以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン、及び、制御装置は例示である。
図1は、エンジンを例示する図である。図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17を有している。燃焼室17は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返す。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。このエンジン1は、高オクタン価燃料、及び、低オクタン価燃料の両方を使用できる。高オクタン価燃料のオクタン価は、例えば100であり、低オクタン価燃料のオクタン価は、例えば91である。自動車の利用者は、後述する燃料タンク63に、高オクタン価燃料又は低オクタン価燃料を給油することができる。利用者はまた、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、低オクタン価燃料を注ぎ足すことができ、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価燃料を注ぎ足すこともできる。オクタン価の異なる燃料を注ぎ足すと、エンジン1の使用燃料のオクタン価は、中間のオクタン価になる。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
シリンダブロック12に、複数のシリンダ11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、一つのシリンダ11のみを示す。
各シリンダ11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13は、燃焼室17を形成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高める必要がない。エンジン1の幾何学的圧縮比は低い。幾何学的圧縮比が低いと、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が発生するような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気弁21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気弁22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃焼室17の天井部(つまり、シリンダヘッド13の下面)に配設されている。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型である。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。インジェクタ6及び燃料供給システム61は、燃料供給部を構成する。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62は、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いにつないでいる。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を送る。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から送られた燃料を蓄える。コモンレール64の中は高圧である。インジェクタ6は、コモンレール64につながっている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64の中の高圧の燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでいる。点火プラグ25は、点火部の一例である。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入する吸気のガスは、吸気通路40の中を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端の近くには、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐している。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度が変わることによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力を高める。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される。過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式である。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達する状態と、駆動力の伝達を遮断する状態とを切り替える。後述するECU10が電磁クラッチ45に制御信号を出力することによって、過給機44はオン又はオフになる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気のガスを冷却する。インタークーラー46は、水冷式又は油冷式である。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44がオフの場合に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気のガスは、過給機44及びインタークーラー46をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に至る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44がオンの場合、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44がオンの場合に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44及びインタークーラー46を通過した吸気のガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に戻る。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力が変わる。尚、「過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える状態をいい、「非過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる状態をいう、と定義してもよい。
