JP7273296B2 - 鋼板 - Google Patents
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[1] 質量%で、
C:0.03%以上、0.12%以下、
Mn:6.0%以上、13.0%以下、
Ni:1.00%超、5.00%以下、
Si:0%以上、1.50%以下、
Al:0%以上、0.30%以下、
Cu:0%以上、2.00%以下、
Co:0%以上、2.00%以下、
Cr:0%以上、2.00%以下、
Mo:0%以上、2.00%以下、
W:0%以上、2.00%以下、
B:0%以上、0.0100%以下、
Nb:0%以上、0.100%以下、
V:0%以上、0.100%以下、
Ti:0%以上、0.100%以下、
Zr:0%以上、0.100%以下、
Hf:0%以上、0.100%以下、
Ta:0%以上、0.100%以下、
Mg:0%以上、0.0100%以下、
Ca:0%以上、0.0100%以下、及び
REM:0%以上、0.0100%以下
を含有し、
P:0.010%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0050%以下
であり、残部がFe及び不純物からなり、
金属組織が、体積%で、80%以上のα’マルテンサイト、10%以上、20%以下の残留オーステナイトを含み、残部組織が、存在する場合は、体積%で、5%以下のベイナイト、5%以下のフェライト、10%以下のεマルテンサイトからなり、
前記α’マルテンサイトの円相当直径は0.1μm以上、5.0μm以下であり、
前記残留オーステナイトの円相当直径は0.01μm以上、2.50μm以下であり、
旧オーステナイトの円相当直径は200μm以下であり、かつ、旧オーステナイトのアスペクト比は1以上、50以下であり、
前記残留オーステナイトによる前記旧オーステナイトの粒界占積率は40%以上、100%以下である、鋼板。
[2] 前記旧オーステナイトのアスペクト比が4以上、50以下である、上記[1]に記載の鋼板。
[3] 質量%で、
Cu:0.10%以上、2.00%以下、
Co:0.10%以上、2.00%以下、
Cr:0.10%以上、2.00%以下、
Mo:0.10%以上、2.00%以下、
W:0.10%以上、2.00%以下、
B:0.0002%以上、0.0100%以下、
Nb:0.005%以上、0.100%以下、
V:0.005%以上、0.100%以下、
Ti:0.005%以上、0.100%以下、
Zr:0.005%以上、0.100%以下、
Hf:0.005%以上、0.100%以下、及び
Ta:0.005%以上、0.100%以下
のうち1種又は2種以上を含有する、上記[1]又は[2]に記載の鋼板。
[4] 質量%で、
Mg:0.0001%以上、0.0100%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0100%以下、及び
REM:0.0001%以上、0.0100%以下
のうち1種又は2種以上を含有する、上記[1]~[3]のいずれかに記載の鋼板。
以下、本実施形態に係る鋼板について詳細に説明する。なお、本実施形態において「鋼板」とは、板厚が3mm以上、例えば、5mm以上、10mm以上、15mm以上、18mm以上、20mm以上、25mm以上、30mm以上、又は50mm以上であって、熱間圧延によって製造された圧延鋼板である。まず、本実施形態に係る鋼板に含まれる化学成分について説明する。なお、元素の含有量に関する「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。
Cは、鋼の強度を高める元素であり、一方で、過剰に含有させると低温靭性が悪化する。本実施形態において、強度を確保するために、Cの含有量は0.03%以上である。Cの含有量は、好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。一方、低温靭性を確保するために、本実施形態において、Cの含有量は0.12%以下である。Cの含有量は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.08%以下である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、鋼の焼入れ性を高める元素である。本実施形態に係る中Mn鋼においては、Mnはα’マルテンサイトのブロックのサイズや粒界脆化に影響を及ぼす極めて重要な元素である。本実施形態では、α’マルテンサイトの体積率を高めて強度を向上させるとともに、α’マルテンサイトのブロックを微細化して低温靭性を確保するためにMnを含有させる。このような効果を得るために必要とされるMnの含有量は、本実施形態では、6.0%以上である。Mnの含有量は、好ましくは7.0%以上、より好ましくは8.0%以上である。一方、Mnによる粒界脆化を抑制し、マルテンサイトのブロックを微細化して低温靭性を確保するために、本実施形態では、Mnの含有量は13.0%以下である。Mnの含有量は、好ましくは12.0%以下であり、より好ましくは11.0%以下である。
Niは、オーステナイトを安定化させ、靭性を向上させる元素であり、残留オーステナイトの生成を促進し、低温靭性を向上させるために含有させる。本実施形態では、Niの含有量は1.00%超であり、好ましくは1.50%以上、より好ましくは2.00%以上である。製造コストの観点から、本実施形態では、Niの含有量は5.00%以下である。Niの含有量は、好ましくは4.00%以下、より好ましくは3.50%以下である。
