以下、エンジンの制御装置に関する実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明は、エンジン、及び、エンジンの制御装置の一例である。
図1は、圧縮着火式のエンジンシステムの構成を例示する図である。図2は、エンジンの燃焼室の構成を例示する図である。尚、図1における吸気側は紙面左側であり、排気側は紙面右側である。図2における吸気側は紙面右側であり、排気側は紙面左側である。図3は、エンジンの制御装置の構成を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって、自動車は走行する。
エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。このエンジン1は、高オクタン価燃料、及び、低オクタン価燃料の両方を使用できる。高オクタン価燃料のオクタン価は、例えば100であり、低オクタン価燃料のオクタン価は、例えば91である。自動車の利用者は、後述する燃料タンク63に、高オクタン価燃料又は低オクタン価燃料を給油することができる。利用者はまた、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、低オクタン価燃料を注ぎ足すことができ、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価燃料を注ぎ足すこともできる。オクタン価の異なる燃料を注ぎ足すと、エンジン1の使用燃料のオクタン価は、中間のオクタン価になる。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを備えている。シリンダブロック12の内部に複数のシリンダ11が形成されている。図1及び図2では、一つのシリンダ11のみを示す。エンジン1は、多気筒エンジンである。
各シリンダ11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダヘッド13の下面、つまり、燃焼室17の天井面は、図2の下図に示すように、傾斜面1311と、傾斜面1312とによって構成されている。傾斜面1311は、吸気側から、後述するインジェクタ6の噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。傾斜面1312は、排気側から噴射軸心X2に向かって上り勾配となっている。燃焼室17の天井面は、いわゆるペントルーフ形状である。
ピストン3の上面は燃焼室17の天井面に向かって隆起している。ピストン3の上面には、キャビティ31が形成されている。キャビティ31は、ピストン3の上面から凹陥している。キャビティ31は、この構成例では、浅皿形状を有している。キャビティ31の中心は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側にずれている。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。しかし、このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度(つまり、圧縮端温度)を高くする必要がない。エンジン1は、幾何学的圧縮比を、比較的低く設定することが可能である。幾何学的圧縮比を低くすると、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、図示は省略するが、第1吸気ポート及び第2吸気ポートを有している。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が形成されるような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図3に示すように、可変動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13にはまた、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19も、第1排気ポート及び第2排気ポートを有している。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。この構成例では、図3に示すように、可変動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁タイミング及び閉弁タイミングは、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを長くすると、燃焼室17の中の残留ガスを掃気することができる。また、オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGR(Exhaust Gas Recirculation)ガスを燃焼室17の中に導入することができる。内部EGRシステムは、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24によって構成されている。尚、内部EGRシステムは、S-VTによって構成されるとは限らない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃料噴射部の一例である。インジェクタ6は、傾斜面1311と傾斜面1312とが交差するペントルーフの谷部に配設されている。図2に示すように、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に位置している。インジェクタ6の噴射軸心X2は、中心軸X1に平行である。インジェクタ6の噴射軸心X2とキャビティ31の中心とは一致している。インジェクタ6は、キャビティ31に対向している。尚、インジェクタ6の噴射軸心X2は、シリンダ11の中心軸X1と一致していてもよい。その構成の場合に、インジェクタ6の噴射軸心X2と、キャビティ31の中心とは一致していてもよい。
インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型の燃料噴射弁によって構成されている。インジェクタ6は、図2に二点鎖線で示すように、燃料噴霧が、燃焼室17の中央から放射状に広がるように燃料を噴射する。インジェクタ6は、本構成例においては、十個の噴孔を有しており、噴孔は、周方向に等角度に配置されている。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。インジェクタ6及び燃料供給システム61は、燃料供給部を構成する。燃料供給システム61は、燃料を貯留するよう構成された燃料タンク63と、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いに連結する燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を圧送する。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から圧送された燃料を、高い燃料圧力で蓄える。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64に蓄えられていた燃料が、インジェクタ6の噴口から燃焼室17の中に噴射される。燃料供給システム61は、30MPa以上の高い圧力の燃料を、インジェクタ6に供給することが可能である。インジェクタ6に供給する燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更してもよい。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、この構成例では、シリンダ11の中心軸X1よりも吸気側に配設されている。点火プラグ25は、2つの吸気ポート18の間に位置している。点火プラグ25は、上方から下方に向かって、燃焼室17の中央に近づく方向に傾いて、シリンダヘッド13に取り付けられている。点火プラグ25の電極は、図2に示すように、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25を、シリンダ11の中心軸X1よりも排気側に配置してもよい。また、点火プラグ25をシリンダ11の中心軸X1上に配置してもよい。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入するガスは、吸気通路40を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。