本発明の第一は、下記式(1):
式中、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15は、それぞれ独立して、SR1を表わし;Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16は、それぞれ独立して、OR2またはNHR3を表わし、かつ3〜5個がOR2かつ5〜3個がNHR3を表わし;複数のR1は、それぞれ独立して、置換基(a)を有していてもよいアリール基を表わし、複数のR2は、それぞれ独立して、置換基(b)を有していてもよいアリール基を表わし、及び複数のR3は、それぞれ独立して、置換基(c)を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし;置換基(a)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり、置換基(b)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり、置換基(c)は、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり;Mは、銅を表わす、
で示されるフタロシアニン化合物を提供するものである。上記したように、中心金属として銅を使用し、かつ特定の位置(即ち、α位やβ位)にそれぞれ特定個数の特定の置換基を導入することによって、(ア)高い可視光線透過率、(イ)青色(460nm付近)、緑色(545nm付近)及び赤色(610nm付近)の波長での透過率のバランスがよくかつ高い可視光透過率、(ウ)高い850〜950nmの波長域の近赤外線光のカット効率、及び(エ)優れた耐光性すべてを満たすフタロシアニン化合物が得られるのである。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
上記式(1)において、Mは、銅である。このようにフタロシアニン化合物の中心金属に銅を使用することによって、フタロシアニン化合物の耐光性を有意に向上することができる。
上記式(1)において、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15(フタロシアニン核の8箇所のβ位に置換する置換基ともいう)は、SR1を表わす。この際、β位の8個の置換基は、同一であってあるいは異なるものであってもよい。このようにβ位にSR1を導入することによって、青色(460nm付近)、緑色(545nm付近)及び赤色(610nm付近)の波長での可視光透過率のバランスを有意に向上することができる。また、このような置換により、樹脂との相溶性向上に優れた効果もまた奏される。この際、「青色(460nm付近)、緑色(545nm付近)及び赤色(610nm付近)の波長での透過率のバランスがよい」とは、青色(460nm付近)での可視光透過率、緑色(545nm付近)での可視光透過率、及び赤色(610nm付近)での可視光透過率が、近似している、より具体的にはそれぞれの可視光透過率の差が8%以下、より好ましくは5%以下であることを意味する。
上記式(1)において、Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16(フタロシアニン核の8箇所のα位に置換する置換基ともいう)は、それぞれ独立して、OR2またはNHR3を表わし、かつ3〜5個がOR2かつ5〜3個がNHR3を表わす。β位の置換基8個のうち、4個がOR2かつ4個がNHR3であることが好ましい。この際、α位の置換基であるOR2またはNHR3が複数存在する場合のOR2またはNHR3は、それぞれ、同一であってあるいは異なるものであってもよい。このような置換によって、850〜950nmの波長域の近赤外線光を効率よく吸収でき、また、溶解性の向上や可視光透過率の向上が達成できる。なお、α位に導入される置換基(OR2及びNHR3)の合計数は8個である。
SR1で表される置換基におけるR1は、置換基(a)を有していてもよいアリール基を表わす。また、OR2で表される置換基におけるR2は、置換基(b)を有していてもよいアリール基を表わす。NHR3で表される置換基におけるR3は、置換基(c)を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わす。
この際、R1及びR2を表わす非置換型のアリール基の例としては、フェニル基、フェネチル基、o−,m−若しくはp−トリル基、2,3−若しくは2,4−キシリル基、メシチル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ビフェニリル基、ベンズヒドリル基、トリチル基及びピレニル基などが例示できるが、これらに限定されるものではない。これらのうち、フェニル基が特に好ましい。
また、R3を表わす非置換型の炭素原子数1〜20個のアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数2〜12個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基、より好ましくは炭素原子数4〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、3−メチル−1−イソプロピルブチル基、2−メチル−1−イソプロピル基、1−t−ブチル−2−メチルプロピル基、n−ノニル基、3,5,5−トリメチルヘキシル基、n−デシル、n−ドデシルなどが挙げられる。これらのうち、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
なお、上記R1に場合によっては存在する置換基(a)及びR2に場合によっては存在する置換基(b)としては、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基がある。これらのうち、置換基(a)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基またはハロゲン原子であることが好ましい。また、置換基(b)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基であることが好ましい。なお、置換基(a)及び(b)について以下に詳述するが、これらの置換基は、下記置換基R1、R2及びR3上に、1個導入されてもあるいは複数個導入されてもよく、また、これらの置換基の種類は、複数個置換する場合には同種若しくは異種のいずれであってもよい。
上記場合によっては存在する置換基のうちアルキル基とは、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルキル基である。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−イソプロピルプロピル基、1,2−ジメチルブチル基、n−ヘプチル基、1,4−ジメチルペンチル基、2−メチル−1−イソプロピルプロピル基、1−エチル−3−メチルブチル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基などが挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。
また、上記場合によっては存在する置換基のうちハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子およびヨウ素原子、好ましくは塩素原子である。
