JP7273263B2 - リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質及びその製造方法並びに該被覆正極活物質の評価方法 - Google Patents

リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質及びその製造方法並びに該被覆正極活物質の評価方法 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質及びその製造方法並びに該被覆正極活物質の評価方法に関する。
正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで充電と放電が行われるリチウムイオン二次電池は、他の二次電池に比べてエネルギー密度が高いうえ、高い起電力や長寿命などの優れた特徴を有しているため、スマートフォンやタブレット端末をはじめ、ノート型パソコン、ビデオカメラなどのポータブル電子機器用の小型でかつ軽量な高容量電池として、更にはハイブリッド自動車や電気自動車用の高出力電池として益々需要が高まっており、その用途も一段と拡大している。
このリチウムイオン二次電池は、一般的に1対の正極及び負極の間に有機溶媒電解液やポリマー電解質などが含浸したセパレータが配された構造を有しており、これら正極及び負極においてリチウムイオンが挿入・脱離する際の酸化還元反応を利用して電気化学的エネルギーが得られる。従って、これら正極及び負極には、リチウムイオンの可逆的な挿入・脱離が可能な物質が用いられる。例えば負極を構成する負極活物質としては、炭素系材料や金属リチウムなどが主に用いられ、正極を構成する正極活物質としては、製造が比較的容易なリチウム・コバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトより安価なニッケルを用いたリチウム・ニッケル複合酸化物(LiNiO)、更にはマンガンを用いたリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物(LiNi1/3Mn1/3Co1/3)、リチウム・マンガン複合酸化物(LiMn)などのリチウム金属複合酸化物が主に用いられる。例えば特許文献1には、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物を用いる例が示されている。
これらの正極活物質の中でも、リチウム・ニッケル・マンガン・コバルト複合酸化物や、特許文献1のリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物は、電池容量におけるサイクル特性が良好で且つ低抵抗で高出力が得られる材料として高く評価されており、また、搭載スペースに制約のある電気自動車やハイブリッド自動車の電源に適しているので車載用電源としても注目されている。
上記の正極活物質として用いられるリチウム金属複合酸化物の一般的な製造方法としては、中和晶析法によって金属複合酸化物の前駆体となる金属複合水酸化物を作製した後、この前駆体にリチウム源となる水酸化リチウムや炭酸リチウムなどのリチウム化合物を混合し、得られたリチウム金属混合物を焼成処理することでリチウム金属複合酸化物を作製することが行われている。このようにして作製したリチウム金属複合酸化物には、未反応の水酸化リチウムや炭酸リチウム、水酸化リチウムが炭酸化して生じた炭酸リチウム、各種原料に由来する不純物から生じた硫酸リチウムなど(以降、これらのリチウムを「余剰リチウム」とも総称する)が僅かながら残留している。
この余剰リチウムを含むリチウム金属複合酸化物に対して、特許文献2には、合成後のリチウム・ニッケル複合酸化物に洗浄水を加えて撹拌しながら洗浄することで余剰リチウムを除去する技術が提案されている。また、特許文献3には、合成後のリチウム・ニッケル複合酸化物を、炭酸ガス濃度0.1容量%以上で且つ露点-15℃以下の雰囲気ガスを用いて雰囲気温度150℃以下でガス処理する技術が提案されている。
特開平05-242891号公報 特開2007-273108号公報 特開平10-302779号公報
上記の余剰リチウムのうち、未反応の水酸化リチウムは、正極活物質を正極合材ペーストとして混練する際に正極合材ペーストのゲル化を引き起こす主な原因になるうえ、正極活物質が高温環境下で充電される時に酸化分解してガス発生を引き起こす原因にもなる。一方、上記の水酸化リチウムが炭酸化して生じた炭酸リチウムや各種原料由来の不純物に起因する硫酸リチウムなどは充放電反応に殆ど寄与しないため、電池を構成した時、この正極活物質の不可逆容量に相当する負極材料は余分に電池に使用されることになる。その結果、電池全体としては単位重量当り及び単位体積当りの容量が小さくなってしまう。更に、余剰リチウムが多くなると正極合材ペーストの作製時に塩濃度が増加しやすくなり、該ペーストの粘度が上昇することによってゲル化が助長されるおそれがある。
上記の余剰リチウムの問題は特許文献2の方法によりある程度抑えることができると思われるものの、この特許文献2の方法で得られた正極活物質は、リチウム・ニッケル複合酸化物粒子の表面近傍に存在するリチウムイオンまでが水洗中に洗い流されて失われるおそれがある。このリチウムイオンは、リチウムイオン二次電池の充放電時において正極に生じるリチウムイオンのインターカレーション及びディインターカレーション反応に必要であるため、水洗により表面部のリチウムイオンが失われると電池特性上の問題が生じるおそれがある。また、正極活物質としての耐候性が著しく低下し、大気雰囲気下での取り扱いの際に大気中の炭酸ガスや水分の影響を受けて、粒子表面の結晶内部からリチウムイオンが引き抜かれ易くなる。更には、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に、初期放電容量が低下してしまうおそれがある。
また、上記の特許文献3の技術は、リチウム・ニッケル複合酸化物粒子の表面に残存する水酸化リチウムを炭酸化して炭酸リチウムとすることで高温環境下での保存特性を高める方法であるため、未反応の水酸化リチウムを十分に除去することが難しく、また、各種原料に由来する不純物から生じる硫酸リチウムなどの除去については特に記載されていない。本発明は、上記した従来のリチウムイオン二次電池のリチウム金属複合酸化物が抱える問題に鑑みてなされたものであり、耐候性や長期保管性に優れると共に正極合材ペースト混練時においてゲル化を抑制することができ、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際の初期放電容量を十分に高く維持することが可能なリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質を提供することを目的としている。
本発明者は上記の目的を達成するため、リチウムイオン二次電池用の正極活物質に用いるリチウム金属複合酸化物及びその製造方法に関して鋭意研究を積み重ねた結果、多孔構造の二次粒子から主に構成されるリチウム金属複合酸化物粒子の外表面に流動層微粒子コーティング法を用いて所定の厚さを有する被覆層を形成することで正極活物質に対して優れた耐候性と長期保管性とを付与できると共に正極合材ペーストの混練時におけるゲル化を抑制でき、更にはリチウムイオン二次電池に組み込んだ際の初期放電容量を十分に高く維持できることを見出し本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係るリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含み、空隙率50%を超え80%以下の多孔構造の二次粒子から主に構成され、被覆前の比表面積が3.0~4.0m /gであるリチウム金属複合酸化物の粒子と、前記リチウム金属複合酸化物の粒子の外表面に形成された、電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーからなる平均厚さ0.005~0.1μmの被覆層とを有し、前記イオン伝導性ポリマーが、水、正極合材ペーストに含まれる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶であることを特徴としている。
また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の製造方法は、リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含み空隙率50%を超え80%以下の多孔構造の二次粒子から主に構成され、被覆前の比表面積が3.0~4.0m /gであるリチウム金属複合酸化物粒子を焼成により形成する焼成工程と、水、正極合材ペーストに含まれる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶なイオン伝導性ポリマーを有機溶媒に溶解して得たイオン伝導性ポリマー溶解液に電子導電性粒子を分散させることで粒子被覆用スラリーを作製する調製工程と、前記リチウム金属複合酸化物粒子を気流で流動させながら前記粒子被覆用スラリーを噴霧して液滴塗着させた後、通風乾燥することによって前記リチウム金属複合酸化物粒子の外表面に電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーからなる平均厚さ0.005~0.1μmの被覆層を形成する被覆工程とからなることを特徴としている。
本発明によれば、正極活物質に対して優れた耐候性や長期保管性を付与できると共に正極合材ペースト混練時においてゲル化を抑制でき、更にはリチウムイオン二次電池に組み込んだ際の初期放電容量を十分に高く維持することができる。
本発明の実施形態の被覆正極活物質の模式的な断面図である。 本発明の実施形態の被覆正極活物質の原料となる内部が多孔構造のリチウム金属複合酸化物粒子の断面SEM画像である。 本発明の実施形態の被覆正極活物質の被覆層を部分的に示す断面TEM画像である。 本発明の実施形態の被覆正極活物質の原料となる金属複合酸化物の前駆体の金属複合水酸化物粒子の断面SEM画像である。
