以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態につき説明する。なお、以下に示す構成はあくまでも一例であり、例えば細部の構成については本発明の趣旨を逸脱しない範囲において当業者が適宜変更することができる。また、本実施形態で取り上げる数値は、参考数値であって、本発明を限定するものではない。
以下の実施形態で示す樹脂製の物品は、電子部品を内蔵し高品位な外観が要求される電子機器(たとえばプリンタ)の外装部品や、自動車などの車両の外装品や内装品に好適に用いることができる。以下では、樹脂製物品を、原稿読取装置付きのプリンタ(記録装置)の外装に用いた実施形態を示す。
図1は、本発明の実施形態の一例として、本発明の樹脂製物品を用いた電子機器の一例として、原稿読取装置を備えたプリンタを示している。図1において、プリンタ1は例えば複合型プリンタであり、原稿カバー12、筐体10などの外装は、所定色、例えば黒色の樹脂で成形されている。プリンタ1の外面11はユーザの目に触れる部位であり、高品位な外観が求められるため意匠パターンが形成されている。
図2は、図1のプリンタ1の原稿カバー12を構成する樹脂部品の外面の構成例を示す模式図である。図2に示すように、樹脂部品の外面11は、ロゴなどの情報表示を付与するためにホットスタンピング、塗装その他の被覆加工を行うことが可能な被覆領域21と、被覆加工を行わない非被覆領域22で構成されている。尚、以下の説明では、被覆領域を第一の領域と、非被覆領域を第二の領域と称する場合がある。そして、被覆領域(第一の領域)21の一部分に、ホットスタンピング、塗装その他の被覆加工が行なわれ、情報表示等が付与される。被覆領域(第一の領域)21のうち、情報表示等のための被覆加工が行なわれた部分を、第三の領域と呼び替えてもよい。最終的には、樹脂部品の外面には、非被覆領域(第二の領域)22に隣接して被覆領域(第一の領域)21が形成され、被覆領域(第一の領域)21に隣接してロゴなどの情報担持体が付与された第三の領域が形成される。被覆加工が行なわれる前の被覆領域21、および非被覆領域22には、主に意匠性や機能性の目的で、高低差を有する凹凸により構成された表面パターンが形成されている。
図3(A)、図3(B)は、樹脂部品の外面11の被覆領域21および非被覆領域22の表面に形成された、粗面により構成された表面パターンの例である。図3(A)、図3(B)において濃色の部分は粗面を構成する凹凸の凸部に相当し、淡色の部分は凹凸の凹部に相当する。なお、本実施形態の説明においては、「凹部」という表現は、所定の基準面から低くえぐられた部位を意味するとは限らず、また「凸部」という表現は、所定の基準面から高く積まれた部位を意味するとは限らない。本実施形態の説明においては、「凹部」というのは「凸部」との相対関係において「凸部」よりも低い位置にある部分を指し、「凸部」というのは「凹部」との相対関係において「凹部」よりも高い位置にある部分を指す。
図3(A)は、特定の方向に周期性のある直線状の凹凸(凹条、凸条)が配置されたいわゆるヘアライン模様である。また、図3(B)は、異なる大きさの凹凸がほぼランダムに配置されたいわゆるシボ模様である。また、図4は、上記の凹凸の高低差の構成を示すために、図2における破線に沿って被覆領域21および非被覆領域22を切断した、模式的な断面図である。
図4に示すように、非被覆領域(第二の領域)22の粗面は、意匠性や機能性の観点から、凸部41と凹部43とで構成され第2の高低差を有する凹凸を備える。従来の構成においては、ホットスタンピングなどによる被覆加工の加工性を担保するために、被覆領域には高低差のある粗面を設けず、平滑面で構成していた。これに対して、本実施形態における被覆領域(第一の領域)21は、非被覆領域22(第2の領域)を構成する凹凸の凸部41の高低差(第2の高低差)よりも低い高低差(第1の高低差)を有する凸部42と凹部43を備えた粗面(第1の粗面)を有する。なお、図3(B)のようなシボ模様の場合には、ランダムに配置された凹凸で第1の領域および第2の領域が構成される。本実施形態における第1の高低差および第2の高低差は、後述の算術平均高さSaによって評価するものとする。また、粗面は単に面あるいは表面と称する場合がある。
ここで、これらの粗面を構成する凸部41、凸部42、凹部43の図4における左右方向に沿った(樹脂部品外面における)幅は、例えば0.5mm程度とする。その場合、被覆領域21と非被覆領域22は、凸部の高さのみが異なっているパターン構成に相当する。
一般に、樹脂部品の粗面で構成された外面において、上記のように凹凸の幅が1mmよりも小さい場合、観察者にとっては、粗面を構成する凸部41と凸部42の高さの差を、物体面の「高さの差」として知覚することが難しくなる。凸部41と凸部42のように、凹部43との高低差が異なると、非被覆領域22と被覆領域21の反射特性が変わるために、観察者には、むしろ物体面の光沢(光沢度)の差として知覚される。観察者は、数cm四方程度よりも大きな面積を単位として光沢度を知覚する傾向があるため、光沢(光沢度)の差は、それ以上の面積を有する領域どうしで凸部の高さに差があるときに、知覚される場合が多い。なお、以下では、凹凸の高低差の組合せや配置によって当該粗面全体から知覚されるマクロ的な光沢のことを、マクロ光沢と言う場合がある。
本実施形態では、被覆領域と非被覆領域で知覚される光沢度のギャップを低減するために、凹部との間で第1の高低差を有する第1の凸部の頂部に、第1の高低差および第2の高低差よりも小さい第3の高低差を有する微細粗面(凹凸)を配置する。さらに、凹部との間で第2の高低差を有する第2の凸部の頂部に、第1の高低差および第2の高低差よりも小さい第3の高低差を有する微細粗面(凹凸)を配置してもよい。即ち、比較的大きな高低差を有する粗面と、その粗面の凸部の頂部に設けた比較的小さい高低差を有する微細粗面の組合せによって、被覆領域と非被覆領域の境界で知覚される光沢度のギャップを低減する。