さらに、上記場合によっては存在する置換基のうち炭素原子数1〜20個のアルコキシル基は、炭素原子数1〜20個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基であり、好ましくは炭素原子数1〜8個の直鎖、分岐鎖または環状のアルコキシル基である。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、1,3−ジメチルブトキシ基、1−イソプロピルプロポキシ基などが挙げられる。これらのうち、メトキシ基及びエトキシ基が好ましい。
上記式(1)のフタロシアニン化合物の好ましい例としては、下記のものが挙げられる。なお、本発明のフタロシアニン化合物はこれらに限定されるものではない。また、下記の化合物において、3,6位は、フタロシアニン核のα位(Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16の置換位置)に置換したものであり、4,5位はフタロシアニン核のβ位(Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15の置換位置)に置換したものである。下記の化合物の略称において、Pcはフタロシアニン核を表わし、Cuは中心金属の銅を表わし、Pcのすぐ後にβ位に置換する8個の置換基を表わし、そのβ位に置換する置換基の後にα位に置換する8個の置換基を表わす。
・4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)5NH)4
・4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH)4
・4,5−オクタキス(4−クロロフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(4−Cl−PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)5NH)4
・4,5−オクタキス(2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(2−CH3−PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)5NH)4
・4,5−オクタキス(4−メトキシフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(4−CH3OPhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)5NH)4
・4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(3−エトキシプロピルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3CH2O(CH2)3NH)4
・4,5−オクタキス(5−t−ブチル−2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン
略称;CuPc{5−t−Bu−2−(CH3)PhS}8{2,6−(CH3)2PhO}4(CH3(CH2)5NH)4
本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、特に制限されず、例えば、特開2000−26748号公報や特開2001−106689号公報に記載の方法など、公知の方法が使用できる。すなわち、本発明のフタロシアニン化合物の製造方法は、溶融状態または有機溶媒中で、フタロニトリル化合物と金属塩とを環化反応した後、環化された反応産物をさらにアミノ化合物と反応させる方法が好ましく使用できる。以下、本発明のフタロシアニン化合物の好ましい製造方法を記載する。
下記式(2):
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(3):
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(4):
で示されるフタロニトリル化合物(3)、および下記式(5):
式中、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15は、それぞれ独立して、SR1を表わし;Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16は、それぞれ独立して、OR2またはハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を表わし、かつ3〜5個がOR2かつ5〜3個がハロゲン原子を表わし;複数のR1は、それぞれ独立して、置換基(a)を有していてもよいアリール基を表わし、複数のR2は、それぞれ独立して、置換基(b)を有していてもよいアリール基を表わし;置換基(a)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり、置換基(b)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基である、
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、銅酸化物、銅カルボニル、銅ハロゲン化物及び有機酸銅からなる群から選ばれる一種と環化反応させた後、該反応生成物をさらに式(6):NH2R3(ただし、R3は、それぞれ独立して、置換基(c)を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし、置換基(c)は、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基である)で示されるアミノ化合物と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物が製造できる。
上記態様において、式(2)〜(5)におけるZ2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15、Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16、R1、R2及びR3は、上記式(1)における定義と同様であるため、ここでは説明を省略する。
上記方法において、フタロニトリル化合物(1)〜(4)を銅酸化物、銅カルボニル、銅ハロゲン化物及び有機酸銅からなる群から選ばれる一種と環化反応させることによって、α位にNH2R3を持たない、すなわち、下記式(1):
式中、Z2、Z3、Z6、Z7、Z10、Z11、Z14、Z15は、それぞれ独立して、SR1を表わし;Z1、Z4、Z5、Z8、Z9、Z12、Z13、Z16は、それぞれ独立して、OR2またはハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を表わし、かつ3〜5個がOR2かつ5〜3個がハロゲン原子を表わし;複数のR1は、それぞれ独立して、置換基(a)を有していてもよいアリール基を表わし、複数のR2は、それぞれ独立して、置換基(b)を有していてもよいアリール基を表わし;置換基(a)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり、置換基(b)は、炭素原子数1〜20個のアルキル基、ハロゲン原子または炭素原子数1〜20個のアルコキシル基であり、Mは、銅を表わす、
で示されるフタロシアニン誘導体(本明細書中では、単に「フタロシアニン誘導体」と称する)が合成される。次に、このようにして合成されたフタロシアニン誘導体をさらに式(6)のアミノ化合物と反応させることによって、本発明のフタロシアニン化合物が製造される。
