(本発明の一形態を得るに至った経緯)
本発明者らは特許文献1に開示された従来の燃料電池システムの運転停止制御について鋭意検討を行った。その結果、以下の知見を得た。すなわち、特許文献1に開示された燃料電池の運転停止制御では、まず、改質用の水と炭化水素ガスとの混合ガスを、改質器を通して燃料電池内に供給することで燃料電池の降温をはかる。そして、改質触媒の温度が酸化発生温度±150℃の範囲まで降温したら混合ガスの供給を停止する。混合ガスの供給停止後は、空気または炭化水素ガスをパージガスとして改質器を通して燃料電池内に供給することで残留する混合ガスのパージを行っている。
ここで燃料電池システムの簡素化および低コスト化のため、改質器では水蒸気改質のみを行い、改質用の空気を供給する供給経路を備えない構成とすることが想定される。このような構成の場合、従来の燃料電池システムの運転停止制御では、混合ガスの供給停止後は、炭化水素ガスによって混合ガスのパージを行うこととなる。このため、安全な空気での掃気ができなくなるという問題を見出した。さらに、炭化水素ガスをパージ用ガスとして燃料電池内に供給する構成の場合、次の燃料電池システムの起動時において、燃料電池スタック内に炭化水素ガスなどの可燃ガスが残留している。それゆえ、着火時に爆着が生じるなど、安全面での信頼性が問題となることに気が付いた。
本発明者らは、上記した問題に対して鋭意検討をした結果、燃料電池システムの再起動時において着火時に爆着が生じることを防ぐためには、燃料電池スタック内における可燃性を有するガス(可燃ガス)の濃度を、燃焼範囲外、特には、可燃ガスの濃度を燃焼範囲の下限側の範囲外となるようにすればよいことを見出した。そして、燃料電池スタック内における可燃ガスの濃度が燃焼範囲外となるとき、または安全性確保の観点から、ガスセンサで設定される可燃ガス成分濃度の燃焼範囲の下限側の値の1/4など、可燃ガス成分濃度の所定比率以下になるときの燃料電池スタックの温度と電圧との相関関係を予め取得しておく。そして、予め取得したこの燃料電池スタックの温度と電圧との相関関係を参照して、実際に検知された燃料電池スタックの温度に基づき求めた電圧値から燃料電池スタック内における可燃ガスの濃度が燃焼範囲外になるか否か判定することができることを見出した。なお、ここでの燃料電池スタックの電圧とは、外部取り出し電流がゼロとなるときにおけるスタックの電圧を意味する。外部への取り出し電流がゼロとは、外部に電流が取り出される回路が開回路になっている状態でかつ、セルにおいて電解質を介して電極間を流れる後述するホールとプロトンとが、互いに同じ電流値で逆方向に流れている状態を意味する。このように、同じ電流値のホールとプロトンとが逆方向に流れるため、両者で打ち消しあって電解質を介して電極間を流れる電流の値はゼロとなっている。
さらにまた、燃料極に用いられるニッケルが酸化する、燃料電池スタックの温度と電圧との相関関係を予め取得しておく。そして、予め取得したこの燃料電池スタックの温度と電圧との所定の相関関係を参照して、検知した燃料電池スタックの温度に基づき求めた電圧値から、ニッケルの酸化の有無を判定することができることも見出した。
上記した本発明者等の知見は、これまで明らかにされていなかったものであり、顕著な作用効果を奏する新規な技術的特徴を有するものである。そこで、本発明では具体的には以下に示す態様を提供する。
本発明の第1の態様に係る燃料電池システムは、燃料極、空気極、および電解質を有するとともに、燃料ガスと空気とを反応させて発電する複数のセルから構成された燃料電池スタックと、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料供給器と、前記空気極に前記空気を供給する空気供給器と、前記燃料電池スタックの電圧を検知する電圧検知器と、制御器と、を備え、前記制御器は、前記燃料電池スタックの発電停止後において、前記電圧検知器によって検知された前記燃料電池スタックの電圧が、所定電圧より小さくなった場合、前記燃料供給器による前記燃料ガスの供給、および前記空気供給器による前記空気の供給を停止させる。
上記構成によると、制御器は、電圧検知器によって検知された燃料電池スタックの電圧が、所定電圧より小さくなった場合、燃料ガスの供給および空気の供給を停止させることができる。なお、発電停止後において燃料電池スタックの電圧の変化と温度の変化とは相関関係にある。また、燃料電池スタックの電圧の低下と燃料極における残留ガス中の可燃成分の濃度の低下とも相関関係にある。また、燃料ガスの供給および空気の供給の停止は、例えば、同時に行われてもよいし、燃料ガスの供給を停止した後に、空気の供給を停止させる構成であってもよい。
ここで例えば、所定電圧を、燃料極において用いられるニッケルが酸化する燃料電池スタックの温度(酸化下限温度)に対応する電圧とした場合、燃料電池スタックの温度が酸化下限温度より小さくなった後に燃料ガスの供給を停止させることができる。このため、燃料電池スタックの温度が酸化下限温度を下回るまでは、燃料極に流入してくる酸素を燃料ガスによりパージすることができる。これにより、燃料極に流入してくる酸素によってニッケルが酸化することを防ぐことができる。
また、例えば、所定電圧を、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限となる濃度より小さくなるときの燃料電池スタックの電圧とした場合、残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなった後に空気の供給を停止させることができる。これによって、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなる濃度となった後に空気の供給を停止させて、燃料電池スタックの発電停止指示後から行われる一連の運転停止制御を終えることができる。
よって、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなったことを確認して燃料電池システムを停止させることができる。それゆえ、本発明の第1の態様に係る燃料電池システムは、安全性を担保したうえで燃料電池システムの停止を行うことができるとともに次回の起動時において、燃料電池システムにおける爆着の発生を防ぐことができる。
よって、本発明の第1の態様に係る燃料電池システムは、信頼性を高めることができるという効果を奏する。
本発明の第2の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1の態様において、前記電解質は、イオン導電性および電子導電性を有する混合伝導体であってもよい。
本発明の第3の態様に係る燃料電池システムは、上記した第2の態様において、前記混合伝導体は、プロトン伝導体であってもよい。
本発明の第4の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第3の態様のいずれか1つの態様において、前記燃料電池スタックの温度を検知する温度検知器を備え、前記制御器は、燃料電池スタックの温度と燃料電池スタックの電圧との所定の相関関係に基づき、前記温度検知器により検知された燃料電池スタックの温度から前記所定電圧を求め、この求めた所定電圧よりも、前記電圧検知器によって検知された燃料電池スタックの電圧の方が小さい場合、前記燃料供給器による前記燃料ガスの供給、および前記空気供給器による前記空気の供給を停止させる構成であってもよい。
上記構成によると、上記した所定の相関関係に基づき、検知された燃料電池スタック温度から求められた所定電圧よりも、検知された燃料電池スタックの電圧の方が小さい場合、燃料ガスの供給および空気の供給を停止させることができる。
例えば、所定の相関関係を、燃料極において用いられるニッケルが酸化する燃料電池スタックの温度(酸化下限温度)と、その温度に対応する電圧との相関関係とすることができる。この場合、所定電圧よりも検知された燃料電池スタックの電圧の方が小さくなったときに燃料ガスとともに空気の供給を停止させるため、燃料極への空気の回り込みを抑制し、ニッケルの酸化を防ぐことができる。
例えば、所定の相関関係を、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限となる濃度より小さくなるときの燃料電池スタックの温度と電圧との相関関係とすることができる。この場合、所定電圧よりも検知された燃料電池スタックの電圧の方が小さくなったときに空気の供給を停止させるため、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなる濃度となった後、空気の供給を停止させて、燃料電池スタックの発電停止指示後から行われる一連の運転停止制御を終えることができる。
