JP7264783B2 - 潤滑皮膜被覆アルミニウム板 - Google Patents
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Description
ここで、プレス加工の対象がアルミニウム板である場合、潤滑剤を塗布した状態でプレス加工を施すと、加工時の熱や圧力によって化学反応が進行し、潤滑剤中の脂肪酸のカルボキシル基や脂肪油のエステル基と、アルミニウム板や金型に由来する金属イオンとが結合した金属石鹸が生成される。その結果、アルミニウム板は、金属石鹸の生成に伴って変色や腐食が発生するだけでなく、変色や腐食が発生した箇所を起点として破損が生じ易くなってしまう。
本発明者らは、潤滑皮膜被覆アルミニウム板のその他の改善すべき点について検討した結果、潤滑皮膜被覆アルミニウム板を加工する際に皮膜が剥離しカス(例えば、黒色の異物)となるという事象の発生を確認し、このような事象について、これまで十分に検討されていなかったことがわかった。
つまり、潤滑皮膜被覆アルミニウム板に関し、皮膜カスの発生の抑制という観点について改善の余地が存在していた。
ただ、潤滑皮膜被覆アルミニウム板については皮膜カスの発生を抑制するだけではなく、潤滑皮膜被覆アルミニウム板に対して要求されるレベルの高い潤滑性を確保しておく必要がある。
本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、図1に示すように、基板1と、基板1上に形成された潤滑皮膜2と、を備える。そして、潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、潤滑皮膜2の表面にさらに液体油で構成される補助皮膜3を備えていてもよい。
以下、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の基板、潤滑皮膜、補助皮膜について詳細に説明する。
基板は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなる。そして、基板は、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の用途に応じて、例えば、JIS H 4000:2014等に規定される種々の非熱処理型アルミニウム合金又は熱処理型アルミニウム合金から適宜選択される。非熱処理型アルミニウム合金は、純アルミニウム(1000系)、Al-Mn系合金(3000系)、Al-Si系合金(4000系)、及び、Al-Mg系合金(5000系)である。熱処理型アルミニウム合金としては、Al-Cu-Mg系合金(2000系)、Al-Mg-Si系合金(6000系)、及び、Al-Zn-Mg系合金(7000系)である。
なお、基板の板厚は、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の用途に応じて、適宜設定することができる。
5000系のアルミニウム合金の組成の一例として、Mg:2.5~5.5質量%を含有し、さらに適宜、Mn:0.60質量%以下、Cr:0.35質量%以下、Zr:0.50質量%以下、Cu:0.50質量%以下、Zn:0.50質量%以下、Fe:0.70質量%以下、Si:0.40質量%以下、Ti:0.30質量%以下から選択される1種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
各元素の含有量の限定理由は以下のとおりである。
Mgは、母相内に固溶することにより加工硬化能を高め、アルミニウム合金素材板としての必要な強度や耐久性を確保する必須元素である。Mgの含有量が2.5質量%以上であれば、この作用効果を十分に発揮することができる。一方、Mgの含有量が5.5質量%以下であれば、耐粒界腐食性(耐食性)の低下を抑制することができる。
Mnは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Mnの含有量が0.60質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
Crは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Crの含有量が0.35質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
Zrは、成形加工性向上に寄与する元素である。そして、Zrの含有量が0.50質量%以下であれば、この元素を含む粗大な晶出物や析出物が少なくなり、成形性が低下するのを抑制することができる。
