JP7307313B2 - α+β型チタン合金棒材及びその製造方法 - Google Patents

α+β型チタン合金棒材及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、α+β型チタン合金棒材及びその製造方法に関する。
チタン合金は軽量高強度の材料として、航空機、自動車、ゴルフクラブ等の民生品などの分野で使用されている。チタン合金の中で汎用的に使われる合金は、主としてα相とβ相から構成され、Ti-6Al-4V、Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo、Ti-5Al-1Fe合金などが知られている。
稠密六方晶構造からなるチタンのα相は、高い応力が加わると室温などの低温においてもクリープ変形しやすく、α相を含むチタン合金においても室温でクリープ変形を生じることが知られている。さらに、α相を含むチタン合金におけるクリープ変形しやすい特性は、台形波型の負荷サイクルに代表される高負荷状態が一定時間継続する疲労(Dwell疲労)において、寿命低下を招くことが知られている。(非特許文献1~3)
Dwell疲労では、高負荷状態が継続することがない三角波あるいは正弦波の負荷サイクルの場合と比較して、少ないサイクル数で破断に至るため、特に、航空機のジェットエンジン部品として使用される場合に問題になることがある。
特許文献1(特開2016-199796号公報)では、優れた疲労特性を有するチタン合金棒材およびその製造方法が開示されている。特許文献1では、初析α粒のうち、稠密六方構造のc軸方向とチタン合金棒材の長さ方向とのなす角度(c軸の傾き)が25°以上55°以下で、かつ円相当直径が20μm以上である初析α粒の金属組織中の面積率が2.0%以下であることが述べられている。これは特許文献1の段落0020に記載の、「稠密六方晶の底面すべりは、結晶方位(図2においては符号「θ」で示す。)が45°に近いほど生じやすく、結晶方位が25°以上55°以下であると活発になる。また、金属組織に含まれる等軸状の初析α粒の大きさが大きいほど、試験片に付与される応力が集中しやすく、円相当直径が20μm以上であると応力の集中が顕著となる。したがって、c軸の傾きが25°以上55°以下で、かつ円相当直径が20μm以上の初析α粒は、稠密六方晶の底面すべりが生じやすく、しかも応力が集中しやすいため、疲労寿命が短くなったと考えられる。」との技術思想に基づくものであり、通常の疲労破壊の機構として妥当なものである。
一方、非特許文献1~3に説明されているように、Dwell疲労では、異なる破壊機構が知られている。これらの文献によると、応力方向に対するc軸の傾きが45°付近のα粒(S)と、傾きが0°付近のα粒(H)が隣接する場合、H粒に応力が集中して応力軸に垂直なファセット状破面が生じるとされる。また、このファセットは稠密六方晶の底面とほぼ平行であることが、別の研究により知られている。
特許文献1には、Dwell疲労について何の言及もされていない。
特許文献2(特表2009-531546号公報)には、Dwell疲労に対する抵抗力を改善する技術が開示されている。ここでは、TA6Zr4DE(Ti-6Al-2Sn-4Zr-2Mo)合金において、β変態点-20~-15℃の温度で4~8時間の熱処理を施すことで、破断寿命が5500回から10000回に向上した。しかし、熱処理以前の工程はβ域におけるスタンピングのみであり、それ以前の加工熱処理工程は不明確であり、充分に微細なミクロ組織を形成することができず、Dwell疲労寿命の異方性に関する効果は不確実である。
特許文献3(特開2012-224935号公報)には、α相のc軸の特定方向に対する集積度が規定されたチタン合金ビレットが開示されている。しかし、疲労破壊の起点となるα相の粒径については言及されておらず、単に集積度を高めただけで疲労特性が改善されるものではない。
特許文献4(特開2014-65967号公報)には、α相のc軸の特定方向に対する集積度が規定されたチタン合金ビレットが開示されている。しかし、同特許文献は、疲労強度の向上を意図したものではないためその効果は得られず、また、c軸の集積方向は、本発明の形態とは異なっている。
また、Dwell疲労は、コンプレッサーディスクに用いられる際に、特に問題になるとされている。コンプレッサーディスクは基本的に円盤状であり、円柱状の素材を円柱軸方向に圧縮することで製造される。円柱状の素材を円柱軸方向に圧縮する過程で生じるα相のc軸の集積方向の変化に関する詳細な知見は少ない。
また、従来知見において、円柱軸方向に対して垂直な面内におけるDwell疲労特性の異方性に関して検討した公開技術は知られていない。
特開2016-199796号公報 特表2009-531546号公報 特開2012-224935号公報 特開2014-65967号公報
M.R.Bache, "A review of dwell sensitive fatigue in titanium alloys:the role of microstructure,texture and operating conditions",International Journal of Fatigue 25 (2003) 1079-1087 V.Sinha,M.J.Mills,J.C.Williams, "Determination of crystallographic orientation of dwell-fatigue fracture facets in Ti-6242 alloy",J Mater Sci (2007) 42:8334-8341 Adam L.Pilchak,"Progress in Understanding the Fatigue Behavior of Ti Alloys",Materials Science Forum Vol.710,pp85-92
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、Dwell疲労特性の良好なα+β型チタン合金棒材及びその製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を解決する手段は下記の通りである。なお、本発明において良好なDwell疲労特性とは、棒材の長軸方向に垂直な面内で、直径方向と直径方向に垂直な方向すなわち周方向の2方向に応力を負荷した際のDwell疲労寿命の差が小さいことを意味する。
