JP2005320630A - 冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼、高強度成形品並びにそれらの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 冷間圧迫等を含む冷間加工による成形に供される鋼、特に鋼線及び棒鋼およびそれらを利用したねじやボルト等の高強度品に関し、球状化焼なまし等の軟化処理を施さなくても十分な冷間加工性を具備し、しかもこれを冷間加工成形した後に所要の極めて高強度の機械的特性を付与するために、焼入・焼戻し処理を施す必要がなく、しかも耐遅れ破壊特性も確保された高強度鋼の鋼線又は棒鋼、これらからの成形品とその製造方法を提供する。
【解決手段】 C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下である鋼塊
、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に加工温度が350〜800℃の範囲内で温間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下の材料を調製し、次いで冷間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が500nm以下のフェライト組織を形成させる。
【選択図】 図6

Description

この出願の発明は、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼、これらの鋼線又は棒鋼の特性を利用したねじやボルト等の高強度成形品、並びに、これらの鋼線又は棒鋼と成形品の製造方法に関するものである。
従来、鋼線又は棒鋼を冷間圧造、転造、切削加工等の冷間加工により成形して製造するねじやボルト、その他の高強度の機械構造用部品は熱間加工により製造された鋼線材を冷間加工により所望の線径の鋼線に加工した後に、得られた鋼線を700℃程度の温度で十数時間から一昼夜程度の長時間に及ぶ加熱により、金属組織中のセメンタイトを球状化させる、いわゆる球状化焼なまし処理を施し、材料を軟化させて冷間圧造等の冷間加工性を向上させた後に、各種用途の製品形状に成形加工している。
このようにして加工された従来の成形品の場合には、上記軟化処理により最終製品として必要な強度が満たされていないので、これに焼入・焼戻し等の調質処理を施すことが必要とされている。また、適宜に表面処理が施された場合には、たとえば、めっき処理においては侵入した水素を除去するために200〜300℃の低温度において、4〜5時間程度の加熱(ベーキング)処理が行われることが多く、あるいは200℃程度の低温度で4時間程度の応力除去焼なまし処理が施されることもある。
このように、従来のねじ及びボルト等の締結部品又は軸類等、高強度の機械構造用部品の製造工程では、(1)素材に対する事前の軟化処理の必要性、および(2)冷間加工後の成形品に対する調質処理や仕上げ処理の必要性の問題点があった。このため、製造に長時間を要すると同時に工程が複雑であり、熱エネルギーの損失が大きく、また生産性が低く、熱処理費用の増加及び納期管理等の点においても問題があった。
そこで上記の(1)軟化処理の問題を解決するために、熱間加工により製造された鋼線材の冷間圧造性を向上させるために、通常行なわれている鋼線材に対する球状化焼なましを行なうことなく、冷間加工性に優れた冷間圧造用鋼を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。この技術では鋼中のCをセメンタイト生成温度よりも高温においてFe3C以外の炭化物として生成させることにより、鋼中の固溶C量を実質的に低減さ
せ、変形抵抗、変形能を阻害するセメンタイト、ひいてはパーライトの生成を抑制する一方、初析フェライト量を大幅に増加させて冷間加工性を大幅に向上させるようにしている。
しかしながら、この方法では球状化焼なまし処理を省略することはできるが、得られる鋼線の引張強さは500MPaまでしか到達しないので、冷間圧造により得られる成形品として高強度が要求される場合には、焼入・焼戻し等の調質処理を必要とするという問題があった。また、鋼中のCをFe3C以外の炭化物として生成させるためには、比較的高
価な合金元素であるV添加を要する等、コスト上昇をもたらすという問題がある。
一方、(2)冷間加工後の調質処理や仕上げ処理の問題を解決する方策として、冷間圧造を含む成形をして製品形状にした後には、焼入・焼戻し等の調質処理を施す必要がなく、最終製品を製造することができる素材としての鋼線が提案されている(例えば、特許文献2)。この方法は使用する素材として、金属組織が焼入・焼戻し組織を有し、降伏強度と加工硬化指数との積が特定の条件範囲を満たし、所定の圧縮試験において亀裂が発生し
ないような材料を選定するというものである。しかしながら、六角ボルト等に冷間圧造するための素材となる鋼線に対して、長時間の球状化焼なまし処理を施すことは不要になるものの、冷間圧造をする前の鋼線に対する焼入・焼戻し処理を施すことが必要であるという問題がある。
以上のような状況において、この出願の発明者は上記いずれの問題点をも解決して、冷間加工前に行なう球状化焼なまし等の軟化処理、そして冷間加工後に行なう調質処理をともに省略できる方法を既に開発している(特許文献3)。
この方法は、C:0.45質量%未満の鋼片又は鋼材に対して、圧延温度が350〜800℃の範囲内において、所要のひずみを導入する温間でのカリバー圧延を行なうことにより、圧延方向に垂直な断面の平均粒径が1〜2μm以下のフェライト組織を主相とする鋼を製造することを特徴としている。
これによって、焼入、又は焼入・焼戻し処理を施すことなく、その機械的性質として引張強さが800MPa以上で、且つ絞りが70%以上を有する冷間圧造性に優れた鋼を実現可能とし、この鋼を用いることで、事前に軟化処理を施すことなく冷間圧造を含む冷間加工を行ない、得られた成形品に対して調質処理を施すことなく、強度に優れたねじ及びボルト等の成形品を製造することを可能としている。そして、この出願の発明者は上記のとおりの技術を踏まえ、この技術により得られる鋼が有する優れた特性と効果とを確保すると共に、冷間加工性を高水準に保持しつつ、さらに一段と高強度な鋼を製造可能とすることを検討してきた。製造すべき鋼の機械的性質の特性に関し、その引張強さTSの目標値を少なくとも800MPa以上と設定し、しかも、発明者による上記提案(特許文献3)において目標とした引張強さTSの600MPa以上(望ましくは800MPa以上)という水準を著しく大きく超えた領域まで(1000MPa以上、更には1200MPa以上、そして更には1500MPa以上まで)到達することができ、且つ、同じく目標とした絞りRAの65%以上(望ましくは70%以上)という水準とほぼ同じ水準の絞りRAを維持すること、望ましくはこれらを超えること、と設定した。
なお、引張強さTSの目標値を少なくとも800MPa以上と設定したのは、例えば、JIS規格のM1.6なべ小ねじで、強度区分が8.8程度以上の、高強度のねじといった締結部品を安定して製造できるようにするためである(強度区分の表記「8.8」は、左側の「8」が呼び引張強さ800MPaの1/100の数値を、右側の「8」が呼び下降伏点又は呼び耐力640MPaと呼び引張強さ800MPaとの比の10倍の数値を表わし、両者を「.」で挟んで表記したものである。)。
また発明者は上記提案(特許文献3)において、冷間加工性の水準が極めて高水準を要求されるものとして、上記M1.6なべ小ねじの頭頂部十字リセスの圧造成形(ヘッダー成形)が良好であるためには、当該ねじの成形に供する鋼線の絞りRAが70%以上であることが望ましいことを提示していることから、上記提案での鋼線の引張強さと絞りRAとの優れた強度−延性バランスの望ましい目標である、TS≧800MPa、且つRA≧70%を更に上回る強度−延性バランスをも達成することをも一層望ましい目標とした。具体的には、
ケース1:TS≧1000MPa、且つRA≧70%、
ケース2:TS≧1200MPa、且つRA≧65%、
ケース3:TS≧1500MPa、且つRA≧60%
を備えた鋼線又は棒鋼を得ることである。
このように、引張強さTSが高水準で且つ、引張強さTSと絞りRAで代用される強度−延性バランスが高水準の特性を備えた鋼線又は棒鋼であれば、ねじやボルト等の締結部
品の他、更に軸類のように、従来主として切削加工により成形加工されている部品の製造に対しても、冷間圧造による成形が容易となり、鋼線又は棒鋼から高強度軸類への成形加工歩留りの飛躍的な向上(従来水準は、一般的には60〜65%程度と低い)をさせることが可能であることが判明していたからである。
特開2000−273580号公報 特開2003−113422号公報 特願2003−435980号公報
この出願の発明は、上記のとおりの背景から、発明者によるこれまでの検討を踏まえて、冷間圧造等を含む冷間加工による成形に供される鋼、特に鋼線及び棒鋼に関し、球状化焼なまし等の軟化処理を施さなくても十分な冷間加工性を具備し、しかもこれを冷間加工成形した後に所要の極めて高強度の機械的特性を付与するために、焼入・焼戻し処理を施す必要がなく、しかも耐遅れ破壊特性も確保された高強度鋼の鋼線又は棒鋼、これらの特性を利用したねじやボルト等の成形品、そしてこれらの製造方法を提供することを課題としている。
この出願の発明は発明者による次のような検討と新たに得られた知見に基づいて、課題を解決したものである。すなわち、新たに開発すべき鋼の鋼線あるいは棒材として前記のとおりの機械的特性値の目標値を達成するためには鋼線又は棒鋼を製造するための素材として、その機械的特性が既に可及的に高強度且つ高延性を具備した鋼を用いることが極めて効果的であること、そしてその際、この高強度且つ高延性を具備させる手段としては、当該素材の結晶組織を微細粒フェライトに調整した微細組織鋼を用いることにより、高強度付与のための高価な元素添加も不要であることを予想し、また素材としては発明者による上記提案(特許文献3)で得られている鋼を用い、これに冷間加工を施すことにより更に高強度の鋼を得ることが可能であるとの観点から、素材の化学成分組成の検討を進め、高強度鋼の製造工程においては、セメンタイトを軟化させるための球状化焼なまし処理を施す必要がないこと、マルテンサイト変態をさせるための焼入れ処理も施す必要がないこと、しかも可及的に高延性を確保するために有効な成分設計とすべきであること、という重要な冶金的特徴に注目した。その結果、高強度鋼の製造工程においては、その如何なる段階においても、通常は「鋼の標準組織」で現出するセメンタイトの生成を、実質的に皆無に抑制することが効果的であることを知見したものである。
そして実際に、化学成分組成として、オーステナイト結晶領域に属する温度域から通常の空冷によりセメンタイトが実質的に生成することのない成分を有する炭素鋼の鋼片、例えば、C含有量が0.004質量%の極低炭素鋼片を、550℃に加熱した後、圧延温度450〜530℃において、カリバーロールにより多方向に多パスの温間圧延で、総減面率が95%となるように調整した圧延を行なって、圧延方向に垂直断面におけるフェライトの平均粒径が、例えば0.8μmという微細粒鋼線材を調製した。
この鋼線材を冷間引抜き加工により各種水準の線径に伸線し、得られた鋼線について総減面率と鋼線の引張強さTS及び絞りRAとの関係を試験した結果、フェライト組織を、当該素材の長手方向に垂直な断面におけるフェライトの平均粒径で、少なくとも3μm以下の微細粒組織鋼としておき、このような素材に対して冷間加工を施し、結晶組織を一層微細化することにより、引張強さTSが確実に上昇すると共に、絞りRAの低下は極めて小さく抑えることが可能であることを見出した。その際、冷間加工量としては、僅かな加工歪みを与えるだけでも、引張強さTSの上昇はかなり大きいこともわかった。更に、この現象は、鋼の化学成分として、鋼の強度上昇のために特別な元素を添加する必要がない
こともわかった。
このように、鋼の化学成分組成の内、特にC含有量に注目し、C含有量が極めて低い鋼であっても、適切な冷間加工歪みを付与することにより、著しく高強度の鋼が得られることを知見した。特に、Ae1温度におけるフェライト中のCの固溶限濃度(CA1)未満
のC含有量の鋼においては、セメンタイトフリーのフェライト組織となるが、このような極低炭素鋼であっても、適切な冷間加工歪みを与えることにより、1000〜1500MPaまでの引張強さTSを有する鋼を製造でき、しかもその際の絞りRAも相当高水準に確保することができることをも知見した。一方、上記冷間加工後に得られるこのような引張強さTSと絞りRAの優れたバランスを備えた鋼は、冷間加工後の材料における長手方向に対する垂直断面における結晶粒径を超微細化された組織に制御することが極めて重要である。この結晶の平均粒径について、本発明者等は鋭意研究の結果、下記事項を見出した。
