以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
図1を参照しながら、本発明の第1実施形態に係る燃料電池装置10の構成について説明する。燃料電池装置10は、セルスタック100と、改質器111と、蒸発器113と、制御部210と、を備えている。
セルスタック100は、複数のセル(不図示)の集合体である。各セルは、固体酸化物形のセル(Solid Oxide Fuel Cell:SOFC)であって、平板状の固体電解質の一方側の面に燃料極(アノード)が形成され、他方側の面に空気極(カソード)が形成された構成となっている。これら燃料極及び空気極は、いずれも導電性のセラミックスで形成された多孔質体である。尚、平板状のセルを積層してなるセルスタック100の具体的な構成は公知のものを採用し得るので、その図示や詳細な説明を省略する。
セルスタック100には、燃料供給配管151と、空気供給配管161とが接続されている。燃料供給配管151は、後述の改質器111において生成された水素含有ガス(以下、「改質燃料」とも称する)をセルスタック100に供給するための配管である。燃料供給配管151を通ってセルスタック100に供給された改質燃料は、それぞれのセルの燃料極に到達し、発電に供される。
空気供給配管161は、後述の空気ブロア122から送り込まれた発電用の空気(酸化剤)をセルスタック100に供給するための配管である。空気供給配管161を通ってセルスタック100に供給された空気は、それぞれの空気極に到達し、発電に供される。
セルスタック100のそれぞれのセルでは、改質燃料と酸化剤との供給を受けることにより、燃料極と空気極との間において電位差が生じる。つまり、発電が行われる。セルスタック100では、それぞれのセルが電気的に直列接続されている。このような構成により、セルスタック100から高電圧の電力を外部に出力することが可能となっている。つまり、セルスタック100は、改質燃料と酸化剤との供給を受けて発電するためのユニットとして構成されている。
セルスタック100には更に、ガス排出配管171が接続されている。ガス排出配管171は、発電に供されることなくセルスタック100から排出された改質燃料及び酸化剤の混合気体(以下、「排ガス」とも称する)を、後述の第1燃焼器131に導くための配管である。
改質器111は、原燃料及び水蒸気の供給を受けて改質燃料を生成し、当該改質燃料をセルスタック100に供給するものである。本実施形態では、原燃料として都市ガスが用いられる。改質器111には、燃料供給配管151の上流側端部が接続されている。また、改質器111には、配管152の下流側端部も接続されている。配管152は、改質器111に原燃料及び水蒸気の混合気体(以下、「混合原料」とも称する)を供給するための配管である。
改質器111では、都市ガスに含まれるメタン(CH4)と水蒸気(H2O)との間で、以下の式(1)及び式(2)で示される水蒸気改質反応が生じる。当該反応により水素(H2)が生成され、改質器111からセルスタック100に向けて改質燃料が供給される。
CH4+H2O → CO+3H2・・・(1)
CO+H2O → CO2+H2・・・(2)
尚、改質器111において水蒸気改質反応が生じるためには、改質器111及び内部の改質触媒が高温(約700℃)となっている必要がある。また、水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、反応を維持するためには、外部から改質器111に対して継続的に熱が加えられる必要がある。本実施形態では、改質器111に隣接する位置に第1燃焼器131が設けられている。第1燃焼器131は、改質器111を加熱して水蒸気改質反応を継続的に生じさせるためのものである。
第1燃焼器131には、ガス排出配管171の下流側端部が接続されている。セルスタック100において発電が行われているときには、第1燃焼器131には、セルスタック100から排出された高温の排ガスが、ガス排出配管171を介して供給される。排ガスの熱は、第1燃焼器131から改質器111及びその内部の触媒に伝達され、水蒸気改質反応のために供される。
また、第1燃焼器131には不図示のバーナーが設けられている。セルスタック100から第1燃焼器131に供給された排ガスは当該バーナーにより燃焼される。改質器111には、上記のように排ガスが当初から有していた熱が第1燃焼器131から加えられる他、排ガスの燃焼により生じた熱も第1燃焼器131から加えられ、水蒸気改質反応のために供される。