[1] 5.50~6.75質量%のAlを含有するα+β型チタン合金棒材であって、
α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、前記α+β型チタン合金棒材の長軸方向の直交断面内の棒材の径方向とのなす角度ω1が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であり、
α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、前記α+β型チタン合金棒材の長軸方向の直交断面内の棒材の周方向とのなす角度ω2が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であり、
前記直交断面において、棒材の径方向とα結晶粒の(0001)面の法線のなす角度ω1が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%以上15%以下であり、
前記直交断面において、棒材の周方向とα結晶粒の(0001)面の法線のなす角度ω2が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%以上15%以下であり、
前記直交断面において、前記(0001)面の法線方向と、前記長軸方向とのなす角度θが65°以上90°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率が35%以上60%以下であることを特徴とする、α+β型チタン合金棒材。
[2] 化学成分が、Al:5.50~6.75質量%、V:3.5~4.5質量%、Fe:0.05~0.40質量%、O:0.05~0.25質量%を含有し、残部がTiおよび不純物からなる[1]に記載のα+β型チタン合金棒材。
[3] 化学成分が、Al:5.50~6.50質量%、Sn:1.75~2.25質量%、Zr:3.5~4.5質量%、Mo:1.8~2.2質量%、Fe:0.02~0.25質量%、O:0.02~0.15質量%を含有し、残部がTiおよび不純物からなる[1]に記載のα+β型チタン合金棒材。
[4] 鋳塊を熱間加工して得られた、5.50~6.75質量%のAlを含有するチタン合金ビレットをβ単相域の温度に加熱した後に急冷する第1の工程と、
前記チタン合金ビレットをα+β二相域の温度に加熱し、前記チタン合金ビレットの長軸方向と交差する方向から鍛造した後に冷却する第2の工程と、
前記チタン合金ビレットを、α+β二相域の温度であって前記第2の工程の加熱温度以下の温度に加熱し、前記チタン合金ビレットの長軸方向と交差する方向から鍛造する処理を1回以上行い、少なくとも最後に300℃以下まで冷却する処理を行う第3の工程と、をこの順で行う際に、
前記第2の工程において、前記チタン合金ビレットの長軸方向の直交断面において前記直交断面の重心を通る最大幅をW1とし、前記直交断面の重心を通る最小幅をW2としたとき、鍛造後のW1/W2が1.3以下になるように、かつ、鍛造前の前記チタン合金ビレットの幅Winiと鍛造後の幅Wafterとの比ΔW(ΔW=Wafter/Wini)が1.05以下になるように前記長軸方向に沿って前記チタン合金ビレットを鍛造する第1鍛造工程を少なくとも2回以上行い、また、前記第1鍛造工程は前記チタン合金ビレットを長軸周りに回転させて前記チタン合金ビレットに対する圧下方向を各回毎に変更させることとし、
前記第3の工程において、鍛造後のW1/W2が1.5以下になるように、前記長軸方向に沿って前記チタンビレットを鍛造する第2鍛造工程を少なくとも2回以上行い、また、前記第2鍛造工程は前記チタン合金ビレットを長軸周りに回転させて前記チタン合金ビレットに対する圧下方向を各回毎に変更させることとし、
前記第2の工程における鍛錬比を1.6以下とし、前記第3の工程の鍛錬比を2.0以上とする、
ことを特徴とする[1]~[3]のいずれか一項に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
[5] 前記第1の工程が、前記チタン合金ビレットをβ単相域の温度に加熱した後に、加工してから急冷する工程である、[4]に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
[6] 前記第3の工程後に、α+β二相域の温度に前記チタン合金ビレットを加熱し、W1/W2≦1.5、鍛錬比3.0未満を満たすように、前記チタン合金ビレットの長軸方向に圧縮鍛造加工する第4の工程を行う、[4]または[5]に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
本発明によれば、Dwell疲労特性の良好なα+β型チタン合金棒材及びその製造方法を提供できる。
本実施形態のチタン合金棒材における結晶構造を説明する図であって、チタン合金棒材の長軸方向と直交する断面内における、α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と径方向および周方向との方位差を説明する図。 本実施形態のチタン合金棒材における結晶構造を説明する図であって、チタン合金棒材の長軸方向と、α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向との方位差を説明する図。 本実施形態のチタン合金棒材の製造方法を説明する模式図であって、チタン合金ビレットと金敷との位置関係図を説明する図。 本実施形態のチタン合金棒材の製造方法を説明する模式図であって、チタン合金ビレットの断面形状を説明する図。
チタン合金の引張特性には、集合組織によって異方性があることが知られている。応力方向に(0001)面の法線方向が集積した場合は0.2%耐力や引張強度が高くなるが、応力方向に(10-10)面の法線方向が集積した場合は0.2%耐力や引張強度が低くなる。通常の三角波あるいは正弦波による疲労特性も同様である。例えば、疲労寿命を横軸に、最大応力(σMAX)を0.2%耐力(σ0.2)で規格化した”σMAX/σ0.2”を縦軸にとってグラフ化(規格化されたS-N線図)した場合、集合組織によらずほぼ同一の線上に表される。
