以下に、本発明に係る鋼管端部の加工装置、鋼管端部の加工方法、及び、鋼管の製造方法の一実施形態について説明する。なお、本実施形態により本発明が限定されるものではない。
図1は、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100の側面図である。図2は、鋼管端部1EPの管軸方向の横断面から見た図であって、図1のA-A矢視図である。
本実施形態において、鋼管端部1EPとは、鋼管1の一方の端部を表し、鋼管1の管端から管軸方向に沿って管外径Dの2倍程度の距離までの範囲をさす。実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、このような鋼管端部1EPに対して、その全範囲または一部の範囲に対して真円度を向上させるための加工を行う装置である。また、本実施形態において、鋼管1の管端とは、鋼管端部1EPの最端部を指すものとする。
図1及び図2に示すように、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、鋼管1を鋼管端部1EPの外周面1oに接して下方から支持する2本の支持ロール2a,2bと、2本の支持ロール2a,2bの中間位置で鋼管端部1EPの内周面1i側から鋼管端部1EPに押し込みを与える1本の内面押し込みロール3と、鋼管端部1EPの外周面1oに接して上方から鋼管端部1EPに押し込みを与える2本の外面押し込みロール4a,4bと、鋼管1を回転させる回転駆動手段である回転駆動部6とを備えている。
支持ロール2a,2bと、内面押し込みロール3と、外面押し込みロール4a,4bとは、鋼管1の管軸方向に平行に配置され、それぞれの軸心に対して回転可能な構造を備えている。また、図1に示すロール支持部5には、内面押し込みロール3を支持し、内面押し込みロール3を上下方向に移動させる内面押し込み部8と、外面押し込みロール4a,4bを支持し、外面押し込みロール4a,4bを上下方向に移動させる外面押し込み部9とを備える。なお、支持ロール2a,2bは、ロール支持部5によって支持されていてもよいが、ロール支持部5とは分離して工場床等に直接設置されていてもよい。
支持ロール2a,2bは、鋼管1の鋼管端部1EPを支持するロールである。支持ロール2a,2bは、鋼管1を全体として支持する必要はなく、鋼管端部1EPが水平に保持されるように鋼管端部1EPを支持するものでよい。その場合、図1に示すように、鋼管支持部7によって鋼管1を全体として支持する。鋼管支持部7は、支持ロール2a,2bと同様の1対のロールによって鋼管1を回転可能に支持するのが好ましい。
支持ロール2a,2bは、図1に示すように、鋼管1の一方の管端から管軸方向に一定の長さLSの範囲で鋼管端部1EPに接するように配置される。支持ロール2a,2bが鋼管端部1EPを支持する長さLSは、鋼管1の管外径Dに対して0.2D以上の範囲であるのが好ましく、より好ましく1.0D以上の範囲である。さらに好ましくは、鋼管端部1EPの全体を支持する2.0D以上である。鋼管端部1EPを確実に支持するためである。
内面押し込みロール3は、図2に示すように、管軸方向と直交する支持ロール2a,2bの並び方向(水平方向)で、支持ロール2aの回転中心O2aと支持ロール2bの回転中心O2bとの間の中間位置に、内面押し込みロール3の回転中心O3が位置するように配置されており、鋼管1の内周面1i側から鋼管端部1EPに下方へ押し込みを与える。なお、支持ロール2a,2bの中間位置とは、内面押し込みロール3の回転中心O3の水平方向における位置が、2本の支持ロール2a,2bの回転中心O2a,O2bの水平方向の位置の中間にあることを意味する。
外面押し込みロール4a,4bは、図2に示すように、鋼管端部1EPの外周面1oに接して上方から鋼管端部1EPに押し込みを与えるように配置されている。なお、鋼管端部1EPの上方とは、少なくとも鋼管端部1EPの回転中心O1を通る水平方向に延びる直線L1よりも高さ方向で上側を意味する。また、外面押し込みロール4a,4bが、鋼管端部1EPの外周面1oと接する位置については後述する。
実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、鋼管端部1EPの所定の範囲で加工を行うよう、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの位置が設定される。
図1に示すように、内面押し込みロール3が鋼管1の管端から管軸方向に沿って鋼管端部1EPの内周面1iに接する長さLIは、鋼管1の管外径Dに対して0.2D以上の範囲であるのが好ましく、より好ましくは1.0D以上の範囲である。また、長さLIは、支持ロール2a,2bによる鋼管端部1EPの支持長さLSと同じか、その支持長さLSよりも大きくするのが好ましい。内面押し込みロール3による鋼管端部1EPへの曲げ変形を効果的に付与するためである。
一方、図1に示すように、外面押し込みロール4a,4bが鋼管端部1EPの管軸方向に沿って鋼管端部1EPの外周面1oに接する長さLOは、鋼管1の管外径Dに対して0.2D以上の範囲であるのが好ましく、より好ましくは1.0D以上の範囲である。また、長さLOは、内面押し込みロール3が鋼管1の管端から管軸方向に沿って鋼管端部1EPの内周面1iに接する長さ(内面押し込みロール3が鋼管1の内周面1i側で鋼管端部1EPに押し込みを与える長さ)LIと同じか、その長さLIよりも大きくするのが好ましい。内面押し込みロール3の押し込みによって曲げ変形を付与する鋼管端部1EPの範囲に対して、外面押し込みロール4a,4bにより効果的な曲げ戻し変形を付与するためである。
ただし、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとが、鋼管端部1EPの管端から管軸方向に接する長さLI,LOは、任意に設定できることが好ましい。その場合、鋼管支持部7に対して鋼管1を管軸方向に移動させて、鋼管端部1EPの位置調整を可能とする機構を用いることができる。また、ロール支持部5が、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bと共に鋼管1の管軸方向に移動させることができるように、ロール支持部5を軌道上に設置して、ロール支持部5の位置調整ができる構造としてもよい。
実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、図1に示すように、鋼管1を回転させる回転駆動部6を備えている。本実施形態においては、支持ロール2aを駆動ロールとして、回転駆動部6によって支持ロール2aを回転駆動させることにより、鋼管1を回転させる。