Cuは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高める効果を有する元素である。そして、Cuの含有量が0.50質量%以下であれば、製造面でもスラブに割れが生じるなどのスラブ鋳造性の低下は起こらず、圧延などに供する健全なスラブが採取できなくなるのを抑制することができる。
Znは、固溶強化によりアルミニウム合金板の強度を高めるとともに、プレス加工性を向上させる効果を有する元素である。そして、Znの含有量が0.50質量%以下であれば、板製造後の時間経過とともに強度が上昇する時効硬化現象が顕著に生じてプレス加工性が低下するのを抑制することができる。
Fe、Si、Tiは、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。これらの元素を含有する場合、Feは、0.70質量%以下、Siは、0.40質量%以下、Tiは、0.30質量%以下であることが好ましい。
基板の残部はAl及び不可避的不純物である。そして、不可避的不純物としては、V、Ni、Sn、In、Ga、B、Sc等が挙げられ、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。この場合の元素の含有量は個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
そして、前記したMn、Cr、Zr、Cu、Zn、Fe、Si、Tiも不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の元素の含有量は例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
6000系のアルミニウム合金の組成の一例として、Mg:0.2~1.5質量%、Si:0.3~2.3質量%、Cu:1.0質量%以下を含有し、さらに適宜、Ti:0.1質量%以下、B:0.06質量%以下、Be:0.2質量%以下、Mn:0.8質量%以下、Cr:0.4質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Zr:0.2質量%以下、V:0.2質量%以下、Zn:0.5質量%未満から選択される1種以上を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金が挙げられる。
各元素の含有量の限定理由は以下のとおりである。
Mgは、強度を向上させる効果がある。Mgの含有量が0.2質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Mgの含有量が1.5質量%を超えると、成形性を低下させる場合がある。
Siは、強度を向上させる効果がある。Siの含有量が0.3質量%未満では、強度向上の効果が小さい。一方、Siの含有量が2.3質量%を超えると、成形性、熱間圧延性を低下させる場合がある。
Cuは、強度を向上させる効果がある。しかし、Cuの含有量が1.0質量%を超えると、耐食性を低下させる場合がある。なお、Cuの含有量は0質量%を超えているのが好ましい。
Tiは、鋳塊の結晶粒を微細にし、成形性を向上させる効果がある。しかし、Tiの含有量が0.1質量%を超えると、粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
Bは、鋳塊の結晶粒や晶出物を微細にし、成形性を向上させる効果がある。しかし、Bの含有量が0.06質量%を超えると、粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
Beは、アルミニウム合金の熱間圧延性および成形性を向上させる効果がある。しかし、Beの含有量が0.2質量%を超えると、前記効果が飽和する。
Mn、Cr、Fe、Zr、Vは、それぞれ強度を向上させる効果がある。しかし、これらの元素の含有量が所定値を超えると、具体的には、Mnは0.8質量%、Crは0.4質量%、Feは0.5質量%、Zrは0.2質量%、Vは0.2質量%をそれぞれ超えると、いずれも粗大な晶出物が形成されるため、成形性を低下させる場合がある。
Znは、本発明の効果を妨げない範囲で含有されていてもよい。Znの含有量は、0.5質量%未満であることが好ましい。
基板の残部はAl及び不可避的不純物である。
前記したCu、Ti、B、Be、Mn、Cr、Fe、Zr、Znが不可避的不純物として含有されていてもよく、この場合の元素の含有量は例えば、個々に0.1質量%以下、合計で0.3質量%以下である。
なお、基板の作製に際して、スクラップ材や低純度のアルミニウム地金などを大量に使用した場合には、これらの元素が必然的に混入してしまうため、前記のように本発明の効果を妨げない範囲での含有を許容している。