エアクリーナー41は、新気を濾過する。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各シリンダ11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調節することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入するガスを過給する。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される機械式の過給機である。機械式の過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン1との間で、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達したり、駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU10が電磁クラッチ45の接続及び遮断を切り替えることによって、過給機44はオンとオフとが切り替わる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮されたガスを冷却する。インタークーラー46は、例えば水冷式又は油冷式に構成してもよい。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44をオフにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44をオンにすると、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44をオンにしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44を通過したガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入するガスの過給圧が変わる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
この構成例においては、過給機44とバイパス通路47とエアバイパス弁48とによって、過給システム49が構成されている。
エンジン1は、燃焼室17内に、スワール流を発生させるスワール発生部を有している。スワール流は、図2に白抜きの矢印で示すように流れる。スワール発生部は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、詳細な図示は省略するが、二つの吸気ポート18のうちの一方の吸気ポート18につながるプライマリ通路と、他方の吸気ポート18につながるセカンダリ通路との内の、セカンダリ通路に配設されている。スワールコントロール弁56は、セカンダリ通路の断面を絞ることができる開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、一方の吸気ポート18から燃焼室17に入る吸気流量が相対的に多くかつ、他方の吸気ポート18から燃焼室17に入る吸気流量が相対的に少ないから、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、二つの吸気ポート18のそれぞれから燃焼室17に入る吸気流量が略均等になるから、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流が発生しない。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気ガスが流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各シリンダ11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。排気ガス浄化システムは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。EGR通路52を流れるEGRガスは、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流部に入る。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54の開度を調節することによって、冷却した排気ガス、つまり外部EGRガスの還流量を調節することができる。
この構成例において、EGRシステム55は、外部EGRシステムと、内部EGRシステムとによって構成されている。外部EGRシステムは、内部EGRシステムよりも低温の排気ガスを、燃焼室17に供給することができる。
図1及び図3において、符号57は、クランクシャフト15に連結されたオルタネータ57である。オルタネータ57は、エンジン1によって駆動される。
エンジンの燃焼制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図3に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU10は、制御部の一例である。
ECU10には、図1及び図3に示すように、各種のセンサSW1~SW17が接続されている。センサSW1~SW17は、信号をECU10に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する
第1吸気温度センサSW2:吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する
第1圧力センサSW3:吸気通路40におけるEGR通路52の接続位置よりも下流でかつ、過給機44の上流に配置されかつ、過給機44に流入するガスの圧力を計測する
第2吸気温度センサSW4:吸気通路40における過給機44の下流でかつ、バイパス通路47の接続位置よりも上流に配置されかつ、過給機44から流出したガスの温度を計測する
第2圧力センサSW5:サージタンク42に取り付けられかつ、過給機44の下流のガスの圧力を計測する
筒内圧センサSW6:各シリンダ11に対応してシリンダヘッド13に取り付けられかつ、各燃焼室17内の圧力を計測する
排気温度センサSW7:排気通路50に配置されかつ、燃焼室17から排出した排気ガスの温度を計測する
リニアO2センサSW8:排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
ラムダO2センサSW9:上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ、排気ガス中の酸素濃度を計測する
水温センサSW10:エンジン1に取り付けられかつ、冷却水の温度を計測する
クランク角センサSW11:エンジン1に取り付けられかつ、クランクシャフト15の回転角を計測する
アクセル開度センサSW12:アクセルペダル機構に取り付けられかつ、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する
吸気カム角センサSW13:エンジン1に取り付けられかつ、吸気カムシャフトの回転角を計測する
排気カム角センサSW14:エンジン1に取り付けられかつ、排気カムシャフトの回転角を計測する
EGR差圧センサSW15:EGR通路52に配置されかつ、EGR弁54の上流及び下流の差圧を計測する
燃圧センサSW16:燃料供給システム61のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ6に供給する燃料の圧力を計測する
第3吸気温度センサSW17:サージタンク42に取り付けられかつ、サージタンク42内のガスの温度、換言すると燃焼室17に導入される吸気の温度を計測する。
ECU10は、これらのセンサSW1~SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。制御ロジックは、メモリ102に記憶しているマップを用いて、目標量及び/又は制御量を演算することを含む。
ECU100は、演算をした制御量に係る電気信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、スワールコントロール弁56、及び、オルタネータ57に出力する。
例えば、ECU10は、アクセル開度センサSW12の信号とマップとに基づいて、エンジン1の目標トルクを設定すると共に、目標過給圧を決定する。そして、ECU10は、目標過給圧と、第1圧力センサSW3及び第2圧力センサSW5の信号から得られる過給機44の前後差圧とに基づいて、エアバイパス弁48の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、過給圧が目標過給圧となるようにする。
