JP2022099050A - エンジンの制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図る。【解決手段】エンジン1の制御装置は、空気量調整部(スロットル弁43)と、点火部(点火プラグ25)と、計測部(筒内圧センサSW5)と、制御部(ECU10)と、を備える。制御部は、点火部に所定のタイミングで混合気に点火させ、それによって、一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始し、その後、残りの未燃混合気が自己着火により燃焼する部分自己着火燃焼が行われ、制御部は、点火部が点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに燃焼室内で発生した燃料を算出すると共に、算出した熱量に基づいて、空気充填量の第1上限値を算出し、制御部は、判定したオクタン価が所定の閾値(第1閾値)以上の場合には、空気充填量が前記第1上限値以下になるように空気量調整部を制御する。【選択図】図11
Description
ここに開示する技術は、エンジンの制御装置に関する。
特許文献1には、ノッキング回避制御を行うエンジンの制御装置が記載されている。この制御装置は、第1燃料噴射タイミング及び第1点火タイミングを定めた第1制御セットと、第2燃料噴射タイミング及び第2点火タイミングを定めた第2制御セットと、を設定している。第1制御セットは、高オクタン価燃料に適合した燃料噴射タイミング及び点火タイミングであり、第2制御セットは、低オクタン価燃料に適合した燃料噴射タイミング及び点火タイミングである。特許文献1に記載された制御装置は、ノッキングセンサがノッキングの発生を検知した場合、低オクタン価燃料が使用されていると推定して、第2制御セットにより燃料の噴射及び点火を行う。これにより、特許文献1に記載された制御装置は、低オクタン価燃料の使用時におけるノッキングの発生を回避する。
前記特許文献1のように、燃料のオクタン価に応じて点火タイミング等を変更することで、ノッキングの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図ることができる。具体的に、いわゆる高オクタン価燃料が使用されていると判定された場合には、ノッキングの発生が回避されると想定されるため、目標トルクを可能な限り増加側に変更することが可能になる。
しかしながら、オクタン価の判定を誤った場合、例えば、実際には低オクタン価燃料が使用されているにもかかわらず、高オクタン価燃料の使用時のようなトルクアップを図った場合、プリイグニッションが発生し、エンジンの破損を招く可能性がある。
ここに開示する技術は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図ることにある。
本願出願人は、いわゆるSPCCI(SPark Controlled Compression Ignition)燃焼を提案している。SPCCI燃焼は、点火プラグが燃焼室の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。火炎伝播を伴う燃焼によって発生した熱は、未燃混合気の自己着火をアシストする。
本願発明者らは、SPCCI燃焼において、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室内で発生した熱量(以下、この熱量をアシスト熱量ともいう)と、充填効率、ひいては燃焼室の中に導入される空気量(以下、この空気量を空気充填量ともいう)との間に相関があることに気付いた。
つまり、充填効率(又は空気充填量)が高い場合、充填効率が低い場合に比べて、空気の圧縮に伴い燃焼室の中の温度が大きく上昇するから、未燃混合気は自己着火しやすくなる。そのため、充填効率が高い場合には、アシスト熱量は相対的に少なくなる。一方、充填効率が低い場合、充填効率が高い場合に比べて未燃混合気は自己着火しにくいため、アシスト熱量は相対的に多くなる。本願発明者らは、SPCCI燃焼時のアシスト熱量を、計測部が計測をした各種のパラメータに基づいて算出すれば、そのアシスト熱量に対応した充填効率を判定できることを見いだした。
ここで、算出されたアシスト熱量が過度に少ない場合、燃焼室内の未燃混合気は、過度に自己着火しやすい状態にあるものと考えられる。この場合、プリイグニッションの発生が懸念される。本願発明者らによって得られた知見によれば、アシスト熱量には、プリイグニッションの発生を回避するための下限が存在する。本願発明者らは、アシスト熱量の下限に対応した充填効率を判定することで、充填効率ひいては空気充填量に上限を設定できることを見いだした。
本開示は、本願発明者らの新たな知見に基づいて完成したものである。
具体的に、本開示の第1の態様は、エンジンの制御装置に係る。この制御装置は、燃焼室を形成するシリンダを有するエンジンと、前記燃焼室の中に導入される空気量である空気充填量を調整可能な空気量調整部と、前記エンジンに取り付けられかつ、前記燃焼室の中の混合気に点火する点火部と、前記エンジンに関係するパラメータの計測信号を出力する計測部と、前記計測信号に基づいて前記燃焼室に供給される燃料のオクタン価を判定するとともに、判定したオクタン価に応じた制御信号を、前記空気量調整部及び前記点火部に出力する制御部と、を備える。
そして、前記第1の態様によれば、前記制御部は、前記点火部に所定のタイミングで前記混合気に点火させ、それによって、一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始し、その後、残りの未燃混合気が自己着火により燃焼する部分自己着火燃焼が行われ、前記制御部は、前記計測信号を受けて、前記点火部が点火をしたタイミングから前記未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、前記燃焼室内で発生した燃料を算出すると共に、算出した熱量に基づいて、前記空気充填量の第1上限値を算出し、前記制御部は、前記判定したオクタン価が所定の閾値以上の場合には、前記空気充填量が前記第1上限値以下になるように、前記空気量調整部を制御する。
この構成によると、点火部は、制御部からの制御信号を受けて、所定のタイミングで混合気に点火する。燃焼室内の混合気の一部は火炎伝播を伴う燃焼を開始する。火炎伝播を伴う燃焼により、燃焼室内の温度及び圧力が高まる。残りの未燃混合気は、自己着火により燃焼する。エンジンは、部分自己着火燃焼(つまり、SPCCI燃焼)を行う。
制御部は、計測部の計測信号に基づいて、点火部が点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室内で発生した熱量を算出する。この熱量は、アシスト熱量である。前述したように、アシスト熱量は、空気充填量と相関を有している。実験又はシミュレーションを行うことによって、アシスト熱量と空気充填量との相関関係を予め調べておいて、その相関関係を、マップ又はモデルとして、制御部が記憶していれば、制御部は、算出したアシスト熱量から、アシスト熱量の下限に対応する空気充填量の上限(第1上限値)を算出することができる。
そして、制御部は、判定したオクタン価が所定の閾値以上の場合には、前記第1上限値以下となる範囲内で空気充填量を調整する。例えば第1上限値付近まで空気充填量を高めることで、プリイグニッションの抑制と、エンジンのトルクアップと、を両立することができる。
このように、本開示の第1の態様は、プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図ることができる。
なお、制御部は、充填効率等を介して空気充填量を間接的に制御してもよい。この場合、第1上限値は、充填効率の上限値として間接的に定められることになる。
また、前記第1の態様に係る制御装置は、混合気がSPCCI燃焼すれば、アシスト熱量を介して空気充填量の上限を算出することができる。この制御装置は、空気充填量の上限を、混合気の自着火特性の変化(具体的には、アシスト熱量の変化)に追従させることができる。制御装置は、空気充填量の上限を速やかに算出することができる。
また、本開示の第2の態様によれば、前記制御部は、前記計測信号を受けて、前記算出した熱量以外の指標に基づいて、前記空気充填量の第2上限値を算出し、前記制御部は、前記判定したオクタン価が前記閾値未満の場合には、前記空気充填量が前記第2上限値以下となるように、前記空気量調整部を制御する、としてもよい。
この構成によると、制御部は、オクタン価が所定の閾値未満の場合には、第2上限値以下となる範囲内で空気充填量を調整する。アシスト熱量とは異なる観点に基づいて算出した第2上限値と、前記第1上限値とを併用することで、より安全サイドに立った制御を実現することが可能となる。
また、本開示の第3の態様によれば、前記制御部は、前記燃焼室の中に導入される吸気の温度、及び、前記エンジンの冷却水の温度の少なくとも一方に基づいて、前記第2上限値を算出する、としてもよい。
この構成によると、制御部は、吸気の温度、冷却水の温度等、エンジンの環境要因を考慮して第2上限値を算出する。アシスト熱量とは異なる観点に基づいて算出した上限を用いることで、より柔軟な制御を実現することが可能となる。
また、本開示の第4の態様によれば、前記制御部は、前記判定したオクタン価が前記閾値以上の場合、前記第1上限値及び前記第2上限値のうち相対的に小さい一方の上限値以下となるように、前記空気量調整部を制御する、としてもよい。
この構成によると、制御部は、第1上限値及び第2上限値のうち、より少ない一方の上限値に基づいて、空気充填量を制御する。これにより、プリイグニッションの発生をより確実に回避することが可能となる。
また、本開示の第5の態様によれば、前記制御部は、前記算出した熱量に基づいて、前記燃料のオクタン価を判定する、としてもよい。
SPCCI燃焼において、アシスト熱量と、燃料のオクタン価との間には相関がある。つまり、燃料のオクタン価が低いと、混合気は自己着火しやすいため、アシスト熱量は少なく、燃料のオクタン価が高いと、混合気は自己着火しにくいため、アシスト熱量は多い。SPCCI燃焼時のアシスト熱量を、計測部が計測をした各種のパラメータに基づいて算出すれば、燃料のオクタン価を判定することができる。
この構成によると、制御部は、燃料のオクタン価と、空気充填量の上限(第1上限値)と、を双方ともアシスト熱量の変化に追従させる。これにより、燃料のオクタン価に対応した第1上限値を算出することができる。また、制御部は、オクタン価及び第1上限値を速やかに算出することができる。
また、本開示の第6の態様によると、前記制御部は、前記エンジンの燃焼制御に係る制御量の目標値として、前記閾値未満のオクタン価に対応した第1目標値と、前記閾値以上のオクタン価に対応した第2目標値と、を前記燃料のオクタン価に応じて切り替えるように構成され、前記第1目標値及び前記第2目標値は、前記燃料のオクタン価に加えて、前記エンジンの運転状態に応じて設定されており、前記制御部は、前記第1目標値から前記第2目標値への切替に際しては、前記エンジンの運転状態が、前記第1目標値と前記第2目標値との差が所定値未満になる運転状態となるまで、前記第1目標値から前記第2目標値への切替を未実行とする、としてもよい。
この構成によれば、制御部は、第1目標値と第2目標値との差が所定値未満になる運転状態となるまで、オクタン価が低い燃料に適した制御量(第1目標値)からオクタン価が高い燃料に適した制御量(第2目標値)への切替を保留する。これにより、エンジンのトルクアップを図りつつも、そのトルクアップ時に懸念されるトルクショックを抑制することが可能になる。
なお、ここでいう「オクタン価が低い燃料」及び「オクタン価が高い燃料」とは、オクタン価の相対的な高低を示すものに過ぎない。例えば、前者の燃料を98以上100RON未満のオクタン価を有する燃料とし、後者の燃料を100RON以上のオクタン価を有する燃料としてもよい。
また、本開示の第7の態様によると、前記制御部は、前記第2目標値から前記第1目標値への切替に際しては、前記エンジンの運転状態に応じた前記第1目標値と前記第2目標値との差にかかわらず、前記第2目標値から前記第1目標値への切替を実行する、としてもよい。
この構成によれば、制御部は、第1目標値と第2目標値との差にかかわらず、オクタン価が相対的に高い燃料に適した制御量(第2目標値)からオクタン価が相対的に低い燃料に適した制御量(第1目標値)への切替を実行する。これにより、第2目標値の元でオクタン価が相対的に低い燃料を燃焼させた場合に懸念されるプリイグニッションの発生を抑制することができる。
また、本開示の第8の態様によると、前記制御部は、プリイグニッションの発生が実測又は予測された場合には、前記判定したオクタン価の高低にかかわらず、該オクタン価は前記閾値未満であるとみなす、としてもよい。