即ち、一般的に冷間加工された材料のフェライト粒は結晶粒が分断されて新たな結晶粒界が生成する等して、加工後の粒の形態は複雑である。結晶粒が10μm程度以上の場合は結晶粒が分断され新たな結晶粒界が生成する。これに対して、本願発明者等は鋭意試験研究を重ねた結果、適切な温間加工後の材料の結晶粒径が100〜0.5μmにあるならば、結晶粒の形は、その材料から冷間加工を施された後の材料(鋼)への単純な幾何学的変形に依存して変形し、結晶粒は成長しないという法則を見出したのである。
上記の課題を解決するものとして、この出願は、まず、以下の第1〜第11の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の発明を提供する。
第1には、鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下で、セメンタイトフリーのフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
ただし、ここで、セメンタイトフリーとは、後述するように、TEM(透過電子顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)等により、容易に認められない程度をいう。この明細書のこの発明に係る記述においては同じである。
第2には、C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下であって、鋼
線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第3には、C含有量が0.010質量%以下であって、鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第4には、引張強さTSが900MPa以上とされていることを特徴とする第1から第3のいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第5には、引張強さTSが1000MPa以上で且つ絞りRAが70%以上とされていることを特徴とする第1〜3のいずれか冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第6には、引張強さTSが1200MPa以上で且つ絞りRAが65%以上であることが付加されていることを特徴とする第5の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第7には、引張強さTSが1500MPa以上で且つ絞りRAが60%以上であることが付加されていることを特徴とする第5の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第8には、硬さがビッカース硬さHvで285以上であることを特徴とする第1から第3のいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第9には、フェライト組織の平均粒径は、200nm以下であることを特徴とする、第1から第8のいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第10には、Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもが不可避的含有量以上に含有されていないことを特徴とする第1から第9のいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
第11には、Si含有量が1.0質量%以下で且つMn含有量が2.0質量%以下とされていることを特徴とする第1から第10のいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供する。
このような知見を踏まえているこの出願の上記第1の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼においては、その鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面(C方向断面)において、平均粒径が500nm以下であって、セメンタイトフリーのフェライト組織を有している。ここで、セメンタイトフリーとは、Fe3C、及びFe3CのFe元素の一部がCrやMo等の元素Mで置換されたFe(3-X)XCも含めて、実質的に認められないという意味である。このようなセメンタイトが認められないかどうかを厳密に判定することは通常は容易でない。従って、この出願の発明においては、TEM(透過電子顕微鏡)やSEM(走査電子顕微鏡)等により容易に認められない程度であればよいものとする。
この程度であれば、この出願の発明の課題解決に支障をきたすことはないからである。また、フェライトの平均粒径とは、例えば、TEMの明視野像から、粒界に囲まれた領域の真円相当直径、JISに規定された切断法又は線分法、その他これらと同等の方法であればいずれによって測定されたものであってもよい。また、フェライト粒径の観察面は、C方向断面に限定しなくても、実質的にC方向断面における平均フェライト粒径を測定することができればよいものとする。例えば、鋼線又は棒鋼の長手方向に平行な断面(L方向断面)において、そのC方向断面における粒径測定を行なってもよい。
第2の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、C含有量がAe1点におけ
るフェライト相の炭素の固溶限以下であって、鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有している。上記第1の発明においては、鋼線又は棒鋼のC含有量を直接規定するものではないが、第2の発明では、C含有量を金相学的に規定している。
第3の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、C含有量が0.010質量%以下であって、鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有している。C含有量を直接0.010質量%以下に規定することにより、炭素鋼あるいは低合金鋼にあってもセメンタイトフリーとなる点において、上記第1または第2の発明とは異なっている。
そして第4の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼は、上記第1〜第3のいずれかの発明において、更に引張強さTSが900MPa以上である条件が付加されている。即ち、この請求項の鋼線又は棒鋼は、極低炭素鋼又は極低炭素低合金鋼であるにもかか
わらず、引張強さTSで900MPa以上なる高強度を有するものである。
また、第5〜第7の発明は、上述した発明において、さらにTSとRAとをペアにして優れたバランスを備えた機械的特性を規定するものであり、
第5の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、上記第1〜第3のいずれかの発明において、更に引張強さTSが1000MPa以上で、且つ絞りRAが70%以上である条件が付加されている。
第6の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、上記第5の発明において、更に引張強さTSが1200MPa以上で、且つ絞りRAが65%以上である条件が付加されている。
そして、第7の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、上記第5の発明において、更に、引張強さTSが1500MPa以上で且つ絞りRAが60%以上である条件が付加されている。
第8の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼では、上記第1〜第3のいずれかの発明において、更に、硬さがビッカース硬さHvで285以上である条件が付加されている。上述した第4の発明において、引張強さTSを900MPa以上である条件で規定する代わりに、ビッカース硬さHvが285以上である条件を付加したものとなっている。
第9の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼は、以上の第1〜第8のいずれかの発明において、上述したフェライト組織の平均粒径を更に小さく規定して、200nm以下であることに特徴を有している。
第10の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼は、第1〜第9のいずれかの発明において、その鋼線又は棒鋼には更に、Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもが、不可避的含有量以上には含有されていないことが成分組成の条件として付加されている。即ち、この発明は、Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもの合金元素も意図的に添加していないものであるから、極低炭素鋼が成分組成の基本となっているものである。
そして、第11の発明の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼は、第1〜第10のいずれかに記載の発明において、その鋼線又は棒鋼には、更にSi含有量が1.0質量%以下で且つMn含有量が2.0質量%以下であることに特徴を有するものである。即ち、この発明は、Ae1点におけるフェライト相の炭素の固溶限を増加させるSi及びMn含有
量の上限値を規定することにより、鋼線又は棒鋼のC含有量の上限規定値の上昇を抑制するとの主旨によるものである。
上記のようなこの出願の発明の鋼線又は棒鋼の特徴を生かしたものとして、この出願は第12〜24の発明は高強度成形品を提供する。
第12には、任意方向断面のうちの少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下でセメンタイトフリーのフェライト組織を有する高強度成形品を提供する。
第13には、C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下であって、
任意方向断面の内の少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有する高強度成形品を提供する。
第14には、C含有量が0.010質量%以下であって、任意方向断面の内の少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有する高強度成形品を提供する。
第15には、引張強さTSが1000MPa以上であることを特徴とする上記第12から第14のうちのいずれかの高強度成形品を提供する。
第16には、引張強さTSが1500MPa以上であることを特徴とする上記第15の高強度成形品を提供する。
第17には、硬さがビッカース硬さHvで285以上であることを特徴とする上記第12から第14のうちのいずれかの高強度成形品を提供する。
第18には、硬さがビッカース硬さHvで300以上であることを特徴とする上記第17の高強度成形品を提供する。
第19には、フェライト組織の平均粒径が、200nm以下であることを特徴とする上記第12から第18のうちのいずれかの高強度成形品を提供する。
第20には、Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもが、不可避的含有量以上に含有されていないことを特徴とする上記第12から第19のうちのいずれかの高強度成形品を提供する。
第21には、Si含有量が1.0質量%以下で且つMn含有量が2.0質量%以下であることを特徴とする上記第12から第20のうちのいずれかの高強度成形品を提供する。
第22には、上記第1から第11のうちのいずれかの冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼から製造されたことを特徴とする高強度成形品を提供する。
第23には、成形品は冷間圧造、冷間鍛造及び/又は切削加工により製造されたことを特徴とする上記第22の高強度成形品を提供する。
第24には、成形品は、焼入・焼戻し処理が施されていないことを特徴とする上記第12から第23のいずれかの高強度成形品を提供する。
