以下、本発明に係る消化管ステントの実施形態を、これを消化管内に留置するために用いるステントデリバリー装置とともに、図面を参照して説明する。本実施形態の消化管ステントは、大腸の湾曲部に生じた腫瘍等に起因する狭窄部の開存を確保するために、内視鏡を利用して、該狭窄部に留置されるレーザーカットタイプの自己拡張型ステントである。ただし、本発明に係る消化管ステントは、大腸以外の消化管(小腸や十二指腸等)の狭窄部の開存を確保するために用いることもできる。
まず、図1Aを参照する。ステントデリバリー装置1は、不図示の内視鏡の処置具案内管を介して、患者の消化管内に挿入される細長いカテーテル部2およびカテーテル部2の近位端側に接続され、体外側から体内のカテーテル部2を操作するための操作部(ハンドル)3、および留置対象としての本発明が適用された消化管ステントであるステント5を概略備えて構成されている。なお、カテーテル部2の遠位端近傍は、留置する部位の形状に応じて湾曲した状態にくせ付けされる場合があるが、図1Aでは、直線的に描かれている。
カテーテル部2は、遠位端および近位端を有するインナーシース21と、遠位端および近位端を有するアウターシース22とを備えている。なお、図1Aでは、アウターシース22の内部の構成要素を図示するために、アウターシース22の一部を除外して図示しているが、実際にはアウターシース22は遠位端から近位端まで欠損のない管状体である。
インナーシース21は可撓性を有する細長いチューブからなり、その内部に互いに連通しないガイドワイヤルーメン21aおよびバルーンルーメン21bを有している(図1B参照)。インナーシース21の外径は0.5~4.0mm程度である。
ガイドワイヤルーメン21aは、消化管内においてカテーテル部2のガイドとして用いられるガイドワイヤ4が挿通されるルーメンである。消化管内においてカテーテル部2が進むべき位置に配置されたガイドワイヤ4に沿ってカテーテル部2を押し込む(進行させる)ことにより、カテーテル部2の遠位端側を大腸内の目的部位に挿入することができる。なお、ガイドワイヤルーメン21aは、必要に応じて、消化管内のX線造影を行う場合における造影剤の流路として、あるいは生理食塩水等を供給するための流路としても用いられる。
バルーンルーメン21bは、後述するバルーン27を膨張または収縮させるための流体(本実施形態では、空気)を流通させるルーメンであり、その遠位端側は、インナーシース21の遠位端までは至ることなく、インナーシース21の遠位端近傍の側部に開口している。バルーンルーメン21bの遠位端側の開口21cは、後述するステント配置部26よりも遠位端側に設けられている(図1D参照)。
インナーシース21の遠位端には、先細テーパ状に形成された先端チップ24が取り付けられている。先端チップ24はインナーシース21のガイドワイヤルーメン21aの遠位端に連通する内腔および開口24aを有している。先端チップ24は、カテーテル部2の挿入抵抗を低減し、消化管内への挿入を容易にする役割を果たすものであり、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂、およびポリエチレン等のポリオレフィン樹脂等から形成することができる。
インナーシース21の遠位端近傍には、固定リング25が一体的に固定されており、この固定リング25はステント5の近位端の位置を規定するためのものであり、この固定リング25から遠位端側の所定の部分がステント配置部26(図1D参照)となっている。ステント配置部26には、ステント5がインナーシース21を覆うように配置される。
インナーシース21の固定リング25の周方向の一部には、インナーシース21の中心軸周りの姿勢を検出するための造影マーカー(軸周り姿勢検出用造影マーカー)25aが設けられている。本実施形態では、この軸周り姿勢検出用造影マーカー25aは、固定リング25に設けたが、固定リング25ではなく、インナーシース21のステント配置部26またはその近傍部分の周方向の一部に設けてもよい。
なお、軸周り姿勢検出用造影マーカーは、後に詳述するようにステント5に設けてもよく、その場合には、インナーシース21の軸周り姿勢検出用造影マーカー25aは省略してもよい。また、インナーシース21の遠位端近傍には、図示は省略するが、中心軸に沿う方向の位置を検出するための造影マーカー(軸方向位置検出用造影マーカー)が設けられていてもよい。