また、ECU10は、エンジン1の運転状態とマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU10は、目標EGR率とアクセル開度センサSW12の信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定すると共に、EGR差圧センサSW15の信号から得られるEGR弁54の前後差圧に基づいてEGR弁54の開度を調節するフィードバック制御を行うことにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにする。
さらに、ECU10は、所定の制御条件が成立している場合に空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU10は、リニアO2センサSW8、及び、ラムダO2センサSW9が計測した排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調節する。
尚、その他のECU10によるエンジン1の制御の詳細は、後述する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出ガス性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に圧縮自己着火による燃焼を行う。自己着火による燃焼は、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
SPCCI燃焼は、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼をすると共に、SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することによって、未燃混合気が自己着火によるCI燃焼をする形態である。
SI燃焼の発熱量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収することができる。ECU10が点火時期を調節することによって、混合気を目標のタイミングで自己着火させることができる。
SPCCI燃焼において、SI燃焼時の熱発生は、CI燃焼時の熱発生よりも穏やかである。SPCCI燃焼における熱発生率の波形は、図4に例示するように、立ち上がりの傾きが、CI燃焼の波形における立ち上がりの傾きよりも小さくなる。また、燃焼室17の中における圧力変動(dp/dθ)も、SI燃焼時は、CI燃焼時よりも穏やかになる。
SI燃焼の開始後、未燃混合気が自己着火すると、自己着火のタイミングで、熱発生率の波形の傾きが、小から大へと変化する場合がある。熱発生率の波形は、CI燃焼が開始するタイミングθciで、変曲点Xを有する場合がある。
CI燃焼の開始後は、SI燃焼とCI燃焼とが並行して行われる。CI燃焼は、SI燃焼よりも熱発生が大きいため、熱発生率は相対的に大きくなる。しかし、CI燃焼は、圧縮上死点後に行われるため、熱発生率の波形の傾きが大きくなりすぎることが回避される。CI燃焼時の圧力変動(dp/dθ)も、比較的穏やかになる。
圧力変動(dp/dθ)は、燃焼騒音を表す指標として用いることができる。前述の通りSPCCI燃焼は、圧力変動(dp/dθ)を小さくすることができるため、燃焼騒音が大きくなりすぎることを回避することが可能になる。エンジン1の燃焼騒音は、許容レベル以下に抑えられる。
CI燃焼が終了することによって、SPCCI燃焼が終了する。CI燃焼は、SI燃焼に比べて、燃焼期間が短い。SPCCI燃焼は、SI燃焼よりも、燃焼終了時期が早まる。
SPCCI燃焼の熱発生率波形は、SI燃焼によって形成された第1熱発生率部QSIと、CI燃焼によって形成された第2熱発生部QCIと、が、この順番に連続するように形成されている。
ここで、SPCCI燃焼の特性を示すパラメータとして、SI率を定義する。SI率は、SPCCI燃焼により発生した全熱量に対し、SI燃焼により発生した熱量の割合に関係する指標と定義する。SI率は、燃焼形態の相違する二つの燃焼によって発生する熱量比率である。SI率が高いと、SI燃焼の割合が高く、SI率が低いと、CI燃焼の割合が高い。SI率は、CI燃焼により発生した熱量に対するSI燃焼により発生した熱量の比率と定義してもよい。つまり、SPCCI燃焼において、CI燃焼が開始するクランク角をCI燃焼開始時期θciとして、図4に示す波形801において、θciよりも進角側であるSI燃焼の面積QSIと、θciを含む遅角側であるCI燃焼の面積QCIとから、SI率=QSI/QCIとしてもよい。
(エンジンの運転領域)
図5は、エンジン1の制御に係るマップを例示している。マップは、ECU10のメモリ102に記憶されている。図5に例示するマップ504は、エンジン1の温間時のマップである。
マップ504は、エンジン1の負荷及び回転数によって規定されている。マップ504は、負荷の高低及び回転数の高低に対し、大別して三つの領域に分かれる。具体的に、三つの領域は、アイドル運転を含みかつ、低回転及び中回転の領域に広がる低負荷領域A1、低負荷領域A1よりも負荷が高い中高負荷領域A2、A3、A4、及び、低負荷領域A1、中高負荷領域A2、A3、A4よりも回転数の高い高回転領域A5である。中高負荷領域A2、A3、A4はまた、中負荷領域A2と、中負荷領域A2よりも負荷が高い高負荷中回転領域A3と、高負荷中回転領域A3よりも回転数の低い高負荷低回転領域A4とに分かれる。
ここで、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を回転数方向に、低回転領域、中回転領域及び高回転領域の略三等分にした場合の、低回転領域、中回転領域、及び、高回転領域としてもよい。図5の例では、回転数N1未満を低回転、回転数N2以上を高回転、回転数N1以上N2未満を中回転としている。回転数N1は、例えば1200rpm程度、回転数N2は、例えば4000rpm程度としてもよい。
また、低負荷領域は、軽負荷の運転状態を含む領域、高負荷領域は、全開負荷の運転状態を含む領域、中負荷は、低負荷領域と高負荷領域との間の領域としてもよい。また、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域はそれぞれ、エンジン1の全運転領域を負荷方向に、低負荷領域、中負荷領域及び高負荷領域の略三等分にした場合の、低負荷領域、中負荷領域、及び、高負荷領域としてもよい。
図5のマップ504は、各領域における混合気の状態及び燃焼形態を示している。図5のマップ504はまた、過給機44の駆動領域及び非駆動領域と、を示している。エンジン1は、低負荷領域A1、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、及び、高負荷低回転領域A4、において、SPCCI燃焼を行う。エンジン1はまた、それ以外の領域、具体的には、高回転領域A5においては、SI燃焼を行う。
(各領域におけるエンジンの運転)
以下、図5のマップ504の各領域におけるエンジン1の運転について詳細に説明をする。
(低負荷領域)
エンジン1が低負荷領域A1において運転している場合に、エンジン1は、SPCCI燃焼を行う。
エンジン1の燃費性能を向上させるために、EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。
また、スワール発生部は、燃焼室17の中に、強いスワール流を形成する。スワールコントロール弁56は、全閉又は閉じ側の所定の開度である。燃焼室17内に強いスワール流を発生させると、燃焼室17の外周部は強いスワール流れとなる一方、中央部のスワール流は相対的に弱くなる。強いスワール流が形成された燃焼室17内にインジェクタ6が燃料を噴射することにより、燃焼室17の中央部の混合気は燃料が相対的に濃く、外周部の混合気は燃料が相対的に薄くなって、混合気を成層化することができる。
インジェクタ6は、吸気行程中に、燃料を複数回、燃焼室17の中に噴射する。複数回の燃料噴射と、燃焼室17の中のスワール流とによって、混合気は成層化する。
混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比よりもリーンである(つまり、空気過剰率λ>1)。より詳細に、燃焼室17の全体において混合気のA/Fは25以上31以下である。こうすることで、RawNOxの発生を抑制することができ、排出ガス性能を向上させることができる。