上記本発明のフタロシアニン化合物は、(ア)高い可視光線透過率、(イ)青色(460nm付近)、緑色(545nm付近)及び赤色(610nm付近)の波長での透過率のバランスがよくかつ高い可視光透過率、(ウ)高い850〜950nmの波長域の近赤外線光のカット効率、及び(エ)優れた耐光性すべてを満たす。また、本発明の近赤外吸収色素は、上記特性に加えて、樹脂との相溶性に優れ、かつ耐熱性、耐候性等の特性に優れたものであるため、各種用途として、例えば、熱線遮蔽材やプラズマディスプレー用フィルターに有用に使用することができるほか、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用あるいは保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤等としても極めて有用である。
このため、本発明のフタロシアニン化合物は、半透明ないし透明性を有しかつ熱線を遮蔽する目的の熱線遮蔽材、自動車用の熱線吸収合わせガラス、熱線遮蔽フィルムまたは熱線遮蔽樹脂ガラス、可視光線透過率が高くかつ近赤外線光のカット効率の高いプラズマディスプレー用フィルター、フラッシュ定着などの非接触定着トナー用の近赤外線吸収剤として、また、保温蓄熱繊維用の近赤外線吸収剤、赤外線による偵察に対し偽装性能(カモフラージュ性能)を有する繊維用の赤外吸収剤、半導体レーザーを使う光記録媒体、キセノンランプをバックライトとする液晶ディスプレイ用フィルター、光学文字読取機等における書き込みあるいは読み取りの為の近赤外線吸収色素、近赤外光増感剤、感熱転写・感熱孔版等の光熱交換剤、レーザービームを使用して樹脂を熱融着させるレーザー融着用の光熱交換剤、近赤外線吸収フィルター、眼精疲労防止剤あるいは光導電材料等、さらに組織透過性の良い長波長域の光に吸収を持つ腫瘍治療用感光性色素、カラーブラウン管選択吸収フィルター、カラートナー、インクジェット用インク、改ざん偽造防止用インク、改ざん偽造防止用バーコード用インク、近赤外吸収インク、写真やフィルムの位置決め用マーキング剤、およびゴーグルのレンズや遮蔽板、プラスチックリサイクルの際の仕分け用の染色剤、ならびにPETボトルの成形加工時のプレヒーティング助剤などに用いる際に優れた効果を発揮するものである。これらのうち、本発明のフタロシアニン化合物は、近赤外吸収色素、熱線遮蔽材、プラズマディスプレー用フィルター及び近赤外吸収材に好適に使用できる。
したがって、本発明の第二は、本発明のフタロシアニン化合物を用いてなる近赤外吸収色素、特に透過スペクトルの測定において、750〜1050nmの透過率の最低値が5〜6%になるようにフタロシアニン化合物の濃度を調整した溶液中において、可視光透過率が65%以上である、本発明のフタロシアニン化合物を用いてなる近赤外吸収色素に関するものである。
本発明の第三は、本発明のフタロシアニン化合物および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部である、熱線遮蔽材に関するものである。
本発明の第四は、本発明のフタロシアニン化合物および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部である、プラズマディスプレー用フィルターに関するものである。
本発明の第五は、本発明のフタロシアニン化合物および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部である、800〜1000nmの近赤外線を吸収する近赤外吸収材に関するものである。
以下、各発明の形態について詳細に説明する。
本発明の近赤外吸収色素において使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物のうち、透過スペクトルの測定において、750〜1050nmの透過率の最低値が5〜6%になるように該フタロシアニン化合物の濃度を調整した溶液中において、可視光透過率が65%以上、より好ましくは70%以上のものであることが好ましい。本発明の近赤外吸収色素の好ましいものとしては、式(1)で表されるフタロシアニン化合物として、上記に具体的に例示したものなどが挙げられるが、特に4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(4−クロロフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、及び4,5−オクタキス(2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニンが好ましい。
本発明の近赤外吸収色素では、透過スペクトルの測定において、750〜1050nmの透過率の最低値および可視光透過率を規定するための溶剤としては、例えば、クロロホルム、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトンなどを使用できるが、これらに限定されるものではない。他の溶剤を用いた場合にも、上記溶剤とはその範囲を多少異にする750〜1050nmの透過率の最低値および可視光透過率がそれぞれの溶剤に対して与えられるが、これらと本発明とが本質的に相違するものでないことは言うまでもない。また、本発明の近赤外吸収色素では、溶液状態での750〜1050nmの透過率の最低値と可視光透過率をその要件としたのは、フタロシアニン化合物の状態(例えば、結晶状態や溶液状態など)により吸収スペクトルが異なり、結果的に750〜1050nmの透過率の最低値および可視光透過率も幾分相違することがあるため、熱線遮蔽材、プラズマディスプレー用フィルター、非接触定着トナーまたは保温蓄熱繊維への当該近赤外吸収色素の使用状態、すなわち樹脂分散した相溶状態を勘案して、使用状態での透過率の最低値および可視光透過率に一致(近似)したものが与えられる溶液状態を上記要件としたものである。
本発明の熱線遮蔽材は、本発明のフタロシアニン化合物及び本発明の第二の態様による近赤外吸収色素からなる群より選ばれる少なくとも一種および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物および/または近赤外吸収色素の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部、好ましくは0.0010〜10質量部である。
本発明の熱線遮蔽材において使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのもでもよいが、特に4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(4−クロロフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、及び4,5−オクタキス(2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニンが好ましい。これらのフタロシアニン化合物は、特に近赤外域の光を選択的に吸収し、可視域の透過率を比較的高くしたまま太陽光からの熱の遮断を効果的に行う作用効果を熱線遮蔽材に与えることができるものである。これは、上記フタロシアニン化合物が、近赤外域の選択吸収能に優れ、樹脂との相溶性に優れ、かつ耐熱性、耐光性、耐光性に優れた特性を有し、その特性を損なうことなく熱線遮蔽材として優れた作用効果を奏することができることによるものである。さらに上記フタロシアニン化合物は、熱線遮蔽材を構成する安価な有機材料として提供可能であり、種々の熱線遮蔽用途に幅広く用いることのできるものである。また、該フタロシアニン化合物は、耐熱性に優れることにより、凡用の熱可塑性樹脂を用いて、射出成形、押出成形等の生産性に優れた成形方法により作成することのできる、とした多くの優れた特性を発揮することができるものである。