以下、本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質及びその製造方法並びに該被覆正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池について、「1.リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質」、「2.リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の製造方法」、及び「3.リチウムイオン二次電池」の順に詳細に説明する。なお、本発明のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質及びその製造方法は下記の内容に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において種々の変更例や代替例を含むものである。
1.リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質
1.1 構造及び特徴
本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含む一次粒子が凝集した二次粒子から主に構成されるリチウム金属複合酸化物粒子と、このリチウム金属複合酸化物粒子の表面に形成された、電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーの被覆層とからなる。本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、該二次粒子の内部が空隙率50%を超え80%以下の多孔構造になっている。すなわち、図1の模式的な断面図に示すように、本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質10は、そのリチウム金属複合酸化物の粒子1が二次粒子の形態を有しており、この二次粒子の内部には全体として空隙率50%を超え80%以下の範囲で多数の孔部2が存在している。そして、この多孔構造の二次粒子から主に構成されるリチウム金属複合酸化物粒子1の外表面に、電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーからなる平均厚さ0.005~0.1μmの被覆層3が形成されている。なお、上記のリチウム金属複合酸化物の粒子1には、内部のみならず外表面部にも孔部が存在する構造の二次粒子が部分的に含まれていてもよい。
この本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、上記のように被覆層の平均厚さが0.005~0.1μmと非常に薄いため、該被覆正極活物質を導電材や結着剤と混練して正極合材ペーストを生成する際、増粘作用を持つ被覆層が該ペーストに溶解することによって生じうる粘度上昇を最小限に抑えることができる。このように、本発明の実施形態の被覆正極活物質は被覆層の平均厚さが最適な範囲に調整されているので、当該被覆正極活物質を大気雰囲気下で取り扱う際に水分や炭酸ガスなどによる悪影響を防ぎつつ、正極合材ペースト混練時のペースト粘度上昇によるゲル化の誘発を抑制できる。次に、上記の本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子及び被覆層について具体的に説明する。
1.2 リチウム金属複合酸化物粒子
[組成]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、一般式:Li(Ni1-w-xMnCo1-yで表される組成を有しているのが好ましい。ここで、式中のMは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Si、Zn、及びMoの中から選択される1種以上であり、a、w、x、及びyはそれぞれ0.98≦a≦1.20、0.01≦w≦0.50、0.01≦x≦0.50、及び0≦y≦0.10である。
上記一般式において、マンガン含有量を示すwが0.01以上0.50以下の範囲内であれば、正極活物質として用いた場合にリチウムイオン二次電池の耐久性を向上させることができる。このwが0.01未満になると、上記の耐久性の向上の効果を十分に得ることができず、逆にwが0.50を超えると、酸化還元反応(Redox反応)に貢献する金属元素が減少し、電池容量が低下するため好ましくない。
また、コバルト含有量を示すxが0.01以上0.50以下の範囲内であれば、サイクル特性を高めたり、充放電に伴うリチウムの挿入・脱離による結晶格子の膨張収縮挙動を低減したりできるが、このxが0.01未満になると、結晶格子の膨張収縮挙動の低減効果を得ることができなくなり、逆にxが0.50を超えると、コバルトの添加量が多過ぎて初期放電容量の低下が大きくなったり、コスト面で不利になったりするため好ましくない。
MgやAl等の添加元素Mの含有量を示すyが0以上0.10以下の範囲内であれば、サイクル特性や出力特性などの電池特性をより一層向上させることができるが、このyが0.10を超えると、酸化還元反応(Redox反応)に貢献する金属元素が減少して電池容量が低下するため好ましくない。なお、上記の組成に関する分析方法には特に限定はなく、例えば酸分解-ICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析法などによる化学分析手法から求めることができる。
[二次粒子の内部構造]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、殆どが複数の一次粒子が凝集した二次粒子の形態を有しているが、部分的に二次粒子として凝集しない状態の一次粒子が含まれていてもよい。上記の二次粒子を構成する一次粒子及び単独で存在する一次粒子の形状については特に限定はなく、球状、板状、針状、直方体状、楕円状、菱面体状など様々な形状をとり得る。また、複数の一次粒子の凝集形態についても特に限定はなく、ランダムな方向に凝集する形態や、全体的に略球体形状や楕円体形状の二次粒子を形成するように凝集する形態などをとり得る。
上記の二次粒子の形態を有するリチウム金属複合酸化物粒子は、内部が全体的に多孔質構造になっており、実質的に空隙部のない中実構造の二次粒子や中心部が空洞になっていて外殻部から構成される中空構造の二次粒子は殆ど含まれていない。ここで多孔構造とは、多数の空隙部が二次粒子の内部に全体に亘って分散して存在している構造をいう。この多孔構造の二次粒子は、二次粒子の断面において計測した空隙率が50%を超え80%以下であるのが好ましく、上限が60%以下であるのがより好ましい。この空隙率は、以下の方法により求めることができる。すなわち、計測対象となるリチウム金属複合酸化物の粒子群を樹脂に埋め込んだ後、クロスセクションポリッシャ(CP)及びアルゴンスパッタリングによって切断することで粒子群の断面を露出させ、この露出した粒子群の断面を走査型電子顕微鏡を用いて撮像する。そして得られた粒子群の断面画像に対して画像解析ソフトによって解析することで空隙部を黒領域、緻密部を白領域として識別し、任意の20個以上の粒子の断面に対して、「黒領域の面積/(黒領域の面積+白領域の面積)×100」を計算することで空隙率を求めることができる。このように、内部に多孔構造を有するリチウム金属複合酸化物粒子を用いることによって、このリチウム金属複合酸化物粒子から形成した正極活物質の嵩密度を過度に低下させることなく粒子強度を許容範囲内に維持することができる。また、正極活物質と電解液との接触面積を十分に確保することができる。
なお、上記のリチウム金属複合酸化物の一次粒子の形状や二次粒子の形態、及び二次粒子の内部構造は、例えば粒子断面を走査型電子顕微鏡(SEM)などを用いて観察することにより把握することができる。例えば図2には、本発明の被覆正極活物質に用いたリチウム金属複合酸化物の二次粒子の一具体例の断面SEM画像であり、内部が全体的に多孔構造になっていることが見てとれる。また、上記の本発明の実施形態の正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子には、多孔構造の二次粒子に加えて、中実構造の二次粒子や中心部に空洞を有する中空構造の二次粒子が混在していてもよい。このような多孔構造、中実構造、及び中空構造の混合割合は、例えば、ニッケル、マンガン、及びコバルトなどの遷移金属供給源となる金属水酸化物の晶析条件を適宜調整することなどによって調整することができる。このようにして得たリチウム金属複合酸化物は、多孔質品、中実品、及び中空品をそれぞれ用意してそれらをただ単に混合して作製したものよりも、組成や粒径のばらつきを少なくできるという利点がある。
[体積平均粒径(MV)]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、体積平均粒径(MV)が3~20μmであるのが好ましく、3~15μmであるのがより好ましく、4~12μmであるのが最も好ましい。このようにリチウム金属複合酸化物粒子の体積平均粒径が3~20μmの範囲内であれば、これを材料に用いて作製した正極活物質を正極として組み込んだ二次電池において、容積当りの電池容量を大きくすることができると共に安全性が高くなり、サイクル特性が良好になる。
この体積平均粒径が3μm未満の場合は、正極を作製した際に粒子の充填密度が低下して正極の容積当りの電池容量が低下するおそれがあり、逆に体積平均粒径が20μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して二次電池の電解液との界面が減少し、その結果、正極の抵抗が上昇して電池の出力特性が低下するため好ましくない。なお、上記のリチウム金属複合酸化物粒子の体積平均粒径は、後述する金属複合水酸化物の製造工程における、晶析工程の核生成の時間のほか、原料溶液の供給量やpHによって調整することができる。すなわち体積平均粒径が3μ未満の場合は、原料溶液(金属化合物)の供給量を減らして晶析工程の核生成の時間を短くしてもよいし、pHを低めに制御してもよい。これにより、粒子の種となる核の生成量が減少するので、得られる金属複合水酸化物の粒径を大きくすることができる。逆に体積平均粒径が20μmを超える場合は、原料溶液(金属化合物)の供給量を増やして晶析工程の核生成の時間を長くしてもよいし、pHを高めに制御してもよい。これにより、粒子の種となる核の生成量が増加するので、得られる金属複合水酸化物の粒径を小さくすることができる。また、上記の体積平均粒径は、レーザー回折・散乱法を用いて測定した体積基準分布から求めたものである。
