以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の第一は、下記式(1):
式中、Z1〜Z16は、それぞれ独立して、NHR1または水素原子を表わし、この際、R1は、炭素原子数2〜12個のアルキル基を表わし、Z1〜Z16の少なくとも1個は、NHR1であり;Mは、バナジルを表わす、
で示されるフタロシアニン化合物に関するものである。
Mとしてバナジルを使用し、かつ特定の位置(即ち、α位やβ位)に特定個数のNHR1を導入することによって、750〜1100nmの近赤外線波長域での選択吸収能を示し、またグラム吸光係数が高いフタロシアニン化合物が得られるのである。
上記式(1)において、Mは、バナジルである。このようにフタロシアニン化合物の中心金属(酸化物)としてバナジルを使用することによって、銅、亜鉛などを用いる場合と較べて、フタロシアニン化合物の最大吸収波長をより長波長側にシフトさせることができ、上記所望の近赤外線波長域での選択吸収能を示すフタロシアニン化合物を得ることができる。
上記式(1)において、式中、Z1〜Z16は、それぞれ独立して、NHR1または水素原子を表わす。この際、R1は、炭素原子数2〜12個のアルキル基を表わす。なお、Z1〜Z16の少なくとも1個は、NHR1である。
炭素原子数2〜12個のアルキル基とは、炭素原子数2〜12個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基を指し、好ましくは炭素原子数2〜10個、より好ましくは炭素原子数4〜8個の直鎖または分岐鎖のアルキル基である。炭素原子数がかような範囲であると、溶剤への溶解性に優れ、また、取り扱いが簡便であるため好ましい。さらに、グラム吸光係数が高いフタロシアニン化合物を得ることができる。
炭素原子数2〜12個のアルキル基としては、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、n−ブチル基、iso−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、オクト−3−イル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、溶媒への溶解性および吸収波長をより長波長側にシフトすることができることから、2−エチルヘキシル基が好ましい。
上記式(1)中、フタロシアニン骨格のZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15を一括して「β位」と、また、フタロシアニン骨格のZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16を一括して「α位」と称する。このため、フタロシアニン骨格のZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のβ位に置換する置換基または単に「β位の置換基」と、また、フタロシアニン骨格のZ1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16の置換基を、フタロシアニン核の8箇所のα位に置換する置換基または単に「α位の置換基」とも称する。
置換基の種類、導入箇所(α位、β位)および導入個数により、フタロシアニン化合物の特性が変化する。置換基の種類としては、窒素原子を含む置換基、硫黄原子を含む置換基、酸素原子を含む置換基の順に、フタロシアニン化合物の吸収波長をより長波長側にシフトさせることができる。一方で、窒素原子、硫黄原子、酸素原子の順に、分子量は大きくなるため、グラム吸光係数は低下する。したがって、本発明者らは、グラム吸光係数および吸収波長の観点から、中心金属、置換基の種類、導入箇所(α位、β位)および導入個数を種々検討した結果、中心金属としてバナジルを選択し、−NHR1で表される1級アミノ基を置換基として用いることによって、750〜1100nmの近赤外線波長域での選択吸収能が高く、グラム吸光係数が高いフタロシアニン化合物が得られることを見出したものである。
上記式(1)中、Z1〜Z16の少なくとも1個、好ましくは4〜8個、より好ましくは4個は、NHR1であり、かつ残りのZ1〜Z16は、水素原子である。このように比較的単純な構造を採ることにより、本発明のフタロシアニン化合物は、グラム吸光係数が高く、少量の配合で優れた近赤外線吸収能を示す。
α位にNHR1が導入されたフタロシアニン化合物は、β位にNHR1が導入されたフタロシアニン化合物と比較して、最大吸収波長がより長波長側にシフトしているため、例えば、800〜1100nmの領域の近赤外線光をカットすることが有効であるPDPディスプレー用フィルターに用いられる近赤外線吸収色素として好適である。また、β位にNHR1が導入されたフタロシアニン化合物は、α位に導入された化合物と比較して、最大吸収波長はやや短いものの、耐光性を高く維持しつつ、太陽光からの熱の遮断効果に優れるため、例えば、熱線遮蔽材に用いられる近赤外線吸収色素として好適である。
したがって、置換基(−NHR1)の導入箇所(α位、β位)および導入個数は、用途により適宜選択されるが、好適には、以下の(1)〜(3)に示される化合物のような配置が好ましい。
(1)式(1)において、Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13及びZ16の4〜8個、好ましくは4個がNHR1を表わし、かつ残りが水素原子を表わし;Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14及びZ15のすべてが水素原子を表わす、化合物。換言すれば、α位に4〜8個、好ましくは4個のNHR1が導入され、β位に水素原子が導入された化合物である。このような配置のフタロシアニン化合物は、最大吸収波長が、より長波長側にシフトし、また、可視光透過を高く維持し、さらに溶解性にも優れるため、800〜1100nmの領域の近赤外線光をカットすることができ、例えば、PDPディスプレー用フィルターに用いることができる。また、上記化合物は、赤色の発光波長(610nm付近)での透過率が高いため、PDPディスプレー用フィルターに用いた場合であっても、赤色波長のカットが少なく好適である。
上記好ましい実施形態において、α位に複数個の置換基が配置される場合には、各置換基がフタロシアニン骨格の各ベンゼン環に均質になる(各ベンゼン環にほぼ同数の置換基が存在する)ように配置されることが好ましい。例えば、α位の置換基のうち、4個がNHR1を表わし、かつ残りの4個が水素原子を表わす場合には、NHR1は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環のα位に1個ずつ存在する(Z1またはZ4のいずれか;Z5またはZ8のいずれか;Z9またはZ12のいずれか;Z13またはZ16のいずれか1個がNHR1で残りが水素原子)。
(2)式(1)において、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14及びZ15の4〜8個、好ましくは4個がNHR1を表わし、かつ残りが水素原子を表わし;Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13及びZ16のすべてが水素原子を表わす、化合物。換言すれば、β位に4〜8個、好ましくは4個のNHR1が導入され、α位に水素原子が導入された化合物である。このような配置のフタロシアニン化合物は、上記(1)の化合物に比べ、最大吸収波長がやや低い(700〜900nm程度)が、可視光透過率が高く、かつ太陽光からの熱の遮断効果に優れるため、例えば、熱線遮蔽材に用いることができる。
