JP7264062B2 - 電気化学素子用導電材ペースト、電気化学素子正極用スラリー組成物及びその製造方法、電気化学素子用正極、並びに電気化学素子 - Google Patents
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Description
そこで、電気化学素子の更なる性能向上を達成すべく、従来から、電極用スラリー組成物を改良する試みがなされている。具体的には、電極用スラリー組成物に配合するためのバインダーに対して、ベンズイミダゾール系老化防止剤を配合することが提案されてきた(例えば、特許文献1参照)。
このように、上記従来の技術には、電極用スラリー組成物の固形分濃度を高めるとともに、得られる電気化学素子の電気的特性を一層向上させるという点で未だ改善の余地があった。
また、本発明は、固形分濃度が高く、得られる電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる、電気化学素子正極用スラリー組成物、及びかかるスラリー組成物の製造方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる電気化学素子用正極を提供することを目的とする。
さらにまた、本発明は、低温出力特性及びサイクル特性に優れる電気化学素子を提供することを目的とする。
なお、本明細書において「導電材の比表面積」とは、窒素吸着法によるBET比表面積のことであり、例えば、Belsorp-mini(マイクロトラック・ベル社製、ASTM D3037-81に準拠)を用いて測定することができる。
また、本発明によれば、固形分濃度が高く、得られる電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる、電気化学素子正極用スラリー組成物、及びかかるスラリー組成物の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる電気化学素子用正極を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、低温出力特性及びサイクル特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
ここで、本発明の電気化学素子用導電材ペーストは、電気化学素子正極用スラリー組成物を製造する際の材料として用いられる。そして、本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物は、本発明の電気化学素子用導電材ペーストを用いて形成される。加えて、本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物は、本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物の製造方法を通じて好適に製造することができる。また、本発明の電気化学素子用正極は、本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物を用いて好適に製造することができる。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用正極を備えて成ることを特徴とする。
本発明の導電材ペーストは、導電材、イミダゾール化合物、バインダー、及び有機溶媒を含むものである。そして、本発明の導電材ペーストに含まれるイミダゾール化合物は、下式(I)で表されるイミダゾール化合物(以下、「イミダゾール化合物(I)」とも称する)であることを特徴とする。
反対に、X1及びX2については、これらが相互に結合して環構造を形成していても良い。しかしながら、X1及びX2についても、相互に独立している、即ち、X1及びX2が相互に結合して環構造を形成していないことが好ましい。
上記X1~X4が、上記列挙した特定の基のうちの何れかを含んでいれば、固形分濃度を一層高めることができ、これにより、得られる電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を一層高めることができる。
導電材は、正極活物質同士の電気的接触を確保し、正極合材層内に導電パスを良好に形成するためのものである。そして、導電材としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層のカーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどの炭素材料;各種金属のファイバーまたは箔などを用いることができる。これらは一種単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、電気化学素子の低温出力特性を一層向上させる観点から、導電材としては炭素材料が好ましく、カーボンナノチューブ及びケッチェンブラック(登録商標)がより好ましい。
バインダーは、本発明の導電材ペーストを含む正極用スラリーにより集電体上に正極合材層を形成して製造した電極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持しうる成分である。一般的に、正極合材層におけるバインダーは、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも正極活物質同士、正極活物質と導電材、或いは、導電材同士を結着させ、正極活物質等が集電体から脱落するのを防ぐ。
