以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン、及び、その制御装置は例示である。
図1は、エンジンを例示する図である。図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17を有している。燃焼室17は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返す。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。このエンジン1は、高オクタン価燃料、及び、低オクタン価燃料の両方を使用できる。高オクタン価燃料のオクタン価は、例えば100であり、低オクタン価燃料のオクタン価は、例えば91である。自動車の利用者は、後述する燃料タンク63に、高オクタン価燃料又は低オクタン価燃料を給油することができる。利用者はまた、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、低オクタン価燃料を注ぎ足すことができ、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価燃料を注ぎ足すこともできる。オクタン価の異なる燃料を注ぎ足すと、エンジン1の使用燃料(以下、単に「燃料」という)のオクタン価は、中間のオクタン価になる。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
シリンダブロック12には、複数のシリンダ11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、一つのシリンダ11のみを示す。
各シリンダ11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13は、燃焼室17を形成する。尚、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高める必要がない。エンジン1の幾何学的圧縮比は低い。幾何学的圧縮比が低いと、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が発生するような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気弁21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気弁22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃焼室17の天井部(つまり、シリンダヘッド13の下面)に配設されている。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型である。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。インジェクタ6及び燃料供給システム61は、燃料供給部を構成する。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62は、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いにつないでいる。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を送る。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から送られた燃料を蓄える。コモンレール64の中は高圧である。インジェクタ6は、コモンレール64につながっている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64の中の高圧の燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
なお、燃料供給路62は、インジェクタ6を介して燃料タンク63と燃焼室17とを結んでいる。燃料供給路62は、燃料配管の一例である。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでいる。点火プラグ25は、点火部の一例である。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入する吸気のガスは、吸気通路40の中を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端の近くには、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐している。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度が変わることによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力を高める。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される。過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式である。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達する状態と、駆動力の伝達を遮断する状態とを切り替える。後述するECU10が電磁クラッチ45に制御信号を出力することによって、過給機44はオン又はオフになる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気のガスを冷却する。インタークーラー46は、水冷式又は油冷式である。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44がオフの場合に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気のガスは、過給機44及びインタークーラー46をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に至る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44がオンの場合、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44がオンの場合に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44及びインタークーラー46を通過した吸気のガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に戻る。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力が変わる。尚、「過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える状態をいい、「非過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる状態をいう、と定義してもよい。