上記好ましい実施形態において、β位に複数個の置換基が配置される場合には、各置換基がフタロシアニン骨格の各ベンゼン環に均質になる(各ベンゼン環にほぼ同数の置換基が存在する)ように配置されることが好ましい。例えば、β位の置換基のうち、4個がNHR1を表わし、かつ残りの4個が水素原子を表わす場合には、NHR1は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環のβ位に1個ずつ存在する(Z2またはZ3のいずれか;Z6またはZ7のいずれか;Z10またはZ11のいずれか;Z14またはZ15のいずれか1個がNHR1で残りが水素原子)。
(3)式(1)において、Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13及びZ16の1〜7個、好ましくは1〜3個がNHR1を表わし、かつ残りが水素原子を表わし;Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14及びZ15の7〜1個、好ましくは3〜1個がNHR1を表わし、かつ残りが水素原子を表わし;Z1〜Z16の4〜8個、好ましくは4個がNHR1である、化合物。換言すれば、α位に1〜7個、好ましくは1〜3個のNHR1が導入され、β位に7〜1個、好ましくは3〜1個のNHR1が導入され、フタロシアニン骨格にNHR1が導入された個数は、4〜8個、好ましくは4個である。かような化合物は、上記(1)の化合物および(2)の化合物の中間的特性を有する。なお、NHR1の導入箇所および導入個数は、近赤外線波長域での最大吸収波長および太陽光からの熱線遮蔽効果を考慮し、適宜調整すればよい。
上記好ましい実施形態において、α位、β位に複数個の置換基が配置される場合には、各置換基がフタロシアニン骨格の各ベンゼン環に均質になる(各ベンゼン環にほぼ同数の置換基が存在する)ように配置されることが好ましい。例えば、α位の2個およびβ位の2個がNHR1を表わしかつ残りの12個が水素原子を表わす場合には、NHR1は、フタロシアニン骨格の各ベンゼン環に1個ずつ存在する(Z1〜Z4のいずれか;Z5〜Z8のいずれか;Z9〜Z12のいずれか;Z13〜Z16のいずれか1個がNHR1で残りが水素原子)。
本発明のフタロシアニン化合物の好ましい例としては、下記式(2);
式中、−NHR1は、α位またはβ位のいずれかに配置される;
で示される、フタロシアニン化合物が挙げられる。
式(2)で示される化合物としては、
なお、上記化合物の例示において、Pcはフタロシアニン核を表わし、VOはバナジルを表わす。
本発明のフタロシアニン化合物の吸収波長としては、近赤外領域の中でも750〜1100nmの波長領域に最大吸収波長(λmax)を有することが好ましい。なお、本明細書において、最大吸収波長は、下記実施例で測定の方法で測定された値を採用する。
さらに、本発明のフタロシアニン化合物のグラム吸光係数の下限値としては、特に制限されないが、上記したような用途、特にPDP用フィルターや熱線遮蔽材への使用を考慮すると、好ましくは40以上、より好ましくは50以上、さらに好ましくは60以上である。また、本発明のフタロシアニン化合物のグラム吸光係数は高ければ高いほど好ましく、それ故、グラム吸光係数の上限値は、特に限定されないが、通常グラム吸光係数は200以下である。なお、本明細書において、グラム吸光係数は、下記実施例で測定の方法で測定された値を採用する。
本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高いプラズマディスプレイ用フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレー用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。特に上記した特性を考慮すると、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外吸収色素、熱線遮蔽材、フラットパネルディスプレイ用フィルター及び近赤外吸収材に好適に使用できる。
次に、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法について、説明する。
まず、式(2)で表されるフタロシアニン化合物の好適な製造方法(以下、製造方法(ア)とも呼ぶ)について以下、説明する。しかしながら、製造方法は下記好適な実施形態に制限されるものではない。
フタロシアニン化合物の製造方法(ア)においては、下記式;
式中、−NO2は、3、4、5および6位のいずれかに配置される;で示されるニトロフタロニトリルを出発原料として用いる。ニトロフタロニトリル中のニトロ基の配置は、所望とするフタロシアニン化合物が得られるように、適宜選択すればよい。すなわち、ニトロフタロニトリルは、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい(ニトロ基の配置が同一のものを用いてもよいし、ニトロ基の配置が異なるニトロフタロニトリルを組み合わせて用いてもよい)。
上記式で表されるニトロフタロニトリルは、フタロニトリルにニトロ基を導入する際、導入するニトロ基数の制御が容易である。したがって、式(2)で表されるフタロシアニン化合物を得るために、後にアミノ基に置換される置換基を1個のみフタロニトリルに導入することを目的とする場合、上記のようにニトロ基をフタロニトリルに導入する方法であると出発原料を容易に製造することができる。一方、後述する製造方法(ウ)で用いられる式(8)で表されるフタロニトリル誘導体を得るために、フタロニトリルにハロゲン原子を導入する場合、ニトロ基を導入する場合に比べて、導入するハロゲン原子の数を制御することは困難である。したがって、所望の出発原料を得やすいという点で、上記式で表されるニトロフタロニトリルを出発原料として用いることが好適である。
次に、上記ニトロフタロニトリルをバナジウム酸化物;バナジウムカルボニル;バナジウム臭化物、塩化物、ヨウ化物等のバナジウムハロゲン化物;酢酸塩等の有機酸バナジウム;およびアセチルアセトナート等のバナジウム錯体化合物(本明細書中では、一括して「金属化合物」とも称する)からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、式(3)で表されるフタロシアニン誘導体が製造できる。好適に用いられる金属化合物としては、三塩化バナジウム、バナジウム酸化物などが挙げられる。
環化反応は、ニトロフタロニトリルとバナジウム酸化物、バナジウムカルボニル、バナジウムハロゲン化物、有機酸バナジウムおよびバナジウム錯体化合物からなる群から選ばれる一種とを溶融状態または有機溶媒中で反応させることが好ましい。
また、上記方法において、環化反応は無溶媒中でも行なえるが、有機溶媒を使用して行なうことが好ましい。有機溶媒は、出発原料としてのニトロフタロニトリルとの反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよい。用いられる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、1,2,4−トリメチルベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、及びベンゾニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用してもよい。これらのうち、好ましくは、1,2,4−トリメチルベンゼン、ベンゾニトリル、ジクロロベンゼンが、より好ましくは、1,2,4−トリメチルベンゼン、ベンゾニトリルが使用される。上記溶媒は、単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。
ニトロフタロニトリルと金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではないが、例えば、有機溶媒100部(以下、「質量部」を意味する)に対して、ニトロフタロニトリルを合計で20〜100部、好ましくは20〜50部で、かつ金属化合物をフタロニトリル化合物4モルに対して1.0〜1.5モル、好ましくは1.0〜1.3モルの範囲で仕込む。仕込みの際、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウム等の無機分を、発生してくるハロゲン化水素をトラップする目的で、ニトロフタロニトリル1モルに対して、好ましくは0.5〜2.0モル、より好ましくは0.5〜1.0モルの範囲でトラップ剤として仕込むことが好ましい。
