JP7246597B2 - 隙間狭小化材、隙間狭小化材複合体およびそれらを用いた物品 - Google Patents

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Description

本発明は、隙間狭小化材、隙間狭小化材複合体およびそれらを用いた物品に関する。
例えば、篏合孔と該篏合孔に嵌挿されたシャフトからなる構造のような、互いにはまり合う形状をなす一対の部材が互いに篏合して構成された篏合部は、様々な装置に存在しており、一対の部材が互いに支持し合って、その一対の部材同士や他の部材の位置関係を保持することや、一方の部材が他方の部材に対して相対運動することで、装置の機械的動作に寄与している。ここで、こうした篏合部の中には、互いに篏合する一対の部材同士の隙間が、液体や気体に対して密封されていることが要求されるものがあり、特に、一方の部材が他方の部材に対して相対運動するものである場合には、その相対運動を妨げることなく、隙間の密封性は確保されることが必要となる。このような要求に応えるべく、篏合部材における一対の部材間を密封するための様々なシール機構が開発されている。
例えば、ポンプや撹拌機、コンプレッサー等の流体を扱う機械装置は、駆動部の動力をハウジング内の機械部品に伝えるシャフトを有する。シャフトは、ハウジングに形成された篏合孔に篏挿されており、駆動部の動力により、該篏合孔内で回転運動または軸方向に往復運動する。こうした篏合孔とシャフトからなる篏合部では、シャフトの運動を妨げることなく、ハウジング内の流体が漏れ出ることを防ぐ必要があり、そのための部品として、固定環や回転環などの複数に部材を組み合わせたメカニカルシールが用いられている。
しかしながら、メカニカルシールのような機械的なシール機構は、構造が複雑であるために部材同士の調整が難しく、例えばハウジングに装着した固定環に対して、シャフトに装着した回転環が傾いて十分なシール性が得られない、シャフトの運動に不具合が生じるなどの問題を生じやすい。また、定期的に取り外して交換する必要があり、その作業に手間がかかり、メンテナンス費用も大きいという問題もある。
そこで、篏合部を構成する一対の部材の互いに対峙する面に、比較的摩擦係数が低い膜を形成することで、一対の部材同士の隙間を狭小化して流体に対する密封性を確保することも検討されている。こうした膜によれば、メカニカルシールのような機械的な調整が不要になり、また、膜材料の選択により耐久性を上げてメンテナンスを不要にすることや、安価な膜材料を採用してメンテナンス費用を抑えることが可能になる。例えば、そのような摩擦係数が低い膜として、硬質のDLC(Diamond Like Carbon)からなる膜や、ポリオキシメチレンのような自己潤滑性樹脂を塗布して形成した膜が考えられる。
しかし、DLCのような硬い材料は、可撓性がないために寸法誤差を吸収しにくく、その膜によって隙間を埋めるには、一対の部材に高い寸法精度や高い機械的精度が必要になる。そのため、むしろコスト高になるという不都合が生じてしまう。一方、樹脂を塗布して形成した膜は、樹脂が比較的安価であることと、膜の可撓性によって寸法誤差を吸収できるため、篏合部材の寸法精度や機械的精度は比較的低くてよいという利点がある。しかし、こうした樹脂の塗工膜は、どうしても耐摩耗性が劣り、特に篏合部材の隙間のような、逃げがない条件で部材に摺動された場合には、そこで発生する強い力によって大きなダメージを受け、シール材としての機能が失われるといった問題が生じてしまう。
以上のように、篏合部の隙間の密封性を上げるには、メカニカルシールのような機械的なシール機構によるよりも、膜のようなシール材を隙間に配して密封性を上げる方が好ましいと考えられる。しかし、篏合部材の隙間に配するシール材には、密封性に優れることと、一対の部材の相対運動を妨げず、且つ、強い力を受けながらの摺動に耐える機械的特性が求められ、そのような要求に応えるシール材はこれまで見出されていないのが実情である。
このような状況の下、本発明者らは、リビングラジカル重合による高分子鎖を基材表面に高密度に固定したポリマーブラシに着目した。ポリマーブラシは、低摩擦性、潤滑性を示すことが知られており、その特性を利用した摺動機構が提案されている(例えば、特許文献1~3参照)。しかし、その他の特性については十分な解明がなされておらず、その用途は限られていた。
特許文献1:特許第3422463号(特開平11-263819号公報)
特許文献2:特開2006-316169号公報
特許文献3:特開2014-169787号公報
これに対して、本発明者らがポリマーブラシの性能について、様々な観点から検討を進めたところ、ポリマーブラシを篏合部の隙間(間隙)に配して液体を含侵させると、ポリマーブラシが大きく膨潤して隙間の空間が狭小化し、隙間を介した流体の漏れが効果的に抑制されることを見出した。上記の特許文献には、ポリマーブラシの低摩擦性や潤滑性については記載されているものの、流体の漏れを抑制する効果については全く記載されておらず、これらの文献からは、ポリマーブラシが流体の漏れを抑制する効果を有することは予測がつかない。
そこで本発明者らは、ポリマーブラシ、およびそれと共通の構造を有する高分子材料の隙間狭小化材としての有用性についてさらに検討を進め、隙間の流体に対する密封性を効果的に改善し、且つ、隙間を形成している部材の相対運動を妨げない材料を見出すこと、さらに、隙間からの流体の漏れが抑えられるとともに、隙間を形成している部材が円滑に動作しうる物品を提供することを目指して研究を重ねた。
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、基材に固定された複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体が、隙間狭小化材として優れた性質を有することを見出した。そして、この高分子鎖集合体を、隙間を形成している一対の部材の互いに対峙する面に配すると、その隙間を介した流体の漏れが効果的に抑制されるとともに、その隙間を形成している一方の部材を他方の部材に対して相対運動させたとき、円滑な動作が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて提案されたものであり、具体的に以下の構成を有する。
[1] 基材に固定された複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体を含む、隙間狭小化材。
[2] 前記基材が担体である、[1]に記載の隙間狭小化材。
[3] 前記基材の形状が、シート状、微粒子状または繊維状である、[2]に記載の隙間狭小化材。
[4] 前記基材が、一対の部材が互いに篏合して構成された篏合部材の少なくとも一方の部材であり、前記複数の高分子鎖が、前記一方の部材の表面のうち、少なくとも前記一対の部材の他方の部材に対峙する面に固定されている、[2]に記載の隙間狭小化材。
[5] 前記高分子鎖の密度が0.02鎖/nm2以上である、[2]~[4]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
[6] 前記基材が高分子鎖であり、前記基材である高分子鎖に、前記複数の高分子鎖が側鎖として結合している、[1]に記載の隙間狭小化材。
[7] 前記基材である高分子鎖と前記複数の高分子鎖からなる高分子鎖集合体が、ボトルブラシ状の構造を形成している、[6]に記載の隙間狭小化材。
[8] 前記高分子鎖の表面占有率が5%以上である、[1]~[7]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
[9] 前記高分子鎖集合体が液状物質を含侵して膨潤している、[1]~[8]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
[10] 前記高分子鎖集合体の膨潤した状態での膜厚が、前記高分子鎖集合体の乾燥膜厚の1.5倍以上である、[1]~[9]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
[11] 圧縮弾性率が1MPa以上、摩擦係数(μ)が0.1以下である、[1]~[10]のいずれかに記載の隙間狭小化材。
[12]押し込み量が100nm以上、圧縮弾性率が1MPa以上である、[1]~[11]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
[13] [1]~[12]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材と、前記隙間狭小化材が固定された基材を有する、隙間狭小化材複合体。
[14] 前記基材が、シート、微粒子、繊維、または一対の部材が互いに篏合して構成された篏合部材の少なくとも一方の部材である、[13]に記載の隙間狭小化材複合体。
[15] 互いに対峙して配された一対の部材を有し、前記一対の部材の互いに対峙する面同士の間に隙間を有する物品であって、
前記一対の部材の互いに対峙する面の少なくとも一方に、[1]~[12]のいずれか1項に記載の隙間狭小化材が固定されている物品。
[16] 前記一対の部材が篏合部材である、[15]に記載の物品。
[17] 前記隙間の幅が15μm以下である、[15]または[16]に記載の物品。
[18] 下記式(4)における実効膜厚bの前記隙間の全幅に対する比率が20%以上である、[15]~[17]のいずれか1項に記載の物品。
Figure 0007246597000001
[式(4)において、hは半径隙間(μm)を表し、Qは前記隙間を形成している部材の表面に隙間狭小化材を固定した後、前記隙間の開口部に液体を載せたときの前記隙間からの前記液体の漏れ量(mL)を表し、aは実験条件(隙間の差圧、液体粘度、隙間長、隙間外径)から定まる係数(mL/秒・μm3)を表し、bは前記隙間における隙間狭小化材の実効膜厚を表す。]
本発明の隙間狭小化材によれば、隙間の空間が狭小化し、隙間を介した流体の漏れを効果的に抑制することができ、また、隙間を形成している一方の部材が他方の部材に対して相対運動したときに、円滑な動作を得ることができる。この隙間狭小化材を用いることにより、隙間を介した流体の漏れが抑えられ、隙間を形成している部材が円滑に動作しうる物品を実現することができる。
狭小隙間モデル試験機の概略図である。 図1に示す狭小隙間モデル試験機の半径隙間hを示す概略断面図である。 ロッドとリングの少なくとも一方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hとイオン液体であるN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウム-ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)の漏れ量の関係を示すグラフである。 ロッドとリングの少なくとも一方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hと、ロッドとリング間との摩擦係数μの関係を示すグラフである。 ロッドとリングの両方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、イオン液体DEME-TFSIの漏れ量と摩擦係数の関係を示すグラフである。 ロッドとリングの両方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hとイオン液体MEMP-TFSI漏れ量の関係を示すグラフである。 ロッドとリングの両方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hとn-ヘキサデカンの漏れ量の関係を示すグラフである。 ロッドとリングの両方に隙間狭小化材1を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hと空気の漏れ量の関係を示すグラフである。 ロッドとリングのうちロッドのみに隙間狭小化材2を付与した系、および、ロッドとリングに隙間狭小化材を付与していない系について、半径隙間hとイオン液体MEMP-TFSIの漏れ量の関係を示すグラフである。
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。また、「(メタ)アクリル酸」というときは、アクリル酸とメタクリル酸の両方を意味することとする。
<隙間狭小化材>
本発明の隙間狭小化材は、基材に固定された複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体を含む。
本発明における「隙間狭小化材」とは、隙間を形成している部材の表面に固定されて、その隙間の空間を狭小化し、隙間の流体に対する密封性を高くする作用を示す材料のことをいう。ここで、隙間を狭小化するとは、隙間狭小化材が存在することで、隙間の空間が狭くなること、および、隙間の空間が隙間狭小化材で完全に埋まることの両方を含む。「密封性」とは、隙間の一方の開口部上に流体を供給したとき、その流体が隙間を通って他方に漏れ出ることを抑制する性能のことをいう。「流体」は液体および気体であり、本発明の隙間狭小化材は、液体および気体のいずれか一方に対する密封性を高くするものであってもよいし、液体と気体の両方に対する密封性を高くするものであってもよい。
本発明で用いる高分子鎖集合体は、全体としてブラシ様の形状をなしており、高分子鎖の柔軟性(Soft)と超低摩擦性に由来する強靱さ(Resilient)を備えたトライボ(Tribology)システム材料(以下、「SRT材料」とも記す。)であり、高分子の溶液を単に塗布して形成した有機膜とは全く異なるものである。
