加速周期のうち、最終周期以外の時は1加速器周期で加速できる最大量、最終周期の時は必要十分な電荷量を照射できるように入射・加速電荷量を制御し(ステップS207)、加速・出射(ステップS208)ののち、各スポットに対してビームを照射する(ステップS209)。
その後、1ビームエネルギーの照射が完了したか否、すなわち複数の加速周期のうち、最終周期であるか否かを判定する(ステップS210)。完了したと判定されたときは処理をステップS211に進め、完了したと判定されなかったときは処理をステップS207に戻して、1ビームエネルギーの照射を完了させるまで処理を繰り返す。
なお、本ステップS207-S210における、必要な入射電荷量を複数回に分けて加速する場合において、複数回とも同じ量のビームを加速する、すなわち複数回に均等に電荷量を割り振ることも可能である。
あるビームエネルギーでの照射が完了したのちは、次いで、治療制御装置91,191は、全スポットの照射が完了したかを判定する(ステップS211)。完了したと判定されたときは処理を完了させる。
これに対し、全スポットの照射が完了したと判定されなかったときは処理をステップS212に移行してビームエネルギーを変更して(ステップS212)、処理をステップS202に戻して照射電荷量算出処理を再度行う。
以上のフローは、マニュアルなどに記載され、装置の運転時などに適宜参照される。
本発明の実施例2の粒子線治療システム1000,1001は、前述した実施例1の円形加速器30と、円形加速器30から出射されたビームを照射する照射装置92,192と、を備えている。このため、出射に用いる高周波により1加速周期ごとの出射ビーム電荷を高精度に制御できるため、スキャニングに適した線量制御が可能となる。結果、線量率が増加し、照射時間を短くでき、粒子線治療システムの患者スループットを向上させることができる。
また、本発明の円形加速器30は出射ビームの電荷量を高精度に制御することができることから、照射装置92,192は、照射線量の分布をスキャニング照射法により形成する場合に非常に好適なものとなっている。
なお、粒子線治療システム1000,1001がビーム輸送系47,147を備えている場合について説明したが、粒子線治療システムはビーム輸送系を設けずに円形加速器と回転ガントリや照射装置とを直接接続することができる。
また、治療に用いる粒子線を照射する装置として回転ガントリ90,190を用いる場合について説明したが、固定された照射装置を用いることができる。また、照射装置は一つに限られず、複数設けることができる。
更に、照射方法としてスキャニング方式を用いる場合について説明したが、ワブラー法や二重散乱体法など粒子線の分布を広げた後、コリメータやボーラスを用いて標的の形状に合わせた線量分布を形成する他の照射法を用いる場合にも本発明を適用することができる。
<その他>
なお、本発明は、上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記の実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
例えば、円形加速器が粒子線治療に用いられる場合について説明したが、円形加速器の用途は粒子線治療に限られず、高エネルギー実験やPET(Positron Emission Tomography)薬剤生成等に用いるものとすることができる。
また、円形加速器で加速するビームを構成するイオンは、ハドロンや荷電粒子であればよく、例えば、陽子、中性子、各種の原子核(He、C、Ne、Si、Ar等)を加速することができる。