JP4715048B2 - チタン合金ファスナー材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願発明は、高強度で、かつ高い延性ならびに剪断強度を有するチタン合金ファスナー材、及び該チタン合金ファスナー材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チタン合金は軽量かつ高強度であるため、高比強度の材料が要求される宇宙航空分野においてファスナー材として使用されている。中でもα+β型チタン合金及びβ型チタン合金は、溶体化−時効処理によって更なる高強度化が達成可能であるために、前記のファスナー材として使用されている。
【0003】
しかしながら、Ti-6Al-4V合金に代表されるα+β型合金では、溶体化処理後の冷却において高強度化のために高冷却速度が必要となるため、充分な冷却速度を確保し難い太径のファスナー材の場合には、その高強度化の程度に限界がある。
【0004】
一方、β型合金の場合には、溶体化処理後の冷却速度に対する達成強度レベルの感受性はα+β型合金に比較してかなり低く、USP-5160554に記載されているように高いレベルの高強度化が可能である。しかしながら、時効処理の時間が10時間を超え、生産性の面で問題があるとともに、β相を安定化するためにMoをはじめとする重く、かつ高価な元素を大量に含有するので、比強度及びコストの面でも、不都合がある。またさらに、β型チタン合金は結晶粒が粗大であり、ネジ部の転造による成形時に顕著なシェアバンドの形成が起こり、ネジ部の特性に大きなばらつきを生じ易く、実用上の障害がある。なお、このシェアバンドの形成を防ぐためには、均一な加工が可能である微細なα+β組織を有することが必要となる。
【0005】
さらに材質面では、両タイプの合金ともに、強度や延性のみならず、ファスナー材として使用上重要な剪断強度においても、高強度化に見合った改善が必要となる。
【0006】
またファスナー材の製造においては、ネジ部及び頭部の加工が必要である。現状ネジ部の加工には、切削による方法と転造による方法とがある。
【0007】
切削加工による方法では、強度など素材の材料特性に比較的影響されることなく加工が可能であるが、ネジ部底部に切削工具によるツールマークが残存し、切欠効果による材料特性の劣化の恐れがある。このため、疲労特性が重要視される航空機分野等においては、ファスナー材の材質における信頼性に問題が生じる。
【0008】
これに対して転造による方法では、ネジ部底部でのツールマークに起因した切欠感受性の増大の恐れが著しく少ないため、材質に対する信頼性は切削加工に比較して高いが、転造では大きな素材の変形を伴う加工となるため、特に素材の強度が高い場合には、充分にネジ部の形状が成形できない、あるいはネジ部に割れが生じるなどの問題が生じる。また加工条件によっては、ネジ部で加工硬化に起因した切欠感受性の著しい増大の恐れもある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
前記のように、α+β型チタン合金を用いた場合には高強度化の達成レベルの面で問題があり、一方β型チタン合金を用いた場合には製造性やコストの面での問題とともに、シェアバンドに起因した問題もある。さらには、現用の両タイプの合金においては、ファスナー材として必要とされる特性を満足しているとはいえない。
【0010】
また、ファスナー材の製造においても、ネジ部における加工や良好な材料特性の確保の面においても前記のような不都合があり、改善が望まれている。
【0011】
さらに、強度レベルが1150MPa以上の場合、比重の大きい鋼ではファスナー材が製造可能であるが、溶体化−時効処理によって高強度化を達成するα+β型チタン合金においては、冷却速度が小さくなる太径では製造が困難であった。特に直径12mm以上の太径のファスナー材において、高強度のチタン合金での製造が容易に可能となれば、比重の大きい鋼からチタン合金への素材変更による軽量化の点で著しく有益である。
【0012】
本発明は、前記事情を考慮し、太径のファスナー材においても、高強度でかつ、延性や疲労特性、剪断強度などの他の材料特性とのバランスに優れたチタン合金ファスナー材、および該チタン合金ファスナー材の製造方法を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願発明は、ファスナー材として充分な強度−延性レベルが達成可能なチタン合金ファスナー材、ならびに該ファスナー材の製造方法について、鋭意検討した結果見出されたものである。
【0014】
本願発明の請求項1は、化学成分が、質量割合で、Alを4.0%以上5.0%以下、Vを2.5%以上3.5%以下、Feを1.5%以上2.5%以下、Moを1.5%以上2.5%以下含有し、残部Ti及び不可避的不純物からなり、ミクロ組織がα+β型であり、初析α相の体積分率が10%以上90%以下、初析α相の結晶粒径が10μm以下であることを特徴とするチタン合金ファスナー材である。
【0016】