本発明の熱線遮蔽材において使用することのできる樹脂は、得られる熱線遮蔽材の使用用途によって適宜選択することができるが、実質的に透明であって、吸収、散乱が大きくない樹脂が好ましい。その具体的なものとしては、ポリカーボネート樹脂;メチルメタクリレート等の(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン等のポリビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂;ポリブチラール樹脂;ポリ酢酸ビニル等の酢酸ビニル系樹脂;ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等を挙げることができる。また、実質的に透明であれば、上記1種類の樹脂に限らず、2種以上の樹脂をブレンドしたものも用いることができ、透明性のガラスに上記の樹脂をはさみこんで用いることもできる。これらの樹脂のうち、耐候性、透明性に優れるポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂あるいはポリ塩化ビニルが好ましく、特にポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂あるいはポリ塩化ビニルがより好ましい。
ポリカーボネート樹脂は、2価フェノールとカーボネート前駆体とを溶液法または溶融法で反応させて製造されるものである。2価フェノールの代表的な例として以下のものが挙げられる。2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどが挙げられる。好ましい2価のフェノールは、ビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン系であり、特にビスフェノールを主成分とするものである。
アクリル樹脂としては、メタクリル酸メチル単独またはメタクリル酸メチルを50%以上含む重合性不飽和単量体混合物またはその共重合物が挙げられる。メタクリル酸メチルと共重合可能な重合性不飽和単量体としては、例えば、以下のものが挙げられる。アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸N,N−ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸トリブロモフェニル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロキシフルフリル、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタンジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
塩化ビニル樹脂としては、塩化ビニルの単量体のみの重合体ばかりでなく、塩化ビニルを主成分とする共重合体も使用できる。塩化ビニルと共重合させることのできる単量体としては、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、マレイン酸、イタコン酸、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
本発明の熱線遮蔽材にあっては、通常の透明性樹脂材料を製造する際に用いられる各種の添加剤を含有していても良い。該添加剤としては、例えば、着色剤、重合調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、耐衝撃性向上のためのゴム、あるいは剥離剤等を挙げることができる。前記フタロシアニン化合物を透明性樹脂に混合含有させ成形する方法としては、押出成形、射出成形、注型重合、プレス成形、カレンダー成形あるいは注型製膜法が挙げられる。
さらに、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルムを作製し、そのフィルムを透明樹脂材に熱プレスあるいは熱ラミネート成形することにより熱線遮蔽材を作成することもできる。また、本発明のフタロシアニン化合物を含有するアクリル樹脂インクまたは塗料等を透明樹脂材に印刷またはコーティングすることにより熱線遮蔽材を得ることもできる。
本発明の熱線遮蔽材に用いられる上記フタロシアニン化合物は、市販の赤外線吸収剤と比較して、耐熱性に優れているので、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、PET樹脂を使用して射出成形、押出成形のような樹脂温度が200〜350℃という高温まで上昇する成形方法でも成形することが可能であり、透明感が良好で熱線遮蔽性能に優れた成形品を得ることができる。200℃未満の成形温度で使用しても問題はない。
また、本発明において、熱線遮蔽材の形状にも格別の制約はなく、最も一般的な平板状やフィルム状のほか波板状、球面状、ドーム状など、様々な形状のものが含有される。本発明の熱線遮蔽材に用いられる上記フタロシアニン化合物は、目的とする熱線遮蔽材の可視および近赤外域の透過率の設定および該熱線遮蔽材の厚みによってその配合量を変えることができるが、通常、透明性樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部、好ましくは0.0010〜10質量部である。
さらに、上記フタロシアニン化合物の配合量の最適範囲は、熱線遮蔽材の形状によって異なり、例えば、厚さ3mmの熱線遮蔽板を作成する場合には、樹脂100質量部に対して、通常、0.002〜0.06質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.003〜0.02質量部である。また、例えば、厚さ10mmの熱線遮蔽板を作成する場合には、樹脂100質量部に対して、0.0005〜0.02質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.005質量部である。厚さ10μmの熱線遮蔽フィルムを作成する場合には、樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量部である。熱線遮蔽材の厚さに関係なくフタロシアニン化合物の配合量を表示するとすれば、上方からの投影面積中の質量と考えて、0.01〜2.0g/m2の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.05〜1.0g/m2である。この際、フタロシアニン化合物の配合量が、0.01g/m2未満の場合には、熱線遮蔽効果の少ないものとなり、2.0g/m2を超える場合は、著しく高価となり、また、可視光線の透過が少なくなりすぎる場合がある。波板等の異形のものは上方からの投影面積中の質量と考えればよい。また、外観上問題がない限りフタロシアニン化合物の濃度の分布にむらがあってもかまわない。また、フタロシアニン化合物は、1種類以上のものを混合して使用することも可能であり、吸収波長の異なるものを2種以上使用した場合には、熱線遮蔽効果が向上することがある。
また、フタロシアニン化合物とカーボンブラック等の熱線を吸収できる材料を特定量使用することにより、フタロシアニン化合物を単独で使用した場合と比較して、熱線遮蔽効果は同等でフタロシアニン化合物の使用量を半分以下に減少させることもできる。
第四の態様による本発明のプラズマディスプレー用フィルターは、本発明のフタロシアニン化合物、本発明の第二の態様による近赤外吸収色素からなる群より選ばれる少なくとも一種および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物および/または近赤外吸収色素の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部、好ましくは0.0010〜10質量部である。