Siは脱酸元素である。ただし、Al、Tiなどの脱酸元素を含有させてもよく、本実施形態では、Siの含有量は0%以上であってよい。固溶強化や炭化物の生成の抑制や、残留γの増加という観点から、Siの含有量は、好ましくは0.01%以上である。Siの含有量は、より好ましくは0.10%以上である。一方、粗大な介在物の生成の抑制や、低温靭性の確保という観点から、本実施形態では、Siの含有量は1.50%以下である。Siの含有量は、好ましくは1.20%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Alは脱酸元素である。ただし、Si、Tiなどの脱酸元素を含有させてもよく、本実施形態では、Alの含有量は0%以上であってよい。脱酸を確実に行うために、Alの含有量は、好ましくは0.01%以上である。また、炭化物の生成の抑制や、残留γを増加させるという観点から、Alの含有量は、より好ましくは0.03%以上である。一方、粗大な介在物の生成の抑制や、低温靭性の確保という観点から、本実施形態では、Alの含有量は0.30%以下である。Alの含有量は、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.05%以下である。
Pは、不純物であり、粒界に偏析して靭性を低下させる。低温靭性を確保するために、本実施形態では、Pの含有量は0.010%以下である。Pの含有量は、好ましくは0.008%以下であり、より好ましくは0.006%以下である。Pの含有量は少ないほど好ましいが、製造コストの観点から、0.001%以上であってもよい。
Sは、不純物であり、MnSを生成して、延性や靭性を低下させる。低温靭性を確保するために、本実施形態では、Sの含有量は、0.0050%以下である。Sの含有量は、好ましくは0.0030%以下であり、より好ましくは0.0010%以下である。Sの含有量は少ないほど好ましいが、製造コストの観点から、0.0001%以上であってもよい。
Nは、一般に不純物として含有されるが、本実施形態に係る中Mn鋼においては、オーステナイトを安定化させ、強度を向上させる元素であるので、積極的に含有させてもよい。ただし、Nの効果はCと同等であり、必ずしも含有させる必要はないため、Nの含有量の下限は限定されない。製造コストの観点から、Nの含有量は0.0010%以上であってもよい。また、Nは、窒化物を形成する元素であり、鋼中に分散した微細な窒化物は、組織の粗大化の抑制に有効である。本実施形態においては、残留オーステナイトの確保や旧オースナイトの微細化、さらに強度の向上という観点から、Nの含有量は、好ましくは0.0020%以上、より好ましくは0.0030%以上である。一方、鋼中に固溶したN原子が転位と結合し、時効硬化を発現すると、靭性が低下する場合がある。したがって、本実施形態では、低温靭性の確保という観点から、Nの含有量は0.0100%以下である。Nの含有量は、好ましくは0.0080%以下であり、より好ましくは0.0060%以下である。
Oは、不純物であり、酸化物を形成する。粗大な酸化物の生成を抑制し、靭性を確保するために、本実施形態では、Oの含有量は0.0050%以下である。Oの含有量は、好ましくは0.0040%以下であり、より好ましくは0.0030%以下である。Oの含有量は少ないほど好ましいが、製造コストの観点から、0.0005%以上であってもよい。
Cuは、オーステナイトを安定化させる元素であり、残留オーステナイトの生成を促進して低温靭性を向上させるために必要に応じて含有される。本実施形態では、Cuの含有量は0%以上であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.20%以上である。製造コストの観点から、本実施形態では、Cuの含有量は2.00%以下である。Cuの含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Coは、オーステナイトを安定化させる元素であり、残留オーステナイトの生成を促進して低温靭性を向上させるために必要に応じて含有される。本実施形態では、Coの含有量は0%以上であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.20%以上である。製造コストの観点から、本実施形態では、Coの含有量は2.00%以下である。Coの含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Crは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、炭化物を形成して強度を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Crの含有量は0%以上であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.20%以上である。一方、強度の上昇に伴って靭性が劣化することから、低温靭性を向上させるために、本実施形態では、Crの含有量は2.00%以下である。