なお、回転駆動部6としては、支持ロール2a,2b、内面押し込みロール3、及び、外面押し込みロール4a,4bの少なくともいずれかのロールを、駆動ロールとして回転駆動させることによって、鋼管1を回転させる方式を採用してもよい。この場合の回転駆動部6は、回転駆動させる駆動ロールの軸端部を、必要に応じて減速機を介して駆動用電動機と接続し、駆動用電動機の出力を制御することにより駆動ロールの回転を制御する方式を用いることができる。また、回転駆動部6によって回転駆動させるロールとしては、支持ロール2a,2bのどちらか一方または両方を駆動ロールとして選択し、鋼管1を回転させるようにするのが好ましい。これは、鋼管1の自重により鋼管1を回転させるための摩擦力が大きくなり、駆動ロールと鋼管1との間でスリップが生じるのを抑制して、安定した鋼管1の回転を実現しやすいからである。ただし、回転駆動部6は、鋼管支持部7を構成するロールを回転させる機構であってもよく、あるいは、鋼管1を直接挟持する機構を用いて、鋼管1を回転させる方式であってもよい。
なお、図1は、鋼管1の管軸方向で一方の管端部に対する鋼管端部1EPの加工装置100を示したものであるが、鋼管1の管軸方向で他方の端部に対しても、同様の加工装置100を配置してもよい。
図3は、ロール支持部5における内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの支持機構と、押し込み量の調整機構との一例を説明するための図である。図4は、ロール支持部5における内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの支持機構と、押し込み量の調整機構との他例を説明するための図である。
内面押し込みロール3は、一方の端部が不図示の軸受部によって支持されており、その軸受部が内面ロールチョック10に保持される構造となる。これにより、内面押し込みロール3は片持ち式でロール支持部5に支持されている。ロール支持部5には、内面押し込みロール3が上下方向に移動可能なように、ロール支持部5のハウジング51における内面側に不図示のガイド部を備えている。
さらに、ロール支持部5には、内面押し込みロール3による鋼管端部1EPへの押し込み量を変更するための内面押し込み部8と、内面押し込みロール3の上下方向の位置を検出する内面押し込み位置検出器12とが設けられている。
図3に示す例では、ハウジング51が2本の支柱に固定されたハウジング梁52を備えている。内面押し込み部8はハウジング梁52に固定されており、内面押し込み部8によって内面押し込みロール3を上下方向に移動させることが可能な構造となっている。
一方、図4に示す例では、内面押し込み部8がハウジング51の下部に固定された内面押し込み部8によって、内面押し込みロール3を上下方向に移動させることが可能な構造となる。
図3及び図4のいずれの構造の場合にも、内面押し込み部8は、油圧式、空圧式、及び、電動機式などの駆動源を用いて、内面ロールチョック10の上下方向の位置を変化させることにより、内面押し込みロール3を上下方向に移動させるように構成される。
内面押し込み位置検出器12は、接触式または非接触式の変位センサによって、内面ロールチョック10を保持するハウジング51に対する内面押し込みロール3の相対変位を測定する装置である。ただし、ハウジング51以外の固定構造物として、支持ロール2aまたは支持ロール2bと、内面押し込みロール3との相対変位を測定するようにしてもよい。
また、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、内面押し込みロール3の鋼管端部1EPへの押し込み量を制御する内面押し込み制御手段である内面押し込み制御部13を備えている。内面押し込み制御部13は、内面押し込み位置検出器12が検出した内面押し込みロール3の位置情報に基づいて、内面押し込みロール3の押し込み量が所定の値となるように内面押し込み部8の制御を行う。
外面押し込みロール4a,4bは、それぞれの端部が不図示の軸受部によって支持されており、その軸受部が外面ロールチョック11に保持される構造となっている。これにより、外面押し込みロール4a,4bは、それぞれが片持ち式でロール支持部5に支持される。また、ロール支持部5には、外面押し込みロール4a,4bが上下方向に移動することが可能なように、ロール支持部5のハウジング51における内面側に不図示のガイド部を備えている。
さらに、ロール支持部5には、外面押し込みロール4a,4bによる鋼管端部1EPへの押し込み量を変更するための外面押し込み部9と、外面押し込みロール4a,4bの上下方向の位置を検出する外面押し込み位置検出器14とを備えている。
外面押し込み部9は、油圧式、空圧式、及び、電動機式などの駆動源を用いて外面ロールチョック11の上下方向の位置を変化させることによって、外面押し込みロール4a,4bを上下方向に移動させる装置である。
外面押し込み位置検出器14は、接触式または非接触式の変位センサによって、外面ロールチョック11を保持するハウジング51に対する外面押し込みロール4a,4bの相対変位を測定する装置である。ただし、ハウジング51以外の固定構造物として、支持ロール2aまたは支持ロール2bと、外面押し込みロール4a,4bとの相対変位を測定するようにしてもよい。
また、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、外面押し込みロール4a,4bの鋼管端部1EPへの押し込み量を制御する外面押し込み制御手段である外面押し込み制御部15を備えている。外面押し込み制御部15は、外面押し込み位置検出器14が検出した外面押し込みロール4a,4bの位置情報に基づいて、外面押し込みロール4a,4bの押し込み量が所定の値になるように外面押し込み部9の制御を行う。
なお、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、外面押し込みロール4a,4bをそれぞれ保持する2つの外面ロールチョック11と、2つの外面ロールチョック11のそれぞれを上下方向に移動させることが可能な外面押し込み部9と、外面押し込みロール4a,4bの位置情報を検出する外面押し込み位置検出器14とを備え、外面押し込み制御部15によって外面押し込みロール4a,4bの押し込み量を、それぞれ制御するように構成してもよい。
また、内面押し込み部8は、内面押し込みロール3を上下方向に移動させることが可能な構造であればよく、内面押し込み部8によって押し込みを付与する方向と、内面押し込みロール3の移動方向とが必ずしも平行である必要はない。これは、例えば、内面押し込み部8としてカム機構を利用した構造とする場合には、内面押し込み部8が押し込みを付与する方向と、内面押し込みロール3の移動方向とが平行とはならないからである。
同様に、外面押し込み部9は、外面押し込みロール4a,4bを上下方向に移動させることが可能な構造であればよく、外面押し込み部9によって押し込みを付与する方向と、外面押し込みロール4a,4bの移動方向とが必ずしも平行である必要はない。