エンジン1は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、燃焼室17内にスワール流を発生させる。スワールコントロール弁56は、開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。燃焼室17から排出された排気ガスは、排気通路50の中を流れる。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。排気ガス浄化システムは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させる通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における二つの触媒コンバーターの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54は、外部EGRガスの還流量を調節する。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1-SW11が接続されている。センサSW1-SW11は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する。エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第2吸気温度センサSW3は、燃焼室17に導入される吸気のガスの温度を計測する。第2吸気温度センサSW3は、サージタンク42に取り付けられている。
吸気圧センサSW4は、燃焼室17に導入される吸気のガスの圧力を計測する。吸気圧センサSW4は、サージタンク42に取り付けられている。筒内圧センサSW5は、各燃焼室17内の圧力を計測する。筒内圧センサSW5は、シリンダ11毎に、シリンダヘッド13に取り付けられている。水温センサSW6は、冷却水の温度を計測する。水温センサSW6は、エンジン1に取り付けられている。
クランク角センサSW7は、クランクシャフト15の回転角を計測する。クランク角センサSW7は、エンジン1に取り付けられている。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダル機構に取り付けられている。吸気カム角センサSW9は、吸気カムシャフトの回転角を計測する。吸気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられている。排気カム角センサSW10は、排気カムシャフトの回転角を計測する。排気カム角センサSW10は、エンジン1に取り付けられている。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に貯留する燃料の量を計測する。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に取り付けられている。
ECU10は、これらのセンサSW1-SW11の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。
ECU100は、制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出エミッション性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
図3は、SPCCI燃焼時における、燃焼室17内の圧力変化301を例示している。図3の横軸は、クランク角である。図3は、筒内圧センサSW5の計測信号に相当する。SPCCI燃焼は、次のような燃焼形態である。つまり、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼を開始する。SI燃焼の開始後、(1)SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、(2)火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することにより、自己着火タイミングθciにおいて未燃混合気が自己着火し、CI燃焼をする。SPCCI燃焼における圧力波形は、SI燃焼による山に、CI燃焼による山が積み重なったような形状になる。圧力波形は、自己着火タイミングθciにおいて変曲点を有する。筒内圧センサSW5が燃焼室17内の圧力波形を計測することにより、ECU10は、その圧力波形の形状に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が行われたか否かを判断できる。
SI燃焼の燃焼量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収できる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、SI燃焼の燃焼量が調節される。ECU10が点火タイミングを調節すれば、混合気は目標のタイミングで自己着火する。SPCCI燃焼は、SI燃焼の燃焼量がCI燃焼の開始タイミングをコントロールしている。
(エンジンの運転領域)
図4は、エンジン1の制御マップ401を例示している。制御マップ401は、ECU10のメモリ102に記憶されている。ECU10は、制御マップ401に基づいて、エンジン1を運転する。
制御マップ401は、エンジン1の負荷及びエンジン1の回転数によって規定されている。制御マップ401は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の四つの領域に分かれる。領域A1は、Naよりも回転数が高い領域である。領域A2は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLaよりも低い領域である。領域A3は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLa以上の領域である。尚、Laは、エンジン1の最高負荷の1/2負荷としてもよい。領域A4は、領域A2内において、低負荷低回転側の特定の領域である。領域A4は、エンジン1の全運転領域において、低回転低負荷の特定領域に相当する。尚、ここでいう「低回転」は、エンジン1の全運転領域を低回転側と高回転側とに二等分した場合の、低回転側に対応する。「低負荷」は、エンジン1の全運転領域を低負荷側と高負荷側とに二等分した場合の、低負荷側に対応する。
