以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を詳細に説明する。全図面に渡り、対応する構成要素には共通の参照符号を付す。
図1は、本発明の実施形態によるシャープペンシル1の縦断面図であり、図2は、図1のシャープペンシル1の前半分の拡大断面図であり、図3は、図1のシャープペンシル1の後半分の拡大断面図であり、図4は、シャープペンシル1の内部構造を説明する斜視図である。
シャープペンシル1は、前軸2と、前軸2の後端部の外周面に螺合する後軸3と、前軸2の前端部の外周面に螺合する口先部材4と、後軸3の後端部の内周面に嵌合する内筒5とを有している。前軸2及び後軸3は、軸筒6を構成する。なお、口先部材4又は内筒5も含めて軸筒6と称してもよい。後述するように、シャープペンシル1は、口先部材4の先端から筆記芯7が突出するように構成されている。筆記芯7の先端近傍は、筆記芯7を案内する先端パイプ8によって覆われている。本明細書では、シャープペンシル1の軸線方向において、筆記芯7側を「前」側と規定し、筆記芯7側とは反対側を「後」側と規定する。
図2を参照すると、軸筒6の前端部の内部には、スライダ9が、軸線方向にスライド可能、且つ、軸線回りに回転可能に配置されている。スライダ9は、前方に向かって外径が段状に細くなる円筒状に形成されている。スライダ9の先端部9aには、先端パイプ8が取り付けられている。また、先端部9aにおいて先端パイプ8の後方には、中央に通孔が形成されたゴム製の保持チャック10が配置されている。保持チャック10の通孔は、筆記芯7の外周面に摺接し、筆記芯7を一時的に保持するように作用する。
スライダ9の先端部9aの後方の中間部9bの外周面の後部、特に中間部9bの根元部分には、軸線方向に突出する当接子9cが、スライダ9と一体に形成されている。先端部9a及び中間部9bの外周面には、円筒状に形成された第1カム部材であるダイヤルカム部材50と、環状に形成された第2カム部材であるレールカム部材60が、軸線方向に整列した状態で配置されている。スライダ9の先端部9aの一部は、ダイヤルカム部材50の前端部の孔より突出している。
スライダ9の内部には、筆記芯7を把持するボールチャック11及び円筒状に形成された中継部材12が配置されている。ボールチャック11は、円筒状に形成された締め具13と、締め具13内に配置されたチャック本体部14と、円筒状に形成されたチャック保持部15と、複数のボール16とを有している。締め具13の内周面には、前方に向かって広がるテーパ面が形成されている。チャック本体部14は、中心軸線に沿って筆記芯7の通孔が形成され、チャック本体部14の前端部は、軸線方向に沿って複数に分割されている。チャック本体部14の後端部は、チャック保持部15によって保持されている。チャック本体部14及びチャック保持部15は、締め具13に対して軸線方向に移動可能である。複数のボール16は、締め具13の内周面とチャック本体部14の外周面との間に配置されている。
筆記芯7に筆記圧が加わった場合には、チャック本体部14がボール16と共に円筒状の締め具13内のテーパ面に当接するため、筆記芯7はチャック本体部14によって把持される。これにより、筆記芯7の後退は阻止される。他方、筆記芯7を前方に引き出す力が働いた場合には、チャック本体部14が締め具13による作用を受けないため、筆記芯7を抵抗なく前方に引き出すことができる。すなわち、ボールチャック11は、筆記芯7の前進を許容し後退を阻止するように作用する。
チャック本体部14を包囲するようにコイルスプリング17が配置されている。コイルスプリング17の後端は、チャック本体部14の外面に嵌合しており、コイルスプリング17の前端は、締め具13の内周面に形成された段部によって支持されている。コイルスプリング17は、チャック本体部14を後方に付勢し、その結果、ボールチャック11は、筆記芯7を把持した状態を維持することができる。
締め具13の後端部の外周面は、中継部材12の前端部の内周面に嵌合している。したがって、ボールチャック11及び中継部材12は、スライダ9内において軸線方向に移動可能である。中継部材12の軸線方向における中央部分には、フランジ部12aが形成されている。フランジ部12aの前方には、中継部材12を包囲するようにコイルスプリングであるカム当接スプリング18が配置されている。カム当接スプリング18の後端は、中継部材12のフランジ部12aに対して取り付けられ(A部)、カム当接スプリング18の前端は、スライダ9の後端部の内壁に取り付けられている(B部)。軸筒6内において、カム当接スプリング18は、スライダ9を前方に付勢している。それによって、カム当接スプリング18は、後述するように、スライダ9に設けられた当接子9cをカム面に当接させるよう作用する。中継部材12の後端部は、後述する回転駆動機構30に連結されている。チャック保持部15の後端部の外周面には、芯ケース19の前端部が嵌合している。芯ケース19は、円筒状に形成され、内部には筆記芯7が収容される。
図3を参照すると、軸筒6の後端部、具体的には内筒5の後端部には、ノック部材としてのノック棒20が軸筒6に対して前後動可能に設けられている。ノック棒20は、コイルスプリング21によって後方に付勢されている。ノック棒20の後端部近傍には、筆記芯7の補給孔を備えた隔壁部20aが形成されている。ノック棒20の後端部の内部には、消しゴム22が着脱可能に装着されている。ノック棒20の後端部の外周面には、ノックカバー23が着脱可能に取り付けられ、消しゴム22を汚れ等から保護している。ノック棒20は、芯ケース19の後端部の外周面に嵌合している。
ノック棒20又はノックカバー23を前方へ押圧するノック操作をすることによって、芯ケース19が前進する。これにより、チャック保持部15を介してチャック本体部14が前方に押し出される。これに伴い、チャック本体部14に把持された筆記芯7も前進し、筆記芯7を先端パイプ8から繰り出させるように作用する。ノック操作による押圧を解除すると、コイルスプリング21の付勢力によって、ノック棒20は、後退して元の位置に復帰する。
このとき、チャック本体部14は、コイルスプリング17の付勢力によって後退する。他方、筆記芯7は、スライダ9内に配置された保持チャック10によって保持されるため、ボールチャック11の作用として、筆記芯7はチャック本体部14から抵抗なく引き出される。その結果、筆記芯7は、先端パイプ8から繰り出されることから、ノック操作を繰り返すごとに、筆記芯7を所定量ずつ繰り出すことができる。ノック操作によってノック棒20を前進させた状態を維持すると、チャック本体部14は締め具13から突出して筆記芯7の把持は解除された状態となる。この状態では、先端パイプ8から繰り出された状態の筆記芯7を指先等で押し戻すことができる。
図5は、回転駆動機構30の拡大断面図である。回転駆動機構30は、後軸3の内部空間に配置されている。回転駆動機構30は、中継部材12の後端部に接続されている。前軸2の後端面と回転駆動機構30の前端面との間に軸スプリング31が配置され、回転駆動機構30が後方に付勢されている。軸スプリング31の付勢力による回転駆動機構30の後方への移動は、回転駆動機構30の後端面が内筒5の前端面に当接することによって規制される。芯ケース19は、中継部材12及び回転駆動機構30の内部を貫通し、回転駆動機構30とは離間している。
