JP7269920B2 - 液晶ポリエステル組成物および成形品 - Google Patents

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Description

本発明は、液晶ポリエステル組成物および成形品に関するものである。
本願は、2018年4月27日に、日本に出願された特願2018-087696号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
レーザープリンターや複写機などの電子写真方式を応用した画像形成装置が広く知られている。一般に、電子写真方式は、帯電、露光、現像、転写、定着の5工程を備えている。具体的には、まず、コロナ放電により感光体表面に均一な電荷を与える(帯電工程)。
次に、光照射により静電画像を形成する(露光工程)。得られた静電画像を、トナーを用いて顕色させる(現像工程)。顕色させた静電画像を、コピー紙に転写する(転写工程)。転写した静電画像を、加熱・圧力または溶媒蒸気などにより定着させる(定着工程)。
このような画像形成装置をはじめ、電気・電子機器における筐体内装部品は、熱可塑性樹脂組成物を用いて製造できることが知られている(例えば、特許文献1)。このような筐体内装部品は、絶縁性を有する。
しかしながら、このような筐体内装部品とコピー紙とが擦れる際には静電気が発生することがある。転写工程から定着工程までの間、トナーは静電気によりコピー紙に付着している。そのため、露光工程から定着工程までの間でコピー紙に接触する筐体内装部品の帯電量が増加すると、転写した静電画像の位置がずれることがある。そして、後の定着工程では、ずれた状態のまま静電画像が定着されるので、結果的に得られる画像が乱れることがある。
筐体内装部品の帯電量の増加を抑制するためには、用いる熱可塑性樹脂組成物に導電性を有する添加材を添加し、筐体内装部品に導電性を付与することが考えられる。
導電性を有する添加材としては、カーボンブラックが知られている。特許文献2には、DBP(フタル酸ジブチル)吸収量が60~200cm/100gであるカーボンブラックを含む液晶ポリエステル組成物が開示されている。
特開2002-244402号公報 特開2001-279066号公報
しかしながら、特許文献2のような液晶ポリエステル組成物は、必ずしも帯電量の増加を十分抑制できていない。
また、近年では、画像形成の高速化に伴って、コピー紙の搬送速度が増大しつつある。
コピー紙の搬送速度が増大すると、筐体内装部品の帯電量がさらに増加するので、画像の乱れも大きくなる傾向がある。
さらに、帯電量の増加による不具合は画像形成装置以外の電気・電子機器における筐体内装部品においても同様に確認されることがある。
そこで、帯電量の増加を抑制できる成形品およびこのような成形品が得られる液晶ポリエステル組成物が求められている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであって、帯電量の増加を抑制できる成形品およびこのような成形品が得られる液晶ポリエステル組成物を提供することを目的とする。
発明者らは、帯電量の増加を抑制すべく、下記条件(A)および条件(B)を満たす第1カーボンブラックを液晶ポリエステルに添加した結果、帯電量の増加を抑制できることを見出した。
しかし、発明者らが鋭意検討した結果、露光工程から定着工程までの間で筐体内装部品の帯電量の絶対値が過度に低いと、コピー紙の画像形成に必要な静電気まで除去してしまい、転写した静電画像がにじむことが分かった。
発明者らは、帯電量の絶対値を制御すべく、第1カーボンブラックの含有量の上限値、および第1カーボンブラックを含むカーボンブラックの含有量の上限値を設定した結果、帯電量の絶対値を制御できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の一態様は、液晶ポリエステルと、カーボンブラックと、を含み、カーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たす第1カーボンブラックと、条件(A)と条件(B)との少なくとも一方を満たさない第2カーボンブラックと、からなり、カーボンブラックの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、第1カーボンブラックの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、第2カーボンブラックの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上9質量部以下である液晶ポリエステル組成物を提供する。
(A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
(B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
第1カーボンブラックのBET比表面積は、500m/g以上1500m/g以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、充填材を含み、充填材は、繊維状フィラーであり、繊維状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、下記式(S1)で表される比R12が1×10を超え、1×1011未満である構成としてもよい。
Figure 0007269920000001
ρは、第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。
本発明の一態様においては、充填材を含み、充填材は、板状フィラーであり、板状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、下記式(S2)で表される比R13が1×10を超え、1×1011未満である構成としてもよい。
Figure 0007269920000002
ρは、第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、板状フィラーの体積抵抗率を表す。
本発明の一態様においては、充填材を含み、充填材は、繊維状フィラーおよび板状フィラーであり、繊維状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下であり、板状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、下記式(S3)で表される比R123が1×10を超え、1×1011未満である構成としてもよい。
Figure 0007269920000003
ρは、第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。ρは、板状フィラーの体積抵抗率を表す。
本発明の一態様においては、繊維状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、板状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、第1カーボンブラックの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、液晶ポリエステルの流動開始温度が280℃以上420℃以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(I)と、芳香族ジオールに由来する構造単位(II)と、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(III)と、を含み、構造単位(I)の含有率は、液晶ポリエステルの全構造単位の合計に対して30モル%以上80モル%以下であり、構造単位(II)の含有率は、液晶ポリエステルの全構造単位の合計に対して10モル%以上35モル%以下であり、構造単位(III)の含有率は、液晶ポリエステルの全構造単位の合計に対して10モル%以上35モル%以下である構成としてもよい。
本発明の一態様においては、芳香族ヒドロキシカルボン酸は、p-ヒドロキシ安息香酸であり、芳香族ジオールは、ヒドロキノンと、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとの少なくとも一方であり、芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1つである構成としてもよい。
本発明の一態様は、上記の液晶ポリエステル組成物を形成材料とする成形品を提供する。
本発明の一態様においては、電気・電子機器における筐体内装部品用である構成としてもよい。
なお、本明細書において「筐体内装部品」とは、筐体の内部に備えられた部品を意味する。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
[1] 液晶ポリエステルと、
第1カーボンブラックと、
所望により第2カーボンブラックと、を含み、
前記第1カーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たすカーボンブラックであり、
前記第2カーボンブラックは、前記条件(A)と前記条件(B)との少なくとも一方を満たさないカーボンブラックであり、
前記第1カーボンブラックの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、
前記第2カーボンブラックの含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上9質量部以下であり、かつ
前記第1カーボンブラックと第2カーボンブラックの合計含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、
液晶ポリエステル組成物。
(A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
(B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