Crの含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Moは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、強度を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Moの含有量は0%以上であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.20%以上である。一方、製造コストの観点から、本実施形態では、Moの含有量は2.00%以下である。Moの含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Wは、鋼の焼入れ性を高める元素であり、強度を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Wの含有量は0%以上であり、好ましくは0.10%以上、より好ましくは0.20%以上である。一方、製造コストの観点から、本実施形態では、Wの含有量は2.00%以下である。Wの含有量は、好ましくは1.00%以下、より好ましくは0.50%以下である。
Bは、鋼の焼入れ性を顕著に高める元素であり、また、オーステナイトの結晶粒界に偏析して粒界破壊を抑制する元素でもある。Bは、必要に応じて含有され、本実施形態では、Bの含有量は0%以上である。特に、低温靭性を向上させるという観点から、Bの含有量は好ましくは0.0002%以上、より好ましくは0.0005%以上である。一方、Bは窒化物や炭硼化物を形成する元素でもあり、低温靭性の確保という観点から、Bの含有量は0.0100%以下である。Bの含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
Nbは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Nbは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Nbの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Nbの含有量は0.100%以下である。Nbの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Vは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Vは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Vの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Vの含有量は0.100%以下である。Vの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Tiは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Tiは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Tiの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Tiの含有量は0.100%以下である。Tiの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Zrは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Zrは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Zrの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Zrの含有量は0.100%以下である。Zrの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Hfは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Hfは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Hfの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Hfの含有量は0.100%以下である。Hfの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Taは、炭化物や窒化物などの析出物を生成する元素である。Taは、結晶粒径の微細化や析出強化によって強度及び靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Taの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上である。一方、析出物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Taの含有量は0.100%以下である。Taの含有量は、好ましくは0.050%以下、より好ましくは0.040%以下である。
