JP7308657B2 - 原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒 - Google Patents

原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒 Download PDF

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Description

本発明は、原油タンカーの油槽や地上又は地下原油タンクなどの、原油を輸送又は貯蔵する原油油槽を構成する鋼板を溶接する上で好適な原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒に関する。
一般に、原油を輸送する原油タンカーの油槽や原油を貯蔵する地上又は地下原油タンク等、原油を輸送又は貯蔵する鋼製油槽には、強度や溶接性に優れた溶接構造用鋼が用いられている。
上述のような鋼製油槽において、原油中に含まれる水分の他、塩分や腐食性ガス成分等により、その油槽を構成する鋼板が腐食環境に晒される。特に、原油タンカーの油槽内面では、原油中の揮発成分や混入海水、油田塩水中の塩分、防爆のために油槽内に送られるイナートガス(船のエンジンの排気ガス)の他、昼夜の温度変動による結露等によって独特の腐食環境になるので、鋼板の腐食減肉が生じる。このような鋼板の腐食減肉により、所要の船体強度を維持することが困難になった場合には、腐食した部材を切除して新たな部材を溶接接合してこれを補強することが必要となり、多大なコストがかかる。
さらに、上述した腐食減肉に加えて、鋼製油槽内面の鋼表面に、大量の固体の硫黄分(以下、固体Sという。)が生成・析出する。このような固体Sは、腐食したデッキ裏の表面の鉄さびが触媒になり、気相中のSO2とH2Sが反応することによって生成されると考えられている。この際、鋼板の腐食による新しい鉄さびの生成と、固体Sの析出とが交互に生じるため、鉄さびと固体Sとの層状腐食生成物が析出する。層状腐食生成物は、固体Sからなる層は脆いので、固体Sと鉄さびとからなる生成物は原油油槽の鋼板表面から容易に剥離、脱落し、原油油槽底にスラッジ(腐食生成物)として堆積する。
このような背景から、原油油槽用の鋼板として優れた耐食性を有し、かつ、固体Sを含むスラッジの生成が少ない耐食鋼板が求められ、例えば、特許文献1~特許文献3には、原油油槽や原油油槽用鋼の溶接継手が開示されている。一方、原油油槽は一般的に溶接構造であるので、全面的に塗装やライニングを施さない限り、不可避的に溶接部も原油油槽環境に晒される。通常行われる、アーク溶接においては、溶接材料を溶解させて溶接金属を形成させるので、溶接金属の組成や組織は、鋼材とは異なるものとなることが一般的である。腐食環境中においては、化学組成や組織の大きく異なる金属が隣接している場合、相対的に電気化学的に卑な一方の金属が選択的に腐食され、異種金属腐食が生じ易い。このような選択腐食が生じると、局部的に大きな腐食が生じるようになる。
耐食性が特に向上されていない普通鋼を用いて、原油環境にさらされる溶接構造物を作製する場合は、溶接方法や溶接材料によらず、表面積が圧倒的に大きな鋼材の方が電気化学的に卑となるため、溶接継手が選択的に腐食される問題はそれほど大きくはない。しかしながら、耐食性に優れた鋼材を用いて溶接構造物を形成しようとすると、溶接方法や溶接材料によっては溶接金属の方が卑となり、溶接金属が選択的に腐食され、溶接継手全体として耐食性が損なわれる可能性が生じるという問題点があった。したがって、原油環境にさらされる溶接構造物の耐食性を良好とするためには、鋼材のみならず、溶接部の特性にも配慮する必要がある。
上記問題に対して、例えば特許文献4には、原油油槽用鋼材を溶接するガスシールドアーク溶接用フラックス入りワイヤが開示されている。特に原油タンカー等への全姿勢溶接においては多く用いられているが、補修溶接や狭あいな個所への溶接には溶接装置の移動や設置が難しく、溶接作業時の小回りが困難となる。また溶接時の防風対策が必要なことから、小さな補修箇所への溶接に対しても準備が大掛かりになるという問題点があった。このため溶接装置の準備が簡易で、溶接時の小回りが良く、ガスシールドアーク溶接より風に強い低水素系被覆アーク溶接棒の要望が強い。
一方、例えば、特許文献5には、耐食性に優れた被覆アーク溶接棒が開示されている。しかし、耐硫酸性、耐塩酸性に優れる性質のため、原油油槽鋼に用いた場合、溶接部と母材の間で耐食性に差異が生じ、耐食性に劣る方が選択的に腐食されるという問題点があった。
特開2010-43342号公報 特開2005-23421号公報 特開2005-21981号公報 特開2013-226577号公報 特開2004-90044号公報