エンジン1の負荷及び回転数によって定まる運転状態が、領域A1内にある場合、ECU10は、SI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。混合気の空燃比は、三元触媒511及び513の浄化ウインドウに含まれればよい。尚、空燃比は、燃焼室17の全体における平均の空燃比である。
エンジン1の運転状態が、領域A2内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A2内にある場合、過給機44はオフである。エンジン1の運転状態が、領域A3内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A3内にある場合、過給機44はオンである。
エンジン1の運転状態が、領域A4内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンである。燃焼室17の全体における平均の空燃比は、具体的には、30以上40以下である。エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、過給機44はオフである。また、エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、ECU10はまた、吸気弁21及び排気弁22が共に開弁するオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。これにより、燃焼室17の中の温度が高くなる。エンジン1の負荷が低い領域A4において、燃焼室17の中の温度が高いことによりSPCCI燃焼のCI燃焼が安定化する。
ECU10のメモリ102は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の各領域について定められた制御セットを記憶している。制御セットは、燃料の噴射タイミング、点火タイミング、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度のそれぞれに関する制御量を少なくとも含んでいる。ECU10は、各種のセンサSW1-SW11の計測信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、エンジン1の運転状態と制御マップ401とに基づいて、対応する制御セットに従って、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、及び、スワールコントロール弁56を制御する。
このエンジン1はまた、前述したように、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料の両方を使用可能である。メモリ102は、各領域について、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットと、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットとの二種類の制御セットを記憶している。第1制御セット及び第2制御セットは、燃料のオクタン価に対応して、燃費及び排気エミッション性能が最適になるよう、設定されている。例えば第1制御セットの点火タイミングは、第2制御セットの点火タイミングよりも進角側に設定されている。ECU10は、後述する制御によって、燃料のオクタン価を判定すると共に、判定した燃料のオクタン価に対応する制御セットを選択して、エンジン1の運転を制御する。
(燃料のオクタン価の判定ロジック)
次に、図5及び図6を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジックについて説明をする。この判定ロジックは、SPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
ここで、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室17内で発生した熱量をアシスト熱量とする。SPCCI燃焼において、未燃混合気は、アシスト熱量を受けて自己着火する。燃料のオクタン価が低いと、当該燃料は自己着火しやすいため、アシスト熱量は少ない。逆に、燃料のオクタン価が高いと、当該燃料は自己着火しにくいため、アシスト熱量は多い。アシスト熱量と燃料のオクタン価との間には、相関がある。
図5は、アシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を示すグラフ501を例示している。グラフ501は、本願発明者らが、エンジン1の運転状態(つまり、エンジン1の負荷、及び、環境温度)を変えながら実験を行うことによって得られたグラフである。グラフ501は、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のグラフである。
グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入したガス量で割った値である。燃焼室17内に導入されるガス量は、エンジン1の運転状態に応じて変化する。エンジン1の負荷が高くなると、燃焼室17内に導入されるガス量は増える。グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入されるガス量によって正規化している。
ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて燃焼室17内で発生した熱量を算出できる。ECU10は、図3に示すように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、点火プラグ25が混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングθciまでに、燃焼室17内で発生したアシスト熱量Qsaを算出する。
グラフ501の横軸は、未燃混合気が自己着火したタイミングθciである。未燃混合気が自己着火すると、圧力変化(dP/dθ)が変わる。ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、自己着火タイミングθciを特定できる。
