JP2022026175A - 加速器および粒子線治療装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】取り出すビームのエネルギーが制御可能であり、かつ、小型化および消費電力の低減化を図ることが可能な加速器を提供する。【解決手段】付加磁場発生用シム311および擾乱用電極313は、イオンビームに対して擾乱用高周波電場と多極磁場とを印加することで、そのイオンビームを設計軌道の外側に変位させる。取り出しチャネル312は、周回軌道の外側に変位したイオンビームを外部に取り出す。取り出しチャネル312は、イオンビームが入射する開口3121aを有し、超伝導体で形成された筒状の磁場遮蔽体3121と、磁場遮蔽体3121を一定温度以下まで冷却する冷却機構3122と、を有する。【選択図】図3
Description
本開示は、加速器および粒子線治療装置に関する。
粒子線治療および物理実験などで使用される高エネルギーのビーム(イオンビーム)は、通常、加速器を用いて生成される。
核子当たりの運動エネルギーが200MeV前後のビームを生成する加速器には、サイクロトロン、シンクロトロン、特許文献1に記載されているようなシンクロサイクロトロン、および、特許文献2に記載されている可変エネルギー加速器が知られている。
サイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンは、静磁場中を周回するビームを高周波電場で加速する。ビームは、加速されるにつれ、軌道の曲率半径を増して外側の軌道に移動し、設計上の最大エネルギーまで到達した後に取り出される。このため、取り出すビームのエネルギーは、基本的に固定される。なお、特許文献1に記載のシンクロサイクロトロンは、略円形の断面を有する一対の強磁性体のポールを互いに空隙を空けて対向するように配置し、その空隙内でビームを加速している。特許文献1では、この空隙の形状を調整することで、シンクロサイクロトロンの小形化を図っている。
また、シンクロトロンは、ビームを偏向する電磁石の磁場と加速する高周波電場の周波数とを時間的に変化させることで、ビームを一定の軌道を周回させる。このため、設計上の最大エネルギーに到達する前にビームを取り出すことが可能であり、取り出すビームのエネルギーが制御可能である。
特許文献2に記載の可変エネルギー加速器は、異なる複数種類のイオンを発生させる複数のイオン源と、磁場を発生させる電磁石と、高周波電場を発生させる高周波空胴とを備える。イオン源からのイオンは、磁場と高周波電場によって、イオンの軌道を偏心させながら所望のエネルギーまで加速される。この可変エネルギー加速器では、軌道が偏心しているため、サイクロトロンと同様に磁場中を周回するイオンを高周波電場で加速しながらも、所望のエネルギーまで加速されたイオンのビームを取り出すことができるため、取り出すビームのエネルギーが制御可能である。
サイクロトロンおよびシンクロサイクロトロンには、上述したように、取り出されるビームのエネルギーが基本的に固定されるという問題がある。例えば、特許文献1に記載のシンクロサイクロトロンは、主磁場中を周回するビームを高周波電場で加速する加速器であり、この種の加速器には、ビームのエネルギーの増加に伴いビームの周回周波数が低下するという特性があるため、ビームの周回周波数に同調して高周波電場の周波数を変調する必要がある。このため、ビームをシンクロサイクロトロンに入射して取り出すまでの1運転周期ごとに、ビームの全てが取り出され、その取り出されるビームのエネルギーは、基本的に固定される。
なお、粒子線治療では、照射計画などで予め定められた照射線量の許容範囲を超過することなく、照射対象の腫瘍にビームを照射することが求められる。このため、取り出されるビームのエネルギーが固定されている場合、ビーム当たりの照射線量を許容範囲に対して十分小さくする必要があるため、照射完了までに時間がかかるという課題がある。
また、シンクロトロンは、取り出すビームのエネルギーが制御可能であるが、現状では、軌道の半径が数m以上と大型であり、小型化は困難であるという課題がある。
特許文献2の可変エネルギー加速器は、取り出すビームのエネルギーが制御可能であり、かつ、小型化を図ることが可能である。ここで、特許文献2の可変エネルギー加速器では、ビームを周回軌道から分離して取り出すための手段として、周回ビーム軌道と取り出しビーム軌道との間の隔壁としてコイルを有するセプタム電磁石が用いられる。セプタム電磁石の隔壁となるコイルはビーム衝突を原因とするビームロスを防ぐためになるべく薄くすることが有効であるが、しかしながら、コイルを薄くすると、コイルの電流密度は増大するためジュール発熱が増大し、消費電力が大きくなるという課題がある。
本発明の目的は、取り出すビームのエネルギーが制御可能であり、かつ、小型化および消費電力の低減化を図ることが可能な加速器および粒子線治療装置を提供することにある。
本開示の一態様に従う加速器は、主磁場および加速用高周波電圧によって、イオンビームを当該イオンビームの周回軌道を偏心させながら加速する加速器であって、前記イオンビームに対して前記加速用高周波電圧とは周波数が異なる擾乱用高周波電場と多極磁場とを印加することで、当該イオンビームを前記周回軌道の外側に変位させる分離部と、前記周回軌道の外側に変位したイオンビームを外部に取り出す取り出し部と、を有し、前記取り出し部は、前記イオンビームが入射する開口を有し、超伝導体で形成された筒状の磁場遮蔽体と、前記磁場遮蔽体を一定温度以下まで冷却する冷却機構と、を有する。
本発明によれば、取り出すビームのエネルギーが制御可能であり、かつ、小型化および消費電力の低減化を図ることが可能になる。
以下、本開示の実施例について図面を用いて説明する。
本実施例の加速器1は、周波数変調型の可変エネルギー加速器である。より具体的には、加速器1は、時間的に一定な磁場を主磁場として発生させ、主磁場中を周回するイオン(水素イオン)のビーム(イオンビーム)を高周波電場によって加速する円形加速器であり、ビームの周回軌道を偏心させながら加速することで、取り出すビームのエネルギーを制御することが可能である。
<<加速器1の構成>>