これらの軸周り姿勢検出用造影マーカー25aおよび軸方向位置検出用造影マーカーは、X線造影により画像として検出されて体内における標識となるものであり、たとえば、金、プラチナ、プラチナイリジウム合金、白金、銀、ステンレス鋼等を用いることができる。これらの造影マーカー25aは、X線造影性材料の粉末を含有する樹脂成形物によって構成されていてもよい。これらの造影マーカー25aに用いられるX線造影性材料の粉末としては、硫酸バリウム粉末、次炭酸ビスマス粉末、タングステン粉末および上述した金属の粉末等を使用できる。
インナーシース21の遠位端側近傍であって、ステント配置部26と先端チップ24の間の部分には、バルーンルーメン21bの遠位端側の開口21cを囲んで覆うようにバルーン27が設けられている。
バルーン27は、その内部に空気が供給(注入)されることにより膨張し、反対に排出(吸引)されることにより収縮するものである。バルーン27は、インナーシース21の軸心を回転軸とする回転体形状のバルーンである。膨張したバルーン27が、大腸の内壁に圧接することにより生じる摩擦力によって、インナーシース21を大腸の内壁に解除可能に固定することができる。
バルーン27を形成する材料としては、伸縮性材料が好適であり、なかでも100%モジュラス(JIS K 6251に準拠して測定した値)が、0.1~10MPaであるものが好ましく、1~5MPaであるものが特に好ましい。100%モジュラスが小さすぎると、バルーン27の強度が不足するおそれがあり、大きすぎると、バルーン27を十分な大きさに膨張できなくなるおそれがある。また、バルーン27を形成するために好適な伸縮性材料の具体例としては、天然ゴム、シリコーンゴム、ポリウレタンエラストマー等が挙げられる。
本実施形態では、バルーン27は収縮した状態で全体として筒状であり、その両端部にインナーシース21の外周面と接合される略円筒状の接合部27a,27bが形成されていて、その両端の接合部27a,27bの間には、内部に流体が供給されることにより膨張する膨張部27cが形成されている。このバルーン27の膨張部27cは、外力を受けない状態(内部に流体が供給されておらず、内部の圧力が外気圧とつりあってバルーン27が収縮した状態)において、インナーシース21の軸心を回転軸としてインナーシース21の外方に向かって凸の曲線を回転させてなる回転体形状に形成されている。このようなバルーン27を用いることによって、膨張したバルーン27によるインナーシース21の大腸への固定をより強固なものとすることができる。なお、バルーン27の接合部27a,27bとインナーシース21とを接合する手法は、特に限定されず、たとえば、接着剤による接着、熱融着、溶剤による溶着、超音波融着、高周波融着などを挙げることができる。
バルーン27の膨張部27cは、外力を受けない状態における最大外径が、接合部27bの外径の110~200%であることが好ましい。この比率が小さすぎると、大腸への固定の強固さについての改良効果を得られないおそれがあり、大きすぎると、ステントデリバリー装置1を消化管内に挿入する際に収縮状態であってもバルーン27が邪魔になるおそれがある。
また、バルーン27(膨張部27c)の膨張時における外径は内部に供給する流体の圧力によって変動し得るが、大腸の内壁に圧接させてインナーシース21を該内壁に固定するため、10~100mmの範囲内で設定されることが好ましい。また、バルーン27における膨張部27cの長さ(インナーシース21の軸方向に沿った長さ)は、10~100mmが好ましく、肉厚は、0.10~0.50mmであることが好ましい。バルーン27の肉厚は、周方向に沿って均一であることが好ましい。
伸縮性材料を用いてバルーン27を製造する方法は特に限定されず、伸縮性材料の製膜方法として公知の方法を用いればよいが、ディッピング成形法を用いることが好ましい。ディッピング成形法では、伸縮性材料と必要に応じて各種添加剤を溶剤に溶解して溶液あるいは懸濁液とし、この溶液(懸濁液)に所望するバルーンの形状と略等しい外形を有する型を浸漬させて型の表面に溶液(懸濁液)を塗布し、溶剤を蒸発させて型の表面に被膜を形成させる。この浸漬と乾燥を繰り返すことにより所望の肉厚を有するバルーンを製膜することができる。なお、伸縮性材料の種類により、必要に応じて、製膜後、架橋を行う。
アウターシース22は可撓性を有する細長いチューブからなり、インナーシース21の外径よりも僅かに大きい内径を有しており、その内側にインナーシース21がスライド可能に挿通されている。アウターシース22の内径は0.5~4.5mm程度であり、外径は1.0~5.0mm程度である。アウターシース22は、操作部3を操作することにより、インナーシース21に対して軸方向にスライド(相対移動)可能となっている。なお、アウターシース22の遠位端近傍には、図示は省略するが、中心軸に沿う方向の位置を検出するための造影マーカー(軸方向位置検出用造影マーカー)が設けられていてもよい。