エンジン1は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、燃焼室17内にスワール流を発生させる。スワールコントロール弁56は、開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。燃焼室17から排出された排気ガスは、排気通路50の中を流れる。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。排気ガス浄化システムは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、EGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気ガスの一部を吸気通路40に還流させる通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における二つの触媒コンバーターの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流部に接続されている。
EGR通路52には、水冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、排気ガスを冷却する。EGR通路52にはまた、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れる排気ガスの流量を調節する。EGR弁54は、外部EGRガスの還流量を調節する。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1-SW11が接続されている。センサSW1-SW11は、エンジン1の運転に関係するパラメータの計測信号を出力し、該計測信号をECU10に入力する。センサSW1-SW11は、計測部の例示である。具体的に、センサSW1-SW11には、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する。エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第2吸気温度センサSW3は、燃焼室17に導入される吸気のガスの温度を計測する。第2吸気温度センサSW3は、サージタンク42に取り付けられている。
吸気圧センサSW4は、燃焼室17に導入される吸気のガスの圧力を計測する。吸気圧センサSW4は、サージタンク42に取り付けられている。筒内圧センサSW5は、各燃焼室17内の圧力を計測する。筒内圧センサSW5は、シリンダ11毎に、シリンダヘッド13に取り付けられている。水温センサSW6は、冷却水の温度を計測する。水温センサSW6は、エンジン1に取り付けられている。
クランク角センサSW7は、クランクシャフト15の回転角を計測する。クランク角センサSW7は、エンジン1に取り付けられている。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダル機構に取り付けられている。吸気カム角センサSW9は、吸気カムシャフトの回転角を計測する。吸気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられている。排気カム角センサSW10は、排気カムシャフトの回転角を計測する。排気カム角センサSW10は、エンジン1に取り付けられている。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に貯留する燃料の量を計測する。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に取り付けられている。
ECU10は、これらのセンサSW1-SW11の信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。
ECU10は、制御量に係る電気信号(制御信号)を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56に出力する。
ECU10は、制御信号が入力される各デバイスを介してエンジン1の運転を制御する。インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、EGR弁54、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56は、アクチュエータの例示である。後述のように、ECU10は、各アクチュエータに対し、燃料のオクタン価に応じた制御信号を出力する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出エミッション性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
図3は、SPCCI燃焼時における、燃焼室17内の圧力変化301を例示している。図3は、筒内圧センサSW5の計測信号に相当する。SPCCI燃焼は、次のような燃焼形態である。つまり、点火プラグ25が、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼を開始する。SI燃焼の開始後、(1)SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、(2)火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することにより、自己着火タイミングθciにおいて未燃混合気が自己着火し、CI燃焼をする。SPCCI燃焼における圧力波形は、SI燃焼による山に、CI燃焼による山が積み重なったような形状になる。
SI燃焼の燃焼量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収できる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、SI燃焼の燃焼量が調節される。ECU10が点火タイミングを調節すれば、混合気は目標のタイミングで自己着火する。SPCCI燃焼は、SI燃焼の燃焼量がCI燃焼の開始タイミングをコントロールしている。
(エンジンの運転領域)
図4は、エンジン1の制御マップ401を例示している。制御マップ401は、ECU10のメモリ102に記憶されている。ECU10は、制御マップ401に基づいて、エンジン1を運転する。
制御マップ401は、エンジン1の負荷及びエンジン1の回転数によって規定されている。制御マップ401は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の四つの領域に分かれる。領域A1は、Naよりも回転数が高い領域である。領域A2は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLaよりも低い領域である。領域A3は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLa以上の領域である。尚、Laは、エンジン1の最高負荷の1/2負荷としてもよい。領域A4は、領域A2内において、低負荷低回転側の特定の領域である。領域A4は、エンジン1の全運転領域において、低回転低負荷の特定領域に相当する。尚、ここでいう「低回転」は、エンジン1の全運転領域を低回転側と高回転側とに二等分した場合の、低回転側に対応する。「低負荷」は、エンジン1の全運転領域を低負荷側と高負荷側とに二等分した場合の、低負荷側に対応する。
エンジン1の負荷及び回転数によって定まる運転状態が領域A1内にある場合、ECU10は、SI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。混合気の空燃比は、三元触媒511、513の浄化ウインドウに含まれればよい。尚、空燃比は、燃焼室17の全体における平均の空燃比である。
エンジン1の運転状態が領域A2内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A2内にある場合、過給機44はオフである。エンジン1の運転状態が、領域A3内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A3内にある場合、過給機44はオンである。
エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。尚、混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンである。燃焼室17の全体における平均の空燃比は、具体的には、30以上40以下である。エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、過給機44はオフである。また、エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、ECU10はまた、吸気弁21及び排気弁22が共に開弁するオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。これにより、燃焼室17の中の温度が高くなる。エンジン1の負荷が低い領域A4において、燃焼室17の中の温度が高いことによりSPCCI燃焼のCI燃焼が安定化する。
ECU10のメモリ102は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の各領域について定められた制御セットを記憶している。制御セットは、燃料の噴射時期、点火時期、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度のそれぞれに関する制御量を少なくとも含んでいる。ECU10は、各種のセンサSW1-SW11の計測信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、エンジン1の運転状態と制御マップ401とに基づいて、対応する制御セットに従って、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、及び、スワールコントロール弁56を制御する。
このエンジン1はまた、前述したように、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料の両方を使用可能である。メモリ102は、各領域について、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットと、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットとの二種類の制御セットを記憶している。第1制御セット及び第2制御セットは、燃料のオクタン価に対応して、燃費及び排気ガス性状が最適になるよう、設定されている。ECU10は、後述する制御によって、燃料のオクタン価を判定すると共に、判定した燃料のオクタン価に対応する制御セットを選択して、エンジン1の運転を制御する。
(燃料のオクタン価の判定ロジック)
ECU10は、燃料のオクタン価を判定するための制御ロジックとして、2種類の判定ロジックを実行することができる。2種類の判定ロジックは、他の制御ロジックと同様に、メモリ102に記憶されている。
2種類の判定ロジックのうち、第1の判定ロジックは、エンジン1の燃焼状態に基づいた制御ロジックである。また、第2の判定ロジックは、給油前後の燃料量の割合、すなわち給油比率に基づいた制御ロジックである。
以下、各判定ロジックについて詳細に説明する。
-第1の判定ロジック-
ここでは、図5及び図6を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジック(特に第1の判定ロジック)について説明をする。この判定ロジックは、エンジン1の燃焼状態、例えばSPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
ここで、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室17内で発生した熱量をアシスト熱量とする。SPCCI燃焼において、未燃混合気は、アシスト熱量を受けて自己着火する。燃料のオクタン価が低いと、当該燃料は自己着火しやすいため、アシスト熱量は少ない。逆に、燃料のオクタン価が高いと、当該燃料は自己着火しにくいため、アシスト熱量は多い。アシスト熱量と燃料のオクタン価との間には、相関がある。
図5は、アシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を示すグラフ501を例示している。グラフ501は、本願発明者らが、エンジン1の運転状態(つまり、エンジン1の負荷、及び、環境温度)を変えながら実験を行うことによって得られたグラフである。グラフ501は、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のグラフである。
グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入したガス量で割った値である。燃焼室17内に導入されるガス量は、エンジン1の運転状態に応じて変化する。エンジン1の負荷が高くなると、燃焼室17内に導入されるガス量は増える。グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入されるガス量によって正規化している。
ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて燃焼室17内で発生した熱量を算出できる。ECU10は、図3に示すように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、点火プラグ25が混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングθciまでに、燃焼室17内で発生したアシスト熱量Qsaを算出する。
グラフ501の横軸は、未燃混合気が自己着火したタイミングθciである。未燃混合気が自己着火すると、圧力変化(dP/dθ)が変わる。ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、自己着火タイミングθciを特定できる。
グラフ501の丸は、エンジン1が運転する環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが最大の場合の計測値であり、グラフ501の三角は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501のひし形は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。また、グラフ501の四角は、環境温度が、標準よりも高い酷暑でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501の逆三角は、環境温度が酷暑でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。
グラフ501において直線5011-5015で示すように、正規化されたアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの間には相関がある。つまり、各直線5011-5015は全て、右上がりである。アシスト熱量Qsaが多いと、自己着火タイミングθciが遅角し、アシスト熱量Qsaが少ないと、自己着火タイミングθciが進角する。また、その相関関係は、エンジン1の運転状態毎に、成立する。つまり、直線5011-5015は、エンジン1の運転状態毎に異なる。