[2] 前記第1カーボンブラックのBET比表面積は、500m/g以上1500m/g以下である[1]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[3] さらに、充填材を含み、
前記充填材は、繊維状フィラーであり、
前記繊維状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下である[1]または[2]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[4] 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率および含有量と、前記繊維状フィラーの体積抵抗率および含有量との関係を下記式(S1)で表される比R12で表したとき、比R12が1×10を超え、1×1011未満である、[3]に記載の液晶ポリエステル組成物。
Figure 0007269920000004
(ρは、前記第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、前記繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記第1カーボンブラックの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記繊維状フィラーの含有量を表す。)
[5] さらに、充填材を含み、
前記充填材は、板状フィラーであり、
前記板状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下である[1]または[2]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[6] 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率および含有量と、前記板状フィラーの体積抵抗率および含有量との関係を下記式(S2)で表される比R13で表したとき、比R13が1×10を超え、1×1011未満であるに記載の液晶ポリエステル組成物。
Figure 0007269920000005
(ρは、前記第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、前記板状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記第1カーボンブラックの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記板状フィラーの含有量を表す。)
[7] さらに、充填材を含み、
前記充填材は、繊維状フィラーおよび板状フィラーであり、
前記繊維状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下であり、
前記板状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下である[1]または[2]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[8] 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率および含有量と、前記繊維状フィラーの体積抵抗率および含有量と、前記板状フィラーの体積抵抗率および含有量との関係を下記式(S3)で表される比R123で表したとき、比R123が1×10を超え、1×1011未満である、[7]に記載の液晶ポリエステル組成物。
Figure 0007269920000006
(ρは、前記第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、前記繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。ρは、前記板状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記第1カーボンブラックの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記繊維状フィラーの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記板状フィラーの含有量を表す。)
[9] 前記繊維状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である[4]または[8]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[10] 前記板状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である[6]または[8]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[11] 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下である[4]、[6]または[8]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[12] 前記液晶ポリエステルの流動開始温度が280℃以上420℃以下である[1]~[11]のいずれか1つに記載の液晶ポリエステル組成物。
[13] 前記液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(I)と、芳香族ジオールに由来する構造単位(II)と、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(III)と、を含み、
前記構造単位(I)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して30モル%以上80モル%以下であり、
前記構造単位(II)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であり、
前記構造単位(III)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下である[1]~[12]のいずれか1つに記載の液晶ポリエステル組成物。
[14] 前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、p-ヒドロキシ安息香酸であり、
前記芳香族ジオールは、ヒドロキノンと、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとの少なくとも一方であり、
前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1つである[13]に記載の液晶ポリエステル組成物。
[15] [1]~[14]のいずれか1つに記載の液晶ポリエステル組成物を含む成形品。
[16] 電気・電子機器における筐体内装部品用である[15]に記載の成形品。
本発明の一態様によれば、帯電量の増加を抑制できる成形品およびこのような成形品が得られる液晶ポリエステル組成物が提供される。
<液晶ポリエステル組成物>
本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルと、カーボンブラックと、を含む。なお、ここでいう「カーボンブラック」とは、後述の第1カーボンブラックのみからなるカーボンブラック、または後述の第1カーボンブラックと第2カーボンブラックのみからなるカーボンブラックを意味する。
なお、本明細書においては、液晶ポリエステルと少なくともカーボンブラックとを混合して得られる混合物を「組成物」とする。また、得られた混合物をペレット状に成形した材料も、同様に「組成物」とする。
[液晶ポリエステル]
本実施形態に係る液晶ポリエステルは、サーモトロピック液晶ポリマーの一つである。本実施形態に係る液晶ポリエステルは、光学的異方性を示す溶融体を200℃以上450℃以下の温度で形成し得る樹脂である。
液晶ポリエステルとしては、具体的には、
(1)芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを重合して得られる樹脂、
(2)複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合して得られる樹脂、
(3)芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオールとを重合して得られる樹脂、
(4)ポリエチレンテレフタレートなどの結晶性ポリエステルに芳香族ヒドロキシカルボン酸を反応させて得られる樹脂、などを挙げることができる。
なお、液晶ポリエステルの製造において、原料モノマーとして使用する芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸および芳香族ジオールの一部または全部を、予めエステル形成性誘導体にして重合に供することもできる。このようなエステル形成性誘導体を用いることにより、液晶ポリエステルをより容易に製造できるという利点がある。
エステル形成性誘導体としては次のようなものが例示される。
分子内にカルボキシル基を有する芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体の例としては、前記カルボキシル基が、ハロホルミル基(すなわち、酸ハロゲン化物)やアシルオキシカルボニル基(すなわち、酸無水物)などの高反応性の基に転化したものや、前記カルボキシル基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、一価のアルコール類やエチレングリコール等の多価アルコール類、フェノール類などとエステルを形成したものが挙げられる。