インナーシース21およびアウターシース22の材料としては、たとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリエーテルポリアミド、ポリエステルポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレンやテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体等のフッ素系樹脂等の各種樹脂材料や、ポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系等の各種熱可塑性エラストマーを使用することができる。これらのうち2種以上を組み合わせて使用することもできる。
なお、アウターシース22がその内部にスライド可能に挿通される可撓性を有する細長いチューブからなる外套チューブが設けられる場合があるが、本実施形態では、外套チューブを設けていない。
ガイドワイヤ4は、ステントデリバリー装置1を消化管内に挿入する際に、インナーシース21のガイドワイヤルーメン21a(図1B参照)に挿通され、その遠位端はインナーシース21の先端チップ24の遠位端の開口24a(図1C参照)から突出するとともに、その近位端は操作部3を貫通して配置されたインナーシース21の近位端に接続された枝管6bおよびポート6cを介して外側に露出するように配置される。
ステント5は、図2A~図2Cに示されているように、軸方向に湾曲した略円筒状の外形を有しており、大腸の湾曲部に生じた狭窄の開存を確保する目的で使用される。ステント5は、本実施形態では、その外周面側を樹脂フィルム等で被覆したいわゆるカバードステントではなく、フィルム等で被覆されないベアステントである。ただし、ステント5は、樹脂フィルム等で被覆してカバードステントとして用いることもできる。なお、図2Aおよび後に参照する図4では、交錯を避けるため、ステント5の両端に配置されている環状単位51aを除き、ステント5の表面側のみを表示しおり、裏面側は省略しているとともに、該両端の環状単位51aの裏面側は表面側と区別するため、点線で表示している。
ステント5は、管状を呈する管状部51を有している。管状部51は、リング状(無端円環状)の環状単位51aを複数有しており、環状単位51aが所定の湾曲形状に設定された中心軸AXに沿って複数接続された構造を有している。各環状単位51aは、隣接する環状単位51aに対して、接続部51bを介して接続されている(図2B、図2C参照)。
各環状単位51aは、屈曲を繰り返しながら周方向に延びる線材で構成されている。環状単位51aは、軸方向の一方側に凸となる第1屈曲部51dと、軸方向の他方側に凸となる第2屈曲部51eとを有しており、第1屈曲部51dと第2屈曲部51eとが、周方向に交互に繰り返されるジグザグ形状である。
接続部51bは、互いに隣接する環状単位51aの一方の第1屈曲部51dと、他方の第2屈曲部51eとを接続する。ステント5の展開図である図2Bに示すように、各環状単位51aは、第1屈曲部51dと第2屈曲部51eとを20ずつ有しており、隣接する環状単位51aは、周方向に等間隔に配置された5つの接続部51bによって接続されている。接続部51bは、略逆S字型の湾曲形状(図2C参照)を有し、隣接する環状単位51a同士を相対的に動かせるようにフレキシブルに環状単位51aを接続している。ただし、環状単位51aに含まれる第1屈曲部51dおよび第2屈曲部51eの数や、接続部51bの数、配置、および形状は、特に限定されない。
ステント5の両端に配置される環状単位51aのそれぞれの開放端側の屈曲部51dまたは51eには、接続部51bに代えて、略円環状に形成された複数のアイレットが設けられており、これらのアイレットに、略円板状に形成された造影マーカー51cがそれぞれ嵌め込まれて接合されている。これらの造影マーカー51cは、X線造影等により、ステント5の大腸内における軸方向の位置を検出するためのものである。ステント5における造影マーカー51cの有無、形状および造影マーカー51cを設ける位置は、特に限定されない。造影マーカー51cに使用されるX線造影性材料としては、上述した造影マーカー25aと同様のものを用いることができる。