図5(A)~図5(C)は、表面パターンを構成する粗面の凹凸の高低差と光の反射特性の関係を説明するための図である。図5(A)は、粗面を構成する凹凸の高低差が小さい場合の光の反射特性を示している。同図のように粗面を構成する凹凸の高低差が小さい場合、光源51から照射された光の多くは、凹部43の底面の正反射方向および凸部42の頂部の正反射方向に反射される。照射された光のごく一部が凸部42の側面において凹部43の正反射方向とは異なる方向へと反射される。つまり、正反射方向の反射光量が多く、それ以外の方向の反射光量は比較的少なくなる。このような反射特性を持つ樹脂部品の外面は、一般に、観察者には光沢度が高いものと認識される。
一方、図5(B)は、粗面を構成する凹凸の高低差が図5(A)よりも大きい場合の光の反射特性を示している。図5(B)に示すように、凹凸の高低差が大きい場合は、光源51から照射された光は凸部41で反射され、凸部と凹部とで反射を繰り返すことで、凹部43の底面や凸部41の頂部の正反射方向とは異なる方向に反射する成分が増加する。つまり、粗面を構成する凹凸の高低差が高い場合には、正反射方向の反射光量と、正反射方向以外の反射光量との差が相対的に小さくなる傾向がある。このような反射特性を持つ樹脂部品の外面は、観察者には、図5(A)の外面より光沢度が低いものと認識される。
図5(C)に、図5(A)および図5(B)に示した粗面の反射特性をグラフ化して示す。図5(C)は、照明の位置が45度方向から照射された場合における観察角度ごとの輝度値を示しており、縦軸は、輝度の相対値、横軸は正反射角度を0度とした場合の観察角度に相当する。図5(C)において、破線52は、図5(A)のように粗面を構成する凹凸の高低差が小さく、例えば凹凸底面からの凸部の高さが10μmの場合の反射特性を示している。また、図5(C)において、破線53は、図5(B)のように粗面を構成する凹凸の高低差が大きく、例えば凹凸底面からの凸部の高さが60μmの場合の反射特性を示している。
図5(C)の破線52に示すように、例えば凹凸底面からの凸部の高さが比較的小さい10μmの場合には、正反射方向である0度の輝度値が高く、0度から離れると急激に輝度が低下する反射特性である。一方、破線53に示すように、凹凸の高さが60μmの場合には、正反射方向の0度の輝度値が凸部の高さが10μmの場合よりも小さくなり、しかも、0度から離れても輝度が低下する傾斜は凸部の高さが10μmの場合に比べて緩やかである。
つまり、正反射方向で観察した場合は、観察者には、凸部の高さが10μmの領域の方が明るく見え、正反射から例えば20度以上ずれた角度で観察した場合は、逆に凸部の高さが60μmの領域の方が明るく見える。このように観察角度による見え方の差が光沢感の差として知覚されてしまうため、被覆領域21と非被覆領域22との間に知覚上のギャップが生じ、意匠性が低下する可能性がある。
そこで、本実施形態では、被覆領域21と非被覆領域22の知覚的な光沢感の差異を低減するために、少なくとも被覆領域21の粗面の頂部(すなわち、凹凸に含まれる凸部の頂部上面)に、被覆領域21の光沢度を制御するための微細な凹凸を設ける。さらに、非被覆領域22の粗面の頂部(すなわち、凹凸に含まれる凸部の頂部上面)にも、非被覆領域22の光沢度を制御するための微細な凹凸を設けてもよい。これらの微細な凹凸を、微細粗面と呼ぶこともできる。被覆領域21および非被覆領域22のそれぞれに設けた凹凸の高低差に基づいて、非被覆領域22の粗面の頂部に微細な凹凸を配置するかしないかを選択することができる。
図6は、本実施形態における樹脂部品の外面の構造例を示している。図6の上部は、図2と同様の様式によって、外面における被覆領域61および非被覆領域62の配置例を平面図として示している。また、図6の下部左側は非被覆領域62の一部の断面構造を、図6の下部右側は被覆領域61の一部の断面構造を、それぞれ示している。
この構成では、図6の上部に示すように、樹脂部品の外面11は、ロゴ等の情報表示をホットスタンピングなどによる被覆加工で付与することが可能な被覆領域(第1の領域)61と、非被覆領域(第2の領域)62とを備えている。被覆領域61(第1の領域)は、凹部68と、凹部68から突出して成形された多数の凸部66と、から成る第1の粗面を備える。非被覆領域62(第2の領域)は、凹部68と、凹部68から突出して成形された多数の凸部65と、から成る第2の粗面を備える。被覆領域61の一部には、図6の下部右側に示すように、ホットスタンピングや塗装などの被覆加工によって被覆部Pが付与されている。この被覆部Pによって、被覆領域61内において、文字、数字、図形などの少なくとも1つの情報を表示することができる。被覆部Pが付与されている領域を第3の領域と呼ぶとすれば、第3の領域は、被覆部Pが付与されていない第1の領域と隣接している。
そして、図6の下部に示すように、被覆領域61の粗面を構成する凹凸の高低差(第1の高低差)、即ち凹部68の底面からの凸部66の頂部までの高さは、非被覆領域62の粗面を構成する凹凸の高低差(第2の高低差)と比べて小さい。
言い換えれば、非被覆領域62の粗面を構成する凹凸の高低差(第2の高低差)、即ち凹部68の底面からの凸部65の頂部まで高さは、被覆領域61の粗面を構成する凹凸の高低差(第1の高低差)と比べて大きい。