本願発明の請求項2は、溶体化処理と時効処理を施して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施すことを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法である。
【0017】
本願発明の請求項3は、溶体化処理と時効処理を施し、さらにネジ部を転造によって造形して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施した後、ネジ部を転造によって造形する際に、Tβ-450℃以上Tβ-200℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間保ち、ネジ部の加工をすることを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法である。
【0018】
本願発明の請求項4は、頭部を成形した後、溶体化処理と時効処理を施し、さらにネジ部を転造によって造形して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、頭部を成形する際に、Tβ-250℃以上Tβ-30℃以下に加熱して頭部を成形し、その後Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施した後、ネジ部を転造によって造形する際に、Tβ-450℃以上Tβ-200℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間保ち、ネジ部の加工をすることを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法である。
【0019】
本願発明の請求項5は、頭部を成形した後、さらに溶体化処理と時効処理をして、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、頭部を成形する際に、Tβ-250℃以上Tβ-30℃以下に加熱して頭部を成形し、その後Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施すことを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法である。
【0020】
【発明の実施の形態】
まず、本願発明のチタン合金ファスナー材におけるミクロ組織の効果に関して説明する。
【0021】
初析α相の粒径は材料特性に大きく影響を及ぼす。初析α相の平均結晶粒径と疲労特性との関係を図1に示す。初析α相の平均結晶粒径が10μmを超えると、疲労特性が急激に低下する。初析α相の結晶粒径が大きくなれば、疲労特性が低下するばかりか、これに伴い延性や加工性も低下し、ファスナー材の頭部やネジ部加工時に不都合を生じる。微細なミクロ組織はファスナー材自身の高延性達成に必要であるばかりではなく、ネジ部の成形時の加工性にも関連し、転造時に高強度材においても割れを発生することなく、かつ充分なネジ形状を達成する上で重要である。
【0022】
またα+β型合金は概ね初析α相と変態β相から成るが、それらの体積分率はファスナー素材として重要な特性支配因子である。初析α相の体積分率が10%未満、つまり変態β相の体積分率が90%より大きい場合には、素材に占める針状組織の割合が大きく、延性や加工性の低下に繋がる。逆に、初析α相の体積分率が90%より多い場合には、β相に比較して加工性の劣るα相の素材に占める割合が大きいため、やはり延性や加工性が低下する。
【0023】
従って、本願発明では、初析α相の結晶粒径(平均結晶粒径)が10μm以下であることを特徴とする。また初析α相の体積分率が10%以上90%以下であることを特徴とする。さらに、β型チタン合金においても溶体化−時効処理によって高強度化が可能であるが、先に述べたシェアバンドの形成による問題がβ型チタン合金では顕著であるため、均一な変形が可能であるα+β型チタン合金の方がファスナー材として望ましく、本願発明ではα+β型チタン合金であることを特徴とする。
【0024】
次に、ファスナー材の化学成分に関して説明する。
【0025】
α+β型チタン合金において、Alはα相を安定化させるのに必須の元素であり、また強度の上昇への効果を有する。Alが4.0%未満では強度への充分な寄与がなく、逆にAlが5.0%より大では延靭性が劣化するので望ましくない。
【0026】
V、Mo及びFeはβ相を安定化させる元素であるとともに、強度の上昇への効果も有する。Vが2.5%未満では高強度化への効果が充分ではないことともに、充分にβ相が安定せず、逆に3.5%より大ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、高価な金属元素の大量添加による高コスト化を招く。
【0027】
Moは1.5%未満では高強度化への効果が充分ではないことともに、充分にβ相が安定せず、逆に2.5%より大ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、高価な金属元素の大量添加による高コスト化を招く。その効果が飽和するとともにβ相が安定しすぎて溶体化−時効処理にて充分な高強度化が達成できない。さらには、Moには結晶粒を微細化する効果がある。Moが1.5%以上であれば初析α相を本願発明のミクロ組織のように10μm以下に微細化する効果が充分であるが、2.5%を超えて含む場合にはその効果は飽和している。
