以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明の構成要件および実施の形態等について以下に詳細に説明するが、これらは本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではない。なお、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、XおよびYを含み、「X以上Y以下」を意味する。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は、室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。
本発明の一形態は、2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基が少なくとも1個フタロシアニン骨格またはナフタロシアニン骨格に結合してなり、この際、前記2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基は下記式(1):
で示される1価または2価の基である、フタロシアニン系化合物に関する。なお、本明細書では、上記フタロシアニン系化合物を、単に「フタロシアニン系化合物」あるいは「本発明に係るフタロシアニン系化合物」とも称する。また、本明細書では、上記式(1)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基を、単に「テトラメチルピぺリジン含有基」または「本発明に係るテトラメチルピぺリジン含有基」とも称する。
本発明の一形態に係るフタロシアニン系化合物は、テトラメチルピぺリジン含有基がフタロシアニン系骨格に導入されてなる(フタロシアニン系骨格がテトラメチルピぺリジン含有基を有する)。当該構成を有するフタロシアニン系化合物は、優れた耐光性を発揮する。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能および可視光透過率を有する。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、従来技術によるフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と混合した場合であっても、可視光透過率が非常に高い。すなわち、樹脂と混合した場合であっても、高い透明性を有する。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、耐熱性にも優れ、光照射後の黄変もまた抑制される。
上記のように本発明に係るフタロシアニン系化合物が良好な熱線吸収能および可視光透過率を低下させることなく、高い耐光性を示す理由は不明であるが、下記のように推測される。なお、本発明は、下記推測に限定されない。
フタロシアニン化合物は、一般的に、太陽光(特に紫外線)照射により分解し、その効果が低下する(耐光性に劣る)。フタロシアニン化合物は、高い透明性(高い可視光透過率)、優れた熱線吸収能を有する。しかし、当該特性をもってしても、フタロシアニン化合物は、長期間にわたり太陽光を浴びている間に紫外線により分解してしまい、やはり熱線吸収能等の効果が低下してしまう。また、上記課題を解決するために、紫外線吸収剤を一緒に混合する方法もあるが、このような手段をもってしても、十分な耐光性が発揮できない。これに対して、紫外線吸収能を有するテトラメチルピぺリジン含有基をフタロシアニン系骨格に導入すると、色素(フタロシアニン系化合物)と紫外線吸収剤とが非常に近接して存在する。このため、太陽光照射中、太陽光(特に紫外線)をテトラメチルピぺリジン含有基が吸収し、色素(フタロシアニン系化合物)の分解を効果的に抑制・防止する。これにより、紫外線吸収能をあわせもつフタロシアニン系化合物が提供でき、紫外線吸収剤が混合物の形態で存在する場合に比して、耐久性(特に耐光性)を向上できると推測される(下記実施例1と比較例1との比較)。
また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、700nm以上に最大吸収波長を有する。したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、太陽光の熱線吸収能に大きく関与する波長領域(670~850nm)の吸収が大きいことから、良好な熱線吸収能が得られる。
加えて、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、透明性に優れる(高い可視光透過率を有する)。
上述したように、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、太陽光(特に紫外線)による分解の効果を受けにくい。このため、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、本来の特性を長期間にわたって維持できる。ゆえに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、長期間太陽光を照射された状態でも、良好な熱線吸収能および透明性(高い可視光透過率)を維持できる。
[フタロシアニン系化合物]
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、1個以上の2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基がフタロシアニン骨格またはナフタロシアニン骨格に導入してなる。当該構成により、フタロシアニン系化合物は、熱線吸収能および紫外線吸収能をあわせもち、耐久性(耐光性)に優れる。ここで、2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基は、下記式(1):
式中、Bは、単結合、水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表わす、
で示される1価または2価の基である。なお、Bが水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基である場合には、上記式(1)の2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基は、下記構造のように1個の*が結合部位となる1価の基を意味する。
一方、Bが単結合である上記式(1)の2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基は、下記構造のように2個の*が結合部位となる2価の基を意味する。
本明細書において、「フタロシアニン骨格」とは、下記式で表される構造を核として有する構造をいう:
また、本明細書で使用される「フタロシアニン骨格」は、上記無金属フタロシアニンに加えて、金属、金属酸化物、金属ハロゲン化物等を中心に有するフタロシアニンを包含する。
本明細書において、「フタロシアニン系化合物」は、フタロシアニン化合物に加え、上記式で表されるフタロシアニン骨格の一部がナフタロシアニン骨格に置換されたナフタロシアニン化合物を包含する。このため、本明細書では、フタロシアニン骨格またはナフタロシアニン骨格を、一括して「フタロシアニン系骨格」あるいは「本発明に係るフタロシアニン系骨格」とも称する。
本明細書では、フタロシアニン系化合物を略称にて記載することがある。すなわち、フタロシアニン系化合物の略称において、β位の置換基、α位の置換基、(含まれる場合にはナフタレン骨格、リンカー(-O-Y-O-))、中心金属、の順序で略号を記載する。略称中、Phはフェニル基、フェニレン基または三価のベンゼン環を、Meはメチル基を、Prはトリメチレン基を、Cyhはシクロヘキシレン基を、Pcはフタロシアニン核を、Npはナフタレン骨格を、それぞれ表わす。Pcの直前の記載は中心金属を示す。さらに、フタロシアニン系化合物がリンカー(-O-Y-O-)を有する場合には、(中心金属-Pc)の直前の記載は、リンカーを示す。なお、ナフタレン骨格はフタロシアニン核の一部を占めるものであり、厳密にはフタロシアニン核にナフタレン骨格が別途結合したものではないが、ナフタレン骨格が含まれていることを示すために、便宜上、Npとして記載する。
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、700nm以上の最大吸収波長(λmax)を示す。ゆえに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、熱線吸収能に優れる。なお、本明細書中、「最大吸収波長(λmax)」は、後述の実施例に記載の方法で測定された値をいう。すなわち、以下の方法による値が最大吸収波長(λmax)として採用される。まず、フタロシアニン系化合物の含有率が1.6重量%(フタロシアニン系化合物と樹脂との総量に対して)になるようにポリビニルブチラール樹脂と混合する。次いで、上記混合物に固形分濃度が20重量%となるように溶剤としてのテトラヒドロフランを加え、溶解することで塗料溶液を得る。そして、得られた塗料溶液を、60番のバーコーターを用いてガラスに塗布し、室温で乾燥させる。その後、さらに100℃で10分間乾燥させ、フタロシアニン系化合物含有ブチラール塗膜を形成する。当該塗膜について、分光光度計を用いて吸光度を測定し、最大吸収波長(λmax)(nm)を求める。なお、上記分光光度計としては、例えば、株式会社日立ハイテクノロジーズ製「U-2910」などを用いることができる。
より具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)は、700nm以上といった長波長領域に存在し、好ましくは710~850nm、より好ましくは720~830nm、特に好ましくは725~800nmの波長域に存在する。よって、かような範囲に最大吸収波長が存在することから、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能を有する。このため、本発明に係るフタロシアニン系化合物を含む熱線吸収材は、好ましくは710~850nm、より好ましくは720~830nm、特に好ましくは725~800nmの波長域の光を選択的に吸収することができる。本発明に係るフタロシアニン系化合物または本発明に係るフタロシアニン系化合物を含む熱線吸収材は、例えば、乗り物(例えば、自動車、バス、電車等)や建物の窓などの熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線反射ガラスに使用すると、車内や室内の温度の上昇を有効に抑制することができる。
加えて、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、透明性に優れる(高い可視光透過率を有する)。特に、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、可視光領域のうち、400~650nmにおける透過率が高く、特に510nm付近において高い透過率を有する。具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の510nmでの透過率は、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)である。このように、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、特に人間の目の視感度の高い510nm付近の緑色の光の透過率に優れることから、熱線吸収合わせガラス等に用いた際、良好な視認性が得られる。より具体的な例としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、特に510nm付近の波長の光(青色光~緑色光)を透過させやすいことから、青緑色光~緑色光を発するLEDランプの視認性を向上させることができる。よって、例えば、LEDを用いたヘッドライトや外灯の視認性が向上するため、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、乗り物のフロントガラス(熱線吸収合わせガラス)の中間膜に好適に使用できる。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、460nm付近においても高い透過率を有する。具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の510nmでの透過率は、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)である。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、610nm付近においても高い透過率を有する。具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物の610nmでの透過率は、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)である。なお、上記460nm、510nm及び610nmでの透過率は、実施例記載の方法により測定される値(透過率の補正値)を採用する。