図1においては構成が模式的に示されているのであるが、実際には、第1燃焼器131はセルスタック100の近傍となる位置に配置されている。このため、第1燃焼器131における燃焼で生じた熱は、輻射伝熱によってセルスタック100にも加えられる。第1燃焼器131は、セルスタック100の温度を発電に適した温度に維持する機能をも有している。
蒸発器113は、液体の水を加熱して水蒸気を生成し、当該水蒸気を改質器111に供給するためのものである。蒸発器113と改質器111との間は配管152で接続されている。蒸発器113で生成された水蒸気は、配管152を通って改質器111に供給される。
配管152の途中には、配管155の一端が接続されている。配管155の他端は燃料ブロア116に接続されている。配管155は、配管152に原燃料である都市ガスを供給するための配管である。
蒸発器113には、配管153の一端が接続されている。配管153の他端は水供給ポンプ114に接続されている。配管153は、蒸発器113に液体の水を供給するための配管である。配管153を通って蒸発器113に供給された水は、加熱されて水蒸気となった後、配管152を通って改質器111に供給される。
本実施形態では、蒸発器113において水を蒸発させるための熱源として、セルスタック100から排出された排ガス、又は第1燃焼器における燃焼で生じたガス(以下、「燃焼排ガス」とも称する)が用いられる。蒸発器113は、配管153を通じて供給される液体の水と、配管173を通じて供給される排ガス又は燃焼排ガスと、の間で熱交換を行わせるための熱交換器として構成されている。
第1燃焼器131と蒸発器113との間は、配管172、空気加熱器121、及び配管173によって接続されている。第1燃焼器131において排ガスの燃焼が行われているときには、当該燃焼により生じた燃焼排ガスが、配管172、空気加熱器121、及び配管173を順に通って蒸発器113に供給される。液体の水は、燃焼排ガスの熱によって水蒸気となる。
また、第1燃焼器131において排ガスの燃焼が行われていないときには、セルスタック100から排出された高温の排ガスは、第1燃焼器131をそのまま通過した後、配管172、空気加熱器121、及び配管173を順に通って蒸発器113に供給される。この場合、液体の水は(燃焼排ガスではなく)排ガスの熱によって水蒸気となる。
蒸発器113に供給された排ガス又は燃焼排ガスは、上記のように水蒸気の生成に供された後、配管174を通って排出される。配管174の一端側は蒸発器113に接続されており、他端側は第2燃焼器132に接続されている。第2燃焼器132には不図示のバーナーが設けられている。
第1燃焼器131において排ガスの燃焼が行われていないときには、蒸発器113からは排ガスが排出されることとなる。この排ガスには、発電に供されなかった水素や、都市ガスの成分であるメタンが含まれている。第2燃焼器132は、このような排ガスがそのまま外部に排出されることの無いように、排ガスをバーナーで燃焼させるためのものである。第2燃焼器132における燃焼で生じたガスは、配管175を通じて外部へと排出される。尚、第1燃焼器131において排ガスの燃焼が行われているときには、第2燃焼器132による燃焼は行われない。この場合、第1燃焼器131における燃焼で生じた燃焼排ガスは、第2燃焼器132をそのまま通過した後、配管175を通じて外部へと排出される。
原燃料が供給される経路について説明する。原燃料は、都市ガス供給源117から配管156を介して供給され、燃料ブロア116によって配管155から配管152へと送り込まれる。配管156は、都市ガス供給源117と燃料ブロア116とを繋ぐ配管である。本実施形態においては、都市ガス供給源117はガスメータである。燃料ブロア116の回転数、すなわち、改質器111に供給される原燃料の流量は、後述の制御部210によって制御される。
液体の水が供給される経路について説明する。水は、水供給源115から配管154を介して供給され、水供給ポンプ114によって配管153から蒸発器113へと送り込まれる。配管154は、水供給源115と水供給ポンプ114とを繋ぐ配管である。本実施形態における水供給源115は、燃料電池装置10が備える水タンクである。水供給ポンプ114は、間欠的に少量ずつの水を送り出すことのできるポンプである。水供給ポンプ114の動作、すなわち、蒸発器113に供給される水の流量は、制御部210によって制御される。
空気、すなわち酸化剤が供給される経路について説明する。空気は、空気供給源123から配管163を介して供給され、空気ブロア122によってセルスタック100へと送り込まれる。本実施形態では、空気供給源123は大気である。配管163は、その一端が空気ブロア122に接続されており、その他端が大気に開放されている。空気ブロア122の回転数、すなわち、セルスタック100に供給される空気の流量は、制御部210によって制御される。