燃料噴射の終了後、圧縮上死点前の所定のタイミングで、点火プラグ25は、燃焼室17の中央部の混合気に点火をする。点火時期は、圧縮行程の終期としてもよい。圧縮行程の終期は、圧縮行程を、初期、中期、及び終期に三等分した場合の終期としてもよい。
(中高負荷領域)
エンジン1が中高負荷領域A2~A4において運転している場合も、エンジン1は、低負荷領域A1と同様に、SPCCI燃焼を行う。
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。具体的に、吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、排気上死点付近において、吸気弁21及び排気弁22の両方を開弁するポジティブオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが、燃焼室17の中に導入される。また、EGRシステム55は、EGR通路52を通じて、EGRクーラー53によって冷却した排気ガスを、燃焼室17の中に導入する。つまり、内部EGRガスに比べて温度が低い外部EGRガスを、燃焼室17の中に導入する。外部EGRガスは、燃焼室17の中の温度を、適切な温度に調節する。EGRシステム55は、エンジン1の負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷において、内部EGRガス及び外部EGRガスを含むEGRガスを、ゼロにしてもよい。
混合気の空燃比(A/F)は、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。三元触媒511、513が、燃焼室17から排出された排出ガスを浄化することによって、エンジン1の排出ガス性能は良好になる。混合気のA/Fは、三元触媒の浄化ウインドウの中に収まるようにすればよい。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2としてもよい。尚、エンジン1が、全開負荷(つまり、最高負荷)を含む高負荷中回転領域A3において運転している場合には、混合気のA/Fは、燃焼室17の全体において理論空燃比又は理論空燃比よりもリッチにしてもよい(つまり、混合気の空気過剰率λは、λ≦1)。
燃焼室17内にEGRガスを導入しているため、燃焼室17の中の全ガスと燃料との重量比であるG/Fは理論空燃比よりもリーンになる。混合気のG/Fは18以上にしてもよい。こうすることで、いわゆるノッキングの発生を抑制することができる。G/Fは18以上30以下において設定してもよい。また、G/Fは18以上50以下において設定してもよい。
エンジン1の負荷が中負荷である場合に、インジェクタ6は、吸気行程中に、複数回の燃料噴射を行う。インジェクタ6は、第一噴射を吸気行程の前半に行い、第二噴射を吸気行程の後半に行ってもよい。
また、エンジン1の負荷が高負荷である場合に、インジェクタ6は、吸気行程において燃料を噴射する。
点火プラグ25は、燃料の噴射後、圧縮上死点付近の所定のタイミングで混合気に点火をする。エンジン1の負荷が中負荷である場合に、点火プラグ25は、圧縮上死点前に点火を行ってもよい。エンジン1の負荷が高負荷である場合に、点火プラグ25は、圧縮上死点後に点火を行ってもよい。
(過給機の動作)
ここで、図5のマップ504に示すように、低負荷領域A1の一部、及び、中高負荷領域A2の一部においては、過給機44はオフである(S/C OFF参照)。詳細には、低負荷領域A1における低回転側の領域において、過給機44はオフである。低負荷領域A1における高回転側の領域においては、エンジン1の回転数が高くなることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における低負荷低回転側の一部の領域において、過給機44はオフである。中高負荷領域A2における高負荷側の領域においては、燃料噴射量が増えることに対応して必要な吸気充填量を確保するために、過給機44はオンである。また、中高負荷領域A2における高回転側の領域においても過給機44はオンである。
尚、高負荷中回転領域A3、高負荷低回転領域A4、及び、高回転領域A5の各領域においては、その全域において過給機44がオンである(S/C ON参照)。
(高回転領域)
エンジン1の回転数が高いと、クランク角が1°変化するのに要する時間が短くなる。燃焼室17内において混合気を成層化することが困難になる。エンジン1の回転数が高くなると、SPCCI燃焼を行うことが困難になる。
そこで、エンジン1が高回転領域A5において運転している場合に、エンジン1は、SPCCI燃焼ではなく、SI燃焼を行う。尚、高回転領域A5は、低負荷から高負荷まで負荷方向の全域に広がっている。
EGRシステム55は、燃焼室17の中にEGRガスを導入する。EGRシステム55は、負荷が高まるに従いEGRガスの量を減らす。EGRシステム55は、全開負荷では、EGRガスをゼロにしてもよい。
スワールコントロール弁56は、全開である。燃焼室17内にはスワール流が発生せず、タンブル流のみが発生する。スワールコントロール弁56を全開にすることによって、充填効率を高めることができると共に、ポンプ損失を低減することが可能になる。
混合気の空燃比(A/F)は、基本的には、燃焼室17の全体において理論空燃比(A/F≒14.7)である。混合気の空気過剰率λは、1.0±0.2とすればよい。尚、エンジン1が全開負荷の付近において運転している場合には、混合気の空気過剰率λは1未満であってもよい。
インジェクタ6は、吸気行程中に燃料噴射を開始する。インジェクタ6は、燃料を一括で噴射する。吸気行程中に燃料噴射を開始することによって、燃焼室17の中に、均質又は略均質な混合気が形成される。また、燃料の気化時間を長く確保することができるため、未燃損失の低減を図ることもできる。
点火プラグ25は、燃料の噴射終了後、圧縮上死点前の適宜のタイミングで、混合気に点火を行う。
(エンジンの基本制御)
図6は、ECU10が実行をするエンジン1の基本制御のフローを示している。ECU10は、メモリ102に記憶している制御ロジックに従いエンジン1を運転する。具体的にECU10は、各センサSW1~SW17の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断すると共に、目標トルクを設定し、エンジン1が目標トルクを出力するように、燃焼室17の中の状態量の調節、噴射量の調節、噴射タイミングの調節、及び、点火時期の調節を行うための演算を行う。
ECU10はまた、SPCCI燃焼を行う場合には、SI率とθciとの二つのパラメータを用いてSPCCI燃焼をコントロールする。具体的にECU10は、エンジン1の運転状態に対応する目標SI率及び目標θciを定め、実際のSI率が目標SI率に一致しかつ、実際のθciが目標θciとなるように、燃焼室17内の温度の調節と、点火時期の調節とを行う。ECU10は、エンジン1の負荷が低い場合には、目標SI率を低く設定し、エンジン1の負荷が高い場合には、目標SI率を高く設定する。エンジン1の負荷が低い場合には、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制と燃費性能の向上とが両立する。エンジン1の負荷が高い場合には、SPCCI燃焼におけるSI燃焼の割合を高めることによって、燃焼騒音の抑制に有利になる。
図6のフローのステップS121において、ECU10は、各センサSW1~SW17の信号を読み込み、続くステップS122において、ECU10は、アクセル開度に基づいて目標加速度を設定する。ステップS123において、ECU10は、設定した目標加速度を実現するために必要な目標トルクを設定する。
ステップS124において、ECU10はエンジン1の運転状態を判断し、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比であるか(つまり、空気過剰率λ=1)であるか否かを判定する。λ=1である場合には、プロセスは、ステップS125に進み、λ≠1である場合には、プロセスは、ステップS129に進む。