回転駆動機構30は、円筒状に形成された回転子40と、円筒状に形成された第1カム形成部材である上カム形成部材41と、円筒状に形成された第2カム形成部材である下カム形成部材42と、円筒状に形成されたシリンダー部材43と、円筒状に形成されたトルクキャンセラー44と、コイル状のクッションスプリング45とを有している。回転駆動機構30は、これら部材が一体となって、ユニット化されている。
回転子40の前端部の内周面には、中継部材12の後端部の外周面が嵌合している。回転子40の前端部近傍は、僅かばかり径の大きいフランジ状に形成された部分を有し、当該部分の後端面には第1カム面40aが形成され、当該部分の前端面には第2カム面40bが形成されている。
上カム形成部材41は、回転子40の第1カム面40aの後方において、回転子40を回動可能に包囲している。下カム形成部材42は、上カム形成部材41の前端部の外周面に嵌合している。回転子40の第1カム面40aに対向する上カム形成部材41の前端面には、第1の固定カム面である固定カム面41aが形成されている。回転子40の第2カム面40bに対向する下カム形成部材42の前端部内面には、第2の固定カム面である固定カム面42aが形成されている。
上カム形成部材41の後端部の外周面には、円筒状に形成されたシリンダー部材43が嵌合している。シリンダー部材43の後端部には、芯ケース19が挿通できる挿通孔43aが形成されている。シリンダー部材43内には、円筒状に形成されて軸線方向に移動可能なトルクキャンセラー44が配置されている。トルクキャンセラー44の前端部内面とシリンダー部材43の後端部内面との間には、クッションスプリング45が配置されている。クッションスプリング45は、トルクキャンセラー44を介して、回転子40を前方に付勢している。
ここで、中継部材12は、筆記動作に基づく筆記芯7の後退及び前進動作(クッション動作)を回転駆動機構30、すなわち回転子40に伝達すると共に、クッション動作によって生ずる回転駆動機構30における回転子40の回転運動を、筆記芯7を把持した状態のボールチャック11に伝達する。したがって、ボールチャック11に保持された筆記芯7も回転する。
シャープペンシル1で筆記しているとき以外、すなわち、筆記芯7に筆記圧が加わっていないとき、回転子40は、トルクキャンセラー44を介したクッションスプリング45の付勢力によって前方に位置している。したがって、回転子40の第2カム面40bは、第2固定カム面42aに当接して噛み合い状態になされる。シャープペンシル1で筆記しているとき、すなわち、筆記芯7に筆記圧が加わっているとき、ボールチャック11は、クッションスプリング45の付勢力に抗して後退し、これに伴って回転子40も後退する。したがって、回転子40の第1カム面40aは、第1固定カム面41aに当接して噛み合い状態になされる。
図6は、図1のシャープペンシル1の回転子40の回転駆動作用を、順を追って説明する模式図であり、図7は、図6に続く回転子40の回転駆動作用を説明する模式図である。図6及び図7において、回転子40の上側の面である後端面には、周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1カム面40aが円環状に形成され、回転子40の下側の面である前端面には、同様に周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2カム面40bが円環状に形成されている。
回転子40の第1カム面40aに対峙する上カム形成部材41の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第1固定カム面41aが形成され、回転子40の第2カム面40bに対峙する下カム形成部材42の円環状の端面にも周方向に沿って連続的に鋸歯状になされた第2固定カム面42aが形成されている。回転子40に形成された第1カム面40a及び第2カム面40bの各カム面と、上カム形成部材41に形成された第1固定カム面41a及び下カム形成部材42に形成された第2固定カム面42aの各カム面とは、ピッチが互いにほぼ同一となるように形成されている。
図6(A)は、筆記芯7に筆記圧が加わっていないときの状態における回転子40、上カム形成部材41及び下カム形成部材42の関係を示している。この状態においては、回転子40に形成された第2カム面40bは、クッションスプリング45の付勢力によって、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに対して当接している。このとき、回転子40の第1カム面40aと上カム形成部材41の第1固定カム面41aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
図6(B)は、シャープペンシル1による筆記のために、筆記芯7に筆記圧が加わった初期の状態を示している。この状態においては、回転子40は、ボールチャック11の後退に伴ってクッションスプリング45を収縮させて後退する。それによって、回転子40は、上カム形成部材41の第1固定カム面41a側に移動する。
次いで、図6(C)は、筆記芯7にさらに筆記圧が加わり、回転子40が上カム形成部材41の第1固定カム面41aに当接して後退した状態を示している。この状態においては、回転子40の第1カム面40aは、上カム形成部材41の第1固定カム面41aに噛み合っている。それによって、回転子40は、第1カム面40aの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を受ける。
なお、図6及び図7における回転子40の中央部に描いた○印は、回転子40の回転移動量を示している。そして図6(C)に示す状態においては、回転子40の第2カム面40bと下カム形成部材42の第2固定カム面42aとが、軸線方向においてカムの一歯に対して半位相(半ピッチ)ずれた関係となるように設定されている。
次いで、図7(D)は、シャープペンシル1による筆記が終わり、筆記芯7に対する筆記圧が解除された初期の状態を示している。この場合においては、回転子40は、クッションスプリング45の付勢力によって前進する。これにより、回転子40は下カム形成部材42側に移動する。
次いで、図7(E)は、回転子40がクッションスプリング45の付勢力によって下カム形成部材42の第2固定カム面42aに当接して前進した状態を示している。この場合においては、回転子40の第2カム面40bは、下カム形成部材42の第2固定カム面42aに噛み合っている。それによって、回転子40は、第2カム面40bの一歯の半位相(半ピッチ)に相当する回転駆動を再び受ける。
したがって、回転子40の中央部に描いた○印で示すように、筆記圧を受けた回転子40の軸線方向への往復運動、すなわち前後動に伴って、回転子40は、第1カム面40a及び第2カム面40bの一歯(1ピッチ)に相当する回転駆動を受け、ボールチャック11を介して、これに把持された筆記芯7も同様に回転駆動される。したがって、筆記による回転子40の軸線方向への1回の前後動によって回転子40はカムの一歯に対応する回転運動を受け、これを繰り返すことによって、筆記芯7は順次回転駆動される。それ故、書き進むにしたがって筆記芯7が偏って摩耗するのを防止することができ、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。