本発明のプラズマディスプレー用フィルターにおいて使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのもでもよいが、好ましくは4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(4−クロロフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、及び4,5−オクタキス(2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニンである。これらのフタロシアニン化合物は、特に可視光透過率が高く、かつ、750〜1050nmの吸収が大きく、さらに溶解性、耐熱性、耐光性も高く多くの優れた特性を発揮することができるものである。
本発明のプラズマディスプレー用フィルターは、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物を基材に含有してなるもので、本発明でいう基材に含有するとは、基材の内部に含有されることはもちろんのこと、基材の表面に塗布した状態、基材と基材の間に挟まれた状態などを意味する。基材としては、透明樹脂板、透明フィルム、透明ガラス等が挙げられる。上記フタロシアニン化合物を用いて、本発明のプラズマディスプレー用フィルターを作製する方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の3つの方法が利用できる。
すなわち、(1)樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形して樹脂板あるいはフィルムを作製する方法;(2)上記フタロシアニン化合物を含有する塗料(液状ないしペースト状物)を作製し、透明樹脂板、透明フィルムあるいは透明ガラス板上にコーティングする方法;および(3)上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する方法、等である。
まず、樹脂に上記フタロシアニン化合物を混練し、加熱成形する(1)の方法において、樹脂材料としては、樹脂板または樹脂フィルムにした場合にできるだけ透明性の高いものが好ましく、具体例としては、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニル等のビニル化合物、およびそれらのビニル化合物の付加重合体、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリシアン化ビニリデン、フッ化ビニリデン/トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体、シアン化ビニリデン/酢酸ビニル共重合体などのビニル化合物またはフッ化系化合物の共重合体、ポリトリフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素を含む樹脂、ナイロン6、ナイロン66などのポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリペプチド、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリカーボネート、ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド等のポリエーテル、エポキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール等を挙げることができるが、これらの樹脂に限定されるものではなく、ガラス代替となるような高硬度、高透明性を有する樹脂、チオウレタン系等の熱硬化樹脂、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることも好ましい。
本発明のプラズマディスプレー用フィルターの作製方法としては、用いるベース樹脂によって、加工温度、フィルム化条件等が多少異なるが、通常、本発明のフタロシアニン化合物を、ベース樹脂の粉体あるいはペレットに添加し、150〜350℃に加熱、溶解させた後、成形して樹脂板を作製する方法、押出機によりフィルム化する方法、および押出機により原反を作製し、30〜120℃で2〜5倍に、1軸ないし2軸に延伸して10〜200μm厚のフィルムにする方法等が挙げられる。なお、混練する際に、紫外線吸収剤、可塑剤等の通常の樹脂成形に用いる添加剤を加えてもよい。本発明のフタロシアニン化合物の添加量は、作製する樹脂の厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、通常、0.0005〜20%である。また、本発明のフタロシアニン化合物とメタクリル酸メチルなどの塊状重合によるキャスティング法を用いた樹脂板、樹脂フィルムを作製することもできる。
次に、塗料化してコーティングする(2)の方法としては、本発明のフタロシアニン化合物をバインダー樹脂および有機系溶媒に溶解させて塗料化する方法、フタロシアニン化合物を数μm以下に微粒化してアクリルエマルジョン中に分散して水系塗料とする方法、等がある。前者の方法では、通常、脂肪族エステル系樹脂、アクリル系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、芳香族エステル系樹脂、ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリオレフィン樹脂、芳香族ポリオレフィン樹脂、ポリビニル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニル系変成樹脂、(PVB、EVA等)あるいはそれらの共重合樹脂をバインダー樹脂として用いる。さらに、ARTON(日本合成ゴム株式会社製)、ZEONEX(日本ゼオン株式会社製)、OPTPOREZ(日立化成株式会社製)、O−PET(鐘紡株式会社製)等の光学用樹脂を用いることもできる。溶媒としては、ハロゲン系、アルコール系、ケトン系、エステル系、脂肪族炭化水素系、芳香族炭化水素系、エーテル系溶媒、あるいはそれらの混合物系などを用いることができる。
本発明のフタロシアニン化合物の濃度は、コーティングの厚み、目的の吸収強度、目的の可視光透過率等によって異なるが、バインダー樹脂の質量に対して、通常、0.1〜30%である。また、バインダー樹脂濃度は、塗料全体に対して、通常、1〜50%である。アクリルエマルション系水系塗料の場合も同様に、未着色のアクリルエマルション塗料に本発明のフタロシアニン化合物を微粉砕(950〜500nm)したものを分散させて得られる。塗料中には、紫外線吸収剤、酸化防止剤等の通常塗料に用いるような添加物を加えても良い。上記の方法で作製した塗料は、透明樹脂フィルム、透明樹脂板、透明ガラス等の上にバーコーダー、ブレードコーター、スピンコーター、リバースコーター、ダイコーターあるいはスプレーなどでコーティングして、本発明のプラズマディスプレー用フィルターを作製することができる。コーティング面を保護するために保護層を設けたり、透明樹脂板、透明樹脂フィルム等をコーティング面に貼り合わせることもできる。また、キャストフィルムも本方法に含まれる。