【0028】
Feは1.5%未満では高強度化への効果が充分ではないことともに、充分にβ相が安定せず、さらに拡散速度が速く加工性を改善する効果を有するが、該効果が充分に発揮できず、逆に2.5%より大ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、偏析による材質の劣化を招く。
【0029】
以上の点から、本願発明のα+β型チタン合金ファスナー材においては、その化学成分が、質量割合にて、Alを4%以上5%以下、Vを2.5%以上3.5%以下、Feを1.5%以上2.5%以下、Moを1.5%以上2.5%以下含むことを特徴とする。
【0030】
本願発明の初析α相の体積分率が10%以上90%以下で該相の結晶粒径が10μm以下のミクロ組織の達成、及び高強度化やその他の特性とのバランスを考慮に入れた際には、チタン合金材の化学成分が、質量割合にて、Alが4.0%以上5.0%以下、Vが2.5%以上3.5%以下、Feが1.5%以上2.5%以下、Moが1.5%以上2.5%以下、残部Ti及び不可避的不純物からなるチタン合金であることが望ましい。
【0031】
以下、ファスナー材の製造方法について説明する。
【0032】
本願発明で規定する化学成分を有するα+β組織のチタン合金棒材を素材とした。一般的に高強度のファスナー材を製造する場合、ファスナー素材である前記棒材に頭部の成形を行い、その後高強度化のための溶体化−時効処理を施し、そして転造にてネジ部の成形を行う。
【0033】
まず、ファスナー素材(チタン合金棒材)の熱処理条件について説明する。
【0034】
チタン合金の場合、高強度化の方法の一つに、溶体化−時効処理があり、その条件は合金の種類によって異なる。β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材においてTβ-80℃より低い温度域、つまり請求項2に記載の本願発明のチタン合金ではβ変態点が概ね900℃なので、概ね820℃より低い温度域では溶体化効果はあるものの、本願発明の目標に対しては充分ではなく、その後の時効処理によって高強度化を達成することができない。逆にβ変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材においてTβ-30℃より高い温度域、つまり請求項2に記載の本願発明のチタン合金では概ね870℃より高い温度域では熱処理後の組織において初析α相の体積分率が低くなり、高延性などの良好な材料特性を達成できない。
【0035】
またその後の時効処理で高強度化が達成可能な溶体化状態は、溶体化処理後の冷却速度にも依存し、冷却速度が速ければ速いほどその効果が大きくなるが、チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却することによって、本願発明の要求する材料特性を達成することが可能である。さらに時効温度がTβ-400℃未満、つまり請求項2の本願発明のチタン合金では概ね500℃未満の場合、及び時効時間が1時間未満の場合には、充分な時効処理による析出が起きず、良好な強度−延性バランスが達成されない。また時効温度がTβ-300℃より高温、つまり請求項2に記載の本願発明のチタン合金では概ね600℃より高い場合には、時効処理による析出物が粗大化し、高強度化が達成されない。さらには時効温度が10時間を超えるような条件では、生産性が低下し好ましくない。このため、チタン合金棒材への熱処理条件としては、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施すことが必要である。
【0036】
次にネジ部及び頭部の成形条件について説明する。
【0037】
転造によってネジ部を加工する場合、請求項2に記載の本願発明のチタン合金では、常温においてもネジ加工をすることは可能であるが、図2に示すように加工硬化によってネジ部表層での硬度上昇がHV=100以上と著しく上昇し、切欠感受性が極度に高まる恐れがある。一方、加熱しながらネジ加工をする場合には、加工硬化を防ぐことは可能ではあるが、時効処理によって高強度化させているために、時効が進み強度が低下する恐れがある。β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、ネジ部加工の温度がTβ-450℃未満あるいは加熱時間が5秒未満の場合には加工硬化を防ぐことができず、逆に加工温度がTβ-200℃より高温あるいは加熱時間が20分より長時間の場合には強度低下が生じる。このため、ネジ部を転造によって造形する際に、Tβ-450℃以上Tβ-200℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間加熱しネジ部の加工をすることが必要である。
【0038】