Mgは、酸化物や硫化物を形成する元素である。Mgは、微細な酸化物や硫化物により、結晶粒径を微細化するために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Mgの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上である。一方、介在物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Mgの含有量は0.0100%以下である。Mgの含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下である。
Caは、酸化物や硫化物を形成する元素である。Caは、MnSの圧延方向への延伸化を防止し、靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、Caの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上である。一方、介在物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、Caの含有量は0.0100%以下である。Caの含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下である。
REM(希土類元素)とは、Sc、Yの2元素と、La、CeやNdなどのランタノイド15元素の総称を意味する。本実施形態でいうREMとは、これら希土類元素から選択される1種以上で構成されるものであり、以下に説明するREMの含有量とは、希土類元素の合計量である。
REMは、酸化物や硫化物を形成する元素である。REMは、MnSの圧延方向への延伸化を防止し、靭性を向上させるために、必要に応じて含有される。本実施形態では、REMの含有量は、0%以上であり、好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上である。一方、介在物の粗大化を抑制し、低温靭性を確保するために、本実施形態では、REMの含有量は0.0100%以下である。REMの含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0040%以下である。
次に、本実施形態に係る鋼板の金属組織について説明する。本実施形態に係る鋼板の金属組織は、α’マルテンサイト及び残留オーステナイトを含み、その残部組織は、存在する場合は、ベイナイト、フェライト、εマルテンサイトの1種又は2種以上で構成される。あるいは、金属組織は、α’マルテンサイト及び残留オーステナイトのみで構成される。なお、α’マルテンサイト、残留オーステナイト、ベイナイト、フェライト、εマルテンサイトの体積率に関する「%」は、特に断りがない限り、「体積%」を意味する。ここで、α’マルテンサイト、残留オーステナイト、ベイナイト、フェライト及びεマルテンサイトの体積率は、鋼板の表面から板厚の1/4の位置において、電子線後方散乱回折法(Electron BackScatter Diffraction、EBSD)によって測定した各相の面積率とする。α’マルテンサイト及び残留オーステナイトの円相当直径は、EBSDによって測定した各相の面積及び個数から算出する。
α’マルテンサイトは、本実施形態に係る鋼板において、最も体積率が大きい主体組織である。α’マルテンサイトは、熱間圧延後の加速冷却によって生成する低温変態組織であり、転位密度が高く、鋼の強度を顕著に向上させる。α’マルテンサイトの体積率は、強度を確保するために、本実施形態では、80%以上である。α’マルテンサイトの体積率は、好ましくは83%以上であり、より好ましくは85%以上である。α’マルテンサイトの体積率は、高いほど好ましいが、本実施形態では、残留オーステナイトの体積率が10%以上であることから、α’マルテンサイトの体積率は90%以下である。
α’マルテンサイトの円相当直径は、α’マルテンサイトのブロックの円相当直径であり、EBSDによって測定することができる。α’マルテンサイトの円相当直径が小さくなると、鋼の靭性が高くなる。低温靭性の確保という観点から、本実施形態では、α’マルテンサイトの円相当直径は5.0μm以下である。α’マルテンサイトの円相当直径は、好ましくは4.0μm以下であり、より好ましくは3.0μm以下である。α’マルテンサイトの円相当直径は、小さいことが望ましいが、本実施形態では、0.1μm以上である。α’マルテンサイトの円相当直径は、0.5μm以上であってもよい。α’マルテンサイトの円相当直径は、鋼の焼入れ性を高めること、加速冷却の冷却速度を高めること、旧オーステナイトを微細化すること、などによって微細にすることができる。
残留オーステナイトは、熱間圧延後の加速冷却によって変態せずに、冷却後の鋼板に残存するオーステナイトであり、鋼の低温靭性を顕著に向上させる。残留オーステナイトの体積率は、低温靭性を確保するために、本実施形態では、10%以上である。残留オーステナイトの体積率は、好ましくは12%以上であり、より好ましくは14%以上である。一方、残留オーステナイトの体積率が増加すると、残留オーステナイトに含まれる炭素の濃度が低下する。炭素濃度が低下した残留オーステナイトは、低温に冷却され、さらに変形が加えられると、α’マルテンサイトに変態しやすくなり、靭性を低下させる可能性がある。このような観点から、低温靭性を確保するために、残留オーステナイトの体積率は、本実施形態では、20%以下である。残留オーステナイトの体積率は、好ましくは18%以下であり、より好ましくは16%以下である。
