以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。本発明の一実施の形態に係る電流センサ1は、導体を流れる検出対象電流の値を検出するものである。以下、検出対象電流を記号I(t)で表す。図1は、本発明の一実施の形態に係る電流センサ1の回路図である。図1に示したように、電流センサ1は、検出器2とプロセッサ3とを備えている。
検出器2は、検出対象電流I(t)の少なくとも一部によって発生する磁界を検出して、検出対象電流I(t)の値と対応関係を有する補正前検出値Vp(t)を生成する。プロセッサ3は、補正前検出値Vp(t)を補正して、検出対象電流I(t)の値と対応関係を有する補正後検出値Vc(t)を生成する。I(t)、Vp(t)およびVc(t)は、いずれも時間tに依存する。そのため、I(t)、Vp(t)およびVc(t)は、時間tの関数と言える。
電流センサ1は、更に、検出対象電流I(t)が流れる導体としてのバスバーを備えていてもよい。電流センサ1は、検出器2とバスバーが一体化されたバスバー一体型電流センサであってもよい。以下、電流センサ1が、バスバー一体型電流センサである例について説明する。また、バスバーを符号10で表す。
図2は、電流センサ1の構造の第1の例を示す斜視図である。第1の例では、電流センサ1は、検出器2およびプロセッサ3の他に、バスバー10と、バスバー10と検出器2を一体化するハウジング12とを備えている。ここで、図2に示したように、互いに直交する3方向を、X方向、Y方向およびZ方向とする。第1の例におけるバスバー10の全体は、X方向に長い形状を有している。検出対象電流I(t)は、主にX方向に平行な方向に沿って流れる。
第1の例におけるバスバー10は、第1の導体部11Aと、第1の導体部11Aに対して並列に接続された第2の導体部11Bとを含んでいる。図2では、第1の導体部11Aと第2の導体部11Bの2つの境界を点線で示している。第1の例の電流センサ1は、分流型である。
第1の導体部11Aは、X方向に沿って順に配置された第1の部分11A1、第2の部分11A2および第3の部分11A3を含んでいる。図2では、第1の部分11A1と第2の部分11A2の境界および第2の部分11A2と第3の部分11A3の境界を破線で示している。第1の部分11A1と第3の部分11A3は、Y方向の寸法が等しい。第2の部分11A2は、第1および第3の部分11A1,11A3よりも、Y方向の寸法が小さい。
第2の導体部11Bと第2の部分11A2は、間隔を開けてY方向に沿って並んでいる。第2の導体部11Bは、第2の部分11A2よりも、Y方向の寸法が小さくてもよい。
第1の部分11A1と第3の部分11A3の各々は、検出対象電流I(t)の全体を通過させる。第2の導体部11Bと第2の部分11A2においては、検出対象電流I(t)の一部は第2の導体部11Bを通過し、検出対象電流I(t)の残りは第2の部分11A2を通過する。
第1の例では、検出器2は、第2の導体部11Bの近傍に配置されている。検出器2は、検出対象電流I(t)の一部であって第2の導体部11Bを流れる電流によって発生する磁界を検出する。
第1の部分11A1と第2の部分11A2の境界とは反対側に位置する第1の部分11A1の端部を含む第1の部分11A1の一部と、第2の部分11A2と第3の部分11A3の境界とは反対側に位置する第3の部分11A3の端部を含む第3の部分11A3の端部の一部は、ハウジング12から露出している。ハウジング12は、バスバー10のうちの、第1の部分11A1の上記一部と第3の部分11A3の上記一部を除いた部分と、検出器2を覆っている。
図3は、電流センサ1の構造の第2の例を示す斜視図である。第2の例では、電流センサ1は、検出器2およびプロセッサ3の他に、バスバー10と、バスバー10と検出器2を一体化するハウジング14とを備えている。
第2の例におけるバスバー10は、第1の導体部13Aと、第1の導体部13Aに対して並列に接続された第2の導体部13Bとを含んでいる。従って、第2の例の電流センサ1も分流型である。図3では、第1の導体部13Aと第2の導体部13Bの2つの境界を点線で示している。第1の導体部13Aは、X方向に長い形状を有している。検出対象電流I(t)は、主にX方向に平行な方向に沿って流れる。
第1の導体部13Aは、X方向に沿って順に配置された第1の部分13A1、第2の部分13A2および第3の部分13A3を含んでいる。図3では、第1の部分13A1と第2の部分13A2の境界および第2の部分13A2と第3の部分13A3の境界を破線で示している。第1の部分13A1、第2の部分13A2および第3の部分13A3は、Y方向の寸法が等しい。
第2の導体部13Bは、第1の導体部13Aに対して、Y方向の先に位置している。第2の導体部13Bは、第1の部分13A1に接続された第1端と、第3の部分13A3に接続された第2端とを有している。
第1の部分13A1第3の部分13A3の各々は、検出対象電流I(t)の全体を通過させる。第2の導体部13Bと第2の部分13A2においては、検出対象電流I(t)の一部は第2の導体部13Bを通過し、検出対象電流I(t)の残りは第2の部分13A2を通過する。
第2の例では、検出器2は、第2の導体部13Bの近傍に配置されている。検出器2は、検出対象電流I(t)の一部であって第2の導体部13Bを流れる電流によって発生する磁界を検出する。
