本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。添付図に示した形態は本発明の一例であり、本発明は当該形態に限定されない。
<実施例1>
図1を参照する。図1は、実施例1による平面コイルアレイの全体構成、及び等価回路を示す図である。
なお、図1において、X方向は横方向、あるいは左右方向、Y方向は幅方向、Z方向は高さ方向、あるいは上下方向という場合がある。また、+X方向は右方向、-X方向は左方向、+Y方向は正幅方向、-Y方向は負幅方向、+Z方向は上方向、-Z方向は下方向という場合がある。この点は、以降の図においても同様である。
また、以下の説明では、主として平面コイルという用語を使用するが、この用語は、平面コイルユニットという用語に置き換えることが可能である。
また、以下の説明では、渦巻きの形状に関して、右巻、左巻きという用語を使用する場合がある。導体が、渦巻きの中心、言い換えれば平面コイルの中心に対して時計方向に巻かれる場合を右巻きと称する。導体が、渦巻きの中心、言い換えれば平面コイルの中心に対して反時計方向に巻かれる場合を左巻きと称する。
また、渦巻きに流れる電流の方向としては、渦巻きの中心から外周側の端部に流れる第1の方向と、外周側の端部から渦巻きの中心に流れる第2の方向とがある。
例えば、左巻きの渦巻きに、第1の方向の電流が流れるときは、電流の回転方向は、渦巻きの巻方向と同じ左回転である。一方、第2の方向の電流が流れるときは、電流の回転方向は、渦巻きの巻方向とは反対の右回転となる。
渦巻きの巻き方向と、渦巻きを流れる電流の回転方向とは、区別して把握される必要がある。なお、電流の回転方向は、電流の旋回方向と言い換えることができる。
図1の上側に、変位センサとしてのストロークセンサにおける、可動導体とコイルとの相対的な位置関係が示されている。ストロークセンサの詳細については後述する。
コイルCL1は、横方向に長く延在し、横方向の長さはLQである。可動の対象物M1は、ここでは円柱状の導体として描かれている。
この対象物M1は、コイルCL1と嵌合長LTで嵌合している。対象物M1が、円柱の中心軸の方向、言い換えれば横方向に変位すると、嵌合長LTが変動し、これに応じて漏れ電流が変動し、コイルCL1のインダクタンスが変化する。このインダクタンスの変化によって、コイルCL1に接続されている、不図示の発振器の共振周波数が変化する。その発振周波数の変化に応じて、例えば、周波数が変化する電流パルス信号を得ることができる。
なお、図1においては、便宜上、導体M1が移動することとしているが、コイルCL1が移動する場合もあり得る。言い換えれば、導体M1とコイルCL1との相対的位置関係が変動する、ということである。
コイルCL1を、1つの平面コイルで実現しようとすると困難が生じる。ここで、図22を参照する。図22は、一方向に延在する、従来の平面コイルの例を示す図である。図22に示される平面コイル250は、長手方向の長さがWx、短手方向の長さがWyである。巻き数を増やそうとすると、短手方向の長さが短いことから、この部分によって巻き数が制限されることになる。よって、強い磁界を生じさせるコイルの作成が困難であるのは否めない。
そこで本発明では、複数の平面コイルを備える平面コイルアレイを用いて、所定方向に延在するコイルを実現する。
図1に戻って説明を続ける。図1の中央に示されるように、コイルCL1は、例えば、4つの平面コイルを、給電端子AとBの間に直列に接続して構成される、平面コイルアレイARで実現することができる。
平面コイルアレイARは、2種類の平面コイルSU1とSU2を、所定方向である右方向に沿って配置し、各平面コイルを電気的に接続する、言い換えれば、直列に接続することで構成され得る。
この平面コイルアレイARは、磁界を発生させるコイルとしての機能と、そのコイルを経由して電気信号を伝送する電気信号の経路、言い換えれば伝送路としての機能とを兼ね備える。なお、図1の中央に示される平面コイルアレイARにおける電流の向きは、白抜きの矢印で示されている。
平面コイルアレイARの左端に平面コイルSU1が配置され、その平面コイルSU1に対して右方向に隣接して平面コイルSU2が配置され、その平面コイルSU2に対して右方向に隣接して平面コイルSU1が配置され、その平面コイルSU1に対して右方向に隣接して平面コイルSU2が配置されている。
平面コイルアレイARは、所定方向である横方向に沿って延在しており、全体として、横方向に長い1つのコイルとしての機能をもつ。なお、各平面コイルの配置方向は直線状が望ましいが、必ずしもこれに限定されず、多少のジグザグ配置は許容され得る。
平面コイルSU1は、コイルの中心に対して左巻きの渦巻き形状を有し、巻き数は3、言い換えれば、3回巻きである。但し、一例であり、これに限定されるものではない。
平面コイルSU2は、コイルの中心に対して左巻きの渦巻き形状を有し、巻き数は3、言い換えれば、3回巻きである。この点では、平面コイルSU1と共通するが、平面コイルSU2は、平面コイルSU1の渦巻きに対して180度のずれをもつ渦巻き形状を有する。
なお、180度のずれは、好ましい一例であり、これに限定されるものではない。広義には、平面コイルSU2は、平面コイルSU1に対して、所定の角度のずれを有する。
ここで、渦巻きが180度ずれている、ということは、言い換えれば、渦巻きの位相が180度ずれているということであり、さらに言い換えれば、一方の渦巻きを、左、又は右に180度回転すると、他方の渦巻きに重なる、相対的位置関係にあるということである。
なお、渦巻きの方向が互いに逆方向である渦巻き、言い換えれば、右巻きと左巻きの各渦巻きは、一方を左右反転すると、他方に重なるという相対的位置関係であり、上記の位相が180度ずれている相対的位置関係とは異なる。
また、左端の平面コイルSU1の中心と、その右隣りの平面コイルSU2の中心は、接続導体83で電気的に接続されている。
接続導体83は、各コイルの渦巻きパターンをまたぐ導体で構成され、例えば弓なりの形状をもつワイヤーハーネスを使用することができる。なお、接続導体83は、中心接続導体と称される場合がある。
また、左端の平面コイルSU1の右隣りの平面コイルSU2の、中心とは反対側の端部と、その右隣りの平面コイルSU1の、中心とは反対側の端部とは、各平面コイルと同層の導体パターンで構成される接続導体CN1で電気的に接続される。この接続導体CN1は、端部接続導体と称される場合がある。
端部接続導体CN1は、平面コイルSU1の中心とは反対側の第1の端部と、右隣りの平面コイルSU2の中心とは反対側の第2の端部とを接続する導体パターン、言い換えれば、配線である。
この端部接続導体CN1は、第1の端部から、右方向に、直線状に引き出される引き出し配線部分F1と、この引き出し配線部分F1に直交する+Y方向、言い換えれば、正幅方向に延びる配線部分F2と、この配線部分F2の端部から、右方向に延びて第2の端部に接続される配線部分F3と、を有する。図中、F1~F3の各々は、破線の楕円で囲まれて示されている。
端部接続導体CN1は、平面コイルSU2の第1の端部から右方向に、配線部分F1によって引き出され、配線部分F2によって+Y方向に延在し、この配線部分F2の端部から、配線部分F3が右方向に引き出されて、平面コイルSU1の第2の端部に電気的に接続される。
図1に示される状態では、端子Bから端子Aに向かって電流が流れているため、端部接続体CN1では、電流は、配線部分F3から、配線部分F2、F1を経由して左回転で流れ、平面コイルSU2の端部に到達する。
平面コイルSU2においても、電流は左回転で流れる。よって、配線部分F2、F1は、接続先である次の平面コイルSU2における電流の回転方向と同じ回転方向の電流の流れを実現する配線部分ということができる。この構成によって、端部接続導体CN1の経路長、言い換えれば、導体パターンの長さを最小限に抑制することが可能である。また、端部接続導体CN1の形状は、平面コイルの渦巻きの形状と整合性のある形状となる。よって、電気信号の損失は最小限に抑制され得る。
また、平面コイルアレイARにおいて、各平面コイルは、横方向に沿って間隔dを隔てて配置されているが、端部接続導体CN1の、配線部分F1、F3によって、上記の間隔dが実現される。よって、各平面コイルは、間隔dを隔てて、規則正しく、バランスよく配置される。
このように、隣接する2つの平面コイルの各端部同士を電気的に接続する導体パターンとしての端部接続導体CN1は、平面コイルSU2、SU1の渦巻きのパターンと完全に整合しており、この端部接続導体CN1において電気信号の大きな損失が生じることがない。
図1の下側に、平面コイルアレイの等価回路が示されている。平面コイルアレイの回路設計に際しては、平面コイルアレイを流れる電気信号の周波数が比較的高いことを考慮して、高周波信号の伝送路の回路モデルとなる分布定数回路として設計する必要が生じる。
ここで、図1の下側に示される等価回路は、4つのコイルのインダクタンスNa~Ndと、各インダクタンスを接続する接続経路DT1~DT3と、で構成される回路となる。接続経路DT1~DT3は、上記の中心接続導体83、端部接続導体CN1に相当する。各インダクタンス及び各接続経路には、寄生容量Ca~Cdが形成される。
図1の下側に示される等価回路は、インダクタンスと容量がバランスよく分布する分布定数回路となる。よって、給電端子A、B間を流れる交流の電気信号には、大きな伝送損失は生じない。
言い換えれば、平面コイルアレイARは、低損失の伝送路としての機能を備える。よって、平面コイルアレイARを、例えばストロークセンサに適用した場合、高いS/N比で電気信号を検出することができる。言い換えれば、高ゲインの変位センサが実現される。
ここで、本発明の実施形態の平面コイルアレイARの特徴点を、より明確化するために、図23の比較例を参照する。図23は、比較例としての平面コイルアレイの構成例を示す図である。この比較例は、本発明前に本発明者らによって検討されたものであり、本発明の一部を構成する。
先に示した特許文献1の図1、図2、図5に示されるように、従来から平面コイルアレイは知られてはいるが、従来使用されている平面コイルは、互いに逆巻きの平面コイルである。
すなわち、図23のA-1に示されるように、中心に対して右巻きの平面コイルG1aと、左巻きの平面コイルG1b、右巻きの平面コイルG2aと、左巻きの平面コイルG2bとを、所定方向に沿って配置することで、所定方向に長いコイルは作成可能である。
但し、従来の平面コイルアレイでは、特許文献1の図1からもわかるように、各平面コイルアレイは給電端子に対して並列に接続されており、各平面コイルは電気的には接続されていない。
この構成では、並列接続のための配線B20、B20’、B21、B21’、B22、B22’、B23、B23’と、端子K1~K6とが必要となり、各平面コイルを電気的に接続する構成が、複雑化、大型化するのは否めない。