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、溶接構造により形成される原油タンカーの油槽や地上又は地下原油タンクなどの、原油を輸送又は貯蔵する原油油槽の原油腐食環境下で、溶接部が原油油槽とほぼ同等の優れた耐食性を示すとともに、溶接作業性が良好で、溶接欠陥が無く、機械的性能に優れた溶接金属が得られる原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒を提供することを目的とする。
本発明の要旨は、鋼心線に被覆剤が被覆されている原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒において、前記被覆剤は、被覆剤全質量に対する質量%で、Si:3.5~8.0%、Mn:0.5~2.0%、Ti:0.3~1.5%、Cu:0.2~1.0%、Mo:0.05~0.50%及びW:0.05~0.50%の1種又は2種、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:45~55%、Ti酸化物のTiO2換算値の合計:2~8%、Si酸化物のSiO2換算値の合計:3~10%、Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~5.0%、金属弗化物の1種又は2種以上の合計:10~20%、有機物の1種又は2種以上の合計:0.3~1.5%、硫化鉄:0.05~0.09%、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:1~5%を含有し、残部は塗装剤、鉄粉中のFe分、鉄合金のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする。
また、被覆剤全質量に対する質量%で、Ni:0.05~1.0%を更に含有することも特徴とする。
さらに、被覆剤全質量に対する質量%で、Sn:0.01~0.30%、Sb:0.01~0.30%の1種又は2種を更に含有することも特徴とする原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒にある。
本発明の原油油槽用鋼の低水素系被覆アーク溶接棒によれば、溶接構造によって形成される原油タンカーの油槽や地上又は地下原油タンク等、原油を輸送又は貯蔵する鋼製油槽の原油腐食環境下及び該環境と腐食環境が類似の環境で使用される場合においても、優れた耐食性及び機械的性能を備えた溶接金属が得られ、さらに、溶接欠陥が無く、アーク吹き付け、アーク集中性及びアーク安定性が良好で、スパッタ発生量が少なく、棒焼けが発生せず、ビード形状、スラグ剥離性などの良好な溶接作業性が得られる。このため、溶接作業能率の向上及び溶接部の品質向上に大いに貢献できる。
本発明者らは、上記課題を解決するために、種々の低水素系被覆アーク溶接棒を作製し、詳細を検討した。
機械的性能及び耐食性に優れた溶接金属が得られ、アーク安定性に優れ、アーク集中性、アーク吹き付けが良好でスパッタ発生量が少なく、棒焼けが無く、ビード形状、スラグ剥離性などの良好な溶接作業性を有することは必須条件である。
まず、原油腐食環境での溶接金属の耐食性について、低水素系被覆アーク溶接棒の化学成分の影響を調査した。この結果、低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤成分として、Mo及びW、Cu、硫化鉄を適量添加することにより、当該環境での耐食性を向上させることを知見した。さらに、Ni、Sn、Sbを適量添加することで耐食性をより向上できることを知見した。
また、溶接作業性について、アーク集中性、アーク吹き付け、アーク安定性及びスパッタ発生量の低減はSi、Ti、Ti酸化物、Si酸化物、有機物、Na化合物及びK化合物を適量添加することで、耐棒焼け性は金属炭酸塩を適量添加することで、スラグ剥離性はSi酸化物を適量添加することで、ビード形状はTi酸化物,Al酸化物、金属弗化物を適量添加することで良好にできるとともに、金属炭酸塩の含有量の調整で溶接欠陥を防止できることも知見した。
また、溶接金属の機械的性能は、Mn、Tiを適量添加することで改善できることを知見した。
以下、本発明を適用した原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒の被覆剤中の成分組成と、その成分組成の限定理由について詳細に説明する。なお、各成分組成の含有量は、質量%で表すこととし、その質量%を表すときには単に%と記載することとする。
[Si:3.5~8.0%]
Siは、金属Si、Fe-Si、Fe-Si-Mn等から添加され、溶接金属の脱酸を目的として使用されるが、溶接作業性確保の面からも必要である。Siが3.5%未満では、脱酸不足で溶接金属中にブローホールが発生し易くなるとともに、アークが不安定となる。一方、Siが8.0%を超えると、溶接金属組織の粒界に低融点酸化物を析出させるので、溶接金属の靱性が低下する。したがって、Siは3.5~8.0%とする。