本発明の第5の態様に係る燃料電池システムは、上記した第4の態様において、前記燃料電池スタックの温度と前記燃料電池スタックの電圧との所定の相関関係は、ネルンストの式を利用して求められる構成であってもよい。
ここで、セルにおいてイオン伝導のみを考えればよい場合、例えば、残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなるときの燃料電池スタックの温度と電圧との相関関係を、ネルンストの式にて求めることができる。また、燃料極において用いられるニッケルが酸化する燃料電池スタックの電圧について、温度の関数としてネルンストの式にて求めることができる。
よって、燃料電池システムは、燃料電池スタックの温度と電圧との所定の相関関係を、簡易に導きだすことができる。
本発明の第6の態様に係る燃料電池システムは、上記した第4の態様において、前記燃料電池スタックの温度と前記燃料電池スタックの電圧との所定の相関関係は、前記燃料電池スタックにおいて外部取り出し電流がゼロとなるときに、前記燃料電池スタックの異なる温度ごとに測定した燃料電池スタックの電圧から求められる構成であってもよい。
ここで、電解質がプロトンおよびホールを混合伝導する混合伝導体である場合、ホールのリーク電流の影響により、燃料電池スタックの温度が同じであっても、実際に測定された燃料電池スタックの電圧は、ネルンストの式で求められる燃料電池スタックの電圧よりも小さくなり、一致しないものとなる可能性がある。
上記構成によると燃料電池スタックの温度と燃料電池スタックの電圧との所定の相関関係を、外部取り出し電流がゼロとなるときに燃料電池スタックの異なる温度ごとに測定した燃料電池スタックの電圧から求めるため、ホールのリーク電流の影響を考慮した相関関係とすることができる。なお、外部への取り出し電流がゼロとは、外部に電流が取り出される回路が開回路になっている状態でかつ、セルにおいて電解質を介して電極間を流れるホールとプロトンとが、互いに同じ電流値で逆方向に流れている状態を意味する。このように、同じ電流値のホールとプロトンとが逆方向に流れるため、両者で打ち消しあって電解質を介して電極間を流れる電流の値はゼロとなっている。
したがって、燃料電池スタックの温度と燃料電池スタックの電圧との所定の相関関係を、精度よく求めることができる。
本発明の第7の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第6の態様のいずれか1つの態様において、前記所定電圧は、前記燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなる、または前記燃焼範囲の下限に対する所定比率以下となるときの前記燃料電池スタックの電圧であってもよい。
上記構成によると、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さい濃度、または燃焼範囲の下限に対する所定比率以下となる濃度となった後に、燃料ガスの供給および空気の供給を停止させることができる。
本発明の第8態様に係る燃料電池システムは、上記した第1の態様において、前記所定電圧は、前記燃料極において用いられるニッケルが酸化する前記燃料電池スタックの温度の下限値に対応する前記燃料電池スタックの電圧であってもよい。
上記構成によると、燃料電池の温度が燃料極で用いるニッケルが酸化する燃料電池スタックの温度の下限値より小さくなった後に、燃料ガスの供給および空気の供給を停止させることができる。
本発明の第9の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第8のいずれか1つの態様において、前記電解質は、Ba、Zrを含む酸化物から構成されてもよい。
本発明の第10の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第9のいずれか1つの態様において、前記電解質は、Ba、Zr、M(M=Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Y,Ho,Dy,およびGdからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素)を含む酸化物から構成されてもよい。
本発明の第11の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第10のいずれか1つの態様において、前記電解質は、BaxZryMzO3-δ(M=Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Y,Ho,Dy,およびGdからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素、0.9≦x≦1.0、0.6≦y≦0.90、0.1≦z≦0.4、2.70≦3-δ≦2.95)から構成されてもよい。
本発明の第12の態様に係る燃料電池システムは、上記した第1から第11のいずれか1つの態様において、前記燃料供給器は、前記燃料ガスとして原料ガスを供給しており、前記燃料供給器により供給された原料ガスを改質反応により改質して改質ガスを生成し、前記燃料極に供給する改質器と、前記改質反応に用いる改質用水を気化して生成した水蒸気を前記改質器に供給する蒸発器と、前記蒸発器に前記改質用水を供給する水供給器と、を備える。
ここで、燃料ガスとして改質器を介して燃料電池スタックに供給される原料ガスは、例えば、炭化水素ガス等が例示できる。
上記構成によると、改質器と蒸発器と、水供給器とを備えるため、水供給器により供給された改質用水を蒸発器で気化させた水蒸気を利用して、改質器において水蒸気改質により原料ガスから改質ガス(水素含有ガス)を生成することができる。
本発明の第13の態様に係る燃料電池システムの停止方法は、燃料極、空気極、および電解質を有するとともに、燃料ガスと空気とを反応させて発電する複数のセルから構成された燃料電池スタックと、前記燃料極に前記燃料ガスを供給する燃料供給器と、前記空気極に前記空気を供給する空気供給器と、前記燃料電池スタックの電圧を検知する電圧検知器と、を備えた燃料電池システムの停止方法であって、前記燃料電池スタックの発電を停止させるステップと、前記電圧検知器によって検知された前記燃料電池スタックの電圧が、所定電圧より小さくなった場合、前記空気供給器による前記空気の供給を停止させるステップと、を含む。
上記方法によると、電圧検知器によって検知された燃料電池スタックの電圧が、所定電圧より小さくなった場合、燃料ガスの供給および空気の供給を停止させることができる。なお、発電停止後において燃料電池スタックの電圧の変化と温度の変化とは相関関係にある。また、燃料電池スタックの電圧の低下と燃料極における残留ガス中の可燃成分の濃度の低下とも相関関係にある。ここで例えば、所定電圧を、燃料極において用いられるニッケルが酸化する燃料電池スタックの温度(酸化下限温度)に対応する電圧とした場合、燃料電池スタックの温度が酸化下限温度より小さくなった後に燃料ガスの供給を停止させることができる。このため、燃料電池スタックの温度が酸化下限温度を下回るまでは、燃料極に流入してくる酸素を燃料ガスによりパージすることができる。これにより、燃料極に流入してくる酸素によってニッケルが酸化することを防ぐことができる。
また、例えば、所定電圧を、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなるときの燃料電池スタックの電圧とした場合、残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなった後に空気供給器による空気の供給を停止させることができる。これによって、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなる濃度となった後に空気の供給を停止させて、燃料電池スタックの発電停止指示後から行われる一連の運転停止制御を終えることができる。