この構成によれば、制御部は、プリイグニッションが発生した場合には、オクタン価の判定結果とは無関係に、オクタン価が相対的に低い燃料に適した制御量(第1目標値)を用いてエンジンを制御する。これにより、プリイグニッションの発生を可及的速やかに抑制することが可能になる。
また、本開示の第9の態様によると、前記制御部は、前記判定したオクタン価が所定の閾値以上の場合、該オクタン価が前記閾値以上となった回数をカウントアップし、該回数が所定回数以上になったことを条件として、前記第1上限値に基づいた前記空気量調整部の制御を実行する、としてもよい。
この構成によれば、制御部は、オクタン価が確実に高いと判断される場合に限り、第1上限値に基づいた制御を実行する。制御部は、より安全サイドに立った制御を実行する。これにより、プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図る上で有利になる。
また、本開示の第10の態様によると、前記閾値は、99.0RON以上に設定される、としてもよい。
この構成によれば、制御部は、燃料のオクタン価が取り分け高い場合に適した制御を行う。これにより、エンジンの出力トルクを可能な限り高めることができる。
以上説明したように、本開示に係るエンジンの制御装置は、プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図ることができる。
以下、エンジンの制御装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するエンジン及びその制御装置は例示である。
図1は、エンジンを例示する図である。図2は、エンジンの制御装置を例示するブロック図である。
エンジン1は、燃焼室17を有している。燃焼室17は、吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返す。エンジン1は、4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の自動車に搭載されている。エンジン1が運転することによって自動車は走行する。
(エンジンの燃料)
エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。ガソリンのオクタン価は、国や地域によって異なる。例えば、日本では、高オクタン価のハイオクガソリンと低オクタン価のレギュラーガソリンとが市販されている。このエンジン1では、そのようなオクタン価の異なる燃料が使用できる。
エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンである。ガソリンのオクタン価は、国や地域によって異なる。例えば、日本では、高オクタン価のハイオクガソリンと低オクタン価のレギュラーガソリンとが市販されている。このエンジン1では、そのようなオクタン価の異なる燃料が使用できる。
すなわち、このエンジン1では、オクタン価が相対的に高い燃料(高オクタン価燃料)、及び、オクタン価が相対的に低い燃料(低オクタン価燃料)の両方を使用することができる。
高オクタン価燃料は、オクタン価が相対的に高い範囲内で、様々なオクタン価の燃料を含み得る。高オクタン価燃料のオクタン価は、例えば、100RON以下96RON以上である。
後述のように、本実施形態に係るエンジン1の制御装置は、使用可能な高オクタン価燃料のうち、オクタン価が最も高い100RONの燃料又は100RONでなくてもそれと実質的に同等の燃料(以下、「特定高オクタン価燃料」と呼称する)と、高オクタン価燃料に分類されながらも、そうした特定高オクタン価燃料よりもオクタン価が低い燃料と、で制御態様を異ならせるように構成されている。以下、「高オクタン価燃料」の語は、特定高オクタン価燃料と、特定オクタン価燃料よりもオクタン価の低い高オクタン価燃料と、を総称した概念を指す。
なお、特定高オクタン価燃料のオクタン価は、100RONに限らない。使用可能な高オクタン価燃料のオクタン価が100RONよりも高い場合又は低い場合は、特定高オクタン価燃料のオクタン価は、そのオクタン価となる。以下の記載では、特定高オクタン価燃料のオクタン価を「特定高オクタン価」と呼称する。また、高オクタン価と分類されるものの、特定高オクタン価よりも低いオクタン価を「非特定高オクタン価」と呼称し、その非特定高オクタン価を有する燃料を「非特定高オクタン価燃料」と呼称する場合がある。
高オクタン価燃料と同様に、低オクタン価燃料も、オクタン価が相対的に低い範囲内で、様々なオクタン価の燃料を含み得る。低オクタン価燃料のオクタン価は、例えば、96RON未満91RON以上である。
後述する燃料タンク63には、このような高オクタン価燃料又は低オクタン価燃料を給油することができる。高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63には、低オクタン価燃料を注ぎ足すことができ、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に、高オクタン価燃料を注ぎ足すこともできる。
オクタン価の異なる燃料を注ぎ足すと、エンジン1の使用燃料のオクタン価は、中間のオクタン価になる。したがって、燃料の注ぎ足しが行われた場合、その燃料のオクタン価は、100RONから91RONの間で変化する。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
エンジン1は、シリンダブロック12と、シリンダヘッド13とを備えている。シリンダヘッド13は、シリンダブロック12の上に載置される。
シリンダブロック12に、複数のシリンダ11が形成されている。エンジン1は、多気筒エンジンである。図1では、1つのシリンダ11のみを示す。
各シリンダ11には、ピストン3が内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、シリンダ11の内部を往復動する。ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13は、燃焼室17を形成する。なお、「燃焼室」は、ピストン3の位置にかかわらず、ピストン3、シリンダ11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する。
エンジン1の幾何学的圧縮比は、10以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、一部の運転領域において、SI(Spark Ignition)燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、CI燃焼をコントロールする。エンジン1は、圧縮着火式エンジンである。このエンジン1は、ピストン3が圧縮上死点に至った時の燃焼室17の温度を高める必要がない。エンジン1の幾何学的圧縮比は低い。幾何学的圧縮比が低いと、冷却損失の低減、及び、機械損失の低減に有利になる。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18は、詳細な図示は省略するが、いわゆるタンブルポートである。つまり、吸気ポート18は、燃焼室17の中にタンブル流が発生するような形状を有している。
吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、吸気ポート18を開閉する。動弁機構は、吸気弁21を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。吸気弁21の開弁角は変化しない。なお、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。
排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、排気ポート19を開閉する。動弁機構は、排気弁22を所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構としてもよい。図2に示すように、動弁機構は、排気電動S-VT24を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更する。排気弁22の開弁角は変化しない。尚、動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有してもよい。
吸気電動S-VT23及び排気電動S-VT24は、吸気弁21と排気弁22との両方が開弁するオーバーラップ期間の長さを調節する。オーバーラップ期間の長さを調節することによって、内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、インジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、燃焼室17の中に燃料を直接噴射する。インジェクタ6は、燃焼室17の天井部(つまり、シリンダヘッド13の下面)に配設されている。インジェクタ6は、詳細な図示は省略するが、複数の噴孔を有する多噴孔型である。
インジェクタ6には、燃料供給システム61が接続されている。インジェクタ6及び燃料供給システム61は、燃料供給部を構成する。燃料供給システム61は、燃料を貯留する燃料タンク63と、燃料供給路62とを備えている。燃料供給路62は、燃料タンク63とインジェクタ6とを互いにつないでいる。燃料供給路62には、燃料ポンプ65とコモンレール64とが介設している。燃料ポンプ65は、コモンレール64に燃料を送る。燃料ポンプ65は、この構成例においては、クランクシャフト15によって駆動されるプランジャー式のポンプである。コモンレール64は、燃料ポンプ65から送られた燃料を蓄える。コモンレール64の中は高圧である。インジェクタ6は、コモンレール64につながっている。インジェクタ6が開弁すると、コモンレール64の中の高圧の燃料が、インジェクタ6の噴孔から燃焼室17の中に噴射される。尚、燃料供給システム61の構成は、前記の構成に限定されない。
シリンダヘッド13には、シリンダ11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでいる。点火プラグ25は、点火部の一例である。
エンジン1の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各シリンダ11の吸気ポート18に連通している。燃焼室17に導入する吸気のガスは、吸気通路40の中を流れる。吸気通路40の上流端部には、エアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端の近くには、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、シリンダ11毎に分岐している。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度が変わることによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調節する。スロットル弁43は、空気量調整部の一例である。スロットル弁43に例示される空気量調整部は、燃焼室17の中に導入される空気量である空気充填量を調整可能に構成されている。
吸気通路40にはまた、スロットル弁43の下流に、過給機44が配設されている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力を高める。この構成例において、過給機44は、エンジン1によって駆動される。過給機44は、ルーツ式、リショルム式、ベーン式、又は遠心式である。
過給機44とエンジン1との間には、電磁クラッチ45が介設されている。電磁クラッチ45は、エンジン1から過給機44へ駆動力を伝達する状態と、駆動力の伝達を遮断する状態とを切り替える。後述するECU10が電磁クラッチ45に制御信号を出力することによって、過給機44はオン又はオフになる。
吸気通路40における過給機44の下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44が圧縮した吸気のガスを冷却する。インタークーラー46は、水冷式又は油冷式である。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、吸気通路40における過給機44の上流部とインタークーラー46の下流部とを互いに接続する。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスする。バイパス通路47には、エアバイパス弁48が配設されている。エアバイパス弁48は、バイパス通路47を流れるガスの流量を調節する。