また、被覆部Pは、図6の上部において、被覆領域61の外縁を示す矩形の実線よりも内側に、実線との間に幾許かのクリアランスを残して形成される。図6の被覆領域61の内側に示す破線の矩形の範囲が被覆部Pが付与された平面の範囲であり、この破線の矩形と被覆領域61の外縁の実線の矩形の間には、凹部68および凸部66から成る第1の高低差を有する第1の粗面が被覆されずに露出している。もし、被覆領域61の断面構造が図5(A)で説明した構造であるとすれば、図6上部の実線の矩形の内外の光沢度の差異が観察者に知覚されてしまう。
そこで、本実施形態にかかる図6の下部右側の構成では、被覆領域61(第1の領域)の粗面(第1の粗面)を構成する第1の高低差を備えた凸部66の頂部が、微細粗面67を備えている。この微細粗面67には、第1の粗面における凹部68と凸部66の高低差や配列ピッチ、第2の領域における凹部68と凸部65の高低差や配列ピッチ、のいずれよりも小さな高低差や配列ピッチを有する微細な凹凸が形成されている。ここで、被覆領域61(第1の領域)に設けられた凸部66の頂部の領域内のみにおいて微細粗面67(微細凹凸構造)の算術平均高さを計測した結果を第3の高低差とする。また、凹部68および凸部65を含む第2の領域全体の算術平均高さを計測した結果を第2の高低差とする。さらに、凹部68および凸部66を含む第1の領域全体の算術平均高さを計測した結果を第1の高低差とする。すると、第3の高低差は、第2の高低差および第1の高低差のいずれよりも小さくなる。また、微細粗面67を構成する微細な凹凸の配列ピッチを計測すると、第1の粗面における凹部68と凸部66の配列ピッチ、第2の粗面における凹部68と凸部65の配列ピッチ、のいずれの計測結果よりも小さくなる。
このように、本実施形態では、被覆領域61(第1の領域)を構成する凸部の頂部に、第1の領域が有する第1の高低差より小さい第3の高低差を有する微細粗面67を設けている。これにより、非被覆領域62と、被覆領域61(特に被覆部Pが形成されず凹部68および凸部66が露出している部位)の光沢度の差異が、観察者に知覚され難くなっている。
図7(A)、図7(B)は、本実施形態における光沢の制御を説明するための図である。図7(A)に示す凸部66の形態は、図6の下部右側に示した被覆領域61に設けた凸部66と同一であり、凸部66の高さは前述の図5(A)における凸部42と同等であるものとする。また、この図7(A)の凸部66は、図6の下部右側に示したのとは異なり、被覆部Pで覆われていない状態である。すなわち、図6の上部に示した被覆領域61のうち、ロゴ等の情報表示が付与されていない部位の断面を示している。
図7(A)と図5(A)とを比較すると明らかなように、図5(A)の構造では凸部42、凹部43に照射された光が正反射方向に反射される割合が大きい。これに対して、図7(A)の構造では、光源51から凸部66へ照射された光は、凸部66の頂部に設けた微細粗面67により様々な方向に散乱する。
図5(A)の構造が、凸部42の高さが10μmとなるよう、標準的な手法である樹脂の射出成形により成形されていれば、その表面は滑らかな形状である。例えば、平滑な金型面で成形された凸部42の頂部内で算術平均高さSaを測定すると、Sa=0.1μm程度の算術平均高さ(高低差)が得られている場合が多い。
なお、ここでいう算術平均高さSaは、ISO25178で規定されるものであり、値が小さい程、表面が滑らかであり、値が大きい程、表面が粗いことを示す。ここで、図5(A)の構造で、微細粗面を持たない、凹凸の凸部42の高さが10μm、Sa=0.1μmの場合の反射特性は、図7(B)の破線71のようになる。
この図7(B)の表示様式は、図5(C)と同等であり、図7(B)の破線71の曲線は、図5(C)では、破線52の曲線に相当する。前述の通り、図5(C)の破線52の反射特性は、照射された光の多くが正反射方向に反射するため正反射の輝度が高い特徴を有する。
一方、図5(B)と同様の構造で、微細粗面を持たない、凹凸の凸部の高さが60μm、算術平均高さSaがSa=0.1μmの場合は、反射特性は図7(B)の破線72のようになる。この破線72の曲線は、図5(C)では、破線53の曲線に相当する。前述の通り、凹凸の凸部41の高さが60μmのように大きな高低差の場合は、凸部41で遮蔽された光が様々な方向に反射するため、正反射方向に反射する光の割合が低下する。
そして、図7(A)のように、凹凸の凸部66の高低差(第1の高低差)が10μmで、算術平均高さSa(第3の高低差)がSa=5.0μm程度の微細粗面67を有する構造では、その反射特性は図7(B)実線73の曲線のようになる。
ここで、前述の通り、図7(A)の凸部66は、図5(A)の凸部42と高さ(第1の高低差:10μm)は等しい。一方で、図7(A)の凸部66の頂部は、算術平均高さSa(第3の高低差)はSa=5.0μmである。微細粗面67を凸部66の頂部に備えることによって、平滑な頂部を有する図5(A)の凸部42よりも凸部66の頂部の表面粗さが粗くなっている。
即ち、図7(A)に示すように、被覆領域61(第1の領域)の粗面を構成する凸部66の頂部に微細粗面67を配置している本実施形態の場合、照射された光が様々な角度に散乱するため、正反射方向の輝度が低下する。即ち、被覆領域61(第1の領域)の凸部66の高さが10μmでも、頂部に微細粗面67を有するならば、その輝度特性(実線73)は、凸部の高さが60μmの非被覆領域62(第2の領域)の輝度特性(破線72)に極めて近い特性を示す。
以上に説明したように、本実施形態では、被覆領域61(第1の領域)において比較的小さな高低差(第1の高低差)の凹凸で構成された粗面を構成する凸部の頂部に、微細粗面67を設ける。これにより、被覆領域61(第1の領域)の中で被覆部Pが設けられていないために第1の高低差の凹凸が露出している第3の領域と、これと隣接する非被覆領域62(第2の領域)との反射特性(輝度特性)を、極めて近似した特性にすることができる。