よって、燃料極における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限より小さくなったことを確認して燃料電池システムを停止させることができる。それゆえ、本発明の第13の態様に係る燃料電池システムの停止方法は、安全性を担保したうえで燃料電池システムの停止を行うことができるとともに次回の起動時において、燃料電池システムにおける爆着の発生を防ぐことができる。
よって、本発明の第13の態様に係る燃料電池システムの停止方法は、信頼性を高めることができるという効果を奏する。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一または対応する構成部材には同一の参照符号を付して、その説明については省略する場合がある。
[実施の形態]
(燃料電池システムの構成)
図1を参照して実施の形態に係る燃料電池システム100の構成を説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る燃料電池システム100の構成の一例を模式的に示す図である。なお、本明細書では、燃料電池システム100は、高温の固体電解質を用いた固体酸化物形燃料電池(SOFC)を備えたシステムを例に挙げて説明するがこれに限定されるものではない。
図1に示すように、燃料電池システム100は、複数のセル12から構成された燃料電池スタック11と、燃料供給器22と、空気供給器21と、温度検知器2と、電圧検知器1と、制御器3と、を備えてなる構成である。さらに、燃料ガスとして供給される水素ガスを加湿するために不図示の水供給器、および蒸発器を備えてもよい。なお、発電停止後における燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係を示す情報を保持しており、電圧検知器1による燃料電池スタック11の電圧の検知結果と、この温度と電圧との相関関係から燃料電池スタック11の温度を把握できる場合、温度検知器2は必須ではない。
燃料電池システム100では、制御器3からの指示に応じて、燃料供給器22が燃料ガスとして水素ガスを、燃料ガス供給経路41を通じて燃料電池スタック11の燃料極15に供給する。燃料供給器22は、燃料電池スタック11へ供給する水素ガスの流量を調整可能とする機器とすることができ、例えば、昇圧器と流量計とにより構成してもよい。昇圧器は、例えば、ポンプなどを例示できる。ポンプとしては、例えば、モータ駆動による定容積型ポンプなどが挙げられる。また、流量計として、例えば、熱量式センサなどを例示できる。
また、制御器3からの指示に応じて、空気供給器21が空気を、空気供給経路42を通じて燃料電池スタック11の空気極14に供給する。空気供給器21は、燃料電池スタック11の空気極14へ供給する空気の流量を調整可能とする機器であり、例えば、ポンプやブロワ等の昇圧器および流量計等により構成されてもよい。なお、空気は、燃料電池スタック11に供給される前に、例えば、燃料電池スタック11から排出される高温の排気ガスが有する熱を利用して予熱される構成であってもよい。
燃料電池スタック11は、400~850℃の高温状態で、供給された水素ガスと空気とから、電気化学反応によって発電をする。なお、この発電で利用されなかった水素ガスおよび空気は燃料電池スタック11内に設けられた燃焼部(不図示)において燃焼させられる構成であってもよい。
なお、実施の形態に係る燃料電池システム100では、電圧検知器1によって燃料電池スタック11の電圧を検知することができるように構成されている。燃料電池スタック11におけるセル12にかかるセル電圧とは、燃料電池スタック11の電圧をセル枚数で除して得られた平均セル電圧である。平均セル電圧を、セル電圧として、以降記載するものとする。電圧検知器1は、検知した電圧の値を制御器3に送信する。また、燃料電池システム100では、温度検知器2によって燃料電池スタック11の温度を検知することができるように構成されていてもよい。温度検知器2は、検知した燃料電池スタック11の温度の値を制御器3に送信する。
燃料電池スタック11を構成する各セル12は、固体酸化物の電解質13を挟み込むように燃料極15と空気極14とが配置されている。例えば、セル12が酸化物イオン伝導体電解質を含む場合、空気極14において、下記の式(1)で示される電極反応が生起され、燃料極15において、下記の式(2)で示される電極反応が生起されて、発電がなされる。
空気極:O2+4e-→2O2-(固体電解質) ・・・ (1)
燃料極:2O2-(固体電解質)+2H2→2H2O+4e- ・・・ (2)
式(1)、(2)からわかるように、セル12が電解質13として酸化物イオン伝導体電解質を含む場合、空気極14側から燃料極15側へ酸化物イオンが移動するため、燃料極15側に水蒸気が生成される。
また、例えば、セル12が電解質13としてプロトン伝導体電解質を含む場合は、空気極14において、下記の式(3)で示される電極反応が生起され、燃料極15において、下記の式(4)で示される電極反応が生起されて、発電がなされる。
空気極:4H+(固体電解質)+O2+4e-→2H2O ・・・ (3)
燃料極:2H2→4H+(固体電解質)+4e- ・・・ (4)
式(3)、(4)からわかるように、セル12が電解質13としてプロトン伝導体電解質を含む場合、燃料極15側から空気極14側へ水素が移動するため、空気極14側に水蒸気が生成される。このため、電解質13として酸化物イオン伝導体電解質を含む場合と比較し、結果的に水素ガス(燃料ガス)中の水蒸気量が少なくなり、空気中の水蒸気量が多くなる。
なお、酸化物イオン伝導体電解質は、例えばZrO2系が用いられる。具体的には、8モル%のY2O3でZrO2サイトの一部を置換した8YSZが用いられる。
また、プロトン伝導体電解質は、例えば、BaZrO3系などが用いられる。具体的には、Zrの一部をM(M= Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Y,Ho,Dy,およびGdからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素)で置換したもので、ZrとMとの組成比が、Zr/M=0.90/0.10~0.60/0.40となるものが用いられる。換言すると、プロトン伝導体電解質は、BaxZryMzO3-δ(M=Sc,In,Lu,Yb,Tm,Er,Y,Ho,Dy,およびGdからなる群から選ばれる少なくとも1種類の元素、0.9≦x≦1.0、0.6≦y≦0.90、0.1≦z≦0.4、2.70≦3-δ≦2.95)から構成されてもよい。性能と耐久性のバランスから0.1≦z≦0.2のものを用いることが好適である。
ところで、BaZrO3系のプロトン伝導体電解質は、空気中では、ホール伝導体でもあり、プロトン伝導体との混合伝導体であることが一般的に知られている(後述の図11参照)。セル12がプロトン伝導体電解質を用いる場合、電解質13はホール伝導体およびプロトン伝導体の混合伝導体となる。その際、プロトン伝導体は、水蒸気投入により電解質中の酸素空孔に酸素とプロトンが入ることにより、プロトン伝導性が高まるため、水素ガス(燃料ガス)を加湿するための不図示の水供給器および蒸発器を備えていてもよい。
またCeO2系(Ce0.9Gd0.1O1.95-δまたはCe0.8Gd0.2O1.90-δなど)の酸化物イオン伝導体電解質は、燃料極15側では、酸化物イオンと電子との混合伝導体となる(後述する図9参照)。
なお、本明細書では、BaZrO3系のプロトン伝導体電解質を用いたセル12から構成された燃料電池スタック11を例に挙げて説明するが、これに限定されるものではない。例えば、電解質13は混合伝導体であれば、BaZrO3系のプロトン伝導体電解質に限定されるものでなく、例えば、CeO2系の酸化物イオン伝導体電解質など、他の混合伝導体となる電解質材料を用いてもよい。
(変形例)
上記した実施の形態に係る燃料電池システム100では、燃料ガス(水素ガス)を燃料供給器22によって燃料電池スタック11に供給する構成であったが、図2に示すように、改質器32をさらに備え、燃料ガスとして燃料供給器22によって供給された原料ガス(炭化水素ガス等)を改質した改質ガスを燃料電池スタック11に供給する構成としてもよい。図2は、本発明の実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の要部構成の一例を模式的に示す図である。