ここで、環境温度の高低について比較をする。環境温度が高い場合(直線5014)は、環境温度が低い場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。環境温度が高いと、燃焼室17の中に導入される吸気温度が高い。吸気温度が高いと、燃焼室17の中の温度が高くなって未燃混合気が自己着火しやすい。このため、吸気温度が高いと、アシスト熱量Qsaは小さい。
次に、充填効率Ceの大小について比較をする。充填効率Ceが大きい場合、つまり、エンジン1のトルクが大きい場合(直線5011、5012)は、充填効率Ceが小さい場合、つまり、エンジン1のトルクが小さい場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。燃焼室17の中に導入する空気量が多いと、当該空気の圧縮に伴い、燃焼室17の中の温度が、より高くなる。燃焼室17の中の温度が高くなると、未燃混合気は自己着火しやすい。そのため、充填効率Ceが大きいと、アシスト熱量Qsaは小さい。
グラフ501において、各運転状態におけるアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの計測値を直線の統計モデルによって表現すると共に、当該直線の、特定クランク角(特定CA、例えば15°ATDC)における切片を、各運転状態におけるモデルの代表値と定める。以下において、この代表値を、「等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)」と呼ぶ。
図5のグラフ501は、前述したように、使用燃料が低オクタン価燃料である場合の、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を例示している。図示は省略するが、本願発明者らは、使用燃料が高オクタン価燃料である場合も同様に、エンジン1の運転状態毎に、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの相関関係が成立することを確認した。
図6は、グラフ501等に基づいて作成されるグラフ601を例示している。グラフ601の縦軸は、前述した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)である。グラフ601の横軸は、充填効率Ceである。グラフ601は、エンジン1のさまざまな運転状態のデータを含んでいる。グラフ601はまた、使用燃料が高オクタン価燃料である場合のデータと、低オクタン価燃料である場合のデータとを含んでいる。
グラフ601の黒丸は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合のデータであり、グラフ601の四角は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601の白丸は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合の結果であり、グラフ601の三角は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601のバツ印は、使用燃料が高オクタン価燃料の場合に、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットによって、エンジン1の運転を制御した場合のデータである。
グラフ601において曲線6011-6014で示すように、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの間には相関がある。つまり、充填効率Ceが高いと、空気の圧縮に伴い燃焼室17の中の温度が大きく上昇するから、等価温度上昇量は小さくなり、逆に、充填効率Ceが低いと、等価温度上昇量が大きくなる。曲線6011-6014は全て、右下がりになる。また、高オクタン価燃料の使用時の曲線6011、6012と、低オクタン価燃料の使用時の曲線6013、6014とは相違する。同一の充填効率Ceで比較した場合に、高オクタン価燃料の使用時は、低オクタン価燃料の使用時よりも、未燃混合気が自己着火しにくいため、等価温度上昇量は大きい。
また、等価温度上昇量と充填効率との相関関係は、環境温度毎に成立する。つまり、同一の充填効率Ceで、酷暑時の曲線6012、6014と、標準時の曲線6011、6013とを比較した場合に、酷暑時は燃焼室17の中の温度がより高くなるため、標準時よりも、等価温度上昇量が小さい。
グラフ601に示すように、使用燃料が高オクタン価燃料の場合の曲線6011、6012と、使用燃料が低オクタン価燃料の場合の曲線6013、6014とは異なる。そこで、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている場合に、ECU10が、各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と、充填効率Ceとを算出すると共に、グラフ601において、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、どこにプロットできるか、に基づいて、ECU10は、燃料のオクタン価を判定することができる。
つまり、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6011の上に載れば、ECU10は、使用燃料が高オクタン価燃料であると判断できる。また、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6013の上に載れば、ECU10は、使用燃料が低オクタン価燃料であると判断できる。
また、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に低オクタン価燃料を注ぎ足す、又は、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に高オクタン価燃料を注ぎ足すと、燃料のオクタン価は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料との中間のオクタン価になる。この場合、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点は、グラフ601における曲線と曲線との間にプロットされる。ECU10は、線形補間によって、燃料のオクタン価、つまり、中間のオクタン価を判定することができる。
-第2の判定ロジック-
次に、図7を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジック(特に第2の判定ロジック)について説明をする。この判定ロジックは、オクタン価が事前に取得されている燃料(以下、「事前燃料」という)の燃料量と、外部から給油されかつオクタン価が予め低く想定された燃料(以下、「給油燃料」という)の燃料量と、の比率(以下、「給油比率」という)に基づいて給油後のオクタン価を判定するものである。
具体的に、事前燃料の燃料量(V1)は、レベルセンサSW11の計測信号に基づいて予め取得することができる。また、事前燃料のオクタン価(O1)は、予め実行された第1又は第2の判定ロジックによって、事前に判定されているものとする。
一方、給油燃料の燃料量(V2)は、給油後に取得される燃料量(V1+V2)から、事前燃料の燃料量(V1)を差し引くことで取得することができる。また、給油燃料のオクタン価(O2)は、市場で流通している燃料のオクタン価のうち最低のオクタン価(例えば、91)であると想定し、その想定値に固定するものとする。
この場合、給油後の燃料タンク63内の推定オクタン価(以下、「第2オクタン価」という)をO3とすると、O3は、下式(A)を満足する。
O1・V1+O2・V2=O3・(V1+V2) …(A)
上式(A)をO3について整理すると、下式(B)が得られる。