図7(B)の実線73と破線72から、被覆部Pが設けられていないために第1の高低差の凹凸が露出している第3の領域と、これと隣接する非被覆領域62(第2の領域)とは、観察角度によらず光沢度の差異が知覚され難いことが判る。このため、観察者がいろいろな方向から観察しても、情報表示が付与された部位の周辺で意匠を構成するパターンの光沢度の変化を感じることは殆どなくなり、優れた美観と情報表示とを両立させることができる。
なお、図6、図7(A)に例示した構造において、非被覆領域62の凸部65は、凹部68から15μm以上500μm未満の程度の範囲の高低差で隆起していればよいが、特に40μm以上500μm未満であることが好ましい。これは、40μm以上の高低差を備えた凹凸による粗面(第2の領域)では、非被覆領域62の外面に指紋などの汚れが付きづらくなる防汚性を得られるためである。一方、非被覆領域62の凸部65の高低差(第2の高低差)を500μm未満程度に規制するのは、500μm以上の高低差では、粗面を構成する凹部が視認される観察角度の角度範囲が狭くなり、意匠性が低下する傾向があるためである。例えば、500μm以上の高低差を備えた粗面では、観察角度によって、知覚上の高級感が抑制される可能性がある。以上のように、非被覆領域62の凸部65の頂部と凹部68の底部の高低差(第2の高低差)は、40μm以上、500μm未満であることが好ましい。
なお、被覆領域61(第1の領域)、非被覆領域62(第2の領域)における凸部の頂部と凹部の底部の高低差は、白色干渉計などを用いて測定することができる。例えば、第1の領域および第2の領域の凹部の高さと同じ高さを有する高光沢な基準平面を樹脂部品の外部に配置しておく。これにより、高光沢な基準平面を基準として、白色干渉計を用いて低光沢部である被覆領域61(第1の領域)の頂部の高さ、非被覆領域62(第2の領域)の頂部の高さを測定することができる。この種の白色干渉計としては、例えば、ZYGO社の3次元光学プロファイラーNewView7000(商品名)を用いることができる。その場合、粗面の高低差の測定値としては、例えば10倍の対物レンズで成形品の1.0mm×1.4mmの領域を10箇所測定した値の平均値を用いることができる。
また、本明細書では、被覆領域61(第1の領域)、非被覆領域62(第2の領域)の反射特性は、JIS Z 8741の反射角60°の鏡面光沢度(60度鏡面光沢度)に基づく光沢計を用いて測定した値を用いて評価した。この場合、例えば、日本電色工業株式会社製のハンディ型光沢計PG-1M(商品名:アパーチャ1X1CM)を反射角60°に設定し、光沢計の測光部を成形品の光沢部に当てて測定スイッチを押すことで測定を行う。そして、この測定で得た値により、微細粗面67を凸部の頂部に配置した被覆領域61(第1の領域)と、非被覆領域62(第2の領域)の60度鏡面光沢度を測定できる。
このように測定した60度鏡面光沢度を用いて、被覆領域61(第1の領域)の第1の高低差、非被覆領域62(第2の領域)の第2の高低差、さらに、第1の領域の凸部の頂部に配置する微細粗面67の第3の高低差(算術平均高さSa)を決定できる。
例えば、上記の高低差に種々の値を設定して、外面を粗面で構成した樹脂部品の60度鏡面光沢度を測定する。そして、例えば、凸部の頂部に微細粗面67を有する被覆領域61(第1の領域)と、非被覆領域62(第2の領域)の60度鏡面光沢度の差異が、10以内の範囲に収まるように上記各粗面の高低差、凹凸のピッチなどを選択する。
本実施形態のように、被覆領域61(第1の領域)を構成する凸部の頂部に微細粗面67を配置すれば、被覆領域61(第1の領域)と非被覆領域62(第2の領域)の60度鏡面光沢度の差異を10以下に収めることは比較的容易である。そして、この60度鏡面光沢度の差異が10以下である被覆領域61(第1の領域)と、非被覆領域62(第2の領域)とでは、観察者に知覚上の光沢度のギャップをほぼ感じさせないで済む。
また、被覆領域61では、凸部66と微細粗面67との高低差の和(第1の高低差と第3の高低差の和)が15μm未満の範囲で成形されていることが好ましい。本発明者らの実験によると、被覆領域61(第1の領域)を構成する凹凸が有する第1の高低差を15μm以下の凹凸とすれば、転写や定着に影響を及ぼすことなく、ホットスタンピング等の被覆加工を行って被覆部Pを形成できることが判明した。以上のような構造により、被覆領域61の凸部66と微細粗面67を、第1の高低差と第3の高低差の和が15μm未満となるよう造形しておくことにより、ホットスタンプなどの被覆加工の加工性を良好に得られる。しかも、図7(B)を参照して説明したように、非被覆領域62(第2の領域)と、被覆部Pが形成されていない被覆領域61すなわち第3の領域とで、観察者に知覚されるマクロ光沢の相違を抑制することができる、という優れた効果がある。
なお、後述の手法で製造される金型により製造される樹脂部品の樹脂としては、例えばABSやHIPS(ハイインパクトポリスチレン)などが考えられるが、特に樹脂の組成や名称によって本発明が限定されるものではないのはいうまでもない。
次に、上記のような、本実施形態に係る樹脂部品を製造するための金型の加工の手法の一例につき説明する。本実施形態の樹脂部品は、金型に形成されたキャビティにゲートから樹脂を射出充填することにより成形することができる。そして、金型のキャビティを形成する面に形成された形状を樹脂に転写して樹脂部品を製造する。
図8は、本実施形態に係わる金型を加工するためのマシニングセンタを示している。図8のマシニングセンタ80は、加工機本体81と、制御装置82と、を備えている。なお、マシニングセンタ80により加工される金型のキャビティは、金型の一部を構成する複数の駒(キャビティ駒と呼ばれることもある)によって形成されていてもよい。キャビティを駒によって形成すると、複雑な形状の成形品であっても、転写面を分割して加工することができるため、金型の製造コストを削減することができる。
