JP4019668B2 - 高靭性チタン合金材及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、強度及び疲労特性にも優れた高靭性チタン合金材及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チタン合金材料は、軽く、高耐食性や高強度等を有するので、その材料特性を活かして化学プラント、発電、航空機などの分野で構造用材料として用いられている。なかでもα+β型チタン合金は、高強度と加工性を兼ね備えていることから、現在使用されているチタン合金の大半を占めている。一方、航空機分野に用いる場合に代表されるような重要保安部品にα+β型チタン合金を適用する際には、点検や交換時期の予測などのためにも材料の寿命予測が必須である。また材料の信頼性の点からも優れた疲労特性や破壊靭性特性を兼ね備えている必要があり、高い比強度を有するのみでは重要保安部品の材料特性としては不充分である。
【0003】
高靭性を有するα+β型チタン合金が、特開昭61−194163号公報、特開昭61−210163号公報、特開平2−125849号公報に開示されている。これらのチタン合金は、特殊な熱処理を施すことによって、目標の強度及び靭性レベルを達成するものである。また、特開昭61−210163号公報、特開平2−125849号公報に示されるα+β型チタン合金は、疲労強度についても高いレベルを維持している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の公報に開示された製造方法は、特性改善のために熱処理という新たな工程が必要となるのでコストが上昇する。さらに熱処理を用いた場合には、加熱中に酸化スケールや酸素濃化層などが形成されてチタン合金の延性や疲労強度等の材料特性が劣化するので、熱処理で表面に生成した層を完全に除去するために表面手入れ工程も必須となる。これにより、さらにコストが上昇して作業工程も複雑化する。
【0005】
上記に加えて、強度レベルを高くすれば破壊靭性特性が劣化するという、強度−靭性バランスが存在する問題がある。この強度−靭性バランスはチタン合金に限らず金属材料全般で観察される現象である。図1に各種α+β型チタン合金の破壊靭性値(KIC、KQ)と強度(0.2%耐力)の関係を示す。従来技術のα+β型チタン合金は概ね図1に示される特性バランスの範囲内に含まれる。図1によれば、900MPa以上の強度を達成しようとすると、破壊靭性値は80MPa√m以下になり、逆に80MPa√m以上の優れた破壊靭性値を達成しようとすれば強度レベルは850MPa以下になることが分かる。このように強度と破壊靭性特性を共に極めて優れたレベルとすることは困難であった。
【0006】
以上のように、特開昭61−194163号公報、特開昭61−210163号公報、特開平2−125849号公報に開示されているような熱処理により高靭性を達成する方法には、コスト上昇という工業的な面と、強度と破壊靭性を同時に向上できないという特性面とで問題があった。
【0007】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、新たな熱処理工程を用いることなく、これまでにない優れた破壊靭性特性を示すとともに高い強度レベルを有し、疲労特性にも優れた、高靭性チタン合金及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するための本発明の特徴は以下の通りである。
【0009】
(1)化学成分が、質量%で、Al:4.0〜5.0%、V:2.5〜3.5%、Fe:1.5〜2.5%、Mo:1.5〜2.5%を含有し、かつAlの質量%を [Al] 、酸素(O)の質量%を [O] とした場合の、アルミニウム当量である [Al]+ 10× [O] が7.0以下であり、残部がTiおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織がα+β型であり、初析α相の体積分率が10%以上90%以下、初析α相の平均結晶粒径が2μm以上10μm以下、アスペクト比が4以上ある初析α相の体積分率がミクロ組織全体の10%以上であることを特徴とする高靭性チタン合金材。