ステップS125~ステップS128は、エンジン1が、中負荷領域A2、高負荷中回転領域A3、高負荷低回転領域A4、及び、高回転領域A5において運転する場合に、各デバイスの制御目標値を設定するステップに相当する。ステップS125において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、点火プラグ25の目標点火時期を設定する。続くステップS126において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、燃焼室17内に充填する目標空気量を設定する。ステップS127において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、混合気の空燃比が理論空燃比又は略理論空燃比になるよう、燃料の目標噴射量を設定する。そして、ステップS128において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、スロットル弁43の目標スロットル開度、スワールコントロール弁56の目標SCV開度、EGR弁54の目標EGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23の目標S-VT位相及び排気電動S-VT24の目標S-VT位相を設定する。
ステップS129~ステップS1212は、エンジン1が低負荷領域A1において運転する場合に、各デバイスの制御目標値を設定するステップに相当する。ステップS129において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、点火プラグ25の目標点火時期を設定する。続くステップS1210において、ECU10は、設定した目標トルクに基づいて、燃料の目標噴射量を設定する。ステップS1211において、ECU10は、設定した目標噴射量に基づいて、混合気の空燃比が所定のリーン空燃比になるよう、燃焼室17内に充填する目標空気量を設定する。混合気の空燃比は、前述したように、25~31の間である。そして、ステップS1212において、ECU10は、設定した目標空気量に基づいて、スロットル弁43の目標スロットル開度、スワールコントロール弁56の目標SCV開度、EGR弁54の目標EGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23の目標S-VT位相及び排気電動S-VT24の目標S-VT位相を設定する。
ステップS1213においてECU10は、ステップS128又はステップS1212において設定した目標値となるように、スロットル弁43のスロットル開度、スワールコントロール弁56のSCV開度、EGR弁54のEGR弁開度、並びに、吸気電動S-VT23のS-VT位相及び排気電動S-VT24のS-VT位相を調節する。
ステップS1214において、ECU10は、設定した目標噴射量に従い、インジェクタ6に所定のタイミングで燃料を噴射させる。続くステップS1215において、ECU10は、設定した目標点火時期に点火プラグ25に点火を実行させる。目標点火時期の設定については、後述する。
(目標点火時期の設定)
SPCCI燃焼及びSI燃焼は、点火プラグ25の点火時期を進角すると、混合気が燃焼する時期が進角をする。燃焼時期が進角すると、エンジン1の熱効率の向上に有利になる。
SPCCI燃焼は、点火時期を進角させると、CI燃焼の割合が多くなる。SPCCI燃焼におけるCI燃焼の割合が多くなると、燃焼騒音が大きくなる。また、点火時期が進角し過ぎると、異常燃焼の発生によりエンジンの信頼性が低下する恐れもある。そこで、ECU10は、SPCCI燃焼を行う場合、燃焼騒音指標が許容値に収まる範囲で、点火時期を進角側に設定する。
SPCCI燃焼は、前述したように、点火プラグ25の点火によって一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始した後、残りの混合気が自己着火によって燃焼する。SPCCI燃焼において、点火時期から自己着火を開始するまでの期間は、燃焼室17内の状態等に応じて変化する。SPCCI燃焼は、点火時期が同じであっても、燃焼波形が変化する場合がある。SPCCI燃焼は、点火時期と、燃焼騒音指標であるcplfとの相関が低い。
図7は、mfb50(mass fraction burned:質量燃焼割合50%となるクランク角)とcplf(cylinder pressure level filtered:燃焼騒音指標)との関係を例示している。尚、燃焼騒音指標は、燃焼室内の圧力変化の周波数スペクトルである。SPCCI燃焼は、mfb50とcplfとの相関が高い。つまり、mfb50が進角すると、cplfは大きくなる。
mfb50が遅すぎるような燃焼は、混合気は自己着火による燃焼を開始しないで火炎伝播による燃焼(SI燃焼)のみを行う。mfb50が進角すると、混合気は自己着火による燃焼を開始する。つまり、混合気はSPCCI燃焼する。混合気がSPCCI燃焼を行う場合、mfb50の最遅角位置が、燃焼室17内の状態等に応じて定まる(自己着火mfb50(最遅角))。最遅角位置よりもmfb50が遅い燃焼は、自己着火による燃焼が開始しないSI燃焼のみになる。mfb50の最遅角位置は、燃焼室17内の状態等が変わると、変化する(図7の破線の矢印参照)。
混合気がSI燃焼する場合は、mfb50の進角量に対するcplfの増大量は、相対的に小さい。つまり、図7に示す、mfb50の最遅角位置よりも右側の直線の傾きは小さい。CI燃焼は、SI燃焼よりも燃焼騒音が大きい。混合気がSPCCI燃焼する場合は、mfb50の進角量に対するcplfの増大量は、相対的に大きい。つまり、図7に示す、mfb50の最遅角位置よりも左側の直線の傾きは大きい。SPCCI燃焼は、SI燃焼とは、燃焼騒音に関する特性が異なる。
図7の破線は、cplfの制限値を例示している。cplfの制限値は、商品性を考慮して、自動車の走行速度や、エンジン1の回転数及び負荷等に基づいて定まる。
mfb50は、cplfの制限値を超えない範囲で、進角させることができる。例えば図7の実線と破線との交点を、mfb50の目標値とすることができる。mfb50の目標値が定まれば、ECU10は、mfb50が目標値となるように点火時期を定めることができる。
図8は、ECU10の機能ブロックの構成を示している。図8に示す機能ブロックは、点火時期の設定に関係する。機能ブロックは、cplf目標値設定部10a、mfb50推定部10b、cplf推定部10c、目標mfb50算出部10d、点火時期設定部10e、CI影響割合算出部10f、cplf算出部10g、mfb50算出部10hを含んでいる。
cplf目標値設定部10a、mfb50推定部10b、cplf推定部10c、目標mfb50算出部10d、及び点火時期設定部10eは、センサSW1~SW17の計測信号に基づいて、点火時期を設定する機能ブロックである。これらの機能ブロックは、フィードフォワード制御により点火時期を設定する。
CI影響割合算出部10f、cplf算出部10g、及びmfb50算出部10hは、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて、後述するモデルや関係式の補正を行う機能ブロックである。これらの機能ブロックは、フィードバック制御によって、点火時期の設定に関与する。
cplf目標値設定部10aは、cplfの制限値から、cplfの目標値を設定する。cplf目標値設定部10aは、cplfの制限値を、前述したように、センサSW1~SW17の計測信号から得られる、自動車の走行速度やエンジン1の回転数及び負荷等に基づいて設定する。cplf目標値設定部10aは、cplfの制限値をそのまま、cplfの目標値に設定してもよい(図10参照)。また、cplf目標値設定部10aは、cplfの制限値とは異なるcplfの目標値を設定してもよい。cplf目標値設定部10aは、図9に示すように、混合気の燃焼により生じるcplfのばらつきを考慮し、cplfの制限値を超えることが無いように、cplfの目標値を、cplfの制限値よりも小さい値に設定してもよい(図9の矢印参照)。具体的にcplf目標値設定部10aは、これまでに蓄積をしたcplfの計測データを利用して、cplfの制限値が、例えば3σとなるように、cplfの目標値を定めてもよい。
mfb50推定部10bは、前述したmfb50の最遅角位置を推定する。mfb50推定部10bは、具体的には、混合気の自己着火モデルと、燃焼室17内の圧力変化の関係式とに基づいて、mfb50の最遅角位置を推定する。
混合気の自己着火モデルは、式(1)で表される。自己着火モデルは、アレニウスの式をベースにしたモデル式である。
TCI
A ×PCI
B×(O2_rate)C ×φD /time=1 …(1)