すなわち、図2に示す実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100は、図1に示す実施の形態に係る燃料電池システム100の構成において、水蒸気改質により原料ガスを改質するためにさらに水供給器23、蒸発器31、および改質器32を備える点で相違する。また、燃料供給器22によって供給される燃料ガスが炭化水素ガス等の改質前の原料ガスとなる点でも相違する。原料ガスは炭化水素燃料である都市ガス、プロパン、およびLPG等が例示できる。あるいは原料ガスは、メタノール、エタノールなどのアルコールなどであってもよい。
変形例に係る燃料電池システム100では、制御器3からの指示に応じて、燃料供給器22が原料ガスを、原料ガス供給経路45を通じて改質器32に供給する。そして、改質器32で原料ガスを改質して生成された改質ガス(水素含有ガス)を、燃料ガス供給経路41を通じて燃料電池スタック11の燃料極15に供給する。
また、制御器3からの指示に応じて、水供給器23が改質用水を、水供給経路43を通じて蒸発器31に供給する。水供給器23は、蒸発器31へ供給する改質用水の流量を調整可能とする機器とすることができ、例えば、昇圧器と流量計とにより構成してもよい。昇圧器は、例えば、ポンプなどを例示できる。
蒸発器31に供給された改質用水は気化され、水蒸気供給経路44を通じて、原料ガス供給経路45に送出され、原料ガス供給経路45を流通する原料ガスと混合され、改質器32に供給される。改質器32では、原料ガスと水蒸気との混合ガスから水蒸気改質により改質ガス(水素含有ガス)を生成する。改質器32において、低温状態にあるときは、原料ガスのみの供給を実施し、所定温度以上まで改質器32の温度が上昇すると、改質用水を供給し、水蒸気改質反応(SR)のみを実施するように構成してもよい。
<燃料電池システムの発電に伴う燃料電池スタックの温度変化>
次に燃料電池システム100の起動から停止に至るまでの一連の発電動作に伴う燃料電池スタック11の温度変化の一例について図3、図4を参照して説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る燃料電池システム100における発電動作に伴う燃料電池スタックの温度変化の一例を示す図である。図4は、本発明の実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100における発電動作に伴う燃料電池スタックの温度変化の一例を示す図である。図3および図4に示すように本発明の実施の形態に係る燃料電池システム100と本発明の実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100とでは、発電動作に伴う燃料電池スタックの温度変化の様子は略同様となるが、運転停止制御において前者が、燃料、加湿水、空気を用いてパージを実行するのに対して、後者が燃料、改質用水、空気を用いてパージを実行する点で相違する。
なお、説明の便宜上、燃料電池スタックの温度変化については、変形例に係る燃料電池システム100の構成を例に挙げて以下に説明する。
図4に示すように、変形例に係る燃料電池システム100において負荷に応じた発電を行う場合、常温(20℃程度)から安定発電温度(例えば、約600℃程度)まで加温させる必要がある。すなわち、変形例に係る燃料電池システム100の制御運転が起動制御運転の際には、常温の燃料電池スタック11のセル12に向かって原料ガスが導入される。つまり、制御器3は、原料ガスと水とを改質器32を経由してセル12の燃料極15に供給する。
また、制御器3は、空気供給器21を制御して、燃料電池スタック11のセル12の空気極14に空気を導入する。そして、制御器3は、燃焼部(不図示)において、セル12の燃料極15から排出されたアノードオフガスとセル12の空気極14から排出されたカソードオフガスとともに燃焼させる。
この燃焼熱により改質器32および蒸発器31が加熱される。そして、所定時間経過後、あるいは所定温度以上に改質器32および蒸発器31が加熱された後、原料ガスと蒸発器31で気化させた水蒸気とを、予め混合させた混合ガスの状態で改質器32に供給する。このように、所定時間経過後、あるいは所定温度以上に改質器32が加熱された後、原料ガスと水蒸気との混合ガスが改質器32に供給され、水蒸気改質反応(SR)により原料ガスを改質する。この水蒸気改質反応(SR)は、吸熱反応であるが、この時点では既に改質器32の周囲は十分高温(例えば、約500℃~600℃)になっているため、燃料電池スタック11を安定的に温度上昇させることができる。
燃料電池スタック11の温度が定格負荷で安定的に発電動作させる際の温度である定格温度よりも低い所定の発電温度に達したら、制御器3は不図示の開閉器などを制御して燃料電池スタック11を含む発電回路を閉じる。これにより、燃料電池スタック11は発電を開始し、発電回路に電流が流れる。発電に伴って、発熱反応の発生により、燃料電池スタック11自体は発熱することで、燃料電池スタック11の温度を速やかに昇温することができる。
つまり、図4に示すように、変形例に係る燃料電池システム100における起動制御運転後であって、燃料電池スタック11の温度が、外部負荷に対して安定的に電力が供給されるように発電が行われる際の温度(例えば、600℃)に達する前までの期間では起動発電制御運転が行われる。起動発電制御運転は、燃料電池スタック11の温度が例えば、約500℃以上で600℃未満となる範囲で実施される。これは、燃焼部の近傍、例えば直上に配置されている改質器32よりも温度上昇が遅い燃料電池スタック11の昇温をアシストするために、本格的な発電開始前に所定値以下の発電を開始する動作である。
その後、変形例に係る燃料電池システム100において、制御器3が所定温度以上を安定して維持できると判定すると、負荷追従運転(発電制御運転)を開始させる。なお、この負荷追従運転の状態にあるときを正常運転という。
燃料電池スタック11の発電制御運転中に、発電の停止が指示された場合、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の運転停止制御(発電を停止する制御)に移行する。
ところで、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100は高温で発電運転しているため、停止するためには常温まで安全に温度低下させる必要がある。しかし、運転停止制御に長時間を要する場合、再起動するまでに時間がかかり商品価値を減じてしまうおそれがある。そのため、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100は、運転停止制御に際して耐久性を損なわずに安全かつ迅速に温度を低下させる必要がある。
ここで、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の運転停止制御において、セル12の燃料極15に含有されるNi金属成分の酸化に起因する発電性能の低下を抑制する必要がある。また、特許文献1の運転停止制御のように、改質用水と原料ガスとの混合ガスを、改質器32を通して燃料電池スタック11内に供給する構成の場合、気化した改質用水によって、燃料極15から還元ガスを追い出してしまうことで、還元ガスが空気極14に侵入する場合がある。この場合、空気極14に含有される(La0.6Sr0.4)(Co0.2Fe0.8)O3‐δ (LSCF)、(La0.6Sr0.4)CoO3‐δ(LSC)、または(La0.8Sr0.2)MnO3‐δ(LSM)、あるいはBaZrO3系のプロトン伝導体電解質とLSCFとの混合物等からなる電極等の空気極材料の還元によって引き起こされる発電性能の低下を抑制する必要がある。なお、LSCF、LSC、LSMはいずれもペロブスカイト型構造であるが、この構造を維持する範囲であれば、LSCF,LSC, LSMにおける元素比率は、前出の比率(例えば、La,Sr,Co Feが6:4:2:8)に限定されるものではない。
そこで、燃料電池スタック11の温度が、Ni金属が酸化する下限温度(酸化下限温度)である約400℃を下回るまでは、燃料極15に酸素を含む空気が混入しないようにするとともに、空気極14には還元ガスが混入しないようにして、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100を停止させる必要がある。変形例に係る燃料電池システム100では、発電の停止が指示された後、燃料電池スタック11の温度が、約400℃を下回るまでは、図4に示すように燃料、改質用水、および空気をそれぞれ供給することで残留ガスのパージを行う。そして、約400℃を下回ると、空気のみを供給することでパージを行う。