残留オーステナイトは、低温靭性を向上させるものの、粗大な残留オーステナイトは、低温に冷却され、さらに変形が加えられると、α’マルテンサイトに変態しやすい。したがって、低温靭性の確保という観点から、残留オーステナイトの円相当直径は2.50μm以下である。残留オーステナイトの円相当直径は、好ましくは2.00μm以下であり、より好ましくは1.50μm以下である。残留オーステナイトの円相当直径は、小さいことが望ましいが、本実施形態では、0.01μm以上である。残留オーステナイトの円相当直径は、0.50μm以上であってもよい。残留オーステナイトの円相当直径は、加速冷却の冷却速度を高めること、旧オーステナイトを微細化すること、などによって微細にすることができる。
ベイナイトは、ラス状の低温変態組織であるが、セメンタイトが析出しており、α’マルテンサイトに比べると結晶粒径が大きい。ベイナイトは、α’マルテンサイトに比べると軟質な組織で、破壊の起点になりやすく、鋼の強度及び低温靭性を確保するために、ベイナイトの体積率は少ないほど好ましい。本実施形態では、ベイナイトの体積率は、0%以上、5%以下である。ベイナイトの体積率は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは0%である。
フェライトは、低温変態組織に比べると軟質な組織であり、結晶粒径が大きい。本実施形態では、鋼の強度及び低温靭性を確保するために、フェライトの体積率は少ないほど好ましい。本実施形態では、フェライトの体積率は、0%以上、5%以下である。フェライトの体積率は、好ましくは3%以下であり、より好ましくは0%である。
本実施形態に係る中Mn鋼は、Mnが積層欠陥エネルギーを低下させるため、εマルテンサイトが生成されることがある。オーステナイトからα’マルテンサイトへの変態の過程でεマルテンサイトが生成すると、金属組織が微細になる。しかし、εマルテンサイトは延性が低いため、α’マルテンサイトに再変態させることが望ましく、本実施形態では、εマルテンサイトの体積率は、0%以上である。εマルテンサイトは、破壊の起点となって鋼の靭性を低下させる場合があることから、低温靭性を確保するために、本実施形態では、εマルテンサイトの体積率は、10%以下である。εマルテンサイトの体積率は、好ましくは5%以下であり、より好ましくは1%以下である。εマルテンサイトの体積率は、0%が望ましい。
旧オースナイトは、熱間圧延後、加速冷却前のオーステナイトである。本実施形態の鋼板は、α’マルテンサイトの体積率が80%以上であることから、旧オーステナイトの円相当直径は、鋼板の表面から板厚の1/4の位置において、研磨及びエッチングを施した試料を光学顕微鏡で観察し、撮影された写真を用いて測定される。上述したα’マルテンサイトのブロックサイズは、結晶方位差が数度以内でほぼ同じ領域であり、旧オーステナイトの円相当直径が小さくなると、α’マルテンサイトのブロックサイズも小さくなる。したがって、旧オーステナイトの円相当直径は、低温靭性を確保するために小さい方が好ましく、本実施形態では、200μm以下である。旧オーステナイトの円相当直径は、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下である。旧オーステナイトの円相当直径の下限は限定されないが、10μm以上であってよく、20μm以上であってもよい。旧オーステナイトの円相当直径を小さくするために、熱間圧延の粗圧延における圧下率を確保し、制御圧延前のオーステナイトを微細にすることが推奨される。
旧オーステナイトのアスペクト比は、研磨及びエッチングによって現出する金属組織の形状から、長径に対する短径の比率として測定される。仕上圧延において、未再結晶温度域における圧下率が大きいほど、α’マルテンサイトの結晶粒径が微細になり鋼の強度及び靭性が改善される。粗圧延の圧下率は、粗圧延前の鋼片の厚さ及び粗圧延終了後の鋼片の厚さから求められる。粗圧延終了後の鋼片の厚さは、粗圧延から仕上圧延に移送される鋼片の厚さであり、移送厚と称される。粗圧延前の鋼片の厚さは鋼片厚と称される場合がある。
残留オーステナイトが旧オーステナイトの粒界に生成していると、粒界破壊が抑制され、低温靭性が向上する。残留オーステナイトによる旧オーステナイト粒界の占積率(以下、残留γ占積率という場合がある。)は、旧オーステナイトの粒界において残留オーステナイトが占める割合である。低温靭性を向上させるために必要とされる、残留オーステナイトによる旧オーステナイトの粒界占積率は、40%以上である。残留オーステナイトによる旧オーステナイトの粒界占積率は、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上である。残留オーステナイトによる旧オーステナイトの粒界占積率は、大きいほど低温靭性が向上し、100%以下であってよい。
上述した化学成分から構成され、連続鋳造法によって製造された厚み200mm以上の鋼片は、一旦、400℃以下に冷却されるとよい。その後、鋼片は、好ましくは、Ac3変態点以上、1250℃以下に加熱される。鋼片の金属組織をオースナイト単相の組織とするために、加熱温度は、Ac3変態点以上であるとよい。加熱前の鋼片に存在する炭化物を鋼中に固溶させるという観点から、加熱温度は、より好ましくは1000℃以上であり、さらに好ましくは1050℃以上である。一方、鋼片の表面の酸化やオーステナイトの粗大化の抑制という観点から、加熱温度は1250℃以下であるとよい。加熱温度は、好ましくは1200℃以下であり、より好ましくは1100℃以下である。なお、Ac3変態点は、昇温によってオーステナイトへの変態が完了する温度であり、加熱時の体積変化から求めることができる。