上記の通り、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとは、ロール支持部5によって片持ち式で支持されることになる。この場合、内面押し込みロール3が鋼管端部1EPへの押し込みを行う場合に負荷される荷重は、概ね0.1~15[MN]となり、外面押し込みロール4a,4bが鋼管端部1EPへの押し込みを行う場合に負荷される荷重は、概ね0.02~3[MN]となる。そのため、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとは、このような荷重に耐えられるように、金属製のロールを用いるのが好ましく、より好ましくは鋼製ロールを用いる。また、ロールの自重によるたわみを低減するために、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとには、中実ロールだけでなく、中空ロールを適用してもよい。また、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとしては、必ずしも金属製のロールに限定されず、例えば、炭素繊維を含む複合材料などの軽量素材からなるロールを用いてもよく、前記荷重に対してロールのたわみ変形を低減できる一定の剛性を有する素材からなるロールを用いてもよい。
さらに、外面押し込みロール4a,4bについては、外面ロールチョック11により支持される位置とは異なる位置で、外面押し込みロール4a,4bのたわみ変形を抑制するための支持機構を別途設けてもよい。例えば、外面押し込みロール4a,4bの軸受部とは反対の端部に補強ロールを設けて、その補強ロールを工場床に設置した不図示の他のハウジングによって支持する構造としてもよい。
なお、支持ロール2a,2b、内面押し込みロール3、及び、外面押し込みロール4a,4bは、軸心方向に沿って直径が必ずしも一定でなくてもよい。例えば、ロール支持部5により片持ち式で支持されるロールのたわみ変形に応じて、ロール支持部5から軸心方向で離れるにしたがって、ロール径が大きくなるものを用いてもよい。これは、内面押し込みロール3や外面押し込みロール4a,4bによる鋼管端部1EPの押し込み量が、管軸方向に沿って一定になるように調整できるからである。
図5は、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100における各ロールの位置関係を説明するための図である。
図5では、鋼管端部1EPを支持する支持ロール2a,2bが、同一のロール径を有するロールであって、ロールの回転中心の上下方向の位置(高さ)も同一となる例を示している。ここで、2つの支持ロール2a,2bに対して、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1を定義する。支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1とは、鋼管端部1EPの管軸方向に垂直な(直交する)断面内で、2つの支持ロール2a,2bの断面形状から特定される2つの円の共通接線のうち上側の接線をいう。図5に示す例では、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1は、水平方向に延びる直線となる。
また、本実施形態では、2つの支持ロール2a,2bに鋼管1の外直径に相当する直径D0の仮想的な真円を想定し、これを仮想真円1Aと呼ぶ。さらに、仮想真円1Aが2つの支持ロール2a,2bに載置された場合の円の中心を、鋼管端部1EPの中心点O1Aと呼ぶ。そして、鋼管端部1EPの中心点O1Aを原点として、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1に垂直で下側に向かう方向をy座標とし、このy座標と直交する方向をx座標とする座標系(x-y座標)を定義する。
この場合、内面押し込みロール3は、その回転中心O3のx座標が、支持ロール2a,2bの回転中心O2a,O2bの2つのx座標の中間になるように配置される。これにより、内面押し込みロール3は、水平方向で2つの支持ロール2a,2bの中間位置に配置されることになる。また、内面押し込みロール3が、鋼管端部1EPへ押し込みを行う際に移動する方向はy軸の正の方向(下方向)となる。内面押し込みロール3の押し込み量は、鋼管端部1EPの内周面1iと内面押し込みロール3とが接触を開始する位置を基準(ゼロ点)として、内面押し込みロール3の移動方向の変位量によって定義できる。内面押し込みロール3の押し込み量の基準となるゼロ点は、鋼管端部1EPの内周面1iが真円形状であると仮定した場合に、その真円形状と内面押し込みロール3とが接する位置としてもよい。以下の説明では、内面押し込みロール3の押し込み量を内面圧下量とも呼ぶ。なお、図5に示した配置から分かるように、内面押し込みロール3の押し込み量が大きすぎると、支持ロール2a,2bと内面押し込みロール3とが干渉するため、内面圧下量には上限値が存在する。
外面押し込みロール4a,4bは、外面押し込みロール4a,4bの外周円が、仮想真円1Aに接するように配置される。この場合、外面押し込みロール4aと外面押し込みロール4bとは、必ずしも左右対称に配置される必要はない。しかし、外面押し込みロール4a,4bは、外面押し込みロール4a,4bの回転中心O4a,O4bと鋼管端部1EPの中心点O1Aとを結ぶ直線L2,L3と、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1の垂線PL1とでなす角度θ1,θ2が、いずれも45[°]未満となるように配置されるのが好ましい。図5に示す例では、外面押し込みロール4aの回転中心O4aと鋼管端部1EPの中心点O1Aとを結ぶ直線L2と、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1の垂線PL1とでなす角度θ1が45[°]未満であって、外面押し込みロール4bの回転中心O4bと鋼管端部1EPの中心点O1Aとを結ぶ直線L3と、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1の垂線PL1とでなす角度θ2が45[°]未満であることが好ましい。角度θ1または角度θ2のいずれかが45[°]以上の場合、鋼管端部1EPを下方向に押し込む効果が低下するため、鋼管端部1EPに十分な曲げ変形を与えることができないからである。ただし、外面押し込みロール4aと外面押し込みロール4bとの中心間の距離が小さすぎると、外面押し込みロール4a,4b同士が干渉するため、角度θ1及び角度θ2の取り得る範囲は、外面押し込みロール4a,4bの直径や仮想真円1Aの直径D0に応じて幾何学的な関係により下限値が決定される。
