図1~図10を参照し、本発明の第一実施形態を説明する。以下説明は、図中に矢印で示す左右、前後、上下を使用する。本実施形態では、作業者が縫製開始指示を入力すると、ミシン1は布(図示略)を縫製する。
図1、図2を参照し、ミシン1の構造を説明する。ミシン1は、ベッド部2、脚柱部3、アーム部4を備える。ベッド部2は作業台(図示略)の開口に装着し、左右方向に延びる。ベッド部2は上面に針板7を装着する。作業者はベッド部2と針板7に布を載置する。針板7は針穴8と送り歯穴14を備える。針穴8は平面視円形状である。送り歯穴14は前後方向に長径を有し、針穴8の左方、後方、右方、前方の夫々にある。脚柱部3はベッド部2右端から上方に延びる。アーム部4は脚柱部3上端から左方に延び、ベッド部2上面と対向する。アーム部4は前面左右方向略中央部に三つの操作ボタン24と表示部25を備える。作業者は、表示部25を見ながら操作ボタン24を操作して各種指示を入力する。アーム部4は、上面左側に上方に突出する糸立棒20を備える。糸立棒20は糸駒(図示略)から繰り出す上糸6を挿通する。糸駒は糸供給源の一例である。
アーム部4は内部に上軸と主モータ(図示略)を備える。上軸は左右方向に延び、上軸プーリ(図示略)を介して主モータに連結する。上軸プーリは上軸右端部に固定する。アーム部4は左端部に頭部5を備える。頭部5はアーム部4から下方に突出し、針板7に上方から対向する。頭部5は針棒16を上下動可能に支持する。針棒16下端部は頭部5から下方に突出する。針棒16は上下動機構(図示略)を介して上軸に連結する。針棒16は、上軸の回動に伴って、針板7上方で上下動する。針棒16は下端に縫針10を装着する。縫針10は目孔に挿通した上糸6を保持する。縫針10は、針棒16と共に上下動する。
ベッド部2は内部に回転釜、糸切機構、布送り機構(図示略)を備える。回転釜は、針板7下方に設け、下糸を巻回したボビンを収容する。回転釜は主モータの動力を得て回転し、針下位置近傍で縫針10が保持する上糸6を捕捉する。糸切機構は、固定刃、可動刃、糸切ソレノイドを備える。可動刃は糸切ソレノイドに連結する。糸切ソレノイドが駆動することで、可動刃は固定刃に対して移動し、糸切機構は可動刃と固定刃の協働で上糸6と下糸を切断する。
図2に示すように、頭部5は、糸駒から繰り出す上糸6の経路(以下、上糸経路と称す)の上流側から順に、副糸調子器26、主糸調子器27、糸案内28、糸張力検知装置30、天秤23、ガイドフック29を備える。副糸調子器26は、頭部5前面の右上部に設ける。主糸調子器27は、副糸調子器26下方で、且つ頭部5前面に設ける。副糸調子器26と主糸調子器27は夫々、上糸6に張力を付与する。副糸調子器26は、糸切機構による上糸6と下糸の切断時に必要な張力を上糸6に付与する。主糸調子器27は、ミシン1の縫製に伴って上糸6に作用する張力を適正化する。天秤23は副糸調子器26左方に設ける。天秤23は主モータの駆動に伴って上下動する。糸案内28は天秤23下方に設ける。糸案内28は主糸調子器27を経由した上糸6を、天秤23に向けて折り返して案内する。
糸張力検知装置30は、頭部5前面に設けた凹部5Aにネジ90で固定する。凹部5Aは、副糸調子器26と主糸調子器27の間に設ける。凹部5Aは正面視左右方向に長く、頭部5の前面より後方に凹んで形成した部位である。凹部5Aは右端側に締結穴12(図5参照)を備える。ネジ90は、締結穴12に締結する。凹部5Aに固定した糸張力検知装置30は、天秤23と主糸調子器27の間に位置する。糸張力検知装置30は、上糸6にかかる張力を検知可能である。ガイドフック29は、糸張力検知装置30左方に設ける。ガイドフック29は、天秤23を通った上糸6を針棒16に向けて案内する。
図3~図10を参照し、糸張力検知装置30の構造を説明する。本実施形態は、説明の便宜上、ミシン1に固定した状態の糸張力検知装置30の向きで、前後、左右、上下を説明する。図3,図4に示すように、糸張力検知装置30は正面視左右方向に長く、複数の部材を互いに組み付けて構成した複合体である。糸張力検知装置30は、糸案内28から上方に折り返して天秤23に向けて上方向に延びる上糸経路に対して直交するように左右方向に向けて配置する。
図7に示すように、糸張力検知装置30は、取付台40、テンション板50、一対の歪みゲージ71,72、案内部材60等を備える。取付台40は、糸張力検知装置30をミシン1の頭部5の凹部5Aに取り付ける金属製台座である。テンション板50は、取付台40前面側に架け渡して固定し、上糸6に接触して自身に歪みを生じる金属部材である。一対の歪みゲージ71,72は、テンション板50の両面に貼着する。一対の歪みゲージ71,72は、周知の電気抵抗式のセンサであり、テンション板50の歪みを検知する。案内部材60は、取付台40前面にテンション板50を間に挟んで固定し、テンション板50の接触面の所定位置に上糸6が接触して通過するように上糸6を案内する金属製案内部材である。
図7,図8を参照し、取付台40の構造を説明する。取付台40は、台座部41と取付部42を備える。台座部41は、テンション板50と案内部材60等を支持する台座として機能する。取付部42は、台座部41をミシン1に着脱可能に取り付け、且つ左右方向に移動して位置決め可能とする。取付台40の材質は、例えば金属、樹脂等、様々なものを利用できるが、例えば圧延鋼板で形成するとよい。
台座部41は、正面視左右方向に長い略矩形状に形成し、前後方向に厚みを有する。台座部41は前面に前壁部411を備える。台座部41は前壁部411の左右両側に一対の右支持部412と左支持部413を備える。右支持部412と左支持部413は前壁部411よりも前方に突出する略直方体状に形成する。右支持部412は前面中央に固定穴415を備える。左支持部413は前面中央に固定穴416を備える。前壁部411は右支持部412と左支持部413の夫々の前面より後方に位置する。
取付部42は、正面視左右方向に長い略矩形リング状に形成する。取付部42は中央に挿通穴421を備える。挿通穴421は、正面視左右方向に長い長穴であり、前後方向に貫通する。挿通穴421の角部はテーパ状にするとよい。ネジ90の軸部は、挿通穴421に前方から挿入可能であり、挿通穴421の内側を長さ方向に沿って移動可能である。ネジ90の頭部は、挿通穴421の短径よりも径が大きく、挿通穴421の縁部に前方から係止可能である。
図7,図9を参照し、テンション板50の形状を説明する。テンション板50は、正面視左右方向に延びる。テンション板50の材質は金属が好ましく、歪み性と耐久性を考慮して、例えば、炭素工具鋼鋼材、ベーナイト鋼等のバネ用鋼材を用いるとよい。テンション板50は、糸接触部51と固定部52,53を備える。
