JP7264783B2 - 潤滑皮膜被覆アルミニウム板 - Google Patents

潤滑皮膜被覆アルミニウム板 Download PDF

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Description

本発明は、潤滑皮膜が被覆した潤滑皮膜被覆アルミニウム板に関する。
従来、金属板をプレス加工する際には、金型や金属板の破損を防止する目的として、また、金属板の成形性向上を目的として、金属板の表面に潤滑剤を塗布するという処理が施されている。
ここで、プレス加工の対象がアルミニウム板である場合、潤滑剤を塗布した状態でプレス加工を施すと、加工時の熱や圧力によって化学反応が進行し、潤滑剤中の脂肪酸のカルボキシル基や脂肪油のエステル基と、アルミニウム板や金型に由来する金属イオンとが結合した金属石鹸が生成される。その結果、アルミニウム板は、金属石鹸の生成に伴って変色や腐食が発生するだけでなく、変色や腐食が発生した箇所を起点として破損が生じ易くなってしまう。
このような問題を解決すべく、アルミニウム板に好適に用いることができるとともに、アルミニウム板の加工後に脱膜可能な潤滑皮膜、及び、当該潤滑皮膜が被覆したアルミニウム板に関して研究が進められ、以下のような技術が提案されている。
具体的には、特許文献1において、親水基を含有するアルカリ脱膜型ウレタン樹脂と、金属ジルコニウム換算で1~50mg/m2の水溶性ジルコニウム化合物と、アルカリ脱膜型ウレタン樹脂100重量部に対して1~30重量部であって0.1~30μmの平均粒径を有する潤滑剤と、を含有する潤滑皮膜が、基板表面に塗装された潤滑皮膜塗装アルミニウム板が開示されている。そして、この潤滑皮膜塗装アルミニウム板は、アルカリ処理によって潤滑皮膜中のアルカリ脱膜型ウレタン樹脂及び潤滑剤が除去された後に、FT-IRスペクトルの1700cm-1台に現れるピークの最大吸収率が1%以下で、且つ、金属ジルコニウム換算で0.5mg/m以上のジルコニウム化合物層が残存する、と特許文献1に記載されている。
特開2011-5425号公報
特許文献1に係るアルミニウム板の潤滑皮膜をはじめ、従来、アルミニウム板に使用する潤滑皮膜については、潤滑性が主に検討されてきた。
本発明者らは、潤滑皮膜被覆アルミニウム板のその他の改善すべき点について検討した結果、潤滑皮膜被覆アルミニウム板を加工する際に皮膜が剥離しカス(例えば、黒色の異物)となるという事象の発生を確認し、このような事象について、これまで十分に検討されていなかったことがわかった。
つまり、潤滑皮膜被覆アルミニウム板に関し、皮膜カスの発生の抑制という観点について改善の余地が存在していた。
ただ、潤滑皮膜被覆アルミニウム板については皮膜カスの発生を抑制するだけではなく、潤滑皮膜被覆アルミニウム板に対して要求されるレベルの高い潤滑性を確保しておく必要がある。
そこで、本発明は、高い潤滑性を発揮するとともに皮膜カスの発生が抑制できる潤滑皮膜被覆アルミニウム板を提供することを課題とする。
本発明に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、前記基板上に形成された潤滑皮膜と、を備え、前記潤滑皮膜は、アクリル酸系高分子と、水溶性エチレンオキシドと、を含有し、前記水溶性エチレンオキシドに対する前記アクリル酸系高分子の固形分比率が、0.1以上25.0以下である。
本発明に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、高い潤滑性を発揮するとともに皮膜カスの発生を抑制できる。
本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の断面模式図である。 実施例におけるLDH試験と球頭張出試験を説明する模式図である。 実施例におけるLDH試験でダイに固定した供試材を上方から見た平面模式図である。 実施例における球頭張出試験でダイに固定した供試材を上方から見た平面模式図である。 実施例における皮膜カス有無試験において使用した金型の断面模式図である。 実施例における摩擦係数試験を説明する模式図である。
以下、適宜図面を参照して、本発明に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板を実施するための形態(実施形態)について説明する。
[潤滑皮膜被覆アルミニウム板]
本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、図1に示すように、基板1と、基板1上に形成された潤滑皮膜2と、を備える。そして、潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、潤滑皮膜2の表面にさらに液体油で構成される補助皮膜3を備えていてもよい。
なお、図1では、潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、基板1の両面に潤滑皮膜2(および補助皮膜3)が形成された構成を示しているが、ニーズに応じて、いずれか一方の面に潤滑皮膜2(および補助皮膜3)が形成された構成としてもよい。さらには、潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、潤滑皮膜2を基板1の表面(片面または両面)全体に備えなくてもよく、プレス加工領域等に限定的に形成されてもよいし、表面以外の領域(例えば、端部)に形成されてもよい。
以下、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の基板、潤滑皮膜、補助皮膜について詳細に説明する。