良好な熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、耐光性に優れるという観点から、前記式(1)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基(テトラメチルピぺリジン含有基)が、下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)または(2-4)で示される基であることが好ましい。紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性などの観点から、テトラメチルピぺリジン含有基は、末端に位置する、即ち、下記式(2-1)、(2-2)、(2-3)で示される基であることがより好ましく、下記式(2-1)、(2-2)で示される基であることが特に好ましい。
上記式(2-1)~(2-4)中、Aは、それぞれ独立して、酸素原子(-O-)、硫黄原子(-S-)または窒素原子(-NH-)を表わす。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各Aは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、Aは、酸素原子、硫黄原子が好ましく、酸素原子がより好ましい。
また、sは、各置換基が-A-Ph(Ph=フェニル基)に存在する数であり、1~3である。紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、sは、1または2であることが好ましい。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各sは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。また、上記式(2-1)~(2-4)中、各置換基が-A-Ph(Ph=フェニル基)に存在する位置は、特に制限されない。例えば、sが1である場合には、各置換基は、2位、3位、4位のいずれでもよいが、紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、4位、2位が好ましく、4位がより好ましい。また、sが2である場合には、各置換基は、フェニル基の2,6位、2,5位、2,4位、3,4位、3,5位などに存在できる。これらのうち、紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、2,4位、3,5位が好ましく、2,4位がより好ましい。sが3である場合には、各置換基は、フェニル基の2,4,6位、2,5,6位などに存在できる。
B’は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~4のアルキル基を表わす。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各B’は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。ここで、炭素原子数1~4のアルキル基は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれであってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基などがある。これらのうち、紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、B’は、水素原子、炭素原子数1~3の直鎖または分岐鎖のアルキル基が好ましく、水素原子、メチル基、エチル基がより好ましい。
Jは、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~4のアルキル基または窒素原子を有する基を表わす。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各Jは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。ここで、炭素原子数1~4のアルキル基は、上記「B’」と同様の定義である。また、窒素原子を有する基は、特に制限されず、2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基、1,3,5-トリアジン基、モルホリン基などを有する基がある。なお、上記基は、置換基を有していてもよい。また、窒素原子を有する基は、上記に加えて、アルキレン等の他の有機基を有していてもよい。具体的には、Jとしては下記がある。
なお、上記構造中、R10は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1~15の直鎖または分岐鎖のアルキル基がある。ここで、炭素原子数1~15の直鎖または分岐鎖のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、2,2-ジメチル-4,4-ジメチル-ブチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。これらのうち、紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、R10の一方が水素原子でありかつ他方が炭素原子数3~12の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることが好ましく、R10の一方が水素原子でありかつ他方が炭素原子数6~10の直鎖または分岐鎖のアルキル基であることがより好ましい。
また、上記構造中、r’は、1~20である。紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、r’は、1~10であることが好ましく、3~8であることがより好ましい。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各r’は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性のさらなる向上効果などの観点から、Jは、下記構造を有することが好ましい。
すなわち、上記(2-2)の好ましい構造は下記がある。なお、下記構造中、s’は、1~10である。紫外線吸収能、溶解性、可視光透過性の向上効果などの観点から、s’は、2~8であることが好ましい。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各s’は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
また、上記(2-1)の好ましい構造は下記がある。
上記式(2-1)~(2-4)中、rは、0~3である。紫外線吸収能、溶解性の向上効果などの観点から、rは、0または1であることが好ましい。なお、フタロシアニン系化合物が複数のテトラメチルピぺリジン含有基を有する場合には、各rは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
また、より高い耐光性、熱線吸収能および可視光透過率などの観点から、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、下記式(2)または下記式(3)で示される化合物であることが好ましい。なお、下記式(2)および(3)中、A1~A16は、それぞれ独立して、*で表される各結合部位のいずれかに結合する。本明細書において、下記式(2)および(3)中、A1、A4、A5、A8、A9、A12、A13およびA16の置換基を単に「α位の置換基」とも称する、またはA1、A4、A5、A8、A9、A12、A13およびA16を総称して「α位」とも称する。また、同様にして、下記式(2)および(3)中、A2、A3、A6、A7、A10、A11、A14およびA15の置換基を単に「β位の置換基」とも称する、またはA2、A3、A6、A7、A10、A11、A14およびA15を総称して「β位」とも称する。また、下記式(3)中の「-O-Y-O-」を、「リンカー」または「連結基」とも称する。「リンカー(連結基)」の両末端の酸素原子が、フタロシアニン系骨格のA1~A16のいずれかと結合し、フタロシアニン系骨格を連結する。
上記式(2)および(3)中、A1~A16は、それぞれ独立して、各置換基、各構造もしくはリンカー上の、「*」で表される結合部位のいずれかに結合する。ここで、各置換基、各構造およびリンカー(-Y(-O-)2または-Y(-O-)3)が結合するフタロシアニン系骨格上の結合部位(すなわち、A1~A16)の位置は、各フタロシアニン系骨格において同じであっても異なっていてもよい。例えば、式(3)において、リンカーの一方の末端が一方のフタロシアニン骨格のA1に結合した場合、リンカーの他方の末端は、他方のフタロシアニン系骨格のA1に結合してもよいし、その他の結合部位(すなわち、A2~A16のいずれか一つ)に結合してもよい。
以下、式(2)について詳述する。
上記式(2)中、Zは、それぞれ独立して、前記式(1)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基を表わす。Zの具体的な説明は、上記と同様であるため、ここでは重複事項については説明を省略する。なお、Zが複数存在する(lが2以上である)場合には、各Zは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。
lは、置換基「Z」がフタロシアニン系骨格に導入される数であり、1~12である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、lは、好ましくは1~5であり、より好ましくは2~4であり、特に好ましくは3である。
置換基「Z」がフタロシアニン系骨格に導入される位置は、特に制限されず、α位、β位またはα位とβ位との混在のいずれでもよい。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、置換基「Z」は、フタロシアニン系骨格の少なくともα位に存在することが好ましく、α位のみに存在することが好ましい。
上記式(2)中、Xは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表わす。なお、Xが複数存在する(pが2以上である)場合には、各Xは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。ここで、ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子がある。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、Xは、水素原子、塩素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
pは、置換基「X」がフタロシアニン系骨格に導入される数であり、0~12である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、pは、好ましくは0~8であり、より好ましくは0~5であり、特に好ましくは0~2である。
なお、下記構造:
は、上記式(2)および(3)中のA1~A4、A5~A8、A9~A12、A13~A16の隣接する2つの部位に結合し、フタロシアニン系骨格のβ位-β位またはα位-β位にわたって導入されてもよい。なお、本明細書中、「隣接する2つの部位」とは、1つのベンゼン環上において、ある部位を基準として、オルト位(2位)に存在する部位を意味する。例えば、「隣接する2つの部位」としては、A1とA2、A2とA3、A3とA4等である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、β位-β位(例えば、A2とA3)にわたって導入されることが好ましい。この際、同一の構成単位(A1~A4、A5~A8、A9~A12、A13~A16)中の残りの置換基がXであることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。すなわち、フタロシアニン系骨格が下記構造を有することが特に好ましい。
下記構造:
において、D、EおよびGは、それぞれ独立して、酸素原子(-O-)または硫黄原子(-S-)を表わす。なお、D、EおよびGは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。また、D、EおよびGが複数存在する(m、oが2以上である)場合には、D、EおよびGは、それぞれ、同じであってもまたは異なるものであってもよい。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、D、EおよびGは、酸素原子であることが好ましい。
qは、下記構造:
中、-D-Ph(Ph=フェニル基)と-E-Ph(Ph=フェニル基)とを連結するアルキレン基の炭素原子数を表わし、0~5である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、qは、好ましくは0~3であり、特に好ましくは0である。-D-Ph(Ph=フェニル基)と-E-Ph(Ph=フェニル基)とを連結する位置は、特に制限されない。具体的には、-D-Phの2位と-E-Phの2位と、-D-Phの3位と-E-Phの3位とが連結することが好ましく、-D-Phの2位と-E-Phの2位とが連結することが特に好ましい。すなわち、上記構造は、下記構造であることが好ましい。
また、下記構造:
は、上記式(2)および(3)中のA1~A4、A5~A8、A9~A12、A13~A16の隣接する2つの部位に結合し、フタロシアニン系骨格のβ位-β位(例えば、A2とA3)またはα位-β位(例えば、A1とA2、A3とA4)にわたって導入されてもよい。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、上記構造は、下記:
のようにβ位-β位にわたって導入されることが好ましく、フタロシアニン系骨格が下記構造:
を有することが特に好ましい。なお、上記構造において、α位には、他の置換基が導入される。
mは、下記構造:
がフタロシアニン系骨格に導入される数であり、0~7である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、mは、好ましくは0~5であり、より好ましくは0~1である。
下記構造:
において、R1は、-G-Ph(Ph=フェニル基)中に存在しえる置換基であり、それぞれ独立して、ハロゲン原子、-COOR2、フェニル基または炭素原子数1~4のアルキル基を表わす。このうち、ハロゲン原子及び炭素原子数1~4のアルキル基は、上記と同様の説明であるため、ここでは説明を省略する。また、「-COOR2」中のR2は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~12のアルキル基を表わす。ここで、R2が複数存在する(q’が2以上である)場合には、各R2は、同じであってもまたは異なるものであってもよい。また、炭素原子数1~12のアルキル基は、直鎖、分岐鎖または環状のいずれであってもよい。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、2,2-ジメチル-4,4-ジメチル-ブチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基などが挙げられる。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、R1は、好ましくはフェニル基、メチル基、エチル基であり、より好ましくはフェニル基、メチル基である。q’は、置換基「R1」が-G-Ph(Ph=フェニル基)のフェニル基に導入される数であり、それぞれ独立して、0~5である。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、q’は、好ましくは0~3であり、より好ましくは0~2である。ここで、R1のフェニル基への導入位置は特に制限されない。例えば、q’が1である場合には、R1は、2位、3位、4位のいずれでもよいが、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、2位、4位が好ましく、2位がより好ましい。また、q’が2である場合には、R1は、2,6位、2,5位、2,4位、3,4位、3,5位などに存在できる。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、2,4位、3,5位が好ましい。q’が3である場合には、R1は、2,4,6位、2,5,6位などに存在できる。
oは、下記構造:
がフタロシアニン系骨格に導入される数であり、0~15である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、oは、好ましくは4~12であり、より好ましくは5~9である。
上記構造(-G-Ph:Ph=1以上の置換基R1を有していてもよいフェニル基)がフタロシアニン系骨格に導入される位置は、特に制限されず、α位、β位またはα位とβ位との混在のいずれでもよい。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、上記構造は、フタロシアニン系骨格の少なくともα位に存在することが好ましい。
nは、下記構造:
がフタロシアニン系骨格に導入される数であり、0~3である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、nは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1であり、特に好ましくは1である。当該構造をフタロシアニン系骨格に導入することにより、より高い平面性を有する分子を形成することができるため、平面性が高い状態で各分子が互いに積層しやすくなる。その結果、高い耐光性を発揮できるフタロシアニン系化合物が得られる。また、当該構造の導入による共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材では耐光性をさらに向上できる。さらに、上記のような共役系の拡張により、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)は長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率をさらに向上できる。
なお、上記式(2)中、1、m、n、o及びpは、下記関係を満たす。
Mは、中心金属であり、金属、金属酸化物または金属ハロゲン化物を表わす。ここで、金属としては、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等が挙げられる。金属酸化物としては、チタニル、バナジル(VO)等が挙げられる。金属ハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、塩化インジウム、塩化ゲルマニウム、塩化錫(II)、塩化錫(IV)、塩化珪素、塩化バナジウム等が挙げられる。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、中心金属Mは、好ましくは亜鉛、銅、バナジウムならびにこれらの酸化物およびハロゲン化物から選択される。すなわち、本発明の好ましい形態では、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、亜鉛、銅およびバナジウムならびにこれらの酸化物およびハロゲン化物からなる群より選択される中心金属を有する。なお、特に良好な可視光透過率が得られるという観点から、中心金属Mは、銅、亜鉛およびバナジルから選択されることがより好ましい。これらからMを選択することにより、吸収スペクトル(吸収帯)をよりシャープにし、可視光透過率をさらに向上させることができる。また、耐光性をさらに向上させるという観点からは、中心金属Mは、銅またはバナジルであると好ましく、銅であるとより好ましい。特に、銅は、他の原子を伴うことなく(例えば、バナジルであればV以外に酸素原子を伴うため、平面性は低下する)、二価イオンとしてフタロシアニン骨格内に存在できることから、高い平面性を有するフタロシアニン系化合物を得ることができる。そのことにより銅は複数の分子が積層しやすく、色素分子が安定化しやすい。このような観点からも耐光性の向上に寄与していると考えられる。一方で、可視光透過率を向上させ、また、溶媒等に対する溶解性を向上させるといった観点からは、中心金属Mは、亜鉛またはバナジルであると好ましく、亜鉛であるとより好ましい。
以下では、上記式(3)中の各置換基及び置換基数を説明する。なお、特記しない限り、具体的な説明は、上記式(2)と同様であるため、ここでは重複事項については説明を省略する。上記式(3)のフタロシアニン系化合物において、一分子中に含まれる複数のフタロシアニン系骨格において、各フタロシアニン系骨格は同じ構造を有するものであってもまたは異なる構造を有するものであってもよい。また、1つのフタロシアニン系骨格上のA1~A16のうち、いずれか1個は、リンカー(-Y-O-)の酸素原子側に付された「*」で表される結合部位に結合し、残りのA1~A16は、式(3)中に規定される置換基に結合する。
上記式(3)中、Yは、それぞれ独立して、置換基を有してもよいフェニレン基、シクロヘキシレン基、炭素原子数1~4のアルキレン基またはアルコキシ基(-R3-O-:R3は、炭素原子数1~4のアルキレン基を表わす)を表わす。なお、tが1である場合には、Yは2価の基を表わし、tが2である場合には、Yは3価の基を表わす。このため、例えば、Y=置換基を有してもよいフェニレン基かつt=1の場合には、Yは、下記構造:
を有する2価の基である。なお、上記構造中、R11は置換基を表わし、aは0~3の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、aは、それぞれ独立して、0または1であると好ましく、0であるとより好ましい。なお、aが1以上である場合、置換基R11のフェニレン基への結合位置は、特に制限されない。一方、Y=置換基を有してもよいフェニレン基かつt=2の場合には、Yは、下記構造:
を有する3価の基である。すなわち、本発明に係るフタロシアニン系化合物の好ましい形態としては、上記式(3)中、tが1である二量体およびtが2である三量体がある。なお、上記構造中、R11は置換基を表わし、bは0~2の整数である。良好な可視光透過率を維持し、耐光性を向上させるという観点から、bは、それぞれ独立して、0または1であると好ましく、0であるとより好ましい。
これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、Yは、置換基を有してもよいフェニレン基であることが好ましく、無置換のフェニレン基であることがより好ましい。
リンカーを構成する酸素原子のフェニレン基に対する結合位置は、特に制限されない。例えば、Yがベンゼン由来の2価の基(フェニレン基)である場合には、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する2つの酸素は、それぞれ1,2位(オルト位)または1,4位(パラ位)に置換すると好ましく、1,4位(パラ位)に置換すると特に好ましい。また、Yがベンゼン由来の3価の基である場合には、フタロシアニン骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、リンカーを構成する3つの酸素は、互いに1,3,5位にそれぞれ置換すると好ましい。
ここで、炭素原子数1~8のアルキレン基は、特に制限されないが、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基などの直鎖または分岐鎖のアルキレン基が挙げられる。これらのうち、フタロシアニン系骨格同士の立体障害をより小さくして平面性の高い分子を形成し、耐光性を高めるという観点から、炭素原子数2~8の直鎖または分岐鎖のアルキレン基が好ましく、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基がより好ましく、トリメチレン基が特に好ましい。
Yがアルコキシ基である際のアルコキシ基は、式:-R3-O-で示される基である。ここで、R3は、炭素原子数1~4のアルキレン基を表わす。ここで、炭素原子数1~4のアルキレン基は、直鎖または分岐鎖のいずれであってもよい。具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基などがある。
フェニレン基、シクロヘキシレン基、アルキレン基またはアルコキシ基に存在してもよい置換基は、特に制限されない。例えば、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子)、アシル基(例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ブチルカルボニル基)、炭素原子数1~20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基)、炭素原子数2~21のエステル基(-C(=O)OR12;R12は、炭素原子数1~20のアルキル基を表わす)、フェニル基、炭素原子数1~20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基)、ハロゲン化アルキル基(例えば、クロロメチル基、ブロモメチル基、トリフルオロメチル基、クロロエチル基)、ハロゲン化アルコキシル基(例えば、クロロメトキシ基、ブロモメトキシ基、トリフルオロメトキシ基、クロロエトキシ基)、ニトロ基(-NO2)、アミノ基(-NH2)、アルキルアミノ基(例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-プロピルアミノ基、n-ブチルアミノ基、sec-ブチルアミノ基、n-ペンチルアミノ基、n-ヘキシルアミノ基、n-ヘプチルアミノ基、n-オクチルアミノ基、2-エチルヘキシルアミノ基)、アルキルカルボニルアミノ基、アリールアミノ基(例えば、アニリノ基、o-,m-若しくはp-トルイジノ基、1,2-若しくは1,3-キシリジノ基、o-,m-若しくはp-メトキシアニリノ基)、アリールカルボニル基、カルボニル基、アルコキシカルボニル基(例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基)、アルキルアミノカルボニル基(例えば、メチルアミノカルボニル基、エチルアミノカルボニル基)、アルコキシスルホニル基(例えば、メトキシスルホニル基、エトキシスルホニル基、n-プロピルオキシスルホニル基、n-ブチルオキシスルホニル基、n-ペンチルオキシスルホニル基、エチルヘキシルオキシスルホニル基)、アルキルチオ基(例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、n-プロピルチオ基、イソプロピルチオ基、n-ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec-ブチルチオ基、tert-ブチルチオ基)、カルバモイル基(例えば、カルバモイル基、メチルカルバモイル基、ジエチルカルバモイル基、フェニルカルバモイル基)、アリールオキシカルボニル基(例えば、フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基)、オキシアルキルエーテル基(例えば、エチレングリコールヘプチルエーテル基、オキシエチレンオレイルエーテル基、オキシプロピレンブチルエーテル基、オキシプロピレン2-エチルヘキシルエーテル基)、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、シアノ基(-CN)などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、アルキル基、アルコキシ基が好ましい。