ECU10は、過給機44がオフの場合に、エアバイパス弁48を全開にする。吸気通路40を流れる吸気のガスは、過給機44及びインタークーラー46をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に至る。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
過給機44がオンの場合、エンジン1は過給状態で運転する。ECU10は、過給機44がオンの場合に、エアバイパス弁48の開度を調節する。過給機44及びインタークーラー46を通過した吸気のガスの一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に戻る。ECU10がエアバイパス弁48の開度を調節すると、燃焼室17に導入する吸気のガスの圧力が変わる。なお、「過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える状態をいい、「非過給」とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる状態をいう、と定義してもよい。
エンジン1は、吸気通路40に取り付けられたスワールコントロール弁56を有している。スワールコントロール弁56は、燃焼室17内にスワール流を発生させる。スワールコントロール弁56は、開度調節弁である。スワールコントロール弁56の開度が小さいと、燃焼室17内のスワール流が強くなる。スワールコントロール弁56の開度が大きいと、燃焼室17内のスワール流が弱くなる。スワールコントロール弁56を全開にすると、スワール流は発生しない。
エンジン1の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各シリンダ11の排気ポート19に連通している。燃焼室17から排出された排気ガスは、排気通路50の中を流れる。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、シリンダ11毎に分岐している。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。排気ガス浄化システムは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
(エンジンの制御装置の構成)
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
エンジンの制御装置は、ECU(Engine Control Unit)10を備えている。ECU10は、制御部の一例である。ECU10は、図2に示すように、マイクロコンピュータ101と、メモリ102と、I/F回路103と、を備えている。マイクロコンピュータ101は、プログラムを実行する。メモリ102は、プログラム及びデータを格納する。メモリ102は、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)である。I/F回路103は、電気信号の入出力を行う。
ECU10には、図1及び図2に示すように、各種のセンサSW1-SW11が接続されている。センサSW1-SW11は、エンジン1の運転に関係するパラメータの計測信号を出力し、該計測信号をECU10に入力する。センサSW1-SW11は、計測部の例示である。具体的に、センサSW1-SW11には、以下のセンサが含まれる。
エアフローセンサSW1は、吸気通路40を流れる新気の流量を計測する。エアフローセンサSW1は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40を流れる新気の温度を計測する。第1吸気温度センサSW2は、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されている。第2吸気温度センサSW3は、燃焼室17に導入される吸気のガスの温度を計測する。第2吸気温度センサSW3は、サージタンク42に取り付けられている。
吸気圧センサSW4は、燃焼室17に導入される吸気のガスの圧力を計測する。吸気圧センサSW4は、サージタンク42に取り付けられている。筒内圧センサSW5は、各燃焼室17内の圧力を計測する。筒内圧センサSW5は、シリンダ11毎に、シリンダヘッド13に取り付けられている。水温センサSW6は、冷却水の温度を計測する。水温センサSW6は、エンジン1に取り付けられている。
クランク角センサSW7は、クランクシャフト15の回転角を計測する。クランク角センサSW7は、エンジン1に取り付けられている。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を計測する。アクセル開度センサSW8は、アクセルペダル機構に取り付けられている。吸気カム角センサSW9は、吸気カムシャフトの回転角を計測する。吸気カム角センサSW9は、エンジン1に取り付けられている。排気カム角センサSW10は、排気カムシャフトの回転角を計測する。排気カム角センサSW10は、エンジン1に取り付けられている。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に貯留する燃料の量を計測する。レベルセンサSW11は、燃料タンク63に取り付けられている。
ECU10は、これらのセンサSW1-SW11の計測信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、予め定められている制御ロジックに従って、各デバイスの制御量を演算する。制御ロジックは、メモリ102に記憶されている。詳細は後述するが、ECU10は、センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、燃焼室17に供給される燃料のオクタン価を判定することができる。
ECU10は、制御量に係る電気信号(制御信号)を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、燃料供給システム61、スロットル弁43、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、及び、スワールコントロール弁56等のデバイスに出力する。ECU10は、制御信号が入力される各デバイスを介してエンジン1の運転を制御する。ここで、ECU10は、判定したオクタン価に応じた制御信号を、少なくとも、空気量調整部としてのスロットル弁43と、点火部としての点火プラグ25と、に出力する。
(SPCCI燃焼のコンセプト)
エンジン1は、燃費の向上及び排出エミッション性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
エンジン1は、燃費の向上及び排出エミッション性能の向上を主目的として、所定の運転状態にある場合に、圧縮自己着火による燃焼を行う。圧縮開始前の燃焼室17の中の温度がばらつくと、自己着火のタイミングが大きく変化する。そこで、エンジン1は、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。
図3は、SPCCI燃焼時における、燃焼室17内の圧力変化301を例示している。図3の横軸は、クランク角である。図3は、筒内圧センサSW5の計測信号に相当する。SPCCI燃焼は、次のような燃焼形態である。つまり、点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をすることによって、混合気が火炎伝播によりSI燃焼を開始する。SI燃焼の開始後、(1)SI燃焼の発熱により燃焼室17の中の温度が高くなりかつ、(2)火炎伝播により燃焼室17の中の圧力が上昇することにより、自己着火タイミングθciにおいて未燃混合気が自己着火し、CI燃焼をする。SPCCI燃焼における圧力波形は、SI燃焼による山に、CI燃焼による山が積み重なったような形状になる。圧力波形は、自己着火タイミングθciにおいて変曲点を有する。筒内圧センサSW5が燃焼室17内の圧力波形を計測することにより、ECU10は、その圧力波形の形状に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が行われたか否かを判断することができる。
SI燃焼の燃焼量を調節することによって、圧縮開始前の燃焼室17の中の温度のばらつきを吸収できる。ECU10が点火タイミングを調節することによって、SI燃焼の燃焼量が調節される。ECU10が点火タイミングを調節すれば、混合気は目標のタイミングで自己着火する。SPCCI燃焼は、SI燃焼の燃焼量がCI燃焼の開始タイミングをコントロールしている。
(エンジンの運転領域)
図4は、エンジン1の制御マップ401を例示している。制御マップ401は、ECU10のメモリ102に記憶されている。ECU10は、制御マップ401に基づいて、エンジン1を運転する。
図4は、エンジン1の制御マップ401を例示している。制御マップ401は、ECU10のメモリ102に記憶されている。ECU10は、制御マップ401に基づいて、エンジン1を運転する。
制御マップ401は、エンジン1の負荷及びエンジン1の回転数によって規定されている。制御マップ401は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の四つの領域に分かれる。領域A1は、Naよりも回転数が高い領域である。領域A2は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLaよりも低い領域である。領域A3は、回転数がNa以下の領域のうち、負荷がLa以上の領域である。尚、Laは、エンジン1の最高負荷の1/2負荷としてもよい。領域A4は、領域A2内において、低負荷低回転側の特定の領域である。領域A4は、エンジン1の全運転領域において、低回転低負荷の特定領域に相当する。尚、ここでいう「低回転」は、エンジン1の全運転領域を低回転側と高回転側とに二等分した場合の、低回転側に対応する。「低負荷」は、エンジン1の全運転領域を低負荷側と高負荷側とに二等分した場合の、低負荷側に対応する。
エンジン1の負荷及び回転数によって定まる運転状態が、領域A1内にある場合、ECU10は、SI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。なお、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。混合気の空燃比は、三元触媒511及び513の浄化ウインドウに含まれればよい。なお、空燃比は、燃焼室17の全体における平均の空燃比である。
エンジン1の運転状態が、領域A2内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。なお、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A2内にある場合、過給機44はオフである。エンジン1の運転状態が、領域A3内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。なお、混合気の空燃比は、理論空燃比又はほぼ理論空燃比である。また、エンジン1の運転状態が領域A3内にある場合、過給機44はオンである。
エンジン1の運転状態が、領域A4内にある場合、ECU10は、SPCCI燃焼を行うようにエンジン1を制御する。なお、混合気の空燃比は、理論空燃比よりもリーンである。燃焼室17の全体における平均の空燃比は、具体的には、30以上40以下である。エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、過給機44はオフである。また、エンジン1の運転状態が領域A4内にある場合、ECU10はまた、吸気弁21及び排気弁22が共に開弁するオーバーラップ期間を設ける。内部EGRガスが燃焼室17の中に導入される。これにより、燃焼室17の中の温度が高くなる。エンジン1の負荷が低い領域A4において、燃焼室17の中の温度が高いことによりSPCCI燃焼のCI燃焼が安定化する。
ECU10のメモリ102は、領域A1、領域A2、領域A3、及び、領域A4の各領域について定められた制御セットを記憶している。制御セットは、燃料の噴射タイミング、点火タイミング、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度のそれぞれに関する制御量の目標値(以下、単に「制御目標」ともいう)を少なくとも含んでいる。ECU10は、各種のセンサSW1-SW11の計測信号に基づいて、エンジン1の運転状態を判断する。ECU10はまた、エンジン1の運転状態と制御マップ401とに基づいて、対応する制御セットに従って、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、及び、スワールコントロール弁56を制御する。