芳香族ヒドロキシカルボン酸および芳香族ジオールのようなフェノール性水酸基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、前記フェノール性水酸基が、エステル交換反応によりポリエステルを生成するように、低級カルボン酸類とエステルを形成したものが挙げられる。
さらに、エステル形成性を阻害しない程度であれば、上述の芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸または芳香族ジオールは、その芳香環に、塩素原子、フッ素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数1~10のアルキル基;フェニル基などの炭素数6~20のアリール基を置換基として有していてもよい。
芳香族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸(後述の(A)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、m-ヒドロキシ安息香酸、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸(後述の(A)を誘導する芳香族ヒドロキシカルボン酸)、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、5-ヒドロキシ-1-ナフトエ酸、4-ヒドロキシ-4’-カルボキシジフェニルエーテルや、これらの芳香族ヒドロキシカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されてなる芳香族ヒドロキシカルボン酸が挙げられる。前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このような芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。なお、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されていてもよい。
Figure 0007269920000007
なお、本明細書において「由来」とは、原料モノマーが重合するために化学構造が変化し、その他の構造変化を生じないことを意味する。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、テレフタル酸(後述の(B)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、イソフタル酸(後述の(B)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、2,6-ナフタレンジルボン酸(後述の(B)を誘導する芳香族ジカルボン酸)、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルチオエーテル-4,4’-ジカルボン酸や、これらの芳香族ジカルボン酸の芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されてなる芳香族ジカルボン酸が挙げられる。前記芳香族ジカルボン酸は、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このような芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。なお、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されていてもよい。
Figure 0007269920000008
芳香族ジオールとしては、例えば、4,4’-ジヒドロキシビフェニル(後述の(C)を誘導する芳香族ジオール)、ハイドロキノン(後述の(C)を誘導する芳香族ジオール)、レゾルシン(後述の(C)を誘導する芳香族ジオール)、4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルチオエーテル、2,6-ジヒドロキシナフタレン、1,5-ジヒドロキシナフタレンや、これらの芳香族ジオールの芳香環にある水素原子の一部が、アルキル基、アリール基およびハロゲン原子からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されてなる芳香族ジオールが挙げられる。前記芳香族ジオールは、液晶ポリエステルの製造において、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
このような芳香族ジオールに由来する構造単位としては、例えば、以下に示すものが挙げられる。なお、芳香族ジオールに由来する構造単位は、その芳香環にある水素原子の一部が、ハロゲン原子、アルキル基およびアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の置換基で置換されていてもよい。
Figure 0007269920000009
前記構造単位(芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位、芳香族ジオールに由来する構造単位)が任意に有していてもよい置換基において、ハロゲン原子の例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子が挙げられ、アルキル基としては、炭素数1~4程度の低級アルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、ブチル基などが挙げられ、アリール基の例としては、フェニル基が挙げられる。
特に好適な液晶ポリエステルに関し説明する。
液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(I)として、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(A)と6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸に由来する構造単位(A)との少なくとも一方を有していることが好ましい。液晶ポリエステルは、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(II)として、テレフタル酸に由来する構造単位(B)、イソフタル酸に由来する構造単位(B)および2,6-ナフタレンジカルボン酸(B)に由来する構造単位からなる群より選ばれるものを有していることが好ましい。液晶ポリエステルは、芳香族ジオールに由来する構造単位(III)として、ヒドロキノンに由来する構造単位(C)と4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(C)との少なくとも一方を有していると好ましい。
そして、これらの組み合わせとしては、下記(a)~(h)で表されるものが好ましい。
(a):(A)、(B)および(C)からなる組み合わせ、または、(A)、(B)、(B)および(C)からなる組み合わせ。
(b):(A)、(B)および(C)からなる組み合わせ、または(A)、(B)、(B)および(C)からなる組み合わせ。
(c):(A)および(A)からなる組み合わせ。
(d):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(A)の一部または全部を(A)で置きかえたもの。
(e):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(B)の一部または全部を(B)で置きかえたもの。
(f):(a)の構造単位の組み合わせにおいて、(C)の一部または全部を(C)で置きかえたもの。
(g):(b)の構造単位の組み合わせにおいて、(A)の一部または全部を(A)で置きかえたもの。
(h):(c)の構造単位の組み合わせに、(B)と(C)を加えたもの。
芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(I)の含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して30モル%以上80モル%以下であることが好ましい。また、芳香族ジオールに由来する構造単位(II)の含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であることが好ましい。また、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(III)の含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であることが好ましい。液晶ポリエステルとしては、これらを全て満たす樹脂が好ましい。
p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(A)の含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して30モル%以上80モル%以下であることがより好ましい。また、ヒドロキノンに由来する構造単位(C)と、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(C)との少なくとも一方の含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であることがより好ましい。また、テレフタル酸に由来する構造単位(B)およびイソフタル酸に由来する構造単位(B)からなる群から選ばれる少なくとも一つの含有率は、液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であることがより好ましい。液晶ポリエステルとしては、これらを全て満たす樹脂がより好ましい。