さらに、上記フタロシアニン化合物を接着剤に含有させて、合わせ樹脂板、合わせ樹脂フィルム、合わせガラス等を作製する(3)の方法においては、接着剤として、一般的なシリコン系、ウレタン系、アクリル系等の樹脂用あるいは合わせガラス用のポリビニルブチラール接着剤(PVA)、エチレン−酢酸ビニル系接着剤(EVA)等の合わせガラス用の公知の透明接着剤が使用できる。本発明のフタロシアニン化合物を0.1〜30質量%添加した接着剤を用いて透明な樹脂板同士、樹脂板と樹脂フィルム、樹脂板とガラス、樹脂フィルム同士、樹脂フィルムとガラス、ガラス同士を接着してフィルターを製作する。また、熱圧着する方法もある。さらに、上記の方法で作製したフィルムあるいは板を、必要に応じて、ガラスや、樹脂板上に貼り付けることもできる。フィルターの厚みは作製するプラズマディスプレーの仕様によって異なるが、通常、0.1〜10mm程度である。また、フィルターの耐光性を上げるためにUV吸収剤を含有した透明フィルム(UVカットフィルム)を外側に貼り付けることもできる。
本発明において、プラズマディスプレー用の誤動作防止フィルターとして、ディスプレーからでる近赤外線光をカットするためにディスプレーの前面に設置するため、可視光線の透過率が低いと、画像の鮮明さが低下するため、フィルターの可視光線の透過率は高いほど良く、少なくとも60%、好ましくは70%以上必要である。また、近赤外線光のカット領域は、リモコンや伝送系光通信に使用されている750〜1100nm、好ましくは800〜1000nmであり、その領域の平均光線透過率が15%以下、好ましくは10%以下になるように設計する。このために必要であれば、上記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物を2種以上組み合わせてもよい。また、フィルターの色調を変えるために、可視領域に吸収を持つ他の色素を加えることも好ましい。また、色調用色素のみを含有するフィルターを作製し、後で貼り合わせることもできる。特にスパッタリングなどの電磁波カット層を設けた場合、元のフィルター色に比べて色合いが大きく異なる場合があるため、色調は重要である。
上記の方法で得たフィルターをさらに実用的にするためには、プラズマティスプレーから出る電磁波を遮断する電磁波カット層、反射防止(AR)層、ノングレア(AG)層を設けることもできる。それらの作製方法は、特に制限を受けない。例えば、電磁波カット層は、金属酸化物等のスパッタリング方法が利用できるが、通常はSnを添加したIn2O3(ITO)が、一般的であるが、誘電体層と金属層を基材上に交互にスパッタリングなどで積層させることで、近赤外線、遠赤外線から電磁波まで1100nm以上の光をカットすることもでききる。誘電体層としては、酸化インジウム、酸化亜鉛などの透明な金属酸化物であり、金属層としては、銀あるいは銀−パラジウム合金が一般的であり、通常、誘電体層よりはじまり3層、5層、7層あるいは11層程度積層する。この場合、ディスプレーより出る熱も同時にカットできるが、本発明のフタロシアニン化合物は、熱線遮蔽効果に優れるため、より耐熱効果を向上できる。基材としては、本発明のフタロシアニン化合物を含有するフィルターをそのまま利用しても良いし、樹脂フィルムあるいはガラス上にスパッタリングした後に該フタロシアニン化合物を含有するフィルターとはり合わせてもよい。また、電磁波カットを実際に行う場合は、アース用の電極を設置する必要がある。反射防止層は、表面の反射を抑えてフィルターの透過率を向上させるために、金属酸化物、フッ化物、ホウ化物、炭化物、窒化物、硫化物等の無機物を、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等で単層あるいは多層に積層させる方法、アクリル樹脂、フッ素樹脂等の屈折率の異なる樹脂を単層あるいは多層に積層させる方法等がある。また、反射防止処理を施したフィルムを該フィルター上に貼り付けることもできる。また、必要であれば、ノングレアー(AG)層を設けることもできる。ノングレアー(AG)層は、フィルターの視野角を広げる目的で、透過光を散乱させるために、シリカ、メラミン、アクリルなどの微粉体をインキ化して、表面にコーティングする方法等を用いることができる。インキの硬化は、熱硬化あるいは光硬化等を用いることができる。また、ノングレアー処理をしたフィルムを該フィルター上にはり付けることもできる。さらに必要であれば、ハードコート層を設けることもできる。
プラズマティスプレー用のフィルターの構成は、必要に応じて代えることができる。通常、近赤外線吸収化合物を含有するフィルター上に反射防止層を設けたり、さらに必要であれば、反射防止層の反対側にノングレア層を設ける。また、電磁波カット層を組み合わせる場合は、近赤外線吸収化合物を含有するフィルターを基材として、その上に電磁波カット層を設けるか、あるいは近赤外線吸収化合物を含有するフィルターと電磁波カット能を有するフィルターを貼り合わせて作製できる。その場合、さらに、両面に反射防止層を作製するか、必要であれば、片面に反射防止層を作製し、その反対面にノングレア層を作製することもできる。また、色補正するために、可視領域に吸収を有する色素を加える場合は、その方法については制限を受けない。本発明のプラズマディスプレー用フィルターは、可視光線透過率が高いため、ディスプレーの鮮明度が損なわれず、ディスプレーから出る800〜1000nm付近の近赤外線光を効率よくカットするため、周辺電子機器のリモコン、伝送系光通信等が使用する波長に悪影響を与えず、それらの誤動作を防ぐことができる。
第五の態様による近赤外吸収材は、本発明のフタロシアニン化合物及び本発明の第二の態様による近赤外吸収色素からなる群より選ばれる少なくとも一種および樹脂からなり、かつ該フタロシアニン化合物および/または近赤外吸収色素の配合量は該樹脂100質量部に対して0.0005〜20質量部、好ましくは0.0010〜10質量部であり、800〜1000nmの近赤外線を吸収するものである。
本発明の近赤外吸収材において使用することのできるフタロシアニン化合物は、上記式(1)で表されるフタロシアニン化合物であればいずれのもでもよいが、好ましくは4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、4,5−オクタキス(4−クロロフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニン、及び4,5−オクタキス(2−メチルフェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(n−ヘキシルアミノ)}銅フタロシアニンである。
本発明において使用する樹脂は、得られる近赤外線吸収材の用いる用途によって適宜選択することができるが、実質的に透明であって吸収・散乱が大きくない樹脂が好ましい。その具体的なものとしては、ポリカーボネート樹脂;メチルメタクリレートなどの(メタ)アクリル樹脂;ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデンなどのポリビニル樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリブチラール樹脂:ポリ酢酸ビニル樹脂;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂などを挙げることができる。また、実質的に透明であれば、上記1種類の樹脂に限らず、2種以上の樹脂をブレンドしたものも用いることができ、透明性のガラスに上記の樹脂をはさみこんで用いることもできる。ただし、蓄熱・保温材として用いる場合には、必ずしも透明性の樹脂である必要がない。これらの樹脂のうちで、耐候性、透明性に優れるポリカーボネート樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリスチレン樹脂あるいはポリ塩化ビニル樹脂が好ましく、特にポリカーボネート樹脂、メタクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂あるいはポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。蓄熱保温繊維として使用する場合、ポリエチレンテレフタレート樹脂あるいはポリアミド樹脂が好ましい。