このエンジン1はまた、前述したように、高オクタン価燃料及び低オクタン価燃料の両方を使用可能である。メモリ102は、各領域について、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットと、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットとの2種類の制御セットを記憶している。第1制御セット及び第2制御セットは、燃料のオクタン価に対応して、燃費及び排気エミッション性能が最適になるよう、設定されている。例えば第1制御セットの点火タイミングは、第2制御セットの点火タイミングよりも進角側に設定されている。ECU10は、後述のアシスト熱量に基づいた制御によって、燃料のオクタン価を判定すると共に、判定した燃料のオクタン価に対応する制御セットを選択して、エンジン1の運転を制御する。
さらに、このECU10にはさらに、高オクタン価燃料に対応した制御セットにおいて、第1制御セットとは別に、全負荷時にエンジン1のトルクアップを図るために用意された、高トルク出力用の制御セット(第3制御セット)が設定されている。この第3制御セットは、燃料のオクタン価が、前述の特定高オクタン価の場合に選択されるようになっている。第1又は第2制御セットを構成する各制御目標は、本実施形態における「第1目標値」の例示である。また、第3制御セットを構成する各制御目標は、本実施形態における「第2目標値」の例示である。第1制御セットは、非特定高オクタン価用燃料の燃焼に際して選択される。
ECU10は、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、燃焼室17内で発生した熱量(以下、アシスト熱量ともいう)に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。ECU10は、判定した燃料のオクタン価に対応する制御セットを選択して、エンジン1の運転を制御する。
ECU10はまた、アシスト熱量に基づいて、充填効率の上限(以下、限界Ceともいう)を設定することもできる。ECU10は、充填効率を介して間接的に、燃焼室17の中に導入される空気量である空気充填量を制御する。限界Ceを設定することは、空気充填量の上限値(第1上限値)を設定することに等しい。
以下、アシスト熱量に基づいた燃料のオクタン価の判定ロジックと、同じくアシスト熱量に基づいた限界Ceの設定ロジックとについて、順番に説明をする。
(燃料のオクタン価の判定ロジック)
次に、図5及び図6を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジックについて説明をする。この判定ロジックは、SPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
次に、図5及び図6を参照しながら、燃料のオクタン価の判定ロジックについて説明をする。この判定ロジックは、SPCCI燃焼の燃焼形態を利用する。図3に示すように、SPCCI燃焼は、点火プラグ25が燃焼室17の中の混合気に強制的に点火を行って火炎伝播を伴う燃焼を開始させると共に、その燃焼による発熱及び/又は圧力上昇によって、未燃混合気が自己着火により燃焼する形態である。
ここで、点火プラグが混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに燃焼室17内で発生した熱量は、前述のアシスト熱量に相当する。SPCCI燃焼において、未燃混合気は、アシスト熱量を受けて自己着火する。燃料のオクタン価が低いと、当該燃料は自己着火しやすいため、アシスト熱量は少ない。逆に、燃料のオクタン価が高いと、当該燃料は自己着火しにくいため、アシスト熱量は多い。アシスト熱量と燃料のオクタン価との間には、相関がある。
図5は、アシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を示すグラフ501を例示している。グラフ501は、本願発明者らが、エンジン1の運転状態(つまり、エンジン1の負荷、及び、環境温度)を変えながら実験を行うことによって得られたグラフである。グラフ501は、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のグラフである。
グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入したガス量で割った値である。燃焼室17内に導入されるガス量は、エンジン1の運転状態に応じて変化する。エンジン1の負荷が高くなると、燃焼室17内に導入されるガス量は増える。グラフ501の縦軸は、アシスト熱量Qsaを、燃焼室17内に導入されるガス量によって正規化している。
ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて燃焼室17内で発生した熱量を算出できる。ECU10は、図3に示すように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、点火プラグ25が混合気に点火をしたタイミングから未燃混合気が自己着火をしたタイミングθciまでに、燃焼室17内で発生したアシスト熱量Qsaを算出する。
グラフ501の横軸は、未燃混合気が自己着火したタイミングθciである。未燃混合気が自己着火すると、圧力変化(dP/dθ)が変わる。ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、自己着火タイミングθciを特定できる。
また、前述したように、ECU10は、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、混合気が自己着火してSPCCI燃焼が発生したことを把握できる。
グラフ501の丸は、エンジン1が運転する環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが最大の場合の計測値であり、グラフ501の三角は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501のひし形は、環境温度が標準でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。また、グラフ501の四角は、環境温度が、標準よりも高い酷暑でかつ、充填効率Ceが大の場合の計測値であり、グラフ501の逆三角は、環境温度が酷暑でかつ、充填効率Ceが小の場合の計測値である。
グラフ501において直線5011-5015で示すように、正規化されたアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの間には相関がある。つまり、各直線5011-5015は全て、右上がりである。アシスト熱量Qsaが多いと、自己着火タイミングθciが遅角し、アシスト熱量Qsaが少ないと、自己着火タイミングθciが進角する。また、その相関関係は、エンジン1の運転状態毎に成立する。つまり、直線5011-5015は、エンジン1の運転状態毎に異なる。
ここで、環境温度の高低について比較をする。環境温度が高い場合(直線5014)は、環境温度が低い場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。環境温度が高いと、燃焼室17の中に導入される吸気の温度が高い。吸気温度が高いと、燃焼室17の中の温度が高くなって未燃混合気が自己着火しやすい。このため、吸気温度が高いと、アシスト熱量Qsaは小さい。
次に、充填効率Ceの大小について比較をする。充填効率Ceが大きい場合、つまり、エンジン1のトルクが大きい場合(直線5011、5012)は、充填効率Ceが小さい場合、つまり、エンジン1のトルクが小さい場合(直線5015)に比べて、アシスト熱量Qsaは小さい。燃焼室17の中に導入する空気量が多いと、当該空気の圧縮に伴い、燃焼室17の中の温度が、より高くなる。燃焼室17の中の温度が高くなると、未燃混合気は自己着火しやすい。そのため、充填効率Ceが大きいと、アシスト熱量Qsaは小さい。
グラフ501において、各運転状態におけるアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの計測値を直線の統計モデルによって表現すると共に、当該直線の、特定クランク角(特定CA、例えば15°ATDC)における切片を、各運転状態におけるモデルの代表値と定める。以下において、この代表値を、「等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)」と呼ぶ。
図5のグラフ501は、前述したように、使用燃料が低オクタン価燃料である場合の、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの関係を例示している。図示は省略するが、本願発明者らは、使用燃料が高オクタン価燃料である場合も同様に、エンジン1の運転状態毎に、正規化したアシスト熱量Qsaと自己着火タイミングθciとの相関関係が成立することを確認した。
図6は、グラフ501等に基づいて作成されるグラフ601を例示している。グラフ601の縦軸は、前述した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)である。グラフ601の横軸は、充填効率Ceである。グラフ601は、エンジン1のさまざまな運転状態のデータを含んでいる。グラフ601はまた、使用燃料が高オクタン価燃料である場合のデータと、使用燃料が低オクタン価燃料である場合のデータとを含んでいる。
グラフ601の黒丸は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合のデータであり、グラフ601の四角は、使用燃料が高オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601の白丸は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が標準の場合の結果であり、グラフ601の三角は、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、環境温度が酷暑の場合のデータである。グラフ601のバツ印は、使用燃料が高オクタン価燃料の場合に、高オクタン価燃料に対応する第1制御セットによって、エンジン1の運転を制御した場合のデータである。
グラフ601において曲線6011-6014で示すように、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの間には相関がある。つまり、充填効率Ceが高いと、空気の圧縮に伴い燃焼室17の中の温度が大きく上昇するから、等価温度上昇量は小さくなり、逆に、充填効率Ceが低いと、等価温度上昇量が大きくなる。曲線6011-6014は全て、右下がりになる。また、高オクタン価燃料の使用時の曲線6011、6012と、低オクタン価燃料の使用時の曲線6013、6014とは相違する。同一の充填効率Ceで比較した場合に、高オクタン価燃料の使用時は、低オクタン価燃料の使用時よりも、未燃混合気が自己着火しにくいため、等価温度上昇量は大きい。
また、等価温度上昇量と充填効率との相関関係は、環境温度毎に成立する。つまり、同一の充填効率Ceで、酷暑時の曲線6012、6014と、標準時の曲線6011、6013とを比較した場合に、酷暑時は燃焼室17の中の温度がより高くなるため、標準時よりも、等価温度上昇量が小さい。
グラフ601に示すように、使用燃料が高オクタン価燃料の場合の曲線6011、6012と、使用燃料が低オクタン価燃料の場合の曲線6013、6014とは異なる。そこで、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている場合に、ECU10が、各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と、充填効率Ceとを算出すると共に、グラフ601において、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、どこにプロットできるか、に基づいて、ECU10は、燃料のオクタン価を判定することができる。