また、先に述べたように、各平面コイルは、電気的には接続されていないため、変位センサのような、各平面コイルを経由して電気信号を伝送する必要がある用途には使用できない。
この対策として、本発明者らは、A-2に示されるように、各平面コイルを端子間に直列に接続する構成について考察した。各平面コイル間の電気的接続には、導体B24、B25、B26と、を用いる。このA-2に示される構成は、本発明の一部であり、従来技術には属さない。
この場合には、電気信号の伝送路は、一応は形成される。しかし、平面コイルG1bの端部は、その平面コイルG1bの中心に対して左側に位置し、平面コイルG2bの端部は、その平面コイルG2bの中心に対して右側に位置する。言い換えれば、各端部は、互いに、左右方向に関して反対側に位置し、よって各端部は、長い距離Lxを隔てて配置されることになる。よって、大きな寄生抵抗Rk、大きな寄生容量Ck1,Ck2が形成されてしまう。
言い換えれば、端部間を接続する配線部分は、各平面コイルの渦巻き形状とは整合せず、その配線部分で、高周波信号の大きな損失が生じる。すなわち、低損失の伝送路を構成することはできない。
ここで、図1に戻って説明を続ける。図1の中央に示される平面コイルアレイARは、各平面コイルを電気的に接続する導体パターンが簡素化されており、全体として小型化が達成されている。
また、先に説明したように、特に、端部接続配線CN1が簡素化されている。また、端部接続配線CN1は、平面コイルの渦巻き形状と完全に整合しており、電気信号の伝送損失は最小限に抑制され得る。言い換えれば、低損失の伝送路を実現することができる。
このように、渦巻きの巻方向は同じであるが、位相が180度ずれている渦巻き形状を使用することで、電気的な接続構成の簡素化と、低損失の伝送路の実現という優れた効果を得ることができる。
なお、以下の説明では、平面コイルSU1を、第1の種類の平面コイルという意味で、第1の平面コイルと称し、平面コイルSU2を、第2の種類の平面コイルという意味で、第2の平面コイルと称する場合がある。
また、例えば、図1の中央に示される4つの平面コイルの配置に着目し、左端の平面コイルSU1を第1の平面コイルと称し、その右隣りの平面コイルSU2を第2の平面コイルと称し、その右隣りの平面コイルSU1を第3の平面コイルと称し、その右隣りの平面コイルを第4の平面コイルと称する場合がある。
渦巻きの形状の種類に着目した表現であるか、渦巻きの配置に着目した表現であるかは、文脈によって判断されることになる。
次に、図2を参照する。図2は、図1において隣接して配置される2つの平面コイルの配置、流れる電流の向き、及び電気的接続を示す図である。図2において、図1と共通する部分には同じ符号を付している。
図2の上側には、平面コイルSU1とSU2を並置し、各平面コイルを+Z方向から見た平面視における渦巻き形状を示す。なお、各平面コイルSU1、SU2の各中心には、符号50を付している。
各平面コイルSU1、SU2には、破線の矩形が示されているが、これは、巻線の、1回分の巻きの範囲を示すために記載している。平面コイルSU1、SU2は共に3回巻であり、巻き数は同数である。
また、平面コイルSU1において1回目の巻き部分P11、及び3回目の巻き部分P13は太線の実線で示され、2回目の巻き部分P12は太線の一点鎖線で示されている。
また、平面コイルSU2において1回目の巻き部分P21、及び3回目の巻き部分P23は太線の実線で示され、2回目の巻き部分P22は太線の一点鎖線で示されている。
平面コイルSU1は、平面コイルSU1の中心50に対して、導体パターン、言い換えれば巻線P1を、左巻きに3回巻いた構成を有する。平面コイルSU2は、平面コイルSU1の中心50に対して、導体パターン、言い換えれば巻線P2を、左巻きに3回巻いた構成を有し、この点では平面コイルSU1と共通する。但し、平面コイルSU2の渦巻き形状は、平面コイルSU1の渦巻き形状に対して、180度ずれた形状を有する。
平面コイルSU1、SU2には、破線の円で囲まれた箇所60が示されている。平面コイルSU1では、中心50には、左方向に引き出される引き出し配線QLが接続され、1回目の巻き部分P11が半周することで、箇所60に達する。一方、平面コイルSU2では、中心50には、右方向に引き出される引き出し配線QLが接続され、その引き出し位置が箇所60となる。よって、渦巻き形状の位相が半周分、すなわち、180度ずれていることになる。言い換えれば、平面コイルSU1とSU2は、一方を、右、又は左に180度回転すると他方に重なる、という相対的な位置関係にある。
また、図2の中央に示されるように、平面コイルSU1の、中心50を基準として平面コイルSU2側、すなわち中心50よりも右側に位置する配線L4~L6には、-Y側から+Y側に向かう同一方向の電流が流れる。
平面コイルSU2においても同様であり、中心50を基準として平面コイルSU1側、すなわち、中心50よりも右側に位置する配線L7~L9には、-Y側から+Y側に向かう同一方向の電流が流れる。
上記の複数の配線L4~L9は、隣接する平面コイルSU1、SU2における隣接領域の配線と総称することができる。平面コイルSU1、SU2の隣接領域の各配線には、同じ方向に流れる電流が生じ、よって、アンペールの右ネジの法則に従って、各配線L4~L9の各々には、共通の方向の磁界が生じる。その各磁界が合わさることで、磁界が横方向において増強される。よって、図2の下側に示されるように、平面コイルSU1、SU2の隣接領域において、強い磁界BS2を生じさせることができる。
以下の説明では、アンペールの右ネジの法則に従って発生する磁界のうち、時計回りの磁界を右方向の磁界、あるいは、右回りの磁界と称する。また、反時計方向の磁界を左方向の磁界、あるいは、左回りの磁界と称する。
図2の下側に示される例では、平面コイルSU1の、中心50を基準として左側に位置する部分では、左方向の磁界BS1が発生し、平面コイルSU1、SU2の隣接領域では、右方向の磁界BS2が発生し、平面コイルSU2の、中心50を基準として右側に位置する部分では、左方向の磁界BS3が発生する。このように、横方向、すなわち所定方向に沿って、互いに逆方向の磁界が交互に発生する。
なお、図2の下側の例では、平面コイルSU1とSU2の各中心を接続する中心接続導体として、弓なりの形状をもつワイヤーハーネス83が用いられている。ワイヤーハーネスの代わりにボンディングワイヤを使用することもできる。
次に、図3を参照する。図3は、隣接して配置される2つの平面コイルの配置、流れる電流の向き、及び電気的接続の他の例を示す図である。図3の上側には、平面コイルSU1とSU2を並置し、各平面コイルを+Z方向から見た場合の渦巻き形状を示す。なお、各平面コイルSU1、SU2の各中心には、符号50を付している。
図3では、平面コイルSU1、SU2は、共に右巻きであり、図2の例とは巻き方向が異なる。平面コイルSU2の渦の位相は、平面コイルSU1の渦の位相に対して180度ずれている。
これによって、各平面コイルSU1、SU2を流れる電流の向きが、図2の例とは逆になり、また、発生する磁界の向きも逆となる。図2の説明は、図3にも適用可能であるため、詳細な説明は省略する。
なお、図3における符号P3、P4は、図2における符号P1、P2に対応する。図3における符号P31~P33及びP41~P43は、図2における符号P11~P13及びP21~P23に対応する。また、図3における符号L4’~L9’は、図2における符号L4~L9に対応する。また、図3における符号BS4~BS6は、図2における符号BS1~BS3に対応する。
次に、図4を参照する。図4は、図2において隣接して配置される2つの平面コイルの電気的接続の他の例を示す図である。
図4の上側に示される図は、先に説明した図2の中央に示される図と同じである。但し、図4の下側に示される図では、平面コイルSU1の中心と平面コイルSU2の中心とを接続する中心接続導体87として、ブリッジ電極、あるいは、多層構造の電極、もしくは、多層構造の配線等を使用する。この点で、図2の例とは構成が異なる。得られる効果は、図2と同じである。
<実施例2>
本実施例では、多層構造の平面コイルアレイについて説明する。図5を参照する。図5は、4個の平面コイルを用いた多層構造の平面コイルアレイの配置、電流の流れ、及び電気的接続の一例を示す図である。
図5の例では、多層構造の平面コイルアレイを構成する。多層構造は、プリント基板の両面実装技術による多層構造であってもよく、又は、基板上に層間絶縁層と多層配線層を形成する多層配線技術による多層構造であってもよい。
図5では、先に図2の上側に示した、左巻きの平面コイルSU1、SU2を上層の平面コイルとして使用する。
また、下層の平面コイルとしては、先に図3の上側に示した、右巻きの平面コイルを使用する。言い換えれば、下層の平面コイルは、上層の平面コイルに平面視で重なるように積層されて形成され、上層の平面コイルと、その平面コイルに対応する下層の平面コイルとは、平面コイルの渦巻きの巻き方向が逆となる。言い換えれば、一方の渦巻きを左右反転すると、他方の渦巻きに重なる相対的位置関係となる。
なお、図3では、右巻の平面コイルについてもSU1、SU2という符号で示していたが、図5では、上層の平面コイルSU1、SU2と区別する必要があるため、下層の平面コイルにはSU3、SU4という符号を付している。
図5の上側には、上層の平面コイルSU1とSU2を並置し、各平面コイルを+Z方向から見た場合の渦巻き形状が示されている。また、図5の下側には、下層の平面コイルSU3とSU4を並置し、各平面コイルを+Z方向から見た場合の渦巻き形状が示されている。なお、各平面コイルSU1~SU4の各中心には、符号50を付している。
また、各平面コイルSU1~SU4に流れる電流の方向は、白抜きの矢印で示されている。平面コイルSU1とSU3とを重ねた場合に上下に重複する各配線には、同じ方向に電流が流れる。同様に、平面コイルSU3とSU4とを重ねた場合に上下に重複する各配線には、同じ方向に電流が流れる。
4つの平面コイルSU1~SU4の各々は、渦巻きの形状が異なっている。すなわち、図4の例では、4種類の渦巻き形状を組み合わせて電気的経路を構成することができ、デバイスの設計の自由度が向上している。
なお、平面コイルSU1~SU4の各々を、便宜上、第1~第4の平面コイルと呼ぶ場合がある。
平面コイルSU1とSU3は、平面視で重なるように積層されて形成され、平面コイルSU1は左巻き、平面コイルSU2は右巻きであり、かつ、平面コイルSU1とSU3の中心同士が、Z方向、すなわち上下方向に沿って延在する中心接続導体DE1によって電気的に接続される。