O3=(O1・V1+O2・V2)/(V1+V2)
=(O1・Rt+O2)/(Rt+1) …(B)
上式(B)において、給油比率をRt(=V1/V2)とした。式(B)において、給油燃料のオクタン価を示すO2は、予め固定されることになるため、事前燃料のオクタン価を示すO1と、給油比率を示すRtと、を引数とすることで、第2オクタン価(O3)を算出することが可能となる。
図7は、給油比率とタンク内オクタン価の関係を例示するグラフ701である。グラフ701の横軸は給油比率であり、グラフ701の縦軸はタンク内の推定オクタン価(タンク内オクタン価)である。グラフ701は、給油燃料が最低オクタン価(例えば91)である場合のグラフである。また、グラフ701は、事前燃料が高オクタン価(例えば100)である場合の曲線7011と、事前燃料が中オクタン価(例えば97)である場合の曲線7012と、事前燃料が低オクタン価(例えば94)である場合の曲線7013と、を含んでいる。メモリ102には、グラフ701に対応したマップが記憶されている。
曲線7011-7013に示すように、給油比率とタンク内オクタン価の間には正の相関がある。給油比率が高いと、全燃料に占める事前燃料の割合が高くなる。事前燃料は給油燃料以上のオクタン価を有するため、その事前燃料の割合が高くなることで、タンク内オクタン価が高くなる。また、事前燃料のオクタン価が高い場合には、それが低い場合に比して、タンク内オクタン価はより高くなる。
例えば、燃料タンク63に燃料が給油されると、ECU10は、レベルセンサSW11の計測信号に基づいて給油比率を算出するとともに、給油以前に判定された燃料のオクタン価、つまり、事前燃料のオクタン価を読み出す。ECU10は、算出した給油比率と、読み出したオクタン価と、グラフ701に対応したマップと、に基づいて、第2オクタン価を判定することができる。
なお、前述した給油比率(Rt)の定義は、例示に過ぎない。例えば、給油燃料の燃料量(V2)を事前燃料の燃料量(V1)で除算してなる割合を給油比率と定義してもよい。この場合、給油比率と第2オクタン価は、負の相関をなす。また、事前燃料の燃料量(V1)と給油後の全燃料量(V1+V2)との比率を給油比率と定義してもよい。
また、最低オクタン価の具体的な値は、米国、欧州、日本等、仕向地ごとに個別に設定してもよい。
(オクタン価の判定装置)
図8は、燃料のオクタン価を判定する判定装置の構成を例示している。
判定装置は、第1の判定ロジックを実行するための機能ブロックとして、アシスト熱量算出部105、フィッティング部106、等価温度上昇量算出部107、自着火特性算出部108、及び、オクタン価第1判定部(以下、単に「第1判定部」という)109を備えている。各機能ブロックは、ECU10に実装されている。各機能ブロックのうち、第1判定部109は、第1判定手段の例示である。
判定装置はまた、第2の判定ロジックを実行する機能ブロックとして、給油比率算出部121及びオクタン価第2判定部(以下、単に「第2判定部」という)122を備えている。各機能ブロックは、ECU10に実装されている。各機能ブロックのうち、第2判定部122は、第2判定手段の例示である。
判定装置はまた、オクタン価の判定結果を補正する機能ブロックとして、噴射量積算部123及び補正部124を備えている。各機能ブロックは、ECU10に実装されている。
判定装置はまた、判定または補正されたオクタン価に応じた制御を行うための機能ブロックとして、制御セット選択部110を備えている。制御セット選択部110は、ECU10に実装されている。
以下、各機能ブロックについて詳細に説明する。
-第1の判定ロジックに係る機能ブロック-
第1の機能ブロックに係る機能ブロックのうち、アシスト熱量算出部105は、前述したアシスト熱量Qsaを算出する。アシスト熱量算出部105は、筒内圧センサSW5を含む各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する(図3も参照)。アシスト熱量算出部105は、燃焼室17の中で燃焼が行われる度にアシスト熱量Qsaを算出する。
フィッティング部106は、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係から、図5に示した統計モデルの直線を定める。具体的に、フィッティング部106は、符号111のグラフに例示するように、縦軸を正規化したアシスト熱量Qsaとし、横軸を自己着火タイミングθciとした平面上に、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点をプロットする(グラフ111の黒丸参照)。フィッティング部106は、プロットした複数の点に基づいて、直線、つまり、統計モデルを定める。フィッティング部106は、例えば最小二乗法により直線を定めてもよい。尚、直線の傾きを所定の傾きに固定しておき、フィッティング部106は、直線の切片のみを定めてもよい。こうすることで、フィッティング部106の演算量が少なくなる。
等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線に基づいて、特定CAの切片である等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)を算出する(グラフ111の白丸参照)。具体的に等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線と、特定CAの縦線との交点を算出する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、メモリ102に記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出する。マップ112は、図6に示すグラフ601を90°だけ反時計回りに回転させたものである。マップ112は、当該エンジン1について実験またはシミュレーションを行うことにより予め作成されかつ、メモリ102に記憶されている。マップ112は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が標準条件である場合の第1特性線と、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が酷暑条件である場合の第2特性線と、を含んでいる。第1特性線は、混合気が最も自己着火しにくい場合に相当し、第2特性線は、混合気が最も自己着火しやすい場合に相当する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、充填効率Ceとの関係を示す点をマップ112にプロットし(マップ112の黒丸参照)、当該点を通る曲線を算出する(マップ112の破線参照)。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線から第2特性線までの間に定まる。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線は、第1特性線に一致する場合、及び、第2特性線に一致する場合もある。
第1判定部109は、エンジン1の燃焼状態(具体的には、自着火特性算出部108により算出された自着火特性の曲線)に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。
詳しくは、第1判定部109は、自着火特性算出部108により算出された自着火特性の曲線が第1特性線に一致する場合は、使用燃料は高オクタン価である、と判定する。
また、第1判定部109は、自着火特性算出部108により算出された自着火特性の曲線が第2特性線に一致する場合は、使用燃料は低オクタン価である、と判定する。