これらの樹脂のうち、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂および塩化ビニル樹脂については、上記第三の態様における規定と同様である。
本発明の実施にあたっては、使用する目的に応じ適宜好ましい添加剤を用いることができる。添加剤としては、例えば着色剤、重合調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、可塑剤、耐衝撃性向上のためのゴム、あるいは剥離剤などを挙げることができる。
また、本発明のフタロシアニン化合物を用いるにあたり、従来公知の近赤外線吸収剤と組合わせて用いることもできる。
さらに、本発明において、フタロシアニン化合物を透明性樹脂に混合含有させ成形する方法としては、特に制限されないが、押出成形、射出成形、注型重合、プレス成形、カレンダー成形あるいは注型製膜法等が挙げられる。
さらに、フタロシアニン化合物を含有するフィルムを作製し、そのフィルムを透明樹脂板に熱プレスあるいは熱ラミネート成形することにより近赤外線吸収材を作製することも可能である。または、フタロシアニン化合物を含有する樹脂インクまたは塗料等を透明樹脂板、透明硝子板、フィルム、繊維、紙等の基材に印刷またはコーティングすることにより近赤外線吸収材を、シート、フィルム、繊維、紙状等として得ることもできる。
本発明に使用するフタロシアニン化合物は市販の赤外線吸収剤と比較して、耐熱性に優れているので、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂を使用して射出成形、押出成形のような樹脂温度が200〜350℃という高温まで上昇する成形方法でも成形することが可能であり、透明感が良好で近赤外線の吸収能あるいは熱線遮蔽性能に優れた成形品を得ることができる。また、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂等と220〜350℃で紡糸して、蓄熱保温繊維を得ることができる。220℃より下の成形温度で使用しても問題はない。
上記態様の近赤外線吸収材は、その形状にも格別の制限はなく、最も一般的な平板状やフィルム状のほか波板状、球面状、ドーム状等様々な形状のものが含有される。
第五の態様において用いられるフタロシアニン化合物は、目的とする近赤外線吸収材のシートあるいはフィルムの可視および近赤外域の透過率の設定および該材の厚みによってその量を変えることができるが、樹脂100質量部に対して、通常、0.0005〜20質量部、好ましくは0.0010〜10質量部である。なお、この配合量は、近赤外線吸収材の形状によって異なり、例えば、厚さ3mmの近赤外線吸収板を作成する場合には、樹脂100質量部に対して、0.002〜0.06質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.003〜0.02質量部である。また、例えば、厚さ10mmの近赤外線吸収板を作成する場合には、樹脂100質量部に対して、0.0005〜0.02質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.001〜0.005質量部である。厚さ10μmの近赤外吸収フィルムを作製する場合には、樹脂100質量部に対して、0.1〜20質量部の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.5〜10質量部である。近赤外線吸収材の厚さに関係なくフタロシアニン化合物の配合量を表示するとすれば、上方からの投影面積中の質量と考えて、0.01〜2.0g/m2の配合量が好ましく、さらに好ましくは0.05〜1.0g/m2である。この際、フタロシアニン化合物の配合量が0.01g/m2より少ない場合には近赤外線吸収効果の少ないものとなり、2.0g/m2を超える場合は著しく高価となり、また、可視光線の透過が少なくなり過ぎる場合がある。
本発明の近赤外線吸収材が波板等の異形である際には、フタロシアニンの配合量は上方からの投影面積中の質量と考えればよい。また、外観上問題がない限りフタロシアニン化合物の濃度の分布にむらがあってもかまわない。また、フタロシアニン化合物は1種類以上のものを混合して使用することも可能であり、吸収波長の異なるものを2種以上使用した場合には近赤外線吸収効果が向上することがある。
また、フタロシアニン化合物とカーボンブラックを特定量使用することにより、フタロシアニン化合物を単独で使用した場合と比較して、近赤外線吸収効果は同等でフタロシアニン化合物の使用量を半分以下に減少させることができる。また、フタロシアニン化合物と染料を併用した場合と比較して近赤外線吸収効果が向上する。
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。
実施例1:CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}4の合成
窒素気流下で50mlの4ツ口フラスコに、4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10g(0.021モル)と塩化第一銅0.54g(0.0054モル)およびn−オクタノール15gを投入し、攪拌しながら150℃で約2.5時間反応させた。冷却後、ベンゾニトリル約5g投入し、吸引ろ過により析出物をろ過した。
その後、ろ紙上の析出物を50mlの4ツ口フラスコに移し、ベンゾニトリル30gを加え攪拌しながら一旦150℃に加熱後80℃まで冷却し、ヘキシルアミン8.4g(0.083モル)を投入し、80℃で約2時間反応させた。
その後室温まで冷却し、約400mLのメタノール中に投入し結晶を析出させた。得られた結晶を吸引ろ過した後、再び約200mLのメタノールで攪拌洗浄することで洗浄、精製を行った。その後再び、吸引ろ過で結晶を取り出し、取り出した結晶を約60℃で一晩、真空乾燥しCuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}46.3g{4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリルに対する収率約52モル%}が得られた。
このようにして得られたフタロシアニン化合物について、以下の方法に従って、最大吸収波長(λmax)、吸光係数、分光透過率、及び耐光性を測定、評価した。この際、本発明でいう最大吸収波長(λmax)は、クロロホルム中で測定した値とする。
<最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率の測定>
分光光度計(島津製作所製:UV−1650PC)を用いて、クロロホルム中で得られたフタロシアニン化合物CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}4の最大吸収波長(λmax)と吸光係数を測定した。
また、1cmの石英セル中で750〜1,100nmの光透過率の最低値が5〜6%になるまでクロロホルムで希釈し、そのときの可視光三原色の代表的波長である460nm(青色)、545nm(緑色)、610nm(赤色)の透過率を分光光度計で測定した。これらの測定結果を以下の表1に示す。なお、下記表1において、透過率(B)、透過率(G)及び透過率(R)は、それぞれ、青色(460nm)での可視光透過率、緑色(545nm)での可視光透過率及び赤色(610nm)での可視光透過率を示す。