なお、「(10-10)面」と表記する場合の「-1」は、「1」の上に線を引いたことを意味する。
しかし、Dwell疲労特性は、規格化されたS-N線図で表される挙動が異なっていることがわかった。すなわち、稠密六方晶の底面(以下、(0001)面という場合がある)の法線方向が応力軸に平行に集積した集合組織の場合、異なる方位に集積した集合組織と比較して寿命が大幅に低下する。また、チタン合金棒材の長軸方向に直交する断面内において、応力軸の方向を変えると、稠密六方晶の(0001)面の配向する比率が変化するため、Dwell疲労寿命が大きく変化する。
航空機エンジン部品の素材として使用されるチタン合金棒材においては、長軸方向に直交する断面内において、Dwell疲労寿命の差が小さいことが好ましい。
Dwell疲労寿命の異方性は以下の機構によるものと考えられる。Dwell疲労では、ひずみ蓄積によりき裂発生が促進され、また、稠密六方晶の(0001)面にほぼ平行なファセット破面の形成によりき裂進展が促進されることから、寿命低下に至る。Dwell疲労寿命は、応力軸方向に対して特定の結晶方位を有する粗大なα相の面積率が大きいほどき裂発生およびき裂進展が促進され、低下する。
また、通常の疲労においてき裂発生の起点となりやすい特定方位を有する粗大なα結晶粒は、Dwell疲労においてもき裂発生の起点になりやすい。そのため、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、応力軸方向とのなす角度が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が小さいことが好ましい。
また、横断面内のDwell疲労特性の異方性を低下させるためには、横断面内の任意の方向に対して稠密六方晶の底面が配向する比率に変動が小さい方が有利である。ここで、横断面内の任意の方向に対する稠密六方晶の底面の配向について、横断面内の径方向および周方向の稠密六方晶の底面の配向で代表できる。そこで、稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の長軸方向の直交断面の面内における径方向とのなす角度が25°以内であり、かつ、稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の長軸方向の直交断面の面内における周方向とのなす角度が25°以内であるα結晶粒の面積率が、特定の範囲にあることが好ましい。なお、直交断面の面内における径方向と周方向とは直交する。
また、コンプレッサーディスクを製造する際に、円柱状の素材(チタン合金棒材)の長軸方向の直交断面において、α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、円柱状の素材(チタン合金棒材)の長軸方向とのなす角度θが65°以上90°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率が35%以上である場合、円柱状の素材(チタン合金棒材)を円柱軸方向に圧縮加工する過程において、円柱軸に対し垂直な面内においてα相の結晶方位変化が小さいことがわかった。
したがって、Dwell疲労特性の異方性が小さいコンプレッサーディスクを製造するためには、円柱状の素材(チタン合金棒材)の段階で、円柱軸に垂直な面内においてα相の結晶方位が、異方性が小さくなるように制御することが有効である。一方で、円柱状の素材(チタン合金棒材)の長軸方向の直交断面において、α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、円柱状の素材の長軸方向とのなす角度θが65°以上90°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率を60%超とするように制御することは、円柱状の素材(チタン合金棒材)の製造が著しく困難になるため好ましくない。
上記のようにα結晶粒の大きさや結晶方位を制御するには、チタン合金の熱間加工中の金属組織変化挙動を把握することが重要である。一般に、チタン合金の鍛造工程において、β単相域に加熱することで、それ以前に存在するα相の結晶方位の偏りを軽減してランダム化する工程が組み込まれる。しかし、その後にα+β域で加工することにより、新たにα相の集合組織が形成される。特に、β単相域から冷却した後の最初のα+β域での加工によって形成されるα相の集合組織を、その後のα+β域での加工によって消滅させることは困難である。そのため、β単相域から冷却した後の最初のα+β域での加工方法を制御することが必要である。
本発明では、β単相域から冷却する工程に次ぐα+β域加工において、素材の直交断面の重心を通る最大幅をW1とし、直交断面の重心を通る最小幅をW2としたとき、鍛造後のW1/W2が1.3以下、かつ、鍛造前のチタン合金ビレットの幅Winiと鍛造後の幅Wafterとの比ΔW(ΔW=Wafter/Wini)が1.05以下となる圧下をチタン合金ビレット長軸方向に沿って行い、鍛練比を1.6以下とすることで、直交断面内の異方性を軽減できる。次いで、鍛造後のW1/W2が1.5以下となる圧下をチタン合金ビレット長軸方向に沿って行い、かつ、鍛練比を2.0以上とするとよい。これにより、航空機エンジン部品に使用される素材に適したチタン合金棒材になる。さらに、素材製造後の工程として、チタン合金棒材の長軸方向に圧縮加工することで、面内異方性の発達を抑制して、圧縮加工後の加工品をコンプレッサーディスクに適用することが可能である。
以下、本実施形態のチタン合金棒材について説明する。
本実施形態のチタン合金棒材は、25℃においてα相を主相としβ相を第2相とする金属組織を有するものがよい。すなわち、α+β二相チタン合金の成分を有することが好ましく、5.50~6.75質量%のAlが含まれていることが好ましい。また、TiとAl以外に、3.5~4.5質量%のV、0.05~0.40質量%のFe、0.05~0.25質量%のOを含有してもよい。Al含有量が5.50質量%以上であると、高強度で優れた疲労特性を有するチタン合金棒材が得られる。また、Al含有量が6.75質量%以下であると、TiAl等の金属間化合物が生成することによってチタン合金棒材が脆くなることを防止できる。