前記液晶ポリエステルの製造方法としては、例えば、特開2002-146003号公報に記載の方法などの公知の方法が適用できる。すなわち、上述の原料モノマー(芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオールまたはこれらのエステル形成用誘導体)を溶融重合(重縮合)させて、比較的低分子量の芳香族ポリエステル(以下、「プレポリマー」と略記する。)を得、次いで、このプレポリマーを粉末とし、加熱することにより固相重合する方法が挙げられる。このように固相重合させることにより、重合がより進行して、より高分子量の液晶ポリエステルを得ることができる。
その他、最も基本的な構造となる前記(a)、(b)の構造単位の組み合わせを有する液晶ポリエステルの製造方法については、特公昭47-47870号公報、特公昭63-3888号公報などにも記載されている。
溶融重合は、触媒の存在下で行ってもよく、この場合の触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモンなどの金属化合物や、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、1-メチルイミダゾールなどの含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
本実施形態の成形品に使用する液晶ポリエステルとしては、下記の方法で求められる流動開始温度が280℃以上の液晶ポリエステルであることが好ましい。上述のように、液晶ポリエステルの製造において固相重合を用いた場合には、液晶ポリエステルの流動開始温度を280℃以上にすることが比較的短時間で可能である。そして、このような流動開始温度の液晶ポリエステルを本実施形態の熱可塑性樹脂として用いることにより、得られる成形品は高度の耐熱性を有するものとなる。
一方、成形品を実用的な温度範囲で成形する面では、本実施形態の成形品に使用する液晶ポリエステルの流動開始温度は420℃以下が好ましく、390℃以下であればさらに好ましい。
1つの側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物に使用する液晶ポリエステルの流動開始温度は280℃以上420℃以下が好ましく、280℃以上390℃以下であればさらに好ましい。
ここで、流動開始温度とは、内径1mm、長さ10mmのダイスを取付けた毛細管型レオメーターを用い、9.8MPa(100kg/cm)の荷重下において昇温速度4℃/分で液晶ポリエステルをノズルから押出すときに、溶融粘度が4800Pa・s(48000ポイズ)を示す温度である。流動開始温度は、当技術分野で周知の液晶ポリエステルの分子量を表す指標である(小出直之編、「液晶性ポリマー合成・成形・応用-」、95~105頁、シーエムシー、1987年6月5日発行を参照)。流動開始温度を測定する装置としては、例えば、(株)島津製作所製の流動特性評価装置「フローテスターCFT-500D」を用いることができる。
このような液晶ポリエステルは、耐熱性や溶融時の流動性に優れる。そのため、後述する成形品の形成材料として好ましく用いられる。
液晶ポリエステルは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
1つの側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物中における液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル組成物の総質量に対して、30~90質量%が好ましい。
[カーボンブラック]
本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係るカーボンブラックは、液晶ポリエステルに導電性を付与する効果を有する。
(第1カーボンブラック)
本実施形態の液晶ポリエステル組成物に用いられるカーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たす第1カーボンブラックを含む。
1つの側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係るカーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たす第1カーボンブラックのみからなる。
別の側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係るカーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たす第1カーボンブラックと後述の第2カーボンブラックのみからなる。
(A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
(B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
本実施形態において、カーボンブラックの一次粒子径は、透過型電子顕微鏡により測定される値を採用する。
本実施形態において、カーボンブラックのDBP吸油量は、ジブチルフタレートアブソーブドメーターによって、JIS K 6221に準拠して測定される値を採用する。
第1カーボンブラックの一次粒子径が10nm以上であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。その結果、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
第1カーボンブラックの一次粒子径が50nm以下であると、液晶ポリエステル組成物や成形品を製造する際に、液晶ポリエステル中に第1カーボンブラックを分散させやすい。こうして得られた成形品においては、成形品の面内の表面抵抗値を均一にしやすい。その結果、成形品の面内のいずれの場所においても、帯電量の増加を抑制することができる。
第1カーボンブラックの一次粒子径は、20nm以上45nm以下であることが好ましく、30nm以上40nm以下であることがより好ましい。
第1カーボンブラックのDBP吸油量が高いほど、第1カーボンブラックの表面近傍の空隙が多いことを意味する。第1カーボンブラックの表面近傍の空隙が多いと、液晶ポリエステル中で第1カーボンブラック同士が引っかかりやすく、連結しやすい。
第1カーボンブラックのDBP吸油量が300cm/100g以上であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品は、第1カーボンブラックの連結部分で電気を十分通しやすくなる。その結果、成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を十分抑制することができる。
しかし、第1カーボンブラックのDBP吸油量が高すぎると、第1カーボンブラックの表面近傍の空隙が多すぎて、液晶ポリエステル中で第1カーボンブラック同士が強く引っかかりやすい。液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなる。その結果、混合物を造粒しにくくなって、液晶ポリエステル組成物を製造することが困難となる。
第1カーボンブラックのDBP吸油量が550cm/100g以下であると、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなり過ぎない。その結果、混合物を造粒しやすくなり、液晶ポリエステル組成物を製造することが容易となる。
第1カーボンブラックのDBP吸油量は、325cm/100g以上550cm/100g以下であることが好ましく、350cm/100g以上525cm/100g以下であることがより好ましい。
第1カーボンブラックのBET比表面積は、500m/g以上1500m/g以下であることが好ましく、700m/g以上1350m/g以下であることがより好ましく、750m/g以上1300m/g以下であることがさらに好ましい。
本実施形態において、カーボンブラックのBET比表面積は、BET比表面積測定器(例えば、Micromeritics社製のAccuSorb 2100E)を用いて、液体窒素温度下で窒素ガスを吸着させ、吸着量を測定し、BET法で算出した値を採用する。
通常、粒子のBET比表面積は、粒子径の影響を受ける。しかし、本実施形態の第1カーボンブラックにおいては、第1カーボンブラックに形成された空隙の量がより支配的である。したがって、第1カーボンブラックのBET比表面積が大きいほど、第1カーボンブラックに形成された空隙の量が多いことを意味する。
上述したように、第1カーボンブラックに形成された空隙の量が多いと、液晶ポリエステル中で第1カーボンブラック同士が連結しやすい。
第1カーボンブラックのBET比表面積が500m/g以上であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品は、第1カーボンブラックの連結部分で電気を十分通しやすくなる。その結果、成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を十分抑制することができる。
しかし、第1カーボンブラックのBET比表面積が高すぎると、第1カーボンブラックに形成された空隙の量が多すぎると言える。上述したように、第1カーボンブラックに形成された空隙の量が多すぎると、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなる。その結果、混合物を造粒しにくくなって、液晶ポリエステル組成物を製造することが困難となる。
第1カーボンブラックのBET比表面積が1500m/g以下であると、液晶ポリエステル組成物や成形品の製造時に、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなり過ぎない。
その結果、混合物を造粒しやすくなり、液晶ポリエステル組成物を製造することが容易となる。
第1カーボンブラックの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下であることが好ましく、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下であることがより好ましい。