糸接触部51は、テンション板50の長さ方向の左右両側を除く中間部に設け、正面視左右方向に延びる細板状に形成する。糸接触部51の左右方向長さは、取付台40の前壁部411の左右方向長さと略同一である。糸接触部51の厚さは限定しないが、耐久性を考慮して、例えば0.5mmにするとよい。糸接触部51の前面は、上糸6が接触する接触面である。接触面の長さ方向中間位置は、上糸6が接触する所定位置である。糸接触部51は、上端部の長さ方向中間位置に案内部55を備え、下端部の長さ方向中間位置に案内部56を備える。案内部55,56は、糸接触部51を間にして互いに対向する。案内部55,56は、糸接触部51の長さ方向に直交する方向に対して後方(取付台40側)に傾斜して突出する。案内部55は上方に向けて先細りとなる正面視略台形状に形成する。案内部56は下方に向けて先細りとなる正面視略台形状に形成する。
固定部52は、糸接触部51の右端側に設ける。固定部53は、糸接触部51の左端側に設ける。固定部52,53は正面視略矩形状に形成する。固定部52,53の夫々の形状は、取付台40の右支持部412と左支持部413の夫々の前面形状と略同一である。固定部52,53は夫々の略中央部に円形状の固定穴521,531を備える。固定穴521,531は、取付台40の右支持部412と左支持部413の夫々の固定穴415,416に対応する。固定穴521は左右方向に長径を有する長穴である。
図7を参照し、一対の歪みゲージ71,72を説明する。歪みゲージ71,72は、例えば電気絶縁体である樹脂ベース上に、抵抗材料の金属箔と引出線であるゲージリード71A,72Aを取り付けたものである。本実施形態において、歪みゲージ71は、テンション板50の糸接触部51の接触面(前面)における所定位置から左側部位に接着剤で固定する。歪みゲージ72は、テンション板50の糸接触部51の接触面とは反対面(裏面)における所定位置から左側部位に接着剤で固定する。歪みゲージ71と72は、糸接触部51を間にして同一位置である。
糸接触部51に発生した歪みは、接着剤と歪みゲージ71,72の夫々のベースを介して金属箔に伝達する。金属箔の電気抵抗値は、歪みが伝達したときに変化する。金属箔の電気抵抗値の信号は、ゲージリード71A,72Aを介してミシン1の制御部(図示略)に出力する。ミシン1の制御部は、歪みゲージ71,72から受信した各信号に基づき、ゲージリード71A,72Aの夫々における金属箔の電気抵抗値の変化を算出し、糸接触部51の接触面を基準とした歪みと、裏面を基準とした歪みを夫々検知する。即ち本実施形態のミシン1は、糸接触部51に発生する歪みを接触面と裏面の両面で検知することで温度の変化による影響を受け難くでき、糸接触部51に発生した歪みを精度良く検知できる。故にミシン1は上糸6の張力を精度良く検知できる。
図7,図10を参照し、案内部材60の構造を説明する。案内部材60は、平面視左右方向に長い略矩形状で、且つ側面視後方(ミシン1側)に向けて開口する略U字状に形成する。案内部材60は、下壁部61、上壁部62、右側連結壁部63、左側連結壁部64等を備える。下壁部61と上壁部62は、互いに上下方向に離間し且つ平行に配置する。下壁部61と上壁部62の離間距離は、取付台40の台座部41の上下方向長さよりも少し長い。
下壁部61は、底面視左右方向に長い細板状に形成する。下壁部61は前端部の左右方向略中央部に下側糸案内部66を備える。下側糸案内部66は底面視略U字状に形成し、下壁部61の前端部から前方に突出し、その先端部は右方に屈曲し、さらに後方に屈曲する。下側糸案内部66は中央内側に孔部661を備える。孔部661は上下方向に貫通する。孔部661には、主糸調子器27側から上糸6が進入して通過する。下側糸案内部66の後方に屈曲する先端部は、下壁部61の前端部から前方に離間し、その隙間に糸案内溝662を形成する。糸案内溝662は上糸6が通過できる幅を有し、孔部661と連通する。
上壁部62は、平面視左右方向に長い細板状に形成し、下壁部61に対向する。案内部材60の左右方向において、上壁部62の左端部の位置は、下壁部61の下側糸案内部66の左縁部の位置に対応する。上壁部62は、左前端部に上側糸案内部67を備える。上側糸案内部67は、下側糸案内部66と同形状で平面視略U字状に形成し、上壁部62の左前端部から前方に突出し、その先端部は右方に屈曲し、さらに後方に屈曲する。上側糸案内部67は中央内側に孔部671を備える。孔部671は上下方向に貫通する。孔部671は、テンション板50の糸接触部51の所定位置から上糸6が天秤23側に抜ける位置に設ける。孔部671には、所定位置から天秤23側に抜ける上糸6が進入して通過する。上側糸案内部67の後方に屈曲する先端部は、上壁部62の前端部から前方に離間し、その隙間に糸案内溝672を形成する。糸案内溝672は上糸6が通過できる幅を有し、孔部671と連通する。
右側連結壁部63は、後方(ミシン1側)に向けて開口する側面視略U字状に形成し、下壁部61の右前端部と、上壁部62の右前端部との間に連結する。右側連結壁部63は中央に固定部63Aを備える。固定部63Aは面方向を前後方向に向けて配置する。固定部63Aは中央部に円形状の固定穴631を備える。固定穴631は、取付台40の右支持部412の固定穴415、テンション板50の右側の固定部52の固定穴521に対応する(図7参照)。
左側連結壁部64は側面視略L字状に形成し、下壁部61の左前端部から前方に突出し、その先端側が上方に屈曲して延びる。左側連結壁部64は上方に屈曲して延びる先端側に固定部64Aを備える。固定部64Aは面方向を前後方向に向けて配置する。固定部64Aは中央部に円形状の固定穴641を備える。固定穴641は、取付台40の左支持部413の固定穴416、テンション板50の左側の固定部53の固定穴531に対応する(図7参照)。
図3~図7を参照し、糸張力検知装置30の組立方法の一例を説明する。作業者は、テンション板50の両面に歪みゲージ71,72を固定する。作業者は、テンション板50の右側の固定部52を、取付台40の右支持部412に配置し、左側の固定部53を、取付台40の左支持部413に配置する。テンション板50は、取付台40の右支持部412と左支持部413の間に架け渡した状態となる。取付台40の前壁部411は、テンション板50の糸接触部51と隙間を空けて対向する(図3,図5参照)。
作業者は、テンション板50を配置した取付台40に対し、案内部材60を被せるようにして配置する。取付台40の台座部41は、案内部材60の下壁部61と上壁部62の間に挿入する。作業者は、取付台40の右支持部412に対し、テンション板50の固定部52を挟んで、案内部材60の右側連結壁部63の固定部63Aを配置する。作業者は、取付台40の左支持部413に対し、テンション板50の固定部53を挟んで、案内部材60の左側連結壁部64の固定部64Aを配置する。