[基板]
基板は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。そして、基板は、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の用途に応じて、例えば、JIS H 4000:2014等に規定される種々の非熱処理型アルミニウム合金又は熱処理型アルミニウム合金から適宜選択される。非熱処理型アルミニウム合金は、純アルミニウム(1000系)、Al-Mn系合金(3000系)、Al-Si系合金(4000系)、及び、Al-Mg系合金(5000系)である。熱処理型アルミニウム合金としては、Al-Cu-Mg系合金(2000系)、Al-Mg-Si系合金(6000系)、及び、Al-Zn-Mg系合金(7000系)である。
なお、基板の板厚は、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の用途に応じて、適宜設定することができる。
潤滑皮膜被覆アルミニウム板を自動車(詳細には、自動車パネル)に用いる場合、基板は、高強度のものであることが好ましい。このような高強度の基板を構成するアルミニウム合金としては、5000系、6000系、7000系等の耐力が比較的高い汎用合金が挙げられ、必要により調質されたものであってもよい。そして、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の基板は、5000系、6000系のアルミニウム合金であるのが非常に好ましい。
(5000系のアルミニウム合金)
5000系のアルミニウム合金の組成の一例として、Mg:2.5~5.5質量%を含有し、さらに適宜、Mn:0.60質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.50質量%以下、Cu:0.50質量%以下、Zn:0.50質量%以下、Fe:0.70質量%以下、Si:0.40質量%以下、Ti:0.30質量%以下から選択される1種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
各元素の含有量の限定理由は以下のとおりである。
(Mg:2.5~5.5質量%)
Mgは、母相内に固溶することにより加工硬化能を高め、アルミニウム合金素材板としての必要な強度や耐久性を確保する必須元素である。Mgの含有量が2.5質量%以上であれば、この作用効果を十分に発揮することができる。一方、Mgの含有量が5.5質量%以下であれば、耐粒界腐食性(耐食性)の低下を抑制することができる。
(Mn:0.60質量%以下)
Mnは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Mnの含有量が0.60質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
(Cr:0.35質量%以下)
Crは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Crの含有量が0.35質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
(Zr:0.50質量%以下)
Zrは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Zrの含有量が0.50質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
(Cu:0.50質量%以下)
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高める効果を有する元素である。そして、Cuの含有量が0.50質量%以下であれば、製造面でもスラブに割れが生じるなどのスラブ鋳造性の低下は起こらず、圧延などに供する健全なスラブが採取できなくなるのを抑制することができる。
(Zn:0.50質量%以下)
Znは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高めるとともに、プレス加工性を向上させる効果を有する元素である。そして、Znの含有量が0.50質量%以下であれば、板製造後の時間経過とともに強度が上昇する時効硬化現象が顕著に生じてプレス加工性が低下するのを抑制することができる。
(Fe:0.70質量%以下、Si:0.40質量%以下、Ti:0.30質量%以下)
Fe、Si、Tiは、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。これらの元素を含有する場合、Feは、0.70質量%以下、Siは、0.40質量%以下、Tiは、0.30質量%以下であることが好ましい。
(不可避的不純物)
基板の残部はAl及び不可避的不純物である。そして、不可避的不純物としては、V、Ni、Sn、In、Ga、B、Sc等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。この場合の元素の含有量は個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
そして、前記したMn、Cr、Zr、Cu、Zn、Fe、Si、Tiも不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の元素の含有量は例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
(6000系のアルミニウム合金)