[比表面積]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子の比表面積については特に限定はないが、1.0~7.0m/gの範囲内であるのが好ましく、3.0~4.0m/gの範囲内であるのがより好ましい。この比表面積が1.0~7.0m/gであれば、電解液と接触可能な粒子接触面を十分に確保することができる。この比表面積が1.0m/g未満では粒子接触面が少なくなり過ぎ、十分な充放電容量が得られないことがある。逆にこの比表面積が7.0m/gを超えると、粒子接触面が過多になって表面活性が高くなり過ぎるおそれがある。なお、上記の比表面積の測定方法には特に限定はなく、例えばBET多点法やBET1点法による窒素ガス吸着・脱離法などにより求めることができる。
[水酸化リチウム含有量及び炭酸リチウム含有量]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、余剰リチウムである水酸化リチウム含有量が1.5質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましい。この水酸化リチウム含有量が1.5質量%を超えると、後述するようにリチウム金属複合酸化物粒子を電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーの被覆層で被覆して正極活物質を作製した後、これを正極合材ペーストとして混練する際にゲル化が発生し易くなる。また、該正極活物質が高温環境下で充電される場合、水酸化リチウムが酸化分解し、ガスが発生し易くなる。
また、本発明の実施形態の正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、他の余剰リチウムである炭酸リチウム含有量が1.5質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以下であるのがより好ましい。この炭酸リチウム含有量が1.5質量%を超えると、正極活物質が高温環境下で充電される場合、水酸化リチウムと同様にガスが発生し易くなる。なお、リチウム金属複合酸化物粒子において炭酸リチウム含有量が高い場合は、水酸化リチウムが炭酸化したことを示しているともいえ、よって当該リチウム金属複合酸化物の粒子自体も大気中の炭酸ガスや水分の影響を受けている可能性が高く、このリチウム金属複合酸化物から作製した正極活物質は耐候性が悪化することが懸念される。
上記の水酸化リチウムや炭酸リチウムの含有量は、中和滴定法により求めることができる。すなわち、リチウム金属複合酸化物粒子の表面部などに存在する余剰リチウムとしての水酸化リチウム及び炭酸リチウムは、水に溶解することでそれぞれ水酸化物イオン及び炭酸イオンがリチウムイオンから電離する。従って電離したこれら陰イオンを無機酸などで滴定することで、水酸化リチウム及び炭酸リチウムを分別定量することが可能である。この定量分析法は、いわゆるR.B.Warder法による逐次滴定であり、第1終点(pH:約8.3)は水酸化リチウムの全量と炭酸リチウムの半量とが反応した時のpH変化となり、第2終点(pH:約3.8)は残りの炭酸リチウムの半量が反応した時のpH変化となる。pH変化が起こるpH変曲点(終点)の検出には、フェノールフタレインやメチルオレンジなどの指示薬の変色を目視判定する方法のほか、pH複合電極による電位差の変化を機器的に読み取る方法が採られる。
[水分]
本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子は、水分が0.10質量%以下であるのが好ましく、0.05質量%以下であるのがより好ましい。水分が0.10質量%を超えるリチウム金属複合酸化物に対して電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーの被覆層で被覆して正極活物質を作製し、これを用いてリチウムイオン二次電池に組み込むと、被覆層と共に水分が電解液に溶解して電解質のヘキサフルオロリン酸リチウム(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)と反応することでフッ酸が生成し、正極を構成する金属元素にダメージを与える恐れがある。なお、上記の水分の測定方法には、乾燥重量法(乾燥減量法とも呼ばれる)、カールフィッシャー滴定法、蒸留法などを用いることができるが、分析用に採取できる試料量が多い場合には、共存元素の影響などを受けない乾燥重量法を用いるのが好ましい。
1.3 被覆層
上記した本発明の実施形態の被覆正極活物質を構成するリチウム金属複合酸化物粒子の表面に形成される被覆層は、電子導電性粒子がほぼ均一に分散した平均厚さ0.005~0.1μmのイオン伝導性ポリマーからなる。この被覆層の平均厚さは0.01~0.08μmの範囲内であるのが好ましい。この被覆層の平均厚さが0.1μmよりも厚くなると、被覆正極活物質を正極合材ペーストとして混練する際、該ペースト中の増粘作用を持つ被覆層の溶解量が多くなり過ぎて、該ペーストの粘度が上昇し、その影響でゲル化が誘発され易くなる。逆に、この平均厚さが0.005μmよりも薄くなると、被覆正極活物質を大気雰囲気下で取り扱う際に該大気雰囲気中の水分や炭酸ガスなどによる悪影響を抑制する効果が不十分となる。なお、上記の被覆層はイオン伝導度(20℃)が10-9~10-3S/cmであることが好ましく、電子伝導度(20℃)が10-8~10-1S/cmであることが好ましい。このイオン伝導度は、イオン伝導性かつ非電子伝導性を有するセパレータで被覆層の両側を固定することでイオンのみが通過する構造とした後、両側のセパレータに電極を設置して抵抗値(セパレータのみの抵抗値を空試験値とする)を測定することで求めることができる。一方、電子伝導度は、非イオン伝導性かつ電子伝導性を有するセパレータを用い、電子のみが通過する構造とする以外は、上記と同様の操作を行うことで求めることができる。
[イオン伝導性ポリマー]
上記の被覆層に用いられるイオン伝導性ポリマーの種類には特に限定はないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、これらの誘導体又は塩の中から選択される1種以上であることが好ましい。これらの高分子ポリマーは、イオン伝導性が良好であることに加えて、水、正極合材ペーストの原料として用いる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶であり、更には水分や炭酸ガスを吸収し難いという特徴を有している。従って、このイオン伝導性ポリマーを材料にして作製された被覆層で被覆された正極活物質は、耐候性に優れ且つ正極合材ペーストの混練時にゲル化が生じにくくなる。
[電子導電性粒子]
上記のイオン伝導性ポリマーに含まれる電子導電性粒子の種類についても特に限定はないが、デンカブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラックなどの炭素粒子であることが好ましい。また、これらの炭素粒子はレーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定した体積平均粒径(MV)が0.01~0.06μmであることが好ましい。体積平均粒径がこの範囲内であれば、炭素粒子を上記のイオン伝導性ポリマーの溶解液に添加して粒子被覆用スラリーを調製する際の分散性が良好となる。
この粒子被覆用スラリーから被覆層を形成する方法としては、造粒乾燥機やスプレードライヤーなどの一般的な乾燥装置を用いた乾燥法で形成してもよいが、流動層微粒子コーティング法が好ましい。この方法は、被覆物質を所定の溶媒に溶解させたもの及び/又は微粒子として分散させたものを用意し、これを被覆対象となる粒子に噴霧すると共に温風に接触させることで乾燥と同時に粒子表面に被覆層を形成する方法である。
[平均厚さの測定法]
上記の被覆層の「平均厚さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)による断画画像解析により求めることができ、測定に用いる粒子の数は20個以上であることが好ましい。例えば図3には上記被覆正極活物質の被覆層を部分的に撮像した断面TEM画像の一例が示されている。なお、本発明の実施形態の被覆正極活物質では、リチウム金属複合酸化物粒子の表面全体が上記の被覆層で被覆される(すなわち被覆率100%)のが好ましいが、被覆層の厚さが0.005μm程度に薄い場合は、被覆率が100%にならずに局所的に被覆層が存在しない場合が生じうる。このように局所的に被覆層が存在しないで粒子表面が部分的に露出する場合が生じていても、その面積が被覆層で覆われている面積に比べて狭く、本発明の目的から判断して粒子表面が全面的に被覆されている場合と実質的に同じであると考えられる場合も本発明の範囲内に含まれるものとする。上記の被覆率は、後述する流動層微粒子コーティング法を行う際の条件を変えることで0~100%の範囲内で調整することが可能である。この場合の被覆率は、透過型電子顕微鏡やX線光電子分光法(XPS)などにより求めることができ、測定に用いる粒子の数は20個以上であることが好ましい。次に本発明に係る被覆正極活物質の製造方法の実施形態について説明する。
2.リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の製造方法
2.1 金属複合水酸化物の製造工程
[晶析工程]
金属複合水酸化物は、正極活物質の2つの主原料のうちの一方であり、その作製では先ず原料溶液として、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物のそれぞれ水溶液と、必要に応じて添加されるMg、Al等の添加元素Mの金属化合物の水溶液とを用意する。これら化合物は、硫酸塩や水和物であるのが好ましい。これら水溶液を混合してニッケル・マンガン・コバルト混合水溶液を作製する。更にpH調整用の水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ溶液と、アンモニウムイオン濃度(NH )調整用のアンモニア水とを準備する。