図1は、加速器1の外観の一例を示す斜視図である。図2は、図1のA-A線に沿った縦断面図であり、図3は、後述する分割接続面Bに沿った横断面図である。なお、図3では、分割接続面Bを上から見たときの加速器1が示されている。また、図3では、内部構造の理解を容易にするため、断面にはない部分についてもハッチングを付しているものがある。なお、図では、鉛直方向をZ方向、Z方向に対して平行な面をXY平面としている。
図1は、加速器1の外観の一例を示す斜視図である。図2は、図1のA-A線に沿った縦断面図であり、図3は、後述する分割接続面Bに沿った横断面図である。なお、図3では、分割接続面Bを上から見たときの加速器1が示されている。また、図3では、内部構造の理解を容易にするため、断面にはない部分についてもハッチングを付しているものがある。なお、図では、鉛直方向をZ方向、Z方向に対して平行な面をXY平面としている。
加速器1は、図1に示すように、分割接続面Bを挟んで上部と下部に分割可能な電磁石11を有する。電磁石11の上部および下部のそれぞれは、円筒状のリターンヨーク121と、リターンヨーク121の開口を覆う天板122とを有する。
電磁石11の内部には、図2に示すように、分割接続面Bを挟んで対称な、略円筒形状のキャビティ11aが形成される。なお、キャビティ11aは、実際には、Y方向の中心の半径がY方向の端部の半径よりも少し大きくなるように形成されている。キャビティ11aは、ビームを加速しながら周回させるための空間である。電磁石11は、キャビティ11a内のビームが通過する領域であるビーム通過領域20に主磁場を励起する。なお、キャビティ11aは、不図示の真空ポンプによって真空引きされている。
また、電磁石11には、外部とキャビティ11aとを接続する貫通孔が複数設けられる。図1~図3の例では、例えば、貫通孔として、ビーム用貫通孔111と、引き出し用貫通孔112および113と、高周波電力入力用貫通孔114と、ビーム入射用貫通孔115とが設けられている。これらのうち、取り出しビーム用貫通孔111と、引き出し用貫通孔112および113と、高周波電力入力用貫通孔114とは分割接続面B上に設けられている。
また、電磁石11の上部には、Z方向から見た電磁石11の中心からずれた位置に、加速核種であるイオン(本実施例では、水素イオン)をキャビティ11aに供給するためのイオン源12が設置されている。イオン源12は、ビーム入射用貫通孔115と接続され、ビーム入射用貫通孔115は、キャビティ11a内部の入射部130(図2および図3参照)と連通している。入射部130は、イオン源12からのイオンをキャビティ11a内のビーム通過領域20に入射する。入射部130には、イオンをビーム通過領域20に入射するため必要な電力がビーム入射用貫通孔115を通って外部から供給される。なお、図2ではイオン源12の図示を省略している。
電磁石11の内部には、XY平面の面内方向においてリターンヨーク121に囲まれ、かつ、Z方向に互いに対向するように設けられた1対の磁極123が設けられる。各磁極123は、略円柱形状を有する。それらの磁極123の間にキャビティ11aが形成される。以下、各磁極123の互いに対向している面を磁極面123aと呼び、各磁極面123aから等距離にある面を軌道面と呼ぶ。
XY平面の面内方向におけるリターンヨーク121と磁極123との間には、磁極123の外周に沿って凹部123bが形成される。凹部123bには、円環状のコイル13が磁極123の外周側の壁に沿って設置される。電流がコイル13に流れることにより、1対の磁極123が磁化し、所定の強度分布を有する主磁場がキャビティ11a内のビーム通過領域20に励起される。
また、キャビティ11aには、外部から高周波電力入力用貫通孔114を通って、高周波加速空胴21が挿入されている。高周波加速空胴21は、λ/4型の共振モードによって、キャビティ11a内のイオンを加速してイオンビームを生成するための加速用高周波電場を加速ギャップ223(後述)に励起する加速電極である。
高周波加速空胴21は、キャビティ11a内に固定された略扇型のディー電極221を有する。ディー電極221は、ビーム通過領域20の一部を覆う一対の板状電極を、ビーム通過領域20を挟んでZ方向に対向するように配置したものである。ディー電極221(板状電極)は、入射部130の近傍の点を頂点とし、所定の広がり角を有する略扇型形状を有する。ディー電極221における円弧状の周縁部221aは、キャビティ11aの外周に沿う形状を有する。
ディー電極221の広がり角方向の両端部(直線状の端部)221bに対して対向するように、接地電極222が配置されている。ディー電極221と接地電極222との間の領域が上述した加速ギャップ223である。加速ギャップ223は、入射部130の近傍において最も狭く、ディー電極221の円弧状の周縁部221aに近づくほど広くなるように設計される。
また、高周波加速空胴21は、ディー電極221の円弧状の周縁部221aから高周波電力入力用貫通孔114を通って電磁石11の外部に引き出されている。高周波加速空胴21における電磁石11の外部の部分には、図1に示すように、加速用高周波電場を励起させるための高周波電力を入力するための入力カプラ211と、加速用高周波電場の周波数を変調するための変調部である回転式可変容量キャパシタ212とが取り付けられている。
回転式可変容量キャパシタ212は、回転軸213を有し、回転軸213の回転角に応じて静電容量が変化するキャパシタである。具体的には、回転軸213に導体板(不図示)が直接接続され、回転軸213の回転角に応じて、導体板と外部導体(不図示)との間に生じる静電容量が変化する。したがって、回転軸213が回転することで、回転式可変容量キャパシタ212の静電容量が時間的に変化することにより、高周波加速空胴21で励起される電磁場の共振周波数が変化し、高周波加速空胴21が励起する加速用高周波電場の周波数が変調する。
高周波加速空胴21が加速ギャップ223に加速用高周波電場を励起することにより、入射部130から入射したイオンが加速され、ビームとしてキャビティ11aの軌道面上を周回する。加速用高周波電場の周波数は、ビームの周回周波数と同期するように設定される。つまり、加速用高周波電場の周波数がビームの周回周波数の整数倍となるように、回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213の回転数が設定される。本実施例では、加速用高周波電場の周波数は、ビームの周回周波数の1倍である。