平面コイルSU2とSU4は、平面視で重なるように積層されて形成され、平面コイルSU2は左巻き、平面コイルSU4は右巻きであり、かつ、平面コイルSU2とSU4の中心同士が、Z方向、すなわち上下方向に沿って延在する中心接続導体DE2によって電気的に接続される。
また、平面コイルSU3と平面コイルSU4は同層の導体で構成され、かつ、各々の端部同士が端部接続導体CN2で電気的に接続されている。端部接続導体CN2は、平面コイルSU3、SU4と同層の導体で構成され、先に説明した端部接続導体CN1と同様の形状と機能を有し、同様の効果を奏する。
図5の、端部接続導体CN2は、配線部分F1’、F2’、F3’を有する。各部分は、図1で説明した端部接続導体CN1の配線部分F1、F2、F3に対応する。端部接続導体CN2は、平面コイルSU3、SU4の渦巻きと整合しており、電気信号の損失が抑制され、よって低損失の伝送路が確保される。
また、中心接続導体DE1、DE2は、例えばプリント基板に形成したビアホールに導体を埋め込んで形成される、コンタクトプラグと称される電極や、あるいは、層間絶縁膜に形成されるコンタクトホールを貫通して形成されるコンタクト電極によって構成可能である。
平面コイルSU1とSU3とを重ねた場合に上下に重複する各配線には、同じ方向に電流が流れることから、上下方向において、互いに増強し合う、同じ方向の磁界が生じる。同様に、平面コイルSU3とSU4とを重ねた場合に上下に重複する各配線には、同じ方向に電流が流れることから、上下方向において、互いに増強し合う、同じ方向の磁界が生じる。
また、端部接続導体CN2の配線部分F2’においても、上記の上下に重なる各配線と同じ方向に電流が流れ、同じ方向の磁界が生じる。
このようにして生じる、同じ方向の磁界が合わさって、横方向及び上下方向に増強されることで強い磁界BS8が生じる。
図5の例では、平面コイルSU1、SU2の、中心50を基準として左側に位置する部分では、左方向の磁界BS7が発生する。
また、平面コイルSU1、SU2の隣接領域、平面コイルSU3、SU4の隣接領域、及び、平面コイルSU3とSU4に挟まれて配置されている端部接続導体CN2の配線部分F2’には、右方向の磁界BS8が発生する。
また、平面コイルSU2、SU4の、中心50を基準として右側に位置する部分では、左方向の磁界BS9が発生する。このように、横方向、すなわち所定方向に沿って、互いに逆方向の磁界が交互に発生する。
次に、図6Aを参照する。図6Aは、8個の平面コイルを用いた多層構造の平面コイルアレイの近くに、可動導体を配置した構成を示す図である。図6Aにおいて、前掲の図と共通する部分には、同じ符号を付している。
図6Aの例では、図5に示した4つの平面コイルを含む多層構造をもう1つ用意し、各多層構造を横方向に隣接して配置し、各多層構造を、端部接続導体CN1を用いて、横方向に電気的に接続している。
なお、上下に積層される平面コイルの中心同士は、先に説明したように、中心接続導体DE1、DE2によって接続される。但し、図6Aでは、使用される4つの中心接続導体を区別可能とするために、左から右に向かって、各中心接続導体にDE1~DE4の符号を付している。
これによって、電気信号の伝送路を兼ねる、8つの平面コイルを含む多層構造からなる1つの平面コイルアレイARが構成される。電流の流れる方向は、白抜きの矢印で示されている。
この平面コイルアレイARの近傍に、可動であり、横長である板状の導体M10が配置されている。この構成は、先に図1の上側に示した、可動の円柱状の導体M1が、横長のコイルCL1と嵌合している構成と実質的に同じである。
図6の例では、横長である板状の導体M10が横方向に移動すると、平面コイルアレイARにおける各平面コイルのインダクタンスが変化し、平面コイルアレイARを経由して伝送される電気信号の電気的特性、例えば周波数が変化する。この周波数の変化を検出することで、導体M10の移動量を検出することができる。よって、図6の平面コイルアレイARは、変位センサの構成要素となり得る。
次に、図6Bを参照する。図6Bは、図6Aにおける平面コイルアレイ、及び可動導体の断面図である。
図6Bの例では、プリント基板311の両面実装技術を使用して多層構造が形成されているものとして、以下、説明する。なお、層間絶縁膜を利用した多層配線技術を使用する場合は、符号311は、半導体基板や絶縁基板上に形成される層間絶縁層を示す。
プリント基板311が、平板上の可撓性をもたないリジッド基板である場合は、その材料として、例えばガラスエポキシ樹脂やポリイミド樹脂を使用できる。可撓性を有するフレキシブル基板である場合は、その材料として、例えばポリイミド樹脂フィルムやポリエステル樹脂フィルムを使用できる。但し、一例であり、これらの例に限定されるものではない。
左端に位置する、上層の平面コイルSU1は、プリント基板311の表面に形成された金属の導体310により構成される。金属としては、例えば、銀や銅を使用することができる。プリント基板311上に銀や銅の薄膜を形成し、フォトリソグラフィによってパターニングすることで、渦巻き状のパターンが形成される。
平面コイルSU1に、上から見た平面視で重なるように配置されている平面コイルSU2は、導体312により構成される。平面コイルSU1とSU2の中心同士を接続する中心接続導体DE1は、例えば、プリント基板311に貫通形成されているビアホールVIAHに、例えば埋め込み形成された、例えば銅からなる金属電極により構成することができる。
プリント基板311の表面に形成されている導体314、318、324、端部接続導体CN1、及び、プリント基板311の裏面に形成されている導体316、320、326、端部接続導体CN2も、上記の金属材料で構成され、フォトリソグラフィによって所定のパターンにパターニングされている。
プリント基板の両面実装技術等を用いた多層構造を利用すると、薄く、小型の平面コイルアレイARを、既存の半導体加工技術を用いて、安価、簡易、かつ安定的に製造することができる。
また、平面コイルアレイARは平板状であるため、平板の可動導体M10を、無理なく、近接して配置することができる。よって、例えば小型の変位センサを構成することができる。
また、図6Bの例では、左から右に向かって、左方向の磁界BS7、右方向の磁界BS6、左方向の磁界BS9、右方向の磁界BS10、左方向の磁界BS11が発生する。すなわち、横方向に、向きが逆である磁界が交互に発生する。各磁界の強度は均等であり、バランスのよい、安定的な磁界の発生が可能である。
<実施例3>
本実施例では、平面コイルアレイの磁気シールド構造について説明する。図7を参照する。図7は、平面コイルアレイと周辺に配置される保護対象物との間に、磁界を遮蔽するシールド部材を設けた構造の断面図である。
図7における平面コイルアレイARは、図6Bの平面コイルアレイと同じである。平面コイルアレイARの構成については先に説明されているため、ここでは、その説明は省略する。
平面コイルアレイARの周辺には、保護対象物502、504が設けられている。なお、保護対象物は、周辺導体と称される場合もある。
保護対象物は、平面コイルアレイARが発生する磁界からの保護が必要な部材や機器である。保護対象物としては、例えば、平面コイルアレイの周辺に配置される、磁界からの保護を要する導体部材、磁界からの保護が必要な半導体装置や集積回路装置、あるいは電子機器等をあげることができる。
平面コイルアレイARと、その周辺に配置されている保護対象物502との間には、磁気シールド部材402が設けられ、保護対象物504との間には、磁気シールド部材404が設けられている。
なお、磁気シールド部材は、単に、シールド部材と称されることがある。また、磁気シールド部材は、電界と磁界の双方を遮蔽する電磁シールド部材であってもよい。
磁気シールド部材の材料としては、例えば、鉄等の金属や磁性体材料を用いることができる。また、磁気シールド部材には、所定条件を満たすスリットを設けることもできる。この点については後述する。
また、磁気シールド部材として、例えば磁性体粉末を含有する電気的絶縁材、言い換えれば磁性樹脂コンパウンドを使用することもできる。この点については後述する。
磁気シールド部材402、404は、平面コイルアレイARの延在方向であるX方向、に沿って配置され、かつ、+Z方向、あるいは-Z方向から見た平面視で、平面コイルアレイARに重なって、その平面コイルアレイARを覆うように設けられるのが好ましい。
次に、図8を参照する。図8は、磁気シールド部材を、磁気回路の構成要素としてのヨークとしても機能させる構成を示す図である。
図8のA-1には、平面コイルSU1とSU2が並置された構成の平面図が記載されている。この構成は、先に図2で説明した構成と同じである。電流の向きは、白抜きの矢印で示されている。
各平面コイルSU1、SU2の各中心50の間の領域が、隣接領域である。この隣接領域には、L4~L9の6本のY方向に延在する導体パターン、言い換えれば配線が存在し、各配線には、-Y側から+Y側へと電流が流れることから、この隣接領域では、各配線が生じる磁界が合わさって、強い右方向の磁界BS2が生じる。
図8のA-2には、平面コイルSU1とSU2で構成される1対の平面コイルを、2対使用し、2対の平面コイルをX方向に配置することで、X方向に延在する平面コイルアレイARが形成されている。この平面コイルアレイARは、先に、図1にて説明した平面コイルアレイの構成と同じであるため、図8では簡略化されて描かれている。
図8のA-2の平面コイルアレイARでは、あるタイミングにおいて、右側から左側へ電流35が流れている。この結果として、磁界BS2が発生する。この磁界BS2を構成する磁束の一部は、大気中に漏れており、図中、破線の楕円で囲まれて示される漏れ磁束29が存在する。
ここで、図8のA-3に示すように、磁気シールド部材402を、平面コイルアレイARに近接して配置する構成を採用すると、磁気シールド部材は、大気に比べて透磁率が格段に高く、磁束を通しやすいため、上記の漏れ磁束は磁気シールド部材402を流れることになり、漏れ磁束を有効に活用できる。よって、磁束密度が向上する。図8のA-3では、磁気シールド部材402を左から右に流れる磁束BXが生じている。
言い換えれば、第1の平面コイルSU1の、上記配線L4~L6が発生する磁束と、隣接する第2の平面コイルSU2の、上記配線L7~L9が発生する磁束とを効率的に結合することができ、これによって磁束密度が向上し、磁界BS2が強化される。
磁気シールド部材402の上記の磁束BXが流れている部分は、平面コイルアレイARにおける隣接する2つの平面コイルの各磁束を結合して磁束密度を高めるヨークとして機能している。
ヨークとしての機能を有する磁気シールド部材は、ヨーク兼用の磁気シールド部材、あるいは、ヨーク兼用のシールド部材と称することが可能な、2つの機能を併せ持つ多機能部材である。なお、ヨーク兼用のシールド部材は、ヨークシールド部材と称されることがある。