さらに、この出願の第25〜38の発明は冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法を提供する。
第25には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、セメンタイトフリーのフェライト組織を有する鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に温間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下である材料を調製し、次いで冷間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が500nm以下のフェライト組織を形成させる方法を提供する。ここで、上記鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に温間加工を施して得られる材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下であるとは、結晶粒の形態が、等軸粒と伸長粒とが混在していてもよい。
第26には、成形品は、温間加工を施した後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が、0.8μm以下であることを特徴とする第25の方法を提供する。
第27には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、化学成分組成
の内、C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下である鋼塊、鋳片、
鋼片又は鋼材半成品(以下、鋼塊及び鋼片等)に温間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下の材料を調製し、次いで冷間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が500nm以下のフェライト組織を形成させることを特徴とする方法を提供する。なお、ここで、鋼塊及び鋼片等のC含有量を直接規定するものではないが、C含有量を金相学的に規定するものである。
第28には、成形品は、温間加工を施した後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が、0.8μm以下であることを特徴とする第27の方法を提供する。
第29には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第27又は28の方法において、そのC含有量として、0.010質量%以下であるとの条件を付したものであることを特徴とする方法を提供する。
これは、C含有量を直接0.010質量%以下に規定することにより、炭素鋼あるいは低合金鋼にあってもセメンタイトフリーとなる点において、上記第25および第27の方法とは異なっている。
第30には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第29のいずれかの方法において、その冷間加工を施した後におけるフェライト組織の平均結晶粒径を、200nm以下と一層微細粒とする方法を提供する。
第31には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第30のいずれかの方法において、その温間加工の温度を350〜800℃の範囲内に制御し、圧延及び/又は鍛造により材料中へ導入されて残留する塑性ひずみが、3次元有限要素法で計算されるその材料中への平均塑性ひずみで0.7以上となる加工を上記鋼塊及び鋼片等に対して施す方法を提供する。3次元有限要素法による材料中への残留塑性ひずみの計算は公知の方法により行うことができる。
第32には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第30のいずれかの方法において、その温間加工の温度を350〜800℃の範囲内に制御し、圧延及び/又は鍛造により、下記(1)式:
R={(S0−S)/S0}×100 ・・・・・・(1)
但し、R:鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に対して施される総減面率(%)
0:温間加工開始直前の鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品のC方向
断面積
S:温間加工開始直前の鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品のC方向
断面積
で表わされる総減面率Rが50%以上となる加工を上記鋼塊及び鋼片等に対して施す方法を提供する。
第33には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第32のいずれかの方法において、その温間加工を、複数パスで且つ複数方向に施す方法を提供する。
第34には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第33のいずれかの方法において、その冷間加工の温度を350℃未満に制御し、圧延及び/又は引抜きにより材料中へ導入されて塑性ひずみが、3次元有限要素法で計算される材料中への平均塑性ひずみで0.05以上となる加工を、上記温間加工された材料に対して施す方法を提供する。
第35には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第33のいずれかの方法において、その冷間加工の温度を350℃未満に制御し、圧延及び/又は引抜きにより、下記(2)式:
R’={(S0’−S’)/S0’}×100 ・・・・・・(2)
但し、R’:温間加工された材料に対して施される総減面率(%)
0’:冷間加工開始直前の材料のC方向断面積
S’:冷間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
で表わされる総減面率R’が5%以上となる加工を、上記温間加工された材料に対して施す方法を提供する。
第36には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第33のいずれかの方法において、その冷間加工は、温間加工後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径dを予め推定乃至測定しておき、この材料に対して圧延及び/又は引抜きを施すものであって、冷間加工温度を350℃未満に制御し、この冷間加工後の材料として、その長手方向に垂直な断面における目標平均結晶粒径daimを有する材料を得るために、総減面率R’が、下記(3)式:
R’={1−(daim/d}×100 ・・・・・・(3)
但し、R’(%)は下記(2)式:
R’={(S0’−S’)/S0’}×100 ・・・・・・(2)
0’:冷間加工開始直前の材料のC方向断面積
S’:冷間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
で定義する、
が満たされるように冷間加工条件を設定することにより、冷間加工後の材料の結晶粒径を目標値に近くなるように制御する方法を提供する。
ここで、上記温間加工後の材料の平均結晶粒径dを予め推定乃至測定しておくためには、鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品の化学成分組成と温間加工条件との組合せにより得られる温間加工後材料における平均結晶粒径dを、所定の方法で測定しておくことにより、把握しておけばよい。
第37には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第36のうちのいずれかの方法において、上記温間加工及び冷間加工のいずれの工程中にも、球状化焼なまし処理及び/又は焼入・焼戻し処理を行なわない方法を提供する。ここで上記温間加工及び冷間加工の工程において、例えば、300〜400℃以下程度の低温における短時間の熱処理は、排除するものではない。
第38には、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法として、第25から第37のいずれかの方法において、上記冷間加工後に350〜600℃の範囲内における焼なまし処理を行なう方法を提供する。
また、この出願の第39から41の発明は、高強度成形品の製造方法を提供する。
第39には、上記の第25から第38のいずれかの製造方法により製造された冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を用いて、冷間圧造、冷間鍛造及び切削加工の内のいずれか一つ以上の工程により、高強度成形品を製造する方法を提供する。
第40には、上記第39の方法において、成形品に焼入・焼戻し処理を施さずに高強度成形品を製造する方法を提供する。
第41には、上記第39又は第40の方法において、上記成形品に応力除去焼なまし処理及び/又はベーキング処理を施さない高強度成形品を製造する方法提供する。
従来、相変態を伴わずに結晶粒を超微細化して、鋼の機械的特性、特に強度及び延性を向上させるための温間加工技術によると、その粒径の最小値は精々0.5μm程度が限界であった。これに対して、本願発明によれば、1)温間加工技術により、サブミクロンオーダーにまで超微細化されたセメンタイトフリーの材料に対して、更に冷間加工を施すことにより、材料の長手方向に垂直な断面組織の平均粒径において一層の超微細粒化が可能となる。2)また、こうして得られる鋼材の結晶粒径の制御は、上記温間加工後に得られた材料の結晶粒径を予め把握しておくことにより、前述した(3)式が満たされる圧延条件の設定という極めて実用的で且つ安定した容易な操業条件により実現可能である。
しかも、冷間加工の開始時の被加工材の断面寸法が小さくても当該被加工材の結晶粒径が小さければ、冷間加工におけるRをそれほど大きくしなくても、十分に微細な粒径の材料を得ることが可能となる。3)さらに、この出願の発明では、工業生産上の観点からも極めて優位に作用し、設備的にも、生産能率的にも、また小断面寸法の鋼材(鋼線又は棒鋼)の製造上からも効果的である。
このようにして製造される鋼線等の鋼材は、引張強さTSが極めて上昇すると共に高水準の絞りRAが維持される。従って、本願発明により冷間圧造、転造及び/又は切削加工等の冷間加工により成形して製造する高強度のねじやボルト、その他の締結部品や軸類等の成形品を製造する工程において、先ず、素材とする鋼線や棒鋼に対して材料を軟化させるために十数時間以上の長時間加熱を要する球状化焼なまし処理を施す必要がなくなるという効果を有している。
4)このように、この出願の発明は、このような素材を用いて冷間加工により製造される上記各種の成形品に対しては、所要の機械的性質を付与するための焼入・焼戻し処理を施す必要がなく、また成形品の強度は、極めて優れたものとなり、耐遅れ破壊にも優れたものとなる。かくして、素材から鋼材、更に成形品を製造するまでの現有設備による対応、工程管理の簡素化、製造所要時間の短縮化、省エネルギー化及び製造コストの削減化に寄与することができる、鋼線材等の鋼材、並びに、締結部品、軸類等の成形品の製造技術を提供することができ、工業上極めて有益な効果がもたらされる。
この出願の発明の効果を具体的に示すと下記の通りである。
この出願の第1〜第11の発明は、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を提供することができる。
また、この出願の第12〜24の発明は、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の特徴を生かしたものとしてねじやボルト等の高強度成形品を提供することができる。
さらに、この出願の第25〜38のは、冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法を提供することができる。
そして、この出願は、第39から41の発明は、ねじやボルト等の高強度成形品の製造方法を提供することができる。

この出願の発明は上記のとおりの構成とそれにかかわる特徴を有するものである。そこで、次に、本願発明の実施形態について詳しく説明する。
(1)化学成分組成の規定と結晶組織及びその粒度
この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼及び高強度成形品の化学成分組成は、金属結晶組織の主相が、実質的にセメンタイトフリー、C含有量がAe1