このとき、外面押し込みロール4a,4bの押し込み量は、鋼管端部1EPの外周面1oと外面押し込みロール4a,4bとが接触する位置を基準(ゼロ点)として、外面押し込みロール4a,4bが移動するy軸の正の方向(下方向)への変位量によって定義できる。外面押し込みロール4a,4bの押し込み量の基準となるゼロ点は、鋼管端部1EPの外周面1oが真円形状であると仮定した場合に、その真円形状と外面押し込みロール4a,4bとが接する位置としてもよい。以下では、外面押し込みロール4a,4bの押し込み量を外面圧下量とも呼ぶ。なお、外面押し込みロール4aと外面押し込みロール4bとの移動方向は、必ずしも図5におけるy軸の方向に限定されない。外面押し込みロール4aと外面押し込みロール4bとは、鋼管端部1EPへの押し込み量の増加に伴って、鋼管端部1EPの中心点O1Aの方向に移動するようにしてよい。また、外面押し込みロール4aと外面押し込みロール4bとは、鋼管端部1EPへの押し込み量の増加に伴って、支持ロール2a,2bの回転中心O2a,O2bを結ぶ直線L4の中点O22に向かうように移動するようにしてもよい。これにより、外面押し込みロール4a,4bの押し込みが進展しても、鋼管端部1EPを全体として変形させる効果が維持されるため、鋼管端部1EPの真円度を向上させやすいからである。なお、2つの外面押し込みロール4a,4bの外面圧下量は、必ずしも同一である必要はない。外面圧下量は2つの外面押し込みロール4a,4bのそれぞれに対して設定され制御されてもよい。
支持ロール2a,2bの直径D2a,D2bは、鋼管1の管端部を支持できるように任意の径を選択できる。本実施形態では、支持ロール2a,2bの直径D2a,D2bは、加工する鋼管1の外直径に相当する仮想真円1Aの直径D0に対して0.1D0~0.5D0の範囲とするのが好ましい。支持ロール2a,2bの直径D2a,D2bが0.1D0よりも小さいと、鋼管端部1EPを支持するには支持ロール2a,2bの強度が不足する場合があるからである。また、支持ロール2a、2bの直径D2a,D2bが0.5D0よりも大きいと、支持ロール2a,2bが鋼管端部1EPの外周面1oと接触する2点間の距離が大きくなり、内面押し込みロール3による鋼管端部1EPに十分な曲げ変形を付与できない場合があるからである。また、支持ロール2aと支持ロール2bとの回転中心O2a,O2bの間隔(支持ロール間隔)は、鋼管端部1EPを支持できる範囲で任意のロール間隔(支持ロール間隔)に設定することができる。本実施形態における支持ロール間隔は、仮想真円1Aの直径D0に対して0.2D0~0.7D0の範囲とするのが好ましい。支持ロール間隔が0.2D0よりも小さいと、鋼管1を回転させた際に鋼管端部1EPの支持ロール2a,2bによる支持が不安定となって、鋼管1が支持ロール2a,2bから落下するおそれがあるからである。また、支持ロール間隔が0.7Dよりも大きいと、上記と同様に内面押し込みロール3の押し込みを行っても鋼管端部1EPに十分な曲げ変形を付与できない場合があるからである。なお、支持ロール2a,2bの直径D2a,D2bと支持ロール間隔とは、支持ロール2aと支持ロール2bとが幾何学的な関係から干渉しないように設定する。
内面押し込みロール3の直径D3は、鋼管1の内側に挿入できるように任意の径を選択できる。本実施形態では、内面押し込みロール3の直径D3は、仮想真円1Aの直径D0に対して0.1D0~0.8D0の範囲とするのが好ましい。内面押し込みロール3の直径D3が0.1D0よりも小さいと、鋼管端部1EPに押し込みを与える場合に内面押し込みロール3の強度が不足する場合があるからである。また、内面押し込みロール3の直径D3が0.8D0よりも大きいと、内面押し込みロール3が鋼管端部1EPに押し込みを行う際に支持ロール2a,2bとの幾何学的な関係により内面圧下量の上限値が制限される場合や、鋼管端部1EPに付与される曲げ曲率が内面押し込みロール3の半径とおおむね一致してしまい、鋼管端部1EPに十分な曲げ変形を付与できない場合があるからである。
外面押し込みロール4a,4bの直径D4a,D4bは、鋼管端部1EPの外周面1oの上方から鋼管端部1EPに押し込みを与えるために任意の径を選択できる。本実施形態では、外面押し込みロール4a,4bの直径D4a,D4bは、仮想真円1Aの直径D0に対して0.1D0~0.5D0の範囲とするのが好ましい。外面押し込みロール4a,4bの直径D4a,D4bが0.1D0よりも小さいと、鋼管端部1EPに外周面1oから押し込みを与える場合に、押し込みに対する反力によって外面押し込みロール4a,4bの強度が不足する場合があるからである。また、外面押し込みロール4bの直径D4bが0.5D0よりも大きいと、外面押し込みロール4bの回転中心O4bと鋼管端部1EPの中心点O1Aとを結ぶ直線L3と、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1の垂線PL1とでなす角度θ2が大きくなり、鋼管端部1EPを全体として押しつぶすように変形させる効果が低下する場合があるからである。
ところで、図5に示す鋼管端部1EPの加工装置100は、支持ロール2aと支持ロール2bとが、同一のロール径(直径)であって、且つ、同一の高さに配置されている。しかし、支持ロール2aと支持ロール2bとは、必ずしも同一のロール径(直径)とする必要はなく、同一の高さに配置されなくてもよい。その場合に、支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1は水平方向の線ではなく、一定の傾斜を有することになるが、図5に示す各ロールの相対的な位置関係を維持したまま、全体を支持ロール2a,2bに基づく基準線BL1の傾斜に合致するように回転させた構成をとってもよい。鋼管1を回転駆動させた際に支持ロール2a,2bが鋼管端部1EPを支持できていれば、ロール配置全体が傾斜していても鋼管端部1EPの真円度を向上させる効果は変わらないからである。
図6は、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100が備える制御装置20を説明するための図である。
実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100は、鋼管端部1EPの加工を行うための制御装置20を備えている。制御装置20は、鋼管1を支持ロール2a,2bに載置する動作を設定するための載置設定部21と、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの鋼管端部1EPへの押し込み動作を設定するためのロール位置設定部22と、鋼管1の回転動作を設定するための回転動作設定部23とを備える。制御装置20は、載置設定部21、ロール位置設定部22、及び、回転動作設定部23の各機能をコンピュータソフトウェア上で、すなわちコンピュータ読取り可能なプログラムを実行することで実現するため演算処理機能を有するコンピュータシステムである。そして、このコンピュータシステムは、ハードウェアに予め記憶された各種専用のコンピュータプログラムを実行することにより、前述した各機能をソフトウェア上で実現できるようになっている。
載置設定部21は、鋼管1を支持ロール2a,2bに載置すると共に、内面押し込みロール3を鋼管1の管端から管軸方向に沿った所定の範囲で接触するように配置する。また、内面押し込みロール3が鋼管端部1EPの内周面1iに接する位置まで移動させることにより、内面圧下量のゼロ点を設定するように内面押し込みロール3の動作を制御してもよい。また、載置設定部21は、外面押し込みロール4a,4bが鋼管1の管端から管軸方向に沿った所定の範囲で接触するように外面押し込みロール4a,4bの位置を調整する。また、外面押し込みロール4a,4bが鋼管端部1EPの外周面1oに接するように移動させて、外面圧下量のゼロ点を設定するように外面押し込みロール4a,4bの動作を制御してもよい。