空気ブロア122とセルスタック100との間は、配管162、空気加熱器121、及び空気供給配管161によって接続されている。空気加熱器121は、セルスタック100に供給される空気を予め加熱し、その温度を上昇させておくための熱交換器である。空気加熱器121には、セルスタック100から排出された高温の排ガス、又は第1燃焼器131における燃焼で生じた高温の燃焼排ガスが、配管172を通じて供給されている。配管162を通じて空気加熱器121に供給された空気は、高温の排ガス又は燃焼排ガスによって加熱された後、空気供給配管161を通じてセルスタック100に供給される。
制御部210は、燃料電池装置10の全体の動作を制御する装置である。制御部210は、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータシステムとして構成されている。既に述べたように、制御部210は、燃料ブロア116、水供給ポンプ114、及び空気ブロア122のそれぞれの動作を制御する。制御部210によって行われる具体的な制御の内容については後に説明する。
その他の構成について説明する。燃料電池装置10には、様々な物理量を測定するための複数のセンサが設けられている。図1では、これらのセンサのうち、セル温度センサ141、改質器温度センサ142、燃焼器温度センサ143、及び蒸発器温度センサ144が示されている。
セル温度センサ141は、発電中におけるセルスタック100の温度を計測するためのセンサである。セル温度センサ141で測定されたセルスタック100の温度は、制御部210に伝達される。制御部210は、セルスタック100の温度が発電に適した温度に保たれるよう空気ブロア122の回転数等を調整する。
改質器温度センサ142は、改質器111の触媒温度を測定するためのセンサである。改質器温度センサ142で測定された触媒温度は、制御部210に伝達される。制御部210は、改質器111における水蒸気改質反応が安定して生じるよう、測定された触媒温度に基づいて燃料ブロア116や水供給ポンプ114等の動作を制御する。尚、改質器温度センサ142によって測定される触媒温度は、改質器111を通過する混合原料の温度に概ね等しい。このため、改質器温度センサ142は、改質器111の内部における混合原料の温度を測定するためのセンサということもできる。
燃焼器温度センサ143は、第1燃焼器131を通る排ガスの温度を測定するためのセンサである。燃焼器温度センサ143で測定された排ガスの温度は、制御部210に伝達される。燃料電池装置10を停止状態に移行させる移行期間において、制御部210は、燃焼器温度センサ143で測定された温度に基づいて燃料ブロア116の動作を制御する。当該制御の具体的な態様については後述する。
蒸発器温度センサ144は、蒸発器113の内壁の温度、すなわち水が触れて蒸発する部分の温度を測定するためのセンサである。蒸発器温度センサ144で測定された温度は制御部210に伝達される。尚、図1においては蒸発器温度センサ144が一つだけ描かれているのであるが、実際には、蒸発器113の入口部分と出口部分の2箇所に蒸発器温度センサ144が設けられている。
制御部210は、蒸発器温度センサ144で測定された内壁の温度に基づいて、蒸発器113で単位時間に蒸発させ得る水の量(以下、「蒸発可能量」とも称する)を算出する。例えば、内壁の温度が100℃よりも僅かに高い程度である場合には、少量の水を供給し蒸発させただけで、内壁の温度は100℃を下回ってしまうこととなる。この場合、蒸発可能量は比較的小さい。一方、内壁の温度が100℃よりも十分に高い温度である場合には、多量の水を供給し続けたとしても、内壁の温度を100℃よりも高い温度に維持することができる。この場合、蒸発可能量は比較的大きい。制御部210は、蒸発器温度センサ144で測定された内壁(2箇所)の温度と、蒸発可能量との関係を予めマップとして記憶している。制御部210は、蒸発器温度センサ144で測定された温度と、当該マップとを照らし合わせることにより、現時点における蒸発可能量を算出する。
燃料電池装置10が動作状態であるとき、すなわち燃料電池装置10から外部への電力供給が行われているときには、制御部210は、外部に出力される電力の大きさに応じて、セルスタック100に供給される改質燃料や空気の流量を調整する。その際、セルスタック100は高温となっており、概ね700℃程度に維持されている。