このように、磁気シールド部材を平面コイルアレイに近接して配置することで、磁気シールド部材をヨークとしても機能させて、磁束密度を向上させ、より強い磁界を発生させることができるという効果が得られる。
また、磁気シールド部材を平面コイルアレイに近接して配置すると、磁気シールド部材及び平面コイルアレイで構成される構造が小型化され、狭い空間においても設置可能となる、という構造の小型化の効果も得られる。
しかし、本発明者らの検討によれば、磁気シールド部材を平面コイルアレイに近接して配置した場合には、平面コイルアレイが、交流信号の伝送路としても機能することによる、好ましくない効果も生じ得ることが明らかとなった。
すなわち、所定方向に沿って延在し、かつ電気信号の経路を兼ねる平面コイルアレイの近傍に、すなわち近接して導電性の磁気シールド部材を配置すると、電気信号の周波数が高い場合には、高周波信号の伝送路であるマイクロストリップラインに類似した構造が疑似的に形成されてしまい、導電性の磁気シールド部材に、戻り電流と称される電流が流れ、この戻り電流に起因して生じる磁界が、平面コイルアレイの磁界を打ち消すように作用し、平面コイルアレイが発生する磁界の強度が低下するという、新たな課題が生じる。以下、この課題について説明する。
図9を参照する。図9は、平面コイルアレイが、交流信号の伝送路としても機能することによる、好ましくない効果の例を示す図である。
図9のA-1には、典型的なマイクロストリップラインの構造が示されている。マイクロストリップライン34は、同軸ケーブルを断面形状において2分割して得られる分割片を、平坦化した構造を有する。
図9のA-1において、信号伝送路36は、同軸ケーブルの内部導体に相当し、高周波信号38は、信号伝送路36を経由して伝送される。信号伝送路36の下側には、平板状の接地導体33が設けられている。この接地導体33は、同軸ケーブルの外部導体に相当し、内部導体が発生する磁界を遮蔽する機能を有する。
信号伝送路36と接地導体33とは、電気的絶縁体である誘電体からなる基板31を介して対向配置されている。
信号伝送路36に高周波電流が流れると、信号伝送路36から接地導体33に向かう磁界EJが生じる。この磁界EJが接地導体33と交差すると、表皮効果によって、接地導体33の表面に多くの渦電流が生じ、この渦電流による電界によって、上記の磁界EJを打ち消すように電流39が流れる。この電流39は、信号伝送路36を流れる高周波信号38の向きとは逆向きであることから、一般に、戻り電流と称される。
戻り電流が生じると、この戻り電流39によって生じる磁界が、高周波信号38によって生じる磁界EJを打ち消し、よって、磁界EJの強度が弱まる。
ここで、マイクロストリップラインの構造と、図9のA-2に示されている、平面コイルアレイAR、及び磁気シールド部材404とで構成される構造とを比較すると、両者は、類似した構造を有することがわかる。
すなわち、平面コイルアレイARが、信号伝送路36に相当し、磁気シールド部材404が、接地導体33に相当する。
また、先に図7において示したプリント配線基板や層間絶縁膜311が、マイクロストリップライン34における誘電体基板31に相当する。
なお、平面コイルアレイARの上側には、磁気シールド部材402が、平面コイルアレイARに近接して配置されている。この磁気シールド部材402も、電気的な構成としては、平面コイルアレイARの下側に配置されている磁気シールド部材404と同様の機能を有する。よって磁気シールド部材402も、マイクロストリップライン34における接地導体33に相当するとみなすことができる。
図9のA-2において、平面コイルアレイARの下側に配置されている磁気シールド部材404には、戻り電流47が生じている。すなわち、平面コイルアレイARを右から左に流れる電流信号、言い換えれば高周波電流信号35によって、磁界BS2が発生し、この磁界BS2が磁気シールド部材404と交差することで、表皮効果によって、磁気シールド部材404の表面に多くの渦電流が生じ、この渦電流が発生させる電界によって戻り電流47が流れる。
そして、戻り電流47によって磁界BJが生じる。図9のA-3に示されるように、磁界BS2は右方向の磁界であり、磁界BJは左方向の磁界であり、向きが逆である。よって、磁界BSJは、平面コイルアレイARが発生させる磁界BS2を打ち消すように作用する。よって、磁界BS2の強度が弱められ、平面コイルアレイARは、本来の強い磁界を発生できなくなる。
また、平面コイルアレイARの上側に配置されている磁気シールド部材402にも、同じ原理で戻り電流47’が生じる。この戻り電流47’によって生じる磁界BJ’は、平面コイルアレイARが発生する磁界BS2と逆向きであり、よって、この磁界BJ’も、磁界BS2を打ち消すように作用する。よって、磁界BS2の強度が、さらに弱められることになる。
先に説明したように、平面コイルアレイは、例えば、変位センサへの適用が想定されており、変位センサの検出感度を向上させるためには、強い磁界を発生させることが必要である。磁界が弱いと、変位センサの検出感度が低下してしまう。よって、上記の、平面コイルアレイが生じさせる磁界が弱まってしまうという課題を克服する必要がある。
次に、この課題の対策について説明する。図10を参照する。図10は、図9に示される好ましくない効果を抑制するためのシールド部材の構成の一例を示す図である。
本発明者らは、磁気シールド部材に流れる電流を抑制することで、図9にて説明した問題を緩和できるという知見を得た。
そこで、図10の例では、磁気シールド部材を構成する導電性の材料板に、スリットを設けて、磁気シールド部材の、戻り電流が流れる方向における抵抗値を高めることで、戻り電流の電流量を減少させる。
ここで、スリットとは、材料板の一部を切り欠いて作成される空隙部である。スリットは、好ましい一例では、一方向に延びる細長い四角形の形状である。
なお、以下の説明では、磁気シールド構造という用語を使用する場合がある。この磁気シールド構造は、磁気シールド部材自体の構成と、平面コイルアレイに対する磁気シールド部材の配置、すなわち、相対的位置関係を含むレイアウト構成、の双方の観点から把握されるのが好ましい。
図10のA-1では、平面コイルアレイARの上側には、平面コイルアレイARに近接して、スリット501、503を有する導電性の磁気シールド部材403が配置されている。この磁気シールド部材403は、電気信号37’の経路、あるいは伝送路としても機能する。
また、平面コイルアレイARの下側には、平面コイルアレイARに近接して、スリット501、503を有する導電性の磁気シールド部材405が配置されている。この磁気シールド部材405は、電気信号37の経路、あるいは伝送路としても機能する。
磁気シールド部材403、405は、平面コイルアレイARと同様にX方向に沿って延在する、導電性の板状の部材であり、+Y方向又は-Y方向から見た平面視で、平面コイルアレイARに重なるように、平面コイルアレイを覆うようにして配置されている。
磁気シールド部材403、405は、先に図8を用いて説明した、ヨークとしての機能を有するヨーク兼用の磁気シールド部材である。
スリット501は、磁気シールド部材403、405の延在方向であるX方向、広義には一方向に沿って延在し、所定の長さをもつ横長の四角形のスリットである。図10のA-1では、磁気シールド部材403、405には各々、2本のスリット501、501が設けられている。
このスリット501が設けられることで、そのスリット501の分だけ磁気シールド部材403、405における電気信号の経路の断面積が小さくなり、電気抵抗が増大する。
図10のA-1に示されるように、電気抵抗は、X方向に沿って分散されて、電気信号の経路に挿入される。この電気抵抗が、先に説明した戻り電流を制限する電流制限抵抗として機能する。よって、戻り電流が抑制される。したがって、平面コイルアレイARが発生する磁界が打ち消されて弱くなるという問題が緩和される。
スリット501は、X方向に延在するスリットであって、戻り電流を抑制するスリットということができる。
また、スリット503は、X方向、言い換えれば一方向に直角に交わる、すなわち直交するスリットである。このスリット503も、スリット501と同じ効果を奏する。
このスリット503は、2本あり、1本は、板状の平面コイルアレイARの、Y方向における+Y方向側の端部から、中央へと切り込むスリットである。他の1本は、-Y方向側の端部から、中央へと切り込むスリットである。
この2つのスリットは、Y方向に間隔をおいて、X方向における同じ位置に対向して配置されており、各々で一対のスリット503、503を構成する。
但し、何れか一方のみを設けてもよい。すなわち、一対のスリット503、503のうちの、少なくとも1本が設けられる。
このスリット503は、X方向における、上記の2つのスリット501、501の中間の位置に設けられる。
このスリット503も、上記のスリット501と同様の効果を奏する。すなわち、そのスリット503が設けられることで、磁気シールド部材403、405における電気信号の経路の断面積が小さくなり、電気抵抗が増大する。その電気抵抗が、先に説明した戻り電流を制限する電流制限抵抗として機能する。よって、戻り電流が抑制される。したがって、平面コイルアレイARが発生する磁界が打ち消されて弱くなるという問題が緩和される。
スリット503は、X方向に直交するY方向に延在するスリットであって、スリット501と同様に、戻り電流を抑制する機能をもつスリットということができる。
スリット501、503は、共に設けられるのが好ましいが、但し、これに限定されるものではなく、いずれか一方のみを設ける場合も想定され得る。
なお、スリット501とスリット503が連結されると、磁気シールド部材403、405の機械的強度が弱くなるため、各スリット501、503は連結されない。
このように、磁気シールド部材403、405は、スリット501及び503の、少なくとも一方が設けられた導体パターンを有する。
言い換えれば、磁気シールド部材403、405の導体パターンは、戻り電流を抑制する機能をもつ、一方向に沿って延在するスリット501、及び一方向に直交する方向に延在するスリット503の少なくとも一方が設けられた導体パターンである。
図10のA-2において、磁気シールド部材405の、より詳細な構成の一例が示されている。Y方向に延在するスリット503、503は、一対のスリットG1を構成している。
また、X方向に延在するスリット501は、複数本、設けられ、スリット群G2を構成している。複数本のスリット501は、Y方向に所定の間隔をおいて、互いに平行に配置されている。スリットG2が設けられることで、戻り電流を、より効果的に抑制することができる。