におけるフェライト相の炭素の固溶限以下、又はC含有量が0.010質量%以下であって、且つ当該鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面(C方向断面)における平均粒径が500nm以下のフェライトであれば炭素鋼成分及び低合金鋼成分のいずれであってもよい。特に、この出願の発明においては、焼入れ処理によりマルテンサイト変態を起こさない化学成分組成であってもよいことが重要な特徴である。その理由は、この出願の発明の製造方法に係る構成要件を満たしていれば、目標とする引張強さ800MPa以上、望ましくは900MPa以上、更に望ましくは1200MPa以上、そして更に望ましくは1500MPa以上が得られ、しかもこれら引張強さに応じて絞りRAも高水準に維持された鋼が得られるからである。
このように、高強度で且つ高延性という両者のバランスに優れた機械的特性が得られるのは、冷間加工性を劣化させる要因である硬質なセメンタイトが実質的に生成していない点に大きく依存している。
なお、この出願の発明に係る鋼線又は棒鋼あるいは成形品においては、実質的にセメンタイトフリーであるか否かの判断は、実際問題としては必ずしも容易ではない。そこで、日常操業において実際的なC含有量の定量分析値により推定することができる。そこで、この出願の発明では、金相学的判断からC含有量がAe1点におけるフェライト相中の炭
素の固溶限以下であると規定している。更には、通常の低合金鋼の成分系においては、セメンタイトが生成しないと考えられるC含有量の範囲として、0.010質量%以下に規定している。
上記において、Ae1点におけるフェライト相中の固溶C濃度(質量%)以下となって
いるために、実際的にセメンタイトフリーの組織となっている。
炭素鋼及び低合金鋼のいずれにおいても、この実際的にセメンタイトフリーが得られるC濃度(質量%)は、例えば公知の計算ソフト「Thermo−calc」を用いて推定することができる(「Thermo−calc」は、平衡状態にある計算であるが、実際の製造時の冷却条件は、平衡状態ではないので、完全に推定できるとはいえない)。
このように、この出願の発明においては、セメンタイトフリーのフェライト組織を有する鋼材において、上述したような高強度を有し、且つ冷間加工性にも優れている材料(強度と加工性とのバランスに優れた高強度鋼)の設計が可能となる。従来、このような成分設計による冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼が実現された例は見当たらない。一方、材料中のセメンタイトの生成をより確実に抑止するため、また合金元素の多量添加による製造コストの上昇を抑制するために、Si含有量を1.0質量%以下で且つMn含有量を2.0質量%以下に制限することが一層望ましい。
この出願の発明においては、上述した通り高強度特性を得るための基本原理として、セメンタイトフリーの鋼であることを重視するものである。そこで、上記化学成分組成の規定に際しても、合金元素の添加に依存させることは、必要ではない。そこで、焼入れ性向上を促進させる元素、例えばCr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれについても、敢えて添加する必要が無い。そればかりか、上記合金元素は製造コスト低減上からも添加しないことが望ましい。従って、上記元素はいずれも、鋼の精錬・溶製工程におい
て不可避的に混入する以上の含有量は無い方が望ましい。更に、この出願の発明では特に規定するものではないが析出強化に有効な元素であるTiやNb、その他の合金元素も添加するには及ばない。
この出願の発明のセメンタイトフリーの成分系により、十分な引張強さを確保することができるからであり、製造コストの低減にも役立つ。
上記のように、この出願の発明に係る鋼(鋼線又は棒鋼、及び成形品)のC含有量は、基本的にセメンタイトフリーとなるように設計されている。従って、当該鋼の標準組織は常にフェライト組織となる。
なお、以上の化学成分組成の規定に関して、鋼線又は棒鋼、ねじ及びボルト等に代表される成形品、並びに鋼塊及び鋼片等のいずれについても、C、Si、Mn、Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNb以外の成分元素である、脱酸剤としてのAl及びCa、これらを除く各有価元素、並びに通常は、有害不純物として扱われるP、S及びN等については、それらの含有量を規定しないが、脱酸元素については従来の精錬、鋳造技術上必須水準の含有量を確保すべきであり、通常不純物として扱われる元素については不可避的混入含有量に制限すべきであって、特に超低含有量に制限すべきではなく、その他有価元素については、特に含有量を制限するものではないが含有させる必要はない。これにて、この出願の発明は、その課題を十分に解決し得るからである。
(2)フェライトの平均粒径、並びに引張強さTS、絞りRAの規定
フェライトの平均粒径の規定は、この出願の発明に係る鋼線又は棒鋼、及びねじ及びボルトに代表される成形品のいずれにおいても該当するものであり、それらの長手方向に垂直方向の断面(C方向断面)において、500nm以下に規定するものである。このようにフェライトの平均粒径を規定するのは、鋼線又は棒鋼、及び成形品の引張強さを、前述した目標値である800MPa以上、望ましくは900MPa以上、更に望ましくは1200MPa以上、そして更に望ましくは1500MPa以上の優れた特性を得るためであり、しかも当該引張強さTSの各水準に応じて、絞りRAも高水準に維持された両者の優れたバランスを有する鋼を得るためである。ここで、この引張強さTSと絞りRAとのバランスとは、前述した如く下記に示す通りのバランス:
ケース1:TS≧1000MPa、且つRA≧70%、
ケース2:TS≧1200MPa、且つRA≧65%、
ケース3:TS≧1500MPa、且つRA≧60%
である。
このように引張強さTSと絞りRAとのバランス要件を規定することが望ましい。このように規定をするのは、成形品の加工に際し、加工合格歩留りの向上や、従来実現されていなかった品質水準の成形品の供給を可能とするためである。更に、上記フェライトの平均粒径を200nm以下にまで微細にすれば、この出願の発明に係る鋼の上記機械的性質を一層容易に且つ安定して得ることが可能となり、一層望ましい。なお、ねじ及びボルトに代表される成形品においては、任意方向断面の内の少なくとも1断面における平均粒径は、線材又は棒鋼におけるC方向断面における平均粒径とほぼ同じであるとみなすことができる。そして、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼の製造方法によれば、従来実現された例が見当たらない、低炭素鋼乃至極低炭素鋼における上述したような高強度を有し、且つ加工性にも優れている材料(強度と加工性とのバランスに優れた高強度鋼)の設計が可能となった。このような材料設計に基づき、更に強度と加工性とのバランスに優れた高強度鋼の新規開発の可能性が期待される。
(3)硬さの規定
この出願の発明に係る鋼線又は棒鋼においては、引張強さTSに代わる強度特性として硬さで表示した規定を設定してもいる。この硬さとしては、ビッカース硬さHvで285以上であることが望ましい。ビッカース硬さHvが285以上であれば、引張強さがほぼ900MPa確保されるからである。一方、この出願の発明に係るねじ又はボルトに代表される成形品においては、その形状如何により引張試験片の調製が容易でないこともある。そこで、引張強さの代わりの機械的特性として硬さによる規定を十分にしておくべきである。このような観点から、ねじ又はボルトに代表される成形品に対しては、引張強さの代替として硬さによる規定をし、ビッカース硬さHVで285以上であることが望ましく
、更に望ましくはビッカース硬さHvで300以上であることがよい。
次に、上述した特徴を有するこの出願の発明に係る鋼線又は棒鋼、及び成形品の製造方法の実施の形態及びその限定理由について述べる。
(4)この出願の発明に係る製造方法の基本的構成(温間加工+冷間加工なる組合せ工程の規定)
この出願の発明に係る製造方法の基本的特徴は、まず、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた鋼線又は棒鋼を製造するために使用する素材の製造方法として、所定の材料に対して適切な条件下での温間加工を施し、この温間加工により微細粒組織鋼を調製する。ここで得られる材料の結晶粒径は、できるだけ小さいことが望ましく、具体的には温間加工方向に垂直な断面(C方向断面)における平均粒径で、3μm以下であることが必要である。次いで、このような材料に対して、適切な条件下での冷間加工を施すと言うものであり、この冷間加工により、冷間加工後の材料の長手方向に垂直方向の断面(C方向断面)における結晶粒が一層微細化された微細粒組織鋼を得るものである。ここで得られる微細組織は、実質的にセメンタイトフリーのフェライトであり、冷間加工が施されているので、通常は冷間加工方向に延伸した所謂バンブーストラクチャーの形態を呈するものとなる。
かくして、冷間加工性に優れた高強度鋼が得られる。その際、この冷間加工においては、上記温間加工により調製された微細粒組織鋼を素材とした場合には、材料強度が著しく上昇するにもかかわらず、極めて好都合なことには、加工性の低下が極めて小さいことが見出された。従来予想が困難であったこの新規知見が、この出願の発明の根幹を成すものである。
このように、冷間加工を施す直前において既に微細結晶粒が形成されている材料に対して、以下に述べる適切な冷間加工を施す理由は、得られた鋼に対して成形加工前に球状化焼なまし処理をする必要が無く、しかも成形加工された後においても、得られた成形品に対して焼入・焼戻し処理を施す必要が無くなるという極めて大きな利点が生じるからである。
(5)温間加工条件(加工温度、塑性ひずみ、減面率の規定)
上記冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造工程の実施の形態として、まず所定の鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に対する望ましい温間加工条件は、加工温度が350〜800℃の範囲内とすべきである。更に、その際に材料中へ導入されて残留する塑性ひずみを確保すべきである。当該塑性ひずみ量は、公知の3次元有限要素法による計算で求めることができ(その値を「ε」で表記する)、εが0.7以上であることが望ましい。このような温間加工条件を採用したのは、相変態による強化機構を実質的に利用せずに鋼の高強度化を実現する方法として、結晶粒を微細化する方法をとるためである。こうすることにより、鋼の絞りRAを所定の水準以上にすることが、冷間圧造性等の冷間加工性を優れたものにするために、極めて有効であることをこの出願の発明者等は、先に前記特許文献3に係る発明の創案において見出したのである。
上記温間加工条件において、εを指標とする代わりに、操業上比較的簡便に求めることができる材料のひずみ(この出願の発明明細書において「e」で表記する)により、実用的に代替することができる。ひずみeは、材料の総減面率Rの関数であり、下記(4)式:
e=−ln(1−R/100)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(4)
で表わされる。但し、Rは下記(1)式:
R={(S0−S)/S0}×100 ・・・・・・(1)
但し、R:鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に対して施される総減面率(%)
0:温間加工開始直前の鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品のC方向
断面積
S:温間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
で表わされる総減面率Rである。
上記(4)式及び(1)式を用いて、ε≧0.7に相当するRの値を計算すると、R≧50%が得られる。従って、温間加工においては、上記塑性ひずみε≧0.7の代わりに、材料の総減面率R≧50%を採用してもよい。
更に、一方、この出願の発明者等は、温間強加工(温間における1パスによる大ひずみ加工)によって形成される超微細粒の平均粒径は、加工温度とひずみ速度に依存することに着眼し、圧延条件パラメータとして、下記(5)式:
Z=log[(ε/t)exp{Q/(8.31(T+273))}]‥‥‥‥
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(5)