発電中、セルスタック100のそれぞれのセルにおいては、カソード側における空気の圧力と、アノード側における改質燃料の圧力とが概ね等しくなっている。このため、例えばセルをフレームに保持するためのガラス封止部分などを通じて、カソード側の空気がアノード側に漏出するような現象はほとんど生じない。仮に生じたとしても、アノード側には多量の還元性のガス(H2等)が多量に存在するので、空気に触れることによるアノードの酸化は生じない。
燃料電池装置10から外部への電力供給が終了すると、燃料電池装置10は停止状態とされる。このとき、高温となっているセルの破損や劣化を防止するために、セルスタック100に対する改質燃料や空気の供給は直ちには停止されない。本実施形態では、燃料電池装置10が動作状態から停止状態に移行するまでの停止期間において、セルスタック100に対する空気の供給が継続的に行われる。これにより、セルスタック100は冷却され、その温度を次第に低下させて行く。
ところで、上記の停止期間においては外部への電力供給は不要なのであるから、セルスタック100への改質燃料の供給を停止してもよいように思われる。しかしながら、改質燃料の供給を停止してしまうと、アノード側には還元性のガスが少量しか存在しなくなるので、カソード側から漏出した空気に触れることによるアノードの酸化が生じやすくなる。
更に、改質燃料の供給を停止した場合には、カソード側における空気の圧力に比べて、アノード側における改質燃料の圧力が著しく低下した状態となってしまう。このため、カソード側の空気がアノード側に漏出したり、ガス排出配管171の上流側を介してアノード側に回り込んだりする現象が生じやすくなる。その結果、多量の空気がアノード側に到達し、アノードの酸化が生じる可能性が高くなってしまう。
そこで、本実施形態では、停止期間においてもセルスタック100に対する改質燃料の供給が継続的に行われることとしている。これにより、アノードの酸化を防止することができる。
ただし、停止期間においてセルスタック100に対する改質燃料の供給を継続的に行うためには、水供給ポンプ114から蒸発器113に水を供給し続けて、蒸発器113における水蒸気の生成、及び改質器111に対する水蒸気の供給を継続的に行わなければならない。しかしながら、停止期間においてはセルスタック100の温度が次第に低下して行くので、蒸発器113における蒸発可能量も次第に低下して行く。
このような状況の下で、仮に蒸発器113に対し一定量の水が供給され続けると、蒸発できなかった液体の水が蒸発器113の内部に溜まってしまい、蒸発器113における水蒸気の生成量が著しく小さくなる。その結果、改質器111に供給される炭化水素に比べて水蒸気の量が不足することとなり、上記の式(1)や式(2)の反応に加えて、以下の式(3)で示される反応も生じてしまう
2CO → C+CO2・・・(3)
このような反応は、一酸化炭素の不均化反応と称されるものである。不均化反応が生じると、水蒸気(H2O)と反応しなかった一酸化炭素(CO)の一部から炭素(C)が析出し、当該炭素が例えば改質触媒の表面やセルスタック100の各アノードの表面等を覆ってしまう。つまり、水の液化に伴って蒸発器113における水蒸気の生成量が小さくなると、セルスタック100に供給されるH2が不足してカソードの酸化が生じるのみならず、炭素析出による改質性能の低下や発電性能の低下も生じてしまうこととなる。
上記のような炭素析出の発生を防止するために、本実施形態では、停止期間において改質器111に供給される原燃料の流量を概ね一定とした上で、蒸発器113で生成され改質器111に供給される水蒸気の流量を次第に低下させて行くこととしている。蒸発器113における蒸発可能量の低下に合わせて、蒸発器113に供給される水の流量を次第に低下させて行くことにより、蒸発器113の内部に液体の水が溜まることが防止される。その結果、蒸発器113における水蒸気の生成を安定的に行うことができ、水蒸気の不足に伴う炭素析出の発生を防止することができる。
また、改質器111に供給される原燃料の流量が概ね一定とされるので、改質器111におけるスチームカーボン比は次第に小さくなって行くこととなる。ここでいう「スチームカーボン比」とは、単位時間あたりに改質器111に供給される水蒸気量と、単位時間あたりに改質器111に供給される原燃料の炭素量と、の比のことであり、所謂「S/C」と称されるものである。
本実施形態では、セルスタック100の温度低下に伴ってスチームカーボン比が小さくなるよう、水供給ポンプ114から蒸発器113に供給される水の流量を減少させる制御が行われる。これにより、蒸発可能量の低下に合わせて水蒸気の生成量を次第に低下させながらも、アノード側の圧力が低下し過ぎてしまうことが防止される。その結果、カソード側の空気がアノード側に回り込み、アノードを酸化させてしまう現象の発生が防止される。