6000系のアルミニウム合金の組成の一例として、Mg:0.2~1.5質量%、Si:0.3~2.3質量%、Cu:1.0質量%以下を含有し、さらに適宜、Ti:0.1質量%以下、B:0.06質量%以下、Be:0.2質量%以下、Mn:0.8質量%以下、Cr:0.4質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Zr:0.2質量%以下、V:0.2質量%以下、Zn:0.5質量%未満から選択される1種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
各元素の含有量の限定理由は以下のとおりである。
(Mg:0.2~1.5質量%)
Mgは、強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.2質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Mgの含有量が1.5質量%を超えると、成形性を低下させる場合がある。
(Si:0.3~2.3質量%)
Siは、強度を向上させる効果がある。Siの含有量が0.3質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Siの含有量が2.3質量%を超えると、成形性、熱間圧延性を低下させる場合がある。
(Cu:1.0質量%以下)
Cuは、強度を向上させる効果がある。しかし、Cuの含有量が1.0質量%を超えると、耐食性を低下させる場合がある。なお、Cuの含有量は0質量%を超えているのが好ましい。
(Ti:0.1質量%以下)
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細にし、成形性を向上させる効果がある。しかし、Tiの含有量が0.1質量%を超えると、粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
(B:0.06質量%以下)
Bは、鋳塊の結晶粒や晶出物を微細にし、成形性を向上させる効果がある。しかし、Bの含有量が0.06質量%を超えると、粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
(Be:0.2質量%以下)
Beは、アルミニウム合金の熱間圧延性および成形性を向上させる効果がある。しかし、Beの含有量が0.2質量%を超えると、前記効果が飽和する。
(Mn:0.8質量%以下、Cr:0.4質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Zr:0.2質量%以下、V:0.2質量%以下)
Mn、Cr、Fe、Zr、Vは、それぞれ強度を向上させる効果がある。しかし、これらの元素の含有量が所定値を超えると、具体的には、Mnは0.8質量%、Crは0.4質量%、Feは0.5質量%、Zrは0.2質量%、Vは0.2質量%をそれぞれ超えると、いずれも粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
(Zn:0.5質量%未満)
Znは、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。Znの含有量は、0.5質量%未満であることが好ましい。
(不可避的不純物)
基板の残部はAl及び不可避的不純物である。
前記したCu、Ti、B、Be、Mn、Cr、Fe、Zr、Znが不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の元素の含有量は例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
なお、基板の作製に際して、スクラップ材や低純度のアルミニウム地金などを大量に使用した場合には、これらの元素が必然的に混入してしまうため、前記のように本発明の効果を妨げない範囲での含有を許容している。
[潤滑皮膜]
潤滑皮膜は、潤滑組成物を基板の表面に成膜(塗装等)した後、乾燥させることにより形成される皮膜である。
そして、潤滑皮膜は、主成分として、アクリル酸系高分子と水溶性エチレンオキシドとを含有する。
(アクリル酸系高分子)
アクリル酸系高分子は、極性基を含有することによって基板との密着性を高める作用を有し、潤滑皮膜被覆アルミニウム板を加工する際における皮膜カスの発生を抑制する。
そして、アクリル酸系高分子としては、アクリル酸が重合したポリアクリル酸、アクリル酸のアルカリ金属塩、アルカリ酸アンモニア塩、(ポリ)メタアクリル酸、アクリル酸エステル共重合、スチレン・ポリアクリル酸共重合物、N-メチロールアクリルアミドのアクリルアミド誘導体の重合物等が挙げられる。
(水溶性エチレンオキシド)
水溶性エチレンオキシドは、潤滑皮膜の潤滑性を向上させる作用を有する。
そして、水溶性エチレンオキシドとしては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。なお、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、「R-O-(CHCHO)-H」(式中、Rは炭素数20~24のアルキル基を示し、nは繰り返し単位数である)で示される脂肪族系グリコールエーテル化合物である。
式中のエチレンオキシド(CHCHO)の繰り返し単位数であるnが40以上であると、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの主鎖が長くなり、加工時(例えば、プレス加工時)の基板と金型との間の摩擦を本実施形態に係る潤滑皮膜によって十分に低減させることができる。その結果、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の加工時の潤滑性が向上して良好な成形性が得られる。