[Mn:0.5~2.0%]
Mnは、金属Mn、Fe-Mn、Fe-Si-Mn等から添加され、Siと同様に脱酸剤として添加する他、溶接金属の強度向上に有効である。Mnが0.5%未満では、その効果が十分に得られず、溶接金属の強度が低下する。一方、Mnが2.0%を超えると、溶接金属の強度が過剰に高くなり、靭性が低くなる。したがって、Mnは0.5~2.0%とする。
[Ti:0.3~1.5%]
Tiは、金属Ti、Fe-Ti等から添加され、脱酸剤として有効であるとともに、アークの電位傾度を低下させてアークを安定化させる効果を有する。また、溶接金属のミクロ組織を微細化して靭性を向上させる効果がある。Tiが0.3%未満では、アークが不安定となり、スパッタ発生量が増加する。また、アーク長が伸びて大気中の酸素を取り込み易くなるので、溶接金属中に酸素量が多くなるとともに、溶接金属のミクロ組織が微細化されず、溶接金属の靭性が低下する。一方、Tiが1.5%を超えると、溶接金属中のTi酸化物が増加し、溶接金属の靱性が低下する。したがって、Tiは0.3~1.5%とする。
[Cu:0.2~1.0%]
Cuは、金属Cu及びCu-Al等から添加され、溶接金属の耐食性の向上及び固体Sの析出を抑制させる効果を有し、0.05%以上のMo及び0.05%以上の硫化鉄と共に含有させる。Cuが0.2%未満では、溶接金属の耐食性の向上及び固体S析出の抑制効果が十分に得られない。一方、Cuが1.0%を超えると、溶接金属の耐食性向上及び固体S析出の抑制効果は飽和するとともに、溶接金属の靱性が低下する。したがって、Cuは0.2~1.0%とする。
[Mo:0.05~0.50%及びW:0.05~0.50%の1種又は2種]
Moは金属Mo、Fe-Mo等から、Wは金属W、WC等から添加され、溶接金属の耐食性向上及び固体Sの析出を抑制させる効果を有し、0.2%以上のCu及び0.05%以上の硫化鉄とともに含有させる。Moが0.05%未満及びWが0.05%未満の1種又は2種では、溶接金属の耐食性の向上及び固体S析出の抑制の効果が十分に得られない。一方、Moが0.50%超及びWが0.50%超の1種又は2種では、溶接金属の耐食性向上及び固体S析出の抑制効果は飽和するとともに、溶接金属の靭性が低下する。したがって、Moは0.05~0.50%及びWは0.05~0.50%の1種又は2種とする。
[金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:45~55%]
金属炭酸塩は、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸マンガン、炭酸リチウム等から添加され、アーク中で分解してCO2ガスを発生する際の吸熱効果によって棒焼けを防止するとともに、溶着金属を大気から遮蔽して保護する効果を有する。金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が45%未満であると、シールド効果が不足して溶接金属中にブローホールが発生し易くなるとともに、棒焼けが発生し易くなる。一方、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が55%を超えると、アークが不安定で凸ビードとなるとともに、スラグ剥離性も不良となる。したがって、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計は45~55%とする。
[Ti酸化物のTiO2換算値の合計:2~8%]
Ti酸化物は、ルチール、酸化チタン、チタン酸ソーダ、チタンスラグ等から添加され、スラグ生成剤及びアーク安定剤として作用し、アーク安定性及びビード形状を改善する効果を有する。Ti酸化物のTiO2換算値の合計が2%未満であると、アークが不安定になるとともに、スパッタ発生量が増加する。また、スラグ流動性が悪くなってビード形状が不良となる。一方、Ti酸化物のTiO2換算値の合計が8%を超えると、溶接時に溶融スラグの粘性が高くなってスラグ流動性が悪くなり、ビード形状が凸状となる。また、溶込みが浅くなって溶接部に融合不良が生じ易くなる。したがって、Ti酸化物のTiO2換算値の合計は2~8%とする。
[Si酸化物のSiO2換算値の合計:3~10%]
Si酸化物は、珪砂、長石、水ガラス等から添加され、スラグ生成剤及びアーク安定剤として作用し、アーク安定性及びスラグ剥離性を改善する効果を有する。Si酸化物のSiO2換算値の合計が3%未満であると、アークが弱く不安定になるとともに、生成したスラグのガラス質が少なくなってスラグ剥離性が不良になる。一方、Si酸化物のSiO2換算値の合計が10%を超えると、スラグの粘性が高くなってビード形状が不良となる。したがって、Si酸化物のSiO2換算値の合計は3~10%とする。
[Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~5.0%]
Al酸化物は、アルミナ等から添加され、スラグ生成剤として作用し、溶融スラグの粘性を高める効果を有する。Al酸化物のAl23換算値の合計が0.5%未満であると、スラグの粘性が不足し、ビード形状が不良となる。一方、Al酸化物のAl23換算値の合計が5.0%を超えると、溶接時に溶融スラグの粘性が高くなってスラグ流動性が悪くなるので、ビードの形状が凸状となるとともに、溶込みが浅くなって溶接部に融合不良が生じ易くなる。したがって、Al酸化物のAl23換算値の合計は0.5~5.0%とする。
[金属弗化物の1種又は2種以上の合計:10~20%]
金属弗化物は、蛍石、弗化バリウム、弗化マグネシウム、弗化アルミニウム等から添加され、溶融スラグの粘性を下げてスラグ流動性を良好にしてビード形状を改善する効果を有する。金属弗化物の1種又は2種以上の合計が10%未満であると、適正な溶融スラグの粘性が得られずビード形状が不良となる。一方、金属弗化物の1種又は2種以上の合計が20%を超えると、スラグ剥離性が不良になる。したがって、金属弗化物の1種又は2種以上の合計は10~20%とする。
[有機物の1種又は2種以上の合計:0.3~1.5%]
有機物は、アルギン酸ソーダ、小麦粉等から添加され、溶接棒製造時の被覆剤の密着性を改善し、被覆剤表面を均一で滑らかに仕上げることができるので、溶接時のアークの集中性を高める効果を有する。有機物の1種又は2種以上の合計が0.3%未満であると、溶接棒製造時に被覆剤表面に割れや被覆剤の脱落が生じ易くなるので、アークの集中性が悪くなる。一方、有機物の1種又は2種以上の合計が1.5%を超えると、棒焼けが発生し易くなる。したがって、被覆剤中の有機物の1種又は2種以上の合計は0.3~1.5%とする。
[硫化鉄:0.05~0.09%]
硫化鉄は、含有されるSが溶接金属内に歩留まることで溶接金属の耐食性を向上させる効果を有し、0.2%以上のCu及び0.05%以上のMoとともに含有させる。硫化鉄が0.05%未満では、溶接金属の耐食性向上の効果が十分に得られない。一方、硫化鉄が0.09%を超えると、溶接金属の耐食性向上の効果は飽和するとともに、スラグの流動性が悪くなってビード形状が不良となる。したがって、硫化鉄は0.05~0.09%とする。
[Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:1~5%]
Na化合物及びK化合物は、水ガラス中の珪酸ソーダ、珪酸カリウム、長石等から添加され、アーク安定剤として作用してアークを安定化する効果を有する。Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が1%未満であると、アークが不安定になり、スパッタ発生量が増加する。また、溶接棒製造時に被覆剤表面に割れや被覆剤の脱落が生じやすくなるので、アークの集中性が低下する。一方、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が5%を超えると、アーク吹き付けが過剰に強くなり、ビード形状が不良になる。したがって、被覆剤中のNa化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計は1~5%とする。
[Ni:0.05~1.0%]
Niは、金属NiやFe-Niから添加され、前記Mo、W、Cu及び硫化鉄との共存において溶接金属の耐食性の向上及び固体Sの析出を抑制する効果を有する。Niが0.05%未満では、溶接金属の耐食性の向上効果が十分に得られない。一方、Niが1.0%を超えると、溶接金属中に高温割れが発生し易くなる。したがって、Niは0.05~1.0%とする。
[Sn:0.01~0.30%及びSb:0.01~0.30%の1種又は2種]
Snは金属Snから、Sbは金属Sb、Fe-Sb、アンチモン化マンガン及びFe-Si-Sbから添加され、前記Mo、Cu及び硫化鉄との共存において溶接金属の耐食性の向上及び固体Sの析出を抑制する効果を有する。Snが0.01%未満及びSbが0.01%未満の1種又は2種では、溶接金属の耐食性の向上効果が十分に得られない。一方、Snが0.30超又はSbが0.30%超の1種又は2種では、溶接金属中に高温割れが発生し易くなる。したがって、Snは0.01~0.30%及びSbは0.01~0.30%の1種又は2種とする。なお、Snの上限を0.10%、Sbの上限を0.10%とすることが好ましい。
なお、本発明を適用した原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒の残部は、塗装剤として、ヘクトライト、マイカ等の1種以上及び鉄粉中のFe分、鉄合金のFe分及び不可避不純物である。
また、使用する鋼心線は、JIS G3523 SWY11を用いることが好ましい。さらに、被覆剤の鋼心線への被覆率は、溶接棒全質量に対する被覆剤の質量%で25~40%であることが好ましい。