次に、気相部において好ましくは酸素濃度21容積%以上の酸化性雰囲気下に制御された反応槽内に水を受け入れ、この水を加熱することによって40~60℃の範囲内に制御する。この水は、イオン交換水などの不純物濃度が制御された純水が好ましい。また、上記酸化性雰囲気は通常の大気雰囲気でよい。この水を撹拌機で撹拌しながら、反応槽内の水のpHが11.0~12.5の範囲内になるように、アルカリ溶液をその給液量を制御しながら供給すると共に、ニッケル・マンガン・コバルト混合溶液及びアンモニア水を各々一定流量で給液する。このようにして反応液を調製することによって晶析反応を効率よく進行させることができる。
上記の酸化性雰囲気下での晶析反応条件を給液の開始から0.2~0.5時間の範囲内で保持することで酸化性雰囲気下での晶析反応を進行させる。この酸化性雰囲気下での晶析反応の保持時間経過後は反応槽への全ての給液を一旦停止すると共に反応槽内の気相部の雰囲気を上記の酸化性雰囲気から不活性雰囲気又は酸素濃度0.2容量%以下に制御された非酸化性雰囲気に切り替える。そして、気相部の雰囲気を切り替えた後に再び全ての給液を開始し、気相部の雰囲気以外は上記酸化性雰囲気下での晶析反応と同じ条件で晶析反応を行う。この不活性又は非酸化性雰囲気下で晶析反応条件を0.5~1.5時間の範囲内で保持することで不活性又は非酸化性雰囲気下での晶析反応を進行させる。この不活性又は非酸化性雰囲気下での晶析反応の保持時間経過後は再度全ての給液を停止すると共に反応槽の気相部の雰囲気を上記不活性又は非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気に切り替える。そして、全ての給液を開始して再度気相部の雰囲気以外は同じ晶析条件で0.2~0.5時間の範囲内で酸化性雰囲気下での晶析反応を進行させる。以降、同様にして酸化性雰囲気下での晶析反応と不活性又は非酸化性雰囲気下での晶析反応とを合計反応時間4時間の範囲内で交互に複数回繰り返すことにより、例えば図4の断面SEM画像に示すような多孔構造の二次粒子からなるニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物粒子を作製することができる。このように特徴的な形態の二次粒子が形成される理由として、液相部は重金属やアルカリの共存などにより塩濃度が高いため溶存酸素計等で溶存酸素濃度を正しく測定するのは困難であるが、気相部の酸素濃度の影響を受けて変化した液相部の溶存酸素が二次粒子の形態に影響を及ぼしていると発明者は考えている。すなわち、上記のように、晶析反応時の反応槽内の雰囲気を、酸化性雰囲気(大気雰囲気)と不活性雰囲気又は酸素濃度2.0容積%以下に制御した非酸化性雰囲気との間で交互に切り替えることに伴って液相部の溶存酸素濃度も高濃度と低濃度との間で交互に変動し、その結果、金属複合水酸化物の一次粒子の凝集状態が影響を受けて、空隙率50%を超え80%以下の範囲内に制御された多孔構造のニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物粒子が形成されると考えられる。この前駆体としてのニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物粒子の空隙率は後工程で作製されるリチウム金属複合酸化物の空隙率を間接的に50%を超え80%以下に制御することになる。なお、金属複合水酸化物の空隙率が80%を超えると、多孔構造の粒子としての強度の維持が困難になって、後工程で解砕され易くなり、所望の特性を有する正極活物質が得られなくなるおそれがある。
上記の晶析反応時の反応液の温度が40℃よりも低いと金属複合水酸化物の一次粒子の粒径が大きくなり過ぎ、逆に60℃より高い場合は金属複合水酸化物の一次粒子の粒径が小さくなり過ぎ、その影響が、後工程で製造されるリチウム金属複合酸化物にも現われるため好ましくない。更に、初期の反応液のpHが11.0よりも小さいと、正極活物質に残存する硫酸塩濃度が高くなり、電池に組み込んだ際の出力特性が悪化するため好ましくない。逆にこのpHが12.5よりも大きいと、一次粒子の粒径が小さくなり過ぎるため好ましくない。また、晶析反応時の反応液のアンモニウムイオン濃度(NH )は5~30g/Lの範囲内が好ましく、10~20g/Lの範囲内がより好ましい。反応液のアンモニウムイオン濃度を5~30g/Lの範囲内に制御することで、晶析反応を安定させることができる。
[濾過・洗浄工程及び乾燥工程]
次に濾過・洗浄工程において、上記晶析工程で生成した金属複合水酸化物の二次粒子を含むスラリーを濾過等により固液分離し、得られた固形分の金属複合水酸化物の二次粒子の湿潤ケーキを、水酸化ナトリウム溶液などのアルカリ溶液を用いてアルカリ洗浄することで、該金属複合水酸化物の二次粒子に含まれうる硫酸イオン(SO 2-)や塩素イオン(Cl)などの不純物を除去し、更にイオン交換水などの不純物が制御された純水でリンス洗浄してナトリウムイオン(Na)などのアルカリ洗浄に用いた洗浄液の残余分を除去する。次に、その洗浄処理済の金属複合水酸化物を乾燥機に入れて100~150℃の温度範囲内で乾燥させ、金属複合水酸化物の乾燥粉末を得る。
2.2 リチウム金属複合酸化物の製造工程
[リチウム化合物の粉砕工程]
次に、正極活物質の2つの主原料のうちのもう一方であるリチウム源となるリチウム化合物を用意する。このリチウム化合物は粉砕工程で粉砕処理することで、吸湿などによる表面劣化が殆ど生じていない新生面を多く持つ微粉末の形態にする。このように、リチウム化合物を微粉末の形態にすることによって金属複合水酸化物に対する接触面や反応性が増大するうえ、後述する混合・焼成工程を経て作製したリチウム金属複合酸化物からなる正極活物質は、二次電池に組み込まれた際に低温出力特性が良好になる。
粉砕処理後の微粉末リチウム化合物は、最大粒径が10.0μm以下であって体積平均粒径(MV)が5.0μm以下であるのが好ましい。この程度の粒径であれば、ジェットミルやボールミルなどの一般的な粉砕機を用いることで作製できる。粒径の下限については特に限定はないが、上記の粉砕機の性能を考慮するならば体積平均粒径で0.1μm程度となる。なお、これら最大粒径や体積平均粒径は、先述したレーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて測定したものである。
上記のリチウム化合物の種類には特に限定はなく、炭酸リチウム(LiCO:融点723℃)、水酸化リチウム(LiOH:融点462℃)、硝酸リチウム(LiNO:融点261℃)、塩化リチウム(LiCl:融点613℃)、硫酸リチウム(LiSO:融点859℃)などを挙げることができる。これらの中では、取り扱いの容易さや品質安定性の点から、炭酸リチウム又は水酸化リチウムが好ましい。
2.3 混合工程及び焼成工程
混合工程では、上記の微粉末リチウム化合物を上記の金属複合水酸化物の乾燥粉末に混合する。これら粉末の混合の際、金属複合水酸化物中のニッケル、マンガン、コバルトの原子数の和Meに対するリチウム化合物のリチウムの原子数Liの比(すなわちLi/Me)が1.00~1.20の範囲内となるように微粉末リチウム化合物と金属複合水酸化物の乾燥粉末との配合比率を調製する。この比が1.00より小さい場合はリチウムサイトである3aサイトにリチウム原子が取り込まれにくくなるため、最終的に作製されるリチウム金属複合酸化物を正極活物質として電池に組み込んだ際に目標とする電池特性が得られなくなるおそれがある。逆に、上記比が1.20より大きいと焼結が促進されやすくなり、粒径や結晶子径が大きくなり過ぎてサイクル特性の悪化を招くおそれがある。
なお、上記のサイトとは、結晶学的に等価な格子位置のことをいう。ある原子が格子位置に存在する状態を「サイトが占有されている」と称し、そのサイトを占有サイトと称する。例えばLiCoOには3つの占有サイトが存在しており、それぞれリチウムサイト、コバルトサイト、及び酸素サイトと称されており、これら占有サイトは3aサイト、3bサイト、及び6cサイトとも称される。
焼成工程では、上記の混合工程で得た微粉末リチウム化合物と金属複合水酸化物の乾燥粉末との混合物(以降、リチウム金属混合物とも称する)を、大気雰囲気中において好適には800~950℃の温度範囲内で焼成することでリチウム金属複合酸化物を生成する。この温度内で焼成することにより、ほぼ中実構造の二次粒子の形態のまま金属複合水酸化物が金属複合酸化物に変化すると共に、溶融したリチウム化合物が該二次粒子内の僅かな空隙内に行き渡る。すなわち、この焼成処理を行っても前駆体としての金属複合水酸化物粒子の中実構造等の形態の特徴はほぼそのままリチウム金属複合酸化物に引き継がれる。
この焼成温度が800℃未満になると反応性が低下し、この焼成により得られるリチウム金属複合酸化物において未反応の余剰リチウムの含有量が増加したり、結晶構造が十分に整わず結晶性悪化などが起こって正極活物質自体から必要なリチウムが溶出し易くなったりするため、所望の電池特性が得られなくなるおそれがある。逆にこの焼成温度が950℃より高くなると、リチウム金属複合酸化物の粒子間で激しく焼結が起こりやすくなり、異常な粒子成長を生じる可能性がある。
なお、この焼成を行う前にリチウム金属混合物を600~780℃の温度範囲内で仮焼してもよい。この温度で仮焼することによって後工程の焼成での反応がより穏やかに進み、これにより得られるリチウム金属複合酸化物において未反応の余剰リチウムを低減できるうえ、結晶性を向上させることができる。この仮焼では、上記の仮焼温度を0.5~10時間保持することが好ましく、2~4時間保持することがより好ましい。また、仮焼時の雰囲気は大気雰囲気でもよいし、酸化性雰囲気でもよいが、雰囲気ガスの酸素濃度が18~100容量%であるのが好ましい。仮焼を行う場合は、仮焼とその後工程の焼成との間は必ずしも室温まで冷却する必要はなく、仮焼処理後は仮焼温度から昇温させて焼成を行ってもよい。
2.4 解凝・解砕工程