本実施形態のチタン合金棒材は、例えば、AMS4928で規定される成分で形成されていてもよい。つまり、Al:5.50~6.75質量%、V:3.5~4.5質量%、Fe:0.05~0.40質量%、O:0.05~0.25質量%を含有し、残部がTiおよび不純物であってもよい。不純物としては、例えば、N:0.08質量%以下、C:0.08質量%以下、H:0.015質量%以下を含有してもよい。
また、本実施形態のチタン合金棒材は、例えば、AMS4975で規定される成分で形成されていてもよい。つまり、Al:5.50~6.50質量%、Sn:1.75~2.25質量%、Zr:3.5~4.5質量%、Mo:1.8~2.2質量%、Fe:0.02~0.25質量%、O:0.02~0.15質量%を含有し、残部がTiおよび不純物であってもよい。不純物としては、例えば、Si:0.10質量%以下、N:0.08質量%以下、C:0.08質量%以下、H:0.015質量%以下を含有していてもよい。
本実施形態のチタン合金棒材は、長軸方向に直交する断面形状が円形の丸棒であり、長軸方向に直交する断面形状は真円であっても良いが、真円である必要はなく、おおよそ円形状であれば良い。その直径は特に限定されるものではないが、100mmから350mmまでの範囲が好ましい。
一方で、鋳塊から棒材に製造されるまでの中間形態の形状については、長軸方向に直交する断面形状は円形状に限定されず、四角形や八角形の多角形や、角が丸い多角形であってもよい。
次に、本実施形態のチタン合金棒材の結晶組織について図1~図3を参照しながら説明する。
図1は、チタン合金棒材の長軸方向の微小長さdLの領域におけるα結晶粒中の稠密六方晶の配向状態を示している。図1(a)はチタン合金棒材の周面側から見た斜視図であり、図1(b)は、チタン合金棒材の長軸方向の直交断面側から見た斜視図である。T1は直交断面における径方向とし、T2は径方向に直交する周方向とする。六方稠密結晶の(0001)面の法線方向とT1あるいはT2とのなす角度をω1、ω2とする。本実施形態のチタン合金棒材は、チタン合金棒材の長軸方向の直交断面において、ω1およびω2が25°以上55°以下の範囲にあり、円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であることが好ましい。面積率が5%を超えると、Dwell疲労寿命が低下するため好ましくない。
また、横断面内のDwell疲労特性の異方性を低下させるためには、横断面内の径方向および周方向対して稠密六方晶の底面が配向する比率に変動が小さい方が有利である。そのため、ω1及びω2が0~25°であるα結晶粒の面積率が5~15%であることが好ましい。稠密六方晶の(0001)面の法線のなす角度が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%未満または15%を超えると、特定の方向に対する稠密六方晶の(0001)面の集積度が高くなるため、Dwell疲労寿命の面内異方性が著しく増大するため好ましくない。
図2は、チタン合金棒材の長軸方向と稠密六方晶の(0001)面の法線方向との角度θを示している。本実施形態のチタン合金棒材は、長軸方向の直交断面において、α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、棒材の長軸方向とのなす角度θが65°以上90°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率が35%以上60%以下であることが好ましい。すなわち、チタン合金棒材の長軸方向に対して稠密六方晶のc軸が65~90°の範囲で傾斜しているα結晶粒が、長軸方向の直交断面において35~60面積%の割合であることが好ましい。c軸の傾斜角度θが65~90°の範囲にあるα結晶粒が35%未満または60%を超えると、Dwell疲労が大幅に悪化するので好ましくない。
本実施形態のチタン合金棒材の結晶組織は、EBSD(電子線後方散乱回折;Electron Backscatter Diffraction)を用いて測定することができる。
まず、チタン合金棒材の長さ方向中心部より、長さ方向断面を観察面とする試験片を採取する。観察面における測定箇所は、断面が半径rの円形の棒材については表面からr/2の深さの位置とする。次に、試験片の観察面の測定箇所における、縦3mm横3mmの矩形の領域を視野とし、測定間隔は2.0μm、加速電圧15kVで、EBSDを用いて測定する。
得られた測定結果を、OIM(株式会社 TSLソリューションズ製の結晶方位解析ソフト)を用いて解析する。まず、α相のみを対象とするPartitonを作成し、解析の対象とする。
次に、隣り合うEBSD測定点の結晶方位の角度差(ミスオリエンテーション角)を5°以下としてα結晶粒を決定し、そのα結晶粒の測定点数から各α結晶粒の面積を求め、各α結晶粒の円相当直径を算出する。
また、各α結晶粒内のEBSD測定点におけるc軸方向の平均値を算出し、それを用いて各α結晶粒について、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の長軸方向とのなす角度θを算出する。
そして、α結晶粒のうち、角度θが65°~90°のα結晶粒の面積率を求める。また、円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求める。
あるいは、直交断面内の異方性については、Crystal Direction Mapを作成し、直交断面内の径方向および周方向とα結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差が25°以内となるα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求める。