第1の部分13A1と第2の部分13A2の境界とは反対側に位置する第1の部分13A1の端部を含む第1の部分13A1の一部と、第2の部分13A2と第3の部分13A3の境界とは反対側に位置する第3の部分13A3の端部を含む第3の部分13A3の一部は、ハウジング14から露出している。ハウジング14は、バスバー10のうちの、第1の部分13A1の上記一部と第3の部分13A3の上記一部を除いた部分と、検出器2を覆っている。
図4は、電流センサ1の構造の第3の例を示す斜視図である。第3の例では、電流センサ1は、検出器2およびプロセッサ3の他に、バスバー10と、バスバー10と検出器2を一体化するハウジング16とを備えている。
第3の例におけるバスバー10は、第1の部分151、第2の部分152および第3の部分153を含んでいる。図4では、第1の部分151と第2の部分152の境界および第2の部分152と第3の部分153の境界を破線で示している。
第1の部分151と第3の部分153は、間隔を開けてX方向に沿って並んでいる。第1の部分151は、Y方向における両端である第1端151aと第2端151bを有している。第3の部分153は、Y方向における両端である第1端153aと第2端153bを有している。第2の部分152は、第1の部分151の第2端151bと第3の部分153の第2端153bを接続している。第2の部分152は、X方向に長い形状を有している。
第3の例では、検出器2は、第2の部分152の近傍に配置されている。検出器2は、バスバー10を流れる検出対象電流I(t)の少なくとも一部によって発生する磁界を検出する。
第1端151aを含む第1の部分151の一部と、第1端153aを含む第3の部分153の一部は、ハウジング16から露出している。ハウジング16は、バスバー10のうちの、第1の部分151の上記一部と第3の部分153の上記一部を除いた部分と、検出器2を覆っている。
次に、検出器2について説明する。前述の通り、検出器2は、導体であるバスバー10を流れる検出対象電流I(t)の少なくとも一部によって発生する磁界を検出して、検出対象電流I(t)の値と対応関係を有する補正前検出値Vp(t)を生成する。補正前検出値Vp(t)は、例えば電圧である。補正前検出値Vp(t)は、理想的には、検出対象電流I(t)の値に比例する。本実施の形態では特に、検出器2は、検出対象電流I(t)の少なくとも一部によって発生する磁束を集める磁気コアを含んでいない。従って、本実施の形態に係る電流センサ1は、コアレス型である。
検出器2は、磁界を検出するものであれば、種類は特に限定されない。検出器2としては、例えば、フラックスゲートセンサ、ホール素子、磁気抵抗効果素子、磁気インピーダンス効果素子、カレントトランスのいずれかであってもよい。磁気抵抗効果素子は、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子のいずれかであってもよい。
以下、プロセッサ3について説明する。始めに、プロセッサ3が実行する処理の概要について説明する。プロセッサ3は、補正前検出値Vp(t)の二乗Vp2(t)に基づいて、補正前検出値Vp(t)に対する補正後検出値Vc(t)の比率である補正係数C(t)を決定する第1の処理と、補正前検出値Vp(t)と補正係数C(t)に基づいて補正後検出値Vc(t)を生成する第2の処理とを実行する。補正係数C(t)は、時間tに依存する。
第1の処理は、Vp2(t)に基づいてゲイン変化推定値ΔK(t)を算出する処理と、算出されたゲイン変化推定値ΔK(t)に基づいて補正係数C(t)を決定する処理(以下、補正係数決定処理と言う。)とを含んでいてもよい。ここで、ゲイン変化値ΔKp(t)を、検出対象電流I(t)の値に対応するように規定された理想的検出値Vtrue(t)に対する、補正前検出値Vp(t)と理想的検出値Vtrue(t)との差の比率と定義する。ゲイン変化推定値ΔK(t)は、ゲイン変化値ΔKp(t)の推定値である。ゲイン変化値ΔKp(t)およびゲイン変化推定値ΔK(t)は、時間tに依存する。ゲイン変化値ΔKp(t)は、下記の式(1)で表される。
ΔKp(t)=(Vp(t)-Vtrue(t))/Vtrue(t) …(1)
理想的検出値Vtrue(t)は、理想的な補正前検出値Vp(t)に相当する。検出対象電流I(t)の値と理想的検出値Vtrue(t)との関係は、予め決められている。理想的検出値Vtrue(t)は、例えば、検出対象電流I(t)の値に比例する。
ゲイン変化推定値ΔK(t)に基づいて決定される補正係数C(t)は、例えば下記の式(2)で表される。
C(t)=1/(1+ΔK(t)) …(2)
ΔK(t)が1よりも十分に小さいことから、式(2)の右辺は、1-ΔK(t)と近似することができる。よって、補正係数C(t)は、下記の式(3)で表されるものとしてもよい。
C(t)=1-ΔK(t) …(3)
ゲイン変化推定値ΔK(t)を算出する処理は、所定の伝達関数H(s)に基づいて、Vp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換する処理を含んでいてもよい。以下、Vp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換する処理を変換処理と呼ぶ。変換処理は、計算処理によって、Vp2(t)からゲイン変化推定値ΔK(t)を求める処理であってもよい。あるいは、変換処理は、伝達関数H(s)に対応するフィルタを用いて、Vp2(t)をフィルタリングする処理であってもよい。また、プロセッサ3は、更に、伝達関数H(s)を決定する処理(以下、伝達関数決定処理と言う。)を実行してもよい。