つまり、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6011の上に載れば、ECU10は、使用燃料が高オクタン価燃料であると判断できる。また、算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6013の上に載れば、ECU10は、使用燃料が低オクタン価燃料であると判断できる。
また、高オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に低オクタン価燃料を注ぎ足す、又は、低オクタン価燃料を貯留している燃料タンク63に高オクタン価燃料を注ぎ足すと、燃料のオクタン価は、高オクタン価燃料と低オクタン価燃料との中間のオクタン価になる。この場合、等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点は、グラフ601における曲線と曲線との間にプロットされる。ECU10は、線形補間によって、燃料のオクタン価、つまり、中間のオクタン価を判定することができる。
(限界Ceの設定ロジック)
また、アシスト熱量が過度に少ない場合、燃焼室17内の未燃混合気は、過度に自己着火しやすい状態にあるものと考えられる。この場合、プリイグニッションの発生が懸念される。図6の破線に示すように、アシスト熱量(図例では、等価温度上昇量)には、プリイグニッションの発生を回避するための下限6015が存在するものと考えられる。ここで、前述のように、アシスト熱量(図例では、等価温度上昇量)と充填効率Ceとの間には相関がある。
また、アシスト熱量が過度に少ない場合、燃焼室17内の未燃混合気は、過度に自己着火しやすい状態にあるものと考えられる。この場合、プリイグニッションの発生が懸念される。図6の破線に示すように、アシスト熱量(図例では、等価温度上昇量)には、プリイグニッションの発生を回避するための下限6015が存在するものと考えられる。ここで、前述のように、アシスト熱量(図例では、等価温度上昇量)と充填効率Ceとの間には相関がある。
したがって、高オクタン価燃料の場合の曲線6011、6012と、下限6015と、の交点を探索するとともに、その交点における充填効率を導出すれば、その充填効率は、高オクタン価燃料を使用した場合における、プリイグニッションの発生を回避するための上限とみなすことができる。
低オクタン価燃料、さらには中間のオクタン価を有する燃料の場合も同様である。算出した等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)と充填効率Ceとの点が、例えば曲線6013の上に載った場合、その曲線6013と下限6015との交点における充填効率を導出することで、使用燃料が低オクタン価燃料の場合における、充填効率の上限を算出することができる。
(限界Ceの設定装置)
図8は、アシスト熱量に基づいて限界Ceを設定する設定装置の構成を例示している。この設定装置は、エンジン1の運転中に、オクタン価の判定と、限界Ceの設定と、を逐次実行する。
図8は、アシスト熱量に基づいて限界Ceを設定する設定装置の構成を例示している。この設定装置は、エンジン1の運転中に、オクタン価の判定と、限界Ceの設定と、を逐次実行する。
図8に例示するように、設定装置は、前述した判定ロジックと設定ロジックを実行するための機能ブロックとして、アシスト熱量算出部105、フィッティング部106、等価温度上昇量算出部107、自着火特性算出部108、オクタン価判定部109、及び、限界Ce設定部を備えている。各機能ブロックは、ECU10に実装されている。
設定装置はまた、判定されたオクタン価に応じた制御を行うための機能ブロックとして、制御セット選択部110を備えている。制御セット選択部110は、ECU10に実装されている。
以下、各機能ブロックについて詳細に説明する。
アシスト熱量算出部105は、前述したアシスト熱量Qsaを算出する。アシスト熱量算出部105は、筒内圧センサSW5を含む各種センサSW1-SW11の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する(図3も参照)。アシスト熱量算出部105は、燃焼室17の中で燃焼が行われる度にアシスト熱量Qsaを算出する。
フィッティング部106は、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係から、図5に示した統計モデルの直線を定める。具体的に、フィッティング部106は、符号111のグラフに例示するように、縦軸を正規化したアシスト熱量Qsaとし、横軸を自己着火タイミングθciとした平面上に、アシスト熱量算出部105が算出したアシスト熱量Qsaと自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点をプロットする(グラフ111の黒丸参照)。フィッティング部106は、プロットした複数の点に基づいて、直線、つまり、統計モデルを定める。フィッティング部106は、例えば最小二乗法により直線を定めてもよい。尚、直線の傾きを所定の傾きに固定しておき、フィッティング部106は、直線の切片のみを定めてもよい。こうすることで、フィッティング部106の演算量が少なくなる。
等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線に基づいて、特定CAの切片である等価温度上昇量(Qsa(特定CA)/筒内ガス量)を算出する(グラフ111の白丸参照)。具体的に等価温度上昇量算出部107は、フィッティング部106が定めた直線と、特定CAの縦線との交点を算出する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、メモリ102に記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出する。マップ112は、図6に示すグラフ601を90°だけ反時計回りに回転させたものである。マップ112の詳細は、図7にも示す通りである。マップ112は、当該エンジン1について実験またはシミュレーションを行うことにより予め作成されかつ、メモリ102に記憶されている。マップ112は、使用燃料が高オクタン価燃料(特に、特定高オクタン価燃料)でかつ、エンジン1の環境温度が標準条件である場合の第1特性線7011と、使用燃料が低オクタン価燃料でかつ、エンジン1の環境温度が酷暑条件である場合の第2特性線7012と、を含んでいる。第1特性線7011は、混合気が最も自己着火しにくい場合に相当し、第2特性線7012は、混合気が最も自己着火しやすい場合に相当する。
自着火特性算出部108は、等価温度上昇量算出部107が算出した等価温度上昇量と、充填効率Ceとの関係を示す点7013をマップ112にプロットし(マップ112の黒丸)、当該点7013を通る曲線7014を算出する(マップ112の破線参照)。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014は、第1特性線7011から第2特性線7012までの間に定まる。自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014は、第1特性線7011に一致する場合、及び、第2特性線7012に一致する場合もある。
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014に基づいて、燃料のオクタン価を判定する。より詳細に、オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014に基づいて、燃料のオクタン価を推定する。オクタン価判定部109はまた、今回推定したオクタン価を、メモリ102に記憶しているオクタン価に反映させることにより、メモリ102に記憶されているオクタン価を更新する。オクタン価判定部109は、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている間は、オクタン価の更新を逐次行う。
先ず、オクタン価判定部109によるオクタン価の推定について説明する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014が、第1特性線7011に一致する場合は、使用燃料は、高オクタン価燃料(特に、特定高オクタン価燃料)であると推定する。オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014が、第2特性線7012に一致する場合は、使用燃料は、低オクタン価燃料であると推定する。
オクタン価判定部109は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014が、図7に破線で例示するように、第1特性線7011と第2特性線7012との間に位置する場合は、燃料のオクタン価を線形補間により算出する(図7の矢印参照)。この場合、オクタン価判定部109は、使用燃料は、特定高オクタン価燃料と低オクタン価燃料との中間のオクタン価を有する燃料(例えば、高オクタン価燃料のうち、特定高オクタン価燃料よりもオクタン価の低い高オクタン価燃料)であると推定する。
ここで、オクタン価判定部109は、オクタン価の推定の際に、温度補正を行う。つまり、吸気温度が高い場合、及び/又は、エンジン1の水温が高い場合は、燃焼室17の中のガスの温度が高くなるため、混合気は自着火しやすい。この場合、燃料のオクタン価が、見かけ上、低くなる。オクタン価判定部109は、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、推定したオクタン価を補正する。具体的に、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が高いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が高くなるように補正する。吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温が低いと、オクタン価判定部109は、推定したオクタン価が低くなるように補正する。
なお、オクタン価判定部109が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて推定したオクタン価を補正する代わりに、自着火特性算出部108が、吸気温度、及び/又は、エンジン1の水温に基づいて、自着火特性を補正してもよい。
オクタン価判定部109は、更新されたオクタン価が、所定の第1閾値(閾値)以上であるか否かを判定する。そして、第1閾値以上と判定された回数が、所定回数(例えば300回)以上となった場合、オクタン価判定部109は、燃料のオクタン価は特定高オクタン価(例えば100RON)であると判定する。なお、第1閾値及び所定回数の値は、メモリ102に事前に記憶されている。第1閾値は、好ましくは99.0RON以上に設定され、さらに好ましくは99.5RON以上に設定される。この設定は、特定高オクタン価を100RONとした場合に、取り分け有効となる。
また、オクタン価判定部109は、更新されたオクタン価が第1閾値未満だった場合、そのオクタン価が所定の第2閾値以上であるか否かを判定する。そして、第2閾値以上と判定された場合、オクタン価判定部109は、燃料のオクタン価は、特定高オクタン価に比してオクタン価の低い高オクタン価(例えば96RON)であると判定する(つまり、前述の非特定高オクタン価であると判定する)。なお、第2閾値の値は、メモリ102に事前に記憶されている。第2閾値は、少なくとも第1閾値よりも低く設定される。
また、オクタン価判定部109は、更新されたオクタン価が第2閾値未満だった場合、オクタン価判定部109は、燃料のオクタン価は、低オクタン価(図例では91RON)であると判定する。
なお、オクタン価判定部109は、プリイグニッションの発生が実測又は予測された場合には、判定したオクタン価の高低(より具体的には、第1及び第2閾値との大小関係)にかかわらず、該オクタン価は第1閾値未満であるとみなす。この場合、オクタン価は96RON又は91RONと判定されることになる。
限界Ce設定部111は、アシスト熱量、ひいては自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいて、限界Ceを設定する。以下、アシスト熱量に基づいた限界Ceを「第2限界Ce」とも呼称する。限界Ce設定部111が第1限界Ceを設定することで、間接的に空気充填量の上限(第1上限値)が設定されることになる。
限界Ce設定部111は、アシスト熱量以外の指標に基づいて限界Ceを設定することもできる。以下、アシスト熱量に基づいた限界Ceを「第2限界Ce」とも呼称する。限界Ce設定部111が第2限界Ceを設定することで、前述の第1上限値と同様に、間接的に空気充填量の上限(第2上限値)が設定されることになる。