回転動作設定部23は、鋼管1を回転させる回転駆動部6に対して、鋼管1を所定の回転速度で回転するよう指令を出力する。また、回転動作設定部23は、鋼管1を回転する回数や回転角度を設定して、設定された条件で回転の開始や停止の動作を行うように回転駆動部6に対して指令を出すように構成してよい。
ロール位置設定部22は、内面押し込み動作設定部221と外面押し込み動作設定部222と押し込みパターン設定部223とを備えている。
内面押し込み動作設定部221は、内面押し込みロール3による鋼管端部1EPの押し込みが、設定された内面圧下量となるように、内面押し込みロール3の位置制御ための指令を内面押し込み制御部13に出力する。また、内面押し込み動作設定部221は、内面押し込みロール3の位置制御に際して、内面押し込みロール3の押し込みを開始するタイミングや押し込みを終了して内面押し込みロール3を開放するタイミング、あるいは、押し込みを行う速度や開放を行う速度を設定するように構成されてもよい。
外面押し込み動作設定部222は、外面押し込みロール4a,4bによる鋼管端部1EPの押し込みが、設定された外面圧下量となるように、外面押し込みロール4a,4bの位置制御のための指令を外面押し込み制御部15に出力する。また、外面押し込み動作設定部222は、外面押し込みロール4a,4bの位置制御に際して、外面押し込みロール4a,4bの押し込みを開始するタイミングや押し込みを終了して外面押し込みロール4a,4bを開放するタイミング、あるいは、押し込みを行う速度や開放を行う速度を設定するように構成されてもよい。
なお、内面圧下量及び外面圧下量の設定は、例えば、加工対象となる鋼管1ごとにオペレータが入力した設定値を用いることができる。その場合、制御装置20は、不図示の入力部と通信可能に接続され、入力部において入力される内面圧下量及び外面圧下量のそれぞれの設定値を、ロール位置設定部22に送り、ロール位置設定部22が内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの動作を設定する。
押し込みパターン設定部223は、内面押し込みロール3の押し込み量(内面圧下量)の設定値と、2本の外面押し込みロール4a,4bの押し込み量(外面圧下量)の設定値と、を算出して設定する押し込み量設定手段である。押し込みパターン設定部223は、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bが鋼管端部1EPへ押し込みを行う際の、押し込みを開始するタイミングや、押し込みを行う押し込み速度、所定の圧下量を維持して鋼管端部1EPの加工を行う際の鋼管1の回転回数、押し込みを終了してロールを開放するタイミング、及び、ロールを開放する際の移動速度などを設定するようにしてもよい。
押し込みパターン設定部223が設定する内面圧下量及び外面圧下量は、加工対象となる鋼管1に応じて過去の加工実績を蓄積しておき、蓄積したデータベースに基づいて設定テーブルを生成しておき、加工対象となる鋼管1に応じて押し込みパターン設定部223が設定するようにしてもよい。一方、押し込みパターン設定部223は、加工対象となる鋼管1の属性情報に応じて、内面圧下量と外面圧下量とを算出するのが好ましい。鋼管1の属性情報とは、鋼管1の寸法情報や材質情報を指す。鋼管1の寸法情報は、鋼管1の外直径、内直径、及び、肉厚などの鋼管1の寸法に関する情報である。また、鋼管1の寸法情報には、鋼管端部1EPの加工前の真円度に関する情報や、目標とする加工後の真円度に関する情報を含んでもよい。鋼管1の材質情報は、鋼管1の降伏応力、引張強度、及び、硬さなど鋼管1の機械的性質に関する情報である。鋼管1の属性情報は、鋼管端部1EPの周方向に対して曲げ変形を付与する場合に、曲げ曲率や曲げ戻しの曲率、加工反力に影響を与え、加工後の鋼管端部1EPの真円度に影響を与える。
押し込みパターン設定部223が設定する内面圧下量及び外面圧下量は、加工対象となる鋼管端部1EPが曲げ変形及び曲げ戻し変形を受ける際に、鋼管端部1EPの表面が降伏する条件に基づいて設定するのが好ましい。鋼管端部1EPの表面近傍で塑性変形が生じることにより、周方向に沿って曲率の均一化効果が得られるからである。
例えば、鋼管1の管厚t、ヤング率E、及び、降伏強度Yに対して、鋼管端部1EPに対して下記数式(1)に示す曲率変化Δκ0を付与することにより、鋼管端部1EPの表面近傍で塑性変形が発生する。
したがって、押し込みパターン設定部223が設定する内面圧下量は、鋼管端部1EPの初期曲率から上記数式(1)に示す曲率変化Δκ0よりも大きな曲率変化が生じるように設定する。具体的には、2本の支持ロール2a,2b、1本の内面押し込みロール3、及び、2本の外面押し込みロール4a,4bの直径がいずれも300[mm]であって、支持ロール2a,2bの回転中心O2a,O2bの間の距離が450[mm]の場合に、外径914.4[mm]、管厚38.1[mm]、及び、降伏強度450[MPa]の鋼管1に対する内面圧下量は、1.7[mm]以上で設定されるのがよい。ただし、内面圧下量が過大になると、内面押し込みロール3と支持ロール2a,2bとの隙間が管厚と同程度となってしまうため、内面圧下量は50[mm]以下であることが好ましい。
一方、外面押し込みロール4a,4bの押し込みにより鋼管端部1EPの表面が降伏する条件は、曲り梁の弾性たわみ変形に関する理論に基づいて、外面圧下量と鋼管端部1EPに付与される曲げモーメントとの関係を数値計算によって算出し、鋼管端部1EPの軸心方向における単位長さあたりの曲げモーメントが、下記数式(2)の弾性限界曲げモーメントMeよりも大きくなるように外面圧下量を設定する。
例えば、外面押し込みロール4a,4bによる外面圧下量は、仮想真円1Aの直径D0に対して0.5~5[%]の値で設定するのが好ましい。外面押し込みロール4a,4bにより鋼管端部1EPが全体として押しつぶされる変形となり、鋼管端部1EPの表面近傍で塑性変形が生じるからである。具体的には、上記例において、2本の外面押し込みロール4a,4bの回転中心O4a,O4bの間の距離が450[mm]である場合に、外面圧下量は4.5[mm]以上で設定するのが好ましい。ただし、外面圧下量が過大になると、外面押し込みロール4a,4bの押し込みにより鋼管端部1EPがつぶれた形状となってしまい、効果的な加工ができないため、外面圧下量は45[mm]以下であることが好ましい。