加工機本体81は、加工対象物である金型(キャビティ駒)83に切削加工を施して、金型を製造するものである。加工機本体81は、切削工具84を支持する主軸であるスピンドル85、Xステージ86、Yステージ87およびZステージ88を有する。
切削工具84には、エンドミルを好適に用いることができる。スピンドル85は、切削工具84をZ軸まわりに回転させる。Zステージ88は、スピンドル85を支持し、切削工具84を、金型83に対してZ方向に移動させる。同様に、Xステージ86は、金型83に対して切削工具84をX方向に、Yステージ87は、Y方向に移動させる。このような構成により、加工機本体81は、切削工具84を回転させながら、切削工具84の先端を金型83に対して相対的にXYZ方向に移動させることができる。
制御装置82は、CPUおよびメモリ等を有するコンピュータで構成され、加工機本体81をNCデータ89に従って制御する。NCデータ89には、X方向の移動量、Y方向の移動量、Z方向の移動量、主軸の回転速度、X方向の送り速度、Y方向の送り速度、Z方向の移動速度などの切削加工で使用する各種の指令が含まれている。NCデータ89を用いた制御装置82の制御により、切削工具84を回転させながら金型83に対して相対的に移動させることができ、金型83にNCデータ89に基づく三次元形状を切削加工することができる。
図9(A)は、金型83を製造する第1の加工工程を、また、図9(B)は第2の加工工程を示している。また、図10(A)、図10(B)は、金型83を製造する第3の加工工程を示している。
まず、図9(A)に示す第1の加工工程では、金型83の表面91を荒加工する。図8に示すマシニングセンタに切削工具としてラジアスエンドミル92を用い、ラジアスエンドミル92を回転させながら切り込み走査を行ことにより金型83の表面(面)91を切削する。その際、表面(面)91を第2の加工工程で平滑にするときの手間を省くため、第1の加工工程で平面度が3μm以下程度に加工することが好ましい。
図9(B)の第2の加工工程では、金型83の表面91を回転式研磨工具93とダイヤモンドペーストを使って鏡面加工する。ここで、第3の加工工程で凹部101および103を加工した時に、凹部101および103の深さに差が出ないよう、第2の加工工程で表面91の平面度を1μm以下程度に加工することが好ましい。この表面(面)91に形成された形状が、樹脂に転写され、樹脂部品においては、図4に示す凹部43の底面、あるいは、図6に示す凹部68の底面となる。
第3の加工工程では、図10(A)、図10(B)に示すように、金型83の母材の表面91にボールエンドミル102を使って加工を行う。ここで、射出成形により樹脂部品に転写された際に、上述の非被覆領域62となる金型領域の加工が図10(A)、被覆領域61となる金型領域の加工が図10(B)に相当する。
図10(A)に示すように、非被覆領域62に相当する金型の加工では、まず、ボールエンドミル102を回転させながら切り込み走査させ、窪んだ第1の深さの凹部101を形成する。凹部101が形成された領域は、樹脂部品に転写されると凸部65となる領域で、その深さは、上記の非被覆領域62(第2の領域)を構成する凸部の第2の高さにほぼ相当する大きさである。
一方、被覆領域61に相当する金型の加工は、図10(B)に示すように行う。この被覆領域61に相当する加工では、まず、ボールエンドミル102を回転させながら切り込み走査させ、第1の深さの凹部101よりも浅い第2の深さの凹部103を形成する。凹部103が形成された領域は、樹脂部品に転写されると凸部66となる領域で、その深さは、上記の被覆領域61(第1の領域)を構成する凸部の第1の高さにほぼ相当する大きさである。
さらに、ボールエンドミル102を切り込み走査させ、凹部103の底部に、第2の深さより浅い第3の深さの凹部104を複数形成する。この複数の凹部104は、上記の微細粗面67を構成する凸部の第3の高さにほぼ相当する大きさに切削される。この場合、必要なら凹部103の切削の時とは異なる刃径を有するボールエンドミル102に刃物を交換してもよい。
上記の加工の対象である金型83の材料としては、加工性や射出成形の耐久性の観点からステンレス鋼などが好適であるが、金型の材料は任意であり、真鍮や鋼材、その他の任意の材料を用いてよい。
以下では、実施例1~実施例4として、上記のような基本構成を有する被覆領域61、非被覆領域62を備えた樹脂部品の種々に異なる構成あるいはその製造手法につき説明する。
<実施例1>
図11は、本実施例1に係わる樹脂部品の外面の構成を示しており、特に、図11の上部は平面方向の高さ分布を示している。同図に示すように、実施例1の樹脂部品では、板状の厚さ1.6mmの樹脂部品1100にヘアライン模様の凹凸パターンを成形した。このヘアライン模様の凸部の幅は0.5mm、凹部の幅は0.5mmとした。
さらに、図11の樹脂部品1100には、非被覆領域1101、被覆領域1102が配置されている。例えば、図11の下部左側は、非被覆領域1101の破線で示した範囲の断面を、また、図11の下部右側は、被覆領域1102の破線で示した範囲の断面を示す。図11の下部左側のように、非被覆領域1101(第2の領域)では、凹部1108と凸部1105から成る粗面の高低差(第2の高低差)は60μmとした。また、図11の下部右側のように、被覆領域1102(第1の領域)では、凹部1108と凸部1106から成る粗面(第1の粗面)の高低差(第1の高低差)は10μmとした。