なお、クッションスプリング45の付勢力を受けて回転子40を前方に押し出すトルクキャンセラー44は、その前端面と回転子40の後端面との間で滑りを発生させて、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達するのを防止している。すなわち、トルクキャンセラー44によって、回転子40の回転運動がクッションスプリング45に伝達されるのを防止し、それによって、回転子40の回転動作を阻害するクッションスプリング45のねじれ戻り(トルク)が発生することを防止している。
以上より、シャープペンシル1は、ボールチャック11と回転子40とを有し、ボールチャック11の前後動により筆記芯7の解除及び把持を行うことで、筆記芯7を前方に繰り出すことができるように構成され、ボールチャック11が、筆記芯7を把持した状態で中心軸線回りに回転可能となるように軸筒6内に保持されると共に、筆記芯7の筆記圧によるボールチャック11を介した回転子40の前後動により回転子40を回転させ、回転子40の回転運動を、ボールチャック11を介して筆記芯7に伝達するように構成されている。
図8乃至図10を参照しながら、芯繰り出し機構及び繰り出し量調整機構について説明する。芯繰り出し機構は、回転駆動機構30の回転子40の回転駆動力を受けて、筆記芯7を前方に繰り出すように作用する。
図8は、ダイヤルカム部材50の斜視図である。ダイヤルカム部材50は、図8において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。ダイヤルカム部材50は、円筒状に形成された部材であり、滑り止めとして軸線方向に延びる複数の溝が形成された把持部50aと、把持部50aの後方において把持部50aよりも小径に形成された小径部50bと、小径部50bに形成されたフランジ部50cと、フランジ部50cの後端面に形成された2つの嵌合突起50dと、小径部50bの後端面に形成されたカム形成部であるダイヤルカム51とを有している。2つの嵌合突起50dは、中心軸線回りに対称的に配置されている。
ダイヤルカム51は、小径部50bの後端面、すなわちダイヤルカム部材50の後端面に形成された凹部を有している。具体的には、ダイヤルカム51は、凹部に設けられた3つの底面によって階段状に形成されている。最も深い凹部の底面が第1カム底面51aであり、次に深い凹部の底面が第2カム底面51bであり、次に深い凹部の底面が第3カム底面51cである。第1カム底面51a、第2カム底面51b及び第3カム底面51cの底面の各々の長さ、すなわち周方向に沿った長さは略等しい。小径部50bの後端面には、同一の凹部、すなわちダイヤルカム51が、中心軸線回りに対称的に、さらに形成されている。実際にカムとして機能するのは、いずれか一方の凹部に形成されたダイヤルカム51であり、組み立ての際に任意に選択される。なお、小径部50bの後端面も、後端カム面51dとして、ダイヤルカム51の一部を構成する。
図9は、レールカム部材60の斜視図であり、図10は、レールカム部材60の別の斜視図である。レールカム部材60は、図9において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。レールカム部材60は、環状に形成された部材である。レールカム部材60の前端面には、中心軸線回りに対称的に2つの調整凹部60aが形成されている。調整凹部60aの各々は、周方向に沿って並列する4つの嵌合凹部60bからなる。
レールカム部材60の後端面には、環状の周壁60cと、周壁60cよりも径方向内側に形成され且つ後方に面したレールカム61が形成されている。レールカム61は、平坦な環状カム面62と、環状カム面62に階段状に形成された凹部63とを有している。環状カム面62は、軸線方向に対して垂直な平面である。凹部63は、2つの底面によって階段状に形成されている。より深い凹部の底面が第1底面63aであり、より浅い凹部の底面が第2底面63bである。第1底面63aの長さ、すなわち周方向に沿った長さは、第2底面63bの長さよりも長く、且つ、第1カム底面51a、第2カム底面51b及び第3カム底面51cの底面の各々の長さと略等しい。
図11は、組み合わされたダイヤルカム部材50及びレールカム部材60の斜視図である。ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60は、図11において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。環状のレールカム部材60は、ダイヤルカム部材50の小径部50bの後端部に挿入され、フランジ部50cによって係止されることで、組み合わされる。すなわち、ダイヤルカム部材50のフランジ部50cの後端面に、レールカム部材60の前端面が当接する。より詳細には、ダイヤルカム部材50のフランジ部50cに設けられた嵌合突起50dの各々が、レールカム部材60の調整凹部60aのいずれかの嵌合凹部60bに嵌合する。よって、レールカム部材60はダイヤルカム部材50の径方向外側に配置されている。
ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60が組み合わされた状態では、ダイヤルカム部材50の後端面は、レールカム部材60の環状カム面62の径方向内側において隣接した状態で略面一に配置される。また、ダイヤルカム部材50のダイヤルカム51は、レールカム部材60の凹部63の近傍に配置される。それによって、ダイヤルカム部材50、具体的にはカム形成部であるダイヤルカム51、及び、レールカム部材60、具体的にはレールカム61、より具体的には凹部63は、協働して、周方向において一連の、すなわち環状の繰り出しカム面70を構成する。
図2に示されるように、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60は、組み合わされた状態で、スライダ9の先端部9a及び中間部9bの外側に配置される。ダイヤルカム部材50の一部及びレールカム部材60は、口先部材4によって外周面が覆われている。口先部材4の前端部内面とダイヤルカム部材50のフランジ部50cとの間には、Oリング80が配置されている。また、カム当接スプリング18は、スライダ9を前方に付勢していることから、スライダ9の当接子9cは、繰り出しカム面70に対して当接した状態を維持する。ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60は、レールカム部材60の後端面である周壁60cの頂面が、前軸2の前端面と当接することによって後方への移動が規制されている。また、レールカム部材60の外周面は、口先部材4の内周面と係合し、レールカム部材60の口先部材4、ひいては軸筒6に対する回転が規制される。
繰り出しカム面70の形状は、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60を中心軸線回りに相対的に回転させることによって、変更させることができる。すなわち、使用者は、一方の手で軸筒6を把持し且つ他方の手で軸筒6の先端から突出するダイヤルカム部材50の把持部50aを把持しながら、軸筒6に対してダイヤルカム部材50を中心軸線回りに回転させる。レールカム部材60は、軸筒6に対して係合していることから、レールカム部材60に対してダイヤルカム部材50が、中心軸線回りに回転する。