そして、さらに、この高分子鎖集合体は、液状物質を含侵させると各高分子鎖が伸張して膨潤し、押し込み量および圧縮弾性率が大きく、且つ、低摩擦性の層を形成する。そのため、この高分子鎖集合体を、液状物質を含侵させて隙間に配すると、その隙間の空間が狭小化して流体に対する密封性が効果的に向上する。また、この高分子鎖集合体の層は、押し込み量および圧縮弾性率が大きいことにより、隙間を形成している部材の寸法精度や機械的精度が低い場合でも、その誤差を吸収して隙間の空間を効果的に狭小化することができる。さらに、この高分子鎖集合体の層は、低摩擦性であり、潤滑性を有することにより、隙間を形成している一方の部材が他方の部材に対して相対運動した場合でも、その相対運動を妨げることがなく、円滑な動作の実現に貢献することができる。さらに、また、この高分子鎖集合体の層は、各高分子鎖がそれぞれ基材に固定されていることにより、隙間を形成している部材の相対運動が繰り返し行われた場合でも摩耗しにくく、優れた耐久性を示す。そのため、この高分子鎖集合体は、隙間狭小化材として効果的に用いることができる。
以下において、本発明の隙間狭小化材が含む高分子鎖集合体について説明する。
[高分子鎖集合体]
高分子鎖集合体は、基材に固定された複数の高分子鎖からなり、全体としてブラシ様の形状をなすものである。
本発明における「高分子鎖」とは、複数の構成単位が直鎖状に連なった構造を有する分子または分子の部分のことをいう。高分子鎖集合体を構成する複数の高分子鎖は、互いに同一であっても異なっていてもよい。また、高分子鎖は、複数の構成単位が直鎖状に連なった構造を有していればよく、側鎖を有していても分岐構造を有していてもよく、高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間に架橋構造が形成されていてもよい。
(高分子鎖)
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、非電解質高分子であっても電解質高分子であってもよく、疎水性高分子であっても親水性高分子であってもよい。
非電解質高分子としては、ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)等が好ましく、電解質高分子としては、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA:poly (sodium sulfonated glycidyl methacrylate)やイオン液体型ポリマー等が好ましい。
疎水性高分子としては、ポリ(メチルメタクリレート)等のポリ(アルキル(メタ)アクリレート)が好ましい。
親水性高分子としては、ポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)(PHEMA)等のポリ(ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート)、ポリエチレングリコール側鎖を有するポリ(メタ)アクリレート等が好ましい。親水性高分子は、親水性モノマーを用いて合成してもよく、疎水性モノマーを用いて高分子を合成した後に、その高分子に親水性基を導入することによって合成してもよい。
高分子鎖は、1種類のモノマーを重合させたホモ重合体であっても、2種類以上のモノマーを重合させた共重合体であってもよい。共重合体として、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラジエント共重合体等が挙げられる。
高分子鎖の生成に用いるモノマーは、その重合により得られる高分子鎖を、グラフト鎖として基材に結合できるものであることが好ましい。そのようなモノマーとして、付加重合性の二重結合を少なくとも1つ有するモノマーを挙げることができ、付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーであることが好ましい。付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、(メタ)アクリル酸系モノマー、スチレン系モノマー等を挙げることができる。
以下に、高分子鎖の生成に用いられる(メタ)アクリル酸系モノマーの具体例を例示する。
(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、トルイル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、3-メトキシプロピル(メタ)アクリレート、3-メトキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、3-エチル-3-(メタ)アクリロイルオキシメチルオキセタン等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクリレート-2-アミノエチル、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)エチル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、1-(メタ)アクリロキシ-2-フェニル-2-(2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジニルオキシ)エタン、1-(4-((4-(メタ)アクリロキシ)エトキシエチル)フェニルエトキシ)ピペリジン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチル-ペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート、3-[(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル]プロピル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、トリフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、2-トリフルオロメチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル-2-ペルフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロエチル(メタ)アクリレート、トリフルオロメチル(メタ)アクリレート、ジペルフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート等も好ましい。
(メタ)アクリル酸系モノマーとして、2-ペルフルオロメチル-2-ペルフルオロエチルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、2-ペルフルオロヘキサデシルエチル(メタ)アクリレート等も好ましい。
次に、高分子鎖の生成に用いられるスチレン系モノマーの具体例を例示する。
スチレン系モノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン、p-クロロスチレン、p-クロロメチルスチレン、m-クロロメチルスチレン、o-アミノスチレン、p-スチレンクロロスルホン酸、スチレンスルホン酸及びその塩、ビニルフェニルメチルジチオカルバメート、2-(2-ブロモプロピオニルオキシ)スチレン、2-(2-ブロモイソブチリルオキシ)スチレン等が好ましい。
スチレン系モノマーとして、1-(2-((4-ビニルフェニル)メトキシ)-1-フェニルエトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン等も好ましい。
スチレン系モノマーとして、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン、1-(4-ビニルフェニル)-3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン等も好ましい。
スチレン系モノマーとして、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン等も好ましい。
スチレン系モノマーとして、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-(3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタエチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン等も好ましい。
スチレン系モノマーとして、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソブチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタイソオクチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン等も好ましい。
スチレン系モノマーとして、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタシクロペンチルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン、3-((3,5,7,9,11,13,15-ヘプタフェニルペンタシクロ[9.5.1.13,9.15,15.17,13]オクタシロキサン-1-イルオキシ)ジメチルシリル)エチルスチレン等も好ましい。
また、高分子鎖の生成には、以下に例示する付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーも用いることができる。
付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、フッ素含有ビニルモノマー(ペルフルオロエチレン、ペルフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等)、ケイ素含有ビニル系モノマー(ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等)、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル、フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル等も好ましい。
付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、マレイミド系モノマー(マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等)等も好ましい。
付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、ニトリル基含有モノマー(アクリロニトリル、メタクリロニトリル等)、アミド基含有モノマー(アクリルアミド、メタクリルアミド等)、ビニルエステル系モノマー(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等)等も好ましい。
付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、オレフィン類(エチレン、プロピレン等)、共役ジエン系モノマー(ブタジエン、イソプレン等)、ハロゲン化ビニル(塩化ビニル等)、ハロゲン化ビニリデン(塩化ビニリデン等)、ハロゲン化アリル(塩化アリル等)等も好ましい。
付加重合性の二重結合を1つ有する単官能性のモノマーとして、アリルアルコール、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N-ビニルカルバゾール、メチルビニルケトン、ビニルイソシアナート等も好ましい。
さらに、重合性二重結合を1分子中に1つ有し、主鎖がスチレン、(メタ)アクリル酸エステル、シロキサン等から誘導されたマクロモノマー等も好ましい。
また、高分子鎖の生成には、特に疎水性モノマーおよび親水性モノマーを用いることが好ましい。
疎水性モノマーとしては、アクリル酸エステル(例、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル;フェニルアクリレート等のアリールアクリレート;ベンジルアクリレート等のアリールアルキルアクリレート;メトキシメチルアクリレート等のアルコキシアルキルアクリレート等)等が好ましい。
疎水性モノマーとして、メタクリル酸エステル(例、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート等のメタクリル酸のアルキルエステル;フェニルメタクリレート等のアリールメタクリレート;ベンジルメタクリレート等のアリールアルキルメタクリレート;メトキシメチルメタクリレート等のアルコキシアルキルメタクリレート等)等も好ましい。
疎水性モノマーとして、フマル酸エステル(例、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジアリル等のフマル酸のアルキルエステル等)、マレイン酸エステル(例、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジアリル等のマレイン酸のアルキルエステル等)等も好ましい。
疎水性モノマーとして、イタコン酸エステル(例、イタコン酸のアルキルエステル等)、クロトン酸エステル(例、クロトン酸のアルキルエステル等)、メチルビニルエーテル、エトキシエチルビニルエーテル、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルベンゾエート、スチレン等も好ましい。
疎水性モノマーとして、アルキルスチレン、塩化ビニル、ビニルメチルケトン、ビニルステアレート、ビニルアルキルエーテル、及びそれらの混合物等も好ましい。