また、Crystal Direction Mapを使い、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の長軸方向とのなす角度θが65°から90°となるα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求める。
さらに、Partation PropertiesでGrain Sizeを20μm超とした後、Crystal Direction Mapを作成し、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の径方向および周方向とのなす角度が25°以上55°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率を求める。
次に、本実施形態のチタン合金棒材の製造方法について説明する。
本実施形態のチタン合金棒材は、所定の化学成分に調整された原料を溶解して鋳塊を得た後、得られた鋳塊をβ単相域に加熱し加工するβ鍛造と、α+β二相域に加熱して加工するα+β鍛造とを経て得られたチタン合金ビレットを、以下の工程に供することで得られる。
本実施形態のチタン合金棒材は、所定の化学成分を有する上記チタン合金ビレットを、β単相域の温度に加熱した後に急冷する第1の工程と、チタン合金ビレットをα+β二相域の温度に加熱し、鍛造した後に冷却する第2の工程と、チタン合金ビレットを、α+β二相域の温度であって第2の工程の加熱温度以下の温度に加熱し、鍛造する第3の工程と、をこの順で行うことにより製造される。
以下、各工程について説明する。
第1の工程では、チタン合金ビレットを加熱炉内でβ単相温度域に加熱し、その後、急冷することで、金属組織を均質化させ、結晶粒の粗大化を抑制する。β単相温度領域の加熱は、加熱炉内の温度をβ変態点温度より30℃高い温度以上、β変態点温度より100℃高い温度以下(β変態点温度+30℃~β変態点温度+100℃の温度範囲)とすることが好ましい。加熱炉内の温度が、β変態点温度より30℃高い温度であると、加熱炉内に温度が不均一な部分があったり、チタン合金ビレットの大きさが大きいものであったりしても、鋳塊全体がβ変態点温度以上に加熱されるため好ましい。また、加熱炉内の温度が、β変態点温度より100℃高い温度以下であると、チタン合金ビレットの表層の酸化が抑制されるとともに、チタン合金ビレット中の金属組織の粗大化が抑制されるため、高品質のチタン合金棒材が得られる。
第1の工程では、β単相温度域に加熱後、チタン合金ビレットを加熱炉から取り出して速やかに急冷するか、加工を加えた後に急冷することが好ましい。急冷は充分な冷却速度を得るために、十分な量の水にチタン合金ビレットを浸漬することで行う水冷が一般的であるが、水冷相当以上の冷却速度が得られる他の手段を用いても良い。急冷はチタン合金ビレットの表面温度が300℃以下になるまで続けることが好ましい。
第1の工程では、β単相温度域に加熱して加熱炉から取り出した後に加工を行うことで、チタン合金ビレットに歪みを与えてもよい。歪みを与えることで再結晶を生じ、金属組織の結晶粒の粗大化が抑制される。
次に、第2の工程では、第1の工程後のチタン合金ビレットを、α+β二相域の温度に加熱し、鍛造した後に冷却する。第2の工程では、被加工材料であるチタン合金ビレットがα相およびβ相の二相の状態で加工される。特に、β相が組織中に50%程度の割合で存在する温度域で加工することが好ましい。
第2の工程において、チタン合金ビレットを加熱する加熱炉内の温度は、β変態点温度より60℃低い温度以上、β変態点温度未満(β変態点温度-60℃~β変態点温度未満の温度範囲)とすることが好ましい。加工発熱による温度上昇を加味すると、加熱温度の上限はβ変態点温度より20℃低い温度未満(β変態点温度-20℃未満)であることが好ましい。
加熱炉内の温度が、β変態点温度より60℃低い温度以上であると、熱間加工を施す際のチタン合金ビレットの変形抵抗が大きくなりすぎることを防止でき、容易に効率よく熱間加工を行うことができる。また、加熱炉内の温度が、β変態点温度未満であると、チタン合金ビレットの金属組織中にα結晶粒が十分に析出するため、粒成長が抑制されるとともに、α+β二相温度域で熱間加工を施すことによる効果が十分に得られる。
チタン合金ビレットの表面温度は鍛造中に徐々に低下するため、表面性状が悪化したり表面割れが生じやすくなったりする場合には、第2の工程の終了前に、鍛造を一旦中断し、再度、チタン合金ビレットを加熱してから鍛造することが好ましい。
第2の工程について、図3を参照して説明する。図3は、チタン合金ビレットと金敷とを示す図であり、図3(a)は圧下前の側面図であり、図3(b)は圧下前の平面図であり、図3(c)は圧下後の側面図であり、図3(d)は圧下後の平面図である。符号1は金敷を示し、符号2はビレットを示す。
第2の工程では、ビレットの長軸方向とほぼ直交する方向から一対の金敷による圧下を加える。第2の工程によって、チタン合金中のα結晶粒の(0001)面方位が棒材の長軸方向に集積することを抑制するとともに、直交断面の面内での(0001)面方位の異方性の増加を抑制する。
具体的には、ビレットの外周面の一部である被加工部位を金敷によって圧下した後、ビレットを長軸方向に所定の送り量だけ相対移動させ、金敷に新たな被加工部位を対向させ、この新たな被加工部位に対して圧下を行う。この動作を、ビレットの長手方向一端から他端に向けて順次行い、必要に応じて掴み替えを行い、ビレット全体に対して鍛造を行う。この間、ビレットは長軸方向に沿って金敷に対して相対的に送り出すのみであり、長軸中心に回転させることはしない。これにより、ビレットの外周面の一部に対して圧下が行われる。この操作を、第1鍛造工程という。
1回目の第1鍛造工程が終了したら、ビレットをその長軸を中心にして回転させる。これにより、ビレットの外周面のうち、1回目の被加工部位とは別の被加工部位を金敷に向けさせる。次いで、2回目の第1鍛造工程を行う。たとえば、矩形断面の場合には90°の異なる方向から圧下し、八角形断面の場合には45°毎の方向から圧下を加えるとよい。
2回目の第1鍛造工程が終了したら、3回目、4回目の第1鍛造工程を順次行う。第1鍛造工程の回数の上限は第2工程前後での鍛錬比で制限する。第2工程前後での鍛錬比が1.6以下の範囲で鍛伸加工を繰り返す。