したがって、式中のエチレンオキシド(CHCHO)の繰り返し単位数nは、40以上であることが好ましい。
また、式中の繰り返し単位数nが大きくなると、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの融点が高くなる。その結果、アルミニウム板の保管中における温度の上昇によって潤滑皮膜を介して板同士が固着してしまうといった現象の発生を抑制して耐ブロッキング性を向上させることができる。加えて、式中の繰り返し単位数nが大きくなると、前記した潤滑性についてさらに向上させることができる。
よって、耐ブロッキング性を向上させる観点から、式中の繰り返し単位数nは60以上が好ましく、70以上がより好ましく、90以上がさらに好ましく、100以上が特に好ましい。
なお、融点は、JIS K 2235:2009に準拠して測定することができる。
一方、式中の繰り返し単位数nの上限については特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル自体の製造困難性やコスト上昇の観点から、例えば、450以下、300以下、200以下、150以下が挙げられる。
式中のRはアルキル基であるが、炭素数が20未満であると、潤滑性が不十分となる。一方、炭素数が24を超えると、入手自体が困難となる。
したがって、式中のRのアルキル基の炭素数は20~24である。
潤滑皮膜に含まれるポリオキシエチレンアルキルエーテルは、1種類であってもよいが、分子量や分子鎖長が異なる2種類以上を含有していてもよい。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが2種類以上である場合、其々のnの値が、前記したnの値の所定範囲内となるのが好ましいが、nの平均値が前記したnの値の所定範囲内となっていればよい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが2種類以上である場合、其々のRのアルキル基の炭素数の値が、前記した炭素数の所定範囲内となるのが好ましいが、炭素数の平均値が前記した炭素数の所定範囲内となっていればよい。
なお、nの平均値や炭素数の平均値は、例えば、クロマトグラフ等の分析によって同定したのち算出すればよい。
分子量や分子鎖長が異なるポリオキシエチレンアルキルエーテルを2種類以上使用することにより、潤滑組成物の融点(凝固点)を調節して、金型の形状やプレス温度、プレス圧力等、プレス加工条件に好適な潤滑性を有する潤滑組成物を得ることができる。また、潤滑組成物の融点を調節して、気温、地理的要因、保管環境等に好適な潤滑組成物を得ることができる。
(水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率)
水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率(=アクリル酸系高分子の固形分含有量/水溶性エチレンオキシドの固形分含有量)が0.1よりも大きい場合、アクリル酸系高分子の含有量が多くなるため、この潤滑皮膜が形成された潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、加工時において皮膜が剥離し難く、かつ、加工後は水性の脱脂液などの使用によって容易に脱膜させることができる。また、この固形分比率が0.1未満の場合には、潤滑皮膜の融点が低下して塗装乾燥後の熱処理において溶融するおそれもある。
一方、この固形分比率が25.0を超えると潤滑性が低下する。
よって、水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率は、0.1以上25.0以下とする。
水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率は、皮膜カスの発生を抑制する観点から、0.125以上が好ましく、1.0以上、2.5以上がさらに好ましい。また、この固形分比率は、潤滑性の低下を抑制する観点から、20.0以下が好ましく、15.0以下、10.0以下、5.0以下がより好ましい。
(アクリル酸系高分子と水溶性エチレンオキシドの固形分含有量)
潤滑皮膜中におけるアクリル酸系高分子と水溶性エチレンオキシドの固形分含有量は、前記した固形分比率を満たせば特に限定されないものの、例えば、アクリル酸系高分子の固形分含有量は、10~30質量%(好ましくは15~23質量%)であり、水溶性エチレンオキシドの固形分含有量は、2~10質量%(好ましくは3~7質量%)である。
(潤滑皮膜:その他の成分)
潤滑皮膜を構成する潤滑組成物は、例えば、特公S51-003702の例3に記載されているように、アクリル酸系高分子や水溶性エチレンオキシド以外にも各種化合物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Zn、カルナバ蝋等を適宜含有していてもよい。
また、潤滑皮膜を構成する潤滑組成物は、アクリル酸系高分子および水溶性エチレンオキシドが奏する効果を妨げない範囲で、例えば、酸化防止剤、導電性添加剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、皮張り防止剤、かび防止剤、防腐剤、凍結防止剤等を適宜含有していてもよい。
なお、潤滑組成物の溶媒は、水、アルコール類、ケトン類等を用いればよい。