親水性モノマーとしては、ヒドロキシ置換アルキルアクリレート(例、2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルアクリレート、ポリエトキシエチルアクリレート、ポリエトキシプロピルアクリレート等)等が好ましい。
親水性モノマーとして、ヒドロキシ置換アルキルメタクリレート(例、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエトキシエチルメタクリレート、ポリエトキシプロピルメタクリレート等)等も好ましい。
親水性モノマーとして、アクリルアミド、N-アルキルアクリルアミド(例、N-メチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド等)、N-アルキルメタクリルアミド(例、N-メチルメタクリルアミド等)等も好ましい。
親水性モノマーとして、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、アルコキシポリエチレングリコールアクリレート、アルコキシポリエチレングリコールメタクリレート、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート、フェノキシポリエチレングリコールメタクリレート、2-グルコシロキシエチルメタクリレート等も好ましい。
親水性モノマーとして、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、クロトン酸、メタクリルアミド、アリルアルコール、N-ビニルピロリドン及びN,N-ジメチルアミノエチルアクリレート、及びそれらの混合物等も好ましい。
高分子鎖の生成には、側鎖に特定の基を有するモノマーも好適に用いることができる。例えば、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーは、生成した高分子鎖の側鎖の基を、カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に転換することにより親水性付与することができる点で好ましい。
カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとしては、例えば、1-メトキシエチルアクリレート、1-エトキシエチルアクリレート、1-プロポキシエチルアクリレート、1-(1-メチルエトキシ)エチルアクリレート、1-ブトキシエチルアクリレート、1-(2-メチルプロポキシ)エチルアクリレート、1-(2-エチルヘキソキシ)エチルアクリレート等が好ましい。
カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとして、ピラニルアクリレート、1-メトキシエチルメタクリート、1-エトキシエチルメタクリート、1-プロポキシエチルメトクリート、1-(1-メチルエトキシ)エチルメタクリート、1-ブトキシエチルメタクリート、1-(2-メチルプロポキシ)エチルメタクリート、1-(2-エチルヘキソシキ)エチルメタクリレート等も好ましい。
カルボキシル基もしくはカルボキシル基の塩に容易に転換できる基を側鎖に有するモノマーとして、ピラニルメタクリート、ジ-1-メトキシエチルマレート、ジ-1-エトキシエチルマレート、ジ-1-プロポキシエチルマレート、ジ-1-(1-メチルエトキシ)エチルマレート、ジ-1-ブトキシエチルマレート、ジ-1-(2-メチルプロポキシ)エチルマレート、ジピラニルマレート等も好ましい。
これらの高分子鎖の生成に用いられるモノマーは、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
また、上記のように、高分子鎖はイオン液体型ポリマーのような電解質高分子であってもよい。
イオン液体型ポリマーとして、特に限定されないが、例えば下記一般式(1)で表される化合物を重合してなるポリマー等が例示される。
Figure 0007246597000002
一般式(1)において、mは1以上10以下の整数を表し、nは1以上5以下の整数を表す。示す。
1は、水素原子または炭素数1~3のアルキル基を表し、R2、R3およびR4は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基を表す。ただし、R2、R3およびR4におけるアルキル基は、その炭素原子や水素原子が、酸素原子、硫黄原子、フッ素原子から選ばれる1種以上のヘテロ原子で置換されていてもよく、R2、R3およびR4は、その2つ以上が連結して環状構造を形成していてもよい。
Yは一価のアニオンを表す。Yが表す一価のアニオンとしては、特に限定されないが、例えばBF4 -、PF6 -、AsF6 -、SbF6 -、AlCl4 -、NbF6 -、HSO4 -、ClO4 -、CH3SO3 -、CF3SO3 -、CF3CO2 -、(CF3SO22-、Cl-、Br-、I-等を挙げることができる。アニオンの安定性を考慮すると、BF4 -、PF6 -、(CF3SO22-、CF3SO3 -、またはCF3CO2 -であることが好ましい。
イオン液体型ポリマーは、一般式(1)で表される化合物のなかでも、特に下記一般式(2)~(9)のいずれかで表される化合物を重合してなるポリマーであることが好ましい。
Figure 0007246597000003
一般式(2)~(9)において、m、R1、R2、Yは、一般式(1)のm、R1、R2、Yと同義である。Meはメチル基を表す、Etはエチル基を表す。
(架橋構造)
高分子鎖集合体には、高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間に架橋構造が形成されていてもよい。これにより、高分子鎖集合体の弾性率を制御することができる。
高分子鎖同士の間に形成する架橋構造は、物理的架橋構造および化学的架橋構造のいずれであってもよい。架橋構造は、高分子鎖を生成するための重合反応と同時に形成してもよいし、高分子鎖を生成した後に形成してもよい。高分子鎖を生成するための重合反応と同時に行う架橋構造の形成は、重合反応液に、高分子鎖を生成するための単官能性モノマーに加えて、エチレングリコールジメタクリレート等のジビニルモノマーのような二官能性モノマーを適量添加することにより行うことができる。また、生成した高分子鎖同士の間や高分子鎖と基材との間の架橋構造の形成は、架橋基を有するモノマーを用いて高分子鎖に架橋基を導入しておき、その架橋基と、他の高分子鎖の反応基との反応、その架橋基と基材の反応基との反応により行うことができる。架橋基としては、アジド基、ハロゲン基(好ましくはブロモ基)等を挙げることができる。また、高分子鎖をリビングラジカル重合で生成した際に、グラフト鎖の末端に残る反応基を架橋基として用いることもできる。
架橋構造が十分に形成されているか否かは、良溶媒に対する溶解性が低下しているか否かによって判断することができる。例えば、単官能性モノマーに対して1mol%のジビニルモノマーを添加して形成した遊離の高分子は、良溶媒に膨潤するもののほとんど溶解しない。一方、以下に述べるポリマーブラシも、架橋していても良溶媒に膨潤する。
[高分子鎖集合体の形成]
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖は、それぞれ基材に固定されている。基材は、高分子鎖集合体とは別の物質からなる担体であってもよいし、高分子鎖が側鎖として結合した主鎖としての高分子鎖であってもよい。基材が担体である場合、高分子鎖集合体は「ポリマーブラシ」を構成する。また、基材が高分子鎖である場合、その高分子鎖が構成する主鎖と、その主鎖に結合した高分子鎖(側鎖)を合わせた全体が「ボトルブラシ構造を有するポリマー」を構成する。
以下においては、ポリマーブラシとボトルブラシ構造を有するポリマーのそれぞれについて、その高分子鎖集合体の形成方法を説明する。
[A]ポリマーブラシ
ポリマーブラシの高分子鎖集合体は、複数の高分子鎖をグラフト鎖として基材に結合させるグラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、Grafting-from法やGrafting-to法で行うことができ、このうち、Grafting-from法を用いることが好ましい。ここで、Grafting-from法は、基材に重合開始基を導入して、その重合開始基からグラフト鎖を成長させる方法であり、Grafting-to法は、予め合成したグラフト鎖を、基材に導入した反応点に結合させる方法である。
また、高分子鎖集合体は、疎水性ブロックと親水性ブロックを有する高分子(ジブロック共重合体)の疎水性部分を、疎水性の基材または疎水性化された基材の表面に疎水結合させる方法によっても得ることができる。ジブロック共重合体としては、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)構造を疎水性ブロックとし、ポリ(ナトリウムスルホン化グリシジルメタクリレート)(PSGMA)構造を親水性ブロックとする共重合体を挙げることができる。PMMA構造とPSGMA構造との間には、他の高分子構造が介在していてもよい。この方法の詳細については、Nature, 425, 163-165 (2003)等を参照することができる。
(グラフト重合法)
以下に、高分子鎖集合体を、グラフト重合法を用いて形成する方法を具体的に説明する。
高分子鎖の生成
グラフト重合法で用いる高分子鎖の生成方法は、特に限定されないが、ラジカル重合法を用いることが好ましく、リビングラジカル重合法(LRP)法を用いることがより好ましく、原子移動ラジカル重合(ATRP)法を用いることがさらに好ましい。リビングラジカル重合法は、高分子鎖の分子量や分子量分布をコントロールし易い、様々な種類の共重合体(例、ランダム共重合体、ブロック共重合体、組成傾斜型共重合体等)をグラフト鎖として生成できるという利点がある。また、リビングラジカル重合法によれば、高圧条件やイオン液体溶媒を用いることで、後述の濃厚ポリマーブラシを、その密度および厚さを精密に制御して生成することができる。ここで、リビングラジカル重合法を用いる場合のグラフト重合の方法は、Grafting-from法、Grafting-to法のいずれであってもよいが、Grafting-from法であることが好ましい。リビングラジカル重合法とGrafting-from法を組わせたグラフト重合法の詳細については、特開平11-263819号公報等を参照することができる。また、原子移動ラジカル重合法の詳細については、J. Am. Chem. Soc., 117, 5614 (1995)、Macromolecules, 28, 7901 (1995)、Science, 272, 866 (1996)、Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)を参照することができる。
また、高分子鎖は、ニトロキシド媒介重合法(NMP)、可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合法、可逆移動触媒重合法(RTCP)、可逆的錯体形成媒介重合法(RCMP)等によっても生成することができる。
ラジカル重合法で用いる触媒は、ラジカル重合を制御できるものであればよく、好ましくは遷移金属錯体である。
遷移金属錯体の好ましい例として、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を挙げることができ、中でも、銅錯体、ルテニウム錯体、鉄錯体またはニッケル錯体を用いることが好ましく、銅錯体を用いることがより好ましい
銅錯体は、1価の銅化合物と有機配位子の錯体であることが好ましい。1価の銅化合物として、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等を挙げることができる。有機配位子として、2,2’-ビピリジル若しくはその誘導体、1,10-フェナントロリンもしくはその誘導体、ポリアミン(テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、ヘキサメチルトリス(2-アミノエチル)アミン等)、L-(-)-スパルテイン等の多環式アルカロイド等を挙げることができる。
2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl2(PPh33)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合には、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類を添加するのが好ましい。
2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl2(PPh32)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl2(PPh32)、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr2(PBu32)等も触媒として好適である。
重合反応は溶剤中で行うことが好ましい。