第1鍛造工程では、図4に示すように、チタン合金ビレットの長軸方向の直交断面において直交断面の重心を通る最大幅をW1とし、直交断面の重心を通る最小幅をW2としたとき、鍛造後のW1/W2が1.3以下になるように、かつ、鍛造前のチタン合金ビレットの幅Winiと鍛造後の幅Wafterとの比ΔW(ΔW=Wafter/Wini)が1.05以下になるように鍛造することが好ましい。
鍛造前のチタン合金ビレットの幅Winiとは、図3(b)に示すように、金敷の圧下方向からチタン合金ビレットを見た場合のチタン合金ビレットの最大投影幅である。また、鍛造後のチタン合金ビレットの幅Wafterは、圧下終了後のチタン合金ビレットの最大投影幅である。
なお、図4(a)は、直交断面形状が略矩形の場合のW1とW2を示す図であり、図4(b)は直交断面が略円形の場合であり、図4(c)は直交断面が略六角形の場合である。
これらの条件はいずれも、チタン合金中のα結晶粒の(0001)面方位を棒材の長軸方向に集積することを抑制するとともに、直交断面の面内でのc軸の異方性の増加を抑制するための条件である。直交断面の形状をなるべく円に近い形状を保ち、かつ、一度に強い圧下を加えないことで、直交断面内の特定方向へのひずみの集中が抑制される。つまり、鍛造後のW1/W2が1.3以下になるように、かつ、鍛造前のチタン合金ビレットの幅Winiと鍛造後の幅Wafterとの比ΔW(ΔW=Wafter/Wini)が1.05以下になるように長軸方向に沿ってチタン合金ビレットを鍛造し、鍛錬比1.6以下の範囲で行う。鍛錬比が1.6超では、特定方向へのα結晶粒の集積度が上昇し、直交断面の面内の異方性が上昇してしまう。
このような集積度あるいは面積率の変化を効率的に行うためには、第1の工程においてβ熱処理後に冷却することで結晶方位がランダム化されたチタン合金ビレットに対して、最初に行う加工を制御することが重要である。
次に、第3の工程では、α+β二相域の温度であって第2の工程の加熱温度以下の温度に加熱し、鍛造後のW1/W2が1.5以下になるように、長軸方向に沿ってチタン合金ビレットを鍛造する第2鍛造工程を少なくとも2回以上行う。第2鍛造工程は、チタン合金ビレットをその長軸を中心にして回転させて鍛造方向を各回毎に変更させる。これにより、α結晶粒の(0001)面方位の異方性を低減させる。
第3の工程において、チタン合金ビレットを加熱する加熱炉内の温度は、β変態点温度より80℃低い温度以上、第2の工程の加熱温度以下とすることが好ましい。加工発熱による温度上昇を加味すると、加熱温度の上限はβ変態点温度より20℃低い温度未満(β変態点温度-20℃未満)であることが好ましい。
加熱炉内の温度が、β変態点温度より80℃低い温度以上であると、熱間加工を施す際のチタン合金ビレットの変形抵抗が大きくなりすぎることを防止でき、容易に効率よく熱間加工を行うことができる。また、加熱炉内の温度が、第2の工程の温度以上の温度になると、(0001)面方位の集積度が低下してしまうので好ましくない。
第3の工程においても、チタン合金ビレットの温度が鍛造中に徐々に低下するため、表面性状が悪化したり表面割れが生じやすくなったりする場合には、第3の工程の終了前に、鍛造を一旦中断し、再度、チタン合金ビレットを加熱してから鍛造することが好ましい。
第3の工程では、第2の工程の第1鍛造工程の場合と同様に、ビレットの外周面の一部である被加工部位を金敷によって圧下した後、ビレットを長軸方向に所定の送り量だけ相対移動させ、金敷に新たな被加工部位を対向させ、この新たな被加工部位に対して圧下を行う。この動作を、ビレットの長手方向一端から他端に向けて順次行い、ビレット全体に対して鍛造を行う。この間、ビレットは長軸方向に沿って金敷に対して相対的に送り出すのみであり、長軸中心に回転させることはしない。これにより、ビレットの外周面の一部に対して圧下が行われる。この操作を、第2鍛造工程という。
1回目の第2鍛造工程が終了したら、ビレットをその長軸を中心にして回転させる。これにより、ビレットの外周面のうち、1回目の被加工部位とは別の被加工部位を金敷に向けさせる。次いで、2回目の第2鍛造工程を行う。たとえば、矩形断面の場合には90°の異なる方向から圧下し、八角形断面の場合には45°毎の方向から圧下を加えるとよい。
第3の工程では、鍛錬比が2.0以上になるまで、鍛造後のW1/W2が1.5以下になるように鍛造する第2鍛造工程を繰り返し行う。鍛錬比が2.0未満では、α結晶粒の大きさを微細化することができなくなり、疲労寿命が悪化する。
第2鍛造工程が終了したら、第3の工程の最後に、チタン合金ビレットを300℃以下まで冷却する。300℃以下まで冷却することにより、切断加工、品質検査、疵の手入れ等の精整作業を行うことができる。
以上説明したように、第1の工程、第2の工程及び第3の工程を順次行うことにより、本実施形態のチタン合金棒材を製造できる。本実施形態のチタン合金棒材からタービンディスクの素材を製造するには、第3の工程後に、以下の第4の工程を実施するとよい。
第4の工程では、α+β二相域の温度にチタン合金棒材を加熱し、W1/W2≦1.5、鍛錬比3.0未満を満たすように、チタン合金棒材の長軸方向に圧縮鍛造加工する。これにより、第1の工程~第3の工程を行うことによって作り込んだ結晶組織を大きく変化させることなく、タービンディスクの素材を製造することができる。第4の工程後の圧縮鍛造加工品は、円相当直径が20μm超であるα結晶粒の面積率が1.0%以下であるとよい。また、第4の工程の最後に、チタン合金ビレットを300℃以下まで冷却するとよい。300℃以下まで冷却することにより、疲労寿命の悪化を防止できる。
以上説明したように、本実施形態のチタン合金棒材によれば、(0001)面の法線方向と長軸方向とのなす角度が65°以上90°以下の範囲のα結晶粒の面積率が35~60%であり、直交断面の面内において、径方向および軸方向のそれぞれとα結晶粒の(0001)面の法線のなす角度が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%以上15%以下であり、円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であるので、Dwell疲労特性の異方性を低減し、チタン合金棒材の品質を向上させることができる。