【0012】
(2)β変態点がTβ(℃)であるチタン合金を、下記(a)〜(c)を満足する条件で熱間加工し、熱間加工の後に760℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項1に記載の高靭性チタン合金材の製造方法。
(a)加熱温度をTβ−100(℃)以上、Tβ−30(℃)以下とする。
(b)仕上温度をTβ−300(℃)以上、Tβ−100(℃)以下とする。
(c)圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)を3以上、10以下とする。
【0013】
(3)熱間加工が複数回の圧延パスにより行われる熱間圧延であり、且つ該熱間圧延では、第一の圧延工程と該第一の圧延工程の圧延方向と直交する方向に圧延を行う第二の圧延工程とからなるクロス圧延を、下記(A)及び(B)を満足する条件で行い、熱間加工の後に760℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項2に記載の高靭性チタン合金材の製造方法。
(A)前記第一の圧延工程では、圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)が1.5以上の圧延をTβ−150(℃)以上、Tβ−30(℃)以下の温度範囲において1回以上の圧延パスで行う。
(B)前記第二の圧延工程では、総クロス比が0.33以上3以下となる圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)の圧延を1回以上の圧延パスで行う。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明のチタン合金は、ミクロ組織がα+β型であり、初析α相の体積分率が10%以上90%以下、初析α相の平均結晶粒径が2μm以上10μm以下で、かつアスペクト比が4以上ある初析α相を10%以上含有することを特徴とするものである。
【0016】
まず、本発明のチタン合金材におけるミクロ組織について説明する。
【0017】
α+β型チタン合金のミクロ組織において、初析α相の粒径は材料特性に大きく影響を及ぼす。α+β型チタン合金一般における初析α相の平均結晶粒径と疲労特性との関係を図2に示す。図2によれば、初析α相の平均結晶粒径が10μmを超えると、疲労強度が急激に低下する。初析α相の結晶粒径が大きくなれば、疲労強度が低下するばかりか、これに伴い延性や加工性も低下するので、2次製品製造の際等に不都合を生じる。一方、初析α相の平均結晶粒径が2μmより微細である場合には、亀裂が進展する際に枝分かれを起こして亀裂進展の抵抗を高める効果が小さく、高い靭性値が得られない。ここで、結晶粒径とは、初析α相における長手方向と直交する方向での長さであり、平均結晶粒径とは各初析α相における結晶粒径の平均値である。
【0018】
初析α相の体積分率も材料特性に大きく影響を及ぼす。α+β型合金は概ね初析α相と変態β相から成るが、それらの体積分率はチタン合金材の重要な特性支配因子である。初析α相の体積分率が10%未満、つまり変態β相の体積分率が90%より大きい場合には、素材に占める針状組織の割合が大きくなり、延性や加工性、疲労特性が低下する。逆に、初析α相の体積分率が90%より多い場合には、β相に比較して加工性の劣るα相の割合が大きくなり、やはり延性や加工性が低下するとともに、亀裂が進展する際に枝分かれを起こして亀裂進展の抵抗を高める効果が小さく、高い靭性値が得られない。
【0019】