プロセッサ3は、特定用途向け集積回路(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)およびマイクロコンピュータのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。また、プロセッサ3は、アナログ回路を含んでいてもよい。
次に、図1を参照して、プロセッサ3の構成と処理の具体例について説明する。この例では、図1に示したように、プロセッサ3は、第1の処理を行う第1の処理部31と、第2の処理を行う第2の処理部32と、伝達関数決定処理を行う伝達関数決定部33とを備えている。第2の処理部32は、乗算器321によって構成されている。なお、伝達関数決定部33は、プロセッサ3の必須の構成要素ではなく、プロセッサ3が伝達関数決定処理を実行しない場合には設けられない。
第1の処理部31は、乗算器311と、変換回路312と、補正係数決定部313とを含んでいる。検出器2は、補正前検出値Vp(t)を出力する。この補正前検出値Vp(t)は、乗算器311と乗算器321に与えられる。
乗算器311および変換回路312は、前述のVp2(t)に基づいてゲイン変化推定値ΔK(t)を算出する処理を行う。具体的に説明すると、乗算器311は、Vp2(t)を算出する。乗算器311によって算出されたVp2(t)は、変換回路312と伝達関数決定部33に与えられる。変換回路312は、Vp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換する処理すなわち変換処理を行う。
補正係数決定部313は、前述の補正係数決定処理を行う。補正係数決定処理によって決定された補正係数C(t)は、乗算器321に与えられる。
乗算器321は、検出器2から与えられた補正前検出値Vp(t)に、補正係数決定部313から与えられた補正係数C(t)を掛けて、補正後検出値Vc(t)を生成し、出力する。
補正係数決定部313と伝達関数決定部33は、前述のASIC、DSPおよびマイクロコンピュータのうちの少なくとも1つによって実現されてもよい。
本実施の形態では、バスバー10に検出対象電流I(t)が流れると、バスバー10の部分毎の発熱特性や放熱特性の違いによってバスバー10内の温度にむらが生じ得る。バスバー10内の温度のむらは、電流センサ1の検出値の誤差の原因となる。
図5は、バスバー10に検出対象電流I(t)が流れているときのバスバー10内の温度分布の一例を示している。図5に示したバスバー10の形状は、図2に示したバスバー10に類似している。図5では、温度の等高線によって、バスバー10内を、記号Tn(nは1以上9以下の整数)で示した複数の領域に分けている。領域内の温度は、nの値が大きい領域Tnほど高い。
本実施の形態に係る電流センサ1によれば、バスバー10内の温度のむらに起因して電流の検出値に生じる誤差を低減することが可能になる。以下、その原理について、図6を参照して説明する。
本実施の形態では、バスバー10を、複数の部分に分割して考える。1つの部分をセルと呼ぶ。図6は、図2に示したバスバー10における複数のセルの例を示している。この例では、1つのセルは立方体または直方体である。複数のセルの形状は同じである。以下、セルを記号CEkで表す。添字のkはセルの番号を表す。
バスバー10に検出対象電流I(t)が流れると、バスバー10の部分毎の発熱特性や放熱特性の違いによってバスバー10内の温度にむらが生じ得る。バスバー10内の温度にむらが生じると、バスバー10内の抵抗値にむらが生じ、その結果、バスバー10内の電流密度にむらが生じる。なお、バスバー10内の電流密度のむらは、バスバー10内の温度のむらの他に、バスバー10の形状やバスバー10内の抵抗温度係数のむらに起因し得る。
ここで、ある時刻における検出対象電流I(t)の値をIpとし、Ipに対応する補正前検出値をVpとする。バスバー10内の電流密度のむらは、IpおよびVpの変化に応じて変動する。ここで、ある時刻におけるセルCEk毎の電流の値をIkとすると、IkはVpに依存する。このIkとVpの関係は、理想的には比例の関係である。温度のむらに起因する電流密度のむらが生じる部分では、IkはVpに比例しない。
次に、Ikに起因するセルCEk毎の発熱量をQkとし、Qkに起因するセルCEk毎の温度変化をΔTkとすると、ΔTkはIk2に依存する。このΔTkとIk2の関係は、熱伝導方程式に従って、理想的には系全体として線形な関係にある。ここで、Ik2はVp2に依存し、理想的には比例の関係にあることを踏まえると、ΔTkはVp2に依存し、理想的には線形な関係にある。
次に、ΔTkに起因するセルCEk毎の抵抗値の変化量をΔRkとする。ΔRkはΔTkに依存する。理想的には、ΔRkはΔTkに比例する。
次に、ΔRkに起因するセルCEk毎の電流の値の変化量をΔIkとし、ΔIkと検出対象電流Ipとの比をΔpIkとする。ΔpIkはΔRkに依存する。