なお、上記「置換基」は、同一の置換基で置換されることはない。すなわち、置換のアルキル基は、アルキル基で置換されることはない。上記置換基よりその一部をより具体的な例を挙げて以下に示す。置換基が炭素原子数1~20のアルキル基(より好ましくは炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基)であることが好ましく、Yが炭素原子数1~20のアルキル基(より好ましくは炭素原子数1~8の直鎖または分岐鎖のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基)を有するフェニレン基であることがより好ましい。これにより、共役系が拡張し、電子供与性に起因して、フタロシアニン系化合物の最大吸収波長(λmax)が長波長側へシフトする。その結果、良好な熱線吸収能を維持しつつ、可視光透過率がさらに向上する。さらに、共役系の拡張により、分子内における電子的な安定性が増す。これにより、熱線吸収材に樹脂等の媒体を使用した場合、紫外線の照射に起因する活性酸素、ラジカルなどによるフタロシアニン系化合物への攻撃が抑制でき、その結果、フタロシアニン系化合物の分解を有効に抑制・防止できる。よって、このようなフタロシアニン系化合物を用いた熱線吸収材は耐光性がさらに向上する。または、置換基がハロゲン原子または炭素原子数2~21のエステル基(より好ましくは炭素原子数2~10のエステル基、特に好ましくは-COOCH3)であることが好ましく、Yがハロゲン原子または炭素原子数2~21のエステル基(より好ましくは炭素原子数2~10のエステル基、特に好ましくは-COOCH3)を有するフェニレン基であることがより好ましい。これにより、電子吸引性や立体障害が大きくなることなどに起因して吸収スペクトル(吸収帯)がシャープになり、可視光透過率がさらに向上する。加えて、溶剤や樹脂への相溶性がさらに向上する。
上記式(3)中、tは、1または2である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、tは好ましくは1である。
上記式(3)中、Zは、それぞれ独立して、前記式(1)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基を表わす。
lおよびl’は、置換基「Z」が各フタロシアニン系骨格に導入される数であり、それぞれ独立して、1~12である。ここで、lおよびl’は、同じであってもまたは異なってもよい。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、lおよびl’は、好ましくは1~5であり、より好ましくは2~4であり、特に好ましくは2~3である。
置換基「Z」がフタロシアニン系骨格に導入される位置は、特に制限されず、α位、β位またはα位とβ位との混在のいずれでもよい。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、置換基「Z」は、フタロシアニン系骨格の少なくともα位に存在することが好ましく、α位のみに存在することが好ましい。
Xは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を表わす。pおよびp’は、置換基「X」が各フタロシアニン系骨格に導入される数であり、それぞれ独立して、0~12である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、pは、好ましくは0~8であり、より好ましくは0~5であり、特に好ましくは0~2である。
下記構造:
において、D、EおよびGは、それぞれ独立して、酸素原子(-O-)または硫黄原子(-S-)を表わす。なお、D、EおよびGは、同じであってもまたは異なるものであってもよい。また、D、EおよびGが複数存在する(m、m’、o、o’が2以上である)場合には、D、EおよびGは、それぞれ、同じであってもまたは異なるものであってもよい。これらのうち、耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、D、EおよびGは、酸素原子であることが好ましい。
mおよびm’は、下記構造:
が各フタロシアニン系骨格に導入される数であり、それぞれ独立して、0~7である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、mは、好ましくは1~5であり、より好ましくは2~4である。
oおよびo’は、下記構造:
が各フタロシアニン系骨格に導入される数であり、それぞれ独立して、0~15である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、oは、好ましくは2~8であり、より好ましくは3~5である。
nおよびn’は、下記構造:
が各フタロシアニン系骨格に導入される数であり、それぞれ独立して、0~3である。耐光性、熱線吸収能および可視光透過率の向上効果などの観点から、nは、好ましくは0~2であり、より好ましくは0または1である。
なお、上記式(3)中、1、m、n、o、p及びtは、下記関係を満たす。
また、上記式(3)中、l’、m’、n’、o’及びp’は、下記関係を満たす。
本発明に係るフタロシアニン系化合物の好ましい具体例としては、下記式(I)~(V)で表される化合物が挙げられる。なお、下記式(I)~(V)において、A1、A2、C1およびC2はそれぞれフタロシアニン骨格のβ位に結合し、B1、B2、D1およびD2はそれぞれフタロシアニン骨格のα位に結合している置換基を表す。また、A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1およびD2としての置換基は、それぞれ独立して、以下に示すR-1~R-8のいずれかを表す。なお、これら置換基は、互いに同じであっても、異なっていてもよい。Xは、リンカーを表し、以下に示すX-1~X-3のいずれかを表す。a、b、cおよびdは、A1またはC1、A2またはC2、B1またはD1、B2またはD2の個数をそれぞれ示す。これら置換基およびその個数ならびにリンカーの好ましい組み合わせを下記の表1に示す。
[フタロシアニン系化合物の製造方法]
本発明に係るフタロシアニン系化合物の製造方法は、特に制限されず、例えば、特開2000-26748号公報、特開2001-106689号公報、特開2005-220060号公報に記載の方法などの従来公知の方法を適宜修飾して適用することができる。例えば、上記式(2)のフタロシアニン系化合物は、以下のような方法で製造できる。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。置換基「Z」以外の置換基の導入については、Z以外の置換基を所定の位置に有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(1)とも称する)を準備する。また、置換基「Z」の導入については、テトラメチルピぺリジン含有基が導入される部位にエステル基(-C(=O)OR100;R100は、炭素原子数1~8のアルキル基を表わす)を有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(2)とも称する)を準備する。なお、上記原料フタロニトリル化合物は、特開昭64-45474号公報、特開2009-242791号公報、特開2011-12167号公報、特開2002-302477号公報等に開示されている方法などの、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできる。これらのフタロニトリル化合物(1)および(2)を、溶融状態または有機溶媒中で、金属化合物と環化反応させて、フタロシアニン前駆体(1)を得る。なお、式(2)中のnが1以上である場合には、ナフタロニトリル化合物(2,3-ジシアノナフタレンまたはその誘導体)をさらに使用する。次に、このフタロシアニン前駆体(1)中のエステル基(-C(=O)OR100)を、酸(例えば、濃塩酸)などを用いてカルボキシル基(-COOH)に変換して、フタロシアニン前駆体(2)を得る。さらに、このフタロシアニン前駆体(2)を、テトラメチルピぺリジン含有基を有する化合物(以下、テトラメチルピぺリジン含有化合物とも称する)と反応させる。これにより、下記反応式(1)に示されるように、フタロシアニン前駆体(2)中のカルボキシル基とテトラメチルピぺリジン含有化合物のテトラメチルピぺリジン含有基の炭素部位(下記構造中の「炭素部位」)とが反応して、所望のフタロシアニン系化合物が得られる。または、下記反応式(2)に示されるように、フタロシアニン前駆体(2)中のカルボキシル基とテトラメチルピぺリジン含有化合物のテトラメチルピぺリジン含有基の窒素部位(下記構造中の「窒素部位」)とが反応して、所望のフタロシアニン系化合物が得られる。
また、例えば、上記式(3)のフタロシアニン系化合物は、以下のような方法で製造できる。しかしながら、本発明は、下記好ましい実施形態に制限されるものではない。Z以外の置換基を所定の位置に有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(1)とも称する)を準備する。また、式(3)中のt=1の場合には、置換基「Z」以外の置換基の導入については、下記式(2-A)を有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(2’)とも称する)を準備する。また、式(3)中のt=2の場合には、置換基「Z」以外の置換基の導入については、下記式(3-A)を有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(3’)とも称する)を準備する。なお、下記式(2-A)および(3-A)中、Z10~Z15およびZ20~Z28は、それぞれ、上記式(2)および(3)の置換基「Z」以外の置換基に対応するため、ここでは、説明を省略する。出発原料である下記式(2-A)および(3-A)で示されるフタロニトリル化合物(2’)および(3’)は、特開昭64-45474号公報、特開2009-242791号公報、特開2011-12167号公報、特開2002-302477号公報等に開示されている従来既知の方法を適宜修飾して適用することにより合成できる。具体的には、ハロゲン化フタロニトリル化合物(例えば、テトラフルオロフタロニトリル、テトラクロロフタロニトリル等)と、式:OH-Ph(Ph=適切な置換基を有するフェニル基)で表される化合物と、式:Y-(OH)2で表されるジヒドロキシ化合物または式:Y-(OH)3で表されるトリヒドロキシ化合物とを、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、フッ化ナトリウム等の塩基性化合物の存在下でカップリングさせることにより合成する方法が採用できる。
また、置換基「Z」の導入については、テトラメチルピぺリジン含有基が導入される部位にエステル基(-C(=O)OR100;R100は、炭素原子数1~8のアルキル基を表わす)を有するフタロニトリル化合物(以下、フタロニトリル化合物(2)とも称する)を準備する。所望のフタロシアニン系化合物の構造にもとに、これらのフタロニトリル化合物(1)、(2)、(1’)および(2’)を適切に選択し、選択したフタロニトリル化合物の混合物を、溶融状態または有機溶媒中で、金属化合物と環化反応させて、フタロシアニン前駆体(1’)を得る。次に、このフタロシアニン前駆体(1’)中のエステル基(-C(=O)OR100)を、上記式(2)のフタロシアニン系化合物の製造方法と同様にして、カルボキシル基(-COOH)に変換し、フタロシアニン前駆体(2’)を、得、このフタロシアニン前駆体(2)をテトラメチルピぺリジン含有化合物と反応させて、所望のフタロシアニン系化合物を得る。なお、式(3)中のnまたはn’が1以上である場合には、ナフタロニトリル化合物(2,3-ジシアノナフタレンまたはその誘導体)をさらに使用する。