また、磁極123の磁極面123aには、主磁場の強度分布の微調整用に、互いに半径が異なる複数系統の環状のトリムコイル33が設けられている。各トリムコイル33は、Z方向から見て、中心が互いに異なる位置に配置される。具体的には、複数系統のトリムコイル33のうち最大径のトリムコイル33は、自身の中心が電磁石11の中心と一致にするように配置され、他のトリムコイル33は、半径が小さくなるにつれ、中心が入射部130に向かって近づくように配置される。
また、各トリムコイル33は、引き出し用貫通孔112または113を通って外部の電源(図示せず)と接続され、その電源から各トリムコイル33に励磁電流が供給される。各トリムコイル33の励磁電流は、主磁場の強度分布が所定の強度分布に近づくように、加速器1の運転前に予め個別に調整される。これにより、後述する安定なベータトロン振動を実現することができる。
以上説明した加速器1では、イオン源12で生成されたイオンは、入射部130から低エネルギーのビームの状態でビーム通過領域20に入射される。入射されたビームは、周回しながら加速ギャップ223を通過するたびに、高周波加速空胴21にて励起されている加速用高周波電場Eによって加速され、ビーム通過領域20内の設計軌道(周回軌道)上を周回する。なお、設計軌道は、ビームの運動エネルギーに応じて異なり、設計軌道の半径は、ビームの運動エネルギーが大きいほど、大きくなる。
また、図2および図3に示すように、加速器1には、キャビティ11a内で周回するビームを外部に取り出すために、付加磁場発生用シム311と、取り出しチャネル312と、擾乱用電極(擾乱部)313とを有する。付加磁場発生用シム311、取り出しチャネル312の入射部312aおよび擾乱用電極313は、磁極面123aの一部に、磁極面123aに対して電気的に絶縁された状態で設置される。付加磁場発生用シム311は、2か所に設置されている。
付加磁場発生用シム311および擾乱用電極313は、擾乱用高周波電場と多極磁場であるキック磁場とをビームに印加して、ビームを設計軌道の外側に変位させる分離部を構成する。
付加磁場発生用シム311は、キック磁場を励磁させ、そのキック磁場により、ビームを設計軌道の外側に外して、取り出しチャネル312の入射部312aに導入するキック部である。キック磁場は、例えば、四極磁場、六極磁場またはそれ以上の多極磁場である。キック磁場は、ビーム通過領域20内のビームが安定的に周回する安定領域(設計軌道)の外に出たビームに作用するように構成される。本実施例では、付加磁場発生用シム311は2つ(一対)あり、それぞれ逆極性の磁場を主磁場に対して重畳して励磁する。擾乱用電極313は、微小な振幅の高周波(RF)電場を擾乱用高周波電場として発生させてビームに印加することにより、周回中のビームの粒子(イオン)のベータトロン振動振幅を増大させ、ビームを、付加磁場発生用シム311にて励起されるキック磁場が作用する領域を通過させる。擾乱用高周波電場は、加速用高周波電圧とは周波数が異なる。
取り出しチャネル312は、付加磁場発生用シム311および擾乱用電極313によって安定領域の外側に出されたビームを加速器1の外部に取り出す取り出し部である。取り出しチャネル312は、主磁場を遮蔽する遮蔽空間322を形成し、遮蔽空間322内の取り出し軌道を通してビームを外部に取り出す。
以上の構成により、擾乱用電極313による擾乱用高周波電場をオンにすることで、ビーム通過領域20を周回しているビームを、取り出しチャネル312の遮蔽空間322に導くことができる。遮蔽空間322に到達したビームは、取り出し軌道を通過して、取り出しビーム用貫通孔111から加速器1の外部に取り出される。このように、擾乱用電極313による擾乱用高周波電場のオンおよびオフを切り替えることにより、それに同期してビームの取り出しのオン/オフ制御を行うことができる。
なお、加速器1では、軌道面において主磁場の面内成分が略0となるように、上下の磁極123、コイル13、トリムコイル33、付加磁場発生用シム311、取り出しチャネル312および擾乱用電極313の形状および配置が設計されており、これらは軌道面に対して面対称の配置を有する。また、磁極123、ディー電極221、コイル13、トリムコイル33および擾乱用電極313の形状は、図3に示すように、加速器1をZ方向から見たときに、高周波電力入力用貫通孔114の中心部と引き出し用貫通孔112の中心部を結ぶ線分に対して左右対称である。
<<加速器1内のビームの加速と取り出し>>
先ず、ビームの運動エネルギーについて説明する。
先ず、ビームの運動エネルギーについて説明する。
上述したようにビームは、ビーム通過領域20内の設計軌道上を周回し、加速ギャップ223を通過するたびに加速される。このため、ビームが加速ギャップ223を通過するたびに、ビームの運動エネルギーが増加する。
図4は、本実施例におけるビームの運動エネルギーと周回周波数との関係を示す図である。図4では、横軸はビームの運動エネルギー(E)を示し、縦軸はビームの周回周波数(F)を示す。図4に示すように、ビームの運動エネルギーが大きいほど、ビームの周回周波数は小さくなる。本実施例では、加速器1から取り出し可能なビームの運動エネルギーは、70MeV~235MeVであり、加速器1に入射された直後のビームの周回周波数は76MHz、最大の運動エネルギー235MeVに到達したビームの周回周波数は59MHzである。
次に、磁極123にて励起される主磁場について説明する。
磁極123にて励起される主磁場は、一定の運動エネルギーを有するビームの軌道(設計軌道)に沿って一様であり、かつ、運動エネルギーが高いビームの設計軌道ほど低くなるように励起される。つまり、主磁場は、ビームの軌道の半径方向の外方に向かって低下する強度分布を有する。
図5は、本実施例における運動エネルギーと主磁場の強度との関係を示す図である。図5に示すように、主磁場の強度は、入射部130の位置(運動エネルギーが略0)で最大の5Tであり、最外周(運動エネルギーが最大の235MeV)で、4.92T程度である。