本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
表1に示す直径4.0mm、長さ400mmの鋼心線に、表2に示す被覆剤を被覆率25~35%で塗装後、乾燥した各種低水素系被覆アーク溶接棒を試作した。
Figure 0007308657000001
Figure 0007308657000002
これら試作溶接棒を使用し、溶接作業性、溶接欠陥、溶接金属の機械的性能及び耐食性について調査した。
溶接作業性の評価は、板厚12mm、幅100mm、長さ450mmの軟鋼板をT字に組んだ試験体を用い、交流溶接機を使用し、水平すみ肉では溶接電流160~180A、立向姿勢では120~140Aを使用して溶接を行い、アーク吹き付け、アーク集中性、アーク安定性、スラグ剥離性、ビード形状、スパッタ発生量、棒焼けの有無、高温割れの有無を目視で調査した。なお、棒焼けの有無は、200Aで水平すみ肉溶接を行った際、鋼心線が発熱して棒焼けしないものを良好とし、高温割れは、溶接後の溶接ビードのクレータ割れの有無を調査した。
溶接金属の機械的性能の評価は、JIS Z3111に準じて溶着金属試験を行い、溶接欠陥の有無をX線透過試験で調査した後、腐食試験、引張試験、衝撃試験を行った。
引張試験の評価は、引張強さが490~590MPaを良好とした。また、靭性の評価は、試験温度-30℃で繰り返し3回シャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギーの平均値が55J以上を良好とした。
溶接金属の耐食性の評価は、原油油槽環境を模擬した環境での腐食試験を行った。溶着金属試験の鋼材表面1mmの位置から溶接線方向に、長さ80mm、幅30mm、厚さ4mmの試験片を、表面が全て溶接部になるように採取した。次いで、試験片全面を機械研削し、600番の湿式研磨処理の後、80mm×30mmの表面の一面のみを残して端面、裏面を塗料で被覆した。そして、この試験片を、pHが0.2で、20mass%NaClを溶解した1体積%HCl水溶液からなる腐食液中に浸漬した。この際の浸漬条件としては、液温30℃、浸漬時間720時間で実施し、最大腐食深さを測定し、腐食速度に換算(mm/年)して評価し、試験片の最大腐食速度が0.25mm/年以下となるものを良好とした。なお、上述した腐食液の組成は、実際の鋼構造物で局部腐食が発生する際の環境の条件を模擬したものであり、この腐食試験での腐食速度の低減に応じて、実環境で局部腐食の進展速度が低減される。
Figure 0007308657000003
表2及び表3中、溶接棒No.1~No.15が本発明例、溶接棒No.16~No.32は比較例である。
本発明例である溶接棒No.1~No.15は、被覆剤中のSi、Mn、Ti、Cu、Mo及びWの1種又は2種、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計、Ti酸化物のTiO2換算値の合計、Si酸化物のSiO2換算値の合計、Al酸化物のAl23換算値の合計、金属弗化物の1種又は2種以上の合計、有機物の1種又は2種以上の合計、硫化鉄、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が適正であるので、アーク吹き付けが適正で、アーク集中性及びアーク安定性が良好で、スパッタ発生量が少なく、スラグ剥離性に優れ、ビード形状が良好で、棒焼けも発生せず、良好な溶接作業性が得られた。また、溶接欠陥が無く、溶着金属の引張強さ及び吸収エネルギーも良好な結果であった。さらに、最大腐食速度も少なく極めて満足な結果であった。また、溶接棒No.3、6、8、11、15はSn及びSbの1種又は2種が適量添加され、溶接棒No.2、8、13、15はNiが適量添加されているので、溶接金属の最大腐食速度が0.20mm/年未満と非常に低かった。
比較例中溶接棒No.16は、Siが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が多いので、ビード形状が凸状であった。また、融合不良が生じた。
溶接棒No.17は、Siが少ないので、アークが不安定であった。また、溶着金属中にブローホールが発生した。さらに、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が多いので、アーク吹き付けが過剰に強く、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.18は、Mnが多いので、溶着金属の引張強さが高く、吸収エネルギーが低かった。また、金属弗化物の1種又は2種以上の合計が多いので、スラグ剥離性が不良であった。