初析α相のアスペクト比は、靭性特性に大きく影響を及ぼす。アスペクト比とは、初析α相の各結晶粒における粒の長さと幅の比であり、等軸化すると1に近づくものである。アスペクト比が大きい場合に、幾何学的な効果で亀裂が枝分かれすることにより亀裂進展抵抗を高める効果があり、靭性が向上する。初析α相のアスペクト比が4未満であると初析α相は等軸に近く、亀裂進展抵抗を高める効果が小さく望ましくない。アスペクト比が4以上である初析α相の体積分率が、全体の10%以上である場合に亀裂進展抵抗を高める効果が顕著となり、靭性が向上する。
【0020】
次に、チタン合金材の化学成分に関して説明する。
【0021】
本発明のα+β型チタン合金は、前記のように初析α相の平均結晶粒径が2μm以上10μm以下、体積分率が10%以上90%以下で、アスペクト比が4以上である初析α相の体積分率が全体の10%以上であることが必要であるが、特に高性能の合金材を得るためには、高強度化やその他の特性とのバランスを考慮に入れて、チタン合金材の化学成分が、質量%で、Al:4.0〜5.0%、V:2.5〜3.5%、Fe:1.5〜2.5%、Mo:1.5〜2.5%を含有し、残部が実質的にTiからなる合金であることが望ましい。「残部が実質的にTiからなる」とは、本発明の作用効果を無くさない限り、不可避不純物をはじめ、他の微量元素を含有するものが本発明の範囲に含まれ得ることを意味する。
【0022】
α+β型チタン合金において、Alはα相を安定化させるのに必須の元素であり、また強度の上昇の効果を有する。Alが4.0%未満では強度への充分な寄与がなく、Alが5.0%超では延靭性が劣化するので望ましくない。
【0023】
V、Mo及びFeはβ相を安定化させる元素であるとともに、強度の上昇の効果も有する。Vが2.5%未満では高強度化の効果が充分ではないとともに、充分にβ相が安定せず、3.5%超ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、高価な金属元素の大量添加による高コスト化を招く。Moは1.5%未満では高強度化への効果が充分ではないとともに、充分にβ相が安定せず、2.5%超ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、高価な金属元素の大量添加による高コスト化を招く。さらにMoには結晶粒微細化の効果があり、Moが1.5%以上であれば初析α相の平均結晶粒径は充分に10μm以下となる。Moが2.5%超では結晶粒微細化の効果は飽和する。Feは拡散速度が速く加工性を改善する効果を有するが、1.5%未満では高強度化の効果が充分ではないとともに、充分にβ相が安定せず、さらに加工性を改善する効果が充分に発揮できない。Feが2.5%超ではβ変態点の低下により加工温度領域が狭くなることに加え、偏析による材質の劣化を招く。以上の点から、本発明のα+β型チタン合金材は、その化学成分が質量%でAlが4.0%以上5.0%以下、Vが2.5%以上3.5%以下、Feが1.5%以上2.5%以下、Moが1.5%以上2.5%以下であることが望ましい。
【0024】
また本発明のα+β型チタン合金としては、アルミニウム当量が7.0以下であることが好ましい。アルミニウム当量(Al eq.)は下記(1)式で定義する。
【0025】
Al eq.=[Al]+10×[O]・・・(1)
但し、(1)式において[Al]はAlの質量%、[O]は酸素(O)の質量%を示す。
Al及びOは、ともにα相を安定にする元素であるが、アルミニウム当量が7.0を超える場合には、α相の変形過程において転位の形態が直線状(Planer)となり、疲労強度の低下をもたらす。これに対して、アルミニウム当量が7.0以下の場合には転位の形態が波状(Wavy)であり、良好な疲労特性が得られる。
【0026】
次に、本発明のチタン合金材の製造方法を説明する。
【0027】
初析α相の平均結晶粒径が2μm以上10μm以下、体積分率が10%以上90%以下で、アスペクト比が4以上である初析α相の体積分率が全体の10%以上であるチタン合金を得るために、本発明の製造方法ではβ変態点がTβ(℃)であるチタン合金を、下記(a)〜(c)を満足する条件で熱間加工する。
(a)加熱温度をTβ−100(℃)以上、Tβ−30(℃)以下とする。