上記のような主磁場の下では、設計軌道から半径方向にずれた粒子は、設計軌道に戻す向きに復元力を受け、軌道面に対して垂直方向にずれた粒子は、軌道面に戻す方向に復元力を受ける。このため、ビームの運動エネルギーに対して主磁場を適切に小さくしていれば、設計軌道から外れた粒子には設計軌道に戻す向きに復元力が働き、ビームは設計軌道の近傍を振動(ベータトロン振動)することになる。したがって、主磁場により、上述した安定なベータトロン振動を実現することができ、ビームを安定的に周回および加速させることが可能となる。
また、上記の強度分布を有する主磁場は、電磁石11のコイル13とそれを補助するトリムコイル33とに所定の励磁電流を流して磁極123を磁化させることで励起される。磁極123の磁極面123aの形状は、主磁場の強度を入射部130から外周に向かって小さくするために、上下の磁極123の磁極面123aの間の距離(つまり、キャビティ11aの高さ)が、入射部130の位置において最も小さく、外周に向かって大きくなるように定められる。また、磁極面123aの形状は、軌道面に対して面対称であり、主磁場は、軌道面上においては、軌道面に垂直な方向の成分のみを有する。このとき、トリムコイル33には、磁極123(コイル13)による主磁場が微調整され、所定の強度分布が形成されるように励磁電流が供給される。
図6は、ビームの設計軌道を示す図である。図6に示すように設計軌道600は、最も外側に、最大エネルギー252MeVを有するビームの軌道である半径0.497mの円軌道を有する。また、図6では、設計軌道600として、最も外側の円軌道とエネルギーが0Mevの軌道(点)との間を、ビームの磁気剛性率で51等分割した51本の円軌道が示されている。
加速器1では、ビームが加速されるたびにビームの軌道の中心が、軌道面内で一方向(図6のX=0におけるY方向)に移動する。このため、軌道面には、異なる運動エネルギーのビームの軌道が互いに近接している箇所(設計軌道が集約する領域:集約領域)と互いに遠隔している領域(設計軌道が離散する領域:離散領域)とが形成される。つまり、異なる運動エネルギーを有するビームの設計軌道は偏心している。
集約領域において、設計軌道同士が最も近接している設計軌道の各点(集約点)を結ぶ線分は、すべての設計軌道に対して直交する。また、離散領域において、設計軌道同士が最も遠隔している設計軌道の各点を結ぶ線分は、すべての設計軌道に直交する。これら二つの線分は、同一直線上(図6ではX=0におけるY方向に向いた線上)に存在する。この直線を対称軸と定義すると、設計軌道の形状は、対称軸を通り、軌道面に垂直な面に対して面対称となる。
また、図6では、各設計軌道600の同一の周回位相を結んだ等周回位相線601が集約領域から周回位相π/20ごとに示されている。ディー電極221とディー電極221に対向する接地電極222との間に形成される加速ギャップ223は、集約点から見て±90度周回した等周回位相線601に沿って設置される。
次に、高周波加速空胴21によるビームの加速について説明する。
高周波加速空胴21は、外部から供給される高周波電力によって、電磁場を励起して、ディー電極221と接地電極222の間の加速ギャップ223に加速用高周波電場を励起する。一般的にディー電極221が励起する電磁場は、ディー電極221の形状によって定まる特定の共振周波数および空間分布を有する。このような特定の共振周波数および空間分布を有する電磁場を固有モードと呼ぶ。固有モードには、複数種類あるが、そのうち、ビームを加速するために励起する固有モードを基本モードと呼ぶ。
図7は、高周波加速空胴21にて励起される基本モードの電磁場を示す図である。具体的には、図7では、高周波加速空胴21(ディー電極221)の外形と、高周波加速空胴21によって励起される加速用高周波電磁場E(太線矢印)、磁場B(点線矢印)および表面電流J(実線矢印)とが示されている。図7に示すように、基本モードでは、加速ギャップ223全体にわたってディー電極221から接地電極222に対して同じ向きの加速用高周波電場Eが生じる。
本実施例では、ビームの周回に同期して加速用高周波電場Eを励起させるために、加速用高周波電場Eの周波数が周回中のビームのエネルギーに応じて変調される。共振モードを用いた高周波加速空胴21では、共振の幅よりも広い範囲で高周波の周波数を掃引する必要がある。そのため、高周波加速空胴21の共振周波数もビームのエネルギーに応じて変更する必要がある。高周波加速空胴21の共振周波数の制御は、上述したように、高周波加速空胴21の端部に設置された回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213の回転角を制御することで行われる。つまり、ビームの加速に伴い回転軸213の回転角を変化させることで、高周波加速空胴21の共振周波数を変更することができる。
次に、加速器1におけるビームの入射から取り出しまでの挙動についてより詳細に説明する。
先ず、イオン源12から低エネルギーのイオンが出力され、そのイオンがビーム入射用貫通孔115および入射部130を介してビーム通過領域20にビームとして入射される。ビーム通過領域20に入射されたビームは、加速ギャップ223を通過するたびに加速用高周波電場Eによって加速される。これにより、ビームのエネルギーと設計軌道の半径とが増大していく。
図8は、加速ギャップ223を通過するビームの位相とビームの運動量の分散とを周回ごとに示す図である。図8では、横軸は、加速ギャップ223の通過時のビームの位相(φ)を示し、縦軸は、そのビームの運動量(p)の基準粒子の運動量に対する分散(Δp/p)を示す。なお、基準粒子は、ビームを構成する粒子(イオン)のうち、設計軌道を周回する粒子である。
上述したように加速ギャップ223に励起される加速用高周波電場の周波数は、ビームの周回周波数の整数倍に設定されている。本実施例では、加速用高周波電場が最大となる位相の時にビームが加速ギャップ223を通過するのではなく、加速用高周波電場が時間と共に減少している所定の位相の時にビームが加速ギャップ223を通過するように、加速用高周波電場が励起される。この場合、加速用高周波電場が所定の位相の時に加速ギャップ223を通過して加速されたビームの粒子は、次のターンでもほぼ同じ位相で加速ギャップ223を通過する。一方、加速用高周波電場が所定の位相よりも早い位相の時に加速ギャップ223を通過して加速された粒子は、加速用高周波電場が所定の位相の時に加速ギャップ223を通過して加速された粒子よりも、その加速量が大きいため、次のターンでは、前のターンよりも遅れた位相で加速ギャップ223を通過して加速される。また、加速用高周波電場が所定の位相より遅い位相の時に加速ギャップ223を通過し加速された粒子は、加速用高周波電場が所定の位相の時に加速ギャップ223を通過して加速された粒子よりも、その加速量が小さいため、次のターンでは、前のターンよりも進んだ位相で加速ギャップを通過して加速される。