尚、改質器111におけるスチームカーボン比が小さくなり過ぎてしまうと、水蒸気の不足によって炭素析出が生じてしまう。このため、本実施形態では、スチームカーボン比についての下限値が適切に設定され、当該下限値を下回らないようにスチームカーボン比の調整が行われる。これについて、図2を参照しながら説明する。
図2の線L1は、原燃料と水蒸気との混合気体(混合原料)における炭素活量が1.0である場合における、当該混合原料の温度とスチームカーボン比との関係を示すグラフである。また、図2の線L2は、混合原料における炭素活量が0.6である場合における、当該混合原料の温度とスチームカーボン比との関係を示すグラフである。
炭素活量とは、上記の式(3)で示される不均化反応が右側に進行する傾向を示す値である。炭素活量が1.0よりも大きいときには、不均化反応が右側に進行して炭素が析出する。一方、炭素活量が1.0よりも小さいときには、不均化反応が左側に進行して析出炭素が減少する。このような炭素活量は、以下の式(4)で定義される。
炭素活量=k2/k1・・・(4)
式(4)におけるk1は、式(3)における反応物(CO)及び生成物(C,CO2)のそれぞれの量のバランスを示す平衡定数であり、以下の式(5)で表される。当該式において、PCはCの圧力であり、PCO2はCO2の圧力であり、PCOはCOの圧力である。
k1=PC・PCO2/PCO^2・・・(5)
式(4)におけるk2は、ギプスの自由エネルギーの関数として、具体的には混合原料の温度Tの関数として算出される平衡定数である。従って以下の式(6)で表される。f()の具体的な関数形は省略するが、一般に知られているように、k2は温度Tが高い程大きな値として算出される。
k2=f(T)・・・(6)
k1=k2のとき、すなわち炭素活量の値が1.0であるときには、式(3)で示される反応は平衡となり、炭素の量は一定となる。k1<k2のとき、すなわち炭素活量の値が1.0よりも大きいときには、k1が大きくなる方向に反応が進む。式(5)に示されるように、当該方向は析出炭素(C)の量が増加する方向である。
逆に、k1>k2のとき、すなわち炭素活量の値が1.0よりも小さいときには、k1が小さくなる方向に反応が進む。式(5)に示されるように、当該方向は析出炭素(C)の量が減少する方向である。従って、炭素活量の値が1.0よりも小さくなるような範囲内にスチームカーボン比が保たれれば、炭素析出の発生を防止することができる。図2では、線L1よりも上方側の領域では炭素活量の値が1.0よりも小さくなっており、線L1よりも下方側の領域では炭素活量の値が1.0よりも大きくなっている。
本実施形態では、炭素活量の値が0.6となるようなスチームカーボン比の値を、スチームカーボン比についての下限値として設定している。このため、図2の線L2は混合原料の温度と、設定される下限値との関係を示すものとなっている。停止期間においては、スチームカーボン比の値が当該下限値を下回らないように(換言すれば、炭素活量の値が0.6以下に維持されるように)、制御部210が蒸発器113に対する水の供給量を減少させる。
図2の例では、混合原料の温度がT2であるときには、スチームカーボン比の値がR10からR2に減少するまで、水の供給量を減少させることができる(矢印AR2)。同様に、混合原料の温度が(T1よりも低い)T1であるときには、スチームカーボン比の値がR10から(R22よりも小さな)R1に減少するまで、水の供給量を減少させることができる(矢印AR1)。このように、スチームカーボン比の値が下限値を下回らない範囲で、水の供給量を減少させることにより、炭素析出の発生を確実に防止することができる。
尚、スチームカーボン比の下限値として、炭素活量が1.0となるような値を設定しないのは、局所的に炭素活量の値が大きくなり得ることを考慮したからである。本発明者らが実験等によって確認したところによれば、セルスタック100及び改質器111における炭素活量の値が0.6以下に維持されるようにスチームカーボン比の下限値を設定しておけば、一部の壁が高温となって炭素活量の値が局所的に大きくなったとしても、炭素活量の値を確実に1.0以下に収めることができる。これにより、燃料電池装置10の全体において、炭素析出の発生を確実に防止することができる。
停止期間における以上のような制御を実現するために、制御部210によって行われる処理の具体的な内容を、図3を参照しながら説明する。図3に示される一連の処理は、燃料電池装置10による発電を停止するための操作が行われた時点以降において、制御部210によって実行されるものである。すなわち、燃料電池装置10が動作状態から停止状態に移行する期間である停止期間において、制御部210によって実行されるものである。