レールカム部材60に対するダイヤルカム部材50の回転は、ダイヤルカム部材50の嵌合突起50dが、対応するレールカム部材60の1つの嵌合凹部60bから隣接する嵌合凹部60bに移動して嵌合するように、段階的に行われる。したがって、レールカム部材60に対するダイヤルカム部材50の中心軸線回りの回転は、ダイヤルカム部材50の嵌合突起50dが移動可能なレールカム部材60の調整凹部60aの範囲内において段階的に行われる。ダイヤルカム部材50の嵌合突起50dが嵌合するレールカム部材60の嵌合凹部60bの位置に応じて、レールカム部材60のレールカム61、具体的には凹部63と、ダイヤルカム部材50のダイヤルカム51との相対位置が変化し、その結果、繰り出しカム面70の形状を変更させることができる。Oリング80によってダイヤルカム部材50がレールカム部材60に対して付勢され、レールカム部材60に対するダイヤルカム部材50の段階的な回転時に、クリック感が得られる。繰り出しカム面70の形状の変更に関し、図12及び図13を参照しながら、さらに説明する。
図12は、繰り出し量が大きいときの繰り出しカム面70を示す模式図であり、図13は、繰り出し量が小さいときの繰り出しカム面70を示す模式図である。図12及び図13は、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60の位置関係を示すため、繰り出しカム面70を含む中心軸線回りの円筒面を周方向に展開したものである。図12及び図13において、上方がシャープペンシル1の後側である。
図12を参照すると、レールカム61の第1底面63aとダイヤルカム51の第1カム底面51aとが径方向において整列するように、ダイヤルカム部材50がレールカム部材60に対して位置合わせされている。言い換えると、レールカム61の第1底面63aとダイヤルカム51の第1カム底面51aとが径方向において整列するように、ダイヤルカム部材50の嵌合突起50dとレールカム部材60の嵌合凹部60bとが対応するように構成されている。ダイヤルカム51の第1カム底面51aは、レールカム61の第1底面63aと同一平面上にあるか、第1底面63aよりも僅かばかり後方に配置されている。したがって、ダイヤルカム51の第1カム底面51a又は凹部63の第1底面63aと、凹部63の第2底面63bと、環状カム面62とが、繰り出しカム面70を構成する。なお、繰り出しカム面70における凹部63内の軸線方向の段差71(落差)の高さ(高低差)を段差高さHとする。図12において、段差高さHは、レールカム61の環状カム面62と、ダイヤルカム部材50の第1カム底面51a又は凹部63の第1底面63aとの間の距離である。
図13を参照すると、レールカム61の第1底面63aとダイヤルカム51の第3カム底面51cとが径方向において整列するように、ダイヤルカム部材50がレールカム部材60に対して位置合わせされている。ダイヤルカム51の後端カム面51dは、レールカム61の環状カム面62と略同一平面上にある。したがって、ダイヤルカム51の第3カム底面51cと、後端カム面51dと、環状カム面62とが、繰り出しカム面70を構成する。図13において、段差高さHは、レールカム61の環状カム面62と、ダイヤルカム部材50の第3カム底面51cとの間の距離である。
同様に、レールカム61の第1底面63aとダイヤルカム51の第2カム底面51bとが径方向において整列するように、ダイヤルカム部材50がレールカム部材60に対して位置合わせすることができる。この場合、ダイヤルカム51の第2カム底面51bと、凹部63の第2底面63bと、環状カム面62とが、繰り出しカム面70を構成する。このとき、段差高さHは、レールカム61の環状カム面62と、ダイヤルカム部材50の第2カム底面51bとの間の距離である。
同様に、レールカム61の第1底面63aとダイヤルカム51の後端カム面51dとが径方向において整列するように、ダイヤルカム部材50がレールカム部材60に対して位置合わせすることができる。この場合、ダイヤルカム51の後端カム面51dと、環状カム面62とが、繰り出しカム面70を構成する。このとき、ダイヤルカム51の後端カム面51dは、レールカム61の環状カム面62と略同一平面上にあることから、段差高さHは、ゼロである。
回転駆動機構30の回転子40は、筆記芯7のクッション動作に基づいてスライダ9を徐々に回転駆動する。すなわち、スライダ9の先端部9aを先にして見たとき、スライダ9は中心軸線回りに右回転する。この回転運動によって、スライダ9の当接子9cは、繰り出しカム面70と協働しながら周方向に移動する。当接子9cと繰り出しカム面70との関係、及び、筆記芯7の繰り出しについて、図14を参照しながら説明する。
図14は、繰り出しカム面70と当接子9cの先端部の移動との関係を示す模式図である。図14は、繰り出しカム面70における当接子9cとの位置関係を示すため、繰り出しカム面70を含む中心軸線回りの円筒面を周方向に展開したものに対し、当接子9cの先端の移動の軌跡Tを示したものである。図14において、上方がシャープペンシル1の後側である。
図14では、図12に示された繰り出しカム面70の状態を例としている。図14において、当接子9cは、左から右に移動する。より詳細には、図6及び図7を参照しながら説明したように、回転子40は、上カム形成部材41及び下カム形成部材42間を、カム面に沿って前後に移動しながら回転する。そのため、当接子9cの先端は、図14の矢印に示された軌跡Tを辿る。
まず、当接子9cは、繰り出しカム面70の環状カム面62に沿って移動する。次いで、当接子9cは、カム当接スプリング18の付勢力によって押圧され、凹部63内に落ち込み、ダイヤルカム51の第1カム底面51aに当接するまで前方へ移動する。すなわち、スライダ9は、段差71の段差高さH分だけ、環状カム面62からより前方へ移動する。このとき、スライダ9の内部に配置された保持チャック10も同様に前方へ移動するので、保持チャック10に保持された筆記芯7は、ボールチャック11から引き出され、相対的に先端パイプ8から段差高さH分だけ繰り出される。したがって、繰り出される筆記芯7の量、すなわち繰り出し量は、段差高さHと等しい。
次いで、当接子9cは、筆記芯7のクッション動作に従って、階段状の凹部63、具体的には第2底面63bを上るように移動することによって、後方へ移動しながら再び環状カム面62に復帰する。次いで、当接子9cは、再び、繰り出しカム面70の環状カム面62に沿って移動する。以上の動作により、繰り出しカム面70に沿って当接子9cが一周する毎に筆記芯7を先端パイプ8から繰り出すことができる。この動作の繰り返しによって、筆記動作に伴い筆記芯7が摩耗しつつ、筆記芯7が順次繰り出される。
要するに、芯繰り出し機構では、当接子9cが回転子40の回転に応じて繰り出しカム面70に沿って移動し、当接子9cが繰り出しカム面70の段差71に落ち込む際のスライダ9の前進動作によって、保持チャック10に保持された筆記芯7がボールチャック11より引き出されるように構成されている。芯繰り出し機構が繰り出しカム面70の段差71を利用することによって、回転駆動機構30における回転子40の回転駆動力を筆記芯7の繰り出し動作に変換することができる。