さらに、図11の下部右側のように、被覆領域1102では、非被覆領域1101と光沢度の値がほぼ等しいか、近接した値に近付くよう、凸部1106の頂部に高低差5μm(第3の高低差)を有する微細粗面1107を成形する。この微細粗面1107の凹凸分布などの条件は、例えば下記のように非被覆領域1101の光沢度を基準として決定することができる。
例えば、上記構成における非被覆領域1101の光沢値として、60度鏡面光沢度を測定したところ、60度鏡面光沢度=50であった。なお、60度鏡面光沢度の測定には上記同様の日本電色工業株式会社製のハンディ型光沢計PG-1Mを使用した。
さらに、被覆領域1102のヘアラインの凸部上面に微細凹凸中の凸部の割合(面積ないし幅の比)を種々変更して成形し、光沢度を測定し、その光沢度測定値が概ね50となる割合を求める。その結果、例えば算術平均高さSa(第3の高低差)がSa=5.0μmの場合は、微細粗面1107の凸部の割合が80%のとき、光沢度として概ね50が得られた。従って、微細粗面1107は、算術平均高さSa(第3の高低差)がSa=5.0μmの場合は、ヘアライン凹凸の凸部1106の上面に単位面積当たりの凸部の割合が例えば80%となるような凹凸分布で造形するのが好ましい。
樹脂部品1100を造形するための金型の材料にはステンレスを使用する。金型の加工は、図8、図9、図10で説明した手法と同様に実行する。例えば、図8に示すマシニングセンタ80にラジアスエンドミル92を取り付けて金型83の荒加工を行い(図9(A))、回転式研磨工具93とダイヤモンドペーストを用いて金型83の表面91に鏡面加工を施す(図9(B))。その後、ボールエンドミル102を用いて、樹脂部品1100の反転形状を金型(83)に加工する(図10(A)、(B))。その後、製造した金型(83)を用いて射出成形を行い、樹脂部品1100を得ることができる。射出成形に用いた樹脂材料には例えば黒色のHIPSを用いることができる。
以上のようにして成形された樹脂部品1100の外面について、平均的な視力の観察者が目視により確認するテストを行った。その結果、視角度によっては、被覆領域と非被覆領域の凸部の高さの相違によるギャップはかすかに知覚されたが、従来構成による樹脂部品と比較して、被覆領域と非被覆領域との間の光沢の知覚的な差異が良好に軽減されていることが確認された。
<実施例2>
以上では、樹脂部品外面の被覆領域と非被覆領域との光沢度の相違を低減するための基本構成について示した。以上までに示した構成によると樹脂部品外面の光沢度の相違は低減されたが、凹凸の高さの相違は視角度によっては視認される場合があった。本実施例2では、樹脂部品外面の被覆領域と非被覆領域において、凹凸の高低差の相違も目立たなくなるよう、凹凸の高低差を段階的に小さくする構成例を示す。また、本実施例では、被覆領域(第1の領域)を構成する第1の粗面のみならず、非被覆領域(第2の領域)を構成する第2の粗面にも微細粗面を設ける構造を示す。
図12(A)~図12(E)は、本実施例2に係わる樹脂部品1200の外面の構成を説明するための図である。図12(A)にパターンを模式的に示す樹脂部品1200においては、外面の被覆領域と非被覆領域を構成する粗面は、例えばヘアライン模様で構成している。図12(A)は樹脂部品1200の外面の高さ分布を示している。図12(A)の構成では、非被覆領域1201(第2の領域)においては、被覆領域1204に向かうにつれて粗面を構成する凸部の高さ(第2の高低差)が段階的に減少するよう構成されている。即ち、非被覆領域1201は、被覆領域1204に向かって粗面を構成する凸部の高さ(第2の高低差)が段階的に減少する遷移領域1202、遷移領域1203を有する。
また、図12(B)は遷移領域ではない非被覆領域1201の断面構造、図12(C)は遷移領域1202の断面構造、図12(D)は遷移領域1203の断面構造、図12(E)は被覆領域1204の断面構造をそれぞれ凸部の寸法例とともに示している。
図12(B)に示すように、遷移領域でない最外周の非被覆領域1201の粗面を構成する凸部の高さは60μmとする。この外周部の粗面を構成する凸部の頂部には、微細粗面は設けなくてよい。また、図12(E)に示すように、被覆領域1204の粗面(第1の粗面)を構成する凸部66の凹部1214からの高さ(第1の高低差)は、10μmとする。
また、遷移領域1202、遷移領域1203の幅は、例えば20mm程度とする。また、図12(C)、図12(D)に示すように、遷移領域でない(最外周の)非被覆領域から被覆領域に20mm近づくごとに、粗面を構成する凸部の高さが40μm、25μmと段階的に減少する構造とする。
例えば、遷移領域1202は、図12(C)に示すように高さ40μmの凸部1210、さらに凸部1210の上に成形された高さ5μmの微細粗面1212および凹部1214とで構成されている。また、遷移領域1203は、図12(D)に示すように高さ25μmの凸部1211と、凸部1211の上に成形された高さ5μmの微細粗面1213および凹部1214とで構成されている。
以上のような各粗面の寸法構成は、次に示すような試作、および光沢度評価によって決定することができる。例えば、遷移領域でない非被覆領域1201の60度光沢度が50である場合、微細粗面1212、微細粗面1213のベースであるヘアラインの凸部の高さや凹凸分布を求める。その場合、例えばヘアライン凹凸の各高さに対して、凸部の上面に微細凹凸の割合を変えて成形し、概ね光沢度が50となる組合せを求めることができる。例えば、光沢度が50を得られる被覆領域1204の凸部の高低差(第2の高低差)と、微細凹凸の算術平均高さSa(第3の高低差)と、微細凹凸における凸部の割合と、の組合せの一例を表1に示す。