酸化防止剤は、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの熱分解を防止するため、潤滑組成物に含有させるのが好ましい。詳細には、基板に潤滑皮膜を形成する際、潤滑組成物を加熱溶融して長時間保持すると、ポリオキシエチレンアルキルエーテル構造中のエチレンオキシドが周囲の酸素と反応して徐々に酸化して分解していくが、酸化防止剤は、この分解反応を抑制することができる。
酸化防止剤としては、例えば、セミカルバジド基を有するものやフェノール基を有するものが挙げられる。具体的には、ビュレット-トリ(ヘキサメチレン-N,N-ジメチルセミカルバジド)、1,6-ヘキサメチレンビス(N,N-メチルセミカルバジド)、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチルフェノール、2,2’-メチレンビス(6-t-ブチル-4-メチルフェノール)等を挙げることができる。そして、酸化防止剤の含有量は、潤滑組成物全体に対して2~3質量%が好ましい。
(潤滑皮膜:皮膜量)
潤滑皮膜の皮膜量が0.20g/m以上であると、十分な潤滑性を確保することができる。一方、潤滑皮膜の皮膜量が1.20g/mを超えると、潤滑性の向上の効果が飽和するとともに、下地層の種類によらず接着特性を劣化させるおそれ、および、塗装ムラが発生し易くなるおそれもあり、さらに、皮膜カスが発生する可能性も上昇する。
したがって、潤滑皮膜の皮膜量は、0.20~1.20g/mが好ましい。そして、潤滑皮膜の皮膜量は、潤滑性の向上の観点から、0.30g/m以上が好ましく、0.40g/m以上がより好ましい。また、潤滑皮膜の皮膜量は、塗装ムラの発生や皮膜カスの発生を抑制する観点から、1.00g/m以下が好ましく、0.80g/m以下がより好ましい。
[補助皮膜]
補助皮膜は、液体油を潤滑皮膜の表面に成膜(塗装等)して形成される層であるが、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板において必須の皮膜ではない。
(補助皮膜:成分)
補助皮膜は、石油系炭化水素を主成分とする液体油で構成される。なお、「石油系炭化水素を主成分とする」とは、詳細には、液体油における石油系炭化水素の含有量が50質量%以上のことであり、60質量%以上が好ましく、70質量%以上、80質量%以上がより好ましい。
石油系炭化水素は特に限定されないが、例えば、炭素数8~18の鎖式飽和炭化水素等が挙げられる。また、液体油中の石油系炭化水素以外の物質としては、例えば、脂肪酸エステル、防錆剤、極圧剤、界面活性剤等が挙げられる。
(補助皮膜:皮膜量)
補助皮膜の皮膜量が0.3g/m以上であると、十分な耐変色性(錆等に基づく基板の変色に対する耐性)を確保することができる。一方、補助皮膜の皮膜量が1.0g/mを超えると、耐変色性の向上の効果が飽和するとともに、塗装ムラが発生し易くなるおそれもある。
したがって、補助皮膜の皮膜量は、0.3~1.0g/mが好ましい。そして、補助皮膜の皮膜量は、耐変色性の向上の観点から、0.4g/m以上が好ましく、塗装ムラの発生を抑制する観点から、0.8g/m以下が好ましく、0.6g/m以下がより好ましい。
(補助皮膜:動粘度)
補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度が1cSt未満であると、塗装時の皮膜量の均一性が確保できなくなるおそれがある。一方、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度が7cStを超えると、常温での静電塗布方式等での塗装がし難くなってしまう。
したがって、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度は、1~7cStであるのが好ましい。そして、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度は、皮膜量の均一性の観点から、2cSt以上がより好ましく、塗装の容易性の観点から、6cSt以下がより好ましい。
このような液体油としては、JX製のPD4000T(動粘度2cSt)、スギムラ化学工業製のプレトンR303P(動粘度4cSt)等が挙げられる。
(各測定方法)
潤滑皮膜、補助皮膜の皮膜量の測定方法は特に限定されないものの、例えば、赤外膜厚計によって、潤滑皮膜、補助皮膜の膜厚を測定し、事前に求めた各皮膜の重量と各皮膜の膜厚との相関式に基づいて、測定して得られた膜厚の値から、各皮膜の皮膜量を算出すればよい。
また、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度の測定方法は特に限定されないものの、例えば、JIS K 2283:2000に記載の方法等が挙げられる。
[その他の層:化成処理皮膜]
図1に示す潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、基板1と潤滑皮膜2との間に、化成処理皮膜(図示省略)を備える構成であってもよい。
基板1の表面に化成処理皮膜を形成させることにより、潤滑皮膜2の密着性を向上させることができ、また、化成処理皮膜が環境中の水分の基板1への接触を防止することにより、耐変色性(耐食性)をより向上させることができる。
化成処理皮膜は、クロム(Cr)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)等を無機物として含有する無機酸化物、又は、無機-有機複合化合物からなる化成処理皮膜が挙げられる。