第1カーボンブラックの体積抵抗率ρが上記範囲内であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
本実施形態において、第1カーボンブラックの体積抵抗率は、シリカゲルデシケータ中に24時間第1カーボンブラックを静置した後、測定温度23℃、測定湿度50%にて、絶縁抵抗計 R8340A ULTRA HIGH RESISUTANCE METER(株式会社エーディーシー製)で測定される値を採用する。
(第2カーボンブラック)
本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係るカーボンブラックは、本発明の効果を損なわない範囲において、第2カーボンブラックを含んでいてもよい。第2カーボンブラックは、条件(A)と条件(B)との少なくとも一方を満たさない。
(A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
(B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
第2カーボンブラックは、上述した第1カーボンブラックの効果よりも劣るものの、液晶ポリエステルに導電性を付与する効果を有する。また、第2カーボンブラックは、上述した第1カーボンブラックと比べて、液晶ポリエステルに配合したときの液晶ポリエステル混合物の粘度上昇を抑えることができる。したがって、本実施形態では、第1カーボンブラックと第2カーボンブラックとを併用することにより、液晶ポリエステル混合物の粘度の上昇を抑えつつ、成形品としたときに帯電量の増加を抑制できる液晶ポリエステル組成物が提供される。
[カーボンブラックの含有量]
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、第1カーボンブラックの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である。
第1カーボンブラックの含有量Wが1質量部以上であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。その結果、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
第1カーボンブラックは、第2カーボンブラックと比べて、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される添加剤を溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなりやすい。
第1カーボンブラックの含有量Wが10質量部以下であると、上述の混合物の粘度が高くなり過ぎない。その結果、混合物を造粒しやすくなり、液晶ポリエステル組成物を製造することが容易となる。
また、第1カーボンブラックの含有量Wが10質量部以下であると、帯電量の絶対値が過度に低くならない。したがって、第1カーボンブラックの含有量Wを1質量部以上10質量部以下の範囲内とすることで、帯電量の絶対値を制御することが可能となる。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、第1カーボンブラックの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、2質量部以上9質量部以下であることが好ましい。
上述したように、本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係るカーボンブラックは、本発明の効果を損なわない範囲において、さらに第2カーボンブラックを含んでいてもよい。本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、第2カーボンブラックの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上9質量部以下である。1つの側面として、第2カーボンブラックの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上3質量部以下であってもよく、2質量部以上3質量部以下であってもよい。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、第1カーボンブラックの含有量と第2カーボンブラックの合計含有量(以下、カーボンブラックの含有量と称することがある)は、液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である。
前記カーボンブラックの含有量が1質量部以上であると、前記カーボンブラックに含まれる第1カーボンブラックの量を十分多くすることができる。その結果、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
前記カーボンブラックの含有量が10質量部以下であると、液晶ポリエステル組成物や成形品を製造する際に、液晶ポリエステル中に第1カーボンブラックおよび所望により添加される第2カーボンブラックを分散させやすい。こうして得られた成形品においては、成形品の面内の表面抵抗値を均一にしやすい。その結果、成形品の面内のいずれの場所においても、帯電量の増加を抑制することができる。
また、前記カーボンブラックの含有量が10質量部以下であると、帯電量の絶対値が過度に低くならない。したがって、前記カーボンブラックの含有量を1質量部以上10質量部以下の範囲内とすることで、帯電量の絶対値を制御することが可能となる。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、前記カーボンブラックの含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、3質量部以上9質量部以下であることが好ましい。
[充填材]
本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステルおよび第1カーボンブラックの他に、さらに充填材を含むことが好ましい。これにより、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の強度や寸法安定性が向上する。
1つの側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、第1カーボンブラック、および充填材を含む。
別の側面として、本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、液晶ポリエステル、第1カーボンブラック、第2カーボンブラック、および充填材を含む。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物に係る充填材は、繊維状フィラーまたは板状フィラーである。また、本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、繊維状フィラーと板状フィラーとの両方を含むことが好ましい。
(繊維状フィラー)
繊維状フィラーの例としては、ガラス繊維;シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカアルミナ繊維などのセラミック繊維;およびステンレス繊維などの金属繊維が挙げられる。また、チタン酸カリウムウイスカー、チタン酸バリウムウイスカー、ウォラストナイトウイスカー、ホウ酸アルミニウムウイスカー、窒化ケイ素ウイスカー、炭化ケイ素ウイスカーなどのウイスカーも挙げられる。
1つの側面として、繊維状フィラーの数平均繊維長は30μm~3mmが好ましく、数平均繊維径は6~13μmが好ましい。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、繊維状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上50質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以上45質量部以下であることがとりわけ好ましい。別の側面として、繊維状フィラーの含有量Wは23質量部以上45質量部以下であってもよい。
繊維状フィラーの含有量Wが10質量部以上であると、液晶ポリエステル組成物を成形した成形品の強度が十分高くなる。
繊維状フィラーの含有量Wが130質量部以下であると、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび繊維状フィラーを溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなり過ぎない。その結果、液晶ポリエステル中に第1カーボンブラックを分散させやすい。
上述したように、第1カーボンブラックが十分分散している液晶ポリエステル組成物から成形された成形品においては、成形品の面内の表面抵抗値を均一にしやすい。その結果、成形品の面内のいずれの場所においても、帯電量の増加を抑制することができる。
(板状フィラー)
板状フィラーの例としては、タルク、マイカ、グラファイト、ウォラストナイト、硫酸バリウムおよび炭酸カルシウムなどが挙げられる。マイカは、白雲母であってもよいし、金雲母であってもよいし、フッ素金雲母であってもよいし、四ケイ素雲母であってもよい。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物において、板状フィラーの含有量Wは、液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下であることが好ましく、5質量部以上50質量部以下であることがより好ましく、5質量部以上30質量部以下であることがさらに好ましく、10質量部以上25質量部以下であることがとりわけ好ましい。別の側面として、板状フィラーの含有量Wは、17質量部以上23質量部以下であってもよい。
板状フィラーの含有量Wが5質量部以上であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の寸法安定性や強度が十分高くなる。