なお、本実施形態では、これらの造影マーカー51cは、ステント5の両端に配置される環状単位51aの周方向に同一形状のものを均等に配置しているため、ステント5の軸周りの姿勢を検出することは難しい。このため、これらの造影マーカー51c間でその形状や構成を互いに異ならせたり、配置を工夫したりすることにより、ステント5の軸周りの姿勢を検出し得るように構成してもよい。
ステント5の環状単位51aを構成する線材の線径は、0.05~1mm程度であることが好ましい。また、線材の断面が断面長方形の帯状体である場合には、たとえば長辺方向の長さが0.1~1mmであって短辺方向の長さが0.05~0.5mm程度であることが好ましい。
大腸用ステントとして用いられる本実施形態のステント5は、外径が10~40mm、内径が9~39mm、長さが20~200mmとすることが好ましい。ただし、ステント5の外形寸法は、ステント5が留置される消化管の管腔の大きさによって最適なものとすればよく、たとえば、外径が2~40mm、内径が1~29mm、長さが5~200mmの範囲で設定することができる。ステント5が胆管用ステントとして用いられる場合には、その外形寸法は、外径が5~20mm、内径が4~19mm、長さが10~100mmとすることが好ましい。
ステント5の外径は、ステント5がステントデリバリー装置1によって留置部位まで搬送される際には、上述の値の数分の1程度に径方向に収縮されて搬送される。なお、本実施形態では、ステント5をステントデリバリー装置1の構成部材の一つとして説明しているが、ステント5はステントデリバリー装置1とは別部材として交換可能である。
ステント5の材料としては、たとえば、ニッケルチタン(Ni-Ti)合金、ステンレス鋼、タンタル、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金等の金属が挙げられる。本実施形態では、ステント5は、超弾性合金であるNi-Ti合金で形成されている。
本実施形態のステント5は、次のようにして製造することができる。まず、図3Aに示されているように、ステント5を形成するための材料で形成された円筒体(パイプ)52を準備する。次いで、たとえば、YAGレーザー等を用いたレーザー加工(レーザーカット)をすることによって、図3Bに示されているように、所定のパターン(図2Bおよび図2C参照)を有する直管状の網目状筒体53を成形する。その後、図3Cに示されているように、所望の湾曲形状を有するマンドレル54を、図3Bの網目状筒体53の内腔に挿通して、網目状筒体53をマンドレル54の湾曲形状に沿って湾曲させ、この状態で、所定の温度環境下で所定の時間だけ熱処理を行って形状付け(形状記憶)を行う。形状付けの後、マンドレル54を引き抜いて、電界研磨等の研磨やマーカー付け等を行うことにより、図2Aに示されているように、外力が作用しない状態で軸方向に湾曲した形状を有するステント5が製造される。
ステント5は、その内腔にインナーシース21のステント配置部26を挿入することにより、略直線状に変形させた状態でステント配置部26に配置され、縮径させた状態で、アウターシース22を遠位端側にスライドさせることにより、アウターシース22内に収容される。
インナーシース21のステント配置部26にステント5を配置する際には、ステント5の姿勢を、軸周り姿勢検出用造影マーカー25aの位置と関係づけておく。具体的には、たとえばステント5の背側(腹側でもよい)と造影マーカー25aとが一致するようにステント5の軸周りの姿勢を調整し、この状態でアウターシース22内に収容する。これにより、大腸の湾曲部に生じた狭窄部にステント5を留置する際に、造影マーカー25aの軸周りの位置を確認することにより、該狭窄部の湾曲に対応して湾曲する姿勢となるように、ステント5の軸周りの姿勢調整を行うことができる。なお、上述したように、ステント5に軸周り姿勢検出用造影マーカーを設ければ、ステント5をステント配置部26に装着する際の姿勢調整作業を不要とすることができ、便宜である。
ステント5の湾曲の形状としては、本実施形態では図2Aに示したように略4分の1円弧状としているが、これは一例であって、ステント5を留置すべき部位の湾曲の状態に応じて、適切な湾曲形状を有するものを用いることができる。たとえば、図4に示されているような略4分の3円弧状のステント5’としてもよく、図示は省略するが、略2分の1円弧状やその他の円弧状であってもよい。また、円弧状のみならず、放物線等の他の曲線形状やこれらの組み合わせであってもよい。ステント5の一端または両端に略直線状に形成された直線部を配置してもよい。さらに略S字状等であってもよい。