<耐光性の測定>
(株)日本触媒製のアクリル系樹脂であるハルスハイブリッドポリマーIR−G205(不揮発分約30%)5gに当該フタロシアニン化合物0.03g及びクロロホルム6.5gを加え、ペイントシェーカーで約15分混合し塗料を作製後、40番のバーコーターを用いてスライドガラスに塗布した。その後、約30分常温常圧で乾燥後、60℃で真空乾燥しガラスコーティング膜のテストピースを得た。得られたテストピースをキセノン耐光性試験機(ATLAS社製サンテストCPS+)を用い約13万ルクスの光を照射し、経時で吸光度の残存率を測定し、吸光度の残存率が70%以下になるまでの時間を耐久時間として測定する事で耐光性の評価を行った。得られた結果を以下の表1に示す。
実施例2:CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4の合成
実施例1において、ヘキシルアミン8.4gの代わりに、2−エチルヘキシルアミン10.7g(0.083モル)を使用した以外は、実施例1と同様に操作し、CuPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}47.4g {4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリルに対する収率約58モル%}が得られた。
このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
実施例3:CuPc(4−ClPhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}4の合成
実施例1において、4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10gの代わりに、4,5−ビス(4−クロロチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10.86g(0.021モル)を使用した以外は、実施例1と同様に操作し、CuPc(4−ClPhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}47.4g{4,5−ビス(4−クロロチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリルに対する収率約55モル%}が得られた。
このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
実施例4:CuPc(2−CH3PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}4の合成
実施例1において、4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10gの代わりに、4,5−ビス(4−メチルチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10.72g(0.021モル)を使用した以外は、実施例1と同様に操作し、CuPc(4−CH3PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)5NH}47.3g{4,5−ビス(4−クロロチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリルに対する収率約57モル%}が得られた。
このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
実施例5:CuPc(4−CH3OPhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4の合成
実施例2において、4,5−ビス(チオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル10gの代わりに、4,5−ビス(4−メトキシチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリル11.4g(0.021モル)を使用した以外は、実施例2と同様に操作し、CuPc(4−CH3OPhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4の6.7g{4,5−ビス(4−メトキシチオフェノキシ)−3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−6−フルオロフタリロニトリルに対する収率約48モル%}が得られた。
このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
比較例1
特許第3226504号の実施例8に記載の方法と同様にして、フタロシアニン化合物:CuPc(PhS)8(PhCH2NH)6F2を合成した。このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
比較例2
特許第3226504号の実施例12に記載の方法と同様にして、フタロシアニン化合物:CuPc(PhS)8(PhCH2CH2NH)7Fを合成した。このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
比較例3
特開2001−106689号公報の実施例9に記載の方法と同様にして、フタロシアニン化合物:VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO} 4 (PhCH2NH)4を合成した。このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
比較例4
特開2001−106689号公報の実施例7に記載の方法と同様にして、フタロシアニン化合物:VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO} 4 (PhCH2NH)4を合成した。このようにして得られたフタロシアニン化合物について、最大吸収波長(λmax)、吸光係数および分光透過率、耐光性を実施例1と全く同様に操作して測定した。その結果を、以下の表1に示す。
表1から明らかなように、実施例1〜5の本発明のフタロシアニン化合物は、従来知られているフタロシアニン化合物に比べて、有意に耐光性が高く、かつ850〜950nmという特定の波長領域に最大吸収を選択的に有するものであり、また、可視領域においては3原色の青色、緑色、赤色の透過率は、それぞれの差が5%以下と、非常に透過率のバランスに優れたものであることから特定の色に着色することがなく、しかも平均的に80%前後の非常に高い透過率を持つので、PDPディスプレイの近赤外フィルターなどに用いる際に非常に効果的であると考えられる。
これに対して、比較例1及び2のフタロシアニン化合物の場合は、最大吸収波長(それぞれ、938.5nm及び949nm)は確かに850〜950nmの波長域に入っているものの、可視光の透過率が非常に悪く、また3原色の透過率のバランスも悪く(特に赤色の透過率が劣る)、耐光性も悪い。また、比較例3のフタロシアニン化合物は、最大吸収波長(935nm)850〜950nmの波長域に入っているものの、可視光の透過率が全体的に低く(特に赤色の透過率が劣る)、また耐光性が120時間と劣っている。加えて、比較例4のフタロシアニン化合物は、最大吸収波長(891.5nm)が850〜950nmの波長域に入り、可視光の透過率も高いが、3原色の透過率のバランスがやや悪く(青色の透過率が高い)、また、耐光性が150時間と劣っている。