上記環化反応において用いられる金属化合物としては、特に制限されないが、上記式(2)および(3)中のM(中心金属)として例示された金属;これら金属の金属酸化物;これら金属のアルコキシド;これら金属の金属カルボニル;これら金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化物;これら金属の有機酸金属;これら金属の錯体化合物等が挙げられる。具体的には、鉄、マグネシウム、ニッケル、コバルト、銅、パラジウム、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、錫等の金属;一酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、二酸化チタン、一酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化マンガン、一酸化ニッケル、一酸化コバルト、三二酸化コバルト、二酸化コバルト、酸化第一銅、酸化第二銅、三二酸化銅、酸化バラジウム、酸化亜鉛、一酸化ゲルマニウム、及び二酸化ゲルマニウム等の金属酸化物;メトキシインジウム等の金属アルコキシド;コバルトカルボニル、鉄カルボニル、ニッケルカルボニル等の金属カルボニル;塩化バナジウム、塩化チタン、塩化銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化インジウム、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化ガリウム、塩化ゲルマニウム、塩化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化コバルト、ヨウ化インジウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ガリウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化コバルト、臭化アルミニウム、臭化ガリウム等の金属ハロゲン化物;酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸亜鉛等の有機酸金属;上記金属のアセチルアセトナート錯体等の錯体化合物等が挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物および金属ハロゲン化物であり、より好ましくは金属ハロゲン化物であり、さらに好ましくは、塩化バナジウム、ヨウ化バナジウム、塩化銅、ヨウ化銅、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛であり、より好ましくは、塩化バナジウム、塩化銅およびヨウ化亜鉛である。
また、環化反応は、無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうのが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのフタロニトリル化合物およびナフタロニトリル化合物との反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、o-クロロトルエン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1-クロロナフタレン、1-メチルナフタレン、ベンゾニトリル等の不活性溶媒;メタノール、エタノール、1-プロパノ-ル、2-プロパノ-ル、1-ブタノール、1-ヘキサノール、1-ペンタノール、1-オクタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;ピリジン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリジノン、N,N-ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ-n-ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらのうち、好ましくは、1-クロロナフタレン、1-メチルナフタレン、1-オクタノール、ジクロロベンゼン、ベンゾニトリルが、より好ましくは1-オクタノール、ベンゾニトリルが使用される。これらの溶媒は1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。有機溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、原料フタロニトリル化合物の合計濃度(総量)が、2~80重量%となる量であると好ましく、10~70重量%となる量であるとより好ましく、15~60重量%となる量であると特に好ましい。
環化反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではない。例えば、反応温度は、100~240℃であると好ましく、130~200℃であるとより好ましい。反応時間も特に制限はないが、1~72時間であると好ましく、3~48時間であるとより好ましく、5~30時間であると特に好ましい。また、添加される金属化合物の量は特に制限されないが、フタロニトリル化合物の合計4モルに対して0.8~2モルであると好ましく、1.0~1.5モルであるとより好ましい。
また、上記反応は、大気雰囲気中で行なってもよいが、金属化合物の種類により、不活性ガスまたは酸素含有ガス雰囲気(例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、または酸素/窒素混合ガスなどの流通下)で、行なわれることが好ましい。
上記環化反応後は、従来公知の方法に従って、晶析、ろ過、洗浄、乾燥を行なってもよい。このような操作により、フタロシアニン系化合物を効率よく得ることができる。また、用いるフタロニトリル化合物の種類に応じて、置換基の位置や導入数が異なる副生成物が生じるが、所望のフタロシアニン系化合物と、それ以外のフタロシアニン系化合物とを分離する操作を行ってもよい。かような分離手段として、例えば、カラムクロマトグラフィー等が挙げられる。
フタロシアニン系化合物は、上記方法によって、1種単独の状態で製造される場合に加え、2種以上の混合物(本明細書中、単に「フタロシアニン系化合物の混合物」または「混合物」とも称することがある)の形態で製造されることもある。
前者の場合には、各フタロシアニン系化合物における各置換基の数は整数である。
一方、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、原料(フタロニトリル化合物および/またはナフタロニトリル化合物、ならびに、二量化フタロニトリル中間体/三量化フタロニトリル中間体を所望の割合において混合することによって製造する。この際、製造されたフタロシアニン系化合物は、各置換基が異なる位置に導入される場合や、また、リンカーとなる二量化フタロニトリル/三量化フタロニトリルを複数取り込む形で環化反応が進行する場合があるため、後者の場合のように、様々な構造を有する混合物の形態となりうる。この場合には、フタロシアニン系化合物(混合物)の各置換基の数は、これらの平均値として記載されるため、小数となりうる。また、このような混合物の場合には、吸収スペクトル(吸収帯)の重ね合わせによって、混合物の吸収スペクトルの吸収帯の幅が広くなる。よって、上記方法によって製造されるフタロシアニン系化合物の混合物は、熱線吸収効果がさらに向上すると推測される。
[熱線吸収材]
本発明に係るフタロシアニン系化合物は、高い耐光性を有する。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な熱線吸収能および可視光透過率を有する。すなわち、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、光強度の高い近赤外域の光を選択的に吸収し、可視光波長域での透過率を高くして(即ち、透明性を確保しつつ)、太陽光からの熱の吸収/遮断を効果的に行うという作用効果に優れることに加え、当該作用効果の持続性に優れる。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、耐熱性にも優れ、光照射後の黄変もまた抑制される。
さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、従来のフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と併用した際、特に高い可視光透過率を示す。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、樹脂との相溶性に優れ、かつ耐光性、耐熱性、耐候性に優れ、その特性を損なうことなく熱線吸収材として優れた作用効果を奏する。
したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、上記作用効果を熱線吸収材に付与することができる。よって、本発明の他の形態として、上記フタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。また、当該他の形態のより好ましい形態としては、上記記式(2-1)、(2-2)、(2-3)または(2-4)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基が少なくとも1個フタロシアニン骨格またはナフタロシアニン骨格に結合(導入)されてなるフタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。または、当該他の形態のより好ましい形態としては、上記式(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。さらに、当該他の形態の特に好ましい形態としては、Zが上記記式(2-1)、(2-2)、(2-3)または(2-4)で示される2,2,6,6-テトラメチルピぺリジン基を有する基である、上記式(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物を含む、熱線吸収材が提供される。なお、上記式(2)で表されるフタロシアニン系化合物および上記式(3)で表されるフタロシアニン系化合物は、熱線吸収材中、それぞれ単独で含まれていてもよいし、2種以上の混合物の形態で含まれていてもよい。また、上記式(2)で表されるフタロシアニン系化合物および上記式(3)で表されるフタロシアニン系化合物は、熱線吸収材中、各々の1種以上を組み合わせて含まれていてもよい。
本発明に係る熱線吸収材は、良好な熱線吸収能および透明性を維持しながら、高い耐光性を有する。ゆえに、本発明の熱線吸収材は、乗り物(例えば、自動車、バス、電車等)や建物の窓などの熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線反射ガラスに好適に用いることができる。例えば、自動車や建物の窓などの熱線吸収ガラスに使用すると、車内や室内の温度の上昇を有効に抑制することができると共に、良好な視界が確保できる。本発明に係る熱線吸収材は、400~600nmにおける透過率が高く、特に、460nmおよび510nm付近の波長の光(青色光~緑色光)を透過させやすい。ゆえに、青色光~緑色光を発するLEDランプの視認性を向上させることができる。よって、例えば、LEDを用いたヘッドライトの視認性が向上するため、本発明に係る熱線吸収材は、乗り物のフロントガラス(熱線吸収合わせガラス)の中間膜に好適に使用できる。
本発明に係る熱線吸収材は、本発明に係るフタロシアニン系化合物(好ましくは、上記他の形態の好ましい形態で規定されるフタロシアニン系化合物)を含む。したがって、当該フタロシアニン系化合物を使用する以外は、本発明に係る熱線吸収材は、従来と同様の熱線吸収材として適用できる。
本発明に係る熱線吸収材の形態は、特に制限されず、公知のいずれの形態であってもよいが、用途を考慮すると、通常の形態として、本発明に係るフタロシアニン系化合物(好ましくは、上記他の形態の好ましい形態で規定されるフタロシアニン系化合物)に加えて、樹脂を含む。よって、本発明に係る熱線吸収材は、本発明に係るフタロシアニン系化合物に加え、樹脂をさらに含んでいると好ましい。以下、フタロシアニン系化合物および樹脂を含む組成物を「樹脂組成物」とも称することがある。
特に、上記式(3)のフタロシアニン系化合物は、従来技術によるフタロシアニン系化合物と比較して、樹脂と混合した場合であっても、可視光透過率が非常に高いことが判明した。この詳細な理由は不明であるが、以下のように考察される。従来のフタロシアニン系化合物は、樹脂中において吸収スペクトル(吸収帯)がブロード化することにより、可視光透過率が低下する傾向にある。しかしながら、上記式(3)のフタロシアニン系化合物は、適切なリンカーによってフタロシアニン骨格を構成する炭素原子同士が連結されてなるため、吸収スペクトル(吸収帯)のブロード化を抑制し、良好な可視光透過率を達成できると推測される。
さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、溶媒溶解性や樹脂との相溶性に優れ、耐光性、耐熱性、耐候性等の諸特性に優れる。このため、プラスチックフィルムなどへの塗布性に優れ、工業的に大面積への塗布(大量生産)が可能である。また同じく、樹脂に直接練り込むこともできることから、大型成形(大量生産)も可能である。
熱線吸収材におけるフタロシアニン系化合物の含有量は、用途または樹脂の厚みによって適宜選択されるが、樹脂の固形分100重量部に対して、0.0005~20重量部であると好ましく、0.001~10重量部であるとより好ましい。このような範囲とすることにより、用途にあった熱線吸収能および可視光透過率を有すると共に、優れた耐光性を有する熱線吸収材を得ることができる。
本発明に係る熱線吸収材は、耐光性に優れる。ここで、本発明に係る熱線吸収材の好ましい耐光性(24時間照射前後の最大吸収波長での吸光度の維持率)としては、60%を超え、より好ましくは65%以上であり、特に好ましくは70%を超える(上限:100%)。なお、当該耐光性は、実施例記載の方法により測定される値を採用する。
また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、最大吸収波長(λmax)が700nm以上であり、太陽光の熱線吸収能に大きく関与する波長領域(670~850nm)の吸収が大きい。ゆえに、上記フタロシアニン化合物を含む本発明に係る熱線吸収材は、熱線吸収能に優れる。より具体的には、本発明に係るフタロシアニン系化合物を含む熱線吸収材は、好ましくは710~850nm、より好ましくは720~830nm、特に好ましくは725~800nmの波長域の光を選択的に吸収することができる。本発明に係るフタロシアニン系化合物または本発明に係るフタロシアニン系化合物を含む熱線吸収材は、例えば、乗り物(例えば、自動車、バス、電車等)や建物の窓などの熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線遮蔽フィルム、熱線遮蔽樹脂ガラス、熱線反射ガラスに使用すると、車内や室内の温度の上昇を有効に抑制することができる。