化成処理皮膜の皮膜量、膜厚は特に限定されないが、皮膜量は金属(Cr、Zr、Ti)換算で1~100mg/mであることが好ましく、5~80mg/m2であることがより好ましく、膜厚は1~100nmであることが好ましい。化成処理皮膜の膜厚が100nmを超えると、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の加工性が低下する場合がある。
化成処理皮膜である無機酸化物皮膜は、基板に、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理等を施して表面に形成される。また、化成処理皮膜である無機-有機複合化合物皮膜は、塗布型クロメート処理または塗布型ジルコニウム処理を行うことにより形成され、アクリル-ジルコニウム複合体等が挙げられる。
なお、化成処理皮膜を形成する化成処理は、前記のものに限定されず、従来公知の処理、例えば、TiZr処理、有機シラン系処理、有機リン系(例えばビニルホスホン酸)処理等であってもよい。
[用途]
本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、軽量であるとともに、潤滑性(成形性)に優れ、さらに、加工時における皮膜カスの発生が抑制できることから、軽量化が求められるとともに複雑な加工が施される自動車の構成部材、特に自動車用パネルとして好適に用いることができる。
[潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法]
次に、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法について説明する。
潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法は、基板作製工程と、潤滑皮膜形成工程と、を含み、さらに、補助皮膜形成工程を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
(基板作製工程)
基板作製工程は、圧延によって基板を作製する工程である。具体的には、以下の様な手順で基板を作製することができる。
所定の組成を有するアルミニウム合金を連続鋳造により溶解、鋳造して鋳塊を製造し(溶解鋳造工程)、前記製造された鋳塊に、均質化熱処理を施す(均質化熱処理工程)。次に、前記均質化熱処理された鋳塊に、熱間圧延を施して熱延板を製造する(熱間圧延工程)。次に、熱延板に300~580℃で荒焼鈍または中間焼鈍を行い、最終冷間圧延率5%以上の冷間圧延を少なくとも1回施して、所定の板厚の冷延板を製造する(冷間圧延工程)。荒焼鈍または中間焼鈍の温度を300℃以上とすることで、成形性向上の効果がより発揮され、580℃以下とすることで、バーニングの発生による成形性の低下を抑制し易くなる。最終冷間圧延率を5%以上とすることで、成形性の向上の効果がより発揮される。なお、均質化熱処理、熱間圧延の条件は、特に限定されるものではなく、熱延板を通常得る場合の条件でよい。また、中間焼鈍は行わなくてもよい。
また、上記冷間圧延後に、板平坦度の矯正のためのスキンパス圧延や表面粗さ制御のための放電ダル(EDT:Electric Discharge Textured)加工ロールを用いた圧延等の低加工率の冷間圧延を行ってもよい。
(潤滑皮膜形成工程)
潤滑皮膜形成工程は、基板の上に潤滑皮膜を形成する工程である。
潤滑皮膜を形成する方法としては、塗装法が挙げられる。工業的には、ロールコート等によって潤滑組成物を水溶液の状態で基板に塗装し、その後、乾燥させることにより、潤滑皮膜が形成される。
ロールコート方式は、コーターパンに入った水溶液となっている塗料をピックアップロールで持ち上げ、これを直接アプリケーターロールに転写する、またはトランスファーロールに一度転写してからアプリケーターロールに転写し、連続通板させている基板にアプリケーターロールで塗装を行う方法である。ロールコート方式は幅方向および長手方向に均一に塗装できる方式である。
なお、潤滑皮膜の皮膜量(膜厚)を制御する方法としては、塗料の濃度(水系溶媒による希釈濃度)を調整すればよい。すなわち、高濃度に調整された塗料を塗装すれば皮膜量が多く(皮膜が厚く)なり、低濃度に調整された塗料を塗装すれば皮膜量が少なく(皮膜が薄く)なる。また、ロールコート時のピックアップロールとアプリケーターロール(またはトランスファーロール)とのニップ圧を高くすると皮膜が厚くなり、ニップ圧を低くすると皮膜が薄くなる。
潤滑皮膜を形成する方法として塗装法(ロールコート式)を説明したが、特にこの方法に限定されず、例えば、間接帯電式(ベル式)静電塗布法、スプレー式(電界なし)塗布方法、浸漬方法等、従来公知の方法を採用することができる。
基板に塗装された塗料は、炉等で溶媒である水分を揮発乾燥させて塗膜(潤滑皮膜)とする。このとき、加熱温度が高いと塗料(潤滑組成物)中のエチレンオキシドが熱分解するので、基板の到達温度としては120℃程度以下とすることが好ましく、効率的に揮発乾燥させるために70℃程度以上とすることが好ましい。
(補助皮膜形成工程)
補助皮膜形成工程は、潤滑皮膜の上に補助皮膜を形成する工程である。
補助皮膜を形成する方法としては、潤滑皮膜を形成する方法と同様、塗装法等の従来公知の方法が挙げられるとともに、液体油に浸漬させる方法や、液体油を噴き付ける方法等も挙げられる。なお、補助皮膜を形成する方法は潤滑皮膜を形成する方法と異なり、補助皮膜を潤滑皮膜の上に成膜した後において、積極的に加熱し乾燥させる作業は行わない。
(その他の工程)
潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間、または前後に、他の工程を含めてもよい。