したがって、所定の位相からずれたタイミングで加速ギャップ223を通過する粒子には、所定の位相で加速される方向に加速作用が働く。このため、ビームを構成する各粒子は、図8に示したビームの位相と運動量の分散とで規定される位相平面を安定的に振動する。この振動はシンクロトロン振動と呼ばれる。これにより、ビームを構成する個々の粒子は、シンクロトロン振動をしながら、図8に示した位相平面上の高周波バケツ710と呼ばれる安定領域内で周回し、所定の目標エネルギーに到達するまで徐々に加速される。
また、目標エネルギーを有するビームを加速器1から取り出すために、高周波加速空胴21に印加される高周波電力は、その振幅が時間と共に徐々に小さくされ、ビームが目標エネルギーに到達した時点で0となるように制御される。これにより、ビームは、一定の目標エネルギーを有したまま安定的に加速器1内を周回する。
この状態で、擾乱用電極313に対して、ビームのベータトロン振動の周波数に一致する高周波電圧が印加されると、ビームは、進行方向の位置に依存する擾乱、すなわち擾乱用電極313を通過する時刻に依存する擾乱を受ける。ビームを構成する粒子のうち、擾乱用電場の周波数とベータトロン振動の周波数とが一致する粒子では、それらの周波数が共鳴して、ベータトロン振動の振幅が増大する。粒子のベータトロン振動の振幅が増大し続けると、粒子は、設計軌道の外側に設置された付加磁場発生用シム311が励起するキック磁場が作用する領域を通過する。これにより、粒子がキック磁場の作用を受け、ベータトロン振動が急激に発散し、ビームは設計軌道の外側に変位する。その結果、ビームは、取り出しチャネル312に到達し、取り出しチャネル312による遮蔽空間を通り、取り出しビーム用貫通孔111から加速器1の外部に取り出される。
ビームが加速器1内で目標エネルギーに到達してから加速器1から取り出されるまでの間、ビームを構成する個々の粒子は、付加磁場発生用シム311が励起するキック磁場によって、ビームの水平方向の位置と水平方向に対する傾きとで規定される位相空間上において、設計軌道上を安定的に周回する安定領域を周回する粒子と、軌道ずれが増大し続ける不安定領域を周回する粒子とに分けられる。以下、安定領域と不安定領域との境界をセパラトリクスと称する。
別の表現で説明すると、加速器1では、セパラトリクスの内側に存在する粒子は、安定的にベータトロン振動を続けるが、セパラトリクスの外側に存在する粒子は、付加磁場発生用シム311が励起するキック磁場によるキック作用が周回ごとに蓄積し、設計軌道に対して水平方向に大きく変位する。水平方向に大きく変位した粒子は、取り出しチャネル312によって形成される遮蔽空間を通過して、加速器1の外部に取り出される。
また、擾乱用電極313に印加される電場がオフになると、ビームのベータトロン振動の振幅の増大が停止し、ビームは安定領域内で周回することとなるため、ビームの取り出しが停止される。
<<取り出しチャネル312の構成>>
図9は、取り出しチャネル312を左側(X方向の負の側)から見た正面図である。
図9は、取り出しチャネル312を左側(X方向の負の側)から見た正面図である。
図9に示すように取り出しチャネル312は、磁場遮蔽体3121と、冷却機構3122と、支持機構3123とを有する。
磁場遮蔽体3121は、超伝導体で形成される筒状の部材であり、内部に遮蔽空間322(図3参照)を形成する。本実施例では、磁場遮蔽体3121は円筒形状を有する。また、超伝導体として、ニオブチタンが用いられている。超伝導体は、一定温度以下で完全反磁性を示す物質であり、外部に磁場が存在する場合でも、内部の磁場を0に遮蔽することができる。また、超伝導体で囲まれた領域も理想的には磁場が0となる。
磁場遮蔽体3121の開口3121aは、上述した付加磁場発生用シム311が励起するキック磁場によって水平方向に大きく変位したビームが入射するように設けられる。開口3121aに入射したビームは、磁場遮蔽体3121で囲まれた遮蔽空間322を通過する。遮蔽空間322を通過するビームは、磁場遮蔽体3121を形成する超伝導体の作用によって磁場をほぼ受けないため、そのまま等速直線運動をして加速器1の外側に進む。
磁場遮蔽体3121は、超伝導体を有する超伝導線を円筒状に巻いた超伝導コイルでもよい。この場合、磁場遮蔽体3121に対して効率よく磁場を遮蔽するための渦電流を励起することが可能になる。超伝導線の巻き方は、例えば、略コサイン巻きなどである。
冷却機構3122は、一定温度(磁場遮蔽体3121が完全反磁性を示す温度)以下まで、磁場遮蔽体3121を冷却する。冷却機構3122は、本実施例では、磁場遮蔽体3121から加速器1の外部に設置された冷凍機(図示せず)に熱伝導により熱を運ぶ伝熱体3122aと、磁場遮蔽体3121を断熱する断熱材3122bとを含む。伝熱体3122aは、本実施例では、冷凍機と熱的に接続されたアルミニウムのシートであり、複数個所(図9の例では、4か所)で磁場遮蔽体3121と接触するように配置される。断熱材3122bは、磁場遮蔽体3121と伝熱体3122aを覆うように配置される。
支持機構3123は、磁場遮蔽体3121および冷却機構3122と取り出しビーム用貫通孔111の内壁とを物理的に接続し、磁場遮蔽体3121および冷却機構3122を電磁石11に対して固定的に保持する。
図10は、ビームの軌道と取り出しチャネル312との位置関係を示す図であり、取り出しチャネル312とその近傍を上面から見た図である。
図10に示されたように取り出しチャネル312は、設計軌道Tの外側に配置される。取り出しチャネル312における設計軌道T側の厚みThは、ビームが取り出しチャネル312の厚み部に衝突して損失することを低減するために、できるだけ薄い方が望ましい。また、取り出しチャネル312のビームが入射する側における冷却機構3122には、設計軌道T側に切り欠き部3122cが形成される。
<<加速器1の制御>>