また、前述したように、ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が発生したことを把握できる。
グラフ501の丸は、エンジン1が運転する環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが最大の場合の計測値であり、グラフ501の三角は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501のひし形は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。また、グラフ501の四角は、環境温度が、標準よりも高い酷暑でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501の逆三角は、環境温度が酷暑でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。
グラフ501において直線5011-5015で示すように、正規化されたアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの間には相関がある。つまり、各直線5011-5015は全て、右上がりである。アシスト熱量Qsaが多いと、自己着火タイミングθciが遅角し、アシスト熱量Qsaが少ないと、自己着火タイミングθciが進角する。また、その相関関係は、エンジン1の運転状態毎に成立する。つまり、直線5011-5015は、エンジン1の運転状態毎に異なる。
ここで、環境温度の高低について比較をする。環境温度が高い場合(直線5014)は、環境温度が低い場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。環境温度が高いと、燃焼室17の中に導入される吸気の温度が高い。吸気温度が高いと、燃焼室17の中の温度が高くなって未燃混合気が自己着火しやすい。このため、吸気温度が高いと、アシスト熱量Qsaは小さい。
次に、充填効率Ceの大小について比較をする。充填効率Ceが大きい場合、つまり、エンジン1のトルクが大きい場合(直線5011、5012)は、充填効率Ceが小さい場合、つまり、エンジン1のトルクが小さい場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。燃焼室17の中に導入する空気量が多いと、当該空気の圧縮に伴い、燃焼室17の中の温度が、より高くなる。燃焼室17の中の温度が高くなると、未燃混合気は自己着火しやすい。そのため、充填効率Ceが大きいと、アシスト熱量Qsaは小さい。
グラフ501において、各運転状態におけるアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの計測値を直線の統計モデルによって表現すると共に、当該直線の、特定クランク角(特定CA、例えば15°ATDC)における切片を、各運転状態におけるモデルの代表値と定める。以下において、この代表値を、「等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)」と呼ぶ。
図5のグラフ501は、前述したように、使用燃料が低オクタン価燃料である場合の、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を例示している。図示は省略するが、本願発明者らは、使用燃料が高オクタン価燃料である場合も同様に、エンジン1の運転状態毎に、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの相関関係が成立することを確認した。
図6は、グラフ501等に基づいて作成されるグラフ601を例示している。グラフ601の縦軸は、前述した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)である。グラフ601の横軸は、充填効率Ceである。グラフ601は、エンジン1のさまざまな運転状態のデータを含んでいる。グラフ601はまた、使用燃料が高オクタン価燃料である場合のデータと、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のデータとを含んでいる。
グラフ601の黒丸は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合のデータであり、グラフ601の四角は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601の白丸は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合の結果であり、グラフ601の三角は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601のバツ印は、使用燃料が高オクタン価燃料の場合に、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットによって、エンジン1の運転を制御した場合のデータである。
グラフ601において曲線6011-6014で示すように、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの間には相関がある。つまり、充填効率Ceが高いと、空気の圧縮に伴い燃焼室17の中の温度が大きく上昇するから、等価温度上昇量は小さくなり、逆に、充填効率Ceが低いと、等価温度上昇量が大きくなる。曲線6011-6014は全て、右下がりになる。また、高オクタン価燃料の使用時の曲線6011、6012と、低オクタン価燃料の使用時の曲線6013、6014とは相違する。同一の充填効率Ceで比較した場合に、高オクタン価燃料の使用時は、低オクタン価燃料の使用時よりも、未燃混合気が自己着火しにくいため、等価温度上昇量は大きい。
また、等価温度上昇量と充填効率との相関関係は、環境温度毎に成立する。つまり、同一の充填効率Ceで、酷暑時の曲線6012、6014と、標準時の曲線6011、6013とを比較した場合に、酷暑時は燃焼室17の中の温度がより高くなるため、標準時よりも、等価温度上昇量が小さい。