また、本実施形態によれば、第1の工程、第2の工程及び第3の工程を順次行うことで、Dwell疲労特性に優れたチタン合金棒材を製造できる。
本実施形態のチタン合金棒材は、例えば、航空機エンジンのタービンディスクの素材として好適に用いることができる。すなわち、本実施形態のチタン合金棒材に対して更に加工を施してタービンディスクとすることで、Dwell疲労特性の異方性が小さいタービンブレードとすることができる。
次に、本発明の実施例について説明する。
以下に示す方法によりチタン合金棒材を製造し、評価した。
(事前工程)
溶解して得られた、表1に示す組成を有する直径約750mmの円柱状の鋳塊を、β変態温度以上の1020℃以上1200℃以下に加熱した加熱炉内でβ単相温度域に加熱した後、加熱炉から取り出して鍛造するβ鍛造と、β変態温度以下の900℃以上980℃以下のα+βの二相域に加熱した後、加熱炉から取り出して鍛造するα+β鍛造を、それぞれ1回または複数回繰り返して、長手方向に直交する断面形状が表1に示す断面形状の棒状のビレットを得た。前記棒状のビレットを中間ビレット(チタン合金ビレット)とした。表1に示すチタン合金ビレットのβ変態点温度は990℃~1010℃の範囲であった。
なお、表1の中間ビレットの形状の欄において、「ψ500」「ψ280」はそれぞれ断面形状が直径500mm、280mmの円形状であることを意味し、「450八角」は断面形状が八角形であって相対する平行な2辺の間隔が450mmである八角形状であることを意味し、「250*250」は断面形状が一辺長さ250mmの四角形であることを意味し、「600*310」は断面形状が縦600mm、横310mmの四角形であることを意味する。
(第1の工程)
事前工程で得た中間ビレットを、表2に示す加熱温度の加熱炉内で加熱した後、加熱炉から取り出して、表2に示す条件のように、鍛造(加工)後に水冷、あるいは、鍛造(加工)を行わないで水冷した。水冷は、十分な量の水を入れた水槽に浸漬することで行った。また、水冷は、インゴット表面温度が少なくとも300℃を下回る温度になるまで行った。第1の工程の加熱温度はβ変態点温度+30℃~β変態点温度+100℃の温度範囲とした。
(第2の工程)
第1の工程後のチタン合金ビレットを、表2に示す加熱温度の加熱炉内で加熱した後、加熱炉から取り出して鍛造した。その後、表2に示す条件となるように、再度、加熱炉での加熱と鍛造とを複数回繰り返して、断面形状が円形または多角形であるビレットを得た。第2の工程での加熱温度は、いずれの試料においても、β変態点温度-60℃~β変態点未満の範囲(α+β二相域の温度)だった。また、鍛造を1回行う毎にビレットを長軸回りに回転させることで鍛造時の圧下方向を各回毎に変更させた。このようにして、第2工程においてチタン合金ビレットの全周に渡り均等に鍛造を行った。第2工程の後は、インゴット表面温度が少なくとも300℃を下回る温度になるまで空冷(放冷)した。
(第3の工程)
第2の工程後のチタン合金ビレットを、表2に示す加熱温度の加熱炉内で加熱した後、表2に示す条件で鍛造した。このようにして、断面形状が円形であるチタン合金棒材を製造した。実施例のチタン合金ビレットの第3の工程での加熱温度は、いずれの試料においても、α+β二相域の温度だった。また、鍛造を1回行う毎にビレットを長軸回りに回転させることで鍛造時の圧下方向を各回毎に変更させた。このようにして、第3工程においてチタン合金ビレットの全周に渡り均等に鍛造を行った。
第3工程の後は、インゴット表面温度が少なくとも300℃を下回る温度になるまで空冷(放冷)した。
(第4の工程)
第3の工程後のチタン合金ビレットの一部(No.13~16)を、表2に示す加熱温度の加熱炉内で加熱した後、表2に示す条件で鍛造した。このようにして、断面形状が円形であるチタン合金棒材を製造した。第4の工程での加熱温度は、いずれの試料においても、α+β二相域の温度だった。
第4の工程の後は、インゴット表面温度が少なくとも300℃を下回る温度になるまで空冷(放冷)した。
得られたチタン合金棒材について、結晶組織の測定を行った。
まず、チタン合金棒材の長さ方向中心部より、長軸方向の直交断面を観察面とする試験片を採取した。観察面における測定箇所は、断面が半径rの円形の試料については表面からr/2の深さの位置とした。次に、試験片の観察面の測定箇所における、縦3mm横3mmの矩形の領域を視野とし、測定間隔は2.0μm、加速電圧15kVで、EBSDを用いて測定した。
得られた測定結果を、OIM(株式会社 TSLソリューションズ製の結晶方位解析ソフト)を用いて解析した。まず、α相のみを対象とするPartitonを作成し、解析の対象とした。隣り合うEBSD測定点の方位(c軸方向)の角度差(ミスオリエンテーション角)を5°以下としてα結晶粒を決定した。
直交断面内の異方性については、Crystal Direction Mapを作成し、直交断面内の径方向および周方向とα結晶粒の(0001)面の法線方向との方位差が25°以内となるα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求めた。
また、Crystal Direction Mapを使い、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の長軸方向とのなす角度θが65°から90°となるα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求めた。
さらに、PartationのGrain PropertiesでGrain Sizeを20μm超とした後、Crystal Direction Mapを作成し、α結晶粒の(0001)面の法線方向と、チタン合金棒材の径方向および周方向とのなす角度が25°以上55°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率(Total Fraction)を求めた。
また、得られたチタン合金棒材のDwell疲労特性を測定した。
試験片として、チタン合金棒材の径方向および周方向が長手方向となるように引張試験片と疲労試験片を採取した。
引張試験の測定条件は以下の通りとした。