特許文献4に記載されたシャープペンシルでは、カム面が周方向に沿ってせり上るように形成されていることから、当接子は、摩擦抵抗に加え、スプリングの付勢力に抗する方向の分力も受け、回転駆動機構の回転を阻害する要因となる。他方、上述した実施形態のシャープペンシル1では、環状カム面62が軸線方向に対して垂直に形成されていることから、カム当接スプリング18の付勢力に抗する方向の分力を受けることはなく、回転駆動機構30の回転がそれによって阻害されることはない。したがって、動作が確実な精度の高い筆記芯7の繰り出し動作を実現することができる。
また、シャープペンシル1は、回転駆動機構30における回転子40の回転駆動力を受けて、ボールチャック11に保持された筆記芯7も回転駆動されるように構成されている。したがって、書き進むにしたがって筆記芯7が偏摩耗するのを防止することができ、その結果、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。
また、繰り出し量調整機構では、上述したように、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60を単に中心軸線回りに相対的に回転させることによって、繰り出しカム面70における段差71の段差高さHを変更することができる。よって、芯繰り出し機構による筆記芯7の繰り出し量の調整をより簡便且つ正確に行うことができる。
使用者によって異なる筆記圧や利用される筆記芯7の硬度などの違いによる筆記芯7の摩耗の程度と、筆記芯7の繰り出し量とがほぼ一致するように調整すれば、筆記動作にもかかわらず先端パイプ8からの筆記芯7の突出量を常に一定に保つことができる。その結果、シャープペンシル1では、一度のノック操作で、長く書き続けることができる。通常想定される筆記芯7の摩耗の程度を超えた長さに相当する段差高さHを有する段差71が形成されるように、ダイヤルカム51を構成することが好ましい。それによって、すべての使用者の好みに応じた筆記芯7の繰り出し量に設定可能となる。
具体的には、上述した実施形態では、段差71の段差高さHを、環状カム面62と、第1カム底面51a、第2カム底面51b、第3カム底面51c又は後端カム面51dとの間の距離として、4段階に変更可能である。例えば、各々の段差高さHを、0.15mm、0.10mm、0.05mm又は0mmとすることができる。したがって、例えば、筆記圧が強く、筆記芯7の摩耗の程度がより大きい使用者は、段差高さHが0.15mmとなるように繰り出し量調整機構を調整し、筆記圧が弱く、筆記芯7の摩耗の程度がより小さい使用者は、段差高さHが0.05mmとなるように繰り出し量調整機構を調整することができる。さらに、筆記芯7の自動的な繰り出しを好まず、自らノック操作を行うことによって筆記芯7を繰り出したい使用者は、段差高さHが0mm(ゼロ)となるように繰り出し量調整機構を調整することができる。
上述した実施形態では、ダイヤルカム51は、後端面の凹部に設けられた3つの底面によって階段状に形成されていたが、2つの底面又は4つ以上の底面によってダイヤルカム51を形成してもよい。この場合、底面の数に応じて段階的に、芯繰り出し機構による筆記芯7の繰り出し量の調整をすることができる。したがって、底面の数が多いほど、より細かい単位で、例えば、0.02mm単位で段差高さHを設定することができ、よって、より細かい繰り出し量の調整をすることができる。また、繰り出しカム面70における凹部63に対応するダイヤルカム部材50の凹部に底面を1つだけ設け、レールカム部材60に対してダイヤルカム部材50を軸線方向に移動可能に構成してもよい。この場合、レールカム部材60に対してダイヤルカム部材50を前後させることによって、すなわち、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60を相対的に前後させることによって、段差高さHを変更可能となる。このとき、段差高さHを無段階的に変更可能としてもよい。
上述した実施形態では、段差は、1つの段によって形成されたが、同様の高低差が得られ且つ筆記芯7が繰り出される限りにおいて、複数の段によって形成されてもよい。また、段差は、同様の高低差が得られ且つ筆記芯7が繰り出される限りにおいて、段に代えて、平坦な斜面や曲面であってもよい。環状カム面に高低差を形成する構成を総称して、「落差」という。
図15は、別の繰り出しカム面70を示す模式図である。図15において、上方がシャープペンシル1の後側である。上述した実施形態では、レールカム61の凹部63と協働して繰り出しカム面70を構成するカム形成部であるダイヤルカム51は、階段状に形成されていた。しかしながら、図15に示されるように、ダイヤルカム51を、スロープ状又は螺旋状のような、周方向に沿った斜面51eとして形成してもよい。この場合、ダイヤルカム部材50の嵌合突起50dとレールカム部材60の嵌合凹部60bとの嵌合によって、ダイヤルカム部材50及びレールカム部材60を中心軸線回りに段階的に回転させるのではなく、無段階的に回転可能に構成することによって、段差71の段差高さHを無段階的に変更することができる。その結果、より細かい繰り出し量の調整をすることができる。
上述した実施形態では、ダイヤルカム部材50が第1カム部材として円筒状の部材であったが、環状の部材であってもよい。また、レールカム部材60が第2カム部材として環状の部材であったが、円筒状の部材であってもよい。第1カム部材にレールカム61を設け、第2カム部材にダイヤルカム51を設けてもよい。すなわち、環状又は筒状の第1カム部材と第1カム部材の径方向外側に配置された環状又は筒状の第2カム部材とが協働して、繰り出しカム面が構成されるようにしてもよい。
したがって、第1カム部材及び第2カム部材の一方に凹部が形成され、第1カム部材及び第2カム部材の他方にカム形成部が形成され、凹部とカム形成部とが協働して繰り出しカム面が構成されるようにしてもよい。第1カム部材及び第2カム部材を中心軸線回りに相対的に回転させることによって、段差の段差高さが調整されるようにしてもよい。また、第1カム部材及び第2カム部材を相対的に前後させることによって、段差の段差高さが調整されるようにしてもよい。
繰り出し量調整機構によって芯繰り出し機構による筆記芯7の繰り出し量が調整されたが、繰り出し量調整機構を省略してもよい。すなわち、軸線方向に対して垂直な環状カム面と、環状カム面に設けられた軸線方向の所定の段差とを有する繰り出しカム面を備えたカム部材を軸筒に対して取り付けてもよい。こうした構成は、例えば、上述した実施形態において、ダイヤルカム部材50を省略し、レールカム部材60のみを有する構成で以て実現することができる。上述した実施形態では、環状カム面62は、軸線方向に対して垂直な平面であったが、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るように設けられた、スロープ状又は螺旋状のようなカム面であってもよい。
図16乃至図18を参照しながら、別の芯繰り出し機構及び繰り出し量調整機構について説明する。芯繰り出し機構は、回転駆動機構30の回転子40の回転駆動力を受けて、筆記芯7を前方に繰り出すように作用する。