次に、ステントデリバリー装置1の操作部3について、図1A、図1B、図5Aおよび図5Bを参照して説明する。操作部3は、術者が手でグリップして、ステント5のリリース操作を行うための手段であるハンドルを有している。ハンドルを構成するハウジング31は、術者の手によりグリップされた際に、人差し指、中指、薬指および小指(またはこれらの1つ以上)が配置できるように概略直線状の下辺部31aを有するとともに、親指の付け根の部分および手のひらの該親指の付け根の部分の近傍部分を配置できるように緩い逆円弧状の凹部を有する上辺部31bを有している。
ハウジング31は、その内部に、インナーシース21およびアウターシース22の近位端側が引き込まれる略円柱状の空間を画成するシース収容部32を有している。シース収容部32の遠位端は、これらのシース21および22を引き込むために開口32aとなっており、シース収容部32の近位端は、アウターシース22の近位端が当接して該アウターシース22がスライドされた際のストロークエンドを規定する底面32bにより閉塞されている。底面32bの中央部には、通孔が形成されており、該通孔にインナーシース21の近位端が貫通して配置され、その外周面において接着等により固定されている。
ハウジング31の底面32bの通孔を貫通したインナーシース21の近位端には、図1Aに示されているように、カバー6aの部分において、枝管6b,6dが接続されている。枝管6bは、その遠位端がインナーシース21のガイドワイヤルーメン21a(図1B参照)の近位端に接続されたチューブであり、枝管6dは、その遠位端がインナーシース21のバルーンルーメン21b(図1B参照)の近位端に接続されたチューブである。枝管6b,6dの材質としては、特に限定されないが、高分子材料を用いることが好ましい。
枝管6bの近位端にはポート6cが、枝管6dの近位端には、ポート6eが接続されている。ポート6cの開口からガイドワイヤ4を挿入して、インナーシース21のガイドワイヤルーメン21a内に挿通することができるようになっている。また、ポート6cにはシリンジ等を接続して、造影剤もしくは薬液等をインナーシース21のガイドワイヤルーメン21aに送り込めるようになっている。ポート6eにはシリンジ等を接続して、バルーン27を膨張または収縮させるための流体(本実施形態では、空気)をバルーンルーメン21bに供給しまたは吸引し得るようになっている。
ポート6c,6eの材質としては、特に限定されないが、透明な高分子材料を用いることが好ましい。なお、枝管6bとインナーシース21のガイドワイヤルーメン21a、および枝管6dとバルーンルーメン21bとの接続方法は、特に限定されないが、たとえば、枝管6b,6dの遠位端部をテーパ状に成形し、その外周面に接着剤を塗布して、その端部をインナーシース21の対応するルーメン21a,21bに挿入することにより、接着すればよい。
インナーシース21と各枝管6b,6dとの接続部は、カバー6aで補強されるとともに、保護されている。カバー6aは、インナーシース21と枝管6b,6dとの接続部を覆うように設けられる。カバー6aの形状は特に限定されないが、通常、箱型あるいは筒型である。カバー6aの材質としては、特に限定されないが、高分子材料を用いることが好ましい。また、熱収縮チューブをカバー6aとして用いることも可能である。
ハウジング31の上辺部31bの遠位端寄りの部分には、プッシュボタン33が、アウターシース22のハウジング31内に存在する部分の延在方向(シース収容部32の軸心方向)に所定角度θ1で交差する方向A1にスライド可能に保持されている。すなわち、ハウジング31には、略円柱状の空間を画成するボタン収容部34が設けられており、このボタン収容部34は、その軸心方向A1が、シース収容部32の軸心方向(アウターシース22の延在方向)に所定角度θ1で交差する方向に略一致するように形成されている。
ボタン収容部34の開口側には、略円柱状のプッシュボタン33の先端側が挿入されて、該プッシュボタン33が該ボタン収容部34の軸心方向に沿ってスライド可能に保持されている。図示は省略しているが、プッシュボタン33の一部には、ボタン収容部34の一部に係合して、プッシュボタン33がボタン収容部34から抜け出すことを防止するための機構が設けられている。ボタン収容部34の中間部分には、バネ支持部34aが設けられており、このバネ支持部34aの一方の面とプッシュボタン33の先端面との間にコイルバネ35が介装されている。