但し、ε:平均塑性ひずみ
t:圧延開始から終了までの時間(s)
Q:定数(結晶組織がbccのとき、254000J/mol)
T:圧延温度(℃)、多パス圧延の場合は各パスの圧延温度を平均し
た温度
で表わされるZener−Hollomon parameterを導入し(但し、対数形式で表記)、結晶粒径は、圧延条件パラメータZの増加につれて微細化することを知見した。図1に、圧延条件パラメータZと平均フェライト粒径との関係を例示する。即ち、図1は、Z≧11となるように圧延を制御することにより、平均フェライト粒径が1μm以下の微細粒組織が得られることを示している。従って、温間圧延温度をZ≧11を満たすように制御することにより、素材の平均フェライト粒径を3μm未満にすることが可能となる。
更に、温間加工法としては、温間圧延及び温間鍛造のいずれを採用してもよく、その際、複数バス(温間鍛造の場合は、複数回の鍛造スケジュールとする)により複数方向に加工することにより、材料内への塑性ひずみの均一化が図られるので、望ましい。
(6)冷間加工条件(加工温度、塑性ひずみ、減面率の規定)
次に、上記の通り温間加工により調製された微細粒組織を有し、高強度で且つ加工性に優れている材料に対して、予め施すべき望ましい冷間加工条件は、冷間加工温度が350℃未満であることが望ましい。加工発熱により、冷間加工中にこれよりも高い温度に達すると、引張強さの上昇度合いが低下して望ましくない。次に、冷間加工により材料中への導入される残留ひずみを、所望する引張強さに応じて確保することが必要である。このような観点から、3次元有限要素法により求められる塑性ひずみεが、少なくとも0.05以上となるように冷間加工を施すことが望ましい。これにより結晶の冷間加工組織は加工方向に延伸した形態を呈し、加工方向に対するC方向断面における粒径も細粒化されて、引張強さの上昇が確保される。その際、絞りRAの低下量は小さく抑えられる。
上記冷間加工条件において、加工量としてεを指標とする代わりに、前記(4)式により説明したひずみeを媒介することにより、ε≧0.05に相当する材料の総減面率Rを計算すると、R≧5%が得られる。従って、冷間加工においては、上記塑性ひずみε≧0.05の代わりに、材料の総減面率R≧5%を採用してもよい。
一方、冷間加工後のC方向断面におけるフェライト粒径を、所望する超微細粒に制御するためには、冷間加工における加工ひずみ量により達成することができる。この加工ひずみ量としては、実操業において使用するのが便利である、材料の加工前後におけるC方向断面の総減面率R’(%)を用いるのがよい。適切な温間加工後の材料の結晶粒径が100〜0.5μmの範囲内にあるならば、冷間加工により結晶粒の形は、単純な幾何学的変形に依存して変形し、結晶粒は成長しない。
従って、上述した冷間加工条件下において加工することにより、C方向断面の目標平均結晶粒径としてdaimを有する材料を得るためには、温間加工後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径(dとする)を予め把握しておき、総減面率R’(%)として、下記(3)式:
R’={1−(daim/d}×100 ・・・・・・(3)
が満たされるように冷間加工条件を設定すれば、所望する超微細粒に近い粒径を有する材料を得ることができる。なお、R’は下記(2)式:
R’={(S0’−S’)/S0’}×100 ・・・・・・(2)
0’:冷間加工開始直前の材料のC方向断面積
S’:冷間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
で定義するものである。
上記において、冷間加工法としては、公知の冷間伸線法及び冷間圧延法のいずれを採用してもよい。また、冷間伸線と冷間圧延を組み合わせてもよい。冷間圧延法においては、公知のコンバインドロール法によることが望ましい。冷間加工により製造される鋼の形態が鋼線又は棒鋼であれば、JIS G 3539冷間圧造用炭素鋼線の中でも、特に高強度で且つ良好な冷間加工性が要求される成形品用途や、更にはJIS G 3505硬鋼線の中でも、比較的低C含有量領域の鋼種で特に高強度で且つ良好な冷間加工性が要求される製品用途へ供することができる。
(7)鋼線又は棒鋼のひずみ取り焼なまし
なお、上述した本願発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼は、これに対して更に、350℃〜600℃の範囲内の適切な温度におけるひずみ取り焼なましを施すことにより、材料の強度及び硬さの低下が殆どなく、且つ絞りRA及び伸びElは向上する。一層優れた材質特性が備わったものとなって、冷間圧造性が向上すると共に、成形品の寸法・精度の向上効果も得られるからである。
以下、この出願の発明を実施例により更に詳しく説明する。即ち、この出願の発明の範囲内にある実施例1〜9、及びこの出願の発明の範囲外にある比較例1〜4について説明する。
[I] 実施例
[I]−(1):実施例1〜5及び実施例6〜9に共通の試験要領
この出願の発明の範囲内にある実施例1〜9を次の通り試験した。表1に示した成分No.1〜5の化学成分組成を有する各鋼を真空溶解炉を用いて溶製し、鋼塊に鋳造した。ここでの成分的特徴は、炭素Cを0.0014〜0.0109質量%というC含有量の範囲内で変化させた極低炭素鋼であること、そして成分No.4を他に比べてSi=1.01
質量%と高水準であること、成分No.5をN=0.0080質量%と他に比べて高目であることである。
得られた鋼塊を熱間鍛造により80mm角の棒鋼に成形した。これら棒鋼の金属組織はフェライトからなっており、C方向断面におけるフェライトの平均粒径は約20μm以下程度であった。上記80mm角の各棒鋼から圧延用素材を採取し、温間における多方向の多パスカリバー圧延により18mm角に成形し、水冷して棒鋼を調製した。この温間圧延は、この出願の発明に係る鋼線又は棒鋼用の素材を調製するものであり、当該温間圧延により得られる材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下となる条件で行なった。
上記の通り平均結晶粒径が3μm以下となる温間カリバー圧延の方法として、次の条件で行なった。上記熱間鍛造で成形された80mm角の圧延用素材を550℃に加熱した後、圧延温度450〜530℃の範囲内において、表2に示すように、まず、ダイヤ型カリバーロール(図2左図を参照)により、各1パスの減面率が約17%の19パスの温間圧延を行なって、24mm角に成形した。次いで、最大短軸長さが11mm、長軸長さが52mmのオーバル型カリバーロール(図2、右図でそれぞれa、b、但しR=64mm)により温間圧延し、最後にスクウェア型カリバーロールで1パスの温間圧延を行ない、合計21パスで18mm角に成形した。温間圧延用素材(80mm角)からこの18mm角材への総減面率は95%である。表2に、パススケジュールの概要を示した。
上記オーバル型カリバーロールによる1パスの温間圧延において、24mm角棒を、上記オーバル型カリバーロールにより圧延を行なっているので、この圧延前材料のC方向断面の対辺長さ24mmに対する圧延後材料のC方向断面最大短軸長さ11mmの割合は、(11mm/24mm)×100=46%とかなり小さく、またこのときの孔型寸法から計算した減面率は38%とかなり大きい。従って、このオーバル型カリバーロールによる1パスの温間圧延は、温間圧延終了後の18mm角棒鋼におけるフェライト粒径の微細化を一層促進させる条件になっている。なお、前記第19パス目までのダイヤ型カリバーロールによる圧延過程においては、材料の断面形状をできるだけ正方形に近づけるために、同一カリバーロールに連続2パスずつ通す圧延(所謂「とも通し」)を適宜行なっており、各とも通しはそれぞれ2パスとしてカウントした。また、圧延の各パス毎に材料を長さ方向軸芯の周りに回転させて圧下方向を変化させ、多方向の多パス圧延を行なった。更に、加工発熱も加わって、温間圧延の圧延温度領域でも比較的低温側領域においては、放熱量が比較的小さく、圧延中材料の温度低下に起因する中間加熱の必要性はなかった。
次に、上述した温間圧延方法により調製された18mm角の棒鋼を切削加工により減径し、径6.0mmφの線材に加工した。ここで、18mm角から6.0mmφへの切削により減径した理由は、以下に述べるように、本実施例では、鋼線の用途としてJIS B1111に規定されたM1.6なべ小ねじ(ねじ部の有効断面の直径が1.27mmφ)を選定したので、目標伸線率95%の冷間伸線加工又は目標総減面率95%の冷間圧延加工により径1.3mmφが得られる素材とするためである。M1.6なべ小ねじを選定したのは、その頭部に十字形状のリセス(ドライバーでトルクを与える凹部)を圧造成形するためには、極めて優れた冷間圧造性が要求されるので、後述するM1.6なべ小ねじの十字状「リセス成形試験」により、特段に優れた冷間圧造性を有するか否かを評価するためである。
なお、上記において、温間圧延により調製された18mm角の棒鋼のC方向断面における粒径は全面にわたり、均等化されていた。
これら6.0mmφの確性用試験材(以下、「A0グループ試験材」といい、その構成数は表1の成分No.1〜5に対応する5種からなる)を採取して、下記項目の試験を行なった。
1) 引張試験による引張強さ(TS)及び絞り(RA)の測定試験:この試験においては、特に強度に優れていると共に、冷間加工性においても相当に優れているという、強度と冷間加工性とにおける高水準バランスを有する材料であるか否かを評価する基本データを得ることを目的とする。
2) ビッカース硬さ試験機による硬さ測定試験:強度特性の一つとして、引張強さとの相関性を確認するため、及び引張試験片の採取が困難である場合に有効である。JIS Z 2244 に規定された方法に基づき行なった。
3) 顕微鏡試験によるフェライト粒径(d)の測定試験:各試験材から適宜の検鏡試験片を調製し、金属結晶のミクロ組織で主相を構成するフェライトの平均粒径を、試験材の長手方向(上記18mm角棒鋼の長手方向に一致)に垂直方向の断面(C方向断面)の平均フェライト粒径を測定する。その際、実際にはL方向断面におけるミクロ組織を観察して、C方向断面の平均フェライト粒径を求めた。以下、本明細書において同じ。
上記温間圧延材に関する上記試験結果を表3に示した。
表3の試験結果より、下記事項がわかる。A0グループ試験材は、実施例1〜9で行なう冷間加工に供する素材の確性試験材である。A0グループ試験材は、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法の構成要件における素材(鋼線材)の調製条件(製造条件)を満たした温間圧延により調製された材料であり、しかも素材
の化学成分組成は、金相学的にセメンタイトフリーの炭素鋼成分を有する。それ故に、金属結晶のミクロ組織がセメンタイトフリーであって、平均フェライト粒径が0.7〜0.9μmという微細粒が得られている。そのために、引張強さTSが635MPa以上の高強度が確保されていると同時に、絞りRAが78%以上という極めて高水準の特性が得られており、強度と成形性との優れたバランスの素材となっていることがわかる。この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法、及びそれにより得られるものは、このような材料特性を備えた素材に冷間加工を施すことによりなされ得るものである。特に、C含有量が0.0014〜0.0109質量%以下という、極低炭素鋼においても、引張強さが600MPa以上の高水準を有することもわかる。
[I]−(2) 実施例1〜5及び実施例6〜9の各試験
次に、A0グループ試験材を採取した後の6.0mmφの各鋼線材を用いて、実施例1〜5では冷間伸線により、また、実施例6〜9では冷間圧延により、いずれも6.0mmφから1.3mmφまで冷間加工して鋼線を製造する試験を行なった。
[I]−(2)−1) 実施例1〜実施例5(冷間伸線による鋼線の製造試験)
前述した温間圧延により調製された成分No.1〜5(表1参照)の5種の6.0mmφ鋼線材を素材とし、冷間伸線により1.3mmφまで伸線して鋼線を製造する試験(以下、それぞれを「実施例1〜実施例5」という)を行なった。これら実施例における冷間伸線の条件は、全て次の通りである。すなわち、常温の6.0mmφ鋼線材(前述の通り、温間圧延により18mmφに加工し、次いで6.0mmφに切削加工した鋼線材)を、表4に示したように、ダイスNo.1〜No.17の伸線ダイスにより順次伸線して、1.3mmφの鋼線を製造した。伸線中の材料温度は、200℃未満であった。