図16は、ダイヤルカム部材150の斜視図である。ダイヤルカム部材150は、図16において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。ダイヤルカム部材150は、円筒状に形成された部材であり、軸線方向において中央に位置する把持部150aと、把持部150aの後方において把持部150aよりも小径に形成された小径部150bと、小径部150bの前方に形成されたフランジ部150cと、フランジ部150cの後端面に形成された2つの嵌合突起150dと、小径部150bの後端面に形成されたダイヤルカム151とを有している。2つの嵌合突起150dは、中心軸線回りに対称的に配置されている。把持部150aの前方は小径に形成されており、把持部150aから前方に延びる2つの係止突起150eが、中心軸線回りに対称的に形成されている。
ダイヤルカム151は、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るように設けられた、スロープ状又は螺旋状のような、第1斜面151aと、第1斜面151aの出発点(低位置)と最終点(高位置)との間において軸線方向に設けられた第1段差151bとを有している。すなわち、第1段差151bが第1斜面151aの出発点と最終点とを繋いだ構成にされている。
図17は、レールカム部材160の斜視図であり、図18は、レールカム部材160の別の斜視図である。レールカム部材160は、図17において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。レールカム部材160は、環状に形成された部材である。レールカム部材160の前端面には、中心軸線回りに対称的に2つの調整凹部160aが形成されている。調整凹部160aの各々は、周方向に沿って等間隔に並列する同一深さの凹みである6つの第1嵌合凹部160bと、第1嵌合凹部160bよりも浅い凹みである1つの第2嵌合凹部160cとからなる。
レールカム部材160の後端面には、レールカム161が形成されている。レールカム161は、円環状の端面に周方向に沿ってせり上るように設けられた、スロープ状又は螺旋状のような、環状カム面である第2斜面161aと、第2斜面161aの出発点(低位置)と最終点(高位置)との間において軸線方向に設けられた第2段差161bとを有している。すなわち、第2段差161bが第2斜面161aの出発点と最終点とを繋いだ構成にされている。レールカム161の第2斜面161aは、ダイヤルカム151の第1斜面151aよりも急勾配である。レールカム161の第2段差161bの高さは、ダイヤルカム151の第1段差151bの高さよりも高い。
図19は、組み合わされたダイヤルカム部材150及びレールカム部材160の斜視図であり、図20は、組み合わされたダイヤルカム部材150及びレールカム部材160の別の斜視図である。ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160は、図19及び図20において、上方がシャープペンシル1の後側となるように配置される。環状のレールカム部材160は、ダイヤルカム部材150の小径部150bの後端部に挿入され、フランジ部150cによって係止されることで、組み合わされる。すなわち、ダイヤルカム部材150のフランジ部150cの後端面に、レールカム部材160の前端面が当接する。より詳細には、ダイヤルカム部材150のフランジ部150cに設けられた嵌合突起150dの各々が、レールカム部材160の調整凹部160aのいずれかの第1嵌合凹部160b又は第2嵌合凹部160cに嵌合する。よって、レールカム部材160はダイヤルカム部材150の径方向外側に配置されている。図19において、嵌合突起150dは、第2嵌合凹部160cに隣接する第1嵌合凹部160bに嵌合している。また、図20において、嵌合突起150dは、第2嵌合凹部160cに嵌合している。
ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160が組み合わされた状態では、ダイヤルカム部材150のダイヤルカム151は、レールカム部材160のレールカム161の近傍に配置される。それによって、ダイヤルカム151及びレールカム161は、協働して、周方向において一連の、すなわち環状の繰り出しカム面70を構成する。
図2に示されるように、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160は、組み合わされた状態で、スライダ9の先端部9a及び中間部9bの外側に配置される。ダイヤルカム部材150の一部及びレールカム部材160は、口先部材4によって外周面が覆われている。口先部材4の前端部内面とダイヤルカム部材150のフランジ部150cとの間には、コイルスプリングが配置されている。また、カム当接スプリング18は、スライダ9を前方に付勢していることから、スライダ9の当接子9cは、繰り出しカム面70に対して当接した状態を維持する。ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160は、レールカム部材160の後端面が、前軸2の前端面と当接することによって後方への移動が規制されている。また、レールカム部材160の外周面は、口先部材4の内周面と係合し、レールカム部材160の口先部材4、ひいては軸筒6に対する回転が規制される。
繰り出しカム面70の形状は、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160を中心軸線回りに相対的に回転させることによって、変更させることができる。すなわち、使用者は、一方の手で軸筒6を把持し且つ他方の手で軸筒6の先端から突出するダイヤルカム部材150の把持部150aを把持しながら、軸筒6に対してダイヤルカム部材150を中心軸線回りに回転させる。レールカム部材160は、軸筒6に対して係合していることから、レールカム部材160に対してダイヤルカム部材150が、中心軸線回りに回転する。
レールカム部材160に対するダイヤルカム部材150の回転は、ダイヤルカム部材150の嵌合突起150dが、対応するレールカム部材160の隣接する第1嵌合凹部160b又は第2嵌合凹部160c間で移動して嵌合するように、段階的に行われる。したがって、レールカム部材160に対するダイヤルカム部材150の中心軸線回りの回転は、ダイヤルカム部材150の嵌合突起150dが移動可能なレールカム部材160の調整凹部160aの範囲内において段階的に行われる。ダイヤルカム部材150の嵌合突起150dが嵌合するレールカム部材160の第1嵌合凹部160b又は第2嵌合凹部160cの位置に応じて、レールカム部材160のレールカム161とダイヤルカム部材150のダイヤルカム151との相対位置が変化し、その結果、繰り出しカム面70の形状を変更させることができる。コイルスプリングによってダイヤルカム部材150がレールカム部材160に対して付勢され、レールカム部材160に対するダイヤルカム部材150の段階的な回転時に、クリック感が得られる。繰り出しカム面70の形状の変更に関し、図21及び図22を参照しながら、さらに説明する。
図21は、図19の繰り出しカム面70を示す模式図であり、図22は、図20の繰り出しカム面70を示す模式図である。図21及び図22は、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160の位置関係を示すため、繰り出しカム面70を含む中心軸線回りの円筒面を周方向に展開したものである。図21及び図22において、上方がシャープペンシル1の後側である。