また、本発明に係る熱線吸収材は、透明性に優れる(高い可視光透過率を有する)。ここで、本発明に係る熱線吸収材の好ましい可視光透過率(510nmでの透過率)としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)ある。また、本発明に係る熱線吸収材の好ましい可視光透過率(460nmでの透過率)としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)である。本発明に係る熱線吸収材の好ましい可視光透過率(610nmでの透過率)としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上(上限:100%)である。なお、上記460nm、510nm及び610nmでの透過率は、実施例記載の方法により測定される値を採用する。
熱線吸収材に含まれる樹脂としては、一般に光学材料に使用しうるものであれば特に制限されないが、透明性の高いものが好ましく、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィン樹脂;ポリスチレン樹脂;(メタ)アクリル酸エステル樹脂;酢酸ビニル樹脂;ハロゲン化ビニル樹脂;ポリビニルアルコール等のビニル樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリアリレート(PAR)等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;エポキシ樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン等のポリアリールエーテル樹脂;ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂等のポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。上記樹脂は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
これらのうち、溶融または溶液化が可能であるものが好ましく使用される。この際、溶融が可能な樹脂を使用し、フタロシアニン系化合物を練りこむことで成形加工が可能な樹脂組成物が得られる。ここで、本発明に係るフタロシアニン系化合物は耐熱性にも優れるため、熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形等の生産性に優れた成形方法を採用することができる。
なかでも、本発明に係る熱線吸収材に含まれる樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル樹脂;酢酸ビニル樹脂;ポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリアリールエーテル樹脂;ポリビニルアセタール樹脂から選択される少なくとも一種を含むと好ましい。さらに、本発明に係るフタロシアニン系化合物との相溶性に優れ、また、特に高い可視光透過率が得られることから、熱線吸収材に含まれる樹脂は、エーテル結合を有すると好ましい。さらに同様の観点から、熱線吸収材に含まれる樹脂は、ポリビニルアセタール樹脂を含むと特に好ましい。すなわち、本発明の熱線吸収材は、ポリビニルアセタール樹脂をさらに含むことが好ましい。特に、熱線吸収材がD、E及びGが酸素原子である上記式(2)または(3)で表されるフタロシアニン系化合物を含む場合、ポリビニルアセタール樹脂に含まれるエーテル結合や水酸基が、フタロシアニン系化合物中のフェノキシ基等と相互作用しやすいため、上記効果がより効果的に得られると推測される。
また、溶液化が可能な樹脂にフタロシアニン系化合物を溶液化することで、コーティング可能な樹脂組成物を得ることができる。このような樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、ポリエステル樹脂等が挙げられる。
上記樹脂の分子量は特に制限されないが、ポリスチレン換算の重量平均分子量が1万以上であると好ましく、2万以上であるとより好ましい。他方、分子量の上限は特に制限されないが、50万以下程度であると好ましい。
上記樹脂のポリマー構造に制限はなく、直鎖型または分岐型であってもよいが、直鎖型よりも分岐型の方が樹脂は割れにくくなり耐久性が高くなるため好ましい。分岐構造にすると高分子量化した場合でも樹脂の粘度が低く、取り扱いが容易になる。分岐型の樹脂を得るためにはマクロモノマー、多官能モノマー、多官能開始剤、多官能連鎖移動剤が使用できる。
また、上記樹脂は、粘着剤もしくは接着剤、またはこれらの混合物であってもよい。粘着剤や接着剤を用いた場合、他の機能性フィルムと貼りあわせることができるため、簡便かつ経済的に熱線吸収材を製造することができる。
上記の粘着剤として好適な樹脂としては、アクリル系、シリコン系、SBR系等が挙げられる。特に好ましくはエチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート等を主成分として重合したポリマーであり、具体的にはアクリセット(登録商標)AST((株)日本触媒製)等が挙げられる。さらに、好適な粘着剤は、シクロヘキシル基、イソボルニル基等の脂環式アルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合したアクリル樹脂である。また、カルボキシル基等の酸性基を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合することも可能である。
上記の接着剤として好適な樹脂としては、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系、エチレン-酢酸ビニル共重合体、カルボキシル化ポリオレフィン、塩素化ポリオレフィン等のポリオレフィン系が挙げられる。
熱線吸収材は、さらに溶剤を含んでいてもよい。かような溶剤としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物および樹脂を溶解または分散できる溶剤であれば限定されない。例えば、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂肪族系;トルエン、キシレン等の芳香族系;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系;アセトニトリル等のニトリル系;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、2-メトキシエタノール等のアルコール系;テトラヒドロフラン、ジブチルエーテル等のエーテル系;ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のグリコールエーテル系:トリエチレングリコールジ-(2-エチル)ブチレート、トリエチレングリコールジ-(2-エチル)ヘキサノエート等のエーテルエステル系;ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド系;塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン系が挙げられる。これらは、単独で使用されても、または混合して使用されてもよい。耐久性を向上させるためには、メチルエチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン等の沸点が100℃以下の溶媒が好適である。また、コーティング時の塗膜外観を向上させるためには、トルエン、メチルイソブチルケトン、酢酸ブチル等の沸点が100~150℃の溶媒が好適である。塗膜の耐クラック性を向上させるためには、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールn-プロピルエーテル、プロピレングリコールn-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等の沸点が150~200℃の溶媒が好適である。
本発明に係る熱線吸収材は、可視光吸収色素、近赤外線吸収剤、紫外線吸収剤(以下、一括して、「他の吸収剤」とも称する)をさらに含んでいてもよい。このように他の吸収剤をさらに使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物が吸収できない、または吸収が十分でない波長域の光を吸収できる。なかでも、熱線吸収効率を向上させるため、近赤外線吸収剤を含むとより好ましい。
ここで、可視光吸収色素としては、特に制限されず、シアニン系、テトラアザポルフィリン系、アズレニウム系、スクアリリウム系、ジフェニルメタン系、トリフェニルメタン系、オキサジン系、アジン系、チオピリリウム系、ビオローゲン系、アゾ系、アゾ金属錯塩系、ビスアゾ系、アントラキノン系、ペリレン系、インダンスロン系、ニトロソ系、金属チオール錯体系、インジコ系、アゾメチン系、キサンテン系、オキサノール系、インドアニリン系、キノリン系等従来公知の色素を広く使用することができる。例えば、アデカアークルズ(登録商標、以下同じ)TW-1367、アデカアークルズSG-1574、アデカアークルズTW1317、アデカアークルズFD-3351、アデカアークルズY944(いずれも(株)ADEKA製)、NK-5451、NK-5532、NK-5450(いずれも林原生物化学研究所製)等が挙げられる。可視光吸収色素は溶媒に溶解する染料であってもよいし、ヘイズが問題にならない程度に微粒化した顔料であってもよい。
また、近赤外線吸収剤としては、特に制限されず、用途によって所望される最大吸収波長によって公知の近赤外線吸収剤が適宜選択されうる。ここで、近赤外線吸収剤の最大吸収波長は、750nm以上であると好ましく、800nm以上であるとより好ましい。ここで、最大吸収波長の最大値は特に制限されないが、1500nm以下であると好ましく、1000nm以下であると特に好ましい。当該波長域の光を吸収する近赤外線吸収剤を使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物が吸収できない、または吸収が十分でない波長域の光を吸収できるため、熱線遮蔽効果をさらに向上できる。なお、他の吸収剤としての近赤外線吸収剤は、本発明に係るフタロシアニン系化合物とは異なる色素である。このような他の吸収剤としての近赤外線吸収色素としては、特に制限されず、所望の吸収スペクトルが得られるように適宜選択できる。より具体的には、特開2000-26748号公報、特開2001-106689号公報、特開2004-018561号公報、特開2007-56105号公報、特開2011-116918号公報等に記載されるフタロシアニン化合物を用いてなる近赤外吸収色素などが挙げられる。また、他の吸収剤としての近赤外線吸収色素は、市販品を用いてもよい。市販品としては、IR-915、IR-12、IR-14、IR-20、HA-1(いずれも、株式会社日本触媒製のフタロシアニン化合物)等が挙げられる。
また、紫外線吸収剤としては、特に制限されず、公知の紫外線吸収剤が使用できる。具体的には、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系、シアノアクリレート系の化合物が好適に使用される。特にヒンダードアミン系が好ましい。
上記他の吸収剤は単独で使用してもよいし、あるいは2種以上を混合して使用してもよく、用途によって適宜選択することが出来る。好ましくは、本発明に係る熱線吸収材は、近赤外吸収色素をさらに含むことが好ましく、800nm以上の最大吸収波長を有する近赤外吸収色素をさらに含むことがより好ましい。
熱線吸収材中における上記他の吸収剤の含有量は特に制限されず、用途により要求される吸収波長域、可視光透過率および日射透過率が異なるため、一概には決定することはできない。上記他の吸収剤の含有量の一例としては、樹脂の固形分100重量部に対して、好ましくは0.001~10重量部、より好ましくは0.005~8重量部である。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物との混合比もまた、特に制限されないが、本発明に係るフタロシアニン系化合物100重量部に対して、他の吸収剤は1~1000重量部含まれていると好ましく、10~500重量部含まれているとより好ましい。かような範囲であれば、可視光線の透過率に影響することなく、日射透過率を下げることができる。好ましい可視光線の透過率としては、70%以上であり、より好ましくは80%以上である。
また、本発明に係る熱線吸収材は、800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)をさらに含んでいてもよい。このように熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)を使用することによって、本発明に係るフタロシアニン系化合物による吸収能力の低い近赤外領域での熱線吸収能力を向上できる。すなわち、上記熱線吸収材において、800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)をさらに含む形態も本発明の好ましい形態の一つである。また、熱線吸収材が800nm以上の最大吸収波長を有する近赤外吸収色素および800nm以上に最大吸収波長を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の少なくとも一方をさらに含む形態も本発明の好ましい形態の一つである。