作業者は、右側連結壁部63の固定部63Aの固定穴631、テンション板50の固定部52の固定穴521に対してネジ91を挿入し、取付台40の右支持部412上面の固定穴415に締結する。作業者は、左側連結壁部64の固定部64Aの固定穴641、テンション板50の固定部53の固定穴531に対してネジ92を挿入し、取付台40の左支持部413上面の固定穴416に締結する。案内部材60とテンション板50は、取付台40に固定する。糸張力検知装置30の組立は完了する。
図3,図4に示すように、糸張力検知装置30は、テンション板50の左右両端部を取付台40の右支持部412と左支持部413に固定する。故に糸張力検知装置30はテンション板50の糸接触部51を安定して支持できるので、ミシン1の駆動に伴い糸接触部51に生じる不要な振動を抑制できる。仮にテンション板50の一端部のみを固定した場合、糸接触部51がミシン1の駆動に伴い振動して低い周波数の振動がノイズとして生じる。歪みゲージ71,72が出力する信号において、テンション板50に生じた低い振動周波数と上糸6の張力が変動する周期の区別がし難くなり、信号から上糸6の張力のみを抽出するのは困難である。本実施形態はテンション板50の左右両端部を固定することで、テンション板50の一端部のみを固定した場合に比べてテンション板50の固有振動数を高くできる。故にミシン1は歪みゲージ71,72が出力する信号において上糸6の張力の識別がし易くなるので、信号から上糸6の張力のみを抽出できる。
本実施形態は、テンション板50は取付台40にネジ91,92で着脱可能に固定するので、ミシン1の機種、上糸6の材質、太さ、張力等に応じて、例えば糸接触部の厚さが異なる他のテンション板と容易に交換可能である。
図3を参照し、糸張力検知装置30のミシン1への固定方法の一例を説明する。作業者は、糸張力検知装置30の取付部42が台座部41の右側となる向きで、頭部5前面の凹部5Aの内側に配置する。作業者は、取付部42の挿通穴421の内側に、凹部5Aの右側に設けた締結穴12(図5参照)が対向するように配置する。テンション板50の糸接触部51の所定位置が上糸経路上に位置するように、ミシン1の左右方向における取付部42の位置決めを行う。作業者は、ネジ90を取付部42の挿通穴421を介して、凹部5Aのネジ穴に締結する。取付部42は凹部5Aに固定する。糸張力検知装置30のミシン1への固定は完了する。
糸張力検知装置30は、ネジ90を緩めることで、取付部42を挿通穴421の範囲内で凹部5Aの長さ方向に沿って移動できる。故に糸張力検知装置30は、挿通穴421の範囲内でテンション板50の長さ方向と平行な左右方向に取付位置を変更できる。糸張力検知装置30の取付位置を変更することで、ミシン1は天秤23が上糸6を引き上げる時の引上げ量を調整できる。故にミシン1は、該調整を挿通穴421の範囲内で糸張力検知装置30の取付位置を変更するだけで容易に行える。
なお、従来のミシンは、ミシン1の頭部5前面に設けた凹部5Aに、主糸調子器27と糸案内28を経由した上糸6を天秤23に向けて案内するガイドフックを固定するが、本実施形態のミシン1は、凹部5Aに固定したガイドフックの代わりに、糸張力検知装置30を固定できる。
図3~図6を参照し、糸張力検知装置30へ上糸6を通す方法の一例を説明する。作業者は、頭部5の凹部5Aに固定した糸張力検知装置30に対して、前方から上糸6を通す。作業者は、案内部材60の下側糸案内部66の孔部661と、上側糸案内部67の孔部671に対して上糸6を通す。該時、作業者は上糸6を、テンション板50の糸接触部51に対して前側を通す。作業者は、上糸6を、糸案内溝662から孔部661に通し、糸案内溝672から孔部671に容易に通すことができる。故にミシン1は、孔部661,671に上糸6を通す際の作業性を向上できる。作業者は、テンション板50の糸接触部51の接触面の所定位置に上糸6を接触させる。仮に上糸6に対して、糸接触部51の所定位置がずれている場合、ネジ90を緩め、糸張力検知装置30の位置を左右方向に調節すればよい。糸張力検知装置30への上糸6の設置は完了する。
図3,図5に示すように、糸張力検知装置30において、糸案内溝662,672は、平面視で取付台40の前壁部411よりもミシン1側(凹部5A側)に位置する。故に孔部661,671を通過する上糸6は、前壁部411により糸案内溝662,672に入り込み難い。故にミシン1は、上糸6を糸張力検知装置30から外れ難くできる。
上糸6は、糸接触部51の接触面の所定位置に接触する。テンション板50の案内部55,56は、取付台40側に湾曲して突出する(図3参照)。案内部55は、孔部661を通過する上糸6を接触面の所定位置に案内する。案内部56は、接触面の所定位置から孔部671側に向けて上糸6を案内する。図5に示すように、上糸6は糸接触部51において屈曲するが、二つの案内部55,56により接触面に対して無理なく接触できる。故に上糸6に大きな負荷がかからないので、糸張力検知装置30は糸接触部51において上糸6が切断するのを防止できる。故に上糸6は糸接触部51の所定位置に滑らかに滑るようにして接触できる。
案内部55,56は、上糸6を糸接触部51の所定位置に位置決めする。上記の通り、所定位置は、糸接触部51の中間位置であるので、糸接触部51全体に歪みを形成できる。故に糸接触部51は上糸6の張力に応じて歪むことができるので、糸張力検知装置30は上糸6の張力を幅広く検知できる。
図6を参照し、上糸6がテンション板50を押す力について説明する。上糸6は、案内部材60とテンション板50を通過時、孔部661の内縁部、テンション板50の糸接触部51の接触面の所定位置P、孔部671の内縁部に夫々接触する。糸接触部51の接触面の所定位置Pは、孔部661と孔部671を結ぶ仮想直線Lよりも取付台40とは反対側に位置する。孔部661と孔部671の間を通過する上糸6に対して、糸接触部51は後方から接触する。故に上糸6は孔部661と孔部671との間で仮想直線Lに対し屈曲する。故に糸張力検知装置30は、上糸6の張力により、所定位置Pでテンション板50の糸接触部51を取付台40側に押す力を発生でき、テンション板50を容易に歪ませることができる。
上糸6には、所定位置Pのうち上端の位置から孔部661側に向かう力のベクトルである第一張力V1と、所定位置Pのうち下端の位置から孔部671側に向かう力のベクトルである第二張力V2が発生する。第一張力V1を所定位置Pのうち上端の位置から中央側に延長した線と、第二張力V2を所定位置Pのうち下端の位置から中央側に延長した線との交点をQ点とする。Q点から糸接触部51の接触面に対して直交する方向に向かう力のベクトルは、第一張力V1と第二張力V2の合力V3である。合力V3は、糸接触部51をミシン1側に押す力になる。本実施形態は、第一張力V1と第二張力V2が互いに同じ大きさになるように、糸接触部51、孔部661,671の夫々の位置関係を定める。第一張力V1と第二張力V2は互いに同じ大きさなので、上糸6が糸接触部51を押す合力V3の方向は、糸接触部51の接触面に対して垂直な方向となる。故に糸張力検知装置30は、テンション板50の歪む方向を規制できるので、検知する上糸6の張力をばらつき難くできる。