熱間圧延工程は、粗圧延と、これに続く仕上圧延とからなる。粗圧延は、オーステナイトの再結晶温度以上の温度域で行われ、粗圧延の開始温度及び圧下率によって本実施形態に係る鋼板の旧オーステナイトの結晶粒径が制御される。旧オーステナイトの結晶粒径を微細にするために、粗圧延の開始温度は、低い方が好ましい。粗圧延の開始温度は、鋼片の加熱温度を超えることはなく、好ましくは1100℃以下である。粗圧延の開始温度は、例えば900℃以上であってよい。また、旧オーステナイトの結晶粒径を微細にするために、粗圧延の圧下率は20%以上とする。粗圧延の圧下率は、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上である。また、粗圧延の圧下率は、仕上圧延の圧下率を確保するという観点から、好ましくは90%以下であり、より好ましくは80%以下、さらに好ましくは70%以下である。
粗圧延に続いて仕上圧延が施される。仕上圧延の開始温度は、粗圧延の終了温度を超えることはなく、α’マルテンサイトの結晶粒径の微細化及び、残留オーステナイトの確保という観点から、低い方が好ましい。仕上圧延の開始温度は、好ましくは1000℃以下である。仕上圧延の開始温度は、未再結晶温度域における圧延が施されるという観点から、より好ましくは900℃以下である。仕上圧延の開始温度は、例えば700℃以上であってよい。一方、仕上圧延の終了温度は、鋼板の機械特性の異方性の抑制という観点から、Ar3変態点以上である。仕上圧延の終了温度は、好ましくは700℃以上である。ただし、仕上圧延の終了温度は、α’マルテンサイトの結晶粒径の微細化及びεマルテンサイトの生成の抑制、残留オーステナイトの確保という観点から、低い方が望ましい。仕上圧延の終了温度が900℃以上である場合は、旧オーステナイトのアスペクト比は1に近くなり、仕上圧延の終了温度が低下すると、アスペクト比が大きくなるため、900℃未満であると好ましい。Ar3変態点は、降温によってオーステナイトからフェライトへの変態が開始する温度であり、加熱後の降温時の体積変化から求めることができる。
熱間圧延の終了後、速やかに水冷による直接焼入れが施される。直接焼入れによって、オーステナイトからα’マルテンサイトへの変態を促進させることができる。直接焼入れの開始温度は、フェライトの生成の抑制という観点から、Ar3変態点以上である。直接焼入れの開始温度は、好ましくは600℃以上、より好ましくは650℃以上である。一方、直接焼入れの開始温度は、例えば、1000℃以下、又は950℃以下である。また、直接焼入れの終了温度は、α’マルテンサイトへの変態が開始するMs点以下であることが望ましい。直接焼入れの終了温度は、本実施形態では、350℃以下である。直接焼入れの終了温度は、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。直接焼入れの終了温度は室温であってもよい。また、冷却速度は、鋼板の板厚を考慮し、冷却水の水量密度によって制御され、100℃/秒以下であってもよい。直接焼入れの冷却速度は、ベイナイトやフェライトの生成の抑制という観点から、3℃/秒以上である。直接焼入れの冷却速度は、より好ましくは5℃/秒以上であり、さらに好ましくは10℃/秒以上である。なお、Ms点は、加熱後の急冷によってオーステナイトからマルテンサイトへの変態が開始する温度であり、体積変化から求めることができる。
鋼板の機械特性を改善するために、直接焼入れ後に熱処理を施し、残留オーステナイトの体積率や安定性、機械特性を調整することができる。具体的には、Ac1変態点以上、Ac3変態点未満の二相域温度で実施する中間熱処理と、焼戻し処理である。中間熱処理後の冷却は、ベイナイトやフェライトの生成を抑制するため、水冷が好ましく、冷却速度は3℃/秒以上、100℃/秒以下であってよい。中間熱処理の冷却速度は、より好ましくは5℃/秒以上であり、さらに好ましくは10℃/秒以上である。また、中間熱処理の冷却停止温度は、α’マルテンサイトへの変態が開始するMs点以下であることが望ましい。中間熱処理の冷却停止温度は、本実施形態では、好ましくは350℃以下である。中間熱処理の冷却停止温度は、より好ましくは200℃以下、さらに好ましくは100℃以下である。中間熱処理の冷却停止温度は室温であってもよい。なお、Ac1変態点は、昇温によってオーステナイトへの変態が開始する温度であり、加熱時の体積変化から求めることができる。
直接焼入れ又は中間熱処理の後に、焼戻し処理を施すことができる。焼戻し処理によって、鋼板の機械特性が調整される。焼戻し処理の温度は、効果を得るために、好ましくは100℃以上である。焼戻し処理の温度は、より好ましくは400℃以上である。一方、焼戻し処理の加熱によって相変態が生じると特性の変化が大きくなるため、焼戻し処理の温度は、好ましくはAc1未満である。焼戻し処理の温度は、より好ましくは550℃以下である。
本実施形態に係る鋼板は、構造物等に要求される強度を確保するために、降伏強度が700N/mm2以上であると好ましい。降伏強度は、より好ましくは750N/mm2以上、さらに好ましくは800N/mm2以上である。降伏強度の上限は特に限定されないが、優れた低温靭性を得るために、降伏強度は1100N/mm2以下であることが好ましい。