ニトロフタロニトリルと金属化合物との反応は、反応温度が好ましくは30〜250℃、より好ましくは120〜180℃;反応時間が好ましくは5〜20時間、より好ましくは5〜10時間の範囲で反応させる。反応中の雰囲気は、酸素、窒素、希ガスおよびこれらの混合物であることが好ましく、酸素および窒素の混合物であることが好ましい。酸素および窒素の混合物である場合、含有体積比は、酸素:窒素=0:100〜15:100であることが好ましい。
なお、反応後は、従来公知の合成方法に従って、ろ過、洗浄、乾燥することにより、次工程に用いることのできる下記式(3)で示されるフタロシアニン誘導体を効率よく、しかも高純度で得ることができる。
式(3)中、Mはバナジルを表わし、−NO2は、α位またはβ位のいずれかに配置される。
次に、式(3)で示されるフタロシアニン誘導体にR1NH2(式中、R1は、上記式(1)と同じものを指す)で示されるアミノ化合物(以下、単に「アミノ化合物」とも称する)を反応させて、フタロシアニン誘導体にアルキルアミノ基(上記式(1)中の−NHR1)を導入する。
かような方法(製造方法(ア))によれば、アルキルアミノ基をニトロフタロニトリル中のニトロ基と置換して、アルキルアミノ基をフタロニトリルに導入した後、得られたアミノ化フタロニトリルを環化させる製造方法と較べて、フタロシアニン化合物の収率が非常に高くなる。これは、先にアルキルアミノ基をフタロニトリルに導入すると、環化反応が起こりにくくなるためであると考えられる。
フタロシアニン誘導体とアミノ化合物との反応は、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行うことができ、好ましくは、反応させるアミノ化合物中で、一定の温度に加熱することにより行う。不活性な液体としては、例えば、ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリルやN−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドなどのようなアミド;ジクロロベンゼン、トルエンが挙げられる。中でも、ベンゾニトリル、ジクロロベンゼンを用いることが好ましい。不活性な液体は単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。
上記反応では、式(3)のニトロ基とアルキルアミノ基が置換できるように、反応条件を適宜最適な範囲を選択すればよいが、例えば、以下の条件が使用できる。
有機溶媒100部に対して、式(3)で示されるフタロシアニン誘導体を好ましくは20〜100部、より好ましくは20〜50部で、アミノ化合物を、式(3)で示されるフタロシアニン誘導体1モルに対して、通常、1モル以上、好ましくは4〜20モルの範囲で仕込む。
次に、この反応産物に、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、フッ化カリウム、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウムおよび炭酸マグネシウム等の無機分を、発生してくる窒素酸化物をトラップする目的で、フタロシアニン誘導体1モルに対して、好ましくは4〜16モル、より好ましくは6〜8モルの範囲でトラップ剤として仕込む。
また、アミノ化合物を反応させる場合の反応温度は、好ましくは20〜200℃、より好ましくは60〜150℃であり、反応時間は、好ましくは4〜15時間、より好ましくは6〜12時間の範囲である。
なお、反応後は、従来公知のフタロシアニンの置換反応による合成方法に従って、無機分をろ過し、アミノ化合物を留去(洗浄)することにより、目的とする本発明のフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
上記製造方法(ア)の他、本発明のフタロシアニン化合物は、下記(イ)および(ウ)の製造方法により製造することができる。なお、本発明のフタロシアニン化合物は、下記形態の製造方法に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を参照して、または適宜改良して製造することもできる。
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法の一態様としては、(イ)溶融状態または有機溶媒中で、下記式(4)〜(7)のフタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応する方法が挙げられる。
すなわち、下記式(4):
で示されるフタロニトリル化合物(A)、下記式(5):
で示されるフタロニトリル化合物(B)、下記式(6):
で示されるフタロニトリル化合物(C)、および下記式(7):
で示されるフタロニトリル化合物(D)を、バナジウム酸化物、バナジウムカルボニル、バナジウムハロゲン化物、有機酸バナジウムおよびバナジウム錯体化合物からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、式(1)で表されるフタロシアニン化合物が製造できる。なお、上記式(4)〜(7)中、Z1〜Z16は、所望のフタロシアニン化合物(1)の構造によって規定され、上記式(1)の定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
また、その他の態様としては、(ウ)下記式(8)で表されるフタロニトリル化合物と金属塩とで環化反応を行った後、得られたフタロシアニン誘導体とアミノ化合物とを反応させる方法が挙げられる。
すなわち、下記式(8)で示されるフタロニトリル誘導体を、バナジウム酸化物、バナジウムカルボニル、バナジウムハロゲン化物、有機酸バナジウムおよびバナジウム錯体化合物からなる群から選ばれる一種と環化反応させた後、R1NH2(R1の定義は、式(1)中の定義と同義)で表されるアミノ化合物と反応させることによって、式(1)で表されるフタロシアニン化合物が製造できる。
式(8)中、X1、X2、X3およびX4は、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子または水素原子である。なお、X1、X2、X3およびX4の少なくとも1個は、ハロゲン原子である。ハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子および塩素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。アミノ化合物との反応の際に、ハロゲン原子が−NHR1に置換されるため、最終的に−NHR1を導入する位置にハロゲン原子が存在するフタロニトリルを原料として選択すればよい。例えば、フタロシアニン化合物のα位に−NHR1を導入する場合、式(8)中、X1またはX4がハロゲン原子であるフタロニトリルを用いればよい。
上記(イ)または(ウ)の製造方法における環化の際の反応条件としては、特に限定されるものではないが、以下に好適な条件を挙げる。環化反応に用いられる有機溶媒としては、反応に用いられる化合物と反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、モノクロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、トリメチルベンゼン、1−クロロナフタレン、1−メチルナフタレン、エチレングリコール、及びベンゾニトリル等の不活性溶媒;ならびにピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリジノン、N,N−ジメチルアセトフェノン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上併用して用いてもよい。これらのうち、好ましくは、ベンゾニトリル、トルエン、ジクロロベンゼンが、より好ましくは、ベンゾニトリルが使用される。