本実施形態は、第一張力V1及び第二張力V2の夫々の大きさと、合力V3の大きさについて限定しないが、例えば2:1の関係にするとよい。第一張力V1と第二張力V2の間の角度θ1についても限定しないが、例えば145°にするとよい。該時、上糸6の張力により、テンション板50の糸接触部51を無理なくミシン1側に押し、上糸6の張力の大きさに応じて糸接触部51を歪ませることができる。
以上説明の如く、第一実施形態のミシン1は、縫針10、天秤23、主糸調子器27を備える。縫針10は、上糸6を保持し、上下動可能である。天秤23は、糸供給源から縫針10に至る上糸経路中に設け、縫針10の上下動に伴い上下動し、上糸6を引き上げる。主糸調子器27は、上糸経路中で糸供給源と天秤23との間に配置し、上糸6に付与する張力を制御可能である。上記構成を備えるミシン1は、糸張力検知装置30を更に備える。糸張力検知装置30は、上糸6にかかる張力を検知可能である。糸張力検知装置30は、上糸経路中における主糸調子器27と天秤23の間に配置する。故に天秤23が上糸6を引き上げる時、天秤23と縫針10の間に抵抗になるものは無い。また、糸張力検知装置30は、縫針10の近くには無い。故に糸張力検知装置30はミシン1の縫製の邪魔にならないので、品質の良い縫目を布に形成できる。天秤23は、糸張力検知装置30が張力を検知する上糸6の部分を引っ張らないので、糸張力検知装置30は、上糸6にかかる本来の張力を検知できる。
第一実施形態の糸張力検知装置30は、取付台40、テンション板50、一対の歪みゲージ71,72、案内部材60等を備える。取付台40は、ミシン1の頭部5前面にネジ90で取り付け可能である。テンション板50は、糸接触部51と二つの固定部52,53を備える。固定部52,53は、ネジ91,92で取付台40に着脱可能に固定する。糸接触部51は、固定部52,53の間に接続し、主糸調子器27と天秤23の間における上糸経路に対して交差する方向に延び、上糸6との接触により自身に歪みを生じる。歪みゲージ71,72は、糸接触部51に生じる歪みを検出し、歪みの度合に応じて信号を出力する。案内部材60は、取付台40にネジ91,92で固定する。案内部材60は、孔部661、671を備える。孔部661は、糸接触部51の所定位置に対して主糸調子器27側から上糸6が進入する位置に設ける。孔部671は、所定位置から上糸6が天秤23側に抜ける位置に設ける。上記構成を備える糸張力検知装置30は、取付台40でミシン1に着脱可能に取り付けできる。テンション板50は、固定部52,53を取付台40に着脱可能に固定するので、ミシン1の機種に応じて適宜交換できる。案内部材60は、所定位置において上糸6が接触して通過するように上糸6を案内する。故にミシン1はテンション板50の糸接触部51の所定位置に上糸6をずれることなく常時接触できるので、上糸6の張力を精度良く検知できる。糸張力検知装置30は上糸6の張力を精度良く検知することで、縫製中に張力異常を即座に捉え、縫製不良を検出でき、ミシン1にフィードバックできる。故に縫製中に張力異常を検知した時は、ミシン1は例えば縫製動作を即停止できる。故にミシン1は縫製品質及び作業効率を向上できる。
以上説明において、副糸調子器26と主糸調子器27は本発明の糸調子器の一例である。テンション板50は本発明のテンション部材の一例である。歪みゲージ71,72は本発明の歪み検出センサの一例である。案内部材60の孔部661は本発明の第一孔部の一例であり、案内部材60の孔部671は本発明の第二孔部の一例である。案内部材60の下壁部61と下側糸案内部66は、本発明の第一壁部の一例である。糸案内溝662は、本発明の第一糸案内溝の一例である。案内部材60の上壁部62と上側糸案内部67は、本発明の第二壁部の一例である。糸案内溝672は、本発明の第二糸案内溝の一例である。取付台40の前壁部411は本発明の壁部の一例である。ネジ90は本発明の締結部材の一例である。
図11~図20を参照し、本発明の第二実施形態を説明する。第二実施形態のミシンは、図11に示す糸張力検知装置130を備える。糸張力検知装置130は、上糸張力でテンション板50に生じる歪みを、磁石58とホール素子105を用いて間接的に検出することで、上糸張力を検出する。糸張力検知装置130は、第一実施形態の糸張力検知装置30の変形例であって、構成の一部を変えたものである。故に第二実施形態では、糸張力検知装置30と異なる部分を中心に説明し、共通する部分については同符号を付して説明を簡略化又は省略する。ミシンの構成は、第一実施形態のミシン1の構成と同一である。
図11~図17を参照し、糸張力検知装置130の構成を説明する。図11,図12に示す如く、糸張力検知装置130は、第一実施形態の糸張力検知装置30と同様に正面視左右方向に長く、複数の部材を互いに組み付けて構成した複合体である。糸張力検知装置130は、第一実施形態の糸張力検知装置30と同様にミシンに配置する(図2参照)。
図13に示す如く、糸張力検知装置130は、取付台140、テンション板50、磁石58、センサホルダ80、FPC100、ホール素子105、温度センサ106、締結ネジ95、調整ネジ96、案内部材160等を備える。テンション板50は、第一実施形態と同一部品である。取付台140と案内部材160は、第一実施形態の取付台40と案内部材60の夫々の一部を変形したものである。
取付台140の構造を説明する。図13に示す如く、取付台140は、台座部410と取付部42を備える。台座部410は、テンション板50と案内部材160等を支持する台座として機能する。台座部410は正面視左右方向に長い略矩形状に形成し、前後方向に厚みを有する。台座部410は前面に前壁部431を備える。前壁部431は正面視左右方向に長い略矩形状に形成する。台座部410は、前壁部431の左右両側に一対の右支持部412と左支持部413を備える。右支持部412と左支持部413は前壁部431よりも前方に突出し、略直方体状に形成する。右支持部412は前面中央に固定穴415を備える。左支持部413は前面中央に固定穴416を備える。
前壁部431は、右支持部412と左支持部413の夫々の前面より後方に位置する。前壁部431は、段部432、貫通孔435、ネジ孔436等を備える。段部432は、前壁部431のうち左支持部413側である左端部に設ける。段部432は前壁部431よりも前方に突出し、略直方体状に形成する。貫通孔435は、段部432右側に近接して設け、前壁部431を前後方向に貫通する。貫通孔435は、後述する締結ネジ95を内挿する。ネジ孔436は、貫通孔435右側に近接して設け、後述する調整ネジ96を内側に螺合する。取付部42は、第一実施形態と同一構造である。