例えば、基板作製工程において、冷間圧延(スキンパス圧延等も含む)後に、予備時効処理を施す予備時効処理工程を設けてもよい。予備時効処理は、冷間圧延終了後72時間以内に40~120℃で8~36時間の低温加熱することにより行うことが好ましい。この条件で予備時効処理することにより、潤滑皮膜被覆アルミニウム板(基板)の成形性、および、潤滑皮膜を脱膜して塗装し、加熱(ベーキング)した後における強度向上を図ることができる。
また、基板作製工程の後、潤滑皮膜形成工程の前に、前記した化成処理皮膜を形成させる化成処理工程を設けてもよい。
また、基板作製工程の後、潤滑皮膜形成工程の前に、長尺の基板を枚葉状に切断する切断工程を設けてもよい。この場合、潤滑皮膜形成工程、補助皮膜形成工程で、基板の切断面(端面)にも潤滑皮膜、補助皮膜を形成してもよい。
また、基板や樹脂皮膜の表面の異物を除去する異物除去工程や、不良品を除去する不良品除去工程を設けてもよい。
次に、本発明に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して、具体的に説明する。
[供試材作製]
(基板)
基板として、JIS H 4000:2014に規定されている5182合金からなる厚さ1mmのアルミニウム合金板を準備し、幅100mm×長さ200mm(LDH試験用)、幅200mm×長さ200mm(球頭張出試験用)、幅25mm×長さ500mm(皮膜カス有無試験用)、幅25mm×長さ200mm(摩擦係数試験用)に切り出した。そして、このアルミニウム板に対して、アルカリ脱脂、水洗、次いで、酸洗浄、水洗を実施した。
そして、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板について、フルオロチタネート酸を150ppmおよびフルオロジルコネート酸を250ppm含有する処理液(50℃)に任意の時間浸漬した。その後、水洗を行った後、室温の乾燥処理を行った。
なお、供試材7については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板に対して、そのまま乾燥処理を行った。
アクリル酸系潤滑剤と水溶性エチレンオキシド系潤滑剤を1:1、3:1、1:3で混合したものをそれぞれ水に溶解させ、固形分濃度が5~15%程度の水溶液とした塗料を生成した。そして、供試材1~4については1:1の割合で混合したもの、供試材5については3:1の割合で混合したもの、供試材6については1:3で混合したものを、バーコーター#4~#8を用いて表面に塗装した後、基板の到達温度が100℃になるように炉内で乾燥させ、供試材1~6を準備した。
比較例として、潤滑皮膜を成膜しない供試材7、アクリル酸系潤滑剤のみを塗装した供試材8、および、水溶性ウレタン系潤滑剤のみを塗装した供試材9を準備した。
なお、供試材8、9については、供試材1~6と同様、各潤滑剤を塗装後に基板の到達温度が100℃になるように炉内で乾燥させた。
使用した「アクリル酸系潤滑剤」は、ミルボンド(登録商標)MC560J(日油製)であり、「水溶性エチレンオキシド系潤滑剤」は、ノニオンB250(日油製)であり、「水溶性ウレタン系潤滑剤」は、パスコール(登録商標)HA-2(明成製)あった。
なお、ミルボンドMC560Jは、ポリアクリル酸(60~90wt%)、スチレン/無水マレイン酸共重合体(6~20wt%)、ステアリン酸塩(3~23wt%)、カルバナ蝋(0~6wt%)で構成され、ノニオンB250は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(R-O-(CHCHO)-H、炭素数Rが22、nが50、平均分子量2500、融点が53℃)で構成されたものを使用した。
そして、以下の各試験の前に、各供試材の両面に対して液体油(PD4000T(JX製))を塗布して補助皮膜(0.3~1.0g/m)を設けた。
なお、PD4000Tは、石油系炭化水素を主成分(約85%含有)とする液体油であって、40℃における動粘度が2cStであった。
次に、皮膜量の測定方法、並びに、LDH試験、球頭張出試験、皮膜カス有無試験、および、摩擦係数試験の内容を示す。
[測定方法]
(皮膜量)
まず、赤外膜厚計(AMEPA社製、TYPE:OFIS2.0、VerNr:4.1)によって、供試材の潤滑皮膜の膜厚を測定した。そして、事前に求めた潤滑皮膜の重量と潤滑皮膜の膜厚との相関式に基づいて、測定して得られた潤滑皮膜の膜厚の値から、供試材の潤滑皮膜の皮膜量を算出した。
[試験方法]
(LDH試験)
厚さ1mm×幅100mm×長さ200mmの供試材を用いてLDH(Limiting Dome Height)試験を実施した。LDH試験の概要を図2Aにおいて模式的に示す。
図2Aに示すように、穴径φが104.5mm、肩Rが6mmのダイに供試材10を固定し(シワ押え力BHF:10ton)、直径φが100mmの球頭のポンチを成形速度90mm/minで下方から上方に移動させた。
そして、供試材の割れが生じる限界の成形高さを測定した。その結果、成形高さが35mm以上のものを合格と評価し、35mm未満のものを不合格と評価した。
(球頭張出試験)
厚さ1mm×幅200mm×長さ200mmの供試材を用いて球頭張出試験を実施した。球頭張出試験の概要を図2Aにおいて模式的に示す。
図2Aに示すように、穴径φが104.5mm、肩Rが6mmのダイに供試材10を固定し(シワ押え力BHF:10ton)、直径φが100mmの球頭のポンチを成形速度90mm/minで下方から上方に移動させた。
そして、供試材の割れが生じる限界の成形高さを測定した。その結果、成形高さが32mm以上のものを合格と評価し、32mm未満のものを不合格と評価した。