但し、TCIは混合気が自己着火する時の燃焼室17内の温度、PCIは混合気が自己着火する時の燃焼室17内の圧力、O2_rateは燃焼室17内の酸素濃度、φは混合気の当量比、timeは時間、A、B、C、Dはそれぞれ定数、である。
O2_rateは、燃焼室17内に導入される新気及びEGRガスの量に基づいて定まる。φは、燃焼室17内に導入される新気、EGRガス、及び燃料の量に基づいて定まる。timeは、エンジン1の回転数から定まる。
燃焼室内の圧力変化の関係式は、式(2)で表される。
PCI=PBDC×(VBDC/VCI)κ+Q×(κ-1)/VCI …(2)
但し、PBDCは吸気下死点時の燃焼室内の圧力、VBDCは吸気下死点時の燃焼室内の体積、VCIは混合気が自己着火する時の燃焼室内の体積、Qは混合気の燃焼により発生する熱量、κは混合気の比熱比である。PBDCは、サージタンク42に取り付けられた第2圧力センサSW5の計測信号に基づいて定まる。Qは、ECU10が記憶している燃焼モデルから定まる。κは燃焼室17内のガス組成に基づいて定まる。
mfb50推定部10bは、式(1)及び(2)から、燃焼室17内の混合気が自己着火を開始する時点の燃焼室17の体積VCIを推定する。VCIの推定時には、例えば1次近似を利用してもよい。
体積VCIを推定すれば、当該SPCCI燃焼の燃焼波形を定めることができる。燃焼波形が定まれば、mfb50が定まる。つまり、mfb50推定部10bは、体積VCIを推定し、推定した体積VCIから、mfb50を推定する。推定したmfb50は、混合気がSPCCI燃焼を行う場合の、mfb50の最遅角位置である(図9の上図91の自己着火mfb50(最遅角)を参照)。
cplf推定部10cは、mfb50推定部10bが推定したmfb50の最遅角位置におけるcplfを推定する(図9の上図91の「推定cplf」を参照)。mfb50の最遅角位置での燃焼は、SPCCI燃焼におけるCI燃焼分が少ない燃焼である。mfb50の最遅角位置での燃焼時のcplfは、混合気がSPCCI燃焼ではなく、SI燃焼をしたと仮定して推定することができる。cplf推定部10cは、SI燃焼時のcplfを、SI燃焼時の燃焼波形に基づいて算出する。SI燃焼時の燃焼波形は、例えばシミュレーションによって、又は、実際の燃焼データから取得することができる。より具体的に、cplfは、燃焼室17内の圧力変化(dp/dt)との相関が高い。そこで、cplf推定部10cは、SI燃焼時のmfb10とmfb50との区間における熱発生Qの変化率((0.5Q-0.1Q)/(mfb50-mfb10))と、燃焼室17の体積Vと、エンジン回転数に基づく時間と、から、dp/dtを算出すると共に、算出したdp/dtからcplfを推定する。
目標mfb50算出部10dは、cplf目標値設定部10aが設定したcplfの目標値と、cplf推定部10cが推定したmfb50の最遅角位置におけるcplfと、に基づいてmfb50の目標値を算出する。目標mfb50算出部10dは、mfb50の最遅角位置に対して、mfb50を進角させることが可能な進角量を算出する。
前述したように、cplfは燃焼室17内の圧力変化(dp/dt)との相関が高い。mfb50が進角すると、mfb50時点での燃焼室17の体積が小さくなり、燃焼室17内の圧力変化も大きくなる。従って、最遅角位置におけるmfb50時点の燃焼室17の体積に対する、当該最遅角位置よりもmfb50が進角した燃焼におけるmfb50時点の燃焼室17の体積の比(以下、これを体積比という)と、cplfとの間には、図9の下図92に示すように相関がある。つまり、体積比が小さくなると、cplfは大きくなる。尚、mfb50の最遅角位置に応じて、体積比とcplfとの相関関係は変化する。つまり、mfb50の最遅角位置に応じて、図9の下図92の直線の傾きは変化する。
目標mfb50算出部10dは、cplfの目標値と、推定cplfと、体積比とに基づいて、図9に実線の矢印で示すように、cplfの目標値を満足する体積比を算出する。目標mfb50算出部10dは、当該体積比を目標のmfb50に変換する。
尚、図9の上図91のmfb50とcplfとの関係をデータ化して記憶しておき、目標mfb50算出部10dは、cplfの目標値と、mfb50の最遅角位置におけるcplfと、mfb50とcplfとの関係と、に基づいて、cplfの目標値を算出してもよい。
また、目標mfb50算出部10dは、cplf目標値設定部10aが、cplfの制限値をcplfの目標値に設定した場合は、図10の上図93及び下図94に例示するように、mfb50のばらつきを考慮して、mfb50の目標値を遅角側に設定してもよい。目標mfb50算出部10dは、これまでに蓄積をしたmfb50の計測データを利用して、cplfの制限値に従い定まる目標mfb50が、例えば3σとなるように、mfb50の目標値を定めてもよい。
点火時期設定部10eは、目標mfb50算出部10dが算出したmfb50の目標値に基づいて、混合気の燃焼が目標のmfb50となるように、点火時期を定める。点火時期が進角すると、mfb50も進角する。点火時期設定部10eは、設定した点火時期に従って、点火プラグ25に点火信号を出力する。
CI影響割合算出部10fは、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて、燃焼室17内の燃焼がSPCCI燃焼であったか、又は、SI燃焼であったかを判断する。CI影響割合算出部10fはまた、燃焼がSPCCI燃焼であった場合には、当該燃焼におけるCI燃焼の影響割合を算出する。
図11の上図111は、燃焼がSPCCI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生率dq/dθの変化(実線)と、混合気が自己着火せず、燃焼がSI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生率dq/dθの変化(実線及び一点鎖線)と、を例示している。図11の下図112は、燃焼がSPCCI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生Qの変化(実線)と、燃焼がSI燃焼であった場合のクランク角に対する熱発生Qの変化(実線及び一点鎖線)と、を例示している。
SPCCI燃焼は、点火により火炎伝播による燃焼が開始した後、θciにおいて、混合気が自己着火し、自己着火による燃焼が行われる。図11の上図111に示すように、SPCCI燃焼における熱発生率(dq/dθ)の波形は、SI燃焼による熱発生の山に、CI燃焼による熱発生の山が積み重なったような形状になる。図11の下図112に示すように、SPCCI燃焼における熱発生の変化は、θciよりも前と、θciよりも後とで、傾きが変わる。
CI影響割合算出部10fは、mfb10からmfb50までの期間における熱発生Qの傾きと、mfb10からdq/dθmax(つまり、dq/dθが最大となるクランク角)までの期間における熱発生Qの傾きとを比較することにより、燃焼室17内の燃焼がSPCCI燃焼であったか、又は、SI燃焼であったかを判断する。
mfb10からmfb50までの期間における熱発生Qの傾きは、下式(3)で表され、mfb10からdq/dθmaxまでの期間における熱発生Qの傾きは、下式(4)で表される。
((0.5Q-0.1Q)/(mfb50-mfb10)) …(3)
((dq/dθmaxQ-0.1Q)/(dq/dθmax-mfb10)) …(4)
SI燃焼であれば、式(3)の値と式(4)の値とは、ほぼ等しくなる。これに対し、SPCCI燃焼であれば、式(4)の値は、式(3)の値よりも大きくなる。
CI影響割合算出部10fは、式(3)と式(4)との比
((dq/dθmaxQ-0.1Q)/(dq/dθmax-mfb10))/((0.5Q-0.1Q)/(mfb50-mfb10))
が1を超えるのであれば、燃焼室17内の燃焼がSPCCI燃焼であったと判断する。また、前記比が大きいほど、CI影響割合算出部10fは、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の影響が大きいと判断する。前記比の値は、SPCCI燃焼におけるCI燃焼の影響を示すCI影響割合である。
cplf算出部10gは、燃焼室17内の燃焼がSPCCI燃焼であった場合に、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて実際のcplf(つまり、実測cplf。図12参照)を算出する。算出したcplfは蓄積される。蓄積されたcplfを使って、実際のcplfの標準偏差が算出される。実際のcplfの標準偏差は、前述したように、cplfの目標値の設定に利用される。