磁石58について説明する。図13に示す如く、磁石58は、テンション板50の糸接触部51の接触面(前面)とは反対側の裏面における左右方向中間部に接着剤で固定する。糸接触部51中間部は、案内部55,56を備えるので、磁石58は案内部55,56の内側に隠れる。故に上糸6が磁石58に引っ掛かるのを防止できる。糸接触部51裏面中間部は、案内部55,56により断面円弧状に曲がっていることから、剛性が高く曲がり難い。故に磁石58は糸接触部51裏面中間部から剥離し難い。
磁石58の形状は限定せず、例えば円柱型、角型、円筒型等の何れの形状も可能であるが、好ましくは円柱型がよい。円柱型の磁石58は一端面を固定面とし、糸接触部51裏面に接着剤で固定する。固定面は円形状なので、該固定面の糸接触部51の曲げによる摩擦力分布は連続的であり、部分的に偏ることがない。これに対し、角型の磁石の固定面は多角形状で複数の角部を有するので、該固定面の糸接触部51の曲げによる摩擦力分布は角部に集中して不連続である。故に円柱型の磁石58は、角型の磁石に比べ、糸接触部51裏面に対して剥離し難い利点がある。磁石58の着磁方向は、円柱型の磁石58を軸線方向に沿って通過する高さ方向である。
磁石58の大きさは、テンション板50の固有振動数に影響を与えないように小さいのがよい。例えば、磁石58を、Φ1又は1.5、長さ1mm程度で、テンション板50の質量の1/20以下とした場合、磁石58を設けたテンション板50と磁石58を設けないテンション板50との固有振動数の一致率は95%となる。磁石58の質量がテンション板50の質量より極めて小さいので、テンション板50の固有振動数は大きく低下しない。故にテンション板50は使用時にて、磁石58との共振を回避できる。しかしながら、磁石58の大きさは、ホール素子105の磁場を検知する検知部(図示略)の面積よりも十分大きいのがよい。該場合、糸張力検知装置130は、磁石58と後述するホール素子105との相互の位置ずれの影響を小さくできる。
磁石58の材質は限定せず、例えば、フェライト、アルニコ、サマリウムコバルト、ネオジウム等の何れも適用可能であるが、好ましくはネオジウムがよい。ネオジウムは他の材質に比べ、磁束密度が高く、安価で入手し易い利点がある。
センサホルダ80の構造を説明する。図13,図16に示す如く、センサホルダ80は、取付台140の前壁部431側に取り付ける。センサホルダ80の材質は限定しないが、非磁性体で形成するのが好ましく、例えばアルミニウムを採用できる。センサホルダ80は、糸接触部51が歪む方向(後方向)に直交な方向に面方向を有する板状であり、側面視前方に向かうに従って上下幅が狭くなる略台形状に形成する。センサホルダ80は、支持面81、取付面82、外側面83を備える。支持面81は、センサホルダ80前面であって、後述するFPC100のセンサ支持部101を支持する面である。支持面81は、左部81Aと右部81Bを備える。左部81Aは、支持面81左側に設け、正面視略矩形状に形成する。右部81Bは、左部81Aの左端部中央部から右方に延び、左部81Aよりも上下方向の幅が狭い略矩形状に形成する。支持面81の上下方向の幅は、後述するFPC100のセンサ支持部101の上下方向の幅と一致する。
取付面82は、センサホルダ80の背面であり、取付台140の前壁部431に取り付ける面である。取付面82は背面視略矩形状に形成する。取付面82の面積は、支持面81の面積よりも大きい。外側面83は、センサホルダ80の外周を取り囲む側面であり、支持面81の外縁部から取付面82の外縁部に向かって滑らかに拡がるテーパ状に形成する。
センサホルダ80は、ネジ孔85と穴86を更に備える。ネジ孔85は、支持面81の左部81Aの略中央に設け、取付面82との間を貫通する(図15参照)。センサホルダ80を取付台140に取り付けた状態では、ネジ孔85は、取付台140の前壁部431に設けた貫通孔435の位置に対応する。穴86は、取付面82におけるネジ孔85の右側に設ける。穴86は奥側に底部を有する行き止まり穴であり、支持面81を貫通しない(図16参照)。
FPC100を説明する。FPC(Flexible printed circuits)100は、フレキシブルプリント回路基板の略である。図13に示す如く、FPC100は、センサ支持部101、横方向部102、縦方向部103を備える。センサ支持部101は前後方向に面方向を有し、センサホルダ80の支持面81に接着剤で固定する部位である。センサ支持部101は支持面81と同形状に形成し、左部101Aと右部101Bを備える。左部101Aは、支持面81の左部81Aに対応し、右部101Bは、支持面81の右部81Bに対応する。センサ支持部101は、上面にホール素子105と温度センサ106を備える。ホール素子105は、右部101B上面に固定する。ホール素子105は、磁石の磁束密度を検出しその大きさに比例したアナログ信号(電圧信号)をセンサ値として出力する周知の半導体である。なお、本実施形態のホール素子105は、該ホール素子105に対して垂直に通過する磁石58の磁束を検知できる垂直検知型ホール素子である。温度センサ106は、左部101Aと右部101Bの境界部分に固定する。温度センサ106は、例えばサーミスタであり、半導体の抵抗温度特性を利用し、周囲の環境温度を検出する。
横方向部102は、センサ支持部101の左部101A後端部から後方に略直角に屈曲して右方に延び、平面視左右方向に延びる細長略矩形状に形成する。縦方向部103は、横方向部102の後端部右側部分から垂直上方に屈曲して延び、正面視上下方向に延びる細長略矩形状に形成する。センサ支持部101、横方向部102、縦方向部103は、ホール素子105及び温度センサ106の夫々の電気回路を形成した基板である。
締結ネジ95と調整ネジ96を説明する。図13に示す如く、締結ネジ95は、ネジ山を外側に有する丸い棒状部と、該棒状部の軸線方向一端部に設け、径方向外側に突出する頭部を備える一般的なネジである。締結ネジ95は、取付台140の後方から貫通孔435に挿入し、前壁部431側の開口から突出する先端側をセンサホルダ80の取付面82に設けたネジ孔85に締結する。故にセンサホルダ80は、取付台140の前壁部431側に固定する。
調整ネジ96は、ネジ山を外側に有する丸い棒状に形成する。調整ネジ96は、取付台140のネジ孔436に螺合し、前壁部431側の開口から先端側を突出する。調整ネジ96は、取付台140の背面側に位置する一端部に、工具用の溝部96Aを備える。溝部96Aは-(マイナス)形状である。作業者は、取付台140の背面側からネジ孔436に工具(例えばマイナスドライバー)先端を挿入し、溝部96Aに差し込んで一方向又は逆方向に回転する。工具の回転する方向に伴い、調整ネジ96は、ネジ孔436に沿って前後方向に進退移動する。故にネジ孔436の前壁部431側の開口から調整ネジ96の先端部が突出する高さは、工具で調整可能である。