最初のステップS01では、燃焼停止条件が成立したか否かが判定される。燃焼停止条件等は、第1燃焼器131における排ガスの燃焼を停止させるために必要な条件のことである。例えば、セルスタック100の温度が700℃前後と非常に高温となっている状態で、第1燃焼器131における排ガスの燃焼を停止させてしまうと、セルスタック100の温度が急激に減少し過ぎてしまい、セルの破損が生じてしまう可能性がある。本実施形態では、セルスタック100の温度がある程度低下したことを以って、燃焼停止条件が成立したと判定される。燃焼停止条件が成立していない場合には、ステップS01の処理が繰り返し実行される。燃焼停止条件が成立した場合には、ステップS02に移行する。
ステップS02では、第1燃焼器131における排ガスの燃焼を停止させるための処理が行われる。本実施形態では、燃料ブロア116の動作を停止させ、第1燃焼器131に到達する原燃料の流量を0とすることにより、第1燃焼器131における排ガスの燃焼が停止される。以降は、第1燃焼器131の温度は次第に低下して行く。
ステップS02に続くステップS03では、第1燃焼器131の温度、すなわち燃焼器温度センサ143で測定された温度が、600℃を下回っているか否かが判定される。この600℃という温度は、燃料ブロア116の動作を再開させ、改質器111に原燃料を供給したとしても、第1燃焼器131において原燃料(又は改質燃料)に対する再着火がこれ以下では生じない温度、として予め設定された温度である。第1燃焼器131の温度が600℃以上である場合には、ステップS03の処理が繰り返し実行される。第1燃焼器131の温度が600℃を下回っている場合にはステップS04に移行する。
ステップS04では、燃料ブロア116の動作が再開され、改質器111に対する原燃料の供給が再開される。尚、ステップS02からステップS04までの期間では、上記のように改質器111に対する原燃料の供給が一時的に停止された状態となる。当該期間の長さは比較的短いので、改質器111に対する水蒸気の供給は当該期間においても継続的に行われる。このような態様に替えて、ステップS02からステップS04までの期間では、蒸発器113に対する水の供給が一時的に停止されるような態様としてもよい。この場合、ステップS04では燃料ブロア116の動作が再開されることに加えて、水供給ポンプ114の動作も再開されることとなる。
また、ステップS04以降においては、第1燃焼器131における排ガスの燃焼が行われない状態で、改質器111に対する原燃料の供給が行われることとなる。このため、ステップS04においては第2燃焼器132において点火を行い、排ガスの燃焼が開始される。これにより、原燃料や改質燃料が、燃料電池装置10からそのまま外部に排出されてしまうことが防止される。
ステップS04に続くステップS05では、第1燃焼器131において再着火が生じたか否かが判定される。例えば、第1燃焼器131の内部が局所的に高温になっているような場合には、燃焼器温度センサ143で測定された温度が600℃を下回っていても再着火(自然着火)が生じることがある。再着火が生じたか否かの判定は、例えば、第1燃焼器131に設けられた火炎センサ(不図示)からの信号に基づいて行われる。燃焼器温度センサ143からの信号に基づいて判定が行われてもよい。
第1燃焼器131において再着火が生じたと判定された場合には、ステップS02以降の処理が再度実行される。再着火が生じていないと判定された場合にはステップS06に移行する。
ステップS06では、蒸発器113で単位時間に蒸発させ得る水の量、すなわち蒸発可能量が算出される。既に述べたように、蒸発可能量の算出は、蒸発器温度センサ144で測定された蒸発器113の内壁温度に基づいて行われる。
ステップS06に続くステップS07では、ステップS06で算出された蒸発可能量が、現時点において蒸発器113に供給されている水の流量よりも小さいか否かが判定される。蒸発可能量が、蒸発器113に供給されている水の流量以上であった場合には、後述のステップS12に移行する。蒸発可能量が、蒸発器113に供給されている水の流量よりも小さい場合には、ステップS08に移行する。
ステップS08に移行したということは、蒸発可能量を超える流量の水が蒸発器113に供給されているということである。このような状態が続くと、蒸発器113の内部には液体の水が溜まってしまい、水蒸気の生成量が著しく低下してしまう。そこで、ステップS08以降では、蒸発器113に対する水の供給量を低減させるための処理が行われる。