これら全ての実施例の伸線工程において、一切の球状化焼なましその他の軟化処理を施すことなく6.0mmφから1.3mmφまで容易に伸線することができた。この間、2.1mmφ(伸線総減面率:87.8%)、1.8mmφ(伸線総減面率:91.0%)及び1.3mmφ(伸線総減面率:95.3%)の各段階において、伸線ままの確性用試験材(以下、「A1グループ試験材」という)を採取した。なお、A1グループ試験材は、実施例1〜実施例5の5種それぞれについて線径が3水準で、合計5種×3=15種からなる。更に、これらの内1.3mmφ試験材については、M1.6なべ小ねじに冷間成形する試験を行なった。
実施例1〜実施例5の試験材「A1グループ試験材」について、下記項目の試験を行なった。
1) 引張試験による引張強さ(TS)及び絞り(RA)の測定試験(前述の通りである)。
2) ビッカース硬さ試験機による硬さ測定試験(前述の通りである)。
3) 顕微鏡試験による平均フェライト粒径(d)の測定試験(前述の通りである)。
4) 小ねじのリセス成形試験:これは線径1.3mmφの鋼線のみについて行なった。前述したように、線径1.3mmφの鋼線を、JIS B1111に規定されたM1.6なべ小ねじの製造工程でヘッダー加工により予備成形し、次いで頭部に所定の十字形状のリセス(ドライバーにより当該ねじを締め込むための十字形状等の窪み部)を冷間圧造により成形する。この成形時に当該リセスに割れが発生する状況を、10倍の拡大鏡で観察する試験である。一般に、リセス割れの発生状況は小ねじのリセス形状により大きく異なるが、M1.6なべ小ねじの十字形状のリセス成形は極めて過酷な圧造成形であり、実用的試験であると同時に、特に優れた冷間圧造性の評価試験と位置付けた。割れが認められないものを「良」、微小割れが認められたが概して良好なものを「やや良」、割れたものを「割れ」、大きな割れが発生したものを「割れ大」とした。
5) 小ねじのねじりトルク試験:線径1.3mmの鋼線から、上記の通りリセスが圧造成形されたねじ中間体を冷間転造よりねじ部を形成してM1.6なべ小ねじを調製する。次いでこれをJIS B 1060 「浸炭焼入焼戻しを施したメートル系スレッドローリングねじの機械的性質及び性能」の5.4「ねじり試験」に規定された方法に従って、適切なトルク測定装置によって、ねじが破壊するまでトルクを増大させる。破壊を引き起こすのに要したトルク値(破断トルク(kgf・cm))を測定した。この試験の目的は、ねじ及びボルト等締結部品に対する機械的性質の特性の一つである「ねじり強さ」を評価することにある。以下、本明細書において同じ。M1.6なべ小ねじの場合には破断トルクが3.0kgf・cm以上であることが望ましい。
6) 小ねじのねじり遅れ破壊試験:線径1.3mmφの鋼線から調製されたM1.6なべ小ねじを、破断トルク試験で得られた破断トルク値の70%の値で図3の写真に示すように、試験片をねじった状態で閉めセットし、72時間以内にねじり破断が発生するか否かにより耐遅れ破壊特性を評価した。ねじり試験片のセット個数は10個である。なお、このねじり遅れ破壊試験は、実施例2についてのみ行なった。
上記試験結果を表5及び表6に示した。
表5及び表6の試験結果より、次のことがわかる。すなわち、まず、A1グループ試験材は全て、この出願の発明の範囲内に属する実施例により得られた鋼線から採取された試験材である。更に詳細には、A1グループ試験材は、成分がC含有量が極めて低く(C:0.0014〜0.0109%)、前記の通りセメンタイトフリーの微細フェライト結晶(平均粒径d≦0.9μm)で引張強さTSと絞りRAの水準が高く、且つそのバランスに優れた素材(鋼線材)に対して88%以上の伸線総減面率による冷間伸線が施されてい
る。それ故に、得られた鋼線は実施例1〜実施例5のいずれにおいても、冷間伸線による総減面率の増加につれて、引張強さTSが著しく上昇している。それにもかかわらず、絞りRAの低下量は異常に小さい。この状態を図4及び図5に図示したが(両図には、後述する比較例1〜比較例3の結果も併記している)、両図を総合参照すると明確である。ここで、図4及び図5においては、横軸に冷間伸線による総減面率Rを、前述したひずみeに変換した値(前記(4)式による)で表記した。また、両表にはひずみeを併記した。以後においてもこれに準じる。
これからわかるように、引張強さTSは素材の635〜795MPaレベルから、伸線総減面率が87.8%で1070〜1252MPaレベルへ、伸線総減面率が91.0%で1142〜1322MPaレベルへ、そして伸線総減面率が95.3%では1370〜1568MPaレベルへと著しく上昇している。このような顕著な引張強さTSの上昇にもかかわらず、絞りRAの低下量は異常に小さい。即ち、伸線前の素材で78.1〜81.9%のレベルであったものが、伸線総減面率が87.8%で73.1〜81.2%レベルへ、伸線総減面率が91.0%で69.8〜76.6%レベルへ、そして伸線総減面率が95.3%で62.1〜71.8%レベルへと低下しているが、その低下量は異常に小さい。しかも、セメンタイトフリーであるからこの間の工程における球状化焼なまし等の軟化処理は一切施していない。
更に、両図からひずみeと引張強さとの関係をみると、素材において引張強さTSが既に635〜795MPaレベルと高水準にあり、僅かなひずみによってもその引張強さTSは一層増大することがわかる。即ち、ひずみeが小さいときの引張強さTSの到達値を、図4においてプロットされたデータの内挿値から求めると、例えば、実施例3によれば、ひずみe=0.17の冷間加工によっても、C含有量が0.0098質量%で800MPaを超えるような高強度なものが得られることがわかる。e=0.17のときの伸線総減面率Rは、17%と算出されるので、このときの鋼線の線径は5.5mmφとなる。本実施例では、冷間伸線直前の素材の直径(鋼線材の直径に相当)を、6.0φにしたので、これを更に大きく設定することにより、5.5mmφ以上の太目の線径においても、800MPa超えの鋼線の製造が可能であり、そのとき絞りは75%超えが確保される。
上記試験の結果より、図6に、引張強さTSと絞りRAとの関係を図示する。同図によれば、(1)TS≧1000MPaであってRA≧70%を確保、(2)TS≧1200MPaであってRA≧65%を確保、あるいは(3)TS≧1500MPaであってRA≧60%を確保するといった、強度と延性バランスに優れた高強度の鋼線又は棒鋼の製造が可能であることがわかる。
このように、上述したこの出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼は、冷間伸線ままの状態であって、焼入・焼戻し処理を施さない鋼線において上記材質特性が得られることがわかる。そして、このように優れた材質特性を有する鋼線の結晶組織は、冷間伸線加工の方向にバンブーストラクチャー状に伸びた形態を呈したセメンタイトフリーのフェライトであって、線径が1.3mmφの鋼線のC方向断面の平均フェライト粒径は138〜175nmの超微細粒となっている(表6参照)。図7に、実施例2についてのTEM(透過電子顕微鏡)による組織写真を例示する。この平均フェライト粒径は150nmである。
ここで、当該冷間加工後のC方向断面におけるフェライト粒径を、加工ひずみ量により制御するとの着想から、冷間加工前後における粒径の測定値から検討する。例えば、実施例2の場合、温間圧延により調製された鋼線材(冷間加工開始直前の鋼線材)におけるC方向断面での平均フェライト粒径は、0.8μmであった(表3参照)。そこで、本実施例における化学成分組成、及び本鋼線材の製造履歴を有する鋼線のC方向断面の予想され
る平均フェライト粒径(=dsupp とする)を、下記(6)式 :
supp=(1−R’/100)1/2×d ‥‥‥‥‥‥‥(6)
但し、R’:冷間加工による総断面減少率(%)
:冷間加工開始直前におけるC方向断面のフェライト粒径(=
温間加工後の材料のC方向断面のフェライト粒径)
により推算する。ここで、R’は、鋼線材の線径6.0mmφから鋼線の線径1.3mmφへの総減面率により算出され、R’=95.3%である。dは0.8μmであったから、dsupp =173nmと計算される。この計算値173nmは、実測値(dact表記する)である150nmとよく一致している。
他の実施例1、2、4、5についても、予想される平均フェライト粒径dsupp
と実測平均フェライト粒径dactとを対比すると、それぞれ次の通りである。
実施例1:195nmに対して138nm
実施例2:173nmに対して150nm
実施例4:152nmに対して140nm
実施例5:152nmに対して161nm
ここで、予想される平均フェライト粒径dsuppを、本願発明における目標平均フェライト粒径daimと置き換えることにより、上記(6)式:dsupp=(1−R’/100)1/2×dは、前記(3)式:R’={1−(daim/d}×100を変形することにより得られる式である下記(3’)式:
aim=(1−R’/100)1/2×d・・・・・・・・・(3’)
となる。
従って、この出願の発明に係る鋼線又は棒鋼の製造方法において、温間圧延材の鋼線材を冷間加工により鋼線を製造する際に、当該鋼線材のC方向断面におけるフェライト粒径の制御手段として、上記(3’)式を用いることが有効である。
次に、こうして製造されたこの出願の発明に係る鋼線は、焼入・焼戻し処理なしの状態で、M1.6なべ子ねじの如き極めて過酷な冷間圧造が施される成形過程であるリセスの成形に対しても、実施例1、実施例2は、全く良好であり、実施例3もほぼ問題のない水準に達している。そして、このような優れた冷間圧造性を有する鋼線から冷間圧造・冷間転造という冷間加工法により成形したM1.6なべ小ねじは、そのねじり破断トルクとして、ほぼ3.0kgf・cmという高ねじり強さを有することがわかる。
[I]−(2)−2) 実施例6〜実施例9(冷間圧延による鋼線の製造試験)
同じく、前述した温間圧延により調製された成分No.1〜4(表1参照)の4種の6.0mmφ鋼線材を素材とし、冷間圧延により1.3mmφまで伸線して鋼線を製造する試験(以下、それぞれを「実施例6〜実施例9」という)を行なった。実施例1〜実施例5では温間圧延鋼線材を冷間伸線したのに対して、これら実施例6〜実施例9では、同じく温間圧延鋼線材を冷間圧延した点において鋼線の製造方法が異なる。この冷間圧延の条件は全て次の通りである。
常温の6.0mmφ鋼線材(前述の通り、温間圧延により18mmφに加工し、次いで6.0mmφに切削加工した鋼線材)を、表7に示したように、第1工程〜第3工程での各コンバインドロールにより冷間圧延した。
即ち、第一工程の8パスで6.0mmφから3.3mmφまで圧延し、第2工程の10パスで3.3mmφから1.8mmφまで圧延し、そして第3工程の5パスで1.8mmφから1.3mmφまで圧延して鋼線を製造した。圧延中の材料温度は、200℃未満であった。これら全ての実施例の圧延工程において、一切球状化焼なましその他の軟化処理を施すことなく6.0mmφから1.3mmφまで冷間圧延することができた。この間、確性用試験材として、3.3mmφ(総減面率:69.8%)、2.3mmφ(総減面率:85.3%)、1.8mmφ(総減面率:91.0%)及び1.3mmφ(総減面率:95.3%)の4段階において、圧延ままの鋼線試験材(以下、「A2グループ試験材」という)を採取した。なお、A2グループ試験材は、実施例6〜実施例9の4種それぞれについて線径が4水準で、合計4種×4=16種からなる。更に、これらの内1.3mmφ試験材については、M1.6なべ小ねじに冷間成形する試験を行なった。
実施例6〜実施例9の試験材(A2グループ試験材)について、下記項目の試験を行なった。
1) 引張試験による引張強さ(TS)及び絞り(RA)の測定試験(前述の通りである。)
2) ビッカース硬さ試験機による硬さ測定試験(前述の通りである。)
3) 小ねじのリセス成形試験:線径1.3mmφの鋼線のみを対象(前述の通りである。)
4) 小ねじのねじりトルク試験:M1.6なべ小ねじのみ対象(前述の通りである。)上記試験結果を表8及び表9に示した。
表8及び表9の試験結果より、次のことがわかる。すなわち、まず、A2グループ試験材は全て、この出願の発明の範囲内に属する実施例により得られた鋼線から採取された試験材である。そして、鋼線の素材である鋼線材は全て、実施例1〜5と同じであって、適
切な温間圧延により製造された、C含有量が極めて低く(C:0.0014〜0.0109質量%)、結晶はセメンタイトフリーの微細フェライト粒(平均粒径d=0.7〜0.9μm)で、引張強さTSと絞りRAの水準が高く、且つそのバランスに優れた材料である。このような材料に対して、圧延総減面率が69.8%(6.0mmφ→3.3mmφの場合)以上の圧延総減面率による冷間圧延が施されている。