また、仕込み量に関しては、例えば、有機溶媒100質量部に対して、式(4)〜(7)で示されるニトロフタロニトリル化合物、または式(8)で示されるニトロフタロニトリル化合物を20〜100部、好ましくは20〜80部の範囲の合計量で、かつ金属化合物を該フタロニトリル化合物4モルに対して1.0〜1.5モル、好ましくは1.1〜1.3モルの範囲で仕込む。仕込みの際、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム等の無機分を、発生してくるハロゲン化水素をトラップする目的で、ニトロフタロニトリル1モルに対して、0.5〜2.0モル、好ましくは0.8〜1.0モルの範囲でトラップ剤として仕込むことが好ましい。
反応温度としては30〜250℃、好ましくは60〜120℃;反応時間としては5〜20時間、好ましくは5〜10時間の範囲で反応させる。
上記(イ)の製造方法の場合、出発原料である式(4)〜(7)のフタロニトリル化合物(A)〜(D)は、従来既知の方法により合成でき、また、市販品を用いることもできるが、好ましくは、下記式(9)で示されるフタロニトリル誘導体と、R1NH2(R1の定義は、式(1)中の定義と同義)で示されるアミノ化合物とを反応させることによって得られる。
式(9)中、Y1、Y2、Y3およびY4は、それぞれ独立して、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子等のハロゲン原子または水素原子である。ハロゲン原子としては、好ましくはフッ素原子および塩素原子であり、より好ましくはフッ素原子である。
アミノ化合物との反応の際に、ハロゲン原子が−NHR1に置換されるため、最終的に−NHR1を導入する位置にハロゲン原子が存在するフタロニトリルを原料として選択すればよい。例えば、フタロシアニン化合物のα位に−NHR1を導入する場合、式(9)中、Y1またはY4がハロゲン原子であるフタロニトリルを用いればよい。
アミノ化合物の使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、例えば、式(9)のフタロニトリル誘導体に2個のNHR1を導入する場合には、NH2R1を、式(9)のフタロニトリル誘導体1モルに対して、通常、2.0〜2.5モル、好ましくは2.1〜2.2モル反応させる。
また、反応は、無溶媒下であるいは有機溶媒中で行われてもよいが、好ましくは有機溶媒中で行なわれる。この際使用できる有機溶媒としては、反応に用いられる化合物と反応性の低い、好ましくは反応性を示さない不活性な溶媒であればいずれでもよく、アセトニトリルおよびベンゾニトリル等のニトリル;アセトンおよび2−ブタノン等の極性溶媒などが挙げられる。これらのうち、好ましくは、アセトン、2−ブタノンである。溶媒を使用する際の有機溶媒の使用量は、式(9)のフタロニトリル誘導体の濃度が、通常、10〜30(w/w)%、好ましくは10〜20(w/w)%となるような量である。また、このフタロニトリル誘導体とNH2R1との反応は、反応中に発生するハロゲン化水素(例えば、フッ化水素)等を除去するために、これらのトラップ剤を使用することが好ましい。トラップ剤としては上述で例示したものを用いることができる。また、トラップ剤を使用する際のトラップ剤の使用量は、反応中に発生するハロゲン化水素等を効率良く除去できる量であれば特に制限されないが、フタロニトリル誘導体1モルに対して、通常2〜3モルである。
上記(ウ)の製造方法の場合、フタロシアニン誘導体にアルキルアミノ基(−NHR1(R1の定義は、式(1)中の定義と同義))を導入する方法は、ハロゲン原子がNHR1に置換される条件であれば特に限定されず、例えば上述の(ア)の製造方法における式(3)のフタロシアニン誘導体とアミノ化合物との反応における製造方法・条件を利用することができるため、ここでは説明を省略する。
本発明の第二は、本発明のフタロシアニン化合物を含む、熱線遮蔽材に関するものである。
本発明の熱線遮蔽材において使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのものでもよいが、特にVOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12、VOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12が好ましい。また、特に耐光性が求められる場合は、β位置換のフタロシアニンが好ましく、より長波長側の熱線遮蔽や可視光の透過率の高さは求められる場合は、α位置換のフタロシアニンが好ましい。これらのフタロシアニン化合物は、特に近赤外域の光を選択的に吸収し、可視域の透過率を比較的高くしたまま太陽光からの熱の遮断を効果的に行う作用効果を熱線遮蔽材に与えることができるものである。これは、上記フタロシアニン化合物が、近赤外域の選択吸収能に優れた特性を有し、その特性を損なうことなく熱線遮蔽材として優れた作用効果を奏することができることによるものである。さらに上記フタロシアニン化合物は、熱線遮蔽材を構成する安価な有機材料として提供可能であり、種々の熱線遮蔽用途に幅広く用いることのできるものである。
フタロシアニン化合物の配合量は、目的とする熱線遮蔽効果が顕著に発揮されるため、熱線遮蔽材に配合される樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部であることが好ましく、0.001〜10質量部であることがより好ましい。なお、本発明のフタロシアニン化合物は、グラム吸光係数が小さいため、少量の配合で所望の効果が発揮される。
熱線遮蔽材中のフタロシアニン化合物の含有量は、上方からの投影面積中の質量と考えて、0.01〜2.0g/m2の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.03〜1.0g/m2である。かような範囲であれば、熱線遮蔽効果および経済性の観点から好ましい。波板等の異形のものは上方からの投影面積中の質量と考えればよい。また、外観上問題がない限りフタロシアニン化合物の濃度の分布にむらがあってもかまわない。また、フタロシアニン化合物は、1種類以上のものを混合して使用することも可能であり、吸収波長の異なるものを2種以上使用した場合には、熱線遮蔽効果が向上することがある。
本発明の熱線遮蔽材において使用することのできる樹脂は、得られる熱線遮蔽材の使用用途によって適宜選択することができるが、実質的に透明であって、吸収、散乱が大きくない樹脂が好ましい。その具体的なものとしては、ポリカーボネート樹脂;メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン等のポリビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリブチラール樹脂;ポリ酢酸ビニル等の酢酸ビニル系樹脂;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。また、実質的に透明であれば、上記1種類の樹脂に限らず、2種以上の樹脂をブレンドしたものも用いることができ、透明性のガラスに上記の樹脂をはさみこんで用いることもできる。これらの樹脂のうち、耐候性、透明性に優れるポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂あるいはポリ塩化ビニルが好ましく、特にポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂あるいはポリ塩化ビニルがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法で反応させて製造されるものである。2価フェノールの代表的な例として以下のものが挙げられる。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。好ましい2価のフェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールを主成分とするものである。
アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを50%以上含む重合性不飽和単量体混合物またはその共重合物が挙げられる。メタクリル酸メチルと共重合可能な重合性不飽和単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロキシフルフリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルの単量体のみの重合体ばかりでなく、塩化ビニルを主成分とする共重合体も使用できる。塩化ビニルと共重合させることのできる単量体としては、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
本発明の熱線遮蔽材にあっては、通常の透明性樹脂材料を製造する際に用いられる各種の添加剤を含有していても良い。該添加剤としては、例えば、着色剤、重合調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、耐衝撃性向上のためのゴム、あるいは剥離剤等を挙げることができる。添加剤の熱線遮蔽剤中の添加量は特に制限されるものではないが、通常熱線遮蔽剤中10質量%以下である。前記フタロシアニン化合物を透明性樹脂に混合含有させ成形する方法としては、押出成形、射出成形、注型重合、プレス成形、カレンダー成形あるいは注型製膜法が挙げられる。
さらに、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルムを作製し、そのフィルムを透明樹脂材に熱プレスあるいは熱ラミネート成形することにより熱線遮蔽材を作成することもできる。また、本発明のフタロシアニン化合物を含有するアクリル樹脂インクまたは塗料等を透明樹脂材に印刷またはコーティングすることにより熱線遮蔽材を得ることもできる。
本発明の熱線遮蔽材に用いられる上記フタロシアニン化合物は、市販の赤外線吸収剤と比較して、耐熱性に優れているので、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、PET樹脂を使用して射出成形、押出成形のような樹脂温度が200〜350℃という高温まで上昇する成形方法でも成形することが可能であり、透明感が良好で熱線遮蔽性能に優れた成形品を得ることができる。200℃未満の成形温度で使用しても問題はない。
また、本発明において、熱線遮蔽材の形状にも格別の制約はなく、最も一般的な平板状やフィルム状のほか波板状、球面状、ドーム状など、様々な形状のものが含有される。
また、フタロシアニン化合物とカーボンブラック等の熱線を吸収できる材料を特定量使用することにより、フタロシアニン化合物を単独で使用した場合と比較して、熱線遮蔽効果は同等でフタロシアニン化合物の使用量を半分以下に減少させることもできる。
本発明の第三は、本発明のフタロシアニン化合物および樹脂を含む、フラットパネルディスプレイ用フィルターに関するものである。
本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターにおいて使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのもでもよいが、特にVOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12、VOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12が好ましく、VOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12がより好ましい。これらのフタロシアニン化合物は、特に700〜1000nmの吸収が大きく、また、赤色の発光波長(610nm付近)での透過率が高いため、PDP用フィルターに用いた場合に優れた特性を発揮することができるものである。
フタロシアニン化合物の配合量は、目的の吸収強度、可視光透過率等を考慮して、適宜設定すればよいが、本発明の効果が顕著に発揮されるため、樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部であることが好ましく、0.001〜10質量部であることがより好ましい。なお、本発明のフタロシアニン化合物は、グラム吸光係数が小さいため、少量の配合で所望の効果が発揮される。
本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターは、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
すなわち、(1)樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形して樹脂板あるいはフィルムを作製する方法;(2)上記フタロシアニン化合物を含有する塗料(液状ないしペースト状物)を作製し、透明樹脂板、透明フィルムあるいは透明ガラス板上にコーティングする方法;および(3)上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する方法、等である。
まず、樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形する(1)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、およびそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体などのビニル化合物またはフッ化系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができるが、これらの樹脂に限定されるものではなく、ガラス代替となるような高硬度、高透明性を有する樹脂、チオウレタン系等の熱硬化樹脂、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることも好ましい。
本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターの作製方法としては、用いるベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、通常、本発明のフタロシアニン化合物を、ベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押出機によりフィルム化する方法、および押出機により原反を作製し、30〜120℃で2〜5倍に、1軸ないし2軸に延伸して10〜200μm厚のフィルムにする方法等が挙げられる。なお、混練する際に、紫外線吸収剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。添加剤のフィルター中の添加量は特に制限されるものではないが、通常フィルター中10質量%以下である。本発明のフタロシアニン化合物の添加量は、作製する樹脂の厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、通常、樹脂100質量部に対して0.005〜20質量部である。また、本発明のフタロシアニン化合物とメタクリル酸メチルなどの塊状重合によるキャスティング法を用いた樹脂板、樹脂フィルムを作製することもできる。
次に、塗料化してコーティングする(2)の方法としては、(i)本発明のフタロシアニン化合物をバインダー樹脂および有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法、(ii)フタロシアニン化合物を数μm以下に微粒化してアクリルエマルジョン中に分散して水系塗料とする方法、等がある。