センサホルダ80を取付台140に取り付けた状態では、調整ネジ96の先端部は、センサホルダ80の取付面82に設けた穴86に挿入し、穴86の底部に当接する(図16参照)。センサホルダ80は、取付台140の前壁部431側にて、段部432上面と、調整ネジ96の先端部とによって支持する。作業者は、調整ネジ96の前壁部431から突出する高さを調整することで、センサホルダ80がFPC100を介して支持するホール素子105と、テンション板50の糸接触部51裏面に固定した磁石58とのギャップを調整する。なお、調整ネジ96を用いたギャップ調整方法は後述する。
案内部材160の構造を説明する。図13に示す如く、案内部材160は、下壁部61、上壁部62、右側連結壁部63、左側連結壁部64等を備える。下壁部61と上壁部62の離間距離は、取付台140の台座部410の上下方向長さよりも少し長い。
図13,図14に示す如く、下壁部61は、前端部の左右方向略中央部に下側糸案内部166を備える。下側糸案内部166は底面視略U字状に形成し、下壁部61前端部から前方に突出し、突出部分の先端部は右方に屈曲し、更に後方に屈曲する。下側糸案内部166は中央内側に孔部171を備える。孔部171は上下方向に貫通する。孔部171には、主糸調子器27(図2参照)側から上糸6が進入して通過する。下側糸案内部166の後方に屈曲する先端部は、下壁部61前端部から前方に離間し、下壁部61前端部との隙間に糸案内溝172を形成する。糸案内溝172は上糸6が通過できる幅を有し、孔部171と連通する。
図13,図15に示す如く、案内部材160の左右方向にて、上壁部62の左端部の位置は、下壁部61の下側糸案内部166の左縁部の位置に対応する。上壁部62は、前端部左側に上側糸案内部167を備える。上側糸案内部167は、平面視略U字状に形成し、上壁部62の前端部左側から前方に突出し、該先端部は右方に屈曲し、更に後方に屈曲する。上側糸案内部167は中央内側に孔部181を備える。孔部181は上下方向に貫通する。孔部181は、テンション板50の糸接触部51中間部から上糸6が天秤23(図2参照)側に抜ける位置に設ける。孔部181には、糸接触部51中間部から天秤23側に抜ける上糸6が進入して通過する。
図15に示す如く、上壁部62は前端部に凹部183を備える。凹部183は、上側糸案内部167の基端部の左側であって、上側糸案内部167の後方に屈曲する先端部に対向する位置に設ける。凹部183は、底面視略半円状の溝である。上側糸案内部167の先端部は略半円弧状に形成し、凹部183の内側に配置する。上側糸案内部167の先端部は、凹部183の内縁部から前方に離間し、その隙間に円弧状の糸案内溝182を形成する。糸案内溝182は上糸6が通過できる程度の幅を有し、孔部181と連通する。案内部材160は、凹部183の内縁部に沿って糸案内溝182を円弧状に形成することで、上糸6が孔部181からより抜け難くできる。右側連結壁部63と左側連結壁部64は、第一実施形態と同一構造であるので、説明を省略する。
図11~図13,図16を参照し、糸張力検知装置130の組立方法の一例を説明する。図13に示す如く、先ず、作業者は、FPC100のセンサ支持部101において、右部101Bの中央にホール素子105、左部101Aと右部101Bの境界部分に温度センサ106を固定する。作業者は、センサホルダ80の支持面81に対し、FPC100のセンサ支持部101を位置決めし、接着剤で固定する。該時、支持面81の外周縁部と、センサ支持部101の外周縁部は揃えた状態である。作業者は、取付台140のネジ孔436に調整ネジ96を螺合し、ネジ孔436の前壁部431側の開口から調整ネジ96の先端部を突出する(図16参照)。
作業者は、センサホルダ80の取付面82の左端部を、取付台140の段部432に当接し、取付面82に設けた穴86に調整ネジ96の先端部を挿入する。センサホルダ80は、取付台140の前壁部431側において、段部432と調整ネジ96の先端部によって支持する。センサホルダ80の取付面82と、取付台140の前壁部431との間に隙間が介在する。作業者は、締結ネジ95を取付台140の背面側から貫通孔435に挿入し、先端部をセンサホルダ80の取付面82に設けたネジ孔85に締結する。センサホルダ80は取付台140に固定する。調整ネジ96は、センサホルダ80を介して、FPC100のセンサ支持部101に固定したホール素子105の後方に位置する。
作業者は、テンション板50の糸接触部51裏面中間部に対し、磁石58の固定面を接着剤で固定する。テンション板50は磁性体(例えば鉄等の金属)であるので、磁石58のバックヨークとして有効磁束を増加できる。磁石58の固定作業時、磁石58はテンション板50に対し磁力で吸着するので、固定作業を容易化できる。作業者は、テンション板50の右側の固定部52を、取付台140の右支持部412に配置し、左側の固定部53を、取付台140の左支持部413に配置する。テンション板50は、取付台140の右支持部412と左支持部413の間に架け渡した状態となる。FPC100のセンサ支持部101に固定したホール素子105は、テンション板50の糸接触部51裏面中間部に固定した磁石58に対してギャップを介して対向する。
作業者は、テンション板50を配置した取付台140に対し、案内部材160を被せるようにして配置する。取付台140の台座部410は、案内部材160の下壁部61と上壁部62の間に挿入する。作業者は、取付台140の右支持部412に対し、テンション板50の固定部52を挟んで、案内部材160の右側連結壁部63の固定部63Aを配置する。作業者は、取付台140の左支持部413に対し、テンション板50の固定部53を挟んで、案内部材160の左側連結壁部64の固定部64Aを配置する。FPC100の横方向部102は、案内部材160の上壁部62の下面と、取付台140の上面との隙間に配置する(図17参照)。FPC100の縦方向部103は、案内部材160の右側連結壁部63の後方にて、横方向部102後端部右側から上方に屈曲して延びるように配置する(図12,図13参照)。
図16に示す如く、作業者は、右側連結壁部63の固定部63Aの固定穴631、テンション板50の固定部52の固定穴521に対してネジ91を前方から挿入し、取付台140の右支持部412上面の固定穴415に締結する。作業者は、左側連結壁部64の固定部64Aの固定穴641、テンション板50の固定部53の固定穴531に対してネジ92を前方から挿入し、取付台140の左支持部413上面の固定穴416に締結する。案内部材160とテンション板50は、ネジ91,92により、取付台140に共締め固定する。糸張力検知装置130の組立は完了する。
図16~図19を参照し、磁石58とホール素子105間のギャップと、ギャップ調整方法の一例を説明する。図17に示す如く、磁石58とホール素子105間のギャップ(図17中G参照)は、テンション板50の糸接触部51が最大変形しても、磁石58がホール素子105に干渉しない程度で極力小さいのがよい。本実施形態のギャップは、糸張力検知装置130の組立性、部品ばらつき等を考慮し、例えば0.25mmを目標値に設定するとよい。