試験片形状:平行部φ5×30mm、ゲージ長さ25mm、ひずみ速度:8.3×10-5-1
疲労試験の測定条件は以下の通りとした。
疲労試験片形状:平行部φ5.08mm×15.24mm、ゲージ長さ12mm。
疲労試験方法:軸力、片振り、応力比0.05。最大応力=同材料(同方向)の0.2%耐力の95%。
通常疲労:三角波、負荷1s、除荷1s
Dwell疲労:台形波、負荷1s、保持120s、除荷1s
表3に、α結晶粒の(0001)面の法線方向と棒材の長軸方向の直交断面における径方向および周方向のなす角度ω1、ω2が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率、α結晶粒の(0001)面の法線方向と棒材の長軸方向の直交断面における径方向および周方向とα結晶粒の(0001)面の法線方向のなす角度ω1、ω2が25°以内であるα結晶粒の面積率、α結晶粒の(0001)面の法線方向と棒材の長軸方向のなす角度θが65°以上90°以下であるα結晶粒の面積率、直交断面内の径方向及び周方向のDwell疲労寿命の長い方を短い方で割った比を示す。本発明の範囲にある実施例では、Dwell疲労の破断寿命は、5000回以上であった。
表3に示すように、本発明の範囲にある実施例は直交断面内でのDwell疲労寿命の比が2.0以下であり異方性が小さくなっていることが分かる。一方、本発明の範囲外である比較例では、Dwell疲労特性の異方性が増大していることが分かる。
Figure 0007307313000001
Figure 0007307313000002
Figure 0007307313000003
1…金敷、2…ビレット

Claims (6)

  1. 5.50~6.75質量%のAlを含有するα+β型チタン合金棒材であって、
    α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、前記α+β型チタン合金棒材の長軸方向の直交断面内の棒材の径方向とのなす角度ω1が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であり、
    α結晶粒を構成する稠密六方晶の(0001)面の法線方向と、前記α+β型チタン合金棒材の長軸方向の直交断面内の棒材の周方向とのなす角度ω2が25°以上55°以下の範囲にある円相当直径が20μm超のα結晶粒の面積率が5%以下であり、
    前記直交断面において、棒材の径方向とα結晶粒の(0001)面の法線のなす角度ω1が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%以上15%以下であり、
    前記直交断面において、棒材の周方向とα結晶粒の(0001)面の法線のなす角度ω2が25°以内であるα結晶粒の面積率が5%以上15%以下であり、
    前記直交断面において、前記(0001)面の法線方向と、前記長軸方向とのなす角度θが65°以上90°以下の範囲にあるα結晶粒の面積率が35%以上60%以下であることを特徴とする、α+β型チタン合金棒材。
  2. 化学成分が、Al:5.50~6.75質量%、V:3.5~4.5質量%、Fe:0.05~0.40質量%、O:0.05~0.25質量%を含有し、残部がTiおよび不純物からなる請求項1に記載のα+β型チタン合金棒材。
  3. 化学成分が、Al:5.50~6.50質量%、Sn:1.75~2.25質量%、Zr:3.5~4.5質量%、Mo:1.8~2.2質量%、Fe:0.02~0.25質量%、O:0.02~0.15質量%を含有し、残部がTiおよび不純物からなる請求項1に記載のα+β型チタン合金棒材。
  4. 鋳塊を熱間加工して得られた、5.50~6.75質量%のAlを含有するチタン合金ビレットをβ単相域の温度に加熱した後に急冷する第1の工程と、
    前記チタン合金ビレットをα+β二相域の温度に加熱し、前記チタン合金ビレットの長軸方向と交差する方向から鍛造した後に冷却する第2の工程と、
    前記チタン合金ビレットを、α+β二相域の温度であって前記第2の工程の加熱温度以下の温度に加熱し、前記チタン合金ビレットの長軸方向と交差する方向から鍛造する処理を1回以上行い、少なくとも最後に300℃以下まで冷却する処理を行う第3の工程と、をこの順で行う際に、
    前記第2の工程において、前記チタン合金ビレットの長軸方向の直交断面において前記直交断面の重心を通る最大幅をW1とし、前記直交断面の重心を通る最小幅をW2としたとき、鍛造後のW1/W2が1.3以下になるように、かつ、鍛造前の前記チタン合金ビレットの幅Winiと鍛造後の幅Wafterとの比ΔW(ΔW=Wafter/Wini)が1.05以下になるように前記長軸方向に沿って前記チタン合金ビレットを鍛造する第1鍛造工程を少なくとも2回以上行い、また、前記第1鍛造工程は前記チタン合金ビレットを長軸周りに回転させて前記チタン合金ビレットに対する圧下方向を各回毎に変更させることとし、
    前記第3の工程において、鍛造後のW1/W2が1.5以下になるように、前記長軸方向に沿って前記チタンビレットを鍛造する第2鍛造工程を少なくとも2回以上行い、また、前記第2鍛造工程は前記チタン合金ビレットを長軸周りに回転させて前記チタン合金ビレットに対する圧下方向を各回毎に変更させることとし、
    前記第2の工程における鍛錬比を1.6以下とし、前記第3の工程の鍛錬比を2.0以上とする、
    ことを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
  5. 前記第1の工程が、前記チタン合金ビレットをβ単相域の温度に加熱した後に、加工してから急冷する工程である、請求項4に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
  6. 前記第3の工程後に、α+β二相域の温度に前記チタン合金ビレットを加熱し、W1/W2≦1.5、鍛錬比3.0未満を満たすように、前記チタン合金ビレットの長軸方向に圧縮鍛造加工する第4の工程を行う、請求項4または請求項5に記載のα+β型チタン合金棒材の製造方法。
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