プッシュボタン33は、外力が作用しない場合(ボタン収容部34内に押し込まれるように押圧されない場合)には、図5Aに示すように、アウターシース22から離間した所定の第1位置(上述した抜け出し防止用の機構によって規定された位置)に位置するようにコイルバネ35により付勢されている。また、プッシュボタン33は、ボタン収容部34内に押し込まれるように押圧された場合には、図5Bに示すように、該コイルバネ35の付勢力に抗して該第1位置よりも該アウターシース22に近接する所定の第2位置まで移動し得るようになっている。
プッシュボタン33に対する押圧を解除すれば、プッシュボタン33はコイルバネ35の付勢力によって、元の第1位置に戻る。なお、プッシュボタン33の第2位置は、バネ支持部34aの位置と、コイルバネ35の圧縮時の長手方向の寸法により規定される。
プッシュボタン33は、術者の手により、人差し指、中指、薬指および小指(またはこれらの1つ以上)の腹を下辺部31aに配置し、親指の付け根の部分および手のひらの該親指の付け根の部分の近傍部分を上辺部31bに配置してグリップした状態で、親指の曲げ伸ばし動作により、親指の先端部(第1関節より先の部分)の腹で押下またはその解除ができるように構成されている。
親指によるプッシュボタン33の押下およびその解除を人間工学的にストレスなく行えることを考慮して、プッシュボタン33の遠位端側の端面の位置(第1位置)および押し込み量(第1位置と第2位置との間の寸法)が設定される。
プッシュボタン33の押し込み量(ストローク長)は、上述した人間工学的観点およびプッシュボタン33の1回の押下によるコイル部材23(アウターシース22)の送り量等との関係で最適な値に設定される。
また、同様に、親指によるプッシュボタン33の押下およびその解除を人間工学的にストレスなく行えることを考慮して、ボタン収容部34の軸心方向(プッシュボタン33のスライド方向)A1は、シース収容部32の軸心方向に対して、遠位端側に傾斜して斜交するように設定されている。ボタン収容部34の軸心(プッシュボタン33の押し込み方向A1)とシース収容部32の軸心(アウターシース22のハウジング31内での延在方向または下辺部31aの延在方向)とのなす所定角度θ1は、0°より大きく90°より小さい範囲で設定することができる。人間工学的観点および後述するコイル部材23の構成等との関係で最適な値に設定される。
ボタン収容部34の先端側(開口側と反対側である奥側)は、接続空間36を介してシース収容部32の一部(側面)に連通されている。プッシュボタン33の先端には、板バネ33aの基端部が固定されている。板バネ33aの先端側は、接続空間36を通過して、プッシュボタン33が第1位置に設定された状態(図5Aに示す状態)で、その先端がシース収容部32内に僅かに突出するように配置されている。
アウターシース22の近位端側の一部には、その表面に複数の凸部(または凹部)を形成するコイル部材23が取り付けられている。コイル部材23は、略多角形状の断面を有する弾性金属等からなる線材をコイル状に巻回して構成されており、アウターシース22の近位端部がその内側に嵌入されることにより、該アウターシース22に固定されている。
コイル部材23としては、その断面が略三角形状の線材をコイル状に巻回することにより、その表面側に凸部としてネジ山が構成されるようにしたものを用いることができる。コイル部材23としては、その断面が略菱形形状の線材をコイル状に巻回することにより、その表面側およびその内面側の双方にネジ山が構成されるようにしたもの(いわゆるインサートネジのような構成のもの)を用いてもよい。
プッシュボタン33を押圧して第2位置まで押し込むと、板バネ33aの先端がアウターシース22に装着されたコイル部材23のネジ山の1つの遠位端側の面に係合して、アウターシース22がインナーシース21に対して、プッシュボタン33のストローク長に応じた一定量だけ、近位端側にスライドされる。
プッシュボタン33に対する押圧を解除すると、コイルバネ35の付勢力によって、プッシュボタン33が元の第1位置に戻り、これに伴い板バネ33aの先端がアウターシース22に装着されたコイル部材23に係合することなく、該板バネ33aは元の位置に戻る。プッシュボタン33に対する押圧およびその解除を繰り返すことにより、アウターシース22をインナーシース21に対して、近位端側に所定量だけスライドさせることができる。