導電材ペーストに配合する有機溶媒としては、特に限定されることなく、上述したバインダーを溶解可能な極性を有する有機溶媒を用いることができる。
具体的には、有機溶媒としては、アセトニトリル、N-メチルピロリドン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミンなどを用いることができる。これらの中でも、取扱い易さ、安全性、合成の容易さなどの観点から、有機溶媒としてはN-メチルピロリドン(NMP)が最も好ましい。なお、これらの有機溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
導電材ペーストには、上記成分の他に、例えば、粘度調整剤、補強材、酸化防止剤、及び電解液の分解を抑制する機能を有する電解液添加剤などの成分を混合してもよい。これらの他の成分は、公知のものを使用することができる。
上述の導電材、イミダゾール化合物(I)、バインダー、有機溶媒および任意のその他の成分を混合して導電材ペーストを調製する方法は特に限定されない。導電材ペーストの調製に際し、これらの成分を一括混合してもよく、また、逐次混合してもよいが、各種材料の混合物を撹拌等により粗分散して粗分散液を調製してから、かかる粗分散液を、ディスパー、ミル、ニーダーなどの一般的な混合装置を用いて撹拌混合することが好ましい。なお、複数種の混合装置を順次用いることで段階的に撹拌混合処理を実施してもよい。例えば、粗分散液をディスパーにより撹拌して分散液を得た後に、かかる分散液を、ビーズミルを用いて混合しても良い。
導電材ペーストは、温度25℃、せん断速度0.1S-1で測定した粘度が30000mPa・s以上であることが好ましく、40000mPa・s以上であることがより好ましく、100000mPa・s以下であることが好ましく、80000mPa・s以下であることがより好ましい。導電材ペーストの粘度が上記範囲内であれば、導電材ペーストの取り扱い性が良好となる。
なお、導電材ペーストの粘度は、実施例に記載した方法により測定することができる。
ここで、導電材ペーストの粘度は、混合時に添加する溶剤の量、導電材ペーストの固形分濃度、及びバインダーの種類によって調整可能である。
導電材ペーストは、固形分濃度が5.5質量%以上であることが好ましく、6.5質量%以上であることがより好ましく、7.5質量%以上であることがさらに好ましい。なお、導電材ペーストの固形分濃度は、通常、50.0質量%以下である。
導電材ペーストの固形分濃度を上記下限値以上とすることで、高濃度のスラリー組成物を調製することが可能となり、結果的に、正極合材層中において導電材を高密度に分散させることができる。また、導電材ペーストの固形分濃度を上記上限値以下とすることで、正極合材層中において導電材を均一に分散させることができる。
本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物は、上述した電気化学素子用導電材ペーストおよび正極活物質を含む。
このように、上述した導電材ペーストを含む電気化学素子正極用スラリー組成物は、固形分濃度が高く、且つ、当該スラリー組成物を用いることで、電気化学素子に優れた低温出力特性及びサイクル特性を発揮させ得る正極を製造することができる。
ここで、正極活物質は、電気化学素子の正極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば電気化学素子がリチウムイオン二次電池の場合には、正極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として電気化学素子正極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
電気化学素子正極用スラリー組成物は、上記成分の他に、「電気化学素子用導電材ペースト」の項でその他の成分として挙げたものを含んでいてもよい。
また、電気化学素子正極用スラリー組成物は、上記成分の他に、当該スラリーの調製時に任意に追加された溶剤を含んでいてもよい。なお、追加する溶剤としては、導電材ペーストの調製に使用し得る溶剤と同様のものを使用することができる。
本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物の製造方法(以下、単に「スラリー組成物の製造方法」とも称する)は、導電材、式(I)で表されるイミダゾール化合物、及び有機溶媒を混合して、導電材ペーストを得る導電材ペースト調製工程と、得られた導電材ペーストに対して、正極活物質を添加し混合してスラリー組成物を得るスラリー組成物調製工程とを含む。かかる製造方法によれば、本発明のスラリー組成物を良好に製造することができる。
正極活物質を、導電材やバインダーと同時に一括混合するのではなく、導電材ペーストを調製した後で、電気化学素子正極用スラリー組成物の調製の際に導電材ペーストに添加して混合することで、電気化学素子正極用スラリー組成物中における固形分の分散性を一層向上させることができる。また、導電材の分散状態が一括混合で調製した際よりも均一化され、製造バッチ間の粘度や濃度の違いを小さく抑えることができる。そのため、工業的に同程度の粘度・固形分の正極用スラリー組成物を作製し易くなる。