実施形態にかかる鋼管端部1EPの加工方法は、鋼管端部1EPの外周面1oに接して下方から支持する2本の支持ロール2a,2bに載置した鋼管1を回転させる回転駆動ステップと、2本の支持ロール2a,2bの中間位置に配置した1本の内面押し込みロール3により鋼管端部1EPの内周面1i側から鋼管端部1EPに押し込みを与えると共に、鋼管端部1EPの外周面1oに接して上方に配置した2本の外面押し込みロール4a,4bにより鋼管端部1EPに押し込みを与えるロール押し込みステップとを含む工程によって実行される。また、ロール押し込みステップの後に、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの押し込みを維持したまま、鋼管1を少なくとも1回転させる加工ステップと、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bを開放するロール開放ステップとを含むのが好ましい。さらに、ロール押し込みステップにおける内面圧下量と外面圧下量との少なくとも一方は、加工を行う鋼管1の属性情報に応じて設定されるのが好ましい。
実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法において、加工対象となる鋼管1は、金属管であればその種類を問わない。その中で溶接鋼管を対象とするのが好ましい。溶接鋼管は、素材となる鋼板に対してUプレスやプレスベンド法などを用いてオープン管を成形し、突合せ溶接を行った後に拡管機を用いた拡管を行うのが一般的である。その場合、複数に分割されたダイスを備える拡管機により拡管を行うことが多いので、鋼管端部1EPの周方向形状も多角形になりやすく真円度を向上させる必要性が高いからである。
このような観点から、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法は、外径400~1625.4[mm]、管厚6.35~50.8[mm]、降伏強度170~900[MPa]、及び、引張強度310~1033[MPa]の鋼管1を対象とするのが好ましい。これは、一般に拡管機を用いた拡管を行う場合が多いからである。特に、降伏強度が414[MPa]以上、引張強度が517[MPa]以上である鋼管1は、スプリングバックが大きく、オープン管の成形工程や拡管工程での形状が変動しやすいため、このような比較的高強度の鋼管1を対象とするのがより好ましい。また、鋼管端部1EPを突き合わせる際に、鋼管端部1EPの段差が一定の値(例えば、2.4[mm]以下)となるように管理される場合があり、鋼管端部1EPの外径が大きいほど外径に対する段差の比率を高精度に管理する必要がある。そのため、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法は、鋼管端部1EPの外径が600[mm]以上の鋼管1に適用するのが好適である。また、鋼管端部1EPを突き合わせる際に、施工時の段差を解消する際、鋼管端部1EPを拘束する必要があるものの、管厚が厚い鋼管1に対しては非常に大きな拘束力を付与する必要が生じるため、施工前の鋼管端部1EPの真円度を良好に加工できる点で、管厚が19[mm]以上であることが好ましい。この場合、鋼管端部1EPの外径に対する管厚の比率が2.0[%]以上の鋼管1を対象に適用するのが好ましい。
図7は、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法の制御の一例を示したフローチャートである。図7に示した実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法では、鋼管1の載置ステップS1と鋼管1の回転駆動ステップS2とロール押し込みステップS3と加工ステップS4とロール開放ステップS5とが実施される。
鋼管1の載置ステップS1は、加工対象となる鋼管1を支持ロール2a,2bに載置すると共に、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとが鋼管1の管軸方向に沿って接触する長さを調整し、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bの押し込み量の基準点(ゼロ点)を設定する工程である。鋼管1の載置ステップS1は、制御装置20における載置設定部21によって行うことができる。実施形態に係る鋼管端部1EPの加工装置100に加工対象の鋼管1が設置され、加工の準備が整った段階で鋼管1の載置ステップS1が終了し、鋼管1の回転駆動ステップS2に移行する。
回転駆動ステップS2は、支持ロール2a,2bによって支持された鋼管端部1EPを所定の回転速度で回転させる工程である。回転駆動ステップS2は、制御装置20の回転動作設定部23によって行うことができる。なお、鋼管1の回転駆動ステップS2を開始する際に、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとは、必ずしも鋼管端部1EPと接している必要はない。予め内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとが鋼管端部1EPと接触しない待機位置に設定しておき、鋼管端部1EPが設定された速度で回転するまで待機位置にあるようにしてもよい。内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとが、鋼管端部1EPと接触した状態で、鋼管1の回転を開始すると、鋼管端部1EPにすり疵が発生する場合があるからである。鋼管1の回転駆動ステップS2は、鋼管1が予め設定された回転速度で回転するようになったら終了し、ロール押し込みステップS3に移行する。
ロール押し込みステップS3は、内面押し込みロール3が鋼管端部1EPに押し込みを与える内面押し込みロール3の押し込みステップS31と、外面押し込みロール4a,4bが鋼管端部1EPに押し込みを与える外面押し込みロールの押し込みステップS32とからなる。内面押し込みロール3の押し込みステップS31は、内面押し込みロール3が待機位置から設定された内面圧下量になるように、内面押し込みロール3の位置を制御する工程である。外面押し込みロール4a,4bの押し込みステップS32は、外面押し込みロール4a,4bが待機位置から設定された外面圧下量になるように、外面押し込みロール4a,4bの位置を制御する工程である。内面押し込みロール3の押し込みステップS31と、外面押し込みロール4a,4bの押し込みステップS32とは、必ずしも同時に実行されなくてもよく、いずれか一方のステップを先行して実行し、他方のステップが遅れて実行されるようにしてもよい。これらの動作は、制御装置20においてロール位置設定部22が設定した条件に基づいて行うことができる。ロール押し込みステップS3は、内面押し込みロール3の押し込みステップS31と外面押し込みロール4a,4bの押し込みステップS32との両方が終了した場合に終了する。これにより、加工ステップS4に移行する。