図11は、加速器1の制御装置4を示すブロック図である。図11に示すように加速器1の制御装置4は、全体制御装置40と、サーボモータ41と、モータ制御装置42と、低レベル高周波発生装置43と、アンプ44と、高周波電源45と、擾乱高周波制御装置46と、電圧振幅計算装置47と、を有する。また、全体制御装置40および電圧振幅計算装置47は、治療計画データベース(DB:Database)50と接続される。
図11は、加速器1の制御装置4を示すブロック図である。図11に示すように加速器1の制御装置4は、全体制御装置40と、サーボモータ41と、モータ制御装置42と、低レベル高周波発生装置43と、アンプ44と、高周波電源45と、擾乱高周波制御装置46と、電圧振幅計算装置47と、を有する。また、全体制御装置40および電圧振幅計算装置47は、治療計画データベース(DB:Database)50と接続される。
サーボモータ41は、高周波加速空胴21の回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213を回転させる駆動部である。モータ制御装置42は、サーボモータ41の回転を制御する。低レベル高周波発生装置43は、高周波加速空胴21に供給する高周波電力を生成する。アンプ44は、低レベル高周波発生装置43にて生成された高周波電力を増幅して高周波加速空胴21の入力カプラ211(図11では不図示)に供給する。高周波電源45は、擾乱高周波電力を生成して擾乱用電極313に供給する。擾乱高周波制御装置46は、高周波電源45にて生成される擾乱高周波電力を制御する。
全体制御装置40は、モータ制御装置42、低レベル高周波発生装置43および擾乱高周波制御装置46を介して加速器1を制御する。治療計画データベース50は、加速器1を制御するための制御データである照射計画を格納する格納部である。照射計画は、例えば、ビームを照射する照射位置ごとに、その照射位置に照射するビームのエネルギーおよび線量を示す。電圧振幅計算装置47は、治療計画データベース50に格納された照射計画に基づいて、高周波加速空胴21に供給する高周波電力の振幅を算出する。
全体制御装置40および電圧振幅計算装置47は、CPU(Central Processing Unit)またはGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサと、メモリとを備えたコンピュータなどによって構成され、プロセッサがメモリに格納されたプログラムを読み込んで実行することにより、種々の処理を実行する。なお、全体制御装置40および電圧振幅計算装置47、その一部または全部をハードウエアによって実現されてもよい。例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)のようなカスタムICまたは、FPGA(Field-Programmable Gate Array)のようなプログラマブルICを用いて全体制御装置40および電圧振幅計算装置47の一部または全部が構成されてもよい。
図12は、加速器1のビームの取り出し処理を説明するためのタイミングチャートであり、図13は、加速器1のビームの取り出し処理を説明するためのフローチャートである。
図12には、複数のダイアグラムが示されており、それらのダイアグラムの縦軸は、上から順に、回転軸213の回転角(図12(a))、高周波加速空胴21の共振周波数(図12(b))、高周波加速空胴21に入力する高周波電力の入力周波数(図12(c))、加速用高周波電場の電圧振幅(図12(d))、イオン源12から入力される入力ビームの電流(図12(e))、擾乱用高周波電場の振幅(図12(f))、加速器1内のビームの水平エミッタンス(ビームサイズ)(図12(g))、加速器1から出力される取り出しビームの電流(図12(e))を示す。また、各ダイアグラムの横軸は、全て時間を示す。
先ず、ステップS111では、ユーザからビームの照射の開始が指示された場合、電圧振幅計算装置47は、治療計画データベース50から照射するビームのエネルギーを示す情報を読み込み、その情報に基づいて、高周波加速空胴21に供給する高周波電力の電圧の振幅である電圧振幅Eを算出する
ステップS112では、全体制御装置40は、治療計画データベース50から照射するビームのエネルギーを示す情報を読み込み、その情報に基づいて、高周波加速空胴21に高周波電力に供給する印加時間Tと、高周波電力の電圧振幅Eの低下を開始するタイミングである低下タイミングTdとを算出する。例えば、全体制御装置40は、ビームのエネルギーと印加時間Tとの関係を定めたテーブルまたは数式に基づいて、印加時間Tを算出し、ビームのエネルギーと低下タイミングTdとの関係を定めたテーブルまたは数式に基づいて、低下タイミングTdを算出する。なお、低下タイミングTdは、高周波電力によって加速ギャップ223に励起される加速用高周波電場が0になる時点で、ビームのエネルギーが目標エネルギーに到達すると予測されるタイミングである。
ステップS113では、全体制御装置40は、モータ制御装置42を介してサーボモータ41を駆動して、図12(a)に示すように、回転式可変容量キャパシタ212の回転軸213を所定の角速度で回転させる。これにより、図12(b)に示すように、高周波加速空胴21の基本モードの共振周波数f1が回転軸213の回転角に応じて変化する。なお、この時点では、高周波電力は高周波加速空胴21に入力されていない。
ステップS114では、全体制御装置40は、図12(e)に示すように、イオン源12を制御して、ビームを、加速器1の運転周囲の開始点から所定時間出力させる。これにより、加速器1の入射部130から加速器1の内部に、イオンビームが所定時間入射する。運転周期は、共振周波数f1が最大となる時刻から次に最大となる時刻までの期間である。
ステップS115では、全体制御装置40は、ステップS111で電圧振幅計算装置47が算出した電圧振幅Eを有し、かつ、共振周波数f1に同期した入力周波数f2(図12(c))の高周波電力を、低レベル高周波発生装置43およびアンプ44を介して高周波加速空胴21に入力する。これにより、加速器1における安定なシンクロトロン振動が可能な領域に入射した粒子が、加速ギャップ223を通過するたびに、加速用高周波電場により加速されながら加速器1の内部をビームとして周回し、目標エネルギー近くまで加速される。これに対して、安定なシンクロトロン振動が可能な領域に入射しなかった粒子は、加速器1の内部の構造物に衝突して消失する。