このように、実施例6〜実施例9の製造条件が実施例1〜実施例5のそれと異なる点は、冷間伸線の代わりに冷間圧延で加工したことである。こうして得られた鋼線の材質特性を、前記図4、図5及び図6に併記した。
これからもわかるように、ここでも冷間圧延による総減面率の増加につれて、得られた鋼線の引張強さTSが著しく上昇している。しかも、引張強さTSが著しく上昇しているにもかかわらず、絞りRAの低下量が異常に小さい。
この材質特性の変化は実施例6〜実施例9のいずれにおいても同じであり、また実施例1〜実施例5の結果とも類似している。また、冷間圧延鋼線の引張強さTSと絞りRAとは高水準を維持し、その両者が良好なバランスを備えていることもわかる。このような材質特性の優位性は、冷間圧延加工ままの状態であって、焼入・焼戻し処理を施さなくても得られることがわかる。
そして更に、球状化焼きなましを施さない、冷間圧延ままでも、C含有量が低い実施例6、実施例7及び実施例8ではM1.6なべ子ねじのリセス成形を行なうことができ、極めて冷間加工性に優れていることも確認された。この材質特性も、実施例1〜3に準じている。また、このような材質特性水準を有する実施例7及び8では、M1.6なべ子ねじに成形後、焼入・焼戻し処理なしの状態でも、ねじり破断トルクが、ほぼ3.0kgf・cmの優れた高ねじり強さが発揮されている。更に、このように、実施例1〜4の結果と実施例6〜9の結果との比較より、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼の製造方法において、温間加工された鋼線材に対する冷間加工法としては、冷間伸線法及び冷間圧延法のいずれでもよいことがわかる。
[II] 比較例
次に、この出願の発明の範囲外である比較例として、次の試験を行なった。比較例を第1グループと第2グループとに分けた。
[II]−(1) 比較例の第1グループ(比較例1〜比較例3)
比較例の第1グループとして、JIS G 3507に規定された冷間圧造用炭素鋼線材であって、表10の成分No.6〜8に示すSWRCH5A、SWRCH10A及びSWRCH18相当の各成分組成を有する6.0mmφの鋼線材であって、従来技術の通常の熱間圧延条件であるA3変態点以上で加工を終了した市販の鋼線材から、確性用試験材
(以下、「B0グループ試験材」という)を採取して、下記項目の試験を行なった。
1) 引張試験による引張強さ(TS)及び絞り(RA)の測定試験(前述の通りである。)
2) 顕微鏡試験によるフェライト粒径(d)の測定試験(前述の通りである。)
これらの試験結果を表10、表11に示す。
表10、表11の試験結果より、次のことがわかる。すなわち、まず、B0グループ試験材は、比較例1〜3で行なう冷間加工に供する素材の確性用試験材である。このB0グループ試験材は、この出願の発明の範囲外の鋼の製造方法における素材の調製条件である熱間圧延により製造された材料(鋼線材)である。それ故に、金属結晶の主相組織であるフェライトのC方向断面における平均粒径は、16〜20μmである。これは、実施例1
〜9において鋼線材として用いた材料の平均フェライト粒径(0.7〜0.9μm)と比べて極めて大きいことがわかる。そのため、C含有量は実施例1〜実施例9と比べて著しく高いにもかかわらず、絞りRAは80.1〜85.9%と高水準で優れている。しかしながら、引張強さTSは、そのようにC含有量が高いにもかかわらず、350〜550MPaであり、実施例1〜9において用いた鋼線材の引張強さTS:635〜795MPaと比べて著しく低いことがわかる。
一方、上記B0グループ試験材を採取した後の上記6.0mmφの熱間圧延鋼線材を用いて、冷間伸線又は冷間圧延により1.3mmφまで冷間加工した鋼線を調製した。
(1)まず、成分No.6(SWCH5A相当)の熱間圧延鋼線材については、冷間伸線を施して鋼線を製造した。冷間伸線は実施例1〜5におけると同じ条件で行なった(表4参照。伸線温度は200℃未満である。)これを「比較例1」という。この冷間伸線工程において、確性用として2.1mmφ(伸線総減面率:87.8%)、1.8mmφ(伸線総減面率:91.0%)及び1.3mmφ(伸線総減面率:95.3%)の冷間伸線ままの鋼線試験材を採取した。
(2)これに対して、成分No.7(SWCH10A相当)及び成分No.8(SWCH18A相当)の熱間圧延鋼線材については、冷間圧延を施して鋼線を製造した。冷間圧延条件は実施例6〜9におけると同じである(表7参照。圧延温度は200℃未満である)。この冷間圧延工程において、確性用として、3.3mmφ(伸線総減面率:69.8%)、2.3mmφ(伸線総減面率:85.3%)及び1.3mmφ(伸線総減面率:95.3%)の冷間圧延ままの鋼線試験材を採取した。この試験をそれぞれ「比較例2」、「比較例3」という。
以上、比較例1〜3の試験材をまとめて、「B1グループ試験材」といい、 これら試験材について、下記の試験を行なった。
1) 引張試験による引張強さ(TS)及び絞り(RA)の測定試験(前述の通りである。)
2) 小ねじのリセス成形試験(前述の通りである。):線径1.3mmφの鋼線については、冷間圧延ままの試験材について、M1.6なべ小ねじのリセス成形試験を行なった。更に、比較例2及び3の線径1.3mmφの鋼線については、冷間圧延ままの鋼線試験材の他に、球状化焼なまし処理を施して冷間加工性を向上させた試験材を調製して、これについても、M1.6なべ小ねじのリセス成形試験を行なった。
3) 小ねじのねじりトルク試験(前述の通りである。):1.3mmφの鋼線から冷間圧造・転造により、M1.6なべ子ねじの成形が可能であったものについては、ねじりトルク試験を行なった。
上記試験結果を表12に示した。
表12(比較例1〜3)の試験結果より、下記事項がわかる。B1グループ試験材は、
この出願の発明の範囲外である比較例1〜3の試験過程で得られた鋼線試験材であり、C含有量が0.04〜0.18質量%の水準である。熱間圧延により調製された素材(鋼線材)に対して、冷間伸線又は冷間圧延が施されると、その総減面率が大きくなるに従って引張強さTSが上昇し、絞りRAが低下する。引張強さTSが1000MPaを超えるための総減面率は、比較例2及び3における線径1.3mmφに対応する95.3%において達成されている。しかしながら、このときにおける絞りRAは64.4〜66.2%に低下している。この絞りRAの素材からの低下状況は、85.9〜83.0%→64.4〜62.5%と約20%程度低下しており、その低下量は著しく大きい。また、低下後の絞りRA値の水準も、前記実施例1〜9において引張強さTSが1000MPaを超えるときの絞りRA:70〜75%程度(図6参照)と比べてかなり低水準となっている。
このように、素材に対する冷間加工における総減面率の増加につれて引張強さが上昇し、これに対して絞りRAが低下するという材質特性の変化傾向は、比較例1〜3にあっても実施例1〜9の場合と同じである。しかしながら、定量的にみると、その際の絞りRAの低下量は、実施例1〜9の場合は著しく小さかった((6mmφ温間圧延材:78.1〜81.9%)→(1.3mmφ冷間伸線材:62.1〜71.8%)又は→(1.3mmφ冷間圧延材:64.0〜80.1%)が、比較例1〜3にあっては、かなり大きい((6mmφ熱間圧延材:80.1%)→(1.3mmφ冷間伸線材:64.9%)、(6mmφ熱間圧延材:83.0〜85.9%)→(1.3mmφ冷間圧延材:62.5〜64.4%)。
上記材質特性の変化を、図4〜6に併記した。これらの各図において、実施例と比較例とを比べることにより、上記事項が一層明らかである。
一方、小ねじのリセス成形性試験によれば、引張強さTSが1000MPaを超える場合でも、比較例2及び3では、試験材を予め球状化焼なまし処理を施した場合にはリセス割れは発生しない良好な場合(比較例2)があるが(但し、比較例3では割れが発生)、冷間加工ままで球状化焼なましを施さなかった場合には、比較例2、3共にリセス割れが発生している。但し、引張強さTSが1000MPa未満の比較例1(総減面率95.3%の線径1.3mmφにおいて962MPaである)においては、リセス割れは良好となっている。
このように、この出願の発明の範囲外である比較例においては、素材に対する冷間伸線又は冷間圧延の総減面率が増大して引張強さが一定値以上に上昇すると、球状化焼なまし等の適切な軟化処理を施さないと、極めて過酷な冷間圧造性が要求されるM1.6なべ小ねじのリセス成形時には、割れが発生する。これに対して、実施例においては、球状化焼なましを施さない、冷間伸線又は冷間圧延ままであっても、引張強さTSが1500MPaを十分に超えなければ、そのような厳しいリセス試験でも割れは発生しないことがわかる。また、このように特別厳しい冷間圧造性以外の冷間加工性という観点から、絞りRAの水準を指標とした場合にも、実施例1〜9の方が比較例1〜3よりも優れていることがわかる。
次に、実施例1〜9と比較例1〜3との比較を、鋼材の成分の違いという点からみると、この出願の発明に係る高強度鋼の製造方法によれば、C含有量が0.0014〜0.0109質量%という極低炭素鋼を素材として、引張強度TSが例えば1000〜1400MPaなる高水準範囲で、しかも絞りRAもかなり高い水準の65%以上に維持することが可能な冷間圧造性に優れた鋼線を、球状化焼なましをせずに冷間加工ままの状態で得ることができることがわかる(図6参照)。
図8に、線径1.3mmφの場合につき、鋼線のC含有量に対する引張強さTSの水準
を、図9に、同じく線径1.3mmφの場合につき、鋼線のC含有量に対する絞りRAの水準を、実施例1〜9と比較例1〜3とで比較するグラフを示す。なお、線径が1.3mmφの冷間加工率が一定条件は、ひずみが3.06に相当する。
[II]−(2) 比較例の第2グループ(比較例4)
比較例の第2グループとして、従来技術により製造された市販のSWCH16A相当鋼線から製造された生ねじ及び浸炭焼入れねじを、比較例4とした。このねじはM1.6なべ小ねじであって、その化学成分組成は表13の成分No.9に示す通りである。
その製造方法は従来技術であって、熱間圧延により鋼線材が製造され、次いで従来技術により冷間伸線されて1.3mmφの鋼線が製造され、これに球状化焼なまし処理が施されて冷間圧造性が改善された後、冷間圧造・転造によりM1.6なべ小ねじに成形されたもの(生ねじ)、及び生ねじに浸炭焼入・焼戻し処理が施されて、所定の強度を付与されたM1.6なべ小ねじ(浸炭焼入れねじ)の2種類である。
比較例4の確性試験として、生ねじ及び浸炭焼入れねじを試験材(「B2グループ試験材」という)として、ねじりトルク試験(前述の通り)を行なった。その試験結果を表14に示した。
上記試験結果より、下記事項がわかる。この出願の発明の範囲外の製造方法で製造され
た比較例4の内、生ねじ試験材については、M1.6なべ小ねじのねじり破断トルクが1.82kgf・cmという低値であったが、浸炭焼入れねじにあっては、2.96kgf・cmという高ねじり強さが得られ、望ましいねじり強さを有する。
前述した実施例において行なったねじりトルク試験では、実施例6では2.63kgf・cmであったが、その他の実施例で行なった試験では全て、2.9kgf・cmを超えており、十分なねじり強さを有することがわかる。
以上の試験より、この出願の発明に係る冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼、及び高強度成形品の産業上の有用性、並びにこれらを製造するための製造方法として、この発明に係る鋼線又は棒鋼、及び高強度成形品の製造方法の産業上の有用性が確認された。
圧延条件パラメータZと平均フェライト粒径との関係を例示するグラフである。 ダイヤ型及びスクウェア型、並びにオーバル型カリバーロールの孔型寸法部位を示す図である。 M1.6なべ小ねじのねじり遅れ破壊試験片をセットした状態を示す写真である。 冷間加工率をひずみeに変換して表記したときに、冷間加工率の増加に伴なう引張強さTSの上昇状態を示すと共に、そのときの実施例と比較例との間の差異を示すグラフである。 冷間加工率をひずみeに変換して表記したときに、冷間加工率の増加に伴なう絞りRAの下降状態を示すと共に、そのときの実施例と比較例との間の差異を示すグラフである。 引張強さTS及び絞りRAの水準値の定量化、並びに、当該引張強さTSと絞りRAとのバランス状態を、実施例と比較例とについて比較するグラフである。 この出願の発明に係る製造方法により得られた冷間加工後の鋼(鋼線)におけるL方向断面のTEMによるフェライト組織写真の例(実施例2の場合)である。 鋼線のC含有量に対する引張強さTSの水準を、実施例と比較例とで比較したグラフである。 鋼線のC含有量に対する絞りRAの水準を、実施例と比較例とで比較したグラフである。