上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)としては、熱線吸収能または紫外線吸収能を有するものが好ましい。具体的には、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、セシウムドープ酸化タングステン(CsWO3)等のアルカリ金属ドープ酸化タングステン、酸化アンチモン、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、アンチモン酸亜鉛、六ホウ化ランタン等が挙げられる。熱線吸収能を有する熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)は本発明に係るフタロシアニン系化合物や有機色素では吸収することのできない波長域である900nm以上、好ましくは1100nm以上、より好ましくは1200nm以上を吸収することができ、可視光透過率を維持したまま日射透過率を下げることができる。より好ましくは、アルカリ金属ドープ酸化タングステン、酸化インジウムスズまたはアンチモンドープ酸化スズである。具体的には、アルカリ金属ドープ酸化タングステンとしては、SG-IRC90SPM(Sukgyung社製)等がある。酸化インジウムスズとしては、PI-3(三菱マテリアル製)等がある。アンチモンドープ酸化スズとしては、SNS-10M、SNS-10T、SN100P、SN-100D、FS-10P、FS-10D(いずれも石原産業製)等がある。これらは微粒子状であり、平均分散粒子径は0.001~0.2μmであると好ましく、0.005~0.15μmであるとより好ましい。かような範囲であると透明性を損なわないので好ましい。
熱線吸収材中における上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の含有量は特に制限されず、用途により要求される吸収波長域、可視光透過率および日射透過率が異なるため、一概には決定することができない。上記熱線吸収無機化合物(無機系熱線吸収材料)の含有量の一例としては、本発明に係るフタロシアニン系化合物100重量部に対して、好ましくは1~1000重量部、より好ましくは10~500重量部である。かような範囲であれば、可視光線の透過率に影響することなく、日射透過率を下げることができる。
さらに、熱線吸収材には、その性能を失わない範囲でイソシアネート化合物、チオール化合物、エポキシ化合物、アミン系化合物、イミン系化合物、オキサゾリン化合物、シランカップリング剤、UV硬化剤等の樹脂硬化剤を使用してもよい。ただし、硬化剤を使用しない樹脂組成物の方が、コーティング液のポットライフが長くエージングが不要になるため、より好ましい。
さらにまた、熱線吸収材にはフィルムやコーティング剤等に使用される公知の添加剤を用いることができ、該添加材としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、粘性調整剤、つや消し剤、粘着付与剤、帯電防止剤、酸化防止剤、光安定化剤、消光剤、硬化剤、ブロッキング防止剤、可塑剤、滑り剤等が挙げられる。
本発明に係る熱線吸収材の使用形態は、特に限定されず、公知のいずれの形態であってもよい。具体的には、熱線を吸収/遮蔽することが好ましい対象物(透明基材)上に、フタロシアニン系化合物を含む塗膜またはフィルムが形成されてなる形態(形態(a));2枚の対象物(透明基材)の間にフタロシアニン系化合物含有中間層を設けてなる積層体の形態(形態(b));上記対象物中にフタロシアニン系化合物を含有してなる形態(形態(c))などが挙げられる。これらのうち、上記形態(a)および(b)が好ましく、上記形態(b)が特に好ましい。さらに上記形態(b)としては、樹脂組成物で2枚の透明基材を接着してなる形態が好ましい。
本発明に係る熱線吸収材の厚みについて、特に制限はなく、目的、用途に応じて適宜決定される。熱線吸収材の厚み(乾燥膜厚)は、好ましくは0.1μmから10mmである。また熱線吸収材に含まれるフタロシアニン系化合物の含有量も目的、用途に応じて、適宜決定される。熱線吸収材の厚みに関係なく、フタロシアニン系化合物の含有量を表示するとすれば、上方からの投影面積中の質量と考えて、0.01~2.0g/m2の配合量であると好ましく、さらに好ましくは0.05~1.0g/m2である。かような範囲とすることにより、可視光線の透過率が高く、また、十分な熱線吸収効果が得られる。可視光透過率は用途により異なるが、好ましい可視光線の透過率としては、70%以上である。より好ましくは80%以上である。
熱線を吸収/遮蔽することが好ましい対象物(透明基材)は、一般に光学材に使用しうるものであって、実質的に透明であれば特に制限はない。具体的な例としては、ガラス、シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン系ポリマー、ポリメチルメタクリレート等の(メタ)アクリル系エステル樹脂、ポリスチレン等のビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PETやPAR等のポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリールエーテル樹脂等が挙げられる。透明基材として、ガラス等の無機基材を使用する場合にはアルカリ成分が少ないものが色素の耐久性の観点から好ましい。
透明基材として樹脂系材料を使用する場合には、樹脂に公知の添加剤、耐熱老化防止剤、滑剤、帯電防止剤等を配合することができ、公知の射出成形、Tダイ成形、カレンダー成形、圧縮成形等の方法や、有機溶剤に溶融させてキャスティングする方法等で所望の形状に成形される。かかる透明基材は、必要に応じて延伸したり、他の樹脂と積層したりしてもよい。また、透明基材は、コロナ放電処理、火炎処理、プラズマ処理、グロー放電処理、粗面化処理、薬品処理等の従来公知の方法による表面処理や、アンカーコート剤やプライマー等のコーティングを施してもよい。
上記樹脂組成物を透明基材に塗布する際には公知の塗工機が使用できる。例えばコンマコーター等のナイフコーター、スロットダイコーター、リップコーター等のファウンテンコーター、マイクログラビアコーター等のキスコーター、グラビアコーター、リバースロールコーター等のロールコーター、フローコーター、スプレーコーター、バーコーター、スピンコーターが挙げられる。塗布前にコロナ放電処理、プラズマ処理等の公知の方法で基材の表面処理を行ってもよい。乾燥、硬化方法としては熱風、遠赤外線、UV硬化等公知の方法が使用できる。乾燥、硬化後は公知の保護フィルムとともに巻き取ってもよい。
樹脂組成物を塗布する場合、その塗膜の厚みに制限はないが、目的に応じて適宜決定される。好ましくは0.2μmから20mmである。
上記形態(a)において、本発明に係る熱線吸収材がフィルム形態である場合、透明基材としてはPETフィルムが好ましく、特に易接着処理をしたPETフィルムが好適である。具体的にはコスモシャイン(登録商標)A4300(東洋紡績製)、ルミラーU34(東レ製)、メリネックス705(帝人デュポン製)等が挙げられる。
上記フィルム形態である場合は、熱線吸収材に使用する樹脂は粘着剤樹脂またはUV硬化樹脂であると好ましい。粘着剤樹脂またはUV硬化樹脂を使用した場合、塗膜はフィルムの片面に形成してもよいし、両面に形成してもよいが、好ましくは片面に形成する。フィルムに塗膜を形成する場合は、樹脂組成物の塗工液を透明基材上に直接塗布してもよいし、離型性のある基材上に塗布した樹脂組成物の塗膜を透明基材上に転写してもよい。また、フィルムの反対面にUV硬化性の塗膜を形成してもよい。その場合は、上記フタロシアニン系化合物、UV硬化性モノマーまたはオリゴマー、光重合開始剤を含む塗工液を透明基材上に塗布するのがよい。また、フィルムの反対面に粘着剤を塗布してもよい。
上記形態(b)において、熱線吸収材が、上記樹脂組成物で2枚の透明基材を接着させてなる形態である場合、透明基材としてはガラス、PETフィルムが好ましい。2枚のガラス基材を接着する際の樹脂組成物に含まれる樹脂としては、接着性の観点から、ポリビニルアセタール樹脂(特にポリビニルブチラール樹脂)を使用すると好ましい。また、ポリビニルアセタール樹脂(特にポリビニルブチラール樹脂)は、上記のように、可視光透過率を向上させるという観点からも好ましい。
熱線吸収材を作製する方法としては、特に限定されないが、例えば、(1)樹脂組成物を混練、加熱成形する方法、(2)フタロシアニン系化合物と、硬化性モノマーあるいはオリゴマーおよび重合開始剤とともに型枠の中で重合し、成形する方法等が利用できる。
樹脂組成物を混練、加熱成形する際の成形条件は樹脂の種類により異なるが、通常、フタロシアニン系化合物を熱可塑性樹脂の粉体に溶融し混練後にペレット化してフタロシアニン系化合物濃度の高いマスターバッチとする。このマスターバッチをさらに該熱可塑性樹脂で希釈、溶融、混練、成形する方法が挙げられる。
本発明に係る熱線吸収材に用いられるフタロシアニン系化合物は、従来の赤外線吸収剤と比較して、耐熱性に優れているため、熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形といった、樹脂温度が200~350℃という高温まで上昇する成形方法を採用することが可能であり、透明性に優れ、熱線遮蔽性能に優れた成形品を得ることができる。
上記熱可塑性樹脂としては、シクロポリオレフィン、非晶質ポリオレフィン等のオレフィン樹脂、ポリメタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレン等のビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、PETやPAR等のポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリールエーテル樹脂等が挙げられる。
また、フタロシアニン系化合物と、硬化性モノマーあるいはオリゴマー、および重合開始剤とともに型枠の中で重合し成形する方法(上記(2)の方法)で用いられる硬化性モノマーあるいはオリゴマーとしては、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、エポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリイミド等を生成するモノマーまたはオリゴマー等が挙げられる。重合開始剤はモノマーやオリゴマーに応じて好適なものが使用できる。
樹脂組成物を成形する際、上記熱線吸収材は形状に制限はなく、用途に応じて適宜形成できる。平板状、フィルム状、波板状、球面状、ドーム状等様々な形状のものが含有される。厚みは、特に制限されないが、0.05~20mmが好ましい。このような範囲であれば、熱線吸収材として十分な強度や安全性が得られる。
本発明に係る熱線吸収材は、建築物や車輌用のウインドーフィルム、熱線吸収合わせガラス(合わせガラス遮熱中間膜)、熱線吸収樹脂グレージング、採光建材等に好適である。フィルム状の透明基材上に本発明に係る樹脂組成物の塗膜を形成してなる熱線吸収材は、ウインドーフィルムとして使用できる。ウインドーフィルムは建築物の内側に貼っても外側に貼ってもよい。ウインドーフィルムとして使用する場合は上記フタロシアニン系化合物を含む層の日射側に紫外線吸収層を設けることが好ましい。また、採光建材等のシート状の成形体として使用する場合は、多層押し出し方式により最外層に紫外線吸収材を添加し、内部層に本発明に係る熱線吸収材を使用するのが好ましい。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。下記において、特記しない限り、室温は、25℃を意味する。
<合成例1-1:フタロニトリル中間体(a)の合成>
以下のようにして、下記構造を有するフタロニトリル中間体(a)を合成した。
50mlの反応器に、3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル3.5g、2,4-ジメチルフェノール6.48g、3,5-ヒドロキシイソフタル酸ジメチル3.71gおよびアセトニトリル25gを投入した。当該混合物を5℃に保持した状態で炭酸カリウム10.64gを逐次投入し、その後、80℃に昇温して約2時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とするフタロニトリル中間体(a)10.25g(収率84.1モル%)を得た。
<合成例1-2:フタロシアニン系中間体(a)[(2,4-Me2PhO)12.8(2,4-Me2PhO)3.2(3,5-(MeOOC)2PhO)3.2(Np)0.8VOPc]の合成>
以下のようにして、主として下記構造を有するフタロシアニン系中間体(a)を合成した。
50ml反応器に、上記合成例1-1で得られたフタロニトリル中間体(a)9.75g、2,3-ジシアノナフタレン0.62g、三塩化バナジウム0.83g、ベンゾニトリル10gおよび1-オクタノール0.7gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で12時間撹拌した。混合物を25℃に冷却後、反応液をメタノールに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、フタロシアニン系中間体(a)6.54g(中間体(a)に基づく収率61.3モル%)を得た。