また、第1判定部109は、自着火特性算出部108により算出された自着火特性の曲線が、図7に例示するように第1特性線と第2特性線との間に位置する場合は、燃料のオクタン価を線形補間により算出する(図7の矢印参照)。この場合、使用燃料は高オクタン価と低オクタン価との中間のオクタン価である、と判定される。メモリ102は、判定されたオクタン価を記憶する。
第1判定部109は、オクタン価の判定の際に温度補正を行う。つまり、吸気温度が高い場合、及び/又は、エンジン1の水温が高い場合は、燃焼室17の中のガスの温度が高くなるため混合気は自着火しやすい。この場合、燃料のオクタン価が、見かけ上低くなる。第1判定部109は、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、判定したオクタン価を補正する。具体的に、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が高いと、第1判定部109は、判定したオクタン価が高くなるように補正する。吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が低いと、第1判定部109は、判定したオクタン価が低くなるように補正する。
尚、第1判定部109が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて判定したオクタン価を補正する代わりに、自着火特性算出部108が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、自着火特性を補正してもよい。
第1判定部109によって判定されたオクタン価は、非給油時においては制御セット選択部110に入力され、エンジン1の運転制御に用いられる。また、第1判定部109によって判定されたオクタン価は、給油時においては補正部124に入力され、第2判定部122によって判定されたオクタン価(第2オクタン価)の補正に用いられる。
以下、第2オクタン価と区別することを目的として、第1判定部109によって判定されたオクタン価を「第1オクタン価」と呼称する場合がある。
-第2の判定ロジックに係る機能ブロック-
第2の機能ブロックに係る機能ブロックのうち、給油比率算出部121は、前述した給油比率(Rt)を算出する。具体的に、給油比率算出部121は、非給油時におけるレベルセンサSW11の計測信号に基づいて、事前燃料の燃料量(V1)を取得する。また、給油比率算出部121は、給油後にレベルセンサSW11の計測信号を再度読み込んで、給油燃料の燃料量(V2)を演算する。
そして、給油比率算出部121は、事前燃料の燃料量(V1)と、給油燃料の燃料量(V2)と、に基づいて給油比率(Rt=V1/V2)を算出し、その算出結果を示す信号を第2判定部122に入力する。
第2判定部122は、オクタン価が事前に取得されている事前燃料の燃料量(V1)と、燃料タンク63に給油されかつオクタン価が予め低く想定された給油燃料の燃料量(V2)と、の比率(Rt)に基づいてオクタン価(第2オクタン価)を判定する。
特に、本実施形態に係る第2判定部122は、非給油時には機能せず、燃料タンク63への給油に際してオクタン価を判定する。具体的に、第2判定部122は、燃料タンク63に給油燃料が給油されてから、燃料配管としての燃料供給路62内に残留していた事前燃料が消費されるまでの期間中に、オクタン価を判定する。
第2判定部122には、給油比率算出部121により算出された給油比率(Rt)が入力される。第2判定部122にはまた、第1判定部109又は第2判定部122により事前に判定された、事前燃料のオクタン価(O1)が入力される。さらに、第2判定部122は、メモリ102から、予め低く設定された給油燃料のオクタン価(O2)を読み込む。
第2判定部122は、図7に例示したグラフ701に対応したマップをメモリ102から読み込む。そして、第2判定部122は、入力または設定された給油比率(Rt)、事前燃料のオクタン価(O1)、及び、給油燃料のオクタン価(O2)と、グラフ701に対応したマップと、に基づいて、事前燃料と給油燃料を併せた全燃料のオクタン価(第2オクタン価)を判定する。第2判定部122により判定された第2オクタン価は、補正部124に入力される。
第2判定部122によって判定された第2オクタン価は、給油燃料のオクタン価が低いと想定した上での、燃料タンク63内におけるオクタン価の推定値を示す。この第2オクタン価は、給油時においては、補正部124による補正を受けた上で、エンジン1の運転制御に用いられるようになっている。
-オクタン価の補正処理に係る機能ブロック-
オクタン価の補正処理に係る機能ブロックのうち、噴射量積算部123は、インジェクタ6の噴射情報に基づいて、燃焼室17内への燃料噴射量を積算する。燃料噴射量の積算は、燃料タンク63への給油以降のタイミングで開始される。特に、本実施形態に係る噴射量積算部123は、燃料タンク63に給油されたことが検知されたときに、燃料噴射量の積算を開始する。噴射量積算部123は、燃料噴射量の積算値を示す信号を生成し、その信号を補正部124に入力する。
補正部124は、第1判定部109の判定結果(第1オクタン価)によって第2判定部122の判定結果(第2オクタン価)を補正することで、オクタン価を判定する。
特に、本実施形態に係る補正部124は、非給油時には補正をせず、燃料タンク63への給油に際して第2オクタン価を補正する。具体的に、補正部124は、燃料タンク63へ給油されてから、燃料配管としての燃料供給路62内の燃料が消費されるまでの期間にわたり、第2オクタン価の補正を実行する。
詳しくは、補正部124には、第1判定部109により判定された第1オクタン価と、第2判定部122により判定された第2オクタン価と、噴射量積算部123により算出された燃料噴射量の積算値と、が入力される。
そして、補正部124は、燃料タンク63への給油に際し、第1オクタン価によって第2オクタン価を補正することで、第2オクタン価を更新する。尚、本実施形態における補正とは、第2オクタン価の値を、第1オクタン価の値に置き換える処理を指す。
ここで、給油前から燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されるまでの間、補正部124は、第2オクタン価に対する補正のうち、第2オクタン価を低減する補正こそ許容されるものの、第2オクタン価を増加する補正は制限される。尚、本実施形態における補正の制限とは、第2オクタン価の値を置き換えることなく、第2オクタン価の値を保持することを指す。
詳しくは、補正部124は、第1オクタン価が第2オクタン価未満の場合は、第2オクタン価の値を第1オクタン価の値により更新するとともに、第1オクタン価が第2オクタン価以上の場合は、第2オクタン価の値を更新せずに保持する。
具体的に、第2オクタン価が94でありかつ第1オクタン価が91の場合、補正後の第2オクタン価は91となる。一方、第2オクタン価が94でありかつ第1オクタン価が96の場合、補正は許容されず、第2オクタン価は94に保持される。
補正部124はまた、燃料噴射量の積算値に基づいて、給油前から燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されたか否かを判定することができる。具体的に、補正部124は、燃焼噴射量の積算値が所定の閾値Qtに達したか否かを判定し、その積算値が所定値Qtに達した場合、給油前から燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されたと判定する。なお、閾値Qtは、予めメモリ102に記憶されている。閾値Qtは、例えば燃料供給路62内の容積とすることができる。