限界Ce設定部111が第1限界Ceを設定するか、或いは、第2限界Ceを設定するかの選択は、オクタン価判定部109によって判定されたオクタン価に基づいて行うことができる。
具体的に、限界Ce設定部111は、判定したオクタン価が特定高オクタン価である場合には、アシスト熱量に基づいた第1限界Ceと、他の指標に基づいた第2限界Ceとを両方とも算出する。限界Ce設定部111は、第1限界Ce及び第2限界Ceのうち、より小さな一方を限界Ceに設定する。
一方、限界Ce設定部111は、判定したオクタン価が特定高オクタン価ではなかった場合には、アシスト熱量以外の指標に基づいて第2限界Ceを算出する。限界Ce設定部111は、第2限界Ceを限界Ceに設定する。ECU10は、充填効率ひいては空気充填量が、そうして設定された限界Ce以下となるように、空気量調整装置としてのスロットル弁43を制御する。
なお、限界Ce設定部111はまた、今回設定した限界Ceを、メモリ102に記憶している限界Ceに上書きすることにより、メモリ102に記憶される限界Ceを更新する。限界Ce設定部111は、エンジン1がSPCCI燃焼を行っている間は、限界Ceの更新を逐次行う。ECU10は、充填効率ひいては空気充填量が、そうして更新された限界Ce以下となるように、空気量調整装置としてのスロットル弁43を制御する。
第1限界Ce算出に際し、限界Ce設定部111は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線に基づいた演算を実行する。より詳細に、限界Ce設定部111は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014に基づいて、第1限界Ceを算出する。
先ず、限界Ce設定部111は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性の曲線7014と、アシスト熱量の下限を示す直線7015と、の交点7017を探索する。次いで、限界Ce設定部111は、その交点7017における充填効率の値を導き出す(図7の破線7016を参照)。限界Ce設定部111は、破線7016が示す充填効率の値を第1限界Ceに設定する。
第2限界Ce算出に際し、限界Ce設定部111は、自着火特性算出部108が算出した自着火特性以外の指標に基づいた演算を実行する。より詳細に、限界Ce設定部111は、燃焼室17の中に導入される吸気の温度(吸気温度)、及び、エンジン1の冷却水の温度(以下、単に「冷却水温」ともいう)の少なくとも一方に基づいて限界Ceを算出する。本実施形態に係る限界Ce設定部111は、吸気温度と冷却水温の双方に基づいて限界Ceを算出し、そうして算出された限界Ceを第2限界Ceに設定する。
制御セット選択部110は、前述の第1閾値、第2閾値及び所定回数を用いて判定された燃料のオクタン価に基づいて、エンジン1の運転状態に用いる制御セットを選択する。具体的に、制御セット選択部100は、判定されたオクタン価が高オクタン価の場合(オクタン価が、例えば96RON以上の場合)は、高オクタン価燃料に対応する第1又は第3制御セットを選択し、判定されたオクタン価が低オクタン価の場合(オクタン価が、例えば96未満の場合)は、低オクタン価燃料に対応する第2制御セットを選択する。
ここで、制御セット選択部100は、判定されたオクタン価が高オクタン価の場合、そのオクタン価が特定高オクタン価である場合には第3制御セットを選択し、判定されたオクタン価が特定高オクタン価でない場合には第1制御セットを選択する。
ECU10は、燃料のオクタン価に応じて選択された制御セットに従って、少なくとも、インジェクタ6の燃料噴射タイミング、点火プラグ25の点火タイミング、吸気電動S-VT23の位相角、排気電動S-VT24の位相角、及び、スワールコントロール弁56の開度をそれぞれ制御する。その結果、エンジン1は、使用燃料のオクタン価に応じて、常に、燃費及び排気エミッション性能が最適になる。また、使用燃料のオクタン価にかかわらず、エンジン1は、燃焼騒音を抑制できる。
なお、各制御セットにおいてデバイス毎に設定される制御目標は、燃料のオクタン価に加えて、エンジン1の運転状態に応じて設定されている。具体的に、各制御目標は、少なくとも、エンジン1の負荷及び回転数に応じて変化する。
エンジン1の運転中、オクタン価の判定結果は、逐次、変動し得る。例えば、使用燃料が高オクタン価燃料であったとしても、第1制御セットと第3制御セットとの間で切り替えが起こり得る。
ところが、各制御目標は、デバイス単位で切り替わるのではなく、制御セット単位で全てが切り換えられる。このため、例えば、吸気弁21の開弁タイミングは制御セットの切り替えの前後であまり変わらないが、噴射タイミングは制御セットの切り替えの前後で大きく異なる場合がある。制御セットの切り替えの前後でデバイスの制御量が大きく異なると、トルクショックが発生したり、変更までに時間がかかって、ノッキングなどの異常燃焼が発生したりするおそれがある。
そこで、ECU10は、第1制御セットから第3制御セットへの切替に際しては、エンジン1の運転状態が、第1制御セットを構成する各制御目標から第3制御セットを構成する各制御目標との差が所定値未満になる運転状態となるまで、第1制御セットから第3制御セットへの切替を未実行とする。
具体的に、ECU10は、第1制御セットから第3制御セットへの切替に際し、エンジン1の運転状態が、
(i)インジェクタ6の噴射タイミングの目標値の差が所定時間未満であるという条件
(ii)吸気弁21の開弁タイミングの目標値の差が第1所定角度未満でありかつ排気弁22の開弁タイミングの目標値の差が第2所定角度未満であるという条件
の(i)~(ii)の全てが満たされる運転状態となったタイミングで制御セットを切り替える。これにより、燃焼室17内の状態が近いタイミングで制御セットが切り替えられるため、異常燃焼やトルクショックを抑制しつつ、制御セットを切り換えることができる。なお、燃料の噴射タイミングとは、インジェクタ6による燃料の噴射開始のタイミングを意味する。
(i)インジェクタ6の噴射タイミングの目標値の差が所定時間未満であるという条件
(ii)吸気弁21の開弁タイミングの目標値の差が第1所定角度未満でありかつ排気弁22の開弁タイミングの目標値の差が第2所定角度未満であるという条件
の(i)~(ii)の全てが満たされる運転状態となったタイミングで制御セットを切り替える。これにより、燃焼室17内の状態が近いタイミングで制御セットが切り替えられるため、異常燃焼やトルクショックを抑制しつつ、制御セットを切り換えることができる。なお、燃料の噴射タイミングとは、インジェクタ6による燃料の噴射開始のタイミングを意味する。
各条件における所定値は、異常燃焼及びトルクショックの発生を十分に抑制可能な値に設定されている。第1所定角度及び第2所定角度は、例えばクランク角度で5°CAに設定される。所定時間は、例えばクランク角度で10°CA分の時間に設定されている。
しかしながら、第3制御セットから第1制御セットへの切替に際しては、相対的に高いオクタン価(特定高オクタン価)用の制御セットから、相対的に低いオクタン価(非特定高オクタン価)用の制御セットへの切り替えになるため、この切替を可及的速やかに実行しなくては、特定高オクタン価燃料用の第3制御セットによって、非特定高オクタン価燃料を燃焼させることになる。この場合、燃焼室17内の混合気が過度に圧縮着火し易い状態となり、プリイグニッションを招く可能性がある。
そこで、ECU10は、第3制御セットから第1制御セットへの切替に際しては、エンジン1の運転状態に応じた第3制御セットにおける各制御目標と、同じ運転状態に応じた第1制御セットにおける各制御目標との差にかかわらず、第3制御セットから第1制御セットへの切替を実行する。これにより、可及的速やかに制御セットが切り替えられるため、プリイグニッションの発生を抑制することができる。
ECU10はまた、限界Ce設定部111が設定した限界Ce以下になるように、空気量調整部としてのスロットル弁43を制御する。具体的に、ECU10は、判定したオクタン価が所定の第1閾値(閾値)以上の場合(つまり、オクタン価が特定高オクタン価の場合)には、空気充填量を第1上限値以下に収めるべく、充填効率が第1限界Ce以下になるようにスロットル弁43を制御する。
さらに詳細には、ECU10は、判定したオクタン価が所定の第1閾値(閾値)以上の場合には、空気充填量を第1及び第2上限値のうち相対的に小さい一方の上限以下に収めるべく、充填効率が第1限界Ce及び第2限界Ceのうち相対的に小さい一方の限界Ce以下になるようにスロットル弁43を制御する。
また、ECU10は、判定したオクタン価が第1閾値(閾値)未満の場合(つまり、オクタン価が非特定高オクタン価又は低オクタン価の場合)には、空気充填量を第2上限値以下に収めるべく、充填効率が第2限界Ce以下になるようにスロットル弁43を制御する。
スロットル弁43の制御量の目標値は、前述した第1制御セット、第2制御セット及び第3制御セットに含めてもよいし、含めなくてもよい。以下の説明では、スロットル弁43の制御量の目標値を第1~第3制御セットに含めない場合について説明する。
(制御フローの具体例)
図9は、ECU10が実行する制御であって、アシスト熱量に基づいたエンジン1の制御手順を例示している。図9のフローは、イグニッションをオンにするとスタートする。スタート後のステップS1において、ECU10は、メモリ102に記憶されているオクタン価に基づいて、対応する制御セットを選択し、エンジン1の運転を制御する。
図9は、ECU10が実行する制御であって、アシスト熱量に基づいたエンジン1の制御手順を例示している。図9のフローは、イグニッションをオンにするとスタートする。スタート後のステップS1において、ECU10は、メモリ102に記憶されているオクタン価に基づいて、対応する制御セットを選択し、エンジン1の運転を制御する。
続くステップS2において、ECU10は、筒内圧センサSW5からの計測信号、つまり、燃焼室17の中の圧力波形の情報を取得する。
ステップS3においてECU10は、図3に例示する圧力波形に基づいて、自己着火タイミングθciを算出し、続くステップS4において、ECU10は、圧力波形に基づいて、SPCCI燃焼が行われたか否かを判断する。ステップS4の判断がYESの場合、プロセスはステップS5に進み、NOの場合、プロセスはリターンする。燃料のオクタン価の判定は、SPCCI燃焼時のみ、実行可能である。
ECU10はまた、エンジン1の運転状態が、領域A2又は領域A3にある場合に、燃料のオクタン価の判定を行ってもよい(図4参照)。ECU10は、エンジン1の運転状態が、領域A4にある場合、換言すると、混合気の空燃比が理論空燃比よりもリーンである場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。こうすることでECU10は、燃料のオクタン価を精度良く判定できる。
ステップS5においてECU10は、充填効率Ceが下限値以上であるか否かを判断する。図6に例示するように、等価温度上昇量と充填効率との関係において、充填効率Ceが低いと、曲線6011-6014が互いに近づいてしまう。この場合、ECU10は、燃料のオクタン価を誤判定する恐れがある。そこで、ECU10は、充填効率Ceが下限値よりも小さい場合は、燃料のオクタン価の判定を行わない。オクタン価の判定可能な下限負荷が存在する。ステップS5の判断がYESの場合、プロセスはステップS6に進み、ステップS5の判断がNOの場合、プロセスはリターンする。このことにより、使用燃料のオクタン価の誤判定が抑制される。
ステップS6において、ECU10は、前述したように、筒内圧センサSW5の計測信号に基づいて、アシスト熱量Qsaを算出する。続くステップS7において、ECU10は、算出されたアシスト熱量Qsaと、自着火タイミングθciとの関係を示す複数の点に基づいて、直線の統計モデルを定める(図7のグラフ111参照)。つまり、ECU10は、複数の点に対して直線をフィットさせる。
ステップS8においてECU10は、ステップS7で定めた直線の統計モデルに基づいて、当該直線の、特定CAにおける切片である等価温度上昇量を算出する。そして、ステップS9においてECU10は、算出した等価温度上昇量と、メモリ102が記憶しているマップ112とに基づいて、自着火特性を算出すると共に、自着火特性から、燃料のオクタン価を推定する(ステップS10)。
ステップS11において、ECU10は、推定したオクタン価と、第1及び第2閾値とを比較することで、推定されたオクタン価を判定する。このステップS11では、図10に示すフローが実行される。図10は、燃料のオクタン価の判定手順を例示するフローチャートである。