図16に示す如く、締結ネジ95でセンサホルダ80を取付台140に対して固定した状態で、作業者は、工具で調整ネジ96を一方向又は逆方向に回転し、前壁部431からの調整ネジ96の突出高さを調整する。例えば、本実施形態は、センサホルダ80の取付面82が、取付台140の前壁部431に対して平行な姿勢を、センサホルダ80の基本姿勢とする。センサホルダ80が基本姿勢の状態から、前壁部431からの調整ネジ96の突出高さを高くすると、調整ネジ96の先端部は、センサホルダ80の穴86の孔底を押し上げる。該時、図18に示す如く、センサホルダ80は、段部432に当接する左端部と、締結ネジ95が締結するネジ孔85の部分を基点とし、右端側が持ち上がる。ホール素子105は磁石58に対して近付くので、ギャップは小さくなる。
一方、図19に示す如く、図16に示すセンサホルダ80が基本姿勢の状態から、前壁部431からの調整ネジ96の突出高さを低くすると、調整ネジ96の先端部は、取付台140のネジ孔436を下方に移動する。これに伴い、センサホルダ80は、段部432に当接する左端部と、締結ネジ95が締結するネジ孔85の部分を基点とし、右端側が下がるように傾く。ホール素子105は磁石58から離間する方向に移動するので、ギャップは大きくなる。なお、図19に示すセンサホルダ80は、傾いた状態が分かり易いように実際の傾きよりも大きくして図示する。
作業者は上記方法で、前壁部431からの調整ネジ96の突出高さを調整し、ホール素子105のセンサ値(電圧信号)を確認しながらギャップを目標値(例えば0.25mm)に合わせる。故にミシンはホール素子105の安定した出力を得ることができる。ギャップ調整は完了する。センサホルダ80は非磁性体であるので、テンション板50の糸接触部51裏面に固定した磁石58の吸引力によりギャップが変化する影響を抑止できる。
図11,図12に示す如く、糸張力検知装置130の動作を説明する。糸張力検知装置130においても、第一実施形態の糸張力検知装置30と同様に、上糸6はテンション板50の糸接触部51の接触面(前面)に接触する。上糸張力により、糸接触部51は後方向に歪む。糸接触部51の歪みに応じて、磁石58は前後方向に移動する。磁石58の移動に応じて、ホール素子105を通過する磁石58の磁束密度は変化する。ホール素子105は磁束密度の変化を検知し、電圧信号に変換する。ミシンは、ホール素子105から出力するセンサ値に基づき、上糸張力を算出する。本実施形態においては、テンション板50が上糸張力無負荷状態でホール素子105が検知する磁束密度に対し、テンション板50が上糸張力負荷状態でホール素子105が検知する磁束密度が直線的に大きく変化するのが好ましい。
ホール素子105は温度特性を有する。故に環境温度、部品の温度上昇等により、ホール素子105のセンサ値は変化する可能性がある。本実施形態の糸張力検知装置130は、FPC100のセンサ支持部101に温度センサ106を固定する。温度センサ106は、ホール素子105近傍に位置する。故にミシンは温度センサ106でホール素子105周囲の温度を検知し、検知した温度に応じてホール素子105のセンサ値を補正することで、温度変化に影響しない安定したセンサ値を得ることができる。
糸張力検知装置130において、磁石58の着磁方向は、テンション板50の糸接触部51が上糸6との接触により歪む方向である所定方向に沿う方向である。センサホルダ80は、磁石58に対して、所定方向においてギャップを介してホール素子105を支持する。故にホール素子105は、糸接触部51の歪みに応じて変化する磁束密度の変化を精度良く検知できる。センサホルダ80のネジ孔436に螺合する調整ネジ96の位置は、所定方向においてホール素子105に対応する位置である。調整ネジ96は磁性体である。故に磁石58の磁束はホール素子105を貫通して調整ネジ96に向かうことができる。磁束は、調整ネジ96から磁性体である取付台140を通過し、テンション板50に戻って良好に循環できる。
図20を参照し、上糸張力とホール素子105のセンサ値との関係を説明する。本実施形態では、上糸張力を変化した時のテンション板50の糸接触部51中間部の移動量(以下、テンション板50の移動量と呼ぶ)と、ホール素子105のセンサ値を示す。糸接触部51にかかる上糸張力(N)は、糸張力検知装置130の下側糸案内部166の孔部171から上糸6を下方に引き出し、種々の力の大きさで引っ張った場合を示す。テンション板50の移動量は、上糸張力をテンション板50に掛けない状態を0とする。本実施形態では、上糸張力を変化した時のテンション板50の移動量(mm)、ホール素子105からのセンサ値(V)を図表に示す。
図20にて、直線Aは、上糸張力とテンション板50の移動量の関係を示す。直線Bは、上糸張力とホール素子105のセンサ値との関係を示す。直線Aが示す如く、上糸張力の変化に対し、テンション板50の移動量は比例関係にある。故に本実施形態はテンション板50の移動量を検知することで、上糸張力を精度良く検知できる。一方、直線Bが示す如く、上糸張力の変化に対し、ホール素子105のセンサ値も比例関係にある。故に本実施形態では、ホール素子105のセンサ値に基づき、上糸張力を精度良く検知できる。
上記の通り、糸張力検知装置130は、取付台140に対し、テンション板50の両端部を固定するので、テンション板50の糸接触部51が上糸張力で変形しても、糸接触部51中間部は傾かない。磁石58は糸接触部51裏面中間部に固定するので、常時ホール素子105と対向して移動できる。故に糸張力検知装置130は、上糸張力とホール素子105のセンサ値との間の線形性を確保できる。
図12,図13,図17を参照し、縫製中に糸張力検知装置130にて上糸6が暴れた時の糸傷防止効果、糸抜け防止効果を説明する。糸張力検知装置130は、センサホルダ80の支持面81の右部81Bの幅と、FPC100のセンサ支持部101の右部101Bの幅を小さくし、正面視でテンション板50の糸接触部51の案内部55,56に隠れるようにする(図12,図13参照)。故に縫製中に上糸6が暴れた時でも、糸張力検知装置130は、センサホルダ80及びFPC100のセンサ支持部101に上糸6が引っ掛かるのを防止できる。故に糸張力検知装置130は上糸6が傷つくのを防止できる。
図13に示す如く、センサホルダの支持面81の右部81Bの幅は、FPC100のセンサ支持部101の右部101Bの幅と一致し、且つセンサホルダ80の外側面83は、支持面81の外縁部から取付面82の外縁部に向かって滑らかに拡がるテーパ状に形成する。故に縫製中に上糸6が暴れた時でも、上糸6はセンサホルダ80の外側面83に引っ掛かり難い。故に糸張力検知装置130は上糸6が傷つくのを防止できる。