上記の焼成工程で得たリチウム金属複合酸化物粉末は、二次粒子同士の凝集や軽度の焼結が生じている場合がある。従って焼成工程後は解凝・解砕工程で処理することによって、リチウム金属複合酸化物のこれら凝集体や焼結体を、解凝及び/又は解砕することが好ましい。これにより、リチウム金属複合酸化物粒子の粒径及び粒度分布を、正極活物質として好適な範囲内に調整することができる。なお、上記の凝集体や焼結体の解凝・解砕方法には、ピンミルやハンマーミルなどの公知の解凝・解砕手段を用いることができる。なお、上記の解凝・解砕の際、二次粒子を破壊しない程度に解凝・解砕力を適切に調整することが好ましく、これは例えば先述したレーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置を用いて、粒径及び粒度分布を確認しながら、解凝・解砕装置の回転数を制御することにより可能になる。
2.5 被覆工程
[イオン伝導性ポリマー溶解液]
上記の解凝・解砕工程で解凝・解砕処理することで得たリチウム金属複合酸化粉末は、次に被覆工程において粒子被覆用スラリーによって被覆処理が施される。この粒子被覆用スラリーは、イオン伝導性ポリマー溶解液と電子導電性粒子とから構成される。前者のイオン伝導性ポリマー溶解液は、被覆層形成用原料であるイオン伝導性ポリマーを有機溶媒に溶解したものである。このイオン伝導性ポリマー溶解液において、イオン伝導性ポリマーの濃度は0.5~30質量%であることが好ましく、5~15質量%であることがより好ましい。この濃度を0.5~30質量%にすることで、被覆層厚を精度よく調整することができる。
イオン伝導性ポリマーには、先述したように、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、これらの誘導体又は塩の中から選択される1種以上であることが好ましい。このイオン伝導性ポリマーの溶解に用いる有機溶媒としては、アセトニトリル、塩化エチレン、クロロホルム、トリクロロエチレン、塩化メチレン、1,4-ジオキサン、芳香族炭化水素、エタノールのほか、脂肪族炭化水素にメタノールなどの溶解助剤を添加したものを用いることができる。上記の有機溶媒は、被覆後の粒子内部に水分が混入するのを極力排除するため、含水率が0.005質量%以下であることが好ましく、0.001質量%以下であることがより好ましい。
[粒子被覆用スラリー]
上記のイオン伝導性ポリマー溶解液に電子導電性粒子を添加して均一に分散させることで粒子被覆用スラリーを作製することができる。電子導電性粒子の分散方法には特に限定はなく、例えばホモジナイザーなどの超音波発生装置を用いて超音波分散することが好ましい。この電子導電性粒子は、先述したように、デンカブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンブラックなどの炭素粒子であることが好ましい。これらの炭素粒子は、体積平均粒径(MV)が0.01~0.06μmであることが好ましい。また、イオン伝導性ポリマー100質量部に対して電子導電性粒子が1~50質量部含まれていることが好ましく、5~30質量部含まれていることがより好ましい。この含有量が1質量部未満の場合は十分な電子導電性が得られにくくなり、逆に50質量部を超える場合は粒子被覆用スラリーを作製する際の分散性が悪化するおそれがある。
[被覆処理]
被覆処理には、前述したように流動層微粒子コーティング法を用いることが好ましい。流動層微粒子コーティング法では、所定の溶媒に被覆物質を溶解し、更にその溶解液に微粒子を分散させたスラリーとし、ターゲット粒子に噴霧すると共に温風内を通過させることで、乾燥と同時にターゲット粒子に微粒子を含んだ被覆層を形成することができる。この流動層微粒子コーティング法ではマルチフロー方式のスプレーノズルを用いることが好ましい。これにより、ターゲット粒子への溶液噴霧及び乾燥を繰り返すことで、数nmレベルの薄層を被覆する場合でも、均一な層厚を保つことが可能になる。なお、所定の溶媒に微粒子を分散させた状態とし、それをターゲット粒子に噴霧すると共に温風を通過させて溶媒を乾燥揮発することによって、微粒子のみをターゲット粒子に被覆することもできる。
上記した本発明の実施形態においては、この流動層微粒子コーティング法で噴霧及び乾燥されるスラリーが粒子被覆用スラリーであり、そのターゲット粒子であるリチウム金属複合酸化物粒子を流動状態にするため缶体容器内に気流を発生させ、ブレード型及びフラット型などの高分散ロータを回転させることになる。この場合の気流の発生条件や高分散ロータの回転条件などは特に限定はなく、被覆条件に応じて適宜調整される。なお、缶体容器内の気流温度は、上記のイオン伝導性ポリマーの融点を考慮すれば50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましい。また、上記の流動層微粒子コーティング法を行う装置としては、転動流動コーティング装置MP-01(株式会社パウレック製)や、FLOW-COATER(フローコーター)シリーズ(フロイント産業株式会社製)などを挙げることができる。
上記のように多孔構造を有するリチウム金属複合酸化物粒子に対して電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーの被覆層で被覆することによって得られる被覆正極活物質は、大気雰囲気下で取り扱う際の炭酸ガスや水分などの影響によって発生する耐候性上の問題、すなわち該粒子の結晶内部におけるリチウムイオン欠損や、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際の初期放電容量の低下が生じにくくなるうえ、大気雰囲気下での長期保管が可能になり、耐久性に優れた正極活物質を提供することができる。
また、被覆層を構成するイオン伝導性ポリマーは、水、正極合材ペーストに含まれる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶であるので、正極合材ペーストの作製を経てリチウムイオン二次電池を製造する過程において、有機溶媒や電解液に溶解するので正極活物質の電気的特性を損なうことがない。更に被覆層を構成する電子導電性粒子は導電材として、イオン伝導性ポリマーはポリマー電解質として元々用いられているため、被覆層が溶解してもその構成材料が電池特性に悪影響を及ぼすこともない。例えば、イオン伝導性ポリマーであるポリエチレングリコール20000は、溶解時にpH変動を生じることなく水に溶解するだけでなく、正極合材ペーストの材料によく用いられる極性有機溶媒のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)や、非水電解液として用いられるエステルの1種であるジメチルカーボネート(DMC)にも溶解する。更に被覆正極活物質をサンプリングして組成、水酸化リチウム含有量、炭酸リチウム含有量などの種々の分析を行う際、被覆層が水に容易に溶けるので該分析の前処理が阻害されることがない。
このように、本発明の実施形態では、正極合材ペーストの作製を経てリチウムイオン二次電池を製造する過程において、有機溶媒や電解液に容易に溶解し且つ溶解しても問題ない材料を用いてリチウム金属複合酸化物を被覆している。これにより、正極合材ペーストとして作製される前の粉末の形態のときの耐候性及び耐久性の向上と、正極合材ペーストの作製を経てリチウムイオン二次電池として正極活物質が使用されるときの電気特性の向上とを図っている。なお、上記の被覆層は、リチウムイオン二次電池の製造過程で、有機溶媒や電解液にほぼ完全に溶解することが望ましいが、僅かに溶け残ることがあってもイオン伝導性ポリマーに電子導電性粒子が均一に分散しているため、リチウムイオンの挿入・脱離及び電子導電性のどちらについても殆ど不具合は発生しない。更に、本発明の製造方法は、上記の正極活物質を容易かつ効率的に生産でき、特に、工業的規模での大量生産に適するため、その工業的意義は極めて大きい。
3.リチウムイオン二次電池
上記した本発明の実施形態のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、正極、負極、セパレータ、及び非水系電解液から構成される一般的なリチウムイオン二次電池を作製する場合と同様にしてリチウムイオン二次電池を作製することができる。以下かかるリチウムイオン二次電池の各構成要素について説明する。
3.1 正極
正極の作製では、上記のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して正極合材とし、更に電気二重層の容量を増加させるために必要に応じて活性炭を添加した後、粘度調整などを目的とする有機溶媒を添加して更に混練することで正極合材ペーストを作製する。本発明の実施形態の被覆正極活物質を正極に用いる場合においても、一般的なリチウム二次電池の正極と同様に、正極合材を構成する各材料の混合比はリチウムイオン二次電池の性能を決定する重要な要素となる。正極合材中の各材料の混合比は、例えば、有機溶媒を除いた正極合材の固形分における全質量100質量%に対し、正極活物質を60~95質量%、導電材を1~20質量%、結着剤(バインダー)を1~20質量%それぞれ含有するように配合することが好ましい。
上記正極合材ペーストの粘度は、振動式粘度計を用いて測定することができる。この振動式粘度計は、流体中において振動子を一定の振幅及び周波数によって共振させた場合、該振動子が動くのに必要な加振力と、該流体の粘性抵抗との間に相関関係が認められるので、この相関関係を利用して粘度を測定する装置であり、水のような低粘度の流体から10000mPa・sレベルの高粘度の流体まで広範囲の測定が可能である。
本発明の実施形態では、上記の被覆正極活物質、導電材及び結着剤からなる固形分と有機溶媒とを、これら有機溶媒に対する固形分の質量比である「固形分(g)/有機溶媒(g)」の比が1.875となるように配合して正極合材ペーストを調製し、この正極合材ペーストを、所定の容器に10g以上採取し、ウォーターバス中で流体温度を20℃に調整して、上記の振動式粘度計により粘度測定を行う。なお、この振動式粘度計の校正には、JIS-Z-8809に規定された粘度計用校正用標準液である、JS-200(20℃での粘度:170mPa・s)及びJS-2000(20℃での粘度:1800mPa・s)を用いた2点校正が望ましい。上記のように、質量比「1.875」の正極合材ペーストを用いることで、本発明の実施形態の被覆正極活物質を用いて正極合材ペーストを経て二次電池を作製する際に生じ得るゲル化の問題の有無を効果的に評価することができる。