一方、本実施の形態に係る燃料電池システム100では、上述したように、燃料、加湿水、および空気をそれぞれ供給することにより残留ガスのパージを行う。そして、約400℃を下回ると、空気のみを供給することでパージを行う。
より具体的には、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100では、以下のようにして運転停止制御を実施する。
(燃料電池システムの運転停止制御)
まず、本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の運転停止制御について図5を参照して説明する。図5は、図1に示す燃料電池システム100の運転停止制御の一例を示すフローチャートである。
燃料電池システム100が通常の発電運転時に、発電停止指示が入力された場合、制御器3は、燃料電池スタック11における発電を停止する(ステップS1)。
制御器3は、電圧検知器1の検知結果に基づき、燃料電池スタック11の電圧(平均セル電圧)が所定電圧Vs1より小さくなったか否か判定する(ステップS2)。ここで、発電停止後において燃料電池スタック11の電圧の変化と温度の変化とは相関関係にある。また、燃料電池スタックの電圧の低下と燃料極における残留ガス中の可燃成分の濃度の低下とも相関関係にある。
例えば、所定電圧Vs1を、燃料極15において用いられるNi金属が酸化する燃料電池スタック11の温度(酸化下限温度)に対応する電圧とすることができる。
ステップS2の判定において、「NO」の場合、制御器3はステップS2の判定を繰り返す。一方、ステップS2の判定において、「YES」の場合、制御器3は、水素ガスおよび加湿水の供給を停止するように燃料供給器22および水供給器を制御する。同時に、制御器3は、空気供給器21による空気の供給を停止させ、本実施の形態に係る燃料電池システム100における空気極14側での空気パージを終了させる(ステップS3)。このようにして、本実施の形態に係る燃料電池システム100の運転停止制御を終了させる。
上記した燃料電池システム100の運転停止制御において所定電圧Vs1を、例えば、燃料極15において用いられるNi金属が酸化する燃料電池スタック11の温度(酸化下限温度)に対応する電圧とした場合、燃料電池スタック11の温度が酸化下限温度より小さくなった後に水素ガスの供給、加湿水の供給を停止させることができる。さらに空気の供給も停止させて燃料電池システム100の運転停止制御を終了させることができる。
このため、燃料電池スタック11の温度が酸化下限温度を下回るまでは、燃料極15に流入してくる酸素を燃料ガスによりパージすることができる。これにより、燃料極15に流入してくる酸素によってニッケルが酸化することを防ぐことができる。
あるいは、燃料電池システム100は、運転停止制御を図6に示すように実施する構成であってもよい。図6は、図1に示す燃料電池システム100の運転停止制御の一例を示すフローチャートである。
燃料電池システム100が通常の発電運転時に、発電停止指示が入力された場合、制御器3は、燃料電池スタック11における発電を停止する(ステップS11)。制御器3は、電圧検知器1の検知結果に基づき、燃料電池スタック11の電圧(平均セル電圧)が所定電圧Vs1より小さくなったか否か判定する(ステップS12)。ステップS12の判定において、「NO」の場合、制御器3はステップS12の判定を繰り返す。一方、ステップS12の判定において、「YES」の場合、制御器3は、水素ガスおよび加湿水の供給を停止するように燃料供給器22および水供給器を制御する(ステップS13)。その後、制御器3は、電圧検知器1の検知結果に基づき、燃料電池スタック11の電圧(平均セル電圧)が所定電圧Vs2より小さくなったか否か判定する(ステップS14)。ステップS14の判定において、「NO」の場合、制御器3はステップS14の判定を繰り返す。一方、ステップS14の判定において、「YES」の場合、制御器3は、空気供給器21による空気の供給を停止させ、本実施の形態に係る燃料電池システム100における空気極14側での空気パージを終了させる(ステップS15)。このようにして、本実施の形態に係る燃料電池システム100の運転停止制御を終了させる。
ここで、所定電圧Vs1を、上記したように、燃料極15において用いられるNi金属が酸化する燃料電池スタック11の温度(酸化下限温度)に対応する電圧としてもよい。所定電圧Vs1をNi金属の酸化下限温度に対応する電圧とした場合、燃料電池スタック11の温度がNi金属の酸化下限温度より小さくなった後に水素ガスおよび加湿水の供給を停止させることができる。
また、所定電圧Vs2を、例えば、燃料極15における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限値となるときの電圧としてもよい。所定電圧Vs2を燃料極15における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限値となるときの電圧とした場合、残留ガス中の可燃成分濃度(水素濃度)が燃焼範囲の下限より小さくなったことを確認した上で、制御器3は、燃料電池システム100の運転停止制御を終了させることができる。
また、以下のように燃料電池システム100の運転停止制御を実施してもよい。本実施の形態および本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の運転停止制御のさらなる他の変形例を図7、図8を参照して説明する。図7は、図1に示す燃料電池システム100の運転停止制御の一例を示すフローチャートである。図8は、図1に示す燃料電池システム100における燃料電池スタック11の温度変化と、空気、水素ガス(燃料ガス)、および加湿水それぞれの供給量の変動と、燃料極15から排出されたアノードオフガスの水素濃度の変化を示す図である。
なお、ここではアノードオフガスの水素濃度を、燃料極15および燃料ガス供給経路41(以下、燃料極15側)に残留するガス中の水素濃度としてみなす。また、燃料電池システム100の発電中におけるアノードオフガスの水素濃度は、図8に示すように、加湿成分(加湿水)を除いた残りとして、約23%程度となっており、発電停止指示が入力された直後から一定の期間(水素ガスおよび加湿水の供給が停止するまでの間)のアノードオフガスの水素濃度は図8に示すように、加湿成分(加湿水)を除いた残りとして、約96%程度となっている。
燃料電池システム100が通常の発電運転時に、発電停止指示が入力された場合、制御器3は、燃料電池スタック11における発電を停止する(ステップS21)。そして、制御器3は、燃料電池スタック11に供給する水素ガス、加湿水、および空気の各流量を発電停止用の流量値に変更するように燃料供給器22、不図示の水供給器、および空気供給器21をそれぞれ制御する(ステップS22)。すなわち、図8に示すように、水素ガスおよび加湿水の供給量を段階的に低下させていくように制御器3が燃料供給器22および水供給器をそれぞれ制御する。なお、加湿水については、発電停止指示を受け付ける前に、供給する流量を低減させておいてもよい。
また、発電停止指示後、空気の供給量は、燃料電池スタック11の温度低下に従って段階的に低下させるように制御器3が空気供給器21を制御する構成であってもよい。あるいは、発電停止指示後に一度、増大させて、その後、段階的に低下させるように制御器3が空気供給器21を制御する構成であってもよい。
つまり、燃料電池スタック11の温度低下を早めるために、発電停止指示直後の発電停止用流量では、空気の流量のみ定格発電時よりも多い値となるように設定されてもよい。このように、発電停止指示直後において、空気を定格発電時よりも多い流量で供給しても、燃料電池スタック11全体の温度が依然として500℃以上と高く、また図8におけるアノードオフガス組成の変化を表す図に示すように、アノードオフガス中の水素濃度は90%以上であり、十分に多い。ただし発電停止指示後、燃料電池スタック11の温度の低下とともに供給される空気流量は減じられてもよい。
以上のように、水素ガスおよび加湿水を発電停止用の流量値で継続して供給するため燃焼部では燃焼が継続されるが、供給される空気の流量が十分に大きいため排気ガスとして熱が放出され、燃料電池スタック11は徐々に温度低下していく。