図10に示すフローが開始されると、まず、ステップS101において、ECU10は、自着火特定に基づいて推定されたオクタン価を読み込む。
続くステップS102において、ECU10は、推定されたオクタン価が、第1閾値以上であるか否かを判定する。第1閾値は、前述のようにオクタン価が特定高オクタン価であるか否かを判定するための所定閾値である。第1閾値は、例えば、99.5RONに設定される。この判定がNOの場合、制御プロセスはステップS103へ進む一方、判定がYESの場合、制御プロセスはステップS105へ進む。
ステップS103において、ECU10は、推定されたオクタン価が、第2閾値以上であるか否かを判定する。第2閾値は、前述のように、オクタン価が低オクタン価であるか否かを判定するための、第2の所定閾値である。この判定がNOの場合、制御プロセスは、ステップS104へ進む。ステップS104において、ECU10は、オクタン価が低オクタン価(図例では91RON)であると判定する。
一方、ステップS103の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS107へ進む。ステップS107において、ECU10は、オクタン価は高オクタン価に分類されるものの、前述の特定高オクタン価ほどには高くない程度のオクタン価である(図例では96RON)であると判定する。
また、ステップS102からステップS105へ進んだ場合、ECU10は、オクタン価が第1閾値以上であると判定された回数Nと、所定回数と、比較する。回数Nは、メモリ102に記憶されており、燃料が給油される度にリセットされるようになっている。ECU10は、回数Nが所定回数以上であるか否かを判定する。この判定がNOの場合、制御プロセスは、ステップS106へ進む。このステップS106において、ECU10は、回数Nをカウントアップする。回数Nがカウントアップされると、制御プロセスはステップS107へ進む。この場合、オクタン価は、高オクタン価に分類されるものの、特定高オクタン価ほどには高くないと判定されることになる。
一方、ステップS105の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS108へ進む。ステップS108において、ECU10は、プリイグニッションが実測又は予測されたか否かを判定する。この判定は、例えば、燃焼室17内の圧力波形に基づいて行うことができる。
ステップS108の判定がNOの場合、制御プロセスは、ステップS109に進む。ステップS109において、ECU10は、オクタン価が特定高オクタン価(図例では100RON)であると判定する。
一方、ステップS108の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS107へ進む。ステップS107において、ECU10は、オクタン価は高オクタン価に分類されるものの、前述の特定高オクタン価ほどには高くない程度のオクタン価である(図例では96RON)であると判定する。
このように、ECU10は、オクタン価が第1閾値であることが所定回数にわたって連続して計測され、かつ、プリイグも発生していないと判断される場合に限り、オクタン価が特定高オクタン価であると判定するように構成されている。このように構成することで、オクタン価の誤判定を抑制し、使用燃料が特定高オクタン価燃料であることをより確実に判定することが可能となる。
ECU10がステップS109、ステップS107又はステップS104に係る処理を終えると、制御プロセスは、図10のステップS11からステップS12に進む。このステップS12では、図11に示すフローが実行される。図11は、限界Ceの設定手順を例示するフローチャートである。
図11に示すフローが開始されると、まず、ステップS201において、ECU10は、各種のセンサSW1-SW11が出力する計測信号を読み込む。
ステップS202において、ECU10は、少なくともアクセル開度センサSW8から入力される計測信号に基づいて、エンジン1の目標負荷を算出する。ECU10はまた、クランク角センサSW7から入力される計測信号に基づいて、エンジン回転数を検出する。
ステップS203において、ECU10は、ステップS202で算出された目標負荷に基づいて、この目標負荷を実現するために必要な充填効率の目標値(目標Ce)を算出する。ステップS204において、ECU10は、図10に示すフローによって判定されたオクタン価を読み込む。また、このステップS204において、ECU10は、オクタン価の推定に用いたアシスト熱量も読み込む。
ステップS205において、ECU10は、アシスト熱量以外の指標、具体的には吸気温度及び冷却水温に基づいて、第2限界Ceを算出する。
ステップS206において、ECU10は、ステップS204で読み込んだオクタン価が特定高オクタン価(図例では100RON)であるか否かを判定する。この判定がNOの場合、制御プロセスはステップS213に進む。ステップS213において、ECU10は、限界Ceを第2限界Ceに設定する。この設定が完了すると、制御プロセスは、ステップS210へ進む。
一方、ステップS206の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS207に進む。ステップS207において、ECU10は、ステップS203で算出された目標負荷が所定負荷を上回るか否かを判定する。この判定は、目標負荷が全負荷、又は、実質的に全負荷に近い負荷であるか否かを定めるものである。この判定がNOの場合、制御プロセスは、前述したステップS213へ進む。
一方、ステップS207の判定がYESの場合、制御プロセスはステップS208に進む。ステップS208において、ECU10は、ステップS204で読み込んだアシスト熱量に基づいて、前述のように第1限界Ceを設定する。
ステップS209において、ECU10は、第1限界Ceと第2限界Ceの大きさを比較する。ECU10は、第1及び第2限界Ceのうち、相対的に小さい一方を限界Ceに設定する。
ステップS209から続くステップS210において、ECU10は、ステップS203で設定した目標Ceと、ステップS209又はステップS213で設定した限界Ceと、を比較する。ECU10は、目標Ceが限界Ceを上回るか否かを判定し、この判定がYESの場合には、制御プロセスは、ステップS211に進む。この場合、ECU10は、限界Ceに一致するように目標Ceを低下させる。一方、ステップS210の判定がNOの場合には、制御プロセスは、ステップS211をスキップしてステップS212へ進む。
ステップS212において、ECU10は、限界Ceとの比較を経た目標Ceを実現するようにスロットル弁43の目標開度を設定する。
つまり、図11に示す制御例において、ECU10は、目標負荷が全負荷かつオクタン価が特定高オクタン価の場合には、第1及び第2限界Ceのうち、相対的に小さい一方を限界Ceに設定する一方、目標負荷が全負荷ではない場合、又は、オクタン価が高オクタン価以外の場合には、第2限界Ceを限界Ceに設定する。ECU10は、スロットル弁43の開閉を通じて実現される充填効率が限界Ce以下となるように、スロットル弁43の目標開度を設定する。
その後、ECU10は、ステップS212で設定された目標開度を実現するようにスロットル弁43を制御する。これにより、ECU10は、充填効率が限界Ceを上回らないように、充填効率、ひいては空気充填量を制御することができる。
ECU10がステップS212に係る処理を終えると、制御プロセスは、図10のステップS12からステップS13に進む。このステップS13では、図12に示すフローが実行される。図12は、制御セットの切替手順を例示するフローチャートである。
図12に示すフローが開始されると、まず、ステップS301において、ECU10は、図10に示すフローによって判定されたオクタン価を読み込む。
続くステップS302において、ECU10は、オクタン価が特定高オクタン価(図例では100RON)であるか否かを判定する。この判定がNOの場合、制御プロセスはステップS307に進む。ステップS307において、ECU10は、燃料のオクタン価が非特定高オクタン価(例えば、96RON)の場合には第1制御セットを選択する一方、燃料のオクタン価が低オクタン価(例えば、91RON)の場合には第2制御セットを選択してリターンする。
一方、ステップS302の判定がYESの場合、制御プロセスは、ステップS303に進む。ステップS303において、ECU10は、現在のエンジン1の運転状態において、非特定高オクタン価燃料用の制御セットである第1制御セットにおける吸気弁21の開弁タイミングの制御目標と、特定高オクタン価燃料用の制御セットである第3制御セットにおける吸気弁21の開弁タイミングの制御目標との差が、第1所定角度未満であるか否かを判定する。制御目標の差が第1所定角度未満の場合(ステップS303:YES)には、制御プロセスはステップS304に進む一方、制御目標の差が第1所定角度以上の場合(ステップS304:NO)には、制御プロセスは前述したステップS307に進む。
ステップS304において、ECU10は、現在のエンジン1の運転状態において、第1制御セットにおける排気弁22の開弁タイミングの制御目標と、第3制御セットにおける排気弁22の開弁タイミングの制御目標との差が、第2所定角度未満であるか否かを判定する。制御目標の差が第2所定角度未満の場合(ステップS304:YES)には、制御プロセスはステップS305に進む一方、制御目標の差が第2所定角度以上の場合(ステップS304:NO)には、制御プロセスはステップS307に進む。
ステップS305において、ECU10は、現在のエンジン1の運転状態において、第1制御セットにおける燃料の噴射タイミングの制御目標と、第3制御セットにおける燃料の噴射タイミングの制御目標との差が、所定時間未満であるか否かを判定する。制御目標の差が所定時間未満の場合(ステップS305:YES)には、制御プロセスはステップS306に進む一方、制御目標の差が所定時間以上の場合(ステップS306:NO)には、制御プロセスはステップS307に進む。
ステップS306において、ECU10は、特定高オクタン価(例えば、100RON)を有する特定高オクタン価燃料用の第3制御セットを選択してリターンする。
つまり、オクタン価が、当初、96RONと判定されていた場合、ECU10は、ステップS307に係る処理を実行することで、第1制御セットを選択することになる。その後、オクタン価の判定結果が96RONから100RONに変化した場合、ECU10は、第1制御セットから第3制御セットへと切り替えようとするものの、ステップS303、ステップS304及びステップS305に係る条件が全て満たされるまで、第1制御セットから第3制御セットへの切替を保留する(未実行とする)ことになる。
一方、オクタン価の判定結果が100RONから96RONに変化した場合、制御プロセスは、ステップS303、ステップS304及びステップS305に係る処理をスキップして、ステップS302からステップS307へ進むことになる。この場合、ECU10は、第3制御セットから第1制御セットへの切替を可及的速やかに、遅滞なく行うことになる。
こうした処理は、当初91RONと判定されていた場合も同様である。ECU10は、クタン価の判定結果が91RONから100RONに変化した場合、ECU10は、第2制御セットから第3制御セットへと切り替えようとするものの、ステップS303、ステップS304及びステップS305に係る条件が全て満たされるまで、第2制御セットから第3制御セットへの切替を保留する(未実行とする)ことになる。
一方、オクタン価の判定結果が100RONから91RONに変化した場合、制御プロセスは、ステップS303、ステップS304及びステップS305に係る処理をスキップして、ステップS302からステップS307へ進むことになる。この場合、ECU10は、第2制御セットから第1制御セットへの切替を可及的に速やかに、遅滞なく行うことになる。
なお、図12に例示するフローは、第3制御セットと第1又は第2制御セットとの間の切り替えに加えて、第1制御セットと第2制御セットとの間の切り替えに際して行ってもよい。
例えば、ECU10による第1制御セットから第2制御セットへの切替は、エンジン1の運転状態が、第1制御セットを構成する各制御目標と、第2制御セットを構成する各制御目標との差が所定閾値未満となるような運転状態になったときに実行される。対して、ECU10による第2制御セットから第1制御セットへの切替は、各制御目標同士の差に関係なく、遅滞なく可及的に速やかに実行される。