得られた正極合材ペーストは、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して有機溶媒を揮発(蒸発)させる。このようにして作製したシート状の正極の電極密度を高めるべく必要に応じてロールプレスなどにより加圧した後、更に必要応じて適当な大きさに裁断等を行うことで、所望の形状を有する正極として二次電池に組み込むことができる。なお、正極の作製方法は上記の方法に限定されるものではなく、他の方法によるものでもよい。
上記の正極合材を構成する導電材には、天然黒鉛、人造黒鉛、及び膨張黒鉛などの黒鉛、並びにアセチレンブラック、及びケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料のうちのいずれかを用いることができる。また、上記の正極活物質の粒子を繋ぎ止める役割を果たす結着剤には、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、フッ素ゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)などの熱可塑性樹脂などを用いることができる。正極活物質、導電材、及び活性炭を分散させると共に結着剤を溶解して正極合材ペーストの形態にすべく添加する有機溶媒には、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などを用いることができる。
3.2 負極
上記の正極に対向する負極には、リチウムイオンを吸蔵・脱離可能な負極活物質に結着剤を混合して得た負極合材に適切な有機溶媒を加えてペースト状にし、これを銅などの金属箔集電体の表面に塗布して乾燥させた後、電極密度を高めるべく必要に応じてロールプレスなどにより加圧形成することで作製することができる。上記の負極活物質には、金属リチウムやリチウム合金のほか、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体や、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。また、上記の負極の結着剤には、正極と同様にポリフッ化ビニリデン(PVDF)などの含フッ素樹脂が用いられ、これら負極活物質及び結着剤を分散させる上記有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などを用いることができる。
3.3 セパレータ
上記の正極と負極との間に介在するセパレータは、これら正極と負極とを分離して電解質を保持する役割を担うものであり、その材質にはポリエチレンやポリプロピレンなどからなる薄膜であって、かつ無数の微細孔を有するものが好適に用いられる。
3.4 非水系電解液
非水系電解液には、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものが好適に用いられる。この有機溶媒には、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、及びトリフルオロプロピレンカーボネート(TFPC)などの環状カーボネート、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、及びジプロピルカーボネート(DPC)などの鎖状カーボネート、テトラヒドロフラン(THF)、2-メチルテトラヒドロフラン(2-MeTHF)、及びジメトキシエタン(DME)などのエーテル化合物のほか、エチルメチルスルホン、及びブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、及びリン酸トリオクチルなどのリン化合物からなる群から選んだ1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
上記の支持塩には、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)のほか、テトラフルオロホウ酸化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiN(CFSO)などのリチウム塩及びそれらの複合塩を用いることができる。なお、上記の非水系電解液には、ラジカル補足剤、界面活性剤及び難燃剤などが含まれていてもよい。
3.5 電池の形状及び構成
上記にて説明した正極、負極、セパレータ、及び非水系電解液を密閉した電池ケース内に収容することで円筒型、積層型など種々の形状のリチウムイオン二次電池を作製することができる。いずれの形状を取る場合であっても、セパレータを介して正極及び負極が対向した積層構造の電極体に非水系電解液が含浸した基本構造を有している。正極側の集電体と外部に通ずる正極端子との間、及び負極側の集電体と外部に通ずる負極端子との間は、それぞれ集電用リードなどによって電気的に接続されている。次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
[実施例1]
下記に示すように、金属複合水酸化物の晶析工程及び洗浄工程、リチウム化合物の粉砕工程、リチウム金属混合物の混合工程及び仮焼・焼成工程、並びに解凝・解砕工程によりリチウム金属複合酸化物を作製し、これを組成等の点から評価した後、該リチウム金属複合酸化物から被覆正極活物質を経てリチウムイオン二次電池を作製し、その初期放電容量を評価した。
1.リチウム金属複合酸化物の作製及び評価
[金属複合水酸化物の晶析工程]
先ず、硫酸ニッケル六水和物、硫酸マンガン一水和物、硫酸コバルト七水和物を、ニッケル、マンガン、コバルトのモル比が、Ni:Mn:Co=35:30:35となるように秤量し、ニッケル、マンガン、及びコバルトの濃度が合計2mol/Lとなるように水に溶解して原料溶液を調製した。一方、オーバーフローまでの容量6Lの反応槽に水を900ml入れ、ウォーターバスを用いてその液温を40℃まで加温すると共に、反応槽内の気相部を酸素濃度21容量%の大気雰囲気にした。
次に、上記反応槽内の水を撹拌しながら、上記にて調整した原料溶液、濃度25質量%のアンモニア水、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を連続的に供給して金属複合水酸化物の晶析反応を行った。この晶析反応の際、反応液のpHが25℃基準で11.7となるように上記水酸化ナトリウム水溶液の供給量を調整し、また、反応液のアンモニウムイオン濃度が10.0g/Lに維持されるように上記アンモニア水の供給量を調整した。
なお、上記の反応液のpH及びアンモニウムイオン濃度は、予め反応槽に設置したpH/アンモニア測定キット(pH計及びアンモニウムイオンメーターの複合機)であるサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のOrion-Star-A214を用いてそれぞれ測定した。上記の反応条件を0.5時間維持しながら酸化性雰囲気下での晶析反応を行った後、原料溶液、アンモニア水、及び水酸化ナトリウム水溶液の給液を一旦停止し、反応槽内の気相部の酸素濃度が0.2容量%以下になるまで窒素ガスをガス流量5L/分で導入した。そして反応槽の該気相部が酸素0.2容量%以下になるまで窒素ガスで置換されたのを確認した後、上記の3種類の液体の反応槽への給液を再開した。そしてこの非酸化性雰囲気下にした以外は上記の酸化性雰囲気下での晶析反応と同じ条件を1.17時間維持しながら非酸化性雰囲気下での晶析反応を行った。この非酸化性雰囲気下での晶析反応の完了後、更に上記と同様にして酸化性雰囲気下での晶析反応及び非酸化性雰囲気下での晶析反応を1.17時間ずつ行うことで合計4時間の晶析反応を行った。この4回の晶析反応後のスラリーを固液分離することで多孔構造のニッケル・マンガン・コバルト複合水酸化物(金属複合水酸化物)であるNi0.35Mn0.30Co0.35(OH)を得た。
[金属複合水酸化物の洗浄工程]
上記晶析工程で得た金属複合水酸化物を、スラリー濃度が100g/Lとなるようにイオン交換水を加えて再スラリー化し、更に水酸化ナトリウム溶液を添加して30分間撹拌することで金属複合水酸化物のアルカリ洗浄を行った。このアルカリ洗浄後は金属複合水酸化物のスラリーを吸引濾過機で固液分離し、得られた金属複合水酸化物の湿潤ケーキを純水でリンス洗浄してから濾過により固液分離を行った。得られた洗浄済の湿潤ケーキを大気乾燥機を用いて120℃で24時間かけて乾燥し、金属複合水酸化物の乾燥粉末を得た。
[リチウム化合物の粉砕工程]
リチウム金属複合酸化物のリチウム源となるリチウム化合物をジェットミル(株式会社セイシン企業製)に投入し、最大粒径が10.0μm以下、かつ体積平均粒径が5.0μm以下の微粉末になるまで粉砕処理を行った。なお、微粉末リチウム化合物の粒度分布の測定には、レーザー回折・散乱方式の粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EX-II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
[リチウム金属混合物の混合工程]
上記の金属複合水酸化物のニッケル、マンガン、及びコバルトの合計原子数Meに対する微粉末リチウム化合物のリチウム原子数Liの比であるLi/Meが1.01となるようそれぞれ秤量して混合することでリチウム金属混合物を得た。なお、この混合にはシェーカミキサ装置であるTURBULA-TypeT2C(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製)を用いた。
[仮焼・焼成工程]
上記の混合工程で得たリチウム金属混合物を、760℃の大気気流中において4時間かけて仮焼した後、引き続き900℃の大気気流中において10時間かけて焼成した。焼成後は、室温まで冷却することにより、リチウム金属複合酸化物の粒子を得た。
[リチウム金属複合酸化物の解凝・解砕工程]
上記した仮焼・焼成工程で得た冷却後のリチウム金属複合酸化物の粒子には、二次粒子同士が凝集したり軽度に焼結したりすることで生じる凝集物や焼結物が含まれている場合があるため、ジェットミル(株式会社セイシン企業製)による解凝・解砕処理を行った。上記にて得たリチウム金属複合酸化物粒子の組成、空隙率、体積平均粒径、比表面積、水酸化リチウム含有率及び炭酸リチウム含有率、並びに水分をそれぞれ以下の方法により評価した。