ステップS116では、全体制御装置40は、低下タイミングTdになると、低レベル高周波発生装置43に高周波電圧の供給を停止(低下)させる。これにより、高周波加速空胴21が発生する加速用高周波電場Eは、高周波加速空胴21の共振のQ値に応じて徐々に小さくなり、上述の高周波バケツ710が消失していく。
ステップS117では、全体制御装置40は、擾乱高周波電力を生成するように擾乱高周波制御装置46に指示する。これにより、擾乱高周波制御装置46は、高周波電源45を動作させ、擾乱用電極313に擾乱用高周波電力を出力する。擾乱用電極313は、擾乱用高周波電力によって擾乱用高周波電場を発生し、加速器1を周回しているビームは、擾乱用高周波電場により擾乱を受けて、図12(g)に示すように水平方向のエミッタンスが増大する。なお、擾乱用高周波電力の電力値は、擾乱高周波制御装置46によって制御される。また、擾乱用高周波電力の電力値の指定値は、例えば、取り出しビームのエネルギーと取り出しビームの出力電流から一意に定まる値として治療計画データベース50で予め定められ、全体制御装置40より指示される。
ステップS118では、全体制御装置40は、高周波電力を入力した時点から印加時間Tが経過するまで待機する。これにより、加速用高周波電場の電圧振幅がゼロになる。なお、加速用高周波電場Eの電圧振幅が十分小さくなった時点で、加速器1内のビームは目標エネルギーに到達している。このとき、ビームは、運動量分散Δpが最も小さくなる最適な電圧振幅Eに応じて加速しているため、ビームの運動量分散Δpは抑制されている。
また、ビームの水平エミッタンスは、擾乱高周波電場の作用により増大する。このため、ビームは、付加磁場発生用シム311が励起するキック磁場が作用する領域を通過し、取り出しチャネル312が形成する遮蔽空間322に到達し、その後、取り出し軌道を通過して、取り出しビーム用貫通孔111から加速器1の外部に取り出される。このとき、ビームの運動量分散Δpは抑制されているため、ビームが取り出しチャネル312の外壁などに衝突して失われるビーム量を小さくすることができ、高効率で加速器1からビームを取り出すことができる。
ステップS119では、全体制御装置40は、ビームを取り出す時間が治療計画データベース50により予め設定されたビーム取り出し時間を経過したか否かを判断する。
このとき、全体制御装置40は、擾乱用電極313に対する擾乱高周波電力の印加を継続する。その間、擾乱用電極313の擾乱用高周波電場により、加速器1からのビームの取り出しが継続される。この時、高周波加速空胴21に接続されたサーボモータ41の回転に応じて共振周波数f1が変動し続けるが、高周波加速空胴21には高周波電力が入力されていないため、ビームは一定のエネルギーで周回しながら、擾乱用高周波電場によって順次取り出されていく。なお、ビーム取り出し時間は、周回中の全電荷が加速器1からすべて取り出される時間、または、取り出したビームの量が照射計画で定められた所定の照射線量に到達する時間に設定されている。本実施例では、上述したようにビームを高効率で取り出すことができるため、ビーム取り出し時間を短くすることができる。
全体制御装置40は、ビーム取り出し時間が経過していない場合、ステップS119の処理に戻り、ビーム取り出し時間が経過した場合、ステップS120の処理に進む。
ステップS120では、全体制御装置40は、擾乱高周波制御装置46を介して、擾乱用電極313への擾乱高周波電力の印加を停止して、ビームの取り出しを終了する。このとき、図12(f)に示すように、ビームを運転周期よりも長い期間取り出すことも可能である。
ビームの取り出しが終了すると、ステップS111の処理が再度実行される。図12では、2回目の取り出し処理において、1回目前の取り出し処理よりも大きなエネルギーを有するエネルギーのビームを照射する例が示されている。この場合、2回目の加速用高周波電場の電圧振幅E1および印加時間T1は、1回目の加速用高周波電場の電圧振幅E2および印加時間T2が大きい。
以上説明したように本実施形態によれば、加速器1は、主磁場および加速用高周波電圧によって、イオンビームを当該イオンビームの設計軌道を偏心させながら加速する。付加磁場発生用シム311および擾乱用電極313は、イオンビームに対して擾乱用高周波電場と多極磁場とを印加することで、そのイオンビームを設計軌道の外側に変位させる。取り出しチャネル312は、周回軌道の外側に変位したイオンビームを外部に取り出す。取り出しチャネル312は、イオンビームが入射する開口3121aを有し超伝導体で形成された筒状の磁場遮蔽体3121と、磁場遮蔽体3121を一定温度以下まで冷却する冷却機構3122と、を有する。
したがって、イオンビームがイオンビームの設計軌道を偏心させながら加速されるため、取り出すビームのエネルギーが制御可能であり、かつ、小型化を図ることが可能になる。また、磁場遮蔽体3121を冷却する電力のみでビームの取り出しチャネル312を機能させることが可能になるため、消費電力の低減化を図ることが可能になる。また、取り出しチャネル312にセプタム電磁石を用いた場合と比較して、発熱量を低減することが可能になり、より長い期間における連続運転が可能となる。
また、本実施例では、冷却機構3122は、磁場遮蔽体3121の熱を外部に運ぶ伝熱体3122aと、磁場遮蔽体3121を覆う断熱材3122bとを有する。このため、磁場遮蔽体3121を効率良く冷却することが可能となる。
また、本実施例では、断熱材3122bは、磁場遮蔽体3121の開口3121a側における設計軌道側に切り欠き部3122cを有する。このため、ビームの粒子が断熱材3122bに衝突して消失することを低減することが可能となるため、ビームの取り出し効率を高くすることが可能になる。
また、本実施例では、磁場遮蔽体3121は、円筒形状であり、特には、超伝導体を有する超伝導線を筒状に巻いた超伝導コイルである。この場合、効率よく磁場を遮蔽することが可能となる。
なお、実施例1で説明した加速器1は単なる一例である。