溶接棒No.19は、Mnが少ないので、溶着金属の引張強さが低かった。また、金属弗化物の1種又は2種以上の合計が少ないので、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.20は、Tiが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.21は、Tiが少ないので、アークが不安定で、スパッタ発生量が多かった。また、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。
溶接棒No.22は、Cuが多いので、溶着金属の吸収エネルギーが低かった。また、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が多いので、アークが不安定で、ビード形状が凸状となり、スラグ剥離性も不良であった。
溶接棒No.23は、Cuが少ないので、溶着金属の最大腐食速度が高かった。また、SnとSbの1種又は2種の合計が少なかったので、耐食性の向上効果が得られなかった。さらに、有機物の1種又は2種以上の合計が少ないので、アーク集中性が不良であった。
溶接棒No.24は、Mo及びWの1種又は2種が多いので、溶接金属の吸収エネルギーが低かった。また、Si酸化物のSiO2換算値の合計が多いので、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.25は、Mo及びWの1種又は2種が少ないので、溶着金属の最大腐食速度が高かった。また、金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計が少ないので、溶接金属中にブローホールが発生し、棒焼けが発生した。
溶接棒No.26は、硫化鉄が多いので、ビード形状が不良であった。
溶接棒No.27は、Si酸化物のSiO2換算値の合計が少ないので、アークが不安定で、スラグ剥離性が不良であった。また、硫化鉄が少ないので、溶着金属の最大腐食速度が高かった。
溶接棒No.28は、Ti酸化物のTiO2換算値が多いので、ビード形状が凸状であった。また、融合不良が生じた。
溶接棒No.29は、Ti酸化物のTiO2換算値が少ないので、アークが不安定で、スパッタ発生量が多かった。また、ビード形状が不良であった。さらに、有機物の1種又は2種以上の合計が多いので、棒焼けが発生した。
溶接棒No.30は、Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計が少ないので、アークの集中性が不良で、アークが不安定でスパッタ発生量が多かった。また、Sn及びSbの1種又は2種が多いので、クレータ割れが発生した。
溶接棒No.31は、Mo及びWの1種又は2種が少ないので、溶着金属の最大腐食速度が高かった。また、Niが少ないので、耐食性の向上効果が得られなかった。
溶接棒No.32は、Al酸化物のAl23換算値の合計が少ないので、ビード形状が不良であった。また、Niが多いので、クレータ割れが発生した。

Claims (3)

  1. 鋼心線に被覆剤が塗装されている原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒において、
    前記被覆剤は、被覆剤全質量に対する質量%で、
    Si:3.5~8.0%、
    Mn:0.5~2.0%、
    Ti:0.3~1.5%、
    Cu:0.2~1.0%、
    Mo:0.05~0.50%及びW:0.05~0.50%の1種又は2種、
    金属炭酸塩の1種又は2種以上の合計:45~55%、
    Ti酸化物のTiO2換算値の合計:2~8%、
    Si酸化物のSiO2換算値の合計:3~10%、
    Al酸化物のAl23換算値の合計:0.5~5.0%、
    金属弗化物の1種又は2種以上の合計:10~20%、
    有機物の1種又は2種以上の合計:0.3~1.5%、
    硫化鉄:0.05~0.09%、
    Na化合物及びK化合物のNa2O換算値及びK2O換算値の合計:1~5%を含有し、
    残部は塗装剤、鉄粉中のFe分、鉄合金のFe分及び不可避不純物からなることを特徴とする原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒。
  2. 被覆剤全質量に対する質量%で、Ni:0.05~1.0%を更に含有することを特徴とする請求項1に記載の原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒。
  3. 被覆剤全質量に対する質量%で、Sn:0.01~0.30%、Sb:0.01~0.30%の1種又は2種を更に含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の原油油槽鋼の低水素系被覆アーク溶接棒。
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