(1)組成
上記にて得たリチウム金属複合酸化物粒子をサンプリングして無機酸で加熱分解処理することによって分析検体液とし、この分析検体液をマルチ型ICP発光分光分析装置であるICPE-9000(株式会社島津製作所製)を用いて測定することでリチウム金属複合酸化物の組成を求めた。
(2)空隙率
上記にて得たリチウム金属複合酸化物粒子をサンプリングして樹脂に埋め、これを断面試料の作製装置であるクロスセクションポリッシャIB-19530CP(日本電子株式会社製)を用いて切断した。その切断面の撮像には、ショットキー電界放出型の走査型電子顕微鏡SEM-EDSであるJSM-7001F(日本電子株式会社製)を用い、得られた画像に対して三谷商事株式会社製の画像解析・計測ソフトウェア(WinRoof6.1.1)により、粒子断面の空隙部を黒領域として測定し、粒子の緻密部を白領域として測定し、任意の20個の粒子の各々に対して「黒領域の面積/(黒領域の面積+白領域の面積)×100」を計算し、それらを算術平均することで空隙率を求めた。
(3)体積平均粒径
体積平均粒径(MV)は、リチウム金属複合酸化物粒子に対してレーザー回折・散乱法により測定した体積基準分布から求めた。なお、測定装置には、レーザー回折・散乱方式であって、かつ超音波発生器内臓型の粒度分布測定装置であるマイクロトラックMT3300EX-II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。
(4)比表面積
比表面積は、リチウム金属複合酸化物粒子に対してBET1点法による窒素ガス吸着・脱離法で分析した。なお、測定装置にはガス流動方式の比表面積測定装置であるマックソーブ1200シリーズ(株式会社マウンテック製)を用いた。
(5)水酸化リチウム含有率及び炭酸リチウム含有率
リチウム金属複合酸化物粒子の水酸化リチウム含有率及び炭酸リチウム含有率は、中和滴定法(R.B.Warder法による逐次滴定)で分析した。なお、分析装置には、自動滴定装置COM-1750(平沼産業株式会社製)を用い、pH複合電極による終点(電位差)判定を行った。
(6)水分
リチウム金属複合酸化物粒子の水分は乾燥重量法により分析した。詳しくは、磁性平皿にリチウム金属複合酸化物粒子50gを精秤し、これを50℃に設定した定温乾燥機で48時間かけて恒量になるまで乾燥した後、この乾燥前後におけるリチウム金属複合酸化物粒子の重量差から水分を求めた。なお、風袋及び分析試料の重量測定には、分析用電子天秤GR-202(株式会社エー・アンド・デイ製)を用いた。
2.リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の作製及び評価
上記にて作製したリチウム金属複合酸化物粒子に電子導電性粒子を含んだイオン伝導性ポリマーを被覆することで、リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質を作製した。具体的には、先ずリチウム金属複合酸化物粒子に塗布するための粒子被覆用スラリーの原料となるイオン伝導性ポリマー溶解液用のイオン伝導性ポリマーとして、ポリエチレングリコール20000(和光純薬工業株式会社製)を用意し、その100質量部を含水率10ppm以下の超脱水クロロホルム(和光純薬工業株式会社製)900質量部で溶解することでイオン伝導性ポリマー溶解液を調製した。
上記のイオン伝導性ポリマー溶解液に添加する電子導電性粒子として電気化学工業製のアセチレンブラック(商品名:デンカブラック(粉状品)、体積平均粒径(一次):35nm)を用意し、その10gを上記のイオン伝導性ポリマー溶解液990gに添加して攪拌機で撹拌した後、超音波ホモジナイザーUS-300T(株式会社日本精機製作所製)で超音波分散処理を行い、1000gの粒子被覆用スラリーを作製した。
上記にて作製した粒子被覆用スラリーと上記のリチウム金属複合酸化物粒子からリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質を作製した。具体的には、上記のリチウム金属複合酸化物粒子500gを、転動流動層コーティング装置であるMP-01(株式会社パウレック製)の缶体容器内に投入し、気流温度50℃、気流風量0.3m/時の大気気流において該粒子を流動化させた。この状態で、ブレードロータを回転数500rpmで回転させながら上記の粒子被覆用スラリーを噴霧速度を2g/分で130分かけて噴霧した。これにより、該粒子の表面に粒子被覆用スラリーの液滴を塗着させた。上記の130分の経過後は粒子被覆用スラリーの噴霧を停止し、引き続き同じ装置を用いて5時間かけて乾燥を行うことにより、リチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質を作製した。
上記にて得た被覆正極活物質を、比表面積、水酸化リチウム含有率、炭酸リチウム含有率、及び水分を先述したリチウム金属複合酸化物粒子の場合と同様の分析方法で分析した後、更に、粒子表面の被覆層の平均厚さ及びペースト作製時のゲル化について以下の方法により評価した。なお、水酸化リチウム含有率、炭酸リチウム含有率、水分、ペースト作製時のゲル化の評価については、大気中で90日間保管後の被覆正極活物質を分析試料とした。
(1)表面被覆層平均厚さ
上記の被覆正極活物質を集光イオンビーム(FIB)法で前処理した後、分析試料の粒子の断面を透過型電子顕微鏡によって撮像することで表面被覆層平均厚さを測定した。なお、上記前処理には株式会社日立ハイテクノロジーズ製の集光イオンビーム加工装置(FB-2000A)を用い、断面の撮像には日本電子株式会社製の透過型電子顕微鏡(JEM-ARM200F)を用いた。被覆層の「平均厚さ」は、得られた断面画像に対して三谷商事株式会社製の画像解析・計測ソフトウェア(WinRoof6.1.1)により任意に選択した20個の測定対象粒子の各々において粒子断面の略中心で直交する2本の直線が被覆層と交差する4箇所の被覆層の厚さを測定し、得られた4箇所の被覆層の厚さを平均して測定対象粒子1個の被覆層の厚さを求めた後、得られた上記20個の測定対象粒子の被覆層の厚さを算術平均することで求めた。
(2)正極合材ペースト作製時のゲル化判定及び粘度測定
上記のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質20gに対して、導電材としてアセチレンブラックが2.2g、株式会社クレハ製の12質量%ポリフッ化ビニリデンNMP溶液(型番KFポリマー#1120)が2.2g、N-メチル-2-ピロリドン(関東化学株式会社製)が9.6mlとなるように秤量し、それらを容器に入れ、ニーダ混合機である株式会社日本精機製作所製のノンバブリングニーダ(型番NBK-1)を用いて2000rpmの回転速度で10分間かけて混合した。得られたペーストをガラス瓶に移して密栓した後、温度25℃、露点-40℃のドライボックス中に保管して24時間放置した。この24時間放置した後のペーストの流動性を、ほぼ満杯状態の該ガラス瓶を傾けてシャーレに移す際の流れ具合によって評価し、該ガラス瓶を鉛直方向に対して30°程度傾けただけで24時間放置前と同様にペーストが良好に流れ出たものを「○」、上記の「○」の場合よりもペーストが流れ出にくく、該ガラス瓶を鉛直方向に対して45°程度傾けたときにペーストが流れ出たものを「△」、上記の「△」の場合よりも更にペーストが流れ出にくく、ゲル化によって固形化したものがペーストに含まれていたものを「×」と評価した。
また、粘度測定のため、上記の被覆正極活物質21gに対して、導電材としてアセチレンブラック6g、株式会社クレハ製のポリフッ化ビニリデン(型番KFポリマー#1100)3g、N-メチル-2-ピロリドン(関東化学株式会社製)16gを混練することで別途正極合材ペーストを調製した。この正極合材ペーストは、固形分(g)/有機溶媒(g)」の比が1.875になる。この正極合材ペーストの粘度測定には、株式会社セコニック製の振動式粘度計ビスコメイトVM-100Aを用い、JIS-Z-8809に規定された粘度計用校正用標準液(JS-200、JS-2000)には、日本グリース株式会社製のものを用いた。
3.リチウムイオン二次電池の作製及びその初期放電容量の評価
上記の90日間の大気中保管後のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質24.5g、アセチレンブラック7.0g、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)3.5gをそれぞれ量り取り、それらをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)10gと共に自転・公転ミキサーに投入して30分間混練することで、正極合材ペーストを調製した。得られた正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、真空乾燥機中において雰囲気温度120℃で12時間かけて乾燥処理した。乾燥処理後、100MPaの圧力で直径11mm、厚み100μmにプレス成形し、更に、正極膜の大きさに打ち抜き、正極を作製した。なお、上記の塗布の際の厚みを微調整することによって、打ち抜き後に所望の重量(固形分が約150mg)を確保した。更に負極としてリチウム金属を用意し、電解液として1mol/LのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業株式会社製)を用意した。これらを用いて露点-80℃に管理されたアルゴンガス雰囲気のグローブボックス中で2032型の評価用コイン電池を作製した。
この評価用コイン電池を24時間程度放置して開路電圧OCVを安定させた後、正極に対する電流密度を0.5mA/cmとして、カットオフ電圧を4.3Vまで充電することで充電容量とし、1時間休止後に、カットオフ電圧3.0Vまで放電した時の容量を、初期放電容量として測定した。
[実施例2]