また、集電体上への塗工性を確保する観点から、電気化学素子正極用スラリー組成物の60rpmでの粘度は、1500mPa・s以上10000mPa・s以下であることが好ましい。また、固形分濃度は、65質量%以上であることが好ましく、69質量%以上であることがより好ましく、73質量%以上であることがさらに好ましい。なお、通常、スラリー組成物の固形分濃度は、90質量%以下である。スラリー組成物の固形分濃度が上記下限値以上であれば、正極合材層を形成する際の乾燥時の固形分濃度を高めることができるため、得られる正極合材層中において導電材を高密度且つ均一に分散させることができる。また、スラリー組成物の固形分濃度が上記上限値以下であれば、集電体上への塗工性に優れる。
なお、「電気化学素子正極用スラリー組成物の60rpmでの粘度」は、JIS Z8803:1991に従って測定することができる。
また、導電材ペーストの量(固形分相当量)と正極活物質の量との比率は、適宜に調整し得る。例えば、正極活物質100質量部に対して、導電材が、好ましくは0.50質量部以上、より好ましくは0.65質量部以上、さらに好ましくは0.80質量部以上、好ましくは2.00質量部以下、より好ましくは1.50質量部以下、より好ましくは1.20質量部以下配合されるような比率で、導電材ペーストと正極活物質との混合比率を調節することができる。
本発明の電気化学素子用正極は、本発明のスラリー組成物を用いて形成された正極合材層を含んでなる。従って、正極合材層には、少なくとも、正極活物質と、導電材と、イミダゾール化合物(I)と、バインダーと、任意のその他の成分とが含有されている。
なお、正極合材層中に含まれている各成分は、上記電気化学素子正極用スラリー組成物中に含まれていたものであり、それら各成分の好適な存在比は、スラリー組成物中の各成分の好適な存在比と同じである。
そして、本発明の電気化学素子用正極では、上記電気化学素子正極用スラリー組成物を使用して正極合材層を形成しているので、導電材が高密度且つ良好に分散された正極合材層を集電体上に設けることができる。従って、本発明の電気化学素子用正極は、かかる正極を備える電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を向上させることができる。
ここで、本発明の電気化学素子用正極の正極合材層は、例えば、上述したスラリー組成物を集電体上に塗布する工程(塗布工程)と、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して集電体上に正極合材層を形成する工程(乾燥工程)とを経て集電体上に形成することができる。
そして、上記スラリー組成物を集電体上に塗布する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。具体的には、塗布方法としては、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などを用いることができる。この際、スラリー組成物を集電体の片面だけに塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。塗布後乾燥前の集電体上のスラリー膜の厚みは、乾燥して得られる正極合材層の厚みに応じて適宜に設定しうる。
集電体上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができ、例えば温風、熱風、低湿風による乾燥法、真空乾燥法、赤外線や電子線などの照射による乾燥法が挙げられる。このように集電体上のスラリー組成物を乾燥することで、集電体上に正極合材層を形成し、集電体と正極合材層とを備える電気化学素子用正極を得ることができる。
本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用正極と、負極と、電解液と、セパレータとを備えている。そして、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用正極を用いているので、優れたレート特性およびサイクル特性を発揮することができる。
なお、以下では、一例として電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
ここで、本発明の電気化学素子で使用し得る、電気化学素子用負極としては、特に限定されることなく、二次電池の製造に用いられている既知の負極を用いることができる。例えば、かかる負極は、既知の製造方法を用いて集電体上に負極合材層を形成してなる負極などを用いることができる。
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。リチウムイオン二次電池の支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましく、LiPF6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加することができる。
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
実施例および比較例において、導電材のBET比表面積、導電材ペーストの固形分濃度、正極用スラリー組成物の固形分濃度、低温出力特性、及びサイクル特性は、それぞれ以下の方法を使用して評価した。