溶剤として、炭化水素系溶剤(ベンゼン、トルエン等)、エーテル系溶剤(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンゼン等)、ハロゲン化炭化水素系溶剤(塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、ケトン系溶剤(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)、アルコール系溶剤(メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等)、ニトリル系溶剤(アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等)、エステル系溶剤(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、カーボネート系溶剤(エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等)、アミド系溶剤(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド)、ハイドロクロロフルオロカーボン系溶剤(1,1-ジクロロ-1-フルオロエタン、ジクロロペンタフルオロプロパン)、ハイドロフルオロカーボン系溶剤(炭素数2~5のハイドロフルオロカーボン、炭素数6以上の及び6以上のハイドロフルオロカーボン)、ペルフルオロカーボン系溶剤(ペルフルオロペンタン、ペルフルオロヘキサン)、脂環式ハイドロフルオロカーボン系溶剤(フルオロシクロペンタン、フルオロシクロブタン)、酸素含有フッ素系溶剤(フルオロエーテル、フルオロポリエーテル、フルオロケトン、フルオロアルコール)、水等を挙げることができる。これらの溶剤は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。また、エマルジョン系もしくは超臨界流体CO2を媒体として重合反応を行ってもよい。
重合開始基の導入
高分子鎖集合体を例えばGrafting-from法を用いて形成するには、基材に重合反応の開始点となる重合開始基を導入し、この重合開始基から、上記の重合方法を用いて高分子鎖をグラフト成長させる。
重合開始基としては、ハロゲン化アルキル基、ハロゲン化スルホニル基等を挙げることができる。
重合開始基は、グラフト鎖の密度(グラフト密度)およびグラフト重合により得られる高分子鎖の一次構造(分子量、分子量分布、モノマー配列様式)を精度よく制御できることから、基材表面に物理的若しくは化学的に結合されているのが好ましい。重合開始基を基材表面に導入(結合)する方法としては、化学吸着法、ラングミュアー・ブロジェット(LB)法等を挙げることができる。
例えば、シリコンウエハ(基材)表面へのクロロスルホニル基(重合開始基)の化学結合による導入は、2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランや2-(4-クロロスルホニルフェニル)エチルトリクロロシラン等を、シリコンウエハ表面の酸化層と反応させることにより行うことができる。
また、LB法により重合開始基を導入するには、重合開始基を含む膜形成材料を適切な溶媒(例、クロロホルム、ベンゼン等)に溶解する。次に、この溶液少量を清浄な液面、好ましくは純水の液面上に展開した後、溶媒を蒸発させるか、または隣接する水相に拡散させて、水面上に膜形成分子による低密度の膜を形成させる。
続いて、仕切り板を水面上で機械的に掃引し、膜形成分子が展開している水面の表面積を減少させることにより膜を圧縮して密度を増加させ、緻密な水面上単分子膜を得る。
次いで、適切な条件下で、水面上単分子膜を構成する分子の表面密度を一定に保ちながら、単分子層を堆積する基材を、水面上単分子膜を横切る方向に浸漬または引き上げることによって、水面上単分子膜を該基材上に移し取り、単分子層を該基材上に堆積する。
LB法の詳細については、「福田清成他著、新実験化学講座18巻(界面とコロイド)6章、(1977年)丸善」、「福田清成・杉道夫・雀部博之編集、LB膜とエレクトロニクス、(1986年)シーエムシー」、或いは、「石井淑夫著、よいLB膜をつくる実践的技術、(1989年)共立出版」を参照することができる。
重合開始基を基材表面に導入するに当たっては、基板に結合する基および基板と親和性を有する基の少なくとも一方と、重合開始基に結合する基および重合開始基と親和性を有する基の少なくとも一方を有する表面処理剤を用いて基材表面を処理することが好ましい。この表面処理剤は低分子化合物であっても、高分子化合物であってもよい。
表面処理剤として、例えば下記一般式(10)で表されるものを挙げることができる。
Figure 0007246597000004
一般式(10)において、nは1~10の整数であり、3~8の整数であることが好ましく、6であることが最も好ましい。
1、R2およびR3は、各々独立に置換基を表す。R1、R2およびR3の少なくとも1つは、アルコキシル基またはハロゲン原子であることが好ましく、R1、R2およびR3の全てがメトキシ基であるか、エトキシ基であることが特に好ましい。
4およびR5は、各々独立に置換基を表す。R4およびR5は、各々独立に炭素数1~3のアルキル基、または芳香族性官能基であることが好ましく、例えばR4とR5の両方がメチル基であることが最も好ましい。
Xは、ハロゲン原子を表し、臭素原子であることが好ましい。
また、表面処理剤として、重合開始基を含有するシランカップリング剤(重合開始基含有シランカップリング剤)を用いることも好ましい。これにより、表面処理と重合開始基の導入を同時に行うことができる。
重合開始基含有シランカップリング剤およびその製造方法の説明については、国際公開第2006/087839号パンフレットの記載を参照することができる。重合開始基含有シランカップリング剤の具体例として、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)、(2-ブロモ-2-メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン(BPE)を挙げることができる。
ここで、グラフト密度を調整する観点から、重合開始基含有シランカップリング剤を表面処理剤に用いる場合には、重合開始基を含有しないシランカップリング剤、例えば、公知のアルキルシランカップリング剤を併用することが好ましい。これにより、重合開始基含有シランカップリング剤と重合開始基を含有しないシランカップリング剤との割合を調整することで、グラフト密度を自在に変更することができる。例えば、シランカップリング剤のすべてが重合開始基含有シランカップリング剤である場合、その表面処理後にGrafting-from法にてグラフト重合を行うことにより、3%を超える表面占有率で高分子鎖を成長させることができる。
なお、表面処理剤として重合開始基含有シランカップリング剤を使用する場合、その重合開始基含有シランカップリング剤を水の存在下で加水分解させてシラノールとし、部分的に縮合させてオリゴマー状態とした後に表面処理に供してもよい。具体的には、このオリゴマーを、例えば
シリカ等の基材に水素結合的に吸着させた後、乾燥処理することで脱水縮合反応を起こさせ、重合開始基を基材に導入してもよい。
(基材)
高分子鎖を固定する担体としての基材は、有機材料、無機材料、金属材料等から適宜選択することができ、疎水性基材であっても親水性基材であってもよい。
基材として用いられる固体として、ポリウレタン系材料、ポリ塩化ビニル系材料、ポリスチレン系材料、ポリオレフィン系材料、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、紙、プラスチックラミネートフィルム、セラミックス(例、アルミナセラミックス、バイオセラミックス、ジルコニア-アルミナ複合セラミックス等の複合セラミックス等)等が挙げられる。
基材として用いられる固体として、金属(例、鉄、鋳鉄、鋼、ステンレス鋼、炭素鋼、高炭素クロム軸受鋼鋼材(SUJ2)等の鉄合金、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン等の非鉄および非鉄合金等)、金属が蒸着された紙、多結晶シリコン等のシリコン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、各種ガラス、石英、及びこれらの複合材料等も挙げられる。
基材として用いられる疎水性の有機材料としては、例えば、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソブチレン、エチレンアルファオレフィン共重合体等)、シリコン重合体、アクリル重合体(例、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリエチルアクリレート等)、及びこれらのコポリマー等が好ましい。
基材として用いられる疎水性の有機材料として、フルオロポリマー(例、ポリテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、フッ素化エチレン-プロピレン、ポリビニルフッ化物等)、ビニル重合体(例、ポリ塩化ビニル、ポリビニルメチルエーテル、ポリスチレン、ポリビニルアセテート、ポリビニルケトン等)、及びこれらのコポリマー等も好ましい。
基材として用いられる疎水性の有機材料として、ビニルモノマー含有共重合体(例、ABS等)、天然及び合成ゴム(例、ラテックスゴム、ブタジエン-スチレン共重合体、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ブタジエン-アクリロニトリル共重合体、ポリクロロプレン重合体、ポリイソブチレンゴム、エチレン-プロピレンジエン共重合体、ポリイソブチレン-イソプレン等)、及びこれらのコポリマー等も好ましい。
基材として用いられる疎水性の有機材料として、ポリウレタン(例、ポリエーテルウレタン、ポリエステルウレタン、ポリカーボネートウレタン、ポリシロキサンウレタン等)、ポリアミド(例、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン11等)、ポリエステル、エポキシ重合体、セルロース、変性セルロース、及びこれらのコポリマー等も好ましい。
基材として用いられる親水性の有機材料としては、親水性アクリル重合体(例、ポリアクリルアミド、ポリ-2-ヒドロキシエチルアクリレート、ポリ-N,N-ジメチルアクリルアミド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等)、及びこれらのコポリマー等が好ましい。
基材として用いられる親水性の有機材料として、親水性ビニル重合体(例、ポリ-N-ビニルピロリドン、ポリビニルピリジン等)、ポリマレイン酸、ポリ-2-ヒドロキシエチルフマレート、無水マレイン酸、ポリビニルアルコール、及びこれらのコポリマー等も好ましい。
基材の形態は、特に限定されず、例えばチューブ、シート、繊維、ストリップ、フィルム、板、箔、膜、ペレット、粉末、微粒子、成型品(例、押出し成型品、鋳込み成型品等)等が好ましく、隙間狭小化材を適用する部材そのものを基材に用いてもよい。
このうち、微粒子状の基材には、以下の材料からなる微粒子を用いることも好ましい。
基材に用いる微粒子の材料は、無機物質および有機物質のいずれであってもよい。例えば、シリカ等のケイ素酸化物、Au、Ag、Pt、Pd等の貴金属、Ti、Zr、Ta、Sn、Zn、Cu、V、Sb、In、Hf、Y、Ce、Sc、La、Eu、Ni、Co、Fe等の遷移金属、それらの酸化物または窒化物等の無機物質、ポリマー等の有機物質を用いることができる。
基材に用いる微粒子の平均粒径は、5nm~30μmであることが好ましく、10nm~10μmであることがより好ましく、10nm~1μmであることがさらに好ましい。これにより、微粒子をコアとして、高い密度でグラフト鎖を成長させることができる。
また、高分子鎖集合体を表面に形成した微粒子(複合微粒子)の平均粒径は、10nm~30μmであることが好ましく、10nm~20μmであることがより好ましく、15nm~10μmであることがさらに好ましく、20nm~3μmであることが特に好ましい。また、複合微粒子は、粒子径のばらつきが20%以下である、粒径分布の狭い複合微粒子であることが好ましい。
基材に用いる微粒子、高分子鎖集合体を表面に形成した微粒子の平均粒径や粒子径のばらつきは、動的光散乱法(DLS)などにより測定することができる。
基材に用いる繊維としては、コットン、再生セルロース、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール等の市販繊維、エレクトロスピニングによるナノファイバー、あるいは天然から入手できるセルロースナノファイバーやバクテリアセルロース等を挙げることができる。
基材が、篏合部材を構成する部材、流体流路を区画する部材、摺動機構を構成する部材のような、隙間狭小化材を適用する部材そのものである場合、その基材の材料は、金属(鉄、ステンレス鋼、炭素鋼、鋳鉄、鋼、SUJ2等の鉄合金、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン等の非鉄および非鉄合金)、樹脂(ポリエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリテトラフロロエチレン等)、シリコンウエハ、ガラス、石英等であることが好ましい。
(高分子鎖の数平均分子量および分子量分布指数)
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500~10,000,000、より好ましくは100,000~10,000,000である。
高分子鎖集合体における分子量分布指数(PDI=Mw/Mn)は、1.5以下が好ましく、1.01~1.5がより好ましい。
高分子鎖の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(PDI)が上記の範囲であることにより、隙間狭小化材は、より優れた隙間狭小化作用と機械的特性、低摩擦性を示すものになる。
高分子鎖の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、フッ化水素酸処理により基材から高分子鎖を切り出し、切り出した高分子鎖についてサイズ排除クロマトグラフィー法による分子量分析を行うことで測定することができる。