(b)仕上温度をTβ−300(℃)以上、Tβ−100(℃)以下とする。
(c)圧下比を3以上、10以下とする。
【0028】
上記の熱間加工条件の効果について説明する。ここで、熱間加工は熱間圧延を含むものである。Tβ(℃)のβ変態点を有するチタン合金材において、
(a):熱間加工時の加熱温度をTβ-100(℃)以上、Tβ-30(℃)以下とすることで、高変形抵抗といった熱間加工性を損なうこと無く、かつ最終的に高い靭性値と疲労強度を達成することが可能な前述のようなα+β組織を得ることができる。加熱温度がTβ-100(℃)未満の場合には、熱間加工において、変形抵抗が上昇する。また、通常の製造工程では板材の製品を製造する際に熱間加工後に焼鈍を施すが、熱間加工時の加熱温度がTβ-100(℃)未満の場合には、焼鈍の後に極めて均一微細で等軸化の進んだ組織が得られ、高靭性化の点で好ましくない。加熱温度がTβ-30(℃)より高い場合には、最終的に針状組織の体積分率が高い組織が得られ、疲労特性が劣化する。
(b):熱間加工の仕上温度をTβ-300(℃)以上、Tβ-100(℃)以下とすることで、熱間加工後段での温度低下による割れ感受性と変形抵抗の上昇を抑制しつつ、かつ最終的に高い靭性値と疲労強度を達成することが可能な前述のようなα+β組織を得ることができる。仕上温度がTβ-300(℃)未満であると変形抵抗が上昇し、さらに割れ感受性が高まる。また、熱間加工後に焼鈍を施す場合、仕上温度がTβ-300(℃)未満の場合には、通常圧延製品に施される焼鈍の後に極めて均一微細で等軸化の進んだ組織が得られ、高靭性化は困難である。仕上温度がTβ-100(℃)より高温であると、最終的に極めて粗大な組織が得られてしまい、優れた疲労特性が得られない。
【0029】
(c):前記(a)(b)に加えてさらに、熱間加工において、圧下比を3以上10以下とすることで、疲労特性に悪影響を及ぼす極めて粗大な組織を解消するとともに、靭性値を低下させるような均一微細で等軸化の進んだ組織を回避することができる。圧下比が3より小さいと疲労強度を低下させる極めて粗大な組織となる。また、良好な破壊靭性値を確保するために必要な平均結晶粒径が2μm以上10μm以下でアスペクト比が4以上の初析α相を充分な量だけ形成することも困難となる。さらに板材の製品とする前に焼鈍を施す場合、圧下比が10より大きいと、平均結晶粒径が2μm以上10μm以下でアスペクト比が4以上の初析α相を充分な量だけ形成することが困難で、均一微細で等軸化の進んだ組織となり、亀裂伝播抵抗が低くなることに起因して、破壊靭性値が低くなる。なお圧下比は複数回の圧延パスの合計である総圧下比を用いるものとする。
【0030】
次に、熱間加工として熱間圧延を行う場合について説明する。熱間圧延において、特にチタン合金では集合組織に起因して機械的特性の面内異方性が発生する。例えば、圧延方向に対して平行な方向では引張強度が相対的に低くなり、圧延方向に対して直交する方向では引張強度が相対的に高くなる。前記のような機械的特性の面内異方性を解消するためには、第一の圧延工程として圧延した方向と直交方向に第二の圧延工程を行うという、クロス圧延を行うことが好ましい。このクロス圧延における第一の圧延工程と第二の圧延工程での圧延温度及び圧下比を調整することで、圧延したチタン合金材の機械的性質の面内異方性を制御することができる。なお、第一の圧延工程および第二の圧延工程は、いずれも通常は複数回の圧延パスにより行われる。
【0031】
具体的には、前記クロス圧延は加熱温度、仕上温度(仕上圧延温度)及び圧下比が前記(a)〜(c)の条件を満足するとともに、下記(A)、(B)の条件を満足するように行うことが好ましい。
(A)前記第一の圧延工程では、圧下比が1.5以上の圧延をTβ−150(℃)以上、Tβ−30(℃)以下の温度範囲において1回以上の圧延パスで行う。
(B)前記第二の圧延工程では、総クロス比が0.33以上3以下となる圧下比の圧延を1回以上の圧延パスで行う。
【0032】