加工ステップS4は、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとによる鋼管端部1EPへの押し込み量として設定された内面圧下量と外面圧下量とを維持したまま、所定の回転回数または回転角度で鋼管1を回転させる工程である。加工ステップS4は、制御装置20におけるロール位置設定部22によって実行することができる。加工ステップS4における鋼管1の回転回数または回転角度は、予めオペレータが入力部で設定した設定値が用いられてよく、制御装置20が鋼管1の属性情報に基づいて押し込みパターン設定部223が設定した条件が用いられてよい。この場合、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとによる鋼管端部1EPへの押し込みが、設定された内面圧下量と外面圧下量とを維持したまま、少なくとも1回転の回転を鋼管1に付与するのが好ましい。これは、鋼管端部1EPの周方向に沿った全長に対して曲げ加工を付与することによって、真円度が向上しやすいからである。加工ステップS4は、所定の回転回数または回転角度での回転が実行されたときに終了し、ロール開放ステップS5に移行する。
ロール開放ステップS5は、内面押し込みロール3を設定された内面圧下量に対応する位置から鋼管端部1EPと接触しない位置まで開放する内面押し込みロール3の開放ステップS51と、外面押し込みロール4a,4bを設定された外面圧下量に対応する位置から鋼管端部1EPと接触しない位置まで開放する外面押し込みロール4a,4bの開放ステップS52とからなる。ロール開放ステップS5は、制御装置20のロール位置設定部22において設定された条件に従って動作するようにしてもよい。その場合、内面押し込みロール3の開放ステップS51と、外面押し込みロール4a,4bの開放ステップS52とは、必ずしも同時に実行されなくてもよく、いずれか一方のステップを先行して実行し、他方のステップが遅れて実行されるようにしてもよい。なお、内面押し込みロール3の開放と、外面押し込みロール4a,4bの開放とは、急速に開放するよりも、徐々に開放を行うのが好ましい。内面押し込みロール3の開放ステップS51において、内面押し込みロール3が内面圧下量の位置から鋼管端部1EPとの接触が解消するまでの間に、鋼管1の1回転以上回転するように、内面押し込みロール3の開放速度を設定するのが好ましい。同様に、外面押し込みロール4a,4bの開放ステップS52においては、外面押し込みロール4a,4bが外面圧下量の位置から鋼管端部1EPとの接触が解消するまでの間に、鋼管1の1回転以上回転するように、外面押し込みロール4a,4bの開放速度を設定するのが好ましい。これは、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとの開放を急速に行うと、鋼管1の回転状態が不安定となって、鋼管端部1EPの真円度を悪化させる場合があるからである。
図8は、支持ロール2a,2bの中間位置に配置した内面押し込みロール3により鋼管端部1EPの内周面1i側から鋼管端部1EPに押し込みを与えた場合の鋼管端部1EPの変形状態を説明するための図である。なお、図8では、鋼管端部1EPの一部のみを図示している。
図8に示すように、内面押し込みロール3によって鋼管端部1EPに押し込みを与えると、2つの支持ロール2a,2bと内面押し込みロール3との間で3点曲げによる曲げ加工が付与される。これにより、2つの支持ロール2a,2bの間では、図8中に実線で示した鋼管1における鋼管端部1EPの周方向に沿った曲率が、図8中に破線で示した鋼管1における鋼管端部1EPに曲げ加工が付与される前の初期の曲率よりも大きくなるように変形が付与される。
図9は、鋼管端部1EPの外周面1oに接して上方に配置した2本の外面押し込みロール4a,4bにより鋼管端部1EPに押し込みを与えた場合の鋼管端部1EPの変形状態を説明するための図である。
図9に示すように、外面押し込みロール4a,4bによって鋼管端部1EPに押し込みを与えると、支持ロール2a,2bによって支持される鋼管端部1EPが全体として上方から押しつぶされる変形が生じる。そして、2本の外面押し込みロール4a,4bによって鋼管端部1EPを押し込むことにより、2本の外面押し込みロール4a,4bの間を通過する際に、鋼管端部1EPには周方向に沿った曲率が初期の曲率よりも小さくなるように変形が付与される。これにより、鋼管端部1EPは周方向に沿って曲げ戻し変形を受ける。本実施形態として、2本の外面押し込みロール4a,4bを用いるのは、2本の外面押し込みロール4a,4bの間で鋼管端部1EPの周方向に沿った曲率を小さくする変形が付与されるので、鋼管端部1EPが2本の外面押し込みロール4a,4bの間を通過する間、曲げ戻し変形が維持され、真円度を向上する効果を高めることができるからである。
そして、鋼管端部1EPは、鋼管1が回転することにより、内面押し込みロール3によって曲率が大きくなる曲げ変形と、外面押し込みロール4a,4bによって曲率が小さくなる曲げ戻し変形とを受ける。鋼管端部1EPが周方向に沿った曲げ変形及び曲げ戻し変形を受けると、鋼管端部1EPの周方向に沿った曲率が一定の値に収束し、その結果、鋼管端部1EPの真円度が向上することになる。
図10は、内面押し込みロール3による鋼管端部1EPの押し込みと、外面押し込みロール4a,4bによる鋼管端部1EPの押し込みとの両者による鋼管端部1EPの変形を説明するための図である。なお、図10中、一点鎖線で囲った領域FAは、鋼管端部1EPの曲率を大きくする曲げ変形が付与される領域である。また、図10中、二点鎖線で囲った領域FBは、鋼管端部1EPの曲率を小さくする曲げ戻し変形が付与される領域である。
図10では、鋼管1が反時計回り方向に回転している状態を示している。このとき、鋼管端部1EPの周方向における6時方向の位置では、内面押し込みロール3の押し込みによって鋼管端部1EPの曲率を大きくする変形が付与され、支持ロール2bと接触することにより曲げ戻し変形を受ける。さらに、3時方向の位置では、鋼管端部1EPの曲率を大きくする曲げ変形が付与され、0時方向の位置では2本の外面押し込みロール4a,4bの間で曲げ戻し変形が付与される。そして、9時方向の位置では、再び曲率が大きくなるように曲げ変形が付与され、支持ロール2aと接触する位置で曲げ戻し変形が付与される。
このように、鋼管1が1回転する間に、3回の曲げ変形と3回の曲げ戻し変形とが交互に付与されることによって、鋼管端部1EPの周方向に沿った曲率が一定の値になり鋼管端部1EPの真円度が向上する。このとき、それぞれの位置での曲げ変形や曲げ戻し変形の曲率は、内面圧下量及び外面圧下量の設定値に応じて変化させることができるため、鋼管端部1EPの真円度を向上させる効果を高めることができる。
加工を行う前の鋼管端部1EPにおける周方向の曲率は、周方向に沿って変動している場合が多く、製品として目標の曲率よりも大きな曲率を有する領域と、目標の曲率よりも小さな曲率を有する領域とを含むことが多い。これに対して、実施形態に係る鋼管端部1EPの加工方法によれば、曲率が大きい領域に対しては2本の外面押し込みロール4a,4bの間における曲げ戻し変形により曲率が小さくなり、曲率が小さい領域に対しては内面押し込みロール3による曲げ変形により曲率が大きくなる。このように、鋼管端部1EPの周方向に沿った曲率を大きくする変形と小さくする変形とを繰り返し付与できるため、加工を行う前の鋼管端部1EPが、目標の曲率よりも大きな曲率の領域と小さな曲率の領域との両方を有している場合にも、加工後の鋼管端部1EPの曲率を均一にすることができる。