ステップS08では、蒸発器113に対する水供給量を、低減することができるかどうかが判定される。本実施形態では、スチームカーボン比が所定量(例えば0.5)だけ減少さするように、蒸発器113に対する水供給量を低減させる構成となっている。つまり、スチームカーボン比を変化させる際の変化量、すなわち上記の「所定量」が固定値として予め設定されている。
スチームカーボン比を現時点から所定量だけ減少させた場合に、スチームカーボン比が下限値を下回るような場合には、蒸発器113に対する水供給量を低減することができないと判定される。一方、スチームカーボン比を現時点から所定量だけ減少させた場合に、スチームカーボン比が下限値を下回らないような場合には、蒸発器113に対する水供給量を低減することができると判定される。
制御部210には、図2に示されるようなグラフが予め記憶されている。つまり、炭素活量の値が0.6となるような、混合原料の温度とスチームカーボン比との関係(線L2)が、制御部210に予め記憶されている。制御部210は、図2の線L2で示されるようなスチームカーボン比の値を、スチームカーボン比についての下限値として設定する。
図2の線L2に示されるように、スチームカーボン比の下限値は、原燃料と水蒸気との混合気体である混合原料の温度によって変化する。停止期間においてステップS08まで移行したときには、セルスタック100の温度はある程度低下しているので、混合原料の温度は図2のT10よりも低くなっている。T10よりも低い温度域においては線L2及び線L1は右肩上がりとなっている。このため、混合原料の温度が低くなるほど、スチームカーボン比の下限値は小さな値として設定されることとなる。
本実施形態では、セル温度センサ141で測定されるセルスタック100の温度、及び改質器温度センサ142で測定される改質器111の温度のうち、高い方の温度(以下、「高温部温度」とも称する)に基づいて、スチームカーボン比の下限値が変更される。つまり、炭素析出が懸念される箇所のうち最も高温となっている箇所における混合原料の温度に基づいて、スチームカーボン比の下限値が設定、変更される。本実施形態では、高温部温度の低下に伴って小さくなるように、スチームカーボン比の下限値が設定、変更されて行くこととなる。
図2を参照しながら説明すると、例えばセルスタック100の温度が改質器111の温度よりも高くなっており、セルスタック100の温度がT2であった場合には、スチームカーボン比の下限値としてR2が設定される。また、例えば改質器111の温度がセルスタック100の温度よりも高くなっており、改質器111の温度がT1であった場合には、スチームカーボン比の下限値としてR1が設定される。このように、高温部温度に基づいてスチームカーボン比の下限値が設定されることにより、スチームカーボン比の値が線L2よりも上側となってしまうようなことが、燃料電池装置10の全体において防止される。
図3に戻って説明を続ける。ステップS08において、蒸発器113に対する水供給量を低減することができると判定された場合には、ステップS09に移行する。ステップS09では、水供給ポンプ114からの水供給量を低減させ、スチームカーボン比を上記の所定量だけ減少させるための処理が行われる。これにより、スチームカーボン比は、図2の線L2に対し上方側から近づくように変化する。これにより、炭素析出がいずれの場所においても生じない状態を維持しながら、蒸発器113における水蒸気の生成量が低減される。ステップS09の処理が行われた後は、後述のステップS12に移行する。
ステップS08において、蒸発器113に対する水供給量を低減することができないと判定された場合には、ステップS10に移行する。ステップS10に移行したということは、蒸発器113に対する水供給量を低減すると、スチームカーボン比が下限値を下回り、炭素析出が生じてしまうということである。この場合、改質器111に対する原燃料の供給量を予め低下させれば、スチームカーボン比を下限値以上に保ったまま、蒸発器113に対する水供給量を低減できる可能性がある。
ステップS10では、改質器111に供給される原燃料の流量を低下させ、セルスタック100に対する改質燃料の供給量を低減させることができるかどうかが判定される。本実施形態では、セルスタック100の出力端子間電圧が所定の閾値以上であるときに、改質燃料の供給量を低減させることができると判定される。当該閾値は、セルスタック100から補機動作のための電力を取り出すために確保すべき最低限の電圧値として、予め設定されたものである。