図17に示す如く、糸張力検知装置130は、センサホルダ80の上端部と、それに対向する案内部材160の上側糸案内部167との隙間K1、センサホルダ80の下端部と、それに対向する案内部材160の下側糸案内部166との隙間K2を共に狭くする。故に糸張力検知装置130は隙間K1,K2において上糸6の暴れを抑制できる。故に糸張力検知装置130は上糸6が孔部171,181から糸案内溝172,182を通って外側に抜けるのを防止できる。
以上説明の如く、第二実施形態のミシンは糸張力検知装置130を備える。糸張力検知装置130は、取付台140、テンション板50、磁石58、センサホルダ80、ホール素子105等を備える。磁石58は、テンション板50の糸接触部51の裏面に固定する。センサホルダ80は、取付台140に固定し、磁石58に対してギャップを介してホール素子105を支持する。糸接触部51が上糸張力により歪むと、ホール素子105を通過する磁束は変化する。ホール素子105は磁束密度の変化を検知し、該変化に応じて信号を出力する。故に糸張力検知装置130は上糸張力を精度良く検知できる。糸張力検知装置130は磁石58とホール素子105を用いるので、構成をコンパクト且つ安価にできる。
以上説明において、センサホルダ80の取付面82に設けた穴86は、本発明の穴の一例である。穴86の奥側の底部は、本発明の被当接部の一例である。
本発明は上記第一,第二実施形態の他に種々の変更が可能である。
(第一,第二実施形態共通の変形例)
第一,第二実施形態の糸張力検知装置30,130は、テンション板50の左右の両端部を、取付台40の台座部41、及び取付台140の台座部410に夫々固定するが、例えば両端部のうち片方の一端部のみを固定してもよい。
テンション板50の糸接触部51は、主糸調子器27と天秤23との間における上糸経路に対して直交する左右方向に延びるようにして配置するが、上糸経路に対して交差するように配置すればよい。
第一実施形態は、テンション板50に発生する歪みを歪みゲージを用いて直接的に検知し、第二実施形態は、テンション板50に発生する歪みを磁石58とホール素子105を用いて間接的に検知する。糸張力検知装置は、テンション板50に発生する歪みを上記第一,第二実施形態以外の方法で検知してもよく、例えば、赤外線センサ、レーザ変位計等のセンサを用いて検知してもよい。
テンション板50の案内部55,56は正面視略台形状に形成するが、これ以外の形状であってもよい。
テンション板50において、上糸6を接触する所定位置は、糸接触部51の長さ方向の中間位置であるが、少なくとも糸接触部51の接触面に接触していれば、中間位置でなくてもよい。
(第一実施形態の変形例)
案内部材60は、下側糸案内部66と上側糸案内部67を備える。下側糸案内部66の先端部は、下壁部61の前端部と接続していてもよい。上側糸案内部67の先端部は、上壁部62の前端部と接続していてもよい。糸案内溝662,672は省略してもよい。孔部661,671は円形の穴であってもよい。
二本の歪みゲージ71,72は、テンション板50の糸接触部51の両面に夫々固定するが、同一面に固定してもよい。歪みゲージ71,72は、例えば同一面において、所定位置を間にして左右両側の部位に固定してもよい。該場合、糸張力検知装置30は所定位置を中間部として発生する糸接触部51全体の歪みを幅広く検知できる。また、テンション板50に固定する歪みゲージは一本でもよく、二本以上であってもよいが、複数固定するのが好ましい。該場合、糸張力検知装置30は糸接触部51に発生する歪みを精度良く検知できる。また、歪みゲージは、糸接触部51の接触面とは反対側の裏面に固定してもよい。該場合、糸張力検知装置30は、歪みゲージ71,72がミシン1による縫製時に糸接触部51に接触して通過する上糸6の邪魔にならないようにできる。
案内部材60は、下側糸案内部66と上側糸案内部67を備える。下側糸案内部66の先端部は、下壁部61の前端部と接続していてもよい。上側糸案内部67の先端部は、上壁部62の前端部と接続していてもよい。糸案内溝662,672は省略してもよい。孔部661,671は円形の穴であってもよい。
(第二実施形態の変形例)
ホール素子105と温度センサ106は、FPC100のセンサ支持部101上に固定し、該センサ支持部101をセンサホルダ80の支持面81に固定するが、ホール素子105と温度センサ106は、センサホルダ80の支持面81に直接固定してもよい。温度センサ106は省略してもよい。
センサホルダ80は、締結ネジ95で取付台140の前壁部431側に固定した状態で、調整ネジ96の前壁部431からの突出高さを調整し、センサホルダ80のホール素子105を支持する部分の位置を調整することにより、磁石58とホール素子105間のギャップを調整するが、これ以外の方法でギャップを調整してもよい。例えば、前壁部431から段部432を省略し、センサホルダ80の取付面82と前壁部431との間に板状の間座を挟み込んでもよい。厚みの異なる間座を選択して挟み込んでもよく、挟み込む間座の枚数を調節してもよい。例えば、取付台140の右支持部412とテンション板50の固定部52との間に板状の間座を挟み込み、取付台140の左支持部413とテンション板50の固定部53との間に板状の間座を挟み込むことで、磁石58とホール素子105間のギャップを調整してもよい。故に糸張力検知装置は、テンション板50が歪む方向に平行な所定方向において、センサホルダ80の位置を調節でき、磁石58とホール素子105間のギャップを調整できる。第二実施形態は、調整ネジ96によるギャップ調整機能を省略してもよい。センサホルダ80を取付台140に固定する方法は締結ネジ95に限らず、固定ピン等で固定してもよい。
案内部材160は、下側糸案内部166と上側糸案内部167を備える。下側糸案内部166の先端部は、下壁部61の前端部と接続していてもよい。上側糸案内部167の先端部は、上壁部62の前端部と接続していてもよい。糸案内溝172,182は省略してもよい。孔部171,181は円形の穴であってもよい。
磁石58の着磁方向は、円柱型の磁石58を軸線方向に沿って通過する高さ方向であるが、例えば、磁束が径方向に通過する円柱型の磁石を採用してもよい。
調整ネジ96の突出する先端部は、センサホルダ80の取付面82に設けた穴86に挿入し、該穴86の奥側の底部に当接するが、取付面82において調整ネジ96の先端部が当接する部分の形状は、穴形状、突出形状、平面形状等の何れであってもよい。例えば、取付面82の穴86を省略し、取付面82に直接当接してもよい。例えば、調整ネジ96の先端部に対向する部分に、取付台140の前壁部431側に突出する突出部を設け、該突出部に調整ネジ96の先端部を当接してもよい。
糸張力検知装置130は、磁石58の磁束密度の変化を、ホール素子105で検知するが、その他のセンサを用いて検知するようにしてもよく、例えば、磁気インピーダンス素子、磁気抵抗効果素子等を用いることができる。