潤滑皮膜は、潤滑組成物を基板の表面に成膜(塗装等)した後、乾燥させることにより形成される皮膜である。
そして、潤滑皮膜は、主成分として、アクリル酸系高分子と水溶性エチレンオキシドとを含有する。
アクリル酸系高分子は、極性基を含有することによって基板との密着性を高める作用を有し、潤滑皮膜被覆アルミニウム板を加工する際における皮膜カスの発生を抑制する。
そして、アクリル酸系高分子としては、アクリル酸が重合したポリアクリル酸、アクリル酸のアルカリ金属塩、アルカリ酸アンモニア塩、(ポリ)メタアクリル酸、アクリル酸エステル共重合、スチレン・ポリアクリル酸共重合物、N-メチロールアクリルアミドのアクリルアミド誘導体の重合物等が挙げられる。
水溶性エチレンオキシドは、潤滑皮膜の潤滑性を向上させる作用を有する。
そして、水溶性エチレンオキシドとしては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンベヘニルエーテル等が挙げられる。なお、ポリオキシエチレンアルキルエーテルは、「R-O-(CH2CH2O)n-H」(式中、Rは炭素数20~24のアルキル基を示し、nは繰り返し単位数である)で示される脂肪族系グリコールエーテル化合物である。
したがって、式中のエチレンオキシド(CH2CH2O)の繰り返し単位数nは、40以上であることが好ましい。
よって、耐ブロッキング性を向上させる観点から、式中の繰り返し単位数nは60以上が好ましく、70以上がより好ましく、90以上がさらに好ましく、100以上が特に好ましい。
なお、融点は、JIS K 2235:2009に準拠して測定することができる。
したがって、式中のRのアルキル基の炭素数は20~24である。
ポリオキシエチレンアルキルエーテルが2種類以上である場合、其々のnの値が、前記したnの値の所定範囲内となるのが好ましいが、nの平均値が前記したnの値の所定範囲内となっていればよい。また、ポリオキシエチレンアルキルエーテルが2種類以上である場合、其々のRのアルキル基の炭素数の値が、前記した炭素数の所定範囲内となるのが好ましいが、炭素数の平均値が前記した炭素数の所定範囲内となっていればよい。
なお、nの平均値や炭素数の平均値は、例えば、クロマトグラフ等の分析によって同定したのち算出すればよい。
水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率(=アクリル酸系高分子の固形分含有量/水溶性エチレンオキシドの固形分含有量)が0.1よりも大きい場合、アクリル酸系高分子の含有量が多くなるため、この潤滑皮膜が形成された潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、加工時において皮膜が剥離し難く、かつ、加工後は水性の脱脂液などの使用によって容易に脱膜させることができる。また、この固形分比率が0.1未満の場合には、潤滑皮膜の融点が低下して塗装乾燥後の熱処理において溶融するおそれもある。
一方、この固形分比率が25.0を超えると潤滑性が低下する。
よって、水溶性エチレンオキシドに対するアクリル酸系高分子の固形分比率は、0.1以上25.0以下とする。
潤滑皮膜中におけるアクリル酸系高分子と水溶性エチレンオキシドの固形分含有量は、前記した固形分比率を満たせば特に限定されないものの、例えば、アクリル酸系高分子の固形分含有量は、10~30質量%(好ましくは15~23質量%)であり、水溶性エチレンオキシドの固形分含有量は、2~10質量%(好ましくは3~7質量%)である。
潤滑皮膜を構成する潤滑組成物は、例えば、特公S51-003702の例3に記載されているように、アクリル酸系高分子や水溶性エチレンオキシド以外にも各種化合物、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ステアリン酸Ca、ステアリン酸Zn、カルナバ蝋等を適宜含有していてもよい。
また、潤滑皮膜を構成する潤滑組成物は、アクリル酸系高分子および水溶性エチレンオキシドが奏する効果を妨げない範囲で、例えば、酸化防止剤、導電性添加剤、界面活性剤、増粘剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、乾燥剤、安定剤、皮張り防止剤、かび防止剤、防腐剤、凍結防止剤等を適宜含有していてもよい。
なお、潤滑組成物の溶媒は、水、アルコール類、ケトン類等を用いればよい。