例えば、取り出しチャネル312(磁場遮蔽体3121)の形状を円形の開口3121aを有する円筒形状としてが、開口3121aは、四角形またはそれ以上の多角形などでもよい。また、取り出しチャネル312の外形は、設計軌道と取り出しチャネル312との間の距離以内の厚みを有する形状であればよい。例えば、図14に示すように設計軌道側の磁場遮蔽体3121の厚みを薄して、ビームが磁場遮蔽体3121に衝突して消失することを軽減するために、開口3121aの中心軸C1が取り出しチャネル312の外形の中心軸C2よりも設計軌道側に位置するように、取り出しチャネル312が形成されてもよい。
また、取り出しチャネル312は、外部磁場を必要な精度まで低減できる構成であれば、遮蔽空間322を完全に覆う形状である必要はなく、例えば、Cの字型の形状のように、設計軌道側の磁場遮蔽体3121の壁を切り欠いた形状でもよい。この場合、取り出し軌道322上の磁場は完全には0にならないため、取り出すビームのエネルギーによって取り出されるビームの軌道がばらつく恐れがある。この場合、取り出しチャネルの下流側に補正電磁石を設置し、その補正電磁石の励磁量をエネルギーに応じて制御することで、取り出されるビームの軌道のばらつきを抑制することができる。
実施例1では、加速核種として水素イオンが用いられていたが、本実施例では、加速核種として炭素イオンが用いられる例を説明する。本実施例の加速器1は、炭素イオンのビームを核子当り運動エネルギー140MeV~430MeVの範囲での取り出しが可能な周波数変調型の可変エネルギー加速器である。
実施例1の加速器1と異なる点は、軌道半径と主磁場とビームの運動エネルギーとの関係、およb、周回周波数とビームの運動エネルギーと関係である。これらの関係は、実施例1の加速器1に対して、ビームの磁気剛性率の比に軌道半径と磁場の積を比例させることで決定することができる。
本実施例でも、第1の実施例と同様に、取り出しビームのエネルギーが制御可能であり、小型で消費電力の低減化を図ることが可能である。
本実施例では、実施例1また2に記載した加速器1を用いた粒子線治療装置について説明する。図15は、本実施例の粒子線治療装置である示す図である。
図15に示す粒子線治療装置1000は、治療台7に固定された患者8の患部(標的)に対して、患部の体表からの深さに応じたエネルギーを有するビームを照射する装置である。粒子線治療装置1000は、加速器1と、ビーム輸送系2と、照射装置3と、制御装置4と、照射制御装置5と、治療計画装置6とを有する。
ビーム輸送系2は、加速器1から取り出されたビームを照射装置3まで輸送する。照射装置3は、ビーム輸送系2にて輸送されたビームを治療台7に固定された患者8内の標的に照射する。照射制御装置5は、照射装置3を制御する。
治療計画装置6は、図11に示した治療計画データベース50を含む。治療計画装置6は、標的に対するビームの照射計画を生成して照射計画を治療計画データベース50に格納する。
粒子線治療装置1000では、標的に照射するビームのエネルギーおよび線量は、治療計画データベース50に記憶された照射計画にて定められている。制御装置4は、照射計画に基づいて加速器1を制御して所望の目標エネルギーを有するビームを取り出す。照射制御装置5は、加速器1から取り出されてビーム輸送系2にて輸送されたビームを照射装置3から標的に照射する。
なお、ビーム輸送系2は、図15に示すような固定されたものに限られず、回転ガントリと呼ばれる照射装置3と共に患者8の周りを回転可能とした輸送系でもよい。また、照射装置3は一つに限られず、複数あってもよい。また、ビーム輸送系2を設けずに、加速器1から照射装置3に対してビームを直接輸送する形態でもよい。
上述した本開示の各実施例は、本開示の説明のための例示であり、本開示の範囲をそれらの実施例にのみ限定する趣旨ではない。当業者は、本開示の範囲を逸脱することなしに、他の様々な態様で本開示を実施することができる。
1:加速器、2:ビーム輸送系、3:照射装置、4:制御装置、5:照射制御装置、6:治療計画装置、11:電磁石、11a:キャビティ、12:イオン源、13:コイル、20:ビーム通過領域、21:高周波加速空胴、22:ディー電極、33:トリムコイル、311:付加磁場発生用シム、312:取り出しチャネル、312a:入射部、313:擾乱用電極、322:取り出し軌道、1000:粒子線治療装置、3121:磁場遮蔽体、3121a:開口、3122:冷却機構、3122a:伝熱体、3122b:断熱材、3122c:切り欠き部、3123:支持機構
Claims (7)
- 主磁場および加速用高周波電圧によって、イオンビームを当該イオンビームの周回軌道を偏心させながら加速する加速器であって、
前記イオンビームに対して前記加速用高周波電圧とは周波数が異なる擾乱用高周波電場と多極磁場とを印加することで、当該イオンビームを前記周回軌道の外側に変位させる分離部と、
前記周回軌道の外側に変位したイオンビームを外部に取り出す取り出し部と、を有し、
前記取り出し部は、
前記イオンビームが入射する開口を有し、超伝導体で形成された筒状の磁場遮蔽体と、
前記磁場遮蔽体を一定温度以下まで冷却する冷却機構と、を有する、加速器。 - 前記冷却機構は、前記磁場遮蔽体の熱を外部に運ぶ伝熱体と、前記磁場遮蔽体を覆う断熱体とを有する、請求項1に記載の加速器。
- 前記断熱体は、前記開口側における前記周回軌道側に切り欠き部を有する、請求項2に記載の加速器。
- 前記磁場遮蔽体は、円筒形状である、請求項1に記載の加速器。
- 前記磁場遮蔽体は、超伝導体を有する超伝導線を筒状に巻いた超伝導コイルである、請求項1に記載の加速器。
- 前記開口の中心軸が前記取り出し部の中心軸よりも前記周回軌道側にある、請求項1に記載の加速器。
- 請求項1に記載の加速器と、
前記加速器から取り出されたビームを照射する照射装置と、を有する粒子線治療装置。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2024004238A1 (ja) * | 2022-07-01 | 2024-01-04 | 株式会社日立製作所 | 加速器及び粒子線治療装置 |
-
2020
- 2020-07-30 JP JP2020129515A patent/JP2022026175A/ja active Pending
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