実施例、比較例で用いた導電材のBET比表面積は、Belsorp-mini(マイクロトラック・ベル社製、ASTM D3037-81に準拠)を用いて測定した。
<導電材ペーストの固形分濃度>
各実施例、比較例にて得られた導電材ペーストについて、レオメーター(Anton Paar社製、「MCR302」)を使用し、温度25℃、せん断速度0.1s-1にて測定した粘度が、48000~52000mPa・sである時の、導電材ペーストの固形分濃度を評価した。なお、全ての実施例、及び比較例にて測定した導電材ペーストの粘度は、48000~52000mPa・sの範囲内であった。
A:固形分濃度が7.5質量%以上
B:固形分濃度が6.5質量%以上7.5質量%未満
C:固形分濃度が5.5質量%以上6.5質量%未満
D:固形分濃度が4.5質量%以上5.5質量%未満
E:固形分濃度が4.5質量%未満
各実施例、比較例にて得られた正極用スラリー組成物の、25℃環境下、60rpmでの粘度(JIS Z8803:1991)が3000~4000mPa・sとなる範囲での固形分濃度を評価した。
A:固形分濃度が73質量%以上
B:固形分濃度が69質量%以上73質量%未満
C:固形分濃度が65質量%以上69質量%未満
D:固形分濃度が61質量%以上65質量%未満
E:固形分濃度が61質量%未満
実施例、比較例で作製した二次電池について、25℃環境下、1CでSOC(State Of Charge:充電深度)の50%まで充電した後、-10℃環境下において、SOCの50%を中心として0.5C、1.0C、1.5C、2.0Cで15秒間充電と15秒間放電とをそれぞれ行い、それぞれの場合(充電側および放電側)における15秒後の電池電圧を電流値に対してプロットし、その傾きをIV抵抗(Ω)(充電時IV抵抗および放電時IV抵抗)として求めた。得られたIV抵抗の値(Ω)について、比較例1の値を基準(100)として評価した。IV抵抗の値が小さいほど、内部抵抗が少なく、低温出力特性に優れていることを示す。
A:IV抵抗が4%未満
B:IV抵抗が4%以上4.3%未満
C:IV抵抗が4.3%以上4.6%未満
D:IV抵抗が4.6%以上4.9%未満
E:IV抵抗が4.9%以上
<サイクル特性>
実施例、比較例で作製した二次電池について、25℃環境下で、0.2C(Cは定格容量(mA)/1時間(h)で表される数値)で4.2Vまで充電し、3.0Vまで放電する操作を3回繰り返した。その後、45℃環境下で、1Cで電池電圧が4.2Vになるまで充電し、1Cで電池電圧が3.0Vになるまで放電する操作を200回繰り返した。そして、一回目の放電容量(C0)と200回目の放電容量(C1)から、容量維持率ΔC=(C1/C0)×100(%)を算出し、下記の基準で評価した。この容量維持率の値が高いほど、放電容量の低下が少なく、サイクル特性に優れていることを示す。
A:容量維持率ΔCが90%以上
B:容量維持率ΔCが88.5%以上90%未満
C:容量維持率ΔCが87%以上88.5%未満
D:容量維持率ΔCが87%未満
本発明の電気化学素子の一例として、本発明の電気化学素子用正極を備える、リチウムイオン二次電池を製造した。以下に、各工程について詳述する。
<正極用バインダーの調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水100部、並びに単量体としてのアクリロニトリル35質量部及び1,3-ブタジエン65質量部を仕込み、乳化剤としてオレイン酸カリウム2部、安定剤としてリン酸カリウム0.1部、さらに、分子量調整剤として2,2′,4,6,6′-ペンタメチルヘプタン-4-チオール(TIBM)0.5部を加えて、重合開始剤として過硫酸カリウム0.35部の存在下に30℃で乳化重合を行い、ブタジエンとアクリロニトリルとを共重合した。
重合転化率が90%に達した時点で、単量体100部あたり0.2部のヒドロキシルアミン硫酸塩を添加して重合を停止させた。続いて、加温し、減圧下で約70℃にて水蒸気蒸留して、残留単量体を回収した後、老化防止剤としてアルキル化フェノールを2部添加して、重合体の水分散液を得た。
次に、得られた重合体の水分散液400mL(全固形分:48g)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して共重合体溶液中の溶存酸素を除去した。その後、水素化反応触媒として、酢酸パラジウム50mgを、Pdに対して4倍モル当量の硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPa(ゲージ圧)まで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して、正極用バインダーとしての水素化ニトリルゴムを得た。
そして、正極用バインダーとしての水素化ニトリルゴムの固形分濃度40%の水溶液に対して、NMPを添加した後に、減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、固形分濃度8%の水素化ニトリルゴムのNMP溶液を得た。
<導電材ペーストの調製>