上記の条件でクロス圧延を行うことにより、疲労特性に悪影響を及ぼす極めて粗大な組織を解消するとともに、焼鈍後に靭性値を低下させるような均一微細で等軸化の進んだ組織を回避する効果があり、合わせて機械的性質の面内異方性を改善する効果がある。さらに、クロス圧延することによって初析α相が最終圧延方向及びその直交方向に展伸するので、前述した効果により両方向において亀裂の進展抵抗が高まり、高い靭性値が得られる。これらについての(a)圧延加熱温度、(b)仕上温度、(c)総圧下比による効果は、前記の熱間加工における製造方法で示した通りである。上記(A)において第1の圧延工程の圧下比が1.5未満である場合には、疲労特性に悪影響を及ぼす極めて粗大な組織を解消できない。また上記(B)の第二の圧延工程において、総クロス比が0.33より小または3より大となる圧下比で圧延する場合には、やはり異方性を解消することが出来できない。ここで総クロス比とは、第一の圧延工程における合計の圧下比をX、第一の圧延工程と直交方向に圧延した第二の圧延工程における合計の圧下比をYとした場合の両者の比であり、総クロス比=Y/Xで定義される。そして、上記(A)の第一の圧延工程時の温度がTβ-30(℃)より高いと、最終的に針状組織の体積分率が高い組織が得られ、優れた疲労特性が得られない。第一の圧延工程時の温度がTβ-150(℃)未満であると、(B)の第二の圧延工程の温度域が極めて低くなり、変形抵抗が上昇する。また板材の製品とする前に焼鈍を施す場合、最終的に極めて均一で等軸化の進んだ組織が得られ、高靭性化が達成できない。第一の圧延工程をTβ-150(℃)以上、Tβ-30(℃)以下で行うことはクロス温度(第一の圧延工程から第二の圧延工程に移行する温度)をTβ-150(℃)以上、Tβ-30(℃)以下に確保することでもある。
【0033】
前記第一の圧延工程と前記第二の圧延工程からなるクロス圧延は、必要に応じてさらに第二の圧延工程として圧延した方向と直交方向に第三の圧延工程を行うというように、クロス圧延を2回以上繰り返して実施することができる。2回以上の圧延方向の変更を行う場合も、全圧延工程における総クロス比を0.33以上3以下とする必要がある。
【0034】
次に、熱間加工後に施す焼鈍について説明する。熱間加工によりチタン合金で板材等を製造する場合、加工歪を取るために通常は焼鈍を施して製品とする。本発明のチタン合金材の製造方法においては、熱間加工後の焼鈍温度を760℃以下とすることが好ましい。焼鈍により、熱間加工において導入された残留歪を開放するとともに、最終的に高い疲労強度と破壊靭性値が得られるミクロ組織を達成する効果がある。焼鈍温度が760℃より高い場合には、ミクロ組織の等軸化が進み、アスペクト比が4以上の初析α相など高い靭性値を達成させるのに必要なミクロ組織が得られず、高靭性化の点で不都合が生じる場合がある。680℃未満の温度で焼鈍する場合や、焼鈍時間が15分未満の場合には、残留応力開放の効果が小さい場合がある。また板厚にも依存するが焼鈍時間が24時間超ではその効果は飽和しており、24時間を越える焼鈍は経済的な面から好ましくない。
【0035】
以上のように、本発明の製造条件を用いることにより、疲労特性に優れ、高強度かつ破壊靭性特性に優れたチタン合金材を得ることができる。また本発明の製造条件は、α+β域でのスラブの製造条件や製造する部材の大きさに依らず有効である。
【0036】
【実施例】
以下の実施例1〜4により、チタン合金材のミクロ組織、化学成分、熱間加工条件の材料特性への影響を具体的に説明する。
【0037】
(実施例1)
表1に示す化学成分のα+β型チタン合金(符号:A01〜A04)素材を用いて、表2に示す各種のミクロ組織を有するチタン合金材(B01〜B12)を熱間圧延により製造した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
表2において、各チタン合金材のミクロ組織として初析α相の体積分率、初析α相の平均結晶粒径、アスペクト比が4以上である初析α相の体積分率を示した。また、各合金材の0.2%耐力、絞り、破壊靭性値、疲労強度を測定して、表2に併記した。0.2%耐力、絞りは引張試験により、破壊靭性値は衝撃試験により測定した。疲労強度は疲労試験を応力比R値を−1として行った。表2において、ミクロ組織の記載が無いものは、β組織となっており、初析α相の組織が観測できなかったものである。