表1において、ヘアラインの凸部の高さが40μmの場合、光沢度が50を得るには、微細凹凸における凸部の割合30%、微細凹凸の算術平均高さSa=1.5μmの組合せが適している。また、ヘアラインの凸部の高さが25μmの場合、光沢度が50を得るには、微細凹凸における凸部の割合は50%、微細凹凸の算術平均高さSa=2.2μmの組合せが適している。また、被覆領域1204におけるように、ヘアラインの凸部の高さが10μmの場合、光沢度が50を得るには、微細凹凸における凸部の割合は80%、微細凹凸の算術平均高さSa=5.0μmの組合せが適している。この結果に従うと、微細粗面1212および、1213は、例えば、単位面積当たりの微細凹凸における凸部の割合がそれぞれ30%、50%となるように成形する。
図12の樹脂部品1200を造形するための金型の加工は、図8~図10(B)を参照して説明した手法と同様に実行すればよく、ここではこれ以上の重複した説明は省略する。
本実施例2においても、同様に樹脂部品1200の外面について、平均的な視力の観察者が目視により確認するテストを行った。その結果、実施例1の効果に加え、さらに境界部の高さの差が目立ちにくくなる効果があることが確認できた。これは、非被覆領域1201の最外周と被覆領域1204の間に、凸部の高さが段階的に減少する遷移領域1202、遷移領域1203を設けたことによるものである。
<実施例3>
図13は、本実施例3に係わる樹脂部品1300の外面の構成を示している。本実施例3に係わる樹脂部品1300では、ヘアラインの凹部と凸部の幅、各領域の凹凸の高低差の配置は、実施例2と同様である。実施例2と異なるのは、図13の遷移領域でない(最外周の)非被覆領域1301、遷移領域13021、遷移領域13022、被覆領域1303の高低差の変化が方向性を持っている点である。
図13の遷移領域でない非被覆領域1301、遷移領域13021、遷移領域13022、被覆領域1303は、それぞれ図12の遷移領域でない非被覆領域1201、遷移領域1202、遷移領域1203、被覆領域1204に相当する。
また、遷移領域でない非被覆領域1301、遷移領域13021、遷移領域13022、被覆領域1303の粗面を構成する凸部の高低差の変化も図12と同様で、60μm、40μm、25μm、10μmと変化させる。
しかしながら、本実施例3では、ヘアラインを構成する凸条ないし凹条と平行な方向には粗面の高低差の変化を変化させない。例えば、ヘアラインの凸条ないし凹条の向きと、例えば垂直に交差する方向に高低差を60μm、40μm、25μm、10μmと変化させる。
ヘアラインと平行な方向には粗面の高低差の変化を変化させない理由のひとつは、ヘアラインを構成する凸条ないし凹条のように同じ構造が隣接ないし連続している箇所(方向)では高低差の変化が視認されやすい点にある。逆に、同じ構造が隣接ないし連続しておらず、例えば間の凹条によって隔離された凸条どうしのように不連続となっている部位(方向)では高低差の変化が視認されにくい、と考えてよい。
そこで本実施例3では、遷移領域でない非被覆領域1301、遷移領域13021、遷移領域13022、被覆領域1303の粗面では、ヘアラインに平行な方向(図13の左右方向)に対しては、高低差を変化させない。また、凹条と凸条とが交互に現れる、ヘアラインと交差する方向(図13の上下方向)に凸部(凸条)の高低差を遷移領域13021、遷移領域13022と段階的に変化させる図13に示す構造とした。
図13の樹脂部品1300を造形するための金型の加工は、図8~図10(B)を参照して説明した手法と同様に実行すればよく、ここではこれ以上の重複した説明は省略する。
本実施例3においても、同様に樹脂部品1300の外面について、平均的な視力の観察者が目視により確認するテストを行った。本実施形例3では、同じ高低差(第1、第2の高低差)を持つ第1、第2の領域で構成された各領域(1301、13021、13022、1303)は、粗面を構成するヘアラインの長手方向(図13の左右方向)の全長に渡る大きさを持つことになる。しかしながら、各領域(1301、13021、13022、1303)の粗面を構成するヘアラインの凸条(突条)は全長に渡り、高低差を変化させない。そのため、ヘアラインと平行な方向に関する高低差の違和感は、実施例2よりも目立ちにくくなる効果がある。
<実施例4>
実施例1から実施例3では、樹脂部品の外面の粗面を周期的に凹、凸条が配置されたヘアライン模様で構成する例を示した。しかしながら、本発明の構成は、実施例4に示すような樹脂部品の外面を、図3(B)に示したようなシボ模様で構成された粗面で構成する場合にも適用することができる。このシボ模様は、凹凸の高さに応じてマクロ光沢が変化する、1mm未満のサイズのランダム凹凸によって構成される。このシボ模様は、例えば、図3(B)に示すように、異なる大きさの凹凸がランダムに配置されたいわゆるシボ模様である。
図14(A)~図14(E)は、本実施例4に係わる樹脂部品1400の外面の構成を説明するための図である。図14(A)に平面視したパターンを模式的に示す樹脂部品1400の外面の被覆領域と非被覆領域を構成する粗面は、シボ模様で構成している。図14(A)は樹脂部品1400の外面の高さ分布を示している。本実施例では、非被覆領域1401は、被覆領域1404に向かうにつれて粗面(第2の領域)を構成する凸部の高さ(第2の高低差)が段階的に減少するよう構成されている。即ち、遷移領域でない非被覆領域1401から被覆領域1404に向かって粗面(第2の領域)を構成する凸部の高さ(第2の高低差)が段階的に減少する遷移領域1402、遷移領域1403を有する。