グラフ601に示すように、使用燃料が高オクタン価燃料の場合の曲線6011、6012と、使用燃料が低オクタン価燃料の場合の曲線6013、6014とは異なる。そこで、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている場合に、ECU10が、各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と、充填効率Ceとを算出すると共に、グラフ601において、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と充填効率Ceとの点が、どこにプロットできるか、に基づいて、ECU10は、燃料のオクタン価を判定することができる。
つまり、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6011の上に載れば、ECU10は、使用燃料が高オクタン価燃料であると判断できる。また、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6013の上に載れば、ECU10は、使用燃料が低オクタン価燃料であると判断できる。
また、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に低オクタン価燃料を注ぎ足す、又は、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に高オクタン価燃料を注ぎ足すと、燃料のオクタン価は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料との中間のオクタン価になる。この場合、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))と充填効率Ceとの点は、グラフ601における曲線と曲線との間にプロットされる。ECU10は、線形補間によって、燃料のオクタン価、つまり、中間のオクタン価を判定することができる。
(オクタン価判定の手順)
図7は、燃料のオクタン価を判定する判定装置の構成を例示している。判定装置は、アシスト熱量算出部105、フィッティング部106、等価温度上昇量算出部107、自着火特性算出部108、オクタン価判定部109、制御セット選択部110を備えている。これらの各部は、ECU10の機能ブロックである。判定装置は、エンジン1の運転中に、オクタン価の判定を逐次行う。
アシスト熱量算出部105は、前述したアシスト熱量Qsaを算出する。アシスト熱量算出部105は、筒内圧センサSW5を含む各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する(図3も参照)。アシスト熱量算出部105は、燃焼室17の中で燃焼が行われる度にアシスト熱量Qsaを算出する。
フィッティング部106は、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係から、図5に示した統計モデルの直線を定める。具体的に、フィッティング部106は、符号111のグラフに例示するように、縦軸を正規化したアシスト熱量Qsaとし、横軸を自己着火タイミングθciとした平面上に、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点をプロットする(グラフ111の黒丸参照)。フィッティング部106は、プロットした複数の点に基づいて、直線、つまり、統計モデルを定める。フィッティング部106は、例えば最小二乗法により直線を定めてもよい。尚、直線の傾きを所定の傾きに固定しておき、フィッティング部106は、直線の切片のみを定めてもよい。こうすることで、フィッティング部106の演算量が少なくなる。
等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線に基づいて、特定CAの切片である等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)を算出する(グラフ111の白丸参照)。具体的に等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線と、特定CAの縦線との交点を算出する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、メモリ102に記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出する。マップ112は、図6に示すグラフ601を90°だけ反時計回りに回転させたものである。マップ112は、当該エンジン1について実験またはシミュレーションを行うことにより予め作成されかつ、メモリ102に記憶されている。マップ112は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が標準条件である場合の第1特性線と、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が酷暑条件である場合の第2特性線と、を含んでいる。第1特性線は、混合気が最も自己着火しにくい場合に相当し、第2特性線は、混合気が最も自己着火しやすい場合に相当する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、充填効率Ceとの関係を示す点をマップ112にプロットし(マップ112の黒丸参照)、当該点を通る曲線を算出する(マップ112の破線参照)。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線から第2特性線までの間に定まる。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線に一致する場合、及び、第2特性線に一致する場合もある。
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。より詳細に、オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいて、燃料のオクタン価を推定する。オクタン価判定部109はまた、今回推定したオクタン価を、メモリ102に記憶しているオクタン価に反映させることにより、メモリ102に記憶するオクタン価を更新する。オクタン価判定部109は、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている間は、オクタン価の更新を逐次行う。