あるいは、高分子鎖の重合反応に際して生成するフリーポリマーが、基材に固定される高分子鎖と等しい分子量を有すると仮定して、そのフリーポリマーについてサイズ排除クロマトグラフィー法により、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を測定し、これをそのまま高分子鎖の数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)として用いる方法も採用することもできる。なお、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)は、基材に固定される高分子鎖と重合反応時に生成するフリーポリマーでほぼ等しいことを確認している。
以下に、フリーポリマーを用いる分子量の測定方法について具体的に説明する。
高分子鎖を表面開始リビングラジカル重合で合成する際、重合溶液に遊離開始剤を添加すると、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖と同等の分子量および分子量分布を有するフリーポリマーを得ることができる。このフリーポリマーを、サイズ排除クロマトグラフィー法にて分析することにより、数平均分子量(Mn)および分子量分布指数(Mw/Mn)を決定する。なお、サイズ排除クロマトグラフィー分析は、入手可能な分子量既知の同種単分散の標準試料を用いた較正法、多角度光散乱検出器を用いた絶対分子量評価を行うものである。
(高分子鎖の密度)
高分子鎖集合体における高分子鎖の密度は、高分子鎖や含侵させる液状物質の種類によっても異なるが、以下の範囲であることが好ましい。これにより、隙間狭小化材は、より優れた隙間狭小化作用と機械的特性、低摩擦性を示すものになる。
高分子鎖がポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)である場合、高分子鎖集合体における高分子鎖の密度は、好ましくは0.1鎖/nm2以上、より好ましくは0.15鎖/nm2以上、さらに好ましくは0.2鎖/nm2以上、さらにより好ましくは0.3鎖/nm2以上、特に好ましくは0.4鎖/nm2以上、最も好ましくは0.45鎖/nm2以上である。
高分子鎖がポリ(ラウリルメタクリレート)(PLMA)である場合、高分子鎖集合体における高分子鎖の密度は、好ましくは0.04鎖/nm2以上、より好ましくは0.06鎖/nm2以上、さらに好ましくは0.08鎖/nm2以上、さらにより好ましくは0.12鎖/nm2以上、特に好ましくは0.16鎖/nm2以上、最も好ましくは0.18鎖/nm2以上である。
高分子鎖がポリ(N,N-ジエチル-N-(2-メタクリロイルエチル)-N-メチルアンモニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド)(PDEMM-TFSI)である場合、高分子鎖集合体における高分子鎖の密度は、好ましくは0.02鎖/nm2以上、より好ましくは0.03鎖/nm2以上、さらに好ましくは0.04鎖/nm2以上、さらにより好ましくは0.06鎖/nm2以上、特に好ましくは0.08鎖/nm2以上、最も好ましくは0.09鎖/nm2以上である。
高分子鎖の密度の測定は、例えば、Macromolecules, 31, 5934-5936 (1998)、Macromolecules, 33, 5608-5612 (2000)、Macromolecules, 38, 2137-2142 (2005)等に記載のグラフト密度の測定方法に従って行うことができる。
具体的には、高分子鎖の密度(鎖/nm2)は、グラフト量(W)とグラフト鎖の数平均分子量(Mn)を測定し、下記式を用いて求めることができる。
グラフト密度(鎖/nm2)=W(g/nm2)/Mn×(アボガドロ数)
式において、Wはグラフト量を表し、Mnは数平均分子量を表す。
グラフト量(W)は、基材がシリコンウエハのような平面基板の場合には、エリプソメトリー法により乾燥状態の膜厚、即ちグラフトされた高分子鎖層の乾燥状態における厚みを測定し、バルクフィルムの密度を用いて、単位面積当たりのグラフト量(W)を算出することにより求めることができる。
基材がシリカ粒子等の微粒子である場合には、赤外吸収分光測定(IR)、熱重量損失測定(TG)、元素分析測定等によりグラフト量(W)を測定することができる。
数平均分子量(Mn)の測定方法については、(高分子鎖の数平均分子量および分子量分布指数)の欄の記載を参照することができる。
(高分子鎖の表面占有率)
基材表面における高分子鎖の表面占有率(ポリマーの断面積×グラフト密度×100)は、3%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることがさらに好ましい。表面占有率は、基材表面をグラフト点(1つ目の構成単位)が占める割合を意味し、最密充填で100%である。
グラフト密度の算出方法については、(高分子鎖集合体の密度)の欄の記載を参照することができる。また、ポリマーの断面積は、ポリマーの伸びきり形態における繰り返し単位長さとポリマーのバルク密度を用いて求めることができる。
ここで、表面占有率が3%以上である高分子鎖集合体は、良溶媒で膨潤されると濃厚溶液を形成する濃厚ポリマーブラシ(CBP)であり、希薄なポリマーブラシに比べて、隙間狭小化材として有利な特性を示す。すなわち、濃厚ポリマーブラシは、良溶媒で膨潤されると、濃厚溶液系ゆえの大きな浸透圧効果によって、高分子鎖が伸び切り鎖長に匹敵する程に高度に伸張し、その膜厚が増すと同時に、高い圧縮抵抗を与える。また、一定以上の大きさの分子をブラシ層に取り込まない明確なサイズ排除効果を発現し、さらに、高分子鎖の収縮による絡み合いが抑制されて顕著な低摩擦性を示す。そのため、この濃厚ポリマーブラシは、隙間を狭小化して、流体に対する密封性を上げる効果が極めて高く、また、篏合部のような強い力を受ける隙間(嵌合部の間隙)に配されて部材に摺動された場合でも、摩耗しにくく、その部材の円滑な動作に貢献することができる。そのため、この濃厚ポリマーブラシは隙間狭小化材として極めて有用性が高く、特に、分子量分布指数が1.5以下の濃厚ポリマーブラシは、隙間狭小化材として特に有用である。
また、基材が微粒子である場合には、高分子鎖の表面占有率は、数%以上の高密度であることが好ましく、より好ましくは5~50%であり、更により好ましくは10~40%である。このような範囲のグラフト密度とすることにより、グラフト鎖が異方的な形態(高伸張形態)をとる。
[B]ボトルブラシ構造を有するポリマー
次に、ボトルブラシ構造を有するポリマーについて説明する。
ボトルブラシ構造は、主鎖から複数の側鎖が分岐していて、全体としてボトルブラシ様の形状をなす分岐高分子構造のことをいう。ボトルブラシ構造を有するポリマーは、主鎖が隙間狭小化材の基材を構成し、側鎖が隙間狭小化材の高分子鎖を構成するが、さらに、ボトルブラシ構造を有するポリマーが、担体としての基材に固定されていてもよい。この基材の説明と好ましい範囲、具体例については、上記のポリマーブラシにおける(基材)の欄の記載を参照することができる。また、この場合、ボトルブラシ構造を有するポリマーとポリマーブラシの両方を基材に固定してもよい。その場合、ポリマーブラシは濃厚ポリマーブラシであることが好ましい。
ボトルブラシ構造を有するポリマーも、グラフト重合法により得ることができる。このグラフト重合は、予め合成した反応性側鎖(グラフト鎖)を、主鎖となる幹ポリマーに結合させるGrafting-to法、マクロ開始剤(重合開始基を導入した幹ポリマー)の重合開始基から側鎖(グラフト鎖)を成長させるGrafting-from法、マクロモノマー(側鎖構成ポリマーの末端に重合性官能基を有するポリマー)を重合させるGrafting-through法を用いて行うことができる。また、これらの側鎖や幹ポリマーの合成には、リビングアニオン重合、開環メタセシス重合(ROMP)、あるいは汎用性の高いリビングラジカル重合法(LRP)を用いることができる。
ボトルブラシ構造を有するポリマーの好ましい例として、下記一般式(11)で表される化合物を挙げることができる。
Figure 0007246597000005
一般式(11)中、R1及びR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、R3は置換基を表し、炭素数が1~10のアルキル基であることが好ましい。R4及びR5は原子または原子団からなる末端基を表し、水素原子、ハロゲン、重合開始剤由来の官能基等が挙げられる。Xは、OまたはNHを表し、Yは、2価の有機基を表し、nは、10以上の整数を表し、Polymer Aは、高分子鎖を表す。一般式(11)で表される化合物では、nで括られた構成単位の繰り返し構造がボトルブラシ構造の主鎖に相当し、Polymer Aがボトルブラシ構造の側鎖に相当する。
Yが表す有機基として、炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基(RO)(Rは炭素数1~5のアルキレン基を表す)、このオキシアルキレン基が複数連結した連結構造、または、これらの有機基(炭素数1~10のアルキレン基、炭素数1~5のオキシアルキレン基及びオキシアルキレン基の連結構造)のうちの少なくとも2つの組み合わせからなる2価の有機基等を挙げることができる。ここで、アルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、直鎖状であっても分枝状であってもよく、環状構造を有していてもよい。アルキレン基の具体例として、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、シクロヘキシレン基を挙げることができる。このアルキレン基およびオキシアルキレン基のアルキレン基は、置換基で置換されていてもよい。置換基として、炭素数1~10のアルキル基、炭素数6~40のアリール基、炭素数3~40のヘテロアリール基を挙げることができ、これらの置換基はさらに置換基で置換されていてもよい。
Polymer Aの説明と好ましい範囲、具体例については、上記の(高分子鎖)の欄の記載を参照することができる。Polymer Aは、主鎖の構成単位同士で、互いに同一であっても異なっていてもよい。
(側鎖の表面占有率)
ボトルブラシ構造を有するポリマーについて、主鎖を中心軸とし、その中心軸から側鎖(グラフト鎖)を直線状に延ばして、その先端を含む面を想定したとき、そのポリマーの外形は、その先端を含む面を側面とする円柱と捉えることができる。こうした外形を有するポリマーでは、グラフト鎖の長さが長くなる程、その側面におけるグラフト鎖の密度が低下し、グラフト鎖の構造上の自由度が高くなる。その結果、グラフト鎖は自由に折り畳まれ得ることになる。
ここで、ボトルブラシの表面占有率(σ*)は、下記式(1)で表される。
Figure 0007246597000006
式(1)において、σは、下記式(2)で求められるグラフト密度を表し、グラフト鎖部分の繰り返し単位1個当たりの体積(v0[nm3])は、下記式(3)で求められる。
Figure 0007246597000007
式(2)において、αは、グラフト鎖部分の繰り返し単位の長さを表す。
式(1)について、グラフト鎖部分がビニル系単量体から構成される場合には、グラフト鎖部分の繰返し単位の長さは0.25nmとなる。よって、この場合には、式(1)は下記式(1’)に変換することができる。
Figure 0007246597000008
式(1’)において、σは下記式(2’)で求められるグラフト密度を表す。
Figure 0007246597000009
式(2)および(2’)で求められるグラフト密度(σ)は、ポリマー側面の、単位面積当たりのグラフト鎖の数を示すため、式(1)および(1’)で求められる表面占有率(σ*)は、グラフト鎖を主鎖から垂直方向に直線上に伸ばした状態での、ポリマー側面におけるグラフト鎖先端部が占める割合を表す値である。表面占有率(σ*)は0~100%の値を示し、数値が大きくなる程、ポリマー側面のグラフト鎖先端部が占める割合が大きくなり、グラフト鎖の自由度が制限されることになる。すなわち、表面占有率は、グラフト鎖の自由度を反映する数値であり、表面占有率(σ*)が高い程、グラフト鎖の構造上の自由度が制限される。その結果、グラフト鎖が主鎖に対して、略垂直方向に延びた状態を維持することができ、その構造に特有の性質を示すと推測される。
ボトルブラシ構造を有するポリマーは、こうして求められる表面占有率(σ*)が3%以上であることが好ましい。これにより、ボトルブラシ構造を有するポリマーは、上記の濃厚ポリマーブラシと同様の特性を示し、隙間狭小化材として効果的に用いることができる。表面占有率の上限は特に限定されないが、通常、100%以下である。さらに、ボトルブラシ構造を有するポリマーの表面占有率は、例えば3%以上が好ましく、5%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。
[その他の成分]
本発明の隙間狭小化材は、高分子鎖集合体やボトルブラシ構造を有するポリマーのみで構成されていてもよいし、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分として、高分子鎖集合体を膨潤させる液状物質を挙げることができ、その液状物質には潤滑液を用いることが好ましい。高分子鎖集合体は、液状物質で膨潤させることによって高分子鎖が伸張し、高い隙間狭小化作用と優れた機械的特性、低摩擦性を示す。
潤滑液としては良溶媒を用いることができる。良溶媒は、高分子鎖の種類によって異なるため、隙間狭小化材が含む高分子鎖の種類に応じて適宜選択することが好ましい。
例えば、高分子鎖集合体を構成する高分子鎖がポリ(メチルメタクリレート)である場合には、良溶媒として、トルエン等の非極性溶媒または疎水性のイオン液体を用いることが好ましい