ここで、全てのセルCEkのうち、検出器2が検出する磁界の形成に寄与する複数のセルCEkを、複数の対象セルCEkと言う。検出器2が検出する磁界は、複数の対象セルCEkによって発生されて検出器2に印加される複数の磁界が合成されたものである。
前述のゲイン変化値ΔKp(t)は、複数の対象セルCEkのΔpIkに依存し、Kp(t)とΔpIkの関係は線形の関係である。以上のことから、ゲイン変化値ΔKp(t)はVp2(t)に依存する。従って、本実施の形態におけるゲイン変化推定値ΔK(t)を算出する処理のように、ゲイン変化推定値ΔK(t)は、Vp2(t)に基づいて算出することが可能である。
ここまで説明してきた2つのパラメータ間の関係は、ΔpIkとΔRkの関係を除いて線形であり、ΔK(t)とVp2(t)の関係についても、抵抗率のむらが小さい範囲については、線形とみなすことができる。従って、前述の通り、ゲイン変化推定値ΔK(t)を算出する処理は、伝達関数H(s)に基づいて、Vp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換する処理すなわち変換処理を含んでいてもよい。図1に示した例のプロセッサ3では、変換回路312が変換処理を行う。前述の通り、この変換処理は、計算処理による処理であってもよいし、伝達関数H(s)に対応するフィルタを用いて、Vp2(t)をフィルタリングする処理であってもよい。
変換処理が計算処理による処理である場合には、変換回路312は、前述のASIC、DSPおよびマイクロコンピュータのうちの少なくとも1つによって実現されてもよい。変換処理がVp2(t)をフィルタリングする処理である場合には、変換回路312は、アナログ回路である少なくとも1つのフィルタを含んでいてもよい。少なくとも1つのフィルタは、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタおよびバンドパスフィルタのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。
以下、変換処理について詳しく説明する。まず、Vp2(t)をラプラス変換して得られる関数をVp2(s)とし、ゲイン変化推定値ΔK(t)をラプラス変換して得られる関数をΔK(s)とする。Vp2(s)およびΔK(s)は、いずれも複素数sの関数である。伝達関数H(s)を適切に設定すると、ΔK(s)は、下記の式(4)で表される。
ΔK(s)=H(s)・Vp2(s) …(4)
変換処理が計算処理による処理である場合には、変換処理は、下記の式(5)に従って行われる。
ΔK(t)=∫H’(t-τ)Vp2(τ)dτ …(5)
式(5)において、H’は、H(s)を逆ラプラス変換して得られる関数である。式(5)の右辺の積分区間は、0からtまでの間の各時刻である。式(5)の右辺は、0からtまでのτについての、パルスに対する応答の積分を表している。
次に、変換処理がVp2(t)をフィルタリングする処理である場合について説明する。伝達関数H(s)は、簡易なアナログフィルタで近似することが可能である。それは、ゲイン変化推定値ΔK(t)の時間的変化の波形は、Vp2(t)の時間的変化の波形を、所定のフィルタを用いてフィルタリングして得られる波形に近いためである。
フィルタの伝達関数の例としては、以下のものがある。1次のローパスフィルタの伝達関数は、a,bを定数として、a/(s+b)と表すことができる。1次のハイパスフィルタの伝達関数は、cを定数として、s/(s+c)と表すことができる。2次のバンドパスフィルタの伝達関数は、f,g,hを定数として、f・s/(s2+g・s+h)と表すことができる。
変換処理を、伝達関数H(s)に対応するフィルタを用いてVp2(t)をフィルタリングする処理とすることにより、変換回路312を、簡単な構成のフィルタを用いて構成することができる。
ここで、伝達関数H(s)の一例について説明する。この例の伝達関数H(s)は、下記の式(6)で表される。
H(s)=a1/(s+b1)+a2/(s+b2) …(6)
a1,b1,a2,b2は、いずれも定数である。a1とa2は、共に正の値である場合と、一方が正の値、他方が負の値である場合とがある。
式(6)中の“a1/(s+b1)”と“a2/(s+b2)”は、a1とa2が共に正の値である場合には、1次のローパスフィルタの伝達関数である。上記の場合、式(6)の伝達関数H(s)に対応するフィルタは、“a1/(s+b1)”で表される1次のローパスフィルタと“a2/(s+b2)”で表される1次のローパスフィルタの並列回路とすることができる。
図7は、伝達関数H(s)に対応するフィルタの構成の第1の例を示す回路図である。第1の例のフィルタ50は、プロセッサ3が伝達関数決定処理を実行せず、伝達関数決定部33が設けられていない場合に用いることができる。フィルタ50は、a1とa2が共に正の値である場合に対応している。フィルタ50は、入力ポートP1と、出力ポートP2と、入力ポートP1と出力ポートP2の間において並列に設けられた2つのフィルタ部51,52を含んでいる。フィルタ部51,52は、いずれも、1次のRCローパスフィルタである。入力ポートP1には、Vp2(t)が与えられる。出力ポートP2は、ゲイン変化推定値ΔK(t)を出力する。