金属複合水酸化物の作製に際して1回目の0.5時間の酸化性雰囲気下での晶析反応後、2回の非酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.88時間)及び2回の酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.88時間)を交互に行うことと、被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を130分に代えて30分にしたこと以外は上記実施例1と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[実施例3]
金属複合水酸化物の作製に際して1回目の0.5時間の酸化性雰囲気下での晶析反応後、3回の非酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.70時間)及び2回の酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.70時間)を交互に行うことと、被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を130分に代えて90分にしたこと以外は上記実施例1と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[実施例4]
金属複合水酸化物の作製に際して1回目の0.5時間の酸化性雰囲気下での晶析反応後、3回の非酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.58時間)及び3回の酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.58時間)を交互に行うことと、被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を130分に代えて10分にしたこと以外は上記実施例1と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[実施例5]
金属複合水酸化物の作製に際して1回目の0.5時間の酸化性雰囲気下での晶析反応後、4回の非酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.50時間)及び3回の酸化性雰囲気下での晶析反応(各々0.50時間)を交互に行うことと、被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を130分に代えて60分にしたこと以外は上記実施例1と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[比較例1]
被覆処理を行わなかったこと以外は上記実施例1と同様にしてリチウム金属複合酸化物及びリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[比較例2]
被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を90分に代えて5分にした以外は上記実施例3と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。
[比較例3]
被覆正極活物質の作製に際して粒子被覆用スラリーの噴霧時間を60分に代えて250分にした以外は上記実施例5と同様にしてリチウム金属複合酸化物及び被覆正極活物質を経てリチウム二次電池を作製し、それぞれ同様に評価した。上記の実施例1~5及び比較例1~3の評価結果を下記表1に示す。
Figure 0007273263000001
[総合評価]
上記表1から分かるように、実施例1~5のリチウムイオン二次電池用被覆正極活物質は、被覆層平均厚さが全て0.005~0.1μmの範囲内にあるため、水酸化リチウム含有率及び炭酸リチウム含有率のいずれも、被覆後に90日間大気中で保管した場合であっても被覆前の状態に比べて大きな差は見らなかった。また、水分においても、被覆後に90日間大気中で保管したにもかかわらず定量分析の下限値の0.01重量%を下回る結果となった。これらのことから、リチウム金属複合酸化物に被覆層を形成することにより得られるリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質は、大気中の炭酸ガスや水分の影響を殆ど受けておらず、大気雰囲気下での長期保管が可能であることが分かった。
また、実施例1~5では正極合材ペースト作製時にゲル化によるペーストの流動性の変化が生じておらず、固形分(g)/有機溶媒(g)=1.875における20℃での粘度が5500mPa・s未満であった。更に評価用コイン電池による初期放電容量において良好な結果が得られた。このように本発明の要件を満たす被覆正極活物質は耐候性や長期保管に優れているうえ、これを用いて作製した正極合材ペーストは混練時におけるゲル化を抑制できると共にこれを正極とするリチウムイオン二次電池は初期放電容量を高く維持することができる。
これに対して比較例1~3のリチウム二次電池用の正極活物質は、被覆層がなく大気中の水分を多量に吸収したり、被覆層厚が薄過ぎて炭酸ガスや水分の抑制効果が不十分であったり、被覆層厚が厚過ぎて正極合材ペースト混練時に溶解したイオン伝導性ポリマーによって増粘作用を生じたりする不具合が発生した。その結果、正極合材ペースト作製時のゲル化評価において「△」又は「×」となったほか、正極合材ペーストの粘度も満足できるものではなかった。また、評価用コイン電池による初期放電容量が、実施例1~5のいずれの場合よりも劣っていた。
1 二次粒子の形態を有するリチウム金属複合酸化物
2 孔部
3 被覆層
10 被覆正極活物質
W 被覆層の厚み

Claims (11)

  1. リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含み、空隙率50%を超え80%以下の多孔構造の二次粒子から主に構成され、被覆前の比表面積が3.0~4.0m /gであるリチウム金属複合酸化物の粒子と、
    前記リチウム金属複合酸化物の粒子の表面に形成された、電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーからなる平均厚さ0.005~0.1μmの被覆層とを有し、前記イオン伝導性ポリマーが、水、正極合材ペーストに含まれる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶であることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  2. 前記リチウム金属複合酸化物の粒子は、水酸化リチウムの含有量が1.5質量%以下であることを特徴とする、請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  3. 前記リチウム金属複合酸化物は、一般式:Li(Ni1-w-xMnCo1-y(0.98≦a≦1.20、0.01≦w≦0.50、0.01≦x≦0.50、0≦y≦0.10、但し、Mは、Mg、Al、Ti、Fe、Cu、Si、Zn、及びMoの中から選択される1種以上)で表されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  4. 前記リチウム金属複合酸化物の粒子は、炭酸リチウムの含有量が1.5質量%以下であり、且つ水分が0.10質量%以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  5. 前記イオン伝導性ポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、これらの誘導体又は塩の中から選択される1種以上であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  6. 前記電子導電性粒子が炭素粒子であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  7. 前記炭素粒子は体積平均粒径が0.01~0.06μmであることを特徴とする、請求項6に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  8. 前記被覆層100質量部に対して前記電子導電性粒子が1~50質量部含まれていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質。
  9. リチウム、ニッケル、マンガン、及びコバルトを含み空隙率50%を超え80%以下の多孔構造の二次粒子から主に構成され、被覆前の比表面積が3.0~4.0m /gであるリチウム金属複合酸化物粒子を焼成により形成する焼成工程と、水、正極合材ペーストに含まれる有機溶媒、及びリチウムイオン二次電池に含まれる電解液に易溶なイオン伝導性ポリマーを有機溶媒に溶解して得たイオン伝導性ポリマー溶解液に電子導電性粒子を分散させることで粒子被覆用スラリーを作製する調製工程と、前記リチウム金属複合酸化物粒子を気流で流動させながら前記粒子被覆用スラリーを噴霧して液滴塗着させた後、通風乾燥することによって前記リチウム金属複合酸化物粒子の表面に電子導電性粒子を含むイオン伝導性ポリマーからなる平均厚さ0.005~0.1μmの被覆層を形成する被覆工程とからなることを特徴とするリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の製造方法。
  10. 請求項1~8のいずれか1項に記載の被覆正極活物質、導電材及び結着剤からなる固形分と有機溶媒とからなる正極合材ペーストであって、前記有機溶媒に対する前記固形分の質量比が1.875のときの20℃での粘度が5500mPa・s未満であることを特徴とする正極合材ペースト。
  11. 請求項1~8のいずれか1項に記載の被覆正極活物質の評価方法であって、前記被覆正極活物質、導電材及び結着剤からなる固形分の質量を有機溶媒の質量で除した値が1.875となるようにこれら固形分と有機溶媒とを配合して正極合材ペーストを調製し、該正極合材ペーストの20℃での粘度が5500mPa・s未満であるか否かに基づいて該被覆正極活物質を評価することを特徴とするリチウムイオン二次電池用の被覆正極活物質の評価方法。
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