板状フィラーの含有量Wが80質量部以下であると、液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび板状フィラーを溶融混練する際に、これらの混合物の粘度が高くなり過ぎない。その結果、液晶ポリエステル中に第1カーボンブラックを分散させやすい。
上述したように、第1カーボンブラックが十分分散している液晶ポリエステル組成物から成形された成形品においては、成形品の面内の表面抵抗値を均一にしやすい。その結果、成形品の面内のいずれの場所においても、帯電量の増加を抑制することができる。
[充填材の体積抵抗率]
繊維状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下であることが好ましく、1×1010Ω・m以上1×1013Ω・m以下であることがより好ましい。
繊維状フィラーの体積抵抗率ρが上記範囲内であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
板状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下であることが好ましく、1×1010Ω・m以上1×1013Ω・m以下であることがより好ましい。
板状フィラーの体積抵抗率ρが上記範囲内であると、液晶ポリエステル組成物から成形された成形品の表面抵抗値を十分低くすることができる。したがって、成形品における帯電量の増加を抑制することができる。
なお、繊維状フィラーおよび板状フィラーの体積抵抗率の測定方法は、第1カーボンブラックの体積抵抗率の測定方法と同様である。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物が、充填材として繊維状フィラーのみを含む場合、下記式(S1)で表される比R12が1×10を超え、1×1011未満であることが好ましく、1×10以上1×1010以下であることがより好ましく、1×10以上1×10以下であることがさらに好ましい。
Figure 0007269920000010
上述したように、ρは、第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、液晶ポリエステル100質量部に対する第1カーボンブラックの含有量(質量部)を表す。Wは、液晶ポリエステル100質量部に対する繊維状フィラーの含有量(質量部)を表す。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物が、充填材として板状フィラーのみを含む場合、下記式(S2)で表される比R13が1×10を超え、1×1011未満であることが好ましく、1×10以上1×10以下であることがより好ましく、5×10以上1×10以下であることがさらに好ましい。
Figure 0007269920000011
上述したように、ρは、板状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、液晶ポリエステル100質量部に対する板状フィラーの含有量(質量部)を表す。
本実施形態の液晶ポリエステル組成物が、充填材として繊維状フィラーおよび板状フィラーを含む場合、下記式(S3)で表される比R123が1×10を超え、1×1011未満であることが好ましく、1×10以上1×1010以下であることがより好ましく、1.1×10以上1×10以下であることがさらに好ましい。
Figure 0007269920000012
本実施形態において、成形品における帯電量の絶対値を制御するためには、帯電量に影響し得る成分全ての体積抵抗率だけでなく、含有量も規定することが重要である。本実施形態が規定する比R12、比R13、および比R123は、帯電量に影響し得るカーボンブラックおよび充填材の体積抵抗率ρ、ρおよびρと、含有量W,WおよびWとの両方の関数として表されている。このような比R12、比R13、および比R123が所望の範囲を満たすことで、体積抵抗率と含有量とのバランスを制御し、帯電量の絶対値を制御することができる。
[その他の成分]
本実施形態の液晶ポリエステル組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、上記充填材以外の成分をさらに含有してもよい。
上記成分の例としては、フッ素樹脂、金属石鹸類などの離型改良剤;染料、顔料などの着色剤;酸化防止剤;熱安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;界面活性剤などの、成形品の形成材料に一般的に使用される添加剤が挙げられる。
また、上記成分の例としては、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸金属塩、フルオロカーボン系界面活性剤などの外部滑剤効果を有するものも挙げられる。
さらに、上記成分の例としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂も挙げられる。
以上のような構成の液晶ポリエステル組成物によれば、帯電量の絶対値を制御できる成形品が得られる。
1つの側面として、上記成分の含有量は、液晶ポリエステル組成物の総質量に対して、0~10質量%が好ましい。
<成形品>
本実施形態の成形品は、上述した液晶ポリエステル組成物を形成材料として含む。
本実施形態の成形品は、電気・電子機器における筐体内装部品用の成形品である。電気・電子機器としては、カメラ、パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレット、プリンター、プロジェクターなどが挙げられる。このような電気・電子機器における筐体内装部品としては、コネクタ、カメラモジュール、送風ファンまたはプリンター向けの定着部品が挙げられる。
本実施形態の成形品の厚さは、0.1mm以上であり、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1mm以上である。また、成形品の厚さは、好ましくは20mm以下である。
1つの側面として、本実施形態の成形品の厚さは、0.1mm以上20mm以下であり、好ましくは0.2mm以上20mm以下であり、より好ましくは0.5mm以上20mm以下であり、さらに好ましくは1mm以上20mm以下である。
本明細書において、成形品の厚さとは、成形品の一面から他面までの厚さ(最短距離)を意味する。
成形品が送風ファンであるときなど、その厚さが不均一である場合は、最も薄い部分の厚さが0.1mmであればよく、好ましくは0.2mm以上であり、より好ましくは0.5mm以上であり、さらに好ましくは1mm以上である。また、最も厚い部分の厚さは20mm以下であると好ましい。成形品の厚さは、マイクロメーターまたは非接触3次元測定器(株式会社ミツトヨ製の「QuickVisionPRO」)を用いて、成形品の厚さをランダムに3箇所測定したときの、測定値の平均値である。なお、マイクロメーターおよび上記非接触2次元測定器のいずれを選択した場合も成形品の厚さは定量的に得ることができる。
以下では、電気・電子機器の筐体内装部品として、プリンター向けの定着部品である場合を例に挙げて説明するが、本実施形態はこれに限定されない。
通常、プリンター向けの定着部品の表面は、コピー紙の搬送が滞りなく行えるよう平坦になっている。しかしながら、上記定着部品とコピー紙とが擦れる際には静電気が発生することがある。画像形成における転写工程から定着工程までの間、トナーは静電気によりコピー紙に付着しているので、上記定着部品の帯電量が増加すると、転写した静電画像の位置がずれることがあった。
また、発明者らが鋭意検討した結果、露光工程から定着工程までの間で筐体内装部品の帯電量の絶対値が過度に低いと、コピー紙の画像形成に必要な静電気まで除去してしまい、転写した静電画像がにじむことが分かった。
そして、後の定着工程では、ずれた状態のまま静電画像が定着されるので、結果的に得られる画像が乱れることがあった。
本実施形態の成形品である定着部品において、トナーが付着したコピー紙が接触する側の面の表面抵抗値は、1012Ω以上1015Ω未満であり、好ましくは1013Ω以上1015Ω未満である。定着部品の表面抵抗値が1012Ω以上である場合、成形品とコピー紙とが接触した後の帯電量が低くなり過ぎず、コピー紙に付着したトナーが剥がれるなどの不具合が生じにくい。一方、定着部品の表面抵抗値が1015Ω未満である場合、成形品とコピー紙とが接触した後の帯電量が高くなり過ぎず、コピー紙に付着したトナーが剥がれるなどの不具合が生じにくい。
なお、成形品の表面抵抗値は、「ASTM D257」に準拠した公知の測定装置を用いて測定した値を採用した。成形品の表面抵抗値は、例えば「ASTM D257」に準拠した抵抗測定条件(東亜ディーケーケー株式会社製のデジタル超絶縁/微少電流計「DSM-8104」を使用、測定温度23℃)により測定することができる。
<成形品の製造方法>
本実施形態の成形品の製造方法としては、溶融成形法が好ましく、その例としては、射出成形法、Tダイ法やインフレーション法などの押出成形法、圧縮成形法、ブロー成形法、真空成形法およびプレス成形が挙げられる。中でも射出成形法が好ましい。以下、本実施形態の成形品の製造方法の一例として、射出成形法を用いる場合について説明する。
本実施形態における射出成形は、射出成形機(例えば、日精樹脂工業社製「油圧式横型成形機PS40E5ASE型」)を用いて、液晶ポリエステル組成物を溶融させ、溶融した液晶ポリエステル組成物を、適切な温度に加熱して、金型内に射出することにより行うことができる。
射出するために液晶ポリエステル組成物を加熱溶融させる温度は、使用する液晶ポリエステル組成物の流動開始温度Tp℃を基点として、[Tp+10]℃以上、[Tp+50]℃以下とすることが好ましい。
また、金型の温度は、液晶ポリエステル組成物の冷却速度と生産性の点から、室温(例えば、23℃)~180℃の範囲から選択することが好ましい。
以上のような構成の成形品によれば、帯電量の絶対値を制御することができる。