符号の説明
a ダイヤ型カリバーロールの対頂角長さ、又はオーバル型カリバーロールの最大短軸長さ
b ダイヤ型カリバーロールの軸方向長さ、又はオーバル型カリバーロールの長軸長さ
c ダイヤ型カリバーロールの対辺長さ
R ダイヤ型カリバーロールの頂角曲率半径、又はオーバル型カリバーロールの曲率半径

Claims (41)

  1. 鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下でセメンタイトフリーのフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  2. C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下であって、鋼線又は棒鋼
    の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  3. C含有量が0.010質量%以下であって、鋼線又は棒鋼の長手方向に対する垂直断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  4. 引張強さTSが900MPa以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  5. 引張強さTSが1000MPa以上で、且つ絞りRAが70%以上であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  6. 引張強さTSが1200MPa以上で、且つ絞りRAが65%以上であることを特徴とする請求項5に記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  7. 引張強さTSが1500MPa以上で、且つ絞りRAが60%以上であることが付加されていることを特徴とする請求項5に記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  8. 硬さがビッカース硬さHvで285以上であることを特徴とする請求項1から3のうちのいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  9. フェライト組織の平均粒径が200nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  10. Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもが不可避的含有量以上に含有されていないことを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  11. Si含有量が1.0質量%以下で且つMn含有量が2.0質量%以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼。
  12. 任意方向断面の内の少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下でセメンタイトフリーのフェライト組織を有することを特徴とする高強度成形品。
  13. C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下であって、任意方向断面
    の内の少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする高強度成形品。
  14. C含有量が0.010質量%以下であって、任意方向断面の内の少なくとも1断面における平均粒径が500nm以下のフェライト組織を有することを特徴とする高強度成形品。
  15. 引張強さTSが1000MPa以上であることを特徴とする請求項12から14のうちのいずれかに記載の高強度成形品。
  16. 引張強さTSが1500MPa以上であることを特徴とする請求項15に記載の高強度成形品。
  17. 硬さがビッカース硬さHvで285以上であることを特徴とする請求項12から14のうちのいずれかに記載の高強度成形品。
  18. 硬さがビッカース硬さHvで300以上であることを特徴とする請求項17に記載の高強度成形品。
  19. フェライト組織の平均粒径が200nm以下であることを特徴とする請求項12から請求項18のうちのいずれかに記載の高強度成形品。
  20. Cr、Mo、Cu、Ni、B、Ti及びNbのいずれもが不可避的含有量以上に含有されていないことを特徴とする請求項12から19のいずれかに記載の高強度成形品。
  21. Si含有量が1.0質量%以下で且つMn含有量が2.0質量%以下であることを特徴とする請求項12から20のいずれかに記載の高強度成形品。
  22. 請求項1から11のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼から製造されたことを特徴とする高強度成形品。
  23. 冷間圧造、冷間鍛造及び/又は切削加工により製造されたことを特徴とする請求項22に記載の高強度成形品。
  24. 焼入・焼戻し処理が施されていないことを特徴とする請求項12から23のいずれかに記載の高強度成形品。
  25. セメンタイトフリーのフェライト組織を有する鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に温間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下の材料を調製し、次いで冷間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が500nm以下のフェライト組織を形成させることを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  26. 温間加工を施した後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が0.8μm以下であることを特徴とする請求項25に記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  27. C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下である鋼塊、鋳片、鋼片
    又は鋼材半成品に温間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が3μm以下の材料を調製し、次いで冷間加工を施して、長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が500nm以下のフェライト組織を形成させることを特徴とする冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  28. 温間加工を施した後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径が0.8μm以下であることを特徴とする請求項27に記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  29. C含有量が0.010質量%以下であることを特徴とする請求項27又は28に記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  30. 冷間加工を施した後のフェライト組織の平均結晶粒径が200nm以下であることを特徴とする請求項25から29のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  31. 温間加工は、加工温度が350〜800℃の範囲内において、圧延及び/又は鍛造により材料中へ導入されて残留する塑性ひずみが3次元有限要素法で計算される材料中への平均塑性ひずみで、0.7以上となる加工であることを特徴とする請求項25から30のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  32. 温間加工は、加工温度が350〜800℃の範囲内において、圧延及び/又は鍛造により、下記(1)式:
    R={(S0−S)/S0}×100 ・・・・・・(1)
    但し、R:鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品に対して施される総減面率(%)
    0:温間加工開始直前の鋼塊、鋳片、鋼片又は鋼材半成品のC方向
    断面積
    S:温間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
    で表わされる総減面率Rが50%以上となる加工であることを特徴とする請求項25から30のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  33. 温間加工は、複数パスで且つ複数方向に施すことを特徴とする請求項25から32のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  34. 冷間加工は、加工温度が350℃未満において、圧延及び/又は引抜きにより材料中へ導入されて残留する塑性ひずみが、3次元有限要素法で計算される材料中への平均塑性ひずみで0.05以上となる加工であることを特徴とする請求項25から33のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  35. 冷間加工は、加工温度が350℃未満において、圧延及び/又は引抜きにより、下記(2)式:
    R’={(S0’−S’)/S0’}×100 ・・・・・・(2)
    但し、R’:温間加工された材料に対して施される総減面率(%)
    0’:冷間加工開始直前の材料のC方向断面積
    S’:冷間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
    で表わされる総減面率R’が5%以上となる加工であることを特徴とする請求項25から33のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  36. 冷間加工は、温間加工後の材料の長手方向に垂直な断面における平均結晶粒径dを予め推定乃至測定しておき、この材料に対して圧延及び/又は引抜きを施すものであって、当該冷間加工温度が350℃未満において、この冷間加工後の材料の長手方向に垂直な断面における目標平均結晶粒径daimを有する当該材料を得るために、総減面率R’が、下記(3)式:
    R’={1−(daim/d}×100 ・・・・・・(3)
    但し、R’(%)は下記(2)式:
    R’={(S0’−S’)/S0’}×100 ・・・・・・(2)
    0’:冷間加工開始直前の材料のC方向断面積
    S’:冷間加工終了後に得られる材料のC方向断面積
    で定義する、
    が満たされるように冷間加工条件を設定することにより、冷間加工後の材料の結晶粒径を制御することを特徴とする請求項25から33のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  37. 温間加工及び冷間加工のいずれの工程中にも球状化焼なまし処理及び/又は焼入・焼戻し処理が含まれていないことを特徴とする請求項25から36のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  38. 高強度鋼線又は棒鋼の製造方法は、冷間加工後に350℃以上600℃以下の範囲内の温度において、焼なまし処理を行なうことを特徴とする請求項25から37のいずれかに記載の冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼の製造方法。
  39. 請求項25から38のいずれかに記載の製造方法により製造された冷間加工性に優れた高強度鋼線又は棒鋼を用いて、冷間圧造、冷間鍛造及び/又は切削加工により製造することを特徴とする高強度成形品の製造方法。
  40. 成形品に焼入・焼戻し処理を施さないことを特徴とする請求項39に記載の高強度成形品の製造方法。
  41. 成形品に応力除去焼なまし処理及び/又はベーキング処理を施さないことを特徴とする請求項39又は40に記載の高強度成形品の製造方法。
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