フィルタ部51は、3つの抵抗器R11,R12,R13とキャパシタC1を含んでいる。抵抗器R11,R12,R13とキャパシタC1の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。抵抗器R11の第1端は入力ポートP1に接続されている。抵抗器R12,R13の各々の第1端は、抵抗器R11の第2端に接続されている。抵抗器R12の第2端はグランドに接続されている。抵抗器R13の第2端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC1の第1端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC1の第2端はグランドに接続されている。
フィルタ部52は、3つの抵抗器R21,R22,R23とキャパシタC2を含んでいる。抵抗器R21,R22,R23とキャパシタC2の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。抵抗器R21の第1端は入力ポートP1に接続されている。抵抗器R22,R23の各々の第1端は、抵抗器R21の第2端に接続されている。抵抗器R22の第2端はグランドに接続されている。抵抗器R23の第2端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC2の第1端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC2の第2端はグランドに接続されている。
以下、抵抗器R11,R12,R13,R21,R22,R23の抵抗値をそれぞれR11,R12,R13,R21,R22,R23で表す。また、キャパシタC1,C2のキャパシタンスをそれぞれC1,C2で表す。式(6)におけるa1,b1,a2,b2は、それぞれ以下の式(7)、(8)、(9)、(10)で表される。
a1=b1R12/(R11+R12) …(7)
b1=1/R13C1 …(8)
a2=b2R22/(R21+R22) …(9)
b2=1/R23C2 …(10)
図8は、伝達関数H(s)に対応するフィルタの構成の第2の例を示す回路図である。第2の例のフィルタ60は、プロセッサ3が伝達関数決定処理を実行し、伝達関数決定部33が設けられている場合に対応することが可能である。伝達関数決定部33は、伝達関数決定処理を実行することによって、式(6)におけるa1,b1,a2,b2を決定する。フィルタ60は、決定されたa1,b1,a2,b2に応じて、自身の特性を変えることができる。伝達関数決定部33は、a1,b1,a2,b2に応じて、フィルタ60の特性を決定するための第1ないし第4の制御信号をフィルタ60に与える。
フィルタ60は、入力ポートP1と、出力ポートP2と、入力ポートP1と出力ポートP2の間において並列に設けられた2つのフィルタ部61,62を含んでいる。入力ポートP1には、Vp2(t)が与えられる。出力ポートP2は、ゲイン変化推定値ΔK(t)を出力する。
フィルタ部61は、可変ゲイン増幅器VGA1と、デジタルポテンショメータDP1と、キャパシタC1を含んでいる。可変ゲイン増幅器VGA1は、入力端子と出力端子を有している。デジタルポテンショメータDP1とキャパシタC1の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。可変ゲイン増幅器VGA1の入力端子は、入力ポートP1に接続されている。デジタルポテンショメータDP1の第1端は、可変ゲイン増幅器VGA1の出力端子に接続されている。デジタルポテンショメータDP1の第2端は、出力ポートP2に接続されている。キャパシタC1の第1端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC1の第2端はグランドに接続されている。
デジタルポテンショメータDP1は、第1の制御信号に応じて抵抗値が変化する素子である。可変ゲイン増幅器VGA1は、第2の制御信号に応じてゲインが変化する増幅器である。
フィルタ部62は、可変ゲイン増幅器VGA2と、デジタルポテンショメータDP2と、キャパシタC2を含んでいる。可変ゲイン増幅器VGA2は、入力端子と出力端子を有している。デジタルポテンショメータDP2とキャパシタC2の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。可変ゲイン増幅器VGA2の入力端子は、入力ポートP1に接続されている。デジタルポテンショメータDP2の第1端は、可変ゲイン増幅器VGA2の出力端子に接続されている。デジタルポテンショメータDP2の第2端は、出力ポートP2に接続されている。キャパシタC2の第1端は出力ポートP2に接続されている。キャパシタC2の第2端はグランドに接続されている。
デジタルポテンショメータDP2は、第3の制御信号に応じて抵抗値が変化する素子である。可変ゲイン増幅器VGA2は、第4の制御信号に応じてゲインが変化する増幅器である。
以下、可変ゲイン増幅器VGA1,VGA2を代表して可変ゲイン増幅器VGAと言う。可変ゲイン増幅器VGAは、ゲインが正の値である上限値と負の値である下限値との間で変化するものであってもよい。このような可変ゲイン増幅器VGAの構成の例を図9に示す。図9に示した可変ゲイン増幅器VGAは、入力端子71と、出力端子72と、演算増幅器73と、4つの抵抗器R31,R32,R33,R34と、デジタルポテンショメータDP3を含んでいる。演算増幅器73は、反転入力端子と非反転入力端子と出力端子を有している。抵抗器R31,R32,R33,R34とデジタルポテンショメータDP3の各々は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。