cplf算出部10gはまた、実測cplfに基づいて、mfb50とcplfとの関係(図9の上図91)、換言すると体積比とcplfとの関係(図9の下図92)を補正する。具体的に、cplf算出部10gは、目標mfb50算出部10dが目標mfb50を算出した手順とは逆の手順に従い、算出した実測cplfと、CI影響割合と、計測したmfb10及びmfb50とから、mfb50の最遅角位置におけるcplfを算出する(図12の矢印参照)。cplf算出部10gは、実測値に基づく、mfb50の最遅角位置におけるcplfと、cplf推定部10cが推定したmfb50の最遅角位置におけるcplfとを比較する。cplf算出部10gは、cplfのずれに応じて、mfb50とcplfとの関係、つまり、図9の下図92における直線を、ずれに応じて上下左右にオフセットする補正を行う(図12の矢印参照)。
mfb50算出部10hは、燃焼室17内の燃焼がSPCCI燃焼であった場合に、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて実際のmfb50(つまり、実測mfb50。図12参照)を算出する。mfb50算出部10hはまた、算出した実測mfb50に基づいて、mfb50推定部10bにおいて使用する自己着火モデルを補正する。
自己着火モデルの補正は、mfb50のずれが筒内温度のずれによって生じたと仮定して、自己着火モデルの温度に関係するパラメータを補正することにより行う。具体的に、mfb50算出部10hは、目標mfb50算出部10dが目標mfb50を算出した手順とは逆の手順に従って、実測mfb50と、CI影響割合とから、mfb50の最遅角位置における燃焼室17の体積を算出する。mfb50算出部10hは、実測値に基づく、mfb50の最遅角位置における体積を使って、自己着火モデルを温度について解き、mfb50推定部10bが推定したmfb50の最遅角位置における温度とのずれを、自己着火モデルに反映する。
(点火制御の手順)
図13は、ECU10が実行する点火プラグ25の点火制御に係る手順を示すフローチャートである。スタート後のステップS1において、ECU10は、各センサSW1~SW17の検知信号を読み込む。ステップS1の後、ECU10は、ステップS2~S7のプロセスと、ステップS8~S10のプロセスとを並行して実行する。
ステップS2においてcplf目標値設定部10aは、前述したように、自動車の走行状態、及び/又は、エンジン1の運転状態に基づいて、cplfの制限値を定める。続くステップS3においてmfb50推定部10bは、混合気がSPCCI燃焼を行う場合の、mfb50の最遅角位置を、自己着火モデルに基づいて推定する。
ステップS4においてcplf推定部10cは、ステップS3で推定したmfb50の最遅角位置におけるcplfを推定する。続くステップS5において、cplf目標値設定部10aは、ステップS2で設定したcplfの制限値からcplfの目標値を設定すると共に、目標mfb50算出部は、cplfの目標値と、ステップS3で推定した最遅角位置でのcplfとから、前述したように、mfb50の目標値を算出する。
ステップS6において点火時期設定部10eは、ステップS5で算出したmfb50の目標値から点火時期を設定する。そして、ステップS7において点火時期設定部10eは、点火プラグ25に点火信号を出力する。点火プラグ25は、点火信号に従って、燃焼室17内の混合気に点火する。
ステップS8においてCI影響割合算出部10fは、混合気がSPCCI燃焼をしたか否かを判断すると共に、SPCCI燃焼をした場合は、CI影響割合を算出する。続くステップS9においてmfb50算出部10hは、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて計測されたmfb50と、CI影響割合とからmfb50の最遅角位置を算出する。ステップS9で算出したmfb50の最遅角位置と、ステップS3で推定したmfb50の最遅角位置とのずれに基づいて、ECU10は、自己着火モデルを補正する。
続くステップS10においてcplf算出部10gは、筒内圧センサSW6の計測信号に基づいて計測したcplfと、CI影響割合と、計測したmfb10及びmfb50と、に基づいて、最遅角位置でのcplfを算出する。ECU10は、ステップS10で算出したcplfと、ステップS4で推定したcplfとのずれに応じて、体積比とcplfとの関係を補正する。
(燃料のオクタン価の判定ロジック)
このエンジン1は、前述したように、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料の両方を使用可能である。ECU10のメモリ102は、図5に示す各領域について、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットと、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットとの二種類の制御セットを記憶している。第1制御セット及び第2制御セットは、燃料のオクタン価に対応して、燃費及び排気ガス性状が最適になるよう、設定されている。ECU10は、後述する制御によって、燃料のオクタン価を判定すると共に、判定した燃料のオクタン価に対応する制御セットを選択して、エンジン1の運転を制御する。
次に、図14を参照しながら、使用燃料のオクタン価の判定ロジックについて説明をする。図14は、使用燃料のオクタン価を判定する判定装置の構成を例示している。図14の各ブロックは、ECU10の機能ブロックである。
この判定ロジックは、SPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
使用燃料のオクタン価が低いと、混合気は自己着火しやすいため、混合気が自己着火する時の燃焼室17の中の圧力は相対的に低く、使用燃料のオクタン価が高いと、混合気は自己着火しにくいため、混合気が自己着火する時の燃焼室17の中の燃焼室の中の圧力は相対的に高い。ECU10は、混合気が自己着火する時の燃焼室17の中の圧力に基づいて、使用燃料のオクタン価を判断する。
エンジン1の制御装置は、混合気をSPCCI燃焼させる運転領域において混合気の過早着火が抑制されるよう、エンジン1の運転状態に応じた充填効率の上限値を予め定めている。ECU10は、充填効率の上限値を定めたCeマップ10tを有していて、当該Ceマップ10tを参照しながら、エンジン1を制御する。
ここで、充填効率の上限値は、次のようにして定める。先ず、燃焼室17の中に導入したガスがモータリングによって圧縮された時に、圧縮上死点における燃焼室17内の圧力が自己着火圧力を超えると、混合気が自己着火をする(つまり、混合気が過早着火する)と定義する。充填効率の上限値は、モータリングによって圧縮された時の燃焼室17内の圧力が自己着火圧力を超えないように定める。ECU10が記憶するCeマップ10tは、特定オクタン価、例えば高オクタン価の燃料を使用している条件において、エンジン1の運転状態毎に、充填効率の上限値を定めている。
判定装置は、Ceマップ10tを利用して、使用燃料が特定オクタン価の燃料の場合に、混合気が自己着火をする燃焼室17内の圧力を算出する。具体的に、ECU10の機能ブロックは、上限Ce設定部10iと、Ce算出部10jと、Ce比率算出部10kとを含んでいる。
上限Ce設定部10iは、各種センサSW1~SW17の計測信号に基づいて、エンジン1の現在の運転状態を判定すると共に、判定したエンジン1の運転状態と前記Ceマップ10tとに基づいて、エンジン1の現在の運転状態における、充填効率の上限値を設定する。ここで設定する充填効率の上限値は、点火前に混合気が自己着火することを抑制できる充填効率の上限値である。
Ce算出部10jは、各種センサSW1~SW17の計測信号に基づいて、エンジン1の現在の充填効率を算出する。
Ce比率算出部10kは、上限Ce設定部10iが設定した上限Ceと、Ce算出部10jが算出した現在のCeとの比率を算出する。Ce比率算出部10kが算出した充填効率の比率は、エンジン1の現在の運転状態において、過早着火が発生するまでの、充填効率の余裕度に相当する。
ECU10の機能ブロックはまた、過早着火抑制圧力算出部10mと、筒内圧算出部10lとを含んでいる。