導電材としての多層カーボンナノチューブ(BET比表面積:150m2/g)1部と、上記に従って得られた、正極用バインダーとしての水素化ニトリルゴムを4部(固形分相当)、イミダゾール化合物(I)としての1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール(下式(1))を0.30部と、有機溶媒として適量のNMPとを添加し、ディスパーにて撹拌(3000rpm、60分)し、その後、直径1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルを使用し、周速8m/sにて1時間混合することにより、導電材ペーストを製造した。なお、導電材ペーストは、レオメーター(Anton Paar社製、「MCR302」)を使用した計測の結果、温度25℃、せん断速度0.1s-1における粘度が49000mPa・sであるとともに、固形分濃度の値が7.9質量%であった。
上述の導電材ペースト中に、正極活物質として層状構造を有する三元系活物質(LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2)(平均粒子径:10μm)100部と、有機溶媒として適量のNMPとを添加し、ディスパーにて撹拌し(3000rpm、20分)、本発明の電気化学素子正極用スラリー組成物であるリチウムイオン二次電池正極用スラリー組成物を調製した。NMPの添加量は、得られる正極用スラリーの60rpmでの粘度が3000~4000mPa・sの範囲内となるように調整した。そして、上記に従って固形分濃度を測定した。結果を表1に示す。
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。上述のようにして得た正極用スラリーをコンマコーターでアルミ箔の片面に乾燥後の目付量が20mg/cm2になるように塗布し、90℃で20分、120℃で20分間乾燥後、60℃で10時間加熱処理して正極原反を得た。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.2g/cm3の正極合材層とアルミ箔とからなるシート状正極を作製した。そして、シート状正極を幅48.0mm、長さ47cmに切断して、リチウムイオン二次電池用正極とした。
負極活物質としての球状人造黒鉛(体積平均粒子径:12μm)90部とSiOX(体積平均粒子径:10μm)10部との混合物と、負極用バインダーとしてのスチレンブタジエン重合体1部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース1部と、分散媒としての適量の水とをプラネタリーミキサーにて撹拌し、二次電池負極用スラリー組成物を調製した。
次に、集電体として、厚さ15μmの銅箔を準備した。そして、二次電池負極用スラリー組成物を銅箔の片面に乾燥後の塗布量が10mg/cm2になるように塗布し、60℃で20分、120℃で20分間乾燥した。その後、150℃で2時間加熱処理して、負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延し、密度が1.6g/cm3の負極合材層と、銅箔とからなるシート状負極を作製した。そして、シート状負極を幅50.0mm、長さ52cmに切断して、リチウムイオン二次電池用負極とした。
作製したリチウムイオン二次電池用正極とリチウムイオン二次電池用負極とを電極合剤層同士が向かい合うようにし、厚さ15μmのセパレータ(ポリプロピレン製の微多孔膜)を介在させて、直径20mmの芯を用いて捲回し、捲回体を得た。そして、得られた捲回体を、10mm/秒の速度で厚さ4.5mmになるまで一方向から圧縮した。なお、圧縮後の捲回体は平面視楕円形をしており、その長径と短径との比(長径/短径)は7.7であった。
また、電解液(濃度1.0MのLiPF6溶液(溶媒は、エチレンカーボネート/エチルメチルカーボネート=3/7(質量比)の混合溶媒にフルオロエチレンカーボネート5質量%を添加した混合溶液であり、添加剤としてビニレンカーボネート2体積%を添加))を準備した。
その後、圧縮後の捲回体をアルミ製ラミネートケース内に3.2gの電解液とともに収容した。そして、二次電池用負極の所定の箇所にニッケルリード線を接続し、二次電池用正極の所定の箇所にアルミニウムリード線を接続したのち、ケースの開口部を熱で封口し、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池を得た。このリチウムイオン二次電池は、幅35mm、高さ60mm、厚さ5mmのパウチ形であり、電池の公称容量は700mAhであった。
得られたリチウムイオン二次電池について、低温出力特性及びサイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
イミダゾール化合物(I)として、表1に示す各置換基を有する、下記に示す一般式(2)~(9)に従うイミダゾール化合物(2)~(9)をそれぞれ用いた以外は、実施例1と同様にして各種操作及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<導電材ペーストの調製>工程で添加するイミダゾール化合物(I)としての1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールの添加量を表1又は表2に示す通りに変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表1又は表2に示す。