抵抗器R31の第1端は、グランドに接続されている。抵抗器R31の第2端は、演算増幅器73の反転入力端子に接続されている。抵抗器R32の第1端は、演算増幅器73の反転入力端子に接続されている。抵抗器R32の第2端は、演算増幅器73の出力端子に接続されている。抵抗器R33とデジタルポテンショメータDP3の各々の第1端は、入力端子71に接続されている。抵抗器R33の第2端は、演算増幅器73の反転入力端子に接続されている。デジタルポテンショメータDP3の第2端は、演算増幅器73の非反転入力端子に接続されている。抵抗器R34の第1端は、演算増幅器73の非反転入力端子に接続されている。抵抗器R34の第2端は、グランドに接続されている。
可変ゲイン増幅器VGA1内のデジタルポテンショメータDP3の抵抗値は、第2の制御信号に応じて変化する。可変ゲイン増幅器VGA1のゲインは、デジタルポテンショメータDP3の抵抗値の変化に応じて、正の値である上限値と負の値である下限値との間で変化する。従って、可変ゲイン増幅器VGA1のゲインは、第2の制御信号に応じて、上限値と下限値との間で変化する。
可変ゲイン増幅器VGA2内のデジタルポテンショメータDP3の抵抗値は、第4の制御信号に応じて変化する。可変ゲイン増幅器VGA2のゲインは、デジタルポテンショメータDP3の抵抗値の変化に応じて、正の値である上限値と負の値である下限値との間で変化する。従って、可変ゲイン増幅器VGA2のゲインは、第4の制御信号に応じて、上限値と下限値との間で変化する。
デジタルポテンショメータDP1の抵抗値をR13とし、キャパシタC1のキャパシタンスをC1とすると、式(6)におけるb1は、前記の式(8)で表される。式(6)におけるa1は、b1と可変ゲイン増幅器VGA1のゲインとによって決まる。従って、フィルタ部61では、伝達関数決定部33によって決定されたa1,b1に応じて自身の特性が決定される。
デジタルポテンショメータDP2の抵抗値をR23とし、キャパシタC2のキャパシタンスをC2とすると、式(6)におけるb2は、前記の式(10)で表される。式(6)におけるa2は、b2と可変ゲイン増幅器VGA2のゲインとによって決まる。従って、フィルタ部62では、伝達関数決定部33によって決定されたa2,b2に応じて自身の特性が決定される。
図8に示したフィルタ60によれば、伝達関数決定部33によって決定されたa1,b1,a2,b2に応じて自身の特性を決定することができる。また、フィルタ60によれば、a1,a2が共に正の値である場合と、a1,a2の一方が正の値、他方が負の値である場合の両方に対応することができる。a1,a2が共に正の値である場合には、フィルタ60の特性はローパスフィルタの特性になる。a1,a2の一方が正の値、他方が負の値である場合には、フィルタ60の特性を、ローパスフィルタ、バンドパスフィルタまたはハイパスフィルタの特性にすることが可能である。
次に、伝達関数決定部33が実行する伝達関数決定処理の具体例について説明する。図10は、伝達関数決定処理を示すフローチャートである。伝達関数決定部33が伝達関数決定処理を実行する際には、電流センサ1の外部の図示しない制御部による制御の下で、バスバー10に、検出対象電流I(t)としてステップ電流を流す。図11は、ステップ電流を示す特性図である。図11において、横軸は時間tを示し、縦軸は電流の値を示している。ステップ電流は、時間tによって変化しない一定値I0を有する電流である。電流センサ1のプロセッサ3は、ステップ電流に対応する補正前検出値Vp(t)を取得する。そして、乗算器311によって算出されたVp2(t)が伝達関数決定部33に与えられる。
図10に示したように、伝達関数決定処理では、まず、ステップS1で、バスバー10にステップ電流を流したときの所定期間内のゲイン変化値を求める。
ここで、ステップ電流の値I0に対応する理想的検出値VtrueをV0とする。V0は、時間tによって変化しない一定値であり、既知である。また、ステップ電流をバスバー10に流したときのゲイン変化値ΔKpをΔK0(t)とする。ΔK0(t)は、下記の式(11)で表される。
ΔK0(t)=(Vp(t)-V0)/V0 …(11)
図12は、図11に示したステップ電流をバスバー10に流したときのゲイン変化値ΔK0(t)の時間的変化の一例を示す特性図である。図12において、横軸は時間tを示し、縦軸はΔK0(t)を示している。
伝達関数決定処理は、次に、ステップS2で、ステップS1で求めた所定期間内のゲイン変化値ΔK0(t)に基づいて伝達関数H(s)を決定して、終了する。ステップS2では、具体的には、以下のようにして伝達関数H(s)を決定する。
始めに、ゲイン変化値ΔK0(t)の近似式を、下記の式(12)とする。
ΔK0(t)≒V0
2{a1(1-e-b1t)/b1+a2(1-e-b2t)/b2+・・・}
…(12)
次に、式(12)の右辺が、式(12)の左辺すなわち所定期間内のゲイン変化値ΔK0(t)のよい近似となるように、最小二乗法等を用いて、a1,b1,a2,b2,・・・のそれぞれの値を決定する。
一方、式(12)の右辺と左辺が等しいとみなし、右辺と左辺をラプラス変換すると、下記の式(13)が得られる。