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖がポリ(2-ヒドロキシエチルメタクリレート)である場合には、良溶媒として、メタノール等の極性溶媒を用いることが好ましい。
高分子鎖集合体を構成する高分子鎖が親水性高分子鎖である場合には、良溶媒として、水を含む水系溶媒を用いることが好ましい。
不揮発性、難燃性、耐熱性、電気化学的安定性等の観点から、高分子鎖がイオン液体と親和性が高い場合(特に、高分子鎖が、イオン性の解離基を有するものである場合)には、イオン液体を潤滑液に用いることが好ましい。
イオン液体とは、イオン性液体または常温溶融塩とも呼称される、イオン伝導性を有する低融点の塩である。イオン液体の多くは、カチオンとしての有機オニウムイオンと、アニオンとしての有機または無機アニオンとを組み合わせることにより得られる比較的低融点の特性を有するものである。イオン液体の融点は、通常100℃以下、好ましくは室温(25℃)以下である。
イオン液体の融点は、示差走査熱量計(DSC)などにより測定することができる。
イオン液体としては、下記一般式(10)で表される化合物を用いることができる。このイオン液体の融点は、50℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましい。
Figure 0007246597000010
一般式(10)において、R3、R4、R5およびR6は、各々独立に炭素数1~5のアルキル基、またはR’-O-(CH2n-で表されるアルコキシアルキル基を表し、R’はメチル基またはエチル基を表し、nは1~4の整数である。R3、R4、R5およびR6は互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R3、R4、R5およびR6のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。但し、R3、R4、R5およびR6の少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。
3、R4、R5およびR6における炭素数1~5のアルキル基として、メチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基等が挙げられる。
3、R4、R5およびR6において、R’-O-(CH2n-で表されるアルコキシアルキル基としては、メトキシメチル基またはエトキシメチル基、2-メトキシエチル基または2-エトキシエチル基、3-メトキシプロピル基または3-エトキシプロピル基、4-メトキシブチル基または4-エトキシブチル基等が好ましい。
3、R4、R5およびR6のいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成している化合物としては、Xに窒素原子を採用した場合には、アジリジン環、アゼチジン環、ピロリジン環、ピペリジン環等を有する4級アンモニウム塩等が好ましく、Xにリン原子を採用した場合には、ペンタメチレンホスフィン(ホスホリナン)環等を有する4級ホスホニウム塩等が好ましい。
また、4級アンモニウム塩としては、置換基として、R’がメチル基であり、nが2の2-メトキシエチル基を少なくとも1つ有するものが好適である。
イオン液体として、メチル基、2つのエチル基およびアルコキシエチル基を有する下記一般式(11)で表される4級塩も好適に用いることができる。
Figure 0007246597000011
一般式(11)において、R’はメチル基またはエチル基を表し、Xは窒素原子またはリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。Meはメチル基、Etはエチル基をそれぞれ表す。
一般式(10)および(11)における一価のアニオンYとしては、特に限定されるものではない。
一価のアニオンYとしては、BF4-、PF6-、AsF6-、SbF6-、AlCl4-、NbF6-、HSO4-、ClO4-、CH3SO3-、CF3SO3-、CF3CO2-、(CF3SO22N-、Cl-、Br-、I-等のアニオンを用いることが好ましい。
一価のアニオンYとしては、非水系有機溶媒中での解離度、安定性及び移動度等を考慮すると、特に、BF4-、PF6-、(CF3SO22N-、CF3SO3-、またはCF3CO2-であることが好適である。
一般式(10)および(11)で表される4級塩のうち、好適に用いられる4級アンモニウム塩および4級ホスホニウム塩の具体例として、下記式(12)~(20)のいずれかで表される化合物が挙げられる(Meはメチル基、Etはエチル基を示す)。中でも、下記式(12)または(17)で表される4級アンモニウム塩を用いることがより好ましい。さらに、粘度が低く、そのため、摺動時の動摩擦係数をより低減できるという点から、下記式(17)で表される4級アンモニウム塩を用いることが特に好ましい。
Figure 0007246597000012
一般式(10)および(11)で表される化合物以外のイオン液体を潤滑液に用いても良い。他のイオン液体としては、例えば、下記一般式(21)で表されるイミダゾリウムイオンを含むイオン液体や芳香族系カチオンを含むイオン液体を挙げることができる。
イミダゾリウムイオンを含むイオン液体およびその他の芳香族系カチオンを含むイオン液体を形成するカウンターアニオンの説明と具体例については、上記の一般式(10)、(11)におけるYの説明と具体例を参照することができる。
Figure 0007246597000013
一般式(21)において、R7は炭素数1~4のアルキル基または水素原子を表し、メチル基であることが特に好ましい。
8は炭素数10以下のアルキル基を表し、エーテル結合を含んでいてもよい。R8はエチル基であることが特に好ましい。
9、R10およびR11は、各々独立に水素原子または炭素数が1~20のアルキル基を表し、エーテル結合を含んでいてもよい。
また、下記式(22)~(27)のいずれかで表される化合物等の、芳香族系カチオンを含むイオン液体も潤滑液として好ましい。
Figure 0007246597000014
高分子鎖集合体を液状物質で膨潤させる方法は特に限定されないが、例えば、高分子鎖集合体の表面に液状物質を塗布した後、静置して含侵させる方法や、高分子鎖集合体を形成した基材を液状物質中に浸漬させる方法等が好ましい。
[隙間狭小化材の特性]
(高分子鎖集合体の膜厚)
本発明の隙間狭小材において、高分子鎖集合体の乾燥膜厚は、200nm以上であることが好ましく、500nm以上であることがより好ましく、1000nm以上であることがさらに好ましい。これにより、高分子鎖集合体を膨潤させたとき、下記の好ましい範囲の潤滑膜厚を実現することができる。
高分子鎖集合体の膨潤状態での膜厚(膨潤膜厚)は、500nm以上であることが好ましく、700nm以上であることがより好ましく、800nm以上であることがさらに好ましく、1,000nm以上であることが特に好ましい。これにより、この隙間狭小化材を配した隙間の空間を効果的に狭小化することができ、この隙間において、より高い密封性と優れた機械的特性、より低い摩擦性を実現することができる。
これらの乾燥膜厚と膨潤膜厚の好ましい範囲は、高分子鎖集合体をシリコウェーハ製の基材に適用した場合の膜厚である。
また、高分子鎖集合体の膨潤状態での膜厚は、高分子鎖集合体の乾燥膜厚の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。
高分子鎖集合体の潤滑膜厚は、高分子鎖の鎖長(構成単位の数)や表面占有率(密度)によって制御することができる。隙間狭小化材は、高分子鎖集合体が濃厚ポリマーブラシであって、その膨潤状態での膜厚が500nm以上であることが特に好ましい。
高分子鎖集合体の乾燥膜厚は、分光エリプソメトリー法などにより測定することができる。
高分子鎖集合体の膨潤膜厚は、以下の方法により測定することができる。
室温の大気圧下で、高分子鎖集合体に良溶媒を含侵させて膨潤層とし、この膨潤層を隙間構成部材と同種の平板基板(モデル基板)に付与して、原子間力顕微鏡(AFM)コロイドプローブ法により評価する。具体的には、AFMカンチレバーの先端に、直径10μmのシリカプローブ粒子を固定し、原子間力顕微鏡にて、隙間狭小化材の膨潤層に対するフォースカーブ(反発力の距離依存性)を測定するとともに、膨潤層の一部をスクラッチした境界近傍について、フォースカーブ測定時の最大荷重にてAFMイメージングを行い、段差プロファイルを評価する。ここでは、フォースカーブから求められる最大押込距離に境界近傍段差を加えた値を膨潤膜厚とする。
(高分子鎖集合体の押し込み量および圧縮弾性率)
本発明の隙間狭小化材において、高分子鎖集合体の押し込み量は100nm以上であることが好ましく、120nm以上であることがより好ましく、150nm以上であることがさらに好ましい。
本発明の隙間狭小化材は、高分子集合体の圧縮弾性率が0.1MPa以上であることが好ましく、1MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがさらに好ましい。
これにより、大きな荷重を支えることができるとともに、隙間を形成している部材の寸法精度や機械的精度が低い場合でも、その誤差を吸収して隙間の空間を効果的に埋めることができ、また、隙間を形成している部材同士の相対運動を妨げず、円滑な動作の実現に貢献することができる。特に、隙間狭小化材が摺動機構の隙間に配される場合、隙間狭小化材にかかる面圧が高くなるため、圧縮弾性率が上記範囲であることが耐久性の点で効果的である。
隙間狭小化材の押し込み量、圧縮弾性率は、AFMコロイドプローブ法にて測定することができる。具体的には、AFMカンチレバー(例えばOMCL-RC800、Olympus Corp.、ばね定数 0.1N/m)の先端に、直径10μmのシリカプローブ粒子(HIPERECICA SP、宇部日東化成、直径10μm)を固定し、原子間力顕微鏡(Nano-Wizard、JPK Instruments Inc.)にて、高分子鎖集合体に対するフォースカーブ測定を行う。このとき、基板表面からの距離を評価するために、シリコン基板上の隙間狭小化材の一部をスクラッチした境界近傍を観察し(AFMイメージング)、段差プロファイルを評価し、フォースカーブのオフセット補正を行う。例えば、隙間狭小化材に対して、o-ジクロロベンゼン等の溶媒を用い、ばね定数(0.1 N/m、0.57 N/m、3.3 N/m、51 N/m)の異なるカンチレバーを用いて測定した結果を結合して、広い荷重範囲にわたるフォースカーブを得ることができる。本発明の隙間狭小化材では、好ましくは100nm以上の押し込み量が確保され、また、このフォースカーブより、圧縮弾性率を見積もることができる。圧縮弾性率(ヤング率)は、フォースカーブから力距離曲線を描き、Hertz接触を仮定し、下記式を用いて算出する。なお、ここでは、ポアソン比は0.5とする。測定手順の詳細については、Yamamoto, S. et al, Macromolecules, 33, 5602-5607, (2000)およびYamamoto, S. et al, Macromolecules, 33, 5608-5612, (2000)に記載されている。
Figure 0007246597000015
式において、Eは圧縮弾性率を表し、δは押し込み距離を表し、νはポアソン比を表し、Rはコロイド半径を表し、Fは力を表す。
(隙間狭小化材の摩擦係数)
本発明の隙間狭小化材の摩擦係数(μ)は0.1以下であることが好ましく、0.01以下であることがより好ましく、10-3以下であることがさらに好ましい。これにより、隙間を形成している一方の部材が他方の部材に対して相対運動する場合でも、その相対運動を隙間狭小化材が妨げることがなく、円滑な動作を実現することができる。
隙間狭小化材の摩擦係数(μ)は、図1に示す狭小隙間モデル試験機を用い、以下のようにして測定することができる。
リングの内周面およびロッドの外周面に、隙間狭小化材としての高分子鎖集合体を付与して、リングの内側にロッドを挿入する。挿入したロッドを、リング内周面の上端にロッドの一方の側が接触し、リング内周面の下端にロッドの他方の側が接触する片当たり接触状態に位置決めし、この状態で、上部空間にイオン液体0.5mLを注入する。続いて、ロッドを、Z軸方向に、1mm/sの速度で10mm下降移動させる。このとき、リングとロッドの間に摺動抵抗が生じてリングが力を受ける。そのリングが受ける並進力とモーメントを6成分動力計により計測し、摩擦係数μを算出する。
この摩擦係数の測定方法の詳細な条件および摩擦係数の算出方法については、実施例の欄を参照することができる。
隙間狭小化材は、圧縮弾性率が1MPa以上であり、摩擦係数(μ)が0.1以下であることが好ましく、さらに、潤滑膜厚が隙間の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。
[隙間狭小化材の使用態様]
本発明の隙間狭小化材は、隙間を形成する部材の隙間側の表面に固定して使用することができる。以下の説明では、隙間を形成する部材を隙間形成部材といい、隙間を形成する部材の隙間側の表面を「隙間形成面」ということがある。
隙間狭小化材を固定する面は、隙間を挟んで互いに対峙する面(隙間形成面)の一方であっても両方であってもよいが、両方であることが好ましい。これにより、隙間を効果的に狭小化できるとともに、隙間形成部材が互いに相対運動する一対の部材で構成されているとき、その間の摩擦係数を飛躍的に低減することができる。すなわち、高分子鎖集合体の膨潤層が固定された一対の部材は、その膨潤層の表面同士が接するように重ねて荷重を加えたとき、膨潤層同士で高分子鎖の相互貫入が起こり難い。そのため、こうした膨潤層が固定された一対の部材間では、膨潤層の嵩によって隙間が効果的に狭小化し、また、潤滑層間で高分子鎖が絡み合わずに表面同士が滑り合い、極めて低い摩擦性を示す。