(i)の方法では、通常、脂肪族エステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変成樹脂、(PVB、EVA等)あるいはそれらの共重合樹脂をバインダー樹脂として用いる。さらに、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系溶媒、あるいはそれらの混合物系などを用いることができる。上記バインダー樹脂の塗料中の含有量は、用いられる樹脂により適宜設定されるが、通常、塗料中、1〜50質量%であり、好ましくは5〜40質量%である。フタロシアニン化合物の濃度は、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の質量に対して、通常、0.1〜30質量%である。
(ii)の方法でも同様に、未着色のアクリルエマルション塗料に本発明のフタロシアニン化合物を微粉砕950〜500nm)したものを分散させて得られる。上記アクリルエマルションの塗料中の含有量は、用いられるアクリルエマルションにより適宜設定されるが、通常、塗料中、1〜50質量%であり、好ましくは5〜40質量%である。フタロシアニン化合物の濃度は、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の質量に対して、通常、0.1〜30質量%である。
塗料中には、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の通常塗料に用いるような添加物を加えても良い。添加物のフィルター中の添加量は特に制限されるものではないが、通常フィルター中10質量%以下である。上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーターあるいはスプレーなどでコーティングして、本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターを作製することができる。コーティング面を保護するために保護層を設けたり、透明樹脂板、透明樹脂フィルム等をコーティング面に貼り合わせることもできる。また、キャストフィルムも本方法に含まれる。
さらに、上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する(3)の方法においては、接着剤として、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用あるいは合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル系接着剤(EVA)等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。接着剤中には、紫外線吸収剤等添加物を加えても良い。添加物のフィルター中の添加量は特に制限されるものではないが、通常フィルター中10質量%以下である。本発明のフタロシアニン化合物を好ましくは0.1〜30質量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着してフィルターを製作する。また、熱圧着する方法もある。さらに、上記の方法で作製したフィルムあるいは板を、必要に応じて、ガラスや、樹脂板上に貼り付けることもできる。フィルターの厚みは作製するプラズマディスプレイの仕様によって異なるが、通常、0.1〜10mm程度である。また、フィルターの耐光性を上げるためにUV吸収剤を含有した透明フィルム(UVカットフィルム)を外側に貼り付けることもできる。
また、本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターは、他の近赤外線吸収性色素(以降、単に「他の色素」とも呼ぶ)をさらに含んでもよい。このような場合に使用できる他の色素としては、用途によって所望される最大吸収波長によって適宜選択されるが、好適な色素は、800〜1000nmの近赤外線を吸収する色素(800〜1000nmの近赤外吸収色素)である。
PDPは、特に825、880、920及び980nm付近の近赤外線の発光強度が強いことが知られている。そのため、上記した波長(825、880、920及び980nm)の近赤外線を効率よく吸収できるよう、またリモコンや伝送系光通信に使用されている750〜1100nm、好ましくは800〜1000nmの領域の近赤外線光をカットするように、本発明のフタロシアニン化合物の吸収波長を考慮して、適宜他の色素を選択することが好ましい。
800〜1000nmの近赤外吸収色素としては、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、ニッケル錯体系色素、ジイモニウム系色素などが挙げられる。
これらのうち、フタロシアニン系色素としては、特開平2001−106689号公報に記載のフタロシアニン系色素、特に特開平2001−106689号公報の実施例8で製造されるフタロシアニン[CuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4]、同公報の実施例7で製造されるフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4]、同公報の実施例9で製造されるフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4];特開平2004−18561号公報に記載のフタロシアニン系色素、特に特開平2004−18561号公報の実施例8で製造されるフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3CH2O(CH2)3NH}4]、同公報の実施例17で製造されるフタロシアニン[VOPc(4−(CH3O)PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4];下記式:
で示される、フタロシアニン化合物[以下、{CuPc(3−メトキシカルボニルフェノキシ)8(2−クロロベンジルアミノ)7F}とも称する]、下記式:
で示される、フタロシアニン化合物[以下、{CuPc(3−メトキシカルボニルフェノキシ)8(2−エチルヘキシルアミノ)8}とも称する]などが好ましく使用される。
この場合では、耐久性、耐候性を考慮すると、800〜1000nmのフタロシアニン系色素は、フタロシアニン骨格の中心金属は銅であることが特に好ましい。また、特開平10−78509号公報の実施例に記載のあるフタロシアニン化合物も使用できる。
ジイモニウム系色素としては、(N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジエチルアミノフェニル)−p−ベンゾキノン−ビス(イモニウム)・ヘキサフルオロアンチモン酸塩、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸)イモニウム塩(日本カートリッジ(株)製、商標:CIR−1085)、N,N,N’,N’−テトラキス(p−ジブチルアミノフェニル)−p−フェニレンジアミン−ビス(六弗化アンチモン酸)イモニウム塩(日本カートリッジ(株)製、商標:CIR−1081)、ジイモニウムカチオンとビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドアニオンとからなるジイモニウム色素(日本カートリッジ(株)製、商標:CIR−RL)などが好ましく使用される。
ニッケル錯体系色素としては、Bis(1,2−diphenylethene−1,2−dithiol)nickelなどが好ましく使用される。さらに、シアニン系色素としては、安定化シアニン色素が使用できる。ここで、安定化シアニン色素とは、シアニン系カチオンとクエンチャーアニオンとからなる塩化合物である。このうち、シアニン系カチオンとしては、例えば、以下に示す、カチオンNo.1、No.2などが、また、クエンチャーアニオンとしては、例えば、以下に示す、アニオンNo.11、No.22の化合物が好ましく使用でき、これらを適宜組合わせた塩化合物が安定化シアニン色素として好ましく使用される。