なお、LDH試験と球頭張出試験では、図2Aに示した同じダイとポンチを用いて実施しているが、使用する供試材の形状が異なっている。そのため、LDH試験の場合は、図2Bに示すように、ダイに固定される部分11の形状が2つの円弧状となるのに対して、球頭張出試験の場合は、図2Cに示すように、ダイに固定される部分11の形状が円周状となる点で異なっている。
(皮膜カス有無試験)
厚さ1mm×幅25mm×長さ500mmの供試材を用いて皮膜カス有無試験を実施した。皮膜カス有無試験で使用した金型を図3において模式的に示す。なお、図3は金型の断面図であり、図の手前側から奥側の方向における金型の幅は90mm、金型の凸部分と凹部分とは当該幅方向に延在する構造であった。そして、この金型の材質はFCD(JIS G5502:2001)でありCrメッキは施されていない。
供試材を、図3の2つの金型で挟み、挟み荷重を4000Nとした状態で、図の上側から下側の方向に引抜速度500mm/minで50mm(摺動面積25mm×50mm)引き抜いた。
そして、皮膜カスが発生するか否かを目視で確認した。
(摩擦係数試験)
厚さ1mm×幅25mm×長さ200mmの供試材で摩擦係数試験を実施した。摩擦係数試験の概要を図4において模式的に示す。
供試材を、長さ32mm程度の平坦部を有する一対の金型で両面側から挟み込み、両側から800、4000、8000、16000Nに加圧した状態で(接触面積:25mm×32mm)、供試材を長さ方向に金型から引き抜くように速度500mm/分で50mm移動させた。そして、この試験において、面圧が1、5、10、20MPaでの摩擦係数を算出した。
なお、摩擦係数試験で使用した供試材は、端面のバリやタレが結果に影響を与えないよう、端面にミーリング加工を施した。
以下、表1には、各供試材の構成、及び、試験結果を示す。
なお、表1中の試験結果における「-」は、試験を実施していない旨を示している。また、表1中の「固形分比率(アクリル酸系高分子/水溶性エチレンオキシド)」は、前記のとおり、使用したアクリル酸系潤滑剤中のアクリル酸系高分子(ポリアクリル酸)の含有量が範囲で特定されていることから、当該比率も範囲で示している。
一方、表1中の「固形分比率(平均値)」は、「固形分比率(アクリル酸系高分子/水溶性エチレンオキシド)」の最小値と最大値との平均を算出した値である。
Figure 0007264783000001
[結果の検討]
供試材1~6は、本発明の規定する要件を全て満たしていたことから、LDH試験、球頭張出試験が合格という結果となり、かつ、いずれの面圧でも摩擦係数の値が供試材7の値よりも小さくなった。これらの結果から、供試材1~6については、優れた潤滑性を発揮できることが確認できた。
また、供試材2は、本発明の規定する要件を全て満たしていたことから、皮膜カス有無試験において皮膜カスが発生しなかった。
なお、供試材1、3~6については、皮膜カス有無試験を実施しなかったが、供試材2と同様、潤滑皮膜にアクリル酸系高分子を含有させていたことから、皮膜カス有無試験において皮膜カスは発生しないであろうと推察される。
そして、供試材1~4のLDH試験の結果から、潤滑皮膜の皮膜量が大きくなるにしたがって成形高さも高くなることが確認できるとともに、潤滑皮膜の皮膜量が所定値を超えると成形高さの上昇が止まる(潤滑性に関する効果が飽和する)ことも確認できた。
一方、供試材7は、潤滑皮膜を設けなかったため、LDH試験と球頭張出試験が不合格という結果となり、かつ、摩擦係数試験の結果は、いずれの面圧でも摩擦係数の値が大きくなった。つまり、供試材7は、潤滑性に劣ることが確認できた。
供試材8は、潤滑皮膜に水溶性エチレンオキシドを含有させていなかったため、LDH試験と球頭張出試験が不合格という結果となり、潤滑性に劣ることが確認できた。
供試材9は、潤滑皮膜にアクリル酸系高分子を含有させていなかったため、皮膜カス有無試験において皮膜カスが発生してしまった。
本発明に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板について実施の形態及および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されることなく、その権利範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されなければならない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて改変、変更することができることは言うまでもない。
1 基板
2 潤滑皮膜
3 補助皮膜
10 潤滑皮膜被覆アルミニウム板(アルミニウム板)

Claims (3)

  1. アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、前記基板上に形成された潤滑皮膜と、を備え、
    前記潤滑皮膜は、アクリル酸系高分子と、R-O-(CH CH O) -H」(式中、Rは炭素数20~24のアルキル基を示し、nが40~450の繰り返し単位数である)である水溶性エチレンオキシドと、を含有し、
    前記水溶性エチレンオキシドに対する前記アクリル酸系高分子の固形分比率が、2.5以上25.0以下であり、
    前記潤滑皮膜の皮膜量が0.20g/m 以上1.20g/m 以下である潤滑皮膜被覆アルミニウム板。
  2. 前記潤滑皮膜の表面に液体油で構成される補助皮膜をさらに備える請求項1に記載の潤滑皮膜被覆アルミニウム板。
  3. 自動車パネル用である請求項1又は請求項2に記載の潤滑皮膜被覆アルミニウム板。
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