本発明の隙間狭小化材は、液状物質で膨潤させて使用することが好ましい。液状物資による膨潤は、隙間狭小化材を部材に固定する前に行ってもよいし、隙間狭小化材を部材に固定した後に行ってもよい。隙間狭小化材を液状物質で膨潤させる方法については、[その他の成分]の欄の対応する記載を参照することができる。
本発明の隙間狭小化材を隙間形成部材に固定する方法は、特に限定されないが、例えば以下のようにして行うことができる。
隙間狭小化材は、例えばシート状の基材の表面に高分子鎖をグラフト成長させて作製することができる。得られたシート状の隙間狭小化材複合体は、隙間形成部材の隙間形成面に、接着、溶着等公知の方法により固定することができる。
隙間狭小化材は、例えば微粒子状の基材の表面に高分子鎖をグラフト成長させて作製することができる。得られた微粒子状の隙間狭小化材複合体は、隙間形成部材の隙間形成面に、接着、溶着等公知の方法により固定することができる。
隙間狭小化材は、例えば繊維状の基材の表面に高分子鎖をグラフト成長させて作製することができる。得られた隙間狭小化材複合体は、隙間形成部材の隙間形成面に、接着、溶着等公知の方法により固定することができる。
隙間狭小化材は、隙間形成部材を基材として、その隙間形成面に高分子鎖をグラフト成長させることで作製してもよい。この場合には、隙間狭小化材は隙間形成部材に固定された状態で作製されるため、別途、隙間狭小化材を固定する工程を行う必要がない。そのため、工程を簡易化することができる。
隙間狭小化材は、高分子鎖からなる主鎖を基材とし、その主鎖から側鎖である高分子鎖をグラフト成長させることで、ボトルブラシ状ポリマーの集合体として作製することができる。得られたボトルブラシ状ポリマーの集合体は、溶液として隙間形成部材の隙間形成面に付着させた後、アニーリング処理を行うことにより固定することができる。このとき、溶液を付着させる隙間形成面は、オルトケイ酸テトラエチル等の溶液で表面処理を行い、表面をシリカ等でコートすることが好ましい。また、ボトルブラシ状ポリマー溶液の隙間形成面への付着は、例えば、その溶液に隙間形成部材を浸漬することで行うことができる。
本発明の隙間狭小化材を適用する隙間形成部材の隙間の幅は、特に制限されないが、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。
隙間狭小化材の流体の漏れを抑制する効果は、隙間狭小化材を隙間形成部材に固定して、その隙間における流体の漏れ量から求めた高分子鎖集合体の実効膜厚bを指標に評価することができる。ここで、高分子鎖集合体の実効膜厚は、下記式(4)における実効膜厚bのことをいう。
Figure 0007246597000016
式(4)において、hは半径隙間(μm)を表し、Qは前記隙間を形成している部材の表面に高分子鎖集合体を固定した後、前記隙間の開口部にDEME-TFSIからなるイオン液体を載せたときの、前記イオン液体の前記隙間からの漏れ量(mL)を表し、aは実験条件(隙間の差圧、液体粘度、隙間長、隙間外径)から定まる係数(mL/秒・μm3)を表し、bは前記隙間における高分子鎖集合体の実効膜厚を表す。
高分子鎖集合体の実効膜厚bは、図1に示す狭小隙間モデル試験機を用いて測定することができる。その測定方法の詳細については、実施例の欄の記載を参照することができる。
膨潤状態での高分子鎖集合体の実効膜厚bは、高分子鎖集合体の乾燥膜厚の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。
また、隙間狭小化材を固定した隙間形成部材において、半径隙間hに対する高分子鎖集合体の実効膜厚bの比率は、20%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。
隙間の幅や、高分子鎖集合体の実効膜厚を上記の範囲とすることにより、隙間を介した流体の漏れを効果的に抑制することができる。
<隙間狭小化材複合体>
本発明の隙間狭小化材複合体は、本発明の隙間狭小化材と、この隙間狭小化材が固定された基材を有する。
本発明の隙間狭小化材の説明については、<隙間狭小化材>の欄の記載を参照することができ、基材の説明については、隙間狭小化材における(基材)の欄の記載を参照することができる。隙間狭小化材複合体の使用態様については、隙間狭小化材における[隙間狭小化材の使用態様]
の欄の記載を参照することができる。
<隙間狭小化材の用途>
本発明の隙間狭小化材は、様々な物品の隙間に適用することができ、特に、流体が通過しうる隙間を有する物品であって、隙間から流体が漏れ出ることを抑制する必要があるものや、隙間を形成している一対の部材の一方が他方に対して相対運動する物品(特に狭小隙間を有した往復摺動機構を有する物品)、ジャーナル軸受、シーリング、ピストン、ラビリンスシール等に効果的に適用することができる。具体的には、互いにはまり合う形状をなす一対の部材が互いに篏合して構成された篏合部材の一対の部材同士の隙間、特に、篏合孔と該篏合孔に嵌挿されるシャフトを有し、そのシャフトが軸方向に往復移動する機構を有する物品の篏合孔とシャフトの隙間に、好適に適用することができる。これらの物品に、本発明の隙間狭小化材を適用すると、その隙間を狭小化して隙間からの流体の漏れを効果的に抑制することができ、また、その相対運動を妨げることがなく、円滑な動作の実現に貢献することができる。
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
[1]評価に用いた試験装置
本実施例では、図1に示す狭小隙間モデル試験機を用い、室温25℃、湿度20~40%の条件で、隙間狭小化材の密封性能および摩擦特性の評価試験を行った。
この狭小隙間モデル試験機は、ハウジング1の中間に着脱可能に固定されたリング2と、リング2の内側に挿入されるロッド3と、ロッド3の位置決めとZ軸方向への往復移動を行うロッド移動機構4と、圧力測定装置5を有する。ハウジング1内の空間はリング2で上下に仕切られ、リング2の下方にある下部空間1aと、リング2の上方にある上部空間1bが形成されている。下部空間1bは圧力測定装置5の真空容器に接続管にて接続されており、上部空間1bは密封性能の評価に用いる流体の貯留空間を構成する。この狭小隙間モデル試験機では、リング2の内周面とロッド3の外周面との間の狭小隙間が、隙間狭小化材を配する隙間に相当する。ここでは、図2に示すように、この隙間の幅(半径方向の長さ)を「半径隙間h」という。
本実施例で使用したロッドおよびリングの条件を以下に示す。ここでは、ロッドとして9.92~9.99mmの範囲で外径が異なるものを用意し、挿入するロッドの外径を変えることで、リングとロッドの間の隙間の幅(半径隙間h)を5~40μmの範囲で調整するようにした。
ロッドの条件:
材質:SUJ2
軸長:50mm
表面粗さRa:0.01μm
外径:9.92~9.99mm
リングの条件
材質:SUJ2
軸長:10mm
表面粗さRa:0.01μm
内径:10.00mm
隙間長:10mm
(密封性試験)
上記の狭小隙間モデル試験機による密封性能の評価は、以下のようにして行った。
まず、リングの内周面およびロッドの外周面の少なくとも一方に隙間狭小化材を付与して、リングの内側にロッドを挿入する。そして、ロッドとリングが非接触状態(x方向並進力Fx:0N)となるようにロッドを位置決めし、この状態で、上部空間に流体0.5mLを注入し、真空容器と下部空間を接続する接続管のバルブを開く。これにより、リングとロッドの隙間に差圧(50kPa)が生じ、上部空間の流体が隙間を通って下部空間に漏れ出てくる。これに伴って真空容器内の圧力が変化するため、その圧力の変化量ΔPを圧力測定装置にて測定する。この圧力変化量ΔPから、下記式(1)を用いて流体の漏れ量Qを算出し、隙間狭小化材の密封性能を評価した。
なお、式(1)は、流体の漏れによる真空容器内の体積変化を等温変化であると仮定して導いた流体の漏れ量の算出式である。
Figure 0007246597000017
0:真空容器内の空気の初期体積
0:真空容器内の初期圧力
ΔP:バルブを開いた後の圧力変化量(液体が漏れ出ることによる圧力変化量)
Δt:バルブを開いた時点から圧力変化量の測定時点までの経過時間
(摩擦試験)
上記の狭小隙間モデル試験機による摩擦特性の評価は、以下のようにして行った。
まず、リングの内周面およびロッドの外周面の少なくとも一方に隙間狭小化材を付与して、リングの内側にロッドを挿入する。挿入したロッドを、リング内周面の上端にロッドの一方の側が接触し、リング内周面の下端にロッドの他方の側が接触する片当たり接触状態(x方向並進力Fx:-5N)に位置決めし、この状態で、上部空間にイオン液体0.5mLを注入する。続いて、ロッドを、Z軸方向に、1mm/sの速度で10mm下降移動させる。このとき、リングとロッドの間に摺動抵抗が生じてリングが力を受ける。そのリングが受ける並進力とモーメントを6成分動力計により計測し、下記式(2)を用いて摩擦係数μを算出した。
なお、式(2)は、リングについて静的釣り合いが成立すると仮定して導いた摩擦係数μの算出式である。また、この摩擦係数μを測定するための操作は、ロッドを100往復させる慣らし運転を行った後に実施した。
Figure 0007246597000018
z、Fx:動力計により計測される並進力
y:動力計により計測されるモーメント
1: リング上端の力の作用点から動力計までの距離
2: リング下端の力の作用点から動力計までの距離
[2]隙間狭小化材の作製と評価
(実施例1) 隙間狭小化材1の作製
まず、メチルメタクリレート(MMA)を原子移動ラジカル重合法で重合するためのATRP溶液を、Polymer, 49, 2008, 2426-2429に記載の方法に従って調製した。基材となるロッド(外径が異なる各ロッド)およびリングを用意し、それらの表面に、上記のATRP溶液を用いて、60℃、500MPaで表面開始リビングラジカル重合を行った。
具体的には、メチルメタクリレート(29.0g、4.7mol/L)、Cu(I)Br(0.132g、0.015mol/L)、Cu(II)Br2(0.0279g、0.0020mol/L)、4,4'-ジノニル-2,2'-ビピリジン(0.937g、0.038mol/L)、アニソール(30.00g)を入れたフッ素樹脂容器に、アルゴン雰囲気下で、(2-ブロモイソブチロキシ)プロピルトリメトキシシランを表面に固定化したスチールロッド、スチールリング、シリコンウェハを入れた。容器を密閉してアルミ袋で覆い、高圧反応装置に入れて400MPa 、60℃で16時間重合反応を行った。重合後、CPBがグラフトしたスチールサンプルを、振盪装置を用いてテトラヒドロフランで数回洗浄した。その後、乾燥することによって、隙間狭小化材1としてのポリマーブラシ層が固定されたロッドとリングを得た。
また、反応溶液から、サンプルを取り出して、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶出溶媒:テトラヒドロフラン)および偏光解析法により、分子量とポリマーブラシ層の乾燥膜厚(グラフト量)を分析した。グラフト鎖の分子量は、シリコンウエハ上に形成されたグラフト膜を10%フッ化水素酸で処理するこることで得た遊離グラフト膜を用い評価した。その結果、ロッドとリングの各表面に形成されたポリマーブラシ層は、乾燥膜厚が1.8μm、数平均分子量(Mn)が400万、分子量分布指数(PDI)が1.53、高分子鎖の密度が0.34鎖/nm2、高分子鎖の表面占有率が19%であった。
また、シリコンウエハ上に、上記と同様にして、乾燥膜厚1,900nmのポリマーブラシ層を形成し、イオン液体DEME-TFSIで膨潤させた。この膨潤層をばね定数0.1N/mのカンチレバーにてAFMフォースカーブ測定に供したところ、平衡膨潤膜厚が6,400nm、押し込み量が440nmであった。ばね定数がより大きなカンチレバーを用いれば、その圧縮弾性率は1MPa超と見込まれる。
(評価1-1) 隙間狭小化材1のイオン液体に対する密封性能と摩擦特性の評価
隙間狭小化材1を形成したリングとロッドを、イオン液体であるDEME-TFSI(25℃での粘度η:67mPa・s)に浸漬してポリマーブラシを膨潤させた。このリングとロッドを狭小隙間モデル試験機に装着し、リングとロッドの隙間から漏れ出る液体の漏れ量Q、および、リングとロッドの間の摩擦係数μを測定した。ここで、試験は、隙
間狭小化材1を形成したロッドと隙間狭小化材1を形成したリングの組み合わせ(ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1])、隙間狭小化材1を形成したロッドと隙間狭小化材1を形成していないリングの組み合わせ(ロッド[隙間狭小化材1]/リング[スチール])、隙間狭小化材1を形成していないロッドと隙間狭小化材1を形成したリングの組み合わせ(ロッド[スチール]/リング[隙間狭小化材1])、または隙間狭小化材1を形成していないロッドと隙間狭小化材1を形成していないリングの組み合わせ(ロッド[スチール]/リング[スチール])で、外径が異なるロッド毎に行った。また、密封性能を評価する流体として、イオン液体であるDEME-TFSIを使用し、リングの内側にロッドを挿入した後、このイオン液体を上部空間に注入した。
各組み合わせについて、DEME-TFSIの漏れ量Qを半径隙間hに対してプロットした結果を図3に示し、摩擦係数μを半径隙間hに対してプロットした結果を図4に示す。また、図3、4から、半径隙間hが15μm、20μm、または40μmである場合の摩擦係数μと漏れ量Qを抜粋し、漏れ量を横軸にし、摩擦係数μを縦軸にしてプロットした結果を図5に示す。