過早着火抑制圧力算出部10mは、Ce比率算出部10kが算出した充填効率の比率と、エンジン1の現在の運転状態における、圧縮上死点における燃焼室17内の圧力と、に基づいて、圧縮上死点における燃焼室17内の圧力であって、過早着火を抑制できる限界の圧力を算出する。算出される圧力は、換言すれば、特定オクタン価の燃料を使用している場合に、混合気が自己着火し得る圧力に相当する。
筒内圧算出部10lは、各種センサSW1~SW17の計測信号に基づいて、エンジン1の現在の運転状態における、圧縮上死点における燃焼室17内の圧力を算出する。ここで、筒内圧算出部10lは、内部EGRガス及び外部EGRガス分の圧力を除いた、空気分のみの、燃焼室17内の圧力を算出する。EGRシステム55は、エンジン1の運転状態に応じてEGR率を変える。筒内圧算出部10lは、EGRガス分の圧力を除いた燃焼室17内の圧力を算出する。このため、判定装置は、EGRガス量の影響を受けずに、使用している燃料のオクタン価を判定できる。
判定装置は、Ceマップ10tを用いた圧力の算出に並行して、混合気が自己着火をする燃焼室17内の圧力を、前述した混合気の自己着火モデル10uを利用して算出する。この圧力は、現在使用している燃料によって形成された混合気が自己着火をする燃焼室17内の圧力である。ECU10の機能ブロックは、自己着火圧力算出部10nと、EGR率算出部10oと、を含んでいる。
自己着火圧力算出部10nは、前述したように、混合気の自己着火モデル10uを利用して混合気が自己着火をする燃焼室17内の圧力を算出する。具体的には、自己着火圧力算出部10nは、mfb50の最遅角位置(図7参照)に基づき、当該最遅角位置となる燃焼状態において、混合気が自己着火をする時の燃焼室17内の圧力を算出する。自己着火圧力算出部10nは、このときに、内部EGRガス及び外部EGRガス分の圧力を除いた、空気分のみの、燃焼室17内の圧力を算出する。EGR率算出部10oは、各種センサSW1~SW17の計測信号に基づいて、エンジン1の現在の運転状態におけるEGR率を算出する。自己着火圧力算出部10nは、EGR率算出部10oが算出したEGR率に基づいて、内部EGRガス及び外部EGRガス分の圧力を除いた、空気分のみの、燃焼室17内の圧力を算出する。筒内圧算出部10lと同様に、自己着火圧力算出部10nがEGRガス分の圧力を除いた燃焼室17内の圧力を算出するため、判定装置は、EGRガス量の影響を受けずに、使用している燃料のオクタン価を判定できる。
ECU10の機能ブロックはさらに、圧力比率算出部10pと、プリイグ限界Ce算出部10qと、オクタン価判定部10rと、制御セット選択部10sと、を含んでいる。
圧力比率算出部10pは、過早着火抑制圧力算出部10mが算出した過早着火抑制圧力と、自己着火圧力算出部10nが算出した自己着火圧力との比率を算出する。この比率は、使用している燃料のオクタン価と、特定オクタン価との差に対応する。
プリイグ限界Ce算出部10qは、圧力比率算出部10pが算出した過早着火抑制圧力と自己着火圧力との比率を、充填効率の比率に換算すると共に、上限Ce設定部10iが設定した上限Ceを用いて、プリイグ限界Ceを算出する。プリイグ限界Ceは、現在使用している燃料において、過早着火を抑制する充填効率の上限値である。
オクタン価判定部10rは、プリイグ限界Ce算出部10qが算出したプリイグ限界Ceと、上限Ce設定部10iが設定した上限Ceとの差に基づいて、使用燃料のオクタン価を判定する。オクタン価判定部10rは、プリイグ限界Ceと、上限Ceとの差がない場合、使用燃料のオクタン価は、特定オクタン価であると判定できる。オクタン価判定部10rは、プリイグ限界Ceと上限Ceとの差がある場合、使用燃料のオクタン価は、特定オクタン価とは相違している。オクタン価の差は、プリイグ限界Ceと上限Ceとの差に対応する。オクタン価判定部10rは、プリイグ限界Ceと上限Ceとの差に基づいて、使用燃料のオクタン価を判定する。これにより、オクタン価判定部10rは、使用燃料が低オクタン価である、又は、使用燃料が低オクタン価と高オクタン価との中間オクタン価である、と判定できる。
制御セット選択部10sは、オクタン価判定部10rが判定した燃料のオクタン価に基づいて、エンジン1の運転制御に用いる制御セットを選択する。具体的に、制御セット選択部10sは、判定された燃料のオクタン価が、低オクタン価よりも高オクタン価に近い場合は、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットを選択し、判定された燃料のオクタン価が、高オクタン価よりも低オクタン価に近い場合は、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択する。
こうして、燃料のオクタン価を判定すると、ECU10は、燃料のオクタン価に応じて選択された制御セットに従って、少なくとも、インジェクタ6の燃料噴射時期、点火プラグ25の点火時期、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度をそれぞれ制御する。その結果、エンジン1は、使用燃料のオクタン価に応じて、常に、燃費及び排気ガス性状が最適になる。
尚、制御セット選択部10sは、判定された燃料のオクタン価が中間のオクタン価である場合、第1制御セットの制御量と、第2制御セットの制御量との中間値を、各デバイスの制御量に定めてもよい。
図15は、ECU10が実行する制御であって、燃料のオクタン価を判定する手順を例示している。尚、図15のフローの各ステップは、可能な範囲で入れ替えることが可能である。また、図15のフローのステップの一部を、別のステップに置き換えること、図15のフローのステップの一部を省略すること、及び、図15のフローに、新たなステップを追加することも可能である。
図15のフローは、イグニッションをオンにするとスタートする。スタート後のステップS151において、ECU10は、各センサSW1~SW17の計測信号を読み込む。
続くステップS152において、ECU10は、充填効率Ceが下限値以上であるか否かを判断する。充填効率Ceが低いと、燃料のオクタン価を誤判定する恐れがある。そこで、ECU10は、充填効率Ceが下限値よりも小さい場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。オクタン価の判定可能な下限負荷が存在する。ステップS152の判断がYESの場合、プロセスはステップS153に進み、ステップS152の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。このことにより、使用燃料のオクタン価の誤判定が抑制される。
ステップS153において、ECU10は、エンジン1の運転状態と、Ceマップ10tとに基づいて、エンジン1の現在の運転状態における、充填効率の上限値を設定する。続くステップS154において、ECU10は、ステップS153で設定した上限Ceと、現在のCeとから、上限Ceと現在のCeとの比率を算出する。
ステップS155において、ECU10は、ステップS154で算出したCeの比率と、エンジン1の現在の運転状態における、圧縮上死点における燃焼室17内の圧力とに基づいて、過早着火抑制圧力を算出する。
ステップS156において、ECU10は、混合気の自己着火モデル10uを用いて、混合気が自己着火をする燃焼室17内の圧力、つまり、自己着火圧力を算出する。
続くステップS157において、ECU10は、ステップS155で算出した過早着火抑制圧力と、ステップS156で算出した自己着火圧力との比率を算出し、ステップS158において、ECU10は、算出した圧力比率を充填効率に換算することによって、プリイグ限界Ceを算出する。
そして、ECU10は、ステップS159において、ステップS158で算出したプリイグ限界Ceから、使用燃料のオクタン価を判定し、続くステップS160においてECU10は、判定したオクタン価に基づいて、制御セットを選択する。
このオクタン価の判定ロジックは、SPCCI燃焼の特性を利用している。混合気がSPCCI燃焼すれば、ECU10は、使用燃料のオクタン価を判定できる。ノッキングが発生しなくても、ECU10は、使用燃料のオクタン価を判定できる。ECU10は、速やかに、使用燃料のオクタン価を判定できる。
尚、図15のフローにおいて、充填効率が下限値以下である場合に、ECU10は、オクタン価の判定を禁止しているが、判定を禁止する代わりに、ECU10は、充填効率が下限値以下である場合には、各デバイスの制御量をオクタン価に応じて補正する際の、補正度合いを小さくしてもよい。
また、ここに開示する技術は、前述した構成のエンジン1に適用することに限定されない。エンジン1の構成は、様々な構成を採用することが可能である。