正極活物質をリチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2、平均粒子径:10μm)に変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>工程で用いる正極用バインダーを下記のようにして調製した正極用バインダーに変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<正極用バインダーの調製>
内容積10リットルの反応器中に、イオン交換水374.5質量部、ジエタノールアミン0.5質量部、次亜リン酸ナトリウム25質量部を仕込み、90℃に昇温した。単量体としてのN-ビニルピロリドン500質量部を180分かけて、重合開始剤としての2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩10質量部とイオン交換水90質量部からなる開始剤水溶液を210分かけて、反応容器に添加した。さらに2,2’-アゾビス-2-アミジノプロパン二塩酸塩0.5質量部とイオン交換水4.5質量部からなる水溶液を、それぞれ、重合開始剤の添加開始時点から210分後、240分後に一括で添加した。さらにpH調整剤として、10質量%マロン酸水溶液8.0質量部を、重合開始剤の添加開始時点から270分後に添加した。そして、重合開始剤の添加開始時点から270分後以降であって、且つ単量体消費量が99%となった時点で反応を終了して、ポリビニルピロリドン水溶液を得た。
そして、ポリビニルピロリドン水溶液に対して、NMPを添加した後に、減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、固形分濃度8%のポリビニルピロリドンのNMP溶液を得た。
そして、上記に従って得られたポリビニルピロリドン(PVP)のNMP溶液と、別途調製したポリフッ化ビニリデン(PVDF)のNMP溶液とを、PVPとPVDFとが質量比で50:50となるように混合し、正極用バインダーのNMP溶液を得た。
<導電材ペーストの調製>工程で用いる正極用バインダーを下記のようにして調製した正極用バインダーに変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<正極用バインダーの調製>
重合缶Aに、単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート10.75部及びアクリロニトリル1.25部、ラウリル硫酸ナトリウム0.12部、イオン交換水79部を加え、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.2部、イオン交換水10部を加え60℃に加温し90分撹拌した。その後、別の重合缶Bに単量体としての2-エチルヘキシルアクリレート66.8部、アクリロニトリル19.0部、メタクリル酸2.0部、及びアリルメタクリレート0.2部、ラウリル硫酸ナトリウム0.7部、イオン交換水46部を加えて撹拌して作製したエマルジョンを約180分かけて重合缶Bから重合缶Aに逐次添加した後、約120分撹拌してモノマー消費量が95%になったところで冷却して反応を終了し、その後4%NaOH水溶液でpH調整し、正極用バインダーとしてのアクリルゴムの水分散液を得た。
そして、上記に従って得られたアクリルゴムの水分散液に対して、NMPを添加した後に、減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、固形分濃度8%のアクリルゴムのNMP溶液を得た。
<導電材ペーストの調製>工程で用いる正極用バインダーを下記のようにして調製した正極用バインダーに変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<正極用バインダーの調製>
メカニカルスターラーおよびコンデンサを装着した反応器Aに、窒素雰囲気下、イオン交換水85部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れた後、撹拌しながら55℃に加熱し、過硫酸カリウム0.3部を5.0%水溶液として反応器Aに添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の反応器Bに、窒素雰囲気下、単量体であるアクリロニトリル94.0部、アクリルアミド1.0部、アクリル酸2.0部、及びn-ブチルアクリレート3.0部、並びに、ドデシルベンゼンンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを撹拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を撹拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させ、正極用バインダーとしてのポリアクリロニトリル系共重合体の水分散液を得た。
そして、上記に従って得られたポリアクリロニトリル系共重合体の水分散液に対して、NMPを添加した後に、減圧蒸留を実施して水および過剰なNMPを除去し、固形分濃度6%のポリアクリロニトリル系共重合体のNMP溶液を得た。