図21を参照すると、ダイヤルカム151の第1斜面151aとレールカム161の第2斜面161aとが径方向において重畳的に配置されるように、ダイヤルカム部材150がレールカム部材160に対して位置合わせされている。図21において、ダイヤルカム151の第1斜面151a及びレールカム161の第2斜面161aのうちでより後方、すなわち図中より上方に位置する一連の面が、繰り出しカム面70を構成する。すなわち、第1斜面151aと第2斜面161aとが協働して繰り出しカム面70を構成する。なお、繰り出しカム面70において、ダイヤルカム151の第1斜面151aとレールカム161の第2段差161bとによって形成される軸線方向の段差71(落差)の高さ(高低差)を、段差高さHとする。
図22を参照すると、図21に示された繰り出しカム面70と比較して、レールカム161の第2斜面161aがダイヤルカム151の第1斜面151aに対してより後方に位置するように、ダイヤルカム部材150がレールカム部材160に対して位置合わせされている。すなわち、図22では、上述したように、嵌合突起150dは、第1嵌合凹部160bと比べて浅い凹みである第2嵌合凹部160cに嵌合している。したがって、レールカム161は、ダイヤルカム151に対してより後方に配置される。他方、嵌合突起150dが、同一深さの凹みである6つの第1嵌合凹部160b間を移動する場合には、レールカム161は、ダイヤルカム151に対して軸線方向において同一位置にある。
段差高さHに着目すると、嵌合突起150dが、調整凹部160aにおいて第2嵌合凹部160cから最も遠い第1嵌合凹部160bに嵌合しているとき、段差高さHは最も小さい。嵌合突起150dが、第2嵌合凹部160cにより近い第1嵌合凹部160bに嵌合すると、ダイヤルカム151の第1斜面151aの傾斜に応じて比例的に段差高さHが大きくなる。すなわち、嵌合突起150dが隣接する第1嵌合凹部160b間を移動するとき、段差高さHの変化量は一定である。嵌合突起150dが、第2嵌合凹部160cに隣接する第1嵌合凹部160bに嵌合している図19に示された状態から、第2嵌合凹部160cに嵌合している図20に示された状態に移動するとき、段差高さHの変化量が最大となる。
回転駆動機構30の回転子40は、筆記芯7のクッション動作に基づいてスライダ9を徐々に回転駆動する。すなわち、スライダ9の先端部9aを先にして見たとき、スライダ9は中心軸線回りに右回転する。この回転運動によって、スライダ9の当接子9cは、繰り出しカム面70と協働しながら周方向に移動する。すなわち、スライダ9の当接子9cは、繰り出しカム面70を構成するダイヤルカム151の第1斜面151a又はレールカム161の第2斜面161aに沿ってせり上がるように移動する。このとき、スライダ9は徐々に後退する。
当接子9cが段差71に達すると、カム当接スプリング18の付勢力によって押圧され、段差71に落ち込む。すなわち、スライダ9は、段差71の段差高さH分だけ、レールカム161の第2斜面161aからより前方へ移動する。このとき、スライダ9の内部に配置された保持チャック10も同様に前方へ移動するので、保持チャック10に保持された筆記芯7は、ボールチャック11から引き出され、相対的に先端パイプ8から段差高さH分だけ繰り出される。したがって、繰り出される筆記芯7の量、すなわち繰り出し量は、段差高さHと等しい。
以上の動作により、繰り出しカム面70に沿って当接子9cが一周する毎に筆記芯7を先端パイプ8から繰り出すことができる。この動作の繰り返しによって、筆記動作に伴い筆記芯7が摩耗しつつ、筆記芯7が順次繰り出される。
要するに、芯繰り出し機構では、当接子9cが回転子40の回転に応じて繰り出しカム面70に沿って移動し、当接子9cが繰り出しカム面70の段差71に落ち込む際のスライダ9の前進動作によって、保持チャック10に保持された筆記芯7がボールチャック11より引き出されるように構成されている。芯繰り出し機構が繰り出しカム面70の段差71を利用することによって、回転駆動機構30における回転子40の回転駆動力を筆記芯7の繰り出し動作に変換することができる。繰り出しカム面70に高低差を形成する構成を総称して、「落差」という。
また、シャープペンシル1は、回転駆動機構30における回転子40の回転駆動力を受けて、ボールチャック11に保持された筆記芯7も回転駆動されるように構成されている。したがって、書き進むにしたがって筆記芯7が偏摩耗するのを防止することができ、その結果、描線の太さや描線の濃さが大きく変化することを防止することができる。要するに、回転駆動機構30は、回転子40を有し、ボールチャック11に把持された筆記芯7が受ける筆記圧による軸線方向の後退動作及び筆記圧の解除による軸線方向の前進動作を受けて、回転子40を一方向に回転駆動させる。
また、繰り出し量調整機構では、上述したように、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160を単に中心軸線回りに相対的に回転させることによって、繰り出しカム面70における段差71の段差高さHを変更することができる。よって、芯繰り出し機構による筆記芯7の繰り出し量の調整をより簡便且つ正確に行うことができる。
使用者によって異なる筆記圧や利用される筆記芯7の硬度などの違いによる筆記芯7の摩耗の程度と、筆記芯7の繰り出し量とがほぼ一致するように調整すれば、筆記動作にもかかわらず先端パイプ8からの筆記芯7の突出量を常に一定に保つことができる。その結果、シャープペンシル1では、一度のノック操作で、長く書き続けることができる。通常想定される筆記芯7の摩耗の程度を超えた長さに相当する段差高さHを有する段差71が形成されるように、ダイヤルカム151を構成することが好ましい。それによって、すべての使用者の好みに応じた筆記芯7の繰り出し量に設定可能となる。
特に、調整凹部160aが、第1嵌合凹部160bよりも浅い凹みである第2嵌合凹部160cを有することによって、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160の相対的な所定の回転位置において、その他回転位置と比べて、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160を軸線方向において離間させることができる。言い換えると、ダイヤルカム部材150が嵌合突起を有し、レールカム部材160が嵌合突起と嵌合可能な複数の嵌合凹部を有し、複数の嵌合凹部の1つが、上記所定の回転位置において、ダイヤルカム部材150及びレールカム部材160を軸線方向において離間させるように構成されている。その結果、段差71の段差高さHを、比例的ではなく極端に調整することができ、繰り出し量を極端に増加させることができる。例えば、より強い筆記圧で筆記する場合は、通常の筆記圧よりも筆記芯7の摩耗量が大きく、こうした場合に、繰り出し量を極端に増加させることによって、一度のノック操作で、長く書き続けることができるようになる。
上述した実施形態では、ダイヤルカム部材150が第1カム部材として円筒状の部材であったが、環状の部材であってもよい。また、レールカム部材160が第2カム部材として環状の部材であったが、円筒状の部材であってもよい。第1カム部材にレールカム161を設け、第2カム部材にダイヤルカム151を設けてもよい。すなわち、環状又は筒状の第1カム部材と第1カム部材の径方向外側に配置された環状又は筒状の第2カム部材とが協働して、繰り出しカム面が構成されるようにしてもよい。また、第1カム部材及び第2カム部材を相対的に前後させることによって、すなわち軸線方向において離間させることによって、段差の段差高さが調整されるようにしてもよい。