補正部124によって補正された第2オクタン価は、給油時においては制御セット選択部110に入力され、第1オクタン価の代わりに、エンジン1の運転制御に用いられる。
-エンジンの運転制御に係る機能ブロック-
制御セット選択部110は、第1判定部109により判定された燃料のオクタン価、又は、第2判定部122により判定された上で補正部124によって補正された燃料のオクタン価に基づいて、エンジン1の運転制御に用いる制御セットを選択する。具体的に、制御セット選択部110は、判定または補正された燃料のオクタン価が、低オクタン価よりも高オクタン価に近い場合は、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットを選択し、判定された燃料のオクタン価が、高オクタン価よりも低オクタン価に近い場合は、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択する。
尚、制御セット選択部110は、判定又は補正された燃料のオクタン価が中間のオクタン価である場合、第1制御セットの制御量と、第2制御セットの制御量と、の中間値を各デバイスの制御量に定めてもよい。
こうして、燃料のオクタン価を判定すると、ECU10は、燃料のオクタン価に応じて選択された制御セットに従って、少なくとも、インジェクタ6の燃料噴射時期、点火プラグ25の点火時期、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度をそれぞれ制御する。その結果、エンジン1は、使用燃料のオクタン価に応じて、常に、燃費及び排気ガス性状が最適になる。
(制御手順の具体例)
図9は、制御セットの選択手順を例示するフローチャートである。また、図10は、第1オクタン価の判定手順を例示するフローチャートであり、図11は、第2オクタン価の判定手順を例示するフローチャートである。
以下、ECU10による具体的な制御手順について説明する。以下の説明は、燃料のオクタン価を判定又は補正する手順と、判定又は補正されたエンジン1の運転制御と、について説明するものである。
まず、イグニッションをオンにすると、図8のフローがスタートする。スタート後のステップS1において、ECU10は、メモリ102に記憶されているオクタン価に応じた制御セットを選択し、エンジン1の運転を制御する。
続くステップS2において、ECU10は、例えばレベルセンサSW11の計測信号の経時変化に基づいて、燃料タンク63に給油されたか否かを判定する。この判定がYESの場合(給油時と判定された場合)、プロセスはステップS3に進む。ステップS2の判定がNOの場合(非給油時と判定された場合)、プロセスはステップS10に進む。
後者の場合、ECU10は、図9のステップS10において、アシスト熱量に基づきオクタン価を判定する。図9のステップS10では、図10に示すフローが実行される。図10は、アシスト熱量に基づいたオクタン価(第1オクタン価)の判定手順を例示するフローチャートである。
具体的に、図10のステップS101において、ECU10は、筒内圧センサSW5からの計測信号、つまり、燃焼室17の中の圧力波形の情報を取得する。
続くステップS102において、ECU10は、図3に例示する圧力波形に基づいて、自己着火タイミングθciを算出し、続くステップS103において、ECU10は、圧力波形に基づいて、SPCCI燃焼が行われたか否かを判断する。ステップS103の判断がYESの場合プロセスはステップS104に進み、NOの場合、プロセスはリターンする。本実施形態では、燃料のオクタン価の判定は、SPCCI燃焼時のみ実行されるようになっている。
ECU10はまた、エンジン1の運転状態が領域A2又は領域A3にある場合に、燃料のオクタン価の判定を行ってもよい(図4参照)。ECU10は、エンジン1の運転状態が、領域A4にある場合、換言すると、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンである場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。こうすることでECU10は、燃料のオクタン価を精度良く判定できる。
ステップS104においてECU10は、充填効率Ceが下限値以上であるか否かを判断する。図6に例示するように、等価温度上昇量と充填効率との関係において、充填効率Ceが低いと、曲線6011-6014が互いに近づいてしまう。この場合、燃料のオクタン価を誤判定する恐れがある。そこで、ECU10は、充填効率Ceが下限値よりも小さい場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。オクタン価の判定可能な下限負荷が存在する。ステップS104の判断がYESの場合、プロセスはステップS105に進み、ステップS104の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。このことにより、使用燃料のオクタン価の誤判定が抑制される。
ステップS105において、ECU10は、前述したように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する。続くステップS106において、ECU10は、算出されたアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点に基づいて、直線の統計モデルを定める(図8のグラフ111参照)。つまり、ECU10は、複数の点に対して直線をフィットさせる。
ステップS107においてECU10は、ステップS106で定めた直線の統計モデルに基づいて、当該直線の、特定CAにおける切片である等価温度上昇量を算出する。そして、ステップS108においてECU10は、算出した等価温度上昇量と、メモリ102が記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出すると共に、自着火特性から、燃料のオクタン価(第1オクタン価)を判定する(ステップS109)。
ステップS109が実行されると、図10のフローから図9のフローに戻り、図9のステップS10からステップS11に進む。
図9のステップS11において、ECU10は、図10のフローに基づいた判定結果(つまり、第1オクタン価)を現在のオクタン価とみなす。ECU10は、現在のオクタン価をメモリ102に記憶する。
そして、ステップS11から続くステップS12において、ECU10は、現在のオクタン価に対応した制御セットを選択し、その制御セットに応じた制御信号を出力する。
ステップS2からステップS10へ続くフローは、非給油時に実行される。
一方、ステップS2の判定がYESの場合、ECU10は、図9のステップS3において、給油比率に基づきオクタン価を判定する。図9のステップS3では、図11に示すフローが実行される。図11は、給油比率に基づいたオクタン価(第2オクタン価)の判定手順を例示するフローチャートである。図11に示すフローは、エンジン1の運転制御に際して、繰り返し実行される。
具体的に、図11のステップS201において、ECU10は、レベルセンサSW11からの計測信号、つまり、給油前の燃料(事前燃料)の燃料量(V1)と、給油後の燃料量(V1+V2)と、を取得する。また、ステップS201において、ECU10は、新たに給油された燃料(給油燃料)の燃料(V2)を算出する。
次いで、ステップS202において、ECU10は、ステップS201で取得、算出された燃料量(V1,V2)に基づいて、給油比率(Rt=V1/V2)を算出する。
次いで、ステップS203において、ECU10は、事前燃料のオクタン価(O1)を読み込む。事前燃料のオクタン価(O1)は、前回フローを実行したときに、第1判定部109又は第2判定部122によって取得されたオクタン価とすればよい。