セルスタック100に対する改質燃料の供給量を低減させることができると判定された場合には、ステップS11に移行する。ステップS11では、セルスタック100の端子間電圧が上記閾値を下回らない範囲で、燃料ブロア116から送り出される原燃料の流量(つまり、改質器111に供給される原燃料の流量)が低減される。その後、ステップS12に移行する。尚、ステップS10において、セルスタック100に対する改質燃料の供給量を低減させることができないと判定された場合には、ステップS11を経ることなくステップS12に移行する。
ステップS12では、セルスタック100の温度、すなわちセル温度センサ141で測定された温度が、300℃を下回っているか否かが判定される。この300℃という温度は、これ以下ではアノードの酸化が生じない温度として予め設定された温度である。セルスタック100の温度が300℃を下回っていれば、ステップS13に移行する。ステップS13では、セルスタック100に対する改質燃料の供給、すなわち還元ガスの供給を停止するための処理が行われる。具体的には、水供給ポンプ114の動作及び燃料ブロア116の動作が、いずれも停止される。また、空気ブロア122の動作も停止され、セルスタック100に対する空気の供給も停止される。
ステップS12において、セルスタック100の温度が300℃以上であった場合には、ステップS05以降の処理が再度実行される。ステップS11、ステップS12を経てステップS05に移行した場合には、(原燃料の流量の低減によって)スチームカーボン比を予め上昇させた状態で、水供給量の低減が再度試みられることとなる。これにより、炭素析出が生じない状態を維持しながら、水供給量を更に低減することができる。
本発明の第2実施形態について、図4を参照しながら説明する。本実施形態では、制御部210によって実行される処理の流れにおいてのみ第1実施形態と異なっており、その他の構成については第1実施形態と同じである。以下では、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明し、第1実施形態と共通する部分については適宜説明を省略する。
図4に示される一連の処理は、図3に示される一連の処理に替えて、制御部210により実行されるものである。尚、図4に示されるステップS01乃至S07の処理、及び、ステップS12乃至S13の処理は、図3に示され同符号が付されている処理とそれぞれ同じである。つまり、図4に示される処理は、ステップS06において算出された蒸発可能量が、蒸発器113に供給されている水の流量よりも小さい場合(ステップS07の判定が肯定の場合)に実行される処理の内容のみにおいて、図3に示される処理と異なっている。
ステップS07において、蒸発器113に供給されている水の流量よりも蒸発可能量の方が大きいと判定された場合には、ステップS21に移行する。ステップS21では、スチームカーボン比の低減可能量が算出される。ここでいう「低減可能量」とは、セルスタック100又は改質器111のうち高温となっている方において、現時点のスチームカーボン比から下限値を差し引いて得られる値である。つまり、スチームカーボン比を下限値と一致するまで低減させる際における低減量のことである。
ステップS21に続くステップS22では、水供給ポンプ114からの水供給量の低減量が算出される。当該低減量は、スチームカーボン比を上記の「低減可能量」だけ減少させるために必要となる、水供給ポンプ114からの水の供給量(流量)の減少量のことである。
ステップS22に続くステップS23では、水供給ポンプ114からの水供給量を実際に低減させるための処理が行われる。当該処理により、水供給ポンプ114からの水供給量は上記の低減量だけ減少し、スチームカーボン比は上記の低減可能量だけ減少する。これにより、セルスタック100又は改質器111のうち高温となっている方における混合原料のスチームカーボン比が、下限値と概ね一致した状態となる。また、その他の箇所における混合原料のスチームカーボン比は下限値以上のままである。
ステップS23に続いては、ステップS12の処理が実行される。以降の処理は、図3を参照しながら既に説明したものと同じであるから、その説明を省略する。
以上のように、本実施形態では、スチームカーボン比が下限値まで減少するように、水供給ポンプから送り出される水の流量が調整される。これにより、炭素析出の発生を防止し得る範囲で、可能な限り水の蒸発量が抑制される。このため、蒸発器113における蒸発性能が次第に低下して行く過程において、水蒸気の生成を長時間に亘り安定して行うことが可能となっている。
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、前述した各具体例が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。