次に、図11を参照する。図11は、図10に示されるシールド部材と平面コイルアレイとの相対的な位置関係を示す図である。
図11のA-1には、先に図1で説明した4つの平面コイルを用いた平面コイルアレイの平面図が示されている。なお、各平面コイルの電気的接続関係は、先に図1で示したとおりであるため、図11のA-1では省略されている。
図11のA-2には、先に図10のA-2で説明した磁気シールド部材405が描かれている。図示されるように、複数本のスリットを有するスリット群G2は、平面コイルアレイにおける、隣接する2つの平面コイルSU2、SU1の隣接領域に対応するように設けられる。ここで、隣接領域は、平面コイルSU2の中心50と、平面コイルSU1の中心50との間の領域である。図11のA-1では、符号WSで示される範囲が、隣接領域に相当する。なお、隣接領域は、隣接部分、あるいは、隣接部と称することもできる。
なお、隣接領域という用語は、平面コイルアレイの領域を指してもよく、また、磁気シールド部材における、上記領域に対応する領域を指してもよい。
先に説明したように、隣接する2つの平面コイルSU2、SU1の隣接領域では、同じ方向の複数の磁界が合わさって強い磁界が生じる。この強い磁界に起因して、大きな戻り電流が発生する可能性がある。よって、複数本のスリットを有するスリット群G2を、その隣接領域に対応して配置する。言い換えれば、スリット群G2を、その隣接領域に、上下で重なるように配置する。これにより、戻り電流を効果的に抑制することができる。
また、一対のスリットG1は、平面コイルSU2、SU1の各中心50の、X方向における位置に対応するように設けられる。
平面コイルアレイARは、一方向に長く延びるため、隣接する2つの平面コイルの隣接領域が、一方向に沿って連続する構成となる場合が多い。そこで、磁気シールド部材405の隣接領域毎に、一方向に直交する方向にスリット503を設け、1つの隣接領域で発生した戻り電流が、そのままの電流量で、次の隣接領域に流れ込むことを抑制する。これによって、戻り電流を、効果的に抑制することができる。
このように、一対のスリットG1によって、1つの隣接領域で発生した戻り電流が、そのまま次の隣接領域に流れることが抑制される。さらに、1つの隣接領域では、スリット群G2によって、その隣接領域において発生する戻り電流の電流量が減少する。よって、戻り電流を、効果的に抑制することができ、平面コイルの磁界が打ち消される問題を解決することができる。
図11のA-2に示される磁気シールド部材405は、磁気シールドとしての機能と、ヨークとしての機能と、一方向に流れる電流の電流量を制限する電流制限機能と、を併せ持つ多機能の、新規な磁気シールド部材である。各機能は、磁気シールド部材405を、平面コイルアレイARに対して適切な相対的位置関係で、近接して配置することで得られるものである。
言い換えれば、磁気シールド部材405におけるスリットを設けた導体パターンの形状に関する構成と、平面コイルアレイARに対するレイアウト構成と、によって、新規な磁気シールド構造が実現される。
図11のA-3には、図7で示した構造が再掲されている。但し、図7では、磁気シールド部材には、符号402、404を付していたが、図11のA-3では、符号403、405を付している。その構造については、先に説明されているため、ここでは構造の説明は省略する。
次に、図12を参照する。図12は、磁気シールド部材の他の構成例を示す図である。図12のA-1は、図11のA-1と同じである。
図12のA-2では、磁気シールド部材407において、先に説明したスリット501、503に加えて、スリット群G3が設けられている。
図12のA-2と、先に説明した図11のA-2とを比較すると、図11のA-2におけるスリット群G2に含まれる9本の第1のスリット501のうちの、+Y側の3本、ならびに、-Y側の3本が、スリット群G2に置換されている。スリット群G3、G3の間の中央領域において、3本のスリット501が配置されている。
スリット群G3には、屈曲部を備えるスリットが含まれる。この屈曲部を備えるスリットは、X方向に延在する第1のスリット部分504と、第1のスリット部分504の、両端部、言い換えれば左端部及び右端部の各々に接続され、X方向に直交するY方向に延在する一対の第2のスリット部分505、505と、によって構成される。
先に説明したスリット501を第1のスリットとし、スリット502を第2のスリットとし、上記の屈曲部を備えるスリットを第3のスリットとすると、図12のA-2の磁気シールド部材407は、パターンが異なる3種類のスリットを有する磁気シールド部材ということができる。
屈曲部を有する第3のスリット、言い換えれば、屈曲形状のパターンを有する第3のスリットを使用することの利点は、Y方向に延在する第2のスリット部分505、505によって、X方向に沿って流れようとする戻り電流の進行が阻止され、よって、X方向における電気抵抗の抵抗値が増大して電流制限機能が強化されることである。
また、電流制限機能の強化のみに着目すれば、X方向の幅が広い1つの大きなスリットを設けても同じ効果が得られる。しかしこの場合は、その大きなスリットの部分には導電材料がないため、磁気シールド効果やヨークとしての効果は生じず、よって、磁気シールド部材の磁気遮蔽効果、ならびにヨークによる磁界を増強する効果は共に低下する。
これに対して、屈曲部を備える第3のスリットを用いると、スリット群G3には、導電材のパターン506が存在し、この導電材のパターン506において、磁気シールド効果やヨークとしての効果が得られる。よって、磁気遮蔽効果、ならびにヨークによる磁界を増強する効果を、ある程度維持しつつ、電流制限機能を強化することができる。
図12のA-3には、スリットパターンの他の例が示される。図12のA-3に示される磁気シールド部材409には、X方向における一方の端部付近、すなわち左端部の付近から、他方の端部付近、すなわち右端部の付近にわたって延在する、横方向に長いスリット505が設けられている。
図12のA-3の構成は、先に説明した図11のA-2の構成において、スリット503を除去し、X方向に沿って分散されて配置されていたスリット501を、連接させて1本のスリットにした構成とみることができる。
言い換えれば、図12のA-3に示されるスリット505は、先に説明したスリット501を、磁気シールド部材の一方の端部付近から他方の端部付近まで、横方向に長く延在させたもの、と見ることができる。この観点からは、スリット505は、第1のスリット501の長さを変更して得られる、第1のスリット501の変形例とみることができる。
図12のA-3の例では、横方向に長いスリット505が複数本、設けられていることから、磁気シールド部材409における電気信号の経路の断面積を効果的に小さくすることができる。よって、シンプルな直線状のスリットのみで、電流制限機能を効率的に強化することが可能である。
以上説明したように、本実施例によれば、平面コイルアレイが発生する磁界を遮蔽でき、平面コイルアレイを構成する各コイルが発生する磁界の強度が低下することを簡易な構成で抑制できる、平面コイルアレイの磁気シールド構造を提供することができる。
<実施例4>
図13を参照する。図13は、磁気シールド部材の、さらに他の構成例を示す図である。本実施例では、磁気シールド部材として、電気的な絶縁性の樹脂材料に、磁性材料の粉末を混合、又は混錬した磁性樹脂コンパウンドを使用する例について説明する。
図13のA-1に示されるように、平面コイルアレイARに近接して、可動導体M10が配置されている。磁性樹脂コンパウンドを使用した、平板状の磁気シールド部材411、413は各々、可動導体M10の上側、及び下側に設けられる。なお、磁気シールド部材411、413は、双方が設けられるのが好ましいが、何れか一方が設けられる構成であってもよい。
図13のA-2は、図12のA-1と同じである。図13のA-3には、磁気シールド部材413の、平面視における形状が示されている。図示されるように、磁気シールド部材413は、平面コイルアレイARの延在方向と同じX方向に沿って延在する、平面視で矩形の形状である。
上記のとおり、磁気シールド部材411、413は、電気的な絶縁性材料に、磁性材料の粉末を混合、又は混錬して形成される。
電気的な絶縁性材料としては、例えば樹脂、具体的にはエポキシ樹脂やポリアミド樹脂を用いることができる。磁性材料の粉末としては、例えば強磁性体の粉末を使用することができる。
強磁性体は、磁場により強く磁化され、磁場を除いても磁化が残存する物質である。例えば、鉄、コバルト、ニッケルとそれらの合金、フェライトなどが知られている。フェライトは、酸化鉄を主成分とする磁性酸化物であり、高透磁率、高電気抵抗に加えて、渦電流を生じさせないという特徴をもつ。この点を考慮すると、フェライトは、本実施例での使用が好ましい強磁性材料の一つといえる。但し、以上述べた材料等は一例であり、これらに限定されるものではない。
また、磁性樹脂コンパウンドは、例えば、磁性体粉末を、混合又は混錬した樹脂を射出成形によって所望の形状に成形した後、高温下で焼成することで製造可能である。
磁気シールド部材411、413は、強磁性体の粉末が樹脂に混合、又は混錬されていることから、平面コイルアレイARが発生する磁界BSの影響を受けて、その強磁性体の粉末が磁化される。これに伴い、磁束が、基材である樹脂を通過して外に漏れることが抑制される。強磁性体の粉末の濃度を適宜、調整することで、必要な磁気遮蔽効果を得ることができる。
また、強磁性体の粉末は、平面コイルアレイARが発生する磁界BSの影響で磁化されると、磁束密度を高める働きをし、よって、ヨークとしての機能も生じる。すなわち、先に説明したように、磁気シールド部材411、413は、平面コイルアレイARにおける隣接する2つの平面コイルの各磁束を結合するヨークとしての機能をもつ。
一方、磁気シールド部材411、413は、基材が絶縁性の樹脂であることから、平面コイルアレイARが発生する磁界BSの影響を受けて、その表面に渦電流が流れることがない。よって、先に説明した戻り電流が生じず、平面コイルアレイARの磁界が打ち消される問題が解消される。
よって、磁気シールド部材411、413は、磁気遮蔽効果、ヨークとして磁束密度を向上させる効果、及び、平面コイルアレイの磁界を打ち消す磁界を発生させる電流を防止する効果、を兼ね備える多機能な磁気シールド部材となる。
このように、本実施例によれば、平面コイルアレイが発生する磁界を遮蔽でき、平面コイルアレイを構成する各コイルが発生する磁界の強度が低下することを簡易な構成で抑制できる、平面コイルアレイの磁気シールド構造を提供することができる。
<実施例5>
次に、図14を参照する。図14は、櫛歯状の可動導体、及び複数の平面コイルアレイを用いた構成を示す図である。