また、その他、570〜600nmのオレンジ色のネオン光を吸収する色素などを用いてもよい。570〜600nmのオレンジ色のネオン光を吸収する色素としては、テトラアザポルフィリン系色素、シアニン系色素、スクアリリウム系色素、アントラキノン系色素、サブフタロシアニン系色素、フタロシアニン系色素、ポリメチル系色素、ポリアゾ系色素などが挙げられる。これらのうち、テトラアザポルフィリン系色素としては、テトラ−t−ブチル−テトラアザポルフィリン・銅錯体、テトラ−t−ブチル−テトラアザポルフィリン・バナジウム錯体などが好ましく使用される。また、シアニン系色素、スクアリリウム系色素としては、特開2002−189422号公報に記載のシアニン系色素、スクアリリウム系色素などが好ましく使用される。サブフタロシアニン系色素としては、特開平2006−124593号公報に記載のサブフタロシアニン系色素などが好ましく使用される。570〜600nmのフタロシアニン系色素は、耐久性、耐候性を考慮すると、フタロシアニン骨格の中心金属は銅であることが特に好ましい。
なお、上記他の色素は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、他の色素の配合量は、所望の目的を達成するために適宜設定することができるが、通常、フィルター中0.001〜30質量%程度配合される。
上記の方法で得たフィルターをさらに実用的にするためには、プラズマティスプレイから出る電磁波を遮断する電磁波カット層、反射防止(AR)層、ノングレア(AG)層を設けることもできる。それらの作製方法は、特に制限を受けない。例えば、電磁波カット層は、金属酸化物等のスパッタリング方法が利用できるが、通常はSnを添加したIn2O3(ITO)が、一般的であるが、誘電体層と金属層を基材上に交互にスパッタリングなどで積層させることで、近赤外線、遠赤外線から電磁波まで1100nm以上の光をカットすることもでききる。誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物であり、金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的であり、通常、誘電体層よりはじまり3層、5層、7層あるいは11層程度積層する。この場合、ディスプレーより出る熱も同時にカットできるが、本発明のフタロシアニン化合物は、熱線遮蔽効果に優れるため、より耐熱効果を向上できる。基材としては、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルターをそのまま利用しても良いし、樹脂フィルムあるいはガラス上にスパッタリングした後に該フタロシアニン化合物を含有するフィルターとはり合わせてもよい。また、電磁波カットを実際に行う場合は、アース用の電極を設置する必要がある。反射防止層は、表面の反射を抑えてフィルターの透過率を向上させるために、金属酸化物、フッ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等で単層あるいは多層に積層させる方法、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させる方法等がある。また、反射防止処理を施したフィルムを該フィルター上に貼り付けることもできる。また、必要であれば、ノングレアー(AG)層を設けることもできる。ノングレアー(AG)層は、フィルターの視野角を広げる目的で、透過光を散乱させるために、シリカ、メラミン、アクリルなどの微粉体をインキ化して、表面にコーティングする方法等を用いることができる。インキの硬化は、熱硬化あるいは光硬化等を用いることができる。また、ノングレアー処理をしたフィルムを該フィルター上にはり付けることもできる。さらに必要であれば、ハードコート層を設けることもできる。
プラズマティスプレイ用のフィルターの構成は、必要に応じて代えることができる。通常、近赤外線吸収化合物を含有するフィルター上に反射防止層を設けたり、さらに必要であれば、反射防止層の反対側にノングレア層を設ける。また、電磁波カット層を組み合わせる場合は、近赤外線吸収化合物を含有するフィルターを基材として、その上に電磁波カット層を設けるか、あるいは近赤外線吸収化合物を含有するフィルターと電磁波カット能を有するフィルターを貼り合わせて作製できる。その場合、さらに、両面に反射防止層を作製するか、必要であれば、片面に反射防止層を作製し、その反対面にノングレア層を作製することもできる。また、色補正するために、可視領域に吸収を有する色素を加える場合は、その方法については制限を受けない。本発明のフラットパネルディスプレイ用フィルターは、ディスプレイから出る750〜1100nm付近の近赤外線光を効率よくカットするため、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
以下、本発明を、合成例、実施例を参照しながらより詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
合成例1:フタロシアニン化合物{VOPc(α−NO2)4H12}の合成
1000mlセパラブルフラスコに、3−ニトロフタロニトリル51.94g(0.3モル)と三塩化バナジウム15.38g(0.098モル)、炭酸カルシウム20.03g(0.2モル)、1,2,4−トリメチルベンゼン125g及びベンゾニトリル14gを投入し、Mガス(酸素6.79%、窒素93.21%)をバブリングしながら、155℃で約7時間反応させた。冷却後、680gのメタノールを徐々に投入し、結晶を析出させた。得られた結晶を吸引ろ過した後、取り出した結晶を約100℃で一晩真空乾燥し、VOPc(α−NO2)4H12約41.12g(3−ニトロフタロニトリルに対する収率72.2モル%)が得られた。
合成例2:フタロシアニン化合物{VOPc(β−NO2)4H12}の合成
合成例1において、3−ニトロフタロニトリルの代わりに4−ニトロフタロニトリル51.94g(0.3モル)を用いた以外は、合成例1と全く同様に操作し、VOPc(β−NO2)4H12約45.9g(4−ニトロフタロニトリルに対する収率80.6モル%)が得られた。
実施例1:フタロシアニン化合物{VOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}の合成
150mlの2ツ口フラスコに、合成例1で得られたVOPc(α−NO2)4H123.8g(0.005モル)、2−エチルヘキシルアミン10.34g(0.08モル)、炭酸カルシウム4.0g(0.04モル)、ベンゾニトリル11.5gを投入し、150℃で約11時間反応させた。冷却後、40℃に加温した350gのメタノール中に徐々に投入し、結晶を析出させた。得られた結晶を吸引ろ過した後、再び50gのメタノール中に投入し、攪拌洗浄することで洗浄および精製を行った。その後再び、吸引ろ過で結晶を取り出し、取り出した結晶を約100℃で一晩真空乾燥し、VOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12約1.4g(VOPc(α−NO2)4H12に対する収率25.7モル%)が得られた。
得られた上記フタロシアニン化合物を分光光度計(島津製作所製:UV−1600Pc)を用いてクロロホルム中で最大吸収波長(λmax)、グラム吸光係数および分光透過率としてプラズマディスプレイから発光されるキセノンの発光波長として特に発光強度の強い波長である830nm、880nm、920nmおよび980nmでの透過率、ならびに赤色の発光波長である610nmでの透過率を測定した。測定手法は以下の通り行なった。