ΔK0(s)=V0
2{a1/(s2+b1s)+a2/(s2+b2s)+・・・}
…(13)
また、式(4)と同様に、下記の式(14)が成り立つ。
ΔK0(s)=H(s)・V0
2(s) …(14)
V0
2(s)は、V0
2を定数関数とみなしてラプラス変換して得られる関数であり、V0
2/sで表される。従って、伝達関数H(s)は、下記の式(15)によって求められる。
H(s)=ΔK0(s)/V0
2(s)
=ΔK0(s)・s/V0
2 …(15)
式(13)と式(15)から、伝達関数H(s)は、下記の式(16)によって求められる。
H(s)=a1/(s+b1)+a2/(s+b2)+・・・ …(16)
ステップS2では、ステップS1で求めた所定期間内のゲイン変化値ΔK0(t)に基づいて、a1,b1,a2,b2,・・・のそれぞれの値を決定することにより、伝達関数H(s)を決定する。
伝達関数H(s)は、式(16)を簡略化して前出の式(6)で表されるものとしてもよい。
以下、本実施の形態における第1および第2の実施例について説明する。ここで、以下の説明で使用する補正前誤差Ep(t)と補正後誤差Ec(t)を、次のように定義する。補正前誤差Ep(t)は、式(1)で表されるゲイン変化値ΔKp(t)と同じであり、下記の式(17)で表される。
Ep(t)=(Vp(t)-Vtrue(t))/Vtrue(t) …(17)
補正後誤差Ec(t)は、下記の式(18)で表される。
Ec(t)=(Vc(t)-Vtrue(t))/Vtrue(t) …(18)
[第1の実施例]
第1の実施例では、伝達関数H(s)は、下記の式(19)で表される。
H(s)={-9.3/(s+2.81)+0.695/(s+0.21)}×D1
…(19)
式(19)におけるD1は、所定の定数である。第1の実施例では、伝達関数決定処理を実行して、式(19)に示した伝達関数H(s)を決定した。そして、伝達関数H(s)が決定された第1の実施例の電流センサ1を用いて、バスバー10にステップ電流ならびに第1ないし第3のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)と補正後誤差Ec(t)を求めた。
図13は、伝達関数決定処理においてバスバー10に流した検出対象電流I(t)としてのステップ電流と第1ないし第3のパターンの検出対象電流I(t)の時間的変化を示す特性図である。図13において、横軸は時間tを示し、縦軸は検出対象電流I(t)の値を任意単位(a.u.)で示している。図13において、符号110はステップ電流を示し、符号111は第1のパターンの検出対象電流I(t)を示し、符号112は第2のパターンの検出対象電流I(t)を示し、符号113は第3のパターンの検出対象電流I(t)を示している。
図14は、補正前誤差Ep(t)の時間的変化を示す特性図である。図14において、横軸は時間tを示し、縦軸は補正前誤差Ep(t)を示している。縦軸の単位は%である。図14において、符号120はステップ電流を流したときの補正前誤差Ep(t)を示し、符号121は第1のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)を示し、符号122は第2のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)を示し、符号123は第3のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)を示している。
図15は、補正後誤差Ec(t)の時間的変化を示す特性図である。図15において、横軸は時間tを示し、縦軸は補正後誤差Ec(t)を示している。縦軸の単位は%である。図15において、符号130はステップ電流を流したときの補正後誤差Ec(t)を示し、符号131は第1のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正後誤差Ec(t)を示し、符号132は第2のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正後誤差Ec(t)を示し、符号133は第3のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正後誤差Ec(t)を示している。
図14と図15を比較すると、検出対象電流I(t)のパターンに関わらずに、補正前誤差Ep(t)に比べて補正後誤差Ec(t)が大幅に小さくなっていることが分かる。
[第2の実施例]
第1の実施例では、伝達関数H(s)は、下記の式(20)で表される。
H(s)={0.01/(s+0.1)+0.005/(s+0.7)}×D2
…(20)
式(20)におけるD2は、所定の定数である。第2の実施例では、伝達関数決定処理を実行して、式(20)に示した伝達関数H(s)を決定した。そして、伝達関数H(s)が決定された第2の実施例の電流センサ1を用いて、バスバー10にステップ電流ならびに第4および第5のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)と補正後誤差Ec(t)を求めた。