プッシュボタン33の1回の押下によるコイル部材23(アウターシース22)の送り量は、特に限定されないが、たとえば、2.5mm~10mm(たとえば2.5mm、5mm、7.5mmまたは10mm)とすることができ、プッシュボタン33のストローク長はこれに対応した値となる。
アウターシース22の近位端部に対するコイル部材23の取付方法としては、コイル部材23をその内径が僅かに広がるように拡径させた状態で、アウターシース22の近位端部を挿入し、コイル部材23の復元力で縮径することにより、固定するようにできる。コイル部材23の内面側にもネジ山を配置することによって、接着剤等を用いなくても、アウターシース22に対して、確実に固定することができる。ただし、接着剤等により接着固定してもよい。
コイル部材23の長手方向の寸法は、ステント配置部26に配置されたステント5をリリースするのに必要なストローク長(インナーシース21に対するアウターシース22のスライド長)よりも大きい寸法に設定される。
コイル部材23の近位端の位置としては、アウターシース22を最大量引き出した状態(すなわち、アウターシース22の遠位端部がステント配置部26に配置されたステント5を覆うように配置された状態)で、プッシュボタン33に外力が作用しない状態における板バネ33aの先端が位置する部分よりも近位端側に設定される。
コイル部材23の遠位端の位置としては、アウターシース22が最大量引き込まれた状態(アウターシース22の近位端がシース収容部32の底面32bに当接した状態)で、プッシュボタン33に外力が作用しない状態における板バネ33aの先端が位置する部分よりも遠位端側に設定される。
本実施形態では、図5Bに示すように、プッシュボタン33が押圧されて押し込まれた場合には、板バネ33aの先端がコイル部材23のネジ山の遠位端側の面に係合して、コイル部材23(アウターシース22)を近位端側にスライドさせる。プッシュボタン33の押圧が解除されると、コイルバネ35の付勢力によってプッシュボタン33が図5Aに示すように元に戻るが、このとき、板バネ33aの先端部がコイル部材23のネジ山に干渉して、コイル部材23(アウターシース22)を遠位端側にスライド(逆行)してしまうおそれある。そこで、本実施形態では、予期せぬアウターシース22の遠位端側へのスライドを確実に防止するため、スライド規制手段を設けている。
すなわち、ハウジング31の下辺部31a側の遠位端寄りの部分には、解除スイッチ37が、アウターシース22の該ハウジング31内に存在する部分の延在方向(シース収容部32の軸心方向)に略平行する方向にスライド可能に保持されている。ハウジング31には、略直方体状の空間を画成するスイッチ収容部38が画成されており、このスイッチ収容部38は、その長手方向が、シース収容部32の軸心方向(アウターシース22の延在方向)に略平行する方向に形成されている。
スイッチ収容部38には、略直方体状の解除スイッチ37がその長手方向に沿ってスライド可能に収容されており、解除スイッチ37に一体的に形成された操作突起37aがスイッチ収容部38の下辺部31a側の一部に形成された開口38aを通過して突出するように配置されている。
術者の手により、人差し指、中指、薬指および小指(またはこれらの1つ以上)の腹を下辺部31aに配置し、親指の付け根の部分および手のひらの該親指の付け根の部分の近傍部分を上辺部31bに配置して、ハウジング31を上述したようにグリップした状態で、操作突起37aを、人差し指の先端部でその長手方向に沿って近位端側または遠位端側に押圧することにより、解除スイッチ37をスライドすることができるようになっている。
スイッチ収容部38の近位端側は、接続空間39を介してシース収容部32の一部(側面)に連通されている。解除スイッチ37の近位端には、該解除スイッチ37のスライド方向に斜交するように延在された弾性金属等からなる板バネ37bの基端部が固定されている。板バネ37bは、解除スイッチ37が近位端側にスライドされた固定位置に設定された状態では、その先端が、接続空間39を通過して、コイル部材23のネジ山の1つの遠位端側の面に係合するように、シース収容部32内に僅かに突出するように配置されている。
解除スイッチ37が固定位置に設定された状態では、板バネ37bの先端がコイル部材23のネジ山の遠位端側の面に係合しているため、コイル部材23(アウターシース22)の遠位端側へのスライドを規制する。コイル部材23(アウターシース22)が近位端側にスライドされる場合には、板バネ37bの先端部は、コイル部材23のネジ山の形状に沿って弾性変形して逃げるため、コイル部材23(アウターシース22)の近位端側へのスライドを規制することはない。