<合成例1-3:フタロシアニン系中間体(b)[(2,4-Me2PhO)12.8(2,4-Me2PhO)3.2(3,5-(HOOC)2PhO)3.2(Np)0.8VOPc]の合成>
以下のようにして、主として下記構造を有するフタロシアニン系中間体(b)を合成した。
50ml反応器に、上記合成例1-2で得られたフタロシアニン系中間体(a)5.29g、テトラヒドロフラン25gを投入し、窒素ガス雰囲気下60℃まで昇温し溶解させた。その後一旦、室温まで冷却し、濃塩酸2.03gを滴下し一晩攪拌した。その後60℃に昇温し約2時間撹拌した。反応液を25℃に冷却後、反応液をメタノール100gと水60gの混合液に滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥によりフタロシアニン系中間体(b)4.34g(フタロシアニン系中間体(a)に基づく収率84.9モル%)を得た。
<合成例2-1A:フタロニトリル中間体(b)の合成>
以下のようにして、下記構造を有するフタロニトリル中間体(b)を合成した。
50mlの反応器に、3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル1.5g、2,2’-ジヒドロキシビフェニル1.4gおよびアセトニトリル25gを投入した。当該混合物を5℃に保持した状態で炭酸カリウム2.18gを逐次投入し、その後60℃に昇温して約2時間反応させた。次いで2-フェニルフェノール1.28g、炭酸カリウム1.14gを投入し、80℃で約3時間反応させた。その後更にヒドロキノン0.413g、炭酸カリウム1.09gを投入し約6時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とするフタロニトリル中間体(b)2.83g(収率71.0モル%)を得た。
<合成例2-1B:フタロニトリル中間体(c)の合成>
以下のようにして、下記構造を有するフタロニトリル中間体(c)を合成した。
50mlの反応器に、3,4,5,6-テトラフルオロフタロニトリル2.0g、2,2’-ジヒドロキシビフェニル1.86gおよびアセトニトリル30gを投入した。当該混合物を5℃に保持した状態で炭酸カリウム2.9gを逐次投入し、その後60℃に昇温して約2時間反応させた。次いで、2-フェニルフェノール1.7g、炭酸カリウム1.152gを投入し、80℃で約3時間反応させた。その後更に4-ヒドロキシフェニル酢酸メチル1.66g、炭酸カリウム1.52g投入し約8時間反応させた。反応液を熱時濾過し、無機成分を除去後、濾液から溶媒を減圧留去した。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、目的とするフタロニトリル中間体(c)5.23g(収率81.4モル%)を得た。
<合成例2-2:フタロシアニン系中間体(c)[(2,2’-PhOPhO)7(2-PhPhO)7(4-(CH3OOCCH2)PhO)5(Np)1.0(CuPc)2]の合成>
以下のようにして、主として下記構造を有するフタロシアニン系中間体(c)を合成した。
50ml反応器に、上記合成例2-1Aで得られたフタロニトリル中間体(b)1.59g、合成例2-1Bで得られたフタロニトリル中間体(c)4.82g、2,3-ジシアノナフタレン0.267g、塩化第一銅0.163g、ベンゾニトリル5gおよび1-オクタノール3gを投入し、窒素ガス雰囲気下190℃で5時間撹拌した。混合物を25℃に冷却後、反応液をメタノール70g水15gの混合液に滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、メタノール40g水5gの混合液で撹拌洗浄後、結晶をろ取し、80℃で一晩減圧乾燥を行い、フタロシアニン系中間体(c)6.38g(フタロニトリル中間体(b)に基づく収率94.1モル%)を得た。
<合成例2-3:フタロシアニン系中間体(d)[(2,2’-PhOPhO)7(2-PhPhO)7(4-(HOOCCH2)PhO)5(Np)1.0(CuPc)2]の合成>
以下のようにして、主として下記構造を有するフタロシアニン系中間体(d)を合成した。
50ml反応器に上記合成例2-2で得られたフタロシアニン系中間体(c)5g、2-メトキシエタノール50g、炭酸カリウム1.95gを投入し、窒素ガス雰囲気下110℃まで昇温しフタロシアニン系中間体(c)を溶解させた。その後、水2.5gを滴下し7時間攪拌した。反応液を25℃に冷却後、アセトン45gと水45gの混合液に滴下し、更に濃塩酸約3.3gを滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥によりフタロシアニン系中間体(d)3.33g(フタロニトリル中間体(b)に基づく収率67.2モル%)を得た。
<実施例1:フタロシアニン系化合物(1)の合成>
以下のようにして、フタロシアニン系中間体(b)に紫外線吸収剤STAB UV94をブランチさせて、主として下記構造を有するフタロシアニン系化合物(1)を合成した。
30ml反応器に、上記合成例1-3で得られたフタロシアニン系中間体(b)3g、紫外線吸収剤(1,6-hexanediamine, N,N'-bis(2,2,6,6-tetramethyl-4-piperidinyl)-, polymer with 2,4,6-trichloro-1,3,5-triazine, reaction products with 2,4,4-trimethyl-2-pentanamin)(分子量:2000~3100、軟化点:100~135℃)(SONGWON製、SABO(登録商標)STAB UV94)1.5g、トルエン15gを投入し、窒素ガス雰囲気下60℃まで昇温し溶解させた。その後、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド0.6gを滴下し、滴下終了後100℃に昇温して12時間攪拌した。25℃に冷却後、反応液をヘキサン200gに滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、末端カルボキシル基(-COOH)に紫外線吸収剤が連結したフタロシアニン系化合物(1)2.1g(フタロシアニン系中間体(b)に基づく収率47.2モル%)を得た。
<実施例2:フタロシアニン系化合物(2)の合成>
以下のようにして、フタロシアニン系中間体(d)に1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン(Me5PiPe)を結合し、下記構造を有するフタロシアニン系化合物(2)を合成した。
30ml反応器に、上記合成例2-3で得られたフタロシアニン系中間体(d)3g、4-ヒドロキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン1.35g、テトラヒドロフラン20gを投入し、窒素ガス雰囲気下60℃まで昇温し溶解させた。その後、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド1.5gを滴下し、滴下終了後4時間攪拌した。25℃に冷却後、反応液をメタノール20g、水20gの混合液に滴下して晶析を行った。析出物を濾取後、減圧乾燥により粗生成物を得た。その後、クロロホルムを溶媒としてカラム精製(充填剤:シリカゲル60N、関東化学株式会社製)を行い、末端カルボキシル基(-COOH)に1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジンを連結したフタロシアニン系化合物(2)2.2g(フタロシアニン系中間体(d)に基づく収率61モル%)を得た。
実施例3:最大吸収波長(λmax)、可視光透過率および耐光性の評価
上記実施例1で得られたフタロシアニン系化合物(1)について、下記方法に従って、最大吸収波長(λmax)、460nm、510nmおよび610nmの可視光透過率ならびに耐光性を測定した。これらの結果を下記表2に示す。なお、測定は、以下のように行った。
(塗料溶液の調製と塗膜の作製)
フタロシアニン系化合物を、樹脂の固形分に対して含有量が1.6重量%になるようにポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:エスレック(登録商標)BL-S、重量平均分子量 約23,000)に加えた。さらに溶剤としてテトラヒドロフランを加え、固形分濃度が20重量%となるように調節し、溶解することで塗料溶液を得た。得られた塗料溶液を、60番のバーコーターを用いてガラス板に塗布し(膜厚:90μm)、室温で乾燥させた。その後、さらに100℃で10分間乾燥させ、フタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜(乾燥膜厚:約20μm)を形成した。
(最大吸収波長(λmax)および吸光度の測定、ならびに透過率補正値の算出)
上記にて得られたフタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜の吸光度を分光光度計(株式会社日立ハイテクノロジーズ製:U-2910)を用いて測定し、最大吸収波長(λmax)を求めた。また、以下の式(1)を用いて最大吸収波長(λmax)の透過率を0%に換算した際の各波長における透過率を補正値(%)として求めた。結果を下記表2に示す。
(耐光性の評価1)
上記(塗料溶液の調製と塗膜の作製)と同様にして得られたフタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜が形成されたガラス板を形成した。このガラス板を、耐光性試験機(スガ試験機株式会社製:SUGAキセノンウェーザーメーターX75SC)を用いてガラス面から光を照射して耐光性を測定した。耐光性の評価は、最大吸収波長(λmax)における初期吸光度と24時間後の吸光度をそれぞれ測定し、初期吸光度に対する24時間後の吸光度の残存率で評価した。結果を下記表2に示す。
実施例4
上記実施例3において、実施例1で得られたフタロシアニン化合物(1)の代わりに、実施例2で得られたフタロシアニン化合物(2)を用いた以外は、実施例3と同様に操作して塗膜を作製し、最大吸収波長(λmax)、可視透過率(補正値)および耐光性を評価した。結果を下記表2に示す。
上記に加え、実施例2で得られたフタロシアニン化合物(2)について、下記(耐光性の評価2)に記載の方法に従って、耐光性を測定した。なお、メタリングウエザーメーターでの照射光の強度は上記(耐光性の評価1)で使用したキセノンウェーザーメーターに比して10倍程度高い(即ち、耐光性の評価2の方がより厳しい条件である)。
(耐光性の評価2)
上記(塗料溶液の調製と塗膜の作製)と同様にして得られたフタロシアニン化合物含有ブチラール塗膜が形成されたガラス板を形成した。このガラス板を、耐光性試験機(スガ試験機株式会社製:メタリングウエザーメーター M6T)を用いて、光源との距離を約100mmに設定し、放射照度0.75kW/m2の光を塗膜面から照射して、耐光性を評価した。耐光性の評価は、最大吸収波長(λmax)における初期吸光度と24時間照射後の吸光度(24時間後の吸光度)をそれぞれ測定し、初期吸光度に対する24時間後の吸光度の残存率(%)で評価したところ、68%であった。
比較例1
合成例1-2で得られたフタロシアニン系中間体(a)を含有率が1.6重量%になるよう、および紫外線吸収剤(SONGWON製、SABO(登録商標)STAB UV94)を含有率が0.8重量%になるよう、それぞれ、ポリビニルブチラール樹脂(積水化学工業株式会社製:エスレック(登録商標)BL-S、重量平均分子量 約23,000)に加え、固形分濃度が20重量%となるように調節し、溶解することで塗料溶液を得た。なお、上記紫外線吸収剤の添加量(含有率)は、実施例1のフタロシアニン系化合物(1)中に含まれる紫外線吸収剤と含有率が同じになる量である。上記塗料溶液を用いて、上記(塗料溶液の調製と塗膜の作製)と同様にして、塗膜(乾燥膜厚:約20μm)をガラス板に形成した。
次に、得られた塗膜について、実施例3と同様にして、最大吸収波長(λmax)、可視透過率(補正値)および耐光性を評価した。結果を下記表2に示す。
上記表2より、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、良好な可視光透過率を維持しながら、優れた耐光性を有することが示された。また、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、長波長領域(具体的には、730nm以上)において最大吸収波長を有することから、良好な熱線吸収能を発揮できる。
したがって、本発明に係るフタロシアニン系化合物は、熱線吸収合わせガラス(中間膜)等に好適に利用できる。例えば、自動車のフロントガラス用の中間膜に用いた場合には、高い透明性(可視光透過率)を確保しながら、太陽光の熱線を効果的に遮蔽し、冷房効率を向上できる。また、この際、耐光性も高いことから、長期間に亘り安定的に熱線遮蔽効果を維持できると考察される。
また、上記表2にからわかるとおり、実施例3は比較例1と比較して耐光性が20%近く向上した。これは紫外線吸収剤をただ単に添加するよりもフタロシアニン系化合物中に導入することにより、紫外線吸収剤が色素(フタロシアニン系化合物)のより近傍に位置(固定化)され、これにより紫外線吸収効果がより効果的にフタロシアニン系化合物に作用しているためであると推察される。