潤滑皮膜の皮膜量が0.20g/m2以上であると、十分な潤滑性を確保することができる。一方、潤滑皮膜の皮膜量が1.20g/m2を超えると、潤滑性の向上の効果が飽和するとともに、下地層の種類によらず接着特性を劣化させるおそれ、および、塗装ムラが発生し易くなるおそれもあり、さらに、皮膜カスが発生する可能性も上昇する。
したがって、潤滑皮膜の皮膜量は、0.20~1.20g/m2が好ましい。そして、潤滑皮膜の皮膜量は、潤滑性の向上の観点から、0.30g/m2以上が好ましく、0.40g/m2以上がより好ましい。また、潤滑皮膜の皮膜量は、塗装ムラの発生や皮膜カスの発生を抑制する観点から、1.00g/m2以下が好ましく、0.80g/m2以下がより好ましい。
補助皮膜は、液体油を潤滑皮膜の表面に成膜(塗装等)して形成される層であるが、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板において必須の皮膜ではない。
補助皮膜は、石油系炭化水素を主成分とする液体油で構成される。なお、「石油系炭化水素を主成分とする」とは、詳細には、液体油における石油系炭化水素の含有量が50質量%以上のことであり、60質量%以上が好ましく、70質量%以上、80質量%以上がより好ましい。
石油系炭化水素は特に限定されないが、例えば、炭素数8~18の鎖式飽和炭化水素等が挙げられる。また、液体油中の石油系炭化水素以外の物質としては、例えば、脂肪酸エステル、防錆剤、極圧剤、界面活性剤等が挙げられる。
補助皮膜の皮膜量が0.3g/m2以上であると、十分な耐変色性(錆等に基づく基板の変色に対する耐性)を確保することができる。一方、補助皮膜の皮膜量が1.0g/m2を超えると、耐変色性の向上の効果が飽和するとともに、塗装ムラが発生し易くなるおそれもある。
したがって、補助皮膜の皮膜量は、0.3~1.0g/m2が好ましい。そして、補助皮膜の皮膜量は、耐変色性の向上の観点から、0.4g/m2以上が好ましく、塗装ムラの発生を抑制する観点から、0.8g/m2以下が好ましく、0.6g/m2以下がより好ましい。
補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度が1cSt未満であると、塗装時の皮膜量の均一性が確保できなくなるおそれがある。一方、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度が7cStを超えると、常温での静電塗布方式等での塗装がし難くなってしまう。
したがって、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度は、1~7cStであるのが好ましい。そして、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度は、皮膜量の均一性の観点から、2cSt以上がより好ましく、塗装の容易性の観点から、6cSt以下がより好ましい。
このような液体油としては、JX製のPD4000T(動粘度2cSt)、スギムラ化学工業製のプレトンR303P(動粘度4cSt)等が挙げられる。
潤滑皮膜、補助皮膜の皮膜量の測定方法は特に限定されないものの、例えば、赤外膜厚計によって、潤滑皮膜、補助皮膜の膜厚を測定し、事前に求めた各皮膜の重量と各皮膜の膜厚との相関式に基づいて、測定して得られた膜厚の値から、各皮膜の皮膜量を算出すればよい。
また、補助皮膜を構成する液体油の40℃における動粘度の測定方法は特に限定されないものの、例えば、JIS K 2283:2000に記載の方法等が挙げられる。
図1に示す潤滑皮膜被覆アルミニウム板10は、基板1と潤滑皮膜2との間に、化成処理皮膜(図示省略)を備える構成であってもよい。
基板1の表面に化成処理皮膜を形成させることにより、潤滑皮膜2の密着性を向上させることができ、また、化成処理皮膜が環境中の水分の基板1への接触を防止することにより、耐変色性(耐食性)をより向上させることができる。
化成処理皮膜の皮膜量、膜厚は特に限定されないが、皮膜量は金属(Cr、Zr、Ti)換算で1~100mg/m2であることが好ましく、5~80mg/m2であることがより好ましく、膜厚は1~100nmであることが好ましい。化成処理皮膜の膜厚が100nmを超えると、潤滑皮膜被覆アルミニウム板の加工性が低下する場合がある。
本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板は、軽量であるとともに、潤滑性(成形性)に優れ、さらに、加工時における皮膜カスの発生が抑制できることから、軽量化が求められるとともに複雑な加工が施される自動車の構成部材、特に自動車用パネルとして好適に用いることができる。
次に、本実施形態に係る潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法について説明する。
潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法は、基板作製工程と、潤滑皮膜形成工程と、を含み、さらに、補助皮膜形成工程を含んでもよい。
以下、各工程について詳細に説明する。
基板作製工程は、圧延によって基板を作製する工程である。具体的には、以下の様な手順で基板を作製することができる。
潤滑皮膜形成工程は、基板の上に潤滑皮膜を形成する工程である。
潤滑皮膜を形成する方法としては、塗装法が挙げられる。工業的には、ロールコート等によって潤滑組成物を水溶液の状態で基板に塗装し、その後、乾燥させることにより、潤滑皮膜が形成される。
なお、潤滑皮膜の皮膜量(膜厚)を制御する方法としては、塗料の濃度(水系溶媒による希釈濃度)を調整すればよい。すなわち、高濃度に調整された塗料を塗装すれば皮膜量が多く(皮膜が厚く)なり、低濃度に調整された塗料を塗装すれば皮膜量が少なく(皮膜が薄く)なる。また、ロールコート時のピックアップロールとアプリケーターロール(またはトランスファーロール)とのニップ圧を高くすると皮膜が厚くなり、ニップ圧を低くすると皮膜が薄くなる。
潤滑皮膜を形成する方法として塗装法(ロールコート式)を説明したが、特にこの方法に限定されず、例えば、間接帯電式(ベル式)静電塗布法、スプレー式(電界なし)塗布方法、浸漬方法等、従来公知の方法を採用することができる。
補助皮膜形成工程は、潤滑皮膜の上に補助皮膜を形成する工程である。
補助皮膜を形成する方法としては、潤滑皮膜を形成する方法と同様、塗装法等の従来公知の方法が挙げられるとともに、液体油に浸漬させる方法や、液体油を噴き付ける方法等も挙げられる。なお、補助皮膜を形成する方法は潤滑皮膜を形成する方法と異なり、補助皮膜を潤滑皮膜の上に成膜した後において、積極的に加熱し乾燥させる作業は行わない。
潤滑皮膜被覆アルミニウム板の製造方法は、以上説明したとおりであるが、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間、または前後に、他の工程を含めてもよい。
また、基板作製工程の後、潤滑皮膜形成工程の前に、長尺の基板を枚葉状に切断する切断工程を設けてもよい。この場合、潤滑皮膜形成工程、補助皮膜形成工程で、基板の切断面(端面)にも潤滑皮膜、補助皮膜を形成してもよい。
また、基板や樹脂皮膜の表面の異物を除去する異物除去工程や、不良品を除去する不良品除去工程を設けてもよい。
(基板)
基板として、JIS H 4000:2014に規定されている5182合金からなる厚さ1mmのアルミニウム合金板を準備し、幅100mm×長さ200mm(LDH試験用)、幅200mm×長さ200mm(球頭張出試験用)、幅25mm×長さ500mm(皮膜カス有無試験用)、幅25mm×長さ200mm(摩擦係数試験用)に切り出した。そして、このアルミニウム板に対して、アルカリ脱脂、水洗、次いで、酸洗浄、水洗を実施した。
なお、供試材7については、酸洗浄後に水洗したアルミニウム板に対して、そのまま乾燥処理を行った。
なお、供試材8、9については、供試材1~6と同様、各潤滑剤を塗装後に基板の到達温度が100℃になるように炉内で乾燥させた。
なお、ミルボンドMC560Jは、ポリアクリル酸(60~90wt%)、スチレン/無水マレイン酸共重合体(6~20wt%)、ステアリン酸塩(3~23wt%)、カルバナ蝋(0~6wt%)で構成され、ノニオンB250は、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(R-O-(CH2CH2O)n-H、炭素数Rが22、nが50、平均分子量2500、融点が53℃)で構成されたものを使用した。
なお、PD4000Tは、石油系炭化水素を主成分(約85%含有)とする液体油であって、40℃における動粘度が2cStであった。
(皮膜量)
まず、赤外膜厚計(AMEPA社製、TYPE:OFIS2.0、VerNr:4.1)によって、供試材の潤滑皮膜の膜厚を測定した。そして、事前に求めた潤滑皮膜の重量と潤滑皮膜の膜厚との相関式に基づいて、測定して得られた潤滑皮膜の膜厚の値から、供試材の潤滑皮膜の皮膜量を算出した。
(LDH試験)
厚さ1mm×幅100mm×長さ200mmの供試材を用いてLDH(Limiting Dome Height)試験を実施した。LDH試験の概要を図2Aにおいて模式的に示す。
図2Aに示すように、穴径φが104.5mm、肩Rが6mmのダイに供試材10を固定し(シワ押え力BHF:10ton)、直径φが100mmの球頭のポンチを成形速度90mm/minで下方から上方に移動させた。