ところで、特許文献4に記載されたシャープペンシルでは、当接子を確実にカム面に当接させるため、スライダがスプリングによって前方に付勢されている。そのため、芯繰り出し機構を有さない、回転駆動機構を備えたシャープペンシルと比べて、スプリングの付勢力の分だけ、高い筆記圧が必要とされる。また、当接子がスプリングによってカム面に押圧されていることから、回転駆動機構によるスライダの回転の際に摩擦抵抗が生じる。そのため、回転駆動機構の回転を阻害する虞がある。また、カム面が周方向に沿ってせり上るように形成されていることから、摩擦抵抗に加え、スプリングの付勢力に抗する方向の分力も回転駆動機構の回転を阻害する要因となる。
これに対し、シャープペンシル1では、芯繰り出し機構は、回転駆動機構30の回転を阻害しないように構成されているが、以下詳述する。
シャープペンシル1では、上述したように、カム当接スプリング18の後端が、中継部材12のフランジ部12aに対して取り付けられ、カム当接スプリング18の前端が、スライダ9の後端部の内壁に取り付けられている。また、回転子40に連結された中継部材12は、回転駆動機構30における回転子40の回転運動を、筆記芯7を把持した状態のボールチャック11に対して伝達するが、スライダ9に対して直接的に伝達しない。すなわち、スライダ9は、中継部材12の前端部の外側に配置はされているが、中継部材12に対して直接的に連結はされていない。その代わりに、回転駆動機構30における回転子40からスライダ9への回転駆動力の伝達は、カム当接スプリング18を介して行われる。
詳細には、カム当接スプリング18は、スライダ9を前方に付勢することによって、当接子9cをカム面に当接させるよう機能すると共に、ねじりばね(トーションスプリング)としても機能する。そのため、回転子40に連結された中継部材12の回転に際し、スライダ9の中心軸線回りの回転時に抵抗が無いか又は抵抗が小さい場合は、中継部材12の回転に追従してスライダ9も回転する。他方、回転子40に連結された中継部材12の回転に際し、スライダ9の中心軸線回りの回転時に抵抗が大きい場合は、スライダ9は回転せず、カム当接スプリング18にねじれ方向の弾性エネルギーが蓄積する。具体的には、図14の軌跡Tのうち、当接子9cが階段状の凹部63内において後方への移動を伴う直後、すなわち第2底面63bを上った後の領域Mにおいて、当接子9cと繰り出しカム面70との間の摩擦抵抗による摩擦力が最大となる。
まず、筆記圧を解除すると、当接子9cが、カム当接スプリング18の付勢力によって、M1点で第2底面63bに当接する。このとき、回転駆動機構30は図6(C)と図7(D)との間の状態である。
次いで、回転駆動機構30は図7(E)(又は図6(A))の状態に遷移し、回転子40が回転する。このとき、スライダ9は、第2底面63bを上った高さ分だけ後方へ移動することから、第2底面63bの高さ分だけカム当接スプリング18を圧縮する。カム当接スプリング18が圧縮されると、カム当接スプリング18の付勢力の反力として、当接子9cは、より強い力で第2底面63bに対して押圧される。よって、当接子9cと第2底面63bとの間の摩擦力、すなわち動摩擦力及び静止摩擦力が増大する。そのため、回転駆動機構30が図7(E)の状態に遷移しても、当接子9cは、M1点から移動しない。言い換えると、スライダ9は回転せず、カム当接スプリング18においてねじれ方向の弾性エネルギーが蓄積される。
次いで、次の筆記圧が加わると、図6(A)の状態から図6(B)の状態へ遷移する。このとき、筆記芯7を介して中継部材12が後方へ移動することから、中継部材12に連結されたカム当接スプリング18が相対的に伸張し、当接子9cを第2底面63bに対して押圧するカム当接スプリング18の付勢力が軽減する。その瞬間、カム当接スプリング18の蓄積された弾性エネルギーの解放によるねじれ戻りのトルクが、当接子9cと第2底面63bとの間の最大静止摩擦力を超え、当接子9cを回転させる。その結果、当接子9cが、第2底面63bの領域Mを摩擦力に抗して摺動し、M2点に到達する。それによって、スライダ9の回転の位相は、回転子40の回転の位相と再び一致し、当接子9cは、回転駆動機構30のカム面に沿った軌跡Tを辿る運動に復帰する。
ここで、仮に、領域Mにおける当接子の挙動を特許文献4に記載されたシャープペンシルに適用し、当接子を有するスライダが中継部材を介して直接的に連結されている場合を考える。筆記圧を解除して、カム当接スプリングの付勢力によって、当接子がM1点で第2底面に当接すると、増大した動摩擦力及び静止摩擦力のため、M2点まで摺動することができない。よって、スライダに連結された回転駆動機構の回転が阻害され、筆記芯を十分に回転させることができない。さらに、特許文献4に記載されたシャープペンシルでは、上述した実施形態のシャープペンシル1における環状カム面62に相当するカム面は、周方向に沿ってせり上がるカム面である。よって、当接子は、カム当接スプリングを圧縮させながらカム面を移動することになることから、当接子とカム面との間でより動摩擦力及び静止摩擦力が増大し、回転駆動機構の回転がより阻害される。
当接子とカム面との間で動摩擦力及び静止摩擦力を低減させるために、カム当接スプリングとしてより小さいばね定数のコイルスプリングを使用し、カム当接スプリングの付勢力を小さくすることが考えられる。しかしながら、付勢力の小さいカム当接スプリングを使用すると、回転駆動機構の回転が阻害されなくなるが、芯繰り出し機構において、筆記芯を繰り出す力が弱くなる。その結果、筆記芯が繰り出されなくなる虞もあるため、或る程度の大きさのばね定数のコイルスプリングである必要がある。
他方、上述した実施形態のシャープペンシル1では、筆記芯7を繰り出す力又はそれ以上の力が得られるばね定数を有するコイルスプリングをカム当接スプリング18として使用することができる。したがって、シャープペンシル1では、回転駆動機構30の回転を阻害しないように構成されているにもかかわらず、動作が確実な精度の高い筆記芯7の繰り出し動作を実現することができる。さらに、環状カム面62が軸線方向に対して垂直に形成されていることから、カム当接スプリング18の付勢力に抗する方向の分力を受けることはなく、回転駆動機構30の回転がそれによって阻害されることはない。
要するに、特許文献4に記載されたシャープペンシルでは、回転子からスライダへの回転駆動力の伝達が剛体を介して行われているのに対し、上述した実施形態のシャープペンシル1では、回転子40からスライダ9への回転駆動力の伝達が、コイルスプリングであるカム当接スプリング18を介して、すなわち弾性部材を介して行われている。したがって、上述したように、動摩擦力及び静止摩擦力の増大時には、弾性部材に弾性エネルギーを蓄積し、その後、動摩擦力及び静止摩擦力の低減時に、弾性部材に蓄積した弾性エネルギーを解放することができる。それによって、回転駆動機構30の回転子40の回転運動を阻害することなく、スライダ9及び当接子9cを適切なタイミングで回転運動させることができる。
なお、回転子40からスライダ9への回転駆動力の伝達を行う弾性部材として、ねじれ方向の弾性エネルギーを蓄積することができれば任意の構成及び材料を採用し得る。したがって、弾性部材として、ねじりばね以外に、例えば筒状のエラストマーであってもよい。