また、図14(B)は遷移領域でない非被覆領域1401の断面構造、図14(C)は遷移領域1402の断面構造、図14(D)は遷移領域1403の断面構造、図14(E)は被覆領域1404の断面構造をそれぞれ凸部の寸法例とともに示している。これらの各領域(1401~1404)の高低差は、図12(A)の場合と同様に、60μm、40μm、25μm、10μmに取られている。なお、この高低差は、シボ模様を構成する凸部の高低差の最大値や、算術平均高さSaによって評価するものであってよい。
また、最外周の遷移領域でない非被覆領域1401を除いて、遷移領域1402、遷移領域1403および被覆領域1404は、粗面を構成する凸部の頂部に、図14(C)から図14(E)に示す微細粗面1413から微細粗面1415を有している。たとえば、微細粗面1413の高低差は、各領域の60度光沢度が、下記の微細粗面の設定によって、好ましくはほぼ50で等しく、あるいは最大でも60度光沢度の差が10以下になるよう決定されている。
実施例4においても、光沢度は次のような寸法ないし数値の組合せによって選択できる。即ち、これらは、微細粗面が設けられた第1の粗面の第1の高低差と、第2の粗面の第2の高低差と、微細粗面における微細凸部の第3の高低差と、微細粗面を構成する凸部の割合と、の組合せである。しかしながら、上述のヘアライン構造(模様、パターン)とは異なり、各領域(1401~1404)の凹凸の分布や凹部、凸部の高低差は、よりランダムである。シボ自体の構造が上記のようにランダムであるため、実施例2(図12、表1)とは異なる寸法構成が選択される。
各粗面の寸法構成は、次に示すような試作、および光沢度評価によって決定することができる。例えば、遷移領域でない非被覆領域1401の60度光沢度が50である場合、微細粗面1414、微細粗面1413のシボの凸部の高さや凹凸分布を求める。その場合、例えばシボの凹凸の各高さに対して、凸部の上面に微細凹凸の割合を変えて成形し、概ね光沢度が50となる組合せを求めることができる。例えば、光沢度が50を得られるシボの凸部の高低差(第1の高低差、第2の高低差)、微細凹凸の算術平均高さSa(第3の高低差)、微細凹凸における微細凸部の割合、の組合せの一例を表2に示す。
表2において、光沢度として50を得るには、シボの凸部の高さが40μmの場合、微細凹凸における微細凸部の割合20%、微細凹凸の算術平均高さSa=1.1μmの組合せが適している。また、シボの凸部の高さが25μmの場合、光沢度として50を得るには、微細凹凸における微細凸部の割合40%、微細凹凸の算術平均高さSa=1.9μmの組合せが適している。また、被覆領域1404では、シボの凸部の高さが10μmの場合、光沢度として50を得るには、微細凹凸における微細凸部の割合は80%、微細凹凸の算術平均高さSa=5.0μmの組合せが選ばれている。この結果に従うと、微細粗面1413および1414は、例えば、単位面積当たりの微細凹凸における微細凸部の割合がそれぞれ20%、40%となるように成形する。
図14の樹脂部品1400を造形するための金型の加工は、図8、図9、図10で説明した手法と同様に実行すればよく、ここではこれ以上の重複した説明は省略する。
本実施例4においても、作成した樹脂部品1400の外面について、平均的な視力の観察者が目視により確認するテストを行った。その結果、実施例2と同様に、境界部の高さの差が目立ちにくくなる効果があることが確認できた。これは、非被覆領域1401の、最外周と、内周の被覆領域1404の間に粗面(第2の領域)を構成する凸部の高さ(第2の高低差)が段階的に減少する遷移領域1402、1403を設けた構造によるものである。
<変形例など>
上述の説明では、樹脂部品外面の粗面を構成する遮蔽の少ない凸部の頂部で光沢度を主に抑制する微細粗面を成形する構成を示した。しかしながら、例えば、この微細粗面を形成する部位は、粗面を構成する凹部の底部であってもよいし、粗面を構成する凹部と凸部の両方に微細粗面を成形してもよい。また、以上では、金型の表面を切削することにより、樹脂部品に「凸部」を転写する金型面を作成する例を示した。これとは逆に、金型の表面に肉盛り加工を行えば、樹脂部品に「凹部」を転写する金型面を作成することができる。もし、微細粗面(凹凸)を備えた凹部を転写する金型面を作成する場合には、この金型の肉盛り加工の手法を利用することができる。
前記実施例においては、光沢度として60度光沢度を用いたがこれに限るものではない。例えば、JIS K7374で定められる写像性(像鮮明度)を用いたり、適当な角度で測定した光沢度を併用したりする構成であってもよい。または、非被覆領域、遷移領域、被覆領域ごとに変角分光測色器を用いて測定を行い、得られたCIELab値に基づいて、同一角度θごとに領域間の色差ΔEθを用いることが考えられる。その場合、例えば色差ΔEθが所定の値以下となるように設定すればよい。
また、以上では、被覆加工として、ホットスタンピングを行う樹脂部品を例示した。しかしながら、数字、文字や図形、ロゴなどのための被覆加工は、ホットスタンプの他、印刷、塗装、ないしシールやステッカなどの情報担持部材の貼付など、任意の手法によって行うことができる。また、樹脂部品の成形時の融着不良によって樹脂部品の外観の光沢差が変化するいわゆるウェルドラインなどの成形不良に対して、光沢の差異を低減するなどの目的で、本発明の手法を適用することも考えられる。
上述の実施形態、実施例では、樹脂部品に係る金型を、同一切削工具を用いた切削加工により加工していたが、金型の加工方法はこれに限定されない。例えば、凸部のパターンにはR径の大きい工具を用い、微細粗面はR径の小さい工具を用いる、といった使い分けを行うようにしてもよい。また、レーザー加工機等、他の加工方法を用いて金型を製造しても良い。さらに、本発明の樹脂部品の製造には金型を用いなくても良い。例えば、樹脂を使用した3Dプリンタ等を用いて、図11から図14のような樹脂部品を直接製造しても良いことはいうまでもない。