そして、制御器3は、温度検知器2により検知された燃料電池スタック11の温度T1がNi金属の酸化下限温度に相当する所定温度(第1温度)T1a(例えば、400℃)を下回ったか否か判定する(ステップS23)。制御器3が、燃料電池スタック11の温度T1が所定温度T1aを下回ったと判定した場合(ステップS23において「YES」)、水素ガスおよび加湿水の供給を停止するように燃料供給器22および水供給器を制御する(ステップS24)。また、図8に示すように空気の供給は維持されており、更なる燃料電池スタック11の温度T1の低下を図る。なお、燃料電池スタック11の温度T1が所定温度T1a以上となっている間(ステップS23において「NO」)は、ステップS23の判定を繰りかえす。なお、燃料電池スタック11の温度T1が所定温度T1aを下回った場合、空気の供給量を増大させて、さらなる、燃料電池スタック11の温度低下を図るとともに、空気極側での空気パージを実施する。なお、温度低下速度を速めるためには、空気流量を増大させることが好ましいが、その限りでなく、空気の供給量は同流量のままであってもよいし、減量してもよい。
以上のように、温度検知器2によって検知された燃料電池スタック11の温度T1がNi金属の酸化温度に相当する所定温度T1aを下回ると、水素ガスおよび加湿水の供給が停止される。その一方で、燃料極15側における残留ガス中の水素濃度(可燃成分濃度)が燃料電池システム100の再起動時に爆着しないような安全な濃度(燃焼範囲の下限値より小さくなる濃度であって、例えば、水素であれば4.0%以下)になるまで、空気の供給は維持される。または可燃成分濃度が、燃焼範囲の下限値に対する所定比率(所定の割合)以下(例えば、水素では4.0%に対する所定比率1/4=1.0%以下)になるまで空気供給は維持されてもよい。
ここで本実施の形態では、燃料極15側における残留ガス中の水素濃度が安全な濃度になったか否かについては、以下の基準に基づき判定される。すなわち、燃料極15側における残留ガス中の水素濃度が燃焼範囲の下限値より小さくなる、または燃焼範囲の下限値に対する所定比率以下となるときの燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係に基づき求められる所定温度のときの所定電圧(所定値)Vs2よりも、電圧検知器1により検知された電圧の方が小さくなるか否かに応じて判定される。ここで、燃焼範囲とは、燃焼を行い得る可燃性ガスと空気との比率を示す範囲である。
すなわち、詳細は後述するが、燃料極15側における残留ガス中の水素濃度が燃焼範囲の下限値よりも小さくなるときの、燃料電池スタック11の温度および電圧との間には相関関係がある(例えば、後述する図14参照)。そこで、燃料電池システム100では、所定温度(第2温度)の燃料電池スタック11における電圧の値から残留ガス中の水素濃度を推定する構成とすることができる。具体的には、図7に示すように、制御器3は、電圧検知器1および温度検知器2それぞれの検知結果に基づき、所定温度(第2温度)における燃料電池スタック11の電圧(平均セル電圧)が所定電圧Vs2より小さくなったか否か判定する(ステップS25)。つまり、電圧検知器1によって検知された燃料電池スタック11の電圧が、燃料極15における残留ガス中の可燃成分濃度が燃焼範囲の下限値より小さい値となるときの燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係に基づき定められる所定電圧値より小さくなったか否か判定することである。
なお、ここでの燃料電池スタック11の電圧とは外部回路への取り出し電流ゼロ時の電圧であり、セル12の平均電圧を意味する。また、燃料電池システム100では残留ガス中の水素が燃焼範囲の下限値より小さくなる濃度として4.0%に設定されている。また、燃焼範囲の下限値より小さい水素濃度は、上記した4.0%に限定されるものではなく、ガス漏れ検知器等で設定されることが多い、燃焼範囲の下限値に対する所定比率、例えば、水素の燃焼範囲の下限値に対する1/4となる濃度である1.0%に設定してもよく、所定比率を1/10として、0.4%に設定してもよく、またそれ以外の所定比率でもよい。
また、ステップS25の判定を行う所定温度(第2温度)は、所定温度T1aを下回る温度範囲であって、かつ燃料電池スタック11の空気極14への空気の供給を停止させても燃料電池スタック11の温度が所望される期間までに常温まで温度低下できる温度範囲の中で任意に決められた温度である。この温度範囲において、所定温度(第2温度)として、例えば、350℃、300℃、250℃・・・などのように段階的に複数の温度が設定されていてもよい。
ステップS25において「YES」の場合、制御器3は、空気供給器21による空気の供給を停止させ、空気極14側における空気パージを終了させる(ステップS26)。以上のステップにより、本実施の形態に係る燃料電池システム100の運転停止制御を実施する。
またステップS25において「NO」の場合、制御器3は、電圧検知器1および温度検知器2それぞれの検知結果に基づき、燃料電池スタック11の温度と電圧(平均セル電圧)との相関関係から、所定温度(第2温度)のときに検知された電圧が、所定電圧Vs2より小さくなると判定するまで判定処理を繰り返す(ステップS25)。
一方、本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100では、運転停止制御を以下のように実施する。以下において、図9、図10を参照して説明する。図9は、図2に示す燃料電池システム100の停止制御の一例を示すフローチャートである。図10は、図2に示す燃料電池システム100における燃料電池スタック11の温度変化と、空気、原料ガス、および改質用水それぞれの供給量の変動と、燃料極15から排出されたアノードオフガスの水素濃度の変化を示す図である。
また、アノードオフガスの水素濃度を、燃料極15および燃料ガス供給経路41(以下、燃料極15側)に残留するガス中の水素濃度としてみなす。なお、本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の発電中におけるアノードオフガスの水素濃度は図10に示すように、改質用水および水素以外のガス成分を除いた残りとして、約22%程度となっており、発電停止指示が入力された直後は、約50%程度となる。その後、燃料電池スタック11の温度低下に伴って改質反応により生成される改質ガスが少なくなるため水素濃度は徐々に低下していく。
本実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100の運転停止制御は、図7に示す本実施の形態に係る燃料電池システム100の運転停止制御と比較して、上記したようにパージに利用する物質が異なる点を除けば同様となる。このため、図9に示すフローチャートにおけるステップS31、S33、S35、S36は、図7に示すフローチャートにおけるステップS21、S23、S25、S26と同様であるためその説明については省略する。
ステップS31において発電停止指示が入力され、燃料電池スタック11における発電が停止されると、制御器3は、燃料電池スタック11に供給する原料ガス、改質用水、および空気の各流量を発電停止用の流量値に変更するように燃料供給器22、水供給器23、および空気供給器21をそれぞれ制御する(ステップS32)。
すなわち、図10に示すように、原料ガスおよび改質用水の供給量を段階的に低下させていくように制御器3が燃料供給器22および水供給器23をそれぞれ制御する。なお、改質用水については、発電停止指示を受け付ける前に、供給する流量を低減させておいてもよい。
また、発電停止指示後、空気の供給量は、燃料電池スタック11の温度低下に従って段階的に低下させるように制御器3が空気供給器21を制御する構成であってもよい。あるいは、発電停止指示後に一度、増大させて、その後、段階的に低下させるように制御器3が空気供給器21を制御する構成であってもよい。
例えば、燃料電池システム100の定格発電時には、一般家庭用燃料電池としてAC700W(定格)相当、燃料利用率80%、空気流量45NL/min、S/C=2.5、原料ガス(水素で9.0NL/min、都市ガス13Aで2.0NL/min)を供給しているとする。この場合、発電停止用の各流量値としては、原料ガス(水素で2.5NL/min、都市ガス13Aで0.5NL/min)となるように段階的に流量を低減させて供給する。また、改質用水の場合は炭化水素燃料中の炭素成分:Cとして、水蒸気量:Sとしたときのモル比について、S/Cで2.0~2.5となるように段階的に流量を低減させて供給する。一方、空気は燃料電池スタック11の温度低下を促進させる為、発電停止指示直後は50NL/min供給する。