図14のA-1に示されるように、平面コイルアレイが変位センサに適用される場合には、可動導体M10が、平面コイルアレイARの近傍に配置される。
図14のA-2では、可動導体として、櫛歯電極が使用される。言い換えれば、櫛歯状の可動導体M20が使用される。櫛歯状の可動導体M20は、櫛歯部材CM1~CM3を有する。
また、複数の平面コイルアレイAR-1~AR-3が設けられる。各平面コイルアレイAR-1~AR-3は、所定方向であるX方向に沿って互いに平行に延在すると共に、X方向に直交するY方向に、間隔をあけて、積み重ねられている。
ここで、間隔とは、その大小にかかわりなく、絶縁が確保されればよく絶縁体を挟んだ物であってもよい。
絶縁体としては、例えば、チタン酸バリウム系の誘電体セラミック材料を使用してもよい。
各平面コイルアレイAR-1~AR-3は、同数の平面コイルを備える。Y方向から見た平面視で、各平面コイルアレイAR-1~AR-3は、各々に含まれる平面コイルの渦巻きが重なるように、かつ、各渦巻きに流れる電流の向きが同じになるように配置されるのが好ましい。
平面コイルアレイAR-1は、櫛歯部材CM1とCM2との間に配置されており、平面コイルアレイAR-2は、櫛歯部材CM2とCM3との間に配置されている。平面コイルアレイAR-3は、櫛歯部材CM3の下側に配置される。
別の見方をすれば、平面コイルアレイAR1、AR2は、櫛歯部材CM2を挟むように配置され、平面コイルアレイAR2、AR3は、櫛歯部材CM3を挟むように配置されている。
また、各平面コイルアレイAR1~AR3は、破線で示される信号線路によって電気的に接続されている。言い換えれば、各平面コイルアレイAR1~AR3の各々は、端子AとBとの間に、直列に接続されている。
この構成によれば、可動導体M20が変位すると、各平面コイルアレイでインダクタンスの変動が生じて電気信号の特性が同じように変化する。これによって電気的特性の変動が強調されることになる。よって、変位センサの検出感度を、さらに向上させることができる。
図14のA-3では、磁気シールド部材402が、平面コイルアレイAR1~AR3及び櫛歯状の可動導体M20の+Y側、すなわち上側に配置される。また、磁気シールド部材404が、平面コイルアレイAR1~AR3及び櫛歯状の可動導体M20の-Y側、すなわち下側に配置される。言い換えれば、磁気シールド部材402、404は、平面コイルアレイAR1~AR3及び櫛歯状の可動導体M20を、上下方向に挟むように、互いに平行に配置される。
磁気シールド部材402、404としては、図10~図13の何れかに示した磁気シールド部材を使用できる。この磁気シールド部材402、404は、平面コイルアレイAR1~AR3に対する磁気シールド構造を構成する。
但し、見方を変えて、磁気シールド部材402、404が、平面コイルアレイAR1~AR3に従属する付属品としてみるならば、磁気シールド部材付きの平面コイルアレイが構築された、と言うこともできる。
磁気シールド部材402、404は、双方使用されるのが好ましいが、何れか1つを使用する場合もあり得る。この場合は、平面コイルアレイAR3の下側、すなわち、平面コイルの裏面には、櫛歯部材がないため、コイルの磁界が漏れやすい。よって、磁気シールド部材404を優先的に設けるのが好ましい。
<実施例6>
次に、図15を参照する。図15は、磁気シールド部材の配置例を示す図である。図15では、円筒状の可動導体筒M30の内側に、平面コイルアレイAR10、10’と、周辺導体702が配置されている。また、可動導体筒M30の外側に、周辺導体700、704が配置されている。
磁気シールド部材416は、可動導体筒M20と、その外側に位置する周辺導体700との間に設けられている。
磁気シールド部材418は、平面コイルアレイAR10と、可動導体筒M30の内側に位置する周辺導体702との間に設けられている。
磁気シールド部材420は、平面コイルアレイAR10’と、可動導体筒M30の内側に位置する周辺導体702との間に設けられている。
磁気シールド部材416は、可動導体筒M20と、その外側に位置する周辺導体704との間に設けられている。
可動導体筒M30と、平面コイルアレイAR10、AR10’との嵌合面には、磁気シールド部材は設けない。周辺導体700、702、704には、平面コイルアレイAR10、AR10’が発生する磁界の影響によって電流が流れてノイズが生じる場合がある。よって、周辺導体700、702、704の各々と、平面コイルアレイAR10、AR10’との間に、磁気シールド部材416、418、422を配置して、ノイズの発生を抑制する。
磁気シールド部材416、418、422としては、図10~図13の何れかに示した磁気シールド部材を使用できる。これらの磁気シールド部材416、418、422は、平面コイルアレイAR1~AR3に対する磁気シールド構造を構成する。なお、磁気シールド部材としては、平面コイルアレイを曲げ加工して、立体形状としたものを使用してもよい。この点については、後述する。
<実施例7>
本実施例では、立体形状を有する平面コイルアレイについて説明する。従来の立体形状のコイルを、平板状の平面コイルアレイに置換しようとすると、レイアウト上の困難が生じる場合もあり得る。この点を考慮し、本実施例では、例えば、可撓性を有するプリント基板や、フレキシブルなフィルム状の基材などを使用し、それらに曲げ加工を施して所望の立体形状を構成した例について説明する。
図16を参照する。図16は、立体形状の平面コイルアレイの構造例、及び発生する磁界の向きを示す図である。図16において、前掲の図面と共通する箇所には同じ符号を付している。以下の説明では、可撓性を有するプリント基板を用いる例について説明する。
図16のA-1には、先に図5に示した多層構造の平面コイルアレイARが示されている。また、図16のA-2には、A-1に示される平面コイルアレイARの断面構造が示されている。この断面構造は、図6Aの左側に示したものと同じである。
但し、多層構造に限定されるものではなく、例えば、図4に示される、同層の平面コイルが並置されてなる平面コイルアレイを使用してもよい。
先に説明したように、平面コイルSU1は、上層の導体310が、中心に対して左巻きに巻かれる渦巻き形状を有する。
平面コイルSU2が、第1の平面コイルSU1に対してX方向に隣接して配置される。この第2の平面コイルSU2は、平面コイルSU1の導体と同層の導体314が、中心に対して、第1の平面コイルと同じ巻きで、言い換えれば、同じ方向に巻かれると共に、第1の渦巻き形状とは180度のずれがある渦巻き形状を有する。言い換えれば、平面コイルSU1とSU2は、一方の渦巻きを、左方向、または右方向に180度回転すると重なる相対的位置関係にある。
左巻きの平面コイルSU1、SU2が、上層の平面コイルを構成する。
下層の平面コイルSU3、SU4は各々、上層の平面コイルSU1、SU2の各々に、平面視で重なるように積層されて形成される。下層の平面コイルSU3、SU4は、右巻きの平面コイルであり、上層の平面コイルSU1、SU2とは、逆巻き、すなわち、渦の巻き方向が逆である。言い換えれば、平面コイルSU1とSU3とは、一方の渦巻きを左右反転すると、他方の渦巻きに重なる相対的位置関係である。平面コイルSU2とSU4も同様である。
また、下層の平面コイルSU2とSU4は、渦巻きが互いに180度ずれている。
平面コイルSU1の中心と平面コイルSU3の中心が、中心接続導体DE1によって電気的に接続され、平面コイルSU2の中心と平面コイルSU4の中心が、中心接続導体DE2によって電気的に接続されている。
また、下層の平面コイルSU3、SU4の端部同士が、端部接続導体CN2によって電気的に接続されている。
これにより、平面コイルSU1の中心と、平面コイルアSU2の中心とは、中心接続導体DE1、平面コイルSU3、端部接続導体CN2、平面コイルSU4、及び中心接続導体DE2で構成される経路を経由して電気的に接続されている。
ここで、下層の平面コイルSU3、SU4は、コイル要素としてではなく、電気的経路の構成要素とみることもできる。すなわち、下層の平面コイルSU3、SU4は、上層の平面コイルSU1、SU2の端部同士を結ぶ電気的経路の構成要素でもある。
この点を考慮すれば、図16のA-1の構成は、上層の平面コイルSU1、SU2を左から順に第1、第2の平面コイルとすれば、第1、第2の平面コイルSU1、SU2の各端部同士が、下層の平面コイルSU3、SU4を含む電気的経路によって電気的に接続された構成であると言うことができる。
上記の電気的経路は、より詳細に述べれば、第2、第3、第4の各接続導体DE1、DE2、CN2、及び第1から第4の各平面コイルSU1、SU2、SU3、SU4を含む電気的経路である。この電気的経路によって、第1、第2の平面コイルSU1、SU2の第1、第2の端部同士が電気的に接続される。
また、本実施例では、プリント基板311として、可撓性を有し、曲げ加工が可能なフレキシブルプリント基板が使用される。
図16のA-2に示されるように、可撓性を有するプリント基板311、その表面に形成される導体310、314、その裏面に形成される導体314、316、中心接続導体DE1、DE2、及び、端部接続導体CN2を含む多層構造体、すなわち平面コイルアレイ構造体に符号321を付し、以下の説明では、その平面コイルアレイ構造体の全体を、可撓性基板321と称する。すなわち、可撓性基板321は、フレキシブルな基板や基材311と、その表面や裏面、あるいは内部に形成される導体からなる配線や導体パターン310~316、DE1、DE2と、を含む。
図16のA-2では、UA、UB、UC、UDという符号が付された領域が存在する。各領域は、破線の楕円で囲まれている。各領域は、コイルの一部を形成し、具体的には、コイルを構成する巻線パターンが存在する領域である。以下の説明では、領域UA~UDを、コイル領域、あるいはコイルパターン領域と称する。
図16のA-3に示されるように、可撓性基板321は、左方向の磁界BS7、右方向の磁界BS8、左方向の磁界BS9を発生させる。この点については、図6Bにて説明されているため、詳細な説明は省略する。
図16のA-4に示すように、可撓性基板321が曲げ加工されており、これによって、立体形状のコイルが形成されている。立体形状は、具体的には円筒形状である。
図16のA-1~A-3に示すように、平板状の平面コイルアレイARは、所定方向であるX方向に沿って、すなわち、横方向に沿って延在する可撓性基板321でもある。
この可撓性基板321は、-X側の端部、すなわち左端部と、+X側の端部、すなわち右端部と、を有する。左端部は、所定方向であるX方向における一方の端部と称することができ、右端部は、他方の端部と称することができる。