また、各制御目標の差を参照するかわりに、運転状態を参照してもよい。つまり、ECU10は、オクタン価の判定結果が91RON又は96RONから100RONに変化した場合、現在のエンジン1の運転状態が、第1又は第2制御セットを構成する各制御目標と、第3制御セットを構成する各制御目標と、の差が所定値未満になるような運転状態か否かを判定し、所定値未満になるような運転状態であると判定した場合に、第1又は第2制御セットから第3制御セットへの切り替えを実行する。このような構成を用いた場合、ECU10は、オクタン価の判定結果が100RONから91RON又は96RONに変化した場合には、現在のエンジン1の運転状態にかかわらず、第3制御セットから第1又は第2制御セットへの切り替えを実行することになる。
(プリイグニッションの抑制について)
図7を参照しながら説明したように、本実施形態に係るECU10は、アシスト熱量の下限に対応する空気充填量の第1上限値(具体的には、充填効率の第1限界Ce)を算出することができる。
図7を参照しながら説明したように、本実施形態に係るECU10は、アシスト熱量の下限に対応する空気充填量の第1上限値(具体的には、充填効率の第1限界Ce)を算出することができる。
そして、ECU10は、図11のステップS207及びステップS208に示すように、判定したオクタン価が所定の閾値(具体的には、図10のステップS102における第1閾値)以上の場合には、第1限界Ce以下となる範囲内で、充填効率を介して空気充填量を調整する。例えば、第1限界Ce付近まで充填効率を高めることで、プリイグニッションの抑制と、エンジンのトルクアップと、を両立することができる。
また、図11のステップS213に示すように、ECU10は、オクタン価が特定高オクタン価に未達の場合には、第2限界Ce以下となる範囲内で、充填効率を介して空気充填量を調整する。アシスト熱量とは異なる観点に基づいて算出した第2限界Ceと、アシスト熱量に基づいた第1限界Ceとを併用することで、より安全サイドに立った制御を実現することが可能となる。
詳しくは、ECU10は、吸気の温度、冷却水の温度等、エンジン1の環境要因を考慮して第2限界Ceを算出する。アシスト熱量とは異なる観点に基づいて算出した上限を用いることで、より柔軟な制御を実現することが可能となる。
また、図11のステップS209に示すように、ECU10は、第1限界Ce及び第2限界Ceのうち、より少ない一方の上限値に基づいて、空気充填量、ひいては充填効率を制御する。これにより、プリイグニッションの発生をより確実に回避することが可能となる。
また、図9のステップS10に示すように、ECU10は、アシスト燃料に基づいて、燃料のオクタン価も推定する。このように、ECU10は、燃料のオクタン価と、充填効率の上限(第1限界Ce)と、を双方ともアシスト熱量の変化に追従させる。これにより、燃料のオクタン価に対応した第1限界Ceを算出することができる。また、ECU10は、オクタン価及び第1限界Ceを速やかに算出することができる。
また、図12を用いて説明したように、ECU10は、第1又は第2制御セット、及び、第3制御セットを構成する各制御目標の差が所定値未満になる運転状態となるまで、オクタン価が相対的に低い燃料に適した第1又は第2制御セットからオクタン価が相対的に高い燃料に適した第3制御セットへの切替を保留する(未実行とする)。これにより、エンジン1のトルクアップを図りつつも、そのトルクアップ時に懸念されるトルクショックを抑制することが可能になる。
また、図12を用いて説明したように、ECU10は、各制御目標の差にかかわらず、オクタン価が相対的に高い燃料に適した第3制御セットから、オクタン価が相対的に低い燃料に適した第1又は第2制御セットへの切替を実行する。これにより、第3制御セットの元でオクタン価が相対的に低い燃料を燃焼させ場合に懸念されるプリイグニッションの発生を抑制することができる。
また、図12を用いて説明したように、ECU10は、プリイグニッションが発生した場合には、オクタン価の判定結果とは無関係に、オクタン価が相対的に低い燃料に適した制御セットを用いてエンジン1を制御する。これにより、プリイグニッションの発生を可及的速やかに抑制することが可能になる。
また、図10のステップS102、ステップS105及びステップS106等に示すように、ECU10は、判定したオクタン価が第1閾値以上の場合、該オクタン価が閾値以上となった回数をカウントアップする。そして、ECU10は、そうしてカウントアップされた回数が所定回数(例えば300回)以上になったことを条件として、特定高オクタン価燃料に適した制御、すなわち、第1上限値としての第1限界Ceに基づいたバイパス弁43、及び、第3制御セットに基づいた各デバイスの制御を実行する。
このように、ECU10は、オクタン価が確実に高いと判断される場合に限り、特定高オクタン価燃料に適した制御を実行する。ECU10は、より安全サイドに立った制御を実行する。これにより、プリイグニッションの発生を回避しつつ、エンジンのトルクアップを図る上で有利になる。
1 エンジン
10 ECU(制御部)
11 シリンダ
17 燃焼室
25 点火プラグ(点火部)
43 スロットル弁(空気量調整部)
SW5 筒内圧センサ(計測部)
10 ECU(制御部)
11 シリンダ
17 燃焼室
25 点火プラグ(点火部)
43 スロットル弁(空気量調整部)
SW5 筒内圧センサ(計測部)
Claims (10)
- 燃焼室を形成するシリンダを有するエンジンと、
前記燃焼室の中に導入される空気量である空気充填量を調整可能な空気量調整部と、
前記エンジンに取り付けられかつ、前記燃焼室の中の混合気に点火する点火部と、
前記エンジンに関係するパラメータの計測信号を出力する計測部と、
前記計測信号に基づいて前記燃焼室に供給される燃料のオクタン価を判定するとともに、判定したオクタン価に応じた制御信号を、前記空気量調整部及び前記点火部に出力する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記点火部に所定のタイミングで前記混合気に点火させ、それによって、一部の混合気が火炎伝播を伴う燃焼を開始し、その後、残りの未燃混合気が自己着火により燃焼する部分自己着火燃焼が行われ、
前記制御部は、前記計測信号を受けて、前記点火部が点火をしたタイミングから前記未燃混合気が自己着火をしたタイミングまでに、前記燃焼室内で発生した燃料を算出すると共に、算出した熱量に基づいて、前記空気充填量の第1上限値を算出し、
前記制御部は、前記判定したオクタン価が所定の閾値以上の場合には、前記空気充填量が前記第1上限値以下になるように、前記空気量調整部を制御する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項1に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記計測信号を受けて、前記算出した熱量以外の指標に基づいて、前記空気充填量の第2上限値を算出し、
前記制御部は、前記判定したオクタン価が前記閾値未満の場合には、前記空気充填量が前記第2上限値以下となるように、前記空気量調整部を制御する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項2に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記燃焼室の中に導入される吸気の温度、及び、前記エンジンの冷却水の温度の少なくとも一方に基づいて、前記第2上限値を算出する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項2又は3に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記判定したオクタン価が前記閾値以上の場合、前記第1上限値及び前記第2上限値のうち相対的に小さい一方の上限値以下となるように、前記空気量調整部を制御する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項1から4のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記算出した熱量に基づいて、前記燃料のオクタン価を判定する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項1から5のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記エンジンの燃焼制御に係る制御量の目標値として、前記閾値未満のオクタン価に対応した第1目標値と、前記閾値以上のオクタン価に対応した第2目標値と、を前記燃料のオクタン価に応じて切り替えるように構成され、
前記第1目標値及び前記第2目標値は、前記燃料のオクタン価に加えて、前記エンジンの運転状態に応じて設定されており、
前記制御部は、前記第1目標値から前記第2目標値への切替に際しては、前記エンジンの運転状態が、前記第1目標値と前記第2目標値との差が所定値未満になる運転状態となるまで、前記第1目標値から前記第2目標値への切替を未実行とする
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項6に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記第2目標値から前記第1目標値への切替に際しては、前記エンジンの運転状態に応じた前記第1目標値と前記第2目標値との差にかかわらず、前記第2目標値から前記第1目標値への切替を実行する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項6又は7に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、プリイグニッションの発生が実測又は予測された場合には、前記判定したオクタン価の高低にかかわらず、該オクタン価は前記閾値未満であるとみなす
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項1から8のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記制御部は、前記判定したオクタン価が所定の閾値以上の場合、該オクタン価が前記閾値以上となった回数をカウントアップし、該回数が所定回数以上になったことを条件として、前記第1上限値に基づいた前記空気量調整部の制御を実行する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。 - 請求項1から9のいずれか1項に記載のエンジンの制御装置において、
前記閾値は、99.0RON以上に設定される
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP2020212800A JP2022099050A (ja) | 2020-12-22 | 2020-12-22 | エンジンの制御装置 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
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JP2020212800A JP2022099050A (ja) | 2020-12-22 | 2020-12-22 | エンジンの制御装置 |
Publications (1)
Publication Number | Publication Date |
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JP2022099050A true JP2022099050A (ja) | 2022-07-04 |
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ID=82261613
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP2020212800A Pending JP2022099050A (ja) | 2020-12-22 | 2020-12-22 | エンジンの制御装置 |
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Country | Link |
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JP (1) | JP2022099050A (ja) |
-
2020
- 2020-12-22 JP JP2020212800A patent/JP2022099050A/ja active Pending
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