また頭部の加工において、低温度域で加工した場合には割れが発生する恐れがあり、逆に必要以上に高温とし素材のβ変態点を超えた場合には、その後の熱処理によっても該部分の材料特性は改善されず、延性や疲労特性の面で不都合が生じる。またβ変態点を超えないまでも必要以上の高温域に加熱された場合には、やはり初析α相の体積分率減少などの組織変化に起因した材料特性の変化が生じる。さらには高温域への加熱のため、激しい酸化が生じ、スケール除去などの表面手入れが必要となり、好ましくない。β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、頭部の成形の際に、Tβ-250℃未満の温度域では割れが生じ、逆Tβ-30℃より高温の場合には組織変化に起因した材料特性の劣化がある。このため、頭部の成形の際に、Tβ-250℃以上Tβ-30℃以下に加熱することが必要である。
【0039】
また溶体化−時効特性が溶体化処理後の冷却速度の影響を受けるため、強度レベルが1150MPa以上の場合、特に太径ではTi-6Al-4V合金ファスナー材では製造が困難であった。これを本願発明のチタン合金によって達成することにより、鋼からの代替が可能となり、軽量化につながる。この際、単に高い引張強度のみでは材料特性として不充分であり、強度に対してその60%以上の高い剪断強度や延性も必要となる。このため、太径のα+β型チタン合金ファスナー材で、かつ引張強度が1150MPa以上のファスナー材において、伸びが8%以上、剪断強度が690MPa以上であることが必要である。
【0040】
【実施例】
以下に、これらの作用を具体的に説明するため、チタン合金ファスナー材の製造条件、ファスナー材のミクロ組織、化学成分の材料特性への影響について、実施例を持って示す。
(実施例1)
まず表1に示すチタン合金ファスナー材素材となる各種チタン合金の溶体化−時効処理材の特性について、実施例をもって説明する。表1に記載された化学成分の残部はTi及び不可避的不純物である。
【0041】
【表1】
【0042】
図3に表1に示す各チタン合金の25mm径棒材における溶体化−時効処理後の強度と伸びの関係を示す。引張試験は、ASTM E8に従って行った。
【0043】
化学成分が本願発明例である符号A01のTi-4.5Al-3V-2Fe-2Mo合金では、1150MPa以上の高強度を充分に達成するとともに、1150MPaの強度レベルにおいても8%以上の高い延性を達成することが可能である。これに対して、α+β型チタン合金の代表であるTi-6Al-4V合金(符号A02)においては、1100MPa程度の強度レベルを達成することが限界であり、また延性も低い。また、溶体化処理後の冷却速度の強度への感受性の低いβ型合金(符号A03、A04)においても、高強度化は達成可能なものの、得られる延性は低い。
【0044】
次に図4に引張強度と剪断強度との関係を示す。本願発明例であるTi-4.5Al-3V-2Fe-2Mo合金(符号A01)では、ファスナー材として重要な特性である剪断強度は、他の合金系に比較して高い。引張試験は、ASTM E8に従って、また剪断試験は、ASTM B769に従って行った。
【0045】
(実施例2)
次に表1の本願発明例である符号A01のTi-4.5Al-3V-2Fe-2Moチタン合金を素材として、表2に示す条件の溶体化−時効処理を行った。その後、引張試験、及び剪断試験など材料特性評価を行った。表2に、それらの結果を示す。
【0046】
【表2】
【0047】
本願発明例のように、β変態点がTβ(℃)である場合にTβ-80℃以上Tβ- 30℃以下の温度域、つまり請求項2に記載のチタン合金においては820℃以上880℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらにTβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域、つまり請求項2に記載のチタン合金においては500℃以上600℃以下の温度域にて1時間以上8時間以下の時効処理を施すことによって、高い引張強度と延性、ならびに高い剪断強度が得られる。これに対して、本願発明の条件外の溶体化−時効処理条件においては、引張や剪断での強度不足、あるいは延性の不足が生じて、目標が達成されず、好ましくない。
【0048】
また、符号B22のようにミクロ組織が本願発明の範囲から外れる場合には、充分な延性を達成することができない。
【0049】
(実施例3)
次に表1に示す符号A01のTi-4.5Al-3V-2Fe-2Moチタン合金棒材を用いて、表3に示す製造条件にてファスナー材頭部の成形を行った。
【0050】
そして表2に示す符号B15、B22及びB23のTi-4.5Al-3V-2Fe-2Moチタン合金の溶体化−時効処理条件にて熱処理後、表3に示す製造条件にてネジ部を成形した。その後、ネジ部の硬度分布測定を行い、さらに、ネジ部のマクロ及びミクロ組織の観察を行い、割れ発生の有無の確認を行った。また、ネジ部の成形性の評価として、マクロ組織観察にてネジ底での割れの有無、形状についても調査した。表3に、それらの結果を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
頭部を加工する際に、本願発明例のようにTβ-250℃以上Tβ-30℃以下の温度域である650℃以上870℃以下に加熱すれば、割れの発生が無く頭部の加工が可能となる。これに対して、本願発明外の条件では頭部の加工の際に割れが発生したり、極度に酸化したりし、問題となる。