以上のように、原料ガスおよび改質用水を発電停止用の流量値で継続して供給するため燃焼部では燃焼が継続されるが、供給される空気の流量が十分に大きいため排気ガスとして熱が放出され、燃料電池スタック11は徐々に温度低下していく。
そして、制御器3は、温度検知器2により検知された燃料電池スタック11の温度T1がNi金属の酸化下限温度に相当する所定温度(第1温度)T1a(例えば、400℃)を下回ったと判定した場合(ステップS33において「YES」)、原料ガスおよび改質用水の供給を停止するように燃料供給器22および水供給器23を制御する(ステップS34)。また、図10に示すように空気の供給は維持されており、更なる燃料電池スタック11の温度T1の低下を図るとともに、空気極側での空気パージを実施する。なお、温度低下速度を速めるためには、空気流量を増大させることが好ましいが、その限りでなく、空気の供給量は同流量のままであってもよいし、減量してもよい。
以上のように、温度検知器2によって検知された燃料電池スタック11の温度T1がNi金属の酸化温度に相当する所定温度T1aを下回ると、原料ガスおよび改質用水の供給が停止される。その一方で、燃料極15側における残留ガス中の水素濃度(可燃成分濃度)が燃料電池システム100の再起動時に爆着しないような安全な濃度(燃焼範囲の下限値より小さくなる濃度であって、例えば、原料ガスが都市ガス13Aであれば4.3%以下、水素に換算すると4.0%以下)になるまで、空気の供給は維持される。または可燃成分濃度が、燃焼範囲の下限値に対する所定比率(所定の割合)が、例えば、水素では4.0%に対する所定比率1/4=1.0%以下になるまで空気供給は維持されてもよい。
ところで、図8および図10に示すように水素ガスおよび加湿水が供給停止後、あるいは原料ガスおよび改質用水が供給停止後、アノードオフガス中の水素濃度はゆっくりと低下していく。
これは、例えば、セル12の電解質13がプロトン伝導体電解質である場合、図11に示すように燃料極15側の残留ガス中の水素がプロトンとして電解質13を介して、空気極14に移動し、空気極14の酸素と反応して水蒸気を生成する。これが水素ガスおよび加湿水の供給停止後、あるいは原料ガスおよび改質用水の供給停止後からも継続して起きているため、燃料極15側の残留ガス中の水素が消費され、安全な濃度となるまで低下させることができる。なお、図11は、図1および図2に示す燃料電池システム100の電解質13がプロトン伝導体電解質であるときのプロトンおよびホールの移動を模式的に示す図である。図11では、燃料電池システム100が備えるセル12が電解質13としてプロトン伝導体電解質を用いるときの発電原理の一例を示している。なお、図11において「h+」はホール(正孔)の移動を示している。
一方、セル12の電解質13が酸化物イオン伝導体電解質である場合、発電中は図12に示すように空気極14側を流通する酸素が酸化物イオンとして電解質13を介して燃料極15に移動し、燃料極15の水素と反応して水蒸気を生成する(水蒸気生成反応)。
ただし、典型的な酸化物イオン伝導体の電解質であるYSZを用いた場合、発電停止し、停止操作開始以降は、酸化物イオン単独の導電率が、電子やホールの導電率よりも2桁以上程度高いため、リーク電流は無視できる程度である。そのため、電極において電気化学的な水蒸気生成反応は無視できる範囲でしか起きない。つまり、水素ガスおよび加湿水の供給停止後または原料ガスおよび改質用水の供給停止後から継続して水蒸気生成反応が起きず、このため燃料極15側の残留ガス中の水素が消費されない。したがって、残留ガス中の水素濃度を安全な濃度となるまで低下させることができない。そこで、混合伝導体からなる電解質を用いない場合は、蒸発器31および蒸発器31に改質用水を供給するための経路に残った水を余熱で蒸発してパージさせる。あるいは、燃料の供給のみを先に、燃料電池スタック11の温度がT1aとなった時点で停止させ、改質用水のみしばらく供給させる、いわゆる水蒸気パージを行う方法がある。
ただし、酸化物イオン伝導体において、セリア系電解質(例えば、Ce0.9Gd0.1O1.95)を用いた場合は、図13示すように、電子と酸化物イオンとの混合伝導体となる。つまり、図13に示すように燃料極15側から電解質13を介して、電子が空気極14に移動するとともに、酸素が酸化物イオンとして電解質13を介して燃料極15に移動し、燃料極15の水素と反応して水蒸気を生成する。この水蒸気生成反応が水素ガスおよび加湿水の供給停止後または原料ガスおよび改質用水の供給停止後からも継続して起きているため、燃料極15側の残留ガス中の水素が消費され、残留ガス中の水素濃度を安全な濃度となるまで低下させることが可能となり得る。
なお、図12は、図1および図2に示す燃料電池システム100の電解質13が酸化物イオン伝導体電解質であるときの酸化物イオンの移動を模式的に示す図である。図12は、燃料電池システム100が備えるセル12が、電解質13として酸化物イオン伝導体電解質を用いるときの発電原理の一例を示している。
また、図13は、図1および図2に示す燃料電池システム100の電解質13が酸化物イオン・電子混合伝導体電解質であるときの酸化物イオンおよび電子の移動を模式的に示す図である。図13は、燃料電池システム100が備えるセル12が、電解質13として、例えば、セリア系電解質のような酸化物イオン・電子混合伝導体電解質を用いるときの発電原理の一例を示している。
(燃料電池スタックの温度、電圧と燃料ガス濃度の相関関係)
燃料極15側における残留ガス中の水素濃度が燃焼範囲外となるときの燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係は、セル12の電解質13がプロトン伝導体電解質である場合、理論的には、以下の式(5)で表すことができる。
まず、燃料電池スタック11の電圧V(プロトン)の値は、プロトン伝導体中のプロトンの導電率がホール等、他の導電率に比べて、十分に大きくなり、ホール等の影響を無視できる場合、式(5)に示すようにネルンストの式で表すことができる。
V(プロトン)=RT/4F×ln[{P(H2)a}2/{P(H2)c}2] ・・・ (5)
ここで、Tは、燃料電池スタック11の絶対温度、Rは、気体定数であり8.314kJ/molとなる。Fは、ファラデー定数であり96485C/molとなる。また、P(H2)aは燃料極15のH2分圧であり、P(H2)cは、空気極14のH2分圧である。
また、{P(H2)c}2は式(6)および式(7)の式から導出される圧平衡定数:Kpを用いて式(8)に表せる。
2H2+O2=2H2O ・・・ (6)
Kp={P(H2O)c}2/[{P(H2)c}2・P(O2)c] ・・・ (7)
{P(H2)c}2=[{P(H2O)c}2/P(O2)c]・1/Kp ・・・ (8)
ここで、P(H2O)cは、空気極でのH2Oの分圧、P(O2)cは空気極でのO2分圧を示す。
したがって、上記した式(5)のネルンストの式は、式(7)、(8)の関係を用いて以下の式(9)として表すことができる。
V(プロトン)=RT/4F×ln[Kp・{(P(H2)a}2/[{P(H2O)c}2・P(O2)c]] ・・・ (9)
一方、セル12の電解質13が酸化物イオン電解質である場合であって、特に、YSZのような酸化物イオン導電率が他の導電担体よりも十分に大きい場合は、電圧V(酸化物イオン)の値を、式(10)に示すネルンストの式で表すことができる。なお、ここでP(O2)aは燃料極15のO2分圧、P(O2)cは空気極のO2分圧である。
V(酸化物イオン)=RT/4F×ln[P(O2)a/P(O2)c] ・・・ (10)
また、上記した式(6)から、以下の式(11)および式(12)を導出することができる。ここで、P(O2)aは燃料極でのO2分圧を示す。
Kp={P(H2O)a}2/[{P(H2)a}2・P(O2)a] ・・・ (11)
P(O2)a={P(H2O)a}2/{P(H2)a}2・1/Kp ・・・ (12)
ここで、P(H2O)aは燃料極でのH2O分圧、P(H2)aは燃料極でのH2分圧を示す。そして、式(10)、(11)、(12)から以下の式(13)を導出することができる。
V(酸化物イオン)=RT/4F×ln[{P(H2O)a}2/{P(H2)a}2/{P(O2)c・Kp}] ・・・(13)