まず、図3から、ポリマーブラシの実効膜厚を求めた。ここで、実効膜厚とは、漏れ量Qに基づいて求めたポリマーブラシの膜厚であり、半径隙間hのうちポリマーブラシにより実質的に埋まった半径分に相当する。この実効膜厚が大きい程、密封性能(流体の漏れを防止する作用)が高いことを意味する。具体的には、ポリマーブラシの実効膜厚は、下記式(4)で示される実効半径隙間(h-b)と漏れ量Qの関係式をグラフ化して測定結果と対比することで求められる。
すなわち、狭小隙間モデル試験機の隙間における液体の漏れを、同心環状隙間における層流かつ粘性流の流体の流れと仮定すると、漏れ量Qと半径隙間hの関係は下記式(3)で表される。
Figure 0007246597000019
図3に示すように、ロッド[スチール]/リング[スチール]の試験結果のフィッティング曲線は、上記の式(3)を、aを3.0×10-7mL/s・μm3(決定係数R2:0.99)としてグラフ化した曲線(実線)に一致している。よって、本試験でのaは3.0×10-7mL/s・μm3である。
次に、隙間におけるポリマーブラシの実効膜厚をbとおくと、実効半径隙間は(h-b)で表され、漏れ量Qは下記式(4)で表される。
Figure 0007246597000020
式(4)のbを3.5μm、7.0μm、10.5μmとしてグラフ化すると、図3の破線で示す曲線となり、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1]の試験結果は、概ねb=7.0μmの曲線上に載り、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[スチール])の試験結果とロッド[スチール]/リング[隙間狭小化材1]の試験結果は、概ねb=3.5μmの曲線に載る。
よって、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1]におけるポリマーブラシの実効膜厚は7.0μmであり、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[スチール])およびロッド[スチール]/リング[隙間狭小化材1]のにおけるポリマーブラシの実効膜厚は3.5μmであり、乾燥膜厚1.4μmに比べて、2倍以上の実効膜厚を得ることができた。
以上のことから、ポリマーブラシからなる隙間狭小化材を用いることにより、固形分量(は少なくても、膨潤させることで篏合部材の隙間を効率よく埋めることができ、これにより、隙間狭小化材を用いない場合に比べて、漏れ量を大幅に低減できることわかった。
次に、図4に示す摩擦係数μと半径隙間hの関係図から、摩擦係数μは、半径隙間hによらず、ロッド[スチール]/リング[スチール]の場合で0.2程度、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1]の場合で0.003程度であった。このことから、ポリマーブラシを含む隙間狭小化材は、隙間狭小化作用とともに、優れた摩擦係数低減作用(潤滑効果)も有しており、その摩擦係数低減作用は半径隙間hによらずに奏されるものであることがわかった。また、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[スチール]の場合の摩擦係数μ、および、ロッド[スチール]/リング[隙間狭小化材1]の場合の摩擦係数μは、それぞれ、半径隙間hが20μmで0.004、0.007であり、いずれもロッド[スチール]/リング[スチール]の場合に比べて大きく低減していた。このことから、ポリマーブラシを含む隙間狭小化材は、篏合部材の一方の部材のみに適用した場合でも、十分な摩擦係数低減作用を奏することがわかった。
次に、図5を見ると、ロッド[スチール]/リング[スチール]の場合の漏れ量Qと摩擦係数μは、いずれも図中の右上の領域にプロットされており、摩擦係数が高く、密封性能が低いことがわかる。一方、ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1]の場合には、特に半径隙間hが15μmで、高い密封性能と低い摩擦係数が両立している。このことから、隙間狭小化材を適用する隙間の幅は、15μm以下であることが好ましいことがわかった。
(評価1-2) 隙間狭小化材1の各種流体に対する密封性能の評価
ロッド[隙間狭小化材1]/リング[隙間狭小化材1]の組み合わせについて、ポリマーブラシを膨潤させるイオン液体としてDEME-TFSIの代わりにN-(2-メトキシエチル)-N-メチルピロリジニウム ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(MEMP-TFSA)を用い、漏れ量Qを測定する流体として、DEME-TFSIの代わりに、MEMP-TFSA、n-ヘキサデカンまたは空気を使用したこと以外は、評価1-1で行ったのと同様の密封性試験を行った。ただし、流体が空気である場合には、空気の圧縮性を考慮して差圧30kPaにおける単位時間当たりの圧力変化量(ΔP/Δt)をもとめ、式(1)を用いて漏れ量の測定を行った。また、ロッド[スチール]/リング[スチール]の組み合わせについても、MEMP-TFSA、n-ヘキサデカンまたは空気を流体に使用して同様の密封性試験を行った。
各組み合わせについて、MEMP-TFSAの漏れ量Qを半径隙間hに対してプロットした結果を図6に示し、n-ヘキサデカンの漏れ量Qを半径隙間hに対してプロットした結果を図7に示し、空気の漏れ量Qを半径隙間hに対してプロットした結果を図8に示す。また、各図には、式(4)のbを0μm、3.5μm、7.0μm、10.5μmとしてグラフ化した曲線を実線で示した。
図6~8から、ポリマーブラシをMEMP-TFSAで膨潤させた隙間狭小化材1は、いずれの流体に対しても、7μmの実効膜厚に相当する隙間狭小化効果を発現することがわかる。このことから、この隙間狭小化材は、様々なイオン液体で膨潤させて隙間狭小化材として機能させることができること、さらに、この隙間狭小化材は、イオン液体の他、イオン液体以外の液体、さらには気体の漏れをも抑制できることが確認された。
(実施例2) 隙間狭小化材2の作製
リビングラジカル重合開始基を側鎖に有するメタクリレートポリマー、ポリ(2-(2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ)エチルメタクリレート)をマクロ開始剤として用いた。マクロ開始剤は、ポリメチルメタクリレート換算での主鎖重合度は200だった。リビングラジカル重合により、上述のマクロ開始剤を用い、メチルメタクリレート(以下、MMAと略記)および3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(以下、MOPESと略記)を側鎖に導入したボトルブラシを合成した。
まず、セパラブルフラスコに、ジエチレングリコールジメチルエーテル520.8gを仕込んだ後、窒素ガス雰囲気下、ポリ(2-(2-ブロモ-2-メチルプロパノイルオキシ)エチルメタクリレート)11.2g (開始基として0.040mol)を添加し、室温で撹拌しながら溶解させた。ついで、テトラn-ブチルアンモニウムヨージド(以下、TBAIと略記)11.8g (0.032mol)を添加した後、80℃に昇温し、MMA200.2 g (2.00mol)を加え、同温度で5時間重合させた。180℃、90秒間重量変化しなくなるまで加熱したときの重量変化率から算出した転化率は52.6%と求められた。また、THF溶媒によるGPC(装置名:Shodex社製GPC-1011、カラム:KF-606L,2本連結, 溶離液:THF, 流速:1.0mL/min)にて分子量を測定したところ、ポリメチルメタクリレート換算で、Mnが281900、PDIが1.77であった。メタノールにてポリマーを析出させ、再沈回収による精製を繰り返すことでポリメチルメタクリレート鎖を側鎖に有するボトルブラシ1(以下、BB-1と表記)を得た。仕込みTBAI量から鑑みて、マクロ開始剤重合開始基の80%がヨード化物に変換され、その全てからグラフト鎖が成長したと仮定すると、転化率から側鎖の数平均重合度は33と算出された。
次に、セパラブルフラスコにジエチレングリコールジメチルエーテル164.6gを仕込んだ後、窒素ガス雰囲気下、BB-1を19.4g添加し、室温で撹拌しながら溶解させた。ついで、TBAI 1.8g (0.032mol)を添加した後、80℃に昇温し、MMA25.0g (0.25mol)、MOPES 25.0g (0.086mol)を加え、同温度で5時間重合させた。揮発法にて転化率は47.6%と求められた。また、THF溶媒によるGPCにて分子量を測定したところ、ポリメチルメタクリレート換算で、Mnが358400、PDIが1.62であった。メタノールにてポリマーを析出させ、再沈回収により精製することで目的とする隙間狭小化材2としてのボトルブラシを得た。BB-1の成長末端が全て光照射により失活し、残存する全ての重合開始基がヨード化され第2側鎖が導入され、またMMAとMOPESが同程度にグラフトしたと仮定すると、転化率から側鎖の数平均重合度は20と算出された。
ボトルブラシの全ての重合開始基からグラフトしたとすると、グラフト側鎖の表面占有率は5%と算出された。
Figure 0007246597000021
次に、ロッド(外径が異なる各ロッド)を超音波洗浄し、真空下で紫外線照射を10分間行った後、アンモニア(0.24mol/L)とオルトケイ酸テトラエチル(0.03mol/L)のエタノール溶液に浸漬し、一晩静置して反応させた。この処理を行ったロッドを、ボトルブラシ(10重量%)のプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液中に浸漬し、500μm/秒で引き上げた後、静置して乾燥させ、さらに、120℃の減圧下で一晩アニーリング処理を行った。以上の工程により、ロッドの表面にボトルブラシの膜からなる隙間狭小化材2を形成した。このボトルブラシの膜厚を、エリプソメトリーを用いて測定したところ、1442nmであった。
(評価2-1) 隙間狭小化材2の密封性能の評価
隙間狭小化材2を形成したロッドを、イオン液体であるMEMP-TFSIに24時間浸漬してボトルブラシを膨潤させた。この隙間狭小化材2を形成したロッドと、隙間狭小化材2を形成していない未処理のリング(ロッド[隙間狭小化材2]/リング[スチール])を狭小隙間モデル試験機に装着して密封性試験を行った。ここでは、密封性能を評価する液体として、MEMP-TFSIを使用した。また、試験は外径が異なるロッド毎に行い、MEMP-TFSIの漏れ量Qに対する半径隙間hの影響を調べた。また、ロッド(スチール)/リング(スチール)の組み合わせについても同様の密封性試験を行った。
各組み合わせについて、MEMP-TFSIの漏れ量Qを半径隙間hに対してプロットした結果を図9に示す。また、図9には、式(4)のbを0μm、2μm、4μm、6μmとしてグラフ化した曲線を実線で示した。
図9から、(ロッド[隙間狭小化材2]/リング[スチール])の漏れ量Qの試験結果は、式(4)のbを2μmとした曲線に概ね載っており、この隙間狭小化材2により、2μmの実効膜厚に相当する隙間狭小化効果が得られた。このことから、ボトルブラシも隙間狭小化材として有用であることを確認することができた。
さらに、隙間狭小化材1および2について、ボールオンディスクによる耐摩耗性試験を行ったところ、いずれもほとんど摩耗が認められず、耐摩耗性に優れていることが確認された。
本発明の隙間狭小化材によれば、隙間を介した流体の漏れを効果的に抑制することができ、また、隙間を形成している一方の部材が他方の部材に対して相対運動したときに、その運動を妨げず、円滑な動作の実現に貢献できる。そのため、本発明の隙間狭小化材は、流体が通過しうる隙間を有する物品であって、その隙間からの流体の漏れを抑制する必要があるものや、さらに、その隙間を形成している一対の部材同士が往復摺動する物品において、その隙間に配するシール材として効果的に用いることができる。よって、本発明の隙間狭小化材は産業上の利用可能性が高い。

Claims (7)

  1. 基材に固定された複数の高分子鎖からなるブラシ状の高分子鎖集合体を含む、隙間狭小化材であって、
    前記基材が幹ポリマーを構成する高分子鎖であり、前記基材である高分子鎖の各構成単位に、前記複数の高分子鎖がそれぞれ前記幹ポリマーの側鎖として結合してボトルブラシ状の高分子鎖集合体を形成している、隙間狭小化材。
  2. 前記高分子鎖集合体の乾燥膜厚が1900nm以上である、請求項に記載の隙間狭小化材。
  3. 前記高分子鎖集合体の膨潤した状態での膜厚が、前記高分子鎖集合体の乾燥膜厚の1.5倍以上である、請求項1または2に記載の隙間狭小化材。
  4. 下記一般式(10)で表される化合物を含有する、請求項1~のいずれか1項に記載の隙間狭小化材。
    Figure 0007246597000022
    一般式(10)において、R、R、RおよびRは、各々独立に炭素数1~5のアルキル基、またはR’-O-(CH-で表されるアルコキシアルキル基を表し、R’はメチル基またはエチル基を表し、nは1~4の整数である。R、R、RおよびRは互いに同一であっても異なっていてもよい。また、R、R、RおよびRのいずれか2つが互いに結合して環状構造を形成していてもよい。但し、R、R、RおよびRの少なくとも1つはアルコキシアルキル基である。Xは窒素原子またはリン原子を表し、Yは一価のアニオンを表す。
  5. 請求項1~のいずれか1項に記載の隙間狭小化材と、前記隙間狭小化材が固定された基材を有する、隙間狭小化材複合体。
  6. 互いに対峙して配された一対の部材を有し、前記一対の部材の互いに対峙する面同士の間に隙間を有する物品であって、
    前記一対の部材の互いに対峙する面の少なくとも一方に、請求項1~のいずれか1項に記載の隙間狭小化材が固定されている物品。
  7. 前記一対の部材が篏合部材である、請求項に記載の物品。
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