先ず、オクタン価判定部109によるオクタン価の推定について説明する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、第1特性線に一致する場合は、使用燃料は、高オクタン価であると推定する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、第2特性線に一致する場合は、使用燃料は、低オクタン価であると推定する。
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線が、図7に破線で例示するように、第1特性線と第2特性線との間に位置する場合は、燃料のオクタン価を線形補間により算出する(図7の矢印参照)。この場合、オクタン価判定部109は、使用燃料は、高オクタン価と低オクタン価との中間のオクタン価であると推定する。
ここで、オクタン価判定部109は、オクタン価の推定の際に、温度補正を行う。つまり、吸気温度が高い場合、及び/又は、エンジン1の水温が高い場合は、燃焼室17の中のガスの温度が高くなるため、混合気は自着火しやすい。この場合、燃料のオクタン価が、見かけ上、低くなる。オクタン価判定部109は、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、推定したオクタン価を補正する。具体的に、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が高いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が高くなるように補正する。吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が低いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が低くなるように補正する。
尚、オクタン価判定部109が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて推定したオクタン価を補正する代わりに、自着火特性算出部108が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、自着火特性を補正してもよい。
オクタン価判定部109は、オクタン価を推定すれば、推定したオクタン価に一次遅れフィルタによるフィルタ処理を行って、オクタン価を更新する。メモリ102は、更新されたオクタン価を記憶する。フィルタ処理を行うことによって、メモリ102に記憶されるオクタン価の値が大きく変動することが抑制される。エンジン1におけるSPCCI燃焼の安定化に有利である。
制御セット選択部110は、オクタン価判定部109が更新した燃料のオクタン価に基づいて、エンジン1の運転制御に用いる制御セットを選択する。具体的に、制御セット選択部110は、更新された燃料のオクタン価が、低オクタン価よりも高オクタン価に近い場合は、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットを選択し、更新された燃料のオクタン価が、高オクタン価よりも低オクタン価に近い場合は、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択する。
尚、制御セット選択部110は、更新された燃料のオクタン価が中間のオクタン価である場合、第1制御セットの制御量と、第2制御セットの制御量との中間値を、各デバイスの制御量に定めてもよい。
ECU10は、燃料のオクタン価に応じて選択された制御セットに従って、少なくとも、インジェクタ6の燃料噴射タイミング、点火プラグ25の点火タイミング、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度をそれぞれ制御する。その結果、エンジン1は、使用燃料のオクタン価に応じて、常に、燃費及び排気エミッション性能が最適になる。また、使用燃料のオクタン価にかかわらず、エンジン1は、燃焼騒音を抑制できる。
図8は、ECU10が実行する制御であって、燃料のオクタン価を判定する手順を例示している。図8のフローは、イグニッションをオンにするとスタートする。スタート後のステップS1において、ECU10は、メモリ102に記憶されているオクタン価に基づいて、対応する制御セットを選択し、エンジン1の運転を制御する。
続くステップS2において、ECU10は、筒内圧センサSW5からの計測信号、つまり、燃焼室17の中の圧力波形の情報を取得する。
ステップS3においてECU10は、図3に例示する圧力波形に基づいて、自己着火タイミングθciを算出し、続くステップS4において、ECU10は、圧力波形に基づいて、SPCCI燃焼が行われたか否かを判断する。ステップS4の判断がYESの場合、プロセスはステップS5に進み、NOの場合、プロセスはリターンする。燃料のオクタン価の判定は、SPCCI燃焼時のみ、実行可能である。
ECU10はまた、エンジン1の運転状態が、領域A2又は領域A3にある場合に、燃料のオクタン価の判定を行ってもよい(図4参照)。ECU10は、エンジン1の運転状態が、領域A4にある場合、換言すると、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンである場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。こうすることでECU10は、燃料のオクタン価を精度良く判定できる。
ステップS5においてECU10は、充填効率Ceが下限値以上であるか否かを判断する。図6に例示するように、等価温度上昇量と充填効率との関係において、充填効率Ceが低いと、曲線6011-6014が互いに近づいてしまう。この場合、ECU10は、燃料のオクタン価を誤判定する恐れがある。そこで、ECU10は、充填効率Ceが下限値よりも小さい場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。オクタン価の判定可能な下限負荷が存在する。ステップS5の判断がYESの場合、プロセスはステップS6に進み、ステップS5の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。このことにより、使用燃料のオクタン価の誤判定が抑制される。
ステップS6において、ECU10は、前述したように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する。続くステップS7において、ECU10は、算出されたアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点に基づいて、直線の統計モデルを定める(図7のグラフ111参照)。つまり、ECU10は、複数の点に対して直線をフィットさせる。