これにより、例えば成形品がプリンター向けの定着部品である場合には、転写した静電画像の位置がずれるのを抑制し、結果的に得られる画像の乱れを抑制することができる。
また、例えば成形品がカメラモジュールである場合には、空気中の埃などが静電気によってカメラモジュールに付着するのを抑制し、埃による不具合の発生を低減することができる。
1つの側面として、本発明の1実施形態である液晶ポリエステル組成物は、
液晶ポリエステルと、
第1カーボンブラックと、
所望により第2カーボンブラックと、
充填材と、を含み;
前記液晶ポリエステルは、p-ヒドロキシ安息香酸に由来する構造単位(前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して、30モル%以上80モル%以下)、4,4’-ジヒドロキシビフェニルに由来する構造単位(前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して、10モル%以上35モル%以下)、テレフタル酸に由来する構造単位(前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して、10モル%以上35モル%以下)、およびイソフタル酸に由来する構造単位(前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して、10モル%以上35モル%以下)のみからなる液晶ポリエステルであり;
前記第1カーボンブラックは、
一次粒子径が30nm以上40nm以下であり、かつ
DBP吸油量が350cm/100g以上525cm/100g以下であり、 前記第2カーボンブラックは、
DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下の条件を満たさず;
前記充填材は、繊維状フィラー(好ましくはガラス繊維)および板状フィラー(好ましくはタルク)であり;
前記液晶ポリエステルの含有量は、前記液晶ポリエステル組成物の総質量に対して30~90質量%であり;
前記第1カーボンブラックの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、2質量部以上9質量部以下であり、
前記第2カーボンブラックの含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上3質量部以下であり、かつ
前記第1カーボンブラックと第2カーボンブラックの合計含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、3質量部以上9質量部以下であり;
前記繊維状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、23質量部以上45質量部以下であり;
前記板状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、17質量部以上23質量部以下であり;
前記第1カーボンブラックの体積抵抗率ρおよび含有量Wと、前記繊維状フィラーの体積抵抗率ρおよび含有量Wと、前記板状フィラーの体積抵抗率ρおよび含有量Wの関係を上記式(S3)で表される比R123で表したとき、比R123が4×10を超え、5.8×108未満である、
液晶ポリエステル組成物である。
さらに、前記液晶ポリエステルは、
前記第1カーボンブラックのBET比表面積が、750m/g以上1300m/g以下であってもよく、
前記第1カーボンブラックの体積抵抗率ρが、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下であってもよく、
前記繊維状フィラーの体積抵抗率ρが、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下であってもよく、
前記板状フィラーの体積抵抗率ρが、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下であってもよい。
また、本発明の別の側面は、
筐体内装部品の帯電量を制御する方法であって、
前記方法は、
液晶ポリエステル組成物から筐体内装部品を製造すること、及び
前記筐体内装部品を筐体内に提供すること、を含み;
前記液晶ポリエステル組成物は、
液晶ポリエステルと、
第1カーボンブラックと、
所望により第2カーボンブラックと、を含み、
前記第1カーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たすカーボンブラックであり、
前記第2カーボンブラックは、前記条件(A)と前記条件(B)との少なくとも一方を満たさないカーボンブラックであり、
前記第1カーボンブラックの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、
前記第2カーボンブラックの含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上9質量部以下であり、かつ
前記第1カーボンブラックと第2カーボンブラックの合計含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下である、
液晶ポリエステル組成物である、
方法。
(A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
(B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本実施例では、成形品の用途としてプリンター向けの定着部品を想定した評価を行っているが、成形品の用途はこれに限定されない。
各成形品は、以下の方法で評価した。
<表面抵抗値の測定>
成形品の表面抵抗値は、「ASTM D257」に準拠した抵抗測定条件(東亜ディーケーケー株式会社製のデジタル超絶縁/微少電流計「DSM-8104」を使用)により、23℃で測定した。
<帯電量の絶対値の測定>
実施例および比較例の試験片(成形品)を、固定したコピー紙に重ね、以下の条件により試験片を一方向に往復させる試験を行った。試験後の試験片およびコピー紙の帯電量の絶対値を、春日電機株式会社製のデジタル低電位測定器「KSD-300」を用いて測定した。
[条件]
装置:表面性測定機「HEIDON-14DR」(新東科学株式会社製)
重り:5g
往復距離:60mm
移動速度:4000mm/分
往復回数:50回
評価環境:温度23℃、湿度50%
<体積抵抗率の測定>
第1カーボンブラック、繊維状フィラー、タルク状フィラーの体積抵抗率は、シリカゲルデシケータ中に24時間第1カーボンブラック、繊維状フィラー、またはタルク状フィラーを静置した後、測定温度23℃、測定湿度(相対湿度)50%にて、絶縁抵抗計 R8340A ULTRA HIGH RESISUTANCE METER(株式会社エーディーシー製)で測定した。
<製造例1(液晶ポリエステル(1)の製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸299.0g(1.8モル)、イソフタル酸99.7g(0.6モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1-メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温(23℃)から150℃まで30分間かけて昇温し、150℃で30分間還流させた。
次いで、1-メチルイミダゾール2.4gを加え、副生した酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出して、室温まで冷却し、固形物であるプレポリマーを得た。
次いで、粉砕機を用いてこのプレポリマーを粉砕し、得られた粉砕物を窒素雰囲気下、室温から250℃まで1時間かけて昇温し、250℃から295℃まで5時間かけて昇温し、295℃で3時間保持することにより、固相重合を行った。得られた固相重合物を室温まで冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(1)を得た。得られた液晶ポリエステル(1)の流動開始温度は、327℃であった。
<製造例2(液晶ポリエステル(2)の製造)>
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、p-ヒドロキシ安息香酸994.5g(7.2モル)、4,4’-ジヒドロキシビフェニル446.9g(2.4モル)、テレフタル酸239.2g(1.44モル)、イソフタル酸159.5g(0.96モル)及び無水酢酸1347.6g(13.2モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、1-メチルイミダゾール0.18gを加え、窒素ガス気流下で攪拌しながら、室温から150℃まで30分間かけて昇温し、150℃で30分間還流させた。
次いで、1-メチルイミダゾール2.4gを加え、副生した酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から320℃まで2時間50分かけて昇温し、トルクの上昇が認められた時点で、反応器から内容物を取り出して、室温まで冷却し、固形物であるプレポリマーを得た。
次いで、粉砕機を用いてこのプレポリマーを粉砕し、得られた粉砕物を窒素雰囲気下、室温から220℃まで1時間かけて昇温し、220℃から240℃まで30分間かけて昇温し、240℃で10時間保持することにより、固相重合を行った。得られた固相重合物を室温まで冷却して、粉末状の液晶ポリエステル(2)を得た。得られた液晶ポリエステル(2)の流動開始温度は、286℃であった。
なお、カーボンブラックおよび充填材として、以下の材料を用いた。カーボンブラックおよび充填材の物性は、メーカーの公称値である。
[カーボンブラック]
第1カーボンブラック:ケッチェンブラックEC300J(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製、一次粒子径 39.5nm、DBP吸油量 360cm/100g、BET比表面積 800m/g、体積抵抗率2.51×10Ω・m)