【0041】
本発明のミクロ組織を有するB02、03、04、11、12は、900MPa以上の高い0.2%耐力、30%以上の高い絞り値、ならびに90MPa√m以上の極めて高い靭性値を示した。また疲労強度も450MPa以上と十分に高かった。これに対して、初析α相の体積分率が本発明の範囲より低いB01は、絞り値が著しく低い。また、初析α相の結晶粒径が本発明の範囲より大であるB07〜10、アスペクト比が4以上である初析α相の体積分率が本発明の範囲未満であるB05〜09は、0.2%耐力が900MPa未満であったり、破壊靭性値が80MPa√m未満であった。また、化学成分が本発明の特に良い範囲内にある素材A01、03、04を用いた場合に、本発明のミクロ組織を得ることができた。また表1に併せて示したアルミニウム当量(Al eq.)によれば、本発明のミクロ組織を有するB02、03、04、11、12の内、アルミニウム当量が7.0以下であるB02、03、04、11は、疲労強度が550MPa以上でさらに良好であった。
【0042】
(実施例2)
チタン合金材を、クロス圧延を用いた熱間圧延により製造した。
【0043】
表1に示す符号A01の合金を用いて、インゴットからスラブを製造した。スラブ(符号C01〜03)は表3に示す条件で粗鍛造後に仕上鍛造を行って製造した。これらのスラブを用いて表4に示す圧延条件で熱間圧延後、720℃で1時間空冷して焼鈍を施し、種々の圧延材(符号D01〜15)を製造した。これらの圧延材の機械的性質及びミクロ組織を測定し、機械的性質を表4に併せて示し、ミクロ組織を表5に示した。表5において、ミクロ組織の記載が無いものは、β組織となっており、初析α相の組織が観測できなかったものである。
【0044】
【表3】
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】
本発明の製造方法の圧延条件を採用したD01〜03、10〜14は、強度の面内異方性が小さく、0.2%耐力及び絞り値が高く、破壊靭性値も高く、その面内異方性も小さいものであった。また、本発明の製造方法を用いれば、上記のスラブの製造条件にかかわらず本発明のミクロ組織を得ることができた。
【0048】
ミクロ組織の例として、符号D01の断面組織を図3に示す。図3は断面組織写真から得られた圧延方向の面(L面)と、圧延方向と直行方向の面(T面)でのミクロ組織を表し、伸展した初析α相1が観察された。圧延方向の面(L面)での初析α相の体積分率が54%、平均結晶粒径が3.5μm、アスペクト比が4以上の初析α相の体積分率が48%、また圧延方向と直行方向の面(T面)での初析α相の体積分率が53%、平均結晶粒径が3.6μm、アスペクト比が4以上の初析α相の体積分率が46%であって、L面とT面での異方性の少ない、本発明のミクロ組織が観察された。
【0049】
一方で、圧延加熱温度や圧延仕上温度が本発明の範囲より高い場合には、絞り値が低く、温度が低い場合には、破壊靭性値が小さかった。また熱間圧延中のクロス温度(圧延方向を90度変更する温度)がTβ-150(℃)以上Tβ-30(℃)以下の範囲外である場合は、クロス前の圧延時の温度(第一の圧延工程時の温度)が本発明の製造方法の範囲外となり、機械的性質に著しい面内異方性が発生する。さらに、クロス圧延において総圧下比が本発明の範囲より大きい場合には、破壊靭性値が低下し、小さい場合には絞り値が著しく低下する。またクロス圧延において、第一の圧延工程における圧下比が1.5未満である場合、あるいは総クロス比が0.33より小さい場合ないし3より大きい場合には、機械的性質の面内異方性が著しく発生し、試験方向によっては絞りや破壊靭性値の低下が発生する。
【0050】
(実施例3)
チタン合金材を、熱間鍛造により製造した。
【0051】