ステップS8においてECU10は、ステップS7で定めた直線の統計モデルに基づいて、当該直線の、特定CAにおける切片である等価温度上昇量を算出する。そして、ステップS9においてECU10は、算出した等価温度上昇量と、メモリ102が記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出すると共に、自着火特性から、燃料のオクタン価を推定する(ステップS10)。ステップS11においてECU10は、推定したオクタン価にフィルタ処理を行って、メモリ102に記憶するオクタン価を更新する。ステップS12においてECU10は、更新したオクタン価に基づいて、制御セットを選択する。
このオクタン価の判定ロジックは、SPCCI燃焼の特性を利用している。混合気がSPCCI燃焼すれば、ECU10は、燃焼に関係する燃焼パラメータに基づいて、使用燃料のオクタン価を判定できる。ノッキングが発生しなくても、ECU10は、使用燃料のオクタン価を判定できる。ECU10は、速やかに、使用燃料のオクタン価を判定できる。また、ECU10は、エンジン1の運転中に、使用燃料のオクタン価を逐次、判定できる。
また、ECU10は、図6に示すように、燃焼室17の中に導入する空気量(つまり、充填効率Ce)と算出したアシスト熱量(つまり、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量))との関係に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。このことによって、ECU10は、使用燃料のオクタン価を、精度良く判定できる。
また、ECU10は、燃焼室17の中に導入される吸気温度に基づいて、燃料のオクタン価を補正するため、ECU10は、使用燃料のオクタン価を、より精度良く判定できる。
また、ECU10は、エンジン1の冷却水の温度に基づいて、使用燃料のオクタン価を補正するため、ECU10は、使用燃料のオクタン価を、より精度良く判定できる。
尚、ECU10は、燃焼室17の中に導入するEGRガス量に基づいて、使用燃料のオクタン価を補正してもよい。EGRガスが多いと、燃焼室17の中の温度が高くなるから、未燃混合気は自己着火しやすい。EGRガスの導入割合に基づいて、使用燃料のオクタン価を補正すれば、ECU10は、使用燃料のオクタン価を、より精度良く判定できる。
また、エンジン1の負荷が下限負荷よりも低い場合に、ECU10は、使用燃料のオクタン価の判定を禁止することにより、ECU10は、使用燃料のオクタン価の誤判定を抑制できる。
(オクタン価の判定を速やかに行うための構成)
前述したように、ECU10は、混合気がSPCCI燃焼すれば、燃料のオクタン価を判定できる。言い換えると、ECU10は、混合気がSPCCI燃焼をしない場合は、燃料のオクタン価を判定できない。
ここで、燃料タンク63内の燃料のオクタン価が、低オクタン価から高オクタン価へ変化した場合を考える。例えば、低オクタン価の燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価の燃料が給油されると、燃料のオクタン価は、低から高へ変化する。
燃料タンク63内の燃料のオクタン価が低い間、ECU10は、点火のタイミングを、低いオクタン価に応じて遅角側に設定している。この状態で、燃料のオクタン価が、低オクタン価から高オクタン価へ変化すると、点火のタイミングが遅角側に設定されているため、相対的に着火しにくい高オクタン価燃料の混合気は自己着火しない、又は、自己着火しにくい。つまり、エンジン1はSPCCI燃焼しない。ECU10は、燃料のオクタン価を判定できない。オクタン価の判定ができないと、点火のタイミングが、低オクタン価の燃料に対応した遅角側のタイミングに維持されてしまい、オクタン価の判定が、さらに遅れてしまう。
このエンジン1の制御装置は、給油後に、オクタン価の判定を速やかに行うように構成されている。具体的に図9は、給油後のオクタン価の判定に適応した判定装置の構成を例示している。判定装置は、頻度判定部121と、進角限界設定部122と、点火進角部123と、オクタン価判定部109とを備えている。オクタン価判定部109は、図7に示すオクタン価判定部109に対応する。
頻度判定部121は、混合気が自己着火をした頻度を判定する。換言すると、頻度判定部121は、混合気が自己着火をしてSPCCI燃焼が行われた頻度を判定する。頻度判定部121は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、混合気が自己着火をしたか否かを判断する。SPCCI燃焼が行われた頻度は、全燃焼サイクル数に対する、SPCCI燃焼が行われた回数の割合である。
頻度判定部121はまた、メモリ102に記憶されているマップに基づいて、その頻度が予め設定した閾値を下回るか否かを判断する。図11は、マップ1101の一例である。マップ1101は、エンジン1の負荷及び回転数によって規定される運転領域に基づいて設定されている。具体的にマップ1101は、前述したSPCCI燃焼を行う領域A2及びA3について、運転状態毎に、閾値を定めている。より詳細に、マップ1101においては、回転数が低い場合は、頻度の閾値が、0.2(20%)であり、中回転の高負荷の場合は、頻度の閾値が、0.3(30%)であり、中回転の低負荷の場合は、頻度の閾値が、0.1(10%)である。尚、図11の数字は一例である。
頻度判定部121は、エンジン1の運転状態に基づいて、SPCCI燃焼が行われた頻度が、設定された閾値を下回る場合、SPCCI燃焼を行う運転領域において、SPCCI燃焼が行われていないと判断する。頻度判定部121は、エンジン1の運転状態に基づいて、SPCCI燃焼が行われた頻度が、設定された閾値以上の場合、SPCCI燃焼を行う運転領域において、SPCCI燃焼が行われていると判断する。
燃焼室17内の状態(例えば、温度、圧力、ガス流動等の状態を含む)が、サイクル毎にばらつくことに起因して、設定された点火タイミングと燃料のオクタン価とが対応していても、火炎伝播による燃焼が開始した後に、自己着火による燃焼が生じないこともあり得る。頻度判定部121が自己着火による燃焼の頻度を判断すると共に、その頻度が予め設定した閾値を下回る場合に、自己着火による燃焼が生じていないと判断する。頻度を判断基準にすることにより、ECU10は、燃焼室17内の状態のばらつきを考慮して、エンジン1がSPCCI燃焼を行っていないことを、的確に判断できる。