図16のA-4、A-5に示されるように、可撓性基板321の、所定方向であるX方向における一方の端部と他方の端部とが近接するように、又は接するように曲げ加工されて、円筒形の立体形状が形成されている。
図16のA-4、A-5の例では、各端部は、近接しているが、少しだけ離れて位置している。各端部を接触させて、断面形状を円、あるいは楕円としてもよい。
図16のA-4に示されるように、曲げ加工を施されて立体形状を有する平面コイルアレイには、符号AR-3D-1が施されている。単に、平面コイルアレイARと記載すると、平板状のものと区別できないため、立体形状を有するものは、AR-3Dと称することとした。また、末尾の数字1は、AR-3Dの一番目の例であることを示す。
図16のA-5に示されるように、互いに近接して配置される一対の配線L40とL10、及び、L70とL60は、3次元空間において同じ方向に延在する。
ここで、一対の配線L40とL10には、同じ方向に電流が流れる。よって、同じ向きの、ここでは左方向の磁界J1とJ2が生じる。
一方、一対の配線L70とL60には、同じ方向に電流が流れるが、その方向は、配線L40とL10における電流の向きとは逆である。よって、磁界J3とJ4は、右方向の磁界となる。
磁界J1とJ2は、方向が同じあることから、打ち消し合うことがなく、よって強い磁界が生じ得る。磁界J3とJ4についても同様である。
ここで、上記の配線L40は、コイルパターン領域UDに含まれる配線であって、可撓性基板321の一方の端部に最も近い位置にある最端部の直線状の配線である。
また、配線L10は、コイルパターン領域UAに含まれる配線であって、可撓性基板321の他方の端部に最も近い位置にある最端部の直線状の配線である。
また、上記の配線L70は、コイルパターン領域UCに含まれる配線であって、配線L40とは、所定方向であるX方向における反対側に位置し、かつ、配線L40に平行に延在する直線状の配線である。
また、配線L80は、コイルパターン領域UBに含まれる配線であって、配線L10とは、所定方向であるX方向における反対側に位置し、かつ、配線L10に平行に延在する直線状の配線である。
図16のA-6に示されるように、円筒状の可撓性基板321で構成される平面コイルアレイAR-3D-1には、先にA-3で示した磁界BS8と、磁界BS7とBS9とが合わさった磁界とが生じる。磁界BS8は右方向の磁界であり、磁界BS7とBS9とが合わさった磁界は左方向の磁界である。各磁界の強度は同じであり、曲げ加工の軸OPを基準として、左右にバランスがとれた、強い磁界が生じる。曲げ加工の軸OPは、コイルの中心軸ということもできる。なお、曲げ加工の軸OPは、紙面の手前から紙面の奥へと延在する直線状の軸である。
図16のA-6に示されるように、磁界BS8、及び、磁界BS7とBS9とが合わさった磁界の各磁力線は、曲げ加工の軸OPに対して直交する。言い換えれば、各磁力線は、曲げ加工の軸OPと交わるときは、上から下へと、曲げ加工の軸OPに対して90度の角度で横切ることになる。
図16のA-7には、従来の横長のコイルCLが示されている。この従来のコイルCLが発生する磁界BS100、BS101は、コイルの中心軸OPに対して、平行な磁界である。
このように、図16のA-6に示される平面コイルアレイAR-3D-1が発生する磁界の、曲げ加工の軸、すなわちコイルの中心軸OPに対する向きは、A-7に示される従来例とは異なっている。この点は、平面コイルアレイAR-3D-1の、コイルとしての特徴点の1つということができる。
図16の平面コイルアレイAR-3D-1は、平坦な形状のときに、すでに各平面コイルの電気的な接続が完了している。よって、可撓性基板321を曲げ加工するだけで製造が可能である。よって、安価かつ簡易に製造可能な、平面コイルアレイを用いた立体形状のコイルを提供することができる。
また、平面コイルアレイAR-3D-1は、図16のA-6に示したように、曲げ加工の軸OPを基準として、その左右に、バランスのよい、強い磁界が生じさせることが可能である。
よって、例えば、ストロークセンサのような変位センサに適用された場合には、低ノイズで、検出感度が高い、言い換えれば、高ゲインの変位センサが実現される。
また、平面コイルアレイAR-3D-1は、従来の横長のコイルと類似の、円筒形の形状を有することから、可動導体筒の近くに容易に配置できるという効果も奏する。
また、平面コイルアレイAR-3D-1は、構成が簡素化された平面コイルアレイAR50を曲げ加工して製造が可能であり、全体として小型の形状とすることができる。よって、狭い空間にも容易に配置できるという効果も奏する。
<実施例8>
次に、図17を参照する。図17は、立体形状の平面コイルアレイの他の構造例、及び発生する磁界の向きを示す図である。
図17のA-1に示される平面コイルアレイAR50では、上層の平面コイルとして、3個の平面コイルSU1、SU2、SU1が使用されている。また、下層の平面コイルとして、3個の平面コイルSU3、SU4、SU3が使用されている。
図17のA-1の構成は、先に図6Bにて示した多層構造から、右端に位置する平面コイルSU1、SU4を除去した構造である。先に図6Bで説明した内容は、図17のA-1の構造にも適用され得る。多層構造についての詳細な説明は省略する。
図17のA-1の構成においても、下層の、左端の平面コイルSU3、及び、その右隣りの平面コイルSU4は、上層の平面コイルSU1、SU2の端部同士を接続する電気的経路の構成要素とみることができる。
ここで、上層の平面コイルSU1、SU2、SU1を、左から順に、第1、第2、第3の平面コイルとする。
平面コイルアレイAR50は、第1、第2の平面コイルSU1とSU2の各端部同士が、下層の第3、第4の平面コイルを含む電気的経路によって電気的に接続され、また、第2の平面コイルSU2と、その右隣りの第3の平面コイルSU1とが、同層の端部接続導体CN1で電気的に接続された構成を有する。
また、先に図6Bに示した磁界BS8は、図17のA-1では、BS8-1、BS8-2に分割して描かれている。同様に、磁界BS9は、BS9-1、BS9-2に分割して描かれている。
次に、図17のA-2を参照する。図示されるように、平面コイルアレイAR-3D-2は、波状の立体形状を有する。上層の第1、第2、第3の平面コイルSU1、SU2、SU1に着目すると、各々の平面コイル毎に折り返されて、各平面コイルSU1、SU2、SU3が、所定方向であるX方向に直交するY方向、すなわち上下方向に積み重なって波状の断面構造が形成されている。
見方を変えると、平面コイルアレイAR-3D-2の波状の立体形状は、Y方向から見た平面視において、上層の第1、第2、及び第3の各平面コイルSU1、SU2、SU1が重なるような立体形状である。
下層の平面コイルSU3、SU4、SU3も考慮すると、平面コイルアレイAR-3D-2は、上から順に、平面コイルアレイSU1、SU3、SU4、SU2、SU1、SU3が積み重なった波状の立体形状を有する。
平面コイルアレイAR-3D-2では、曲げ加工の軸OPを基準として、その左右に、バランスのよい、強い磁界が生じる。左側の磁界は、磁界BS7、BS9-1、BS9-2が合わさって生じる左方向の磁界である。また、右側の磁界は、磁界BS8-1、BS8-2、BS10が合わさって生じる右方向の磁界である。
次に、図17のA-3を参照する。図示されるように、平面コイルアレイAR-3D-3は、平面コイルアレイAR50が、ロール状に巻き回されたロール状の立体形状を有する。
平面コイルアレイAR50は、上層の第1、第2、第3の各平面コイルSU1、SU2、SU1に着目すると、各平面コイルSU1、SU2、SU1が、Y方向、すなわち上下方向に積み重なる、ロール状の断面構造を有する。
見方を変えると、平面コイルアレイAR-3D-3のロール状の立体形状は、Y方向から見た平面視において、上層の第1、第2、及び第3の各平面コイルSU1、SU2、SU1が重なるような立体形状ということができる。この点は、A-2に示した波状の立体形状と共通する。
下層の平面コイルSU3、SU4、SU3も考慮すると、平面コイルアレイAR-3D-3は、上から順に、平面コイルアレイSU1、SU3、SU1、SU3、SU4、SU2が積み重なったロール状の立体形状を有する。
平面コイルアレイAR-3D-3では、曲げ加工の軸OPを基準として、その左右に、バランスのよい、強い磁界が生じる。左側の磁界は、磁界BS9-2、BS9-1、BS7が合わさって生じる左方向の磁界である。また、右側の磁界は、磁界BS10、BS8-1、BS8-2が合わさって生じる右方向の磁界である。
図17の平面コイルアレイAR-3D-2、及び、平面コイルアレイAR-3D-3は、平坦な形状のときに、すでに各平面コイルの電気的な接続が完了している。よって、可撓性基板321を曲げ加工するだけで製造が可能である。よって、安価かつ簡易に製造可能な、平面コイルアレイを用いた立体形状のコイルを提供することができる。
また、平面コイルアレイAR-3D-2、及び、AR-3D-3は、図17のA-2、A-3に示したように、曲げ加工の軸OPを基準として、その左右に、バランスのよい、強い磁界が生じさせることが可能である。
よって、例えば、ストロークセンサのような変位センサに適用された場合には、低ノイズで、検出感度が高い、言い換えれば、高ゲインの変位センサが実現される。
また、平面コイルアレイAR-3D-2、及びAR-3D-3は、平面視で、各平面コイルが積み重なった小型の構造であるため、狭い空間にも容易に配置できるという効果も奏する。
以上の説明をまとめると以下のようになる。
平面コイルアレイは、第1の導体が、第1の中心に対して左巻き、又は右巻きに巻かれる第1の渦巻き形状を有する第1の平面コイルSU1と、第1の導体と同層の第2の導体が、第2の中心に対して、第1の平面コイルと同じ巻で巻かれると共に、第1の渦巻き形状とは角度のずれ、好ましい一例では180度のずれがある第2の渦巻き形状を有し、第1の平面コイルに対して所定方向に隣接して配置され、かつ、第1の平面コイルと電気的に接続されている第2の平面コイルSU2と、を有する可撓性基板321が曲げ加工されており、これによって、立体形状のコイルAR-3D-1~AR-3D-3が形成されている。
これにより、電気的な接続が完了している可撓性基板を曲げ加工するだけで、立体形状の平面コイルアレイを実現できる。よって、安価かつ簡易に製造可能な、平面コイルアレイを用いた立体形状のコイルを提供することができる。
また、従来の立体形状のコイルを、平板状の平面コイルアレイに置換しようとすると、レイアウト上の困難が生じる場合もあり得る。所望の立体形状を有する平面コイルアレイを使用すれば、上記のレイアウト上の困難を緩和、あるいは解消することができる。
また、平面コイルアレイにおいて、平面コイルアレイが発生する磁界の磁力線は、曲げ加工の軸OPに対して直交してもよい。