ここで、残留ガス中の水素濃度が燃焼範囲の下限値より小さい4.0%となる場合において、式(9)および式(13)それぞれから導出される燃料電池スタック11の電圧について、それぞれ異なる温度でプロットした結果を図14および図15に示す。図14は、図1に示す燃料電池システム100において、燃料極15側における水素濃度が燃焼範囲外(4.0%)となるときの、燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係の一例を示すグラフである。図15は、図2に示す燃料電池システム100において、燃料極15側における水素濃度が燃焼範囲外(4.0%)となるときの、燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係の一例を示すグラフである。図14および図15では、一点鎖線にてセル12の電解質13が酸化物イオン電解質(YSZ)であるときの、ネルンストの式により求めた燃料電池スタック11の温度と電圧(EMF;起電力)との相関関係を示す。また、実線にてセル12の電解質13がプロトン伝導体電解質であるときの、ネルンストの式により求めた燃料電池スタック11の温度と電圧(EMF;起電力)との関係を示す。
なお、図14および図15に示すグラフでは、燃料極側は、P(H2)a=0.9~0.0001bar、P(H2O)a=0.1~0.9999barの範囲で変化させ、空気極側は、P(O2)c=0.21bar、P(H2O)c=0.03bar(25℃の飽和蒸気圧相当)一定とする。
また、図14および図15に示すグラフでは、300℃~600℃の間において100℃間隔でプロットした値を線形補間している。図14および図15に示すように、燃料電池スタック11の温度と電圧との関係が一点鎖線で示されるグラフまたは実線で示されるグラフよりも下方側の領域にあるとき、セル12の燃料極15側における残留ガス中の水素濃度が燃焼範囲外であって、4.0%より小さくなると推定することができる。
しかしながら、燃料電池スタック11の電圧V(プロトン)の値について、ホール等の影響を無視できない場合は、図16および図17に示すように、ネルンストの式で得られた結果と実際に測定して得た結果とは合致しないことを本発明者らは見出した。図16は、図1に示す燃料電池システム100において、燃料極15側における水素濃度が燃焼範囲外(4.0%)となるときの、燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係の一例を示すグラフである。図17は、図2に示す燃料電池システム100において、燃料極15側における水素濃度が燃焼範囲外(4.0%)となるときの、燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係の一例を示すグラフである。図16および図17では、点線にてセル12の電解質がプロトン伝導体電解質であるときの、ネルンストの式により求めた燃料電池スタック11の温度と電圧(EMF;起電力)との関係を示す。また、実線にてセル12の電解質がプロトン伝導体電解質であるときの、外部取り出し電流ゼロにおける電圧測定(EMF測定)により測定した燃料電池スタック11の温度と電圧(EMF;起電力)との関係を示す。図16および図17に示すグラフでは、300℃~600℃の間において100℃間隔でプロットした値を線形補間している。
すなわち、図16および図17に示すように式(9)から求められる電圧値(V(プロトン))とEMF測定により測定した電圧の実験値との間には差がみられることが見出した。例えば、図16において、600℃でネルンストの式により求めた電圧は1.02Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.91Vとなる。500℃でネルンストの式により求めた電圧は1.04Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.94Vとなる。400℃でネルンストの式により求めた電圧は1.07Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.84Vとなる。また、300℃でネルンストの式により求めた電圧は1.10Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.56Vとなる。
一方、図17において、600℃でネルンストの式により求めた電圧は1.02Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.87Vとなる。500℃でネルンストの式により求めた電圧は1.04Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.90Vとなる。400℃でネルンストの式により求めた電圧は1.07Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.79Vとなる。また、300℃でネルンストの式により求めた電圧は1.10Vであるのに対して、EMF測定により実験的に求められた電圧は0.52Vとなる。
なお、EMF測定は、図16、図17に示す組成の燃料ガス(水素ガス)をアノードに、空気(酸素)をカソードにそれぞれ供給し、燃料電池スタック11の温度を変えて、電圧計により外部取り出し電流ゼロにおける電圧(起電力)を測定することにより行った。
上記したように電解質13がプロトン伝導体電解質の場合、電解質13は、プロトン伝導体とホール伝導体との混合伝導体となる。このため、上記した電圧値の差は、ホール伝導による図8、図10に示すリーク電流の影響によって電圧降下として現れたものと考えられる。
つまり、図11に示すようにセル12において燃料極15側の残留ガス中の水素がプロトンとして電解質13を介して、空気極14に移動する一方、正の電荷を持つホールがプロトンとは逆に空気極14から燃料極15に向かって移動する。このようにホールの移動によるリーク電流の分だけEMF測定により得た電圧の方が、ネルンストの式により求めた電圧よりも低下することとなる。このリーク電流により、燃料極15中の水素は、プロトンとして電解質13を経由して空気極14側に移動する。それにより、燃料極15側の燃料が減少し、可燃範囲を下回る水素濃度に低下可能になる。これは450℃以上では、この影響が顕著である。
一方で、450℃から低温になるほど、電解質13の混合伝導性の影響とともに、速度論的に平衡組成からズレの影響も大きくなる。450℃以下では、後者の平衡組成からのズレの影響によるネルンストの式より求めた値からの差が電解質13の混合導電性に起因する電子リーク電流によるネルンストの式からのズレよりも大きくなる傾向がある。
これらのため、ステップS25における判定は、ホール等のリーク電流の影響を無視できない場合は、EMF測定により求めた燃料電池スタック11の温度と電圧との相関関係を用いて行う。それとともに低温での平衡組成からのズレを考慮する必要がある。
以上のように、実施の形態および実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100は、燃料電池スタック11の燃料極15側の残留ガス中の水素濃度が安全となる所定の濃度よりも小さくなったか否か確認し停止させることができる。このため、燃料電池システム100では、再起動時に燃料極15側に残留した残留ガス中の水素に起因する爆着の可能性を回避することができる。
また、セル12の電解質13がイオンと電子の混合伝導体、特にプロトン伝導性とホール伝導性を併せ持つ物性を保有する電解質材料から構成される場合、燃料極15側において残留ガス中の水素がプロトンとして電解質13を介して、空気極14に移動し、空気極14の酸素と反応して水蒸気を生成する。これが実施の形態に係る燃料電池システム100では水素ガスおよび加湿水の供給停止後(実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100では原料ガスおよび改質用水の供給停止後)からも継続して起きているため、燃料極15側の残留ガス中の水素が消費され、安全な濃度となるまで低下させることができる。
このように、実施の形態および実施の形態の変形例に係る燃料電池システム100では、燃料極15側において、水素を含む残留ガスをパージさせるために、ガスを供給する必要なく水素濃度の低下を図ることができる。