解除スイッチ37が遠位端側にスライドされて解除位置に設定されると、板バネ37bの基端部側がハウジング31の一部を支点として弾性変形され、その先端の板バネ37bのコイル部材23のネジ山に対する係合が解除される。したがって、解除スイッチ37が解除位置に設定された状態では、コイル部材23(アウターシース22)の遠位端側へのスライドは規制されない状態となり、必要があれば、アウターシース22を遠位端側にスライドさせることが可能となる。
アウターシース22をハウジング31から最大量引き出した状態(図5Aの状態)では、アウターシース22の遠位端は、図1Aおよび図1Cに示すように、ステント5よりも遠位端側に至っており、この状態で、インナーシース21のステント配置部26に配置されたステント5を縮径させた状態でその内部に保持した状態となっている。
この状態からプッシュボタン33を所定回数だけ、押圧およびその解除を繰り返すと、これに伴いアウターシース22がインナーシース21に対して近位端側にスライドされて、ステント5がアウターシース22の遠位端から相対的に押し出され、自己拡張力によってリリース(拡径)される。
なお、本実施形態では、アウターシース22をハウジング31から最大量引き出した状態(図5Aの状態)では、アウターシース22の遠位端は、図1Aおよび図1Cに示すように、ステント5よりも遠位端側であって、バルーン27よりも近位端側に位置しており、バルーン27は露出した状態としている。ただし、アウターシース22の遠位端を、バルーン27よりも遠位端側(たとえば、先端チップ24の基端に当接する位置)に至るように構成して、バルーン27をもアウターシース22内に収容し得るようにしてもよい。
上述したステント5が装着されたステントデリバリー装置1を用いて、大腸内の湾曲部に生じた狭窄部にステント5を留置する際には、まず、バルーン27を収縮させた状態で、ステントデリバリー装置1のカテーテル部2を、肛門から大腸内に予め挿入されている下部消化管内視鏡の処置具案内管を介して大腸内に挿入する。次いで、X線造影画像を確認しつつ、カテーテル部2を進行させて、目的とする狭窄部に対して、ステント配置部26に配置されているステント5の軸方向の位置を適宜な位置に設定するとともに、該狭窄部が生じている部位の湾曲の状態に適合するように、ステント5の軸周りの姿勢を調整する。
ステント5の位置および姿勢の調整が完了したならば、ポート6eに装着した不図示のシリンジを操作して、バルーンルーメン21bを介してバルーン27内に空気を送り込み、バルーン27を膨張させる。これにより、膨張したバルーン27が大腸内壁に圧接し、それによって生じる摩擦力によってインナーシース21が該大腸内壁に固定される。この状態で、アウターシース22を引き戻す方向にスライドさせることにより、ステント5が遠位端側から徐々に解放されて拡径し、該狭窄部の開存が確保される。その後、バルーン27を収縮させて、カテーテル部2を引き抜くことにより、一連の手技が完了する。
ステント5が解放される際のアウターシース22の引き戻しにより、大腸が肛門側に引っ張られる場合があるが、本実施形態のステントデリバリー装置1では、インナーシース21がバルーン27によって狭窄部の奥側(小腸側)で固定されているため、該狭窄部とステント5との位置関係が相対的に変化することが少なく、したがって、ステント5を狙った位置に正確に留置することができる。
また、本実施形態のステント5は、複数の環状単位51aを軸方向に接続してなる管状部51が軸方向に沿って湾曲しているため、消化管の湾曲部に留置する際に、該湾曲部の湾曲に適合するように、ステント5の軸周りの姿勢を調整して留置することにより、従来の直線状に形成されたステントと比較して、その変形量を小さくすることができる。このため、その変形量に概略比例して大きくなるアキシャルフォース(湾曲させたステントが元の形状に復元しようとする力)もその分だけ小さくなり、ステント5の背側の両端部(先端部および基端部)の大腸内壁に対する負荷を小さくすることができる。したがって、大腸内壁に潰瘍や穿孔が生じるリスクを低減することができる。
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上述した実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。