また、本発明は、鋼管1を製造する鋼管の製造方法に含まれる鋼管端部の加工方法として適用することができ、公知または既存の製造ステップにおいて、鋼管1の管端部を加工するようにしてもよい。
(実施例1)
本発明の実施例1として、2本の支持ロール2a,2b、1本の内面押し込みロール3、及び、2本の外面押し込みロール4a,4bの直径がいずれも300[mm]であって、胴長部の長さが900[mm]とする鋼管端部1EPの加工装置100を用いて、鋼管端部1EPの加工を行った結果について説明する。
実施例1の鋼管端部1EPの加工装置100は、2本の支持ロール2a,2bの中心間距離が450[mm]であり、2本の外面押し込みロール4a,4bの中心間距離が450[mm]である。内面押し込みロール3及び2本の外面押し込みロール4a,4bは、図5に示すロール配置において、2本の支持ロール2a,2bに対して左右対称となるように配置した。
加工対象とする鋼管1は、外径36インチ(914.4[mm])、管厚1.5インチ(38.1[mm])、長さ40フィート(12.8[m])の鋼管であり、その引張強度は560[MPa]であった。先ず、加工対象の鋼管端部1EPに対する加工準備として載置ステップS1を実行し、支持ロール2a,2b、内面押し込みロール3、及び、外面押し込みロール4a,4bが、鋼管1の管端から管軸方向に沿った接触長が600[mm]となるように、鋼管端部1EPを載置した。そして、内面押し込みロール3の押し込み量の基準となるゼロ点は、鋼管端部1EPの内周面1iが真円形状であると仮定した場合に、その真円形状と内面押し込みロール3とが接する位置とした。また、外面押し込みロール4a,4bの押し込み量の基準となるゼロ点は、鋼管端部1EPの外周面1oが真円形状であると仮定した場合に、その真円形状と外面押し込みロール4a,4bとが接する位置とした。次に、鋼管1の回転駆動ステップS2として、回転動作設定部23が、予め設定された回転速度で鋼管1を回転するように制御を行った。
次に、ロール押し込みステップS3として、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bが所定の押し込み量となるように、ロール位置設定部22による制御を行った。このとき、内面圧下量及び外面圧下量は、鋼管端部1EPの表面近傍が降伏条件を満たすように、それぞれ1.8[mm]及び18[mm]に設定した。また、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bは、押し込みの開始から完了までの時間が同一になるように制御を行い、実施例1では鋼管1が1回転する間に、内面押し込みロール3の圧下量がゼロから1.8[mm]に変化し、外面押し込みロール4a,4bの圧下量がゼロから18[mm]に変化するように、ロール位置設定部22による制御を行った。そして、ロール押し込みステップS3が終了すると、加工ステップS4に移行し、内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bが、所定の内面圧下量と外面圧下量とを維持したまま、鋼管1を2回転させることで、鋼管端部1EPの周方向に沿った全周で曲げ変形及び曲げ戻し変形を付与した。さらに、ロール開放ステップS5では、鋼管1が1回転する間に内面圧下量と外面圧下量とがそれぞれ半分の値になるまで内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bを開放し、その後の1回転で内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの押し込み量がゼロになるようにロールの開放を行った。
一方、本発明の比較例として、下記の条件の比較例1と比較例2とについて検証を行った。比較例1の条件としては、実施例1と同様の鋼管端部1EPの加工装置100を用いて、内面押し込みロール3による内面圧下量の設定は実施例1と同一であるが、外面押し込みロール4a,4bを鋼管端部1EPと接触しない位置に退避させ、鋼管端部1EPへの押し込みを行わなかった。比較例2の条件としては、外面押し込みロール4a,4bによる外面圧下量の設定は実施例1と同一であるが、内面押し込みロール3は鋼管端部1EPと接触しない位置に退避させ、鋼管端部1EPへの押し込みを行わなかった。なお、加工対象とした鋼管1は、いずれもUOE鋼管であり、拡管機の操業条件を同一の条件で加工を行った鋼管1を、実施例1と比較例1と比較例2とでそれぞれ20本ずつ用意して、上記の鋼管端部1EPの加工装置100により各条件の加工を行った。
加工後の鋼管端部1EPの真円度を測定した結果を表1に示す。なお、鋼管端部1EPの真円度は、鋼管端部1EPの外径形状について、真円からのズレの程度を表す指標である。ここでは、鋼管端部1EPを周方向に360分割して、それぞれの位置で測定した鋼管端部1EPの外径から、最大径と最小径とをそれぞれDmaxとDminとして、(Dmax-Dmin)/D0により真円度を定義した。この場合の仮想真円1Aの直径D0は457.2[mm]である。なお、真円度がゼロに近いほど、鋼管端部1EPの断面形状が完全な円に近い形状であることを示す。また、鋼管端部1EPの真円度についての合否は、真円度が0.5[%]以下であれば「合格」、0.5[%]を超える場合を「不合格」と判定し、加工を行った鋼管1の全体の本数に対する合格率を算出した。
表1から、本発明の実施例1によれば、内面押し込みロール3と外面押し込みロール4a,4bとの両方を用いて鋼管端部1EPに押し込みを与えることにより、加工後の鋼管端部1EPの真円度が大幅に向上していることがわかる。これに対し、外面押し込みロール4a,4bを開放したままで鋼管端部1EPを加工した比較例1と、内面押し込みロール3を開放したままで鋼管端部1EPを加工した比較例2とでは、加工後の真円度についてほとんど改善効果がみられなかった。
(実施例2)
本発明の実施例2では、実施例1で用いた鋼管端部1EPの加工装置100に対して、条件A~条件Fとして、2本の外面押し込みロール4a,4bの中心間距離を300~700[mm]の範囲で変更し、鋼管端部1EPの加工を行った結果について説明する。加工対象とする鋼管1は、実施例1と同じ工程で製造した鋼管を用いた。
また、実施例2では、実施例1と同様に、鋼管1の載置ステップS1と回転駆動ステップS2とを実行し、ロール押し込みステップS3、加工ステップS4、及び、ロール開放ステップS5における内面押し込みロール3及び外面押し込みロール4a,4bの動作や、内面圧下量及び外面圧下量の設定も実施例1と同様とした。このようにして、鋼管端部1EPの加工を行って、鋼管端部1EPの真円度を測定した結果を表2に示す。
表2から、本発明の実施例2によれば、2本の外面押し込みロール4a,4bの中心間距離が最も小さい300[mm]の場合(条件A)と、最も大きい700[mm]の場合(条件F)とに、加工後の真円度が他に比べて悪くなる傾向もみられるものの、いずれの条件でも加工前に比べて鋼管端部1EPの真円度が向上していることがわかる。