【0053】
ネジ部を転造によって造形する際に、本願発明例のようにTβ-450℃以上、Tβ-200℃以下の温度域である450℃以上700℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間加熱しネジ部の加工をした場合には、例えば図5に示すようにネジ加工時の加工硬化が無く、著しい切欠感受性の増大が無く、材料特性への悪影響の恐れが無い。また本願発明内のミクロ組織を有する素材であれば、割れやしわの発生が無く、良好なネジ形状が得られる。これに対して、本願発明外の条件ではネジ加工時の加工硬化があり、著しい切欠感受性の増大に起因した材料特性の劣化がある。
【0054】
なお本願発明の実施例では、頭部及びネジ部が備わった溶体化−時効処理による高強度のファスナー材に関して、実施例を基に説明をしたが、本願発明によれば、ネジ部の無いリベット材や頭部の無い両端ネジ部のボルト材においても、高強度でかつ、延性や疲労特性、剪断強度などの他の材料特性とのバランスに優れたチタン合金ファスナー材が製造可能である。さらには、1150MPa以上の高強度を必要としない場合においても、本願発明のミクロ組織と成分系を有する合金において頭部の成形方法やネジ部の加工方法を用いることによって、延性や疲労特性、剪断強度などの他の材料特性とのバランスに優れたチタン合金製ファスナー材が製造可能である。
【0055】
【発明の効果】
本願発明により、太径のファスナー材においても、高強度でかつ、延性や疲労特性、剪断強度などの他の材料特性とのバランスに優れたチタン合金ファスナー材を提供することができ、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】初析α相の平均結晶粒径と疲労特性との関係を示す図である。
【図2】ネジ部加工の際の加工硬化による硬度分布の発生状況を示す図である。
【図3】実施例1において、各種チタン合金における引張強度と伸びとの関係を示す図である。
【図4】実施例1において、各種チタン合金における引張強度と剪断強度との関係を示す図である。
【図5】実施例3において、ネジ部加工条件の最適化により、ネジ加工時の加工硬化を抑制し、硬度分布の発生が防止されている結果の一例を示す図である。
Claims (5)
- 化学成分が、質量割合で、Alを4.0%以上5.0%以下、Vを2.5%以上3.5%以下、Feを1.5%以上2.5%以下、Moを1.5%以上2.5%以下含有し、残部Ti及び不可避的不純物からなり、ミクロ組織がα+β型であり、初析α相の体積分率が10%以上90%以下、初析α相の結晶粒径が10μm以下であることを特徴とするチタン合金ファスナー材。
- 溶体化処理と時効処理を施して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施すことを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法。
- 溶体化処理と時効処理を施し、さらにネジ部を転造によって造形して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施した後、ネジ部を転造によって造形する際に、Tβ-450℃以上Tβ-200℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間保ち、ネジ部の加工をすることを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法。
- 頭部を成形した後、溶体化処理と時効処理を施し、さらにネジ部を転造によって造形して、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、頭部を成形する際に、Tβ-250℃以上Tβ-30℃以下に加熱して頭部を成形し、その後Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施した後、ネジ部を転造によって造形する際に、Tβ-450℃以上Tβ-200℃以下の温度域に5秒以上20分以下の時間保ち、ネジ部の加工をすることを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法。
- 頭部を成形した後、さらに溶体化処理と時効処理をして、請求項1に記載のチタン合金ファスナー材を製造するにあたり、β変態点がTβ(℃)であるチタン合金棒材に対して、頭部を成形する際に、Tβ-250℃以上Tβ-30℃以下に加熱して頭部を成形し、その後Tβ-80℃以上Tβ-30℃以下の温度域において溶体化処理を施した後、該チタン合金棒材の直径D(mm)と冷却速度CR(℃/sec)との間にlog CR≧-0.252 log D-0.03の関係を保ちつつ冷却し、その後さらに、Tβ-400℃以上Tβ-300℃以下の温度域において1時間以上8時間以下の時効処理を施すことを特徴とするチタン合金ファスナー材の製造方法。
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