これにより、従来のコイルとは、軸に対する磁力線の向きが異なる、新規な立体形状を有する平面コイルアレイを実現することができる。
また、平面コイルアレイAR-3D-1は、可撓性基板321の、所定方向における一方の端部と他方の端部とが近接するように、又は接するように曲げ加工されて、円筒形の立体形状を有してもよい。
これにより、従来のコイルの立体形状と類似の、円筒形の平面コイルアレイが提供される。両者は立体形状が似ているため、従来の立体形状のコイルを、本発明の立体形状を有する平面コイルアレイに置換することが容易となる。
また、平面コイルアレイAR-3D-1、AR-3D-2は、第1、第2の平面コイルSU1、SU2に加えて、第2の平面コイルSU2に対して、所定方向に隣接して配置され、第2の平面コイルと電気的に接続された、第1の平面コイルと同じ巻の渦巻き形状を有する第3の平面コイルSU1を有し、曲げ加工によって、第1、第2、及び第3の各平面コイルSU1、SU2、SU1が、所定方向に直交する方向から見た平面視において重なる立体形状が形成されている。
これにより、第1~第3の各平面コイルが重なり合って、強い磁界を生じさせることができる、新規な立体形状を有する平面コイルアレイが実現される。
また、平面コイルアレイAR-3D-2は、平面コイル毎に折り返されて、各平面コイルが、所定方向に直交する方向に積み重なる、波状の断面構造を有してもよい。
これにより、第1~第3の各平面コイルが重なり合って、強い磁界を生じさせることができる、波状の断面構造を有する平面コイルアレイが実現される。
また、平面コイルアレイAR-3D-3は、ロール状に巻き回されて、各平面コイルが、所定方向に直交する方向に積み重なる、ロール状の断面構造を有してもよい。
これにより、第1~第3の各平面コイルが重なり合って、強い磁界を生じさせることができる、ロール状の断面構造を有する平面コイルアレイが実現される。
また、平面コイルアレイは、所定方向に直交する方向から見た平面視で、第1の平面コイルSU1に重なるように配置され、第1の平面コイルSU1とは渦巻きの方向が逆であり、かつ第1の平面コイルと電気的に接続された第4の平面コイルSU3と、所定方向に直交する方向から見た平面視で、第2の平面コイルSU2に重なるように配置され、第2の平面コイルSU2とは渦巻きの方向が逆であり、かつ第2、第4の各平面コイルSU2、SU3と電気的に接続された第5の平面コイルSU4と、を有してもよい。
これにより、多層構造を有する平面コイルアレイを用いることで、より強い磁界を生じさせることが可能な、立体形状の平面コイルアレイを実現することができる。
ここで、直交とは、90度の限りではない、概ね直交していれば、機能的に満足できるため、厳密に直交のみを限定するものではない。
<実施例9>
次に、変位センサについて説明する。図18は、変位センサの検出原理を示す図である。変位センサとしてのストロークセンサ150は、可動導体M1と嵌合長LTで嵌合し、可動導体M1の変位量に応じてインダクタンスが変化するコイルCL1と、センサ本体100と、検出部7と、を有する。なお、コイルCL1は、共振コイルと称される場合がある。
センサ本体100は、インターフェース回路IF1、IF2を有する。インターフェース回路IF1は、2つの端子T1、T2を備える。端子T1には、電流パルス信号IPLを伝達するワイヤーハーネス20が接続され、端子T2には、例えば、接地されたワイヤーハーネス20’が接続される。
また、インターフェース回路IF2は、2つの端子T3、T4を備える。端子T3には、コイルCL1の一端が接続され、端子T4には、コイルCL1の他端が接続される。
可動導体M1が変移すると、嵌合長LTが変化し、これに伴い、電流パルス信号IPLの周波数が変動する。検出部7が、電流パルス信号IPLの周波数の変化を検出することによって、可動導体M1の変位量を検出することができる。
なお、上記の周波数という用語は、広義には、電気信号の電気的特性と言い換えることができる。
次に、図19Aを参照する。図19Aは、変位センサの、具体的な構成の一例を示す図である。図19Aにおいて、図18と共通する部分には、同じ参照符号を付している。
図19Aでは、センサ本体100の内部に、電流パルス信号IPLを発生させる発振回路102を有する。
また、ECU10の内部に、一端が電源電位Vに接続された抵抗RDが設けられている。この抵抗RDは、電流/電圧変換部5として機能する。電源電位Vと抵抗RDとの共通接続点から得られる電圧信号が、検出部7に入力される。
次に、図19Bを参照する。図19Bは、可動導体とコイルの嵌合長の変化に対応した、電流パルス信号の周波数の変化の一例を示す図である。
図19Bにおいて、可動導体M1とコイルCL1との嵌合長LTの変化が、破線で示されている。嵌合長LTの変化に応じて、電流パルス信号の周波数が変化する。この周波数の変化を検出することにより、可動導体M1の変位を検出することができる。
次に、図20を参照する。図20は、本発明の変位センサがサスペンションに適用された自動二輪車の、全体構成の一例を示す図である。
サスペンションに、本発明の変位センサを適用することで、サスペンションの変位を検出するストロークサンサが実現される。なお、サスペンションとしては、例えば、リヤサスペンションやフロントフォークをあげることができる。
図20において、自動二輪車1は、前輪2と、後輪3と、自動二輪車1の骨格をなす車体フレーム11、ハンドル12及びエンジン13などを有する車両本体15と、を備えている。
また、自動二輪車1は、前輪2と車体本体15とを連結するフロントフォーク19を、前輪2の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。また、自動二輪車1は、後輪3と車体本体15とを連結するリヤサスペンション22を、後輪3の左側と右側にそれぞれ1つずつ有している。なお、図20では、片側に配置されたフロントフォーク19及びリヤサスペンション22のみを示している。
リヤサスペンション22は、例えば、油圧式サスペンションである。図20では、リヤサスペンション22の外観構成が示されている。リヤサスペンション22は、車体側取付部材200と、車輪側取付部材202と、コイルスプリング204と、シリンダ部を構成する外筒206及びガイド筒208を含む。
次に、図21を参照する。図21は、図20におけるリヤサスペンションの断面構造の一例を示す断面図である。図21では、リヤサスペンション22において、先に図15で説明した構成が採用されている。図21において、図15と同じ部分には同じ符号を付している。図15で説明した内容は、図21にも適用され得る。
但し、図15では、平面コイルアレイAR10が使用されていたが、図21では、AR10に代えて、図16で説明した平面コイルAR-3D-1が使用されている。
また、図15では、可動導体筒M30が使用されていたが、図21では、M30に代えて、シリンダ部を構成する外筒206が使用されている。言い換えれば、この外筒206が、可動導体筒として機能する。
また、図15では、周辺導体700、704が使用されていたが、図21では、700、704に代えて、シリンダ部を構成するガイド筒208が使用される。
図21のリヤサスペンション22は、コイルスプリング204の内側に、ガイド筒208が配置され、ガイド筒208の内側に、可動導体筒としての外筒206が配置されている。また、外筒206の内側に平面コイルアレイAR-3D-1が配置されている。
ガイド筒208と、可動導体筒としての外筒206との間には、図11~図13で示した本発明の磁気シールド部材416、422が設けられている。
また、平面コイルアレイAR-3D-1と、ガイド筒208の中心軸に沿って延在する周辺導体702との間には、図11~図13で示した本発明の磁気シールド部材418、420が設けられている。
ここで、磁気シールド部材416と422は、曲げ加工された共通の磁気シールド部材にて構成することができる。平面コイルアレイAR-3D-1は円筒形状をしているため、磁気シールド部材も、平面コイルアレイの立体形状に対応した形状、すなわち、断面が円筒形状となるように曲げ加工されるのが好ましい。磁気シールド部材418と420についても同様である。これによって、曲げ加工されて立体形状を有する平面コイルアレイに対しても、効果的な磁気遮蔽が可能となる。
このように、自動二輪車1のリヤサスペンション22における従来のコイル部品を、例えば、本発明の平面コイルアレイAR-3D-1に置き換えることができる。なお、立体形状を有しない、平板状の平面コイルアレイを使用してもよい。
本発明の平面コイルアレイは、製造が容易であると共に、従来のコイル部品に比べて格段に安価であり、また、小型化にも対応可能である。よって、製造が容易で、構成が簡素化され、かつ安価である変位センサを得ることができる。
先に図16のA-7に示した、所定方向に長い従来のコイル部品は、その製造に大きな費用と、多くの工数を必要としていた。よって、従来のコイル部品に代えて、本発明の平面コイルアレイを使用することで、コイル部品の製造工程の簡素化、ならびに、コイルの格段の低コスト化を達成することができる。このことは、自動二輪車等の車両の、低コスト化にも貢献する。
また、図21のリヤサスペンションでは、磁気シールド部材が適所に配置されており、周辺機器等の周辺導体に及ぼす悪影響も、十分に低減される。よって、平面コイルアレイを用いたコイル部品を、安心、安全に使用することができる。
以上の説明をまとめると、以下のようになる。
変位センサは、本発明の立体形状を有する平面コイルアレイAR-3Dと、可動の、導電性の対象物の変位量に応じて生じる、平面コイルアレイを経由して伝送される電気信号の電気的特性の変化を検出する検出部7と、を有する。
これにより、製造が容易で、構成が簡素化され、かつ安価である変位センサが実現される。
また、対象物は、サスペンション22の構成部品であり、変位センサは、対象物と平面コイルアレイARとの相対的位置関係に応じて変動する電気信号の電気的特性、例えば、電気信号の周波数、又はインダクタンスの変化を検出することによって、サスペンションの変位量を測定するストロークセンサ150であってもよい。
これにより、製造が容易で、構成が簡素化され、かつ安価であるストロークセンサが実現される。
なお、上記の説明では、自動二輪車を例にとり説明したが、本発明の平面コイルアレイは、自動三輪車や四輪車等にも適用可能であり、また、現在開発が進んでいる電気自動車にも適用可能であり、車両の種類は問わない。
以上説明したように、本発明によれば、複数の平面コイルを電気的に接続する構成が簡素化され、低損失の電気信号の経路としての機能も備える平面コイルアレイを提供することができる。
発明の作用及び効果を奏する限りにおいて、本発明は、実施例に限定されるものではない。