次いで、ステップS204において、ECU10は、給油燃料のオクタン価(O2)を、想定され得る最低のオクタン価(最低RON)に設定する。“最低のオクタン価”の具体的な数値は、メモリ102から読み込まれる。
次いで、ステップS205において、ECUは、前述したステップS201~S204で取得または設定されたパラメータに基づいて、給油後のオクタン価、つまり前述した第2オクタン価(O3)を判定する。
ステップS205が実行されると、図11のフローから図9のフローに戻り、図9のステップS3からステップS4に進む。
図9のステップS4において、ECU10は、給油比率(Rt)に基づいたオクタン価の判定結果(つまり、第2オクタン価)を現在のオクタン価とみなし、これをメモリ102に記憶する。
次いで、ステップS5において、ECU10は、インジェクタ6の噴射情報に基づいて燃料噴射量を積算する。燃料噴射量の積算値は、燃料供給路62における燃料消費量とみなすことができる。この燃料消費量は、例えば、後述のステップS6での判定が、NOという判定からYESという判定に変化する毎に、リセットしてもよい。
次いで、ステップS6において、ECU10は、燃料消費量と前述した閾値Qtとを比較し、燃料消費量が閾値Qt以上になったか否かを判定する。この判定がNOの場合、給油前から燃料供給路62内に残留していた事前燃料が消費し尽くされていないと判断され(ステップS7)、プロセスはステップS8に進む。
一方、ステップS6の判定がYESの場合、給油前から燃料供給路62内に残留していた事前燃料が消費されたと判断され、プロセスはステップS10へ進む。この場合、ECU10は、アシスト熱量に基づいたオクタン価の判定を実行し、その判定結果(第1オクタン価)を現在のオクタン価とみなす。
ステップS8において、ECU10は、ステップS10と同様に、アシスト熱量に基づいたオクタン価(第1オクタン価)の判定を実行する。ECU10は、その判定結果を、現在のオクタン価(第2オクタン価)の補正に利用する。
具体的に、ステップS8から続くステップS9において、ECU10は、第1オクタン価の判定結果によって、現在のオクタン価(第2オクタン価)を補正する。ECU10は、第2オクタン価を低減する補正(低オクタン価側への補正)を許容する一方、第2オクタン価を増加する補正(高オクタン価側への補正)を制限する。前述のように、ECU10は、第1オクタン価が第2オクタン価未満の場合は、第1オクタン価によって第2オクタン価を更新する一方、第1オクタン価が第2オクタン価以上の場合は、第2オクタン価を更新せずに保持する。
ステップS9の処理が終了すると、プロセスはステップS12に進む。これにより、ECU10は、補正後の第2オクタン価(現在のオクタン価)に応じた制御セットを選択する。その後、ECU10は、図9のフローをステップS1から繰り返す。これにより、ECU10は、補正後の第2オクタン価に応じた制御信号を生成し、その制御信号に基づいたエンジン1の運転制御を実行することになる。
図12は、図9のフローに対応したタイムチャートである。このタイムチャートは、図8で例示した判定装置によって実行される。まず、給油前の期間(時間<T1)において、ECU10は、図9のステップS1~S2及びステップS10~S12を実行する。具体的に、ECU10は、アシスト熱量に基づきオクタン価を判定するとともに、そうして判定されたオクタン価(第1オクタン価)に応じた制御信号を出力することでエンジン1の運転制御を実行する。
次いで、時間T1において給油タンク63に給油されたことが検知されると、ECU10は、給油直後であることを示すフラグ(給油フラグ)を0から1に変更する。そして、給油後の期間のうち、特に、燃料供給路62内に残留していた燃料が燃焼室17内へ噴射される期間(T1≦時間<T2)において、ECU10は、図9のステップS1~S9及びステップS12を実行する。具体的に、ECU10は、給油比率に基づきオクタン価を判定するとともに、そうして判定されたオクタン価(第2オクタン価)を第1オクタン価によって補正する(ただし、低オクタン価側への補正に限る)。ECU10は、補正後の第2オクタン価に応じた制御信号を出力することでエンジン1の運転制御を実行する。また、ECU10は、給油フラグが0から1に変更されたタイミングで、燃料噴射量の積算を開始する。
次いで、時間T2において燃料噴射量の積算値(積算噴射量)が閾値Qtに達すると、ECU10は、給油直後であることを示すフラグ(給油フラグ)を1から0に変更する。そして、給油後の期間のうち、特に、燃料供給路62内に残留していた燃料が消費され尽くした後の期間(T2≦時間)において、ECU10は、図9のステップS1~S6及びステップS10~S12を実行する。具体的に、ECU10は、アシスト熱量に基づきオクタン価を判定するとともに、そうして判定されたオクタン価(第1オクタン価)に応じた制御信号を出力することでエンジン1の運転制御を実行する。
(効果等)
以上説明したように、第2判定部122を用いることで、低オクタン価の燃料が給油されると想定した上でオクタン価を判定することができる。これにより、異常燃焼の発生を抑制することが可能となる。
加えて、図9に例示したように、燃料供給路62内に残留した燃料が消費されるまでの間は高オクタン価側への補正を制限することで、第2判定部122による判定結果と、燃料供給路62内における燃料のオクタン価との間のズレを抑制しつつ、想定よりも低いオクタン価を有する燃料が仮に使用されたとしても、異常燃焼の発生をより確実に抑制することができる。
また、図12に例示したように、燃料タンク63に給油されてから燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されるまでの間は、第1判定部109により判定された第1オクタン価によって、第2判定部122により判定された第2オクタン価を補正するとともに、その補正後の第2オクタン価に応じた制御信号を出力する。これにより、オクタン価の補正をより適切なタイミングで開始することができ、ひいては、異常燃焼の発生をより確実に抑制する上で有利になる。
また、図9に例示したように、燃料供給路62内に残留していた燃料が消費された後は、第1判定部109により取得された第1オクタン価に応じた制御信号を出力する。これにより、エンジン1の運転制御を好適に行うことができる。
また、図9に例示したように、燃料噴射量の積算値に基づいて燃料供給路62内に残留した燃料が消費されたか否かを判定することで、燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されたタイミングを適切に判定し、ひいては、異常燃焼の発生を抑制する上で有利になる。
《他の実施形態》
前記実施形態では、エンジン1の燃焼状態に基づいた判定ロジックの一例として、SPCCI燃焼を前提とした判定ロジックが示されていたが、本開示は、SPCCI燃焼を前提としない。例えば、第1判定部109は、ノックセンサの計測信号に基づいて、燃料のオクタン価を判定してもよい。
また、前記実施形態では、給油前から燃料供給路62内に残留していた燃料が消費されたか否かの判定は、補正部124によって実行されるように構成されていたが、本開示は、その構成には限定されない。例えば、噴射量積算部123が判定してもよい。
また、前記実施形態では、燃料タンク63への給油が検知されたことを契機として、第2オクタン価の補正、及び、補正後の第2オクタン価に応じたエンジン1の運転制御を実行するように構成されていたが、本開示は、その構成には限定されない。例えば、燃料タンク63への給油が検知されてから所定期間が経過した後に、第2オクタン価の補正、及び、補正後の第2オクタン価に応じたエンジン1の運転制御を実行するように構成してもよい。