<導電材ペーストの調製>工程で用いる正極用バインダーをポリフッ化ビニリデンに変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>工程で用いる導電材をケッチェンブラック(BET比表面積:800m2/g)に変更した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>工程で添加するイミダゾール化合物(I)に代えて、所定の構造を含まないイミダゾリウム塩である、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライド(下式(10))を配合した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>工程でイミダゾール化合物(I)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
<導電材ペーストの調製>工程で添加するイミダゾール化合物(I)に代えて、所定の構造を有さないイミダゾール化合物であるベンゾイミダゾール(下式(11))を配合した以外は、実施例1と同様にして各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
「NMC532」は、LiNi0.5Co0.2Mn0.3O2を、
「MWCNT」は、多層カーボンナノチューブを、
「HNBR」は、水素化ニトリルゴムを、
「NMP」は、N-メチルピロリドンを、
「LCO」は、LiCoO2を、
「PVP」は、ポリビニルピロリドンを、
「PVDF」は、ポリフッ化ビニリデンを、
「ACM」は、アクリルゴムを、
「PAN」は、ポリアクリロニトリル系共重合体を、
「KB」は、ケッチェンブラックを、
「CEEMI」は、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールを、
「DME」は、1,2-ジメチルイミダゾールを、
「EI」は、4-エチルイミダゾールを、
「PI」は、2-フェニルイミダゾールを、
「CEUI」は、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾールを、
「IC」は、4-イミダゾールカルボン酸を、
「ICN」は、1H-イミダゾール-4-カルボニトリルを、
「NI」は、4-ニトロイミダゾールを、
「ICA」は、イミダゾール-2-カルボキシアルデヒドを、
「EMICl」は、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドを、
「BI」は、ベンゾイミダゾールを、
それぞれ示す。
また、上記一般式(α)におけるX0の位置にメチル基が結合してなる1-エチル-3-メチルイミダゾリウムクロライドを用いた比較例1、及び上記一般式(α)におけるX3及びX4が相互に独立しておらず、共に環構造を形成しているベンゾイミダゾールを用いた比較例3では、固形分濃度の高い導電材ペースト及びスラリー組成物を得ることができず、結果的に、低温出力特性及びサイクル特性の高い二次電池が得られなかったことが分かる。さらにまた、イミダゾール化合物を配合しなかった比較例2でも、固形分濃度の高い導電材ペースト及びスラリー組成物を得ることができず、結果的に、低温出力特性及びサイクル特性の高い二次電池が得られなかったことが分かる。
また、本発明によれば、固形分濃度が高く、得られる電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる、電気化学素子正極用スラリー組成物、及びかかるスラリー組成物の製造方法を提供することができる。
さらに、本発明によれば、電気化学素子の低温出力特性及びサイクル特性を高めることができる電気化学素子用正極を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、低温出力特性及びサイクル特性に優れる電気化学素子を提供することができる。
Claims (9)
- 前記式(I)中、X1~X4が、複素環構造を非含有である、請求項1に記載の電気化学素子用導電材ペースト。
- 前記式(I)中、X1~X4が、それぞれ、水素、カルボキシル基、シアノ基、アルデヒド基、ニトロ基、カルボキシアルキル基、シアノアルキル基、アルキル基、及びアリール基から選択される少なくとも一種の有機基である、請求項1又は2に記載の電気化学素子用導電材ペースト。
- 前記導電材が炭素材料である、請求項1~3の何れかに記載の電気化学素子用導電材ペースト。
- 前記導電材の比表面積が、80m2/g以上2000m2/g以下である、請求項1~4の何れかに記載の電気化学素子用導電材ペースト。
- 正極活物質と、請求項1~5の何れかに記載の電気化学素子用導電材ペーストとを含む、電気化学素子正極用スラリー組成物。
- 請求項6に記載の電気化学素子正極用スラリー組成物を用いて形成された正極合材層を含む、電気化学素子用正極。
- 正極、負極、セパレータ及び電解液を備える電気化学素子であって、前記正極が、請求項7に記載の電気化学素子用正極である、電気化学素子。
- 請求項6に記載の電気化学素子正極用スラリー組成物の製造方法であって、
前記導電材、前記式(I)で表されるイミダゾール化合物、前記バインダー、及び前記有機溶媒を混合して、前記導電材ペーストを得る導電材ペースト調製工程と、
得られた前記導電材ペーストに対して、前記正極活物質を添加し混合してスラリー組成物を得るスラリー組成物調製工程と、
を含む、電気化学素子正極用スラリー組成物の製造方法。
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