図16は、伝達関数決定処理においてバスバー10に流した検出対象電流I(t)としてのステップ電流と第4および第5のパターンの検出対象電流I(t)の時間的変化を示す特性図である。図16において、横軸は時間tを示し、縦軸は検出対象電流I(t)の値を任意単位(a.u.)で示している。図16において、符号210はステップ電流を示し、符号211は第4のパターンの検出対象電流I(t)を示し、符号212は第5のパターンの検出対象電流I(t)を示している。
図17は、補正前誤差Ep(t)の時間的変化を示す特性図である。図17において、横軸は時間tを示し、縦軸は補正前誤差Ep(t)を示している。縦軸の単位は%である。図17において、符号220はステップ電流を流したときの補正前誤差Ep(t)を示し、符号221は第4のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)を示し、符号222は第5のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正前誤差Ep(t)を示している。
図18は、補正後誤差Ec(t)の時間的変化を示す特性図である。図18において、横軸は時間tを示し、縦軸は補正後誤差Ec(t)を示している。縦軸の単位は%である。図18において、符号230はステップ電流を流したときの補正後誤差Ec(t)を示し、符号231は第4のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正後誤差Ec(t)を示し、符号232は第5のパターンの検出対象電流I(t)を流したときの補正後誤差Ec(t)を示している。
図17と図18を比較すると、検出対象電流I(t)のパターンに関わらずに、補正前誤差Ep(t)に比べて補正後誤差Ec(t)が大幅に小さくなっていることが分かる。
以上説明したように、本実施の形態に係る電流センサ1によれば、プロセッサ3によって、補正前検出値Vp(t)の二乗Vp2(t)に基づいて補正係数C(t)を決定すると共に補正前検出値Vp(t)と補正係数C(t)に基づいて補正後検出値Vc(t)を生成することにより、バスバー10内の温度のむらに起因して電流の検出値に生じる誤差を低減することができる。この効果は、特に、電流センサ1がコアレス型である場合や分流型である場合に顕著に発揮される。
本実施の形態において、伝達関数H(s)は、フィルタの伝達関数に類似した形式に設定することができる。これにより、変換処理を、伝達関数H(s)に対応するフィルタを用いてVp2(t)をフィルタリングする処理とし、変換回路312を簡単な構成のフィルタを用いて構成することが可能になる。
バスバー10内の温度のむらは、Vp2(t)の比較的周波数の低い変動を生じさせる。Vp2(t)の変動のうちの比較的周波数の高い成分は、バスバー10内の温度のむら以外に起因すると考えられる。そのため、変換処理は、比較的周波数の高い成分を除去したVp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換することが好ましい。本実施の形態では、変換処理を、上述のようにVp2(t)をフィルタリングする処理とすることにより、比較的周波数の高い成分、例えば50Hz以上の成分を除去したVp2(t)をゲイン変化推定値ΔK(t)に変換することが可能になる。
ところで、同じ構成の電流センサ1であっても、電流センサ1の使用環境が異なると、バスバー10の放熱特性が異なる場合がある。例えば、バスバー10に接している絶縁部材の材料や接触面積の違いによって、バスバー10の放熱特性は異なり得る。そのため、同じ構成の電流センサ1であっても、最適な伝達関数H(s)は異なり得る。このような場合でも、本実施の形態に係る電流センサ1によれば、プロセッサ3が伝達関数決定処理を行うことにより、最適な伝達関数を決定することが可能になる。
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、図2,3に示した分流型の電流センサ1では、検出器2は、バスバー10の第2の導体部を流れる検出対象電流によって発生する磁束を集める磁気コアを含んでいてもよい。
また、本発明の電流センサは、検出器2の代わりに、シャント等を用いてバスバー10の電圧を検出して補正前検出値Vp(t)を生成する検出器を備えていてもよい。上記の場合であっても、第1の処理で算出されるゲイン変化推定値ΔK(t)は、Vp2(t)に基づいて算出することが可能である。その理由は、実施の形態における図6を参照して説明した理由と同様である。なお、上記の場合では特に、ΔRkに起因するセルCEk毎の電圧の値の変化量をΔVkとし、ΔVkと補正前検出値Vpとの比をΔpVkとすると、ΔpVkはΔRkに依存する。ここで、全てのセルCEkのうち、検出器が電圧を測定するためにその2つの電極接触部を接触させる任意の2つのセルCEkを、第1および第2の対象セルCEkと言う。検出器が測定する電圧は、第1の対象セルCEkの電圧と第2の対象セルCEkの電圧との差である。ゲイン変化値ΔKp(t)は、第1および第2の対象セルCEkのΔpVkに依存し、Kp(t)とΔpVkの関係は線形の関係である。また、実施の形態で説明したように、ΔTkはVp2に依存し、理想的には線形な関係にある。また、ΔRkはΔTkに依存し、理想的にはΔRkはΔTkに比例する。以上のことから、ゲイン変化値ΔKp(t)はVp2(t)に依存する。従って、ゲイン変化推定値ΔK(t)は、Vp2(t)に基づいて算出することが可能である。