表1のA01の化学成分を有する120mm厚×200mm幅×300mm長の素材から、30mm厚×400mm幅×600mm長の素材を、850℃加熱750℃仕上の熱間鍛造によって作製した。合計の圧下比は4であった。この材料について、ミクロ組織調査、引張試験及び破壊靭性試験を行った。その結果を表6に示す。ミクロ組織は本発明の範囲内であり、高い強度、絞り値、破壊靭性値を示した。
【0052】
【表6】
【0053】
(実施例4)
チタン合金材に焼鈍を施して製造した。
【0054】
表1のA01の化学成分を有する合金を、表4のD01に示す条件で熱間圧延して、その後表7に示す条件で焼鈍を行った(符号:F01〜04)。これらの材料について、ミクロ組織調査、引張試験及び破壊靭性試験を行った。測定結果を表7に併せて示す。
【0055】
【表7】
【0056】
本発明の焼鈍の範囲内であるF01〜03では、高い強度、絞り値、破壊靭性値を示した。熱間加工の後に施される焼鈍の温度が760℃超であるF04はミクロ組織が本発明の範囲外であり、強度と破壊靭性値が低下した。
【0057】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、極めて優れた破壊靭性特性を有しながら、高強度かつ疲労特性にも優れたチタン合金材が容易に得られる。このため航空機分野等の重要保安部品にα+β型チタン合金を適用することが可能となり、工業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 従来のα+β型チタン合金の引張試験における耐力と破壊靭性との関係を示すグラフである。
【図2】 初析α相の平均結晶粒径と疲労強度との関係を示すグラフである。
【図3】 本発明のチタン合金のミクロ組織を表す図である。
【符号の説明】
1…初析α相
Claims (3)
- 化学成分が、質量%で、Al:4.0〜5.0%、V:2.5〜3.5%、Fe:1.5〜2.5%、Mo:1.5〜2.5%を含有し、かつAlの質量%を [Al] 、酸素(O)の質量%を [O] とした場合の、アルミニウム当量である [Al]+ 10× [O] が7.0以下であり、残部がTiおよび不可避不純物からなり、ミクロ組織がα+β型であり、初析α相の体積分率が10%以上90%以下、初析α相の平均結晶粒径が2μm以上10μm以下、アスペクト比が4以上ある初析α相の体積分率がミクロ組織全体の10%以上であることを特徴とする高靭性チタン合金材。
- β変態点がTβ(℃)であるチタン合金を、下記(a)〜(c)を満足する条件で熱間加工し、熱間加工の後に760℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項1に記載の高靭性チタン合金材の製造方法。
(a)加熱温度をTβ−100(℃)以上、Tβ−30(℃)以下とする。
(b)仕上温度をTβ−300(℃)以上、Tβ−100(℃)以下とする。
(c)圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)を3以上、10以下とする。 - 熱間加工が複数回の圧延パスにより行われる熱間圧延であり、且つ該熱間圧延では、第一の圧延工程と該第一の圧延工程の圧延方向と直交する方向に圧延を行う第二の圧延工程とからなるクロス圧延を、下記(A)及び(B)を満足する条件で行い、熱間加工の後に760℃以下で焼鈍することを特徴とする請求項2に記載の高靭性チタン合金材の製造方法。
(A)前記第一の圧延工程では、圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)が1.5以上の圧延をTβ−150(℃)以上、Tβ−30(℃)以下の温度範囲において1回以上の圧延パスで行う。
(B)前記第二の圧延工程では、総クロス比が0.33以上3以下となる圧下比(熱間加工前のチタンの厚さ/熱間加工後のチタンの厚さ)の圧延を1回以上の圧延パスで行う。
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