そして、供試材の割れが生じる限界の成形高さを測定した。その結果、成形高さが35mm以上のものを合格と評価し、35mm未満のものを不合格と評価した。
厚さ1mm×幅200mm×長さ200mmの供試材を用いて球頭張出試験を実施した。球頭張出試験の概要を図2Aにおいて模式的に示す。
図2Aに示すように、穴径φが104.5mm、肩Rが6mmのダイに供試材10を固定し(シワ押え力BHF:10ton)、直径φが100mmの球頭のポンチを成形速度90mm/minで下方から上方に移動させた。
そして、供試材の割れが生じる限界の成形高さを測定した。その結果、成形高さが32mm以上のものを合格と評価し、32mm未満のものを不合格と評価した。
厚さ1mm×幅25mm×長さ500mmの供試材を用いて皮膜カス有無試験を実施した。皮膜カス有無試験で使用した金型を図3において模式的に示す。なお、図3は金型の断面図であり、図の手前側から奥側の方向における金型の幅は90mm、金型の凸部分と凹部分とは当該幅方向に延在する構造であった。そして、この金型の材質はFCD(JIS G5502:2001)でありCrメッキは施されていない。
そして、皮膜カスが発生するか否かを目視で確認した。
厚さ1mm×幅25mm×長さ200mmの供試材で摩擦係数試験を実施した。摩擦係数試験の概要を図4において模式的に示す。
供試材を、長さ32mm程度の平坦部を有する一対の金型で両面側から挟み込み、両側から800、4000、8000、16000Nに加圧した状態で(接触面積:25mm×32mm)、供試材を長さ方向に金型から引き抜くように速度500mm/分で50mm移動させた。そして、この試験において、面圧が1、5、10、20MPaでの摩擦係数を算出した。
なお、摩擦係数試験で使用した供試材は、端面のバリやタレが結果に影響を与えないよう、端面にミーリング加工を施した。
なお、表1中の試験結果における「-」は、試験を実施していない旨を示している。また、表1中の「固形分比率(アクリル酸系高分子/水溶性エチレンオキシド)」は、前記のとおり、使用したアクリル酸系潤滑剤中のアクリル酸系高分子(ポリアクリル酸)の含有量が範囲で特定されていることから、当該比率も範囲で示している。
一方、表1中の「固形分比率(平均値)」は、「固形分比率(アクリル酸系高分子/水溶性エチレンオキシド)」の最小値と最大値との平均を算出した値である。
供試材1~6は、本発明の規定する要件を全て満たしていたことから、LDH試験、球頭張出試験が合格という結果となり、かつ、いずれの面圧でも摩擦係数の値が供試材7の値よりも小さくなった。これらの結果から、供試材1~6については、優れた潤滑性を発揮できることが確認できた。
また、供試材2は、本発明の規定する要件を全て満たしていたことから、皮膜カス有無試験において皮膜カスが発生しなかった。
なお、供試材1、3~6については、皮膜カス有無試験を実施しなかったが、供試材2と同様、潤滑皮膜にアクリル酸系高分子を含有させていたことから、皮膜カス有無試験において皮膜カスは発生しないであろうと推察される。
供試材8は、潤滑皮膜に水溶性エチレンオキシドを含有させていなかったため、LDH試験と球頭張出試験が不合格という結果となり、潤滑性に劣ることが確認できた。
供試材9は、潤滑皮膜にアクリル酸系高分子を含有させていなかったため、皮膜カス有無試験において皮膜カスが発生してしまった。
2 潤滑皮膜
3 補助皮膜
10 潤滑皮膜被覆アルミニウム板(アルミニウム板)
Claims (3)
- アルミニウム又はアルミニウム合金からなる基板と、前記基板上に形成された潤滑皮膜と、を備え、
前記潤滑皮膜は、アクリル酸系高分子と、R-O-(CH 2 CH 2 O) n -H」(式中、Rは炭素数20~24のアルキル基を示し、nが40~450の繰り返し単位数である)である水溶性エチレンオキシドと、を含有し、
前記水溶性エチレンオキシドに対する前記アクリル酸系高分子の固形分比率が、2.5以上25.0以下であり、
前記潤滑皮膜の皮膜量が0.20g/m 2 以上1.20g/m 2 以下である潤滑皮膜被覆アルミニウム板。 - 前記潤滑皮膜の表面に液体油で構成される補助皮膜をさらに備える請求項1に記載の潤滑皮膜被覆アルミニウム板。
- 自動車パネル用である請求項1又は請求項2に記載の潤滑皮膜被覆アルミニウム板。
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JP2019170475A JP7264783B2 (ja) | 2019-09-19 | 2019-09-19 | 潤滑皮膜被覆アルミニウム板 |
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