また、エンジン1の運転状態に応じて、燃焼室17内の状態のばらつき度合いが変わると共に、自己着火による燃焼の頻度も変化する。閾値をエンジン1の運転状態毎に設定することで、ECU10は、エンジン1がSPCCI燃焼を行っているか否かを、より適切に判断できる。
点火進角部123は、頻度判定部121が、SPCCI燃焼が行われていないと判断した場合に、設定されている点火のタイミングを進角させる。点火のタイミングを進角させることにより、SI燃焼の開始が早まるため、混合気は自己着火しやすくなる。つまり、エンジン1がSPCCI燃焼を行って、ECU10は燃料のオクタン価を判断できる。
後述するように、点火進角部123は、エンジン1がSPCCI燃焼を行うようになるまで、点火のタイミングの進角を繰り返す。点火タイミングの、一回当たりの進角幅を比較的大きくすると、ECU10は、燃料のオクタン価を速やかに判断できる。進角幅は、燃焼騒音が大きくなりすぎない限度で設定される。
進角限界設定部122は、点火タイミングの進角限界を設定する。進角限界設定部122は、メモリ102に記憶されているマップ1201に基づいて、エンジン1の運転状態に応じて、進角限界を設定する。図12は、進角限界のマップ1201の一例を示している。マップ1201のSPCCI燃焼を行う領域A2及びA3において、低負荷の場合は、進角限界が大に設定され、中負荷の場合は、進角限界が中に設定され、高負荷の場合は、進角限界が小に設定される。ここで、「大」は、進角限界が最も進角側に設定されることを意味し、「小」は、進角限界が最も遅角側に設定されることを意味し、「中」は、進角限界がその中間に設定されることを意味する。エンジン1の負荷が高い場合に、点火のタイミングを進角させ過ぎると、燃焼騒音の増大、及び/又は、異常燃焼の発生を招く恐れがある。そのため、エンジン1の負荷が高いほど、点火タイミングの進角量が制限される。
点火進角部123が点火のタイミングを進角することによって、SPCCI燃焼が行われると、オクタン価判定部109は、前述したように、アシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとに基づいて、燃料のオクタン価を判定する(図8参照)。オクタン価判定部109が燃料のオクタン価を判定すれば、前記の制御セット選択部110は、判定されたオクタン価に基づいて、対応する制御セットを選択できる。この場合、設定される点火タイミングと、燃料のオクタン価とが対応するため、エンジン1は、SPCCI燃焼を、安定的に行う。
図10は、給油後のオクタン価の判定に関して、ECU10が実行するフローチャートを例示している。先ずスタート後のステップS101において、ECU10は、現在のオクタン価、つまり、メモリ102に記憶しているオクタン価と、当該オクタン価に対応する点火タイミングに基づいて、エンジン1の制御を実行する。続くステップS102において、ECU10は、筒内圧センサSW5からの圧力データを取得し、ステップS103において、その圧力波形から自着火タイミングθciを算出する。つまり、ECU10は、圧力波形に基づいてSPCCI燃焼が行われたか否かを判断する。ステップS104において、ECU10は、SPCCI燃焼の発生頻度を算出する。
ステップS105において、ECU10は、算出した発生頻度が、エンジン1の運転状態に対応する閾値以上であるか否かを判断する。ステップS105の判断がYESの場合、プロセスはステップS107に進む。ステップS105の判断がNOの場合、プロセスはステップS106に進む。
ステップS106において、ECU10は、点火タイミングの進角量が、エンジン1の運転状態に対応する進角限界未満であるか否かを判断する。ステップS106の判断がYESの場合、プロセスはステップS108に進む。ステップS106の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。尚、点火タイミングを進角限界まで進角させれば、エンジン1に何らかの異常が発生していない限り、SPCCI燃焼が行われる。
ステップS108においてECU10は、予め定めた所定量だけ、点火のタイミングを進角させる。その後にプロセスは、リターンする。点火タイミングを進角させれば、混合気は自着火しやすい。その結果、SPCCI燃焼の頻度が閾値以上になれば、ステップS105の判断がYESになる。SPCCI燃焼の頻度が閾値以上になるまで、ステップS108において、点火タイミングが進角される。
そして、ステップS107において、ECU10は、SPCCI燃焼のアシスト熱量Qsaと、自己着火タイミングθciとに基づいて、燃料のオクタン価を判定する。使用燃料のオクタン価を判定すれば、ECU10は、前述したように、オクタン価に対応する制御セットを選択する。給油後に使用燃料のオクタン価が高ければ、ECU10は、第1制御セットを選択する。第1制御セットは、点火タイミングが相対的に進角側に設定されているため、エンジン1は、SPCCI燃焼を行うようになる。
こうして、燃料タンク63に給油がされて、使用燃料のオクタン価が高くなった後、ECU10が、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットから、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットを選択し直せば、SPCCI燃焼が安定的に行われるため、ステップS104の判断がYESになる。この場合、ステップS106の点火タイミングの進角は行われない。
また、燃料タンク63に給油がされて、使用燃料のオクタン価が低くなった場合、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットが選択されているため、混合気は自着火しやすい。そのため、ECU10は、使用燃料のオクタン価の判定を速やかに実行することができる。この場合、給油後の、ステップS106の点火タイミングの進角は行われない。ECU10は、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットから、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択し直すため、SPCCI燃焼が安定的に行われる。
尚、ここに開示するエンジンの制御装置は、前述した構成のエンジン1への適用に限定されない。ここに開示するエンジンの制御装置は、SPCCI燃焼が可能な、様々な構成のエンジンに適用可能である。