本実施形態に係る鋼板は、構造物等に要求される強度を確保するために、引張強度が800N/mm2以上であると好ましい。引張強度は、より好ましくは900N/mm2以上、さらに好ましくは1000N/mm2以上である。引張強度の上限は特に限定されないが、優れた低温靭性を得るために、引張強度は1500N/mm2以下であることが好ましい。
本実施形態に係る鋼板は、加工性の観点から、十分な延性を確保するために、伸びが35%以上であると好ましい。伸びは、より好ましくは38%以上、さらに好ましくは40%以上である。伸びの上限は特に限定されないが、例えば、伸びは60%以下であってよい。
本実施形態に係る鋼板は、液体燃料のタンク等の低温用途に要求される低温靭性を確保するために、-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーが100J以上であると好ましい。-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーは、より好ましくは150J以上、さらに好ましくは200J以上である。-196℃におけるシャルピー吸収エネルギーの上限は特に限定されないが、例えば、500J以下であってよい。
鋼板の引張特性を評価する引張試験は、JIS Z 2241:2011に準拠し、鋼板の板幅方向を長手方向とし、鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/2の部位から採取された、2本の4号試験片を用いて行われた。降伏強度(YS)、引張強度(TS)及び伸び(EL)は、それぞれ、2本の試験片の平均値(相加平均)である。
シャルピー衝撃試験は、JIS Z 2242:2018に準拠し、3本のVノッチ試験片を用いて行われ、吸収エネルギーが測定された。試験片は、鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/2の位置において、圧延方向を長手方向とし、板幅方向に亀裂が伝播するようにVノッチを入れた。試験温度は-196℃である。吸収エネルギー(KV2)は、このようにして測定された3本の試験片の吸収エネルギーの平均値(相加平均)である。
Claims (4)
- 質量%で、
C:0.03%以上、0.12%以下、
Mn:6.0%以上、13.0%以下、
Ni:1.00%超、5.00%以下、
Si:0%以上、1.50%以下、
Al:0%以上、0.30%以下、
Cu:0%以上、2.00%以下、
Co:0%以上、2.00%以下、
Cr:0%以上、2.00%以下、
Mo:0%以上、2.00%以下、
W:0%以上、2.00%以下、
B:0%以上、0.0100%以下、
Nb:0%以上、0.100%以下、
V:0%以上、0.100%以下、
Ti:0%以上、0.100%以下、
Zr:0%以上、0.100%以下、
Hf:0%以上、0.100%以下、
Ta:0%以上、0.100%以下、
Mg:0%以上、0.0100%以下、
Ca:0%以上、0.0100%以下、及び
REM:0%以上、0.0100%以下
を含有し、
P:0.010%以下、
S:0.0050%以下、
N:0.0100%以下、及び
O:0.0050%以下
であり、残部がFe及び不純物からなり、
金属組織が、体積%で、80%以上のα’マルテンサイト、10%以上、20%以下の残留オーステナイトを含み、残部組織が、存在する場合は、体積%で、5%以下のベイナイト、5%以下のフェライト、10%以下のεマルテンサイトからなり、
前記α’マルテンサイトの円相当直径は0.1μm以上、5.0μm以下であり、
前記残留オーステナイトの円相当直径は0.01μm以上、2.50μm以下であり、
旧オーステナイトの円相当直径は200μm以下であり、かつ、旧オーステナイトのアスペクト比は1以上、50以下であり、
前記残留オーステナイトによる前記旧オーステナイトの粒界占積率は40%以上、100%以下である、鋼板。 - 前記旧オーステナイトのアスペクト比が4以上、50以下である、請求項1に記載の鋼板。
- 質量%で、
Cu:0.10%以上、2.00%以下、
Co:0.10%以上、2.00%以下、
Cr:0.10%以上、2.00%以下、
Mo:0.10%以上、2.00%以下、
W:0.10%以上、2.00%以下、
B:0.0002%以上、0.0100%以下、
Nb:0.005%以上、0.100%以下、
V:0.005%以上、0.100%以下、
Ti:0.005%以上、0.100%以下、
Zr:0.005%以上、0.100%以下、
Hf:0.005%以上、0.100%以下、及び
Ta:0.005%以上、0.100%以下
のうち1種又は2種以上を含有する、請求項1又は請求項2に記載の鋼板。 - 質量%で、
Mg:0.0001%以上、0.0100%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0100%以下、及び
REM:0.0001%以上、0.0100%以下
のうち1種又は2種以上を含有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の鋼板。
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