第2カーボンブラック:CB#960
(三菱ケミカル株式会社製、一次粒子径 16nm、DBP吸油量 69cm/100g、BET比表面積 260m/g、体積抵抗率4.96×10Ω・m)
[繊維状フィラー]
ガラス繊維(1):CS3J260S(日東紡績株式会社製、数平均繊維長 3mm、数平均繊維径 11μm、体積抵抗率5.14×1011Ω・m)
ガラス繊維(2):EFH75-01(セントラルグラスファイバー株式会社製、数平均繊維長 30μm、数平均繊維径 11μm、体積抵抗率3.43×1011Ω・m)
[板状フィラー]
タルク:X-50(日本タルク株式会社製、体積抵抗率3.92×1010Ω・m)
使用した充填材の下記式(S3)で表される比R123を表1および表2に示した。
Figure 0007269920000013
<実施例1~6、比較例1~4>
液晶ポリエステル、カーボンブラックおよび所望により添加される成分を、表1および表2に示す割合で二軸押出機(池貝鉄工株式会社製、「PCM-30」)を用いて、シリンダー温度340℃で溶融混練し、ペレット状の液晶ポリエステル組成物を得た。なお、表1および表2に示す割合の単位は、質量部である。
液晶ポリエステル組成物を、射出成形機(日精樹脂工業株式会社製、「PNX40-5A」)を用いて、成形温度350℃、金型温度130℃、射出速度100mm/秒で、縦64mm、横64mm、厚さ1mmの平板状の試験片を成形した。
Figure 0007269920000014
Figure 0007269920000015
実施例および比較例の総合評価を表3および表4に示した。実施例および比較例の総合評価は、造粒性ならびに試験後の試験片およびコピー紙の帯電量の絶対値を用いて、以下の基準で行った。なお、表3および表4では、液晶ポリエステル組成物を造粒可能であった場合を「A」とし、造粒不可能であった場合を「B」とした。
A:造粒が「A」、かつ、試験片の帯電量の絶対値が30V以上200V以下、かつ、コピー紙の帯電量の絶対値が0V以上5V以下
B:上記以外
Figure 0007269920000016
Figure 0007269920000017
表3および表4に示したように、本発明を適用した実施例1~6の試験片は、本発明を適用しなかった比較例1および比較例2の試験片と比べて、表面抵抗値が低かった。また、本発明を適用した実施例1~6では、本発明を適用しなかった比較例1および比較例2と比べて、試験後の試験片およびコピー紙の両方の帯電量の絶対値が小さかった。
一方、本発明を適用した実施例1~6の試験片は、比較例3の試験片と比べて表面抵抗値が高かった。また、本発明を適用した実施例1~6では、比較例3と比べて、試験後の試験片の帯電量の絶対値が大きかった。
このことから、本発明は、第1カーボンブラックの含有量、および第1カーボンブラックと第2カーボンブラックとの合計含有量を特定の範囲とすることにより、試験片の表面抵抗値を1012Ω以上1015Ω未満の範囲内に調整し、試験後の試験片およびコピー紙の両方の帯電量の増加を適度に抑制することができた。
以上の結果より、本発明が有用であることが確かめられた。
本発明は、帯電量の増加を抑制できる成形品およびこのような成形品が得られる液晶ポリエステル組成物が提供できるので、産業上極めて有用である。

Claims (14)

  1. 液晶ポリエステルと、
    第1カーボンブラックと、
    所望により第2カーボンブラックと、を含み、
    前記第1カーボンブラックは、下記条件(A)および条件(B)を満たすカーボンブラックであり、
    前記第2カーボンブラックは、前記条件(A)と前記条件(B)との少なくとも一方を満たさないカーボンブラックであり、
    前記第1カーボンブラックの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、
    前記第2カーボンブラックの含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部以上9質量部以下であり、かつ
    前記第1カーボンブラックと第2カーボンブラックの合計含有量は、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であり、
    さらに、充填材を含み、
    前記充填材は、繊維状フィラーを含む、
    液晶ポリエステル組成物。
    (A):一次粒子径が10nm以上50nm以下
    (B):DBP吸油量が300cm/100g以上550cm/100g以下
  2. 前記第1カーボンブラックのBET比表面積は、500m/g以上1500m/g以下である請求項1に記載の液晶ポリエステル組成物。
  3. 記繊維状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下である請求項1または2に記載の液晶ポリエステル組成物。
  4. 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率および含有量と、前記繊維状フィラーの体積抵抗率および含有量との関係を下記式(S1)で表される比R12で表したとき、比R12が、1×10を超え、1×1011未満である請求項3に記載の液晶ポリエステル組成物。
    Figure 0007269920000018
    (ρは、前記第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、前記繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記第1カーボンブラックの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記繊維状フィラーの含有量を表す。)
  5. 記充填材は、繊維状フィラーおよび板状フィラーであり、
    前記繊維状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、10質量部以上130質量部以下であり、
    前記板状フィラーの含有量Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対して、5質量部以上80質量部以下である請求項1または2に記載の液晶ポリエステル組成物。
  6. 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率および含有量と、前記繊維状フィラーの体積抵抗率および含有量と、前記板状フィラーの体積抵抗率および含有量との関係を、下記式(S3)で表される比R123で表したとき、比R123が1×10を超え、1×1011未満である、請求項に記載の液晶ポリエステル組成物。
    Figure 0007269920000019
    (ρは、前記第1カーボンブラックの体積抵抗率を表す。ρは、前記繊維状フィラーの体積抵抗率を表す。ρは、前記板状フィラーの体積抵抗率を表す。Wは、前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記第1カーボンブラックの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記繊維状フィラーの含有量を表す。Wは前記液晶ポリエステル100質量部に対する前記板状フィラーの含有量を表す。)
  7. 前記繊維状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である請求項4またはに記載の液晶ポリエステル組成物。
  8. 前記板状フィラーの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×1015Ω・m以下である請求項に記載の液晶ポリエステル組成物。
  9. 前記第1カーボンブラックの体積抵抗率ρは、1×10Ω・m以上1×10Ω・m以下である請求項4または6に記載の液晶ポリエステル組成物。
  10. 前記液晶ポリエステルの流動開始温度が280℃以上420℃以下である請求項1~のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物。
  11. 前記液晶ポリエステルは、芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する構造単位(I)と、芳香族ジオールに由来する構造単位(II)と、芳香族ジカルボン酸に由来する構造単位(III)と、を含み、
    前記構造単位(I)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して30モル%以上80モル%以下であり、
    前記構造単位(II)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下であり、
    前記構造単位(III)の含有率は、前記液晶ポリエステルを構成する全構造単位の合計モル量に対して10モル%以上35モル%以下である請求項1~10のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物。
  12. 前記芳香族ヒドロキシカルボン酸は、p-ヒドロキシ安息香酸であり、
    前記芳香族ジオールは、ヒドロキノンと、4,4’-ジヒドロキシビフェニルとの少なくとも一方であり、
    前記芳香族ジカルボン酸は、テレフタル酸およびイソフタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1つである請求項11に記載の液晶ポリエステル組成物。
  13. 請求項1~12のいずれか1項に記載の液晶ポリエステル組成物を含む成形品。
  14. 電気・電子機器における筐体内装部品用である請求項13に記載の成形品。
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