50mlメスフラスコに得られたフタロシアニン化合物0.08質量部をクロロホルムにて溶解し、溶液のメニスカスが50mlメスフラスコの標線と一致するように調製した。次いで、調製した溶液をピペットを用いて1ml分取し、分取した溶液を全て100mlメスフラスコに投入してクロロホルムにて溶解し、溶液のメニスカスが100mlメスフラスコの標線と一致するように調製した。このようにして調製した溶液を1cm角のパイレックス(登録商標)製セルに入れ、分光光度計を用いて吸収スペクトルを測定した(図1)。
測定した吸光度をAとしたとき、グラム吸光係数を以下の式で計算した。
このようにして測定した結果を以下の表1にまとめる。
比較例1
特開平2001−106689号公報の実施例3と同様にして製造されたフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}4]を、分光光度計(島津製作所製:UV−1600Pc)を用いて実施例1と全く同様に操作して、クロロホルム中で最大吸収波長(λmax)、グラム吸光係数を測定した。その値を表1に示す。なお、以降、各化合物の最大吸収波長(λmax)は、クロロホルム中で測定された値である。
実施例1のフタロシアニン化合物{VOPc(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}は、比較例1のフタロシアニン化合物[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}4]に比べて、830nmの透過率が約10%低く近赤外線の遮蔽効果が高いにもかかわらず、赤色の波長域である610nmの透過率が約3%高く、またグラム吸光係数は、およそ2倍向上した。
実施例2:フタロシアニン化合物{VOPc−α−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}を含むプラズマディスプレイ用フィルター
フルオレン系ポリエステル共重合体(商品名:大阪ガスケミカル社製OKP4)10質量部、特許第3311720号の実施例5に記載のテトラ−t−ブチル−テトラアザポルフィリン・銅錯体を0.025質量部、上記実施例1のフタロシアニン化合物{VOPc(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}0.07質量部、特開平2001−106689号公報の実施例7と同様にして製造されたフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax:892nm)0.13質量部、特開平2001−106689号公報の実施例9と同様にして製造されたフタロシアニン[VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4](λmax:933nm)0.09質量部、特開平2005−344021号公報の合成例1と同様にして合成されたフタロシアニン[VOPc{4−(CH3O)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4](λmax:977nm)0.15質量部を、ジクロロメタン89.44質量部に溶解、混合して、樹脂塗料液を調製した。
このようにして調製した樹脂塗料液を、市販のポリエチレンテレフタレートフィルム(約50μm)上に、乾燥膜厚が10μmになるように塗工し、室温で乾燥した後、さらに80℃で乾燥させ、近赤外線吸収剤を含む透明コーティングフィルム(近赤外線吸収フィルター)を得た。
次いで、このようにして得られた透明コーディングフィルム上に、紫外線吸収剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、TINUVIN384)2.7質量部、酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製、IRGANOX−1010)0.9質量部、アクリル系粘着剤(東亞合成(株)製、アロンS−1601)96.4質量部を混合して得た混合物を、乾燥塗膜の厚みが15μmとなるように塗工して、紫外線吸収剤を含有する透明粘着層を積層した。この粘着加工を施した近赤外吸収剤を含む透明コーティングフィルムの粘着面を、ロールラミネータにより厚さ3mmの強化ガラス基材に貼り付けて、近赤外吸収フィルターを製造した。
実施例2に記載の近赤外線吸収フィルターを、プラズマディスプレイの前面部に取り付け、赤色の発色を観察したところ、非常にきれいな赤色の発色が認められた。また、リモコンにより動作制御を行なう電気機器をディスプレイから2.5mの位置に設置し、誤作動が誘発されないかを観察したところ、フィルターを取り付けない場合には誤作動が誘発されたが、実施例2に記載の近赤外線吸収フィルターをプラズマディスプレイの前面部に取り付けた場合には、誤作動の誘発が全く認められなかった。
これから、実施例1の本発明による近赤外線吸収フィルターは、610nmの透過率が良いので、パネルの色純度の向上に加えて、これまで遮蔽が難しかったより長波長の近赤外線を効果的に吸収して、リモコンなどの誤作動をより効果的に抑制できると考察される。
実施例3:フタロシアニン化合物{VOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}の合成
実施例1において、VOPc(α−NO2)4H12の代わりにVOPc(β−NO2)4H12を、用いた以外は実施例1と全く同様に操作し、VOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12約2.85g(VOPc(β−NO2)4H12に対する収率52.4モル%)が得られた。
得られたフタロシアニン化合物を、分光光度計(島津製作所製:UV−1600Pc)を用いて実施例1と全く同様に操作して、クロロホルム中で最大吸収波長(λmax)、グラム吸光係数を測定した。その値を表2に示す。
実施例4:フタロシアニン化合物{VOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12}を含む熱線遮蔽材
溶融したポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製、パンライト1285、商品名)100質量部に実施例3で得られたフタロシアニン化合物VOPc−β−(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2NH)4H12を、0.005質量部添加し、Tダイ押出機で厚さ2.5mmのシートを280℃で成形しフィルターを得た。
このフィルターを図2に示すように、直射日光に対してほぼ直角となるように調節された支柱台2に対して垂直方向(直射日光の入射方向)に支柱3を設け、該支柱3の先端に測定用フィルター4を設置し、該支柱3の下部付近に上下方向に調節可能なサンプル支持板5を設けてなる温度測定装置6(測定用のパネルは風が吹き抜けるので、熱がこもらないような構造)を用い、該サンプル支持板5上にブラックパネル7をセットし、該ブラックパネル7の表面と測定用フィルター4の距離を200mmにセットし、該ブラックパネル7の表面に温度センサー8を接触させた。この温度センサー8は、導線9を介して測定装置(図示せず)に連結している。この温度測定装置を用いて、直射日光下で上記フィルターを透過した光のあたる部分の温度を測定した。また、湿度50%、ブラックパネル温度63℃、紫外線強度90mW/cm2で100時間の耐光性テストを行った。その結果を表3に示す。
比較例2
比較例1のフタロシアニン[VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}4]0.01質量部を、用いた以外は実施例4と全く同様に操作し、温度および耐光性を測定した。その結果を表3に示す。
比較例3
溶融したポリカーボネート樹脂(帝人化成株式会社製、パンライト1285、商品名)をTダイ押出機で280℃で成形し厚さ2.5mmのシートを得た。得られたシートを用いて実施例4と同様にして、温度および耐光性を測定した。その結果を表3に示す。
上記の結果より、実施例4の本発明の熱線遮蔽材は、少量の配合で従来のフタロシアニンと同等の熱線遮蔽効果が得られることがわかる。